資料3‐2 学術研究推進の観点から考える大学・研究所のポイント(委員からの意見)

1.多様な学術研究の振興

○ 既存の文科系、理科系の枠を完全に排除した学部・大学院を創造する。今もその動きはあるが、既存の枠組みから出ることはできていないため。

○ 文理共同参画型研究の推進
 科学技術研究の発展は環境、安全、倫理、芸術、国際競争、防衛等の多様な側面を同時に研究することなくして成功を収めることは不可能になりつつある。

○ 異なる研究分野にまたがる研究がなされ得ること。

○ 独創的な考え方や手法は、おいおい異なる分野の融合や連携によって産み出される。このような異分野の研究者達が自然に交わることのできる「研究人材の交流フリーゾーン」の確保やそのための環境整備に力を入れる必要がある。

○ 学術推進の観点から言えば、学問分野の多様性と研究者の発意に基づく研究の自由性の確保が重要と考える。つまり、特定の専門分野を強くすればするほど、他の学問分野の将来性に悪影響を与えないようにする必要があるし、研究方向に特定のドライブをかけたり研究者への評価にインセンティブを強めるほど、研究者の自由な発想に基づく独創的アイデアや方法論が尊重できるシステムを確保することが必要と考える。

○ 学術研究には、「everything of something」だけでなく、「something of everything」を知ることも重要であると言われる。つまり、大型プロジェクト等で巨額の研究資金を投入して「ある物(事)のすべてを知り尽くす(everything of something)」ことも良いが、「知り得たあらゆる情報から非常に重要なことを抽出すること(something of everything)」も大切である。特に後者には大胆な発想や他にはない方法の開発が必要となり、それらが推進される方策をとることが重要であると考えられる。その意味では、「モノからヒトへ」といったスローガンを学術推進においても実質化する必要があろう。

2.魅力ある研究環境の整備

○ 組織の個性
 大学または研究所の設置目的を明確にし、それに即した個性を出せる形態を工夫する。

○ 研究者の自発的研究が競争的研究費を獲得出来るように支援する学長又は所長の裁量的研究費が措置されていることと、学長又は所長のリーダーシップの下にその機関の特色を発揮する組織的研究が推進され、世界的に評価される成果を上げること。

○ 国立研究所(独法化したものを含む)で措置されている額に相当する基盤経費(純粋に研究費として使用できる経費)を各教員に措置すること。ちなみに、私が客員教授となっている私立大学(文系学部)でさえ、年間60万円の教員研究費が各教授・助教授に措置されている。

○ 研究環境(経費)

  • 着任時にまとまった経費を配分し、円滑な研究室立ち上げをサポート
  • 研究室を維持するための経費を保証
  • 基礎研究部門には基盤研究経費を配分

○ 研究環境(施設・設備)

  • 大型研究費が確保できた場合にいつでも使用できる研究室・実験室を確保
  • ポスドク、助教が自由に研究できる環境の整備
  • IT機器が常設されたセミナールームの整備
  • 各種学術誌がオンラインで利用できる環境

○ 研究部門

(1)基礎研究部門

  • 基盤研究経費あり
  • 教授、准教授(現在の助教授)はテニュア制で、任期なし
  • 助教はテニュアトラックポジションとし、5~6年の任期付
  • 大学院教育を担当

(2)流動研究部門

  • 研究費はすべて外部資金(ただし、着任時費用はサポート)
  • 全教員任期制(5~10年)
  • 基礎研究部門からの出向も可
  • 大学院教育は選択

○ 研究とマネジメントを明確に分ける。そのためには研究マネジメント・評価のできる人材を養成する。研究者は研究に専念させる。

○ 長期的な観点、広い視野に立って評価がなされ得ること。

3.優秀な人材の確保

○ 構成員の人選
 柔軟な発想のできる想像性の高い教育研究者を選ぶと共に、事務支援職員にも同様の特質を望む。

○ 公募によって優秀な研究者を確保し、年俸制によって、適正に待遇をし、十分な基盤的研究費を確保すること。

○ 研究環境(人事)

  • RAを含む研究補助者の配置
  • 事務体制が整備されており、研究に専念できる環境
  • 英語に堪能なスタッフを適切に配置
  • 世界レベルの教員選考制度
  • 外国人が自由に応募できる環境
  • 適切な評価システムによる適度な緊張感

4.大学等連携・国際交流の推進

○ 全国の共同利用機関の役割は重要である。研究者支援機能だけでなく、学術推進の中枢機能としての役割強化を果たし、大学との連携や交流がより強くできる体制を確立して大学における学術研究の多様性と自由性をしっかりバックアップできるようにする必要がある。

○ 研究機関間連携研究の推進
 人文科学は、大半の国公私立大学に設置され、それぞれの研究者も存在しているように、学生への教育、研究に限らず、社会においても不可欠な分野であり、世の中から哲学、歴史、文学、美術が消滅することなどは想像できない。
 ただ、現実には縮小し続けており、実学への組織編成、その促成による養成を志向しているのは否定できない。限られた予算の枠組みの中で人文科学の高度な研究を推進していくためには、プロジェクト型の研究をオーガナイズし、必要な資料(自然科学分野の大型設備に相当)を体系的に収集した研究機関が必要で、そこに各大学等との緊密な連携を促進し、自由に研究者が参加できる体制としていく。

○ 研究所設置について
 アジアの拠点となる国際的に開かれた研究所とし、将来のアジア内連携を科学で先取りする。イメージとしては、ヨーロッパのCERN(European Organization for Nuclear Research)を考えている。理想的にはアジアに閉じず世界の連携を視野に入れたい。研究分野はあまり広く取らず、当該分野における優秀な人材の確保と最先端機器の充実を図る。

○ 国際的大学共同利用を原則とする。最大の研究成果を上げることが最も重要な使命である。また、各国大学との連携を図り、学部から大学院までの教育に貢献する。その際、研究所職員である世界一流の研究者と学生の交流、及び研究所所属の最先端機器の使用の積極的な推進を図る。

○ 真に世界に開かれた大学・研究所であることが重要であると思う。たとえば、大学院生やポストドクターは北南米、EU、アジア・オセアニアから50パーセント、日本50パーセントの比率を目指し、学内・研究所内の公用語として英語を使用する。また、教員における外国人比率も同程度を目指す。当然のこととして、このような国際的に拓かれた大学・研究所作りを実践するためには、院生および教員をはじめとするすべての関係職員にとって研究・教育・施設・人事・予算・評価方法・待遇・国際連携などのあらゆる環境面で真に国際的で魅力あるものでなければならない。全世界数十億人に開かれた大学・研究所であるように努めることが肝要と考える。

○ 研究環境(施設・設備)

  • 国内外からの客員研究員・ポスドクが利用できる宿泊施設の確保
  • 国内外からの客員研究員が利用できる研究室の確保
  • 周辺の大学院生、ポスドク、教員が集まるなど、異なった分野間の交流を促進するための空間(リフレッシュルーム)を各フロアに配備

○ 海外研究機関との共同研究及び拠点形成
 諸外国との関係において、もっとも重要なのは文化の交流である。一人でも多くの海外の方が日本の文化を知り、関心を寄せることは、波及効果としてきわめて大きいものがある。国際交流基金、学術振興会等と連携をはかりながら、海外の主な大学に拠点を置き、日本文化・文学を一ヶ月でも教えていく態勢、テーマごとの共同研究の促進、研究成果を各国語に体系的に翻訳を推進し、あわせて日本学の研究者養成の方策等を戦略的に研究調査する研究所を設置する。

○ 国際連携融合型研究所の設置。日本の学術研究の推進において指摘されることの一つは閉鎖性である。特に、国際性については、新しい枠組みなどの検討が重要ではないか。例えば外国の大学や研究所との連携型研究組織(研究所)を創る(いうまでもなく、広い分野に渡って国際的に豊富な人脈を持つリーダーが重要)。例えば、その研究所の拠点は国内に設置するとして、同時に国外の既存の大学・研究所に複数のサブ拠点を置く。そこに(当該研究所の)ラボ・事務室を設置、お互いの研究者の交流や共同研究、共同教育カリキュラムの設置による人材育成、学横断的な研究分野の構築・新しい技術の開発、などを図る。

5.人材育成・教育

○ 大学4年、修士2年、博士3年の細切れの教育体制を改めて、特別上級研究・教育者養成コースとして、9年間一環の教育・研究プログラム(幅広い分野の基礎教育を重視しつつ、狭い縦割りのシステムのみではなく、分野横断型の学際的視点も充分に取り入れた斬新な育成プログラム)を上記した真に国際化された環境下で実践できる大学・研究所。なお、9年間において、たとえば6年後(あるいは3年毎)に進級する場合および最終学年修了時に、極めて厳格なチェック体制を実施するとともに、世界の他の大学からの素養のある学生の受け入れも厳格なチェックの下で併用することが肝要と考えます。また、最初の6年間に最短6ヶ月の外国研究機関での研究・教育実践も必須とすることも必要。

○ 大学を学生の安住の場とさせない。誰でも受け入れるが、単位認定や卒業基準を非常に厳しくする。多様な価値観に基づき学生を厳しく評価する。

○ 研究環境

  • 優秀な大学院留学生を受け入れるための奨学金制度の整備
  • 優秀な大学院留学生を受け入れるための居住環境の整備

6.社会への発信

○ 市民(社会)に開かれた大学・研究所-特に俯瞰型情報プラットフォームの整備、オープンハウス、アウトリーチ、科学技術リテラシーの向上等の活動のほかに、現在の科学的知見の蓄積・発展の世界的形成を中立的、俯瞰的に社会に発信し、市民からの質問に答え、またdebateできるインターネットサイトを作る。

7.国の役割

○ かつての「国立学校特別会計」に代る仕組みを設ける。公私立大学を含む「大学特別会計」は考えられないか。

○ 今後50年、100年といった長期的ビジョンに立って学術推進を考えるとき、学術情報やデータベース等の知的資産を共有的にかつ恒常的に蓄積して提供できるナショナルセンターのようなものが必要である。そこには研究人材の交流フリーゾーンが確保され、大学や研究所が連携したり支援を受けたりできる機能が必要である。

○ 今日までに(明治時代から)積み上げられて来た(大規模大学を中心とする)国内の既存の大学のあり方について根本的な改革を行わないままに新たに大学・研究所を設立しても、結局は旧来の「国内の枠組み」の中から脱皮出来ない、という問題をはらんでいるのではないか。実際、国立大学・研究所は法人化によって内向き指向が一層強くなりつつあり、このままでは日本の学術・科学技術・文化の創造・推進の場としての大学本来のあり方、大学間の新しい横の連携構築、といった高い視点からの捉え方や具体的方策の検討・実施が出来なくなるのでは、という危惧感がある。

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