資料4‐2 第3期科学技術基本計画に盛り込まれるべき学術研究の推進方策について 委員等からの意見

学術分科会
学術研究推進部会(第6回)
平成17年1月11日

【伊賀委員の御意見】

  1. 学術振興に対する予算総額を増やすこと(国際的な見地との比較から)。
  2. 大学、公的研究機関において研究者が落ち着いて研究できる基盤を作ること。
      例えば、基盤研究費(旧校費)と競争的資金(科研費など)のバランスに、しっかりした思想を持つこと。
  3. 独立研究(いわゆるボトムアップ)と政策研究(いわゆるトップダウン)との仕分けをきちんと考えること。
  4. 大型事業に対しては評価を厳しくし、大型科学研究との仕分けをはっきりすること。
  5. 競争的研究資金については小規模から大規模までバランスよく配置し、審査の合理化と公正性維持に務めるシステムを構築すること。
  6. 研究成果に関し、社会へのよりよい説明方策を考えること。

【外村委員の御意見】

 先日は議題(1)で「学術研究の在り方」について議論を聞かせていただき、人類が取り組むべき事柄について考えさせていただいたが、全てを万遍なく取り組む訳にもいかないので、何を“日本”が取り組むべきか、どの分野で世界に貢献できるか、ということになると、話は別になる様に思う。
 歴史を振り返ると、日本の学術研究は、明治以来、欧米の追従であった。欧米に優れた見本があり、その少し先を行く研究に着手するのは、投資する側にも研究する側にも安全で打ってつけであった。こうして、世界の潮流を見極め、いち早く取り組むことによって、大きな貢献を出来るまでになった。実際、日本が取り組んでいる分野のほとんどは、欧米の切り開いた分野と言って良いと思う。
 これからは、そろそろ日本から新しい潮流を生み出し、世界が追従してくる様な分野を作り、学術面で特徴のある日本になって欲しいと思う。政府が今、大学に要望しているのと同様、世界の中で“個性輝く日本”を実現できたらと思う。
 私自身も苦労しているし、難しいことだと思われる。成果は何十年も先になるかもしれないが、そんな夢の達成への素地も出来始めていると思う。実例は、いくつも挙げられる。私の知っている限りでは、小柴、戸塚らのニュートリノ、飯島、高柳、藤吉らの電子顕微鏡。ただ、こんなチャレンジをしようとすれば、当然リスクも増すし、5年くらいでは評価もできないし、そもそも投資や評価のやり方も変えていかなくてはいけない。
 独創性が評価される学術研究では、追従で世界を真にリードすることはできない。日本がポテンシャルを持っていたり、先鞭をつけたりして、他国では真似の出来ない分野を見つけて、それにさらに投資を行い、特定の分野で世界に貢献することこそ、必要ではないだろうか。
 第3期科学技術基本計画には、是非とも他国を寄せつけない日本ならではの基礎研究の支援と育成を採り上げて欲しい。
 しかし、これは容易なことでは出来ない。芽の出たものの支援は、これまでの方法でも可能だと思う。しかし、これから芽の出そうなものを育てるには、従来のやり方では難かしいと思う。基盤の中に入れて資金をばらまいていては、お金がいくらあっても足らないし、専門で無い沢山の審査員による短い時間での審査で採択される科研費などでは、こうしたテーマが採択される率はきっと少ないだろう。これでは、結局は、西欧に見本のある、既に成果の挙がっている研究だけになってしまうだろう。広い視野を持つ沢山の審査委員がいるアメリカがやっている通りのことをしても、日本では通用しないと思う。そこで、実績のある研究所の所長にまかせてみてはいかがか。
 こうした先例のない研究を見分けるには、面白い研究か否か、それをやりとげる資質をもった研究者か否か、を見極めなければならないが、そんなことの出来るのは、“すぐれた研究管理者”、それも、“ごく身近にその研究者を見ることのできる人”にしか出来ない。
 大昔、ヨーロッパで科学を開花させたCavendisht研究所の例を調べると参考になる。初代所長はMaxwellだが、Rayleigh,J.J.Thompson,Rutherford,Bragg,Mottと6代目まで全てがノーベル賞受賞者である。大きな権限を持ち、任期は10年~30年。日本の国研の所長は、官僚の方と同様2-3年で、かつては経歴を作るためのポストに過ぎないとようにしか思えない場合もあった。独創的研究に対しては、「世の中で誰もやっていない。トレンドにものっていない。しかし面白い。だから投資しよう。」こういう選択基準が必要になるので、所長はよほどの人でなければならない。テーマが“面白いか?”“それをやり遂げる人かどうか?”、を判断できる“優れた研究者上がりの所長”に担当してもらい、一切をまかせ、責任も負ってもらう。
 研究の現場にいて、研究所の存否をかけてテーマを決めるくらいでなければ真剣に考えないし、それを達成するための支援も出来ない。幸い、大学、国研は法人化し規制は少なくなり、所長の権限を大きくすることも可能である。現状では、公募されているプロジェクトを見ると、期間も予算も一律である。研究といっても、さまざまで、特に物作りから始まるプロジェクトでは、お金も期間も足りない。そもそも、研究計画があって、それにお金をつけるという姿勢であるべきである。これに対応するのは、現状の日本では不可能であろう。思い切って、基礎研究については、“現場”に任せては如何か。
 当然、研究者の評価も重要である。想像もつかぬ様なことを、やり遂げた人には、充分な評価をすべきである。給料も多くし、秘書、研究助手をつけ、研究予算も思う存分使ってもらい、雑用は除き、研究で頭を悩ましてもらう時間を作って、もっとすごい成果を出してもらいたい。これ迄のcatchuptの時代とちがって、今は“とびぬけた研究者”が必要である。若い人が「誰もやったことのないことにチャレンジして、その夢をとげた人に尊敬を抱く社会」にならなかったら、科学から離れていくというのは、当然の成り行きと言える。今は、“才能を発揮したら、評価してくれる世界”が、他にたくさんある。しかし、学術研究の現状は、ルールが一律で融通がきかない。例外を認めなければ、優れた人を優遇できない。思い切った研究環境や報酬を与え、更に良い成果を出してもらう。そうでもしないと、折角育てた優れた人を、すぐにアメリカに引き抜かれてしまう。思い切ったことをするには、誰かが、決断し責任を負う必要があるが、これは、現場の所長レベルでしかやれないような気がする。
 企業の研究所は、思い切ったことを機動的に行う権限がある。上手くいかなければ、つぶされてしまう。 新しい分野を開く基礎研究については、国が詳細を指示することはできないので、信頼できる人を所長に選んで、長期政権にし、思い切ったことをやってもらうしかないのではないか。こうした研究は、所長の庇護の下において、中間評価など短期的な視点で判断したりしない。10年以内に出来る大きな研究はないので、世界に類のない新しい芽を育てるには、今の世の中では庇護して育てたいと思う。そもそも現状は、過剰な程の評価ばかりである。これは責任を評価委員会になすりつけている結果としか思えない。

【玉尾委員の御意見】

  1. 基本計画特別委員会でのこれまでの議論を踏まえつつ、新しい点、強調すべき点
    1-1 .重要な点は上記委員会でほとんど議論されており、これらが全て盛り込まれることを期待したい。
    1-2 .特に強調すべき点として次のキーワードを挙げておきたい:
    「基礎研究の推進」「基礎基盤研究の継続的支援策」「基礎教育の推進」「人材育成」「大学事務部の改造、特に専門事務部の充実」
    1-3 .「基礎研究の推進」については、第2期で具体的にどのような施策が実施されたのかを示していただき、その上に立って、「第3期の基礎研究の推進」に活かしていただきたい。基礎研究の推進とは一体何を指すのか?ということである。どの施策、どの予算がこれに対応するのかが明確でないままに議論が展開されている感がぬぐえない。(質問:科研費の倍増,ビッグサイエンス推進などが含まれるのでしょうか?)
  2. 平成18年度からの5年間で集中的・計画的に取り組むべき点
    2-1 .基礎研究の推進:なかでも「物質科学」「物質創製化学」分野の重点化および継続的支援策が必要。物理学者ガリレオは「自然は数学という文字で書かれている」と表現したが、われわれ科学者は「自然は元素記号で書かれている」と思っている。自然を構成する全ての物質は元素から成り立っているからである。これらの物質を対象とし、また新たに創り出す「物質科学」「物質創製化学」は重点4分野を率いる基礎基盤研究分野である。ビッグサイエンスに対してスモールサイエンスとよばれている分野であるが、これらのスモースサイエンスは予算サイズとしてはスモールであっても、その役割、重要性はそれらに劣るものではなかろう。
     何か良い方策(具体策)を案出したい。(そのためにも、上記1-3に書いたような基礎研究推進のための現行の具体的施策を列挙していただきたい。)
    2-2 .老朽化、狭隘対策の迅速な推進:法人化に向けて平成15年度末に応急的に研究環境などを改善したが、根本的な改善にはほど遠いものであり、文科省も把握しているとおり老朽、狭隘対策は未着手が多いので、着実に実施していただきたい。
    2-3 .大学事務を三極体制[研究者、専門事務部、通常事務部]にする。
    「研究者の雑用軽減、研究専念」「分業、適材適所」のための、事務簡素化と人件費確保を強力に進める。企業退職者などの専門家の有効活用が考えられよう。
    2-4 .「中性子」、「テラヘルツ光」の基礎および応用研究:重点4分野すべてにわたっての構造、機能解析手段としての重要性が次の5年間で急速に進展すると期待される。中性子についてはJ-PARCの完成とその後の研究体制構築と関連研究が、テラヘルツ光については理化学研究所を中心とした重点研究プログラムなどの研究が、それぞれ集中的・計画的に取り組むべき課題である。

【中村雅美委員の御意見】

  1. ポスト・ポスドク制度の確立
     ポスドク活用策は一定の効果をあげている。しかし、個人任せではなく、ポスト・ポスドク活用の仕組みを作らなければ、かつてのOD(オバードクター)の二の舞になる恐れがある。併せて、大学院教育の充実、大学院生は教育のすべき対象であるという意識の徹底、大学院修了者が産業界で活躍できる場の設定・拡充を図る方策が必要。
  2. 研究費を組織にいる人を対象に配分することをやめ、研究者個人に配分することを徹底する。どこの施設・組織にいても優れた研究をしている人に研究費が行くような制度、仕組み作りを徹底する。
  3. アジアを重視した研究開発のあり方、戦略を打ち立てる
  4. 科学技術に対する理解、リテラシーを高める方策作り
     第二期基本計画でもうたわれているが、実際は遅々として進んでいない。理念だけでなく、教育のあり方、広報のあり方、理解を助け・科学技術のサポーターを増やすための予算・人員増、科学技術の理解を助ける人材の育成・発掘など実際に即した仕組み作りが必要。

【仁田委員の御意見】

  1. 学際・融合・新領域研究分野の発展と既存分野の再編等を進める必要があるが、そのためには、そうした既存の専門分野の評価能力を有する人材ばかりでなく、やや広い分野の研究の芽を評価できる人材を育成する必要がある。ひとつの提案として、科研費の学際複合新領域分野の審査委員に上記のような目的を考慮にいれた特命委員を任命し、公募もして新たな研究展開を促すべきである。また、これは日本学術会議の役割かもしれないが、物理学白書、社会科学白書等を定期的に刊行して、わが国の学術研究の進展動向を鳥瞰し、どこが進展しているか、どこが立ち後れているか、どこに今後発展させるべき分野があるかなどを点検し、また学術コミュニティの公開討議に付すべきである。
  2. 科学技術政策評価研究を発展させる必要がある。科学技術政策が重要になり、予算も増えているのに、その成果を客観的に評価する学術的研究は著しく立ち後れている。そのための研究費の確保や、データ利用の便宜等を図るべきである。
  3. ポスドク人材活用が急務である。また、研究サポート人材(技官等)の育成活用策も充実する必要がある。これらについて、企業の研究所などの経験から学ぶべきことが多く、また、産官学の研究開発管理者相互の交流を図ることが有益であると思われるので、産官学研究管理フォーラムを大括りの分野別に設置してはどうか。

【平山委員の御意見】

  1. 全般について
     第2期基本計画において、「知の創造と活用により世界に貢献できる国」の実現のためには、「科学的なものの見方・考え方、科学する心を大切にする社会的な風土を育むとともに、知の源泉である人材を育成し、知を国の基盤とする社会を構築していくこと」が必要であることが挙げられていた。しかしながら、大前提となっている「科学的なものの見方・考え方、科学する心を大切にする社会的な風土を育む」ための具体的な方針が不十分であった。「基本計画特別委員会」の意見にも出されているように、「科学技術」を狭い物質主義的にとらえるのでなく、「学術・文化」を含めた広い意味の「科学を大切にする社会的な風土」を育成しなければ、国民の「科学技術に対する理解」において「何に役に立つのか」が主要な判断基準となり、国民全体が「学術・文化」の役割を理解した「知の創造により世界に貢献できる国」を実現することはできない。
  2. 「基礎研究の推進」と重要性及び「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」との関係について
    ・ 第2期計画では、「基礎研究」推進の重要性と大学等においては「基礎研究」を人材養成と一体となって推進することが盛り込まれていたものの、具体的な政策としては、「公正で透明性の高い評価により、競争的な研究開発環境の中で研究が行われる」ことに留まっていた。競争的な研究開発環境は重要なことであるが、競争的資金は、「人材育成と一体となって推進する」ための「基盤的経費」の裏付けがあって効果的に機能するものである。国立大学等の法人化に伴い研究現場における「基盤的経費」が減っているという実状がある。運営費交付金の配分は、各法人の裁量にまかされているとはいえ、「人材育成の観点から見て最低限必要な基盤的経費」の水準が維持できるような方策が必要である。第2期基本計画では「基盤的経費」の在り方について「教育研究基盤校費については、教育を推進する経費であるとともに大学の運営を支えるために必要な経費としての性格を有すること」に留意して検討することとしていたが、上記の観点を含めた在り方の検討とすべきである。
    ・ 学術審議会の答申等においては、「大学等」を「大学及び大学共同利用機関」として定義して使用しているが、科学技術基本法では、定義なしに「大学等」という言葉が使われている。定義がないことから、「大学等」に対応する方針についてもどこを対象にしているかが必ずしも明確でない。「大学等」という言葉は、社会全体で一致した認識ではないので、使用する場合には、定義を明確にする必要がある。
  3. 多様な研究を支える学術研究基盤の整備方策
     第2期基本計画では、「研究発展の牽引力となる大型研究装置等の先導的な設備は共同利用を前提として、重点的整備を進める。」ことがあげられていた。国立大学及び大学共同利用機関の法人化に伴い、個別大学毎の独自性が強調される状況が生まれてきている。施設・設備の有効利用及び大学等における「学術研究」(科学技術基本計画での研究者の自由な発想に基づき、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究)推進の観点から、制度として全国の大学等の研究者を対象に「共同利用」を実施している「大学共同利用機関及び大学附置の全国共同利用施設」の役割が一層重要となってきており、そのことを基本法の中で位置づける必要がある。
  4. 科学技術関係の人材育成・確保
     国立大学及び大学共同利用機関の法人化に伴い、多くの大学で教員ポストを削減する動きが生じている。一部は、全学的なポストに使用される様であるが、多くは「運営費交付金の効率化」に伴う年1パーセントの削減対応ではないかと考えられる。ポスドク等任期付きのポストが増えたとしても、研究現場での教員ポストの削減は、たとえそれが数パーセントであっても、その後の研究者としての活躍の場を大幅に縮小することに繋がるものであり、人材育成の方針に逆行するものである。また、このような削減は、かつて技術職員の「定員削減」において見られた様な「退職者が生じた場合に、不補充とする」形で運用されることが多いとことから、教員の流動化を妨げる要因にもなる。教育への公財政負担を増やすことにより運営費交付金を増やすことと共に、国立大学法人及び大学共同利用機関法人の運営費交付金の運用において長期的な観点から「人件費に充てる経費を運用できるシステム(人件費引当金等)」を導入する等の改革が必要である。

【本蔵科学官の御意見】

  1. 「基礎研究の推進」の重要性及び「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」との関係の再確認
     学術研究の目指すところを明確にすることが重要であることは当然ではあるが、第3期科学技術基本計画という近未来のしかも5カ年という枠組みを考えた場合、もう少し具体的な位置づけも必要ではないだろうか。つまり、知の創造を担う学術研究も10年、20年という長期的枠組みの中でとらえることが適当な場合と、5年~10年程度を見越した学術研究の在り方という視点である。前者は、知の創造そのものが人類の精神的豊かさにつながる例えば宇宙における真理の探究などである。これに対して後者は、創造された知が活用されることにより、人類のさらなる発展につながるというような展望の下での知の創造である。
     「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」との関係の再確認という観点からは、後者が重要視されることになるであろうが、長期的視点に立った学術の推進という観点も無視されてはならず、知の創造という枠組みの中でしっかりと位置づけておく必要がある。
  2. 研究の多様性の確保の意義と研究費の拡充目標
     知の創造を担う学術研究においては、科学技術の基礎をなす自然科学だけではなく人文社会科学においても必要である。また、創造された知は継承されなければならず、また活用される必要もある。この継承、活用の在り方もいろいろ考えられる。例えば、産業競争力低下問題を考えてみよう。これを単に科学技術における国際競争力の低下としてとらえるのではなく、科学技術成果の迅速かつ適切な活用を通したイノベーション創出体系が我が国では弱いという観点も必要である。イノベーション創出の基礎は知の創造にあり、絶え間ない知の創出が国際競争力の源泉であるが、同時に、イノベーション創出に向けた技術経営が必須であり、この面では人文社会科学の役割は大きい。現に、技術経営においては、日本の社会基盤としての社会の在り方、ものの考え方、人間の生き方、環境の考え方などを幅広く考慮することが必須であり、多様な学術研究の推進が求められる。
     このような多様な学術研究の持続的発展を保証する仕組みが、科学技術基本法の枠組みにおいても不可欠であり、そのための研究費の持続的確保が必要である。例えば、大学においては、運営費交付金のかなりの部分は大学や部局の共通経費として使われており、基盤的研究費が不足がちである。この問題を解決するひとつの方策として、競争的資金の間接経費をさらに充実させ、大学における運営費交付金の共通経費部分を削減することが考えられる。
  3. 多様な研究を支える学術研究基盤(施設・設備、学術情報基盤等)の整備方策
     概算要求の方式が変わって、カミオカンデや大型放射光設備など機関や部局を作るほどの大型設備ではないが、科学研究費では届かないという、価額が1-5億円程度の高級市販機器類の導入が難しくなりつつある。こうした機器は基礎研究における国際競争力を維持していくためには必須のものが多く、何らかの整備方策が必要である。大学においては、例えば、全学共同利用施設や中央機器室に集積する形で整備・更新する機器に重点的に予算を付ける等,利用効率を高める方策を立てた上で,先端機器を整備する施策が必要であろう。
  4. 融合分野・新領域の推進方策
     国際競争力のある研究拠点、異なる研究分野間の交流、融合分野・新領域の推進、いずれにおいても、重点施策として21世紀COEを取り上げてはどうであろうか。21世紀COEプログラム応募にあたって、各大学が強い競争力を有すると位置づけた分野について、周辺異分野をも取り込みつつ策定した包括的プログラムであり、しかも博士課程をもつ専攻をターゲットとしている。今後10年程度の期間にわたって国際競争力の強化が望める。しかも、特定の分野に偏るのではなく、人文社会科学にも配慮されており、人材育成をも含んだ世界的拠点形成を目指している。このプログラムは5年間で終了することになっており、終了後は各大学で拠点としての組織化を図ることとなっている。
     このような21世紀COEプログラムの推進の過程で、新たな知の創造が期待でき、さらに世界的視野とリーダーシップを備えた研究者の育成も大変期待されるところである。5年、10年後にこうした若い研究者の活躍により、国際競争力がさらに高まるものと期待できる。
     21世紀COEプログラムは、第3期科学技術基本計画の目玉ともなることが期待される。その継続的推進を強く望みたい。
     国立大学法人や独立行政法人など科学技術を担う組織の構造変化が進み国際競争力の強化が図られているが、異なる研究分野間の交流の推進や融合分野・新領域の推進といった観点からは、組織間の連携も重要であり、研究経費の確保も含めたより一層の連携強化が必要である。これまで以上に効果的な連携を可能とする仕組みを考える必要がある。
  5. 自然科学と人文・社会科学との融合領域の推進方策
     持続可能なシステムの構築(環境、人口、食糧、エネルギーなど)、あるいは危機管理に関する方策等において(防災、テロ対策など)、自然科学と人文・社会科学の連携が必要とされる。エネルギー・環境のセキュリティ問題、防災やテロ対策などにおいては、人間のライフスタイルと密接に関係するので、技術的な視点と社会のあり方の視点が融合した分野が必要である。
  6. 学術研究の評価、成果公開の具体的方策
     事前評価、事後評価のバランスを考慮した適切な評価システムの確立は緊急活重要な課題であるものの、研究開発資金の配分などとリンクした拙速な評価は、長期的観点からも基礎研究に大きなダメージを与えかねない。第3期科学技術基本計画では、学術研究の質を高め、創造的研究を促進すべく、時間をかけて適切な評価手法の開発を図るべきである。
     大学や学協会などのアウトリーチ活動に対する支援、あるいはサイエンスライターなど、科学技術成果を国民にわかりやすく説明する専門家の育成も図るべきであろう。
     研究成果の国際的評価は、多くの場合、各研究者が論文を科学ジャーナルに投稿し、ピアレビューを受けることが基礎となる。したがって、我が国の国際的研究成果発信力の向上を図るには、国際ジャーナルにおける研究成果評価システムへの主体的・系統的関与が望まれる。我が国の研究者の評価能力向上を目指す具体的方策として、我が国も国際ジャーナル刊行に参入すべきであるが、高い評価を得るまでには一般には相当な時間を要する。このことを考慮に入れた上で、我が国発行の国際ジャーナルへの適切な支援方策が必要である。

【小平分科会長の御意見】

  1. 第3期科学技術基本計画には、知的創造立国としての我が国の持続的発展を図るため、知的生産活動の基盤を確かにする政策が盛り込まれるべきである。
  2. そのため、人材育成を含む基礎研究機能の重要な役割を担う大学等に関する高等教育政策と基礎研究振興政策が一体的に形成されるべきであり、その際、産官学の3セクターが相互に連携して持続的に発展できるよう、産から官(公)を通じてGDPの一定割合が、OECD先進諸国並に高等教育に支出される仕組みの導入を目指すべきである。
  3. 第3期科学技術基本計画には、今後の我が国の科学技術の持続的発展には、科学技術と均衡の取れた精神文化の形成が不可欠であり、また、多様性に富み創造性の高い知的基盤として重要な「学術研究」の推進が必須であることを書き込むべきである。

【位田科学官の御意見】

 科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づき当初より原則として人文科学を除外している。しかし、科学技術そのものが一つの社会の文化・文明の一部であり、同様に人文科学も文化・文明の重要な部分を構成する。科学技術基本法の制定および科学技術基本計画の策定が、わが国の経済不況とそれに伴う科学技術の低迷と産業競争力の低下に伴うものであった、という時限的状況において行われたものである以上、これまでの2期の基本計画によって回復の兆しの見えてきたわが国の科学技術を、本来のバランスの取れた社会発展の中で捉えなおす必要があろう。その観点から、次の3点について指摘したい。

  1. 「社会との関係、人文科学の役割、自然科学と人文科学の関係を強調するべきである。」
     第2期科学技術基本計画(「基本計画」という)の「第1章4.科学技術と社会の新しい関係」ならびに「第2章 2 5.科学技術活動についての社会とのチャンネルの構築」および「第2章 2 6.科学技術に関する倫理と社会的責任」の3つの部分は、いずれも自然科学を中心としたいわゆる科学技術の側からの働きかけをよりいっそう強化すること、それにより科学技術に対する社会の理解を促進して、科学技術をよりよく発展させるべきことを目指している。したがって、ここで目指されているのは、自然科学を中心とした科学技術の側からのある意味では一方的な働きかけにとどまっている。
     しかし、近年か科学技術の倫理が認識されているのは、社会の中で科学技術がいかにあるべきかを、社会との双方向的な議論とそれに基づく合意形成の中から見出そうとするものであって、1期および2期の基本計画ではかかる視点は希薄である。
     したがって、第3期の基本計画策定に当たっては、従来のように科学技術を限定的排除的に捉えるのではなく、社会との関係をいっそう適切に位置付けるべく、人文科学も科学技術の重要な部分を構成するべきことを積極的に記載して(たとえば、第1章基本理念の適切な箇所に挿入する。)、科学技術プロパーとの車の両輪として位置づけるべきである。その上で、第3期基本計画を策定するべきと考える。
  2. 「学術研究」を基本計画の中でより積極的に記載するべきである。」
     1.を踏まえつつ、第3期の基本計画には、単に短期的なまたは目に見える成果の達成にこだわることなく、また国際化や競争を念頭に置きつつも、あらゆる科学技術がそれらのみではその価値を云々できないことを理解して、とりわけ基礎科学技術研究について国が振興する必要がある。この点は、基本計画に特に基礎研究を含めた「学術研究」の重要性を強調することによって、認識されるであろう。
     特に経済状況にわずかながら回復の兆しの見えている現状に鑑みて、第3期の基本計画には「学術研究」を科学技術振興の重要な要素として明記するべきである。この点で、基本計画にあまりに「競争性」、「産業化」や「効率性」が強調されすぎてはならない。
  3. 「人文科学の役割を明記するべきである。」
     社会との双方向的な関係の観点から、人文科学が基本計画の中でより重要で積極的な役割を果たすべきことが明示されるべきである。1期および2期の基本計画では人文科学は科学技術をサポートするだけの役割にとどまっているように思えるのに対して、第3期においては文化をになう両輪として、狭い意味での科学技術と共に人文科学の適切な位置づけがなくてはならない。人文科学の科学技術との主体的なかかわりを促進し支援する必要がある。
     この点は、人文科学と自然科学の間の知や学の「融合」が従来よりももっと積極的に進められるべきである。もちろんその場合には自然科学だけでなく、人文科学の側にも相応の努力と改革が求められることになる。現在日本学術振興会の下で進行中の人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究などはその好例であり、そうした新しい動きを基本計画に取り込むことにより、広い意味での科学(人文科学・自然科学を含む)の発展を進めることができる。

【その他委員等からの御意見1】

  1. 研究分野間交流、融合分野・新領域、分離融合推進のための教員組織・体制方策
  2. 国立大学の法人化、国立研究機関の行政法人化に伴う学術研究基盤、全国共同利用研究体制の整備方策
  3. 先端的研究・大規模プロジェクト・長期持続的研究事業の維持発展方策
  4. 若手研究者養成とポストドクター問題
  5. 競争的資金の重点化とその配分方法
  6. アジアの科学技術大国としての学術研究の国際協調方策

【その他委員等からの御意見2】

 大学へ寄付しやすい税制改革への提言が必要ではないか。

  1. 個人が法人化後の大学、公私立大学などへの寄付に対する寄付金控除額の拡大。
    (現寄付金控除 日本:年間収支の1/4米国:年間収支の1/2)
  2. 米国:「パルミサーノ・レポート」で学生への奨学資金「未来への投資基金」を設け、出資の会社や個人の税控除を提言。(2004年12月20日本経済新聞朝刊25面)

【その他委員等からの御意見3】

  1. いつの時代にも当てはまる普遍的な(不変的)なことだけでなく、第1期、第2期の成果や反省を踏まえて、例えば、環境やサステーナブル、持続可能といったような地球全体に対する責任感からくる科学技術の振興に世界に先駆けて明確に取り組むとによって、世界をリードする知的存在感のある国家の形成に寄与する、といったような基調が必要。
  2. 大学でしかできないこと、文部科学省所轄でしかできないことを明確に出す必要があると思う。5年や10年程度先のことは、他省庁でも十分に考えていただける。次の時代の最先端分野を醸成するための一見地味ではあるが、したたかで、しなやかな仕掛けを用事しておくことが、文部科学省としては肝要である。ピークが通り過ぎてアメリカや日本では見向きのされなくなった分野への拘りから、次世代の飛躍につながる研究が、欧州で、情報科学のような新しい分野でも経験されている。こうしたヒントは鉄鋼を中心としたいわゆる重厚長大の中にもあるように思う。
  3. 既に取り組みが始まっているが、基礎科学の発展振興に果たす観測計測などに見られるような技術の重要性について、評価認識しておく必要があると思う。大学における工学分野の振興策に一考を要する。地味なるがゆえに大型科研費などが通りにくいというのが現状であろう。
  4. 国立大学法人が中心ではあるが、平成17年度で終了する「施設緊急整備5ヵ年計画」により、大学における教育研究環境はかなり整備され、この計画は大きな成果をあげてきた。しかし、いわゆる老朽施設の整備など、まだ不十分なところが多い。安全安心な学習教育研究の施設の整備について、引き続き国の経常的な施策として定着させる必要がある。補正予算に頼ることができなくなった現在、少なくともこれまでの3倍程度の施設整備費補助金を措置しておくことが重要であると思う。また、新たな整備手法に関しても、それぞれの大学等から出される様々な工夫を容認できる制度を早急に用意することも、学術研究の推進に不可欠な緊急を要する課題である。

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(研究振興局振興企画課学術企画室)