理工系

専門分野  特性・特色 方向性・課題等
天文学 天文学※ ● 今後伸びる可能性のある分野:惑星地球生命科学(惑星科学、地球環境学、生命科学の連携融合分野)
理論天文学 ○ 理論天文学では、林忠四郎京都大学教授や海野和三郎東京大学教授及びその門下生を中心に世界的に秀でた研究成果があった。
○ 1980年代から、野辺山宇宙電波観測所が設立され、我が国が大学共同利用施設として世界一線級の望遠鏡を持つにいたり、まず電波分野に秀でた研究成果を排出。更に、国立天文台の設立後、太陽ヘリオグラフ、すばる望遠鏡、VERA、理論シミュレーション用のスパコンなど、世界最先端の装置が大学共同利用に供されることとなり、さらには、X線天文衛星、赤外線天文衛星、VSOP等の成功によって、現状では日本の天文学分野の競争力は欧米諸国と並んでいる。
○ 天文学分野に置いては、ほぼオールラウンドに高い成果と実績がある。以上の実績が評価され、国際協力事業であるアルマ計画は日本参加が期待されたところである。
○ すばる望遠鏡の主鏡面カメラや、ミリ波では世界最大の電波望遠鏡である野辺山45メートル鏡などは日本の独自性を示すものである。
○ 中国は、国家天文台を組織して体制変更等を行って、天文学の振興に努めている。また、台湾や韓国にも共通するところであるが、欧米や日本で教育を受けた研究者を呼び寄せて急速な発展を目指している。ただ、科学的成果の面では、まだ物足りない面がある。
○ 粒子線や重力波まで含めると、小柴先生の超新星ニュートリノの発見、ニュートリノ質量の存在確認、TAMA300等における重力波感度向上など秀でた成果がある。
● 1980年代以前は、世界一線級の観測装置がなかった事情から、観測天文学は欧米諸国に遅れをとっていた。
● ただ、我が国は、研究者の数の伸び率は高いものの、研究者の絶対数の面では、米国や欧州に比べて少ない。現状では圧倒的に米国に多い。一層の人材養成は今後の課題である。
● 伸びる分野:太陽系外の惑星探査・生命の探求、ビッグバン宇宙(ダークエネルギー、ダークマター問題)、銀河の形成と大規模構造の解明、極限状態の天体の研究(超新星爆発、ブラックホール、ガンマ線バースト)
● 連携・融合の進む分野:太陽系外の惑星探査・生命の探求(惑星科学、生命科学、分子科学)ビッグバン(素粒子科学、物理学)極限状態の天体(原子核物理、物質科学、核融合、レーザー核融合)星の進化(原子核物理、核融合)
● 研究者が少ないが重要:太陽系外縁部の科学、宇宙生物学
物理学 素粒子物理学 ○ 素粒子物理学は物質の究極的な構造を明らかにしようとするばかりでなく、宇宙のごく初期に起こった物理現象を理解し、現在の宇宙に至った過程を明らかにすることを目標とする分野に変遷しつつある。
○ 理工系の研究分野のなかでも際立って基礎的な分野であり、直接的な経済効果が期待されるものではない。
○ 近年「標準理論」と呼ばれる理論体系が確立され、ほとんどの実験事実は説明されるようになったが、これは究極的な物理法則ではなく、それを超えた物理法則が必ずあるとの信念のもと、新しい物理法則の手がかりを求める研究が盛んである。
○ この研究のためには加速器という巨大設備が必要であることから、実施できるのは世界5ヶ所の大規模研究機関に限られ、ここで国内外の研究者による国際研究チームを組織して10年単位の研究計画を実施することが通例となっている。したがって国際協力はきわめて日常的である。
○ 我が国では高エネルギー加速器研究機構を中心にニュートリノやBファクトリーなど、最先端の研究が実施され、世界的に高い注目を集めている。この背景には国内の産業のきわめて高い技術力があることは指摘されるべきである。
○ 歴史的には欧米諸国がこの分野の中心であったが、アジアでも近年、日本のほかに中国が加速器を建設し、成果をあげている。
○ 加速器の技術は核融合や原子力の技術に近い点も多く、技術交流という点では連携が可能であるが、学問として目指している内容に関しては、むしろ天文学や宇宙科学と共通点が多い。
○ 固体物理学、化学、構造生物学、医学などで放射光や中性子線を応用して研究する分野とは加速器技術、粒子(X線)測定技術、データ処理技術などで共通なものが多くあり、共同研究も行われている。
○ 素粒子物理学のデータ解析ではきわめて多量のデータを解析する必要があることから、データ処理技術に関してすでに国立情報学研究所や民間企業の研究所などと共同研究が行われている例がある。
○ 今後これらの分野との交流がより盛んになり、共同研究にも成果が期待されるが、分野の融合にいたるとは考えにくい。
● 今後10年は世界をリードしていくと思われる。
○ 我々は新たな物理法則の発見前夜にいると考える合理的な理由があり、これによって人類の自然認識が大きく変わろうとしていると言っても過言ではない。これは時空の構造に関わる発見かもしれないし、物質と力を統合するような新しい法則かもしれない。これを発見し、解明することが素粒子物理学の今後10~20年の大きな課題である。
物性科学 ○ 物性科学の分野では(細かく見れば分野による強弱はあるものの)わが国の研究者の研究水準は国際的地位は(たとえば20年前と比較して見ると)格段に向上した。
○ 物性科学研究の鍵を握るのは試料であるが、新物質の発見と純良試料の作製に関してわが国の研究者の貢献は多大である。
● 研究者の目はどうしても欧米諸国を向いており、アジア諸国との連携をいかに進めるかは検討課題。
宇宙線物理学※ ○ 特徴ある研究を選択的に遂行することにより、世界的にみて我が国の当該研究分野がもっとも高い生産性を有している。現在、中国、韓国等に技術的指導を積極的に進めているが、アジア各国は今後急速に力を付けていくと思われる。 ● 加速器科学分野では、今後は国際共同研究(多数の国が一致共同して推進するグローバル化)が一層進んでいく。
● 加速器科学分野に関しては、基礎的な研究とともに多彩な応用研究に加速器技術が利用される。新しい加速器技術をさらに開発していくことはきわめて重要であるが、それは基礎的研究からの厳しい仕様要求によって進展していくものである。
地球惑星科学 惑星物理学 ○ 地球惑星科学は、物理系を中心として理工系の1分野と位置づけられるが、最近では、地球の生命の誕生と進化という観点からの研究が注目を集めており、この意味では生物系との接点も多くなってきている。
○ 一時は圧倒的に強いと言われていた地震予知分野では、経験的手法の限界にぶつかり一時停滞したものの、基礎研究に立ち返るという見直しの結果、再度高い競争力を回復しつつある。
● 地震学や火山学では、日本の独自性や競争力は伝統的に高く、世界をリードしてきたが、惑星探査を中心とする惑星科学については、宇宙プラズマ分野では高い競争力をもっているものの、全般的には米国に遅れを取っている。とくに、固体惑星研究においてそうである。
● 将来の方向性について、地震学からは、断層面の不均質結合状態を解明し、さらに地震波伝搬経路の構造を解明し、対象地の基盤構造までの地震波を詳細に調べる。
● 将来の方向性について、地盤工学では、表層の構造の影響を解明し、地表での地震動を正確かつ詳細に予測する。耐震工学からは、予測された地震動に対する耐震、免震構造の設計を担当する。
● このような連携を通して、きめ細かい地震防災計画を策定する。
極域科学 【極域科学分野】
○ 国際競争力:総合力では5番手くらいの位置。南極隕石、氷床コア、超高層物理、海洋動物行動分野、温室効果気体分野では、トップの水準。
○ 日本の独自性:南極湖沼の苔坊主群落、氷期末期の氷床後退、オキアミ食餌に伴う雲核物質の放出、地磁気共役点におけるオーロラ現象の同時性など、各分野で新知見を見出し、独自の分野を切り拓いている。
○ 欧米、アジア諸国との比較:欧米とは互角だが、研究者層は薄い。アジア諸国では、指導的立場。
【氷床コア研究分野】
○ 国際競争力:氷床コア研究分野では、フランス、ドイツ、アメリカと互角。
○ 日本の独自性:掘削技術では最先端で、日本のドリルが世界標準になっている。コア研究では、微生物のDNA解析による生物進化、超長寿命同位体による太陽活動の復元などを開始しており、地球環境変動を学際的研究に広げている点で、独自性を発揮している。
○ 欧米、アジア諸国との比較:欧米とは互角だが、研究者層は薄い。アジア諸国では、指導的立場。
○ 今後伸びる可能性のある分野:極域における微生物分野、古気候古環境分野、極域気候変動分野、極域海洋分野
○ 他分野との連携・融合が有効な分野:天文学、太陽-地球環境分野、新薬創成分野、寒冷工学分野
○ 研究者は少ないが、重要と思われる分野:極域中深層海洋の生物多様性分野、氷床下生物学
プラズマ科学 プラズマ理工学 ○ 「プラズマ・核融合」は、核融合エネルギー開発を目指した領域横断的分野である。
○ 新たなエネルギーを開発し全人類の福祉に貢献するという目的は、科学としての可能性、工学としての最適性、環境学からみた適合性、社会学からみた公共性など、多元的な合理性の上に位置づけられなくてはならない。
○ また超高温プラズマの生成と制御という困難な課題は、未踏の領域へ挑戦する複合的研究の場を作っている。
○ 約50年間で長足の進歩をとげた分野であり、非線形現象、集団現象といった基本的なテーマについての研究成果は、多くの分野を横糸的に繋ぐ学理として波及している。
○ わが国は、核融合研究開始時から、国際的研究拠点の一つとして積極的に取り組んできた。
○ 核融合科学研究所(NIFS)、日本原子力研究所(JAERI)および大学は、多くのテーマについて世界をリードする成果をあげており、活発な国際研究協力がおこなわれている。
○ 次期国際プロジェクトであるITER(イーター)に関しても、一国として最大の影響力を有する。
○ プラズマ・核融合は科学から工学への相転移期。
○ 研究の中心は未解明の現象についての実験・理論であり、多くの優秀な科学者が研究を企画・遂行する必要がある。
● 今後は、基礎学術の学際化を強く意識する必要がある。たとえば物理学会・領域2(プラズマ関連分野)では、アカデミックアイデンティティーを刷新するために(1)プラズマ基礎、(2)プラズマ科学、(3)核融合プラズマ、(4)プラズマ宇宙物理の4つの柱をたて、研究交流の活発化と学理の深化を目指している。
基礎化学 物理化学 ○ 「優れた(主に電気的、磁気的、光学的)機能を有する物質(無機物、有機物、炭素材料等)の理解・開発」に関する研究の特色は、
(1)基本的に「スモールサイエンス」である。
(2)研究の進め方としては、"bottom-up"、"curiosity-driven"の要素が強い。また、セレンディピティ(serendipity)による発見が研究を大きく進展させることが多い(例:白川先生のポリアセチレン、飯島先生のカーボンナノチューブ、秋光先生のMgB2)。
(3)従来の研究分野(物理-化学-生物、無機-有機...etc.)を横断した発想・研究体制が極めて重要。
(4)国際的に見て、日本が優位性を保つ(特に基礎に関する)領域が多い。
● 応用に関しては欧米(アジアでは、ポリマーや炭素材料の分野で、韓国)が優位か。
● 化学・物理・工学と生物との連携・融合がますます重要になるであろう。現在でもそのような動きは活発であるが、もう少し地に足の着いた研究が必要である。
化学 有機化学 ○ 有機合成化学は、競争力があり、「モノ作りの出来る」卒業生に対する企業での需要も多い。 ● モノ作りの分野の、大学での研究者及び学生の人口(講座数)が減少していることを危惧する声が企業に多い。

有機合成化学
物質創成科学
○ 白川英樹、野依良治両博士のノーベル化学賞受賞に象徴されるように、国際的にも最先端で世界をリードする立場にある。
○ 研究者人口も多く、日本発の研究に欧米を含め諸外国がこれを猛追している状況のものも少なくない。
○ この分野はいわゆる重点4分野を先導する基盤的研究分野であると言える。一般には重点4分野を支える物質合成化学と考えられているように思えるが、我々自身は、それらを支えて導いている最重要分野だとの認識をもっている。
● 今後伸びる可能性のある分野(領域)
(1)多様な元素の特性に着目した物質創成:ユビキタス元素の高度利用。ありふれた元素で創るワンダーマテリアル(思いもかけない新現象、新機能、新材料)。物質創成化学の最も基盤的領域(恒常的は支援が必要。いつ新発見につながるかわからないので地道な研究は必要)。研究者は多い。
(2)超高活性触媒反応:不斉触媒反応にしても、実用化されているものは少ない。少量で強靱な超高活性触媒反応の研究は最重要仮題のひとつ。
● 他分野との連携・融合が必要な分野(領域)
(3)分子イメージングによる創薬:有機合成化学、機能物質科学、生化学、先端解析科学などの連携・融合がなければ進められない。将来の創薬の最重要課題。
(4)分子エレクトロニクス:有機合成化学、物理化学、物性物理、表面科学、高分解能解析技術、などの連携・融合は必須。
電気電子工学 電気電子工学※ ○ 材料関係は人材豊富なこともあり競争力はトップクラス。システムに近づくにつれ、日本の成果は小さくなる。
○ ソフトウエア関係はトップクラスではないが、先進国の平均よりは少し上になってきた。
● 材料は近い将来、中国に追いつかれるだろう。
● 現状では人気がないが国としてやるべき分野、例えば原子炉技術者、バイオ以外の農水林業の研究者の確保等が重要
音声情報処理、ヒューマンインターフェース ○ 情報化社会の高度化が進む中で、高齢者や外国人などだれもが、さまざまな環境で、信頼性が高く使いやすい音声情報処理技術の研究が活発である。
○ 日本では多くの若手研究者の参加により、学界を中心に研究が盛んである。
○ 国際的にも欧米と匹敵するレベルの研究発表もみられる。国際的には、各国・各地域で対象とする言語が異なるが、協調して研究活動が進められている。
○ 音声言語分野の大規模な国際会議としてEurospeechとICSLPがそれぞれ隔年で開かれている。日本からの参加者も多く、レベルが高い研究発表を行っている。
● 今後伸びる可能性のある分野は、情報科学における計算機によるomputational手法にもとづく音声言語処理、安全性を高めるユビキタス情報通信システム技術、人間の脳活動に立脚した視聴覚処理を用いた障害者支援技術などが挙げられる。
● これらは、情報科学、言語学、音声学、電子工学、生体工学、システム工学など、多くの広い領域との連携が必要である。
光エレクトロニクス ○ 国際的に最先端。科学研究費補助金は比較的小。 ● 光科学技術、半導体科学技術、量子情報
材料工学 理工系
材料科学
○ 理工系の材料科学分野では現在でも世界トップレベルを維持していると思う。 ● 法人化後研究所群では教員数も1%減となることから、将来本研究分野も衰退するあるいは他の国々に遅れをとることが懸念される。
● 特に、中国、韓国などのアジア諸国の急速な高まりは近い将来脅威となるものと予測される。
● 今後伸びる可能性のある分野等:複雑系(多成分系)ランダム物質や結晶固溶体のサブナノメートルスケールでの原子配列の解析、制御、予測法の確立と新物質創成、特性解明、実用材料への展開技術(これの実施には理工系の総合技術の融合が不可欠)

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