資料3‐7 科学技術・学術審議会学術分科会委員等からの主な意見【暫定版】

学術分科会
学術研究推進部会(第4回)
平成16年11月15日

 平成16年11月1日に開催された学術分科会(第13回)において、科学技術・学術審議会学術分科会委員等に対しアンケート調査への協力を依頼した。
 11月12日までに10名の委員等から回答があった。主な意見は次のとおり。

分野共通

1.国立大学法人化後の状況

  • 費目制限が緩和され、より有効に使えるようになった。
  • 効率化のインセンティブが少しずつ出てきた。
  • 毎年1パーセントの効率化係数がかかり、研究費への削減圧力が強まった。
  • 法人化以後、基盤的経費の削減以上に大学本部の留め置き分が増え、各部局の運営が苦しくなっている。
  • 「学長リーダーシップ」のための「裁量経費」が増大する分、基盤的経費はどんどん減っている。
  • シーリングにより新企画がしにくくなっている。
  • 労働安全衛生法の適用に伴って各種の対応が必要となっているが、それを担保する人的・予算的基盤が見えない。
  • 法人化により安全衛生上の規制が厳しくなったが、対応する余裕がない。
  • 法人化に伴い研究者の雇用も民法に基づくことになったが、任期制と基本的に相容れない点が顕在化している。任期を付すとすれば5年以下(再任1回限り)、そうでなければ任期を付さないポスト、という両極端の選択しか許されなくなった。
  • 法人としての自由度は増えたが、教職員の意識改革の遅れに新しい任務も加わって、混乱が続いている。
  • 監査が監督官庁による監査、監査法人による監査、大学の自主監査と何重にもなり、研究教育の現場にとっては非効率。
  • 大学の実務的運営の多くを非常勤職員に頼っており、常勤事務職員よりも業務ノウハウを蓄えた非常勤職員は増加しているが、法人化に伴い非常勤職員の継続雇用に制限がつくようになったことは極めて影響の大きい問題。

2.研究費

  • 各大学で競争的資金獲得を督励する傾向が今後ますます強まると思われるが、分野や研究スタイルによっては学術研究のあり方をゆがめる恐れがある。
  • 基盤研究費が少なく、殆どは競争的資金の枠だけで研究を進めると、大学院生が競争的研究費のプロジェクトに拘束されない研究ができるような自由度が少なくなる。
  • 研究資金の手当ては、基盤的資金と競争的資金の組合せが望ましく、原則的な定率配分比率を定めるべき。基盤的資金も原則的に競争的資金とのマッチングとすべき。各大学等では、競争的資金への申請・採択状況を基盤的資金の配分条件とすべき。
  • 社会的ニーズの高い研究分野への重点的な資源の投入が必要。
  • 教育研究経費から支援職員人件費、光熱費、清掃費等のあらゆる経費をすべて込みにした考え方を改め、運営費交付金の積算根拠として、大学が大学として存立するために必要な諸経費を、一つ一つ積み上げる方式に移行すべき。現在の諸経費を一括する方式は真にデュアルサポート方式を担う実体にない。
  • 教育研究に必要な諸経費についてきっちりした支援を行うプログラム(競争的でよい)をデザインすべき。

基盤的経費

  • 基盤的資金には、知的資産を維持・伝承し、人を育てるという国としての基礎的な経費が入っていて、研究費分は少ない。基礎研究を推進する経費の確保が必要。
  • 基盤的資金は、法人化前から著しく不足。支援職員の人件費、庁費の増大等により、基盤的資金の大半は費消されてしまい、教育と研究に振り向けられる分は極端に減少している。
  • 基盤的経費の不足が教育に必要な経費の支弁に深刻な影響を与えており、大学院教育の高度化が喫緊の課題となっている現在、そのための経費が極端に乏しいことは、将来の学術研究を担う人材の養成にとって致命的。
  • 大学共同利用機関の共同利用研究をサポートするには、競争的資金よりも運営費交付金の一層の充実が必要。

競争的資金

  • 競争的資金が応用・産業指向に振れすぎ、長期的な研究資金への配分が少なくなっている。基礎分野重視への展開が必要。

科学研究費補助金

  • 科学研究費補助金を増額すべき。
  • 科学研究費補助金の特定領域研究は、学問分野の進展に対応するシステムとしてトップダウンとボトムアップを巧みに組み合わせた日本独自の優れた制度。悪しき事例もあったが、チェック機能は働いている。
  • 科学研究費補助金の特定領域研究では、影響力の大きい研究者の領域の研究分野からなかなか抜けにくいため、研究者の中には、影響力の大きい研究者から独立して十分能力が発揮できないとの話を聞く。
  • 科学研究費補助金は、他の研究費配分システムよりもはるかに巨大なシステムとなっている。巨大システムには、改善だと思ってやったことが思わぬところに影響を及ぼして全体を改悪してしまう危険が付きまとうので、個々人の経験や分野の特殊事情を全体システムに外挿するような議論は危険であり、全体を見た検討が必要。

3.研究環境

  • 狭隘・老朽の問題が積み残しのまま。法人化後に国としてどのように対処するのか見えない。
  • 国立大学施設は欧米に比して見劣りがする。
  • 内外共同研究、大学院(博士課程学生)研究、研究支援スタッフのスペースが貧弱。
  • 大型施設(中性子散乱、軌道放射、スーパーコンピュータ、超強磁場など)の維持・発展に関する先行きが見えない。
  • 施設・設備の更新に際しては、費用対効果を慎重に吟味し、順位付けをして行うのがよい。
  • 最も活発に研究を実施している40才代の研究者が必要とする中・大型の機器・備品は、中規模の研究費では購入や維持が困難である。
  • メンテナンスに十分配慮すべき。
  • 保守費が不十分なため、本体装置が活用されていない例が多い。
  • メンテナンスは人の問題も重要。施設・設備を知り尽くした専門職員が減少している。外注で賄うことは将来大きな事故につながるのではないかと懸念。
  • 研究施設の整備や改善にあたっては、時限的なプロジェクト研究の増加に対応して、組織・専門分野の枠を超えた学内共同研究スペースを大学が設置し、プロジェクトを学内から公募するという基本方針をとるべき。
  • 新しく整備するものについては、より精神文化の香り豊かなものとする努力が必要。
  • 技術者が不足。
  • 支援職員の専門性が乏しく、数が少ない。特に事務職員の支援能力向上が必要。
  • 研究者は既に国際化に十分対応できる実力があるが、予算当局者の国際化が大変遅れている。
  • 直接的研究費の競争的資金割合を高め、その分軽減される基盤的資金によって研究支援スタッフの大幅な拡充を図るべき。
  • 臨時雇用のできる研究費が必要。

4.大規模プロジェクト・共同研究

  • 大学共同利用によるビッグ・サイエンスは有効に機能している。
  • 大学共同利用機関は、共同利用研究の厳格な査定により、既に十分な競争的環境。
  • 大学共同利用機関はいわば小さなファンディングエージェンシーとしてユニークな役割を担っており、学術研究の効率化の観点からも大学共同利用を一層推進すべき。
  • 共同利用施設・設備の更新が困難。
  • 高い目標を狙う共同研究が必要。現状では自前の装置に合わせた研究にとどまっているのが、日本の研究レベルを下げている。
  • 最新設備の共同利用がパフォーマンスをあげる。共同利用センターに人が集まる体制作り(生活も含め)が必要。
  • 中型大型施設を用いる研究活動に関しては、当該分野の研究者の全国的な連携を踏まえた広範な議論によって将来戦略が立てられるが、その受け皿である全国共同利用の附置研究所の存立根拠が省令ではなく、各大学の中期目標・中期計画に依拠することになるのは、長期的に見て学術システムの縦糸(大学組織)と横糸(研究者の全国的・国際的ネットワーク)のバランスを崩すことにならないかと危惧。
  • 研究活動に比してマンパワーが恒常的に不足している。運営費交付金は逓減するのでマンパワーを増やすことは不可能であり、多くの外国研究機関との間で共同研究を一層推進し、外国研究機関からマンパワー・研究経費を供給するようにすることが唯一の道か。

5.人材

  • 研究者の評価・実績を通じて、研究専念、教育専念、運営専念といった専念すべき職種に時限的にでも分けることができないか。それに応じて年齢別・性別・国籍別等の研究ワークシェアリングを進め、若手・女性・外国人研究者の雇用機会を拡大すべき。
  • 中堅研究者(テニュア)が会議・打合せ屋になっている。

若手研究者

  • ポスドクの概念が未だ曖昧で、状況によって恣意的な扱いがなされている。
  • 任期付研究者(PDを含め)が日本の研究現場を支えている。彼らのテニュアトラックが日本では不明確。
  • 「ポスドク1万人計画」の評価と反省に立って、研究者のキャリアパスの制度設計を再検討すべき。
  • ポスドク制度はできたが、就職する場の代謝がポスドク制度と連携していない。また、ポスドク継続がかえって次期の就職先に支障をきたしている。
  • 若年人口減少や定年延長から、特に若手研究者の雇用機会が狭められる恐れがある。
  • 博士課程の教育と産業ニーズのミスマッチを解消すべき。
  • 40才前後の働き盛りの研究者が、影響力の大きい研究者から独立して研究するための支援策が必要。具体的には、科学研究費補助金のうち、基盤Aクラス、数年前の特定領域Bクラスの支援を増やすべき。
  • 独創的な研究者を育てるために、大学院生には競争的資金とは別枠で大学院生人数あたりの基盤研究費を交付して、学生を支援する制度確立が必要。
  • 大学院生(博士課程)の経済支援の強化が必要。

流動性

  • 国内の研究職全体のレベルアップがポスドクの就職範囲を広げ問題解決につながるので、大学院卒業後は卒業大学以外の全国レベルの研究室でポスドクとして研究するような制度をとるべき。
  • 助手・講師レベルの任期制度導入を早急に進めるべき。
  • 55~60歳以降の研究者に任期制度を導入し、若手研究者の雇用機会を拡大すべき。
  • 全機関で任期付雇用とし、流動性を上げることが必要。
  • 研究者も年齢に応じて家族に対する責任を負っており、競争的環境の名のもとに研究者(特に30代)をいつまでも不安定な身分においておくことは、極めて非生産的。研究者にとって、人生設計が可能となるようなシステムが必要。
  • 民間企業への流動性(交流)が必要。
  • 大学等(研究者)、産業・企業及び行政府との円滑な人事交流の条件整備が必要。

女性

  • 女性・外国人の活用という観点よりも、市民としての基本的人権の同位性の認知が必要。学術研究という枠を超えた社会インフラの整備が必要。

外国人研究者

  • 海外の中堅研究者が魅力を感じるような支援システム(英語学校等)を作ることが必要。

6.研究評価・公開

  • 学術研究の評価の在り方について、特に基礎的研究については、その長期性、萌芽性、多様性に配慮した評価はどのようにしたら可能か検討すべき。
  • 研究活動支援と並んで大切なのは、研究成果を発表する健全なフォーラムの維持発展への支援。外国の学術誌に登校することを妨げるものではないが、わが国の研究者が主体性を持って国際発信するためのきちんとしたルートも必要であり、各学会当における努力に対して適切な支援が必要。
  • 電子化が急速に進む中での将来の学術研究成果発表のあり方、ピア・レビューの功罪について、分野間の違いも視野に入れた調査研究が必要。

人文・社会科学分野

  • 特別の情報機器、海外調査旅費等を除けば、直接的な研究費自体が比較的少額で、基盤的資金でおおむねカバーされる傾向にあるため、概して研究資金の著しい不足を指摘する傾向にはないが、間接的な経費、特に資料の収集・整理、情報処理、研究成果の翻訳等に携わる研究支援者等の雇用経費までを研究費に含めると不十分。
  • 直接的研究費が概ね基盤的資金でカバーされるのは一見望ましいが、そのため科学研究費補助金等の外部競争的資金への申請状況が良好でないというモラルハザードが生じている。外部競争的資金への申請を通じ、外部への説明責任を果たしつつ、外部評価の機会に晒される経験が研究の発展に極めて重要な意味を持つことを研究者は自覚すべき。
  • 基盤的経費の減少による弊害として、人文社会系では、特に図書館の体系的整備の面で極端な衰微が目立つ。人文社会科学にとって、代表的な文献を体系的に収集した図書館は、天文学にとっての望遠鏡にも匹敵する必須のツール。なお、競争的資金で購入する文献は当該プロジェクトに必要なものに限られ、競争的資金の拡大によって、図書館の体系的整備は図れない。
  • 図書館の整備にあたっては、全国の拠点大学に分野別の集中整備を図り、全国共同利用の体制を整備すべき。
  • 法律学では、法科大学院の設置に伴い、全体として研究が手薄になることが懸念される。人員、教育補助体制などの支援の充実が必要。
  • 法科大学院は、その理念上、教育に多くの時間をとられることとなるため、研究の時間を十分とることが困難。法科大学院に所属する教員であっても、研究に時間がとれるようなシステムにすることが今後の法律学発展には不可欠。
  • 法科大学院創設に伴って、研究者養成大学院を廃止したところもあり、法律学の研究者養成の担保が課題。
  • 人文・社会系にもプロジェクト・マネージャーの育成が必要。

自然科学分野

  • 理工系の国際的レベルは高い。
  • 装置の数で言えば日本は世界のトップだが、成果が見合っていない。コストパフォーマンスが低い。
  • 情報学の研究は機器も必要だが、ソフトウエアの開拓などには大勢の若手研究者(大学院生を含む)が必要。
  • 情報科学技術の分野で人材育成の大幅増と共に、長期的、戦略的支援が必要。

文理融合分野

  • 認知科学は未だ文部科学省の政策として明確に取り上げられたことはなく、基盤的資金、競争的資金についてもまとまった施策は講じられていない。国公私を問わない競争的資金による認知科学及びその応用の研究充実、ならびに国の施策による国家プロジェクトの推進が必要。
  • 光トポグラフィ等の施設整備はある程度進みつつあるが、認知科学研究者が広く使用できる計測器機等の整備はこれからの課題。
  • 認知科学は、比較的若手、中堅の研究者が国際的に活躍している。女性も多く活躍している。ただし、個別に活躍している研究者が多く、組織的な研究活動はこれからの課題。
  • 国際的に分布している研究組織をネットワーク化して知財権等の支援も行うネットワーク型研究支援体制の構築が必要。
  • 若手・中堅の研究者が国際的に活躍している分野について目を向けていくことが重要。わが国に新しい研究組織や支援体制の受け皿がないことと外国では新しい分野の強化を図っていることとがあいまって、外国で研究を続ける若手・中堅の研究者がいることについて検討する必要がある。

その他

  • 学術研究とは何かという議論をライブにやってほしい。特に人文社会系の自信のなさは残念。
  • 基礎科学(学術)に関する限り、研究分野をトップダウンでいじることは多くの場合近視眼的になり害のほうが大きい。自由な発想に基づく研究を担保するような大枠の仕組みだけを堅持して、自由な発展に任せるのが健全なあり方と信ずる。
  • 研究分野の将来の方向性をきくようなアンケートの設問自体に問題があり、研究者の好奇心に答えるファンディングシステムがあれば十分。
  • 研究予算の配分方式や評価の議論は大切だが、思いつきや対症療法で制度をいじくり回さないことが大切。
  • 各分野で多くの研究者が議論した上で分野ごとの意見をまとめることが望ましい。これらの意見を比較検討することにより、各研究分野の活発度、将来性、重要性等が自ずから見えてくるはずである。科学官にアドバイザリーパネルを作らせ、各分野でワークショップ等を開催させて意見集約をはかることも考えられる。学術分科会等は、それらの意見集約結果を相互に参照して学術分野全体の今後について効果的な議論をすることができる。多くの意見を聞くことにより、最高の知恵を見つけることができる。また、各コミュニティが将来の学術方針の決定に関与することでコミュニティが納得できる方針を決めることが可能になる。
  • 競争的資金により研究教育機関の設置形態を問わずに研究インセンティブの向上が図られていることは高く評価できるが、政策の有効性を左右するのは、研究に専念できる人材・時間が実際どの程度あるかであって、大学(特に私立大学)には、教育・行政負担の大きさが鍵。大学としての見識・政策が問われているが、学術振興行政の観点からも関心を持ってほしい。
  • 法人化後の学長は外部資金確保に力を入れることになり、結果として学術研究が弱くなってしまうことが心配。学長(理事長)に対し、大学経営とは何かのレクチャーをすれば、学術研究の重要性を再認識することになるのではないか。
  • 学術制度の議論において「欧米では」という枕詞は禁句にしたい。
  • 総合科学技術会議から出された「競争的研究資金制度改革について(意見)」は、わが国の学術研究のレベルをより高度にすることを願っての提言であると理解するが、その記述の中には現状に対する認識や基本的考え方に首を傾げざるを得ない点が少なくない。

本日ご欠席の委員等からのご意見

1.今後の学術研究推進の新たな提言

 我が国で伝統的に強い分野である「脂質生物学」を是非、ポストゲノムの重要課題の一つに取り上げ、国策としてサポートして頂きたい。生体の4大成分が核酸、タンパク、糖質、脂質であることは既によく知られていることであり、ゲノム、プロテオーム、糖質の研究まで支援が続いているが、残る大きな課題が脂質生物学である。詳細は、出席時にご説明致しますが、脂質は水に溶けにくいため分子生物や生理学の研究でも大きく遅れた分野であった。しかし、我が国ではこの分野で国際的に顕著な成果を上げており、これを一層促進する必要がある。特に米国で2003年より大型研究費が脂質に注がれ始めた事を考慮すると緊急の課題である。
 脂質生物学の課題は大きく言って次の4課題と言えよう。

  1. エネルギー代謝と脂質(成人病、肥満、メタボリックシンドロームなど)
  2. 生体膜と脂質代謝(細胞分裂、開口放出、貪食、膜輸送など)
  3. 脂質性シグナル分子(プロスタグランディン、ロイコトリエン、イノシトールリン脂質代謝など)
  4. 脂質の系統的網羅的データベース作製

2.現状の抱えている問題点

 人を育てるという事にお金を投資する必要がある。具体的には学生、大学院生の生活保障、研究費、実験費などの校費拡充。大学院学生一人を育てるのにどれだけの費用がかかるかを考え、未来への投資として学生数、院生数に応じた基盤校費相当の分配を行う必要がある。それらを確保した上で、競争的資金を大幅に増やすことが必要であろう。ちなみに最も適切と思われる競争的配分は科学研究費補助金である。

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