資料3‐5 科学官との懇談での主な意見
学術分科会
学術研究推進部会(第4回)
平成16年11月15日
平成16年10月15日~27日にかけて科学官との懇談を開催し、今後の学術研究の推進に向け、各科学官の専門分野及び関連分野についての意見を聴取した。
主な意見は次のとおり。
分野共通
1.国立大学法人化後の状況
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未だ模索状態にあり、判断しずらい。
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運営費交付金化により予算の使途の制約が緩和され、研究の進捗状況により柔軟に対応できるようになった。
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旅費と校費の区別がなくなり、旅費が使いやすくなった。
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職制に関して自由度が増した。研究者間に競争原理が強く働くようになる傾向。
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安全管理に関わる活動が増え、安全を重視する意識が浸透しつつある。
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全学共通経費、部局共通経費、専攻共通経費など共通経費の割合が高くなっており、基盤的資金が相対的に減少している。
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基盤的経費の大学本部留保により、研究者個人への研究費が減額している。
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競争的資金の中間管理(例:間接経費の3分の2が本部使用)が増え、不都合。
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応用研究分野では外部的研究資金の獲得が大きく展開されてきたが、基礎研究においての外部的研究費の獲得が課題。
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事務手続等が煩雑化。
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多様な雇用形態の導入により、多様な労働時間管理が必要となった。
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職員の流動化に伴い、年金・退職金の継続性の確保が課題。
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職員の給与と人事院勧告の関係をどうするか(人事院勧告で公務員の給与アップの改定があった場合に、非公務員である職員の給与をどう設定するか)が課題。
2.研究費
基盤的経費
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基盤的経費による継続的な支援が必要。
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次期科学技術基本計画においては、競争的資金の重要性ばかりでなく、基盤的経費の必要性、重要性が訴えられるべき。
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地味な基礎研究にも予算配分しないと、5~10年後に基礎科学分野において諸外国から遅れをとる恐れがある。
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萌芽的段階では多様な研究者に一定期間安定して研究費を支給し、次の段階で資金を集中的に配分すべき。
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理工系分野では、基盤的資金は、研究費というより研究室運営費といった性格になりつつあるが、競争的資金が獲得しにくい状況では貴重な研究費でもあり、基盤的資金への配慮は欠かせない。
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大型装置の維持、基礎研究の経費や人件費及び優秀な研究補助員の確保について長期展望が計画できるよう基盤的経費の十分な配分が必要。
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競争的資金の間接経費を充実したり、運営費交付金の使途から共通経費の割合を減らしていくべき。
競争的資金・科学研究費補助金
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競争的資金を増額し、研究活動のアクティビティーの向上や社会への説明責任を果たすことが必要。
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競争的資金への依存度が高まると、研究分野が偏る危険性がある。
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(過去の実績を重視する)実績主義では、過去に大きな資金を得た研究者ほどさらなる資金を獲得する傾向がある。
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科学研究費補助金では、重複申請の制限が不都合。
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新しい研究領域は、研究費の申請・確保が困難。どんな分野のピアレビュアーを用意するかなどの問題がある。
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科学研究費補助金の特別推進研究を獲得すると孤立した感があり、他との交流、グループ研究がしにくい。
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競争的資金制度による研究とプロジェクト型研究との適切なバランスを考えることが必要。
3.研究環境
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施設の老朽化・狭隘化対策、安全管理が必要。動物実験施設の老朽化が課題。
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安全性の国家基準を満たせず放置されている施設・設備があり、自助努力の限界を超えているものは抜本的な国の対応が不可欠。
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建物や大型施設の維持管理に向ける予算が減少している。
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機関や部局を作るほどの大型設備ではないが、科学研究費補助金では届かないという、1~5億円程度の高級市販機器類の導入が難しくなったのではないか(例:フーリエ変換質量分析装置)。大学院重点化された研究大学では、このような装置が全学レベルで導入されているべき。
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共同利用施設を含め、受益者負担の圧力が強まり、施設の維持費の捻出に苦労。
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欧米に比べると、実験施設や装置の開発環境が貧弱。
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優秀な研究者を育てる大学の研究環境を高レベルに保つことは、実験装置のハードウエアの開発と同等に重要。PDなどの雇用費、基礎研究費など研究力を高めるための経費を充実すべき。
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全学共同利用施設や機器分析センター等に機器を集積する形で重点的に予算をつけるなど、利用効率を上げる方策が必要。
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研究室面積の算定基準に、海外からの長期滞在研究者の研究スペースを考慮すべき。
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大型施設・設備等のハード分野だけでなく、学術情報全般についてのソフトやデータという側面についても目配りをする必要。
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助手・研究補助者が不足。
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施設のメンテナンスをする人材の整備が必要。
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研究施設の建築業者と研究者側とを橋渡しする人材(ラボコンサルタント)が必要。
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海外来訪研究者が多い大学等には、事務局に語学に堪能で海外経験のある職員の配置・増員が必要。
4.大規模プロジェクト・共同研究
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大規模プロジェクトでは「国際的な協力と分業」が課題であり、特に「分業」のため、政府機関を含んだ国際的な方針決定の仕組みが必要。
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プロジェクトマネージャーの育成が必要(中堅研究者で大プロジェクトをまとめあげた経験のある研究者を、いろんな分野を飛び歩いてまとめるマネージャーへ)。
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大規模プロジェクトには、システムエンジニア、研究補助者の確保が必要。
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近い分野間で、プロジェクトの優劣や順序をつけて実施していく必要。
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研究の進展と共に組織・設備の合理的な新陳代謝が必要であるが、大型化・集中化に伴って、基礎的な学術研究が衰退する懸念がある。
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ビッグサイエンスは重要な国の施策だが、スモールサイエンス振興の観点が欠落。
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重点分野が生じた場合に、機動的に研究費・人材(助手・PD)を集中する(5年間程度)制度の創設を検討。
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BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)との積極的な共同研究が必要。
5.人材
若手研究者
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ポスドク、ポスト・ポスドク、若手研究者の処遇・就職が課題。
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大学院重点化で助手のポジションが教授等上位の職に振り替えられ、助手等の若手の比率が減少。
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独立した助教授ポストの拡大と経費の確保が必要。
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研究者が高齢化している。
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助教授の年齢層が集中しがちで、将来の組織の活性度に不安。
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助手クラスが研究に専念できる体制づくりが必要。
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リーダーとなる研究者の育成が必要(特に優秀な若手研究者に一定期間、給与、研究費、助手・技官、雑務からの免除の点で特別待遇)。
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長期間集中的に研究すべきテーマに若手研究者が取り組みにくくなっている。
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新たに研究室を作る研究者に対して、スタートアップ資金の準備が必要。
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学生や大学院生を育成するための基盤研究費を増やす必要。
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優秀な日本人学生が博士課程に進むよう、柔軟な給付奨学金制度の整備が必要。
高齢研究者
流動性
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研究者と非研究者の垣根がかなり高いので、流動性を高める措置が必要。ただし、研究施設・資料の整備状況によっては、他大学で研究がほとんどできない分野もある。
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流動性確保のために、全国的に、助手などのポジションで、一定割合の任期制を導入することが必要。
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日本型テニュアトラック制を任期制の軸とすべき。ただし、終身雇用=悪という論調は、再考を要する。
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流動性をサポートするシステムを、研究機関間で構築することが必要。
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退職金で不利にならないような「年俸制」の導入が必要。
女性
外国人研究者・留学生
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2週間ほどの滞在で何度も往復できるような外国人研究者の日本滞在のシステムがあるとよい。
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外国人を雇用する場合は、環境整備(子供の教育、居住状態・環境、事務文書の英文化など)が必要。
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学生、留学生の応募は多いが受入能力の問題(定員、職員等)で断らざるを得ない状況もある。
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留学生の増加に伴い、質が問題になりつつある。
6.研究評価・公開
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論文一本の価値が、分野の違いを無視して等価で問われることは誤り。
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評価尺度の設定が困難だからと目標の提示を避けるのではなく、積極的に設定してアピールすべき。
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成果公表に向けて、業績の自己評価を提示する訓練が必要。
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日本の学術情報発信力の強化が必要。特に我が国の英文誌の国際競争力を高める。
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我が国の研究者がイニシアティブをとった国際専門学術誌をもつ必要。
人文・社会科学分野
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人文社会科学は基盤校費が充実していれば、一定の質を保つことができる。
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科学研究費補助金の申請の機会を知りつつ、応募をためらう傾向がある。
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分野の枠を超えた横のつながりが不十分であり、共同研究の方法にも改善の余地がある。
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課題設定型プロジェクトの実施・継続が必要。社会ニーズ対応のプロジェクトに対応する際に研究者をどう掘り起こすかが課題。
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大学設備の整備は大学の判断だが、理科系に押される可能性があり、共同研究の推進や文化系における施設への優遇措置の検討が必要。
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大学図書館の整備が必要。
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図書館による学術雑誌のオンライン版の普及が必要。
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国際的に活躍するためには、翻訳サービスの提供が必要。
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論文掲載誌の活性化が必要。
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世界から大幅に遅れたアーカイブズ制度の整備が不可欠。
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人文・社会科学は「競争力」という概念が必ずしも当てはまらない分野。自然科学系とは異なる研究評価基準の整備が必要。
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アーカイブズ教育学は、大学における専攻やコースの開設が不十分。
自然科学分野
文理融合分野
その他
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類似の研究について、省庁間での調整や競合関係が予算面で効率的になされるべき。
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いろいろなレベルで研究に競争原理を導入することは歓迎するが、直接的経済効果や短期的成果を求める傾向には、分野の特性を適切に考慮すべき。
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教育・研究機関の大学に経済効率を求めすぎると大学が疲弊し、長期的な科学振興が機能しない恐れがある。
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税金をもらう以上、出口を明らかにし国民に夢を与えるものである必要がある。具体的目標を見据えながら、汎用的なものを生み出し技術シーズとして蓄えることが必要。
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国際協力、大型実験設備、中規模実験設備、講座レベルの基礎研究という4つの階層に整理し、位置付けを明確にする必要がある。特に基礎研究・教育の活性化のためには真に独創的な研究、厳密性・普遍性を深く追求する研究が安定的に行われる環境が必要。
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教育と研究の分離が学生の吸引力を減じ、学生の多い分野と極端に少ない分野に二極化するのではないか。
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21世紀COEプログラムの長期的継続が必要。
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継続的なサポートを必要とする研究事業(生物系統保存、データベース等)への支援が必要。
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国立大学の法人化後、国立系の研究能力が停滞する一方、私学系が伸びる可能性。国策として両者の標準化を目指すのか、大学の独自性・競合性に委ねるのか。
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持続性技術開発に関する総合戦略(STS:sustainable technology strategy)を持つべき。我が国はシステムアプローチが弱い。
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科学技術・学術審議会と総合科学技術会議の評価の関係、評価の観点の明確化が必要。