学術研究推進部会(第7回) 議事録

1.日時

平成17年4月8日(金曜日) 13時~16時

2.場所

霞が関東京會舘 「ゴールドスタールーム」

3.出席者

委員

 笹月部会長、井上孝美委員、中西委員、伊井委員、飯野委員、伊賀委員、井上明久委員、入倉委員、小平委員、鳥井委員

文部科学省

 清水研究振興局長、大西政策評価審議官、小田研究振興局担当審議官、河村科学技術・学術総括官、森振興企画課長、甲野学術研究助成課長、芦立学術機関課長、柿沼主任学術調査官、桑原科学技術政策研究所総務研究官 他関係官

オブザーバー

 石井分科会長
(科学官)
 五條堀科学官、山本科学官

4.議事録

(1)学術研究推進部会長及び部会長代理の選任等について

 笹月委員が部会長に専任され、岩崎委員が部会長代理に指名された。
資料1-1~1-4に基づき、事務局より説明の後、学術研究推進部会の公開手続きについて原案通り了承された。

(2)関係部会等の審議の状況について

資料2-1~2-2に基づき、伊賀委員より、資料2-3~2-8に基づき、事務局より説明の後、質疑応答が行われた。その内容は以下のとおり。
 (○・・・委員、科学官の発言 △・・・事務局の発言)

○ 研究環境基盤部会の「平成18年度概算要求に向けて考えるべき視点」の中で、17年度予算の特別教育研究費について、「学術政策上の必要性を踏まえつつ、各法人における重点事項としての優先順位を尊重するとともに」ということで、各法人の自助努力を重視して配分し、各大学で例え1位であっても採用されない大学もあったが、順位によっては学術政策上の必要性から採用された大学もあった。しかし、18年度については、「基本的には17年度の考えを踏まえることが重要であると考える。すなわち、各法人の優先度を尊重した支援を基本的には行うべきである」となっていて、考え方が微妙に違っているのではないか。去年のものは、各法人の優先度を尊重し全部1位はまず採用し、次に、学術政策上の観点から、特別教育研究経費の予算の枠内で配分するというニュアンスに受け取られないか。

○ 平成17年度に重点を4つ程挙げたが、平成18年度にもそこに対応したものに継続的にファンディングしなくてはいけないことは確かである。18年度に作業部会では、問題となっているものを予算をどれだけ確保しどれだけ実現できるかと考えている。例えば、大きなものをずっと維持してきたが、更新をする必要がある。それから、どこかから移設をする費用が今まではなかなか難しい。昔は古いものを買ってはいけないと言っていたのだが、それはさすがに買えるようになったが、もっと有効に活用したい。研究教育の足腰が非常に弱くなるような状況に立ち至っているので、プロジェクト型だけで突発的にやるのではなくて、継続的な研究設備の支援をやってほしい。予算がないかもしれないけれども、ゼロにならないように少しでも増やしていくような努力をしてほしいというのが部会の希望である。
 したがって、このようなメッセージをはすれば、大学の優先順を取っ払った申請がたくさん出てくると思う。審査は心配なのだが、各機関が優先順位でこうなったというのではなくて下の方でも出してみることを許し、そこから審査をし、将来の設備のシステムとして、人であるとか、設備であるとか、いろいろな人が使いやすいような、全体的なイメージで設備を充実していき、足腰を強くしようという計画が取り上げられるように部会としては期待をしている。

△ 今後も引き続き大学にいろいろ考えてもらい、意欲的な取組をしてほしいというのが基本にある。大学はもう既に来年の概算要求を考えているわけだが、その際に大学が自主的に判断する一つの資料としてこれを送り、これも踏まえた上で、大学独自の判断で今までだとちょっと下だったものも、大事なのだったら堂々と上へ持っていこうではないかということを委員の先生方、ご期待されているのではないかなと感じているところである。

○ 24兆円の達成度はどのくらいになる見込みなのか。

△ 今のところ公の数字は出ていないが、24兆円そのものにはかなり達しないという状況である。ただ、目標値である24兆円は、経済成長率3.5パーセント増をもともと前提としていたので、それ自体も修正が必要ということである。

○ あまり達成できない目標を長々と挙げるということは、何となく組合の春闘の現象みたいな感じもするので、少しうまいやり方が必要ではないか。24兆円の目標は、目標だけで済むなら増やしてくれるかもしれないが、本当はつかないよというのでは仕方がない。総合科学技術会議を支援するようなことをやらないと、だんだん要求と回答の乖離が大きくなっていくというような非常にまずい現象が起こるのではないかと思う。

△ 第2期の基本計画の1つの大きな目玉が、税金をどれだけ投入するかについて数字を書かせてもらい、24兆という数字があるのだが、先ほどは大変慎重なお答えを申し上げたが、おおよそ21兆円、計算の仕方、大学の自己収入をどう取り扱うかということによっては20兆円といった、いずれにしても24という数字に比べれば少しギャップがある。ただ、第1期が17兆で、今の橋本行革以来の政府の一連の行財政改革の中では、社会保障と並んで科学技術・学術はそれでも特別な扱いをもらっている。今年の概算要求の際にも、特に科学技術振興費についてはマイナス0パーセントの措置となっている。そういったことが あったので、20兆あるいは21兆であったとしても、今の政府全体の中からすると、それなりに各省で頑張っていただいているということだろうかと思う。
 本日午前中に第3期の科学技術基本計画に向けて文科省としてどう提言すべきかという中間のまとめをいただいたのだが、総合科学技術会議でも6月に中間整理をし、4月から6月ぐらいまでにかけて経済財政諮問会議の方で政府全体としての行財政の方針を踏まえて、「骨太の方針2005」が出て、それに対して科学技術・学術の分野でどういうことが重要でどういうことをすべきであるかということを盛り込んだ形で、内閣府の中でも様々なやりとりがあるということだろうと思う。第3期も、この24兆に対する21兆という今の状況を踏まえ、次の5年間でどうするべきかということについて、来年の3月に閣議決定があるまでいろんな観点から政府の中でも、あるいは産官学いろいろな意見の調整があるだろうと思う。

○ 私も大学に行ってみて、使いやすくなったと言われているお金だが、こんなものなんだということを実感している。(科研費、その他のお金でも、年度末にいろんなものを一生懸命買い込んで、梱包が開いてない機械があるというようなケースもないわけではない。)24兆円という額の増加、目標値の増加を獲得することよりは、お金の使いやすさでまだ突破できていないところを突破してしまった方が、実行はこれだけ上がるというような格好で突破する方が得策ではないかと思うところもある。

△ 科研費は繰り越しが可能である。ただ、予算も増えてそれが制度的に使いやすければなおよろしいわけなので、制度改革の面ももちろん盛り込んでいて、その上で目標値としての金額もぜひ書いていただきたいということである。

○ 資料2-2の「新しい整備システムの導入の必要性」については、例えば、設備費、あるいは維持費、人件費、それから建物の整備費をセットとした予算システムを構築するとある。これは実際に、研究を推進する側から見ると、非常に重要なよい提言だと思う。ぜひこういうものが実際に生かされるように、実行されるようにお願いしたい。

○ 大学が法人化されてから、安全面が配慮されるようになってきた一方、設備的にも安全 が確保できないところが目立ち始めた。研究のアクティビティが下がるから安全を考えすぎるのはまずいと言うのではなく、安全が確保されて初めて研究が成り立つのだというような考えを育成していって欲しい。
 例えば、排気装置を始めとし、色々な設備関係についてもクリアしなければいけない法 律面に配慮して考えてこなかった。有名な話としては、せっかく外国から有名な先生をお呼びしたが、実際に実験室を見てもらったら、「こんな危ないところで研究できるか」と帰っていったという逸話があるぐらいである。少しずつ改良はされているが、設備を新しくしていく際には特に、安全面にも気を配っていただけるとありがたい。

○ 例えば、有毒ガスその他のいわゆるガスの排出、あるいは有毒劇物の下水への排出、あるいはアイソトープ、バイオハザード、など色々あろうかと思う。しかし、それらについては、法規できちんと規則があるし、整備されているのではないかと思うのだが、具体的な例を示してほしい。

○ 例えば、高圧ガス関係である。今まで大学では個々の部局の自治ということが非常に大切にされてきたこともあり、大学全体の安全をどのようにとらえて、どこが違法状態かということをあまりシステム的に考えてこなかった面があり、場合によっては現に違法状態に近いところはあると思われる。

○ 大学の執行部の一員の立場として発言するが、基本的には労安法対応を昨年度からとらなくてはいけなくなった。大学として大変で、お金がかかるけれども、文科省からの手当てというのは、我々の認識ではあまり出ておらず、運営費交付金でやらなければいけない。委員が言われたのは、その過渡期の状態の話だと思う。我々の大学では安全環境のために、部局対応だけになっていたものを、全学で手当てしている。そうすると、各部局ごとにやっているとかなりのお金がかかるのだが、全学で対応するようにシステムを改良していると思う。資金的にまだ十分手当てされていないからということで、現場からの不満がたくさんあると思う。

○ 資金が必要だとすれば、それは運営費交付金の中から支出する、ということになるのか。

○ その通り。だから我々としては十分な手当てがなされていないから大変だという認識がある。

○ 文科省としては、法人化したことによるそのような影響に対する予算措置というのは何か考えはあったのか。

○ 法人化ではなく、非公務員化の影響である。つまり、今まで公務員だからということで安全、労働関係の法律の適用外であったものが、民間企業と同じようにいろんな法律が適用されるようになり、それに伴って様々な支出が増えたというよりは、新しく発生したわけである。それについて国は何も措置しなかったということは断言していいと思う。それぞれの法人が今までの運営費交付金の、いわば今までの予算の横滑りの交付金の中でやらざるを得ず、やらなければ法律で処罰されるという事態に追い込まれていることは確かだと私は思う。私は法人の監事等をやっていて、その辺の現実は非常によくわかる。過渡的なというか、新しい法律が適用されることに対する配慮がなされないというのは、やはり問題があるのではないか。

△ この部会の中で議論いただいた視点の中でも、それにオーバーラップする部分はもちろんある。例えば、液化ヘリウム装置。これは液化ヘリウム寒剤をつくるために非常に大事なものだが、そういう研究所の必要な基盤的装置が、今までは補正予算がついたときに大学に納入されてきた。例えば、それが老朽化していくのをどのように考えるべきなのかという問題がある。大学の方では、おそらく、国が予算をつけてくれない限りできないがどうすればよいかというのが去年までの1年間の状況だった。そういう部分についても、やはり大学で全体のマスタープランを作っていただき、ここはどうしても大学でできないんだから国でやってほしい、あるいは、ここは競争的資金で対応するからといった役割分担を大学にまず考えていただいた上で、それでも足りない部分については、我々も外へどんどんアピールしていって、設備をしっかりとしていかなければいけないという話にやっていく必要性があるだろう。そのことも含め、大学へのメッセージとしてまとめていただいたのではないかと思っているところである。

○ 第3期の科学技術基本計画の中での研究設備の計画的な整備については、液化ヘリウム装置やクリーンルームといったようなある程度金額がかさみ、従来は補正で措置されたようなものが、現在ではエアポケットになって整備が進んでいないという研究設備の分野がかなりあると思う。そういうものについては、基本計画特別委員会等の報告を見た場合、大型設備については書いてあり、また、競争的な資金による簡単な設備等は購入できるかもしれないが、そのはざまにある研究設備について、実は落ちているのではないかと思っている。そういう点については、第3期の計画で、第2期に施設整備5カ年計画を策定し、総合研究等の整備がかなり進んできているという実態があり、第3期では研究設備に注目して、その設備が前進するような内容を盛り込めるような検討をさらに進めていただきたい。

(3) 学術研究における多様な分野の総合的な推進方策について

 資料3-1~3-5に基づき事務局より説明が行われた。資料3-6~3-7に基づき桑原科学技術政策研究所総務研究官よりプレゼンテーションの後、質疑応答が行われた。その内容は以下のとおり。
 (○・・・委員、科学官の発言 △・・・事務局の発言)

○ ドイツにおけるエリート大学のプランは、もうスタートして随分時間は経っているのか。経過等がわかれば教えてほしい。

△ まだスタートしたばかりと聞いている。

○ 具体的には、4つか5つの大学に適用するのか。

△ このイニシアチブ自体が2004年にアナウンスされて動き出したものであるので、まだ途上かと思われる。

○ 具体的な説明としては、資金の集中的投入という話だったが、それ以外にどんな工夫、仕掛けがしてあるのか。

△ ドイツの場合、もともと大学への支援も、州政府の支援のウエートがかなり大きく、日本と違う構造である。本イニシアチブへの国の支援も5,000万ユーロ、円にすると約70億円を毎年投入していくということになる。特に巨大な投資ではないかもしれないが、政府としてのメッセージをはっきり出すというところが大きいのかなという感じはする。

○ 各国でのさまざまな領域、分野におけるコントリビューションの著しい差というのが際立っていたが、これは資金の投入の差なのか。あるいは歴史・伝統的なものなのか。何かその辺の分析はあるか。

△ 分野ごとの資金投入はなかなか各国のデータがないので、資金投入の結果がこれに寄与しているのか、また、どの国も論文の7割、8割は大学が生み出しているので、各国、大学の形成過程のいろんな歴史といったことが効いているのかはどちらかはっきりしない。
 ただ、注意しなくてはいけないのは、はっきりしたデータはないが、あるフランスの研究者の論文によると、臨床医学は論文が書きやすく、ほかの分野に比べると、同じお金で3倍ぐらい論文が出るんだとの話がある。データであったように、臨床医学の論文のシェアは全体の4分の1ぐらいあるが、投資はもうちょっと少ないのだが論文シェアは大きいとなっている可能性もある。
 したがって、もしそれが正しいとすると、臨床、あるいは生命系にお金を集中している国は、論文というものだけから見ると、本当の実力以上に大きな存在に見えているという可能性もある。

○ よく言われることだが、日本の場合には、免疫学、分子細胞生物学等は、割と評価は高く、実際に『ネイチャー』とか『サイエンス』におけるコントリビューションも大きい。ところが、臨床医学の研究成果というのは、優れたジャーナルとしては『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』とか『ランセット』とかあるのだが、それらに対するコントリビューションは著しく低い。いわゆる基礎生物学に比べると10分の1以下だと言われるので、そのシェアだけでは、これはもう何ともならないのではないかと思う。だから、例えば、資料3-6の別添の最後のページの「インパクト調査により得られた政策的インプリケーション」で、基礎研究の重要性ということが明示されているのは非常に重要なことである。その次の「出口」までの「道筋」の考慮というのも非常に重要なことなのだが、その1行目に「道筋を想定し、研究開発と並行してインパクト実現に必要な環境を整備することが重要である」と書いてある。その中身は何か具体的にあるか。

△ 具体的に言うと、再生医療である。先ほどの例で申したように、日本は90年代中頃まではアメリカにかなり水をあけられていた。ただ、学術ベースでの蓄積はあった。それが、ミレニアムプロジェクトでかなりの資源集中が行われ、幾つかの領域ではアメリカに近いところまできた。
 ただ、そこで問題なのは、ある先生のお話だが、アメリカが再生医療、あるいは再生医科学の研究をスタートさせるときに、研究をスタートさせると同時に、その研究の成果が何年か後に当然出て、その成果が出れば、それを臨床応用するなり、あるいは、患者さんの福音につなげるためには、皮膚の再生として大規模にできるよう産業化する、あるいは、そういうベンチャーを育てるために現行法で何かひっかかるものがあれば、それをちゃんと道を開く。そういう手だてをやりながら研究の立ち上げをする。だから、先々の線路を引きながら、その基礎研究に資源を集中している。残念ながら、日本の状況は、研究はミ レニアムプロジェクトでかなりのところまで来たが、せっかく成果が出ても、ベンチャーを立てようにも、現行の規制法だとなかなか難しい問題があるようで、そこに入ってくる 企業はなかなか出てこない。そうすると、結局、研究としてはすばらしい水準にあっても、広範な医療にはなかなかいかない。
 だから、研究の成果が出てから、その制度をどうしようというのでは、むしろ前に進まないので、研究を進めているときからその先を開くということがこれから必要ではないか。

○ 私も全くそのとおりに思う。いわゆる学術研究としては日本は、今、例を出された再生医療にしても、例えばカエルを使った再生医学等学術研究の基盤があるので、今度のミレニアムでお金が出て非常に進んだと思う。ところが、それを実際に今度は患者に届けるまでの中間がいわゆるブラックボックスで、そこのシステムの整備というのが全くなされていない。基盤研究の重要性と出口までの道筋を整理すべきであるということ、この2点は非常に重要な点だと思う。

○ 各国のとっている政策で、その国のサステナビリティというか、持続可能性を考えた政策、産業政策という見地からの分析はされているのか。というのも、この15年は全世界的にサステナビリティを重視しているので、サステナビリティの見地からのいわば科学技術政策ということを、特にヨーロッパは推進しているかと思うのだが。

△ 特にサステナビリティに注目して横断的に分析するということはやっていないが、資料 の3ページで、ヨーロッパの場合には重点政策のキーワードとしてサステナビリティ(持続可能)が、EU、イギリス、ドイツともに挙がっているという状況である。
 それに対する資源投入が大きく伸びているのかどうかまでの分析はできていないが、英国の場合では80年代、かなり産業がうまくいかなかった時代があって、90年代に入って、英国の持てる学術の力を産業や社会にいかに使っていくかという強いイニシアチブが出て、UKフォーサイト・プログラムなどが動いたわけである。環境に関する研究、あるいはサステナビリティに関する研究、これはトップの3つか4つのアジェンダの中にいつも入っていたので、相当重視されているということは言えるかと思う。

○ アメリカやイギリスの情報は入りやすいので、ドイツの場合について伺いたい。実際に理念を施策に落とすときに、省庁間でいろいろな利害関係が出てくると思うのだが、それをどうやってうまくマネージして、具体的な施策として形づけをするのかということを聞きたい。
 それからもう1つ、学術というのは学術研究機関だけでクローズしているものではない。もちろん人も必要だし、いろんなことを伸ばさなければいけないのだが、教育された人は社会に戻っていく。だから、やっぱり社会全体を、企業も踏まえたシステム的に考えなくてはいけないと思う。アメリカやEUではしっかりと労働者へのサポートや社会保障等をきちっと見すえて科学技術の人材を考えており、日本と少し異なる気がする。ドイツと言ったのは、日本には基盤的な考え方の中にドイツ的な精神が残っており、特に大学ではまだその傾向が強いように見えるからである。

△ ドイツについては、私は知っていることはかなり限られているが、ドイツのリサーチャーが言うには、ドイツ政府は最近FTURというプログラムを実施した。これは社会のニーズから入って、これからの研究政策で何をなすべきかを見出そうというドイツにとっては新しい試みである。ただ、予算の規模は極めて小さく、ドイツ全体がこれで動いていると認識するのは誤りになる。これはBMBFの大臣のイニシアチブで動き出したプログラムで、なぜ彼らがこういうプログラムを始めたのかと聞いたら、ドイツはもちろん長いサイエンスの歴史があって、確立したシステムを持っている大学、フラウンホーファーのような研究協会もあるし、マックス・プランクもあり、そこが非常によくできているので、多くのことはボトムアップで決まっていく。そうすると、政策のトップのデシジョンメーカーにとって、かなりコンサバティブであまりおもしろくない研究テーマがマジョリティ を占めるようになってきた。そこで、そういうやや固定した研究の流れに新しいものを入れたいということであり、そこには、まさに学術研究が社会と非常につながるという文脈もあるかもしれないが、そういう問題意識からこういうプログラムを始めたとのことであった。
 ドイツの場合は、私の知る限り、研究開発に絡んで役所間がつばぜり合いをするというのは、あまりないように聞いている。各省庁はあまり自分のラボを持っておらず、ほとんどすべてが連邦教育研究省に集中している。何人かの行政官から聞いたことではあるが、研究はBMBFに任せ、自分たちの仕事はそれを活用し、あるいは、もちろん技術はドイツ国内だけから生まれるわけではなくて海外からも入ってくるのであり、それをいかにうまく回してドイツの国民なり産業にいいインフラを提供するか、それが自分たちの行政省庁のミッションだということを言う人が多かったという印象がある。
 それからもう1点、雇用や労働市場との関係である。90年代からヨーロッパの会議に行くたびに、科学技術政策のフレームワークの議論のための3つ、4つのアジェンダのうち、常に1つはいかに雇用を創出するかというものであった。日本ではまだあまり意識されていなかったものであり、90年代、ヨーロッパはかなり失業率が高かったということもあろうと思うが、そういう流れがさらに深まって、こういうイノベーション政策を通じての労働マーケットという大きな視点につながってきているという感じがする。
 先ほど「出口」についてのご指摘があったが、特にヨーロッパ、EUは、科学技術政策とその他の政策、労働政策とか福祉政策とををいかに連携させるかということを非常に重視しているということが日本にとっても参考になるのではないかと思う。

○ 今回、フランスが取り上げられていない。例えば、フランスの科学者から世界中の科学者に手紙が回って、政府が予算投入を大きくカットしたが、これを何とかするようにみんなで手紙を書いてくれというようなことがあった。何かそういう特殊な事情というか、ヨーロッパの中でも、先進国の中でも何か特殊な事情、情報があったら教えてほしい。

△ フランスは参考になる面があろうと思う。実はヨーロッパの場合、ドイツとイギリスを中心に、フィンランド等の小さい国を幾つか若干見ているが、フランスを調査しなかったのは単純に調査予算の制約のためである。選択の理由だが、イギリスは先ほどのようにサイエンスをいかに社会につなげるかという政策展開が今一番顕著に動いたし、90年代、かなりドラスティックな資源集中をして、今その揺り戻しで少し緩める方向であり、そういう意味で参考になることが多いだろうと思う。それから、ドイツはもともとヨーロッパの中では日本に一番近いシステムなので、比較しやすいという面がある。

○ 間接経費については、研究機関が日本と違う国が多々あると思われるが、何か特徴があるか。例えば、アメリカ等では、より大きな割合の間接経費がつき、それを大学の基盤経費的なものに投入して、強くしていくというような政策がとられていると思う。中国もそういう影響を受けた方策をとっている。日本でも、プロジェクト研究には間接費がつくようになってきたが、間接経費に基づいて科学技術政策の進展の様子が違うということはこの統計上からはうかがい知ることはできないか。

△ 今回お示しした、例えば、アウトプットの論文等の結果からは、それは必ずしも見えない。それから、一部ちょっと調べきれてない部分が残っていて、表面的に得られた情報を考えると、細部で十分整合性をとった解釈ができないのが若干あり、今日はあまり詳しくご紹介しなかったが、アメリカの場合には、大体30パーセントの間接費がグラントで与えられて、それをファンドにして大学は研究者に共用させる大型設備をつくるとか、新しいプロフェッサーをリクルートする際の投資のイニシャルマネー、さらに、施設の拡充という共通基盤がこの間接費、提供されている。
 イギリスの場合、日本と同じデュアルサポートになっていて、HFCsから出るいわゆるブロックファンド、これは研究者とか学生の数に応じた、割り振りで基本的に決まっている。ただ、そこがやはり苦しくなっている。現在の計画では、ちょっとアメリカと制度が違うのだと思われるが、競争的資金が出る場合に、算定には想定される間接費の50パーセント 弱は入っているのだそうだ。イギリス政府は、ただそれでは足りないので、当面80パーセントまでに増やそうということをアナウンスしている。80パーセントまで増やして何が入るかというと、例えば、大学が既に所有している設備の減価償却、それからPI、メーンになる教授、そういう方の人件費も間接費として入れてよいというレポートはある。
 ただ、私がつかみきれていないのは、人件費までそういう形になると、ブロックファンドで提供されているほうの人件費と、競争的資金で提供される人件費で、イギリス政府は最終的に間接費100パーセントまで拡大すると言っているので、それがどんなデマケになるのかがちょっとまだよく見えていない。間接費のとらえ方がアメリカとちょっと違うかもしれないが、英国はそういうポリシーである。

○ この統計上、中国、韓国等が材料科学分野で非常に伸びてきているということがわかり、ものの見事に日本とパターンが似ている。この原因としては、例えば、以前より日本に多数の留学生等が来ており、そういう人が帰国後に研究を継続しているとことが反映されているのか。

△ なぜかはまだよくわからない。韓国については、いろいろな政策が先行している日本を参考に打たれているし、行政体制もかなり日本のシステムに近いものを整備してきているということだから、韓国の大学の状況はあまり知らないのだが、ひょっとすると、大学のファカルティーのバランスとか、そういったものも日本を参考に構築し、アウトプットも 日本に近い姿になったという可能性はあると思う。
 中国の場合は、おそらく、開放政策以降、特に拡大しているのが、産業応用なので、これからバイオが伸びてくる可能性は大いにあるような感じがするが、まず前段では材料系とか、ナノだとか、電子応用系が拡大したのかなと思う。中国の場合、80年代のグラフを見ると、ずっと低かったのが、90年代の後半ぐらいからぐっとエクスポネンシャルで上がっている状況で、最近の状況はこの五、六年が大きく効いている。この後大きく変わる可能性はあるような気もする。ただ、これは中国政府の方針がどうなるかというところだ。

○ 大変広範な調査結果で、どういうふうに生かすかというのが工夫が要るところだと思う。今のような、韓国、中国と日本のパターンが似ているというのは、やはり、韓国や中国が現在置かれている産業振興のあらわれで、こういうパターンになっているんだと思うが、逆に言うと、日本は本当はもう先進国としてサステナブルな、長期的なパターンに移らなくてはいけないところが、まだ苦労している状況のように見られるわけで、大変おもしろいデータだと思う。
 それから、欧米に比べて、臨床医学、あるいは基礎生物、環境、生態、地球というあたりが膨らみが少ないというのは、今申し上げたような、まだ追いつけ追い越し型の産業重点型で進んでいるという面もあるかもしれないが、これらの分野は、人文社会科学分野とのかみ合いというものが非常に重要になってくる分野で、学術分科会でもよく申し上げるのだが、科学技術に関する調査というのは非常に精緻に行われるのだが、どうしても人文社会分野の研究活動の調査が伴わないものだから、学術研究の議論をしていても、全体像の半分が見えない感じがしている。今日のデータを拝見し、改めてこういう先進国の科学技術分析をやるときには、非常に重要な学術文化のもう半分をぜひ調査していただきたいと思う。特にドイツ等は先ほど議論があったが、産業政策を決める上でも、環境問題等、極端に行き過ぎているところもあるようだが、その人文社会的な分野の研究とのかみ合いというのが非常に大きな影響を及ぼしているように思う。

○ 韓国の論文のシェアがどう上がっているかとの話があるが、特許のデータはあるか。

△ 特許分析もある程度やっている。例えば、アメリカ特許に出るもので、日本はどういう分野が多い、これはあると思うが、今は内容をご紹介するほど記憶にはない。

○ 特許のジャンルごとの強さというのも、同じパターンをとるのか、もしくは学術研究とは何の関係もなく特許がなされているというような状況が出るのか興味深い。
 それともう1つ、補完関係ということを考えると、日本はアメリカとは実に上手に補完関係がとれる状況にある。イギリス、ドイツ、フランスを見ると、これも結構上手に補完関係がとれる状況になっている。中国、韓国と補完関係をとるかどうかというのは将来の問題として、低いところを伸ばすべきと考えるのか、それともどこの国と補完関係をとるということを明確にして、戦略を立てるのか、これは選択の問題である。必ずしも低いところは全部伸ばさなくてはいけないという議論ではない。やらなくていいという話ではないが、効率的に重点化してやっていったら非常に効果がある分野というのは、何か読めそうな気もする。

○ 先ほど、日本と中国、韓国の研究開発状況がかなり似通っているという話があったが、この3月で私は55回目の中国を訪問したが、意外なことを知った。それは、現在の中国の材料科学の研究のリーダーの3分の1は日本への留学生であったということである。これは中国の有名な先生がおっしゃっていて、そのリストもいただいたのだが、確かに20名ぐらいの中国の今の若手の材料科学の研究者のリーダー、学科主任、院長、所長等これらはみんな日本への留学生である。有名なところでは、中国の東北大学の学長、青海大学の学長、現在北京航空航天大学の材料研究のリーダーもそうである。他の分野は知らないが、工学分野を精査してみると、中国、韓国のかなり若手のリーダーは、みんな日本の留学生かもしれない。

△ 学術と特許であるが、関係あるデータが、資料3-6の25ページにある。アメリカの特許の場合には、米国の特許審査官がその特許を成立させるベースにして、学術論文のリストを審査の際に掲示することになっている。このグラフは、アメリカの企業や研究者が登録した特許、それから、日本企業、日本人が登録した特許で、それぞれ科学論文をどの程度引いた特許かその度合いを見たものである。アメリカから出る特許は、学術論文をたくさん引用してサイエンスリンケージが強い。それに対して、日本から出る特許は、それは非常に低い。ヨーロッパはその中間にいる。こういうことであるから、科学・学術をベースとする特許の比率が日本は小さいということは間違いないと思う。

○ 日本の研究は研究の深さが足りないとのコメントが、資料3-7の25ページで、ナノテク・材料系でなされている。それから、28ページに生物学、数学も深さの欠如が指摘されている。これは、外国人自身がこの「深さ」という言葉を使ったというように理解してよろしいのか。もうちょっと細かいニュアンスを教えていただけるとありがたい。

△ ご指摘の点であるが、このインタビューは全部RANDに頼んだのものである。ネイティブの、しかも科学のバックグラウンドを持ったリサーチャーが科学者にインタビューをしている。中核となったリサーチャーによると、まずこの「ラック・オブ・デプス」というのは何人かのインタビュー相手が口にしたとのことであった。ただ、それと違う表現を使った人ももちろんおり、RANDが全体のレポートをまとめるときに、キーワードとしてまとめたものである。それに類すると彼らが判断する意見は相当あったようだ。
 それから、中身であるが、大きく3点ぐらいあった。
  1つは、人材の問題で、ある時期日本からスタープレーヤーが出て、非常に華々しい仕事をされる。ただ、それが必ずしも日本国内で新しい人に引き継がれていくことがないケースが多い。だから、その研究者がある年齢になっても、跡を継ぐ人が日本から出てこない。人材の厚みの問題があるかもしれない。
 それからもう1つは、例えば、新しいタンパクの発見ですばらしい成果が出た後、その構造を徹底的に解明して、いろいろな特性を利用して最終的に医薬品に使っていこうというフォローが日本の中でなかなか起こらないというような議論もあった。
 もう1つ若干あったのは、それを支える何か新しい提案、ファンディングスはたくさん出てくるが、それらを総合化して一つの新しい学問ジャンルを生み出す、あるいは、新しいアイデアを総合的なものとして生み出すというところがなかなか発展しないケースが多いというような議論もあった。
 大体その3点が、この「ラック・オブ・デプス」という感じがする。
 ちなみに、そのRANDのリサーチャーが大変驚いたと言っていたのだが、アメリカの研究者に日本のことについて尋ねると、もちろん、中にはあまり知らないと言う人もいたようだが、この研究なら日本の何とか大学のプロフェッサー何々が世界でトップを走っていて、そのほかにはこういう人がいると、個人名がどんどん出てきたと言っていた。アメリカの科学コミュニティにおいて個人名が出るような日本の存在感は相当あるのだろう。
 ただし、あわせて、自分や他のリサーチからの印象として、日本の存在感は次第に薄れているような気がすると言っていた。それは留学生も減っているような気もするし、アメリカの機関で働く日本研究者の数も減っているような気がするからであるとのことである。今、韓国が非常なイニシアチブでそれを埋めようとしており、日本はこのままでいいのかというようなことを言われてしまった。

○ 今の深さの欠如という「ラック・オブ・デプス」については、あるタンパクを見つけて、それを構造をきちんと解析して薬へつなげる点がないといったことを称して深さの欠如と言われているが、日本人の研究者は、自分の見つけたタンパクが他のタンパクと結合することによって、一つの細胞の機能を発揮するという、学術研究としてむしろ深めている方向へ行っている。今おっしゃったのは、薬へつなげるという横へいくところがない。それを深さがないと称しているので、ちょっと意味が違うかと考える。しかし、まさにその指摘は正しいと思う。
 それと留学生、あるいは日本人が減ってきたことであるが、これは中国が国策として、優れた若者を選抜して、大学院のときから国費を出して一流の、例えばオックスフォード、ハーバード等に留学させて、その後はポスドクとして雇用され、上へ上っていく。また、俗に言われる海亀作戦でまた呼び戻して、集中的にお金を投資する。それが今のところ非常にうまく回転しているように見える。日本は国費で大学院生にお金を与えて欧米の一流の大学に留学させるということがどれほど行われているのか。今さら欧米へと言う人も最近よく聞くが、やはり日本と違った彼らの考え方、サイエンス技術は学ぶべきものは山ほどあるので、一回よく調査していただき、どの程度力を注ぐべきか検討すべきことではないかと思う。資料はあるか。

△ 今は資料はないが、第3期科学技術基本計画の議論の中で、国費の留学生を増やしていくべきではないか、日本人が出ていくというのもやるべきではないかという議論があったかと思うので、それに伴うバックデータがあるかどうかはちょっと調べさせていただく。

○ その必然性というか、効果もやはり一度きちんと議論する必要があるのではないかと思う。

○ 先ほど話があった論文のシェアの韓国、中国、日本が似ているというのは、やはり大学や、研究者の基本的な構成が効いているのだと思う。世界の中で日本の研究者のシェアというと、とりあえず物理系は多いが、世界と比べて生命系が少ない。そういう点が考えられる。そういう意味では、欧米と日本でこういう構成が違うというのは、これはいわば研究者の数の構成の違いと見るべきであり、そういう意味では、日本はどういうものを理想とするかということがない。これをどうして変更していくかというのは出てこないと思う。
 それでちょっと気になるのは、他の大学の大学関係者と話しているときに問題になるのは、理科離れの話である。アメリカも非常に大きな理科離れがしていて、それをどうやって補っているかというと、アジアの学生がたくさんいて、今ブッシュ政権で問題はあるけれども、そういう人たちを研究者として雇える状況で解消してきたのでないかと考える。そういう意味では、日本も優秀な学生をほかの国から集めるようなことも考えないといけないが、実際には理科離れはもっと本質的な問題をとらえて対策を考えないといけない。アメリカがうまいことやってきたのは、そういうことがあると思う。日本で理科離れの問題というのは、今後非常に深刻になっていくと思う。

(4)その他

  資料3-8について事務局より説明が行われた。

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