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科学技術・学術審議会学術分科会

2001/07/05議事録

科学技術・学術審議会学術分科会基本問題特別委員会(第2回)議事録

科学技術・学術審議会学術分科会
基本問題特別委員会(第2回)議事録

1.日時

平成13年7月5日(木)  15:00〜17:00

2.場所

経済産業省別館  944会議室(9階)

3.出席者

(委員)

末松、池端、大ア、奥島、郷、小平、野依、木村、立石、鳥井

(科学官)

井上明久、井上一、勝木、吉田

(事務局)

遠藤研究振興局長、井上科学技術・学術政策局次長、清水高等教育局担当審議官、磯田政策課長、泉振興企画課長、宮嶌主任学術調査官、他関係官

4.議事

(1)科学技術基本計画を踏まえた学術研究の推進方策について

1  「総合科学技術会議の動向」及び「大学の構造改革」について、参考2(総合科学技術会議のおける最近の検討状況)及び参考3(大学(国立大学)の構造改革の方針)に基づき事務局より説明の後、質疑応答が行われた。その内容は以下のとおり。

【委員、科学官】

  参考2の1ページに、「基礎研究を一層重視する」と書いてあるが、どう重視するのか書いていないようだが。

【事務局】

  「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針(案)」では、具体的にどのようにして基礎研究を重視するかについて、特に明記されていない。それにはいろいろな手法があるだろうが、例えば科学研究費補助金、あるいは基盤的経費について、競争的な研究開発環境の創出に寄与すべきとの観点から、競争的資金の拡充状況、間接経費の導入規模、使用実態等を評価しつつ検討を行うということがあるのではないか。
  競争的資金については、総合科学技術会議システム改革専門調査会がとりまとめた文書において、「各省の持つ競争的資金制度の目的・役割の明確化を図る。その場合、各省の持つ競争的資金制度に関し、例えば、(i)研究者の自由な発想に基づく基礎的・萌芽的な研究領域を重視する研究制度、(ii)特定の政策目的を実現するための目的基礎研究や、プロジェクト型研究等の政策指向型の研究制度、(iii)戦略的研究拠点形成、人材育成、ベンチャー支援等に資する研究制度といった制度」というように、競争的資金を3分類して、その分類に応じて今後どのように考えるかという議論が展開されているところであり、学術的な基礎研究で考えると、(i)が考えられるが、いわゆる学術的な基礎研究費と他の競争的資金とのかかわりをどうするかということが今後の課題だと思う。

【委員、科学官】

  我が国の基礎学術研究を支える財政的、技術的な基盤が現状では大変脆弱化しているのではないか。総合科学技術会議では、このことをどう認識しているのかお尋ねいただきたい。
  科学研究費補助金1,500億円、競争的資金3,000億円はどこに流れているのか。ビックサイエンスが設備的に外国に依存しているということは前から伺っていたが、スモールサイエンスにおいてもいろいろな測定計測分析機器等はすべて外国製、あるいはそれに近い。例えばNMRはほとんどオックスフォードのものである。化学の試薬、消耗品等についてもほとんどアメリカ製だろうし、DNAチップ等もすべてアメリカから買っている。アウトソーシングの方が効率がよいということで何でも外国から買っているが、長い目で見た場合日本の研究、あるいは科学技術の基礎は全く空洞化してしまうのではないか。もう少し我々研究者も含めて自立心を持ち、自助努力をしなければいけないのではないかと思う。そういう意味で、どのぐらい外国に基礎研究費が流れているのかを調べていただきたい。
  大学、国立大学等においても技官等がいないので、ほとんどの装置を作る場合、企業に丸投げしている。技術的な基盤が全くないために大学の研究は高くつく。
  また、日本の学術研究のレベルやコストパフォーマンス(1億円かけてどれだけの質の研究が得られているのか)について、論文引用数を尺度として測ると、日本はアメリカに比べて2.5分の1、カナダに比べても半分ぐらいのコストパフォーマンスしかないと言われている。我々の研究に創造性が本当に無いということであれば、非難を甘受しなければいけないと重々承知しているが、コストパフォーマンスについては、もともとダイレクトコストがアメリカの倍くらい高いので、コストパフォーマンスは自動的に50%に落ちる。それをもって我々の学術研究の質が悪い、コストパフォーマンスが悪いと非難されることについては納得できない。おそらく我々が同じ条件で、最大の努力をして向上できる限界は指標にして20%増しだろう。もともと2倍、2.5倍のハンディキャップを背負ったまま、コストパフォーマンスを上げろというのはとても無理である。
  企業の場合も、アメリカの言いなりになって買っているので、いろいろな資材の購入費が2倍から3倍近いと言われていて、企業の基礎研究においてもコストが非常に高いと研究者たちは実感している。これは流通機構の問題や、さまざまな社会的な要因があるのだろうが、総合科学技術会議でもこの現実を直視、解析、認識するということから始めないと問題がかえって大きくなる。アメリカ人に研究してもらって、アウトソーシングして論文を書いてもらった方がコストパフォーマンスが上がるということになる。国際的、あるいは世界的なレベルではそれでいいじゃないかという話になりかねないので、我々が自助努力する、あるいは自立心を持つということが一番大事であり、短期間のコストパフォーマンスだけを考えてアウトソーシングすれば、空洞化が起きてしまうのではないか。

【委員、科学官】

  我々が開発した技術を民間へ移転しても、その技術を受け継いだ方々も何年か経つと異動してしまい、重要な技術が蓄積されていかない。どうやってその技術を蓄積していくかという視点が必要である。確かに経済的には非常に合理的かもしれないが、技術の蓄積、ノウハウの蓄積ということを考えたときに、長い目で見てどこまで合理的かというのはなかなか難しいのではないか。

【委員、科学官】

  「社会人キャリアアップ100万人計画」について、今、国立大学にいる学生の数は50万人くらいだが、その倍の社会人が大学に押し寄せてくるという状況を本気で考えているのか。大学を職業訓練校にしようとしているのか。若い学生と社会へ出た海千山千の方々が一緒に勉強するという状態は、どういうことをもらたすのかを考えた上でのことか。次の世代を担う若者は本当に大事にしていかなくてはいけない。リストラされて雇用されなかったから、一度大学に入れればいいというだけの発想は将来に大きな禍根を残すのではないか。しかも、3か月か4か月大学へ行って先生の話を聞いたところで、何かの職業に就くことができるようになることは難しいし、効果もないのではないか。結局、大学教育というものをだめにしてしまうのではないか。

【事務局】

  大学といっても、実際には参考3にあるように、例えばeラーニング、eユニバーシティー、あるいはサテライト・キャンパスなど短期集中コースということが示しているように、必ずしも正規の大学、学部、あるいは大学院という、今までの学校制度上の位置づけの学生だけをカウントしているのではない。各大学においてもさまざまな形の公開講座が多くのキャリアアップの需要に対応した形で、ある程度まとまりを持って展開されている。そういう意味で、大学が大学として活動していくときに、学生の受け入れ先が大学院なのか、学部なのか、あるいは公開講座なのかについて、さまざまなニーズに対応する柔軟な仕組みとeユニバーシティーの可能性ともあわせながら検討すべきだろうということで取りまとめたものである。
  また、社会的な雇用状況の変化の中にあって、例えば雇用保険上の教育訓練給付の大学院コースなど、必ずしも正規の学生だけではないので、その拡大や、厚生労働省の委託訓練の拡充などともあわせて幅広く考えて打ち出したものである。

【委員、科学官】

  先程の研究コストの件については、総合科学技術会議に問題提起をしていただきたい。科学技術・学術審議会としても技術・研究基盤部会などにおいて審議することになるのかもしれないが、例えば試薬、汎用性のある測定装置などを外国頼みにするよりは、むしろ積極的に国産のいいものを作製することも考えるべきである。一定の需要があるということが分かれば多分企業でも乗り出してくるだろうから、本腰を入れて議論することがこの審議会の重要な仕事ではないか。

【委員、科学官】

  大学の構造改革の方針について、2の「民間的発想の経営手法の導入」に関しては、最近独立行政法人化について、いろいろ議論が進められて、内容的に賛成・反対を含めてかなり理解が深まっていると感じるが、1の「再編・統合」と3の「トップ30」の問題に関しては、いかにも唐突という感じで、賛成、反対と言う前になかなかのみ込めない。国立大学の再編・統合を大胆に進めるということと、国立大学に民間的発想の経営手法を導入するということが同時に成り立つのだろうか。再編・統合ということは、ある意味で国立大学のスケールを大きくしていくということになるのだろうが、スケールが大きくなるということと、民間的発想はイコールになるのだろうか。
  国立大学の再編・統合を大胆に進めて、スクラップ・アンド・ビルドにより活性化するというのであれば、単純な合理化ではなく、ビルドの部分があって、今までではできないことがこれによって可能になるのだというものがなければならないが、イメージが本当にわいてこない。再編・統合といっても、いろいろな種類の再編・統合のパターン、考え方があるが、そのあたりについてもなかなか読み取れない。
  キャリアアップ100万人計画については、大学が社会に開かれていくということは非常にいい側面もある。何人かの社会人が大学院のコースに入ってくればクラスも締まっていいという一面はある。しかし、現実の教育の場に倍の社会人が来たらどうなるか。一所懸命社会に開かれた大学にしようとすると、どうしても極限状態まで働かなくてはならなくなる。100万人が押し寄せてきたら、その面倒を見なければならなくなるが、人的な手だてがあっての話なのか。

【事務局】

  法人化を見越して来年統合する大学がいくつかある。例えば山梨大学と山梨医科大学、筑波大学と図書館情報大学の統合、それ以外に幾つかの構想ある。さまざまな領域の複合化という状況の中で、例えば山梨大学と山梨医科大学では、工学には醸造関係のバイオ部門を持っているので、例えば医療、医学の教育研究という中で医療工学などの新しい組織体となるなど、両大学の持てるリソースを統合していくことによって、山梨大学、山梨医科大学はさらに発展する可能性があるのではないか。
  大学として見れば、一つの法人、一つの組織体の中で今後、長期を見通した大学の分野の発展の可能性を戦略的に考えるということであれば、統合していくというアプローチは当然あり得るのではないか。足腰を強くして全体のさまざまな資源を有効的に活用しながら、今後の可能性をキープしておかなくてはいけないのではないか。
  国立大学法人への具体的な移行に関連して、制度設計の中間取りまとめがこの9月に予定されている。最終的な取りまとめは、パブリックコメント等を経た上で今年度中に行いたい。当然関連する省庁、財政当局などとも制度設計について調整した上でそれぞれの大学を国立大学法人に速やかに移行していくという段階である。
  国立大学法人移行へのスケジュール自体がまだ確定的に申し上げられる段階ではないが、基本的に再編・統合についての具体的な進め方としては、それぞれの大学の考えを伺いながら方針を取りまとめ、それをもとに具体的な計画の策定をできるだけ速やかに行っていきたい。当然のことながら来年度統合するというような大学にあっては、統合した上で法人化する場合もあるだろうし、法人化後に統合するということもあり得るだろう。また、具体的な再編・統合計画が一回で全体の計画としてまとまり得るのかという点も若干の問題があるのではないかと考えている。
  社会人キャリアアップ100万人計画について、大学が公開講座まで含めて社会人をどのくらい受け入れているのか推計を行ったところ国公私合わせて大体30万人くらいである。今後の社会経済情勢の中でのキャリアデベロップメントに対する需要の高まり、それに対応した大学側のさまざまな形でのeユニバーシティーも含めた広がりの中で、ある程度達成は可能であろうということで、100万人と打ち出した。具体的にそれに対してどういう支援体制をとっていくかというのは、検討しているところである。

2  「基礎研究の重要性」について、資料2(学術分科会基本問題特別委員会(第1回)における主な意見)、資料3(「基礎研究」の重要性について(案))及び資料6(第2期科学技術基本計画(「科学技術の戦略的重点化」部分の抜粋))に基づき事務局より説明の後、資料3について意見交換が行われた。その内容は以下のとおり。

【委員、科学官】

  基礎研究の推進について、総合科学技術会議で取り上げてくれるのは歓迎するが、やはり学術分科会が基本的責任を持っているんだという姿勢で取り組んでいただきたい。
  基礎研究には純粋基礎と目的型基礎があるという分類になっているが、純粋基礎は大学、あるいは学術振興の対象で、目的型基礎は「よそ様の仕事」であるかのように読めなくもない表現がある。この二分法的な考え方は実情にも即さないし、適切ではない。目的といってもいろいろな段階があり、すべて研究者が趣味でやっているわけではなく、ある問題意識を持って研究に取り組んでいる。その問題意識というのは当然、政策目標、社会的課題を念頭に置いて取り組んでいるということもあるので、大学において学術研究の目的型基礎研究は、傍系であるというとらえ方は誤っていると思う。
  14年度の予算配分方針の重点事項は、特定の「技術」を列挙する形になっているので、これを目標達成型の特定技術開発ととらえれば、大学の個々の先生がそれに参画するとしても、それは大学における学術研究の本流でないということであれば分かる。しかし、目的型の基礎研究というのは、当然学術研究の重要な要素としてあるので、それに対するファンディング方式やサポートの方式については、研究者のイニシアチブを十分尊重するという思想に基づいたものとすることが重要であり、それが学術振興の使命ではないかと思う。資料3の2ページの(2)の二分法の書き方は、若干ミスリーディングなので、検討いただきたい。

【委員、科学官】

  大学での研究において対応すべきものは、総合科学技術会議で「領域」と呼んでいるものというより「イシュー(課題)」ではないかという意見があったが、「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」では、最後が「技術」で終わる、特定の技術開発目的を持ったようなものに集中してしまっている。重点化の領域での問題の取り上げ方がそういう感じであるが、それ以外の目的を持った基礎研究も当然大学でやっている。資料3の案は、そこを除いてはよくまとめられていると思う。早い時期に基本的な姿勢として外部に出すというのはそれなりに意義があると思うが、どこに向けて出すのかを議論する必要がある。
  また、こういうメッセージを出すというのも大切だが、学術面での基礎研究推進からいうと、ファンディングシステムと人の問題でのメッセージが重要。ファンディングシステムについては、特に今、科学研究費補助金は競争的資金ということでかなりの工夫が凝らされ増えつつあるが、一方、外形標準的に決められている基盤的な経費をどう位置づけるかという基本的な議論が必要である。また、大型プロジェクトの研究費のファンディングシステムは、諸外国ではNSF(アメリカ国立科学財団)、CNRS(フランス国立科学研究センター)、リサーチ・カウンシルなどの透明性が高く、アカウンタビリティーを持っている組織がファンディングを行い責任を負っている。日本の学術研究を推進していく上で、予算の額だけでなく、こういう制度的なものをきちんと整備する必要があるのではないか。
  また、人の問題として、人材の育成というのはもちろんあるが、これから大学が法人化して人を雇い入れることもできるようになると、基礎的研究を行うコミュニティーとして、研究者、あるいはその補助者をどうプールして、どう有効に育て、生かしていくかというシステムが必要だと思う。国立天文台でハワイ観測所を設置したが、ハワイには州法で設置している研究協力協会とも呼ぶべきものがあって、そこが付加給付等を全部管理して、人材を要求に応じて研究所に出すようなことをやっていた。研究者はそこを通じている限り、研究者としての、あるいは支援技術者としてのキャリアが続き、共済年金的なものもそこを通じて保障されていくというシステムを国として持っている。そういう工夫が日本でも必要ではないか。
  先ほど日本の学術研究のコストが高いという話があったが、そのことは、ハワイのすばる望遠鏡建設に携わっていた際に実感した。外国では人材は必ずしも大学や、研究所に定着しているわけではなく、流動しているのだが、先ほど言ったように人材を全体として動かすマーケット、あるいはシステムがあるためにインハウスでマンパワーを持つことができるのである。日本の場合は企業にアウトソーシングしないといけないが、企業にアウトソーシングした場合、今度は外国にアウトソーシングしてしまう、つまり、外国の物を買うということが起こってしまう。学術研究の先端的現場ではどうしても普通に市販されているものを使うというわけにはいかず、例えば、天文学の場合には軍事的な技術水準にあるものを手に入れないといけない。そうすると、知的所有権の使用料を払わなくてはならないので、割高の一因になってしまう。
  日本の学術研究が割高になるもう一つの要因は予算のつけ方で、今まで無いものにR&Dの経費が出せないことである。だから、企業はどうしても非常に高い偶発的な段階を踏まないといけないし、決められた期間に開発を含めて製品を提供しなければいけないので、研究が非常に高くついてしまう。それでも、日本の企業は非常に頑張って大学研究者とつき合ってくれていたが、不況でつき合ってくれなくなった。また、大学の研究者の無理を聞いて開発をやってきた人がほかへ移ってしまったために、インハウスで人がいれば蓄積されるノウハウ、知的資産がアウトソーシングにより消滅してしまった。そういう意味で、人や知的・技術的資産のストックを継続的に高めていけるような、人的プールのシステムが必要である。ファンディングのシステムが要なので、この辺を学術分科会で今後どうできるかを具体的に考えていくべきである。

【委員、科学官】

  総合科学技術会議等で検討している問題については、量的拡大で何でも解決できるのではないかという認識があるように見えるが、一番大事なことは良質の知識、あるいは技術をどう日本の国内に定着させ、質の悪いものを持たないようにするかということではないか。それは言うのは易しく、行うのは大変難しいが、まさにこの日本が何十年間やってきた、何でも囲い込んで量的な拡大をすればいいということではなく、質が高い物は維持し、質の悪い物はそれを向上させる方策を考えなければいけないのではないか。

【委員、科学官】

  研究に使われるお金の質が悪過ぎるのではないか。補正予算は付いても3か月以内に使わなくてはならないので、何か買うものは無いか探すという使い方をしたら生産性が上がるわけがない。質の悪いお金を増やすより、お金の質をよくしたらずっと効果が上がると思う。お金の質を真剣に考えて予算要求しなければだめではないか。

【委員、科学官】

  良質の技術継承の面から見て、今、技官の減少、人員削減が進んでいるが、このあたりを充実する施策はないだろうか。
  例えば、新しい日本発信の技術を開発したいが単年度で装置をつくり上げないとだめで、技術が無いとなると、外国からありきたりの装置を購入してしまおうという考えになる。技官制度を活用して、日本のオリジナルの技術が育っていく施策を作っていただきたい。

【事務局】

  資料3の2ページの(2)の二分法的な書き方をしているという指摘については、認識している。現実にあるファンディングシステムと、大学、あるいは他の研究機関でさまざまな形でなされている基礎研究とのマッチングを念頭に置き、参考2の16ページの左下に書かれていることもにらみつつ、議論いただいた点も十分に踏まえ、文章を修正する必要がある。
また、このペーパーは学術分科会の見解としてとりまとめ、総合科学技術会議の今後の議論に向けて、科学技術・学術審議会の学術分科会ではこういう見解であるということを示していくものである。

【委員、科学官】

  先程意見の出たお金の質という点に関し、重点事項を特定してそこに集中投資をする際には、過去を振り返ると金の使い方が荒っぽくなり、研究者あるいは研究そのものをスポイルするという弊害はかなりあると思う。あらかじめ戦略、計画を見通して必要な額を出すのは大変いいことだと思うが、そういう名目のもとで本来大学における基礎研究をやるためのファンディング手法を同時にとらないとかえって成果が出ず、それこそコストパフォーマンスが上がらないということになる。

(2)科学技術の戦略的重点化について

  資料4(学術研究の「重点化」に関する論点メモ(案))及び資料5(学術研究の「重点化」に関する資料)に基づき事務局より説明の後、資料4に沿って意見交換が行われた。その内容は以下のとおり。

【委員、科学官】

  学術研究の基本的なサポートはボトムアップで、分野による分け隔てなくという話が公理としてあるが、しかし、一方で重点的に推進する必要性もあり、またそれをしなければ世界の学術の進展にも応じ切れないというのも事実だろう。そうすると、どういう論理、システムで重点化を進めるかというのが、ある意味では学術振興の最大の課題であり、資料5に出ている学術審議会の昭和59年の答申では、学術の内在的な発展から見て、重点的に進める分野をどういうシステムで認定し、サポートするかということと、国家社会の要請に対して学術らしくどう応えるかという、2つに集約されている。
  そのシステムづくりにおいては、関係者が集まってこれは大事だからぜひやるべきというエネルギーの強さが重要性のあらわれであるということもあるが、やはり内外の動向を的確に把握をするということが、基本的に大事なのではないか。

【委員、科学官】

  政策的にこういうことが大事だから重点化するのだろうが、これが機能するかどうかは、学術研究である以上、研究者がどのくらい覚悟してやるかということが一番大事である。科学技術基本計画の目的とする社会的、あるいは地球的ないろいろな問題に研究者自身がどのくらい、覚悟して志高くやるかということが一番大事である。

【委員、科学官】

  資料を拝見して、今まで随分いろいろな重点化に関する方針が実際にとられてきたようだが、重点化の効果はどう現れたのか。これから新しいことを進めるに当たって科学研究費補助金全体の評価、例えば先ほど論文引用数の話が出たが、そういった評価とは別に重点的に投資をしたのであれば、それが学術的にどういう成果を上げたのかということをきちんと評価すべきではないか。常に重点化ということである分野に予算がたくさん付いて、研究者は増えるが、それで本当にその分野を活性化して、若い方たちを育てたことになるのか。ある程度の重点化は必要であると思うが、今までの施策に関しての反省をした上で、次のことをやるべきではないかと思う。
  人材の育成は非常に重要だが、重点化した後に、そういう分野で育ってきた方はどうなるのか、企業に行って研究を続けるのか、あるいは大学でそういうポストを得て、さらに発展的に研究を続けていくことができるのか。やはり10年、20年先までを考えた上でないと、それこそいい質のお金の使い方はできないのではないか。研究者の覚悟も必要だろうが、長期的な見通し、長期的な計画を示して、それを理解していただくということが大事ではないか。

【委員、科学官】

  重点的な財政支援がどういうインパクトを持ってきたかということについて、基礎研究の推進ということに関しては、これは科学研究費補助金が主だろうが、大変大きく機能したと思う。今、学術研究助成課でいろいろ精査していると思うが、学術的な観点に照らし合わせて、長期的には随分大きなインパクトを与えてきたのではないか。近くは特別推進研究、重点領域研究、あるいは特定研究、特定領域研究等々の大型の研究費があるが、学術の本質、あるいは学術の方向という観点から照らし合わせて極めて効果的で大きなインパクトがあったのではないか。
重点化して基礎研究の推進ということであれば、それなりの効果をもたらすと思うが、一方で、国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化という観点では、相当怪しいのではないか。それは、旧文部省以外の各省庁が出資金等でこの5年間多額の資金を投入してきたわけであるが、産業的な、経済的な効果というのは不十分だったのではないかと思う。これをどう評価すべきか。

【委員、科学官】

  過去の例で、対がん戦略10か年計画があったが、その結果、がんの治癒率がどれだけ上がったかは分からないが、その他、現在進行中のもので、脳の10年で、「脳を知る・つくる・守る」というものがある。これらは極めて重要な研究を推進するために分かりやすく計画をつくって、予算措置を講じたという面があり、学術サイドに関してはそれなりの成果を上げているのではないかと思う。
  しかし、一時核融合が非常に脚光を浴びた時があり、大学から出てくる新規要求が全部核融合関連で、他にたくさん大事な研究があるだろうに、何で核融合ばかりを要求するのかと思っていた。そういう両面があることは確かだが、学術内在的な発想から見て、国家的プロジェクト、社会的・国家的要請の強い領域を取り組めばよいのではないか。
  また、重点分野、重点領域というと、そのための研究費を付ければそれで事足りるというきらいがある。それが一番安易な方法だが、本当に考えれば、例えば今の大学の附置研究所、大学共同利用機関が今の学術体制に最も即しているのか考えるべきである。つまり、組織的なことを考えての重点化なら、先にやるのはそのための研究組織をつくることで、そのフローの研究費はその次の話である。ただ、科学技術基本計画は5年間なので、そこがちょっと難しいところだと思うが、研究費で手軽に片づくようなものではないので、重点化の議論を進めていただきたい。

【委員、科学官】

  科学技術基本計画に挙げてある重点4分野について、生命科学はヒトゲノムでアメリカに負けたから取り上げ、情報通信はアメリカがかなり進んでいて大変だということで取り上げ、ナノテクノロジーは、アメリカが戦略分野だと言ったから取り上げている。その他もっと前にさかのぼれば、脳研究も米欧が脳だと言ったから取り上げて、がんの10年計画も全くそうだった。重点化するときの発想はいつも追いつけ追い越せの発想から全然出ていない。
  だから重点4分野が遅れているからやるんだという発想で大学の研究を支援しているのは大問題だと思う。遅れているところはあきらめて日本の強いところをもっと強くして、それでバーターすればいいという考え方もあるのではないか。なぜ重点化するのかということをよく考えないで、遅れているから重点化すると言うことをずっとやってきたが、今後ともそのやり方でやるつもりなのか。確かに際立っているところを重点化したという面はあるが、ナノテクノロジーは、本当は日本が先を進んでいたが、アメリカが重点化する前に重点投資することをなぜ考えなかったのか。そこが基本的になってない。今後は強いところをより強くするという重点化の戦略を打ち出してほしい。

【委員、科学官】

  重点的なことを考える際に、ボトムアップとトップダウンでいくということについて、トップダウンの方法もとても重要な問題を持っていると思うが、今こそ重要な研究をアプライする前にテーマをもっと出す、募集することができないものだろうか。日本は小さいといっても広いので、隠れた人材はいろいろいるわけだから、何か優れた研究、こういうところを突けばいいんだという先見的なテーマを集約する方法はないだろうか。

【委員、科学官】

  今のポイントが一番大事なところで、そういう新しいものが出てきたときにどう取り上げていくか。実績主義であればシニアが勝つに決まっている。しかし、それでは未来は開けないというのが皆さんの共通の意見で、どうやってそこにファンドするかということを皆さん指摘している。

【委員、科学官】

  企業が今、戦略的にとっていることは、選択と集中という強いところを徹底的に強くする、弱いところはむしろ捨てていく、あるいは提携する中で入れていくということである。また、グローバリゼーション時代の中で、コンペティションという意味の競争ではなく、協力の「協」に創造の「創」という協創の時代ということで、ともに創っていくパートナーを求めるということを積極的に行っている。先ほどせっかくの日本の技術が生かされず国益上あまりよくないというニュアンスの意見があったが、そのとおりだと思う。
  重点4分野は分かるが、一体世界の中で、これがどういう位置づけにあるのかということが、民間企業の研究者、一般国民も含めてあまり理解されていない。世界の中で、日本の置かれている立場が、この4分野においてどういう位置づけにあるのか、どういうところが足りないのか、あるいは要素技術でこういうところがまだ遅れているなど、彼我の差というものを出していく必要があるのではないか。
  企業にとって外国の技術を入れる、あるいは完成品を入れるかどうかは、企業の利益の追求ということからすれば、それが抑えられるかどうかは大変難しいところがある。どうしてもこの分野のこの技術は日本のものを使ってほしいとか、このぐらい待ったらこういうものが完成するので、それまで何とか待ってほしいなど、国益を考えたR&D、商品開発を企業が気にしながらやる世界をつくり上げることが重要ではないか。重点4分野というのはまさにこれからの日本にとって重要な分野であると思うが、そのあたりの実態が分からない。

【委員、科学官】

  重点分野論で一番危惧している点は、競争的資金という形で、思いつきのようなものに配分するという感じを受けることである。さまざまな重点的な研究を極めて創造的な研究という視点を持つ先生方が選べば、先端性が必要なものについてはそれを推してくれるというような配慮があって、バランスもよく極めて効果があったのではないか。
  ところが、ここで言う重点研究は、出口が持続的な経済発展のためであり、研究のプロが研究を見ないと目線が下がってしまって、本当に何をやっているかわからない。重点配分をうまく使って、殖産興業にいわゆる創造的な基礎研究、目的達成型でない、問題発見型の研究まですべて言いくるめてやっていこうとしているところが非常に心配である。
  ファンディングシステムは研究者の目でやるべきものであり、そのシステムを作るというのが一番大事なポイントではないか。基礎生物学をやっている者にとっては、産業は全く関係ない。キーワードとして競争的研究費が声高に言われているようだが、こういうときこそ基盤的研究費をもう一度キーワードとして本当に落ちついて言うべきではないか。

【委員、科学官】

  科学技術基本計画の重点化について、科学技術分野と学術分野では資源配分の仕方が違うのではないか。端的に言うと、大学関係へのお金の流れ方と国研へのお金の流れ方がそれぞれ違うが、研究内容はほとんど同じようなものをやっている。基本計画で取り上げている科学技術・学術のファンディングの仕組みがすべてこの重点化領域について考えられているものなのか、疑問に思う。
  簡単に言うと、例えばライフサイエンスの場合、非常に大きなお金が理化学研究所を通して流れていくという仕組みと、大学がボトムアップで要求していく仕組みの両方があるときに、その整合性はどうとられているのか。

【事務局】

  例えば理化学研究所でライフサイエンスをやっている分は、かなり集中的にリソースを投入してスピードを持ってやってきたが、これにある種の整合性があるかと問われるとなかなか答えにくいが、研究の進め方としては、いろいろな広い意味でのファンディングがあり、これが一番適した方法ではないか。
  基本計画を科学技術と学術に分けた言い方をされたが、科学技術庁と文部省が統合された文部科学省のファンディングシステムになるので、指摘された意味での整合性に配慮して、重複がないようにしなければならないし、そこはまさに科学技術・学術審議会で議論いただきながら、方向を整理していくべきではないか。

【事務局】

  この「予算、人材等の資源配分の方針」の考え方は、いわゆる縦割りのこれまでの科学技術、学術行政を廃し、政府として内閣のもとに統一的な行政をやっていくというのが基本的な考え方である。従って、この資源配分方針における4分野の重点化、戦略は、単に科学技術とその他の分野に分けて、科学技術にのみ適用されるのではなく、すべての学問がこの方針のもとに行われるということである。例えば学術の分野でこれが大事だという考えがある場合、それをどう生かすかという際に非常に難しいのは、基礎研究をどのようにして具体的に充実していくのか基本計画には書かれていないということである。重点分野の拡充、システムの改革、産学連携等々については具体的に資源配分が傾斜されるという方向性が打ち出されている一方で、学術的に重要であるとお示しいただいた分野に資金投入ができるかどうかということは、ここに書かれていなければ、文部科学省固有の課題としてそれを求めていかなければならないという、非常に難しい宿題を背負っている。そのような意味で、文部科学省は、学術の重要性あるいは学術的な基礎研究の重要性をできるだけ外に見える形になるよう努力をしているところである。

【委員、科学官】

  最近の科学研究費の配分方法には満足しており、大体いい方向に向かっているのではないかと思う。
  ただ、社会科学で国家的なテーマを考えてみると、例えばこれだけバブルで徹底的に痛めつけられながら、金融という問題について、制度論的に徹底的な取り組みがなされてないのは、非常に問題だと思う。経済学の研究にあれだけ資金が投じられながら、現象論的なものへの対応に流されてしまい、実際に問題が起こったときには何ら役に立たなかった。そういう意味では制度論的な意味で、金融論をやらなければいけない。社会科学分野における大きな重点的なテーマをどう決めるかというのは非常に難しいと思うが、科学研究費補助金の配分の方法と今後の取り組みの方向性については、今の方向でよいのではないか。

5.今後の日程

  次回の基本問題特別委員会(第3回)は、当初7月24日に開催する予定であったが、会議を学術分科会(第3回)に変更し、本特別委員会の次回の日程については、改めて委員の日程を調整の上、事務局より連絡することとされた。

(研究振興局振興企画課)

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