第4期研究費部会(第7回) 議事要旨

1.日時

平成19年9月28日(金曜日) 13時30分~15時30分

2.場所

KKRホテル東京 11階 孔雀

3.出席者

委員

 平野部会長、井上(孝)委員、笹月委員、鈴木委員、中西委員、深見委員、三宅委員、石委員、井上(明)委員、井上(一)委員、甲斐委員、小原委員、垣生委員、池尾委員

文部科学省

 伊藤振興企画課長、大竹基礎基盤研究課長、磯谷学術研究助成課長、渡邊日本学術振興会研究事業部長 ほか関係官

4.議事要旨

(1)平成20年度概算要求等について

 事務局から資料2「平成20年度概算要求について」、資料3「科学研究費補助金において当面講ずべき施策の方向性について(研究費部会『審議のまとめ(その1)』)」に基づいて説明の後、質疑応答があった。

【小原委員】
 まず、更なる予算の増額について頑張っていただきたいと思うが、マスキングの試行などについては研究費部会において随分と議論があり、おそらく、ネガティブな意見のほうが多かったのではないか。予算要求ということである程度はっきりと書かなければならなかったのかもしれないが、「本まとめ」の記述には研究費部会での議論が少し反映されていないような気がする。また、「特定領域研究」の規模に関して、今後議論すると伺っているが、これまでの研究費部会における議論よりも少し踏み込んだ記述となっている点についても確認したい。

【磯谷学術研究助成課長】
 本部会における議論の中でもご紹介したように、総合科学技術会議など様々な方面からマスキングを試行せよとの提言があった。科研費においても、あくまでも試行として、チャレンジングな課題提案について2段階審査を行う際の事前審査においてマスキングを試行してみようと考えている。具体的な方法については、現在、学術調査官の先生方とも相談をしており、本部会でご提案いただいたように、科学研究費補助金審査部会の方で検討していただきたいと思っている。

【垣生委員】
 「新学術領域研究」の課題提案型の研究費規模については、1課題当たり年間1,000万円程度というのはやや少ないのではないか。対象は、研究者個人と書いてあるが、課題提案型は対象となる研究者が複数の場合もあると理解しており、そのためには少し額が少な過ぎるのではないかと思う。

【磯谷学術研究助成課長】
 本部会においても様々な議論をいただいた。「新学術領域研究」の課題提案型は、あくまで従来の「基盤研究」の対象となりにくい新興・融合領域の課題をこれまでと異なる審査方式で採択したいという思想であり、研究費規模については3,000万円あるいは4,000万円程度必要ではないかという議論もあったが、大型の研究費を必要とするものについては「基盤研究(S)」の対象となると考えたため、「新学術領域研究」の課題提案型研究の研究費規模は1,000万円程度と考えている。もちろん2,000万円近いものを100パーセント排除するということではないが、この点については、具体的な審査方法も含め、現在、学術調査官も含めた検討を行っており、科学研究費補助金審査部会においてご検討いただきたいと思っている。

【中西委員】
 科研費の増額要求は非常にありがたい。基礎研究を支える唯一の研究費だと思うので、ぜひ頑張っていただきたい。その上で、新設する「新学術領域研究」について伺いたい。これまでも「学術創成研究費」があり、推薦された研究の中から選ぶという半分トップダウン的な要素があったが、それを廃止することについて、マイナス面などの議論があったのか。

【磯谷学術研究助成課長】
 それについても本部会において様々な意見をいただいた。トップダウン方式を否定するわけではないが、科研費の特色としてボトムアップ方式に焦点を絞り、整理をさせていただいた。

【三宅委員】
 「基盤研究(S)」の採択率増加については希望が持てるところだと思うが、先ほどのお話にあった、研究費規模の大きなものについては「基盤研究(S)」での応募とする、という点と、資料2の「優れた学術研究をシームレスに発展させるため、「基盤研究(S)」を充実」におけるシームレスの意味については、採択率を2倍にしてこれまで採択されなかった課題も広く採択できるようにしていくというよりは、比較的実績のある研究を採択できるようにしていくということでとらえてよいのか。

【磯谷学術研究助成課長】
 このシームレスの意味はまさにご指摘のとおりであり、一般的に「基盤研究」(C)(B)(A)(S)、「特別推進研究」と研究が発展していく中で、「特別推進研究」と「基盤研究(S)」との間にあるギャップを埋めていくことの必要性については、これまでも本費部会で議論があった。今回、「基盤研究(S)」の金額を引き上げることにより、「学術創成研究費」に応募されていた年額7,000万円程度の研究も「基盤研究(S)」の対象とすることにより、先ほど申し上げた「基盤研究」(C)(B)(A)(S)、「特別推進研究」というシームレスな支援が行われるのではないかと考えている。
 また、チャレンジングな内容のものについては、いきなり6,000万円、7,000万円という研究費規模ではなく、新興・融合領域に踏み出すような提案ということで年額1,000万円程度の設定としている。

【平野部会長】
 良い形で予算が認められるよう、事務局を中心に努力をお願いしたい。

(2)今後、検討を進める事項について

 事務局から資料4-1「今後、検討を進める事項について(論点メモ)」、資料4-2「今後、検討を進める事項について(参考データ)」に基づいて説明の後、意見交換があった。

【平野部会長】
 資料4-1の1、2、3についてそれぞれ自由にご意見をいただきたい。
 まず、1番目の「研究分野の特性に応じた助成の在り方」についてご意見を伺いたい。

【井上(明)委員】
 人文・社会科学への助成については、今回、「基盤研究(C)」の充実が考えられているが、最近の人文・社会科学に対する助成の傾向として、文理融合的なものも積極的に取り上げていこうとする傾向にあり、それらについては、理学系の研究と同様に、多くの研究費が必要とされるということを聞いているが、それらの研究に対する助成を今後、どのように考えていくのか。
 例えば、脳科学とその認知において、MRI等で検証しようとすると、かなり高額な経費がかかるが、そのようなことが、新しい人文・社会科学において求められている。この場合、研究の切口により様々な応募方法が考えられると思うが、人文学・社会科学の研究振興のため、少し先取りする形の提案方法があってもよいのではないか。

【磯谷学術研究助成課長】
 先ほど、「新学術領域研究」の課題提案型について、1,000万円ではやや少ないというお話があったが、この研究種目では、これまでの「基盤研究」とは異なる審査方法をとるため、人文・社会科学と他の分野の融合という研究計画という形での応募も受け付ける。また、領域提案型についても、人文・社会科学と他の領域との連携も含めて対象とするため、こちらへの応募も可能である。

【中西委員】
 今後、複合領域が大切になってくる中で、ビッグサイズだけではなく、規模の小さい研究でも複合を目指したものが出てくると思う。その際、実際に科研費を応募するに当たっては分科細目に従って審査領域を選ぶことになるが、一方で分科細目をどのようにするかという議論も盛んに行われており、その議論との関連はどのように考えていくべきとお考えか。

【平野部会長】
 大変重要な問題であり、本部会でも議論していく必要がある。融合や複合の研究については、審査も大変だと思うが、どのような枠で審査を行うかは重要な問題だと思う。その点について何かご意見があれば伺いたい。

【鈴木委員】
 サイエンスやいろんな技術が進んでいく中で、人間自身がついていけていない状況にある。融合研究や新しい分野への助成も結構だが、昔ながらの「古い人文学・社会科学」への助成も考えていく必要がある。

【平野部会長】
 人文学・社会学の分野では、対象領域が絞られてくると、元来きちんと研究が続けられていなければならない、文化を含めた学術の部分が希薄になりがちである。これは基盤研究費が減少する中で、どこかできちんとサポートもしなければならないということが背景にあると理解している。

【井上(一)委員】
 「いわゆるビックサイエンスの基礎段階における助成」と「研究の基礎となる機器・装置の開発に係る助成」について、我々が行っている宇宙空間を利用した学術研究にはこれと大きく関わる問題点がある。最終的には宇宙空間を利用して初めて目的を実現できるようなサイエンスの分野では、そのために相当の設備・施設が必要になる。この部分はJAXA(ジャクサ)のような機関が用意しなければならないと思うが、その場合、JAXA(ジャクサ)の施設を使って行う萌芽的な段階の研究に対して様々なものを用意する、あるいは地上で模擬試験的なことを行うことに対して共同利用のものを用意する場合には、もっと目的を絞ったもので予算要求をするように言われてしまうために、十分な費用を回せない。
 一方、最終的には宇宙空間を利用したJAXA(ジャクサ)が用意すべきものを使って初めてサイエンスの大きな目標が実現できる研究分野では、科研費レベルでは装置の開発段階にとどまるということにならざるを得ない部分があり、一つの科研費提案の中で、目的をサイエンスの結果の部分まで閉じた形で提示することが非常に難しい。そのため、ビッグサイエンスの基礎段階における助成という意味で、研究の基礎となる機器・装置の開発に係る部分を助成していただくことは非常にありがたいと思う。
 また、ビッグサイエンスの研究には時間がかかる。1回の実験のサイクルが短い研究分野の場合は、一つの科研費提案の中で失敗も吸収できるようなサイクルで回せるが、我々が行っているようなビッグサイエンスの分野では、1回のサイクルに数年かかり、失敗すると、成果が出せなくて、次につなげられなくなってしまうという部分がどうしてもあるので、タイムスケールという点についても配慮いただけるとありがたい。

【笹月委員】
 科研費で世界に冠たる成果を生むというのが最終的なゴールの1つだと思うが、ブレークスルーに何が必要か考えると、新しい機器あるいは装置の開発や、テクノロジーの発明、開発が非常に重要だと思う。今後の検討事項の一つに「機器・装置の開発に係る助成」があげられているのは結構だと思うが、助成を受けて研究を行うとしても、我が国にはそうした研究を行える人材が不足している。欧米と我が国で何が違うのかについての調査研究が必要であり、戦略的な人材育成を考えていく必要がある。

【小原委員】
 生命科学は、かなり時間がかかる上に幅広く、一旦途切れると難しいことから、まさに融合研究が必要だった。ゲノムの場合は、コンピューターとケミストリーとバイオロジーが融合して初めてできたもので、コンピューターのCPUの発展とほぼ同時になっているという面があり、そういう意味でもともと融合的なものだった。
 我が国でそのような研究を推進する際には、「特定領域研究」のように、少し支援規模を大きくして、良い分野を閉じ込める場が必要ではないかと思う。先ほど笹月委員が言われたように、機器開発が非常に重要だが、我が国でも、例えばイメージングなど、顕微鏡的なものは非常に良いものを持っており、そうした芽はたくさんある。しかし、デファクトスタンダードにならないと世界制覇できないという点で、市場が小さいため、日本発の機器開発は難しいところがある。ただ、様々な要素は既にあるため、学問の発展として実際の研究現場と一緒になってやっていくという体制が必要である。そういう場をどのような形で提供するか、あるいは研究者自身で考えていくかということは非常に重要で、科研費はその中で非常に重要の位置付けにある。
 アメリカはNIHという形で、生命科学、あるいは健康科学で1つの領域をつくっている。日本は文部科学省、厚生労働省に分かれてしまって、うまく機能していない面があるが、科研費で横断的にその一端を担うことができれば、重要な役割を果たすことができるということも訴えておきたい。
 生命科学の研究は、かなりの時間がかかる上に、対象が幅広く、実験の継続性が必要不可欠である。「細く長く」研究を行う、ということについては、生物系では、「細く」されると研究ができなくなってしまうことがある。生物系の研究は、他の分野と違い、実験動物の飼育などのランニングコストが必ずかかる。分野の特性に配慮した制度設計をお願いしたい。

【平野部会長】
 私個人としては科研費がこれまで貢献してきた重要さに加えて、後にあるように他省庁との関連も見ておく必要があると思う。一方的な判断でバイオ関係、生命関係だけにお金がいっているのではないかという印象があることも確かであり、科研費での重要度と他省庁との関連については今後議論になると思っている。

【甲斐委員】
 機器・装置の開発については、民間企業が研究者と協力して機器開発等を行う、JSTの「革新技術開発研究事業」がある。理工系はともかく、生物系でこうした機器開発を行うには民間企業の共同作業が不可欠である。電子顕微鏡にタグをつけて生物をより見やすくしたものをコンピューターの会社と顕微鏡の会社と一緒にシミュレーションしたいというような基礎研究は進んでいるが、確かにそういう研究を出すような領域は科研費にはないし、企業と一緒になっての研究費というのは、科研費になじまない。既にある「革新技術開発研究事業」に大学研究者のための枠を作ればよいのではないか。

【平野部会長】
 次に、「研究費の『不合理な重複・過度の集中』を避けるための方策」についてご意見を伺いたい。

【垣生委員】
 不合理な重複の原因の一つは、科研費による助成額の不十分さと研究資金の断絶に対する研究者の懸念にある。例えば、間接経費については、年度内執行に限らず、優れた研究であったにも関わらず不採択となった研究者のための支援に活用することはできないか。

【磯谷学術研究助成課長】
 直接経費の中でプールして、年度をまたがって別のものに使うということになると、年度もまたがっている上に目的外使用であり、不可能である。

【石委員】
 不合理な重複等の問題をどうクリアするか、また第三者的に見て研究費が特定の研究者に集中し、物理的に交付を受けた金額に見合う研究ができないのではないかということが研究費の不正使用等と絡んで社会的に非常に問題となっている。
 この問題についての解決策を考えるとしても、「不合理」や「重複」の定義が難しく、どのように事実関係をとらえるかが非常に難しいが、それをとらえないことには、解決にならない。
 研究資金は国や民間から供給されるが、供給サイドからいくら追求しても、なかなか全てを把握できない。受け手の自己申請に基づいた方策をちゃんと取り入れる必要がある。そうした個人情報を開示させるところまで本部会で議論するか否かが決め手だと思うが、そこまでやらないとこの問題は解決しない。例えば、個人研究費申請カードのようなものを作る、あるいは、研究者番号で把握するなど客観的な手段を考える必要があると思う

【平野部会長】
 研究者番号をもとにして、他省庁にもまたがっているデータを整理するのが「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」であり、このシステムの活用方策が論点の1つである。

【石委員】
 e-Radは、全ての研究費の情報を集約してまとめられるのか。具体的な内容を知りたい。

【長澤企画室長補佐】
 e-Radについては、現在、システム開発中であり、来年1月から稼働する予定になっている。システムの中に各制度で持っている情報を投入していき、最終的には、例えば研究者番号で調べれば、その人が競争的資金だけではなく、プロジェクト的な経費も含めて何をもらっているのか全部把握できるようなシステムとする予定になっている。

【石委員】
 システムをつくるのは簡単だが、情報登録の仕方が問題である。社会保険庁が批判を受けるのも、システムがあっても、情報登録の際に漢字の間違いや番号の入力ミスがあったからである。個々人の研究者にどれだけの情報を提供するかが決め手となるが、それはどのように考えているのか。

【長澤企画室長補佐】
 競争的資金については、全てのそのシステムを通じて採択を決めるという形になるため自動的に入力されるが、プロジェクト型の経費については配分機関の側で入力する形になる

【石委員】
 民間による研究助成との重複が一番問題である。

【池尾委員】
 研究者が研究資金の断絶に対する懸念から多くの研究費に応募し、結果として複数採択された場合も「不合理な重複」となる可能性がある。これを解決する最善の方法は、採択率の向上である。

【平野部会長】
 この部分は大変重要である。自身の経験からも、研究を進めるにあたって研究費が途切れることには不安がある。例えば、新たに複数の課題を応募する場合に、エフォートの記載を行うことになるが、結果として双方の課題とも採択されないおそれもあり、エフォートの書きようがない。学長裁量経費等で特定の研究者だけ支援するわけにもいかず、悩ましい問題である。

【鈴木委員】
 「不合理な重複」や「過度の集中」については、審査・評価がきちんと行われていれば、ある程度は防止できると思う。審査関係者の負担は大きくなるかも知れないが、他府省の制度の審査を終えた7、8月時点で再度審査を行えば、ある程度「不合理な重複」や「過度の集中」を排除できるのではないか。
 また、中間評価等を通じて、複数制度で同じような内容の研究を行っているような場合は一方の研究の打ち切りを行うことも有効ではないか。

【甲斐委員】
 今の鈴木委員の意見は大変良い意見だと思う。「不合理な重複」や「過度の集中」については、研究者自身に研究計画の内容を確認しなければ、本当のところはわからない。必要以上に厳格な対応を行うことは却って我が国の研究水準を下げる恐れがある。
 関係府省の中でも文部科学省は特に厳格な対応を行っているようであるが、それによって優れた研究がみんな他府省の制度に移行してしまうようなことも起こってくるのではないか。
 また、「基盤研究(S)」の大型化について伺いたいが、「基盤研究(S)」の応募制限はどのようになるのか。「学術創成研究費」は重複応募ができたと思うが今回、これが変わって「基盤研究(S)」が大型化された。これまでの「基盤研究(S)」では、他の「基盤研究(A)」などには同時に応募できたが、どのようになるのか。

【長澤企画室長補佐】
 今後、改めて検討していくことになる。

【甲斐委員】
 研究の継続性を確保する一つの手段として、「研究計画最終年度前年度の応募」を可能とするシステムは有効である。このシステムの対象を拡大することにより、「不合理な重複」や「過度の集中」の排除につながるのではないか。
 また、科研費制度内における重複応募の仕組みを弾力的に運用すれば、何らかのよい変化が見られるのではないか。

【磯谷学術研究助成課長】
 同様の問題意識を我々も持っており、科研費の中での重複の在り方と他の競争的資金との関係を検討する必要があるが、科研費ではいろいろ制度改革をしているので、まずは科研費の中での重複の在り方の整理を行い、その後、他の競争的資金との関係を考えたい。
 また、石委員が言われたように、各研究者による応募状況の透明性を確保することは大変重要だと思っているが、どのように透明化するのかと言うことと、どのようなチェックを行うかというのは別の問題であり、その点については、鈴木委員ご発言の審査・評価についてのアプローチの問題であると考えている。

【平野部会長】
 科研費の審査はきちんと行われているという評価であるが、鈴木委員が指摘されたように、中間評価等で重複のチェックをすることも含めた上で、成果と予算という観点から評価の在り方を見直していくことも必要ではないか。
 また、研究費の断絶という危機感を持っている研究者に対し、新たな応募ができなくならないような仕組みの構築について、今後議論をしていきたい。また、エフォートの定義についても考えていく必要がある。
 これらの重要問題については、今後も引き続き議論することとし、3番目の「科研費における評価の充実、及び評価結果を踏まえた支援の在り方」についてご意見を伺いたい。

【笹月委員】
 「国際的な評価に堪える審査システム」とあり、具体的には英語表記などと書かれているが、これは表面的なことであり、評価の基準、指標をきちんと考えることが最も大事である。我が国の評価では、これまでの論文リストについ目がいってしまう傾向がある。以前にNIHの研究者と議論した際には、「研究の準備状況」を最重要視するとのことであった。
 欧米ではどのような基準を最重視しているかなどの調査を行えば、何かしら参考となる情報が得られるのではないか。

【平野部会長】
 マスキング審査の話が経済財政諮問会議等様々な方面から出ているが、マスキング審査といっても、名前や所属が伏せてあるだけではあまり意味がなく、研究計画を見れば誰からの応募であるかわかるので、どのようなシステムでマスキング審査を行うかということを含めて検討しなければならない。
 審査結果のフィードバックの在り方についてもご意見があれば伺いたい。

【三宅委員】
 審査員を誰がどこで決めるかということがかなり難しいのは、特に人文社会から学際領域をずっと経験してくるとわかるが、部会長が言われたように、内容を見ればどこの誰で、どの位の国際的な評価を得ているかがわかるものとそうでないものが、自分が評価を担当するものの中に混在しおり、自身の専門外であるから評価しないということができないようなシステムになっている。
 また、海外から突然、研究内容についてPDFで申請書が送られ、評価を求められるということが増えてきている。そのようなことが国際的に増えているのであれば、国際的な観点から「評価する側の体制」をどのように強化していくかについても、検討する必要があるのではないか。

【垣生委員】
 科研費自体が外国からの応募を認めていない中で、外国人の評価者を入れるということは、事務局の負担も増えるであろうし、少なくとも生物系の研究では、審査員が国内の研究者だけでも不足は無いと思うので、現時点で科研費審査の国際化の必要性を感じない。

【井上(孝)委員】
 研究費の「不合理な重複・過度の集中」の問題について、これまでも本部会で議論してきたが、科研費における重複応募については研究計画調書に他の研究費への応募状況を研究者に記載させており、審査段階できちんとスクリーニングしているとの説明があったと記憶している。他の競争的資金との重複については、府省共通研究開発管理システムが稼動した後、他府省とも協議しながら、その活用方策をさらに検討していく必要がある。もちろん審査段階で他省庁への応募状況が明記されていれば、先ほど鈴木委員が言われたように、審査が終わった段階での第2段階の審査や、中間評価でもう1度その必要性について検討するというシステムづくりも必要であろうし、実際の府省共通研究開発管理システムの有効性については、稼働後、他省庁とも十分協議しながら、その活用方策をさらに検討していく必要がある。
 また、3年ほど前の本部会で、審査員の任用資格等について、当時は学術会議からの推薦その他で審査員の3割ぐらいは科研費をもらっていない人がいたため、果たしてそれが信頼される審査の在り方かどうか議論になった。現在では科研費を受け、登録された者が審査員になっているので、審査員自体の信頼度は高まっており、信頼の置ける審査体制を今後も確立するよう努力していく必要があると思う。
 審査システムの国際化については、科研費はあくまで国内の研究者を対象としているということもあり、全ての分野ではなく、国際的な通用性が求められる分野に限っての対応とするなど、その対象等について今後慎重に検討していく必要があるのではないか。また、審査結果のフィードバックについては、これまでも研究種目の特性や応募数に応じた審査結果の開示が行われてきているが、全体の8割弱の不採択課題に対して、どこが不十分で採択に至らなかったということも含めた審査結果の開示を行うことは審査に携わる者に対して非常に大きな負担を強いることになる。どの程度のアカウンタビリティを発揮するのかということについては、科学研究費補助金審査部会の方で十分議論していただく必要があるのではないか。

【中西委員】
 間接経費が3割となると、多額の助成を受ける研究者がいる研究機関にとってはかなりの額になる。間接経費の制度ができてから数年が経過しているので、どのように使われているか、本当に研究者のサポートになっているかということも含めて、様々な使い方を提示する方向があっても良いのではないか。例えば、若手研究者が新しく研究を始める場合に、研究室の机や椅子、実験台などは当然科研費では賄えないため、間接経費が頼りになる。間接経費がどのように使われているかについての調査結果があれば教えていただきたい。

【磯谷学術研究助成課長】
 間接経費の使用状況については、毎年、研究機関から提出していただくことになっており、把握はしている。ただ、どのような試みがあるかについては整理してお示ししたことは恐らくないため、どのような形でお示しできるかについては検討させていただきたい。

【平野部会長】
 ある程度整理してこの場に出していただければ、各大学も参考になると思う。

【鈴木委員】
 「審査システムの国際性等の観点からの高度化」とあるが、これはこれで結構だと思うが、もう1点、評価の文化の観点からの高度化が必要ではないか。日本人の場合、評価をすることに対して単なる時間の浪費だと考えている先生方が多い。欧米の場合は、年1回の自己レビューのときに、自分がどのような評価に携わったかを申告すれば、それが給与に反映されるなどの自身のステータスアップにつながる仕組みが確立している。しかし、我が国では同様のシステムが全くない。もう少し我が国の研究者が評価というものに対して真剣に取り組むというシステムを確立しなければ、評価作業は単なる時間の浪費となり、きちんとした評価はできないと思うので、そうしたことについても検討課題としてはどうか。

【平野部会長】
 大変重要な指摘である。各大学は、研究評価とは別に機関評価や法人評価を行わなければならず、担当者をどのようにケアして、納得してもらうかというのは大変なことであるが、こうした研究費の評価も当然重要だと思う。海外の大学では、昇進などのテニュアになる場合でも、色々な先生方に評価の依頼がくる時代になっており、こうした重要かつ時間もかかるようなものについてどう評価するかという体制も必要だと思う。

【井上(一)委員】
 審査の国際化という意味で国際的な評価という観点を入れることとは別に、国内に来ている外国人の研究者は科研費に応募できることになっているのか。

【磯谷学術研究助成課長】
 国内の研究機関に所属している外国の研究者も英語で応募できる。

【井上(一)委員】
 英語の公募要領もあるということか。

【袖山企画室長】
 英語版の公募要領はないが、応募を英語ですることはできる。

【甲斐委員】
 「審査員自体の評価を含めた、毎年度の審査結果の検証を行うべきではないか」とあるが、日本学術振興会の学術システム研究センターで、既にそうした取組を行っている。その方法について研究費部会でも意見をまとめ、日本学術振興会に投げかけることができるということか。

【袖山企画室長】
 資料4-2において、現在、日本学術振興会で行っている審査結果の検証について記載している。学術システム研究センターにおいて、審査結果の検証を資料にあるような着目点で実施しているが、こうした現状の事例を踏まえ、さらにどのようなシステム、仕組みで行うのが良いかご検討いただきたいと考えている。

【甲斐委員】
 この点については、昨年までの取組をお話して、皆様方がどう考えるか意見を出していただき、日本学術振興会に投げかけると良いのではないか。
 実際に、学術システム研究センターで専門研究員を多く採用するようになった結果、かなり細かい部分までのチェックが可能となっている。審査が終わった後の審査記入票は学術システム研究センターの専門研究員が全部見て、審査記入票に著しく変なところがあった場合にはその系の委員会で発表する。著しくひどい例は主任研究員が全体の総会に報告するが、その後の対応は特に行われていない。審査員の評価には、いろいろと難しい問題がある。そのようなことも含めて日本学術振興会では議論しており、現在は試行の段階である。良いご意見があればこの場で挙げて、日本学術振興会に提案するのは良いことかと思う。

【渡邊研究事業部長】
 甲斐委員と同じ件で補足させていただくと、審査員は約4,000人おり、普通は2年で交代するという考え方で行っている。甲斐委員からも話のあったように、審査記入票は研究員が全部チェックをしており、例えば1から5までで評定をつけるよう依頼しても、偏った評定ばかりつける、あるいは審査意見が非常に少ないような審査委員については検証して2年目は依頼しないようにしている。ただし、ペナルティを科したり、問題があったため2年目は依頼しない旨を本人に通知したりすることまではしていない。

【三宅委員】
 審査の電子化が進んでくると、審査員の評価値の客観分析が可能となるかもしれない。学会やジャーナルの審査の場合には、平均的な評価値と、各審査員の評価値が瞬時に返ってくるようなシステムについて導入している例はあると思うので、そうした取組により審査員が少し努力するようになるかもしれない。

【小原委員】
 審査を多人数で行っていると、分野によって評定が分かれることがあるが、そうした場合は専門家の意見を聞くなど、再評価のための勉強をすることもある。ただ、各審査員の評価が全体と比べてどうかと言うことが瞬時にはわからない方がいいこともあるのではないか。特に融合研究がこれから問題になってくると、あえて推すという審査員を育てておかなければ、独創的な研究が採択に至らない結果になることもある。

【磯谷学術研究助成課長】
 科研費について、現時点では外国人の審査員を入れることは特に必要ないのではないかとの指摘があったが、例えば「特別推進研究」のような国際的に評価の高い課題を審査・採択する研究種目において、国籍に拘らず非常に優れた研究者や見識を持った方に意見を聞いてもらうために英語で研究計画調書を書くということも含めて必要ないとお考えなのか確認したい。例えばライフサイエンスなど、日本が世界に冠たるものであれば、むしろそういうことをすることによって、さらに評価が高まるのではないか。

【垣生委員】
 提出された内容を自分が把握したい範囲で聞く限りにおいては、あまり問題にならないのではないかと考えている。

【三宅委員】
 どの事項で検討いただくのが適当かわからないが、比較的少額の研究種目や学際領域的な研究を行っている研究者の方の研究計画は、評価側から見ると明らかに採択に至らないような書き方がされているものもある。科研費制度についての説明は各大学を回ってしていただけると聞いているが、そういう研究者を対象に対してもう少しきめの細かいケアをしていただく必要があるのではないか。
 「重複応募となる組合せ」から「エフォートとは何か」というところまで、十分な理解のないまま、応募しているケースも少なからずあると思う。どの分科細目での審査を希望すればよいか、自分がやりたい研究をどの研究種目で応募すればよいか、などについてはどこで相談できるのかもわからないまま応募している研究者もいると思う。小さな大学では、これまでに科研費を取った研究者が対応しているが、全く分野違いの場合もあるので、そうした研究者に対する恒常的なケアが必要ではないか。

(3)その他

 事務局から、資料5「当面の審議日程について(案)」に基づき、次回の研究費部会は10月31日(水曜日)10時30分から開催予定である旨の説明があった。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課