第4期研究費部会(第3回) 議事要旨

1.日時

平成19年4月27日(金曜日) 13時~15時

2.場所

如水会館 3階 松風の間

3.出席者

委員

 平野部会長、井上(孝)委員、上野委員、笹月委員、鈴木委員、中西委員、深見委員、三宅委員、家委員、伊賀委員、石委員、小原委員、垣生委員、池尾委員、岡本委員

文部科学省

 磯谷学術研究助成課長、木村大型放射光施設利用推進室長ほか関係官

4.議事要旨

(1)戦略的創造研究推進事業について

 木村大型放射光施設利用推進室長から資料3「戦略的創造研究推進事業について」に基づいて説明の後、質疑応答があった。

【小原委員】
 この事業における戦略目標は、かなり幅広いものであると思うが、文部科学省のどの部署で定めているのか。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 JSTの中にある研究開発センターの調査結果等を参考として、関係課より戦略目標を募り、当方にて議論を重ね選定する。
 その後、科学技術・学術審議会計画・評価分科会に諮り、その結果を踏まえてJSTに提示することとしている。

【伊賀委員】
 小原委員と同じ趣旨の質問だが、2ページ目に、「本事業の概要・特徴」の1に「国が定める」とあるが、この点がJSTの事業の最も大事なところで、テーマ決定の仕組みを一般に判るように文部科学省は明らかにしているのか。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 スキームとしては、戦略目標をJSTに提示し、CREST、さきがけの場合はJSTがその目標に基づいて研究領域あるいは研究領域の責任を持つ研究総括を選ぶこととしている。

【伊賀委員】
 日本学術会議、総合科学技術会議の提言や各省庁の担当課、審議会等からの提案がどこでどのように集約・決定され、最終的にJSTに提示されるのか、それが判るようになっているのか、伺いたい。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 この事業の説明として、文部科学省のホームページやJSTのパンフレット等に掲載している。

【伊賀委員】
 戦略目標を「国が定める」仕組みが一般には分かりづらいのではと考え、質問した。分かりやすくする努力をしていただきたいという希望も込めている。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 了解した。戦略目標は国で考えているが、その状況がわかるように努めていきたい。

【笹月委員】
 ある分野に関して戦略目標を決める際、各課がどういう人材を集めて行うのか、各担当課における決め方が最も重要と考える。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 決定する際の手続、あるいは考え方については、各分野の担当課にゆだねている。課によって、内部で委員会を作る、あるいは科学技術・学術審議会の下のワーキンググループで結論を得る等しているが、統一的に議論の手続きが決まっているわけではない。

【垣生委員】
 昨今、若手の研究者の奨励、あるいは独立が非常に強く言われているが、13ページの棒グラフを見ると、多くの若手が属すると思われるさきがけ型が徐々に減少してきているように思う。さきがけ型、CREST型、ERATO型は、どのような基準で配分割合が決められているのか。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 現在、この事業については、さきがけ型も含め、若手を特に対象とした制度となっていない。ただ、さきがけ型は個人研究を公募する制度であるため、実際に比較的年齢の若い方が応募しているという状況である。
 戦略目標に基づく、CRESTおよびさきがけの研究領域については、JSTの判断や各担当課の意向、予算の状況により、毎年その数が変動する。例えば、12ページには、平成17年度から19年度における戦略目標と研究領域が記載されているが、最近はさきがけ型、CREST型とも5ないし3領域立てている。
 平成14年頃は、予算の伸びがあったため領域が比較的多く立ち、さきがけ型についても多くの募集がなされた。特に、さきがけ型は個人型研究であるため、1領域で平均して30名程度が採択される。13ページのグラフでは、1つ領域が増えると研究課題数が30増加するため、事業全体の課題数を見ると、さきがけ型は1つ領域が増えるだけで量が非常に増えたように見える。平成14年、15年はさきがけ型の研究領域を7領域程度と多く立てた年であったが、最近は4領域程度であるため若干減少しているように見える。

【鈴木委員】
 16ページの「研究成果データ」において、「分野別の1論文当たりの被引用回数」があるが、1981年にJSTの事業が始まって以来、約25年が経っている。資料には、全分野において日本平均の2.1倍とあるが、支援規模からして、これは当然の数字ではないかと考える。今後の事業に関して、成果データの見直しをどのように考えているのか、お聞かせ願いたい。

【木村大型放射光施設利用推進室長】
 成果の対外的説明の仕方は非常に難しいものと考えている。この戦略的創造研究推進事業は、単に論文数や論文の被引用回数が多くなればよいという制度ではなく、何らかのプラスアルファを求めるものである。昨今、イノベーション創出がうたわれていることを踏まえ、望ましい成果のあり方について検討が必要と考えている。
 ご指摘は非常にもっともであり、何か別な観点も考える必要があると思っている。

【平野部会長】
 科学技術全体の中で、競争的資金と一言で言っても様々な意味がある。戦略的創造研究推進事業は、その中でも重要な位置にあるものであり、科研費との関連等を含めて、科研費の立場で再度議論をする必要もあるだろう。競争的資金における科研費の位置づけを再確認する上で、戦略的創造研究推進事業は参考になると思う。

(2)学術研究における公的研究資金の在り方、及びその中での科研費の位置付け、意義に関して「中間まとめ」において確認すべき事項について

 事務局から資料2「第1回、第2回研究費部会における主な意見」、資料4「学術研究における公的研究資金の在り方、及びその中での科研費の位置付け、意義に関して『中間まとめ』において確認すべき事項について(案)」、参考1「第4期研究費部会において検討をお願いしたい事項」、参考2「『中間まとめ』に向けて検討をお願いしたい事項」、参考3「科学研究費補助金の基本的な性格、デュアルサポートシステムに関する主な提言、答申等」、参考4-1「平成19年4月17日 経済財政諮問会議(平成19年第8回)伊吹臨時議員提出資料(抄)」、参考4-2「平成19年4月17日 経済財政諮問会議(平成19年第8回)有識者議員提出資料」に基づいて説明の後、意見交換があった。

【平野部会長】
 基盤的経費と競争的資金の関係、さらに科研費とその他の競争的資金の意義、役割についてご議論いただきたい。

【家委員】
 デュアルサポートについてはこの部会でも常に議論しているところだが、基盤的経費に関しては、4月11日に国立大学協会から文部科学大臣宛てに要望書が提出されたと理解しているが、文部科学省はどのように受け止めているのか。

【磯谷学術研究助成課長】
 要望書は特に運営費交付金に関するものであるが、先ほど参考4-1でお示ししたとおり、文部科学省としては、基盤的経費を確実に措置した上で競争的資金の拡充が必要であると経済財政諮問会議に対して申し述べているところである。

【平野部会長】
 要望書について1点付け加えると、高等教育全般について、国公私含めた予算の総額をいかに増大できるか、現在、高等教育機関に対する公財政支出が対GDP比で0.5パーセントであり、他の先進国においては1パーセントに達しているため、その拡大についても努力が必要であることを述べている。

【石委員】
 資料4で、基盤的経費と競争的資金の関係についての方向性は示されているため、その説明の仕方を議論することが必要ということは理解する。デュアルサポートにおける新しい論点として、経済財政諮問会議において議論が出てきた運営費交付金の配分ルールに関しては、反論すべきと考えるが、客観的にルール化するのは難しい。基盤的経費にも競争原理を採用することが適当かどうか、という議論になるだろう。

【平野部会長】
 石委員の意見には基本的に賛成である。重要なのは、基盤的経費と競争的資金のあり方に加えて、高等教育予算の総枠に関する議論であり、その対応については、この部会からも発信をすべきと考える。個人的な意見であるが、中間まとめに加えたいと考える。教育再生会議あるいは経済財政諮問会議とは異なったスタンスで議論がなされているが、我々としてもしっかり対応する必要があると考える。高等教育全般についての総枠を上げる努力をすべきというメッセージは、1行でも入れられればと思う。

【石委員】
 資料4の3つ目あるいは先頭か。

【平野部会長】
 部会長が言うべきことではないが、できれば先頭に入れさせていただきたい。

【井上(孝)委員】
 研究費部会では従来デュアルサポートについて議論してきたが、基盤的経費である国立大学の運営費交付金あるいは私立大学の経常費が1パーセントずつ減額しているという現実があり、これによって研究環境が劣悪化しているという共通認識があると思う。このあたりで基盤的経費の減額に歯止めをかけ、効率化係数等についてどのような理由でやめるべきか、基盤的経費をいかに充実させるかという戦略を考える必要があると考える。
 国立大学協会や私学団体において、その理論武装や裏付けの資料の作成等の準備をされているものと思うが、研究費部会としては、基盤的経費の減額が研究環境を悪化しているという現実から、基盤的経費の減額の歯止め措置、あるいは増枠に転ずるような理由づけを明確にする必要がある。また、競争的資金については、参考4-1の1ページ目にある科研費の予算額の推移を見ると、平成17年度の第1期科学技術基本計画発足時の924億円が平成12年度は1,419億円と約500億円伸びたが、第2期科学技術基本計画で打ち出した科研費の倍増計画が達成できなかったという反省から、第3期科学技術基本計画策定時において平成12年度の1,419億円を倍増し、2,800億円程度に増やそうという共通認識があったにもかかわらず、実際には17年度以降ほとんど額が伸びていない。一方、国立大学の運営費交付金や私学助成が減額されたのに伴い、競争的資金の申請者数は増えており、第3期研究費部会から第4期研究費部会への申し送り事項でもある競争的資金の総額の拡充とともに採択率を30パーセントに引き上げるという全体の目標について、特に財政当局に対して説明する理由を再構築していく必要があると考える。全体の目標を掲げないことには総額も増えていかないと思うので、その戦略を部会において議論していただきたい。

【平野部会長】
 全体として非常に厳しい中にあることは確かであり、しっかりと理論武装をしなければならないと思っている。

【岡本委員】
 基盤的経費と競争的経費の一番大きな違いは、基盤的経費が国の方針で決まるのに対して、競争的資金は自由であることが大きな意義である。ところが、最近の競争的資金をめぐる議論では、ある意味で自由競争を除いてしまう方向で行われている。
 例えば、大学院への進学について、同じ大学の出身者の数を制限しようという議論がある。これは、行きたい大学を選択するという若手研究者の自由を逆に阻害してしまっている。
 私の具体的な提案として、競争的資金について、自由であるという理念を加えておく必要があると考える。今、挙げたような例を進めていくと、特に理工系の若手は日本の大学院に行かなくなってしまうのは明らかだ。自発性に基づく競争ということを今、強調しておく必要があるのではないか。

【平野部会長】
 メッセージとしては、高等教育に関わる総額をどのように拡充するかに触れ、その中で基盤的経費及び競争的資金の充実について言うことになるだろう。

【垣生委員】
 基盤的経費の減額については非常に危機感を持っているが、その増額のためには、具体的な数や状況を説明する必要があると思う。例えば、大学院生の数が減少したというようなデータを集めるのは困難なのか。

【平野部会長】
 私学協会や国立大学協会でデータを持っているだろう。また、例えば国立大学協会では21世紀における国立大学の役割に関して拡大委員会を開き、データに基づいて役割を示すことになっているので、データは出てくると思う。
 ただ、大学院生が減るというデータだけでは社会に対する説明が非常に難しい。例えば、アメリカ等の大学におけるデータを見ると、いかに社会に大学が貢献しているか、教育、人材育成、研究成果の還元だけでなく、雇用面でも大変貢献しているというデータが出ている。特に、研究費関係では、競争的資金で努力し、時間制限での雇用であるがかなりの人数を雇用しており、雇用促進にも役立っているとはっきり謳っている。このことは、日本の大学ではあまり謳われていない。
 大学が単に学術・文化の拠点だけではなく、いかに社会に役立つか、全体の予算を大学が消費してしまうのではないということを、地道に理論武装して示す必要がある。

【石委員】
 基盤的経費が年に1パーセントずつ減額されて3年経つ。あと3年間減額されようとしているが、少なくともこの3年間でどの大学で何が起こったかはケーススタディとして立証可能だと思う。1年目・2年目位は、それまで大学にも無駄遣いがあったため、何とか賄えていた様子もあると思うが、今後、おそらくどこの大学においても、本当に骨身にこたえることになるだろう。したがって、社会に対するメッセージとしては、今後の話は過去に減額された延長上にあるものではないと言わなければならない。また、3年経って、既に減額の影響があるところもあるだろうが、何となく大変だと言うだけで明確に伝わってきていない。国立大学協会などでは、各大学の実例を挙げて検討しているのではないか。1パーセントずつ減額される苦しみは今後加速化すると思われるため、最初の3年間だけでもこれだけの影響があったということを国立大学協会なり文科省なりで基礎データとしてまとめたほうがよい。

【井上(孝)委員】
 今の石委員の話にあるように、私も経営協議会に多数参加して思うことだが、基盤的経費が減額されて1、2年目は、競争入札を取り入れる、高熱水量を抑える等の方法で歳出削減をしてきたが、3年目位から人件費削減として人を減らす以外に効率化の方法がなくなってきた。今後3年間を考えると、教育・研究費に直結するような、教員や事務職員の削減がかなり進み、ひいては大学の教育・研究機能の低下をもたらすという事態に直面していると思う。そうした現実を訴え、大学の本来果たすべき役割を強調することにより、経常的経費の削減に歯止めをかけることができないかと考えており、国立大学協会を中心に十分検討していただきたいと思う。

【鈴木委員】
 現在、大学について様々な議論が行われているが、その基本的な考え方は、社会経済のニーズに対応した教育研究である。例えば、教育と研究は一体不可分という従来の発想からの脱却を図り、経済社会の多様なニーズに応じた研究拠点型教育機関を形成するという発想は、本当に国民の立場に立ったものなのか疑問である。国民は、いい教育を受けたい、いい研究環境を持ちたいという発想があると思うが、そうした発想が現在の議論には見られない。大学の立場を説明すると同時に、いい教育・研究を受けるという国民自身の発想からの訴えがあってもよいと思う。

【平野部会長】
 国の予算が下がる中、いかに高等教育関係の予算だけを増やすかが問題だ。部会で議論されたことを具体に持っていくにはかなり障壁がある。国公私含め、データに基づいた対応を早急にしなければならない。研究費の位置付けとともに、その支えとして全体の確保を文部科学省とともに努めていかなければならないと思う。
 こうした背景の上で、研究費の増額、充実が必要という方向で意見をまとめ、提案として出していく必要があると思うが、方向としてはそれでよいか。具体の方策としては、国公私それぞれの協会で意見を出すとともに、一緒になって運営費交付金や私学助成金の削減の問題を含めて、高等教育の立場・科学技術学術振興の立場から取りまとめていく必要があると思う。

【磯谷学術研究助成課長】
 高等教育局も、基盤的経費の削減から3年経って何が起きているかというデータを集め始めているようなので、部会の場にも出していきたいと思う。また、ご議論を踏まえ、データの整理をしていきたい。

【平野部会長】
 資料4において、「中間まとめ」において確認すべき事項として、基盤的経費と競争的資金の関係、および科研費とその他の競争的資金の意義、役割とあるが、その元となる意向として、全体の充実が必要である旨を入れたいと希望するがよいか。
 また、それに向けてどのように努力するか、今から特に注力していかなければならないと思っている。

【伊賀委員】
 データとして、国立大学の場合、運営費交付金のうち、研究に使用できる額がどれくらいかを把握する必要があるのではないか。教授や研究者から、大学が確実に使える研究費が減ったという声をよく聞くが、実際にどれくらいかということがある。
 運営費交付金は少しずつ減っているが、それにも増して研究費として使える額が減っているように思う。その圧迫原因としては、例えば情報インフラの整備、設備の最新化、廃棄物の処理、施設の安全性の確保、外国にひけをとらない設備の整備、空調の設置など、大学を大学らしく国際的な水準で維持するための費用が相当増えてきている。これらを減少する運営費交付金の中で措置しているのだから、各大学からすれば、研究費に使える額が以前に比べ減っているのではないかと感じるのだろう。そこで、ボトムアップ型の基盤的研究は科研費等で、芽が出てきた研究はJST等の戦略的な基礎研究、あるいは政策対応型で措置するというように、運営費交付金のうち大学が使用できる研究費が減っていると思われるため、別の部分で増やさなければやっていけないという筋立てが考えられるのではないか。

【平野部会長】
 基盤的経費が1パーセントの減でも、まさに伊賀委員のおっしゃるような変化により、現場では10パーセント減になっているとよく言われている。そうしたことをデータで出しながら、高等教育全体での対応をきちんと説明し、その中での研究費の充実を図っていかなければならないというご意見であり、このことは中間まとめの中で生かしていきたいと思う。

(3)学術研究にブレークスルーをもたらす助成の在り方について

 事務局から資料5-1「学術研究にブレークスルーをもたらす助成の在り方について(論点メモ)」、資料5-2「学術研究にブレークスルーをもたらす助成の在り方について(参考資料)」に基づいて説明の後、意見交換があった。

【笹月委員】
 学術研究のブレークスルーを本気でもたらそうとするのであれば、新しい技術の開発や原理の発明、応用がないことには、本当の意味でのブレークスルーは起こらないのではないか。古くは顕微鏡の発明、電子顕微鏡、セルソーター、最近ではDNAの増幅法の発見など、そうした発明・発見があって初めて、格段に学問が進歩し、新しい分野が開発される。しかし、残念ながら日本からはそうしたものがなかなか出て来ず、常に欧米のものを利用している。
 例えば、ゲノム解析で日本は、先ほどの鈴木委員のお話のように、社会のニーズ、経済界を活性化するためのゲノム創薬と銘打って、何百億というお金を出したが、実際はアメリカのDNAのシークエンサーを日本中のラボが買い取ったということがある。新技術開発、あるいは原理の発見による新しい方法論の開発を促すために、研究費のレベルで日本がどのようなところをサポートしなければならないかを考える必要がある。これまで日本では技術やインフラに携わる人があまり高く評価されてこなかったが、その抜本的改革も1つの大きなポイントだと思う。
 今、事務局から提示された資料で考えてみると、若い研究者が、自らが所属するラボでは手にできない技術を国内の他の場所で自由に学べるようなサポートシステム、あるいは中堅の研究者のために、欧米のサバティカル制度のような制度を日本に導入して、1~2年新しい分野で技術や考え方を身に付け、また新しい分野を模索するという支援を真剣に考える必要があるのではないか。いずれにしても、根本的には、新技術を開発する人材をどのように育てるかが大きなテーマであると考える。

【池尾委員】
 資料5-1にある審査、評価に関して一言申し上げたい。本当に新しいテーマの研究に関しては、評価が分かれるのが一般的であると思う。したがって、コンセンサスを求めるような評価プロセスでは、うまくいかないのではないか。
 資料5-1で挙げられている少人数の合議制は、多くの人数で評価を行う場合に比べればコンセンサスを必要としないという趣旨が入っているものと思うが、2、3人にせよ、全員の一致が必要というのでは難しいのではないか。そこで、1人の委員でも強く押せば採用されるというシステムはどうか。もちろん、その場合、その審査員の独立性の担保が非常に重要になると思うが、そうした独立性の高い審査員の集団で、1人でも強く押せば採用するというような審査プロセスを考えないことには、本当に新しい研究が拾われないのではないか。
 もちろん、反面、第1種のエラーは起きないかわりに、第2種のエラーはたくさん起きる可能性はあると思うが、本当に新しい研究を拾う際のコストとして考えざるを得ないのではないか。

【家委員】
 概算要求を見越して、事務局からこのような提案が出てきたものと思うが、このような方向性でよいのか疑問がある。
 第一に、第1回研究費部会において石委員が発言されたと思うが、現在、科研費の制度が以前に比べて複雑になり過ぎており、もう少し単純化したほうがいいのではないか。以前から申し上げているように、科研費の基本軸は基盤研究であり、科研費の一番大きな問題は、基盤研究の新規採択率が20パーセント程度であるということである。この問題をどうするかという議論があった上でこのような新しい取組を議論するのならよいが、イノベーションという追い風に乗って予算をとろうという戦略では、いつまでも科研費の改善が図られないのではないか。

【伊賀委員】
 二、三点申し上げたい。第一に、日本学術振興会のシステム研究センターの報告書は参考資料の扱いになっているが、ぜひ番号をつけて記録にとどめていただきたい。また、1度説明の機会を与えていただきたい。
 第二に、資料5-1の12ページにある、学術創成研究費のメリット・デメリットに関して申し上げたい。資料では、「通常のピアレビューでは見落とされがちな研究テーマ」を拾うとなっているが、そうではなく、基盤研究等の応募のみでは実行しにくいテーマや、研究者に取り組んでもらわなければならないテーマを学術コミュニティーの推薦によってやってもらおうというプログラムである。学術コミュニティーが重要と思われるテーマを推薦し、ピアレビューとパネルレビューを行うものであり、学術コミュニティーからのトップダウン型のプログラムであって政策型ではないということをご理解いただきたい。
 第三に、本日の資料は非常によくわかるが、政府関係の研究者でない方々を説得するにはやはり難しすぎるのではないか。つまり、審査・評価に関し、ピアレビューの仕組みとして、私利私欲の入らない方法で書面審査をし、合議制によって確かめた上で採択し、その成果を委員会において評価するという、最善を尽くした方法で行っているということを理解していただけるような資料づくりを希望する。

【岡本委員】
 先ほどの家委員のご意見に賛成する。ただ、ブレークスルーをもたらすときに、例えば基盤研究の中で出てきた地味な研究が何年かかけて徐々に大きくなって、国の戦略目標にあるからCRESTでやろうというように、各段階の割り振りははっきりしているのではないか。
 もう一点申し上げると、日本の場合、分野にもよるだろうが、独創的な研究が出てきていないわけではないと思っている。例えばスーパーカミオカンデは最初から国家戦略でやっていたとは思えない。コツコツとした努力がイノベーションに発展する。
 実際、科研費に支えられて出てきた成果は、論文といった形だけでなく、目に見えない部分が多くあると思う。その中で、恐らく科学研究費、特に基盤研究の一番大きな役割は人材の育成ではないかと思う。
 資料5-1のメリット、デメリットを見ていると、やや違和感があるので1つだけ最後に申し上げる。先ほど、萌芽研究と時限付き細目等について関係して話されていたが、私は萌芽研究を何年か行ったことがあるが、萌芽研究は、例えば時限付き細目に合うようなテーマが結構ある。萌芽研究で新しい分野の研究をする人は圧倒的に若い人が多いので、若い人がどのくらい育ったかといった追跡調査をされてはどうか。
 また、特定領域研究のメリット・デメリット、特にメリットに関して申し上げると、こうしたグループ研究は意外に分野を超えた編成が可能である。数理科学研究科に所属する私自身も、人文科学分野の特定領域研究に関係している。分野を超えてチームを組むとそれなりの成果が上がっていると思うので、そうしたメリットも主張されてはどうか。

【三宅委員】
 先ほど家委員のご意見に関して、例えば新規採択率20パーセントを倍にすると、採択すべき新しい研究が多く採択されるということが説得的に言える材料があるとよいと思う。
 大きな研究室で育った若い研究者が新たに手がけようとする研究の中に、ブレークスルーにつながるものがあるという考えはわかるが、一方で、地方の私立大学に研究者が集まっても、小さい大学では研究者がまとまって大きな成果を出せるようになるのに時間がかかると思う。そのため、周辺で比較的落ち着いて研究をしてきた人が、少しずつテーマを変えながら研究を大きくしていく過程でその研究が採択されないと、大学としてのサポートがないため、途中まで育ってきた研究がなくなってしまうという事態が小さな大学ではあると思う。そうした研究が、今落ちている研究の中にどれくらいあるかわかるシステムがあるといいのではないか。

【中西委員】
 特別推進研究と特定領域研究に少し関わってきて、競争的資金の限界を感じる場合があるので発言させていただければと思う。年限がくればこれまで研究費をもらってきたにもかかわらず中途で打ち切るのはどうかという問題もあるが、それまで数年研究に取り組んで成果をあげてきた人が新しい分野で研究を始めたい人と同じ土俵で審査を受ける際にはまだ実績が無いのでハンディがかなりあると思う。そうした人を別枠で育て、新しい研究を競争的資金に入れていける仕組みがあればよいと感じる。
 また、最近、科学技術は経済的価値を生むという意識が非常に広まり、お金に結びつかないとだめだ、あるいはお金をかければ出口が見えるものが出てくるとういう意識があるように思える。しかし良い研究の芽を育むため、また学術の多様性を確保するためには、同時に基盤研究をしっかり支えることが肝要だと思う。三宅委員が、採択率が2倍に上がったらどうなるかという発言をされたが、そうなれば確実に基礎研究はサポートされると思う。
 また、特定領域研究と特別推進研究では、1人当たり1~2センチもの申請書を書いている。私も、今回、合わせて100冊程読ませていただき、ほぼすべての項目にコメントをつけたが、若い人も含め、研究を精力的に進めている研究者にとってはこの事務的処理が非常に負担ではないかと思われる。そのため、申請後、面接にまで選ばれた人にはその程度の報告書を求めるとしても、最初の申請の段階では、基盤研究(S)や(A)程度の数枚でよいのではないか。

【平野部会長】
 基盤研究を含めて、細目はこれ以上細かくする必要はないのではないかというご意見は以前より幾つか出ている。その中で、ブレークスルーになるよう新しい芽をいかに拾うか。資料にある「新学術領域研究」のような新しいカテゴリーを作るべきか、あるいは統合整理の中で基盤研究をより重視するべきか、重要な問題と考える。

【袖山企画室長】
 資料5-2の1ページ目にあるように、科研費の中心的な経費が基盤研究であることは事務局として全く同感であり、基盤研究を今後どのように伸ばしていくか考えなければならないと思う。
 一方で、科研費全体の構造は、基盤研究、若手研究、新領域の形成等に係る取り組みの3つの柱立てになっているが、新領域の形成部分が現状で十分なのかという観点から、今後どうしていくかご議論いただきたく提案させていただいた。
 方向性としては、既存の種目をある程度整理・統合していく中で、新しい種目を置いて、そこで審査方法等も変えていくことを考えているが、本来的に新領域の形成を目的としている種目が、審査方法等において、基盤研究等との差異がやや判りにくくなっている、あるいは他の競争的資金との関係等を鑑み、学術のブレークスルーという観点から最もふさわしい方策をご議論いただきたいという趣旨で今回ご提案した。

【家委員】
 ブレークスルーという観点は、既存の制度にも一応ある。事務局の資料でメリット・デメリットが分析されているが、制度そのものの問題か、あるいは実態が問題かを分析すべきではないか。もし、今提案された新しい種目が、例えば学術創成研究費の再編という趣旨であれば大いに賛成する。
 また、先ほどの三宅委員のご意見のように、仮に基盤研究の採択率が上がれば、1人だけ非常に高い点をつけたものを第2段審査の合議の中で拾うことが可能だと思う。既存の制度の中で対応することもできるのではないか。

【小原委員】
 ブレークスルーは地道に自分の疑問を解くことで初めて出てくるもので、最初からブレークスルーを目指して取り組んでいるのではない。よって、研究者が時間をかけて研究することを保障すること、インフラを整備すること、異分野との接触の機会をつくること、その3点が重要だと思う。
 これをいかにして保障するかということだが、そのためには基盤研究であるが、分野融合の点では、特定領域研究が、運用面で工夫の余地があるが機能を果たしている。特に整理、統合に関しては、かなり影響が大きいと思われるので、十分慎重に行っていただきたい。

【井上(孝)委員】
 今年度の科研費における基盤研究(B)(C)の間接経費の措置については、大学研究機関から大いに歓迎されたが、総合科学技術会議において若手研究者の自立に向けた資金の大幅な投与等が指摘されるなど、様々な指摘があるので、来年度は間接経費の拡充を継続して、若手研究(B)・スタートアップ、特別研究員奨励費等の若手研究者関係の間接経費を措置するように、中間まとめの中でも指摘しておいていただきたい。

【磯谷学術研究助成課長】
 承った。
 本日の資料については、種目として単純化を進めることと、過去のレビューをして、次のステップにどうつなげていくかという観点から整理し直したい。

【平野部会長】
 ブレークスルーには、全く新しい学術分野を作り上げるだけでなく、人数が少ない、あるいはマトリックスが少ないために採択されない研究をどう拾い上げるかということも含んでいると考えている。両面から検討する必要があると思う。次回、そのあたりをもう少し整理して議論ができればと思っている。
 競争的資金の審査の中で科学研究費の審査はよくできていると伺っているが、そこにごくわずかな新しい領域を拾い上げるメカニズムをいかに加えられるかということも重要な点と考えている。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課