第4期研究費部会(第11回) 議事録

1.日時

平成20年2月21日(木曜日) 10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

 平野部会長、上野委員、鈴木委員、中西委員、三宅委員、家委員、伊賀委員、井上(明)委員、井上(一)委員、甲斐委員、小林委員、小原委員、池尾委員、岡本委員

文部科学省

 藤木大臣官房審議官(研究振興局担当)、伊藤振興企画課長、磯谷学術研究助成課長 ほか関係官

オブザーバー

(発表者)
 名古屋大学 野村浩康名誉教授、東京大学生産技術研究所 前橋至氏

4.議事録

(1)有識者からのヒアリング

 名古屋大学 野村名誉教授から資料2「科学研究費補助金採択研究課題数による分野別の大学等の研究活性度」に基づき発表があり、その後意見交換があった。

【伊賀委員】
 発表資料の38ページに「博士(甲)」、「博士(乙)」との表記があるが、両者の違いは何か。

【野村名誉教授】
 「博士(甲)」はいわゆる「課程博士」、「博士(乙)」はいわゆる「論文博士」である。

【平野部会長】
 それぞれの分野の人数に応じて研究活性度を測ることは大変貴重なデータであるが、大学の規模や学部構成によって、それらを一括りにしてしまうと、誤った分析がなされることになると思うが、そのような理解で良いか。

【野村名誉教授】
 科研費の応募数だけで研究活性度を見たのであれば、それは大学の規模でほとんど決まってしまう。しかし、我々は分科・細目レベルの分析を行っているので、例えば、A大学よりも規模は小さいが、B大学の方が化学の分野における研究活性度は高い、といったようなことがわかる。研究活性度をきちんと測るには、やはり分科・細目レベルまで丁寧に見ていかなければいけない。科研費のシステムを念頭に有効な分析を行うことが、我々の統計の取り方である。

(2)研究分野の特性に応じた助成の在り方について

1.事務局から資料3「『研究分野の特性に応じた助成の在り方』に関する参考資料」に基づいて説明の後、意見交換があった。

【井上(明)委員】
 「分野別に見た主な競争的資金等俯瞰図」の資料を拝見すると、NEDO事業ではナノテクやエネルギー、ものづくり等を行っていないように見えるが、実際はそうしたものに対する助成も行われているのではないか。

【袖山企画室長】
 NEDOでは、多くの事業が行われており、その全てを表記できないこと、また、重点推進分野における産業技術への応用、開発を目的とする事業が中心となっているため、資料の右端部分を広くカバーするという意味で、このような表記とした。

【家委員】
 科研費は、政策誘導型のものとは一線を画し、ボトムアップの自由な発想による研究を支援するものだと考えているが、「論点メモ」の2番目に記載のある科研費とは狭義の科研費なのか、それとも広い意味での科研費を指しているのか。

【袖山企画室長】
 科研費制度の中には研究成果公開促進費など、本来の科研費とは若干性格の異なるものも入っており、ご指摘のあった、狭義の科研費の外、あるいは広い意味での科研費の外に置くという両方の選択肢もあり得ると考えている。

【家委員】
 場合によっては、新しい競争的資金の創設も考えているということか。

【袖山企画室長】
 ご審議いただく研究分野の特性に応じた助成策には、競争的資金、あるいはそれ以外のやり方もあり得る。検討に制約を設けることはしないので、学術を振興していくという観点からどのような方策、あるいは助成策が適切であるかについて、幅広にご議論をいただきたい。

【中西委員】
 個々の研究者の自由な発想に基づく研究である「学術研究」に一番大切なことは、研究の多様性を確保することであり、それができて初めて、新しい考え方の研究が生まれてくる。科研費は、研究の多様性の確保について非常に大きな役割を果たしている。
 ただ、個別研究とプロジェクト研究をどう調整するかについては、もう一度よく考える必要があるのではないか。幅広い裾野の基礎研究があって、研究者がたくさんいるところで初めて大きなプロジェクトが育つわけであって、最初から1つのアイテムに特化してしまうと、基礎研究の発展に支障をきたすのではないかと懸念している。
 また、資料にある「単なる研究費の助成ではなく、分野内の研究活動を実質的にサポートする研究支援・助成策」は非常に良い取組だと考えるが、例にあるデータベース構築支援だけでなく、標準化の問題についても是非サポートいただきたい。その分野での標準化技術を押さえることによって、研究のイニシアチブがとれると思う。環境など、いろいろな分野で標準化技術というものがあるので、それにも配慮いただきたい。

【三宅委員】
 野村先生の発表資料と「分野別に見た主な競争的資金等俯瞰図」を見て感じたことであるが、俯瞰図にある研究分野のうち、人文科学系や社会科学系が融合していかなければならないような分野が大きくなっていると思うが、我が国の研究マップではそのあたりが非常に弱いと感じる。
 我が国では、研究の裾野は狭く研究者は少ないが、本当に融合的な研究を行っている人たちをサポートする体制がまだまだ作りにくいとの印象がある。

【平野部会長】
 基礎研究を進めるに当たって、分野を超えた融合が必要であり、そのような分野では審査・評価者の問題も含めた様々な検討が必要であるとのお考えがあるのではないか。

【小原委員】
 ゲノムという学問領域では、人類社会が研究をどう受け入れていくか、あるいは課題をどう解決していくのかということなど、人文・社会科学の研究者の方と一緒に考えていかなければいけないこともあるので、研究グループには何人かそうした分野の方にも入っていただいている。今度の「新学術領域研究」で、こうした取組がうまく機能するのか期待するが、一方で研究費が伸びないので余裕がないのではないかと懸念している。こうした分野横断的な取組には、別枠とは言わないまでも何らかの手当てが必要ではないか。

【井上(一)委員】
 宇宙空間を利用していくという学問領域には、地球を広い観点から環境としてどう理解していくか、あるいは人類が宇宙空間に出ていくことについてどう考えるかといったような、原理的にはあらゆる学問分野が共通に考えるような部分がある。先ほど小原委員からお話があったような、何か良い仕組みを作っていただければありがたい。

【平野部会長】
 広い意味の分野融合的な学問領域を研究費の枠の中でどのように設定できるか、次回以降議論したい。

【鈴木委員】
 例えば、がん関係の研究に対しては、昭和41年から平成5年までは「特別研究」、その後「重点研究」、「ミレニアム」という形で重点的に支援を行ってきているが、こうした支援の在り方についての評価は行っているのか。もっとも評価の結果、問題ないとされているので現在まで続いているのだろうが、こうした形のものがずっと続くと、若い研究者が違った形の研究を行おうとする時に阻害されるようなことになったりはしないのか。そのようなことも考えながら、特別な形で支援することの是非についての判断が必要ではないか。

【袖山企画室長】
 それぞれの研究種目で、行われてきた研究についての評価は行ってきている。また、研究種目の転換や新設の際には、審議会等における議論を踏まえた上で、最終的な必要性の判断を行っている。
 現在、進行中のものについては、まさに次を考える時期に来ており、これまでの状況について評価をしていただき、今後どうしていくかということについて、本部会において忌憚のないご議論をいただきたいと考えている。

【鈴木委員】
 アメリカの場合、ノーベル賞受賞者でも新たな研究費の獲得には相当苦労している。先ほども申し上げたが、このように長期にわたる支援が続くと本当にそれで良いのかという疑問もある。そのあたりの検証が必要ではないか。

【磯谷学術研究助成課長】
 平成22年度で現在の第3期科学技術基本計画が終了し、第4期の基本計画をどうするかという議論も始まっている。その中で学術研究をどのような形で位置付けるかということについての検討も行っていくことになる。本日は何か結論を出すということではなく、委員の皆様からいろいろなアイデアやご助言をいただきながら、学術研究の多様性をどのように確保していくかといった観点からご議論いただきたい。

【中西委員】
 基礎研究におけるライフサイエンス系の研究には、共通の基盤的なものがあるが、それをどのように育てるかというのが1つのポイントである。学部的あるいは、分野的なプライオリティが強く主張されてくるような部分があるので、無駄がないよう全体を見て、それをうまく調整するようなところがあれば良い。

【池尾委員】
 前回を欠席したこともあり、いくつか教えていただきたい。
 まず、「研究分野の特性等に応じた」の「特性」とは、どのようなことを念頭に置いているのか。次に、これまでの議論から、基礎研究の分野にもある程度戦略的判断を入れる必要があるのかどうかということが主たる議論のポイントになっているという理解で良いのか。これらに教えていただきたい。

【平野部会長】
 先ほど意見があったように、科研費の分野については、研究者が自由に発想できるところを基盤とすべきであり、それぞれ多様性が重要視される。
 しかし、先ほどのライフサイエンス分野のように、分野を融合させたり、あるいは連携をとるべきところが新たにあるのではないか。そうした分野の特性に応じた取組をする必要があれば、きちんと指摘をしておくべき、という理解であるが、事務局から何か補足はあるか。

【袖山企画室長】
 2つのご質問の後段の方については、いわゆる基礎研究、あるいは学術研究においても戦略的な要素を加えるべきか否か、加えて学術研究の助成において、分野の特性に応じた研究助成策を講じることが必要か否かということ等についての幅広いご意見、ご示唆をいただきたいということである。いただいたご意見、ご示唆は今後の政策展開を考える糧としたい。
 また、1つ目の、「特性」とは何を念頭に置いているのかというご質問については、あまり限定的にとらえてしまうことは良くないと考えているが、例えば、わかりやすい例で申し上げると、一般的に、人文・社会系の研究はそれほど高額の研究費は必要とはされないが、生物系などの研究では、非常に高額の研究費が必要とされるという状況があると言われている。
 一方で、科研費の配分では、分野ごとに応募件数だけでなく、応募額も勘案して各分野に配分するトータルの額を決める仕組みとなっており、応募額がそれほど大きくない人社系の研究では比較的多くの研究を採択することができ、採択率が高くなるという傾向がある。反面、生物系の研究では1件当たりの応募額が大きくなる傾向にあり、結果として採択件数が少なくなり、採択率も低くなる。
 今の科研費システムでは、人社系、生物系、理工系あるいは総合分野も全て同じシステム、例えば「基盤研究(C)」は応募額500万円以内といった同じシステムでやっており、それによって、先に申し上げたような採択率の差異が出てくるという仕組みになっている。こういう仕組みが適切かどうかということも、検討いただく際の1つの切り口となるのではないか。
 仮定の話ではあるが、研究分野によって応募額の限度を変更させることも考えられるが、研究分野ごとに異なる制度を採用した場合は分野横断的なものは応募しにくくなるという弊害が出てくることも考えられ、そのあたりのバランスを科研費制度においてどのように位置付けていくのかなど、「特性」、あるいは他の観点についても様々あり、直ちに結論を出せるものでもないことから、まずは皆様から忌憚のないご意見をいただきたい。

【池尾委員】
 今の説明でイメージがよくわかった。確かに、少額でも幅広く研究費を配分することにより成果が上がりやすいような研究分野、逆に、特定のところに重点的・集中的に多額の研究費を配分した方が望ましい研究分野など、分野の特性の違いはある。
 ただ、基本的には試行錯誤ができるだけ幅広くできるような仕組みを確保することが重要であり、限りある予算においては巨額の研究費を必要とするような研究分野については絞り込まなければならない。しかし、基本的に全ての学術研究はどのような成果が出るか、あらかじめ予測できる性質のものではないので、そういう意味でトライ・アンド・エラーをできる仕組みが基本的な観点となるのではないかと考えている。

【小原委員】
 ご指摘はまさにそのとおりだが、分野によってはトライ・アンド・エラーにいくまでに、かなりの期間や費用を要するものもある。科研費は、プロジェクト型研究とは異なり、トライ・アンド・エラーを繰り返して新しい分野を開いていくものである。初期投資をある程度行うことにより、ようやく世界標準に到達し、そこからトライ・アンド・エラーが始まるような分野もあり、そうした分野への支援も必要である。

【井上(一)委員】
 私の所属する、大学共同利用機関というものが作られた背景には、大学等を通じて個々の研究者に配られている研究費を共通に使う機関を作り、資源を持ち寄って有効に使おうという考え方があった。
 そのような、個々の研究者に配られるような研究費を持ち寄るという考え方は今もあるべきで、大学共同利用機関設置の際と同様に、科研費という個々に配られる研究費を集めて、あるところに投じていくということも必要ではないか。

【井上(明)委員】
 「分野別に見た主な競争的資金等俯瞰図」に戻って恐縮だが、科研費と、その横の「戦略的創造研究推進事業」は完全に分け切れるものなのか。あるいは、がん特定領域研究云々についても本部会以外のところで議論されれば、ボトムアップではなく戦略的、政策的なものとは言われはしないか。
 今度の「新学術領域研究」が非常にボトムアップ的な色彩が強くなって、従来の特定領域が少しトーンダウンしている状況では、何か新しい支援の仕組みがあっても良いのではないか。

【岡本委員】
 基盤研究を中心とする科研費は、研究者個人がトライ・アンド・エラーを行う際の支援ということが一番の基本だが、特定の分野の特性を考慮した支援を行う際など、ある程度政策的な対応に近いやり方を行うこともあるだろう。実際、総合科学技術会議で重点化の方向性が示された場合は、それにある程度の配慮もしなければならない。
 前回以来の事務局の提案は、それに加えてもっと大規模なトライ・アンド・エラー、ボトムアップとも少し違うが政策でもない「戦略的」とでも言うべきものを支援する仕組みを考える、ということだと理解している。

【磯谷学術研究助成課長】
 先ほどお話のあった、大学共同利用機関の今後の在り方については、同じ学術分科会の研究基盤部会で学術コミュニティの考えをどのように吸い上げ、組織としての機能を果たしていくかという議論が行われている。
 本部会では、科研費を含めた研究助成の中で、それに近いようなことを打ち出していくのか、そうであればどのような仕掛けがいいのか、などについてご議論いただきたいと思っているが、それに限らず、個別のライフサイエンス関係の特定領域を今後どうしていくかということについてもご議論いただきたい。

2.事務局から資料4「『ライフサイエンス作業部会』の設置について(案)」に基づいて説明の後、意見交換があった。

【岡本委員】
 作業部会での議論において、これまでの成果や研究の在り方についての評価が行われると思うが、これは生命科学の3分野だけに限らずに、他の分野にも関わってくることである。評価の際には、分野的な特性に着目するもあれば、分野横断的に共通的な基盤となるものもある。それらがしっかり区別され、明らかになるよう、議論の項目や進め方に配慮していただきたい。

【鈴木委員】
 作業部会では、今後5年から20年の間にライフサイエンス分野で、どんなテーマを、どういう戦略を持って、どのように進めていくかについてのロードマップを作っていただきたい。それにより、他分野からもライフサイエンス分野における中長期的な取組が見えてくる。その上で、支援に対する賛否などについて検討を行うことにすれば良いと思う。

【平野部会長】
 作業部会設置の後は今、いただいたご意見などに留意しながら議論いただき、本部会と連携をとって進めていければと考えている。
 では、ご異議もないようなので、生命科学系3分野を含めたライフサイエンス分野についての検討はこの作業部会で行っていただき、必要なことについては本部会にも報告いただきながら、意見があればそれを作業部会にフィードバックし、検討を続けるという形で進めていきたい。

(3)その他

 事務局から、資料5「当面の審議日程について(案)」に基づき、次回の研究費部会は3月13日(木曜日)10時30分から開催予定である旨、及び、今後、月1回程度開催予定である旨の説明があり、各委員の賛同を得た。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課