審議会情報へ

科学技術・学術審議会学術分科会

2004年3月18日 議事録
科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会(第2期第10回)議事録


1.日  時   平成16年3月18日(木)13:30〜15:30

2.場  所   グランドアーク半蔵門 「富士 西の間」

3.出席者    
委員 池端部会長、家部会長代理、池上委員、石井委員、郷委員、垣生委員、飯島委員、
伊賀委員、甲斐委員、谷口委員、鈴木(厚)委員、豊島委員、小平分科会長
事務局 石川研究振興局長、丸山研究振興局審議官、岡本学術研究助成課長、
河村政策課長
位田科学官、廣川科学官 ほか関係官

4. 審議概要
(1) 応募資格の見直しについて

事務局から資料2、3に基づいて説明の後、質疑応答があった。

 (○・・・委員、科学官 △・・・事務局)

 この議題は、科研費の制度改正の中でも非常に議論を呼ぶところだと思われる。最終的には事務局に依頼して、本日出された意見の整理をしてもらう必要があろうかと思う。
  資料3を見るとフルタイムの研究者とあるが、我々自身が持っていたフルタイムという観念も随分揺れ動いており、1日8時間、週5日働かなければフルタイムと呼ばないという考え方は通用しなくなりつつある。そこで、疑問点を確認しつつ、応募資格の見直しについて、積極的に提案をしていただきたい。

 研究分野によっても事情は異なるだろう。人文社会系であれば、大学等、所属する研究機関の設備を使う必要はないかもしれないが、理工系・生物系で実験を伴うものになると所属する研究機関の施設を使うことになる。そうすると、ある程度所属機関の了解が必要になってくる。間接経費を交付していることもあり、少なくとも所属する研究機関の了解が必要になると思う。

 質問だが、資料3「応募資格の見直しの考え方」の別紙にある、パートタイムの研究職員(有給)ともう一方の無給のパートタイム、これは一体どのようなケースを想定しているのか。この中にもいろいろなケースがある。パートタイムの研究職員として大学から給料をもらっているけれども、契約外の残りの時間は、別の研究機関と契約し、そちらに属しているとか、あるいは企業の研究所に所属するとか、そういったケースと、定員の関係でフルタイム分の給料はもらえないが、契約外の時間は大学で研究を行うことが可能である研究者もいる。つまり、科研費で助成する学術研究にその研究者がどれだけ時間や能力を傾注できるのかという点を判断の基準にすると、この中には非常に大きなばらつきがあり得る。企業の研究所に所属する研究者で、その企業においては特定の研究開発を行うよう命令を受けている人にとっては、残りの時間は学術研究に傾注できないはずである。ところが、事実上どの研究機関にも所属していない研究者は、大学の研究室や施設さえ使えれば、パートタイムであれ、無給であれ、研究ができる。そのような観点から見ると非常にばらつきがあるので、これをどのように把握しようとしているのか。この箱の中の非常に多様なグラデーションをどのように見て、ここに問題提起をしたのかを示してもらいたい。

 どの局面を捉え図示するかが非常に難しい。現在、例えば国立大学等における寄附講座の客員教授の応募資格は認めてきているが、最近では21世紀COE等の特任教授等、新しい雇用形態の研究者も出てきている。
  今までは組織に所属する、すなわち、その定員として雇われた場合、研究を行う場が用意される等、ある程度の研究環境が担保された。今後はその担保がなされるという保証はなく、また同じ職名であっても、その実態が異なる場合もあり得るので、一律に表現することが難しい。このため、このような問題についてどのようにすべきか、委員の方々の御意見を伺うこととしたものである。

 資料では「フルタイム」という語句を使用しているが、公募要領上は「常勤」という語句が使われている。現在「常勤」の概念は揺れてきているが、現実的に実務を行っている側としては、2ヵ所の研究機関に所属し、2ヵ所で常勤というのはあり得ないと理解していた。ところが、国立大学が法人化されると、今後は月火水がA大学に非常勤として勤務し、木金土はB大学に非常勤として勤務するといったケースが出てくる可能性がある。資料3別紙の図において、「研究機関への帰属度」に着目すると、一番左の1の枠は、常勤として勤務する研究機関が2ヵ所であることは認めないという従来の考え方を示している。これを2ヵ所でも認めようとする場合の典型的な例が、2の枠で示しているパートタイムの研究職員(有給)である。
  それをさらに、無給の研究職員まで拡大したものが3の枠で示してあるが、ここまで認めた場合、研究機関が無給の研究職員として数多くの人を所属させて科研費への応募を認め、間接経費の獲得を狙うというケースが起こり得る。

 これは大変難しい問題で、すべてのケースを網羅できる自信はないが、基本は現在のルールである「研究機関に属する常勤の研究者」と「研究機関からの担保」という、その2つのルールは受け継ぐべきだと思う。研究機関に属するということは、まず、研究できる場が提供されていて、研究の自由が保証されているということであるが、それを突き詰めると非常に定義が難しいので、当該研究者が所属する研究機関が経理責任を持つことを条件に応募資格を認めるというのが明快な方法だと思う。
  それから、ある人が研究者であるかどうかについては、議論しても絶対に結論は出ない。納税者にきちんと説明ができるよう、先ほど申し上げた意味で研究機関に属して、当該機関が資金管理を行うことを担保していることという条件を付してはどうか。
  それから、パートタイムの研究職員にはポストドクターも含まれるが、ポストドクターにも大きく分けて2種類あって、日本学術振興会の特別研究員などは主体的に研究することが可能であり、それらに応募資格を認めることは問題ないと思う。一方、いろいろな研究費で雇われているポストドクターにも応募資格を認めた場合、他の研究費で雇用されていながら自らの発想に基づく研究のために応募することになり、制度的に矛盾する。そのほかにパートタイムの研究職員として思いつくものとして、学長や理事がある。学長や理事は、管理運営の仕事をしていても研究も行うことが認定されれば、応募資格を認めてもよいと思う。

 現在、国立大学、あるいは私立大学等でも定年制を採用しているが、今後シニアの研究者の比率が高くなる。また、定年退職しても活発な研究活動能力を持つ研究者もいる。国としてそのような研究者の能力を活用できるようにするため、科研費に応募できる道を開いておいた方がよいのではないか。

 名誉教授や客員教授、あるいは先ほど特任教授という職名が出されたが、現在でも研究ができる能力のある人が、科研費に応募できるようにするという意見には基本的に賛成である。ただ1つ問題が残るのは、日本はもともと個人のプロジェクトで研究者を雇うのではなくて、教授の下に助教授や講師、大学院生がいたりという研究グループを形成していることが多く、その教授が退職しても依然として強い影響力を持ち続けているということが、研究現場でしばしば問題とされているので、その点も考慮に入れるべきである。

 少し極端な意見かもしれないが、そもそも応募資格をこちらの側で規定できるのかという問題がある。科研費が助成するのは、研究者の自由な発想に基づく研究であるので、研究者であれば応募資格があるという解釈もできる。そのような観点から考えると、応募資格を制限することよりも、応募された課題の評価をしっかりと行うことが最も重要なのではないか。

 今の意見には2つの方向から回答することができる。1つは、科研費はどのような研究を助成するのかということがきちんと押さえられなければいけないわけで、研究者であると自称する人、あるいは特定の研究課題が与えられて、その研究を行う研究所に勤めている人とか、科研費制度の趣旨から見ると問題となる人には応募を御遠慮願うという制度設計でも、問題にはならないと思う。つまり、どのような研究にも助成するという無性格な競争的資金ではないはずで、その制度目的、趣旨に沿った研究者に応募してもらうのが筋であり、そのためにきちんと応募資格を定めるべきだろう。
  もう一つは実務上の問題だが、応募資格を問わないということになると、審査をする側や審査業務を行う機関に大きな負担がかかる。現在でも応募件数が多過ぎると言われており、実務上の観点からも抑えざるを得ないだろう。結論としては、先ほど意見のあったような「研究機関への所属」と「当該研究機関からの担保」ということになると思うが、一つ付け加えるとすれば、補助金の管理を研究機関が責任を持って行うことは非常に大事であるが、その研究機関の性格、そこに所属する研究者の自由度も問われるべきである。つまり、研究機関についてもある種のふるい分けが要るのではないか。

 当該研究者が所属する研究機関が経理責任を持つことを条件にするという意見に大筋で賛成である。質問だが、先ほど2ヵ所の研究機関において「常勤」ということはあり得ないということであったが、例えば、2ヵ所の研究機関に所属していて、片方の研究機関では週3日、もう一方では週2日研究を行っている場合は勤務日数の多い前者を常勤とみなすということか。

 現在の考え方では、どちらの機関についても非常勤となって応募が認められないことになるが、明確にされていない部分もある。

 今までは「常勤」という概念と「フルタイム」という概念がイコールであるという暗黙の前提があったが、今後はその部分を明確にしなければいけない。

 2ヵ所の研究機関に所属する研究者で、片方が利潤追求の会社であれば、そちらからの応募は認められないということでよいか。

 現在は、民間の企業等に所属する研究者であっても、所属機関が文部科学大臣の指定を受けていれば、応募資格は認められる。また、利潤追求の研究は科研費の交付対象とならないが、学術研究であれば交付対象となる。従って、民間の会社であるかどうかが問題とはならない。

 研究を主眼にして資料3別紙の図を考えると、1の枠の中に学長が含まれており、応募資格が認められている。他方、国立大学が法人化されると、理事という役職ができる。大学によっては、教授職にある研究者が理事となると研究職から外れるというケースがあるが、この場合、その研究者は科研費の応募資格を失ってしまう。学長は応募資格が認められるが理事は認められないとなると問題になると思うので、資料3別紙の1の枠内にある職種の中で、学長についてはもう一度議論する必要があるのではないか。

 この表では理事を外し学長は入れているが、理事や学長といった職名で応募資格を判断することはもう無理ではないかと考える。現在でも、選挙で選ばれれば、研究者ではない人が学長になることも可能であるが、そのような人を研究者とみなすことができるのかといった点についても御議論いただきたい。

 大学の事情にもよるが、大学が、学長及び理事は研究から外れ運営を担当すると定め、教授職との併任を認めないのであれば、科研費への応募資格を認める必要はないが、研究を行うことを大学が認め、教授に併任し、研究の場を与えるのであれば、応募資格を認めてもよいと思う。
  1の枠と2の枠の間に記載のある職名についても、状況には大きな差がある。名誉教授や客員教授、特任教授等に対しても、きちんと機関が科研費の経理管理に責任を持つのであれば応募資格を認めてもよいかと思うが、技術職員、研究補助員は他の研究者の研究を補助しているわけで、自らが主体的に自由な発想に基づいた研究を提案できるわけではない。また、先ほど意見があったように、他の研究費で雇用されているポストドクター等は、自由な発想に基づく研究はできないことになる。そのため、「研究機関への帰属度」として補助金の経理管理の可否でのみ応募資格を判断することは無理だと思う。

 勤務時間によって区別するという意見は少数だと思うが、この学長とか、理事とか、時間数で制限するのではなく、本務を全うしているかどうかという点で判断してはどうか。理事は理事の本務を全うしていて、かつ研究も行っているということであれば、本務を全うしているので応募資格を認める。あるいは教授でも、幾つか所属を兼ねても本務地があるはずで、その本務地である機関が経理責任を持つならば、応募資格を認めてよいのではないか。また、パートタイムの研究職員にはポストドクターが含まれるが、政府としてポスドク一万人計画が打ち出され、ポストドクターの数が増えている。日本学術振興会の特別研究員に採用されればよいが、非常勤職員で科研費に応募できない研究者が、自分の発想に基づく研究を行うために応募できる制度がなく、若手研究者が研究を開花させるチャンスが摘まれている。そのため、パートタイムの研究者は、本務地があるならば常勤・非常勤に関係なく、応募資格を認めるべきではないか。

 応募を受け付ける側の文部科学省及び日本学術振興会の実務という観点から考えると、研究者をどのように区別し、事務的に応募資格を制限するかは非常に難しい問題である。所属する研究機関が経理管理を行い、また研究を行う場が確保されていることを申請書の中に入れ込んで保証してもらうという形がよいのではないか。
  それから、応募資格として常勤の研究者か否かを問わない種目として「奨励研究」があるが、今年度から研究費の額を100万円まで引き上げ、応募資格の範囲を緩やかにするなどの改定を行った。そこで、どのような人たちが応募したかを精査し、またどういった問題が発生するかを上記問題の例として検討する必要があるかと思う。
  また、総合科学技術会議、あるいは科学研究費補助金審査部会でも問題になったが、応募課題を評価する際は、これまでの研究実績と提案内容のどちらに重点を置くべきかという議論がある。個人的にはこれまでの実績を重視すべきだと思う。というのは、今後、電子システムの導入によって、応募件数が非常に多くなること、審査資料の国際的漏洩、知的所有権の審査前侵害などの危険性もあるので、公開が可能である実績をもとにした審査という方がよい。上記問題に絡めて考えると、これまでどのように研究を行ってきたかという実績を課題評価の際に重視すれば、実績を積んだ研究者がこの趣旨に沿って応募するのではないか。

 若手研究者をいかに育てるかという観点から考えれば、パートタイムの研究職員であっても、科研費に応募して、それが採択されればフルタイムの研究職員としてその機関で雇用するという条件が付けられている場合は、応募資格を認めるという方法もあるのではないか。

 ポストドクターの中でも、今の意見にあったように、給料が支給されない研究機関研究員といったフェローシップのような制度があるが、そのような人でも応募できる枠を科研費の中に設け、課題が採択された人を研究機関が雇用するというのがよいのではないか。
  ただ、先ほど意見が出ていたように、プロジェクト型の研究資金によってポストドクターを雇用した場合、そのポストドクターは科研費には応募できないという制度にしなければならない。そこで雇用しているポストドクターはそのプロジェクト研究を行うことに特化して雇用されているのだから、このようなポストドクターに応募資格を認めると、自分の自由な発想に基づく別箇の研究が採択されれば、給料はプロジェクト型研究の方から支給されつつ自由な研究を行うことを認めることになり、問題がある。ただし、採択された場合はプロジェクトから外れ科研費の研究を行うというのであればよいと思う。

 基本的には、科研費が採択されても、その科研費だけで独立して研究できる場が保証されない程度の金額だから問題が出てくるのだと思う。基本は先ほど意見があったように、応募課題が採択されることを条件にして、実際に採択されたらその人を独立した研究者としてきちんと雇用するというのが本筋である。これは少し理想論過ぎて現実に合わないかもしれないが、その方向を目指すべきである。そういった意味で、プロジェクト型の研究資金で雇用された人には応募資格を認めないという意見は間違っている。そのような研究資金で雇用された人であっても、科研費が採択された際には、その組織から外れて独立した研究者になるということを条件に応募資格を与えるという形にしなければならない。もし採択されなかった場合は、それまで携わっていたプロジェクト型研究に従事すればよい。

 そのプロジェクト型研究の研究代表者が認めるのであれば、それでよいと思う。

 その場合、研究者本人の給料まで獲得した科研費から支給できるというシステムに変えればそれは可能かもしれないが、本人の給料は相変わらず別の研究資金から支給され、それは特定の目的の研究を行うためにその研究者が雇用されているにもかかわらず、その本人が全く別の、自分の発想に基づく研究を行うというのは矛盾しているのではないか。

 科研費に応募して採択されたら、その研究機関にフェローシップとして雇用してもらい、その研究機関が科研費の経理管理について責任を負うことが可能であれば、応募資格を認めるという意見に賛成である。そのようなポストドクター用の特別な科研費枠を設けることが可能であれば、よいと思う。

 今の議論は、今後の日本の研究を担っていく若手研究者が科研費に応募する道をどのように開いていくかということであり、可能な限り道を開く方向で議論が積み重なっていくとよいと思うが、問題点とその改善策を、今、幾つかお出しいただいている。

 若干違うケースだが、特に人文・社会科学系の研究者の場合、大学院を経て2、3年の期限つきの助手となっても、契約期間終了後のポストがなかなかない。また、日本学術振興会のポストドクターも極めて採用率が低く、かといって、人文社会系の研究者が多額の研究費を持っているわけではないので、研究費でポストドクターを雇うというケースはほとんどない。そうなると、助手を2、3年勤めた後、また大学院の研究生となる人も多い。本人の能力とは関係なしに、助手の身分である間は科研費に応募できるが、大学院の研究生に戻ってしまうと応募できなくなる。その「空白期間」をどうするかという問題が特に人文・社会科学系では大きく出てくると思う。この問題は、日本学術振興会の特別研究員に採用され、その期間が終了した人にも当てはまる。

 学術というものを考えたときに、どのような人に資格を認めるのかという点が気になる。確かに経理管理を行うためには機関に所属している必要があり、それから、門戸を開いてしまうと応募件数が増えすぎ、事務処理が過重になるということも理解できる。
  しかし、これからの学問がどうあるべきかということを考えてみると、例えば文科省関係でも、「戦略的創造研究推進事業」の「個人型研究」は、高校の理科の教師なども応募でき、そこから新しい学問が生まれるということがあり得る。科研費の場合、例えば芸大の教授でもある作曲家は応募できるが、職業作曲家は応募できないわけだが、今後様々な分野が発展して、または統合して、新分野を形成したりするときに、果たして本当にそれが適しているのか。あえて言うと、科研費は大学の研究者が行う研究を助成する高邁なもので、そこが研究の中心であるという発想が我々の中にあるのではないか。学問というのはもっと深いものではないかと思う。

 先ほど文系の例が挙げられたが、理系でも同じようなことが起きている。例えば生物系では、現在いろいろな研究プロジェクトが行われており、ポストドクターは就職先には困らないような、ある意味では喜ばしい状況にあるが、一方では、研究プロジェクトというのは研究目的が決まっているので、ポストドクターが自らの自由な発想に基づく研究を行うことはできず、その次の世代を担う若手研究者が育たない。一見ポストドクターのポストが多くあっても、プロジェクト型のポストがほとんどだとすると、これはある意味では大変憂慮しなければならない。日本学術振興会の特別研究員制度は非常に競争率が高く、応募してもなかなか採用されないという状況で、自分のやりたい研究を持っている若手研究者が進む道がふさがれていると思う。解決策として、日本学術振興会の特別研究員制度のように、給料と研究費の両方を助成し、自分の自由な発想に基づく研究を行ってもらうという制度を科研費としてもつくるべきではないか。

 これまでの御意見では、資料3別紙の図中の1で示した、応募資格を常勤に限定しようという御意見はなかったと理解している。また、2のパートタイムの研究職員(有給)は認めてもよいという議論の趨勢になっていると思う。その次のパートタイムの(無給)の部分にはポストドクターや名誉教授等が含まれるが、ここを認めると大学院生も応募できることになる。例えば、大学院生が大学院で勉強しつつ、土日は別の研究機関でパートタイムの研究者として無給で雇われている場合、先ほども申し上げたが、研究機関の側から見れば給料は支給しないが、所属の研究員という位置づけになる。そのような研究者が科研費に応募し、採択されれば間接経費が得られるというケースがでてくる。そうすると、「名義貸し」機関のようなところが出てくる可能性がないとは言えない。それをどのように制限するかがポイントになると思う。

 確かに、研究機関に所属している無給の研究者は存在する。それがいけないということではないが、非常に線引きが難しい。

 あらゆる人に応募資格を認めた場合、研究機関が研究費を措置せず、研究がしたいのであれば科研費を獲得するよう、所属する研究者に命じるといったことが起こり得ると思う。それはその研究者にとって本当によいことかどうか大いに疑問である。また、民間の研究者から、科研費の趣旨に合致しないような研究での応募が増える恐れがある。趣旨に合致しないため当然それらは不採択となるわけだが、応募件数が増えたにもかかわらず採択件数が増えないとすれば、総合科学技術会議から、民間企業の研究者を締め出しているのではないかということで、問題点としての指摘を受ける可能性がある。それは科研費制度にとって大変危険なことだと思う。

 どこまで応募資格を認めるかは非常に難しいが、科研費は、応募件数に応じて当該分野に対する分配額が決まってくる。そうすると、応募資格の制限が緩和された場合、不採択覚悟の応募が増え、分配のバランスが大きく変わってくる可能性があることは考慮しておくべきである。
  したがって、どのような研究に対し助成するかという優先順位を考えておかないと、結果として非常に大きな変化が起こり、その結果として、科研費制度の本来の趣旨とは異なる方向に変えられてしまうと、かなり大変なことになる。そのため、応募資格の見直しの検討は慎重に行うべきである。

 これまでの、研究機関に所属していることという条件と、常勤であることという条件が、どのような意味で付けられたかという問題がある。もちろん科研費は、個人の自由な発想に基づく研究に対して助成する制度だが、もともと大学等の研究機関に所属している研究者で常勤という条件は、その研究者個人の研究を進めると同時に、大学等の研究機関がサポートする体制があることの保証と、また、その研究者が所属研究機関で研究することによって、研究機関自体もある意味ではその研究を進展させることができるといった目的で附されているのではないか。その条件を明確にしないと、個々のケースについて、応募資格の有無の判断が非常に難しくなる。

 大学等の研究機関に所属していても、技術職員とか、研究補助員といった人はある目的のために雇われているので、個人の研究に従事するというのはなかなか難しい。研究機関に所属しているかという点だけでなく、そのような職種による立場についても考えるべきである。
  それから、応募資格を制限すると若手研究者の芽を摘んでしまうという事態には何らかの対策を立てるべきで、そのために研究費と生活費の両方を助成する制度を別に設けてもらいたい。

 理工系や生物系はともかく、人文・社会科学系の場合も、研究機関に所属している研究者に応募資格を限定しても特に問題はないのか。

 科研費への応募資格については、人文・社会科学とその他を区別することなく、一般的に論じることはできるだろう。

 それは国立大学という研究資金が豊富な機関に所属する研究者だけではないのか。

 研究費が豊富ということは全くなく、だからこそ科研費を必死で獲得しなければならない。
  学問の公共性を考えると、人文・社会科学は教育と研究が一体となって学問を進展させており、趣味として小説を読んでいるという話とは全く異なる。それから、学問の公開性ということで、常に公共の場に進み出て批判を受け、それをフィードバックしながら研究を進展させている。人文・社会科学は今や世界を相手にしているので、自宅にこもり研究を行っているような人が科研費に応募することはない。

 人文社会科学系というのは、理科系と異なり、これまでの研究成果の積み重ねの上に一つずつ石を積み重ねているような学問だと思う。今までの研究の積み重ねというのは大体図書館にあるわけだが、研究機関に所属していなければその機関に附属する図書館は使えない。それぞれの研究者は、その大きな基礎的積み重ねの上につけ加える部分を、本を一生懸命読みながら研究している。ある意味では本を買えば、それで研究費が十分という意味ではないが、何とか研究はできるので、一人一人の研究費は少額でも済む。しかしいまや自分一人で自宅で研究し成果を発表するという形だけでは、大きな研究成果の積み上げにはならない。自分が積み上げた成果の上にまた後の人が新たな成果を積み上げていくというのが人文・社会科学の進み方だと思うので、その点は理科系とは違うかもしれないが、基本的には理科系も文科系も、研究機関に所属して研究を行うというのが本来の形だと思う。

 この応募資格の問題は、ある意味では学問の本質論にも関わってくる。それから、科研費を獲得して学問を行う人とは何なのか、その応募資格を持つということの意味は何なのかといった、教育や研究の本質論にかかわってくる部分を持っているが、その本質論を議論していると、目前に迫っている来年度分の公募までに答えが出ないので、本日の議論を整理し、次回もう少し詰めた議論を行いたい。


(2)  独立した配分機関体制の構築について

 事務局から、資料4に基づいて説明の後、質疑応答があった。

 文部科学省から日本学術振興会へ種目を移管することが望ましいということは、昨年5月に本部会が取りまとめた「科学研究費補助金制度の評価について」においても述べており、それから総合科学技術会議の意見としても発表されているが、条件が明確にされなかったこともあり、なかなか進展していない。そこで、再確認すると、この1枚目の表の中で萌芽研究、若手研究のA・B、特別研究員奨励費、学術創成研究費に関しては、資料で示した条件すべてを満たしている。
  それから、残りの種目についても、条件を満たしているものが相当あるが、この点について御意見をお聞かせいただきたい。

 すでに定着した研究分野についてはこれでよいと思う。問題は新しい分野等に対してどのように対応するかである。日本学術振興会に全ての種目を移管した場合、システムが硬直化する恐れがあるのではないかという心配がある。個人的な印象では、行政官は外部のいろいろな情報が入ってくるので、研究者よりも世界全体の動きについては敏感なところがあり、また、何らかの問題が生じた際に、それを修正する手段を行政サイドの方に残しておいた方がよいのではないか。機械的に全部移管することについては反対である。

 科研費の日本学術振興会への移管については、短期的と長期的ということで、この前期、後期と書いてあるのは妥当な選択ではないかと思う。
  また違った観点で申し上げると、短期的な観点として日本学術会議から審査員を推薦してもらうという制度があったが、総合科学技術会議からはこの制度を見直すべきという意見が出されている。これに関連して、文部科学省、あるいは日本学術振興会で審査員のデータベースを早急に構築する必要がある。ここ二、三年が勝負という状況にあり、大量の個人データを収集するので、物理的に一挙にいかない部分がある。
  それから、移管が行われた場合には日本学術振興会の事務処理量が増えるわけだが、それにもかかわらず人員を削減するということになると職員に過度の負担がかかってしまう。文部科学省と日本学術振興会の事務レベルの協議において、申請時期、審査方法、評価方法など制度を改善できる部分は変えていくべきだと思う。
  長期的な観点からは、予算要求の仕組みを考えないといけない。というのは、概算要求は文部科学省から財務省に対して行うわけだが、全ての種目を日本学術振興会に移管してしまうと、年月が経つうち文部科学省において科研費の実務を理解せずに予算要求を行うことになるのではないかという心配がある。今の予算編成の仕組みが続く限り、文部科学省内では、例えば新しい種目を開拓するなどある部分の実務を担当しつつ予算要求を行うような仕組みは省に残しておくべきであるろう。

 移管先の日本学術振興会の側からの意見として、制度を事務レベルで改善できるのであれば改善していくべきということと、現在の事務体制のままで全ての種目を移管することはできないということ、それから、どのような形で予算要求を行っていくかという、3つのポイントが出された。
  今回の結論としては、文部科学省の側では,今回資料4に示された考え方に従って条件の整ったものから着々と移管の準備を進め、それに見合う仕組みの制度改善および日本学術振興会の事務体制の強化を同時並行的に進めるべき、ということになるので、よろしくお願いしたい。

 種目の移管については本部会において、将来的に条件が整えば移管するのが望ましいという結論が出ているので、その条件が整っているところの御確認をいただいた。予算要求は文部科学省が行うが、問題点があれば日本学術振興会と文部科学省の事務レベルにおいても改善を図っていきたい。また、現在は条件が整っている種目についても、今後状況が変わる場合もあるということを踏まえた上で、御了承いただいているということを御理解いただきたい。


(3)  研究費全体の中における科学研究費補助金の在り方について

 事務局から、資料5に基づいて説明の後、質疑応答があった。

 この資料を見て1つ目についたことは、5「他省庁の競争的資金」が平成11年度と16年度を比べるとパーセンテージも金額も減っているという点である。これだけ競争的資金が強調されている世の中にありながら、これは競争的資金という範疇から抜け出た制度が結構あるということを意味しているのか。

 そのように捉えてよいものか、当事者以外が判断することは難しいと思う。

 413以外の文科省の科学技術関係経費」は、全部私立学校の経費と見てよいか。

 4の中には、宇宙とか、原子力とか、さまざまな経費が含まれる。

 今の質問に関連して、科学技術関係経費の中には、国立学校関係の経費全てが含まれていると理解してよいか。

 科学技術関係のみの金額を、一定の数式に基づいて算出したもので、教育関係は除いてある。

 私学関係も取り込むべきと思うが、どうなっているか。

 私立大学等研究設備整備費補助金など、私立学校の研究費も含まれている。

 国立学校の方では、一般的な管理費とか教育費は除いて研究費に当たるものを計上してあるのか。

 昔、科学技術関係経費を算出することとなった際に、旧文部省としてどのように算出するか難しい面があった。国立大学の研究者が、科学技術に関係した研究を行っていないというわけにはいかず、大雑把ではあるけれども、できるだけ実体に近づけるという方針で科学技術関係経費を算出することとなり、施設整備費など教育と研究の両方に用いられるものについては、2分の1を計上することとなった。
  今後、運営費交付金で全体が見積もられる場合に、使用用途は各大学によって異なり、今までの方法では算出できないが、これまでの国立学校特別会計における科学技術関係経費に相当する割合をそのまま運営交付金に当てはめて推計するといった工夫をして算出している。

 理化学研究所等の独立行政法人の運営費交付金などもこの4の中に入っている。
  補足すると、国立大学関係、国立大学と大学共同利用機関関係は、国立学校特別会計制度のときにかなり細かく中身を区分し、費目別に積算した。平成16年度からは運営費交付金ということで仕組みは変わるが、第2次科学技術基本計画中は、とりあえず特別会計制度のときの科学技術関係経費に相当する値で算出している。
  また、先ほど質問のあった、平成11年度と16年度との比較において、他省庁の競争的資金が金額もパーセンテージも減っていることの原因としては、平成11年度は、まだ文部省と科技庁に分かれており、科学技術振興調整費等の科技庁分の一部だけが、科研費以外の文科省の競争的資金という部分に入っていることによるもので、単純な比較が難しい部分もある。

 科研費の予算は増額しているが、教育研究基盤校費の予算は増えていない。国立大学の研究者には、科研費が増額されている分、教育研究基盤校費が減額されているのではないかという疑問がある。また、科研費は科学技術関係経費の5%を占め、予算額も増加しているとのことだが、科研費以外の競争的資金を含め、他の経費との関連等、政府全体として考えなくてはならないのではないかという意見が前回あった。そのため、精査して資料を作成するよう事務局に依頼した。全体像が見えてきたということは大事なことであろうと思う。資料の作成に努力していただいたことに感謝し、本日の審議を閉じたい。


(4)  その他
  事務局から、次回の第11回研究費部会の開催予定について連絡があった。

(研究振興局学術研究助成課企画室)

ページの先頭へ 文部科学省ホームページのトップへ