平成17年1月27日(木曜日) 10時~12時
文部科学省M9会議室(三菱ビル地下1階)
土屋主査、西村主査代理、今井委員、入来委員、岸委員、倉田委員、佐原委員、永井委員、西森委員、根岸委員、林委員、山本委員
三浦情報課長、當麻学術基盤整備室長、大山学術基盤整備室室長補佐、上田情報研究推進専門官
(学術調査官) 逸村学術調査官
◎ 自由討議の概要は、以下のとおり。
(○・・・委員、学術調査官 △・・・事務局)
○ 電子情報通信分野では、アメリカが発祥であるIEEEとACMという学会が国際学会に発展 しており、研究成果情報の受発信の国際的なアンバランス状態がある。電子情報通信は、我が国にとってこれからの時代を支えていく基幹産業であり、関係の学協会は日本からの情報発信に非常に力を入れている。
我が国は国内からだけの情報発信ではなくて、アジアのリーダーとなるべきである。国粋的である必要はなく、例えば英文論文誌なら2~3割はアジアからの投稿を受け付け、その日本発の国際雑誌が広く読まれるようになればいい。それにより、アジア諸国で技術基盤を確立するときに日本の顔が見えるようにするべきである。
学会誌にも、やはり経営という観点がこれから重要になってくる。雑誌が無料提供されている場合も、元をたどれば学協会の会費等から支出されているものであり、学会が存在しなくなれば、出版母体そのものがなくなってしまう。現在の日本からの学術情報発信の基幹となっている学協会の足腰が弱るような形でのオンラインジャーナル発信では、残念ながら宝を壊していくことになる。
電子情報通信学会は、NIIの国際学術情報流通基盤整備事業に参加しており、学協会の電子ジャーナル発信のビジネスモデルの確立について期待している。また、J‐STAGEのプラットフォームとしての機能は、日本の学協会や大学が世界に情報発信するときの基幹機能としていくべきである。
オープンアクセスについては、ナショナルプロジェクトで発展させる考えもあるが、電子情報通信分野では、今進めるべき方法ではないと認識している。少なくとも現状は、研究コミュニティが支える情報発信が中心となるべきものである。
○ まず、国家として情報を使って国益に資するような戦略を考えていくべきである。戦略無しでは、ともすると技術運用の方に執着してしまうことになる。そのためにはわが国が、知の蓄積によっていかにして国際的なプレゼンスを持つか、ということを常に意識していかなければならない。文化としての科学技術は西洋のものであるので、西洋を見る必要はあるが、それとともに日本のプレゼンスを意識していかなければならない。
次に、科学技術の成果の発信について我が国から新しい概念を発信・普及する必要がある。現在、インパクトファクターが猛威をふるっている。その成立・普及過程は承知していないが、これは欧米が新しい概念として作って普及させ、意識してではないかもしれないが、自分たちに有利なようにしていったのではないか。オープンアクセスに関しても、新しい概念としてPLoS(Public Library of Science)というものが出てきている。日本から、今までには全くなかった、日本型で、日本のプレゼンスを保ちながら世界に貢献できるような新しい概念を作り、システムとして普及させることを考えるべきである。
外国の学術書が日本語に翻訳されたものは圧倒的に多いが、日本語のものが外国語に翻訳されたものは、コスト・技術の問題からほとんどない。知の普及についてアンバランスがあるが、資金的に支援するシステムがない。民間レベルでの翻訳文化を支援するシステムを構築して全体的なレベルアップを図り、西洋文化の中での日本のプレゼンスを確立し、独自性を出していく必要がある。
○ 材料分野は、日本の論文が16~17パーセントあり、我が国が比較的強い分野である。すでに、いくつかの英文論文誌が連携して、科研費を活用して新しい雑誌を作っているが、苦戦している状況である。原因の一つには、「アドバンスト」として既存学会誌との住み分けをねらったのだが、学会誌はもともとアドバンストであるため、うまくいかなかったことがある。レビュー誌にするなど、コンセプト等を工夫して打開しようとしているが、科研費を打ち切られてしまったので難しくなっている。また、この雑誌の出版は外国の出版社がやっている。編集権が日本にあるから日本の雑誌というのか、評価が難しいところである。
日本学術会議でも今後についていろいろ検討しているが、主には「自然に任せるべきであり、人工的には難しい」という意見であり、やはり日本は学会ベースの学術雑誌を基本とする体制が中心であるべきであると考える。しかし、いい研究者は日本の学会誌にはほとんど興味がなく、Nature等の有名誌に掲載されることを望む。こうした環境下でどのようなことが出来るかが問題である。
また、インパクトファクターについては、いろいろな見方があるが、この方法は評価結果を定量化して予算獲得を行うための手段となっている。個人的意見だが、飛びぬけたものを除いては、論文数と引用数は比例しているように感じる。この辺は今後十分に吟味していく必要がある。
○ 「無料で見せてよいのか」という意見もわかるが、オープンアクセスを進めるのかどうかという問題は、現在の学術情報流通が非常にグローバルなものになっているため、欧米の全体の動向を無視して議論はできない。
欧米で「オープンアクセス」と言われる理由は、電子化により、従来の冊子体と物流の考え方が根本的に変わってきたからである。一方で変わらない部分の根幹はピアレビューであり、これを捨てることにはならないし、学会が主体的にやっていかなればならないものである。
大きく異なってくるのは、「見せ方」であり、電子化によって流動的になっているので、重要なのは、アクセスできるかどうか、目立てるかどうか、である。これはある意味大きなチャンスである。既存の商業出版社が長年やってきたところにくい込むのは大変なことであるが、電子ジャーナル化やオープンアクセスにより根本的に流れが変わりつつある中で、日本が戦略的に取り組み、優位に立てるかという議論が必要である。
○ 平成10年度補正予算から、物理系学会の要請によりJ-STAGEを開始したが、運用によりはっきりしたのは、電子ジャーナルのプラットフォームの整備だけではなく、海外の研究者がなじんでいる案内リンクに入っていることが、アクセス数を多くするために重要だということである。主要な論文を見る研究者は、電子ジャーナルに直接アクセスするというよりは、いろいろな検索をすることの方が多い。つまり、世界の研究者が慣れている、論文の内容を分析的に検索できるような案内データベースに力点を置くことが重要である。
また、学術情報発信は文化立国的な位置づけでの予算獲得も必要である。日本で作られている良質な本、雑誌、データベース、例えば失敗知識データベースなどを英文化して発信する必要がある。
○ 学術情報の流れがどうしてこうなったのか、歴史的経緯の把握が必要である。かつては、工学分野ではIEEE,ACMなどの学会が中心で、Natureなどの総合誌はほとんど知らなかった。いつのまにか大学が億を超えるお金を商業出版社に払っている状況になっているということに、つい最近まで気がついていなかった。Natureをはじめとする商業出版社が論文投稿において非常に大きな存在になった経緯について、歴史をたどる必要がある。Natureへの掲載が名誉になってしまう風潮が研究者間で広まってしまうと、独占集中が起こるのは必至で、解決するのは非常に困難である。
Natureに関しては、純粋なピアレビュー誌ではなく、半分はニュースや解説である。学術論文についても、一次査読は編集者が行い、半分の投稿論文を不採用にする。不採用の基準は、学術論文としての重要性ではなく、面白いか否かというマーケティングとしての判断である。この考え方をNatureが確立したことが重要であり、出版者側からすると非常に興味深く、日本の出版社にも検討を依頼しているが興味はないようである。
○ 学会で学術雑誌を販売する現場との議論の乖離があるのではないか。現場では、日本の学術誌の中で、経営基盤を考え、雑誌を売ろうという学会があるとは思わなかったと言われたことがある。そもそも学会に自分の学術誌を売るという発想が育たなかった理由の一つには、科学研究費補助金の問題がある。学会は国から補助金をもらうことばかり考えていて、自らの努力を怠っているが、しかし、国からの補助金が全て切られたらどうしようもないのが現状である。これをどうするかをまず考えるべきである。
また、電子ジャーナル化により、物流の中での情報交換でなくなり、どのように対応していくかが問題であり、文部科学省がどう支えるかを考える必要がある。
Webに掲載すればアクセスは可能となるが、SCOPUS、Web of Science等2次情報データベースが網目のように張りめぐらされている中、J-STAGEに電子ジャーナルを出すことだけで、本当に発信機能の強化といえるのかは疑問である。生物系では、電子ジャーナルパッケージを作ったことで、商業出版社の在り方や学会がやってきたことを見直すことになった。J-STAGEは大事なシステムであるが、これからは、学協会が商業的な出版も含めて「何がどうなるのか」ということを知っていることが、非常に重要である。
Natureには、日本人の研究者から、自分の論文が掲載されなかったことに対するクレームが多いそうだが、これは日本の研究の状況を端的に表している。
「Natureに載ることが評価につながる」ことがどういうことなのかを考えなければいけない。また、インパクトファクターが、なぜ日本でこのような形で利用されることになってしまったのかをもう一度考えなければいけない。COUNTER(Counting Online Usage of NeTworked Electronic Resources:オンライン利用統計の国際基準) の確立等により、今後はアクセスの状況が詳細に把握できるようになるが、単に「アクセスされている論文が本当によい論文」と言えるかは疑問である。キーワード検索してたまたま引っかかったものを、少し見ただけで利用しないで終わるというようなこともある。
いいジャーナルを作るにはどうすればよいかであるが、Nature、Scienceは特に意識せず、インターナショナル・スタンダードの中で、本当に自分たちの出している電子ジャーナルがどこへ出しても恥ずかしくないものなのかを考えていくべきである。
○ 物理系では最近まで状況をあまりつかめていなかった。80年代中ごろから学会の経営状態が悪化し、収入は減少の一途をたどっている。調べてみると、80年代中頃から日本人の米国(Physical Review)への投稿が増え、日本の学会誌の掲載論文数が減っていた。経営的にも問題で、危機的状況になると予測された。財政的・人的な資源を投入して打開する必要があったが、その必要性を説明しなければならなかった。
そこで、「マーケット主体・マスメディアのマガジンと異なり、ジャーナルは基礎研究の振興を担っているということを誇りとすべきであり、目的としており、売れることを目的としていない。」、「日本でジャーナルを持ち、編集・販売していくことは、何を研究するかを含めて、研究の評価能力の育成・強化、研究価値に対する判断基準等に対する主体性の確保のために必要である。」と説明している。
物理系の学会誌では、電子化に当たってのサイトライセンスや、専任の編集長制度の導入などの努力をしている。
○ 世界で活躍する場があるのに、なぜ日本の学会を支援する必要があるのかということについて、理論武装する必要がある。日本の研究水準が上がり、国際的な場での発信も増えてきているが、なぜ国内でそういうものがいるのかを政策論としてはっきりとしておく必要がある。国際学術情報流通基盤整備事業では、NatureやScienceがあるのに、国費を使ってなぜこんな馬鹿なことをやるのかと言われることがある。
また、欧米の学会誌がオープンアクセスに移行し、評価の高いものが無料で公開され、あまり評価の高くない日本の学会誌が有料で提供していたのでは、両者の差は広がるばかりである。これは、非常に大きな問題であり、我が国の国益として、オープンアクセスに対しては特別に政策的に対応すべきである。研究者や学会はそれぞれ自分の立場があるので、全体を見渡した上で政策的に対応策を議論していく必要がある。統計が緻密にとれるようになっているので、補助金の出し方もアクセス頻度に応じて還付する、といったうまい仕掛けが必要である。
研究を支援する目的で競争的資金として出すのは当たり前だという考えはあるのに、研究の成果発表のところにお金を投入するとなるとダメ、という風潮があり、これについても発表を含めた全体を研究としてとらえるよう、理論武装をする必要がある。
○ 学会での運用の現実として、化学系でも最初の電子ジャーナル化の時には、運用、経営的観点がなく、システムだけが出来上がっておしまいという格好になっていた。これを打開するために努力し、J‐SATGEを活用した結果、論文を受け付けてから公開までの期間が他のジャーナルと比較して世界一速くなり、投稿数が前年比1.5倍、掲載論文数1.3倍、リジェクト率5割以上というジャーナルになっている。
このように活動してきた中でわかったことは、研究者と末端の印刷会社の中間を支える人材が不足していることであり、この人材育成が非常に重要な観点ではないか。また、冊子体から電子ジャーナルに移行することは業務そのものが変わってしまうことである。図書館職員や学協会の職員は今までのままではいられないはずであり、新しい姿を探さなければいけない。国の政策として昇華させることができるとすれば、学術情報流通の産業を国として育成するという観点があると思う。すなわち、研究費を含めた税金の流れの交通整理をするということにもなる。
オープンアクセスは理念としてすばらしいものであるが、英国化学会は、学会の収益の75パーセントを出版事業から得ており、それを使って研修活動等を行っているサイクルになっている。オープンアクセスになるとこのサイクルがうまくいかなくなるので、そう簡単にオープンアクセスは進むものではない。
○ 人文系では、私の所属学会は300人程度の小さな学会であるが、国際的な発信を考えると日本語だけでは読まれないため、英語の論文誌を出している。年1回、5~8本の論文を掲載しているが、人文系は論文を英語で書くことが困難であり、会員だけでは手に負えず、海外や非会員の論文も受けつけ、内容を十分にチェックするというサービスを付加してやっと集めている。この作業を自分も担当したが、非常に大変なものである。手直ししてよい論文に仕上げることができるので、その意味では大変成功したと思っている。また、この分野では、海外の学術雑誌は投稿してから掲載されるまでに2~3年と非常に時間がかかるので、速報性によって特色を出している。
また、別の所属学会では、国立情報学研究所からサイトライセンス契約についての誘いが来たが、サイトライセンスを導入すると現在冊子体で買われているものが止められてしまう心配があるという問題がある。しかし、弱小の学会にとっては、サイトライセンスにより多くの人に読んでもらえる機会が増えるというメリットがあり、オープンアクセスについては、学会の規模や歴史などの要因で影響は異なってくる。冊子体で買っているところには電子版を無料で提供し、そうでないところについて1件当たりいくらというような形で有料にする、場合によっては無料にするという選択肢もあり得る、という方法が一番適当だと思われる。
○ Webベースの学術情報流通をいかに構築していくかの考え方は、分野によって異なるのではないか。その際、分野コミュニティのこれまでのやり方に変更を伴わないことが必要で、時代に対応したコンテンツを作っていくマネージメント能力が求められる。例えば、PDFは10年後には残っているとは思えず、電子の時代では、10年後、50年後、100年後にも対応できるモデルを考えておかなければならず、こうした理念を踏まえた上での編集、査読、配布の体制を考えていかなければならない。今、日本で弱いのは編集体制であるが、この強化は、専任化などお金のかかる話になり、どのように支援していくかは議論すべきところである。
サイトライセンスについては、学生や研究者に金を払えというのは無理なので、誰かに負担がいくことになる。現実は、図書館が負担してフリーで利用できる形になっており、ある程度の平等性が確保されることが必要である。
レポジトリについても学会と図書館で考え方が異なるので、国際的情報発信の観点からも、どこかで折り合いをつけていくことを考えていくべきである。
○ インパクトファクターは、アメリカのISI社のユージン・ガーフィールドが、論文の引用状況を溯って検索できるCitation Indexという雑誌を作ったのが始まりである。さらに、その情報を蓄積すると、ある論文が何件引用されたかがわかる統計情報がでてくる。こういう各雑誌の引用度などの統計データをCitation Indexから計算して、「JCR:Journal Citation Reports」という資料を作成している。 このうち、過去2年間における各雑誌の掲載論文の平均引用数をインパクトファクターという。図書館は予算が限られているため、雑誌のレーティングとしてインパクトファクターを利用し、各分野のコアジャーナルを選定し、図書館の使命である多くの人に読まれるジャーナルを購入する際の参考にしている。インパクトファクターは、ガーフィールド自身も言っているとおり、本来は図書館における購入雑誌の選定基準である。しかし、わが国では個人の業績評価に利用されているのが現状である。
○ 70年代の後半から、アメリカにおいて引用を数えるのがブームになった。一方、図書館においては置き場所の問題を含めて雑誌をどう扱うかについて議論があった。そのときに、インパクトファクターによる分野別の雑誌の格付けリストができていたため、それをそのまま図書館員が先生に説明する際の資料に用いた。最初は参考資料程度に活用していたが、研究者自身が持っている雑誌の格付けの印象とよく合っているために重宝されるようになった。
○ インパクトファクターは、我が国学会の弱体化の要因である。我が国の研究機関系が独立法人化により数値目標の設定が求められたことが背景となっている。インパクトファクターを出しているISI社でさえ、個々の論文の評価は出来ないと言っているのに誤った使い方をしてしまっている。
○ インパクトファクターの使われ方については、雑誌の評価、論文の評価、研究評価といったような観点で情報発信を考えて整理していければと思う。
○ ある商業出版社の雑誌の編集長の話では、中国と日本からの大量の論文投稿に困っているそうである。特に中国では、研究者の評価が論文数で行われるように変わり、そのために大量の論文が中国から投稿されるようになった。今後、中国も評価にインパクトファクターが使われる危険性もある。
○ インパクトファクターの歴史的な経緯については、改めて説明の機会を持つこととしたい。
○ オープンアクセスについても解説をお願いしたい。
研究振興局情報課学術基盤整備室
-- 登録:平成21年以前 --