資料2 学協会等の学術情報流通・発信に関して学術情報基盤作業部会(第38回~第41回)で出された主な意見

1.学術情報流通・発信と国際化の進展

  •  現在の論文誌だけでなく、次世代の科学者のコミュニケーションメディアなどの将来を見据えつつ、それをどのように研究に役立て教育に生かすかという視点が重要である。これは、学界の将来あるいは研究者コミュニティの将来を考えていくことに他ならない。
  •  日本で雑誌を刊行する意義としては、日本の学術研究、広く言えば文化をあらわす顔になるということがある。新しい分野を切り開くような日本発のオリジナルな研究成果があって、それに続く研究が諸外国からも日本の雑誌に来るようになると、その雑誌がその学術分野の発展の受け皿となる。
  •  日本発のジャーナルがなければ査読プロセスを外国の組織に任さざるを得ないが、その場合には、研究のプライオリティの確保の観点からはリスクがある。我が国の研究者にとっても、迅速・公正な査読が行われるジャーナルが日本にあることが必要である。
  •  人文社会系の電子ジャーナルを検討する段階では言語の問題が出てくる。研究分野によっては、先端の研究をコミュニケートするのが英文とは限らない分野、あるいは英文だけに限らない分野、工学系、地域性がある分野、医療系など、多様性への配慮が必要である。

2.学協会等による学術情報流通・発信

  •  日本化学会が中国を巻き込んで始めたChemistry-An Asian Journalはエディターと投稿者が真剣に取り組むことにより、短期間でインパクトファクターの高い雑誌を出すことができた。日本、中国、韓国、アジアを合わせると世界全体の論文のシェアの3分の1を占めており、日本がどのように国際的な責任を果たしていくかという問題がある。
  •  電子情報通信学会は、国際学会を目指しており、論文誌は、海外から多くの投稿があり、日本の掲載論文数が2番目になるなど、既に国際化が進んでいる。また、バンコク、北京、上海、シンガポール、台北に学会の海外セクションを持っており、アジアに軸足を持って展開をしている。これらの活動は、研究だけでなく日本の産業の国際展開につながるものである。
  •  経済学における最近の大きな改善点としては、日本の若手の国際情報発信能力がとても上がっており、従来は、アメリカの大学でPh.D.を取らないとなかなか海外のジャーナルに論文を出せなかったが、現在は、日本の大学から国際的に評価の高い雑誌に論文が掲載される若手研究者や大学院生が出てきている。インターネットのおかげで海外との情報の格差がほとんどなくなっている。
  •  海外への研究成果発信のためには、論文は基本的に英文で書くよう義務づけるのが望ましい。例えば、日本語を対象にした言語学の研究でも、英語で書くことは可能であり、欧米やアメリカにも研究者がおり、日本語でしか書けない論文はない。例えば、源氏物語に関する国際会議の公用語は日本語であり英語にはできないという議論があるが、海外への発信のために源氏物語の論文を英語に直すことは可能である。
  •  関連領域との連携があっても、日本の学協会は、世界から見ると小さい学会が多く、単独機関によって努力や改革をし続けていく持続性には限界がある。技術力をとっても、急速に進むIT化に対応させていくのは、なかなか難しい状況にある。情報力に関しても、学協会間の学術出版に関する情報リテラシーが平準化されていないという問題がある。
  •  小規模から大規模学会までの連携が重要であり、学会が強制されることなく自主性に基づいて活動できるようにレベルを底上げするとともに、トップランナーを育成することが必要である。

3.学協会誌のオープンアクセス化

  •  日本で購読誌を新たに刊行するのは極めて難しく、規模が小さく少タイトルの雑誌を刊行しても世界の図書コンソーシアムに販売することは、ほぼ不可能といえる。そのため、日本から新規に情報発信を行うには、オープンアクセス誌を前提として考えざるを得ない。
  •  購読誌では少数の出版社がいわば独占的に価格をつけるのに対し、オープンアクセス誌は著者が投稿先を選べるため競争原理が働き、相対的にはオープンアクセス誌の方が経済的であると考えられる。ただし、投稿料が無料の雑誌もあり、放っておいても進まないので、何らかの仕掛けが必要である。
  •  大手出版社の学術誌は毎年5%購読料が上がっており、世界中の大学の図書館の予算を圧迫しているため、すぐに商業誌に代わるのは難しいかもしれないが、学術的な権威が保証されるようなシステムが確立できれば、オープンアクセスジャーナルの方向が出てくる可能性はあると思う。
  •  購読誌モデルが定常化すると、雑誌の値段が上がり図書館の負担が非常に大きい。一方、オープンアクセス誌は、図書館の経費負担はないが、そのかわり著者が掲載料を払う。図書館の購読費も著者の投稿料も元をたどれば公的資金であり、図書館経由から著者経由にリダイレクションできれば、オープンアクセス誌は自立できるのではないか。
  •  著者には、オープンアクセス誌に投稿するインセンティブが必要であり、科研費の制度をオープンアクセス誌に対応できるよう改善することが考えられる。また、研究機関や大学が、オープンアクセス誌への著者の投稿を支援することが考えられる。

4.学協会自身による国際発信力の強化

  •  英文化については、きちんとした英文にして論文を出すことがすごく大事だと思う。テクニカル・エディティングのサポートは、基本的には本人の責任でやるのか、学協会がある程度サポートしているのかは学協会によって対応が異なる。専門領域の技術を身につける人たちを計画的に育成するような仕組みを考える必要があるのではないか。
  •  日本の学会はどこもビジネスの感覚がない。出版はビジネスなので、少なくとも海外との関係では、商業出版社と組んで学術面を学会が担当するとうまくいくことが多い。
  •  植物生理学会のPCPの強みとしては、出版社との間でさまざまなコミュニケーションを行い、定期的な戦略会議を行うなど、出版社をシンクタンク的な要素として使っていることである。学会と著者・読者である研究者、サポートする出版社のすべてがWin-Winの関係にならないとお互いに発展がない。
  •  日本物理学会は応用物理学会と共同で学術誌刊行センターを運営しており、次期オンラインシステムの検討や販売力の強化が課題である。自前でシステムを開発し直すには非常にコストがかかり効率が悪いため、様々な検索機能や携帯端末への対応など最新の情報通信技術への対応と販売力を考慮して、次期のJ-STAGEや海外の標準的なシステムを利用することを検討することとなる。
  •  アメリカの学術誌の出版では、エディトリアルボードにポスドクを入れて一緒に議論、経験させることで人材育成を図っている点が日本の学会誌との一番の大きな差である。日本では、学会によっても違うと思うが、エディターの層が薄く人材育成も不十分である。
  •  電子出版、電子出版ライセンシング、国際活動における渉外活動、あるいはPR活動、そしてそれらをコーディネートする人材が、学術誌の問題を解決する人材として必要ではないか。
  •  スケールメリットを生かした合同政策出版体制の構築やパッケージ化によるバーゲニングパワーの創出、オープンアクセスプラットフォームの構築、専任編集長の雇用による質の向上、人文社会科学系のジャーナルの電子化など、学協会の自主性を尊重したリーディングジャーナルの育成と成果の他学会への展開などに取り組むべきである。

5.科学技術振興機構(JST)及び国立情報学研究所(NII)事業の強化・拡充

  •  JSTのJ-STAGE3では、J-STAGEとJournal@rchiveを統合して、創刊号から最新号まで1つのサイトで検索・閲覧できるようになる。海外の商業出版誌と同様に世界標準のXMLベースで開発を進めており、互換性・流通性の向上を実現するとともに、投稿審査システムについても、海外で標準的に使われているものを用意することが重要である。
  •  JSTのJ-STAGEに載っていた優秀な雑誌が海外の出版社のプラットフォームに移ることについては、現実にはビジネスの問題等があると考えられる。学協会の考え方は自由であるが、J-STAGE等を通じて日本の学協会のジャーナルを国内から発信していくことによって、国内の学協会の活動の1つの大きな柱であるジャーナルの発刊する力、それから投稿審査を国内で行う力を我が国が持つことは重要ではないか。
  •  NIIのSPARC Japanの展開としては、日本の環境に合ったオープンアクセスの検討、セルフアーカイブによる研究者の成果の機関リポジトリへの蓄積への取組、それから学協会誌のアドボカシー活動、学協会誌の国際競争力を高めるためのパイロット事業などが必要である。学協会等による編集委員レベル、事業レベル、事務レベルでの情報の共有の場については、一部SPARC Japanで実現しているが、まだまだ足りていない。
  •  オープンアクセスに関する国際的な活動として、SCOPE3やarXivがあり、NIIが日本の窓口として大学図書館や関係機関と密な連絡をとりながら進めている。また、国際連携においては、SPARC JapanとSPARC US、SPARC Europeとの情報交換が重要になっている。さらに、連携強化した後のステップ、要するに利用者側から見た利点に関しても考慮すべきではないか。
  •  学会誌・紀要論文の情報発信については、NIIのCiNiiというポータルで提供している。学協会の作るいろいろな雑誌、大学の機関リポジトリ、紀要、それから国会図書館のつくるデータベース、J-STAGEの情報を全部集めて、それを同定して、全文にアクセスできるようにしており、サービス連携とかデータ連携拡充、それから電子化の継続等を続けていくことが重要である。
  •  我が国の学協会の電子ジャーナル群、あるいは大学の機関リポジトリ、研究独法のデータベースなど、電子的な情報について、その所在を管理しようというのがジャパンリンクセンターである。所在を管理するためには、各論文やオブジェクトにアイデンティファイを付ける必要があり、世界標準のDOIという形式で付与し、所在のアドレスであるURLをペアリングすることを確実する機能が日本の中に必要である。

6.科研費 研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の制度改善

  •  研究成果公開促進費については、12年前の提言でも、既に電子出版への対応について早急に検討する必要があるとされており、応募対象経費の緩和(学術誌の刊行(編集及び出版等)に必要な経費の助成)等ついても検討する必要がある。
  •  英語論文を増やすための一つの方策として、会員に限定されている論文投稿の枠を外し、現在刊行している和文号とは別に、英文号を電子ジャーナルのみで発行し、これに関しては投稿の制約を設けないことが考えられる。電子ジャーナルであれば印刷経費はかからない。英文電子ジャーナルを立ち上げるための助成金を日本学術振興会で用意できないか。
  •  オープンアクセス誌の立ち上げに当たっては、国等による支援を行うことが考えられるのではないか。ただし、学会を永久に支援し続けるのは困難であり、オープンアクセス化に関する企画や、オープンアクセス誌の発行のキックオフに対する支援が考えられる。
  •  科研費の研究成果公開促進費(学術定期刊行物)はもともと紙媒体を想定しているが、電子媒体のオープンアクセス誌も含め、この時代にふさわしいオープンアクセス化への助成のあり方が考えられるのではないか。

7.その他

  •  新しい学術情報の発信の仕方としては、ホームページを使うなど新しい形が出ていて、学術誌がその研究論文の質をオーソライズするというような新しい状況がある。今かなり浸透してきている機関リポジトリについては、ちょうどホームページと学術誌の中間に位置するものとして、新しい学術情報発信・流通の媒体としてしっかり位置づけなければならない。
  •  オープンアクセスを推進するためには、何らかのインセンティブないしは制度化が必要なのではないか。例えば、科研費の報告書の執筆要領に機関リポジトリに関する記述はあるが、科研費で出た成果論文の機関リポジトリへのセルフアーカイブ、あるいは、関連したデータやソフトウェアをアーカイブして公開することについて、具体的に検討していくことも必要ではないか。

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