参考資料 学術情報基盤作業部会(第39回)で出された主な意見

学術情報基盤作業部会(第39回)で出された主な意見

  • 購読誌では少数の出版社が、いわば独占的に価格をつけるのに対し、オープンアクセス誌は著者が投稿先を選べるため競争原理が働き、相対的にはオープンアクセス誌の方が経済的であると考えられる。ただし、投稿料が無料の雑誌もあり、放っておいても進まないので、何らかの仕掛けが必要である。 
  • 日本で購読誌を新たに刊行するのは極めて難しく、規模が小さく少タイトルの雑誌を刊行しても世界の図書コンソーシアムに販売することは、ほぼ不可能といえる。そのため、日本から新規に情報発信を行うには、オープンアクセス誌を前提として考えざるを得ない。 
  • 講読誌モデルが定常化すると、雑誌の値段が上がり図書館の負担が非常に大きい。一方、オープンアクセス誌は、図書館の経費負担はないが、そのかわり著者が掲載料を払う。図書館の購読費も著者の投稿料も元をたどれば公的資金であり、図書館経由から著者経由にリダイレクションできれば、オープンアクセス誌は自立できるのではないか。
  • 著者には、オープンアクセス誌に投稿するインセンティブが必要であり、科研費の制度をオープンアクセス誌に対応できるよう改善することが考えられる。また、研究機関や大学が、掲載料を支援する基金をつくるなど、オープンアクセス誌への著者の投稿を支援することが考えられる。
  • オープンアクセス誌の立ち上げに当たっては、海外のように学会の剰余金や財団の寄付金のほか、国等による支援を行うことが考えられるのではないか。ただし、学会を永久に支援し続けるのは困難であり、オープンアクセス化に関する企画や、オープンアクセス誌の発行のキックオフに対する支援が考えられる。科研費、SPARC/JAPAN、J-STAGEなどのこれまでの支援を踏まえつつ、学術情報発信のモデルをどうするかについては議論が必要である。
  • 図書館については、コンソーシアム等において、世界への学術情報発信のため日本発のジャーナルを購読するなど、有効に経費が回るような対応が期待される。
  • オープンアクセスに関する「Compact for Open-Access Publishing Equity」の理念は興味深いものであるが、大学や分野によりオープンアクセスに対して温度差があり、大学や研究機関による具体化は検討段階であり、正直に言うと機能していないのが実態と思われる。
  • 日本物理学会は応用物理学会と共同で学術誌刊行センターを運営しており、次期オンラインシステムの検討や販売力の強化が課題である。自前でシステムを開発し直すには非常にコストがかかり効率が悪いため、様々な検索機能や携帯端末への対応など最新の情報通信技術への対応と販売力を考慮して、次期のJ-STAGEや海外の標準的なシステムを利用することを検討することとなる。
  • 日本物理学会は、講読誌とオープンアクセス誌の両方に取り組んでおり、購読誌(JPSJ)は、講読機関数(visibility)の改善が最大の課題であり、オープンアクセス誌(PTEP)は、著者の投稿料等により財政的に自立して刊行できるかが課題である。
  • 電子情報通信学会は、国際学会を目指しており、論文誌は、海外から多くの投稿があり、日本の掲載論文数が2番目になるなど、既に国際化が進んでいる。また、バンコク、北京、上海、シンガポール、台北に学会の海外セクションを持っており、アジアに軸足を持って展開をしている。これらの活動は、研究だけでなく日本の産業の国際展開につながるものである。
  • 電子情報通信学会から海外セクションに対して定額の活動資金を渡しており、日本及びアジアの方々にリスティングレクチャーとして、社会貢献・学術貢献に資するような講演会を実施する活動を通して、連携によりアジア発で世界に情報発信するという活動を行っている。
  • 10年後には中国を中心としたアジアの学術研究が質・量ともに日本を追い越すことになると思われるが、2011年の段階では、学術誌に関して先行者利益を持っている。日本はこれまで、国費留学生を含めさまざまな交流をアジア地域で行っており、次の10年の活動をより活発にするためには、日本と中国、日本と韓国のような2国間だけではなく、ネットワークで活動することが重要である。
  • インパクトファクターは、一つの評価手法としては使えるが、Googleのページランクを元に作られたアイゲンファクターなど新たな指標もあり、インパクトファクターだけが重要とは考えていない。和文論文誌も含め日本の研究や研究者が正当に評価されるような指標をつくることが必要である。また、学会が評価指標に関する個別の研究をまとめていく活動も重要である。
  • 機関リポジトリによるオープンアクセスの促進については、大学や研究機関が自らの成果を世に示す広報活動であり、一番本質的なピアレビューによる査読がないため、学術誌には代わることはできない。
  • 電子化が進展し論文の発信の仕方が変わったのに、評価においては紙媒体の査読がそのまま踏襲されている。情報通信技術の発展を踏まえた評価の仕方があるのではないか。例えば、アメリカ物理学会の雑誌には、査読者以外もオープンにコメントすることができるプロセスを入れているものもある。また、昔は、企業向けの雑誌や理論物理系の雑誌では査読だけにとらわれない評価が行われていた。
  • 今まで紙で刊行していた雑誌を、いろいろな形でアクセス、再利用、検索できるように電子化するだけでなく、新しい情報通信技術に対応したジャーナルに変えていく必要がある。日本物理学会では、サプリメンタリー・マテリアルとしてデータ・ビデオ等を掲載しており、また、電子情報通信学会では、J-STAGE上でPDFにビデオを組み込んで配信するなどの取組がある。
  • 電子情報通信学会では、英文論文誌を核に国際学術情報発信をしているが、ウェブによる情報発信も重要である。例えば、IEEE(米国電気電子学会)のホームページは、トップニュースで東日本大震災の科学面・技術面についての情報発信が行われているのに対して、日本の学協会のウェブページでは、被災された皆様へのコメントやその地域の会費免除等はタイムリーに載っているが、社会への情報発信という意味ではまだ弱い。
  • 科研費の研究成果公開促進費はもともと紙媒体を想定しているが、オープンアクセス誌、あるいは機関リポジトリなども含めたオープンアクセス化について、この時代にふさわしい助成のあり方が考えられるのではないか。
  • 国際競争の中での学会自身のアライアンスさらには統合という問題があり、経営や情報発信力を含め学会そのものが基盤として強くならないと根本的治療にはならないのではないか。コミュニティだけでなく学会が連携についてリーダーシップをとれるかどうかがポイントである。
  • 小規模から大規模学会までの連携が重要であり、学会が強制されることなく自主性に基づいて活動できるようにレベルを底上げするとともに、トップランナーを育成することが必要である。
  • 日本で雑誌を刊行する意義としては、日本の学術研究、広く言えば文化をあらわす顔になるということがある。新しい分野を切り開くような日本発のオリジナルな研究成果があって、それに続く研究が諸外国からも日本の雑誌に来るようになると、その雑誌がその学術分野の発展の受け皿となる。
  • 日本発のジャーナルがなければ査読プロセスを外国の組織に任さざるを得ないが、その場合には、研究のプライオリティの確保の観点からはリスクがあるため、我が国の研究者にとっても、迅速・公正な査読が行われるジャーナルが日本にあることが必要である。

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