資料5 科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の在り方について(報告)(平成11年8月25日 学術審議会科学研究費分科会企画・評価部会 研究成果公開促進費の在り方に関するワーキンググループ)

科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の在り方について(報告)

平成11年8月25日
学術審議会科学研究費分科会企画・評価部会
研究成果公開促進費の在り方に関するワーキンググループ

はじめに

 科学研究費補助金「研究成果公開促進費」は、重要な学術研究の成果の刊行、データベースの作成等を補助することによって、我が国の学術の振興と普及に資するとともに、学術の国際交流に寄与することを目的とする経費である。

 平成11年度から、上記の経費を含む科学研究費補助金の審査・交付業務の一部が、よりきめ細かな審査・評価や研究者へのサービス向上を目指して、日本学術振興会に移管されたところである。

 本ワーキンググループは、研究成果を積極的に海外へ発信することが求められていることを踏まえ、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」のうち、「学術定期刊行物」の当面の改善・充実方策について、検討を行った。

1. 「学術定期刊行物」の助成の必要性とその方策の基本的視角

 学術研究は、その成果を内外の学界の評価を受けつつ、人類共通の知的財産として利用し得る形で登録し、はじめて意味を持つものである。したがって、研究成果の発表は、学術研究を完結させるために不可欠な作業である。

 この意味において、我が国の優れた研究成果を世界に発信することは、我が国自身の学術の水準を高めるとともに、世界の学界に貢献し、我が国の「知的存在感」を高める上で、極めて重要である。

 研究成果発信の主な形態の一つに、学術定期刊行物(学術研究成巣発表の媒体として、学協会等によって定期的に刊行されるもの。以下、「学術誌」という。)による発信がある。上述したところに鑑みれば、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」によって、学術誌の刊行に必要な経費を補助していることには十分な意味があるといわなければならない。

 しかしながら、グローバリゼイションが進行し、世界への発信の重要性・必要性が特に高まった今日においては、この補助の対象や方法について厳正な再検討が必要である。すなわち、補助の対象となる学術誌は十分な国際性が備わっていなくてはならず、学問分野によって違いはあるものの、欧文誌又は少なくとも欧文抄録を付すものであることが求められる。また、補助に当っては、学術誌といえども、市場の評価を受けることは避けられない以上、編集方針・体制、掲載論文の水準等について、それぞれの分野の特質・学術の多様性を考慮した適正な評価基準による厳正な審査が不可欠である。

2. 国際情報発信の強化

(1)国際知的公共財としての機能

 学術誌は、上述したような意味において知的国際公共財であり、早急に改善・整備・強化する泌要がある。ことに我が国学術の国際的地位・責任からいって、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の役割はますます重要性を増している。

(2)日本及びアジアからの学術情報発信の必要性

 国際的な学術誌の刊行においては、これまで主として欧米、ことにアメリカが中心的な役割を果たしており、市場においても圧倒的な優位を占めてきた。我が国の優れた研究者もそうした学術誌に投稿し、国際的評価を得るべく努力してきた。

 しかしながら、学術研究、ことに自然科学の研究はたしかに民族や文化の違いを超越した国際性・普遍性を持つものであるが、他方、問題設定、研究方法、論理や叙述の展開の仕方等において、文化的バックグラウンドの影響を免れない面を持っており、それが研究成果に対する評価の違いとなって作用することも否定できない。また、ある国、ある地域の学界のトレンドや流行の存在によって、研究テーマ等に偏りが出たり、学術誌の編集方針や投稿論文の評価に影響が及ぶ場合があることも否定できない。

 そのほか様々な理由から、研究成果の発信媒体が特定の国に偏ることは学術の健全でバランスのとれた国際的発展にとって好ましいことではない。我が国の国際的地位の高まりに伴い、国際社会への貢献が期待されている現在、アジアの学術研究の中核として世界における学術情報発信の一角を担い、その多様性の確保に努めることが必要である。

(3)クオリティの向上と編集体制の国際化

 学術誌のクオリティを高めるため、必要に応じて、査読体制の国際化、外国人の編集委員や国際的な視野による専任エディターの採用、欧文校閲体制の充実などにより、編集体制を一貫した方針で強化する必要がある。このため、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の大幅な拡充と整備が必要である。

 また、近年、欧米諸国においては、学術誌、学会等を統合して国際的に競争力の高い共通の学術誌を発行するケースが見受けられるが、我が国においても複数の学協会等が協力して共通の学術誌を発行するなど、各学協会等の境界を越え、編集体制を強化して国際性を備えることが望まれる。

3. 和文誌の必要性

 このような国際情報発信のため、欧文誌の発行は必要不可欠ではあるが、漢字言語・文化を対象とする学問分野においては、その学問分野の性格から和文誌の発行の必要性は失われないものであり、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」をもって引き続き補助を行うことが必要である。

 一方、自然科学系の分野においても、国内における自然科学の知識提供や工業技術の向上・発展等のため和文誌の発行が必要である。しかし、これらの和文誌については、民間等の支援を得るなど自助努力により対応することも可能であると考えられる。このため、自然科学系の学術誌への科学研究費補助金「研究成果公開促進費」による補助は、海外への情報発信となる欧文誌へ移行していくことで、和文誌に対する補助は必要なくなると考えられる。

4. 具体的改善方策について

(1)学術誌の一層の水準向上について

 補助の対象となる学術誌については、原則としてレフェリー制度を取り入れることにより、一定の質を確保し、学術誌の水準向上を目指すべきである。

(2)補助対象経費の範囲拡大について

 これまで、学術誌に対する補助の対象は、長い間、直接出版費に必要な経費のみとされてきたところであるが、日本人の書いた欧文の論文は外国人が読みにくいという問題がたびたび指摘されている。このため、国際情報発信強化の観点からも、欧米にも、広く流通する学術誌を作成するためには、現在、特定欧文総合誌のみを対象としている欧文校閲経費補助を、一般の欧文誌へ拡大する必要がある。

 また、レフェリーの国際化を推進する観点から、外国在住の研究者に論文の評価を依頼する際の郵送代についても、新たに補助の対象とする必要がある。

(3)複数年度にわたる継続補助について

 学術誌の質の向上は、長期間にわたる不断の努力によってはじめて達成されるものである。したがって、その補助についても、複数年度継続することが必要となる。

 その場合は、学協会等自ら中期的な改善目標を定めて申請し、その改善目標を審査の上、複数年度にわたる継続補助を行うこととし、その後の継続に当たっても、期間内の改善状況を厳密に評価、チェックすることが必要である。

(4)重点配分について

 上記(1)(2)(3)の対応を図り、クオリティの高い学術誌を育成するためには、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」を大幅に拡充するとともに、重点的に配分する必要がある。

 そして少額の補助については一定の基準を設け、見直すことが必要である。

(5)審査体制の充実について

 学術誌の審査にあたっては、科学研究費補助金という競争的資金の観点から、十分な審査を行う必要がある。

 また、審査は国際公共財として当該刊行物が充分に機能しているか否かといった観点で行うほか、分野毎の多様な価値観に応じた評価の基準を策定して行う必要がある。

 このような評価に対応できるような審査員の大幅な増員等、審査体制の尭実を図る必要がある。 

5. 将来の学術誌の在り方

 近い将来には、現在の紙媒体による学術誌の発行が電子化され、インターネット等により流通することが予想される。我が国の学術誌の電子化出版への対応について、早急に検討する必要がある。

6. 学協会等の改善努力について

 国際競争力のある学術誌の育成のためには、その刊行主体となる学協会等におけるクオリティを高めるための編集体制の強化などの改善が必要であり、そのための不断の努力が望まれる。

 

学術審議会科学研究費分科会企画・評価部会 研究成果公開促進費の在り方に関するワーキンググループ名簿

 

石井 紫郞

国際日本文化研究センター教授

 

岩崎 宏之

筑波大学教授

 

河野  長

岡山大学教授(固体地球研究センター)

 

志村 令郞

生物分子工学研究所長

 

鈴村 興太郎

一橋大学教授(経済研究所)

 

宅間    宏

財団法人 松尾学術振興財団理事長

座長

豊島 久真男

財団法人 住友病院院長

 

増本  健 

財団法人 電気磁気材料研究所長

 

山本 明夫

早稲田大学教授(大学院理工学研究科)

審議の経過

第1回 平成11年6月11日(金曜日)

  • 座長の選出
  • 学術定期刊行物の制度改善について、自由討議

第2回 平成11年7月7日(水曜日)

  • 学術定期刊行物の制度改善について、自由討議

第3回 平成11年7月26日(月曜日)

  • 学術定期刊行物の制度改善について、自由討議
  • 科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の在り方について(報告)(案)について検討

第4回 平成11年8月25日(水曜日)

  • 科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の在り方について(報告)(案)について検討、了承

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

井上、政田
電話番号:03-6734-4080
ファクシミリ番号:03-6734-4077

(研究振興局情報課学術基盤整備室)