資料1 学術情報基盤作業部会(第27回-第32回)で出された主な意見

1. 大学図書館の戦略的な位置付け

(1)現在、大学図書館に求められる機能、役割は何か。

○ 大学図書館は、大学における学生の学習や大学が行う高等教育と学術研究活動全般を支える重要な学術情報基盤であり、大学にとって不可欠な機能を有する大学の中核を成す施設として、大学の教育研究に関わる学術情報の体系的な収集、蓄積、公開や教育研究に対する支援などの役割・機能を担っているもの。

○ 大学を取り巻く社会の高度情報化の中で、大学における教育目的の多様化と研究活動に対する社会的要請の変化と高度化に対応するため、その機能を拡充し、高機能化、効率化を図ることが必要。

○ 最近、全ての大学図書館が研究、教育、学習を支援することについて、相当意識し始めたのではないか。学術情報の発信について、機関リポジトリにより学術情報をつくることにも深くコミットするようになってきており、社会、地域連携にもいろいろな形態がでてきている。

○ 大学図書館については、法人化と同時に、従前の研究教育学習支援という機能に、大学の社会貢献の一翼を担う組織としての位置付けや、機関リポジトリなど情報発信の窓口としての役割が加えられてきている。

○ 大学図書館の基本的な役割として、1.教職員・学生のための学術情報の収集・整理、保管、2.教育支援としての情報リテラシーのアドバンストな指導、3.研究支援としての文献検索支援、文献提供、雑誌編集委員会への参画、研究実績管理、4.業務支援としての知的財産関連の情報提供、5.医療関連では、可能になれば非常に有用と思われる診療に関する情報提供が考えられる。

○ 公共図書館に関しては、司書が市民に対してどのような蔵書を構築するかという考え方である一方、大学図書館に関しては、教員、学生から情報を得て、それを基に選書するという考え方であり、その違いを明確化していく必要がある。

(2)現在の大学図書館の機能・役割を踏まえた各大学における戦略的な位置付けはどうあるべきか。

○ 大学図書館においては、専門的な知識を持つ人を育てることが重要であり、サービス機能だけではなく、人材育成機能についても考えるべきではないか。

○ 大学図書館における従来の研究教育支援という機能がなくなったわけではなく、雑誌や図書の所有・管理からインターネット等を通してのアクセスの提供に変化した。こうした状況を背景として、大学図書館の戦略的な位置付けを必ずしも認識していない大学当局に向かって、いかにアピールできるかが大きな課題である。

(3)大学図書館における安定的な財政基盤の確立のために、各大学においては共通経費化の推進などの取組が行われているが、新たにどのような方策が考えられるか。

○ 大学図書館に関する学内での位置付け、財政的な問題、狭隘化している施設の整備などが共通の課題として挙げられる。

(4)-1 各大学における大学図書館の組織・運営体制の在り方はどうあるべきか。

○ 状況の変化と技術の進歩が非常に速いので、かつて持っていた図書館に関する知識と見識が、もはや役立たないという時代も来ていると言えるのではないか。したがって、現在の図書館職員の処遇や、職務形態について、従来のような事務職員と同様の位置付けが、効果的に図書館の機能を発揮させるために十分であるかということについて議論していただく必要がある。

○ 大学図書館職員の業務は、教員・学生との専門的なコミュニケーションを基盤として、研究・教育と関連性の高い業務と、裁量性の少ないルーチン業務とを明確に区分して、大学図書館としての専門的なサービスの提供内容の充実を図ることが重要ではないか。

○ 大学図書館職員は、研究、教育に必要な学術情報を駆使して教員の研究支援、学生の学習支援を担う人材を専門家として、キャリアパスも含めて配置していく必要がある。それに対して、ルーチンワークとして資料管理や閲覧業務を担う人材は、場合によっては業務委託も可能ではないか。

○ 専門業務としては、1.図書委員会運営、図書希望調査、選書、書誌管理という資料整備、2.研究業務に直結するレファレンス・ガイダンス業務、3.大学の研究成果の管理・発信としての機関リポジトリ、4.学生・教員との専門的なコミュニケーションを図る場を提供するホームページの内容管理、5.学生・教員の間(研究者間)の学問的交流の場を図書館として提供するラーニングスタジオ、ラーニングコモンズの管理などが挙げられるのではないか。

○ ルーチン業務としては、1.資料整理、閲覧関連業務としての契約、受入れ、所蔵データ・書架管理、2.カウンター業務(自動化貸出・返却装置の利用)、3.ILL業務、4.ホームページの更新業務、5.館内の整備、図書館システムの管理などが挙げられるのではないか。

(4)-2 専任職員の比率減や外部委託が進む状況の中で、大学図書館の事務組織の在り方はどうあるべきか。

○ 専門的な教育を受けた人が知識やスキルがあっても派遣としてしか大学図書館に入れないという実態もあり、大きな問題ではないか。コアになる部分に関しては、ある程度専門的な教育を受けた人が、ある程度の期間働くことができるような体制がどのような形で可能になるのか考えていく必要がある。

○ 公共図書館などでは、公務員数の削減により、専門性の高い人が派遣職員として働いているのが実態である。

○ ルーチン業務であるから外部委託できるというものではない。大学図書館職員は、例えば目録でも、専門性を発揮して、仕事の質を維持して高めている。そのようなマインドが教育支援や、機関リポジトリの構築などにも生かされてきている。

○ ルーチン業務であっても、大学図書館職員が完全に携わらなくなった場合、クオリティチェックができなくなるため、破綻するおそれがある。大学図書館職員によるチェック体制を確保した上で、一部を委託業者に担わせることが考えられる。

2. 大学図書館のサービス機能の強化

(1)-1 今後の大学図書館に求められる役割・機能を踏まえ、これまでに加え、大学図書館職員に求められるもの(資質・能力等)は何か。

(図書館職員としての専門性)

○ 学術情報の流通・提供、資料の体系的な収集などに係る専門的な知識・技能を備えた専門職としての図書館職員が不可欠。

○ 現在の大学図書館をめぐる状況は、かつてのいわゆる図書館学的な専門性では対応できないことがほとんどになっているという状況がある。したがって、図書館のことだけができる人が、大学図書館に求められているのではないと言わざるを得ないのではないか。

○ 図書館員は、専門性を持っていると同時に、図書館全体のマネジメント業務もできるバランスのとれた職員が理想ではないか。

○ 今後、様々な専門職大学院が徐々に大学に占める位置付けが高くなってくると、図書館員の役割は、それぞれの専門性と同時に、マネジメント能力など、様々な能力が求められてくるのではないか。

○ 図書館が伝統的に有してきた機能というのは、資料の提供であり、それは今も変わっておらず、おろそかにはできないと思う。したがって、主題の専門家ではなく、学術情報基盤をつくるための専門家が必要であり、学術情報流通の仕組みについて非常に詳しい職種もきちんと図書館の中で抱えている必要があると思う。

(教育・研究等支援としての専門性)

○ 大学図書館職員に求められる資質も変化してきた。サブジェクトに関する知識を有する者の配置も含めて、各々の大学で考えなければならない時期なのではないか。

○ 学問の多様性が非常に高くなる中で、専門的な業務を少人数で対応することが可能なのか。学問の形が変わっている中で、情報アクセスをどうするかということをもう少し考えても良いのではないか。

○ 法科大学院の議論の際に、法情報調査に関するカリキュラムがつくられたが、その際、ロー・ライブラリアン、即ち法律を専門とする図書館情報を持った人が多数関与していた。このことは、それに関わるライブラリアン、特に専門ライブラリアンにとっては非常に重要な意味を持っている。

○ ロー・スクールにおけるライブラリアンが図書館のマネジメントに様々なスキルを持ってくる可能性があり、他の分野にも応用できるのではないか。

○ 図書館の機能としての学習の場ということを考えたとき、図書館職員でなければできない事柄があるのではないか。従来、事務系、教育系、研究系と分かれていたが、その中間的な役割を果たす人材が必要になってきたのではないか。

○ 大学の教職員については、一律に教員と事務職員の2つに区分するのではなく、図書館、病院、施設等実態に沿った区分をしなければならないのではないか。図書館職員についても、レファレンスや、サブジェクト・ライブラリアン的な業務を行う者は、明らかに区別しても良いと思う。

○ 図書館職員の役割や機能を一般的に考えたときに、一橋大学のように専門助手としてスタッフを抱え込むということも一つの形態であろう。

○ 大学図書館職員は、研究支援のために、研究に関する情報を十分に活用してもらうためのサービス提供に関する専門性を持っていなければならない。また、個別領域におけるサブジェクト・ライブラリアン的な専門性も持っていなければならない。この両方を兼ね備えていることが理想だと思う。

○ 米国においても研究図書館、大学図書館において、伝統的なカタロガーなどプロフェッショナルと呼ばれてきた者が大幅に減って、ファンクショナルスペシャリストが拡大してきていることについて、考えなければいけない。

(1)-2 高度の専門性・国際性をはじめとした求められる資質・能力等を有する大学図書館職員の確保・育成方策はどうあるべきか。

○ いわゆる伝統的な意味での図書館職員がどのように学習支援に関わるかということも新しい一つの方向性であろう。現在、導入教育の重要性が盛んに言われていて、例えば学部のカリキュラムの中身に図書館の情報リテラシーが導入教育として入り込んでいくのは、必然的な流れであろう。そのプログラムを教員との協働によりどのように図書館職員として開発できるかが課題である。

  また、こうした流れの中で、図書館職員の役割自体はかなり変わっていくであろう。特に学習支援機能との関係では、積極的な側面が強調されるのではないか。

○ 専門性を有する職員の育成について、大学間で交流しないと一大学内で育成することは難しい。また、大学全体のバランスを考えると、特定分野の専門性のみを有する職員の配置は難しい実態がある。

○ 大学図書館職員は、教員とのコミュニケーションを密にすることによってレベルアップを図ることが重要である。研究経験を有する人材、大学の有する研究分野の専門知識を有する人材(修士・博士の学位を有する人材)も必要とされる。

○ 図書館にはPh.D.(博士)を持った複数の職員がいて、必要に応じて教育にも携わっていくような世界を、大学図書館としてはつくっていかなければならないのではないか。

○ 法学部などの他分野から、図書館情報学系の大学院を修了するライブラリアンは、法律図書館など、その分野のライブラリアンとして続けることを希望して、マネジャーにはなりたがらないということが起こりがちであると思う。

○ 法律に明るい職員を擁する環境的な要素としては、教育研究の現場に密着した分散的な図書館に専任職員を配置することによって、教育研究の現場からモチベーションを喚起され、本人も勉強する環境の中で、経験値が蓄積される。

(国際性)

○ 留学生受入れの推進、大学の国際競争力向上の観点から、国際性を有する図書館職員の確保についての検討が必要。

○ 今後、年々増加する留学生に図書館がどのように対応すべきか。言葉の問題も含めて、図書館員の、利用者のニーズに的確に対応する能力が試されるのではないか。

(処遇・キャリアパス・業務形態)

○ 大学図書館に教育への関与を求めたときには、図書館職員の処遇に反映させる必要があるが、そのことは職員数を減らすことにつながる。この場合、教員のリソースを図書館職員に移すなどの措置をとらないことには対応できないのではないか。

○ 専任職員のキャリアパスをどう形成するかが大きな問題である。一方、公私立大学では、異動により専門性が確保できないという指摘がある。

○ 常勤職員、非常勤職員、外部委託など、多様な雇用形態の中で、全体として多様化した、高度なサービスをどのように提供していくか、人材の研修や育成を含めて考えていかなければならない。

○ 図書館・情報学専攻においては、もちろん研究者も育っていくだろうが、実際に現職社会人が学生であるということであれば、職業人、技術者として高度な仕事ができるようになることが一つの到達点ではないか。

○ 日本の場合には、就職時の学歴や勤務年数によって給与が決定する仕組みであり、社会人が修士号を取得しても、それが直ちに給与に反映しないため、インセンティブになりにくい。

○ 司書資格は、公共図書館員育成が主眼となっており、大学図書館職員は、それとは明らかな違いがある。そうした中でいわゆるサブジェクト・ライブラリアン的な人材をどう育成していくかが課題である。

○ 大学院においては、例えば学科長や学部長などが、自身の分野のサブジェクト・ライブラリアンを育成することに貢献していくことによって、大学図書館全体をしっかりしたものにしていくという姿勢が大学側にあってもいいのではないか。

○ 図書館情報学だけではなく、専門的な知識を習得していれば、サイエンスコミュニケーターや、科学記者などの人材も図書館職員として視野に入れても良いのではないか。

○ 日本の司書制度自体がいろいろな問題を抱えており、新しい時代における図書館職員の養成は、過渡期にあるのではないか。したがって、図書館職員の資格も含めた広い意味でのステータスの確立をどのような方向で考えていけばいいのか、模索してみる必要があるのではないか。

○ 図書館の専門以外の分野を卒業した者が、図書館に入って活動するための研修制度は非常に重要であり、同時に、図書館学を学んだ者が、それぞれの各論的な分野でいかに専門性を発揮するかということが非常に重要だと思う。特に自然科学系を中心にして、情報量が膨大となる状況の中で、図書館職員は検索スキルを専門的に追究し、研究で行われている実際の内容をよく理解する必要がある。そのためには、論文検索や教員の日頃の活動について理解した上で、教員と密に連携して、大学の活性化につなげることが実現できれば、非常によくなっていくのではないか。

○ 大学図書館職員について、事務系職員というカテゴリーで待遇を考え、人事を行う限りは、大学図書館に要求される機能を担う人材を育て、かつ、活用していくことは難しい。事務系職員の枠とは別の人事制度を大学図書館職員について考えることも必要ではないか。

○ 大学図書館職員の業務について、いわゆる庶務、経理などの事務部門があるが、専門性の高い業務は、他の図書館職員として区別していくことも大切なのではないか。

○ 学府研究院制度のように、図書館職員から教員に、教員から図書館職員になるなどの行き来があるような仕掛けをどこかでつくってみる価値があるのでないか。

○ ライブラリーサイエンス構想においては、学部長に、学生指導をお願いし、サイエンスなどについて広く知ってもらうというようなことなどが考えられるのではないか。学部長は管理的なことで忙しいので、通常の学生の指導ができないが、図書館関係の学生であれば、指導面からは最適と考えられる。

○ 日本では、かつては、助手がサブジェクト・ライブラリアン的な機能を十分果たしていたが、最近、助手が非常に少なくなって、そのような役割が期待できなくなっている面もある。

○ 図書館的な知見だけでは不可能なことと、若手研究者も情報分野を体系的に学んだことが少ないことを、お互いにメリットのある枠組みの中に収斂させていけば、相乗効果が生まれるのではないか。

○ 図書館職員の育成に関しては、図書館情報学の専門家と教員が密に連携して話し合って、作り上げていくことと、育てられる側も、多彩なバックグラウンドがないと、教えられることに限界がある。その2つのポイントは条件として重要なのではないか。

 (2)-1 今後の大学図書館に求められる役割・機能を踏まえ、教育支援サービス機能の在り方及びその推進方策はどうあるべきか。

○ 大学図書館は従来の図書、資料の収集、管理、提供といった役割のみならず、教育研究支援の役割も重要になってきている。図書館の仕事がどう変わっていったのかを追跡しておくことが必要ではないか。

○ 今後、教職員や学生の知的交流活動の活性化への支援が、大学図書館として重要になってくるのではないか。

(2)-2 大学における情報リテラシー教育の推進方策はどうあるべきか。

○  情報検索のスキルアップとともに、アドバンストな情報検索ガイダンスの充実が重要になってくるため、今後の大学図書館の存在意義は重要性を増してくるのではないか。

(3)今後の大学図書館に求められる役割・機能を踏まえ、利用者ニーズの的確な把握とその対応はどうあるべきか。

○ 図書館のあり方として、図書館に来館する者に対することだけがサービスではない。今後、図書館のサービスの多様化が重要になり、例えば統計についても、来館した人数だけではなく、提供しているサービスごとの利用者数の推移も重要になってくるのではないか。

○ 情報分野では、現状、ディレクトリ型とサーチ型では、多くのユーザがサーチ型から入っている。それは、人で全てを分類すること自体がほぼ限界にあることと、現実のアクセスは、テール側へのニーズの方が遙かに大きくなってきているという現状がある。そのようなことを踏まえて、今後どうあるべきかを本質的に議論するといいのではないか。

○ 全体の集合知を社会の共有知にする仕掛けを作れば、いろいろなおもしろいことが出てくるのではないか。

○ 日本の個々の図書館を超えて、世界的に「知」を統合し、その統合のアクティビティーが集合知として形成されていくということが、今の世の中の動きではないか。

○ 学生が複数集まって、さまざまな情報源からの情報を突き合わせて、何か議論しながら物事を進めていくというような学習のスタイルと、図書館の情報提供の仕方がうまくマッチングするようなことを考えないと、先へ進めないのではないか。

3. 大学図書館と社会・地域との一層の連携の推進

(1)大学図書館と社会・地域等との一層の連携・協力の在り方はどうあるべきか。

○ 大学の機能として、特に国立大学の場合には、社会貢献や社会に対して開くということが重要であり、学内における図書館の役割と併せて、地域や社会に対してどのような機能を持つべきかということについても検討しなければならない。

○ 大学図書館が、学内で他の組織とどう連携するか、大学間でどう連携するか、また、国の組織とどう連携するかということを前面に出して議論していく必要があるのではないか。

○ 大学図書館だけで問題を扱っていては、ソリューションが出てこないのではないか。図書館、資料館、アーカイブ、出版、という大きなアライアンスで捉えていくという視点が必要ではないか。

○ 図書館という組織を独立させることがどこまでいいことなのか、大学内の他の機関との連携ということも含めて、狭く図書館、図書館員だけの話をしていたのでは、もう立ち行かない時代になってきているのではないか。

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