研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第48回) 議事録

1.日時

平成24年2月24日(金曜日)15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省旧庁舎第2会議室

3.出席者

委員

有川主査、上島委員、倉田委員、田村委員、土屋委員、中村委員、羽入委員、山口委員

文部科学省

(科学官)喜連川科学官
(学術調査官)宇陀学術調査官
(事務局)吉田研究振興局長、森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、岩本情報課長、渡邊学術研究助成課長、鈴木情報課学術基盤整備室長、伊藤振興企画課学術企画室長、岸本学術研究助成課企画室長、その他関係官

4.議事録

【有川主査】  時間になりましたので、ただ今から、研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会の第48回を始めたいと思います。お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。

 本日は、機関リポジトリと、オープンアクセスに関する議論の観点等について意見交換を行いたいと思っております。これは、私どもの作業部会でも、平成18年に紫色の報告書が出された当時から絶えず議論になっていることでもありますし、前期、また今期の科学技術基本計画の中にも入っております。さらに、諸外国での動きなどもあります。特にオープンアクセスにつきましては、前回の本作業部会でかなり議論もいたしましたが、どのような観点から考えていくのかという根源的なことについて、もう少し御議論いただければと思っております。

 それでは事務局から、御出席の方々を御紹介いただくとともに、配付資料、傍聴登録等の状況について御報告願います。

【丸山学術基盤整備室長補佐】  本日もよろしくお願いします。関連機関の方々でございますけれども、引き続き本日も御審議に御参加を頂いております。

 配付資料でございますが、お手元の議事次第がございますが、中ほど、2種類用意してございます。お手数ですが、お手元にドッジファイルでこれまでの会議資料を御用意しておりますが、必要に応じて御参照いただければと存じます。

 本日の傍聴登録でございますが13名、事前の撮影・録画・録音の登録はございません。以上でございます。

【有川主査】  ありがとうございます。それでは、資料1の機関リポジトリ及びオープンアクセスに関する議論の観点について事務局の鈴木室長から御説明をお願いします。

【鈴木学術基盤整備室長】  それでは、資料1につきまして御説明をさせていただきたいと思います。前回のヒアリング、それから御議論を踏まえまして、今後の議論を進めるに当たりましてたたき台を用意させていただきましたので、説明させていただきたいと思います。

 資料1の一番上のところでございます。現状認識といたしましては、科学、学術研究の推進に学術情報の発信、流通は必要不可欠であると。現在の学術情報流通は、国際的な商業出版社、大手学会が刊行する電子ジャーナルが主流となっている。一方、これに対しまして、日本は成果公表の場としての電子ジャーナルを十分に発展させてこられなかったということで、これにつきましては、昨年12月までに、学協会からの学術情報発信の国際情報発信力の強化ということでございまして、科研費の研究成果公開促進費の改善について御議論を頂いたところでございます。この科研費の改善につきましては、現在、本作業部会で取りまとめました報告をもとに、実際の科研費の業務を行っております日本学術振興会さんの方で、現在タスクフォースをつくって検討をされているという状況でございます。また、科研費以外の支援ということも考えられますけれども、これらにつきましては、年度末か年度が替わったあたりに、科研費の議論の結果というのが本作業部会に戻ってきました後、改めて全体を見通して検討いただくということで、一応はその議論は済んでいるという形の状況にございます。

 今後でございますが、この議論の観点を、以下の2つに分けて議論を進めていただくということでよろしいかどうかということでございます。まず、議論の観点の例といたしまして、2つ挙げさせていただいております。1つが、公的助成を受けた研究成果のオープンアクセスという観点と、2つ目が、2ページにあります機関リポジトリとオープンアクセスと、この2つに分けて議論を進めるということでよろしいかどうかという点でございます。

 この点も御議論いただいた後、もし仮にこの2つに分けて御検討いただくのであれば、その観点の例といたしまして、まず1点目の公的助成を受けた研究成果のオープンアクセスに関しましては、日本として「オープンアクセスを促進することが重要である」という、このことだけでよろしいのかどうか。これにつきましては2ページに掲載しておりますけれども、本学術情報基盤作業部会の平成21年7月の審議のまとめにおきましても、そこの箱にありますような形でオープンアクセスを促進することが重要であるというまとめを一度頂いたわけではございますけれども、一方で、オープンアクセスへの批判、ビジネスモデルが不明確であるとか、持続可能性が不分明であるというような批判も一方ではあると。これらにこたえた上で、実際にオープンアクセスを促進するということでは、どういうことがあり得るかと。

 そのためには、次の○でございますが、公的助成を受けた研究成果のオープンアクセスの意義をどのように考えるかということで、だれのためにどのような目的、それから、どのような機能を持たせてオープンアクセスを進めるかという観点。それから、その次の○でございますけれども、公的資金を受けた研究成果のオープンアクセスの形態をどのようにとらえるかと。大学等によるオープンアクセス、研究助成機関によるオープンアクセスと、それから、オープンアクセスジャーナルによる発表等を通してと、いろいろな形態があるのではないか。

 それから、NIH、RCUK、DFG、NSF等の海外の研究助成機関の実態を踏まえて、オープンアクセスを推進するために、我が国はどのように取り組むべきか。これにつきましては、前回JSPSさんの方から発表があった点等を踏まえまして、御検討を頂く。それから、研究成果のオープンアクセスを義務化することが必要かと。NIHで法律により、NIHのグラントを受けた者は、学術論文をオープンアクセスにするというのが義務化されておりますが、そういう究極といいますか、そこまでのことが必要かどうか。そしてその際、義務化する場合のメリット、デメリットにはどういうものがあるか。オープンアクセスを義務づけた場合、だれに何を義務づけるかとか、オープンアクセスを義務づけた場合、どのような措置が必要かと。逆に義務づけなかった場合には、オープンアクセスをどのように推進することができるか。この辺の観点もあるかと思います。

 2ページの方にまいりまして、2つ目の観点、機関リポジトリとオープンアクセスの部分でございますけれども、機関リポジトリによるオープンアクセスの意義・目的・対象をどのようにとらえるかということで、各大学が機関リポジトリを整備し、各大学において博士論文や大学の紀要等のリポジトリへの集積が進んでいるところではございますけれども、もう一度意義・目的・対象を御議論いただければと。例えば、大学が生み出す知的生産物の迅速な発信、長期保存の場というふうに考えるのか、日本の学術情報流通において、商業出版社や学会が提供できていない基盤の整備というところ、この辺を主眼と考えるのか、大学等で生み出されている研究データ、特に生データ等の保存、共有。それから、学術雑誌、論文を機関リポジトリに掲載して、それに対するオープンアクセスを促進すると。先ほどの公的助成を受けた論文のオープンアクセスという部分とも重なるわけでありますが、その方法として機関リポジトリを利用すると。その場合の方法論として、機関リポジトリを活用するといった場合、次のページでございますが、本来求められている意義・目的・機能との関係をどのように考えるのか。そもそも機関リポジトリに期待される機能とは何かということでございます。

 やはり機関リポジトリをどのようにとらえて、どのように整備していくのかということ。個々の機関リポジトリを設置している機関で考えればいいのか、統一的な部分として検討しておく必要があるのかという点もあるかと思いますし、現実の方といたしまして、現在整備が進んでおります機関リポジトリについて、具体的に改善すべき点があるかといった観点が考えられるのではないかということで、この資料を整理させていただいております。説明は以上でございます。

【有川主査】  ありがとうございます。ただ今の御説明を基にしまして、意見交換を行いたいと思っています。本日は時間も十分ございますので、かなり深い議論ができるのではないかと思います。よろしくお願いいたします。

 基本的には、オープンアクセスと機関リポジトリについてということですが、オープンアクセスということと、これまでも議論がございましたが、先行事例が幾つか海外にもあるわけですけれども、公的助成を受けた研究成果をどうするかということです。二つ目は、それと深く関係がありますが、それぞれの大学等で構築している機関リポジトリについてです。問題になりそうなことは、おおよそ全部取り上げていただいていると思いますのでどのような切り口からでも結構かと思いますが、その辺りについて御議論いただければと思います。

【中村委員】  では、よろしいですか。この2ページ目の上にある、平成21年7月のまとめというなんですけれども、これはどちらかというと質問ですね。つまり、ここにオープンアクセスは社会的透明性を確保して、説明責任を果たす観点で行うというような結論になっているんですけれども、その上には、オンラインにより無料で制約なく論文にアクセスできることを理念とするというふうになっていますよね。そうすると、何か課金のことが問題になっているように見えます。つまり、学術情報自身はお金を払えば買って見られます。オープンアクセスというのは、自由にアクセスできるということなので、とにかくお金さえあれば自由にアクセスできることは、今でも昔からずっとそうですよね。

 それに対して、無料で制約なくできるかというと、ここは結構問題があって、コンピューターデータベースはただじゃできないですから、必ずお金がかかる。かなりお金がかかるんだと思うんですけれども。それを商業出版社は、ちゃんと自分の責任を持ってやっているわけですよね。それを無料にするということになると、だれがお金を払うのかとなると、国がお金を払ってデータベースを全部管理するという、なるのでしょうか。アメリカではそんなことはあり得ないですね。そんなことは、文献を全部国のお金でただで見せるというようなことにはなりっこないのです。

 もう一つは、じゃあNIHはなぜオープンアクセスを義務化したのかというと、どうもそういう単純な話ではないに違いないんですね。私の理解ではこの議論とは大分違う理由じゃないかと思うんですけれども。これだけ見ていると、無料でアクセスするためにオープンアクセスが必要だということになって、それだけ額面で見ると、どう考えてもこれはおかしいという結論になります。この論点が問題提起ということでしょうか。

 同じことは機関リポジトリもそうです。やっぱり今は大学の知的財産というのもありますから、大学の知的財産をただで公開しろというのはおかしいし、それにお金もかかりますしね。またそうすると、それを国のお金でやるんだということになると、私立大学はどうするのということになって、これを徹底的にやると、何から何までみんな国が面倒を見てやるという、どちらかというと時代逆行になるんじゃないかと思うんですね。どうも何かものすごく複雑な問題が後ろに隠されているように思うんです。こうやってまとめて見ると、改めてそういうことがよくわかると思いますけれども。これはコメントです。

【有川主査】  非常に大切なことをお話しいただいたかと思います。本日は時間を確保しておりますので、いろいろな観点からのお話、御意見をいただければと思います。

 平成21年の審議のまとめは、大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方についてということでまとめておりますが、サブタイトルは、電子ジャーナルの効率的な整備及び学術情報発信・流通の推進ということになっております。ここでは、言い方は正しくないと思うのですが、電子ジャーナルの価格が高騰している、ということ、実際には電子ジャーナルに要する経費がどんどん上昇して、それぞれの大学、あるいは大学図書館で維持するのは非常に難しくなっているといった共通の問題意識があり、それを何とかできないのかというようなことから議論したということです。この審議まとめではなく、もう少し前だったかもしれませんが、そうした背景があったかと思います。

 そのため、今、中村先生がどうも少しお金のことがあるのかというようなことをおっしゃったと思うのですが、そのように見えたかという感じもいたします。

【中村委員】  そういう意味では、このNIHの話も、実は価格高騰というんですか、要は出版社がお金をたくさん取っているのはけしからん、ところからかなり始まっているんじゃないかと思うので、その議論をここに何も書かないと、要は議論として成立していないんじゃないかなという感じを持ったんですね。それに対して、我が国はどうするかという。残念ながら、世界的にそういう値段を決めている出版社というのは日本にないので、外国にお金が流出しているということと関係しているわけですね。

【有川主査】  いかがでしょうか。

 例えば、この間の本作業部会において、倉田先生にこの辺りの最近の状況を御紹介いただきましたが、少しその要点などを端緒としてお話しいただけますか。

【倉田委員】  私も、平成21年の審議のまとめのこの部分だけを、今、取り出されてしまいますと、その前後を、申し訳ありませんが詳細には記憶しておりませんけれども、おっしゃられますように、このときには現在の電子ジャーナルを中心とする学術情報流通は、要するに、商業出版社が利益を上げようが、お金があるところがきちんと入手できているのだからそれでいいではないか、という議論が一方ではあるのと同時に、しかし、それは余りにもやはり行き過ぎているのではないかということで、オープンアクセスということが、そこから始まったわけです。その行き過ぎを何とかするという方策として、利用者の方がお金を払うという方式ではない形で、学術情報をもっと自由に流通させる方策はないのかということが、オープンアクセスという考え方につながったということはそのとおりだと思います。NIHの場合には、確かにそれだけではなく、税金を使っているということに対して、その成果は公開すべきではないかという米国の文脈が、やはり強くあったのではないかというように、私は思います。

 特に、自分の健康や身体に関する医学についての情報は欲しいという、それは全く別の文脈として、そうした強い動きがあったということも関わって、成果の公開、義務化ということにまでなったということは、一方であるというように思います。

 ただ、それを突き詰めていったときに、国が全て負担してオープンアクセスにしなければいけないのか、そんなことが本当にできるのかという議論は、ずっと言われ続けていることです。お金はかかるのだから、誰かが負担しなければいけない。これは、負担するシステムをどのようにすると、できるだけ多くの人にとっていい形になるかという話だと、私は考えています。ですから、それはアメリカにはアメリカのやり方があり、日本には日本のやり方があっていいというようには思います。

 ただ、今の商業出版社のやり方、商業出版社だけの話ではなくて、非常に大きな雑誌をたくさん出している出版社があったり、非常に高い価格の雑誌があったりして、流通がうまくいかなくなっているものを、少しならそうという話から、やはり著者の方、若しくは著者が所属する機関がお金を出して、入手の形、システムを少し変えていく方が、よりバランスがとれるのではないかというのが、オープンアクセスというものを考え出した人たちの考えではないかというように、私は思っております。

 ただ、何と申しましょうか、オープンアクセスの理念といいますか、言われていることを全面的に突き詰めてしまうと、もちろんそれは誰が負担するのかということになってしまうわけですが、そのある種の今までの行き過ぎをもう少し変える、別のいろいろな選択肢があることによって、学術情報流通が全体としてはよりバランスのいい形で進む方策はないかということを、今、模索しているところではないかというように思います。ですので、日本として、今、この状況を見たときに、国としてオープンアクセスを推進した方が、我が国にとってはいいのではないかと考えるかどうか、ということだと思っています。

 特に日本の場合には、今、御指摘がありましたように、国際的な強い商業出版社を国内に持っておりませんので、流通に関しては、海外の出版社に非常に頼っている部分があるわけです。その状況で、では日本は、オープンアクセスだと本当に言えるのか。特に公的助成を受けた研究成果に関して、それを海外の出版社に出すなと言えるのかと申しますと、そこはやはり、非常に難しいセンシティブな問題が出てきてしまいます。その意味でも、オープンアクセスは重要だとうたうときに、一方的にどうしてもなってしまうので、重要だというときには、その裏にいろいろな意味があるということです。読み方によっては、余りにも何も考えてないようなことを言っているのではないか、というように読めてしまうというのは、問題だとは思います。ただ、あえてそれを言うかどうか、オープンアクセスを推進する必要があるというように本当に言えるのかというのは、いろいろな議論があるのではないかとは思っております。

 ただ、それと機関リポジトリの話は、私は全く別の話ではないかというように思っています。機関リポジトリは、各大学においてそれぞれが電子的なものに対してきちんと対応して、そうしたリポジトリを作っていかなくてはいけないという話なのではないか、というように、私は思っております。

【有川主査】  ありがとうございました。

【中村委員】  私も全くそのとおりで、完全に同意いたします。1つは、オンラインになってしまうと、昔の100年前の文献を見るのにも全部お金を払わなくちゃいけないのことになります。そういう意味では、1年ぐらいたったら、ただにしてくださいねというような考え方も、比較的当たり前の考え方であるとは思いますけれども。

 つまり、オープンアクセスを最初からただにするというのと、1年――NIHは多分そうなんじゃないですか。1年ぐらいたってからオープンアクセスにするというのは、かなり考え方に大きな差があって、後者の1年後の方が、まだわかりやすいと思います。商業出版社は、1年以内にお金はちゃんと儲けてくれというようなことで、モデルが成り立ちやすいかなとは思っています。

【土屋委員】  よろしいですか。ただ、理念としてのオープンアクセスというのは、ともかくオープンアクセスなんですよ。なぜかというと、要するに、知識というのはどうつくられようが、いろいろ微妙なボーダーラインとかクリティカルな場合があるわけですけれども、それが人類の共有財産だということが前提であり、学問をやっている限りはそういうふうに考えるというのが、教条主義的かもしれないけれども、理念としては存在するんだろうと思います。ですから、ともかく研究成果というのは、公表するというのが前提であり、公表されるべき研究成果は、だれでも使えるものじゃなきゃいけないというのがオープンアクセスの理念です。定義の問題であって、どう実現するかということは関係なしに、理念なんです。

【中村委員】  いや、ちょっとお待ちください。理念で言えば、お金払ってとれるんだから、完全にアクセスされているんじゃないですか。会社の情報はオープンアクセスじゃないけど……。

【土屋委員】  いえいえ、だから、お金を払ってとれるというのは、要するに、みんなが使える状態でないということです。お金を払った人だけが使えるという状態だから、それはオープンアクセスではないだろうということです。

【中村委員】  そうなってくると、学会誌も今までのモデルが成り立たない。お金を払って購入した人しか使えないので、学会誌をただで出せと言われると困ります。やっぱり必要な経費は絶対に認めないといけない。

【土屋委員】  いや、それはもちろんそうです。ですから、今までは、基本的にオープンアクセスではなかったんです。

【中村委員】  ああ、そういう意味ですか。

【土屋委員】  ええ、もちろん。学会誌だろうが何だろうが、それは全然オープンアクセスではなかったわけですよ。

【中村委員】  そうすると、本もそうですね。

【土屋委員】  図書にしても何にしても全部オープンアクセスではなかったんだということです。多分、これを言うと微妙なんですけれどもね。

【中村委員】  すべてただにすると。

【土屋委員】  いや、あくまで、知識の理念というのは、本来的にオープンアクセスであるべきだということです。そこと様々な制約との間で調停しなきゃいけないという話になっているので、それを具体的にどうするかということに関しては、いろいろな方式はあるだろうしということです。本当の理念が実現しないのは、理念というのはそういうものですから当然です。100%実現しないからこそ理念と言えるようなところがあるわけですから。ただ、理念としてのオープンアクセスとは何ですかと言われたら、これはこうですと言うしかありません。知識の本来の在り方として、オープンアクセスを求めるべきだろうというのは否定できないんだと思うんです。ただ、経済的な制約もあるし、政治的な制約もあるし、それ以外の法律的な制約もあるので、その理念が実現できないということは当然あり得るということなのです。あくまで理念のレベルにおいては、これはこういうものだとしか言いようがないですね。

【喜連川科学官】  その場合、ネットのサブスクリプションフィーはどう考えればよろしいですか。

【土屋委員】  だから、今僕が申し上げているのは、オープンアクセスの理念が何であるかということをお話ししているのであって、それをどう実現するかとか、我々がそれを経済的に維持できるかということは次の話です。

【喜連川科学官】  ですから、やはり極度に非現実的な理念のベースから議論を展開しても、ちょっと意味がないんじゃないかと思うんですけれども。

【土屋委員】  いやいや、ところが、例えば、さっき中村先生が「国が…」というふうにおっしゃったわけだけれども、現在、オープンアクセスを実現するモデルとして、事実ある部分動き始めているというのは、著者支払モデルなので、到底無理だと言われてきたものが、ある意味では再び復活しているという事情があるわけです。

【喜連川科学官】  ですから、著者がお金を払っても、ネットに接続できない人は、じゃあどうしてオープンアクセスなんですか。

【土屋委員】  ネットに接続できない人々という部分は、経済的な問題としてか、技術的な問題でも言ったんですけれども、少なくとも例えば、携帯の普及とか何かを見る限りは、世界中がつながっちゃっているわけですよ、もはや相当程度に。

【喜連川科学官】  携帯がつながっていても、PDFのダウンロードには非現実的な時間がかかるわけですね。ですから、理念と現実というのは、やっぱりある程度のリーズナブルなラインで考えないとですね。

【土屋委員】  もちろんそうです。理念と現実は別のものです。でも、理念があるからこそ、現実が現実として制約されたという意味を持つわけですよ。

【中村委員】  でも、オープンアクセスは完全無料だということになると、私の理解では、適切な料金――何ていうかな、必要な費用を含んだ意味でのオープンアクセスを議論した方がいいのではないかとは思いますけれども。

【喜連川科学官】  僕もそう思います。つまり、月間5,000円払えない人はアクセスできない。論文費なんかとは別に、とにかくネットにつながっているからオープンアクセスだというのは、全く意味がない議論になってしまうので、ちょっとどこかで線引きをしないと無意味な議論になってしまうと。

【土屋委員】  ただ、オープンアクセスとは何かと言われたときには、それはただで使えることだと言うしかないわけです。だけど、ネットにつなげるためには5,000円要るんでしょうといったら、そこのところは制約となって、オープンアクセスを享受できない人が若干いるというという事実が生じるだけです。

【喜連川科学官】  若干じゃなくて、非常にたくさんいると。

【土屋委員】  「非常にたくさんの部分」の「非常」には、例えば、飢餓線上の人たちが「人数非常にたくさん」と言われても、これはちょっと計算するのは苦しいですよ。

【喜連川科学官】  いや、世界の中でブロードバンドがこれだけ安いのは、日本と韓国ぐらいなものです。ブロードバンド単価が一番安いのは日本なんです。ほかの国で、これだけのアクセスできるところはないので。

【土屋委員】  ただ、ブロードバンド単価が今安いのは、それはまた一方で、通信会社の政策上の、もしかしたら誤った判断ということは十分あるわけです。本当にそこの部分というのは、現状に制約された議論だと思います。

【喜連川科学官】  これはちょっとなかなか議論していても進まないので、ちょっと別な視点で申し上げたいと思うんですけれども、私、今、通信学会の副会長をやっていまして、その前は、いつも副会長なんですが、情報処理学会の副会長をやらされていまして、労働奉仕をさせられる役に随分なっているんですけれども。学会の論文誌を出す部分に関しましては、電子化をするところから、べら棒に大きな収益減になっているのが現状なんです。中村先生の御意見に反論するつもりは全くなくて、一定のコストがかかるというのはそうなんですけれども、電子化がなされる前と電子化がなされた後とを比べますと、出版にかかるコストというのはけた違いに下がっています。つまり、エモーショナルに言いますと、ほぼオープンアクセスになったと言えるぐらいのコスト感になっているんです。その中で、商業出版社がやや値段をそれに比例しない形でコンスタントにするか、あるいはエンクリーズさせるかというところは、技術の現状感からしたときに違和感が出てくる。だから、そこら辺が僕は、オープンアクセスの1つの違和感のドライバになっているんじゃないかなという気がしているんですけれども。

【土屋委員】  よろしいですか。全くおっしゃるとおりだと思います。つまり、現実に今、例えば日本の大学全体という大雑把なくくりで見ると、どのぐらいアクセスできるようになったか。例えば、1990年代に比べて、どのぐらいの情報を利用できる環境にあるかというと、少なめに見積もる人で5倍ぐらい、多めだと10倍という人もいます。まあ、正確な数字は難しいわけです。要するに、アクセス可能タイトルとか論文の数とか、いろいろ数えるものは違うので。それでなおかつ払っている金額というのは、ちょっとしか増えていないということは事実なのです。そういう意味では、出版社みたいな言い方になって嫌なんですけれども、単価的に非常に安くなっていることは事実だと思います。ですから、そういう意味で、あえて申し上げると、日本の大学で、あるレベル以上の研究大学と言えそうな大学は、ほとんどの必要な資料が利用できる環境になっている。苦しいところはたくさんあるんですけれども、実態としては結構の数のところが利用しているということを考えると、少なくとも研究者的な、あるいは大学院生ぐらいの観点から見ると、実質的オープンアクセス的になっている部分が非常に多くなったということは事実だと言えると思います。

【喜連川科学官】  そこが申し上げたいところでございまして、ネットの代金も安くなってきている。それから、パブリッシュにかかるコストというのも、ITを駆使することによってかなり下がっている。つまり、エフェクティブに、実効的に見ますと、何十年か前に比べれば、かなり現象論的にはオープンアクセスに近い状況にだんだんなりつつあるというところは、一方では認めておく必要があるのかなと、そんなふうに。

【土屋委員】  早々。それで、もう一歩進めましょうという話です。

【喜連川科学官】  もう一歩……。

【土屋委員】  だから、放っておくと、先生がさっきおっしゃったようなどうしてもアクセスできない環境にいる人々というところで、とまっちゃうわけですよ。それをもう一歩進めるためには、政策的な判断、施策が必要ではないか、そういう議論が可能ではないかと思います。

【喜連川科学官】  学会は性善説というか、ノンプロフィットなものですから、そういうふうに自然にモノトニックにディクリーズしてきているわけですね。ところが、出版会社の方は、ゲームは違うゲームを使っているというところから、極度に利益率が高くなってきて、やや妙なシチュエーションかできているというのが、倉田先生が御指摘になられているところで。これは技術を素直に受け入れるのと、お金儲けをしようとする煩悩とは、必ずしも両立しないというところの現象かなと思います。

【土屋委員】  ただ、それは国際的な出版状況を考える限り、学会が「性善説」というのは、これは全くうそなわけです。つまり、国際的には、名前を言うのは嫌ですけれども、IEEEとかAPSとかACSとか、ああいうところの商業戦略と言っちゃいけないのかもしれないけれども、販売戦略とコストのつけ方とかいうのは、商業出版社顔負けの性能を持っています。かつ、実際に彼らはノンプロフィットだから利益はないように見えるだけであって、剰余金自体はたくさん出ているわけです。

【喜連川科学官】  私どももインターナショナル、IEEEが僕がすばらしいなと思いますのは、ボード・オブ・ガバナーが完全にインターナショナルになっておりますので、日本人の方が全部参加されております。したがって、IEEEの収益構造というのは、全部ビジブルです。日本の学会でそんなことをしているところってないんですね。ですから、そういう意味では、IEEEが悪いという言い方もできるかもしれないんですけれども、あそこまでやるところは、我々はちょっと尊敬できるところも一方ではあると思います。

 そういう中で見たときに、IEEEの収益減がどこかというようなことを、ちょっとここでやっていると延々と時間がかかってしまうのであれですけれども、必ずしもパブリケーションの部分ではないところから、多く得ているのは現実だというふうに理解しています。

【有川主査】  倉田先生、どうぞ。

【倉田委員】  先生方のおっしゃることは、それぞれそのとおりだとは思いますが、それを受けた上で、極論いたしますと、そういった意味でお金がかからずに、完全に無料でということは無理です。ただ、技術的にそういった方向に進み出しているということも事実ですし、また商業出版社が、電子ジャーナルが出てきた当時は、やはり利益率などでいろいろ批判された部分もあったと思うのですが、今はもう、全く別の方向を目指して走り出しているところはあるわけです。確かに、PDFの論文を配布するだけであれば、今、大変低コストでできるようになっているというのは、事実だと思うのです。しかし、電子ジャーナルや、また、成果の公表が、果たしてそのとおり、そのまま10年後も続くかどうかは、逆に申せばもっと分からない話だと思うのですね。

 商業出版社は、「PDFは無料でいいですよ。その代わり、私たちが最新で示すものは、もっとすばらしいものです。だから、買ってください」ということに、恐らく戦略的には、今、向かっているわけです。こちらでできるのは、最低限、とにかくPDFレベルでいいから、それは無料で多くの人が使えるようにしてくださいということですし、ネットにアクセスできない人たちまでは保証できないけれども、アクセスまではできる人たちには、せめて何でも自由に見られるというような、ある種のところまでのオープンアクセスということを言ってもいいのではないかという、その辺りの議論で、恐らくこういった話は出てきているというように、私は理解しております。

【有川主査】  他にございますか。

 もう一つの問題があると思います。今、価格といったようなことが中心になっていたと思うのですけれども、もう一つは、例えば、インパクトファクターであるとか、サイテーションといった問題をどうしていくのかということが深く関係すると思います。これも非常に軟弱な言い方になるかもしれませんが、紙媒体のときと、ネットでアクセスできるようになった今とでは、その辺りの考え方がかなり変わってもいいはずです。査読制度ということを、当然のこととして行っておりますが、本当に当然なのだろうか、ということもあると思います。今はどうか分かりませんが情報関係では、一頃、国際会議のようなところでも多いところで8人ほどが査読するというようなことが結構ありました。それを通すというのは大変なことだと思いますが、それは例外的で、通常は2人か3人ほどが査読を行っているのだと思います。そのように査読で権威付けられるわけですが、本当にそうなのだろうかと。

 いろいろな形態はあるにしろ、オープンアクセスによってみんながいろいろなものを見ることができるようになりますと、サイテーションなどはかなり自動的に分かります。それから、査読というようなものは、わずか2人や3人ではなくて、非常に多くの人が見て、ネット上でのコミュニティといったところで話題になり、それが論文の評価につながっていくなどというようなことが、ごく自然にできる時代になっているわけです。そうしますと、出版の仕方だけではなくて、査読の評価の仕方ががらっと変わる可能性があるわけです。そのことが、今はほとんどなされていない状況にあるのではないかと思います。学術情報と申しますか、論文の世界だけがそうであって、他のところはどんどんそのようになってきているのではないか、という気もします。考え方の違う方もいらっしゃると思いますが、この辺りも一緒に議論した方がいいのだと思います。

どうぞ、喜連川先生。

【喜連川科学官】  何か話題提供として少し申し上げますと、私どもの国際的な学会ですと、最近はやっていますのは、モースト・インフレンシャル・アワードとか、テン・イヤー・アワードということで、通常の学会ですと、1年間見てベスト論文は何ですかというようなことを決めるところが多いんですけれども、大体その年に出て、その年の価値なんていうのは全然わからないわけですね。そうしますと、10年前をさかのぼって、10年前の論文セットの中で、今、一番どれぐらいインパクトがあるかというのをセレクトするというようなことを、我々の学会では結構いろいろやっております。

 その中で驚嘆すべきことは、トップカンファレンス、つまり、採択率が10分の1のカンファレンスでも、ほとんどの論文が実は高いレファレンスバリュー、つまり、サイテーションバリューをとられていないということなんです。つまり、ほんの一握りのものが非常にサイトされているんですけれども、ほとんどのものはサイトされていないものの方がはるかに多いということが1つです。

 それから、もう一つ面白いことといいますか、よくわからないことは、有川先生がおっしゃいましたように、時系列で見ましたときに、何となくブームがふーっとつくられるんですけれども、三、四年するとふーっと終わってしまって、キューミレーションとしてはサイテーションバリューがあるんですけれども、10年たったとき、やっぱりこれはあかんかったなとかいうのもたくさん見えるような、そういうものもビジブルに見えるような状況になってきた。ですので、別に僕はITなので、ITを自慢するつもりもないんですけれども、いろいろなオブザーバブルなメトリックスを入れることによって、昔よりもある意味で論文の価値というものを正確に判断できるようなこともできるようになってきた。

 それから、更に今ありますようなアフィリエイトのようなブログとか、いかがわしいツイッターのように、論文のスパミングなんていうのは山のように出ています。ですから、お互いにリンクスパンといいますか、サイテーションを、原則性善説ですけれども、そういうものも、実は見えないところでは幾らでもある。ですけれども、そういうものはディテクトしようと思えば簡単にディテクトできるようなことも可能になってきている。そういう意味で、時代感は、どんどんどんどん世の中の透明性を増す方向には向いてきているんじゃないかなというのが、私どもが持っている印象でございます。ちょっと御参考までに申し上げました。

【有川主査】  ありがとうございました。今日は最初ですので、問題になりそうなこと、理念的なことや、コスト面、それから、評価についてなど少し出てきたわけですけれども、もう少し違う問題もあるかも知れません。

小山内部長、どうぞ。

【小山内研究事業部長】  済みません、学術振興会でございます。先ほど室長から御紹介いただいたとおり、学術定期刊行物に関するタスクフォースを、現在学振の方で進めているという状況ですが、そこで政策イメージの共有が難しい部分が1点ございます。オープンアクセスジャーナルの立ち上げという御提言がありましたが、オープンアクセスジャーナルは著者負担という前提になっておりますので、仮に学会誌を1つ立ち上げて、その運営に要するソフト、ハードとも新たに全部整備をし、そして査読も独自にかつ新たに行うということになりますと、相当の対価が発生するわけですね。例えば、学会のサイズにもよりますけれども、場合によっては10万円単位の投稿料がかかる可能性がございます。

 そうなったときに、オープンアクセスジャーナルで採算が取れるようにするのは容易ではなさそうですが、日本版のメガジャーナルをつくることを目指すか目指さないかは別としまして、幾つかでもビジネスモデルに乗っかるオープンアクセスジャーナルを、日本版のものをつくろうというメッセージを発信していくべきなのか。あるいは、学振の方で科研費のシステムを利用して、オープンアクセスジャーナルの立ち上げ費は支援するとしても、これはあくまで受皿、若しくは若干のインセンティブであって、どうしてもビジネスモデルとして成り立つオープンアクセスジャーナルが、もし日本国内で成立しないならば、機関リポジトリがあるからいいやといって退却するのか。言い換えれば、強い意志を持って日本版のオープンアクセスジャーナルをつくっていくのか、その辺の政策的な意志というか関係者の意志というか、その辺の雰囲気が明確になるといいなということを、学振の中で作業しつつ思っている次第でございます。

【有川主査】  そこを今からつくり上げていく、確認しようとしているのだと思います。今日、こうしたことを議論し始めたという背景には、これまでいろいろなところで議論してきましたが、やはり必ずしもみんな同じ意見でもありませんし、違った側面もありますので、一度徹底的に議論して、整理をしておきたいということがあるのだと思います。それぞれ外国の例であったりしますけれども、だから、日本もそうすべきだということや、日本で行うときにどうしたらいいかということなど、もう一度、原点に戻ったようなところからオープンアクセス、あるいは、それに関連したこととして機関リポジトリについて議論していきたいということで、こうした課題設定を行っていると思います。

鈴木室長、あるいは岩本課長、この時点で何かございますか。

【岩本情報課長】  ただ今、オープンアクセスの話が出ましたけれども、諸外国でも、ハイブリッドのような形でもオープンアクセス誌がかなり出てきているという動きもある中で、日本でも、定着したビジネスモデルが成り立ったオープンアクセス誌が、まだ現実のものとしてなってはいないのでしょうけれども、そうしたものも試みたいということがあれば、スタートアップの時点で支援するということが当然考えられますので、科研費においても少し配慮していただいたらどうか、という考え方に立っております。頭からビジネスモデルが成り立たないということではないのではないか、という前提で考えております。

 また、公的資金に伴うオープンアクセスの問題に関しては、確かにそういったハイブリッドのオープンアクセス誌のようなものが出てきておりますので、いろいろ論文の発表の場として、現実にオープンアクセス誌で対応するという道ですとか、あるいは、どうしても講読者有料モデルの発表の場を選んだとしても、NIHで行っているように、ジャーナルの方に投稿者が少しお金を払えば、NIHのシステムと連動してオープンにするというようなケースもあると思います。それがいいか、十分成り立つかどうかは、また別としてですね。ですから、もしかすると、そんなに購読料を支払わなくても、みんなオープンアクセスできる場合があるのではないかというところで、検討の余地があるのではないかとは思います。

 ただし、根本論で、何のためにオープンアクセスを推進しなければならないのかというところを、もう少し御議論いただいた方がよろしいのではないかと思います。確かに、平成21年の7月の審議のまとめで定義はされておりますが、科学技術基本計画で述べているところのオープンアクセスと申しますのは、余りそういった限定をつけてないのですね。そういうことですから、オープンアクセスというものをどう解釈していくのが一番合理的なのか。理念というお話がございましたけれども、いろいろな政策で打ち出されていくときは、理念がそのまま出てくるということはまずありませんで、理念というところからもう少し進んで、具体的に何をどうしたいのかというところで、整理されていくことが必要と思います。議論の出発点が理念でもよろしいかとは思うのですけれども、本当に一体どのような状態にして、何をどう改善したいのかというところを、改めて見直す必要があるのではないかと思っております。

【有川主査】  前回、本作業部会でおまとめいただいて、鈴木室長から研究費部会で説明いただき、日本学術振興会で検討がなされていると思うのですが、定期刊行物という、紙媒体のものを主体にした助成がずっと続いてきたわけですけれども、それに対してオープンアクセスも含めて電子的なものに移っていくべきではないかという提言をしたということだと思います。それは、時代をきちんと捉えたものになっていると思います。ここで今日から議論し始めたことは、そもそもオープンアクセスとは、というところからもう一度議論して、もう少し強化しておきたいということだと思います。

【土屋委員】  今の課長の、NIHについての解説には若干の訂正の余地はあるとは思うんですけれども、それはそれとしていずれ訂正します。さて、最初申し上げたのは完全に理念の話で、荒唐無稽というか単なる理念みたいな話をしたわけですけれども、その話と、やはり公的資金を、公的助成を受けた研究がどういうものであるかということを、社会的にわかるようにしておくという仕掛けをつくらなきゃいけないという話とは、若干違うんだろうと思います。知識は人類皆のものだみたいな、そんなのは要するに、しょせん哲学者が言っているような話にすぎないのです。

 しかしながら、実際お金の流れがはっきり見えているのは公的助成の部分で、その結果生み出された成果というものに関する費用の問題です。ここの部分は人によって理解がいろいろ微妙ですけれども、特にアメリカなどを中心にした二度払い論というのがあり、研究のためにお金を出して、もう1回研究成果を利用するために、もう1回お金を払うのは変だという議論です。これについて、僕は100%賛成しているわけじゃないのですが、そういう議論もあるような方向性もあるということを考えたときに、主として政府の出したお金による、したがって、国民がファンドしている研究成果というものに対して、ファンドした国民がチェックするために費用がかかってはいけない、あるいは費用がかかるから

チェックできないということがあってはならないのだというのは、一応公共政策的には妥当な議論だと思うんですね。それを何かの形で実現可能、あるいは保障していくという方向性というのは、現在の科学研究に対する資金助成の構造からして、当然考えなきゃいけないことだろうなと思います。それは要するに、実際に科学研究費補助金その他の政府資金を使って研究している我々としては、当然考えるべきことだろうなというふうには思います。

 既にそういうような論理に基づいて諸外国で、例によってどちらかというとアングロサクソン先行ではありますけれども、やはり政府資金によるファンドしたものについては、みんながチェックできる仕組みをつくりましょうということで、NIHは限定つきだけれども、一応ある程度は実現していると思われます。NIH以外のファンドについては、法案提出まで入っています。ただ、あの法案というのは、大統領が変わる年にだけ出てくるという不思議な法案なので、余り真剣に扱う必要はないという人もいるかもしれませんけれども、しかし、一応法案、支持する議員はいるという状況になっているということがあるので、その辺についてちょっと我々として、そういう動向をどう考えるかということは、議論しておかなきゃいけないんじゃないかなと思います。

 個人的な結論としては、ある程度そういう動向は反映したふうにしないといけないんじゃないかなと。全然理念と別の観点から強く、理由はゆっくり申し上げることにしても、感じるところはあります。

【有川主査】  山口先生、どうぞ。

【山口委員】  先ほど、NIHの例は様々な理由のもと義務化後のオープンアクセス率がかなり上がったという話でした。前回の議論のときに、それと同時に英国のリサーチカウンシルやとか、ドイツのDFGの例がありましたが、どちらも義務化、又は強い奨励をしているにもかかわらず、まだオープンアクセス率が10%~20%に満たない状況であったと記憶しています。特に英国のケースとドイツのケースは、全分野を網羅しており、分野によってかなりアクセス率が違うという議論も出ていましたので、少し整理する必要があるかと感じました。

 もう一点は、オープンアクセスを奨励する際に我が国の状況も分野別に少し丁寧に調査をして、オープンアクセスというコンセプトが、多くの国で急速に進んでいる現状を説明した上で、日本の学術分野にも、継続してそのコンセプトを普及するのが重要であると感じました。ある学会では論文誌を電子化しただけで、紙媒体ではないので、これはきちんとした論文にならないという意見もありますので。

【土屋委員】  まだ?

【山口委員】  特に若い研究者は、ペーパーでの論文がないと駄目だという議論もありました。やはり国内における様々な学会をかんがみたときに、オープンアクセスに対するコンセプトの底上げをするための、奨励策も重要と感じました。

【有川主査】  倉田先生、どうぞ。

【倉田委員】  今の御指摘は、ある意味で少しだけやはり注意しておかなければならないと思う点は、確かにこの作業部会の場でオープンアクセスの議論を行っております。また、世界的にどうなのかと申しますと、議論としては、これが当たり前になっております。その前提の電子化に関して、今更議論している国というのは、本当にないと思うのですね。でも、日本はそれをしなければならないということに関しては、かなり肝に銘じないといけないということは、大変感じています。

 なぜそのようなことを、今、言わなければいけないのだろうと、やはり私は少し思ってしまいます。オープンアクセスに関してはいろいろな議論がありますし、また、いろいろな立場とか、今、本当にそれができるのかなど、様々出てくるのはよく分かるのですね。でも、電子化したらそれで意味がなくなるという議論は、ちょっともうそろそろ終わりにしたいという感じが大変いたします。ですので、少なくとも公的な資金を受けた研究成果が、電子化という意味できちんとアクセスできる状況になっているというようなことは、少なくとも最低限、あってもいいのではないかというようには思います。

 そのようなことを誰も海外で言わないのは、言う必要がないからです。ただ日本の場合は、そこから言っておかないと、現実には今、そうではないということだと思います。ただ、それを今更電子化してくださいなどというのは、少し恥ずかしくて余り明言することではありませんので、そういう意味では、オープンアクセスというのは当然で、その上での話だということは、全員の認識を統一しておいた方がいいのかとは思います。

【有川主査】  ありがとうございます。そういう意味では、昨年の12月の段階で、電子化に対しましては、科研費を改善してもらいたいということで提案しておりますので、我々の作業部会としては卒業できているのかと思うのですが。

【土屋委員】  ただ、今のお話から、卒業しちゃうと、要するに、盲腸というのか何というのか、腐った部分がずっと残って、その腐敗が逆に全体に悪い影響を与えるとかという、そういう不安が残りました、今の山口先生のお話を伺って。

【中村委員】  今、これは実務的な委員会なので、何か進めなきゃいけないわけです。そう考えると進めるべきは、日本の学術雑誌はすべてやはり電子化すべきであるという、そういう号令を出すぐらいが、まずはミニマムなんじゃないですか。国として進めるべきであるかどうか、それぐらいのところからまずやっておかないとならない。確かに、進んだ場所と遅れた場所が上下にかい離して、にっちもさっちもいかなくなるかもしれないですね。

 

【有川主査】  もう一つ、御存じかもしれませんが、学術出版助成という単行本、本の出版への助成がございます。そちらの方になりますと、これは紙だから大切なのだということで、そこに電子化などと申しましたら大変な議論になる分野が一部ありますので、そこは定期刊行物ではないもので、助成を設けてあります。

鈴木室長、どうぞ。

【鈴木学術基盤整備室長】  学術定期刊行物、科研費の助成の方でございますが、12月にまとめていただきました改善案につきましても、あの段階のまとめにおきましても、電子ジャーナルに限るというような方向性は、まとめの文章の中にはございません。電子ジャーナル主体の助成の形態に変更するということで、助成の対象には、紙で発行を続ける人文社会系の学会誌も対象になっているということでございます。

 ですから、仮にでございますが、公的助成を受けた研究成果を、オープンアクセスを義務づけるということになりますと、日本の幾つかの分野の幾つかの学会に発表されている科研費の助成を受けた論文というのは、そもそも論文が電子化されていない状態のものがあるというのは現実であると。科研費の方の改善に関しましても、種々御議論いただきましたが、紙は対象外というところまでは、やはりまだちょっと打ち出せていないというのは、12月の議論のところだというところだけは確認させていただきます。ただ……。

【土屋委員】  ちょっといいですか。今、それを議論していただいたら反映できるんですか。

【鈴木学術基盤整備室長】  それは研究費部会さんの方の了解を得ているのは12月のバージョンでございますので、学術図書の方ですと、紙が大事だという意見の方はかなり強いと。ただ、学術定期刊行物に関してもそういった分野の方は、全く紙を否定するのかという意見が出てくる可能性は否定できないと思います。ですから、今、この作業部会で再度議論して、その方向性を出したとしても、それが研究費部会さんの方で御了解いただけるかは、また別の問題かと考えます。

【有川主査】  研究費部会に提案してございますので、研究費部会が更に検討されて、この際、紙はやめて全て電子化すべきだというところまで言ってくださってもいいのです。さらに、研究費部会から日本学術振興会にいく段階で、日本学術振興会で受けとめていただいて、もう紙への助成はやらないということを言っていただくことも、理論的にはできるだろうと思います。

【喜連川科学官】  ITを生業にしているものがこういう発言をするのは不適切かもしれないんですけれども、倉田先生が、最低ラインがPDFとおっしゃっていただいたんですが、PDFというのはオープンソースじゃないんですね。これは1つの私企業の非常に巧妙なビジネスモデルで成り立っているということも、一方では覚えておく必要があると思います。フランスはINAという組織が、70年間彼らの国営放送をすべてアーカイブしておりますけれども、その中で、メディアをデジタルで保存するということに対しては、ものすごく大きなコストをかけています。ですから、デジタル化をするところでコストリダクションができるところは大きいんですけれども、永久保存というところの環境で、ややしんどいところも実はあって、かなり紙は強いなというところも、これはITをやっていて言うのは非常につらいんですけれども、そういうところが1つあるということを御紹介させていただければと思います。

 それから、先ほど土屋先生が、二重払い云々のお話があったかと思うんですけれども、全くそういうエモーションが国民から出てくるのは非常に自然な発想かと思うんですが、これは今回の研究費だけの問題というよりは、全般的に見たときには、いわゆるオープンガバメントの問題だと私は感じます。ワールドワイドを見ましたときに、オープンガバナンスを持っている国の統計をとりますと、日本はほぼゼロです。つまり、ほとんどの情報というのがディスクローズされていません。ですから、大きな意味で、国として、国が保有するもの、国家の財政を投入したものをどういうふうに国民に見せていくのかという、もう少し広いフレームワークで考える必要があるんじゃないか。ただ、これはものすごく大きなお金がかかります。ですので、そのバランスを考えてやる必要が非常にあるというのがあります。

 それから、もう一つだけ申し上げますと、論文に10万円かかるとおっしゃいました。私どもの通信学会も情報処理学会も、実は全部違う査読システムとパブリッシングシステムをつくっていまして、これが吐き気が出るほど頭が悪い方式になっています。要するに、こんなものは完全にオープンソースにすべきものです。ですので、これは全部NIIが査読システムとかパブリックシステムから、こんなところで競争してもしようがないんですね。研究者はコンテンツで競争すべきであって、パブリッシュするシステムにお金をかけることを、何億円もやる学会の方がおかしいので、僕はオープンソースにすべきだというのはしきりに言っているんですけれども、なかなか聞いてくださらないんですが、長い目で見ると、僕はそういうふうになるんじゃないかなと思っています。以上です。

【土屋委員】  オープンガバナンスの問題から言えば、ここから始めてもいいじゃないかということです。つまり、ともかく日本の場合には、現実はかなりめちゃくちゃになっている感じはしますけれども、国がつくった知的な成果は、国というか、政府に著作権があるという建前になっている形で、要するに、国有財産だというわけでしょう。だから、ただで出せないというのがもともとの原則だということのようです。ただ、そこの原則を大きく変えるのは、やっぱりちゃんとした議論は必要なんだと思います。ここの科学研究費回りに関しては、一応お金の流れはかなり見えているので、そこに関して科学者が、研究者が自らの考えに従ってやったという形にするのは、それほど無理なことではないような気がします。それから、要するに、政府の中だけの動きじゃなくて、政府の外に出るお金の流れの動きですから、そこは説明がつくんじゃないかなという感じはするんですけど、詳細は別途議論させてください。

【喜連川科学官】  私も、それに関してはおおむね賛成なんですけれども、先ほど倉田先生がおっしゃられた、競争領域はPDFのような電子版ではないんだということをまさにおっしゃられまして、そのとおりで、次の領域は、実はパブリッシュされたコンテンツよりも、実はそのドライバになっているデータ系の方になっていくんですね。ここになりますと、非常に国益が絡んできます。したがいまして、オープンガバメントといっても、ガバメントを持っているものを全部出すということは到底できないところになりまして、したがいまして、全体観の制度づくりみたいなものを少し検討を始める中で、こういうものも議論していく。ただ、論文というものに関しては、多分土屋先生がおっしゃられるとおりだと思います。

【有川主査】  論文以前のデータの段階をどう考えるかという、大変大きな問題がありますが、それもどこかで議論しなければいけないのだと思います。その部分については、我々の作業部会ではほとんど議論してきていないのですが、一方では、そうした時期になってきております。例えば、国立国会図書館などで、知識、何と申しましたでしょうか。

【中村委員】  インフラ。

【有川主査】  知識インフラでしたでしょうか。その辺りでニュアンスが少し入ってきていますが、これをどうしていくかということは、非常に大きな問題です。

 それから、今、喜連川先生がおっしゃいましたが、これは後ほどの機関リポジトリの議論にも関係するのでしょうけれども、非常に長期の保存というようなことで考えた場合に、電子化していけばそれでいいかと申しますと、まだそうした歴史を持っていないので、これまではいわゆるマイグレーション、データの移行ということで、きていたわけですが、それがいつまでもつのかどうかという問題はまだ解けていないのだろうと思います。何百年、何千年という長期間保存しようと思ったら、大変なことになります。そのように考えますと、紙は実証された、非常に強い保存媒体であるということは言えると思いますが、そのように戻ってきてしまうものですから、やはり紙が大事だということになり、そこから進まなくなってしまうのです。けれども、絶えずそれは意識しておかなければいけませんし、情報に関わっている人の非常に大きな課題でもあるのだと思います。

【土屋委員】  今の公的助成のことでちょっとよろしいですか。

【有川主査】  はい、土屋先生。

【土屋委員】  純粋に質問なんですけれども、もしもそういうのを義務づけるなり何なり、利用の可能性を何らかの形で担保しなきゃいけないとかというようなことに対するアクションの義務づけといったような方向性になったとして、現状においてどのぐらい科研費の研究成果に対して、みんながアクセスできているかということの数字の認識がないと、義務化したけれども進みませんでした、義務化したのでよくなりましたとかという議論ができないと思うんですけれども。せっかく学振の方と科研費データベースのNIIの先生もいらっしゃるので。つまり、要するに、科研費で生み出された論文、パーシャリサポーティズでもいいので、生み出された論文って何本あるかというのはわかっているんでしょうか。

【安達学術基盤推進部長】  はい。前回、先生が来られる前に発表したと思いますが、大変残念な状況で、サンプルとして東京大学を挙げて試算してみたところ、数十件程度がアクセスできるいう状況でございます。

【土屋委員】  ただもう一つは、要するに、数十件はどう考えたって少ないんだけれども、つまり、利用できる論文じゃなくて、科研費で生み出された論文の数?

【安達学術基盤推進部長】  生み出された論文です。成果報告書に書いてある成果論文等を名寄せしまして、全部リンクを張ってあります。大部分のリンクは国際学術雑誌掲載の論文に飛んでいくのですが、その中で幾つ機関リポジトリに入っているかということをサンプル調査したのです。

【土屋委員】  だから、サンプル調査をするときでもいいんですけれども、科研費で出された論文の総数、利用できる論文は。要するに、総数分の利用できるだけど、だから、利用できる数は、ある意味でサンプル調査すればある程度までわかるわけだけど、総数というのはわかっているんですか。

【安達学術基盤推進部長】  それは成果報告書に書いてある……。

【有川主査】  機関リポジトリではなく、科研費の助成を受けた研究によって出された論文が、どのくらいアクセスできる状況にあるか、ということですね。

【安達学術基盤推進部長】  そうです。

【土屋委員】  アクセスじゃなくて、書かれた論文の数。

【鈴木学術基盤整備室長】  前回の安達先生の発表資料の8ページの表が今のお答え。それの真ん中の合計というところが、多分今のお答えの数字じゃないかと思うんです。

【安達学術基盤推進部長】  そうです。科研費の報告書に全部の発表論文はお書きにならず、主要な関係論文だけリストしてあることが多いのですが、その記述されているものを全部データベース化してありまして、リンク解決してあります。ですから、出版社に飛んでいける論文はリンクがはってあり、そのようなものをサンプル調査したものです。総数などはデータベースからわかりますが、実際にリンクが機関リポジトリのアドレスになっているものをサンプル調査して、数を試算したというものです。

【土屋委員】  わかりました。だから、伺いたかったのは、要するに、2,000億円か何か使って書かれた論文の数はどのぐらいあるのかなという。要するに、安達先生に聞いているんじゃなくて、学振の方に伺いたいんですが。

【小山内研究事業部長】  古いものというか、数年前までは、すべて研究成果報告書、論文ではないですね。研究成果報告書については、国立国会図書館の方に送ってくださいということにしておりましたので、学振の方で蓄積しておらず、それでちょっと数がわかりません。科研費の場合は、研究成果報告書を研究期間終了後に出すことになっています。その中に、当該研究による成果である論文についての記載があるものを、国立情報学研究所でまとめていただいたのが、前回資料4の8ページ真ん中の3の数字です。ですから、同研究所によれば、2008年に終了した科研費のテーマ、課題で算出された論文が9万3,613件ということです。それが多分、土屋先生の御質問の数字ではないかと思います。

【土屋委員】  9万件ですか。

【小山内研究事業部長】  ええ。

【安達学術基盤推進部長】  ウェブ・オブ・サイエンスに1年に載る日本人の論文が7万何千件ですから、それにプラス日本語の論文を考えると、科研費の成果論文数としてそれほど間違った数字ではないと思います。

【土屋委員】  10万本ということ?

【倉田委員】  1年とは限りません。成果報告書は、最終年に出ているものですので。

【土屋委員】  しかも、その後から生み出されるわけで。

【倉田委員】  はい。

【土屋委員】  それはわからないよね。

【有川主査】  年ごとに切れば、大体いいのではないでしょうか。

【倉田委員】  それは分かりませんけれども、年ごとに異なりますので。概略としては10万件と考えればよろしいのではないでしょうか。

【有川主査】  それで2,000億円を10万件で割ったりなどということは余りしない方がよろしいのではないでしょうか。

【喜連川科学官】  いや、今一生懸命……。

【土屋委員】  でもしますよね、普通の人はつい。

【鈴木学術基盤整備室長】  あと、重複は当然あり得るということでカウントされていますので。

【土屋委員】  それをやると大変だから、10万で割りまして。

【喜連川科学官】  1本200万。

【土屋委員】  200万円ももらってなかったです。

【有川主査】  そういったことは、例えば、生命科学系の方々は時折話題にされます。

 それで、思い切ったことを提案していっていいのだろうと思うのですが、やはり、何も議論をせずということではなくて、きちんとあらゆることを議論し、また、外国の状況も見た上で、検討していかなければならないと思います。

【安達学術基盤推進部長】  先生方の御議論、それぞれ大変納得できるのですが、大学図書館と話をしている立場から少し申し上げたいのは、電子ジャーナルとは要は日本全国の大学で300億円ぐらい経費がかかっているビジネスの上での課題であるということです。先ほどもいろいろ議論はありましたが、当面対象は英語で書かれた、インパクトファクターに関係するような文献を想定していると思います。それについては、日本の大学は大変良い状況にあるということは、実は、ひとえに図書館の努力の成果ではありますが、現在、大手出版社のビッグディールというビジネスモデルの上で、非常に危うい状態で成り立っているものであると思います。この契約形態はかなりトリックがあり、恐らく大規模な大学はしばらくもちこたえられるのだろうと思うのですが、中ぐらいの規模の大学では、ビッグディールによって非常に良い情報環境になったものの、今後大学の経費が削られそれを維持できなくなったときに、かなり悲惨な状況になると懸念されます。それに対して、個別大学でどう対応するかがまず問題になります。それができないときに、セーフティーネットとしてどう対応するかが、今、図書館が抱えている最大の悩みです。

 それに対して機関リポジトリ、オープンアクセス、そしてバックファイルの整備というような活動を行い、将来起こると懸念されるドラスティックな危機に対して、研究環境を維持することを考えているわけです。これがこのような議論における一番の問題で、理念的にもだんだんはっきりしてきたと思います。振り返りますと、オープンアクセスの前には、例えばテトラヘドロン・レターズに対抗する雑誌を、ノーベル賞受賞者など著名な方を後ろ盾にして新規発行するなど対抗誌の発行という形で雑誌価格の高騰を抑えようということをやったのですが、残念ながら余りうまく行かずに終わったわけです。それで今、オープンアクセスのような活動に進化しているわけです。非常に丁寧にお金をかけて雑誌をつくっている商業出版社に対して、喜連川先生が言われるように、作成コストは下がっているわけですから、もう少しリーズナブルに雑誌を発行してもらうにはどうするかというのが課題であると思います。とにかく大学図書館が今の環境をどうやって生き延びていくかというのが最重要の課題です。

 そして、もう一つ申し上げたい点が、もうこの分野では十分日本は国際化しているので、日本の特殊なことを言って、欧米の国に理解を求めるというような議論は全くできないということです。例えば、最近の高エネ物理学の分野でいいますと、数でいいますとアメリカ、ドイツ、日本の順番で論文を書いており、またarXiv.orgの使い方は、アメリカ、ドイツ、イギリス、日本の順番で多いということになっています。arXivのダウンロード数は東京大学が3番目、京都大学が6番目になっており、世界のランクでトップ10の大学は絶対協力してほしいという話に、当然のごとくなってしまうわけです。ですから、このようなことでは十分に国際化して、対等にやらなければならないということになっております。

 繰り返しになりますが、中くらいの規模で頑張っている大学では、先ほど申したような電子ジャーナルの危機的な状況に対応しなければならない事態が数年後にくるかもしれないという懸念があるということです。そのような点が一番心配であります。このような問題に対し、是非理念における戦略と、ビジネスでの戦いの両方を見ながらうまく解決するということが大事ではないかと思っております。以上です。

【中村委員】  余り話をする機会がないのであれですけれども、やっぱり本の方も本来は関係あるんですよね。本。アメリカの私たちの友達の大学の先生、そろそろ教科書が電子化される可能性が十分にあると思っている。皆さん、そう思いますよね。教科書が電子化される。何でかというと、最近私も電子図書を結構読みますけれども、英語の本なんかも辞書が内蔵なのですぐ調べられますよね。ですから、当然教科書は電子化すると、すごくいろいろなことができるわけですよ。絵が飛び出してきて動画になったり、辞書もついているし、何でもできる。それはそうなってちっともおかしくない。アップルも言っているように、そのうち学校の教科書が出てくる。電子化された教科書と、電子化されていない教科書を見たら、絶対に電子化されている教科書の方がいいに違いない。

 そうすると、今までアメリカの教科書、学術的教科書ですか、大学院の。みんな訳していますけれども、電子教科書の日本語版、多分今の日本の出版体制じゃできないですよね。アメリカの大手出版社がつくった大学の教科書、絵が飛び出してくる教科書を日本語に訳そうと思ったって、日本の出版社に力がありませんから、そういうことが実際に起きてくるに違いないと。

【土屋委員】  それはもっとひどい状況になっていると思います。つまり、本だけ訳しているという状況ですから。

【中村委員】  全体として、やっぱり学術出版の問題、雑誌の問題だけじゃなくて、全体がかなり深刻であるというところから話さないといけない。機関リポジトリもそうだし、図書館の在り方もそうなんですけれども。全体の中でオープンアクセスがあって、機関リポジトリがあるという位置づけをそろそろ考えないといけない時期でしょう。実は、もう遅いんですよ。そういうふうに思います。

【有川主査】  そういう意味では、紙のことを少し置いておいた方がいいのかも知れません。紙のこととなりますと、そのレベルに合ってしまって、先に進まなくなってしまいます。今、中村先生がおっしゃいましたように、絵が飛び出してきたり回転したり、実に様々なことができる状況になっていて、そちらへどんどん進まなければいけないのに、やはり紙が大事だというのでは進んでいかない。国が限られた予算の中で支援、補助を行うのに、国の方からの支援が紙に対してなかったからといって、それが否定されたと考える必要は全くないわけです。

【中村委員】  今申し上げたのは、PDF、そういったタイプのものだけの話をしているのでは済まないんですよね。PDFそのものにも問題がある。そういうことを申し上げたかったわけです。

【喜連川科学官】  それは民主党の前の自民党時代の、麻生政権のIT戦略本部の研究プランをやるときの、教育に対して何するかというと、まさにそんな議論をしていたんですね。ですけれども、政府のサステナビリティがないんですね。ですから、先生には失礼かもしれないけれども、それぐらいのことと言うと失礼なんですけれども、みんな考えているんですね、もちろん。ですけれども、全然政府の施策の、科学官がこう言うと怒られちゃうのかもしれないけれども、やっぱり継続性をどこかで担保して、ちょっとずつあれしていただくことが本当に不可欠で。

【土屋委員】  よろしいですか。ただ、心情的には賛成なんですけれども、実際、例えば教科書というのは、大学が金を払ってきたわけですね。学生に与えてきたわけじゃなくて、多くの場合は学生に買わせるというスタイルをとっていて。その学生が購入することで出版社がつくってというサイクルで回って、完全に商業的メカニズムでお金が回っていたわけで。そこに新たに、全く今まで大学はお金を使ってなかったので、そこに何かしなきゃいけないと言われて、じゃあ大学にどうするのという話に当然なるわけです。

 だから、そこに対しては、もし本気になってやるのであれば、かなり強く政府としてやるのか。それはもともとそこの部分というのは、商業的に動いていた話なんだから、出版社と学生の親の間で決着をつけてくださいという話をするのか。少なくとも教科書に関しては、大学図書館は全く関係ないわけです。全くというか、ほとんど関係ないわけです。教科書が大学の図書館に1冊あったって、全然授業にはならないわけですから。

【中村委員】  もう一ついいですか。だんだん話が流れて申し訳ないんですけれども、あんまり時間もないでしょうから。機関リポジトリの話のときに少し申し上げたんですけれども、やはり大学の図書館の在り方というのがあって、教育に積極的に参加することによって活路を見いだすというのかな。つまり、大学の資産の大きな部分というのは、先生方が授業のためにつくる資料なんですよ。これはどこにも今まで蓄積されていなかった。紙であるから難しかったんですよね。学生の書いたレポートとか、こういうのも本当は資産なんですよ、本質的には。今だと学生の答案レポートというのは、1年たったら廃棄していいということになっていますから、みんな廃棄するわけですけれども、これはみんな資産なわけですね。そういうものを蓄積するというのは、相当の意味がある。

 もう一つは、最近大学でかなり問題になっているのは、レポートのコピーとかから学術論文、博士論文のコピー。レポートなどを全部大学図書館のコンピューターに入れる。レポートを大学のコンピューターに入れたときに、大学がスクリーニングして、レポートから修士論文、博士論文、学位の論文すべてがコピーではないということを一括して検索するというようなことによって、大学の権威が守られるというのかな。そういうようなことも含めて、だれがやるかといったら、図書館しかあり得ないんですよ。そこまで含めて、リポジトリが活用されるならば意味がある。自分が学会誌に発表した論文のコピーをリポジトリに入れろというんじゃだれもやらないと思うんですけれどもね。学位論文のコピーがないかどうかのチェックとか、レポートの自動的受入れと内容チェックなどをしてくれる、答案を全部集めてくれる。そういうふうな機能があれば、教員側の協力が得られるに違いないと思う。それによって、図書館の新しい形というのが生じてくるんじゃないかと思うんですけれども。

【土屋委員】  よろしいですか。それに関してですが、機関リポジトリを図書館がやるというのは偶然にすぎないのです。これはちょっと非常にシニカルな見方かもしれないけれども、たまたま電子ジャーナルになると、受入れをするものがなくなっちゃうんですよ、つまり、仕事がなくなったわけです。だから、人手がすいたので、仕方なくて機関リポジトリをやっているだけというところがないわけじゃない。極めて言いにくいけれども、言ってしまえばそういうことかなとも考えています。人的な資源としては、十分つじつまが合っている話だと。

 今、中村先生が御指摘になった教育への関与の部分は、まだ全然解決できていない部分だということは事実だと思います。だから、機関リポジトリの機能は何であるかとかということを考えるときに、図書館がということを余り考える必要はないんだろうということです。たまたまあそこは人手が余っているからやっているだけなんだと考えてください。

【田村委員】  それについては私も一言言っておかなきゃいけないと思います。今の中村先生のお話というのは、長期的に見たときに、大学内の資源をどのような形で保持し、また発展させていくべきかというお話で、一方、安達先生のお話は短期、今降りかかっている火の粉をどのような形で、特に大学図書館が中心になって振り払っていけばいいのか、そのとき、オープンアクセスというのは1つの活路だし、機関リポジトリも活路だし、というお話です。そこでは、図書館は大学内で最も関わりの深い組織として重要です。一方、中村先生の方の機関リポジトリは、実は長期的に見たときに、オープンアクセスという話ではなくて、大学が持っている資産というのを活用するための仕組みで、その段階になったときには、確かに図書館等である必要はないということになります。

【土屋委員】  必要はない。

【田村委員】  必要はないんですよ。つまり、図書館が図書館である必要がない、というような部分まで話がいくようなことなんだと思います。そうなると、アーカイブ的な部分とか、図書館的な部分とか、あるいはデータや美術館的なものも入ってくるだろうと。要するに、大学が持っている資産を、大学の中でどのような形で保持して管理していくか、あるいは、ひょっとしたら大学だけじゃないかもしれないですよね。NIIがお始めになっているような、クラウドみたいな形というのもあり得るのかもしれない。ただ、一番最初のところは、発生源のところできちんと押さえる体制というのは大学はつくらなきゃいけない。大学図書館などの組織は、そのようなものの中に統合されてゆくのだろうというふうに思っております。

 ですから、私は中村先生のお話は、長期的にどういう展望を持っていけばいいかという話として、特に大学図書館なんかは私にとって非常に関心があるわけですけれども、そういう文脈のところでとらえる必要がある話として理解しました。

【中村委員】  全くそのとおりです。

【有川主査】  機関リポジトリの話になっておりますが、これは要するに、発生源ということで、中には先ほどの学生の答案、レポートのようなものなど完全にオープンにするわけにもいかないものもありますが、それをどうデジタルの状態で保存するかということです。一方では、昔のいわゆるテクニカルレポートのような感じで、速報的にどんどん出していくといったこともあるのだと思います。

 これから、機関リポジトリについて少し議論いただきたいのですが、図書館についてはいろいろ御意見が分かれるところがあると思います。今、中村先生のおっしゃった点で申しますと、例えば、私どもの九州大学では、教材開発センターというものを図書館につくっております。これはまさに、学生も一緒になって教材をつくり上げていくというような新しい取組を行っているわけですが、これを図書館の仕事として位置付けているということは、今日は余り詳しく申しませんが、かなり意味があることです。

 図書館の話をいたしますと、また少し議論がいろいろ発散しますので、時間が少しになりましたが、機関リポジトリについて御意見をお願いします。

【土屋委員】  いいですか。機関リポジトリに関して、別にどうしようという話じゃなくて、やっぱり事実認識として強調しておきたいことが1点、2点あります。つまり、実際につくられた2004年、2005年ぐらいの段階には、多分1けたぐらいしかなかったものが、今は二百数十にまでいっちゃっているという状況です。しかもそのたびに、例えばお金はどれぐらいついたかと言えば、せいぜいNII経由で1億、2億、最大多くても3億ぐらいのときが精一杯でしょう。ですから、言ってみればほとんど追加のお金を使わないで、各大学の努力でやってきたという部分がかなり強いだろうと思います。もちろん実際に仕事をされたのは図書館の方だったということは事実なので、これは否定できません。

 それを今、振り返って考えてみると、特に最近私立大学が非常によくつくられているなという感じがあるんです。それを見ると、さっきも公的助成のところで出てきた、やっぱり社会的な説明責任論というのが、大学関係の方に非常に強く説得力を持っていたんじゃないかなと考えます。ですから、やっぱり「大学で何をやっているのか。こういう研究をやっています、こういう教育をやっています」ということを見せるという仕掛けとして受け入れられたというのは、実際に教材なんかも入っているわけですから、事実だと思うので、大学側がそういう認識で持ってきたということは、極めて重要です。逆にオープンアクセスという点から言えば、機関リポジトリについては、大学がいずれにせよ機関リポジトリを必要としているのならば、そこを使ってできるオープンアクセスをやるだけやっておけばいいじゃないのという気がしないでもないと思います。

 ですから、今、少なくとも大学関係者とか研究機関にいる方々というのは、皆さん社会的説明責任の問題については極めて、多分20年前よりはるかに自覚的になっているんだと思うので、そこのところはきちっと強調していく必要があるんじゃないでしょうか。七百何十ある大学で、機関リポジトリがまだ200強だというのをどう評価するかという問題はもちろんありますけれども、それを作らないところについては、それはそういう御判断であって、結果的に競争的環境だ何だかんだというひどい外部環境もありますから、そういう意味で、結果はどうなるかは御自分の判断によるんだと言うしか言いようがないということだと思います。

 ですから、今までの成果の、多分ここの分析についてもし間違っているという御指摘があればしていただきたいんですけれども、やっぱり機関リポジトリというのがこれだけ数年間で二百数十までいったというのは、大学関係者が大学の持っている社会的責任というのを自覚して、その内部で行われていることというのを社会に理解してもらうための努力をしようとした結果であるというふうにまとめてよければ、僕はそれは非常に大きな成果だったという気はするので、その成果の上に何をやるかというふうに考えるべきではないかなと思います。

【有川主査】  最後の部分はまさにそうであって、国立情報学研究所はいろいろな事業を行われますが、機関リポジトリは、最近の際立った効率的な事業だと思います。わずかのお金での事業ということになるのですが、図書館の方もかなり前向きに取り組んだわけです。どんどん定員は削減されていく中で、自分たちが新しいことを進めるわけですから、大変な思いをして取り組み、ある種の使命感を持って対応したわけです。まさに、それの上に何ができるかということを考えていくという時期になっているのだと思います。

【安達学術基盤推進部長】  先ほどの土屋先生のお話は、大学が自律的に判断し、社会的な反応を認識してやっていくというのが基本で良いというお話で、そういうことだろうと思うのですが、一方、制度化した場合、例えば、博士論文は全部機関リポジトリ等によって公開しなければいけない、ということになります。また例えば、科研費について制度化した場合、やはり関係する機関が全部それに対応できなければならないというようにする必要があります。この際、ラストリゾートをどのように用意するかということを一応考えておかなければならないと思います。その点が自発的にやるときと、制度化するときの違いでして、私どもとして少し気になる点です。

【上島委員】  私もやっぱり同じような意見で、機関リポジトリ等も使いながら、今後、ミュージアム、ライブラリー、アーカイブの3者のMLA連携を目指して、前回の報告書にも出したと思いますが、各大学が自発的に情報発信する動きが起きると思います。ですが、例えば、機関レポジトリの役割として論文を入れておく保存庫として考える場合は、ある程度どのようなものを入れるか決まってきます。現在は、学会、あるいはそれにかわる企業がやっているわけです。しかし、機関レポジトリは対象を広くとっているので、各大学が自発的に入れることになったら、それぞれに特色が出てくる。それがオリジナリティなのかもしれないですけれども、本部会が作業部会という位置付けであるという話が中村先生からございました。そういう意味で、機関レポジトリに対しても何らかのガイドラインを部会から出すのも1つの方向ではないかと思います。

【土屋委員】  望ましい機関リポジトリの在り方とかですね。

【上島委員】  余り押さえる必要はないとは思いますが。

【有川主査】  恐らく、ある時期ではそうかもしれませんが、もう少しいろいろな展開や経験を積んでからだと思います。

 日本には、700から800程度の大学がありますが、そのうちの230位が機関リポジトリを持っております。また共同で持つというところもあるのでしょうけれども、やはりいろいろな意味で100%に近いものにならなければならないのだろうと思います。

【羽入委員】  ここの議論の達成目標というか、到達目標というのがよくわからないんですが、自由にということでしたので。先ほどのお話も伺いつつ、機関リポジトリというのは、やはり単独に議論できなくて、オープンアクセスと連携させて考えざるを得ないと思います。機関リポジトリは、蓄えたものというか、研究成果なり、教育教材というのを発信するためのものですが、発信環境という意味では、非常に大きな役割を果たしていると思っています。

 オープンアクセスというのは、研究環境、学習環境、教育環境という3つの要素があるというような気がしていて。注目すべきなのは、研究環境を整えるために、できるだけ効率よく研究成果を私たちが自由に入手したいわけですが、そのときに、財力のある大学と、そうでない大学の研究環境の格差が生じないようにするにはどうしたらいいかということを考えざるを得ないと思います。

 そのときに国としてどういう方向に持っていこうとするのかをここで議論し、そのための理論構築はどうできるかということを、ここで考えるべきなのかなと。そのときに、財政的裏づけがどこまで可能なのかということを考えるべきなのかなと思いながら今のお話を伺っていました。先ほど学振の方から提案がありましたけれども、例えば、オープンアクセスジャーナルというのを国としてつくるというような方向性を打ち出していくのかどうかということで議論が違ってくる。個別に任せるか、あるいは国としてそれに取り組もうという姿勢を示していただくように、私たちの議論を持っていくのかによっては非常に違ってくるので、何か目標が欲しいと思いながら、伺っていました。

【有川主査】  冒頭で申し上げましたように、今日は、あえてそれを設定せずに議論しているというところがあります。ですから、今日はいろいろな話ができたと思っておりまして、その中から浮かび上がってくることがあると思っています。こうした委員会などでの通常の議論と申しますのは、ある方向へ進んでいくために議論していることが多く、前回までは少しそういうことで進めておりましたけれども、今度はもう一つ、新たなステージに入ろうとしているわけです。そこでは、議論が左に行くかもしれないし、右に行くかも知れませんけれども、まず議論をし、共通に理解をした上で進んでいったらどうかという思いが、私にはあります。そういうことでよろしいですか。いずれにしても、じきに収束していくのだろうと思っております。

【土屋委員】  もうひとつ。どなたに伺うのがいいかわからないんですが、科学技術基本計画の、推進方策の最初の部分がありますよね。「大学や公的研究機関における機関リポジトリの構築を推進し、論文、観測、実験データ等の教育研究成果の、(まあ、実験データが教育研究成果なのかよくわからないですが)電子化による体系的収集、保存、オープンアクセスを推進する」というところですが、読み方として2つのことをやると書いてあるのか、機関リポジトリの構築によって推進するという意味なのか、どっちなんですか。

【安達学術基盤推進部長】  あいまいにしてある。

【土屋委員】  いや、あいまいにしてあるから、どっちか問いただしたいという。

【岩本情報課長】  恐らく普通に読みましたら、二つのことは並列の関係にあると認識しています。それで、いわゆるオープンアクセスに関しては、今、羽入先生からございましたように、研究情報基盤の整備と書いてありますので、学術活動なり科学技術活動が大学や研究機関で行われるに際して、いろいろな論文の入手ということが無料で即時、全文という形で入手できなければ、研究基盤としては不十分だというように議論するのか、それとももう一つ違う観点で、学術活動で得られた成果を国民にオープンにしていくためという観点に立つのなら、その際に、どこまでオープンにしていくのか。そうした議論が二つあると思うのですね。

 科学技術基本計画では、研究情報基盤の整備という見出しの下で記述がされておりますけれども、どちらの観点で考えるかによって、オープンにする具体論が変わってくると思います。国民の側から見ますと、研究の概要なり、公的資金が投じられて、どういった成果が出て、それがどのように活用できるのか。それから、アクセスしやすい環境ができることが肝要であり、必ずしも全文情報、しかも即時入手ということにはこだわらないとすれば、例えばサマリーですとか、アブストラクトですとか、ある程度いろいろな分かりやすい形で入手できるということも、一つの方法と思います。

 一方、学術活動を進める上で必要とされるという観点に立って、例えば、本当に最先端の研究活動を進めるときに、科研費などを受けて発表された研究成果というのを、即時無料で入手するという体制を全ての論文に義務付けることがなぜ必要なのか、分からない部分がありました。

【土屋委員】  それに関しては、多分必要かどうかではなくて、そうすべきだという話だと思うんですね。つまり、要するに、もしかしたら見たい人もいるかもしれないという話です、基本的には。だけど、公的な資金でなされた研究成果というのは、税金を払った人、(払っていない人は随分いるらしいけど)ともかく払った人が、いわば研究のスポンサーだということになります。スポンサーは自分の払ったお金でできた成果を全部見られるべきだという、その非常に単純な論理によるので、その人が見てわかるかどうかはよくわからないという話は、余り関係ないというふうに考えざるを得ないと思うんです。

 せっかくだけど、課長がそういう問題設定をされたので伺っていきたいんですけれども、例えば、よく文部科学省などは、大学間の競争的環境とかとおっしゃるわけですよね。その場合に、要するに、この雑誌論文にアクセスできる、できないということも競争的環境の一部なんですか。それとも、論文にアクセスできるという環境はみんなに平等に整えた上で、その上で競争してくださいという話なんですか。

【岩本情報課長】  余りそういった問題設定がなされてないと思いますけれども。

【土屋委員】  してないから伺いたいんです。

【岩本情報課長】  余りそういったことは、議論されてないのではないですか。

【有川主査】  あえて答えるとしますと、それも競争だと思います。競争に勝つのであれば、自分たちできちんと整備しなさいというようなことにもなるのだろうと思います。

【中村委員】  大分時間がたってきたので、今まで話題になっていないお話をしたいんですけれども。それはこのジャーナルのアクセスもそうだし、恐らくリポジトリもそうなんですけれども、研究機関なり大学の規模と、かかるお金の比、というか相対効果という問題があります。オンラインジャーナルは、私が理解する限り、例えば、東京大学あたりがダウンロード数においては最も安いんですよね。1ダウンロード100円とかだとすると、小さいところは数倍、もしかすると10倍ぐらい高くついているに違いないんですよ。ともかく高くつくのは明らかです。多分、機関リポジトリもそうで、大きいところは相対的に安いんじゃないかなと思うんですけれども。

 そういうふうにコスト意識の問題がある。コストの問題は、やっぱり避けて通れないと思うんですよね。やっぱりコスト意識がないとこの話はできないので。そうすると、次はコストが高くついている大学は、もちろん合併してコストを安くしろとか、そういう話になりそうですね。小さいところはリポジトリつくるのに人件費もかかっているでしょうし、やはりコストのことを考えずに、こういう政策を行うというのは望ましくない。税金の有効活用の視点も絶対必要だということだけ述べたいと思いますけれども。

【土屋委員】  ここで合併してよとは言えないですね。

【中村委員】  でも、やっぱり高くついているから、そこに無限にお金を投じるわけにはいかない。

【羽入委員】  1つだけ。小さい大学としては、コストパフォーマンスということで統合というような話にはならないと思うのです。教育環境なり研究環境を基盤としてつくるのかどうかをまず考えるべきであって、高い、安いというだけの問題で議論すべきではないと思います。

【喜連川科学官】  余り言うと怒られちゃうかもしれないんですけれども、情報全体を置いといたときに、機関リポジトリというのは抽象的にどう見えるかというと、情報を機関ごとに分類しているのにすぎないんですよね。もちろん入れるところのリーガルボディとして、だれに責任を持たせるかということでの機関リポジトリというものは意味があるかもしれないんですけれども、ユーザーである視点、あるいはコースウェアを見る学生という視点で見たときに、決してリーガルボディが重要なのかというとそういうことではなくて、この間の学術分科会でも話題に出ましたように、プライバタイゼーション、つまり法人化でのほころびという表現を非常に上手にされたかなと思いますけれども、横のアクセスのメカニズムというものこそが、本当は重要なんですね。短軸で分けることに論理的な意味があるかというとそうではなくて、多様な軸でアクセスできるようなフレームワークをこの上にいかにエンリッチするかということの方が、物の本質じゃないかなと、そんなふうな印象を持ちました。

【有川主査】  大体時間となりましたが、この議論は次回も行うことになっております。もちろん同じようなことではなく、今日の議論の中で少し方向性も出てきていると思っております。少し大変だと思いますが、本日頂きました議論は事務局で整理していただいて、次回の議論のベースにしたいと思います。本日は事前に事務局から用意いただいた議論の観点例のほとんど全ての部分について、少なくとも全部タッチはできたかというように感じております。長時間ありがとうございました。

 それでは、次回のことなどにつきまして、事務局からお願いいたします。

【丸山学術基盤整備室長補佐】  いつもと同じでございますけれども、本日の議事録につきましては、各委員に御確認を頂いた上で、主査の御了解を得て、文科省のホームページに公開させていただきたいと思います。

 次回の会議でございますが、3月21日水曜日に開催をさせていただきます。時間は、本日と同じ15時から17時。場所はまた変わってしまいますけれども、3F2、文科省の本館の3階になりますので、お間違えのないようにお願いいたします。

 また、それ以降の当面の予定につきましては、お手元の資料2にまとめてございますので、日程の確保につきましては御配慮を頂きますようお願いを申し上げます。なお、調整中のため、資料2には反映をしておりませんけれども、3月29日午後2時から、研究計画・評価分科会のもとに設置されております情報科学技術委員会との合同で会議を設定させていただければというふうに考えてございます。アカデミッククラウド等の御議論を頂きたいと考えておりますので、よろしくお願いします。詳細はまた改めて御案内を申し上げたいと思います。

 本日の資料につきましては、机上にそのままお残しいただけましたら、事務局より郵送させていただきます。以上でございます。

【有川主査】  合同会議では、クラウドの問題を議論するということですね。

 それでは、本日の作業部会はこれで終わりたいと思いますが、局長から何かございますか。

【吉田研究振興局長】  きょうも大変活発な御意見を頂きましてありがとうございます。この問題、いろいろな観点からやっていかなくちゃいけませんけれども、私どもとしては、やっぱりコストの問題、コストをだれが負担をしていくのかというような問題は、私どもの立場からすると、ちょっと十分に考えておかなきゃいかんなという感触を持っております。

【有川主査】  どうもありがとうございました。それでは、今日の会議はこれで終わります。ありがとうございました。

―― 了 ――

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