研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第42回) 議事録

1.日時

平成23年7月26日(火曜日)14時00分~16時00分

2.場所

国立情報学研究所22階会議室

3.出席者

委員

有川主査、上島委員、倉田委員、田村委員、土屋委員、羽入委員、松浦委員

文部科学省

(科学官)喜連川科学官
(学術調査官)阿部学術調査官、宇陀学術調査官
(事務局)倉持研究振興局長、戸渡大臣官房審議官(研究振興局担当)、鈴木学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

【有川主査】  それでは、時間になりましたので、ただいまから第6期の第5回目でございますが、第42回学術情報基盤作業部会を開催いたします。 

お忙しい中、御出席いただきまして、ありがとうございます。

 本日は、これまでの学術情報発信の取り組み等に関する説明などを踏まえまして、意見交換を行いたいと思っております。

 まず、御出席いただいている方について、事務局から紹介をお願いいたします。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  前回までに御説明を頂きました学協会、関連機関の方々には、有識者として引き続き審議に御参加を頂いております。なお、日本経済学会の三野教授は、本日は所用により御欠席です。

 以上でございます。

【有川主査】  どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、事務局より、配付資料の確認と傍聴者登録について報告をお願いします。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  本日の配付資料でございますが、お手元の資料の一番上が議事次第で、以下、資料1、資料2、資料3の三種類でございます。それから、机上にこれまでの資料をドッチファイルでとじたものを御用意しておりますので、審議の中で御参照いただければと思います。

 本日の傍聴者ですが、20名の御登録がございます。

 事前の撮影、録音、録画の登録につきましては、ございません。

【有川主査】  ありがとうございました。

 それでは、まず、7月7日に開催されました研究費部会において、学術情報基盤作業部会として報告した科学研究費補助金、研究成果公開促進費に係る意見等について、鈴木室長から説明をお願いします。

【鈴木学術基盤整備室長】  それでは、資料1でございますが、7月7日に開催されました研究費部会におきまして、現在の本学術情報基盤作業部会の科研費関係についての審議の状況を、私から報告させていただきました。研究費部会には、本学術情報基盤作業部会において、学協会等の学術情報発信強化の観点から、科学研究費補助金研究成果公開促進費の学術定期刊行物につきまして、その改善方策について、抜本的かつ具体的な改善策を本学術情報基盤作業部会で検討した上で、研究費部会に報告させていただくということを発言させていただきまして、基本的に研究費部会にも御了承いただいたところでございます。

 なお、その際にも若干混乱したのですが、科学研究費補助金の研究成果公開促進費学術定期刊行物については、資料1を御覧いただきたいと思います。先生方には十分御承知かと思いますが、正確に申しますとかなり長くなるものですから、時々、発言等におきましても「研究成果公開促進費」とか「学術定期刊行物」と略しておりますが、今回、研究費部会に対しまして、学協会の学術情報発信強化の観点から改善策を検討するということにいたしましたのは、1ページ目の下にあります研究成果公開促進費の四つの区分のうち「学術定期刊行物」の部分でございます。研究成果公開促進費には、この他に「研究成果公開発表」、「学術図書」、「データベース」という区分があるわけですが、あくまで今回、本作業部会において御議論いただき、改善策をまとめるのは「学術定期刊行物」でございます。

 資料の2ページ目ですが、研究成果公開促進費の目的・性格の部分を御覧いただければと思います。研究成果公開促進費の目的・性格は、2行目にありますとおり、我が国の学術の振興と普及に資するとともに、学術の国際交流に寄与することを目的とするものということであり、この学術定期刊行物を議論の対象としてございます。

 学術定期刊行物の応募区分といたしましては、3ページ目にありますとおり、現在、欧文誌、特定欧文総合誌、欧文抄録を有する和文誌という三つの区分に分けて公募審査が行われているところでございます。なお、後ほどの議論等でも出てくるかと思いますが、現在、学術定期刊行物の応募対象経費となっておりますのは、(3)にありますとおり、学術誌の刊行に必要となる経費として、直接出版費のうち、組版代、製版代、欧文校閲費等の経費が対象になっているところでございます。

 電子媒体につきましても、2ページ目の一番下の部分に記載がございます。対象の欄の一番最後でございますが、(注2)としまして、「電子媒体」、「紙媒体」又はその「両方」のいずれの場合でも応募することができるという記載はありますけれども、内容的には紙が主体になっております。

 このような現状でございますので、研究費部会には、電子化を踏まえた形で抜本的かつ具体的な改善策を、今後、本作業部会で検討させていただくということを申し上げたところでございます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 本件につきましては、後ほど意見交換を行う予定でございますけれども、この段階で御質問等ございましたらお願いいたします。

 冒頭でありましたように、研究成果公開促進費としては四つの区分があって、ここでは、そのうちの学術定期刊行物に関して取り扱うということです。他の三つに関しても、当然、研究費部会は扱うわけですけれども、我々の作業部会では検討のらち外にあると考えるのでしょうか。今回は、そのうちの学術定期刊行物だけを考えるということでしょうか。

【鈴木学術基盤整備室長】  あくまで今回、本作業部会で議論をして参りました学協会等の学術情報流通・発信というテーマに関して、科研費に関わる部分として研究成果公開促進費の学術定期刊行物が議論に出て参りましたので、その改善策を検討したいということで、研究費部会に御説明させていただいたところでございます。今後、議論を進めていく上で、学術図書、データベース等に関する部分の改善が必要という内容が出てきましたら、改めてということになるかと思います。ここまでの議論で出て参りましたのが学術定期刊行物でございましたので、そうした説明をさせていただいたということでございます。

【有川主査】  そういうことで、研究成果公開発表などは少し遠いかもしれませんが、学術図書やデータベースについては、学術情報基盤ということからしますと関係が出てくるということだろうと思います。

 他に何か、この時点でございますでしょうか。

 それではただ今、鈴木室長からございましたように、7月7日に研究費部会で説明を行い、本作業部会からの提案をお認めいただいたということですが、検討についてはいつ頃までということになるのでしょうか。

【鈴木学術基盤整備室長】  検討のスケジュールですが、科研費は毎年9月に公募を開始しておりますので、現実的に来年度の公募には到底、間に合わないということで、平成25年度の公募を視野に入れて考えますと、本作業部会で具体的な案を作成し、かつ研究費部会で検討を頂いた上で、公募要領を作成する際には、公募要領に合わせて審査要項や、申請書等の細かい部分の設計までしなければいけないということを考えますと、本作業部会での検討は11月頃、ぎりぎり年内くらいまでに案を作成するというスケジュールになるかと思います。年明けの1月に研究費部会での検討をお願いし、その後、研究費部会の検討を踏まえて、実際の公募審査を担当しております日本学術振興会へ、研究費部会及び学術研究助成課から詳細設計の提案がされる、そういった流れになるかと思っております。

【有川主査】  それでは、我々が検討した結果として、一般的な提言の中に研究費部会に対する提言も含めるようにする。そして、それが研究費部会で取り上げられて、実現する場合には平成25年度分から実施されることになるということでございます。よろしいでしょうか。

 次に、本日の主な審議事項でございますが、学協会等の情報発信流通、循環の促進について、これまでの主な意見を事務局で整理していただいております。まず、鈴木室長から御説明を頂きまして、その後で意見交換を行っていきたいと思います。その意見交換は、ある方向へまとめていくためのものということになります。よろしくお願いいたします。

 それでは、鈴木室長からお願いします。

【鈴木学術基盤整備室長】  では、資料2を御覧いただきたいと思います。第38回から第41回、前回までのヒアリングを踏まえまして、委員の先生方や参考にいろいろな御意見を発表していただいた方々の主な意見につきまして、幾つかの項目にまとめて、事務局において整理させていただきましたものが資料2でございます。なお、各回に出されました意見につきましては、それぞれ次の回の作業部会の資料に意見の内容を付けさせていただいておりますので、必要に応じてドッチファイルの資料を御参照いただければと思います。

 簡単に資料2の内容を説明させていただきますと、まず項目の一つ目といたしまして、学術情報流通・発信と国際化の進展ということでまとめさせていただいております。

 一つ目の丸でございますが、現在の論文誌だけでなく、次世代の科学者のコミュニケーションメディアなどの将来を見据えつつ、それをどのように研究に役立て、教育に生かすかという視点が重要であるということでございます。

 二つ目の丸でございますが、日本で雑誌を刊行する意義に関しては、日本の学術研究、広く言えば文化をあらわす顔になるということで、新しい分野を切り開くような日本発のオリジナルな研究成果、それをもとに諸外国からも日本の雑誌に投稿がされる、そうしたことが必要なのではないかということでございます。

 三つ目の丸でございますが、日本発のジャーナルがなければ、研究のプライオリティーの確保の観点からはリスクがあるということで、迅速、公正な査読が行われるジャーナルが日本にあることが必要であるという御意見でございます。

 四つ目の丸でございますが、人文社会系の電子ジャーナルを検討する段階では言語の問題が出てくる、多様性への配慮が必要ではないかという御意見でございます。

 項目の二つ目は、学協会等による学術情報流通・発信でございますが、こちらでは、御発表いただきました各学会での取り組みの内容のうち、主なものをまとめさせていただいております。

 一つ目の丸が日本化学会の取り組みでございまして、二つ目の丸が電子情報通信学会の取り組みで、アジアを中心に活動を展開しているという点です。

 資料の2ページ目に参りまして、経済学の分野では若手が頑張っているという御意見が出ていたかと思います。

 2ページ目の二つ目の丸でございますが、言語学の分野においても論文を英語で書くように義務づけるのが望ましいという御意見が出ていたかと思います。

 その次の丸でございますが、日本の学協会は世界から見ると小さい学会が多く、単独機関によって努力や改革をし続けていく持続性には限界がある、何らかの対応、調整が必要ではないかという御意見です。

 この項目の最後の丸でございますが、学会への対応といたしましては、レベルを底上げするとともに、トップランナーを育成することが必要であるという御意見でございます。

 学協会誌のオープンアクセス化という項目の三つ目でございます。一つ目の丸は、日本から新規に情報発信を行うにはオープンアクセス誌を前提として考えざるを得ないのではないか、種々の状況を勘案するとそうではないかという御意見です。

 二つ目の丸ですが、現在の購読誌の場合、独占的に価格が付けられている。一方、オープンアクセス誌は著者が投稿先を選べるため、競争原理が働くのではないか。ただ、何らかの仕掛けが必要ではないかという御意見でございます。

 2ページの最後の丸でございますが、大手出版社の学術誌は毎年5パーセント購読料が上がっており、世界中の大学の図書館の予算を圧迫している。3ページ目に入って、こういった状況に対して、オープンアクセスジャーナルの方向が出てくる可能性はあると思うという御意見があったかと思います。

 次の丸でございますが、図書館の購読費も著者の投稿料も公的資金であるということから、図書館経由から著者経由にリダイレクションできれば、何らかの形で公的資金がオープンアクセスの方に向かえば、オープンアクセス誌が自立できるのではないかという御意見がございました。

 それから、次の丸でございますが、著者にはオープンアクセス誌に投稿するインセンティブが必要であり、科研費の制度をオープンアクセス誌に対応できるよう改善することが考えられる。また、研究機関や大学がオープンアクセス誌への著者の投稿を支援することが考えられるという御意見でございます。

 項目の四つ目といたしまして、学協会自身による国際発信力の強化ということでまとめさせていただいております。

 一つ目の丸でございます。きちんとした英文にして論文を出すという部分へのサポートは、基本的には本人の責任なのか、学協会がサポートしていく必要があるのかということでございます。

 二つ目の丸ですが、厳しい御意見といたしまして、日本の学会はどこもビジネスの感覚がない、出版はビジネスであるという御意見がございました。

 三つ目の丸は、日本植物生理学会の取り組みでございますが、出版社をシンクタンク的な要素として使っていて、学会と、著者・読者である研究者、サポートする出版社の全てがWin-Winの関係にならないと発展がない、という御意見です。

 次の丸でございます。日本物理学会と応用物理学会の取り組みでございますが、自前でシステムを開発し直すには非常にコストがかかり、効率が悪い。次期のJ-STAGEや海外の標準的なシステムの利用を検討することが必要であるということで、種々の状況に応じればそうした検討がなされるということでございます。

 3ページの最後の丸でございますが、アメリカの学術誌の出版ではポスドクと一緒に議論をしていて、その経験によって人材育成を図っている。4ページに入りまして、日本はエディターの層が薄く、人材育成が不十分であるという御指摘がございました。

 その次の丸でございます。出版に関する種々の活動、渉外活動やPR活動を含めてですが、それをコーディネートする人材が学術誌の問題解決に必要ではないかということでございます。

 次の丸といたしまして、スケールメリットを生かした合同政策出版体制の構築、オープンアクセスプラットフォームの構築や、専任編集長の雇用、人文社会科学系のジャーナルの電子化、そうした部分に関して、学協会の自主性を尊重したリーディングジャーナルの育成と、他学会への展開などに取り組むべきであるという御意見がございました。

 項目の五つ目でございます。こちらには、JST及びNIIの事業の強化・拡充についての意見をまとめさせていただいております。

 一つ目、二つ目がJSTのJ-STAGE3とJournal@rchiveを統合した最新化の関連部分でございます。

 三つ目の丸が、NIIのSPARC Japanの展開に関して記載させていただいております。

 四つ目の丸ですが、NIIが日本の窓口として、大学図書館や関係機関と密な連絡を取りながらオープンアクセスに関する国際的な活動を進めているけれども、情報交換が重要になっている。さらに、利用者側から見た利点に関しても考慮すべきではないかという御意見でございます。

 5ページへ進みまして、情報発信全体についての部分ですが、サービス連携やデータ連携拡充、電子化の継続等を続けていくことが重要であるということでございます。

 項目の六番目として、冒頭に、資料1でも御説明させていただきました、科研費研究成果公開促進費の学術定期刊行物の制度改善等に関する意見をまとめさせていただいております。

 一つ目の丸は、電子出版への対応を早急に検討する必要があるということと、応募対象経費の緩和が必要ではないかということでございます。

 二つ目の丸は、英文電子ジャーナルを立ち上げるための助成金を日本学術振興会で用意できないか。特に、人文社会系の御意見をまとめさせていただいております。

 三つ目の丸でございます。オープンアクセス誌の関連で、オープンアクセス化に関する企画や、オープンアクセス誌の発行のキックオフに対する国等の支援が考えられないかということでございます。

 四つ目の丸といたしまして、電子媒体のオープンアクセス誌も含めて、この時代にふさわしいオープンアクセス化への助成の在り方が考えられるのではないかということでございます。

 最後、6ページでございます。その他としてまとめさせていただきました内容でございますが、一つ目が機関リポジトリ関係でございます。機関リポジトリについては、ホームページと学術誌の中間に位置するものとして、新しい学術情報発信・流通の媒体としてしっかり位置付けなければならないという御意見がございました。

 二つ目の丸でございますが、オープンアクセスを推進するためには、何らかのインセンティブないしは制度化が必要なのではないか。科研費で出た成果論文の機関リポジトリへのセルフアーカイブ、あるいは関連したデータやソフトウエアをアーカイブして公開することについて、具体的に検討していくことも必要ではないかとの御意見がございました。

 今までのヒアリングを通じて出されました主な意見を、以上のように事務局でまとめさせていただきました。これを元に、いろいろと御議論をいただければと思います。

 以上でございます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 これまでの議論で出ました主な意見を、全体としては七つに分類して、それぞれの要点を説明していただきました。この中で、四番目辺りまでが学協会に直接関係することだと思っております。その辺りを3時ごろまでに議論していただき、五番目以降を残された時間で議論していけばどうかと思います。

 それでは、御意見などを頂きたいと思います。渡辺先生、どうぞ。

【渡辺教授】  日本植物生理学会のエディターをしております渡辺でございます。

 先ほど資料でも御紹介いただきましたが、OUPとの関係、あるいは学会の会員様、あるいは我々、雑誌を編集している編集サイドとの関係が深まったこともありまして、昨年のPCPのインパクトファクターは3.5幾つでしたが、最近数字が出ましたが、今年は4.2まで跳ね上がる形になりました。ですので、今の体制を続けていくことが我々にとってはよりよい道ではないかと、実感しております。

 以上です。

【有川主査】  ありがとうございました。

 他にございませんか。

【土屋委員】  渡辺先生に質問してよろしいでしょうか。

【有川主査】  はい、どうぞ。

【土屋委員】  「今の体制」というのは、具体的には資料2の3ページの4.の3番目の丸にまとめてあることでよろしいのでしょうか。

【渡辺教授】  はい、結構です。シンクタンクとして、世界がどのような活動をしているかということを出版社からインフォメーションしてもらえるということが、我々のこれからの行動の方向性を考える上で非常に重要だと思います。そういう意味で、出版社をシンクタンク的な要素として活用しているということだと思います。

【有川主査】  植物生理学会の方は、うまくいっているということでしょうか。自分たちでしっかりやっているので、このままで構わないということでしょうか。

【渡辺教授】  もちろん、日本全体としてどうあるべきかということは非常に難しいことだと思います。それぞれの学会にはそれぞれの歴史と環境がありますので、一概にこれと、我々と同じことが全て100パーセント当てはまるとは思いません。けれども、日本全体としてオープンアクセスなり、日本発のジャーナルという形で何かを考える場合に、確か以前、先ほど御質問いただきました土屋先生がお話しされたと思いますし、資料にもありましたが、経営的にどうするのか、出版としての経営としてどうするのか、ということがあると思います。例えば我々の場合、OUPという外国の出版社を活用しておりますが、この会場に歩いてくるまでに日本の出版社の大きなビルディングがあったりします。サイエンティフィックな、人文社会を含めて自然科学、トータルの意味でのサイエンティフィックという言い方で結構だと思うのですが、そうしたジャーナルを発刊するときに、日本の出版社の活用をいかに考えるのかということがあれば、シンクタンクをOUPにする必要はないと思っています。

【有川主査】  ありがとうございました。

 今井先生、どうぞ。

【今井教授】  渡辺先生には、先生が非常に興味深い御発表をされた後で教えていただいたのですが、例えば、博士課程の学生がドクターを取るために論文を通さないといけない、そういったことに対する学協会としての取り組みはどうなるのでしょうかと、渡辺先生にお伺いしたところ、PCPはあくまでもトップランナー、先頭走者だということでした。ドクターを取りたい学生が、PCPに自分の論文を取ってもらいたいわけではないというようなことでした。申し訳ございません、これはオフレコではないと思うのですが、そういったことを教えていただきました。PCPは先頭ランナーで、まさしく先ほどのまとめの中でもありました、本当に先頭を走る一つのモデルだと私は教えていただきました。

 私ども電子情報通信学会の場合には、やはり学生がドクターをきちんと各大学で取るということを非常に重視している面もある中で、先生がおっしゃったことは非常にクリアで、ある意味、衝撃も受けたということでございます。

 安達先生の国立情報学研究所で取り組んでおられるSPARC Japanに参加させていただいていますと、大学出版というのは商業出版よりは中間的な面もあるということで、SPARC Japanの様々なセミナーでOUPの方とお話をさせていただく機会、あるいはSPARC Japanで電子情報通信学会が活動させていただいて、実は一時期、トライアルで、OUPからスタンフォードのHighWireのサーバーに、電子ジャーナルアーカイブを持たせていただいた時期もございます。

 OUPはPCPのような分野、生物系が非常に強く、現時点では電子情報通信学会は独自サーバーで展開しているのですが、このような先頭で走ってくださる方がいるということ、これは個人的な感想になってしまうのかもしれないですけれども、安達先生の国立情報学研究所でリーダーシップを発揮しておられるSPARC Japan等で活動したことから得たことです。渡辺先生には大変恐縮でございますが、先生のようにそこから更に先頭を走られる方とともに、私は別に自分で地をはっているつもりはございませんけれども、きちんと学協会員として、日本の学協会として仕事をさせていただいているつもりです。

 まさしく先頭ランナーが走られていることと、裾野を広く、きちんと人材を育てるというところが達成されているのかなという感想を持ちました。

【有川主査】  ありがとうございました。

 安達先生、いかがでしょうか。

【安達NII学術基盤推進部長】  今の今井先生のお話に、少し補足させていただきますが、SPARC Japan発足当初から、日本の意欲のある優れた雑誌をどのように発信していくかということを課題として取り組んできたわけですが、雑誌をどのような形で、どこの出版社から出すか。例えば、外国の出版社から出すのは余りよくないことかどうか、大学出版局だといいとか、そういった価値判断を、どのようにはっきりさせるかということで、内部でも当初から非常に議論してきました。

 そのことについては、いまだにポリシーを出しておりません。それは、個別に雑誌の編集者とインタビューして聞いたところ、当初はやはり、これは非常に悪い言い方ですけれども、日本のいい雑誌を買いたたくというような感じのアプローチが多かったようです。契約などをきちんと見て、学会によっては、そこできちんと自分の雑誌の価値を分かっていて出版社に、先ほど渡辺先生が言われていたようなシンクタンク的な機能といいましょうか、そういったことを担わせる。当然、それなりのリターンが学会にあるという形の契約に、徐々に変わってきたような気がいたします。最近ですと、高分子の「ポリマージャーナル」が、「ネイチャー」の出版グループに行ったりもしたり、心情的にはいろいろ思うところは多いのですが、そのような中で、やはり確実に世界で戦っている学会は動きを見ながら、自分たちの持っている価値を大事にして活動してきたように思っております。

 そういう意味で、今のようなことについては情勢がどんどん変わってきている。特に、オープンアクセスのインパクトが大きくて、出版社の様子が変わってきているような気がします。

 第二点は、例えば電子情報通信学会は随分いろいろな方策を取ってきて、自らのサイトで提供もしているのですが、やはり世界に流通させていくにはビジビリティーがないと困る。例えば、OUPの場合にはスタンフォードのHighWireから出すことになり、それは世界にそのまま広がることになり、海外展開の最初のハードルを非常に低くするということで効果がある。そこは、やはり捨て難いという気がしております。オープンアクセスに関しても、一学会が世界に向かって戦うというのはやはり厳しいところがありまして、そういう意味で、パッケージといいましょうか、そういった中に入って、直接、外国の大学、研究者の目に触れるという形になるのが、ビジネス展開としては非常に重要なことかと思っています。

 以上です。

【有川主査】  PCPについてはトップを走っているという感じだと思います。そうした観点でいいますと、資料2の2.の最後のところ、2ページの3.の一つ前に大事なことが書いてありますが、小規模から大規模まで、それから学会が強制されることなく、自主的にトップランナーを育成するとあります。ここで確認しておきたいのは、「レベルを底上げするとともに」というのはどなたかの御意見だと思いますが、これはどういうことだったでしょうか。「レベルを底上げ」という部分が、少し分かったようで、分からないようなところがあるのですが。

【鈴木学術基盤整備室長】  どなたの発言でしたか。すみません、ちょっと。

【有川主査】  そこは少し気になるところです。

 倉田先生、どうぞ。

【倉田委員】  私が発言したわけではないのですけれども、恐らくここは、ジャーナルをきちんと出版していく際に、日本の学会でも小規模でやっていらっしゃるところでは、電子ジャーナルにすら全くなっていないとか、学会誌をきちんと出していくこと自体が非常に大変だというようなレベルから、今、お話がありましたようなトップランナーの学会まである。その際に、やはり今後は、学術コミュニケーションの全体が電子化されて流通していくためには、小規模な、電子化すらできていないような学会に関しても、重要な成果をわずかでも出しているところに関しては、何らかの形で電子化を、自分たちのところだけでは無理ならば、共同で何か立ち行くような、共同のプラットフォームにコンテンツだけ載せる。あるいは、出版社と組むほどの力はないけれども、幾つか学会が合わされば何とか立ち行くとか、そのような形で、それぞれのレベルでもう少し活動の底上げというか、よりよい方向へ進んでいくべきだというようなお話だったと思っております。私はそのように読みました。

【有川主査】  ありがとうございました。そういうことですと、今の議論とぴったり合っていると思います。

 はい、どうぞ。

【庄垣内名誉教授】  我々、人文系からの発言ですけれども、私は日本言語学会の立場で出席しておりますが、自分ではそう思いたくないわけで、人文系の学問の立場としてお話ししているつもりです。言語学会は旧態依然とした学会でいいような意見も前にはありましたけれども、言語学会と英語学会は、たった二つだけ、The European Reference Index for the Humanitiesで採点されていて、雑誌「言語学」は皆さんの議論についていける雑誌です。全て英文化できます。ところが、ほとんどの人文系の学会はそうはいかない。先ほど日本植物生理学会からトップランナーという言葉が出ましたけれども、それを考えてみますと、ジャーナルとトップランナーの関係、これがなかなか分かりません。

 人文系の学問には、トップランナーがたくさん存在します。特に、日本の研究やアジアの研究ではトップランナーが多くおります。彼らとジャーナルの関係、特に英文化の関係はよく分からないところがあるわけですが、資料2の2ページの2番目の丸は、非常に上手にまとめてくださっています。非常に上手にまとめてくださっていますが、「源氏物語」の論文を英語に直すというのは、恐らくこれを研究している人たちは抵抗すると思います。なぜ英語に直さなくてはいけないのか。しかし、これは英語に直すべきだと思うのです。日本語と英語両方作るべきだと思います。そのことによって海外の研究者を引き寄せるとか、海外へ教育を広げるという意味では、絶対に英文化は必要だと思います。トップランナーとジャーナルの関係というのは、人文系と理系、あるいは他の分野とは少し違うと思います。

【有川主査】  ありがとうございました。

 渡辺先生、どうぞ。

【渡辺教授】  先ほど来、日本植物生理学会がトップランナーと言われまして、何か背中がかゆいのですが、植物分野では、もちろん世界を見ると、レビュー誌を除いて、インパクトファクターが10程度のジャーナルもございますので、決してトップということではありません。例えば、植物科学という広い分野をとった場合に、投稿できるようなジャーナルは日本の中にも随分たくさんあります。母体が理学部系のものから、農学部系のもの、様々なジャーナルがございます。そういう中の植物生理という名前の学会が、元々は植物学会というところから分家したような形、分派したような形で今に至っているわけですが、親の方のジャーナルのインパクトファクターはずっと下のままになっています。

 ただ、学生にしても、あるいは我々にしても、一つではなく、二つなり三つなり複数の学会に所属しておりますし、特定のジャーナルに論文を投稿する場合、学会員でなければ投稿できないというようなことは昔より減って参りました。その意味では、植物分野の中でPCPは比較的トップを走っておりますが、自分の研究全てがPCPに出せるわけではなく、そうでないものについては、それがカバーできる日本の植物のジャーナルに投稿されるというのが現状だと思いますが、学会員の中では、PCPのインパクトファクターが上がることに対して抵抗感を、学生も持っておりませんし、もっと上げられるものなら上げてほしいというのが学会員からのリクエストだと感じております。

【有川主査】  鈴木室長、どうぞ。

【鈴木学術基盤整備室長】  遅くなりましたが、御報告をさせていただければと思います。

 先ほどの「レベルを底上げする」という部分に関しましては、第39回作業部会に、電子情報通信学会から御発表いただきました内容をまとめた意見ということで、資料では第40回の参考資料にあります、第39回の主な意見の最後から三番目のところに出ている部分を、今回、ピックアップさせていただいたものでございます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 今井先生、何かございますか。

【今井教授】  申し訳ございません。私、自分が申し上げたような気は非常にしたのですが、どのように申し上げましたか。

 御返答として、今、それにぴったりのことを申し上げるというよりは、その後の作業部会も含め、非常にいろいろなことを各学会に御発表いただいた中で、インパクトのあったことを少し述べさせていただきたいと思います。

 底上げというのは、やはり人材まで含めての底上げであると思っております。私の発表の中でも御紹介させていただきましたが、電子情報通信学会で論文誌の編集に関わっている数は400名でございます。和文も含めてですけれども、ほとんどは英文でございます。これは、非常に大きな数だと思っております。400名ということは、当然、30代の初め位から編集に入ってきて、学会論文誌の編集とはどういうものなのかということを教育する場でもあると思います。ただ、資料2の3ページ下にあるポスドクレベルの方が入っているかと言われますと、そこまではできていない。それはもう正直に、是非そういったこともこれから考えさせていただきたいということです。

 また、底上げの別の意味ですけれども、現在、少子高齢化の時代でございますので、各学会においては会員減が現実に起こっております。財政の健全化にも取り組んでいく中で、まさしくこういった論文誌等の編集活動は、人材育成に資する。それこそが一番の底上げ、恐らく、私の発表の際に申させていただいた底上げと、少し違うレベルの底上げかと思います。更にまた一つインパクトを持った重要なこととして、人材を創出するということがございます。例えば私どもは、IEEEというアメリカ発の国際学会が相手としてございまして、今、電子情報通信学会でIEEEとの関係を非常に熱心に議論しようとしております。そういったときに、国際学会の方で、日本での電子情報通信技術分野の科学者、技術者を育てること、人材育成をやってくれるのかという問題提起がございました。そういったことに関して、決して日本の中に閉じこもる必要は全くないわけですが、私ども電子情報通信学会として、日本、そしてアジアを中心に、世界での人材育成をその意味で底上げしていくということが一つのミッションであると思っております。

 申し訳ございません、発表の際の「底上げ」は具体的に何を指していたか、ほぼ失念をしておりまして大変恐縮です。ただ、今、より時間もたちまして、そのような広い意味での「底上げ」の重要性を、なお一層痛感しているところでございます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 ここでいうトップランナーというのは、論文や成果が非常に高度であるということではなくて、むしろ資料2の2.にありますように、学術情報流通・発信の仕方に関するトップランナーということだと思っておりますが、それでよろしいですね。

【土屋委員】  よろしいですか。

【有川主査】  はい、どうぞ。

【土屋委員】  ちょっと今の議論の成り行きで気になる点は、今、主題が何か一つよく分からなくなっていることです。学術情報の流通・発信ということを考えている中で、たまたま日本では、学術雑誌というと学会が出している雑誌しかないから、すぐ学会の話になってしまう。学術情報流通のために、そもそも学会というものが必要なのかどうかという問題があると思います。つまり学会は、もしかしたら別の目的のために必要なのであって、雑誌や刊行の主体としての学会がクローズアップされてしまうというのは、純粋に日本における歴史的な経緯にすぎないのではないかという感じがするので、すぐ学会論に行ってしまうという議論の展開がどうも気になっています。どのように整理するのかについての提案は、今はないのですけれども、すぐ学会の話にしてしまっていいのかという疑問を少し申し上げさせていただきたい。

【有川主査】  それは当然、商業出版社であったり、いろいろなやり方があると思います。ここでは、特に日本の場合はということもあるのかも知れませんけれども、「学協会等による」という整理をさせていただいているからだと思います。今、おっしゃいましたことは確かに大事なことだろうと思いますが、小学会がそれぞれ生まれてきたときと現在ではかなり変わってきております。学術情報発信・流通に関しては、もしかしたら学会と違ったところで行うこともできるのかも知れませんが、現状では、今のところほとんどがそうなっているということで、学協会については押さえておかなければいけないと思います。

 瀧川先生、どうぞ。

【瀧川教授】  学術誌の強化ということを考える場合、今の御指摘とは少し外れるかも知れませんが、基本的に購読誌とオープンアクセス誌は大分性格が異なり、運営の仕方も違いますので、一口にどうすればいいということではなくて、やはり二つを分けて考えることが必要ではないかと思います。購読誌の場合、トップの雑誌というのは、なぜトップであるかというと、たくさんの人が読むからで、そのためにはいかに広い人に販売するかということが一番大事なミッションです。しかも現在、雑誌の値上げが大学の図書館を圧迫しているとなりますと、なるべく図書館に優しい形で、薄利多売をするというのが望ましい形になると思います。

 プラットフォームなど、電子化の支援ということで今まで議論されているところですが、やはりそこだけでは終わらなくて、いかにいろいろな人に読んでもらえるか、という販売のことを考えないと展開できないというのが問題で、プラットフォームと販売が結びついて雑誌が強化される。恐らく、日本植物生理学会のPCPも、OUPのプラットフォームが販売網と結びついているから強化されているということだと思います。

 購読誌に関しては、ハードウエアやシステムだけのサポートではなく、もう少しソフトというか、販売も含めた経営の全体像を議論しないと、なかなか今後、世界に太刀打ちできないのではないかと思います。

 一方、オープンアクセス誌の場合には、私も何度か申し上げましたが、経営原理が全く違いますので、財政的にいかにサポートするかが大事になってきます。オープンアクセス誌の場合には、やはりいい論文が集まれば、恐らく自動的に読まれる状況になると思いますので、著者にいかにオープンアクセス誌に投稿するインセンティブを与えるか、その仕組みが大事になってきます。購読誌とオープンアクセス誌、それぞれ雑誌の目的は一致しているにしても、読まれるための方策、サポートの仕方は異なるので、そこは分けて考える必要があるのではないかと思います。

【有川主査】  ありがとうございました。

 喜連川先生、どうぞ。

【喜連川科学官】  先ほど土屋先生がおっしゃったことは、一番大切なポイントではないかと思います。私は、今井先生と同じ学会で仕事をさせていただいているのですが、学会はトップランナーのジャーナルを出すことをそれほど強く意識しているのではなく、むしろテールをどうやって救うかということを非常に強く意識しております。大変強いところは放っておいても大丈夫で、これからイマージしてくるところや、あるいは境界領域など、そういうところをどのように盛り上げていくかが、学会にとっては一番大きなポイントになっているというのが一つです。

 それがどうしてイネーブル、可能になっているかというのは、プラットフォーム化するから可能になっている。プラットフォーム化しない段階では、そうしたことはほとんど不可能です。もっともっとテールの小さな部分まで救っていくという一方の議論と、大変強いインパクトファクターのジャーナルを出すという話とが、少し混乱して議論をされているところが、やや問題になっているかなという気がいたしました。

【有川主査】  確かに、そういう点はあります。学会でも、大きな学会でやったり、今、喜連川先生がおっしゃいましたように、テールの部分をどう文字どおり底上げしていくかという面もあると思います。いろいろな要素が入り込んできているわけですが、議論の中で、ごく自然に、どういうことをやっていかなければいけないかということが分かってくると私は思っております。ですから、もう少し議論を進めていいだろうと思います。ただ、今、おっしゃったことは、学会とはどういうものかというところに踏み込むことになりますが、我々は、学術情報の発信・流通といった面から、学会とはどういうものかということを議論してよろしいのではないかと思います。

 今のことについては、もう少し議論しておいた方がいいと思いますが、どなたか御意見ございますか。

【松浦委員】  よろしいでしょうか。

【有川主査】  はい、松浦先生。

【松浦委員】  ここでの議論は学術情報の発信・流通の話に焦点があるのですから、その話と、学協会を支援するという話は一応分けて考える方がいいと思います。今までの御報告を参考にすると、世界展開しようとすると、英語がベースになります。英語で非常に広い範囲に読んでもらおうと思えば、情報のマーケティングが必要になります。OUP辺りを使われる学会があるのは、そういったメリットを考えてのことでしょう。

 この観点から予算を付けるとなると、その予算は、場合によってはOUPに対する補助金の意味を持つことになります。日本の研究成果を世界に発信させるということからすると、このチャンネルは重要であり、何も日本の出版社にこだわることはないということになります。最も広く日本の情報を出してくれるところに、適切なお金を投資すればいい。非常に目的合理的な考え方からはそうなると思います。

 更にこの発想を進めると、どういうものが国際的な出版にとって必要かを考えることになります。その一つは適切なエディトリアルサービスです。研究成果を英語にするためのエディトリアルサービスの提供については、日本人にはやはり最後のところで限界があります。ネイティブによるチェックが必要になるからです。それは必要なコストなわけでが、それを学協会に補助する必然性はなくて、適切なエディトリアルサービスを出してくれるところに費用を支払えばいいわけです。それが一つの方向の話です。この立場からすると、学協会に対して予算を付けるという発想は、やはり一遍考え直した方がいいということになるでしょう。

 ただ、学協会は、先ほどのお話にも出たように次の世代の人を育てる機能を持っています。研究成果を日本語で書くだけではなくて、英語で書く次世代を育てるということになれば、英語できちんと書ける人を育てるという仕組みを持たざるを得ないはずです。それをしなければ、最後のところ、どこかで翻訳サービスに出して、高いお金を払って翻訳してもらう処理をせざるを得なくなります。他方、学協会を支援する場合、どのような格好で英語に翻訳して、エディトリアルサービスの品質の高いものを出せるかという話になるわけで、その支援は特定の学協会に限るのか、それとも別のところにそういう仕組みを作るのかという辺りの選択肢になるような気がします。

 ある特定の専門分野で英文論文を書くときには、それぞれの領域の特性を持った英語が使われます。そのためのIT支援環境を作り、大学院の頃から英文論文作成の訓練をした方がいいはずです。そのための支援費用というのは研究成果公開促進費の話ではなくて、もう少し足腰を鍛える仕組みの話とも結びつくような気がいたします。

【有川主査】  今のお話では、エディトリアルサービスに対して直接支援をしたらいいのではないかということでした。そうすると、それを出す主体はどこになるのかということにならないでしょうか。著者に対する支援のような形であれば、できるのかも知れませんが、日本の学術関係を支援するということからすると、少しはっきりしないところがあるように思います。いかがでしょうか。

【松浦委員】  日本発のジャーナルの中で、英語ベースのものがありますね。そのジャーナルへの投稿は、必ずしも日本人である必要はないわけです。日本のジャーナルに外国人が投稿しても、それは査読をした上で載せるわけです。ただ、そこに日本の研究者が投稿してくるときに、一定の支援をするということはあり得ると思います。しかし、ここでは一般論をやっても余り意味がなく、例えば、国際的に今から売り込みたいジャーナルが幾つかあれば、それを選んで、そこへ投稿するときには、日本人にはそれなりのエディトリアルサービスをつけるという支援コンセプトも有効です。要は、ジャーナルに日本人がたくさん書ければいいわけですから、その部分を拡張するような予算の付け方を考える方がいいのではないかと思います。その観点からすると、もう少し細かく検討は要るだろうと思うのですが、個人に対する援助も場合によってはあり得るという気がします。

【有川主査】  倉田先生、どうぞ。

【倉田委員】  確かに著者自身、またエディトリアル部分への直接的な補助というのは、もちろん考えられる選択肢だと思います。ただ、やはり学術コミュニケーションや、学術情報の流通に関する議論の根幹として一つあるのは、ピアレビューを核として行う評価というのは、決してなくならない部分として押さえておくべきところではないかと思っております。もちろん、日本人の論文を日本人が査読しないといけないというような話ではありません。やはりある分野において、評価も含めた学術成果を出せる場を、日本においては、日本の研究者たちが独自に持つべきではないかということは議論としてはあって、それを学会が担わなければならないかどうかは確かに分からないのですが、今までは学会が中心になって行うことが筋道として一番楽だっただけであって、そこは他のやり方がないわけではないと思いますが、やはりそうしたことがあったから学会を中心とする形の支援が行われてきたのではないかと、少し思います。

【土屋委員】  よろしいですか。

【有川主査】  はい。

【土屋委員】  ただ、素人考えですが、去年のレビューをした人はこういう人たちでした、というリストを大概出しますよね。そこに日本人の名前がずらっと並んでいる雑誌と、それなりにインターナショナルになっている雑誌とあったときに、日本人ばかりのところに外国から投稿する気はしないのではないですか。その分野が日本でしかないというならまた別ですが、やはりピアレビューのボード自体は、できるだけ世界的に水準の高いものを

集める努力をしなければいけない。要するに、乗ってこない人もいるわけです。当然、日本だけがその分野を独占しているわけではないですから、いろいろなところから集めてくるのが自然でしょう。

  問題は、そのビアレビューのマネジメントをどこで行うかだけの話になるので、ピアレビューを実際に担当する人が日本の学会の人でなければいけないということは全くありませんし、かえって日本の学会に限定してしまったら、本当に読ませたい、チェックさせたい人に見てもらえなかったという実績を作ってしまうことになるでしょう。

【有川主査】  学会でいいますと、その点に関しては、前回まで報告いただいた中で、電子情報通信学会や日本化学会もそうだったと思いますが、国際的なエディトリアルボードメンバーがいる状況になっていると伺っています。その比率の問題はあると思いますが。

 いかがいたしましょうか。学会が行うべきかということで議論しますと、収拾がつかなくなるほど大きな問題になると思います。そういった問題もあるということを踏まえながら、一方では、J-STAGEやSPARC Japanなどにおける少し距離を置いたような、新しいやり方の学術雑誌を出すという試みを、本当は行ってきたわけですよね。結果的には、既にある学会誌がそちらに移って、そこでやってみることになったと思います。そのような経験を生かして、もし可能ならば学会から独立して、その部分をインターナショナルにしてしまうようなことなども、あってもいいのかも知れません。

 はい、どうぞ。

【田村委員】  先ほどの松浦先生のエディトリアルサービスの充実というお話ですが、何か直接的な補助の方にだけ行ってしまっていたのが、私は少し残念な気がしております。今のJ-STAGEやSPARC Japanの話もそうなのですが、結局、日本国内でエディトリアルサービスを充実、強化するためにはどうすればいいのか。人材育成も含めて、そうした視点での議論がもう少しあってもいいのではないかと思いました。何か直接補助だけに議論が行ってしまうと、話がそこに集中して、特定の出版社に補助金を出せばいいのか、のような議論になってしまって、それは少し違うのではないかと思います。

【有川主査】  確認をしておきたいのですが、この作業部会がそこまで入り込んでいいのでしょうか。どうでしょうか。

【鈴木学術基盤整備室長】  あくまでヒアリング等を始める前の段階ですが、当面は学協会等の学術情報発信強化の方策というところで、関係学会からヒアリングを行い、まずその部分を検討しましょうということで始まったということでございます。学術情報基盤作業部会としては、学術情報の基盤を強化するという観点に関連するところまでが守備範囲でございますが、先ほどの科研費の改善等もありますが、ある程度のタイムスケジュールで、どこかで意見をまとめるということを考えて、できれば議論を絞って進めていただければと存じます。当面の課題として議論しております学協会等の情報発信強化について、ある程度整理がつきました後に、それ以外の部分に戻って検討するということも十分可能かと思っております。

【土屋委員】  よろしいですか。

【有川主査】  はい。

【土屋委員】  その考え方が非常に間違っているということは、恐らく、第40回の作業部会のときに申し上げたと思います。要するに、学術情報発信の強化、それが何を意味するかは別にして、そこから直ちに学協会による情報発信の強化というところに行ってしまう点です。では、それ以外の主体というのは考えられないのか。先ほど、まとめの中で最後に出てきましたけれども、まだ十分な役割を、十分に効果を発揮しているかどうか分かりませんけれども、機関リポジトリも重要な役割を持ちつつあるのではないかということもあります。それから、日本でもう一つ、最近いろいろなところで努力されているのは、これもうまくいっているかどうか分からないですけれども、大学出版会のようなものがあって、既にプレーヤーがどんどん増えている。そういった中で検討すべきなのであって、逆に言うと、その人たちを全く考慮に入れないで検討を始めてしまうというのは、無理があるのではないかという感じがします。

【鈴木学術基盤整備室長】  若干補足させていただければと思います。

 その辺りの部分に関しましても、議論をしないでいただきたいという意味でお話をしているわけではございません。事務局でこれまでの御意見をまとめさせていただく際にも、そういった点があることを踏まえまして、その他の項目には機関リポジトリ等についての御意見を加えさせていただいているということでございます。ですから、作業部会として、そこから議論をという御意見もあるかと思いますが、少なくともここまでは学協会等の学術情報発信強化に絞って議論して参りまして、それ以外の部分を後ほどといいますか、この後、秋以降の議論で改めて御検討を広げていただければと考えているところでございます。

【有川主査】  いずれにしましても、学協会に関してどうこうせよということは、とても言えるようなことではございません。それは先ほど資料2の2ページのところで少し問題にしましたように、学会が強制されることなく自主的に行うことが、まさに大事なことだろうと思います。これまで助成の仕方としては、学協会が出す学術定期刊行物に関して助成する仕方。それから、今、土屋先生がおっしゃいましたように、機関リポジトリやその他のオープンアクセスによる仕方。それから、余り議論されていませんが、大学出版会というものが結構あります。これは主に図書を出版していることが多いと思いますが、少し定期刊行物のようなものも取り扱っているところもあると思います。そういう意味では、少し広く考えてもいいと思いますが、現在の助成制度からしますと、学協会のものが主体になっているので、それを踏まえながら、新しい動きとして、オープンアクセスや機関リポジトリをどう考えていくか。それから、資料1の最初にあるように、通常の科研費等の支援による研究成果に関して、ある種のことを求めていくということなども考えていいだろうと思います。そういうことで、少しずつ変わってきている。以上の議論を詰めていく中で、学協会の在り方については、それぞれの学協会がいろいろお考えになっていく、あるいは、そのような方法で少し間接的に影響を与えることはあり得るだろうと思います。

 安達先生、どうぞ。

【安達NII学術基盤推進部長】  学会等の「等」をどう読むかなのですが、SPARC Japanでの経験を少し御紹介させていただきますと、SPARC Japanでお手伝いして大変よかったという経験が数学分野でありまして、この分野は非常に古い出版形態をそのまま維持している。学会ではなくて紀要なのですね。東北大学の数学教室など、ほとんどメジャーな日本の大学の数学教室は出しています。冊子の交換ベースでそろえている文献をどう電子化するかが課題だったのですが、コーネル大学が行っておりますプロジェクト・ユークリッドというものがありまして、そこが日本の優れた雑誌、十何種類を是非電子化して入れたいと言ってきました。それとジョイントして、随分そういう形で入っていきました。今、このプロジェクトはデューク大学出版局と一緒になって、電子的なサービスを行っています。数学分野では、非常に古典的な紀要という形態をとりながら、優れた雑誌が数学コミュニティーの中で認知されていて、日本からも自然に電子化されて出ていくという形ができた。

 もう一つは、唯一、人文系の雑誌で入れているのが、「モニュメンタ・ニッポニカ」という上智大学が出しているジャパノロジーだと思います。日本学の雑誌ですが、これも紀要の形態ですが、地道な活動が実って、そのままアメリカのJSTORに入ってサービスされるというような形になっています。

 そういう意味で、人文社会系ですと、紀要というようなものをどううまく流通するように持っていくかが、ポジションを上げるための一つのアプローチかと思っています。

 以上です。

【有川主査】  今、おっしゃいました数学に関しては、大昔から「マスマティカル・レビュー」というものがありました。各大学の紀要などもきちんとレビューすることになっていまして、それは数学者が必ず見るものでありました。そういった伝統に基づいているのだと思います。

 もしかしたら、今のネットワーク社会において紀要などが復活して、むしろ新しい出版、流通の仕方として意味を持ってくるのではないかと思います。その辺りに新しいやり方に対する可能性があるとも言えると思いますが、ここはしっかり見極めておかなければいけないだろうと思います。

 羽入先生、どうぞ。

【羽入委員】  先ほど少し議論になりましたが、この作業部会での到達目標はかつて御紹介いただいていたと思うのですが、私の中で少し不明になってしまっています。学協会の話にするか、あるいは紀要の話にするかというようなこともある場合、この議論での学術情報というものは何を元にするのか。恐らく、それは研究者一人一人から発信されるものであって、発信されるものをどういう集合体で捉えるかということになるとは思いますけれども、それを議論することと同時に、様々な集合体なり個人から発せられる学術情報を、どのようにシステムとして作っていくかということがあり、そのシステムに対して、どのような助成の仕方があるかということを考える必要があると思っております。

 その助成の仕方というのも、財政的な助成と、もう一つは、インセンティブがあります。例えば先ほどからインパクトファクターの話が出ており、ここでも議論になったと思いますが、評価の際に何を基準にして論文のレベルを裁量するか、それも含めて議論していくことも、この場ではあり得るのでしょうか。その辺りが少し分からなくなりまして、お教えいただければ大変ありがたく思います。

【有川主査】  事務局、どうぞ。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  お手元の資料、第38回の資料6を御覧いただければと思います。

 今期の作業部会でございますけれども、学術情報の発信・流通、あるいは循環という観点から当面は議論を行うということで、これまで進めてきたわけでございます。その際に、まずは学術情報の発信主体の代表選手であります学協会の状況を把握して、それを踏まえながら方策を考えていってはどうかということではなかったかと思います。それとともに、そのプラットフォームとして御活躍いただいておりますJST、NII等の事業にも視点を振り向けてきたわけでございます。

 一方、それらの議論の中で、科学研究費補助金研究成果公開促進費の改善の議論も出てきて、この辺りは研究費部会との関係もあり、先ほど鈴木から御説明したような流れが一つ出てきているわけですけれども、当面のスケジュールを考慮しつつ、まずは学協会の情報発信・流通にターゲットを当てて、その支援策、強化方策として、研究成果公開促進費の活用をどうしていくかといったところも視野に入れながら、御議論いただいているところであります。ただ今、各先生方の御発言にありましたような様々な論点を否定するわけでもありませんし、絞るわけでは全くございません。

 当然、学術情報発信・流通、循環という論点の中には、最近、伸びております学協会以外の発信主体、一つは大学、あるいは研究機関で整備が進んでいる機関リポジトリがあり、それから、出版の仕方の中では、オープンアクセスの問題等もあるわけでございます。その他、資料2の中ごろにもございますけれども、電子化の推進に伴って様々な課題等も出てきているわけでございまして、こういったものを含めながら御議論いただきたいということではございますが、当面は、科学研究費補助金等との関係も踏まえて、学協会の情報発信の部分にターゲットを当てさせていただければ、スケジュール的には大変ありがたいと考えている次第でございます。

【土屋委員】  ただ、スケジュール以上に重要な問題ではないかと思うのですが。要するに、現実にもう皆さんある程度お認めになっているように、学協会だけが、しかも学協会というのは本当に学術情報発信の主体なのか。本当に発信しているのは研究者であり、研究者グループなので、それを今までの切り分けで「学協会の」と言ってしまうのは無反省にすぎないだけではないでしょうか。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  そこの部分は十分認識をしてございます。

【土屋委員】  無反省だということを認識している訳でしょうか。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  議論の幅としては、当然、学協会以外の部分を十分に御議論いただきながら、全体として議論を整理し、最後の段階ではきちんと報告等としてまとめ上げていただければ大変ありがたいと思っております。

【有川主査】  ありがとうございました。

 今、皆さん御覧いただきました第38回作業部会の資料6にありますように、当面の検討事項や、中長期的な検討事項として機関リポジトリやオープンアクセスなどが書いてありますが、一部そこにも入っています。そして、全体としては、いろいろなことを議論するわけですけれども、直近の概算要求などを意識しながら検討していくということからしますと、今日、冒頭でありました研究成果公開促進費の中の定期刊行物ということで、学会又は複数の学会云々と資料1に書いてありますように、それは今のところ、学会に対して支援することになっています。この部分との関わりが一つあるということで、学協会をまず取り上げているということは理解できると思います。そして、これまで数回にわたって議論してきて、ある程度議論がまとまってきますと、今、ありましたように、もう少し本質的なことがあるのではないかということに必然的になっていくわけであります。

 一方で、機関リポジトリなどもそうかも知れませんが、そのようなことに対する支援の仕方として、実際には、今、個人に関しては、投稿料などは科研費の中で払うことができるようになっています。そういう意味では、研究者個人に対する支援ということにもなっているわけです。そこを時代にふさわしいような形で、もう少し充実させていくやり方は、当然考えられる。

 ですから、今、科研費の学術定期刊行物が学協会ということで縛られておりますので、そこの部分をもう少し広く考えてもいいのではないかということは、当然あると思います。鈴木室長が7月7日に研究費部会で説明をしてありまして、提言をすればよいということになっております。今、申し上げましたようなことなどを含めて、少し広くはなりますが、一応、科研費の中に入っていることでありますので、その辺りを意識して議論を進めていけばいいのではないかと思います。

 はい、どうぞ。

【鈴木学術基盤整備室長】  科研費の研究成果公開促進費の学術定期刊行物の改善の前提でございますが、私から研究費部会に説明させていただいた際には、あくまで研究成果公開促進費の目的・性格の部分には沿いますけれども、学術定期刊行物自体の名称、また対象の変更まで踏まえて、抜本的な部分から検討させていただくことになるかもしれないということは申し上げておりますので、現在の学術定期刊行物の対象に限定して、ここで御議論を頂くという必要性はないかと思います。本作業部会での議論によりまして、科研費の改善として、学術定期刊行物として助成する対象をこのように変更した方が、より学術情報発信が強化されるということであれば、御提案いただいてもかまわないのではないかと考えているところでございます。

 ですから、何度も繰り返して申し訳ございませんが、学協会等による学術情報流通・発信ということで議論を始めましたけれども、あくまで情報発信の担い手は学協会だけではない。議論の対象、支援の対象に学協会以外のもの、先ほどから出ております機関リポジトリや大学出版会等も含めて、検討の対象とすべきであるということでございましたら、そのような御議論をいただければと思っているところでございます。

【有川主査】  どなたかございますか。

【上島委員】  では、よろしいでしょうか。

【有川主査】  どうぞ。

【上島委員】  今の鈴木室長の御説明で、資料2の2ページ目の学術定期刊行物の対象という部分に、「学会又は団体等」がという文章がありますが、これは明らかに学協会、あるいは学協会連携というようなことに対して補助をするということだと思いますけれども、そうではないような文言をここに追加することもあり得ると考えてよろしいですか。

【鈴木学術基盤整備室長】  はい。おっしゃるとおりで、あくまで研究成果公開促進費の目的・性格にありますとおり、我が国の学術の振興と普及に資するとともに、学術の国際交流に寄与するという部分で、その助成の対象としてどういったものを対象にするのが最もふさわしいかという御議論を頂きまして、その議論の内容によりましては、助成の対象をこのように変えるべきであるということも含めて、研究費部会に提案することになろうかと思っております。

【上島委員】  ありがとうございました。

【有川主査】  そういう意味では、もう少し広く議論していいということですね。

 瀧川先生、どうぞ。

【瀧川教授】  いろいろな形態の出版があると思いますが、クオリフィケーションから言いますと、やはりここで対象としているのは、あくまでオリジナルな研究成果だと考えてよいのだと思います。そうしますと、やはりピアレビューを受けた学術誌の論文が対象になるというのが、ベースではないかと思うのです。もちろん、そうではない例外的なものは少しあるかも知れませんが、機関リポジトリとはやはり一線を画すものである。機関リポジトリは、どちらかというと大学や研究機関の広報というか、そういった機能があると私は感じております。ピアレビューを受けたオリジナルな研究成果の最初の発表の場ではないので、そこは少し分けて、ここでの議論の対象とするのは、あくまでオリジナルな学術論文の成果を発表する場だと、そのように考えていいと思うのですが、その点はよろしいのでしょうか。

【有川主査】  現在のところ、資料1の1ページの下あるいは3ページあたりにそのことが書いてあると思います。学術論文、一次資料ということでいいますと、もしかたら査読に代わるようなやり方もあるのではないかという気もします。これはずっと紙媒体で歴史を積み重ねてきたものですが、そうでないものがあるのかもしれない。恐らく、あり得ると思います。

 例えば、機関リポジトリにテクニカルレポートのようなものが置いてあった場合、それがものすごくアクセスやダウンロードをされたり、本当にリファーされたりしているというようなことがあるとすれば、それはいわゆる査読に代わるやり方になる。実際にそういった傾向が出てきているという報告もあります。インパクトファクターに代わるようなものが出てくる可能性もあるわけです。そうしたことが技術的に可能な状況になっているわけです。

 更に申しますと、なぜ研究者は、よりよい研究ができる研究機関を渡り歩いていっているのかといいますと、まさに機関リポジトリでいうところの「機関」に重きを置いていることにもなっているのだろうと思います。

 そうしたことなども合わせて考えますと、もしかしたら論文の評価の仕方に関して、昔からそうだったと思いますが、実は新しい芽が既に出ているかもしれないのです。そういう可能性をつぶしてはいけないのではないかと思います。

【喜連川科学官】  まさに、今、有川主査がおっしゃったことと、先ほど羽入先生がシステムという言葉を使われたことが、ほぼ全てだと思います。我々のIT系の分野の最近の感覚からいいますと、「誰が半年間ピアレビューを待つのか」、そのような時代がどれだけ続くだろうかということが一番の大きなポイントです。今のゲームがそのままずっと続くということを前提にした議論も重要なのですが、やはり横軸に時間軸を見たときに、変化していくとどうなるかという観点での議論も行った方が、私はいいのではないかという気が少ししています。

 例えば、先ほど松浦先生から御指摘いただきましたような、英語のポリッシュアップのようなことは、今の時点では非常に重要だと思います。ですが、恐らく、この数年くらいあるいはその次にどう動くかと言いますと、今の電子ブックと同じように、文字を書く人と、コンテンツをきれいに見せるようにする人というのは、プレーヤーがもう完全に分かれおり、論文自身がマルチメディア化、多メディア化したときにも、そのエディトリアルの方がはるかに大きなインパクトを持つようになると想定されます。時間軸を見たときに、どの辺りで、何がどのように起こってくるかということは、今は誰も分からない。少しフラストラティブな状況ですけれども、確実にそれは起こってくると思います。

 そういった意味で、先ほど羽入先生がおっしゃった、システムをどう作っていくのかという議論も、もちろん学協会等という議論もあるかも知れませんが、もう少し大きな流れの議論も行う方がいいかと感じました。

【有川主査】  その辺りまでは議論していっていいのだと思います。この書き方の中でも、また支援の仕方を見ても大丈夫だと思います。

 松浦先生、どうぞ。

【松浦委員】  私も今の御意見に賛成で、結局、どう研究成果を発表して、世界に読んでもらうかが基本的な関心なわけです。今までのものは国内に既成の日本語ジャーナルがあって、それを外国語に直して出せばよいと考えていたと思います。ところが、そうではなくて、先ほどのPCPのようにOUPと組んで出版するとか、機関リポジトリの中でも一定の仕組みを組んだ上で発信しようということになれば、恐らく、新しい形の情報発信コンセプトを導入することになります。学協会が新しいコンセプトで成果の世界発信をしようとすると、それは大変です。そもそも学協会の編集委員は、ほとんど手弁当で仕事をしておられるので、その前提で世界に発信してくださいと言っても、何らかの支援の仕組みがなくてはできるわけがありません。新しい支援の仕組みを含めて提案するような形にして、それをきちんとサポートしてはどうかなという気はするわけです。

 例えば、日本化学会が中国を巻き込んでジャーナルを始められたというお話は、大変示唆的です。きちんと定着すれば、アジアで、最後には世界に評価されるジャーナルになるというプロジェクトなら、それをサポートするのは合理的です。恐らくエディトリアルボードに日本以外のいろいろな人もきちんと入れる。高品質のエディトリアルサービスも要るし、それから強力なマーケティングも要る。そういった成功例は幾つか要るわけで、そのための仕組みの提案を含めた上のサポートをするというのも、重要です。

【有川主査】  ありがとうございました。

【倉田委員】  喜連川先生や松浦先生がおっしゃいますように、やはり一歩先というか、せめて半歩先は見ないと、今のままの論文誌がそのまま続くかどうかということ自体が、もう分からない時代なわけです。現にエルゼビア社は、もうそうではない、今の論文誌ではない形でやるのだと宣言して、実際に既に作っているわけです。データベースからのファクトデータなども組み込んだ形で、もちろんそれがうまくいくかどうかは全く、何とも言えないですけれども、非常に手が入っている、見せるための工夫を我々は山のようにするのだ、と。そこには動画も入っていれば、今までであればそのようななものは載せないだろうというようなものまで全部出せばいい。それも、今までの私たちの感覚では、全く論文ではないのですよね。それでも作ると言っているわけですから、それを作るかどうかは別として、やはりそういうものを作るところが出てくるような時代に、日本においても学術成果をどのような形で発信し、流通させていくのかということで、それに対して、できるなら少しでも援助、支援を行える形が望ましいのではないかとやはり思います。

【有川主査】  ありがとうございました。

 あと、他にございますか。いろいろ御議論はありましたが、良い方向に行っているように思っております。今日は、次回辺りにまとまるような方向に持っていかなければいけないと思います。何かございますか。

 局長、この段階で何かございますか。

【倉持研究振興局長】  ありがとうございます。大変大事な御議論だと思います。私どもも、本当に頭を切りかえていかなければいけないと思いますけれども、確かにこれからを考えるときに、幾つか大事な流れ、そういうものがあれば様々御教授いただきながら、将来をどう捉えていくかというところをやはり設計していかなければいけないと思います。その辺りの御議論を深めていただければ、大変ありがたいと存じます。

【有川主査】  一つは、従来的なやり方によって成功事例を幾つか作っていくということは当然しなければいけないでしょう。また、直前に倉田先生がおっしゃったこと、あるいは、もう少し違った形での評価の仕方などに対しても十分耐えられるようにしておかなければいけないと思います。それは、支援の仕方によってある程度誘導できるところがあると思います。そこを議論しておけば、若干の支援をしていくことによって、非常にいい形の、しかも新しい形の学術情報発信・流通、その表現の仕方も含めて見えてくるのではないかと思います。そういった意味では、かなりまとめる方向ができてきたという気がしております。

 よろしいでしょうか。

【松浦委員】  今の議論は、一歩先の学協会の在り方を論じているのですが、実は学協会といっても様々で、その現状をもっと見ないといけないところも少なくないのです。日本語で書かれている情報が、それ自体として価値はあるにも関わらず、外国と共有されてないということは幾らでもあるわけです。その点に着目して、いい情報を英語やその他の外国語に直せば、もっと広く世界に共有してもらえると考えたのだと思います。そのような状況にある学協会の支援は適切だし、もっと支援していい学協会はかなりあると思います。その種の支援は、大手出版社と組んで、大量に世界に情報を流すという話ではないのです。しかし少数言語、あるいはいろいろな言語で、いろいろな情報が出されること自身も重要なので、かなりきめ細かい配慮をして、小さなパブリケーションについてもそれなりの配慮をすることには、やはり意味があると思います。

【土屋委員】  少し補足してよろしいでしょうか。

【有川主査】  はい、どうぞ。

【土屋委員】  私が聞いている話では、今、アメリカの日本研究というのは非常に弱体化しているということです。要するに、中国研究に全部資源が取られてしまって、日本研究を行っている人たちの立場が、日本語についても、日本文化、日本史、日本経済、全てについて非常に弱くなってしまっているということは事実であるそうです。しかも、その研究を支援する資料面に関して、日本から出てくるものは今までどおりほとんど紙、つまり電子化されてないものがとても多い。幸いにして、公の機関はほとんどオープンに見せているので、ある程度のデータは取れるそうですが、研究成果を手に入れるときには、どうしても本を買わなければいけないということになってしまう。これは幾らなんでも無理があると。それに対して、韓国とか中国は、むしろ国家的な努力で電子化を行って、それが結びついているかどうかについては少し微妙なところはあるのですが、アメリカの中で中国研究者、韓国研究者は、それなりに資料を豊富に研究できる体制にある。

 そういうきちんとした、国際的な発信というのは英語にするだけではなくて、それによって得るものは非常に大きいのではないかと思うのです。その辺りのところも含めて考えられればいいと思います。ですから、こういった点で国際交流に資するためというのは、十分ぴったり合っている内容ですが、今まで余り考えなかった内容なので、できれば考慮の対象に入れていただきたいと思います。

【有川主査】  松浦先生がおっしゃっていたことに関していいますと、例えば科研費の研究成果公開促進費の学術図書はそういったことにはしっかり対応していると思います。

【庄垣内名誉教授】  はい。

【有川主査】  はい、どうぞ。

【庄垣内名誉教授】  今、おっしゃった日本語を英語に直すということについてですが、これは私たちの分野ではないのですが、特に東洋史の研究者は皆、欧米の研究者を評して、今頃こういうところまで来たかと言います。そして、これはもう誰かが研究したことではないか、そうしたことを常に言っております。これは、欧米の研究者が日本の情報を知らないからである、海外の研究者たちはヨーロッパの言語で書かれた論文は全て読むが、日本語の論文は読まない、そこに大きな差が出るのだ、などと言っております。しかしながらそういった時代ではないので、やはり国がお金を投じて、重要な日本の過去の論文を英語に直す、特に人文系についてはそういうことを行えば、あっという間に国際的な評価は今以上に上がると思うのですが、その辺りについてはいかがでしょうか。

【有川主査】  それは、翻訳に対して支援をするということでしょうか。

【庄垣内名誉教授】  そうですね。歴史の研究者は、英語で論文を出すのは好みません。それに、自分たちは良い研究を行っているという自負があり、どうして英語で論文を書かなくてはならないのか、との発想があります。本当はそれは間違っているわけで、過去の日本の論文で、特に重要なものを選んで英語に直す。そして、紙媒体ではなく電子化する。そういうことがあれば非常にありがたいと思います。

【有川主査】  本当に大事な御指摘だと思いますが、当然、いいものは放っておいても自然と翻訳されていくところはあるのだろうと思います。いつか日韓の関係でお話を聞く機会がありましたが、小説や文学作品については、日本語が向こうの言葉に翻訳されるのを10としますと、反対は1しかないということで、そういう意味ではかなり局所的かも知れませんが、発信力はあると思います。

【庄垣内名誉教授】  そうですね。例えば、中国は独自に日本の文献、論文を翻訳していますね。だから中国の人は、日本の研究成果を知っているわけです。韓国の人も、ある程度知っているところであります。しかし、欧米ではそういったことはありませんから、英文化が大切だということだと思います。

【有川主査】  他に何かございますか。

 今日、おまとめいただいた中で、それぞれについて、項目は仮に立ててあるわけですけれども、ある程度時間をとって議論することを予定していました。ざっと見ますと、大体満遍なく議論はされていると思いますが、JSTやNII等の事業の強化・拡充という面につきましては、少しは触れましたが、もう少し議論しておいてもいいかと思います。いかがでしょうか。資料2の5.のところです。皮切りに、安達先生辺りからNIIの立場から、あるいはJSTの立場からお願いできますか。

【松浦委員】  では。

【有川主査】  では、松浦先生。

【松浦委員】  JSTとNIIのお話を伺ったときに思ったのですが、こうした仕組みは非常にいいものだろうと思います。先ほど、エディトリアルサービス関連の話をしていた際に意識していたのは、JSTのような仕組みを動かすときに、周辺の環境がきちんと準備されているかが重要だということです。小さな単位でエディトリアルサービスを持つとなると、どうしても偏りが出ます。そこで、JSTのような規模で、せっかく仕組みとしていいものがあるわけですから、例えばその中でエディトリアルボードも強化するし、エディトリアルサービスも強化するようなことを考えるのは、有望な選択肢です。しかも単年度ではなくて、やはり5年くらいで、ここまでのサービスを実現するというようなプロジェクトで推進すべきものでしょう。エディトリアルサービスについて、毎年毎年入札で決めるというのでは、きちんとした品質を維持することは難しいと思います。

【有川主査】  その辺りについては、JSTはいろいろな経験をされていると思います。本日、かなり広く議論はしましたが、大倉部長、JSTの立場から何かありましたらお願いします。

【大倉JST知識基盤情報部長】  J-STAGEですけれども、先日、ちょっとした調査を行いましたところ、日本学術会議に登録されている千七百数十の協力団体としての学協会が出しているジャーナルが、2,002誌存在しました。その2,002誌が、どの程度電子ジャーナル化されているかということを調べてみましたところ、理工学系と医学系を含めた分野では7割方は何らかの形で電子化されていました。一方、人文科学や社会科学の分野については、3割くらいでした。ですから、人文科学や社会科学分野では電子化されていないものがまだ7割あって、理工学系でもまだ3割電子化されてないものがある。さらに、電子ジャーナル化されているといっても、いわゆる電子ジャーナルではなくて、例えば最初の1号だけPDFの形で学会のホームページに載っているというようなものを含めて、7割くらいが電子化されているということですので、本来の電子ジャーナル化ができている比率ということでは、まだまだ低い数字だと思っています。引き続きJ-STAGEも頑張って事業に取り組んでいかなければならないと思っています。

 学術情報基盤としての学術情報の流通・発信ということを考えたときに、先ほども議論が出ましたけれども、学協会が発行しているジャーナルが日本の学術情報の流通・発信の中心ではありましょうけれども、必ずしもそれだけではないと思います。私どもが2年前に調査したときには、日本の大学、学協会、地方の公設試験機関など、いろいろな機関が出している定期刊行物は、これは人文社会を含めない理工学と医学分野ですけれども、8,000から1万位あります。その母数でいくと、2年前の調査ですと、そのうちの3割から4割が何らかの形で電子ジャーナル化されているにすぎない。

 そうしたことを考えたときに、学協会支援としてのJ-STAGEの機能だけでは、当然、8,000ないしは1万のもの定期刊行物をネットに載せていくということに対して、必ずしも十分なテリトリーの事業ではないかもしれないという認識を持っています。いずれかの機関が、誰かが行わなければいけないことだとは思うのですけれども、J-STAGEだけではなくて、当然、NIIのELSもあれば、農水省の方々も立派な仕事をされております。日本全体の中の電子化というものを、3割、4割の状態から9割に持っていくために、日本全体としてどう取り組めばいいのかということ、これについては私たちもJ-STAGEに限らず、何らかの活動を行わなければいけないと考えています。

 先ほどのエディトリアル機能の話につきましては、J-STAGEという事業は、先日申し上げましたとおり、今のところ事業の枠としては、プラットフォームを提供するということに縛られているところがあります。私たちは、せっかくJ-STAGEに取り組んでいるわけですので、当然、エディトリアル機能を強化していくということに、何か関与していくということが大事なことと思っておりますが、そのためには、やはり政策的に位置付けしていただいた方が動けるかな、という気はしております。

以上です。

【有川主査】  ありがとうございました。

 安達先生、何かございますか。

【安達NII学術基盤推進部長】  私どもは、機関の性格として、全ての学問分野ということでずっと取り組んできました。先ほどの先生方の御議論を聞いておりましても、取り組みやすいのは、ある狭いところでターゲットを絞って、集中的に頑張るというやり方が、成果も出しやすいのかなということがあり、そのような状況とのはざまでずっと取り組んできております。また、学術情報としては比較的マイナーですけれども、研究コミュニティーにとってはホットな情報として流通しているというような出版物が結構多くて、そういったところで少し貢献してきたかと思っております。

 立派な出版の形をとるジャーナルも多いのですが、理工系の分野でも、技術報告というようなものが流通して、実はそれに一番アクセスが多いのですね。メジャーなものは、何らかの形で入手できるようになっているというのが、理工系だと現状かなという気がします。その部分で、どう組織的に取り組むかが非常に悩ましいところで、エスタブリッシュされたジャーナルだけをきちんと出していくというのは見えやすいのですけれども、研究者は、それ以外のあらゆるパスでコミュニケーションしており、その部分をどう支えるかということで、いい方策ができないかというのがずっと悩みです。

 そうしたことによって見方はかなり振れるわけで、きちんとしたものは随分電子化されていますけれども、そうではないものに注目すると、まだネットワークで手に入らないものが多いということになる。その辺りについて、実はうまい方策がないということで、悩ましく思っているところでもあります。

 以上です。

【有川主査】  ありがとうございました。

 他に何かございますでしょうか。それでは、一通りそれぞれの項目につきまして議論はできたと思っております。私自身は、かなり方向が見えてきたと思っていまして、本日頂きました御意見を事務局において整理していただけるのではないかと思います。

 次回は、予備日としていました8月4日に第43回作業部会を開催させていただきたいと思います。また、今後、研究費部会に対しまして、具体的に科研費の研究成果公開促進費に係る改善案を示すための検討を含めまして、学協会等の学術情報発信・流通、循環の促進について、年内を目途に引き続き検討を進めていくことになると思います。

 それでは、事務局より連絡事項がございましたらお願いいたします。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  本日の作業部会の議事録でございますが、各委員に御確認いただいた上で公開をさせていただきます。

 次回でございますけれども、ただ今主査からも御発言ございましたとおり、8月4日木曜日に開催をさせていただきます。時間は15時から17時、場所は文部科学省16階の16F特別会議室を予定しております。

 それ以後の予定につきましては、資料3にございます。先生方にはお忙しい中大変恐縮でございますが、日程の確保等に御配慮いただきますようお願い申し上げます。また、11月以降の日程につきましては、ただ今先生方にも確認をさせていただいております。事務局で整理をいたしまして、予定として改めてお知らせさせていただきたいと思います。

 本日の配付資料は、そのままお残しいただければ、事務局より郵送させていただきます。 

【有川主査】  ありがとうございました。

 それでは、本日はこれで終わりたいと思います。

―― 了 ――

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