研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第38回) 議事録

1.日時

平成23年4月8日(金曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、倉田委員、田村委員、土屋委員、中村委員、松浦委員、山口委員

文部科学省

(科学官) 喜連川科学官
(学術調査官) 阿部学術調査官、宇陀学術調査官
(事務局) 倉持研究振興局長、戸渡大臣官房審議官(研究振興局担当)、岩本情報課長、鈴木学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

○ 事務局より資料1「第6期科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会委員名簿」に基づき、委員の紹介が行われた。

○ 事務局より資料2「科学技術・学術審議会の組織及び運営について」、資料3「学術情報基盤作業部会の設置について」に基づき、本作業部会の概要・議事運営等について説明が行われた。

○ 有川主査から研究環境基盤部会運営規則により、三宅委員が主査代理に指名された。

  (ここまで非公開)

○ 審議に先立ち、倉持研究振興局長より挨拶が行われた。


【倉持研究振興局長】  おはようございます。振興局長の倉持でございます。第6期の最初の会合ということで一言ごあいさつをさせていただきます。

 初めに、先月の11日の東北地方の太平洋沖地震では、大変な惨事が起きました。お亡くなりになられました方々に深く哀悼の意を表しますとともに、御遺族と被害に遭われた方々に心よりのお見舞いを申し上げたいと思います。

 まだ原子力発電所の状況も気が抜けない状況でございますし、昨晩も大きな余震だったわけでございまして、それに対する対応が続いているところでございますけれども、他方、重要な政策案件についての検討は待ったなしで続けなければいけないということでございますので、今日からこの作業部会を開かせていただくということになりました。

 まずもって委員の先生方におかれましては、この作業部会の委員をお引き受けいただきまして、まことにありがとうございます。そして、今日はお忙しい中、御出席いただきまして重ねてお礼を申し上げたいと思います。

 申し上げるまでもございませんけれども、この学術研究を支える学術情報基盤というものの重要性、研究資源、あるいは研究成果の共有と研究活動の効率的な展開、さらには社会に対する成果の発信、普及、そして次世代への継承といったものは本当に大事でございます。最先端の学術研究の発展を図る上で、これからますます重要な役割を担うものであると認識しております。

 近年、技術的にはものすごい進歩がございます。コンピュータを見ても、ネットワークを見ても電子化等、いろいろな進展を背景といたしまして、この学術情報基盤に対する時代の要請と申しますか、それも高度化・多様化しているということだと思います。的確な状況把握と、これからどうなるのかというビジョンを共有しながら、しっかりとした、基盤でございますので、まさに確固たる基盤というものをつくっていくにはどうしたらいいのか。しっかりした学術情報基盤を整備していくための御議論を是非引き続き御指導賜りたいということでございます。

 委員の先生方におかれましては、大所高所から精力的な御議論を頂きたく存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 それでは、審議事項等につきまして事務局、鈴木室長から説明をお願いいたします。

【鈴木学術基盤整備室長】  それでは、資料4、5、6に基づきまして、これまでの検討の経緯等、審議事項関係につきまして私から説明をさせていただきたいと思います。

 まずは資料4でございますが、A3の資料でございます。広げていただきますと一番上に学術情報基盤作業部会における検討経緯という表題がございます。本学術情報基盤作業部会では、学術情報基盤といたしまして、そこに大きく3つに分かれておりますように、コンピュータ及びネットワーク関係、大学図書館関係、学術情報発信の在り方につきまして御検討を頂いてまいりました。一番上にございますとおり、平成18年3月に学術情報基盤の今後の在り方について報告ということで、総合的なお取りまとめを頂いたところでございます。この報告の内容につきましては、参考資料1にその概要をつけてございますので、後ほどごらんいただければと思います。

 この3つの柱に基づきまして、それぞれフォローアップの議論を行っていただいたところでございます。まず、1つ目のコンピュータ及びネットワークの部分でございますが、このコンピュータ及びネットワークの在り方につきましては、主に大学等における学術情報基盤の整備や学術情報ネットワークの整備についての検討を行っていただきまして、平成20年12月、学術情報基盤整備に関する対応方策等について審議のまとめということでお取りまとめを頂いております。この取りまとめにつきましても、参考資料2にその概要をつけてございます。本審議のまとめにおきましては、情報基盤センターの共同利用・共同研究拠点の認定、次期学術情報ネットワーク整備の基本方針、それから、情報基盤センターにおける研究開発機能の強化という点等につきましておまとめいただいているところでございます。

 本審議のまとめを受けまして、学術情報ネットワークの整備に関しましては、更に研究振興局長の私的諮問機関といたしまして、次期学術情報ネットワーク検討会が設置されまして、平成21年7月に中間取りまとめ、平成22年7月に次期学術情報ネットワークの整備についてということで意見の取りまとめをしていただいたところでございます。この意見の取りまとめにつきましても、参考資料の5といたしまして概要をつけさせていただいております。平成20年当初からのSINET4の運用開始、国内及び国際回線の増速等の整備計画等について、この意見の取りまとめにつきましてお示しいただいているところでございます。

 次に、2つ目の大学図書館関係でございます。それから、3つ目の学術情報発信でございますが、この2つにつきましては右の方でございますが、まず最初にこの両者をまとめた形で大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について審議のまとめということで、平成21年7月に取りまとめを頂いているところでございます。この審議のまとめにつきましても、参考資料3という形でその概要をつけさせていただいております。この審議のまとめにおきましては、電子ジャーナルの新たな契約形態、それから、国公私立大学全体を包括する交渉のためのコンソーシアムの在り方の検討、また、情報発信関係といたしましてオープンアクセス、機関リポジトリ、学協会の情報発信等につきまして御意見をまとめていただいているところでございます。

 このオープンアクセスの一層の推進や機関リポジトリでございますが、独自でその構築、運用が難しい機関に対して各機関が共通利用できる共用リポジトリのシステムの構築の必要性が述べられており、これを受けまして平成22年度補正予算で設備費が措置されたことを受け、現在、NIIにおいて共用リポジトリの構築が進められているというところでございます。

 更に大学図書館関係でございますが、近年における大学をめぐる環境の変化を踏まえた大学図書館の機能、役割と戦略的な位置づけ及び大学図書館職員の育成・確保について御審議を頂きまして、平成22年12月に審議のまとめといたしまして、大学図書館の整備について、変革する大学にあって求められる大学図書館像というのをお取りまとめいただいております。これにつきましては参考資料4にその概要をつけさせていただいております。本審議のまとめにおきましては、大学の教育機能に対する社会的要請の高まりを受け、学習の場としての大学図書館の貢献が一層期待されるなど、学術支援及び教育活動への直接の関与の重要性が指摘されております。

 また、その果たすべき役割、機能の変化を踏まえ、学術情報基盤としての大学図書館の戦略的な位置づけを明確化し、学内外にアピールしていくことの重要性、安定的な経費の確保の策定などについて、さらには、大学図書館職員は学術情報を駆使して学習、教育、研究により積極的に関与する専門家として、その育成・確保に努めることの必要性などについて指摘されているところでございます。オープンアクセス、機関リポジトリ、学協会の情報発信等に関しましては、その後、日本学術会議から平成22年8月に包括的学術コンソーシアムといたしまして、参考資料6のような提言が出されているところでございます。

 一方、資料5をごらんいただきたいと思いますが、資料5が第4期の科学技術基本計画についてでございます。1枚目のA3の大きな資料につきましては、答申の概要を全体的にまとめたものでございます。この中におきます指摘でございますが、研究情報基盤関係のものにつきまして、2枚目にその抜粋をつけさせていただいております。この第4期科学技術基本計画につきましては、今般の東日本大震災の経済、社会への多大な影響を踏まえまして、科学技術政策においてこれまで培ってきた知識と成果を活用するなど、科学技術が果たすべき役割を明確化し、この難局の克服に貢献するため、現在、この策定途上にありました第4期科学技術基本計画の再検討を行うこととされております。

 現時点では、いまだ閣議決定がなされてございませんが、この科学技術基本計画に関します科学技術に関する基本政策についてという部分につきましては、2枚目をごらんいただきたいと思いますが、その中で研究情報基盤の整備につきましては、研究情報基盤は我が国の研究開発活動を支える基盤的情報インフラであり、これまでも研究情報ネットワークの整備や運用、研究成果の保存、発信など着実な発信が図られてきた。国としては、研究成果の情報発信と流通体制の一層の充実に向けて、研究情報基盤の強化に向けた取り組みを推進するというふうに示されているところでございます。

 推進方策といたしましては、大学等の機関リポジトリの構築、論文等の教育研究成果の電子化、オープンアクセスの促進、学協会が刊行する論文の電子化等、それから、最後のポツでございますが、国は大学等が電子ジャーナルの効率的、安定的な講読が可能となるよう有効な方策を検討することを期待する等々の記載がされているところでございます。

 資料に戻っていただきまして資料4でございますが、これらの状況におきまして前期の学術情報基盤作業部会におきまして、課題と考えられる点というのがその資料4の1枚目の下に幾つか記載させていただいております。前期の学術情報基盤作業部会におきまして、まずコンピュータ及びネットワークにつきましては、課題と考えられる点という点でSINET4の構築及びさらなる高速化、高機能化、HPCI構想や今後の科学技術・学術動向を踏まえた情報基盤センター等の在り方、それから、大学図書館、学術情報発信の関係では、学術情報発信・流通促進のための各関係機関の果たすべき役割、それから、学協会等の情報発信・流通促進、海外電子ジャーナルの効率的な整備、それから、機関リポジトリの整備・充実等オープンアクセスの推進・充実、大学図書館の在り方についてのフォローアップという点が課題とされているところでございます。

 資料4の2枚目をごらんいただきたいと思います。前期の作業部会において出された主な意見等につきまして、先ほどから説明させていただいております3点に分けて記載させていただいております。コンピュータ及びネットワーク関係、大学図書館関係、学術情報発信の今後の在り方という点につきまして、それぞれ記載のような主な意見が出されているところでございます。

 これらにつきまして資料の6をごらんいただきたいと思いますが、これは資料6でございますが、前期の作業部会において出されました意見等、これまでの検討課題を踏まえまして主査の有川先生とも御相談させていただいた上で取りまとめさせていただいております資料でございます。資料4の課題及びその内容につきまして、再度整理させていただきまして、当面の検討課題と中長期的視点に立った検討事項というような形で整理させていただいているものでございます。

 また、このほか参考資料の7といたしまして、学術情報基盤の今後の在り方について、報告における指摘事項に関する現状等といたしまして、前期の最後の学術情報基盤作業部会で利用した資料を参考資料としてお配りしております。資料につきましては、引き続き充実させるとともに、必要に応じて御議論に関する部分の資料を追加させていただき、今後、御審議に際しまして説明をさせていただきたいと考えているところでございます。

 資料の説明は以上でございます。

【有川主査】  ありがとうございました。

 今の説明に直接関係するようなことで、御質問などございますか。どうぞ。

【松浦委員】  2つ御質問があります。1つは簡単なことなのですが、資料4の最後のところにHPCIという略語が出ているのですが、これはハイパフォーマンス・コンピュータ、最後のIは何の略でしょうか。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  インフラです。

【松浦委員】  インフラ。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  インフラストラクチャーです。

【松浦委員】  インフラストラクチャーなんですか。

 もう一つは、この同じ資料4のところに3つの課題が書かれておりまして、1つはコンピュータ、ネットワークの話、もう一つは図書館の話、それから、3番目は学術情報発信の話なのですが、この3つの話はどうつながっているのかがよくわからないので、それぞれ重要な課題だということはわかるのですが、一体この3つの関係はどうなっているのかを少し御説明いただけるとありがたいと思います。

【有川主査】  それは、資料4の一番上に書いてございますけれども、平成18年3月にまとめました学術情報基盤の今後の在り方についてという報告で、図書館の人たちは紫本などと言っていると思いますが、そこで議論されたものです。学術情報基盤といったときには、ある意味では、こういった3つのことを考えるということをここで示したことになっていると思います。ですから、少なくとも昨年までは、コンピュータやネットワーク関係、図書館、そして学術情報発信の3つをその学術情報基盤ということにして考えていこうということでやってまいりました。

 事務局から何かございますか。

【丸山学術基盤整備室室長補佐】  お答えになるかどうかわかりませんが、資料3をごらんいただきたいと思います。この学術情報基盤作業部会の設置紙でございますが、先ほど詳細に御説明をしなかったのですけれども、この学術情報基盤作業部会の設置の趣旨といたしましては、学術情報基盤、括弧が書いてありますけれども、学術研究全般を支えるコンピュータ、ネットワーク、デジタルな形態を含む学術図書資料等ということで定義がされてございまして、研究者間における研究資源及び研究成果の共有と次世代への継承、あるいは社会に対する研究成果の発信、啓発、研究活動の効率的な展開に資するものであるということで、これらの発展が学術情報全体の発展を支える上で極めて重要な役割を負うということで、こういう認識のもとにこの部会において、そのそれぞれの学術情報基盤とされ得るものに関する振興方策の御検討を頂いてきたということでございます。

 ある意味ではコンピュータ、ネットワークはインフラとしての役割、それから、図書館は資料の収集、提供の中心であるということ、また、それらの流通、発信というようなカテゴリーで、これまでこの部会の中で整理をし、議論がされてきたと、こういう経緯がございます。

 以上でございます。

【有川主査】  ありがとうございました。 

 今説明を頂きましたように、基本的には平成18年3月に報告が出まして、そのフォローアップとしてこれまでもやってきたのですけれども、コンピュータやネットワークの整備、それから、大学図書館の整備に関することについてはかなり審議をしてきたわけでございます。一方で、学術情報発信に関する事項については、日本学術会議で包括的学術コンソーシアム等に関する提言が出されるなど、コミュニティや関連機関等において検討が進められております。しかしながら、この作業部会におきましては、これまで余り審議がなされていないという状況にあります。

 そういうことで、まずは学術情報の発信・流通に関することについて審議を進めてまいるのが適当ではないかと考えております。その辺の事情は先ほどの資料4、A3のものを御覧いただいてもおわかりいただけるかと思います。そこで当面は夏ごろまでを目途に、資料6に示しておりますように、1つは学協会等の情報発信・流通の促進、もう一つは学術情報の発信・流通促進における国立情報学研究所(NII)、それから、科学技術振興機構(JST)及び大学図書館等の果たすべき役割と連携強化について審議を行ったらどうかと考えているところでございます。

 また、これらの論点につきましては、一定の整理を行った上で必要に応じて、概算要求に反映されるということが想定されます。学術情報の発信・流通に関することについては、これら以外にも広範な課題があるだろうと思います。また、状況の変化に応じて学術情報ネットワークや大学図書館にかかわるフォローアップについても審議を要する事情が生じると思いますが、そうした場合にはそれを適宜審議していくということも考えていかなければいけないと思います。そういうことですが、当面は、お示ししましたような事項から審議に入っていこうと考えております。そういうことでよろしいでしょうか。

それでは、今日は早速でございますけれども、学協会の情報発信等の現況について理解を深めるという意味で、日本化学会の林部長にお越しいただいておりますので、御説明をお願いしたいと思います。資料7などお使いになると思いますが、30分程度御説明いただきまして、その後で自由に討論するということにしたいと思います。

 それでは、林部長、よろしくお願いいたします。

【林課長】  ただいま御紹介にあずかりました日本化学会の林と申します。冒頭から恐縮ですが、私は学術情報部の課長でございまして、まだ部長には上がっておりませんので訂正の方をお願いいたします。

 私は日本化学会の電子ジャーナル化を15年ぐらいかけて大学院生のころからやらせていただいております。それで、先ほどもお話が出てまいりました紫本のときの専門委員や、この後出て参ります日本学術会議の提言の専門委員等々を経まして、今回、日本の学術情報流通の発信側の現状と諸問題について、私が取り組んできました電子ジャーナルの観点を中心に御紹介させていただいて、今回の議論を開始するお役に立てればと思い、お話しさせていただければと思います。

 それでは、冒頭少しお話しさせていただきましたが、私はもともとは野依先生や鈴木先生、根岸先生がやられている有機合成反応の中でも不斉触媒合成の研究を東京大学でやらせていただいておりました。その一方で、今42歳になるわけですけれども、この年にして小学校のころからコンピュータに触ってきたという経験がありまして、その関係から研究室でコンピュータ係をやっていた御縁で電子ジャーナルの端緒である査読システムの電子化を日本化学会のアルバイトでやることになりまして、これは面白いものを見つけたということで、そのまま化学会に就職するという経緯をたどっております。結局、サイエンス・バックグラウンドとITバックグラウンドを使ってScholarly Communicationにどのように役立てることができるかというのが私の今の活動の観点です。

 それで、今、論文誌の電子ジャーナルを中心とした議論ということで、しばらくおさらいのような話をさせていただきたいと思います。現在、電子ジャーナルという場合は電子投稿して、電子査読をして、電子組版、電子出版をして、今はWeb公開を先にして、それで他機関とのリンクをして情報流通がなされまして、冊子体の方は重要であることは変わりないものの、どちらかというとサブのルーチンになりつつあるということは皆さん御存じだと思います。それぞれのフェーズにおきまして投稿者、査読者、編集者、読者としての研究者が相手としているということになります。そこで一応、各々の詳細説明については割愛させていただきますが、それぞれのフェーズで電子化をやらせていただきまして、投稿からWeb公開まで2週間を切るような出版システムの確立やオープンアクセス対応などを成果として出させていただいております。

 一番最近の話ですとXML出版ということで、任意の著者のワードファイルを持ってきまして、そこからXML、これは人にはわかりづらいのですけれども、コンピュータには大変わかりやすい言語に変換した上で、それを自動組版するということをやっております。この仕組み自体は2002年に確立させていただいておりまして、画面左側が紙面です。この表示のままPDFが作成できて、画面右側がXML相当のメタデータとなりまして、右、左どちら側を直しても双方が直るということで、Webのデータと紙面のデータの同一性を担保するという仕組みを2002年に確立しました。もちろんこれはツール等を使って、全体、トータルのシステムとして確立させていただきました。そのおかげで昨年発売のiPadに対応することも、このXMLをフォーマット変換するだけで基本的にはできました。このレベルまで一応、日本の電子ジャーナルも来ているということを一度アピールさせていただければと思います。

 さて、それでは電子ジャーナルの現状と学術コミュニティの将来というお話をさせていただく上で一番基礎に返ります。このあたりから一部の委員の先生方には釈迦に説法になることをあらかじめおわびさせていただきます。様々なお立場の方がいらっしゃるということなので、なるべくベーシックなところからお話しさせていただきたいと思います。

 まず、研究というのは研究者に伝わって初めて評価され成果となります。研究者コミュニケーションということでは、もう一つ、科学の正しさというのは、結局、その時代の科学コミュニティが決めているということです。17世紀以来、学術雑誌、論文誌が研究成果を広く伝えるメディアの中核として存在し、質の担保はピアレビュー(研究者仲間による査読)によって行われている。今日までの、いわゆる学術誌というもののルーツは、この17世紀にでき上がっていると見る向きが多いと言ってよいかと思います。

 この体制がいまだに変わらないことの1つの理由、例えばブログとかTwitter、その他いろいろな発信メディアが出ている中で、いまだにこの体制が生きている理由としては、研究費、ポスト獲得のために業績リストを皆さん出されるかと思うのですけれども、そのときはやはりピアレビューされた論文のリストを並べるということで昇進なり、研究費獲得につながる現状が絡んでいると推察されます。

 それで、紙から電子ジャーナルになりまして、状況が大きく変わりました。それは情報の流通が格段に広まったということになります。こちらにございますように、もう今はGoogleや大学が管理するリソース、マネジメントツールを使いまして、あるいは2次情報データベースから簡便に必要なトピックの電子ジャーナル、論文にアクセスすることができます。電子ジャーナル同士はリンクがされておりますし、引用文献同士で簡便に相互参照することができます。それに、将来引用されたときのリンク機能もついておりまして、このように情報伝達が広がりました。今まではそれぞれのタイトルを図書館に専門家が通って読む、つまり、ごく限られた研究者が狭い範囲で情報収集活動をしていたのが、今、原理的にはGoogleに引っかかれば世界中の人、一般市民を含む世界中の人から論文に到達できるようになっている。あるいはそれぞれ大学単位やそれぞれの興味の単位、学際領域であれば2次情報データベースを利用するなど様々なルートから必要な情報を届け得る世界が来ているということが電子ジャーナルの1つの大きな特徴かと思います。

 このような、ちょっと早口ですけれども、電子ジャーナルの現状というか、システムとしての現状を御紹介した後に、早速ですが、諸問題について入らせていただきます。なお、この議論に関しましては、この後に出てまいります日本学術会議の提言の中で行われたものを基本的には紹介させていただくということになります。

 まず、電子ジャーナルが買えない。これは先ほど御説明があった3本柱の真ん中のところで昨年度既に御議論いただいているということなので簡単に御紹介させていただきます。結局のところ、これは電子ジャーナルに限らず、紙の時代から起きていた話なのですけれども、主に商業出版社の寡占と価格の高騰というか、毎年5%ずつ上げていくということに図書館が今耐え切れなくなっているという現状がございます。

 一番身近で数字が確実に出ている例として、国立大学図書館協会が実施された日本の国公立大学が外国雑誌に払っているグラフなのですけれども、ごらんのとおりElsevier、Wiley-Blackwell、Springer、Natureあたりで6割を超えまして、分野の方々によっては最大手であるIEEEやアメリカ物理学会、アメリカ化学会ですらたかだか2%ぐらいのシェアになっているという現状がございます。そして、これらの雑誌が毎年数%の値上げをすると、その他、左上の残りの青い部分(他の単体や小規模のジャーナル群)のところがどんどん縮小されます。図書の予算は上がるどころか下がっているところも多いという中で、どんどん足切りになる雑誌が出てくる。

 つまり、本来、雑誌購読というのはタイトルの質を見て決めるものであったにもかかわらず、パッケージで買うことが優先されてしまっているのが現状で、これを何とかできないか。もちろんパッケージで買うことによるメリットというのもあって、例えば、事務効率が良い。1回でたくさん、2,000タイトル以上が読める。すなわち1回の契約でたくさんのタイトルが読めるという利点もありますが、その一方で研究者に必要な情報を届けるときにあくまでパッケージ依存でタイトルが決められていることには問題があると言わざるを得ません。

 ビッグディールモデルについての難しい話につきましては、一番下に書いてあります、こちらでも傍聴していらっしゃる尾城さんが非常にわかりやすくまとめた論考を書かれておりますので、そちらを御覧いただければと思いますが、5%から10%の値上げに耐え切れずにパッケージ購読をやめてしまうと一気に2,000タイトルから100タイトル程度に、読めるタイトルが急減してしまうような仕組みになっています。そのからくりについては、先に紹介した文献を御覧いただければと思いますし、恐らく既に審議会でも議論されているかと思います。とにかくこの問題をどのように解決するかというのが1つ、電子ジャーナルが買えないという意味合いで問題になっております。

 その中で発信側として、つまり、この高騰化を生み出した雑誌の購読費モデルを何とか変革させようと考えたときにやはり出てくるのがオープンアクセスです。このオープンアクセスというのは、今日は発信の議論ですので、出版社側がオープンアクセスでジャーナルを出す、そういった文脈でお話しさせていただきたいと思います。もともと公的資金で行われた研究の情報をだれでも無料にアクセスできるようにという哲学的背景からオープンアクセスが出ておりまして、先ほどの購読費モデルに対抗する格好と見る向きもあります。確実に発展しています。

 NIH――National Institutes of Healthでは政策ベースで様々な研究費にひもづけされたオープンアクセスの義務化、法制化を進めていますし、もともと物理の一部の分野ではarXivというプレプリントサーバを通じて、もともとオープンアクセスは進展しています。ただ、そういう個々の成功例はありますが、全体としてみればまだいまだ黎明期であると言わざるを得ない。購読費モデルのビッグディールの牙城を崩すほどにはなっていないと言わざるを得ません。それを端的にあらわすのは、各分野のトップジャーナル、ハイクオリティージャーナル、それぞれの分野の先生が虎の子の研究の成果を出そうというときのジャーナルがオープンアクセスであるということはまだ少ないという現状がございます。

 その理由についていつも御説明差し上げているのですけれども、よい研究者が国際的に評判の高い雑誌に出すことで相思相愛のブランディングが起きているということを指摘させていただきたいと思います。つまり、評判の高い雑誌には編集能力、政策能力、販売能力の高い人材がいて、これが良い論文を書いた先生がよい研究者というふうに結果的に評価します。この図のサイクルが続く中で、良い著者は良い編集者や良い審査員になることもあり、それでまたその良いとされた人がまた成果をよい雑誌に出すというサイクルです。良い論文が良い雑誌をつくり、良い雑誌が良い研究者と評価するというような仕組み、これは正のフィードバックになり、だんだん正のスパイラルに入っていってブランドを築き高めている。その端的な例が「Nature」誌であると言えるかと思います。

 そこで、この話だけでは別に大した問題ではないと考えられるかもしれませんが、ここで税から捻出されている研究費の成果と、図書館経由の購読費、これも税からですが、これらが商業主義や資本主義の中に流れ込んでいって、商業主義の場合は株主にまで還元しているという事実、一方で学会出版の場合はそれで得られた利益を使って教育活動などに回しているという、こちらになると悩ましい現実。こういう問題があるという御紹介をさせていただいております。

ということで、国際的に電子ジャーナルを読むという立場と、それから、オープンアクセスがなぜ進まないかという1つの要因、それから、この後出てくる電子ジャーナルの発信側のブランディングの背景について紹介させていただいた上で、今度は日本から電子ジャーナルが出せないという問題をお話しさせていただきたいと思います。

 出せないというのはどういうことかといいますと、つまり、日本から有力な魅力のある雑誌が出せていないという意味合いです。頭からネガティブな表現をさせていただきましたが、そもそも日本発の学術情報発信というのは非常にいいスタートを、少なくともアジアの中では切っているということから御紹介させていただかなければなりません。どういうことかといいますと、もう明治の時代に早くから英文論文誌が創刊されています。日本化学会の英文誌も1926年に創刊しておりますし、年を忘れてしまいましたが、日本物理学会の英文誌の前身誌(東京物理学校雑誌)はアメリカ物理学会の英文誌(Physical Review)より先に創刊しているという事実もございます。明治の日本の方々は先見性をもって英文誌を創るということをやられてきています。

 そして、昭和になりまして高度経済成長のあたりを中心に、また、インターネットの前の紙の物流の中の最適化という形で日本のジャーナルは一定の隆盛を誇っています。そこで平成になりまして冊子からWebへ、インターネットを通じて物流のコストをかけずに情報を届けることができるようになり、グローバル化が進みまして、これで日本の雑誌も、あるいは日本発の情報流通もよくなるかと期待されましたが、ふたを開けると、新幹線が通ると田舎は地域の発展を期待するのですけれども、結局、田舎から都会に人が流れてしまって、都会か発展して田舎が寂れてしまうというストロー効果のようなことが起きている分野も見られるのではないかと思います。あるいは円高になりまして、海外とコミュニケーションをとることや旅行すること自体のハンデが下がったということで、どんどん、分野によっては日本の研究情報の海外流出という状況を見る向きもあります。

 既にある資料の中にも書かれてございますが、日本で何も今まで、この問題に対して考慮しないままで来たわけではなく、この図の下に4つ並んでおりますが、国立情報学研究所、科学技術振興機構、日本学術振興会、国立国会図書館がそれぞれ様々な施策を打っています。日本からの情報発信を強化する、あるいは流通を高めるために。ですが、それでもなかなか現状が改善していないということを今日議論いただくものと理解しています。

 では、実際、具体的に日本の有力なジャーナルはどのぐらいあるのかということで、試みに作りましたこのリストはEigen Factorと呼ばれているGoogleのページランキングと同じアルゴリズムを使って引用の度合いを見て、インパクトの高い順に並べたジャーナルリストになります。雑誌の計量的な話になりますと、インパクトファクターが出てくるかと思いますが、これは分野別に比較することはできないものとされていますので、それよりはまだ平均化されているEigen Factorをとりました。リストの一番上から応用物理学会、物理学会、化学会、癌学会、植物生理学会、薬学会、農芸化学会、地球惑星科学会、金属化学会、生化学会、循環器学会という順で、一応、有名どころのジャーナルが並んでいます。このリストの特徴としては、海外商業出版社と組んで出版するか、J-STAGEで無料で公開して出すかに大別できるという状態です。

 あるいは、インパクトファクターの比較については、国立情報学研究所名誉教授の根岸先生の調査によると、インパクトファクターについて分野別に偏差値を導きだして、その偏差で比較したときに、これらの日本のジャーナルの偏差値はたかだか、一番上で60ぐらいとの報告もあります。ちなみに、トップのジャーナルは200以上とか、これは計算式の結果として出た数字ですけれども、トップのジャーナルの偏差値は200以上いう状態で、日本で一番よいのでもたかだか60ぐらいとの御報告です。やはり、インパクトが高いとはまだ言えない状況になっています。

 ここで必ず出てくる議論がイチローでいいじゃないかと。イチローのように研究者が海外で活躍することには何の問題もない。これはそのとおりだと思います。舞台は世界である。これは様々、野依先生や根岸先生も言われているということで、どんどん海外に出なさいということは、これは全くもって問題がないと思います。

 ただ、単純にその点だけ考えるのはよろしくないということをお話しさせていただきたいと思います。それは研究者の意識の問題として、今のような話がともすると、いわゆる無批判な海外信仰になってしまったり、あるいは単純に海外のジャーナルのインパクトファクターが高いという、それだけを見てそちらに投稿してしまう、そういった流れを生み出しているのではないかというところがございます。つまり、日本の学協会、日本の研究者コミュニティを代表する、そこから出すマイジャーナル、ホームジャーナルの意識がどんどん薄くなっている現状があります。

 なぜこのようなことを申し上げるかといいますと、国際競争におけるリスクというものをやはり考えなければいけないと思います。つまり、あるコミュニティの研究が国際的に競争力を付ければ付けるほど、その虎の子の最良の研究成果を海外の自分がコントロールできない評価母体のところに出されたときに、どのような扱いを受けるかというリスクです。このリスクに関しては、これは統計的にデータを出せない非常にウェットな問題ではあるのですけれども、様々な分野、高温超伝導など科学の世界でも様々な先生から具体的に聞くことがあります。

 それで、そもそも今自分の分野のジャーナルは既に国際的だから、そんな日本だけということは、アメリカだけということはないんだよとおっしゃる分野の先生もいます。そこで日本のプレゼンス、日本のイニシアチブがとれていればいいのですけれども、そういう研究者コミュニティの国際性がある中で、本当に日本のイニシアチブがとれているかというのは、F1やスキーや国連のことを少し想像していただければおわかりのとおり、その中でうまく立ち回りができなければ、F1やスキーのように日本が勝てばルールを曲げられる世界が待っていることになります。例えば化学の場合ですとトップジャーナルでは、実は約6割の論文は結局、アメリカやドイツの著者になっている事実もあります。ですので、海外の雑誌に出すなという意味ではなくて、日本にも国際的社会を先導し、不利な扱いを受けないためのメディアを持っておくことが重要である、その分野が国際競争性を持てば持つほど重要になってくると申し上げたいわけです。

 ということで、イチローを生み出した高校野球や日本のプロ野球の「場」は必ず必要であると考えています。そして、そういう場から生まれるチームが、これも野球の例えで言いますと、メジャーとの対抗戦やワールドベースボールカップで勝つ、国際競争力を示す、日本のプレゼンスを示すことは重要です。それから、もう1点、そもそも査読を行うことの表に出にくいメリットとしては、ある先生の言葉を借りれば、一流の研究者になれば、出版された論文など読む必要はない。なぜなら審査でじぶんの分野で必要な論文がすべて事前に手に入るからだとおっしゃる方もいらっしゃいます。ということで、科学技術創造立国として世界をリードする国際メディアは、日本として考えるのであれば必要である。その評価を担保するために日本が先導する科学コミュニティを維持しておくことが重要ではないかと考えられます。

 以上、意義づけのところまでお話しさせていただきましたが、では、それを今、日本でちゃんと組織立って運用できる体制にあるかというと、決してそうではありません。こちらに書いてございますように、一番左下を見ていただきたいのですけれども、日本の学協会を中心とした出版活動は左下の研究者視点から編集や審査を行う。こちらのところに非常に偏っているという問題があります。視線を右に持っていっていただきまして、得られた、出版された情報を営業をかけてビジネスとして成立させ、知財を含むフォームをしっかりやって、マーケティングをして次の活動につなげるといったところまで事業的視点を持って活動できているところは大変少ないですし、審査・編集と合わせて学協会の事業としてビジョンを策定し、その将来計画を戦略性を持って立てていくことができている学協会も少ないのが現状です。それぞれのところにおいて専門家が不足しているのではないかという指摘をさせていただいております。

 そのことを端的にあらわす例として、日本化学会とアメリカ化学会とイギリス化学会を比較しています。自力出版しているジャーナルは、化学会が2つ、アメリカ化学会は37、イギリス化学会は14です。その出版規模が日本化学会はたかだか、日本化学会は日本の中では大手の学会かつ大きい規模のジャーナルを出しているとされますが、それでも1.6億です。アメリカ化学会はジャーナルだけで推定100億以上、イギリス化学会でも40億、出版部門のスタッフは日本化学会はたかだか5人に対してアメリカ化学会は300人、イギリス化学会は編集だけで200人、これは聞き方の関係でこういう表現になってしまいますが、このような状況です。そして、御存じのとおり、商業出版社は更に1桁上の1,000億、数千億単位のビジネスをやっている現実がありまして、いかに日本の学協会の出版活動がぜい弱であるかというのがこれで見て取れるかと思います。

 このような学協会のぜい弱性も御紹介しつつ、結局、様々なステークホルダーの中でどのように改善していくかということを日本学術会議でも議論をしたわけですが、そもそもなぜこれだけの施策があるのにうまくいかないのかの議論として、結局、学術情報流通の未来を決めるのはだれかという論点に至りました。それは間違いなく科学者の皆さんです。研究者コミュニティの皆さんのイニシアチブ、先導がなければ結局、周りで支援、サポートする側が一生懸命働いても、その中身は変わっていかないだろうということで、その科学者の代表である日本学術会議がそのアクセスと発信を支援するような組織、コンソーシアを、べき論としてですけれども、作ったらどうかという提案に至ることになりました。

 このアクセスと発信を一緒にしている理由につきましては、もはや大手商業出版社はサーバ上に2,000誌を超えるアカデミック・ライブラリーをつくっている状況。一方で、図書館は機関リポジトリなどを通じて、あるいは企業の出版活動を通じて発信側に出ている。もはや受信と発信の垣根は、Webのインフラの上においては少なくとも旧来の意味はない。将来を考える上では、そこを一緒にして、つまり、紙の冊子を売る側、買う側というような、半ば対立構造を超えた先に将来があるのではないかということで発信と受信を一緒に置いているということになります。それに支援団体の連携が加わることで初めて日本からの情報発信はよくなるのではないかと考えております。

 こちらの包括的学術コンソーシアにつきましては、参考資料7のところに概要のところがございます。今のような議論が御紹介されておりますが、こちらのスライドに戻っていただきまして、先ほど御紹介した電子ジャーナルが買えない話に関しましては、ワーキンググループ1で担当し、電子ジャーナル購読コンソーシアの強化やドイツモデルを参考にしたバックファイルの購読などを提言しております。一方で、電子ジャーナルが出せない課題に関しましては、学協会の自主性を尊重したリーディングジャーナルの育成と成果の他学会への展開などを提言しています。特にワーキング1につきましては、皆様御存じのとおりJUSTICEと呼ばれている日本横断型の図書コンソーシアが既にこの4月から成立しております。こちらの活動が、なるべくたくさんのタイトルを多くの研究者に安い価格で届けることができるように活動して、これから発展していくものと理解しております。

 では、その一方で、今日は発信の問題ですので、そちらに移らせていただきますと、発信に関しましてはやはり日本の学協会が乱立していることも含めて、あるいはそれぞれ小さい規模でしかジャーナルが出せていない現状を踏まえて、出版コストを抑え、スケールメリットを生かした合同製作出版体制の構築やパッケージ化によるバーゲニングパワーの創出、オープンアクセスジャーナルプラットフォームの構築、それから、専任編集委員長の雇用による質の向上、あるいはそもそも人文社会系の電子ジャーナルは、まだまだ拡充の余地があるのではないかなどの議論が学術会議で行われました。あくまで、これは繰り返しになりますが、学術情報流通の未来を決めるのは科学者ですので、その科学者の自主性を損なわないようにやることで議論を進めました。

 そして、では、より具体的にはどのようなものかということで、これは資料にはございませんが、学術会議で議論したときのポンチ絵です。このISPCと書いてあるのがコンソーシアの前身のものでございまして、ここに将来的にうまく組織化ができたとすれば、それが個別の学協会をコンサルティングしたり、あるいは学協会連合、右側を見ていただいて学協会連合を促したり、右上を見ていただきますと人文社会系、オープンアクセス系のプラットフォームを構築する、リーディングをするとか、あとそもそも下を見ていただきますと、個別ジャーナルの強化として編集力強化、マネージングエディターを呼ばれている学位を持っている人間が雑誌の編集や製作にかかわることが欧米では通常行われていますので、そういった体制をポスドクの活用と絡めてやってみたらどうか。あるいはそもそも営業力が、営業すること自体がやっていないので、それをどうやってやっていったらいいかを考えるようなことを議論していました。

 それで、この提言が出た後、学協会のヒアリングを実施しています。そこで、これは中間報告的なものですけれども、やはり日本の学術誌のビジビリティを向上したい。それから、何だかんだ言ってインパクトファクター上げたいというのが切なる雑誌側の要望ではあります。ただし、大事なのがインパクトファクターを上げるのが目的ではなくて、編集力や営業力を強化した結果としてインパクトファクターが上がるような仕組み、その本末転倒しないようにやっていくことが重要と考えます。それをやるためにも、日本の学術誌のそもそもの事業力、経済規模の強化が必要という話になっています。でなければ、若しくはオープンアクセス化をどんどん進めていって、とにかく無料で見てもらう仕組みを作る。ただ定期発行物として出版し続ける事業の継続性をどのように維持するかをどう解決するかというところで、そこをうまく包括的な支援と絡めることはできないかという話が出ています。

 いずれにせよ、ほとんどの課題に含まれるキーワードは、規模感、スケールメリットの創出になっています。ただし、学協会の事情と自主性を尊重して、これを全部、One Fits Allですべての学会に当てはめる意味ではなく行う。デュアルサポートの考え方、つまり、全体の底上げをする施策と、先端事例強化、この2つで分けて考えなければいけないと。更に言うと、分野別と学協会の規模別、このようなマトリックスも考えて議論していかなければいけないと現在なっています。それで、今の学術誌に直結したような議論に加えて、提言に至る議論はそれの周辺の議論で大いに盛り上がりました。それはどういうことかといいますと、もう学術誌だけの問題を考えている時代ではないという背景があります。それについてこれから御紹介させていただきます。

 より現実問題に近いところからですと、とにかく関係者が集まって考えてポストビッグディールモデル、ビッグディールモデルの先を考えてどんどん実践していったらいいじゃないかと。先ほど少し御紹介しましたが、実現性の高いオープンアクセスという課題も日本の学協会は論文誌事業で余り稼いでいないので、逆にオープンアクセス事業の最適化をやりやすいのではないか。それから他にも、議論の中で出てきたのは、インパクトファクターは欧米の英文誌にどうしても偏重し、英語圏に有利なところがありますので、和文誌や人社系を含む日本に適した研究や論文誌の評価指数、評価法が必要ではないか。そういった開発ができる人材育成が必要ではないのかという議論が出てきています。そして、そもそも今の電子ジャーナルは、冊子の電子化の域を超えていないという論点も出ています。

 つまり、本文PDFは結局、見た目として印刷物を電子化したものであったということ。それがiPadになってEPUBとかいろいろなフォーマットで見られるようになって、あるいは動画専門ジャーナルによって印刷がそもそもできないジャーナルも出てくることによって、いよいよ本当の電子化がこれから始まってくるのではないか。そういう議論も出ています。御存じの先生も、大学の評価にかかわられる方には本当に釈迦に説法になって恐縮ですけれども、今、電子化が進んだことによって、単純に電子ジャーナル化だけではなく、研究者にももう背番号がe-Radを通じて日本の研究者は振られておりますし、世界的にはORCIDと呼ばれている識別子が制定されようとしています。研究費にも当然IDがありますし、それにひもづけられて研究機関も識別されています。

 従いまして、どの研究機関のだれがどの研究費をもらって、どんな研究をし、その成果とインパクトはどうだったかがもうわかる時代に技術的には可能ですし、こちらでは具体的には名前は出せませんが、大手の商業系データベースでは、既にそのようなものを作成して各大学の評価部に売り込みに行っている。先生方によっては、それを直接見られているという現実がございます。つまり、このような全体的な学術情報流通システムの1つに電子ジャーナルの問題がある。その中でも学術誌のクオリティー・コントロールを学協会としてどうしていくか、そういう議論になっていくものではないかと思います。

 そして、更に言うと学術メディアの電子化といいますと、我々は、もともとアカデミックなところからインターネットが始まった関係で、学術、科学技術の世界での電子ジャーナル、電子ブック、モバイル対応という観点が強いです。これを社会的に見ますと、そもそもコミュニケーションの電子化が電子メールやBBS、ポータルサイトによって進み、2005年ぐらいになってブログや動画共有が出てきて、最近ですとSNS、ソーシャルブックマーク、Twitterなどの形でどんどん社会のコミュニケーション自身も電子化している。結果的に情報の透明化と共有化が進んでいる、この背景もやはり考慮しないといけないと考えております。

 そういった中でも雑誌、論文のメディアだけではなくて、研究活動そのものが電子化されている(E-Science)話が進んでいることは、専門の分野によっては重々御承知のことかと思います。これも何をもってe-Scienceと言い出したかという話もございますが、1999年にJohn Taylorさんが言われたという説がありますので、それを紹介させていただきつつ、コンピュータのスペック向上とネットワークの回線の増強が繰り返されまして、結局、扱えるデータ量が格段に増え、それで処理速度も非常に上がったという社会変化がございます。それはグリッドやクラウドの形で情報分野の推進分野では非常に盛んになっておりますし、最近では企業でもクラウドの時代などとしてコマーシャルにも出てくるようになっています。

 それに加えて今度、人間も世代交代が進みまして、私がジャーナルの電子化にかかわったころは、電子メールは教授に送ると秘書さんが印刷して、それに赤を入れたものを秘書さんが打ち直して戻してくるなどという名残がありましたけれども、今はもうそんなことはございません。だんだん人も慣れてきて、紙の物流の時代の1対1の対応から電子、Webを使った多人数対多人数のコミュニケーションもできるようになっている、このような背景があります。そうしてきますと、研究手段そのものも変わってきている。天文学では既に国レベルの共同によるデータ共有、たくさんの人が1つのサーバに、今まではとてもさばき切れないデータをネット上に置いて、それを分担して解析するというような研究が既に進んでいます。それはもう少しわかりやすい例では、素粒子物理学で大型装置の加速器を中心として、そこで多くの研究者がペタバイトクラスのデータから必要な情報を取ってくるという話もあります。

 それから、少し見方を変えまして臨床医学や疫学では、個別の研究データ、つまり、コホート研究とか疫学、ある分野の特定疾患の研究データを領域や地域別に組み合わせて本質を見るというメタアナリシスと呼ばれる手法も広がっておりますし、既に文科省さんではライフサイエンス統合データベースセンターの上でライフサイエンスに関連する情報をなるべくたくさん集めて、たくさんの方に利用してもらう活動が進んでいます。ということで、多くの研究者が参加してデータを共有すると、これまで得られなかった新しい知見を得ることが可能になる。こういう新しい研究手法に応じた研究のアウトプットを見なければいけないということで、今までの電子ジャーナルの在り方だけで考えていては、あるいはその延長で考えていてはいけないことがやはり議論されています。

 ということで、何を申し上げたかったかといいますと、包括的学術コンソーシアでは研究者が論文誌を出すことで成果を公開し、昇進に役立て、学術界への知への貢献を促して発展していくという、そういうサイクルの問題をどう片づけるかの議論から始まりましたが、結局、それに加えて先ほど言った社会情勢の変化等を加えますと、これは単に今の論文誌ではなくて、次世代のメディア、研究者がどうやってその成果を広め、それをどのように役立て教育活動に生かすかの話に広がってきまして、結局、研究から教育にも発展します。

 このように考えていきますと、このコンソーシアの将来像は、研究者同士のコミュニケーションを促し、学界を発展させ後進を教育する場となっていきます。それはすなわち、論文誌の問題としてだけではなく、学会、学界の将来、あるいは研究者コミュニティの将来を考えていくということにほかならない。提言にはここまでは書けなかったのですけれども、その行間にはこういう議論があったことを紹介させていただきまして、ここで行われる議論にも参考にしていただければと思っております。

 以上、結局のところ、次世代の科学コミュニケーションメディア、学協会の将来を見据えつつ、つまり、今の直近だけ見ていてはしようがない。その先に起こり得る未来を見据えた上で、日本の科学コミュニティのプレゼンス、発信力をどう高めていくかという議論、そして、科学者、科学コミュニティの主体性を損なうことなく、つまり、周りがお膳立てしても研究者は動かない、研究者自身がやりたいと思って動かなければ、その研究コミュニティとしての活発性は出ない。そこをきっちり押さえつつ、でも、事務的、事業的にスケールメリットを生かしていくようなことなど、先ほど出てきた具体的な活動案をどのように実現できるか。これはやはり研究者の主体性がまずありますが、どう進めていくか。

 その上で、今度、国や行政が支援すべきものはあるのかないのかの議論、この2本立てで考えていくことが重要ではないかというのが、私がかかわってきた中での論点になります。御参考になれば幸いです。御清聴、ありがとうございました。

【有川主査】  どうもありがとうございました。 

この我々の今期の議論の出発点として非常に有意義だったと思います。あと時間は30分程度使えると思いますが、先ほど事務局から説明のあったことなども含めまして、林課長からの説明などについて御質問、あるいは御討論を頂きたいと思います。

【中村委員】  1つよろしいですか。

【有川主査】  はい。

【中村委員】  東大の中村です。大変にすばらしいまとめです。しかし、全体像を聞いてみると複雑で、これはどうしていいのかよくわからないなという感じです。ともあれ、私自身は日本化学会の英文誌、6年編集をやってまいりました。編集というのは何かというと、ペーパーが来て審査員に送って、審査の結論を出して通す、落とすかどうか、という業務ですね。日本化学会の英文誌を6年やって、それから、Wileyの雑誌を3年やりました。

 それから、今、アメリカ化学会の雑誌を8年やっています。今、アメリカ化学会誌をやっていまして、今、年に400報やっています。それで20年ぐらいで編集ばかりやってきましが、それの現場の問題、それから、現場から見た出版情勢というふうに考えると、まず1つは、今、林さんがまとめたように、もう実はジャーナルの問題というのを通り越してしまっています。多分、ジャーナル個別の話をしても、もう意味がない時代だと思うんです。10年たった時代には、ジャーナルではなく2次情報をいかにしてとっていくかというのがビジネスで、個々のジャーナルはもうビジネスにならないのではないかという印象をみんな持っていると思いますね。それが1つ。

 もう一つは、林さんの話に出てこなかったので今申し上げたいのは、実はアジアの問題なんですね。アジアはほとんど欧米の草刈り場になっている。日本としては、今までアメリカやヨーロッパの雑誌に出していればよかった。つまり、日本のパブリケーションというのは世界全体から見ると相対的に少なかったからよかったのですけれども、中国が出てきまして、中国の部分が日本を超すようなことになってきました。そうすると、もう日本と中国、アジアを合わせると全体の3分の1なんですよ。そうすると、ビジネスから見ると、この3分の1をどの会社、どの国がとるかという話になってしまっている。もう一つ、去年、ドイツ化学会の会長から、日本は中国のことをよく考えて、中国との関係をどうするか、しっかり考えろと言われたんです。こんな問題は、外国人に言われる問題ではないのですけれども。

 やっぱり世界は日本が旗頭になってほしいと思っているということ、日本が中国とどうやってつきあって、そして全体として国際社会がどうなるかということを考えないと、日本の国際的責任が果たせませんよと言われました。これは実はアメリカ化学会も、それから、欧米の出版社も実はそう思っているでしょう。そうすると、個別の話になりますけれども、インパクトファクターの高い雑誌を日本から出せないか、実は出せるんだ、という実績があります。

 それは日本化学会が主として、中国学会も巻き込んで始めたChemistry-An Asian Journalという雑誌です。これは5年前に始めて、2年目で即座にインパクトファクター3.7を記録、フルに回りだして3年目のときに4.4です。今後、多分、5ぐらいまで行くと思われます。これはだれが主として投稿したかというと、最初、6割が日本人ですね。それで、非常にいい論文を我々も含めてみんな投稿しましたから、ポーンとインパクトファクター4.4まで上がった。そうなると今、中国人がバーッと出してきて、実は中国人の論文が今多くなっているのではないかと思うのです。インパクトファクターはどんどん上がって、メジャージャーナルになるのは明らかです。そして、これは日本化学会が中心に始めたものなんですね。

 一方で、日本のケミストリーレターという雑誌ですか、これは日本化学会のものです。これはインパクトファクターが低下する方向にある。どこに差があるかというと、やはりエディターと投稿者、学会、これが真剣に盛り上げようと考えるかどうかです。それに尽きてしまうわけですね。現実に日本化学会が中心になって始めた国際誌が、2、3年でもうインパクトファクターが4を越しているわけですから、日本の学会でもがんばればできるんです。簡単にできます。ですから、じゃあ、何ができないところかというと、やはりさっきも出てきましたけれども、人材の問題です。アメリカ化学会は編集者に対してすごく手厚いものがあるわけですよ。エディトリアル・アシスタントも含めて資金を投じて良い人をリクルートしています。強い雑誌はどこもそうです。

 これだけサポートをもらうとエディターも大きな責任を感じますから、責任を持っていいものを載せようというふうに動きます。日本でもそういうふうに動けばいいんですけれども、日本はやはり手弁当主義というのが1つ問題です。もう一つは化学会の定款をよく見ると、外国発信するにするという定款にはなっていないんですね。つまり、定款によると、学会の会員のためにあるのが学会ですから、決して外国語の雑誌にお金を使うようにはならないという仕組みになっているということです。あとビジネスの問題も含め、いろいろな問題がいろいろかかわっている。でも、学会の外の枠組みで新しい国際誌をつくれば、一瞬でインパクトファクターのいい雑誌ができるわけですね。これはやっぱり、まさにコミュニティの問題なんですよ。外でやればいいのができるのに中ではできない。だから、これは本当に我々自身の問題である。

 それからあと、文部科学省に考えていただきたいとしたら、世界の問題と考えてほしい。でもどうしても日本の話ばっかりですよね。この話ではもう全く遅れていて、これでは10年前の話ですね。今後10年の話を考えると、日本が世界への責任を持ってアジアを取りまとめていって、アジアが世界の3分の1のシェアを持って、アジア、米、欧州からお互いがお互いの雑誌に投稿し合うという形をつくらなければいけない。これは世界の商業出版者もアメリカの学会もみんな思っていることなんですね。日本だけそうは思っていない。日本だけがみんな自分の成果を世界に向かって投稿していてもいいと思っているわけです。そこは文部科学省、政府の問題と、それから、コミュニティの問題、人材の問題、問題は複雑ですけれども、是非その辺に対して、何か解決策を是非考えてみたいと思っております。

 以上です。

【有川主査】  ありがとうございました。

 非常に示唆に富む話でございます。皆さんの理解を深めるためにお伺いしますが、日本化学会というのは会員数はどのくらいおられますか。

【林課長】  3万1,000人です。

【中村委員】  3万1,000人ですね。

【有川主査】  わかりました。

【中村委員】  最も大きい学会の1つですよね。

【林課長】  はい。トップ3から5ぐらいに大きいです。

【有川主査】  わかりました。

 どうぞ。

【土屋委員】  おっしゃることは全く、林さんにも中村先生にもほぼ、あえて言えば我が意を得たりなのですが、にもかかわらず結論がよくわからなくて、1つはスライドの27ページで学協会ヒアリングの結果からというところの1番、2番のところで、日本の学術誌のビジビリティの向上、日本の学術誌のインパクトファクター向上支援というのを学協会が欲しがっているというふうにおっしゃるわけですけれども、これに関しては多分、18年の審議まとめだったか、提言のところで既に具体的に指摘していることで、その乏しいなりに――「乏しい」などと言ってしまうと怒られるかもしれないですけれども、文部科学省、国立情報学研究所もいろいろな形で支援してきたことだと思うのですが、依然としてそんなことを言っているのとしか言いようがないので、要するに学協会の認識というのは、ヒアリングから出た認識というのは、林さんなり中村先生の認識から比べたら、何周もおくれていて、こんな学協会を何かの形で支援することにそもそも意味があるのかという印象を持つのですが、この「ヒアリングの結果から」というのを紹介された意図はどういうところにあったのでしょうか。

【林課長】  語弊を恐れずに申し上げれば、学協会の現状を事実として伝える。その遅れているとの評価を頂くのは承知の上で、でも、これが日本の学協会の現状です。その要因はやはり端的に言うと細切れ、小さな学協会で1人の雑誌担当者が編集、製作、営業はできないのですけれども、編集、製作を時にはパートの人がやったり、あるいはほかの会員分の仕事と兼任でやったりということで、あるいは定期刊行物の罠としましては、毎月、毎月発行できていると、それで一応その担当の充足感は得られます。あるいはそれを出し続けることだけで精いっぱい、これは本当に担当者から直接聞いたりしています。そういう人たちに明日の電子ジャーナル、明日の学術情報流通はと考える余地、そういう問題提起を投げかけても、いや、手いっぱいだからという答えが返ってくることが多いというのが現状です。

 ただ、探せばやはりいろいろ意識が高い方もいらっしゃるので、それがNIIさんのSPARC Japanとかのセミナーとかで人が集まってきますので、そこでディスカッションをして、相対的には、絶対的には足りていませんが、相対的にはレベルが数年かけて着実に上がってきているとは言えると思います。ただ、その上がりぐあいが欧米の速度に比較するとまだ遅いのも事実です。

【土屋委員】  ただ、学術情報流通の未来を決めるのはだれかということを問題提起されて、その脈絡の中での紹介だと思うのですけれども、学協会の雑誌刊行の担当者の御意見と頑張りの実情ではなくて、科学者が決めるのだというのがここの結論だったと思うのですが、学協会の意思決定自体が、仕組みとして全然遅れているということになってしまうのだとすると、つまり、学協会のことを問題にすること自体にどこまで意味があるのかというのはよくわからないのです。

【中村委員】  私が答えるのは……。

【有川主査】  中村先生。

【中村委員】  よろしいですか。皆さん御存じの上でお話ということではあると思う。立場上、申し上げますと、今までアメリカ化学会も8年やっていますけれども、アメリカ化学会の編集会議では必ずビジネスの人が出てきますね。この人がブラジルに何件売りましたとか、ここをフォローするためにこうだとか、ビジネス・デパートメントの人が出てプレゼンします。このビジネスの人は実は科学者でも何でもなくて、アメリカ化学会がリクルートしてきて、いわゆる本当のビジネスマン、国際ビジネスマンを呼んでくるわけです。

【土屋委員】  MBAですね。

【中村委員】  ええ。つまり、アメリカ化学会自身も危機感を持っているのは、学術出版が大手出版社に独占されて、お金もうけの対象になるのは非常にまずいということです。アメリカ化学会がノンプロフィットという立場で対抗しなければいけない、この使命感があるわけです。そのためにアメリカ化学会もビジネスとして対抗する。日本の学会はどこもビジネスという感覚が1つもありません。それがさっきの定款とも関係があるんですけれども、日本の学会というものはビジネスはやらないというのが基本です。でも、出版業そのものはまさにビジネスなので、ビジネスとしてやらないと絶対に勝てない。

【土屋委員】  負けちゃう。

【中村委員】  そうです。ですから、学会がやるとしたら、ビジネスマンを雇ってくる。高給ビジネスマンを雇って世界中を行脚して雑誌を売ってもらう。ところが、これができないので、さっき日本化学会が申し上げましたけれども、日本化学会は商業出版社と組んでやって、出版その他の宣伝は外にやった。学術だけなら学会でやってもうまくいくわけですね。ですから、やっぱりビジネスとしての機構がないというのが、日本の学会の欠陥。でもこれを変えるのは、現状で難しいということだと思います。そういう意味では、国際的にプレゼンスのある雑誌を現体制で作るのは不可能だと思いますね。ビジネス感覚がない。

【林課長】  立場上、先生方が事業性を持ってやっていただけないので、とはいえなかったので、中村先生に言っていただいて助かったのが実際でございます。日本によくある話ですが、編集委員も編集委員長も二、三年の任期交代制で、しかも、我々は査読の質を見るため、コンテンツのクオリティーを見ればいいのだと考えていらっしゃる先生方が多くて、事業性の観点から議論をされることが編集委員会ではほとんどない、これも大きな現実です。それを端的に中村先生に先に御紹介いただきました。

 ところが、一方、欧米のジャーナルですと、エディターというと場合によっては20年、30年やるジャーナルも多くあると聞きます。その先生が顔になって、この先生に言われたら仕方がないな、あるいはこの先生のために出すのだというブランディングをされている。そういうブランディングを含めたビジネス展開が合議制の任期制である日本の編集委員会の論文誌事業ではなかなかできていない、この現状があると思います。

【土屋委員】  そこで、要するに単純に素朴な疑問なんですが、包括的学術コンソーシアムというのができると、その問題が解決するんですか。

【林課長】  解決すべく、とにかく人材やリソースの集約化を図るところから始めようということになってくるのではないか。

【土屋委員】  ただ、コンソーシアムというのは、いろいろなもののコンソーシアムです。まとまったものですよね。だから、もとのものが全然変わらないでいて、このシステムにしたらうまくいくというのは論理的にあり得ないと思います。

【林課長】  そうですね。ですし、そもそも今、学協会が本当にそういうコンソーシアを望んでいるかどうかは慎重に調べているのも事実です。ただ、繰り返しになりますが、規模感、プレゼンス向上や事業効率化という意味合いでスケールメリットを出す、あるいは情報を集約化し、教育効果を含めた情報の共有化を進めるメリットを生かすという論は立つのでということで提言させていただいていると個人的には理解しています。

【有川主査】  はい。

【山口委員】  大変有用な情報が多いプレゼンテーション、ありがとうございました。今の議論にもかかわってくるのですが、やはりアメリカと日本の情報誌、学術誌に関して一番大きな差は、特にエディトリアルボードの在り方ではないかと思います。アメリカの学会の雑誌では、エディトリアルボードの中にポスドクの人たちを入れて一緒に議論をして、経験を持たせることで人材育成を図っている部分が大きいと思います。それが日本の場合は学会によって差があると思いますが、とても層が薄く、長期的な人材育成になっていないところがあると思います。このような現状があるというのを認識した上で、今、包括的学会誌コンソーシアムを実現するにおいて一番大きなボトルネックというのはどういうところにあると思われますか。

【林課長】  ボトルネックの話をする前に、まずは御紹介させていただきたいのが、雑誌のエディターになることが研究者人生の中途段階であり得るのが欧米の、つまり、エディターになった後に研究職に戻ることもできる。少なくとも化学の世界でしか私は認識していませんが、そういったことで人材の流動性がないのが日本の問題点であるということはあるかと思います。

 ボトルネックはたくさんあるというか、ここだけがギュッと流れを止めているいうものではないような気がして、根本的にはやはり将来の学術誌メディアを一生懸命に本気で考えようとしている議論の場がないということなのでしょうか。社会インフラのせいにすることも可能ですが、それをボトルネックで言ったところで話は進まないと思うので。

【土屋委員】  だから、発想自体がボトルネックになる。

【林課長】  ええ。

【有川主査】  ほかに。何かありそうですね、松浦先生。

【松浦委員】  このお話を伺っていて思ったのは、アメリカの大学自身が州立大学を見ると、ただのノンプロフィットではなくて、限りなくコマーシャリズムに近い形の仕事をしている面があります。その中で例のTシャツのロゴを含めてそうですが、学術情報資源も基本的にコマーシャルのリソースになりつつあるという認識を持って、つまり、知的雰囲気と商業的雰囲気が非常に混在した形で、大学の組織が動いている中での話かと思います。

 ところが、学協会というところは、日本の場合、多くの場合は限りなく自分たちの組合で、自分たちの成果を自分たちで出せばいいのであって、研究成果もいいものは社会的に自然に認知されるという、ある意味で非常に健全な、ある意味で非常に素朴な発想になっています。私の領域の法律の領域を見ると、海外では新しい議論を推進するためにジャーナルをつくる、つまり戦略的に新しい議論を売るための制度的仕組みだということも考える面があります。日本では、その種の戦略的考慮というのは今までの大学は非常に薄いだろうと思います。私は図書館の仕事をしていますが、図書館は膨大な資料を持っていますが、それを商業的な資源として考えるようなことは余りしていないわけです。そうすると、そういう知的風土の中で学協会だけがコマーシャリズムに傾斜したら、浮き上がるように思います。

 そうだとすると、先ほどお話に出ているように、パブリケーションというのは基本的に出版社の方の技術が高いので、そこのノウハウを入れるような格好で処理するしか動きはなかろうと思います。片手間でやる時代は終わったのだというあたりをはっきりさせないといけないのでしょう。多分、チーフエディターが、あるいはエディターチーフが全体を見て研究者としてもすぐれていて、ある段階から大学へ戻るということはあるだろうけれども、組織全体がやっぱりすべてパートタイムでやれる時代ではなくなったといったところははっきりしないといけないのではないでしょうか。

 そうすると、継続的にそういう人たちを育成するためのキャリアパスが必要で、Ph.D.を持っている人が薄給で働くような仕組みを持っていたって、うまくいくとは思えません。場合によっては、アメリカンフットボールのコーチが大学の学長よりもたくさん給料をもらうシステムのようなことがないと、これはうまくいかないかなと思いますね。そうすると、その仕組みは今の大学全体の施策の中での落ち着きぐあいはかなり悪いから、十分にその点、変える仕組みを検討するということになるんでしょうか。当分の間は商業出版社とタッグを組んでやるというのは、日本的な処理であったことは間違いないので、それを少し強化するようなことも考えるのがいいかもしれないなとは思います。すみません、印象なのですが。

【有川主査】  ほかに何かございますか。

【土屋委員】  よろしいですか。

【有川主査】  はい。

【土屋委員】  あと少し細かいことになるのですけれども、林さんの資料の15ページ、Eigen Factorでソートするというのは面白い――面白いというか、まあ、妥当だとは思うのですが、これはやっぱり結構、示唆的で、結局、こういう形で出ていて、インパクトファクターを見たってそんな低くはないわけで、そういう意味では、ここに出てくるものが結局、今、現状における日本の英文誌に限るのかもしれないけれども、英文誌のプレイヤーだということになるわけですよね。そうするとやっぱり、今、学協会、学協会と言っているけれども、これ、パッと見ただけでは学協会と余り見えなくて、ジャーナルのタイトルとプラットフォームと書いてあるから、それだけなのかもしれませんが……。

【林課長】  そうですね。

【土屋委員】  つまり、林さんもおっしゃったようにタイトルが大事だというのであれば、タイトルが大事なので、学協会自体はどうでもいいのかもしれないわけですよ。ですから、その学協会と学協会の出している雑誌のタイトルというのは、いつも一緒に考えなければいけないということ自体に何か無理があるような気がして。

【林課長】  それはおっしゃるとおりです。

【土屋委員】  学協会は学協会として頑張っていただければいいので、でも、ここでの議論というのはパブリッシングなり、学術情報流通という議論をするのであれば、学協会に余りこだわらない議論でもいいのかなという気がするわけですね。ですから、タイトルがあって、そのプラットフォームというか、J-STAGEって要するにどういうもので、インターサイエンスというのはどういうもので、それから、OUPはHigh Wireですよね、プラットフォームは。あの辺が一体何なのかとか、Springer Link、Science Direct、Nature、Natureは今まだ販売しているだけで、多分、プラットフォームは提供して販売しているだけでしょう。

【林課長】  いや、もう……。

【土屋委員】  エディトリアルには関与していない。

【林課長】  はい。いわゆる旧Blackwell型ですね。

【土屋委員】  いわゆる「アカデミック・ジャーナルズ」のカテゴリーだと思うので、しかも、これが言いたくて今まで前置きしたようなところがあるのですが、3年ぐらい前まで、これ、J-STAGEから出ていたんですよね。

【林課長】  そうです。

【土屋委員】  これは恐らく学会が賢い判断をして、Natureに売らせた方がもっと伸びると思ったのでNatureから出すことにした。J-STAGEから出ているときは、たしかオンライン版は無料だったのが有料になったという経緯があったと記憶していますから、それはいいことなんですよね。


【林課長】  学協会にとってよければということになると思います。これは面白い話がありまして、前後しているんですね。NatureやSpringerに出る、J-STAGEから出る学協会もあれば、出たけれどもJ-STAGEに戻ったジャーナルもある。数的には出る方が多いのですけれども、ただ、それぞれ学協会の事情に応じてプラットフォームは決められている。これも自主性、主体性のあらわれなのかなとは思っています。

【土屋委員】  だから、学協会でそういう判断ができるのであれば、つまり、一律に日本の学協会の雑誌刊行資源というのを一様に考える意味というか、意味づけは難しいのではないかという感じがします。

【林課長】  難しいと思います。なのでデュアルサポートという表現を使わせていただきましたが、底上げと先端事例強化、先端事例というのは、これは……。

【土屋委員】 いやいや、そんなサポートよりは、勝手にやらせればいいじゃないか。

【林課長】  ええ、ヒアリングによっては、僕たちは自分たちでしっかりやっているから、別に国の支援はいいですよとはっきりおっしゃられた学協会もあります。そういうところは、本当にそのままでいいのではないかと思います。

【中村委員】  さっき日本化学会が外と一緒にやったらよくなったという話は、外国の商業出版社とやっているわけですよね。日本の出版社ではない。もちろん学術的にはどこの出版社とやってもかまわないんですけれども、残念ながら日本の出版社で国際出版がちゃんとできるところは1つもない。そうすると外とやるということは、要はヨーロッパかアメリカと一緒にやるわけですよね。

 実は中国も強い国際出版社がないのでどこかとやるんです。そうすると、アジアということは、世界の3分の1ですが、そのパブリケーションビジネスは結局、アメリカとヨーロッパがお金をもうけるための草刈り場になっている。さっき林さんがどこかのスライドで最後パッと行っちゃいましたけれども、日本の税金を使って出した結果を日本以外、アジア以外の出版社が出版してもうけて、その税金は外国に落ちるわけです。そういうふうな仕組み自身が、日本国としては望ましくないと思うんですよね。そういう視点も重要です。

【土屋委員】  多分、言いにくい議論ではあるのですけれども、もう一つの点としては、そのような欧米の学術出版社ですら、多分、日本以外のアジア諸国には十分に売れていない。売っていないという事実があるだろうということがあるので、しかも、そのような諸国から出る論文が、実は雑誌の掲載論文のかさを増やしているという側面もあるというような国際的な関係は十分考えなければいけないのだろうと。逆に言えば、ちゃんと中国、インドが払ってくれれば。

【中村委員】  科学においては中国のダウンロード数は極めて多くて、投稿数も多い。中国の自然科学におけるプレゼンスはどこの出版社も学会もよく知っております。

【土屋委員】  いや、ダウンロード数は多いんですけれども、支払金額。

【中村委員】  それはビジネスの問題ですからね。

【土屋委員】  言いたくないですけど。

【有川主査】  どうぞ、田村委員。

【田村委員】  大変素朴な疑問になるんですけれども、林さんのお話、大変包括的で非常に参考になりましたけれども、林さんの話で終始出てこなかったのは言語なんですね。英語での出版というのが、これからの議論でもそうですけれども、そこを前提に議論を進めるというようなことでよろしいわけでしょうか。林さんのスライドの中に、26枚目でしたか、人文社会系の電子ジャーナルのことが出てきているわけですけれども、そういう段階になると言語の問題とか出てくるのかなと思いますけれども、いかがですか。

【林課長】  鋭い御指摘、ありがとうございます。そこはぼかしました。というのも、これもやはり研究分野に応じて先端の研究をコミュニケートするのが英文とは限らない分野、あるいは英文だけに限らない分野、工学系や地域性があるようなもの、医療系、人社系等々がございますので、様々な学協会の事情を考慮して、あえて英文だけとしないようにさせていただきました。

【土屋委員】  きれい事だけ言わせていただきたいのですけれども、その学術情報流通の未来を決めるのはだれかという問題に関して、今のお話では科学者というのが答えになっているようなのですが、基本的には要するにほとんどのお金が公的資金に、大学における研究にしても、それから、私立大学あるわけですけれども、研究費の部分は公的資金が非常に多いわけですよね。それから、その他、買うお金も公的資金だということはあるので、要するに本当に科学者だけが勝手に決めていいのというのも当然出てくるのだろうと思うわけで。

【林課長】  そのとおりだと思います。

【土屋委員】  チラチラとは触れられたと思うのですけれども、やはりそういう、だれが決めるのかというときに、要するに科学コミュニケーションというのは素人にはわからないエソテリックな情報の交換のためのものなのだから、専門家だけが決めるのだという議論はもはや不可能ではないだろうかということはあるので、当然、学術的知識の位置づけとかということに関しては、科学者ないし学術出版を専門にやっている人以外の意見をどう取り入れるかということが重要な要素として考えなければいけないのではないかということです。

【中村委員】  もう一ついいですか。

【有川主査】  はい。

【中村委員】  今、大学の評価というのは国際的に行われますよね。大学の評価のポイントというのは、引用数が多いことが重要指標です。最近のは特に引用数重視になっていますね。そうすると、日本の人が国粋主義的に日本の雑誌に出していると引用数が非常に低くなります。そうすると日本の大学の評価はがく然と低くなりますね。ですから、この出版問題というのは国際的に考えなくてはいけない。例えば日本の人が、例えばインパクトファクター30という雑誌に、全員で出すと、これは評価がすごく高くなる。でも、高インパクトファクターの雑誌はみんな外国の雑誌ですから、これでは日本のためにならないという議論がでてきます。みんなが日本の雑誌に出したら、日本の大学の評価はがく然と落ちる、でも外国の雑誌に出すと問題だと言うことになる。こういう関係にありますので非常に複雑だと思いますけれども。

【有川主査】  どうぞ。

【松浦委員】  林先生の御報告の19ページのところで、学術情報流通の専門家がいないという、多分、この種の話はどういうふうにして情報を発信するかのインフラの話なので、そうすると情報の流通専門家、つまり、エディトリアルサービスがちゃんとできるということと、それから、マーケティングですよね。その2つの部分についてどういう手を打つかということはちゃんと計画をつけてやらないことには人はそろわない。だから、例えば化学会のおやりになっている雑誌のところに一定の人を張りつけて、そのノウハウを理解するような、つまり、その専門領域の技術を身につける人たちを計画的に生産するようなことを考えないと駄目なのではないかと思います。

 エディトリアルサービスというのは必ずしも特定の学問領域だけに固有のものではなくて、かなり汎用性の高い技術なので、そこで例えば英語の文献をちゃんと処理をして、エディトリアルサービスを完了するための仕組みをつくって、出た人たちを順次配置していくみたいな、ある種のかつての計画経済みたいな話ですが、その種のことが立ち上がりのときには要るのではないでしょうかね。

【土屋委員】  今更立ち上げても遅いような気はしますが、それとは別に、今のお話に注をつけさせていただくと、あくまでもビジネスですから売手と買手があるので、その買手側の専門家の問題というのはやっぱり考えなければいけないだろうと思います。現状においては、その買手側の専門家というのは図書館にいるはずなのですが、この10年の間に、多分、20年前には図書館の中に外国雑誌に強い人というのは必ずいたわけですが、あくまで個人的印象ですけれども、この10年間、コンソーシアムとかということで、ある意味でコンタクトが非常に集約された結果、専門家の数が大学図書館から逆に減っているという危惧を若干感じるということがあるので、それも併せて考慮しなければいけないだろうと思います。場合によればやっぱり、売手と買手が場所を変えるぐらいの柔軟さがなければいけないのだろうと思います。

 【中村委員】  エディトリアルオフィスのエディター、編集部の人の問題も複雑です。御存じのように英語、ドイツ語圏の人は皆さん雑誌を渡り歩いています。我々が見ていても、こっちのエディターだった人があっちに行ったりしています。日本でも、さっきお話しした、さっきお話しした日本化学会が関与している国際誌の構想を五、六年前に考えたときに、できればエディトリアルオフィスを日本につくりたいなと思ったんですね。ですけれどもやっぱり、英語は完璧、日本語もできて、そして国際性があってビジネス感覚もあってという人を、日本で実際雇うことはできないだろうという結論になりあきらめました。

 Nature Japanだって、外国や日本のいい人を集めているわけです。そうなると日本化学会の給与体系をまず破壊して、五、六人の人を高給で外国から呼んでくる。もちろんロンドンにいる人を呼んでくるとなったら、家族のこともありますから、よっぽど投資しないといけないということになり、これは不可能と言うことになった。これだったら外国の会社にビジネスは任せて、学術的なところだけをアジアでやるしかないかな、ということになったんですね。ですから、英語ができる国際人材で日本語もでき、化学も分かる人なんて日本にはほとんどいないという根本的な大問題に突き当たった。これがさっきの雑誌を外国とやらざるを得なくなったという理由です。

【土屋委員】  要望ですが、是非とも、ですから、外国の出版社がどういう編集をやっていて、どういうビジネスをやっているのかということについての報告というか、かぎ穴からのぞく報告ではなくて本人たちの意見を、ここに呼んできて、しかも、幸い全部公開ですから、言わせてみたいという気がするので、是非とも御配慮いただきたいと思います。

【林課長】  すみません、1点先ほどの議論で補足させていただきたいのですけれども、いわゆる科学者、学術情報流通の未来を決めるのは科学者で、かつ専門家が必要、この議論、実は両方バランスとるのが必要なのですが、科学者をなぜ前面に出したかというと、これは学術会議内の議論なのですけれども、専門家、専門家といったときに先生方から何と言われたかというと、そういう人が育ってしまうと先生方が頼ってしまう。

【土屋委員】  いいじゃない。専門家に頼るって、我々が普通やっていることじゃない。

【林課長】  その依存の構造になったときに、そこのコミュニティが陳腐化するのではないか、そういう御指摘を頂いたこともあってのことではあります。ですので、言いたいのは、相対的なバランスの立ち位置として科学者を前に出していることを一応、補足させていただければ。

 あと、スライドを先ほどから出しっぱなしで恐縮ですけれども、時間の都合上で中村先生に御指摘いただいたアジアの状況も、御覧のとおり実はまとめてはありました。こういう形で土屋先生がおっしゃられたように右上を見ていただくと、アジアの市場が水色で2014年に増えて、それなりのプレゼンスがあるとか、ジャーナル、論文数の伸びぐあいがやはり中国が非常に伸びている中で、アジアの国からの情報発信を強化しようという、日本の10年前の議論が中国と韓国で既に始まっています。

 中国ではもともとインパクトファクター連動型で研究費を配分していましたが、いいかげん国産ジャーナルを何とか強くしましょうという議論、あるいはもう質の低い国産ジャーナルはやめろと上層部が言い切った記事などがNatureに出たりもしています。韓国では、実はジャーナル統合とか、学協会の事務局統合、ビルの中に学協会を集めて統合してやってみるという施策もやったのですが、やはりそういうインフラから始まって研究者がついてこなかったので、余りうまくいかなかったという報告も内々に聞いておりますことも御参考までに紹介させていただきます。

【有川主査】  ありがとうございました。 

 大体時間が来てしまいました。今日は初回だったのですけれども、今期の課題をまとめていただきまして、そして日本化学会の林課長から貴重なプレゼンテーションを頂きました。それで、学協会と、情報発信・流通、そことの関係というのをビジネスも含めて考えますと、もしかしたら学協会の在り方なども考えなければいけない側面があるのではないかということを強く感じました。我々が話題にしています学術情報の発信・流通ということからしますと、必ず考えておかなければいけないことなのではないでしょうか。

 一方では、十分ではないかもしれませんが、国からこういった刊行物、ジャーナルなどを出すための支援ということもやっているわけです。そういったこともありますので、今日は少し大きなところに話が行ったような傾向もあったかもしれませんけれども、深く関係していると私自身は思っております。これから今期の議論の中で、ある一定の方向が見えてくるように持っていければと思っています。

 それから、土屋先生からの御指摘のこともございましたので、多方面からの意見を伺いながら進めていきたいと思っています。その辺につきましては、事務局とも相談しながら決めさせていただきたいと思いますが、人選については一任をさせていただきたいと思います。今日頂きましたことは、多岐にわたっておりますけれども、整理しまして、議事録のようなものができると思いますので、御確認いただきまして、それをベースにまた次の議論をするということにしたいと思っております。

次回以降のことなどにつきまして、事務局からございますか。


事務局より、次回の開催は平成23年4月28日(木曜日)10時から12時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。


―― 了 ――

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