研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第33回) 議事録

1.日時

平成22年5月27日(木曜日)13時30分~15時30分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、加藤委員、倉田委員、土屋委員、羽入委員、山口委員、米澤委員

オブザーバー

緒方横浜市立大学医学部教授

科学官

喜連川科学官

学術調査官

宇陀学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 事務局より資料3「国立国会図書館における学位論文の電子化に係る検討状況について」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【土屋委員】

  私も、学位論文の電子化に関する検討に参加していますが、当初、国立国会図書館では、大学は学位授与者の現状を把握しているという期待を持っていたようですが、そうではないことをようやくご理解いただいたようです。基本的には、共通許諾の枠組みの中で、大学及び国立国会図書館において学位論文を利用することに関しての許諾を求めることは一緒に行いますが、著作権者の所在調査に関しては、国立国会図書館が中心に行うことにシフトしました。

【有川主査】

  各大学において、機関リポジトリでも同じようなことを経験して苦労していたので、この点が一番大きな問題ですね。

【喜連川科学官】

  学位論文と一般図書の電子化では性格が違う気がします。現在の著作権法では、OCR(光学文字認識)までは認められていません。学位論文をより広く利用していただくという意味では、電子化したものを、また別のプロセスでOCRにかけるということは無駄なプロセスだと思います。各著作権者と話すときに、サーチャブル(検索可能)な形まで落とせるのであれば、落としたほうがいいという気がしたので、コメントさせていただく次第です。

【土屋委員】

  おっしゃるとおりですが、一方で、一般書籍に関しても許諾を得て、ある意味でサーチャブルにするという話があります。著作権法の改正により、国立国会図書館が許諾なしに保存のために電子化できるという内容が加わっていますが、その電子化が一体何であるかということについては、法律には書いていまいせん。イメージのスキャンまではいいが、OCRをかけてテキスト化してはいけないということは、解釈上の問題であり、これからどうなるかはよくわからないと思います。

【喜連川科学官】

  文化庁との間で細かな協議の上で法制度化が進んできているという現状がありますので、その辺は少し丁寧なやりとりをしていただくことが良いのではないでしょうか。博士論文と一般の著作物とでは、少しスタンスを変えることに価値があるのではないでしょうか。

【土屋委員】

  国立国会図書館の立場で申し上げるわけではないのですが、今回に関しては非常に時間が限られていて、そこまでは詰め切れなかったと思います。しかしながら、1990年代の学位論文のみを電子化するのであって、それ以外については、国立国会図書館は何も言ってないのが現在の段階です。特に、今後、執筆段階では電子的に出筆されるもので、まだ印刷公表されてないものに関してはまだいろいろ検討すべき事柄はあると思います。学位規則や、その運用に関する大学局長通知などは、文部科学省内である程度処理できる話だと思うので、是非その点に関しては早目に、例えば電子的なものを各大学から国立国会図書館に送るというようなことを共通にできるようにしていくことは必要な気がします。それは文部科学省によろしくお願いしたいと思います。

 

(2)  事務局より資料1「学術情報基盤作業部会(第27回-第32回)で出された主な意見」及び資料2「論点例(第27回配付資料)」に基づき説明が行われた後、大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【有川主査】

  資料1は、基本的にはこれまでの本作業部会で出していただいた意見をまとめていて、資料2は、論点例として挙げてございますが、電子化などについては、以前議論しましたので、ここではそれほど議論されていません。これを元にして、これから議論していただきたいと思います。
  幾つか事項を整理しながら議論した方がいいと思いますが、戦略的な位置付けとして、現在、大学図書館に求められる機能、役割というのは何か。これはヒアリング等を通じてもかなりわかってきましたし、大学関係者は、大学における図書館の使われ方に関する変化なども普段から見ておられるとおりであると思います。そして、現在の機能・役割を踏まえた戦略的な位置付けをどうするか。財政基盤の確立については、かつて議論していた頃に比べると、かなりしっかりしてきているのではないかと思います。

【土屋委員】

  現在、大学図書館に求められる機能、役割は何かというテーマは、平成18年3月に取りまとめた「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(紫本)の中で書かれている大学図書館の基本的な役割に尽きているような気がします。

【有川主査】

  紫本は、18年の報告ですから、その後、急速に進展してきているということが大きな違いだと思います。
  例えば電子ジャーナルに関しても、相当浸透しているという状況があります。また、学生から見た図書館機能についても、ラーニングコモンズのような空間がいろいろなところで用意されていることを含めて、大きく変わってきたと思います。そのようなことに関係した議論はかなりされてきたと思います。また、機関リポジトリの構築により、著作権処理も含めて、明らかにこれまでになかった図書館の仕事も定着してきた。そのようなことを通じて、国際性も含めて、図書館職員の専門性がかなり意識されて、学内外でも理解されるようになってきたという面があると思います。
  また、一方で、現在、ほとんどの大学図書館で、いわゆる導入教育、情報リテラシー教育に図書館職員が携わり、研究成果の発表、公表にも関係しており、教育にも深く関係を持ってきていることなどが大学図書館の一つの大きな特徴になってきているという気もします。

【土屋委員】

  資料1の(1)で考えるならば、できれば2番目、3番目、4番目の丸印のところに強く力点を置く。つまり、何が大きな変化かということを強調したほうがよいと思います。特に、大学の教育研究に関わる学術情報の体系な収集、蓄積という文言に関しては、むしろ書かないということも考えられます。もちろん本を買っていないわけではないですが、電子ジャーナルが浸透したということは、収集、蓄積を行っている実態は大幅に減ってきていると思うので、その辺の変化を強調するようにした方がよいと思います。

【有川主査】

  最近、図書の収集に関して、教員だけに任せておけない面が出てきています。かつては、本は教員が買った後、図書館がそれをきちんと管理するというような面がありましたが、現在は図書館職員が選書にもかなり関わるようになってきていると思います。学生向けの教科書も、体系的に揃えるというようなことは図書館職員がしています。かつては、例えばシリーズで全15巻のものを、1、3、5巻は買うが、残りは希望がないので買っていないというようなことがありました。また、いわゆる教養に関する図書に関して、非常に話題になっているようなものできちんと購入して学生たちが読めるようにしておかなければならない種類の選書などは、図書館職員が行うようになってきた面があると思います。財政的な基盤にも関係しますが、図書館側が選書することも、多くの大学図書館で可能になってきており、その辺は変わってきたと思います。
  むしろ、電子化が進んだ中で、古典的な、本来求められていたような収集ができるようになってきました。かつては、基準を設けても、それを実施する予算がなかった。しかし、実施のための予算を用意されると、一定の基準が必要になり、それに従って収集するようになり始めた。そのような大学図書館が増えてきているのではないかと思います。

【倉田委員】

  土屋委員のおっしゃることを、本当に書くのであれば、もう少し丁寧に説明していただかないといけないのではないでしょうか。極端に言うと、大学図書館は、既にほとんど研究に関する情報の収集、蓄積をしていないというニュアンスで捉えられてしまっては、大学図書館の大学における戦略的位置付けをどう論じていくかの根拠をなくしてしまうことになりかねません。実際に電子ジャーナルにおいて、もはや情報を蓄積はしていないというのはそのとおりで、その変化をあまりにもスルーしてしまっていることの怖さを書いていただけるのであれば、あえてそのような危険な言い方をしていただいてもいいと思いますが、全体的なバランスにおいては、収集、蓄積していないと、大学図書館は何のためにあるのかという話になりかねないので、その書きぶりは気をつけた言い方に是非していただきたいと思います。
  現在、図書館は契約という形でしかないかもしれませんが、アクセスを保証して、そのためのさまざまな調整、交渉はしているので、その役割は意味がないとは思いません。資料1においても、契約はルーチン業務に入っていますが、それでいいのか。また、図書希望調査が専門的な業務で、受入関連業務や書架管理や所蔵データ管理は専門的ではないというのは、アンバランスな感じがします。特に、基本的な役割の中に雑誌編集委員会への参画や、知的財産管理の情報提供、診察・診察データ管理があるというのは、今後そうなっていくべきであるという話なのか、現在の話なのかと言われると、後半は、少なくとも基本的な業務であるという認識を持っている大学図書館は少ないと思います。

【有川主査】

  研究図書の選書も図書館職員がするべきだと思っていまして、そうなりつつあると思います。教員のモビリティーが推奨されているところがあり、同じ教員が長く同じ大学にいないことから、蔵書構築という面から見ると非常にバランスを欠いてしまいます。研究者と図書館職員の性格的な違いもあって、研究図書の収書も図書館職員がこれまでになかったような専門性を発揮していかなければならない時代になっていると思います。また、かつては、助手が潤沢にいて、きちんとしてくれていた面がありますが、現在は非常に少なくなってきていることから、図書館職員の専門性がますます大事になってきていると思います。
  また、1ページ目の下から2つ目の丸ですが、現在やっていることと、これから期待されることを分けたほうがいいと思うのですが、これは緒方先生でしょうか。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  後半は、今後、業務として加わってくることは十分考えられるということでお話しした内容だと思います。前半は、現状で基本的かつ必要な業務として発言した内容だと思います。

【土屋委員】

  倉田委員のお話もわかりますので、敢えてということですが、収集、蓄積、あるいは保存という言葉はおとなし過ぎるという感じがします。
  情報に対するアクセスを保証するということに関しては一貫性があるが、学術情報流通のメディアが大きく変化していく中で、図書館が行うべき仕事が変わってきたことを明確に意識しなさいという論調ならばいいでしょうか。

【山口委員】

  機能と役割について、多様化、多様性を強調するべきだと思います。例えばラーニングコモンズやリポジトリなど、以前と比べて、現在の図書館の役割や機能のあり方、ニーズも多様化しているので、その点を強調して明記するべきだと感じました。
  また、早稲田大学や、一橋大学の発表事例を聞いて、大学の中での図書館のあり方自体も大変多様化しており、大学の強みとして図書館の機能を使えるようになってきていると実感しました。その点も語っておく必要があると思いました。
  今後ますます、サービスの提供の質の向上や、図書のボリュームや質などの点が外から見えやすくなってくると思います。
  6ページの「国際性を有する図書館職員の確保についての検討が必要」ということについては、図書館職員の国際性だけではなく、機能を充実させて外にそれを見せることによって、戦略的な位置付けにも関わってくるのではないでしょうか。したがって、図書館の機能、サービスの充実及び量と質とともに、十分なアクセスを提供できることが大学の競争力の強化につながっていくと位置付けられると思います。

【有川主査】

  国際性に関しては、人だけではなく、いろいろな面があると思うのですが、特に図書館に関しては、ホームページを英語、中国語、ハングル語で書くことは多くの大学で行っています。そのようなことを通じて持っている資料が外からきちんと、どこからでも見られるようにすることはかなり取り組まれているのではないかと思います。大事なご指摘だと思います。

【米澤委員】

  日本と海外の大学では違う部分がたくさんあり、一概には言えないと思いますが、海外の大学図書館の状況を一応紹介して図書館機能のあり方の違いをきちんと書きとめておいたほうがいいという気がします。

【有川主査】

  それは調査もされていると思いますし、いろいろな会議もあります。それぞれ先生方のご経験もあると思いますので、それはどこかで書いていたほうがいいでしょう。

【三宅主査代理】

  メディアセンターや、情報基盤センターなどと図書館との関係が見えにくくなってきています。将来、大学の講義をビデオにするようなとき、図書館にあるいろいろな情報等がうまくリンクされているようなことができていると、学生にとっては非常にメリットが大きいし、対外的にも著作権処理をして、迅速に発信できれば、大学としても宣伝になると思うのですが、現状では、どこの仕事なのかがよくわかりません。図書館の将来の仕事として、戦略的にかつ積極的に考えるべきなのかと考えておりました。

【有川主査】

  非常に大事なことですが、これまであまり議論してこなかったかもしれません。例えばシステムをつくるところまでは情報センター、ITセンターなどで対応できると思うのですが、定常的に業務を、根気よく、かつ丁寧に実施できるのは、私の知る限りでは図書館職員だけです。そのような意味で、九州大学では、教材関係については図書館の中に位置付けた方がいいと言っています。コンテンツは図書館で、システムに関しては情報系に手伝ってもらうことが一番いいのではないかということです。そのようなことが非常にうまくいっていることは、機関リポジトリで証明済みであると私は思っておりますが、どうでしょうか。

【羽入委員】

  平成18年から著しく違ってきていることは、国立大学が法人化後、競争の中にさらされるという状況が生じてきています。これまで様々な大学の図書館の状況を伺い、効率化や、大学の個性を出すことなど、同じような状況にあると考えられます。今回のまとめに当たっては、大学がどう変わってきたかということに着目して、大学の変化の中で図書館がどう位置付けられるのか、その位置付けは変わっているのかということを考える必要があると思いました。
  大学は競争的資金によって、社会と密接なプログラムが成果を出しています。それを収集して、発信することを考えたときに、大学のどこかにそのような機能を持たせなければいけないだろうと思います。それが、図書館なのかは難しいところもあるかと思いますが、有川主査がおっしゃったように、図書館の機能の大きな役割になるのではないかと思っています。

【土屋委員】

  競争的資金ですので、例えば間接経費の一定部分は当然インフラの部分にも使われるべきであると言っても、実際には獲得してきた人に配分すべきであるというような論理が一方ではあって、結果的に図書館や情報などのインフラの方で一生懸命やっているということは非常にアピールしにくい。例えば、審議のまとめにきちんと書くことも最低限必要だと思いますが、競争に関する扱いは上手にさばかないといけないという感じはします。

【羽入委員】

  別に競争ということを特に申し上げようと思ったわけではなく、人も流動化していますし、研究の仕方も非常に動きが激しい。その中で、どこかでその研究成果を蓄積しなければならないという状況はあると思います。

【土屋委員】

  全体として法人化以降、国立大学の図書館は、一部の大学は別として、弱体化しているという印象が非常に強いです。環境は決してよいと思ってない方は非常に多いと思うので、その辺の認識ははっきりさせないといけないのではないでしょうか。

【有川主査】

  法人化を契機にして劇的に変わってしまったと思っております。九州大学は図書館をますます重要視していますが、それが良かったのかは、これからその結果が出ると思っております。そのような点では、国立大学がわかりやすいのですが、法人化した平成16年前後でどう変化したかを、データとして持ちながら、まとめていった方がいいでしょう。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  図書館に投入させる財政基盤に関しては、大学格差が非常に大きいと思います。例えば本学では、おそらく他の主要な国立大学と比べてもずっと少ない予算規模での図書館運営が現在でも続いています。具体的には、例えば診療を行うために必須と考えられる雑誌からの学術情報のうち大体3割が見られない状態であることが、アンケート結果から明らかになっています。しかし、そのようなことを大学の上層部に訴えてもなかなか理解が得られません。
  このように、大学図書館全体として現状でまだどのような課題が残っているのかを示していくことが非常に重要だと思います。例えば電子ジャーナルにしても、購読費用の点で以前から問題が指摘されてきましたが、高騰はまだ依然として続いています。それに対して、現在、おそらく事務系主導で国公私立が一体となって強固なコンソーシアムをつくって、交渉に臨む方向で、準備段階にあると思います。
  また、洋雑誌にばかり目がいきがちですが、一方で和雑誌に関しては電子化されていないものも多く存在します。しかしながら、例えば医療系では診療活動のために特に和雑誌を利用することが非常に多い。しかし自然科学や文系の分野を含めて、和雑誌に関する電子化が依然として遅れているということが言えると思います。各論的で恐縮ですが、看護系の雑誌に関する電子化は、際立って遅れていると思います。理由を推察するに、これまで看護系の大学院があまり設置されていなかった。それが最近、急速に看護系の大学院が全国で設置されてきています。それに応じてニーズも生じていて、本学でも、冊子体のコピーの依頼(ILL)が非常に多くきています。特にそのような社会状況の変化に応じて、まだ達成されてないことを早急に行っていかなければいけないという点があるかと思います。
  これも各論的になりますが、ここ数年で、医学部定員が相当増えてきています。それに応じて、当然インフラは整備しなければいけない。教務関係のインフラはすぐに大学でも対応してくれますが、図書館については、認識が非常に低い気がします。図書館においても学生の利用者が増えれば、当然スペースが足りなくなるような状況が起きますが、本学では対応がまだできていません。現在、刻々と動いている情勢に合わせて、不十分なところを発信していく必要があるのではないでしょうか。

【有川主査】

  看護の問題というのは、数年前に土屋委員が調べたものがありました。ILL関係で圧倒的に看護関係が多いというデータがあって、それは結局電子化がされてないことと、看護系大学・大学院が最近急に増えたということだったと思います。

【喜連川科学官】

  最終的な報告を何に落とし込むのかということがポイントだと思うのですが、緒方先生のおっしゃられましたようなエモーショナルな表現では伝わらないと思います。5年たてばコンピューターの性能は10倍違いますから、ITの感覚から申し上げますと、世界は天と地ほど違う感じです。何がどう変わっていったかということの定量的な資料、図表を整え、その環境の何が変わっているのか、それにどう適応しなければいけないかということを整理していただくことが重要ですが、紫本は図も数値もほとんどない。これでは訴えが希薄に感じます。
  また、米澤委員のおっしゃるとおり、海外と日本はどう違うのかを言う必要があると思います。アメリカは、いわゆるコンピュータ・サイエンスではなく、インフォメーション・サイエンスの人が、周辺領域にどんどん流動しているということがいろいろ言われているので、その辺をどう考えるのか。外から見たときの日本の位置付けという視点でまとめる必要があるだろうと思います。
  また、大学の戦略としての情報アクセスの基盤というものと、日本全体としての学術情報基盤をどうしてゆくべきかということを少し分けて議論した方が訴えるところは大きいという気がいたします。大学が個別に行っていくものに関しては、いろいろな特徴あるものをもっとエビデンスとして出していただくことがいいのではないでしょうか。例えば昨年度から一部の大学で司書講習がeラーニングで受講できるようになった。バーンズ&ノーブル(米国の大手書店)が電子ブックを発売しているが、共存共栄している。いろんなエビデンスを出すことでその訴えが強くなる。そのようなまとめ方も必要だと思います。

【有川主査】

  その辺は、これまで議論していなかったところで、どちらかというと、古典的な感覚で議論してきていたと思います。そのような意味では、現状が理解できていますので、これから、今、ご指摘のような国際的な比較や、これまで急激に変わってきていることを示し、また、その予測もしていくために、データやグラフなどを使うというようなことをしていかなければならないと思います。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  急速なニーズの増加にもかかわらず、和雑誌の電子化の割合が低いこと、看護系雑誌の複写依頼が突出して多いこと、などは統計で示せますし、診療に必要な未購読学術雑誌の割合などは、本学でのアンケートはとっております。

【喜連川科学官】

  エモーショナルと言いましたのは、情報発信をしたときに、その表現が読者にとって感情的になりやすい。例えば、「すごく増えている」とか、「とても危機的な状況にある」という表現を使ったときに、読み手にとってどう捉えられるかというのが個々によって全然違ってきますので、客観的な数値をなるべく入れるようにしたほうがいいのではないかと申し上げたかった次第です。客観的な数値がないのであれば、可観測にしなければいけない。それが一番大きな問題です。

【有川主査】

  データやグラフなどによる比較を示しながら書いていきましょうということですね。また、和雑誌関係については、以前から、日本に多くある非常に小さな学会が印刷物で発行するという問題があります。一方で、現状においては、手書きで原稿を出して、印刷業者が活字を組んで校正するというようなところはおそらくないので、そのような意味では、もともとデジタルなはずです。したがって、意識の持ち方で変わるはずですが、依然として変わらないのが不思議でならないのです。

【土屋委員】

  それは、当事者にとって、別に変わる必要がないので、変わらないということ以上のものではないでしょうか。特に看護系の雑誌は、実は発行部数は巨大で、個人会員に配っているだけで十分済んでしまう。また、診療科はたくさんありますが、会員は数万人であったりします。そこで、研究論文集を出すのは、ほとんど研究をしている人に対するご褒美のようなもので、非常に大きな予算規模の中で非常にわずかしか占めていない。しかも、既に印刷して配付するワークフローはできていて、費用が確保されていれば、無理して電子化しなくてもいいという話になる。大学教育の中に看護系のものが入ってきて、文献需要が生じているという事実はありますが、結局、会員に配付するしかないので、大学にはなかなかこない。したがって、大学の図書館から見ると、随分依頼がたくさん来ますが、意外と行き渡っていて、無理して電子化しなくてもよいと思っている人が多そうな感じではあります。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  看護系も学会に相当する学術団体は多くありますが、それぞれの看護師が全ての団体に属していることはあり得ないので、そのうちの一部の情報しか入ってこない。いずれにしても、多くの複写依頼が現在きていますので、その対応として電子化は非常に重要になってくると思います。
  電子化の優先順位ですが、例えば文系はともかく、自然科学系や、特に医学系に関しては、1990年から2000年までの学位論文を電子化したところで、どれだけの人が利用するのかという問題はあると思います。それよりも、和雑誌や、書籍を電子化した方がはるかにニーズは高いのではないでしょうか。いずれは全てのものが電子化していくでしょうが、現状でのニーズに対応するためにも、電子化の優先順位を的確につけていく必要があると思います。

【喜連川科学官】

  この間、長尾館長が興味深いことをご披露されたと伺っております。情報系、工学系、技術系の場合にジャーナルという論文誌になったものと研究会のものとを国立国会図書館のアクセス統計で比べると、電子情報通信学会の研究会資料へのアクセスが非常に多くて、ナンバーワンだそうです。これは、数値エビデンスでとらないと、どこにニーズがあるのかわかりませんが、海外が日本の動きを見ようとして、アクセスをしているのかもしれないし、あるいは日本の企業が特許の微妙な立ち位置の解析のためにアクセスしているのかもわからないなど、いろんな理由があると思います。研究会のような、むしろ書いて終わりのような資料のアクセスが膨大にあるということが、まずポイントとしてある。
  前に戻ってしまいますが、有川主査がおっしゃられた、なぜ電子化されないのかということと、土屋委員がおっしゃられた、電子化しなくても幸せだから変化しないでいいということは、「教育」の環境が、競争原理にさらされていないところが大きなポイントだという気がします。中小企業の場合では、いわゆるマルチテナントといって、小さいところが集まっていかに削減するかという厳しい原理の中で切磋琢磨しています。したがって、学術基盤として、小さな学会でも、やや予算が少ない学問分野でも、簡単に電子出版ができるような基盤をつくるということを結論として出すということがあっても、国を強くするという意味でいいことではないかと感じます。

【土屋委員】

  特に国立大学に関しては、かつては、文部科学省には予算枠があったのですが、それはほとんど運営費交付金の中に入って、各大学に交付済みの状態になっています。したがって、例えば本作業部会で政策提言しても、理念としては高く評価されるかもしれませんが、各大学における図書館の位置付けというものをどう考えるかという観点から見たときには、もう少し泥臭くてもいいかなという感じはします。

【有川主査】

  現在、図書館に焦点を当てていますが、この作業部会は、学術情報基盤を扱っています。また、親委員会は研究環境基盤部会であり、科学技術・学術審議会の学術分科会です。そのようなことでは、学術情報の発信流通のあり方に関する提言が入っても別におかしくはないと思います。

【喜連川科学官】

  私も、学術情報基盤ということでご発言をさせていただいたつもりですが、原則一番何が重要かというと、どう変化に追従するかということしかないと思います。既存のセグメントをどう維持するかという議論をしても、日本は勝てないと思います。変化する、その次の一手をどう考えるかというのが、国益をどう維持するかということの一番大きなスタンスになると思います。

【有川主査】

  明らかにメディアが変わる、電子化されるというようなことだけではなく、本を読むということでも、文庫本で読んでいたものが、iPadの急速な普及や、グーグルなどにより、大きく変わってくると思います。その辺も意識しないといけないと思います。我々は、しばらくの間、図書館の議論をしてきましたが、その中で議論してなかったこととして、今、まさに議論になっている学術情報基盤というようなことがあるので、図書館のことについては一応の決着をつけて、そのような議論まで踏み込んで、それも含めて全体のまとめをしていくということになっていくのではないかと思います。
  戦略的な位置付けについては少し議論できましたが、その他のことについて意見がありましたら、伺った上で、今、出てきた意見について議論するということで、いかがでしょうか。資料1は出された意見ですので、これを全体として整合するような格好にまとめていくことになるかと思います。ざっと見ていただいたと思いますが、それぞれの委員の方々の意見が少し丸めた格好になって表現されていると思いますので、そのチェックはしておいていただければと思います。

【土屋委員】

  大学、大学図書館が大きな変化の中に追従していくときに、方向性を出すという意味でどのような調整が要るかという問題は論じないといけないと思います。例えば、既存の図書館セグメントをどうするかについては、どうすれば上手にきれいに解体できるかということを議論としてはしなければならないのではないでしょうか。例えば、既存の図書館セグメントのあり方では駄目で、機能を別のところに持っていく方が大学の教育研究として全体としてうまくいくということもあり得ると思います。したがって、各大学における大学図書館の組織・運営体制の在り方はどうあるべきか、大学図書館の事務組織の在り方はどうあるべきかという問題設定では、大学の中に図書館という一つの固まりを無批判に想定した上で、それをどう変えるかという話にしかならない形になっていると思うので、果たしてそのような問題設定でよいのかということを議論していただきたいと思います。

【喜連川科学官】

  例えば海外では、物理や数学などの学部が完全にバニュシュ(無くなる)しているところがあります。これは大学の判断によって、基本学問としてデリバラブル(成果物)を出すことができないものは、原則バイアウトしてしまうという考えだと思います。日本だけがある意味で非常に均一な教育体系を総合大学が各所に持っていて、これほど特徴づけが進んでない国というのは少ないと思います。図書館機能がその大学にとってコンピテンス(適性)でない場合には原則バイアウトすればいい。しかしながら、基本的機能は必要で、それは学術基盤として国がサポートする。付加的な部分は大学の判断で構わない。つまり、その大学にとってコアコンピタンスは何かというつらい質問に直面せざるを得ず、そのときに、研究としてコンピテンスを出せる大学がたくさんあるわけではないことも事実で、何によって大学が存在感を出すかということを本質的に議論していかなくてはいけない時代になっている。その中で、図書館も例外ではなく、もっと根本から議論し直さなければいけない時代に来ているという気がします。

【有川主査】

  図書館に関する位置付けは大分変わってきています。例えば、慶應や横浜市立大学の図書館がメディアセンターや情報センターという名称になったのも、図書館に対する大学の捉え方であると思います。かなり古い段階から情報、ITと図書館を一緒にすることを試行的に行ったことはあったのですが、その時代と現在ではかなり変わってきています。
  国立大学でも、図書館の扱い方というのはかなり変わってきており、それぞれの大学の事情によりますが、図書館を教育、研究、学習や、社会とのつながり、外国人の学生たちとの関係の中でどう位置づけていくかということに関しては、それぞれの大学の方針によるところが極めて大きい。国立としての基準には、図書館に関してはなくなってしまっていて、大学を設置するときの基準が残っているということでしたでしょうか。

【土屋委員】

  大学設置基準にはありますが、国立学校設置法からは消えました。

【有川主査】

  基準等については、ここで議論することではないと思いますが、一方で、図書館の重要性は増してきているので、その辺をどう考えていくか。新しい図書館に期待される機能、役割については、本作業部会でも様々な形で出てきたと思っています。

【三宅主査代理】

  「図書館のサービス機能の強化」に書かれていることは、図書館職員というよりは、学習環境デザイナーというような新しい職種が求められていて、とてもチャレンジングなおもしろい職場になりつつあるようなものが見えています。しかし、このような能力が理想と言わざるを得ないのではないかという感じで書いてあって、提言としては、これから求められる職員は、一人ではなく、このような資質を持っている集団が必要ということで何か提言が出せるのであれば、その方が力強い。それをどう育成すればいいのかという話にも繋げやすいと思いました。

【有川主査】

  今、まさにおっしゃったような、新しい方向も出てきていて、そのようなことを実現しようとしている大学もあります。

【土屋委員】

  どの方向へ持っていくかということに関しては、新しい大学の教育、研究のためには、新しい仕事があるので、そこに何かつけなければならない。したがって、一つの考え方として、現在の図書館をやめて、その図書館枠を使ってそれを進行すべきという話にするのか、現在の図書館職員がその仕事をすべきだという話にするのか、その辺を具体的に言わざるを得ないのではないかという感じがします。
  または、そのオプションを示すことでもいいですが、図書館があれもこれもすべきであると言われても、それは無理な話なので、それだけのことをするのであれば、図書館の現在の仕事の何をやめるかということもはっきりさせないといけないと思います。

【有川主査】

  先ほどから繰り返していますが、人的資源がない中で、情報化に対応するため多くの大学が図書館職員を相当削って、そこに振り向けています。国として、図書館をなくして、別のことをすべきであるということではないし、また、時間的にも、我々の委員の構成も含めて考えると、そこまでは踏み込めないと思います。

【喜連川科学官】

  私も有川主査のご意見に大変賛成でして、原則は事実を丁寧にお伝えする。それによってどう反応するかは、それぞれのステークホルダーがお考えになる。例えば著作権について、韓国は、現在、フェアユース(公正利用)を導入していますが、本当にそれでいいのかどうかはよくわからないと思います。それと同じように、拙速に国が動くことをここで決めるということではなく、国としては、今の世界の趨勢など信頼感のある情報を提供し、それに対してどうするかをしっかりとお考えくださいというメッセージを出すことで良いのではないかと感じています。

【山口委員】

  前期の本作業部会において、コンピュータ・ネットワークについて、かなり丁寧にその取り巻く環境の変化に関して調査・議論を行ったと思います。図書館の在り方を議論するときに、図書館を取り巻く環境が変わってきていることを多方面からきちんと整理した上で、図書館の機能をもつ様になることを理解する必要があるかと思います。様々なオプション、そしてそれが各大学の図書館に対する考え方にどの様に関わってくるかという議論でまとめるのがよろしいのではないかと思います。
  紫本では、コンピュータ・ネットワークについては、米国、欧州、アジア・太平洋における動向もまとめていますので、図書館についても簡単にその動向をまとめた上で、背景情報として位置づけるのがよろしいかと思います。

【有川主査】

  これからのまとめ方に対する方向も示していただいたと思っておりますが、図書館に関してのエビデンス、データとしては、学術情報基盤実態調査がありますので、それは当然使えます。また、国際的なことを睨みながら、それぞれの大学で図書館の運営も劇的に変わってきていますので、そのような例も挙げられます。今回、非常に多くの図書館の方々に来ていただき、話を聞かせていただいたことを通じて、実にさまざまな側面があるということはわかってきたと思います。
  なお、ネットワークと違って、歴史が非常に古いという面がありますので、紫本では、定性的な書きぶりになってしまったと思います。

【三宅主査代理】

  海外の現状については、今後の方向性についても情報が収集できるのであればいいと思います。世界の方向性も示せるのであれば、それを示した方が、日本はどうすべきなのかということを決めるときに絶対有利だという気がします。

【有川主査】

  非常に大きな作業量になると思います。倉田先生は、常に世界の動向などを把握していらっしゃると思いますが、何かございますか。

【倉田委員】

  私も全部を把握してはいませんが、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、主要な大学図書館が抱えている課題は、今やグローバルな話な環境の中で共通な点も多いと思います。他方で、全体の目標は大学の規模や歴史によって大きく左右されます。アメリカなどは大学の数もタイプも全然異なりますので、研究を推進している大学と非常に小規模な教育が中心の大学とでは、大学図書館の向かう方向も違います。米国全体でどう考えているかということに関して、例えば研究大学図書館の図書館長や出版社などにより、今後の大学図書館の在り方に関する提言などは幾つか出ていますが、そこに書かれているのは、抽象的なレベルの話にならざるを得ません。今後、例えばこの5年間で具体的にどのような政策をとるかということに関して、個別の大学図書館の実態を調べるには相当大変な作業になってしまうし、それをもって、すべてを示せるかと言われれば、かなり難しいと思います。

【有川主査】

  時間になりましたので、よろしいでしょうか。審議は、まとまった形が見えてくるとかなり強烈な意見が出てくることがあるのですが、それも含めて非常に大事なことだと思いますので、次回、次々回に、図書館についてまず少し整理をして、電子化への対応などこれまで議論しなかったことも含めて、図書館のことを考えていく上で非常に大事なことについて少し深く議論し、また、データの比較、国際的な比較も可能な限り紹介しながら議論するということでどうでしょうか。

 

(3) 事務局より、次回の開催は平成22年6月25日(金曜日)16時00分から18時00分を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

 

――了――

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

井上、首東、新妻
電話番号:03-6734-4080
ファクシミリ番号:03-6734-4077

(研究振興局情報課学術基盤整備室)