研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第32回) 議事録

1.日時

平成22年4月22日(木曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、羽入委員、山口委員、米澤委員

オブザーバー

緒方横浜市立大学医学部教授、吉田九州大学附属図書館副館長

科学官

喜連川科学官

学術調査官

宇陀学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 加藤委員より資料1「大学図書館員-役割の変化」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【加藤委員】

  大学図書館員の位置付けについて、私立大学を例にとりながら、私の専門でもある法科大学院との関連においても少しお話をさせていただきます。なお、本日、早稲田大学図書館事務部長で、ヘッドライブラリアンでもある中元部長も陪席させております。中元部長は図書館の現場を統括している立場にもありますので、後ほどの質疑応答の際に、適宜、発言をさせていただくことをお許しいただきたいと存じます。
  まず、早稲田大学図書館のおおよその現状をお話させていただきます。早稲田大学は、2009年度、学生数が約5万7,000名、専任教職員は約3,000名、そのうち教員を除く専任職員が800名ほどです。また、職員数に嘱託など200名を含みますと約1,000名になります。
  図書館は、年間入館者数が212万人。卒業生も利用できますが、単純計算では学生の年間の利用回数は年間35回程度ではないかと思います。人件費、施設費等の管理経費を別にした図書館の総資料費は約12億円、大学総予算1,000億円超で、大学総予算に占める図書資料経費の割合は約1%程度です。
  1882年の東京専門学校の開設と同時に図書館は設置がされております。現在、学内図書館の施設総数は、26館です。その内訳は、中央図書館、キャンパスごとの図書館が4館。また、各学部を中心として、学生読書室が7館。教員と大学院生が利用できる教員図書室が5館。その他、9館です。
  図書館の組織の歴史的な経緯を1980年代から今日に至るまでご紹介をさせていただきたいと思います。早稲田大学の特徴として、1980年代あたりまでは、伝統的に中央図書館には直轄の図書館のほかに、各箇所の附属図書館、例えば、各学部の教員図書室、学生読書室のように、各箇所で機能的には完結をしており、それを間接的に中央図書館が統括をする形態をとってまいりました。したがって、図書館員が各箇所に配属され、専任の図書館職員は145名を擁していました。今日から見ると、いろいろ問題はあったのかもしれませんが、学内では、非常にきめ細かなサービスの提供ができていたという評価が一般的であったと考えます。
  80年代の早稲田大学図書館への要請として、2つの大きな転機がございました。一つは機械化、もう一つは新中央図書館(現在の中央図書館)の竣工です。80年代末ごろには、各箇所の独立性や、機能上の完結性が、逆に予算の非効率化を招いたという批判もありました。また、当時の情報化の波は、カード目録のデータベース化により、統一的なシステム化の方向に逐次動いていきました。あわせて1991年に新しい中央図書館が落成したのを契機として、現在機能している全学統一データベース「WINE」へ移行する時代に入ってまいります。また、従来、閉架式であったものを、新図書館では開架式に変更し、図書館と利用者との接点である図書の貸出・返却業務に変化が見られるようになります。これが図書館職員の業務の内容をも質的に変化をさせる一つの大きな転機になったと考えます。
  90年代の図書館組織において、一番大きな質的な変化は、目録作成の業務が手作業から機械化したことです。目録作成業務が図書館員のもっぱら経験などに依存していた時期から、機械化によってある程度業務が標準化をされるようになってきました。データの作成自体については本質的に業務の中身は変わっていないのですが、その手法が変わってきたことによって、その業務自体が変化をしてきた。さらには、機械化によって図書館員の業務の標準化が実現された時代が90年代になると思います。さらに、90年代の図書館への要請は、情報化とサービス時間の拡大がございました。このような情報化、あるいは図書館のサービス時間の拡大という過程にあっても、図書館員の有している経験や学識の重要性に変わりはなかったものと考えておりますが、加速した情報化の流れの中で、分野によっては、利用者自身が直接に学術情報にアクセスをする「中抜き」の状態が起きてくるという状況もあって、図書館員自身がスキルアップする必要性が強く感じられるようになってきました。また、当時の図書館は、非常に聖域化された専門家が集まった場所という言われ方をしたことがよくありましたが、図書館の開館時間の拡大を契機として、次第に予算の効率的な執行と、サービスのあり方に傾きつつあったというのが、90年代の大きな特徴ではないかと考えております。
  2000年代に入り、予算の効率的な執行として、図書の発注、受入、目録業務を中央図書館に集中させる組織の統廃合が代表的な改革であったと思います。各箇所の図書館が完結性を持っていたものを、できる限り中央図書館のほうで統一的な発注、受入、目録の作成等を行う組織に変えていきました。さらに、情報化、予算の効率的な執行という流れの中で、大学図書館の役割と、図書館業務を支える職員の役割の分析を行ってまいりました。とりわけ、この2000年代初頭、教員の採用を活性化させる一方で、職員の採用を抑制する財政・人事政策の下で、限りある人的リソースをどのように図書館サービスの充実に当てるかという方向性があったように思います。これが、戦略的外部委託ということになりますが、すなわち、積極的に外部委託をすることによって、日曜開館や、開館時間の延長など、多様なサービスを展開できるといった意味での戦略性です。
  図書館サービスの拡大について、戦略的な外部委託によって拡充したサービスの例として、開館時間を、21時から22時に延長し、開館日数を2000年当時、年間303日を2008年度は314日に拡大しています。今後も、開館日をできるだけ多くしたいと考えております。また、学生読書室の開館日、開館時間の拡充と統一も開館時間の延長を中心としたサービスの拡充の一環です。さらに、学内のいろいろな箇所の図書室で借りた図書を、どの図書室でも返却することができるサービスが、外部委託によって拡充されたサービスと言うことができると思います。
  最近の図書館の学内での位置付けについて、中央図書館が各箇所の図書館、学生読書室を統括して、図書館業務の中心的な役割を担うという組織になっています。また、学術院は、学部、大学院、研究所、独立大学院が、専門分野ごとに統合された組織で、各学術院には学術院長が選任をされており、その学術院長が、学部、大学院、研究所、独立大学院をも含めて組織全体を統括しております。そして、大学全体の最高意思決定機関を理事会とともに構成しています。図書館長もこのメンバーの1人です。
  早稲田大学図書館の統括業務は、60名ほどの職員で行われております。各キャンパス図書館に課長を配し、その下で専任職員、外部委託職員によって日常的な業務を行っております。その年代の内訳は、若い層の図書館員が少なく、図書館を担う若手職員の育成、養成の問題があります。専任職員は、もちろん図書館の専門的・中核的業務を担いますが、外部委託の戦略性があるとしても、特に高年齢化に対応した若手職員の育成が十分であるかどうかは大学の人事政策との絡みから大変難しい問題でもあります。今後も、一層この辺を強く意識した図書館としての政策を大学本部に対して理解をしてもらう必要を強く感じています。
  ARLの調査によるアメリカの図書館員の傾向として、1985年から2005年の間に、伝統的な職種である目録担当者、利用サービス担当者及び整理担当者はそれぞれ30%、45%、47%減少している状況です。他方で、レファレンス担当者や主題専門家(サブジェクト・スペシャリスト)はそれぞれ42%、51%増加しており、最も顕著な増加を示したのが、主題専門家を除く職能専門家(ファンクション・スペシャリスト)と言われる職種です。3倍以上に急増し、このまま増加をすればARL図書館においてレファレンス担当者を抜いて最大の職種になると予測をされています。つまり、図書館が求める人材やスキルについても、アメリカにあっては変化が生じていることが職能専門家の内訳からもおわかりいただけるだろうと思います。
  アメリカの現状から日本に改めて目を転じてみますと、大学図書館員の大学における位置付けをどう考えるかという問題があります。大学図書館員の専門性とは何かという点について、過去の議論をご紹介させていただきたいと思います。かつて1990年代、2000年代の初めの、ライブラリーの総務課長が記した一文です。おそらく彼がこれを書いた当時は、司書職採用が早稲田で廃止になった時期でもあります。一般職採用に統一化された当時に、その後の図書館員のあり方といったものを謙抑的に記したものと思われますが、この中で注目しなければならないのは、「高い専門性を有する図書館職員の育成は、長期的な展望のもとで持続的育成が必要である」という指摘です。それは、若い年代層でできるだけ優秀な図書館員を育てるという方向性はなお大事なことを、時間が要するだけに改めて感じるところです。
  早稲田大学における図書館職員と大学職員との関係は、大学職員の要員政策、人事政策との関係から、特に大学職員の職務分析と適切な要員配置が、大学の審議会の中で随分議論をされ、その結果として、人事採用の一本化という制度が1990年にでき上がりました。90年までは司書職採用の制度がありましたが、それ以後は一般職化され、廃止されました。現在では、事務系一般職で採用された職員が図書館へ配属されます。これまで図書館で育ってきた職員も、図書館から図書館の外へさまざまなポストを与えられています。他方で、事務職から司書職への職種変更の制度がございます。これは本人の希望を前提にして、当該担当の上司の承認を得て、図書館に司書として配属されるという制度で、90年以降で現在まで2名おります。また、大学全体の方向性として、特に中途採用が最近増えています。この中途採用者の中に、例えば図書館のスペシャリストも入ってくる可能性があり、今後、中途採用者も含めて、適切な能力を持っている方に、図書館に来ていただくことも考えられます。
  育成を図るべき中核的業務について、伝統的には、蔵書を知ることから始まり、今日的には、学習支援、図書館資料を高度に組織し提供、国際性などの図書館員が身につけるべき課題があります。とりわけ、国際性について、留学生の増加が、早稲田大学のみならず多くの大学で目を見張るものがございます。早稲田大学を例にとりますと、2009年度で全学3,264名の大学院生を含む留学生がいます。目標が8,000人ですので、今後、年々増加の一途をたどることになると思います。留学生に図書館がどのように対応すべきか。これは言葉の問題も含めて、図書館員の、利用者のニーズに的確に対応する能力がこれから試されると考えられます。
  サブジェクト・ライブラリアンについて申し上げますが、図書館員の一つの仕事がサブジェクト・ライブラリアン的な機能、役割があるとすれば、図書館員としての資格をきちんと確立しておく必要があるのではないかと考えます。この問題は大変難しい問題で、司書資格全体とそれ以外の諸々の問題にも関わってきますが、個人的な考え方から言えば、図書館全般の運営の責任を負う立場としての図書館員の役割を将来的には明確にしておく必要があると強く感じます。
  法科大学院における図書館の役割、図書館員の一つの将来的な役割の例についてですが、法科大学院には必修科目として法情報調査があり、これは、全国の84法科大学院、で必修化をされています。司法制度改革審議会の中の法科大学院構想に関する検討会が設置された98年当時、私は、12名の委員の1人として検討会にメンバーとして加わっておりました。特に法科大学院は理論と実務の架橋的教育を目的としておりますので、そこでの教育は法実践としての色合いが大変強く出ます。その議論の際に、将来、法曹として育っていくに当たって、論文検索、判例検索、問題解決のために必要な資質として法に関わる情報の探索が重要であるということを議論し、それが必修化につながりました。ここで強調したいのは、各大学のシラバスにおいて、この授業にライブラリアンが関わっているという特徴が見受けられます。もちろん、アメリカでライブラリアンシップを取得した者や、日本で法学系の修士課程を修了した者など多様な法的な学識を有している人々が関わっています。今後、専門職大学院が、さらに増える可能性があることを考えると、このロースクールにおけるライブラリアンたちが図書館のマネジメントにまで様々な形でのスキルを有する可能性があります。これは、他の分野にも応用できるのではないかと考えています。
  最後に、育成を図るべき今日的な図書館サイドの課題として、サービス対象者のニーズを的確に把握できるかどうか。また、学内における教育研究支援を具体化した学習研究支援を今以上に積極的に行えるか。電子、紙等の媒体を問わず資料の高度化に的確に対応し、これを提供する新しいスキルが図書館員に求められていると考えています。

  以上でございます。

【羽入委員】

  司書職の採用を90年で停止したことによる問題はあったのでしょうか。それと関連して、図書館と図書館外の相互の人材の流動化が行われている中で、図書館職員全体の何%が流動的なのかを教えていただけますでしょうか。

【加藤委員】

  司書職制が廃止されることになった後、学部の教員図書室や学生読書室にいた従来の専任の図書館のスタッフの次の世代の人たちが来なくなるということで、非常に批判的な意見が教員の中には多くありました。これは、時間をかけて説得をし、教員もサービスの低下が起こらないことを前提にして、制度の変更を認めました。そして、一般職の司書職変更も認めたという経緯がありました。いずれにしても、当時かなり多く議論があったことは確かでした。後者の点については中元部長からお願いします。

【中元早稲田大学図書館事務部長】

  91年から司書職採用がなくなりましたが、それまで司書職として採用された者はそのまま司書職として在籍をしているので、割合としては、新しく図書館職員になる者が司書職でなくなっていったということです。91年以降の採用職員で図書館に配属をされている者は40代前半程度までになりますので、40代、50代の者はほとんどが現在も司書職です。それ以外の、比較的若手の者は一般職です。もちろん、40代、50代の中にも、事務系の職場から異動してくる者もおりますので、約半分強が司書職ということで差し支えないと思います。
  また、なぜ司書職採用を廃止したのかということについて、その当時の議論として、職種の流動化を図ることが大きな目的だったのですが、法人の人事部門からは、図書館職員の「蛸壺」的な文化について非常に強く言われたことを記憶しております。「蛸壺」が何を意味するのかということは、いろいろな捉え方があるかと思いますが、確かにそういう面もあるだろうと思います。

【有川主査】

  10年程前はそのような感じでしたが、最近では、図書館職員が一番進んでいるという言い方をしてもいい程変わってきたと思っています。それは、様々な事業を展開して、外部との接触が多いこともあったと思うのですが、一方でIT関係など、「蛸壺」の中に入っているわけにいかない要因がどんどん出てきました。また、専門性を意識した、かなり高度な人材が次々に入ってくるようになったこともあると思います。

【山口委員】

  図書館員の専門性について質問させていただきたいと思います。図書館員=専門職は誤解との認識で、人事異動が行われてきたということと、現在の傾向として、例えば法科大学院における図書館の役割は、法律の分野での専門性を持った図書館員が必要であるということは、アメリカで現在、ファンクショナルスペシャリストが増加している傾向と似ているという理解でよろしいでしょうか。また、今後も各分野でのスペシャリスト、たとえば司書としての専門性、技能を持った人材の育成が必要だというメッセージとして受け取ってよろしいのでしょうか。

【加藤委員】

  大変難しい問題です。私の頭の中にある図書館員の理想は、専門性を持っていると同時に、図書館全体としてのマネジメント業務もできるバランスのとれた職員像でもあります。従来、二者択一的な言われ方をされますが、それは少し違うのではないかと思います。例えば、法科大学院のライブラリアンは、法律学分野における専門性がある、非常に質の高い人がたくさん来ています。しかし、今後、様々な専門職大学院が徐々に大学に占める位置付けが高くなってくると、おそらくそこに関わる図書館員の役割は、それぞれの専門性と同時に、マネジメント能力など、さまざまな形の能力が求められてくるという感じがします。

【植松委員】

  教育学部や法学部というフィールドを出てきて図書館情報学系の大学院に入ってくる人は少なくありませんので、そのような背景を持ったライブラリアンはこれからも輩出されていく可能性は高いと思うのですが、そのような人たちは法律図書館などで、その分野のライブラリアンとして続けることを希望して、マネジャーにはなりたがらないということが起こりがちであることが、先ほどの「蛸壺」的ということだと思います。

【中元早稲田大学図書館事務部長】

  主題的な知識に特化したところでスペシャリストを育成していくという考え方は確かにあると思いますが、例えば非常に法律に明るい職員を擁することができた環境的な要素としては、例えば法学部なら法学部、政治経済学部なら政治経済学部など教育研究の現場に密着した分散的な図書館に専任職員を配置することによって、教育研究の現場からモチベーションを喚起され、本人も勉強する環境の中で、経験値が蓄積をされていった。外から見るとスペシャリスなのかもしれませんが、その方々は日常的に主にどのような仕事をしていたのかというと、もちろん、法律の勉強をするばかりではありません。
  かつては目録業務が図書館職員の業務のかなりの部分を占めた時代が長く続きました。分散的に配置していた専任職員も、日常的な業務の半分以上、或いは3分の2は、それぞれ部局図書館で受け入れる資料の目録作成が占めていました。年配の図書館職員の話を聞いても、目録業務は昔の大学図書館職員の花形業務でしたが、現在は、必ずしもそうは受けとめられません。新しい環境の中で、専門的な知識、主題的な知識に対するモチベーションを現場の職員がどう持つことができるのか、そのようなインセンティブをどうつくるのかということになります。
  早稲田大学が今取り組んでいますのは、やはり教育研究の現場にもう一度立ち返る必要を感じて、例えば、アカデミックリエゾンという呼び方をしておりますが、現在60人の図書館職員の半分以上を割くことにしました。これらの人たちに何を期待するかというと、現場の若手研究者、学生、もちろん教員もそうですが、フェース・トゥー・フェースで日常的な業務を遂行していく。また、現実に教室でどんなことが行われているのかきちんと見てくることも始めています。
  シラバスが義務付けられてから相当時間が経っておりますが、図書館として組織的にシラバスを読み込むという作業を業務としていないことを反省して、今年の課題としては、皆でとにかくシラバスを読むことを始めています。つまり、そうしないと、ある学問に関する体系的な知識を持っていて、図書館のサービスの現場に持ってきたとしても、サービスとして機能するのかどうかは疑問を持っています。その辺についてはいろいろご意見もあるとは思います。

【倉田委員】

  あえて違う視点を述べさせていただきたいのですが、研究者、学生へのサービスが図書館の重要な部分であることは間違いがないし、まず現場に立ち返るというのは非常に重要だと思うのですが、図書館が伝統的に持っていた機能というのは、資料の提供だと思います。資料をきちんと買い揃え、目録等を整理し、案内するというのが伝統的な図書館の機能であり、それは今も変わっておらず、絶対おろそかにはできないと思います。
  したがって、主題の専門家ではなく、学術情報基盤をつくるための専門家が必要だと思います。それは学術情報流通の仕組みについて非常に詳しいこと、メタデータに関して詳しいことや、ウエブ技術等を駆使できることなど、それらを実施できるような職種もきちんと図書館の中で抱えている必要があると思います。ARLの調査でアーキビストや、ウエブ関係の人たちが増えてきているというのは、逆に言うと電子資料等の保存が大きな問題になっていることだと思います。アーキビストとキューレーションは違います。アーキビストは古い資料の保存で、キューレーションは、データそのものをもっと保存していかないといけないということでも新しい職種が求められているわけで、その意味では多角的になってしまっていて、非常に難しいと思います。
  今まで図書館がやってきたようなものだけを発展させればいいわけでもなく、分散させてしまえば、専任は半減されていくので、どう、有期やその他嘱託をうまく使うか。また、図書館という組織を独立させることがどこまでいいことなのか、コンピューターセンターや教育センターなど、いろいろな組織ができており、大学内の他の機関との連携ということも含めて、狭く図書館、図書館員だけの話をしていたのでは、もう立ち行かない時代になってきているのではないかということが、今回お聞きしていて大変感じたところです。

 

(2)  吉田九州大学附属図書館副館長より資料2「九州大学ライブラリーサイエンス専攻(仮称)」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答並びに加藤委員及び九州大学の発表を踏まえた大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  九州大学ライブラリーサイエンス専攻(仮称)について、説明させていただきます。
  まず、設置の背景としましては、急速な情報化によって新たな問題が出てきており、電子化された大量かつ流動的な情報が氾濫していること。情報利用者、ユーザーに必要な情報を効率的に、いつでもどこでも獲得したいという要求が出てきているということ。最適な情報を評価、選別して提供を行っていくことが非常に困難になっていることが挙げられます。
  情報利用の意義として、もともと情報の収集、活用により生成された実践知を理論知として後進に伝え、後進が学ぶという知の継承が行われ、それによってまた新たな知が創造されます。
  高度情報化社会に求められる新たな人材として、情報利用者の知的活動を支えて情報を管理し提供する人材又は急速な情報化社会における情報管理のあり方を探求する人材が必要であると認識しております。情報の検索や発信のための技術、情報に関する技術やシステムの管理、設計能力、新たな法律に関する知識とその運用能力などが必要であるという認識に立っております。
  本学に新しい専攻を開設することの意図として、人材養成、学問領域の開拓の場として、大学の図書館あるいは文書館を活用しようということです。図書館、文書館については、サービス機能の高度化、電子コンテンツの整備を非常に活発に行っています。資料館については、特色ある史資料を系統的に収集しております。文書館については、大学資料の組織的、集中的な保存、管理、そして利用者への提供を行っています。これらの図書館、文書館を背景として、現在、この領域で求められている人材養成の場、新しい学問領域を開拓する場として、我が国唯一の存在である大学院統合新領域学府の中に、新しい専攻としてライブラリーサイエンス専攻の修士課程を平成23年4月に設置し、その2年後に博士後期課程を設置する計画を立てております。
  統合新領域学府のコンセプトは、学問が細分化されている状況によって生み出された膨大な知を再編成し、統合的な新しい科学的な知や価値を追求して、現代の科学や社会の重要課題の解決に取り組むとともに、そのために必要とされる高度な専門的人材の育成を図ることを目指しています。新領域の課題の解決のニーズと新しい知の創造と高度な専門人材の育成というニーズがあり、これによって学内にある知を統合するということです。学府研究院制度の面から申しますと、さまざまな研究院に所属する教員が、新しい学府、これは大学院研究科という組織では成し得ないような新しい領域の大学院教育機関をつくり、そこで知の統合を図って人材を育成します。
  ライブラリーサイエンスのコンセプトは、大学であれば学生、教員、公共図書館であれば市民、組織、自治体、個人又は集団という情報ユーザーが成長、改革を遂げていく過程において、記録・管理されている情報を使って、実践知を変えていく。情報の面から見ますと、情報が実践知に進化していく過程があるわけです。この情報ユーザーの成長、改革と情報の進化、これを管理、提供している人、場というものがございます。図書館は知の創造継承プロセスを提供、管理していますが、それを踏まえて情報の管理、提供に関する科学をユーザーの視点からとらえ直すことと我々は捉えております。
  新しいライブラリーサイエンス専攻の教育研究上の理念、目的として、ユーザーの視点に立つ人材の養成と、新たな学問領域の開拓として、利用者のニーズ、法的な問題、ニーズを実現する情報技術を把握し、それぞれの専門領域を統合した学問領域(ライブラリーサイエンス)を開拓します。
  教育内容は、情報科学、図書館情報学、記録管理学等の一体的教育を行います。これはマネジメント、サービス、コンテンツ、システムをカバーする教育であると同時に、記録管理学や図書館情報学等の各領域に対応する教育プログラムの有機的連携を図ります。その方法としては、実践型教育として、現職の図書館員や経験者などを教育スタッフに当てます。欧米の大学院教育を参考に、科目、シラバスを組み立てます。課題解決型の教育として、プロジェクト・チーム・ラーニング(PTL)とインターンシップを活用します。新卒の学部卒業生と社会人大学院生(図書館職員、データマネジメント)の修士課程ということもあり、これらの学生のニーズに応じた履修モデルを提供します。
  ライブラリーサイエンス専攻で養成する人材像及び進路は、文系と理系、それぞれの枠を超えて社会の変化に対応できる人材の育成を目指します。特定領域の知に関する情報専門職として、問題解決や戦略立案における専門的な助言、指導を行えるような情報管理者、サブジェクト・ライブラリアン等。昨年、公文書管理法が制定されたことに伴い、国及び地方公共団体の文書館、記録管理部門における専門家の養成が望まれており、これに対するレコードマネジャーやアーキビスト等。主に公的な企業、電力会社や製薬会社などに派遣する記録管理の委託業務を請け負う専門業者の人材。この領域の情報ユーザーの要求に対して、問題解決に情報技術を応用し、理論構築やシステムを開発する専門家。情報の利用者の目的にかなう「人、場による管理・提供」そのものを研究開発するような研究者を想定しております。
  入学者は、学外からの入学者、大学、社会人、学内の学部、領域の異なる学府からの入学者を想定しております。
  教育カリキュラムは基礎的な教育、問題解決型教育の充実、専門科目と分けておりますが、基礎的には情報マネジメント、情報システム、情報サービス、情報法制、公共サービス、学習環境論、実践的な教育として、PTLとインターンシップ。専門科目として、専門的な教育科目を挙げています。
  具体的には、教育課程の編成として、特別研究、基礎科目、PTL、インターンシップ、必修項目を挙げております。特別研究は修論ですが、基礎科目には情報マネジメント論、システム論、サービス論、法制論、学習環境論、総合演習という、従来の図書館情報学と記録管理学を一体的に基礎的なものを学んでいただく。PTL、インターンシップは、実践的な教育になります。
  専門科目は、図書館情報、記録管理学、システムに関するものを並べています。
  修了に必要な単位数は39単位を想定しております、もちろん、主題につきましては自由選択科目で、学内のさまざまな学部学府、研究院の教員が開講しているさまざまな科目を学んでいただくということを想定しております。
  研究科、専攻等の名称及び学位の名称は、現在検討中ですが、複数の学位を検討中です。学生の定員は、入学定員が10名、収容定員20名、1学年10名を考えております。開設の時期は23年4月1日です。
  最後に、教員組織の編成の考え方と特色は、学府研究院制度により、人文科学研究院、比較社会文化研究院、法学研究院、医学研究院、システム情報科学研究院、附属図書館、附属図書館の付設記録資料館、情報基盤研究開発センター、大学文書館という9つの部局から教員がそれぞれ集まるということです。この中でも、附属図書館からも教員として迎えることを考えております。また、新たに新規も想定しております。
  その専任教員11名と非常勤教員がおりますが、主に実践的な側面について、図書館職員、大学・研究機関、九州国立博物館、民間企業、弁護士、弁理士の方々をお迎えする計画です。

  以上でございます。

【有川主査】

  九州大学の場合には、研究院の先生が学府、学部に指導に行くという学府研究院制度になっており、その研究院のように、図書館から学府の教授や准教授になっていくというような非常に新しい方法だと思っています。最近、図書館職員でドクターを取得した者がおり、その職員などは准教授か教授で関係していくことになると思います。

【三宅主査代理】

  PTLが、いろいろなものを統合するコアになると思ったのですが、これは10名の方たちがチームになって、ある種のプロジェクトをなさるのですか。10名の集まり方によってはコンテンツも10ある可能性があって対応が大変そうです。この方たちがチームを組むなどして対応なさるのでしょうか。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  学生は、PTL2科目とインターンシップ1科目の中から2科目以上を選択するので、どちらかのPTLで10名の学生が一堂に集まることはないと考えています。

【羽入委員】

  どのような学部を卒業した者が想定されているのでしょうか。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  例えば、医学研究院では卒業するとまず医師になりますので、それを経てからになりますが、学術情報に非常に興味を持っている卒業生もいますので、そのような者も来るかもしれないと考えております。したがって、文学部、情報系の学部以外にも、専門に加え、学術情報の在り方を考える学生も歓迎したいと考えております。

【羽入委員】

  極めて多様な集まりになる可能性があるということがポイントですね。

【有川主査】

  統合新領域学府は、昨年の4月からスタートしていますが、文字どおり多様な背景を持った学生たちが来ています。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  私は医学部で学生を教えている立場から最近特に感じますが、ゆとり教育により、高校までほとんど実習や実験をしてこない学生が非常に多くなってきています。その結果、学生の積極的な研究志向が際立って少なくなってしまった。また、診療レベルでも積極的に参加しない学生が明らかに多くなっています。座学というのはあくまでも準備であって、一番重要なのは、実践をどう身につけさせるかいうことだと思うのですが、その点はどのような対応をするのでしょうか。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  実践的なものはPTLで現場の問題点を解決するためにチームでプロジェクトを進めますが、もう一つはインターンシップです。実際には図書館、文書館、あるいは学外の施設に派遣することを考えています。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  例えば、研究の現場に、領域を問わず、実際に入り込んで、一時期同じような体験する教室配属のようなことは含まれるのですか。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  研究者や学生がどういう情報を欲しているのか、どう使われているのかということを、つぶさに観察して、実践的に、問題はどこにあるのかというのを見てもらうというのは、非常に役に立つと思いますし、それによって、なぜこの人たちは実践的なものよりも、安易なテキストで勉強して、試験だけ通ろうとするのかと考えることも1つの方法かもしれません。

【有川主査】

  例えば、理学、工学、医学の学部長に、学生指導をお願いし、サイエンスであればサイエンスのことについて広く、ある程度深く知ってもらうというようなことなどが考えられるのではないでしょうか。なぜ学部長かというと、学部長は管理的なことで忙しいので、通常の学生の指導ができないが、図書館関係の学生であれば、広く教えるということで、指導面からするとぴったり合うのではないかと考えています。これは動き出してから、おそらくそのような要請をしていくことになると思います。

【山口委員】

  育成、養成する人材像が多岐にわたっていて、大変おもしろいと思うのですが、入学してくる大学新卒と社会人とでは、ニーズが異なってくると思います。例えば、教育の内容が、社会人に対してはミッドキャリア的な専門性をより高めるようなことを考えているのでしょうか?多様な目的を持った入学者が求めるような教育の多様性も考えているかをご説明いただければと思います。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  例えば現職の図書館の職員が、社会人大学院生として入学すると、学部卒業の学生とは持っている知識やスキルが随分違うと思います。社会人のチームを組む、学部学生でチームを組むということもありますし、それとは別に社会人と学生のチームをつくって、それぞれがどういうニーズを持っているのかということを互いに理解し合う、例えば社会人の方が学生に図書館の業務を紹介する。そうすることによって、まだスキルも知識もない人を教える技術を学べると思いますし、学生は現職の図書館職員から多くのことを学ぶことができると思います。
  個々のニーズが全然違う方向にある場合には、学生が10名で教員が11名という想定ですので、教員による濃密な履修指導を行います。主題知識に関しては自由科目を指導して、学生が希望する専門の学部あるいは学府の教育を受けていただくことも考えております。

【有川主査】

  それでは、本日は加藤先生と吉田先生にお話を伺いましたが、大事なテーマとしましては、大学図書館職員の育成ということにあります。その辺について議論をしていただければと思います。

【喜連川科学官】

  資料1の職能専門家について、IT-Programming、Systems、Web Developmentを合計すると、かなりのパーセンテージになっています。つまり、ドメインスペシャリストよりも実は増えているのはジェネリックなインフラストラクチャー側のように見えます。個々の研究者が自己のスペシャリストになるというのが本来の姿で、そこにいかにエンパワーメントをかけていくかというように見えるのですが、その辺の方向感についてご意見を賜れると有難いと思います。

【中元早稲田大学図書館事務部長】

  ARLの統計をお示しした背景ですが、アメリカにおいても研究図書館、大学図書館において、伝統的なカタロガーなどプロフェッショナルと呼ばれてきた者の人口構成が大幅に減って、ファンクショナル・スペシャリストが拡大してきていることは、私どもも考えなければいけないという気はしています。
  しかしながら、日本の大学図書館の場合には、サブジェクト・スペシャリストを養成してこなかったことは歴史的な事実であり、教員がその役割を担ってきたのだろうと思っています。アメリカの場合には教員は教育研究に特化し、図書館サービスの中で図書館のプロフェッショナルがサブジェクト・ライブラリアンとして育成されてきました。この辺は、非常に大きな歴史的な経緯の違いになっており、アメリカと同じようなサブジェクト・ライブラリアンを、一朝一夕に育成することは難しいだろうと思います。
  また、アメリカの大学のローライブラリーのレファレンスのデスクに座っているのは、ライブラリアンではなく、弁護士資格を持った人であったりします。それは育成されているのではなく、主題的な知識を買われて雇用されているので、日本の図書館が同じことをするのは、多分無理だと思います。したがって、少なくとも現場をあずかる者としては、サブジェクト・ライブラリアンを制度化しても、必要な人材を確保できる保証は、現在の環境ではなかなか難しいと思っています。

【喜連川科学官】

  情報分野では、yahooがディレクトリ型から始まりました。yahooが人手によってすべての情報を主題別に分けていくことで、ビギナーにとっては非常にイージーなアクセスポイントを与えたと思いますが、現状、ディレクトリ側から入るのか、サーチ側から入るのかといいますと、多くのユーザがサーチ側から入っています。それは、人で全てを分類すること自身がもうほぼ限界であることと、現実のアクセスは、テール側のアクセス、つまり、ヘッドコンテンツではない側へのニーズの方が遙かに大きくなってきているというような現状があると思います。そのようなことを踏まえて、今後どうあるべきかを本質的に議論するといいと思います。

【有川主査】

  非常に大事なことをご指摘いただいたと思います。つまり、サーチ型に対して、無頓着過ぎるのかもしれません。そのこと自体も、図書館との関わりで、きちんと捉え直してみる必要もあるのではないかと思っております。
  また、中元部長がおっしゃったこともわかりますが、少なくともどこかでは試みなければならないのではないかと思います。大学改革の議論の中で、アメリカの大学と比べて日本の大学はなっていないというような言われ方をされます。その中で、私は、明らかに違うのは、図書館ではないかと強く感じていて、以前から図書館のことを根本的なところから考え直す必要があるのではないかと思っていました。ライブラリーサイエンス構想によって、すべての問題が解決するということではないのですが、筑波大学や慶應義塾大学以外でも、そのような試みをするところが必要ではないかという思いで計画を立てています。

【中元早稲田大学図書館事務部長】

  大学図書館という組織の中に、主題的な知識を持った人をどう取り込んでいくのか。クローズな組織の中に育成も含めて抱え込んでいくことが、なかなか難しいという前提に立ったときに、早稲田大学が現在、取り組んでいるのは、若手の研究者の方々に、図書館との連携の枠組みの中に入ってきていただくということです。図書館から架け橋をかけることだけではなく、教育研究の現場からの架け橋、つまりリエゾンのカウンターパートになってもらうという呼びかけを昨年からしております。図書館的な知見だけではどうにもならないこともたくさんありますし、逆に、若手研究者も情報分野を体系的に学んだことがあまりない人が非常にたくさんいることもよくわかってきました。この辺を、お互いにメリットのある枠組みの中に収斂させていけば、相乗効果が生まれるのではないかということで、学部や研究科の教育研究の現場に密着した連携の制度的な枠組みをきちんとまじめに考えて整備するために、いろいろな試みを始めております。

【有川主査】

  その辺が先ほど喜連川先生がおっしゃったサーチ型なのかもしれませんね。日本では、かつては、助手がサブジェクト・ライブラリアン的な機能を十分果たしていたと思いますが、最近、助手が非常に少なくなって、そのような役割が期待できなくなっている面もあると思います。一方で、分野が細分化されていますので、その細分化されたところでは、相当数の人が必要ですが、その間にある程度の責任を持った人が出てきてもいいのではないでしょうか。また、図書館職員≒教員ということから、図書館職員から教員に、教員から図書館職員になるなどの行き来があるような仕掛けをどこかでつくってみる価値があるのでないかと思っています。

【坂内委員】

  国立情報学研究所における目録所在情報サービスの整備に関して、大きな力になったのは、全体の図書館が大きな連携をしてできたことだと思います。サブジェクトの話も、図書館に学生や研究者が何を求めていて、それに対してどうレスポンスしたのかを、個々の図書館職員のスキルの中でソリューションを出すのではなくて、同じような事例を蓄積して、場合によっては、積極的な研究者が大学を超えて回答していくようなことが考えられます。そのような全体の集合知、社会の共有知にする仕掛けを作れば、いろいろなおもしろいことが出てくるのではないでしょうか。国立情報学研究所では、そのようなことをトライアルとしてやっていくべきかと思っています。

【有川主査】

  図書館の間の協力関係というのは、実は非常にうまくいっていて、全国的にもかなり緊密な連携をとっておりますし、経験をみんなで共有することに関しても、例えば、レファレンスサービスなどで対応したものをデータベース化することをしていたと思います。そのようなことなどをもう少し発展させればいいと思います。

【喜連川科学官】

  学問が細分化するとどういう現象が起きるかといいますと、それぞれの領域のトッププレーヤーを、日本が全部カバーして持つということが原理的に不可能になってきています。情報処理学会でもオントロジーをつくる試みがありますが、日本にトッププレーヤーがいない領域のオントロジーを専門的でない人がつくるのは、すごくむなしい。
  世界を見ますと、情報を整理するというアクティビティというのは沢山あります。ドメインエキスパートは、どこかに必ずいて、その方が相当に情報の分類を精緻にされて、かつ、ホットな状態まで維持されていることが多いように思います。これはITに特化しているからであって、他の分野でどうなっているかというところまでよくわからないのですが、そのようなアクティビティは、先ほど坂内先生がご示唆されたポイントではないかと思います。日本の個々の図書館というものを超えて、世界的に知というものを、統合し、その統合のアクティビティが集合知として、社会のアクティビティとしてできていくというのが、今の世の中の動きかなという気がしております。

【吉田九州大学附属図書館副館長】

  私は、医学部で医学教育というフィールドで働いていますが、医学部の学生がどう医師や研究者になるために学ぶのかということに非常に興味を持っています。その中で、図書館は非常にポテンシャルが高いと思います。医学部に入学してきた学生というのは、ものすごく学ぶ意欲が強い。しかし、受け身の講義をずっと受け続けて、その意欲が下がっていくという状況が一部生じています。彼らは、図書館に行って、そこで何らかの情報を得て、自分が学べるものを発見していくという形がつくれればいいのではないかと思っています。学習支援の機能を、図書館がこれから強化していくのであれば、教務委員会に、学生に一番近い立場にいる図書館の方が入ってもらうと、状況は随分変わるのではないかという気がしております。

【有川主査】

  そういう点では、早稲田大学に学生図書室というのがありますよね。この辺が非常に大事なことだろうと思いました。

【三宅主査代理】

  学部学生は図書館が何をしてくれるところなのか、あまり知らないのではないでしょうか。図書館職員が専門性をもって対応してくれることをもっとわかってもらう必要があるのではないでしょうか。学生が複数集まってさまざまな情報源からの情報を突き合わせて何か議論しながら物事を進めていくというような学習のスタイルと、図書館の情報提供の仕方とがうまくマッチングするようなことを考えないと、先へ進めないという気がしてきました。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  図書館職員の育成に関しては、図書館情報学の専門家と教員が密に連携して話し合って、つくり上げていくということと、育てられる側にしても、多彩なバックグラウンドがないと、教えられることに限界がある。その2つのポイントは条件として重要なのではないかと思いました。
  また、専門性とマネジメント能力の両立については、例えば、研究室でも、現場のスタッフの人は最初からマネジメント能力を持っているわけではなく、まず、現場でスペシャリティを身につけて、そこで業績を上げて、徐々にマネジメントにも関係してきて、いずれは教授になっていくというような流れだと思います。そういう点で、スタッフと、マネジャーとしてのヘッドの流動性というのは非常に重要です。研究室でも流動性がないと、その研究室はつぶれてしまいますし、流動性を担保した上で、トップの方は専門性を持った方にマネジメントとしての役割についていただく。そうした場合に明確な資格審査や、場合によっては教授選考のような選考を経て管理者としてのリーダーを決定し、リーダーの指揮の下でスタッフをきっちりまとめ上げられるような、頑強な仕組みを作っていくということが考えられるのではないかと思いました。

【米澤委員】

  若い学生は、すぐインターネットでサーチしてしまうということがあるので、ドキュメントに対して、図書館が、学生がインターネットのサーチ等をすることとどこが違うのかということを明確に学生にわからせないと、なかなか図書館に来館してこないのではないでしょうか。
  また、図書館というスペースを学生が来るようにするいろいろな工夫と情報化をうまくインテグレートして方向性を見つけなければならないのではないでしょうか。学生にとって、図書館が遠い存在というような印象があるのではないか、その辺をどう捉えていくかが重要ではないかと思います。

【有川主査】

  最近、ラーニング・コモンズなどもう少し気楽に行けるようなところでは、割と学生たちが集まってきて、本を読んだり、サーチをしたりというようなことで、いい雰囲気ができていると思います。その辺をしっかり位置付けておく必要があるのではないかと思っております。
  これまで非常に多くの方々にいろいろな区分でお話をいただきました。大学図書館の整備を中心にしながら、後半では人材育成まで議論していただきました。このようなヒアリングにつきましては、今回を一応最後にしまして、これまでいただきましたご議論を踏まえまして、次回は、大学図書館の整備について全般的な討議をしていきたいと思います。今回までのことを整理しまして、方向が出せればと思っております。よろしくお願いいたします。

 

(3) 事務局より、次回の開催は平成22年5月27日(木曜日)13時30分から15時30分を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

 

――了――

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

井上、首東、新妻
電話番号:03-6734-4080
ファクシミリ番号:03-6734-4077

(研究振興局情報課学術基盤整備室)