研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第30回) 議事録

1.日時

平成22年2月23日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、上島委員、植松委員、加藤委員、土屋委員、羽入委員、米澤委員

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 緒方横浜市立大学学術情報センター長より資料1「横浜市立大学図書館の現状と課題」に基づき、横浜市立大学図書館の現状と課題について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

 公立大学の概要として、平成21年4月現在、設置校数は77大学、そのうち法人が設置している大学が45大学であり、その主な内訳として、都道府県立が35大学、市立が8大学などとなっています。大学全体の8割以上が1~3学部構成であり、かなり規模が小さいことが特徴です。
  公立大学の現状として、設置する自治体によって大学の位置付けが大分違います。自治体の中心的な位置付けとされている大学がある一方で、横浜市立大学はかなり予算削減を前面に押し出され、財政的に厳しい状況にあります。
  大学の運営体制にも様々な問題があり、法人化前からの自治体の職員と法人化後の法人職員とが混在した状態で、給与体系も異なっています。また、それぞれの職員の意識も大分異なります。したがって、財政基盤に関しては、今後はできる限り安定化の方向に持っていくべきであるし、職員の身分の相違についても極力是正する方向が望ましいのではないかと考えております。
  横浜市立大学のキャンパスは4つありますが、主に医学部以外がある金沢八景キャンパスと、医学部を持っている福浦キャンパスです。また、舞岡に研究所があり、理学系の一部の専攻科が鶴見キャンパスにあります。在校生は約4,700名、教職員数2,700名で、教育理念は「教育重視、学生中心、地域貢献」となっております。
  本学では、図書館を学術情報センターと呼んでいますが、金沢八景キャンパスと福浦キャンパスの2つに分かれます。全体のセンター長、全体を統括する事務系の課長が配置されています。また、金沢八景、福浦に係長がそれぞれ1名、司書は金沢八景が7名で福浦が4名。その他に、非常勤事務職員等がおります。また、それ以外のキャンパスは非常勤職員で対応しております。
  基本データを簡単に説明しますと、図書蔵書数は78万冊、契約電子雑誌は7,500タイトル、資料費予算は1.47億円となっております。
  本学の組織体制の現状と課題について、規模が小さい大学ゆえの、また、旧態依然とした組織ということもあって、司書が文系職員中心で構成されているという傾向があり、自然科学系、社会科学系の職員が明らかに不足しています。設置学部に応じた専門分野の職員を必要数配置して教員とのコミュニケーションを図る必要がありますが、現状ではまだ達成できておりません。
  本学図書館における一つの問題として、公共図書館との間の配置転換があります。これによって、公共図書館で仕事をされていた方がそのスタンスで大学の図書館に来られるので、大学図書館の方向性とずれた認識の職員が中に含まれる傾向があります。また、現在、図書館情報学などの専門性を有する管理職がおらず、司書への指導体制や業務の質の担保という点では不都合が生じています。少なくとも1名は、管理職に専門家がいる必要があるのではないかと考えております。
  図書館長の位置付けがこれまで非常に曖昧であり、名誉職的な色彩が非常に強い現状があります。しかしながら、現在、大学図書館として学生・教職員のためにしなければならない喫緊の課題が多く存在しますので、今後館長は、それに向かってきちんとしたリーダーシップを発揮する必要があると考えています。
  改善策としては、本学のような規模の小さい大学の場合では、多様な人材を直ちに揃えることは難しいので、他の部局との人材交流等を含めて、幅広い専門性が得られるよう、大学当局にも働きかけているところです。特に理系の人材の確保が重要な課題となっております。また、一般事務職としての管理職人事を見直して、専門職としてのきちんとした位置付けをしていく必要があるのではないか、また、図書館長として、形骸化したポストとせずにきちんとリーダーシップをとって役割を明確化していく必要があるだろうと考えています。特に、規模の小さい大学として、是非、お願いしたいこととしては、大学間による研修会、人事交流のような、司書の専門性を向上する仕組みがあると、非常に有難いと思っております。
  このように、人材については、現在の司書のバックグラウンドがかなり狭い状況ですので、自ずと資料管理業務も支障を来しております。選書業務等も技術が大分低下している状況です。これに関しては、図書館学や自然科学系のバックグラウンドをもつ職員との意見交換によって選書基準の見直しをしている状況です。
  同時に、教員とのコミュニケーションは絶対欠くことができないことで、これを密にすることによってレベルアップを図ることが重要であると思います。できれば、研究経験がある人材、大学の有する研究分野の専門知識がある人材(修士・博士の学位を持つ人材)に入っていただけると、非常に有難いと考えております。
  本学は財政的にかなり厳しい状況であり、かなり安価で一部の作業を委託しております。その一部が目録業務になってしまっていますが、この結果、目録業務に関して特に新規書誌作成が思うようにできていない状態であり、目録の水準維持が当面の課題です。そのための対応としては、必要な委託業務遂行のための予算や人材確保ができれば、目録水準の維持が可能になりますし、職員による目録のチェック体制も重要と考えております。
  また、国立国会図書館、国立情報学研究所(NII)との連携も必要です。現在の共同書誌作成の中身をもう少し見直していただけるとあり難いと思います。具体的には、件名や分類、典拠など質の高い書誌に必要な部分は、NII主導で作成していただくと良いと思います。また、本学では、現在新規書誌作成を見合せる様な状況になっていて、どこかで新規書誌を作ってもらうのを待っているような状況もあります。ですので、書誌作成はNIIを中心に作成機関を限定するなどして、質の担保を図っていただければと思います。
  本学では、現在、入手可能な洋雑誌に関しては9割以上が電子資料になっております。同時に、予算の関係から、その多くについて冊子資料契約を中止しております。和雑誌に関しては、オンライン化されているものについては予算が捻出できれば順次導入している状況で、これは他大学と同様の傾向だと思いますが、電子雑誌のダウンロード数は飛躍的に増えている状況です。
  当大学の予算の推移と雑誌の内訳ですが、予算額はかなり少なくなっております。その中で、現在、電子ジャーナルが予算における一番大きい割合を占めております。それに伴って、冊子体の雑誌が大きく減っています。本学は文系を持っているので、冊子体も一部保持されていますが、理系に関しては大方の冊子体は中止している状況です。一方、図書に関しては、学生教育に重要ということで、ある程度の量は確保しております。
  課題としては、現在の出版社主導の雑誌価格の高騰がございます。このため、購読タイトル数を保持する目的で、冊子体の契約を極力中止して電子ジャーナルのみにしている状況があります。その弊害としては、特に冊子体の重要性は、自然科学系に関して、高品位な画質が論文の内容を読み取るために非常に重要な役割を果たす場合が多くあります。電子化されたものは、冊子体に比べると画像の質は明らかに劣っているものも散見されますので、少なくともそのようなものに関しては、できれば冊子体を保持したほうがいいのではないかと考えております。
  さらに、学生にとっては、雑誌の冊子体を見て、めくって学習していく面もありますので、学生の利便性を考えると冊子体が望ましいということで、最低限CNSの『セル』、『ネイチャー』、『サイエンス』に関しては電子のみには移行していません。
  画像を中心にした雑誌に関して冊子体を保持しようと考えると、それに応じて、当然予算が厳しく、価格も高いので、購読タイトル数を減らさなければならず、根本的には出版社主導の雑誌の価格高騰に対処していく必要があると思います。提案としては、価格に関しては国公私立大学全体として交渉していく必要があるのではないかと思います。さらに、大学の理解を得て、為替変動を考慮した予算措置をしていく必要があるのではないかと考えます。
  現在は国立、公私立、医学系などコンソーシアムが乱立し、かなり細かく分かれております。この際、少なくとも国公私立大学に関しては、医学系も含めて全体のコンソーシアムを構築し、雑誌の価格上昇に対して歯止めをかけていく必要があるのではないかと思います。
  また、もう一つ重要なポイントとして、コンソーシアムに入れない専門家の方たちがおります。例えば医学系では、一時期大学を離れて病院に勤務し、再び大学に戻ってくるというキャリアパスが一般的です。その場合、一度大学を離れて病院に行くと、途端に学術情報が全く見られなくなるという問題点があります。これはずっと前から言われている重要な課題で、特に電子化が進んだ現在では、もし可能であれば、外のコンソーシアムに入れない方々に関しても、きちんと学術情報が供給できる体制が必要なのではないかと考えております。そのための一つの案としては、国立国会図書館が情報の供給の場を提供し、例えば有料の登録制にして自由に見られるという方式も考えられます。
  情報リテラシー関係について、本学の取組みとしては、初年次教育、専門課程に上がったときの研究方法論等の教育、卒論の教育、さらに大学院レベルでの教育、また、本学は医療系がありますので、研修医指導のためのガイダンスなどを行っております。以上が教育支援ですが、研究支援としては、学内学会誌・大学紀要への編集委員としての参加、教員公募に関しての業績データ分析等も行いつつあります。地域貢献としては、市民向けのガイダンス、病院向けの情報検索ガイダンスを行っております。このような情報提供サービスを行っていますが、質的なばらつきが課題です。また、レファレンス対応に関しては、特に地域貢献のため、夜間も極力対応する方向で進めています。
  このような活動への対応としましては、職員の適切な配置、即ち、限られた人材を効果的に配置することが重要だと考えております。それだけではなく、レファレンスの内容等も情報を共有しながら所内における司書のレベルアップを図っていくと同時に、夜間のレファレンスもできる限り専門職員によって対応していくことが重要ではないかと考えております。また、ガイダンスに関しては、質の担保という点で本学では問題があったのですが、事前に教員を交えて予演会等を行うことで、説明内容やテキストのチェック体制を強化していくことを進めつつあります。多様な専門性を持つ職員が採用できればさらに良いと考えております。
  情報検索に関して重要な役割を果たすのが二次資料ですが、雑誌記事索引データベースと書誌データベースに関する現状として、例えば医学系の洋雑誌についてはPubMedという無料で非常に完成度の高い二次資料データベースがあります。和雑誌に関しては医中誌というものがあるのですが、有料で、しかも全部はカバーできていない状況です。
  和雑誌全般に関して言えることだと思うのですが、CiNiiでも、あいまいさのない検索としてのデータベースがまだ不完全だと考えております(シソーラスや著者名典拠コントロールの問題など)。また、和書に関しても、現在NACSIS Webcat、NDL-OPACがありますが、様式が統一されていない状況にあり、利用者の検索効率が悪くなっている。また、雑誌と図書のシームレスな検索システムがないという状況もあり、今後はこれらの改善が重要になってくるのではないかと考えております。
  解決策としては、あいまいさのないより効果的な情報検索システムの実現であり、書誌と雑誌記事索引のデータベースの厳格な一元的維持管理が可能になれば、利用者にとっては非常に良いと考えます。同時に、NIIとNDLも密に連携を図っていただいて、現状ではフォーマットの統一は難しいと思いますが、全体をカバーするようなオーガナイズドシステムが望まれると思います。また、図書館職員の情報検索のスキルアップとともに、アドバンストな情報検索ガイダンスの充実がこれからは重要になってくると思いますが、こうした観点から、今後、大学図書館の存在意義が重要性を増してくるだろうと考えます。
  したがって、図書館の専門業務とルーチン業務とを明確に切り分ける必要があるのではないかと思います。専門業務に関しては、図書委員会運営、図書希望調査、選書、書誌管理という資料整備、また、レファレンス・ガイダンス業務は研究や授業に直結するものです。大学の研究成果の管理・発信としての機関リポジトリ、ホームページの内容管理によって、学生・教員との専門的なコミュニケーションを図る場を提供する。さらに、ラーニングスタジオ、即ちラーニングコモンズとして、学生・教員の間の学問的交流の場を図書館が提供することが重要です。これによって、研究者間の交流の場も提供していければ望ましい。これらに関しては専門的な業務として、決してルーチン業務ではできない、譲れない内容だと考えます。
  それに対して、ルーチン業務として考えられるのは、資料整理、閲覧関連業務として、契約、受入れ、また、書蔵データ・書架管理などが該当すると考えます。また、カウンター業務は資料の貸出、返却ですが、これは機械装置を利用することが可能です。ILL業務もホームページの更新業務もルーチン化できるだろうと思います。さらに、館内の整備、図書館システムの管理もルーチン化できるのではないかと切り分けてみました。
  より専門性のあるところに図書館職員の業務を切り分けて、特化していく必要があるため、教員・学生との専門的なコミュニケーションを基盤とする研究・教育との関連性の高い業務と裁量性の少ないルーチン業務とを明確に区分して、大学図書館としての専門的なサービス提供の内容充実を図ることが重要だと思います。そのためには研究・教育に必要な学術情報を駆使して教員の研究及び学生の学習支援を担う人材を配置していくとともに、図書館員のキャリアパスも含めて考えていく必要があるだろうと思います。一方で、ルーチンワークとして資料管理・閲覧業務を担う人材は、場合によっては業務委託も対応が可能ではないかと考えます。
  現在の特に自然科学系、医学系の電子雑誌の高騰は、大学全体の喫緊の課題でもあります。IT技術の進歩によって学術情報量が急速に増加している中で、図書館運営に携わる職員、管理職については、図書館学の知識を基礎とし、人文科学、社会科学、自然科学にわたる人材のバランスのとれた登用が、今後は大きな鍵になるのではないかと考えます。
  全体のまとめになりますが、1.大学図書館の役割の基本的なこととして教職員・学生のための学術情報の収集、整理、保管、2.教育支援として情報リテラシーの指導、3.研究支援として文献検索支援、文献提供、雑誌編集委員会への参画、研究実績管理、4.業務支援として知的財産関連の情報提供、医療関連で可能になれば非常に有用と思われる診療に関する情報提供があげられます。一種コメディカル(医療従事者)としての役割も可能性としてはあるのではないか。また、教職員や学生の知的交流活動の活性化への支援も、今後、図書館として重要になっていくのではないかと考えます。

  以上です。どうも有難うございました。

【土屋委員】

  在学生4,700人に対して教職員2,700人というのは教職員が結構多い感がしますが、教員とそれ以外の者との割合を教えていただけないでしょうか。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  病院があるので、医療技術者や業務も含めて職員数が2,000名超だと思います。教員は数百人ですので、教員の数は決して多くありません。これは設置者側の意向が反映された結果ですので、私たちとしては、教員も是非充実してほしいと申し上げてはおります。

【羽入委員】

  学術情報センターの入館者には、情報検索の利用者なども含まれているのですか。図書利用と分けて整理しているのか、教えていただきたいと思います。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  建物の中で情報検索も行うシステムになっており、混在した状態です。

【有川主査】

  学術情報センターとなっていますので、図書館機能と情報機能、いわゆるIT関係が一緒になっていると思うのですが、図書館機能以外の部分はどのようになっているのでしょうか。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  法人化後、IT教育も図書館で担う計画がありましたが、実際は進んでおらず、別の教員組織によってIT教育が実施されようとしております。私としては、「学術情報センター」という名前より、むしろ「図書館」とした方がより実態を表しているのではないかと大学当局にも話はしているところです。

【三宅主査代理】

  業務支援の中で医療における診療関係の情報提供を挙げていますが、横浜市立大学は医学がベースなので、図書館の業務の中に入ってくると考えていらっしゃるのですか。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  今、医療の需要に対して医師の数は明確に不足しております。それは大学病院でも同じことが言え、患者対応の業務で追われています。さらに医療情報が急速に増えている状況で、適切な処方、診断をするためには、適時、的確な情報を得ることができれば、非常に効率化が進むだろうということです。
  その他に、全国的な医療情報を集約して、それをもとにスタンダードな医療を決めていくというガイドライン作成の作業がありますが、そのためには、膨大な作業が必要ですので、図書館の協力が非常に重要であるということです。

 

(2) 加藤静岡大学附属図書館長より資料2「静岡大学附属図書館の現状と課題」に基づき、静岡大学附属図書館の現状と課題について説明が行われ、その後、質疑応答並びに横浜市立大学図書館及び静岡大学附属図書館の発表を踏まえた大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【加藤静岡大学附属図書館長】

  静岡大学のサイズや学部構成は横浜国立大学と非常に似ておりますが、一番大きな違いは、静岡大学は静岡市と浜松市の2つにキャンパスを持っており、横浜国立大学とほぼ同じサイズの人員と予算で2つの図書館を運営することが、かなり大きなハードルになっているということが言えます。
  現在は静岡の本館、浜松の分館と呼んでいるのですが、私は、それぞれが異なったミッションを持って、明確にしていく方向がいいのではないかと思っております。
  静岡、浜松ともに入館者数が減少しております。その中で、新しい図書館のあり方を考えていくという共通の課題を共有しながら、各々が独自の方向も模索したいと思っています。
  常勤職員は17名ですが、この5年間で2名、1割ほどさらに削減された中で、さまざまなアクティビティーを発揮しようとしています。現状としては、研究協力、情報企画、産学連携、社会連携と図書館を統括する部長の下で、課長が1名と副課長が2名、常勤職員が14名、非常勤職員が8名、派遣職員が13名で運営しておりますが、派遣職員は、静岡、浜松ともに2名ずつがデータベースへの蔵書の遡及入力のために雇用した職員(期間雇用)です。データベースへの遡及入力率はほぼ85%で、まだ十分ではございません。90%までの達成を目標に予算を要求し、進めていこうと考えているのですが、まだ数年はかかるところです。
  2つのキャンパスの概要ですが、静岡は人文学部、教育学部、理学部、農学部の4学部。浜松は工学部と情報学部の2学部で、学生数は約5対3と大きな開きがありますが、大学院生数は逆転しています。つまり、静岡は学部学生、浜松は大学院生のウエートが大きいという印象を持って、運営に当たっております。
  学生も運営によく参加しており、リニューアル後は、さらに中心になっていただきたいと思っておりますが、まずはモニターとして年数回の会合出席以外に、選書や他大学への見学を共同して行い、静岡大学の図書館の今後について話し合いをしております。
  夜間、時間外の開館に関しては、静岡はアウトソーシングで対応しておりますが、浜松分館は建物が小さく、工学部は大学院生が沢山いるため、大学院生を中心にしたアルバイトで対応しております。
  全国の国立大学法人の図書館の中での位置ですが、蔵書数等に比べ、受入冊数、受入洋書冊数等は、財政的には十分ではありません。ただし、入館者数で見る利用状況、貸出数等は、それなりの位置にはあります。特徴的なことは、他大学への図書貸出冊数が非常に多い大学です。これは、目録等、アクセスされたときのデータの表記の仕方も理由かなと考えております。蔵書をいかに充実させていくかという宿題を背負っております。
  総予算が約1億9,000万円で、本学の運営費交付金に占める割合では2%を少し下回っています(総収入に対しては1.3%程度)。アメリカ等も含めて見ますと、2%というのは図書館の宿命的数字のような気もしますが、静岡はさらにそれより少ないという印象を持っております。
  当初予算では資料費1億1,000万円、運営費7,600万円で、外部資金は非常に少なく、今年、昨年に限っては、NIIからのリポジトリの構築経費のみです。電子ジャーナル、二次データベースに係る経費の補てん分は、学長裁量経費を充てています。
  電子ジャーナルには、1億円弱の予算を充てていますが、学生用図書費は2,800万円です。これは、学生、大学院生の授業料の0.6%程度と非常に少ない額ですので、引き上げなければ学生に対して申しわけないと考えています。
  電子ジャーナルの1アクセスあたりの単価(資料7頁)について、パブリッシャーは、よく1アクセスあたり10ドル程度が目安値と言っておりますが、私自身は5ドルぐらいがボーダーで、それを切っているのがいいと思っています。SpringerLinkは沢山のタイトルを提供しますが、静岡大学の教員はあまり読まないものも沢山含まれています。Nature、Scienceは静岡大学の学生、教員はよく使っており、役員会に訴えるデータとして使っています。
  被害者意識ではないですが、地方の総合大学が一番厳しいと思っております。新しい契約モデルにより、フルセットで電子ジャーナルを買えなくなったとき、学部が6つにもわたっており、どの電子ジャーナルを切るのか非常に難しい選択を迫られます。2011年度の契約が始まる前に、静岡大学としての学術情報基盤に関する基本方針をしっかり話し合ってほしいと部局長会議で申し上げました。現実には様々な分野の方が様々なニーズで使っていますので、図書館委員会の中でワーキングをつくり、取り組みを始めたところです。
  機関リポジトリについては、生き物だと思っていますので、よく手入れをしてくださいと職員に言っております。幸いにもコンピューターに強い職員がいて、意欲的に取り組んでおります。最初の段階では、教授会等へ私どもが出向いて概要を説明し、協力を得るようにしましたが、現在では人文系の先生にも理解を示していただき、ご自分の業績をリザーブすることへの積極的な協力もあり、多くの学内の紀要論文がリポジトリに掲載されています。また、紀要はさまざまな形で管理されており、図書館委員会でそれを一本化する方向で検討しており、今年度も教育学部の幾つかの紀要がそのラインに乗りました。教員登録率は、当初目標としました50%に達しており、今後は60%を目指しております。リポジトリの画面を少し工夫しており、著者情報からシラバス参考書に行ける。そこからOPACへ入っていくというように、循環するような仕組みをつくっております。これが、電子ブックの利用率を上げていく方策になればいいと考えております。
  電子ブックは、非常に立ち遅れており、昨年度までほとんど購入できていませんでした。今年度の目的積立金で、電子ブック用に1,000万円程の予算を獲得して揃え始めました。静岡大学は、修士課程が大学院の中心になる大学ですので、修士課程の教育に広く使っていただきたいと考えています。担当者、出版社と話し合いをして、ツールの開発もしており、さらに利用頻度を上げていくための方策を考えているところです。
  リテラシー教育には、かなりの時間を割いております。新入生をクラスごとに全クラスほぼ必修の形で行いますので、3名が担当し117時間かけております。その中で、アドバンス編も受講したいというリクエストに対応して、2年程前から、図書館職員が実施しており、半数以上のクラスがこれを受けております。図書館のこれからの大きな仕事の一つとして、教育への参画をもう少し積極的に進めていこうと思っています。
  教育支援として、出納業務、利用指導、文献の取り寄せ、紹介状の発行等窓口対応があり、書庫へ本を取りに行って帰ってくる時間などを数値化すると、1日約60、70件の案件に対して、平均すると15分程かける現状が見えてきました。これを常勤職員2名、非常勤3.5名で運営しております。
  新しいラーニングコモンズに向けた取組みの中でも、図書館の一つの機能として、『保健センターの手前の機能がある』という言い方をしております。つまり、キャンパスの中で限られた友人以外とは話をしないで帰っていく学生が圧倒的に多い中で(あるいはほとんど話をする機会を持たない学生も少なくないとおもわれる中で)、図書館のカウンターの機能が、非常に重要であると考えています。現在4月1日に向けてリニューアル工事を進めておりますが、改築、改修をしてスペースをつくることよりも、その後の使い方、文化をどうつくるかが大事であり、TAのあり方を含めて検討しているところです。教員も含めた話し合いを持った後、学生モニターたちと何度も意見交換をしました。これは図書館離れへの対応策でもありますが、キャンパスの中で生協食堂以外に学生が自由に話をしたり勉強したりする場がないという現状に対する、一つの対応策になればいいと考えております。
  地域における大学図書館の役割として、静岡県には、静岡県大学図書館協議会に私学を含めて約20校ございます。短大の図書館、小さな図書室を運営しているところが多いので、静岡大学が研修機能の役割を果たさせていただいております。可能なら、毎年実施したいですが、非常に日常業務が重なる中で、2、3年に1度、研修を県内で大学図書館に向けて実施しております。
  その他、県立大学とは、交流を進めているところです。一方、県内の公共図書館とは、タスクが違う部分等、まだなかなかうまくいっておりません。

  以上です。どうも有難うございました。

【有川主査】

  図書館に保健センター的な役割、或いはカウンター・カウンセラーという考え方は、最近の学生の様子を見ていますと、いい方向かもしれませんね。

【土屋委員】

  電子ジャーナル、データベースの利用状況については、医学部の利用が影響しますが、必ずしもうれしい数字ではないような気がします。
  学部が複数あるが全体の規模が大きくない地方国立大学は、以前のプリントのモデルの時代から苦しい状況にあったと思います。いわゆる地方国立大学とは、どのような認識でいるのか教えていただきたけますでしょうか。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  いわゆるリサーチ大学と呼べるようなものが日本に国立として幾つあるかという議論になると思いますが、私は十数大学ではないかと考えでおります。
  さらに、単科大学は違った側面があると考えております。大きさでいえば幾つもの専門、師範学校等を統合してできた5学部前後あるような地方大学。ただし、静岡には医学部がございません。アクセス件数当たりのコストも、実は圧倒的に教員プラス修士の学生までという中身から考えるとコストパフォーマンスは悪くないのではないか。ドクターの学生がいるところとは、本質的に違ってくるだろうと理解しております。

【有川主査】

  館長からのメッセージに「本を捨てる」とあるのはどういったことなのですか。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  捨てるというのは、キャパシティーがないということが原因となっています。最近3年程で団塊の世代を含め70名程の方が退職し、その方の研究室の図書が帰ってきたら、浜松は厳しいという数字が出ていました。そのため、古い学習用図書で複本の沢山あるものは捨てていくことを始めています。

【有川主査】

  図書館業界で本を捨てるということは、蔵書構築の中に入ることだと思うのですが、めったにそう言い切らないところがあると思います。

【米澤委員】

  一般的にフィジカルな、タンジブルな本は必ずある割合は残ると思うのですが、同時に電子化されているものを買うと高いという問題について、将来的には、規模の大きくない大学図書館としての基本的なお考えをお聞かせいただけるとありがたいと思います。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  静岡大学においては、貴重書が非常に少ないという現実があります。そこで一つの割り切りをするとすれば、そのときの学生、教員のニーズを満たしていくものに少し舵を切っています。

【有川主査】

  時間が経過すると、歴史的な価値が出てきたり、変遷を見ることができたりしますので、一面だけ見て捨てられないところが難しいと思います。
  慶應の三田で、紀要を電子化することによってスペースを圧縮しているというお話をお聞きしたことがありますが、スペースに対してある種のコスト感覚を持つことも大事だと思います。分野によって事情は異なりますが、実際には、どこかにきちんと保存されているということであれば、整理をしたほうがいいのは当然です。

【土屋委員】

  今の段階では、自分の大学の中での重複を1つにすることはほとんど実害がないのですが、NACSIS-CATを見ながら、他大学にあることを理由に捨てることを各館がばらばらに行うと、気がついてみたら同じ本をみんな捨てていたということはあり得ます。コーディネーションがないと、ある部分が全く欠落するという危険性はあると思うので、たいへん重要な問題であるという感じがします。

【有川主査】

  先程、蔵書構築という言葉を用いましたが、日本ではあまりそのような言葉遣いはしません。図書の収集という言い方はしますが、整理や処分に関して、もう少し積極的であってもいいのではないでしょうか。一時期、国レベルでの保存図書館をつくる話があったことがありましたが、現状は立ち消えになっております。そのようなことも含めて考える必要があるのではないでしょうか。
  幾つか分館があるとしても、自分の大学における重複図書の整理はしてもいいと思います。そうすれば、かなりのスペースが確保できます。

【土屋委員】

  加藤先生に伺いたいのですが、緒方先生の報告の中では、図書館の職員がいろいろな意味で、サブジェクトに関する専門性、又は情報流通に関する専門性を求められるとおっしゃったのですが、その辺についてのお考えをお聞かせ願えればと思います。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  この規模の大学では、それにふさわしい人や意欲のある人がいる場合はうまくいくが、そうでないところは追いついていかないという現実がありますので、非常に難しいところです。現状はソリューションがないのですが、大学間の交流をうまく回していかないと、大学の中で育ててバランスをとることは難しいと考えます。

【土屋委員】

  緒方先生のお話だと、採用段階からそのぐらいの方針でやったほうがよろしいということだったと思うのですが、その辺はいかがでしょうか。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  公募人事もしたことがありましたが、ニーズを少し上げる、また、語学力の高い人を求めたいということは考えておりますが、大学の構成や構造などいろいろなバランスをとるためには、難しいところです。

【土屋委員】

  最近は人手がなくなってくると、どんな書庫でも学生を入れると思うのですが、出納業務が残っているということは、閉架書庫があって出納しているということですか。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  これは特殊事情ですが、静岡は対地震防災で非常に神経をとがらせています。そのため閉架書庫には大学院生以外の学生は指導教員の許可がないと入れないというのを原則としています。幸いようやく入退館管理ができるようになり、いろいろな情報がとれますので、一歩進んだ対策は考えることはできます。

【加藤委員】

  地方の国立大学の場合には、地方都市における地域連携、とりわけ大学図書館の果たす役割は、非常に意味を持っていると理解していました。特に静岡の場合、市民との連携、大学図書館の公共的な機能の持つ意義をどう理解されておられるか、お考えがあればお聞かせいただければ大変有難いと思っております。

【加藤静岡大学附属図書館長】

  市民開放講座に来られる市民の方は非常によく図書館を使っていただいています。そのような方々も意識したセミナーを始めました。ニーズが上がってきていると感じておりますので、今後は、先は市内の公共図書館との差別化、特徴を持った使われ方をされたいと考えています。

【有川主査】

  公共図書館と大学図書館が同じようなものではないかと非常に短絡的に言われることもありますが、横浜市立大学では、両方を非常に身近なところにお持ちなので、その違い、重要性についていろいろ経験なさっていらっしゃるのではないかと思います。その辺について少しお話しいただけますでしょうか。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  公共図書館に関しては、横浜市の図書館が大規模ですが、これまで密な連携はあまりとられていませんでした。職員の交流はありましたが、利用上の密な連携はなく、それは今後きちんと進めていかなければならない。同時に、大学は基本的には学生、教職員がメインの利用者ですので、まず専門性に特化して、余力があるところで公共的な一般開放などしていますが、そのような基本的な業務は、横浜市の図書館のほうで受け持っていただくという明確な分担が必要なのではないか。特に人員が昨今削られていますので、そのようなことは重要であると思っています。

【有川主査】

  専門性ということでは、専門図書館もありますが、大学図書館とはかなり異なると私は思っています。その辺はどうお考えでしょうか。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  横浜市の場合には、専門図書館はあまりないと思いますが、公共図書館としての市の図書館に関しては、司書がメインで市民に対してどのような蔵書を構築したらいいか考えていますが、大学に関しては、利用者にとってどのようなものが有用なのかということをまず教員、学生から情報を得て、それをもとにして選書していくという流れ、フローが全く変わってくると思います。その辺を明確化していく必要があるだろうと考えています。

【有川主査】

  大学図書館の役割、機能、位置付けということでは、研究、教育、学習を支援することを特に最近すべての図書館がかなり意識され始めたのではないかと思います。電子化への対応、学術情報の発信は、紀要の編集に関わるという古典的な方法も当然ありますが、機関リポジトリなどで学術情報をつくることに対しても深くコミットするようになってきているという面があると思いますし、社会、地域連携はいろいろな形態があります。
  課題としては、学内での位置付け、財政的な問題や、狭隘化している図書館の施設の整備などが共通にあると思います。そのような中で、大学図書館ならではの問題があって、一方ではアウトソーシングができる仕事も当然あるのですが、大学図書館が果たさなければならない固有の仕事が明確になってきているという感じを持ちました。

【植松委員】

  私はライブラリアンを養成する大学に籍を置いている関係もあり、緒方先生にご質問させていただきますが、大学における図書館司書の養成課程においては、例えば医学の専門知識を有するライブラリアンを養成することは困難です。大学の有する各研究分野の専門知識を有する人材をどのように社会として生み出していくかということが一つ大きな課題だと思いますが、先生はどうお考えでしょうか。
  また、市立図書館から市立大学図書館に配置転換された職員について、大学図書館としての役割の認識が希薄なことが問題とおっしゃいましたが、大学図書館職員の長期研修などでは、公共図書館の方に接客を学ぶこともあって、逆に交流がよい点もあるのではないかと思われます。公共図書館員と大学図書館員の資質として、根本的に何が異なっていると好ましいのかということをお教え願えればと思います。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  医学系に関してはおっしゃるとおり、ほぼ人材を得ることは不可能だろうと思いますが、自然科学系のバックグラウンドを持っていれば、十分医学には対応できると思います。人材の確保と書きましたが、事実上は育成ではないかと思います。たとえ司書資格を持っていなくても、自然科学系の大学、あるいは大学院を卒業した方であれば、図書館に入って勉強していただければ、十分対応可能だと思います。
  また、公共図書館におけるサービスの精神などは、本大学でも明確に欠けているところがあり、今後学んでいかなければならないところはあります。しかし、例えば選書など実務的なことで、公共図書館を経験された方は、まず学生、教員のニーズを把握してからという流れではなく、職員の方がご自身でよいと思うものを集めていくことが主体と考えられている節がありました。それに関しては、大学図書館はどういうものかを明確にして、学生や教員のニーズを把握した上での選書等をしていただく必要があるということです。

【有川主査】

  大学図書館の理想的な姿としては、大学図書館においても図書館職員が高度な専門性を持っていて、彼ら、彼女らに任せておけばしっかりした選書、蔵書構築ができるという状況をつくることが、一つのゴールではないかと私は思っています。そこまで到達するまでの間は、教員と学生の関心や意向を聞きながら選んでいくことになると思います。
  また、大学図書館職員の育成、確保をどうしていくかということについて、先程から言っていますように業務内容や求められる資質もかなり変わってきて、一時期はITに明るい人などとされましたが、現在はほぼ常識的に図書館職員がかなりのことまでするようになっていますので、そういうことは言わなくなりました。サブジェクトについてきちんとした知識を持っている人を配置するということも含めて、業務の内容が変化してきているということがあると思います。
  また、常勤は管理職的なキャリアパスが望まれますが、図書館には常勤と非常勤、外部委託など、さまざまな人が働いています。その中で、全体として多様化した、高度なサービスをどのようにしていくかということも容易ではないし、研修や育成をそのような構成の中でしていかなければならないのだろうと思います。
  そのようなことも含めて、図書館職員に求められる専門性、能力、資質やその育成、確保についても、これから考えていかなければならないと思います。現在、ヒアリングをしていますが、次回はそのようなことについてお話を伺うこともできるのではないかと思います。今日のお二方、特に緒方先生は、そのようなことを普段からかなり意識されて図書館を運営されているという印象を持ちましたので、非常に参考になったと思います。

【土屋委員】

  緒方先生と加藤先生のお話を伺っていて、今、有川主査からご指摘があった、専門的ということの意味の明確化は重要であるという感じがしました。
  加藤先生の「本を捨てる」という表現と、緒方先生の「専門的業務とルーチン業務を区別する」ということは、趣旨としては似ていると思います。図書館業務の中で資料整理、閲覧、カウンター業務、ILL、ホームページの日常的な更新、館内整備及び図書館システム管理(ここで言う図書館システムというのは基本的にプリントの管理のためのものです)は、もはや図書館における専門的な業務ではないということです。本を捨ててしまえばいいとおっしゃるということだとすると、一方では人数が足りない、少ないと言っている以上は、これらは現代の大学図書館の専門的業務ではないと割り切らなければならないのだろうと思います。
  つまり、何が本当に大学図書館として専門性を生かしてなすべき業務であって、何がそうではないかということを明確にしなければならないと考えると、今日お二人の先生からかなりはっきりした切り分けと区別が出てきていて、特にルーチン業務についての専門性をあえて求めないという共通した意見をお持ちだと理解してよろしいのでしょうか。そのようなまとめにしたときに、何か誤解があるのかどうか伺っておきたいのです。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  資料をつくるときに、ルーチン業務に関して言葉の使い方を悩みましたが、他の箇所ではルーチンの専門業務という表現でも記載しました。ルーチン業務であってもきちんと管理しなければ破綻します。したがって、そのチェック体制は絶対譲れないところで、それはやはり常勤職員がしなければならないのではないかと思います。ルーチン業務に関して完全に手を引くと、クオリティーチェックが全くできなくなりますので、基本的なところをまず職員の方々が押さえた上で、ルーチン業務に関してはその一部を委託業者に担っていただくといったイメージを考えています。
  また、専門性が非常に重要と考えるのは、もちろん専門知識と専門的な教員とのコミュニケーションもそうですが、根本的にその分野に対して実感、シンパシーがどれだけ持てるかというところだと思います。つまり、本学の図書館の場合には、例えば文系では地方史のコレクションが非常に充実しています。しかしながら、専門性、関心のない方では、場所が少なくなってきたから廃棄してしまうことも、可能性はゼロではないと思います。したがって、各分野の専門的な知識とシンパシーを持った方々が図書館を守っていくことも非常に重要なのではないかと考えております。

【有川主査】

  ルーチン業務だから外部委託できるということではありません。情報や自然科学系の先生の場合、最初の立ち上げのときはとても関心を持って、一生懸命取組みますが、ルーチン化して維持しなければならないという段階になると、そうではなくなってしまいます。図書館職員は、非常に専門性を発揮して、手抜きをしません。そのことが、例えば目録でも、仕事の質をきちんと維持して高めていますし、そのようなマインドが教育支援や、機関リポジトリの構築などにも生かされてきていると私は認識しております。したがって、そのようなことは上手に表現しておかなければならないと思います。簡単にできることではないと思います。

【土屋委員】

  ルーチン的なサービス業務は、基本的にサービス対象がいるので、それが事後的に評価していけばいいのではないかという議論が一方であると思います。したがって、あえてサービス提供を事前チェックする必要はないという考え方の風潮は、現在、十分説得力を持っている感があるので、人がいないといいながら丁寧にするというのは、何を基準に決めていくかということだと思います。

【有川主査】

  少し考え方を変えなければならない時代になっていると思います。業務自体が変わりつつあり、例えば医学関係では、医者を助けるための仕事でいろいろな方がいらっしゃいます。さらに進んで、教員との境目がないようになってきているのではないかということもあります。そのようなことで初めて大学図書館らしくなってくると言ってもいいと思います。
  以前では、例えば、機関リポジトリを図書館が構築するということは発想できなかったのではないかと思います。紀要委員会に出席することは以前からあったかもしれませんが、出版そのものに関わることはまずなかった。そのように、仕事が増えてきているので、もう少し違った観点からむしろ充実させていくことを、それぞれの大学で考えなければならない時期なのではないかという気もしています。

【米澤委員】

  図書を廃棄するときの手続は一般的にどのようなものなのでしょうか。

【植松委員】

  図書は、各大学の資産であり、財務上の処理の問題もありますので、廃棄図書の選定基準、廃棄の手続が制度化されています。筑波大学では、まず廃棄候補図書リストをつくって、学内に照会する手続をとってから、全国立大学にお知らせを出します。最終的には引き取り手がないものについて廃棄します。

【有川主査】

  廃棄に関しては、大学図書館の場合、図書館の一番トップの会議、委員会に諮って決定します。廃棄の基準が難しいのは、全然借りられていないから未来永劫意味がないということではなく、想定していなかったような問題に役に立ってくることもあるからです。したがって、利用頻度で考えるわけにいかない面があると思います。

【米澤委員】

  将来重要になるかもしれないものと言う人がいるものと、ほとんどいないというものでは、ある程度差があると思います。

【土屋委員】

  少なくとも蔵書構築に関しては、利用状況を判断基準にしないということが図書館のこれまでの原則でした。それに対する逃げ道として、金がかかる話ではありますが、電子化によるスペースの節約で対応してきました。

【米澤委員】

  電子化してもそのうち劣化します。30年、50年して読み出せるかということも考えなければならないと思います。

【有川主査】

  メディアの変化、マイグレーションの問題というのは非常に大事な問題です。これは、国会図書館も含めて非常に大きな問題であると思います。

 

(3) 事務局より資料3「公共サービス改革の検討と大学図書館業務との関係」について、説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【土屋委員】

  国立大学図書館のサービスは、基本的に学生、教員に対するサービスであり、公共サービスそのものではないが、大学そのものは公共サービスであるため、経営効率化の方向に準用するという理解でよろしいのでしょうか。

【飯澤学術基盤整備室長】

  基本的には、国立大学法人の管理運営全般の効率化という観点での議論になっております。その中で、国立大学法人分科会等が大学の業務を事前に調べた上で、様々な業務の中で今回は図書館業務についても検討するということで、アンケートが行われることとなったと伺っています。

【有川主査】

  次回は、大学図書館職員の育成、確保を中心としたヒアリングを行い、それを踏まえた討論をしたいと考えております。

 

(4) 次回の開催は平成22年3月19日(金曜日)16時00分から18時00分を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

――了――

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