研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第28回) 議事録

1.日時

平成21年11月18日(水曜日)10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

 3. 出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、植松委員、倉田委員、加藤委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員、山口委員

科学官

喜連川科学官

学術調査官

阿部学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4. 議事録

(1) 滝澤上智大学図書館長より資料1「上智大学図書館の現状と課題」に基づき、上智大学図書館の現状と課題について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【滝澤上智大学図書館長】

 上智大学は中規模の大学であると思います。8学部、10大学院研究科からなる総合大学で、理工学部もあります。国際化を標榜しており、留学生や外国籍の教員が比較的多く、それが図書館の特徴にもつながっている面があろうかと思います。
  図書館を取り巻く現状と課題について、「学術情報整備」、「利用者サービスの改善」、「図書館経営課題」の3つに分けて、お話したいと思います。
  まず、「学術情報整備」について、電子ジャーナルは、PULCコンソーシアム契約を結ぶことによりスケールメリットを生かして安く導入する努力をしています。現在、主要出版社の雑誌の電子化は終了しており、約2万タイトルを閲覧できる状況になっています。冊子体よりも電子媒体の方が同時に複数で利用できる、図書館に来なくても良い、製本などしなくて管理しやすい、出版されたらすぐにそれが参照できるなど、いろいろメリットがあるので、電子ジャーナルへの移行を進めています。現在、理工学部などがその先頭を切っていますが、人文社会系においてもこれから充実していくことが課題と考えています。エルゼビア社については、Pay per view方式も含む契約を試行しています。
  データベースについては、二次情報データベースが中心でしたが、一次情報データベースに移りつつあります。冊子体とどうバランスをとるか、予算をどう確保するかなどが課題と思います。電子ブックは、まだ試行的に導入している状況です。
  雑誌の価格が毎年10%程度上昇しています。予算の総額はほとんど増えませんので、過去に大幅な雑誌タイトルを削減しました。その削減した原資をもとに電子ジャーナル契約をしています。先生によっては今まで参照していたものが見られないということもあります。それについては個人研究費の充当や、他大学から参照するなど、先生方がいろいろな工夫をしています。
  電子資料購入費が増加し、現在40%程度になっており、今後も増加が予想されます。
 大学の予算に限界があり、全体としてはなかなか増えませんが、大学側の理解を求めて、2007年度以降は若干の増額を実現しています。最初は特別に予算を措置してもらい、以降、それを経常予算に組み込むという恒常的な形で、大学側から配慮いただいています。
  図書館が一元的に学術情報を学内的に管理しています。上智大学で一番特徴的と思われるのは、図書館と同じ建物の中に研究所が、ほぼすべて入っています。かつては研究所ごとにそれぞれの図書を管理していましたが、効率が悪いので、現在は共同利用を進めております。このことによって事務効率も上がるし、資料の参照も容易にできる体制を構築しつつあります。
  また、学術情報を集めるだけではなく、学術情報を発信するという点においても工夫をしています。それは、機関リポジトリの構築であり、2008年度末にサーバを導入し、現在は学内的に試験公開しており、来年度から学外への公開を行う予定です。
  さらに、貴重資料について、目録のデータベース化は終了していますが、資料そのもののデータベース化は、まだ不十分で、今後の取組みの課題になっています。このほか、大学直属の「キリシタン文庫」には貴重な資料がたくさんあり、資料の全文を公開済みです。
  「利用者サービスの改善」として、「情報リテラシー演習」が全学共通科目として必修で設けられています。その1回分は図書館の利用の方法として、図書館職員が中核となって1年生全員に対して情報リテラシー教育を行っています。また、それ以外にも、図書館講習会を年に50回程実施しており、図書館を利用するスキルを身につけてもらうことを目指しています。
  レファレンスサービス機能の向上として、今まで対面レファレンスが中心でしたが、オンラインレファレンスシステムを導入しつつあります。また、チュートリアルや、パスファインダー整備も今後の課題です。
  学習支援サービスへの関与として、図書館フロアを改造して、今年の10月にラーニング・コモンズが完成しました。そこでは、レポートや論文作成指導も行うライティングセンターとしての機能を持たせることを考えています。また、チューターを置いて、より積極的に勉学の指導を行うことを考えています。グループ学習や授業の一環としてプレゼンテーションに利用されており、開設当初から利用者が大変多い状況です。
  「図書館経営課題」についてですが、他機関との連携、社会貢献として、特筆すべきことは、東京都立足立特別支援学校との連携です。これは自閉症の知的障害のある生徒を実習生として上智大学図書館で受け入れており、特別支援学校からも非常に有難いという言葉をいただいております。上智大学としても、いろいろな障害を持った人にどのような対応をしたら良いかという観点で、図書館職員にとってもためになると思っています。
  2001年頃からサービス業務を中心に業務委託を拡大しており、図書館職員は半減しています。外部委託できるものは、ほぼすべて業者に委託しているという状況です。そのことによって、開館サービスなどが拡大して、夜間、休日もサービス提供ができますが、図書館職員が、そのような業務に全く関わらないので、十分なスキルを身につけるような体制を構築する必要があるのではないかと思っています。
  専任職員は業務管理や、企画・立案などのマネジメント能力を持つ者、コミュニケーション能力のある者が必要です。また、ハイブリッドライブラリーにおいては、従来型の冊子タイプの知識を有すると同時に電子情報の取扱いにも詳しい図書館職員が今後は当然必要になる。また、特定のテーマ、例えば法律に詳しい、あるいは理工学部から相談を受けても専門的に答えられるような知識を持った図書館職員が、今後は必要ではないかと思います。
  そのための職員の養成が重要ですが、なかなかそれが難しい。比較的若手で図書館に配属されても、そのうちに他の部署に引き抜かれてしまい、図書館で十分スキルを磨いた者が図書館の中堅職員としてなかなか育たないという問題があります。これは図書館だけではなく、大学全体の人事政策の問題として今後改める方向で検討願うことを考えております。
  大学として、キャリアプランに基づく研修制度を用意しています。例えば外国の図書館に行くなど、様々な研修を受けている人が増えてきています。
  おわりに、上智大学の図書館全体としては、国際関係が強く、洋書を比較的多く持っており、それを利用する者も多いことが特徴だと思います。また、キリスト教関係が強いことも特徴だと思います。
  また、図書館は誰のためにあるかというと、従来、研究中心でしたが、上智大学は昔から教育にも力を入れ、学生のために蔵書を整備してきました。今後は、より一層、教育も重要になると思います。学部学生などは紙媒体を利用する機会が多いので、電子媒体に全面的に移行するのではなく、紙媒体もある程度確保して、バランスのとれた図書館を念頭に置いて運営したいと思っています。

 以上でございます。

【有川主査】  

 大学図書館が、この時期に満たしておかなければならないことが幾つかあると思いますが、今お聞きしましたところでは、ほとんどすべてのことがしっかり満たされているという印象を持ちました。つまり、研究だけではなく教育、学生の視点で、図書館の利用の形としてラーニング・コモンズもあるでしょうし、地域や他大学との連携、電子化や契約等についても、さまざまな工夫がされていると感じました。

【羽入委員】  

 電子ジャーナルのことを学内了解するために、どのような工夫をしているかということについて知りたいので、理系と文系の割合を教えていただけますでしょうか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 理系は理工学部1学部だけです。他の7学部は文系学部です。理系の学生数は2割程ですが、教員数は3割程です。文系中心ですが、電子ジャーナルなどは理系が最新の情報がないと研究できないので、全体の予算の中では、それよりはるかに大きい割合を占めていることになるかと思います。

【土屋委員】  

 上智大学図書館は、私立大学の図書館として典型的と言えるのでしょうか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 他大学の図書館のことを全く知りませんので、よくわかりません。ごく典型的な中堅の大学規模ですので、そのような図書館と言えるのかと思います。

【加藤委員】  

 早稲田大学のような規模の大きい大学に比べると、学生数が中程度の規模ですので、図書館の施策が学内に浸透しやすいという環境があるのではないかと考えました。

【倉田委員】  

 私立大学の場合には幅が広いので、これが典型というのは難しく、規模的には中程度とおっしゃいましたが、図書館として見た場合には、私立の中でも上位のクラスにあるレベルだと私は認識しています。

【山口委員】  

 米国の大学では大学院ごとにラーニング・コモンズを活用するのが大変ポピュラーになっており、私の母校に、昨年訪問したときに、学生が大変積極的に活用している場であるとの印象をうけました。
  図書館の運営費は大学全体から出ているのでしょうか。また、ラーニング・コモンズについて、学部ごとの利用者数などの調査は実施されているのでしょうか。
  人材育成について、図書館職員の研修制度を開始したとおっしゃっていましたが、大変参考になりますので、どのような研修制度、例えば海外に派遣する場合は、どのようなところと提携しているのかについてお聞かせいただければと思います。

【滝澤上智大学図書館長】  

 上智大学全体として、あまり学部が独立しておらず、すべての事柄を全学で対応するという方針です。したがって、ラーニング・コモンズも、全学の誰でも自由に利用できるという体制です。
 また、図書館が独自に財源を持っているわけではありませんので、全学で図書館の運営費、資料費などは出すというシステムです。

【杉本上智大学図書館事務長】  

 研修制度としては、特に海外研修の制度を設けているわけではなく、私立大学図書館協会の国際図書館協力委員会の研修制度を活用し、海外研修に行かせていただくなどしています。
  学内的には、定例で研修会を設けるほか、NIIの研修や私立大学図書館協会主催の研修会に参加するなどしている状況です。

 

(2) 渡辺一橋大学附属図書館長より資料2「一橋大学附属図書館の現状」に基づき、一橋大学附属図書館の現状について説明が行われ、その後、質疑応答並びに上智大学図書館及び一橋大学附属図書館の発表を踏まえた大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 一橋大学が社会科学に特化した総合大学であること、その学術情報資産を管理・運用・サービスするということ、全学共同利用施設であること、こうした3つの点を附属図書館はその目的及び理念として掲げてきました。
  そのことを制度的に保証するため、中央図書館制度を堅持してきました。これは図書館にすべての資料を集中配置する制度です。170万冊の蔵書は分置を認められておらず、非常に効率的に利用されています。商法講習所の設立以来、世界屈指のコレクションを築き上げてきた一橋大学の極めて独自の特色だと思います。そして、蔵書はすべての教職員及び学生・院生に対して、ほぼ平等の利用条件で利用されています。
  中央図書館制度を予算的に保証するのが専門図書費で、これは学内の基盤整備費として、全学の予算の中から、ほぼ3億2千万円を固定費として、優先的に配分されています。
 専門図書費に占める雑誌の割合は49%と上限を定めて運用しています。これは平成17年に雑誌の高騰を受けて学内のワーキンググループが検討した結果です。この中には電子ジャーナルも含まれています。
  電子的情報資料費はデータベース等を指しており、電子ジャーナルは入っていません。これについても年々増加の傾向があり、4%の上限を設けましたが、利用が頻繁になり、4%の範囲内では収まり切らないというのが現状です。これ以外が冊子体の図書購入費になります。
  図書資料購入冊数の推移について、和書は、ほぼ一定の冊数が毎年購入されております。洋書は若干減っていますが、これは電子的情報資料費の部分が食い込んでいることを意味しております。
  図書館が行う研究及び学習支援サービスの特色について、おそらく一橋大学の附属図書館の一番ユニークな特徴といえるのは、専門助手というスタッフを抱えていることだと思います。英語で申し上げますとサブジェクト・ライブラリアンと言われている人材で、現在4名おります。この人たちは、ほとんどが博士号、またはそれに準ずる資格を持った準研究者として、自分の研究テーマを持ちながら、それを図書館の中でさまざまな戦略的な企画・立案に生かそうとしている人材です。この人たちがレファレンスカウンターにも張り付いて、院生で特に博士論文を書こうというような人たちに対して専門的なアドバイスを行っており、非常に効果的な役割を果たしています。
  学部の新入生などに対しては、図書館の利用方法についての個別対応に当てるための学生ヘルプデスクを設置しています。これは、ドクターに進学したような大学院生が後輩の学部学生に文献検索の仕方を教えるなど、個別対応を行なうサービスです。
  また、院生へのサービスとして、大学が他の図書館からの現物貸借費用を上限総額100万円までの範囲で支援しております。したがって、院生は170万冊の当館の蔵書の中から自分の探し求めるものが見つからない場合には、経費負担なしに他大学から現物を取り寄せることができます。
  遡及入力作業については、全体で60%遡及が実施済みです。特に申し上げたいのは、その遡及入力作業が外部資金と内部資金を効果的に使うことによって行われているということです。外部資金を確保することによって、むしろ大学側が積極的に学内措置を講じるという相乗効果で何とか現状まで進めることができました。
  発信サービスとして、HERMES-IRという機関リポジトリを立ち上げ、幾つかの目ざましい成果を上げております。一つは、学内で行われている研究・教育活動の成果を、このリポジトリで発信する。特にユニークなのは、リポジトリを通して電子ジャーナル化した学内紀要を積極的に発信しており、もはや冊子体での紀要の発行をやめてしまうことも可能になる程リポジトリが充実してきました。そして、紀要だけでなく、ワーキング・ペーパー、ディスカッション・ペーパーまで、その著作権に関して包括許諾を得てリポジトリに一括掲載することができています。
  商法講習所以来の非常に長い一橋大学の歴史の中で、数多くの貴重なコレクションが附属図書館に収蔵されています。それを積極的にスペシャル・コレクションとしてリポジトリの中でアップしていく作業もしています。特に社会科学古典資料センターが所蔵している様々な西洋古典の出稿本や書き入れ本も今後積極的にアップしていきたいと思っております。リポジトリの運営費についても内部資金と外部資金を組み合わせる形で行っているということを申し添えておきます。
  附属図書館のユニークなもう一つの特徴は、歴史のある講習会を実施しているということです。特に著名なものとして、西洋古典資料保存講習会は、全国の図書館の古典資料を取り扱う人たちに対して保存技術、修復技術を技術的に講習しています。また、西洋社会科学古典資料講習会は、書誌学、それに関連する古典資料の様々な研究成果を発信するため、本年度、29回目を開いております。
  最後に図書館組織の変遷について触れておきたいと思います。従来、附属図書館は整理課、閲覧課という2課体制でした。情報化の進展の中で、さまざまな情報処理機能、処理部門を組み込んで3課体制の時期もありましたが、学内的に情報処理部門が共同利用施設として吸収されていくことに伴い、逆に図書館自体が図書業務に特化、専門化していく条件が整い、2課体制に戻りました。そして、法人化以降、当館の図書館職員は殆どが図書系職員で占められるようになっています。
  図書系職員の高度な専門性を、今後どのように維持し、また育てていくのかということが人材育成の課題になりますが、専門助手という研究者に近い専門家を抱えていること、図書館職員としてのスキルアップ、あるいは見識の涵養などを充実させるための図書館学を目指す方向の研修に励んでいるという2つの方向での専門化を進めることができるのではないかと思っています。

 以上でございます。

【土屋委員】  

 洋書の購入が減っていることについては、どうお考えでしょうか。
 文科系の教員は、書物を手元に置いておきたいという考えがあって、自分の競争的資金などで買っているということでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 文科系でも、自然科学的な側面の強いビジネスや経済学の最先端を追求している学問分野があり、雑誌やデータベースなどで研究を進めている傾向の人たちもいますので、書籍を買うよりも電子ジャーナルやデータベースの整備にお金を使ってほしいという要望もあります。また、書物自体が高騰し、大型コレクションなどが購入できなくなってきています。そのような幾つかの流れがあって、こうした数字になっていると思います。
  もう一つは、基本的には、中央図書館の本を使って研究するという伝統が続いており、また、大型資金により、自分の研究室で本を買い揃えることも十分考えられますが、最終的には先生たちが定年になったとき、その本を図書館に寄贈するという仕組みもでき上がりつつあるので、様々な経路をとりながら図書館に戻ってくることになると思っています。
  教員の場合は、1年間、借り出すことができます。更新手続を重ねながら自分の手元に本を置いておくことは、一橋大学の中央図書館制においても許されていますので、その自己管理はきちんとしてくださいと先生方には申し上げています。

【土屋委員】

 洋書の購入冊数の減少は、重大視はしておらず、原因が十分わかっていて、それに対する対応もとれているし、最近の研究の状況も反映したものだという理解ですね。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 常に現場の教員の希望を聞きながら選書をしていることも本学の特徴だと思います。教員の要望だけではなく、学生・院生の要望も積極的に聞き入れながら選書に当たっており、今のところ、不満は出ていないと私は理解しております。

【植松委員】  

 「現物貸借の往復送料を大学が負担する」というのは、初めて伺う学生サービスで、非常にユニークな利用者サービスだと思うのですが、このような制度を設けられるのは、これまで、往復送料が学生の負担になるほど、学生は様々な他大学の本を必要としている環境にあったのでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 学問分野が非常に多様化していて、学生のニーズに応え切れてないという我々の大学組織のあり方の反映でもあると思います。院生は多様なテーマを自分たちで開拓して研究しており、学際的な研究をしようとすればするほど、人文科学や自然科学の基本的な文献と格闘しなければならない。ライブラリアンからすれば思ってもみなかったような本を、院生からすれば是非利用したいということで現物貸借を求める。これは大学としては一つの決意でしたが、院生からは大変高く評価されて歓迎されており、利用も伸びています。
  必要経費は年間総額で100万円程になります。副学長裁量経費を充てています。

【有川主査】  

 専門助手の制度など、さまざまな工夫をされていて、特に学生から見たときに非常に魅力的な図書館になっているという感じがしました。
  これから、両館長からの報告を踏まえて、大学図書館の整備について、大学図書館の役割、機能、位置付けや大学図書館職員の育成・確保なども含めて議論していきたいと思います。

【山口委員】  

 機関リポジトリについてお伺いしたいと思います。東京工業大学では、学術国際情報センターの教員と技術職員が連携して全学的に促進していく体制になっており、人材も、予算もかかる状況になっています。一橋大学には、機関リポジトリ事務局というものがありますが、どのような体制で行っているのでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 学術コンテンツの主担当は、固定した組織ではない機動的なチーム編成です。その主担当が主に先生方のニーズをくみ上げて、リポジトリの中に盛り込んでいく様々な内容、アイデアを出しているというのが図書館側の働きかけで、それを受ける技術的な受け皿は、情報処理部門が担当します。常に職員が発信側の先生方のニーズをくみ上げていかなければならないので、しばしば我々は先生方向けの広報リーフレットを発行してお届けし、先生方の研究会や発信のニーズなどを探って対応しています。

【山口委員】  

 研究論文のリポジトリへの掲載はどの程度進んでいるのですか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 紀要や、公式発行物については、全部リポジトリに載ることになっております。市販されている民間の媒体に載せているものについても、先生方の許諾が得られればすべて載せております。また、学内の研究会、例えば学園史について研究している先生方の研究会などはワーキング・ペーパーを積極的にリポジトリを通して学外に配布しています。

【加藤委員】  

 紀要はもとより、ワーキング・ペーパー、ディスカッション・ペーパーまで、かなり子細な部分の成果、資料なども全部リポジトリに入っているとのことですが、これは公表され、雑誌体になっているものについては、基本的には包括許諾がとれるというような、あらかじめのルールがあるのでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 学内で発行されるものについては包括的に許諾をいただくことになっていますが、市販の雑誌に投稿されて発表されたものについては、著者の個別の許諾と出版社の同意がないと取り扱えないので、かなり条件が厳しくなっています。定期的に先生方に発表論文の提供の呼びかけをしています。

【加藤委員】  

 ワーキング・ペーパーやディスカッション・ペーパーなどの資料については、先生方から自主的にお出しいただくことになっているのですか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】 

 図書館側も呼びかけをしています。ディスカッション・ペーパーやワーキング・ペーパーは、社会科学の場合、本や論文になる前の、むしろ生き生きとした議論がそこで展開されているので非常に貴重なものです。しばしばそれを参照しながら論文を書いたり、引用することも行われている分野で、非常に価値があると思っています。あくまでもそれは同意をいただいた上で発表してリポジトリに入れていくというルールにしています。

【羽入委員】 

 一橋大学のリポジトリに関する統計でコンテンツ登録数は07年から08年にかけて、あまり変化はないですが、アクセス件数が非常に多くなっています。これは何か意識的に呼びかけたのか、または自然にその必要度が上がってきたのかという、その仕掛けを教えていただけると有難いです。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 まさに足で稼いだというようなところがあります。コンテンツ主担当という役割を担っている職員が先生方の研究室を個別に訪問し、そのニーズを探って啓発しています。また、学内の広報誌などを通して、かなり大々的なキャンペーンを張っています。また、教授会でアナウンスして、リポジトリの概念がわからない先生にも周知するよう何層にもわたる働きかけをして、ようやくここに至りました。先生方にとっても、リポジトリに載ることは、外部からのアクセスが非常に容易になるので、自分の論文や研究成果がどのように社会で注目されているかがわかるというお話しをすると、それならば載せたいとおっしゃってくださって、このような結果になったと私は理解しております。

【山口委員】  

 リポジトリのチームは何人体制ですか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 4人です。

【喜連川科学官】  

 包括許諾について、学会の中でも研究会のようなもので発表した場合、著作権は学会が持っていると思います。機関リポジトリに入れようと思うと学会には出せないようなジレンマはあるのでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 学会だけではなく、出版物についてジレンマを感じており、図書館としては冊子体で発表した研究書なども入れたい。特に大学院生の博士論文については是非入れたいと思っています。しかし、社会学部の場合には、博士論文は公表・公刊を前提にして受理するので、リポジトリに載せると、出版社が出版を引き受けてくれないのではないかという懸念が院生の側にあって、出版を優先して考えます。出版されたら、今度は出版社側の売上が減るので許してくれません。

【土屋委員】  

 出版社も、特に中小の場合には著作権譲渡を受けていない、権利は著者にあるだろうと思います。むしろ難しいのは、学位をとった学生は大学にいないことが多く、把握できないということの方ではないでしょうか。
  著作権の問題については、日本全体として、話し合って決まりを作るなり、方向性なりを示す必要があると思います。

【有川主査】  

 学位論文を機関リポジトリに置くことは、出版、公刊をしたことにならないのでしょうか。要するにパブリッシュされていれば良くて、印刷物にならなければならないということはないと思います。

【土屋委員】  

 学位規則(文部省令)によれば「論文を印刷公表するものとする」と書いてあります。

【有川主査】  

 学位論文は機関リポジトリに置くことを条件にして、その後は必要に応じて紙媒体で出版しても構わないということにすれば劇的に変わるし、アクセス件数も非常に増えると思います。

【土屋委員】  

 国立国会図書館の21年度補正予算の計画の中で、90年代の学位論文の電子化を行うことになり、その制度づくりの相談を国立国会図書館と国公私立大学図書館協力委員会の間でワーキンググループを作って議論をしてきました。
  補正予算による計画が始まる以前の段階の議論で指摘されていた点は、むしろ論文がデジタルな形態で提出可能となった後、どのようにしていくかという問題で、制度上の整備として、現在の学位規則の「印刷公表」を何とかする必要があるのではないかということでした。また、国立国会図書館に送ると公表したことになるという理解をしている大学が多く、それが定着しています。
  学位論文の著作権は、通常、学位取得者が持つとされているようで、学位を取得して大学から出ていくような場合に、その段階で必要な許諾を全部取っておかないと、後々処理が難しくなるので、国立国会図書館による収集についてはどうするか、大学が機関リポジトリに載せるときはどうするかということについて、統一許諾書のようなものを全大学共通に作ることができれば、有効ではないかという議論が今、大学図書館側と国立国会図書館の中で行われています。
  ただし、大学図書館自体の学内の学位論文についての関係というのは必ずしも自明ではなく、学内に対しては、国立国会図書館又は文部科学省から大学に対して働きかけるというプロセスを踏まなければならないのではないかという指摘もあるので、それらについてもこの作業部会においても議論していただければ、全体として大変円滑に流通するようになるのではないかと思いますので、よろしくお願いします。

【有川主査】  

 少し範囲を超えるかもしれませんが、我々としては、電子化、情報発信、機関リポジトリなどを進める中で、このような問題があるので考えてもらいたいという程度のことは当然言って良いと思います。非常に大事なことが議論できたと思います。
  滝澤館長の報告では、外部委託による経済的な効果はあまりないという見方もできるかと思いますが、どうなのでしょうか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 専任職員の給与は、委託費よりは高いのですが、全体として、それ程経費は減らないかもしれません。外部委託の様々な形態により、サービス内容が改良されるのではないかと考えています。

【有川主査】  

 選書も含めて大学図書館のすべての業務を請け負うというアウトソーシングもあるのですが、上智大学は、ある種の基準に基づき専任職員の部分とアウトソーシングする部分を切り分けていらっしゃるようですが、その辺については、どのようにお考えでしょうか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 技術的な面で定型的に処理できる部分についてはアウトソーシングする。しかし、大学全体の意向を踏まえて政策的に判断すべきようなものを含んだ部署は、専任職員で対応すべきではないかということで、図書館業務全体を委託するようなことは全く考えていないし、現在の委託が適正なところと考えており、これ以上、専任職員の業務を外部委託に変えることは考えていません。

【有川主査】  

 専任職員に求められる機能について、国立大学も法人化により、基本的には職員が異動しなくても良いことになっており、キャリアパスをどう形成するかという大きな問題があります。公私立大学では、図書館について全く知識のない人が異動してきたり、図書館から全く違う部署へ異動していくというようなことで専門性が確保できないという問題が指摘されます。一方では、そのような異動がないと、閉塞感が出てくるという問題もあると思いますが、どうお考えでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 一橋大学の場合は、附属図書館員はすべて図書系職員です。外の世界を知らないとよろしくないということで、他大学との間で図書系職員同士の相互交流を積極的に行っています。東京大学や東京工業大学と本学との間で相互に2年、3年派遣されて、また戻っていく。そのような図書系職員同志の交流、異動は積極的だと思っております。
  問題は、専門助手と言われているサブジェクト・ライブラリアンの今後のキャリアパスをどう形成するか。おそらく、まだパイオニア的なポストですので、なかなか次の方向が見えてきてないので、少し不安はあります。

【有川主査】  

 教員との間の交流、即ち准教授、教授になるというようなパスがあり得ると思います。外国でもそういうことはあると聞いていますが、そのようなことはお考えではないのでしょうか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 大学全体としての方針で、どう位置付けていただけるかが問題だと思います。法人化以降、フレキシブルになったと思いますので、大学がどれだけサブジェクト・ライブラリアンをこれから育てていってくれるかという大学の見識の問題でもあろうかと思います。

【植松委員】  

 サブジェクト・ライブラリアンは、いわゆる任期制の教員ですか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 任期5年の任期制です。再任も可能でトータル10年間はいられます。

【土屋委員】  

 上智大学は、定型業務を業務委託するとおっしゃっていましたが、専任職員は何をされているのですか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 全体を統括するのが専任職員です。主要な各部署に専任職員がいて、必要な指示を与えています。

【土屋委員】  

 例えば専任職員が5時に帰ると、その後はお任せ状態になるのですか。また、人数的に見ても、20人の専任職員で、20~30人の業務委託です。同じぐらいの人数を統括するというのも何か変な気もするのですが、統括という一言ではなく実態的にどのような仕事か教えていただけますか。

【滝澤上智大学図書館長】  

 例えば夕方5時以降の業務は入・退館者の管理や、図書の貸出・借入などに限られるので、専任職員が必ずしもいなくてもできます。しかし、図書の受入・整理などは、業務委託の部分と専任職員が行う部分が完全に分かれるということはありませんので、クロスしています。そこで、常に専任職員が全体的な流れを把握し、適宜適切な指示を与えます。また、レファレンスなど専門的な知識が必要なものは専任職員が専ら扱っています。機関リポジトリの構築、管理的な仕事も専任職員でなければできませんので、重点的に配置しています。

【羽入委員】  

 図書館の機能としての学習の場ということを考えたときに、図書館職員でなければできない事柄というのがあるのではないかと思います。一橋大学で新しく作り上げられたサブジェクト・ライブラリアンというのも、その1つのあり方で、今まで大学の中の機能として事務系、教育系、研究系と分かれていたものが、その中間的な役割を果たす人が必要になってきたということなのだと思います。両大学とも講習会などを頻繁になさっており、そのとき図書館職員が、授業や、学生との接触、教育カリキュラムなどにどのように関与しているのか、教えていただきたいと思います。

【滝澤上智大学図書館長】  

 図書館のツールの使い方のような講習会は、専ら図書館職員が関与します。また、外国語学部などで授業の一環として図書館で専門的な外国の文献を調べる方法を勉強する場合には、その担当の先生と図書館職員がペアを組んで、図書館の中の情報検索の部屋で授業するという協力体制です。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 一橋大学の場合には、特に4月に新入生が入ってきたとき、重点的に、まずガイドツアーとして、1日2回、3回と職員が希望者を募って図書館の中を案内するというツアーをしております。次に、ゼミナールが開かれると、要請があれば出かけて、図書館の使い方を教えるという特別サービスをしています。カリキュラムの中に盛り込まれた図書館事業は、まだないと言わざるを得ません。ただし、個別対応として、ヘルプデスクを設け、院生が後輩に図書館の使い方を教えるという形で学部学生の指導に当たっております。

【羽入委員】  

 図書館を利用していただくためにガイドするということではなく、図書館を利用しないと大学にいて不利だと言えるような図書館の位置付けを大学の中で作っていくべきではないかと思っています。そのために図書館がどのような機能を果たすか、中核的にどうあるべきかということを考えるために何かアドバイスをいただければと思ってご質問しました。

【土屋委員】  

 学習支援とは、基本的には学生全員を対象にしなければならない。しかし、図書館に頻繁に来館する学生は20~30%というデータが、多くの大学の調査から出ていると思います。実証的には、ほとんどの学生は図書館に行かなくても卒業できるというのが日本の大学だというのが現状だと思います。

【有川主査】  

 それはかなり変わってきていると思います。例えば、上智大学の1日の入館者数が3,000人で、全体の学生数が1万2,000人ですから、4人に1人は行っていることになります。年間96万人というのも結構な数だろうと思います。
  私は、目的は様々でも、とにかく図書館に行くということが大事だと思っています。九州大学でも、最近新しくできたキャンパスに、ラーニング・コモンズのようなものができており、利用の形態などが相当変わってきて、よく使われています。そう諦めたりするものではないと思います。

【土屋委員】  

 ラーニング・コモンズに来るということは、必ずしも資料のために来るのではないということだと思います。

【有川主査】  

 図書館の使い方が変わってきていると考えれば良いと思います。

【滝澤上智大学図書館長】  

 図書館に来てもらわないことには図書館の利用はあり得ないので、ラーニング・コモンズや全館開架式など、図書館に来てもらう努力を最大限しています。

【喜連川科学官】  

 一橋大学の「館外貸出冊数」に関し、年ごとに学生はよく本を読むようになっている。要するに図書館が知識の源泉としての役割を十分果たしているということを意味していると理解してよろしいのですか。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 その通りです。

【三宅主査代理】

 高尚な本を借り出して一生懸命読んで卒論を書くといったことだけが図書館の使い方ではなく、卒業するまで一度も行かなかったが卒業後も図書館の電子ジャーナルは使っている人もいるというような広さがあって、図書館が一種の新しい機能を果たすものとして、別の名前で呼んだ方が良いような場所になっているのではないかとも思います。いろいろな多機能を認めた上で図書館の役割を考えていく必要があるのではないかと思います。

【加藤委員】  

 図書館による学習支援機能というのは、おそらく現在一つのキーワードになっていて、各大学がかなり積極的に対応されています。図書館の役割というのは、来館して何をするかということは確かに問題ですが、来館者が増加傾向にあるということは、確かなことだろうと思います。
  図書館職員の役割や機能を一般的に考えたときに、先ほど一橋大学からご紹介のあった専門助手という形でスタッフを抱え込むということも、図書館の中にいるスタッフの一つの形だろうと思います。
  また、いわゆる伝統的な意味での図書館職員がどのように学習支援に関わるかということも新しい一つの方向性だろうと思っています。現在、導入教育ということが盛んに言われていて、例えば学部のカリキュラムの中身に図書館の情報リテラシーが導入教育として入り込んでいくというのは、必然的な流れだろうと思います。そのプログラムをどう図書館の職員として開発できるか。それは図書館の中に籠もっていては、できない部分もあるし、教員との協働が必要だろうと思います。これからの流れの中で、図書館職員の役割自体はかなり変わっていくでしょう。特に学習支援機能との関係では、積極的な側面が強調されるのではないだろうかと考えています。

【山口委員】  

 図書館のあり方として、図書館に来館するだけがサービスではない。今後、図書館のサービスの多様化が重要な点になってくると思うので、例えば統計も、来館した人数を集めるだけではなく、提供しているサービスごとにどれだけの利用者が増えているかということも重要になってくると思います。

【喜連川科学官】  

 知に対してのアクセスボリュームが増えているのか減っているのか、そのサービスをどう作っていくのかという議論だと思います。
  一橋大学の「参考調査業務件数」が減ってきている傾向に見えますが、これは専門職員のexpertise(専門的技術)が使いにくくなっているからでしょうか。

【大場一橋大学附属図書館事務部長】 

 統計のとり方に少し問題があったという気はします。実態をどれだけ反映しているかというのはありますが、学生がカウンターに気軽に来ていないという部分は反省点としてあるかもしれません。

【喜連川科学官】  

 減り方が無視できない程度と感じます。学問のdiversity(多様性)が非常に高くなる中で、専門的な業務が4人でカバレッジできるのかどうか。学問の形が変わっている中で、情報アクセスをどうするかということをもう少し考えても良いのではないかと感じました。

【有川主査】 

 今、4人程ですが、理想的に何人いらっしゃったらいいのかということでしょうか。人社系と理工系の違いというものも出てくるのだろうと思います。

【渡辺一橋大学附属図書館長】  

 サブジェクト・ライブラリアンを配置するときに西洋史関係と日本史関係の2つの領域をまず重点的にするため、西洋史についてはドイツ語、フランス語に堪能であって博士号を持っている者、日本史については古文書等をきちんと読める者というような、同じような学歴で採用しました。2名・2名というのは西洋史・日本史ということです。
  また、学部学生にとってのサブジェクト・ライブラリアンは、少し敷居が高いのです。院生で特に博士論文を書きたいという相談者にとっては、サブジェクト・ライブラリアンは非常に良い助けになります。学部学生については、図書館をどう利用して良いかわからないという非常に初歩的なニーズが高いので、ヘルプデスクというもう少し学部生に身近な先輩として博士課程に在籍する程度の院生を配置するという対応をしています。

【土屋委員】 

 一橋大学のデータに関して、「内容別」の「事項調査」というのは本当のレファレンスだと思うのですが、もともと非常に少なくて、一定限度です。「総件数」に影響しているのは、「所在調査」と「利用指導」が減っているということが影響していると考えられます。要するに「所在調査」というのは、いわゆるOPACなど、電子的な方法で遡及などにより整備されていくので当然減っていくであろう。「利用指導」についてなぜ減っているのかは、いろいろな問題があるのだろう。それは今後分析上の課題だと思います。多分これはどこの図書館でも同じ状況だと思います。

【有川主査】 

 滝澤館長と渡辺館長、どうもありがとうございました。非常に大事なお話を聞けたと思いますし、大学図書館の課題などにつきましても議論できたと思っています。
  次回以降も大学図書館の実態を把握するために、引き続き大規模大学などの大学図書館のヒアリングをしようと思っております。

 

(3) 事務局より、次回の開催は日程調整後連絡する旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

――了――

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