研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第26回) 議事録

1.日時

平成21年7月16日(木曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員

科学官

喜連川科学官

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1)事務局より資料1「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ案)」、資料2-1「用語解説」、資料2-2「参考資料」及び資料2-3「基礎資料」について説明が行われ、以下の意見交換が行われた。

【有川主査】

   本文の最後の研究費部会との関係は、前回の案では、かなり具体的に書いていましたが、研究費部会のまとめ方の影響を直接受けるようにしますと、まとめていくことが難しいこともあり、かなり整理したようですが、大事なポイントは残っていると私は感じております。
   それでは、全般的な審議をしていただき、その中でお気づきになったことについても発言をしていただければと思います。全体的なこととしては、サブタイトルを「電子ジャーナルの効率的な整備及び学術情報発信・流通の推進」にしたということがあります。したがって、大きく「電子ジャーナルの効率的な整備」と「学術情報発信・流通の推進」、に分けてまとめてございます。最初の方で、図書館の整備ということを大きく書いておりますので、前回ご指摘いただいたようなことも踏まえて、大学図書館の意義などについてもしっかり触れています。
   1ページの「大学が行う高等教育と学術研究活動全般を支える」ですが、図書館の場合、特に学生の視点が大事だと思っています。例えば「大学で行う学習と高等教育、学術研究全般を支える」としていただきますと、学生のこともしっかり考えているというメッセージになると思いますが、いかがでしょうか。今は、国公私問わず、大学図書館機能として、特に学生の学習の場ということに関して、非常に重視してきているところですので、そのようなフレーズを1つ入れておけばどうかと思います。
   2ページの「紙媒体による情報と電子化された情報とを有機的に合わせて」の「合わせて」は、後ろの方では「統合して」がありますので、「統合して」の方が良いでしょうか、あるいは「連携させて」とか。

【土屋委員】

   今さら紙媒体の話をするのはどうかという感じがしました。要するに、「バランスのとれた意見としては両方あるのだから、どちらも大事」というのはよくわかるのですが、これからの大学、高等教育における学術情報基盤だけではなく、教育活動、研究活動全般に関して、どの方向へ持っていくのかというビジョンがあるとすると、紙にこだわる意味は、むしろ別途特徴づけるべきで、全体の方向性としては、電子に向かうという雰囲気が出ていないといけないような気がします。

【三宅主査代理】

   雑誌が電子化されているか、印刷されているかというイメージが対立している印象が全体として相当強いと思います。実際にはリポジトリや電子化と言っている場合に、紙媒体の強みも残せるということは読み取れる人には読めるかもしれませんが、紙との対比が強いだけに、そのようにはあまり読めないのではないかという気もしました。

【有川主査】

   ここは非常に大事だと思います。私は研究費部会にも関係しておりますが、そこでは紙媒体についてのこだわりが相当強くあります。

【植松委員】

   大学図書館の学習支援機能などについて言えば、従来の紙媒体による情報はまだまだ重要だと思うので、これは今さらという感じでもないと思います。

【土屋委員】

   基本的に、いろいろなものが電子的になっていくにもかかわらず、日本の出版状況の遅れから、日本の学習環境のある部分が非常に紙に依存していることは事実だと思います。しかし、全体として電子ではずっと安くできるものを、まだ紙が残っている。それも日本の出版制度のいわば後進性によって残っている。

【植松委員】

   それは言い過ぎだと思います。冊子体が持つ特性と電子的なものの特性は、やはり根本的に違うところがあります。

【土屋委員】

   お金がなくなっていく中で、どちらか選べという話と同じではないですか。

【羽入委員】

   土屋委員のご意見は、よく理解はできますが、お金がないという大前提で話すべきなのかどうかということも考えなければいけない。今、植松委員がおっしゃったように、紙媒体というのは1つの文化的な在り方であって、それをコストで計算して考えて良いものかどうかが少し疑問です。
   実際にコストを考えた場合には、例えば電子媒体で常にフリーにアクセスできて情報が得られるような情報環境を整えることに、どのぐらいの経費がかかるのかということも考えるべきではないかと思います。

【有川主査】

   電子化されたものが中心になっていくのだから、紙にこだわるべきではないと言うほど、まだ世の中の理解は進んでいないし、日本では遅れているということかもしれませんが、依然として紙媒体による出版は盛んです。
   図書館において蓄積されたものが非常に多いのですが、紙媒体の単行本などが占めるスペースも役割もまだ依然として相当大きいと思いますので、そのように強く言わない方が、むしろ全体をしっかり広くアピールする上でも大事ではないかと思います。ただ、「合わせて」や、「統合して」などの表現はもう少し工夫して、実態に合うようにしたらどうかと思います。

【土屋委員】

   1ページの「資料の収集及び提供の方法が従来とは根本的に変化しつつあり」というのをお認めいただければ、構いません。

【有川主査】

   「合わせて」というところを相補うような「有機的に補完する」という言い方が良いのかもしれません。

【喜連川科学官】

   いわゆるデジタルメディアのプリザーバンス(保存)をどう100年保証するかというような議論はされたと思ってよろしいでしょうか。

【有川主査】

   そのことも少し気になっていたところですが、今のところ、一番信頼できるメディアは紙だとはよく言われます。いわゆるマイグレーション(移行)の問題は意識しながらだと思います。
   ネットワーク上にあるデータ、資料、情報のアーカイブについて、国立国会図書館でも議論していますが、これも非常に難しい。

【土屋委員】

   非常に端的な事実としては、紙のコピーを作る、印刷することは非常にお金がかかる。しかし、デジタルのコピーをつくるのはとても簡単です。もちろんハードディスク、フロッピーディスクにコピーして、ずっと読めるという保証もどこにもない。しかし、今まで紙で出したものを残してきたぐらいの注意をすれば、もしかしたら残るかもしれない。先のことは誰もわからない。

【喜連川科学官】

   私は情報系なので非情報のことを弁護するのはおかしいのですが、結構、今までの歴史観からは、電子化の方向性にアゲインスト(反対)される方は相当おられるのも事実だというのは、そのとおりかと思います。

【有川主査】

   従来とは根本的に変化しつつありますが、紙媒体を完全に否定するようなことをしない方が良いと思います。

【喜連川科学官】

   むしろ紙では表現できないものが入れられるような時代に入ってきているというところを強調することによって紙を薄めるという戦略が良いのではないかという気はしています。

【有川主査】

   それでは、1ページの表現は、今のご意見なども参考にしながら少し工夫してみたいと思います。
   4ページに、「中国やインド」を「一部のアジアの国を中心とした」としていますが、「中国やインド」を「一部」と言ってしまって良いか。少し表現を工夫しましょう。

【土屋委員】

   「中国やインド」という名前を出すのはあまり良くないのではないかというコメントをしたのは僕ですが、1つは、「近年」を、どの範囲にするかがあって、例えばNIHの外部ファンディングが伸びたのは多分90年代ですので、そこからは確かに論文は出てきているので、アジアだけではなく、実はアメリカだって伸びているという事情があり、あまり簡単ではないと思いました。
   アジアというよりは世界全体として、あるいは経済危機の状況の中でも、これからの方向は、科学技術や知識社会という方向性で考えるという点は多分動いていない。そうすると、研究開発投資が鈍ることはあったとしても、急激に減らして何とかしようという方向には行かないだろうと考えると、論文生産量が増えていくこと自体は否定できない。それをきっちり述べておいた方が良いのではないか。つまり、トータルなコストが減るということはあり得ないということを、もう少しはっきりした方が良いと思ったところです。

【有川主査】

   アジア諸国をはじめ、世界の多くの国でというようなことなのでしょうか。

【土屋委員】

   第1節のところで「購入種類数」、「購入経費」とありますが、一番心配なのは「種類数」というのがご理解いただけるかどうか。
   確かに「種類数」という単位で統計をとっていることは事実ですが、「種類」を直観的に理解できるか。つまり、絶対的なサイズのイメージがつかめるかどうか。
   もう一つは、学術情報基盤実態調査から引用されている「図書館資料費」と「蔵書数」と「受入数」という数字を「購入種類数」と「購入経費」という形で分けている。しかし、雑誌の蔵書という概念は非常に難しい。電子ジャーナルに関しては蔵書で見ています。つまり、一定期間、契約が継続しているということで蔵書にしていたところを、「購入」という言葉で平坦にしてしまっているので、この数字がこの名称とセットでひとり歩きすることについて非常に危惧を感じるので、どのように書きかえて良いのかよくわからないところで困ってしまったことはあります。

【膝舘情報研究推進専門官】

   土屋委員よりご指摘のありました、電子ジャーナルの購入種類数ですが、確かに冊子のように物理的なものがあれば所蔵は毎年毎年積み重なっていきますが、電子ジャーナルの場合は、あくまでもサイトへのアクセスがどれぐらい可能であるのかということのカウントと解釈しまして「購入種類数」、すなわち購入契約により利用可能な数字であると解釈して、このように表現をしたものです。
   また、冊子体の購入種類数は、あくまでも当該年度に購入した種類数の数字が出ておりますので、それを明記しているところです。

【有川主査】

   これはそういう説明をしておきましょう。要するに、基本的には、種類、タイトル数が増えてきていることを言いたいのです。

【土屋委員】

   全体として利用できるタイトルが増えたということは重要だと思います。金額面に関して言えば、実は国立大学では、電子ジャーナルを買ったお金と冊子を買ったお金の和は全体としてあまり増えていないのではないか。要するに外国雑誌自体は、直接利用できる外国雑誌が増えて、払っているお金は実は2000年頃からあまり変わってないのではないか。

【植松委員】

   5年間で見ると飛躍的に増えたというのは実感としてもわかる話ですが、1年間で経費が34.1%も増えているというのは、この数字だけ見ると、電子ジャーナルが1年間で相当高騰しているような印象を受けてしまうおそれがあると思います。

【有川主査】

   1年間で電子ジャーナルがそのように普及したという見方もできるわけです。

【膝舘情報研究推進専門官】

   考えられる要因は、冊子体で買っていたものを電子ジャーナルにシフトしたということ、さらには大学数が増えることによって購入が増えたということ、あるいは私大でも伸びが結構高かったので、これがすべて値上げを示すということではないということは確かです。

【土屋委員】

   この一節は、価格上昇とか値上げという言葉は一切使ってないところが非常に正確で良いと思う。つまり、普通、値上げしたら買わなくなるものですから、我々がたくさん払っているから値上げしたというのは論理としておかしいので、大学図書館側の状況として、このようにお金を支払っていますと記述したものとして理解すると、その意味の整合性はあって、そして、最後の2行の「外国雑誌の購入が、(「購入」より「講読」の方が良いと思いますが、)冊子主体の契約から電子ジャーナル主体の契約へと大きくシフトした」と確認できれば良いのではないでしょうか。

【有川主査】

   基礎資料もつけて、まとめを出すということに対する解釈をしているわけですので、それほどこだわらなくても良いと思います。少し気になることは、「購入」というより「講読」の方が良いと思いますが、種類数というようなことを言うときに問題になるのかもしれません。

【喜連川科学官】

   電子ジャーナルになって、値段が高くなってきているのでしょうか。
   情報処理学会は、紙を全部やめて電子にしました。それで値段を全部下げましたが、プロフィット(利益)がその方が大きいのです。一見インカム(収入)が減っていますが、エクスペンス(費用)が減るので、プロフィットが上がるというビジネスモデルになっています。それがワールドワイドにどうなっているのか、よくわからない。

【土屋委員】

   外国出版社のさまざまな問題があって、簡単には言えませんが、数字だけを見る限りは、10年前のタイトル当たり価格の平均上昇率と現在とを比べると多分半分ぐらいになった。要するにタイトル上昇に対して価格上昇はあるのですが、ただ1つのタイトルで出す論文数が増える、クオータリー(季刊)がバイ・マンスリー(隔月刊)になるなど、量的な情報は一切なしでタイトル単価を比較しているので単純に言えない部分があります。

【喜連川科学官】

   大概、論文数はどこも増えているのが事実なので、契約のコストだけで構わないのですが、高くなっていますか。上昇率が減っているということは、上昇はしているということですか。
   情報処理学会は上昇せずに安くしましたが、そうはなってないのですか。

【有川主査】

   普通は出版に係る経費は抑えられますから、タイトル数が増えても価格はそれほど上がらない、あるいは減ることを期待したいが、実際そうはなっていないので、大学や図書館から見たときに、電子ジャーナルの価格はどんどん上昇していて大変だということはあります。しかし、タイトルをたくさん見られるようになったのだから価格が上がるのは当然でしょう。1タイトル当たりだったら変わらないのではないでしょうか。そういう意味では、印刷媒体の時と変わらないという言い方はできますが、大学や図書館から見ますと、去年まで買えたものが今年は買えないという状況になっている。それが大きな問題ということです。

【喜連川科学官】

   学会側からしますと、紙で出しておく部分を残すというのは結構大変で、それが残っていると、なかなかコストリダクション(費用削減)につながらなくて、情報処理学会は全部やめましたが、ワールドワイドのパブリッシャーからすると、ブロードバンドがあって見られるところは極めてわずかなので、紙の部分がまだ足を相当引っ張っているのでしょうか。

【土屋委員】

   紙の部分が足を引っ張っているのは事実です。ただし、プリントをキャンセルするという傾向は、むしろ外国の方が進んでいます。にもかかわらず、出版社側から言うと、紙を欲しがっているのはお客さんの方なので作る。本当に全部電子化してしまえば、少なくともお客さんがプリントを欲しがっているからという理屈は通じなくなるはずです。ところが、日本の大学でも、特に伝統のある大手大学を中心にプリントを維持したいという声が研究者の側に非常に強い。

【有川主査】

   大学だけではなく、分野によっても違います。紙のものを時間をかけて見なければ駄目だという人はいます。印刷して届いたものを手にとって広げて見ることによって、アイデアが涌いてくるということを強く言われますと、どうしようもない。

【三宅主査代理】

   紙が大事だという見方で図書館のことを考えている方が3ページを読んでいくと、電子化していろいろなものが読めるようになって、約4倍も種類数が5年間で増えたが、1年間で34%値上がりしてしまう。一方、冊子体は値下がりとも読めるので、この比較が何を意味するのか、明確にしておいた方が良いように感じました。このまま見ると、ユーザーが何をしたいかという話が何も出てこないので、冊子のものはきちんと値段が下がっているのならば、冊子でやっていけば良いという話に読めるのが少し気になりました。

【土屋委員】

   最後にまとめていただいたように、外国雑誌の購入が冊子主体の契約から電子ジャーナル主体の契約に大きく変わっています。
   最初に申し上げたかったのは、この数字の読み方がひとり歩きしたときに、どのように理解されるかということがあるので結構難しいということです。
   もう一つ、別の間違った読み方があって、電子ジャーナルに対するお金の支払いが、冊子に用意したお金を圧迫しているという言い方をする場合があります。電子ジャーナルを買わなければいけないので冊子が買えないという言い方になって、冊子こそが本当の外国雑誌だとかと思っていたりすると、電子ジャーナルと対峙しなければいけないという話になってしまう。

【有川主査】

   その部分は随分少なくなってきていると思います。そのようなことはさっき言ったような、1つの論文を数週間かけて読むような分野の人たちが言うことです。そこは随分変わってきていると思います。

【三宅主査代理】

   その流れで読めるように、このようなニーズがあって、このように利用が増えてきている、だから、それに対応しなければならないということが1で読み取れないと2へつながらないような気がしました。

【有川主査】

   ここはそのような流れで、紙媒体から電子ジャーナルにシフトしてきていて、このような問題が起こってきているというまとめ方にしましょう。

【羽入委員】

   4ページの「大学図書館におけるこれまでの対応」の2つ目のパラグラフですが、パッケージにすることによって、今まで読めなかったものが読めるようになり、学内で利用する人が増えてきているので、パッケージ契約をやめられないということを書いてあると思いますが、これは出版社の側からすれば、必要だから買うのが当然でしょうとなってくる。中止が困難であるということを、わざわざ書く必要があるのかどうかということが少し疑問です。つまり、同じ金額で行こうとすれば読める量が減っていくということだけ書けば、それで良いのではないかという気がします。
   それと関連して、「電子ジャーナルの購入経費の増大は、大学図書館の使命である教育研究を支える学術情報基盤の確保に支障を生じかねない」となっていますが、この問題は、日本の教育研究を支える学術情報基盤の確保に支障を生じかねないというように、図書館の問題ではないと言って良い気がして読んでおりますが、いかがでしょうか。

【有川主査】

   そのように言ってしまうと、特に図書館はなくても良いですかという話になりかねない。今は、図書館の整備ということで図書館が主題にになっていますので。

【土屋委員】

   要するに、構造的に、電子ジャーナルなどの情報に対するアクセス環境が出来上がると、その水準を下げることはできない。下げれば、学術情報基盤としては良くない。それに対応するのに、図書館の使命だから図書館で頑張れと言われても、図書館にあるお金は決まっているので、それでは頑張りようがない。それは大学で考える話であるということでしょうか。

【羽入委員】

   有川主査がおっしゃるように図書館におけるということで限定しているのだから、ここは図書館の話にしましょうということもあるかと思いますが、この全体のまとめのどこかに、やはりこれは国全体の問題であるということを記していただきたいという気がいたします。

【有川主査】

   元々、電子ジャーナルの問題をこの場で扱っているということは国の問題だと認識はしているということです。しかし、今、国がやるべきだと言ってしまえば、大学や、あるいは図書館では、その問題を避けて良いのかということになりかねない。そうではないだろうと思います。冊子体の雑誌のときは、外国雑誌センター館があって、幾つかの専門分野、あるいは地域で集中的に整備することはありました。また、図書館経費が国立大学に対してはなされていましたが、国公私として見たときにどうだったでしょうか。電子ジャーナルになって大変になったから、これは国がやらないといけないというにはもう少し距離があるように私は感じています。国の問題として考えなければいけないくらい大きな問題ではあるのですが。

【土屋委員】

   今まで過去何十年かを振り返れば、例えば外国雑誌センター館の整備や電子ジャーナル導入経費(平成14年)、あるいは学術情報センターが総合目録をオンライン化していくことなどは、文部科学省として継続的に取り組んできたことだと思います。だから、その延長上で議論していると考えれば、当然、国の責任としてどう考えるか、そのための現状把握がどうなるかというように位置づければ、それは良いのではないかと思います。図書館で頑張ってと言われても困る時代だというのは、よくわかります。

【有川主査】

   そのようなことで、国がもう少し行わなければならないということをどこかで書きましょうか。
   5ページの(3)の上のところの「図書館においては」はどうしますか。

【土屋委員】

   「他の資料の購入費を削り、図書館資料の相当部分を電子ジャーナルの購入経費に充当せざるを得ない状況になっている」というほどの裁量ができる図書館はあるのだろうかという感じはします。大学全体として、資料費の枠という概念を持っている大学は、国立大学の場合には、まだ非常に少ない。

【有川主査】

   言って良いと思います。
   包括契約ですから、全学共通経費で対応しなければならない。それは、今まで研究費として配分していたところを電子ジャーナルに回すなど、結果的に他のどこかを圧迫することになっている。
   そう考えると、先程の図書館だけの問題ではないという指摘箇所に関しては、「図書館の使命である」を削ることにしましょう。

【土屋委員】

   4ページの真ん中の段落で、「これは、従来の冊子体での購入種類数を維持することを条件に」と書いてありますが、これはあくまで、ある会社のあるモデルであって、すべての会社でこの方式によってプライシングされているとは限らないと思うので、確かにその会社は極めて大きなシェアを持っていることは事実ですが、これだけ言及しているのはどうかという感じがします。
   パッケージ化した包括契約の値段算定の基準というのは、既に読んでいるものにそうでないものをディスカウントして積んで、全体としてお得になるようにしてあるという仕組みで、過去の支払額というのが何らかの形で考慮されることは事実ですが、その方法に関しては必ずしも会社ごとに同じではないのと、例えばFTEという概念を導入して、どの程度の大学のサイズかということでプライシングしているところはもう既にかなりあるので、この極めて古典的なモデルだけを参照するのが良いか疑問です。

【有川主査】

   これが占める割合は相当多いので、書いても良いと思いますが、これだけという印象を与えないように工夫する必要があります。

【土屋委員】

   もう一つ、「契約金額」という言葉が実は意外と面倒です。要するに為替の問題があって、外国の雑誌を買うときにも契約相手が外国の雑誌社である場合と国内の代理店である場合とあって、そのときの契約金額が何なのかというのがよくわかりません。実際に先程の学術情報基盤実態調査に出てきているのは図書館が支払った金額ですから、代理店や直接支払いも含めて基本的に図書館から出たお金ということになります。外国雑誌を出している出版社に、その中のどれだけが入っているかというのは実はわからないので、当然、仲介している代理店などに行くお金も入っているので、議論の仕方では、そのようなことは排除してしまう。例えば代理店を全部やめることにすれば、もっと安くなるという議論も十分できると言われかねないと思うので、この「契約金額」という表現は結構面倒だと思います。
   一方で、現在のコンソーシアム交渉では、ドル建て、ポンド建て、ユーロ建てで大学と出版社との間の収入保証をした上で、間に代理店を入れるという方式も出てきているので、どの程度のお金が代理店に入るかは存じ上げませんが、契約金額が膨らむ仕組みというのは簡単ではない。また、2009年の契約更新に関しては、円が強くなったので、かなりの出版社に関しては契約金額が減っている可能性がありますから、数字的には裏づけられないだろうと思います。

【有川主査】

   そのような問題があれば、「契約金額」のところは「経費」が膨らむというぐらいにしておきましょう。

【加藤委員】

   6ページの真ん中の段のなお書きのところで、契約交渉におけるプロフェッショナルの活用という提言があります。「契約交渉に係る専門性」の意味ですが、これは一般的な意味でのプロフェッショナルとしての職能的な専門性を言っているのか、あるいは少なくともコンソーシアムとして電子ジャーナルの価格交渉する上での専門家か、どちらを意味しているのかがよくわからない。
   例えば、一般に我々が代理人を立てると言うときに弁護士を立てます。つまり、交渉権限を持たせるという包括的な意味での代理人を指すのか、もう少し専門的な、コンソーシアムの中での専門的な資格をお持ちの方を指しているのか、よくわかりづらいところがあるのですが。

【有川主査】

   それほど詰めているわけではないと思うのですが、今のところ、図書館職員がボランティア的に行っており、それだけではだめだろうという認識だと考えて良いと思います。
   一方で、前回、国大協からのスキームが示されておりますが、そういったことを意識した表現になっているのでしょうか。

【土屋委員】

   まず1つは、「ボランティア的に」という言い方は非常に良くないのではないか。つまり、勤務時間内に行っているので、しかも、明らかに図書館の仕事をしているのをボランティアと呼ぶのは不適切だと思います。他の大学も一緒に行い、自分の大学だけのことを考えているわけではないという意味では多少ボランティア的側面があるかもしれませんが、それは要するに自分のところも安くするためにしており、決してボランティアではないと思うので、しかるべき表現に変更していただきたい。
   もう一つは、「契約交渉に係る専門性」に関して同様の疑問を感じまして、大学の立場を代表して言うときには、学術情報流通に関する専門的な知識を持つことは最低限必要だと思うので、そこは明示しておけば、それ以外のところでも触れている図書館職員の専門性という観点からも整合するのではないかと思います。

【加藤委員】

   7ページの最後の段落ですが、私立大学との関係で考えますと、私立大学の教育研究高度化推進特別補助は非常に重要な意味を持っています。統計を見ても、かなりの件数の伸び、あるいは額の伸びも見られます。したがって、特に学術情報基盤の充実に果たしている役割に鑑みると、一層の充実を図っていただきたいという趣旨の文言を一文加えられないか。

【有川主査】

   国立大学の運営費交付金の額は減っていますが、それと連動して、私学助成が1%ずつ減っています。ですから、ここは減ることについては、そのような書き方ができると思いますが、一方で、もう少しプラスになるようにということで、先程の羽入委員のことも含めまして、表現を工夫するということにしましょう。
   オープンアクセスに関しまして、いかがでしょうか。

【土屋委員】

   最初の行の「人間の基本的な権利である知る権利」と書いてありますが、知る権利というのは基本的人権ではないと思うのでどうなのか。また、知る権利というのは、普通は知識を求める権利という意味ではなく、マスコミ絡みの話のときによく使うので、非常に限定されたコンテキスト(文脈)で使われてきたのではないかと思います。要するに知識一般、人間はそもそも知識を求める生物であるということを言うために知る権利という言葉を使うのは極めて稀だと思います。

【有川主査】

   この表現は、倉田委員からお話をしていただいたときに、オープンアクセスというのはこのような考え方ですという話があって、それを受けているのではないかと思いますが、そうではなかったですか。

【倉田委員】

   多分、私が引用した部分です。日本語で言う知る権利と言った場合には、メディア、マスコミのそのようなニュアンスが入ってしまうというのは確かにそういう受け取り方もあり得るとは思いますので、ここは単に知識そのものへの欲求ということで、別に表現は変えていただいても構わないと思います。

【有川主査】

   ここで究極の理念を言っておいて、一方で「用語解説」の2ページの真ん中あたりに「オープンアクセス」があり、その表現と少し違っていますので、合わせた方が良いかもしれません。この究極の理念をここで入れた方が良いでしょうか。

【倉田委員】

   オープンアクセス自体は、一般的にはインターネット上の論文を中心とする学術情報を無料で利用できることという、狭い意味でしか使われていないと思います。私が究極の理念を申し上げた元々の意味は、人は知識に対していろいろなことを知りたいと思っており、知りたいという要求を基本的には、社会全体として叶えていくべきだという広い文脈の中に、オープンアクセスは位置づけられるのではないかという文脈的なことが言いたかっただけなので、知る権利、知らしめる権利という言い方がいろいろな点で引っかかるのであれば、それを入れていただく必要はないと思っています。

【有川主査】

   「オープンアクセス」という言葉は、そのような広がりと深みを持っているということで、それを書くことによって、オープンアクセスという理念が非常に大事であるということを表現することにはなっていますが、もう少しダイレクトに普通の意味での定義から入っても良いのではないかと思いますので、ここはそうしましょう。

【倉田委員】

   その意味では、段落を入れかえていただければよろしいのではないでしょうか。次の段落で、元々、オープンアクセスはという話から入っていますので、オープンアクセスは一般にはという話を先に出して、でも、元々はという入り方にすれば良いのではと思います。

【有川主査】

   わかりました。最後に、学協会の情報発信ということがありますが、これについては先ほどの整理の仕方で十分だろうと思います。

【土屋委員】

   まず、9ページに「助成対象論文」と書いてありますが、論文に対する助成はないので、正確に書いていただきたい。

【三宅主査代理】

   機関リポジトリというデータベースそのものを指す言い方と、機関リポジトリを支える事業という2つの言い方があると思いますが、そのときに、13ページの「共用リポジトリ」というのは、データベースの話で良いのでしょうか。これは幾つかの大学が使えるような事業を支援するという話をしているのか、ここでもデータベースしか支援しないのだとすると、職員が足りなくて、そのデータベースにものを入れられないという大学は救われないという感じがするのですが、「事業」という字をつけても大丈夫なのでしょうか。

【土屋委員】

   共用リポジトリというのは、機関リポジトリという理念をそのまま考えれば、機関のリポジトリでなければいけないが、例えば、サーバーを運営するための経費などが小規模大学にとって負担が大きいというときに共同して実施するということを指しています。

【三宅主査代理】

   そうすると、「共用リポジトリを提供する」というよりは「共用リポジトリ事業を支援する」という言い方が良い気がします。

【土屋委員】

   例えばある国立大学を中心に、その周辺の大学がという感じなので良いのですが、日本で1つ共用リポジトリがあれば良いでしょうという話も一方では当然あり得ます。

【有川主査】

   これは共用リポジトリ、いわゆるデータベースシステムのことを言っています。小規模大学等では難しいのですが、既にNIIの事業でも実施し、幾つかの大学が連携しているところはあります。ですから、共用リポジトリのサーバーなども含めたシステムを提供するということでしょう。個別に持つのは大変だが、全体で共用のものを持つことはできる。そのようなものを支援するということを言っていると思います。

【三宅主査代理】

   むしろ支援しなくてはいけないのは末端処理の方ではないでしょうか。小さなデータベースシステムをたくさんあちこちに作って、その管理をトップがしなければならないというのは結構面倒なシステムに見えるので、それよりも機関リポジトリとして統一的なものを作るような手間暇のかかる部分を支援するという話をしているのかと思いました。そこを区別する必要がないでしょうか。

【坂内委員】

   共用リポジトリでイメージしているのは、いわゆるクラウド型サービスや、SaaSと言われているもので、ある大学のリポジトリは当該大学がサービスを行っているように見えるが、実際に運用しているサーバーやストレージなどはNIIや基幹大学などの適当な単位でそのようなサービスをホスティングしているという形態です。
   各大学は自分のところのだから自分たちでやりたいというお考えのところもあるし、大変だから、この部分をホスティングしてというように、ケース・バイ・ケースであると思います。

【有川主査】

   大きい大学ですと、各学部や研究科に分かれたりしますが、それぞれそのような大学が対応しているイメージでつくることは簡単にできると思いますので、それはあまり問題がない。
   むしろ大事なことは、この数年間で、NIIが支援して、機関リポジトリが随分進んできましたが、大学の数からすると、サチュレート(飽和)した感じがしますので、それが伸びない理由を考えて共用リポジトリのようなことを実施していったらどうかということです。

【土屋委員】

   14ページ以降の「学協会の情報発信」について、議論が十分煮詰まった形の報告になってないという感じがします。例えば最後のまとめの部分ですが、16ページから17ページにかけて、国立情報学研究所や科学技術振興機構が実施している事業の拡充等に関する検討が必要であるということですが、例えばJSTのJournal@rchiveは、過去にプリントで出たもののアーカイブなので、拡充に限度があるのではないか。
   もう一つは、「我が国の学協会が刊行する学術雑誌を国際競争力を有するものとして育成する観点から、オープンアクセスに対応した学術雑誌についてパイロット事業的に重点支援を行う仕組みを設けること」については、文部科学省は少なくとも科学研究費補助金の雑誌の助成を通じて何十年も一貫して実施してきていると思うのですが、しかも、いろいろな特別な枠を設けて、さらにSPARC Japanで実施していますが、国際競争力を有すると認められるようになったものはあまりないという印象があります。ここはもう少し説明が必要なのではないかという感じがします。

【有川主査】

   今のくだりについては、これまではそうだったかもしれないが、オープンアクセスという観点からそこが突破できる可能性があるのではないか、という位置づけだと思います。
   ここでの国際競争力というのは、よく読まれて引用されるということを言っているのだと思います。どこからでも容易にアクセスできるような仕掛けをすることによって国際競争力をつけていくということだと思います。

【土屋委員】

   その仕掛けがJ-STAGEですが、結果としてJ-STAGEに載せることによってインパクトファクターがとれたという雑誌は非常に少なくて、うまくいったという雑誌はNature Publishing Groupなどを使って購読料収入に走るというのが現状だと思います。

【有川主査】

   オープンアクセスを支援する方法として、このようなことを考えようということを言っているので、そんなにおかしなことではないように思います。

【羽入委員】

   多分、その推進方策ということの中にいろいろな意味があって、例えば、非常に飛躍するかもしれませんが、研究者がどのような意識を持って、論文を載せていこうとするかという、研究者の意識の改革も含めた推進方策に新しい今後のオープンアクセスの在り方が含まれているのではないかと読み取れそうな気がいたします。

【土屋委員】

   全体として、最初の話に戻りますが、当面、このようなことを議論したということのまとめとしてはよくわかりますが、長期的な展望としてどう考えているのかということについて、もう少し言っておいた方が良いという感じがします。

【有川主査】

   これで終わりではなく、今後も引き続き長期的な課題について審議していくことになります。
   本日いただいたご意見などを反映させたものを、審議のまとめとして報告したいと思っています。事務局の方でまとめて、委員の先生方にお届けし、ご意見をいただいたものをさらに反映させて、まとめることにしたいと思います。
   当面の検討課題についての審議は、本日で終わりにしたいと思います。大事なポイントは指摘していただいたと思っております。
   委員のご意見を反映させたものを、上部の委員会に報告するということになりますが、今のところ、研究環境基盤部会が7月31日に予定されておりますので、あまり時間はありませんので、よろしくお願いいたします。

(2) 事務局より、次回の開催は日程調整後連絡する旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

── 了 ──

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

高橋、村上
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