研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第24回) 議事録

1.日時

平成21年5月19日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3. 出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、上島委員、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員、米澤委員

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

発表者

田中国立国会図書館電子情報企画室長

文部科学省

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長   その他関係官

4. 議事録

(1)田中国立国会図書館電子情報企画室長より資料1「国立国会図書館における学術情報流通への取り組み」に基づき国立国会図書館における学術情報流通への取り組み等について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【田中電子情報企画室長】

  本日は国立国会図書館における学術情報流通への取り組みということで、現状と課題につきまして簡単にご説明、ご報告をさせていただきたいと思います。
  国立国会図書館は立法府に属している機関で、国会の衆議院、参議院とともに立法府を構成しています。設立が1948年、職員はかなり定員削減を受けており、本年度の定員は900名を割り、898名です。
  年間の予算は大体210億円台、そのうち資料費、資料購入に充てるお金が1割強の25億円程度です。蔵書数は、いわゆる単行書等の図書資料は洋書を含め900万冊強、逐次刊行物が1,200万点で、年間大体20万冊以上の新規図書を受け入れています。1日の利用(東京本館)は、平均1,500人程度の来館、利用の方がお見えになるという規模です。
  本日お話ししたいところは主に3つで、国立図書館として国会図書館が基本的な役割を持っている中で、学術情報流通に対する全般的な役割があることが1つです。私どもは納本制度により、法律に基づき国内で出版されたすべての基本的な出版物を収集した上で、それを長期的に保存しています。10年のような単位ではなく、100年、それ以上の長い視野で保存をしていくためにどうすれば良いか、ということが私どもの仕事の中では一番重要なことと考えているところです。そのような状況の中で今一番の課題は、情報の電子化、あるいは電子情報に対する対応で、今までの方法が適用できなくなっていることが非常に増えてきており、それが現在の最大の問題であり、今後に向けての重要な課題であると認識しています。
  私どもは科学技術について特別の資料購入費もいただいておりますし、また、科学技術情報の流通政策について今までも役割を持っています。科学技術分野が中心になりますが、学術情報基盤としてどのような役割を果たしていくかという点で、科学技術情報雑誌や電子ジャーナルの価格高騰といった問題についても直面していますが、そのような現状と今後の方向性について、本日簡単にご報告をさせていただければと考えております。
  また、私どもは学術情報という点では中心的ではないかもしれませんが、当然、その守備範囲の中に入っておりますので、大学図書館をはじめ、NII、JST等と連携・協力をして、そのような情報提供機関間での連携を今後どのように進めていけば良いか。その場合にインターネットという電子情報の流通基盤では、すべての機関の役割が統合され、あるいは連携を前提とした形で進んでおりますので、その機能を分担しながら全体として大きな情報基盤を形成する上で、どのような方向に進めていくべきかという、本日はこの3つの点につきまして主にご報告をさせていただければと考えております。
  私どもは納本制度により、国内の出版物を選択、選別することなく、基本的にすべて所蔵している点が他の機関と大きく異なるところです。
  電子ジャーナルについては、大学図書館に比べると大きな導入規模ではありませんが、国会の先生方に対する立法支援サービスによる調査というもう一つの仕事があり、議会への調査情報の提供という観点も含め、電子ジャーナルを契約しているところです。
  国立図書館としての基本的役割の中で、現在、電子情報に対してどのような問題が生じているか。まず、納本制度の対象となる出版物の範囲について、パッケージ系の電子出版物に対する制度的対応を図るため、平成12年に国立国会図書館法を改正し、電子資料のうち、CD等、パッケージの形で流通しているもの(物理的に物として管理できるもの)については、現在、納本制度の中で対応しているのが現状です。
  その後、この10年近くの間、インターネット情報に対する収集、あるいは利用について、検討していますが、パッケージの形ではない電子情報についての制度的対応は図られていないのが現状です。
  この間、納本制度審議会で検討して答申をいただいた後、館内でも実施本部をつくり、数年検討しましたが、インターネット情報を収集・保存することは、いろいろな課題がまだ残っています。
  公的機関が発信しているインターネット情報に限定して、これを法律に基づいて制度的に収集することについて、法律案の作成に向けて最終段階にあるのが現状です。できましたら、今国会中に法案を提出させていただきたいところです。
  その主な内容ですが、国、地方自治体、独立行政法人、国立大学法人等の公的な機関が発信しているインターネット情報について、許諾を得ることなく、基本的に私どもの方で収集し、館内に限定して利用に供する。インターネットで再配信する場合には発信者の許諾をいただく。これは発信主体の権利制限がかかることや、契約等で第三者のものを使用している場合についても、複製については法律で権利制限して、実施するという内容の国会図書館法の改正と連動する権利と著作権法の改正を図らせていただくことを想定しています。
  主な方法としては、収集ロボットを使い、複製することにより集めますが、当然、ロボット等で複製できない部分については、国会図書館の方で必要と判断したものについてそれぞれの発信者に求め、送信をしていただく仕組みを考えております。さらに、データベース形式で国等の機関が持っている情報のすべてを現時点で複製する必要があるのかという問題もありますので、安定的に提供されているものは、お互いの、私どもと当該機関であらかじめ取り決め、収集を猶予する規定も想定しています。
  今回は法律(国会の審議の重要度が高い)のため、国等の公的機関のものに限定する制度対応を図りますが、今後、民間の情報(学術情報)について、保存、収集していくことが課題としては残っております。また、いわゆる電子書籍等についても、対応を図ることはできないのが現状です。
  図書館で持っている所蔵資料のデジタル化が現在いろいろな観点で注目されています。出版物すべてが学術情報ではないですが、時代を経て相対的に見たときに出版物の中で非常に学術的価値が高い。一方で出版物は、数年経つと市場での入手が困難になるため、私どものような機関が長い間蓄積して、利用できるようにすることが非常に重要になってきますが、現在、Google問題のように、インターネット上に図書館が持っている出版資源を再利用できるようなことが世界的規模で進んできており、図書館が所蔵している出版物のデジタル化、再利用、利活用の促進が、現在、商用セクターとの関係も含めて問題になってきています。
  私どものデジタル化に対する取り組みですが、物理的な資料はやがて壊れるので、利用と保存と両立させ、さらに、インターネット上で利用できるようにすることで、全国的な利用を図ることができる。今は明治、大正の単行書で、14万、15万冊ほどインターネット上で利用できるものを順次拡大したいと考えています。課題として、権利の許諾が必要なため、権利状況の調査と、許諾に要する費用(古いものは、許諾する以前に権利者が不明であるため、その調査が必要)が非常にかかってしまうところが大きな問題です。年間1億程度、1万~2万冊程度の規模でここ数年対応してきましたが、今国会で現在審議をいただいております平成21年度の緊急経済対策の補正予算の中で、現在、127億円規模で国立国会図書館の所蔵資料のデジタル化経費を計上していただいており、まだ予算が確定したわけではありませんが、今までにない規模(一部新聞等でも報じられているが、通常の予算が1億3,000万円に対して130億円近い規模)で、100年分に相当する規模でデジタル化の進捗を図ることができ、戦前期までの資料の電子化が飛躍的に進むことができるという状況です。
  もう一つが保存のために資料をデジタル化することで、今まで資料の劣化に対してはマイクロ写真を撮って、マイクロ資料で利用していただくことで対応していましたが、フィルム市場そのものが大きく縮小しつつある状況があり、デジタル化によって利用をある時点で切りかえて原本を保存していく。さらにそのデジタル化した複製物で利用、付加価値をつけた利活用の道を図っていくことが基本的方向と考えております。その裏づけとして、これも現在、国会で審議していただいていますが、著作権法の改正法案の中に従来、図書館全般の資料保存のための複製の規定はありましたが、それとは別に国立国会図書館においては原本を保存するために必要と認められる限度において、電子的な方法による複製ができることを明記した法改正を今進めていただいております。
  私どもはこれを受けまして関係する出版社、権利者の皆様と利用の面については合意の範囲でそれを実施するので、現在、利用に向けての細かいところについて、協議させていただいているところです。
  続きまして学術雑誌の中でも外国雑誌の価格高騰の問題は、現在、重要な問題になっていますが、例えば平成20年度の予算では、科学技術系の約3,000タイトルのコアジャーナルを購入していますが、8億円規模で、予算全体の中で雑誌の占める比重が非常に高くなっており、価格の毎年の高騰に対応し切れないところになってきています。ただし、外国雑誌のコアのユーザーは、企業に属している方が多く、それほど利用規模が多いわけではないということも一方ではあります。また、冊子体を継続購入した上で電子の契約もしている状況で、増え続ける書庫の負担も含めて非常に全体の中では厳しい部分が生じてきています。その中で1つは今年度からJSTと連携・協力を図ることで、お互いに重複購入している雑誌について、段階的に相互利用の形をつくって、一部経費節減を図る取組みを開始しています。今後は、1つは高いお金をかけて購入している割には利用が必ずしも多くないため、これは私どもの利用環境が必ずしも十分でないところがまだまだありますので、1つは利用していただくための環境を改善することによって、さらに利用の拡大を図っていくことは重要と考えております。その上で現在もまだ最終的に重要なコアジャーナルは国立図書館としてすべて揃えていくというのが現在の方針なのですが、価格の高騰に対応し切れないので、それをどこまで図っていくかというところで、予算を獲得してタイトルをさらに増やしていく努力をすべきというご意見を承っており、それが重要な問題になっているというところです。さらに、冊子体と電子の契約をどこまで継続していくか。さらに遠隔複写の問題等もあります。また、国会図書館として、議会に対するサービスは重要な部分ですが、国全体の学術界に対して国立図書館としてどのような科学技術資料の提供をしていくかというところで、より保存にスタンスを置いて役割を果たしていくという議論もありますので、今後の注力すべきところがどこかというところがやはり重要なポイントになってくるだろうと考えております。
  大学図書館と私どもの連携・協力について、従前、大学図書館長と国立国会図書館長との懇談会という意見交換の場を設けさせていただいき、さらに3年前から「連絡会」というテーマに対応するような実務的な協議の場を設置し、ILLの問題のワーキンググループや学位論文電子化のワーキンググループをつくり、検討を続けてきたところです。
  学位論文については、昨年、ワーキンググループの中間報告をまとめ、NDLと大学、NIIのそれぞれの役割の方向をまとめさせていただきまして、その中で国立国会図書館は、今まで冊子体の学位論文を基本的にはすべて集めて書誌をつくっていますので、その遡及電子化に主に力を入れて、今後取組みを進めていきます。冊子と電子形態の論文がスムースに一元的に利用できることを実現するためには、まだ様々な課題が残っておりますので、引き続き検討、あるいは協力を続けたいと考えております。
  デジタルアーカイブの役割について、主にインターネット情報のアーカイブ、図書館の書誌等の資料の内容に対する探し方等のメタレベルの情報を提供すること、所蔵資料をデジタル化することに加え、国全体のデジタル情報資源を一元的に検索できるデジタル情報のポータルサイトを構築し、提供することを4つの大きな柱として進めているところです。
  それを実現するためのシステムを一新して、来年の1月から稼働を予定していますが、デジタルアーカイブのシステムとして、電子書庫という形で、デジタルコンテンツを永続的識別機能により保存する仕組みをつくりまして、そこにインターネット情報もデジタルの個別のコンテンツも格納して提供していくことを進めています。
  昨年の暮れに「創造力を生み出す新しい知識・情報基盤の構築を目指して」という計画(将来計画)を館内でまとめまして、これからの国会図書館の果たすべき役割を知識・情報基盤の中で関係する機関と一緒になって構築していく。単館だけで機能を果たすのではなく、相互の連携・協力の上でこれからのサービス、知識・情報基盤として機能を果たしていくということです。
  その中で私どもの重要な部分というのは、従来、出版物に全国書誌番号を付け、それで流通の基盤を意識してきましたが、さらにこれからデジタルの時代にデジタルコンテンツの流通の基礎となる、あるいは安定的なアクセスを保証するための基盤となるような部分をJST、NII等と連携・協力をして、実現していきたい。全体の知識・情報基盤の中で、国立国会図書館が役割を果たす、連携・協力しながらその一部として機能する、そういう形が基本で、その実現に向けてこれから進めていきたいと考えているところです。

以上です。

【土屋委員】

  インターネット情報改正制度案について、公的機関に限定したことに関して既に大学図書館の中でも議論はあると思うのですが、日本には国立大学、公立大学以外に、それよりも多い数の私立大学があって、それらが学術的な情報基盤の重要な位置を占めていると認識しています。その対応は、法制度の中で、あるいはその周辺でどのようにお考えになっているのかを少し伺いたいと思います。

【田中電子情報企画室長】

  この制度的な対応を図るに当たり、最初は公的機関の発信されている情報に加え、学術情報を一番重要な収集すべき対象として制度化を図ることで検討してきましたが、学術情報を知る権利に法律において制限すると、その発信主体の性格によってその対応が異なってきてしまう側面があり、学術情報を法律上、どのように規定するかという点、あるいはその発信主体に対してその義務を課すことについてどのような対応が図れるかという点で、一度に実現が難しかったというところです。
  最初の段階では、まず国立大学、公立大学を含めて、制度的な対応をお願いすることになりますが、それ以外の私立大学、あるいは学協会等の民間、いわゆる法律上は私事に属するところで重要な学術情報を発信されているところにつきましては、法律上の制度の中でお願いしている国立大学等と基本的には同じような形でのご協力を契約によってお願いすることで当面対応させていただきたいというところで、収集して残していくことでは、基本的に同じように整えていきたいと考えていますが、法律上では全体を含めての対応が難しいところです。

【土屋委員】

  大学にいる方にはいろいろ独自の意見をお持ちの方もいて、私立大学ならば、自分の意思でアーカイブを国立国会図書館にお願いするというスタイルになっているのに、なぜ国立大学等では義務化されなければならないのかという議論が当然出てくるだろうと思うのですが、それに対してはどんなお考えになっているのでしょうか。

【田中電子情報企画室長】

  法律で義務を課すというのは、すべてをご理解いただいて残していくのが基本ですが、事務効率等の問題もあり、また、法的に1つ1つ許諾をいただくことが困難な部分も含まれています。現状の紙の納本制度もそうですが、ご理解、協力をいただけないと実務的には動かないので、どうしてここだけがとなってしまうと、確かにご理解いただくのが難しくなりますが、国立大学は、国等の機関の主体として公的な性格がさらに一層高いので、ご理解を賜りたいというご説明になると思います。

【土屋委員】

  図書館の関係者は国立国会図書館の論理は解るのですが、それ以外の方はほとんど理解しない場合が多いので、もう少し説明した方が良いという印象を持ちます。
  もう一つ、JSTとの連携による経費節減努力における外国雑誌購入の問題について、基本的にはJSTも遠隔複写サービスを行っており、国立国会図書館も遠隔複写サービスを行っていて、JSTは件数が減っているが、国立国会図書館は増えているという認識です。若干、遠隔に複写物を送ることに関しての著作権に関してのスタンスが違っていて、JSTの場合には、基本的に著作権法の31条で言われている図書館という認識は持ちつつも、いろいろな局面では著作権料を明示的に払う方向に行っているという印象を持っているのですが、国立国会図書館は基本的に著作権料を特に支払わない方法できている。権利制限の範囲内という考えだと思います。
  しかし、外国を見ると、例えばBritish LibraryのDocument Supply Centreや、ドイツのsubitoに関して、特に科学技術系、医学系の出版社は、この問題に関してかなり神経質なように思うのですが、連携・協力して、お互いに持ち合って、最終的にはどちらかが1タイトルずつ持つという状況になると、そのサービスの形態と著作権に対する対応のずれがある程度生じてくるのではないかと思うのですが、それに対する展望、対応をお考えになっているのかを伺います。

 【田中電子情報企画室長】

  現時点では、私どもは従前と同じ考え方ですが、遠隔複写は、今はまだ来館の複写に比べると3分の1以下であり、メインではないですが、その比率が高まってくる、あるいは新しい資料に対する要求も非常に増えてくると、私どもはそれで済ませたいと思ってもなかなか情報を提供されている方のご理解がいただけるかという問題も当然生じてくると思います。今後、全体の中でそのような話し合いが必要になれば、受けていかざるを得ないという認識は持っております。

【羽入委員】

  ジャパンリンクセンターの構築によって、いろいろな機関との協力関係を図っていくことと、電子情報への対応によって、複製をしたものを国立国会図書館で保存していくことの整合性について伺いたいのですが、リンクセンターになっていくことは、国立国会図書館で複製を持っていくことと矛盾する気がしますが、この点について教えていただきたいと思います。もう一つ、外国雑誌の高騰は、多分これからも問題になってくるかと思いますが、利用者数が少ないことに対して利用者を増やしていくことが解決の方法なのかと少し疑問に思いましたので、お考えをお聞かせいただきたいと思います。

【田中電子情報企画室長】

  ジャパンリンクセンターは、1つのコンテンツにIDをつけて、それが引用等も含めて相互に参照できる形で、物をどこに分散して持っていても、そのアクセスを保証する仕組みで、そのことと複製物を保存していくことは、一見、違う方向を向いているようですが、私どもは基本的にまずすべてを保存していくことが大きな役割と考えております。現時点においては分散的な形でデジタル情報の利用環境が整備されてくることが大事だと考えておりますが、長期的にその内容が確定する中で、いつ情報がつくられて、それ以降、改ざん、改編を受けていないことが保証されるという社会的な役割をこれから負っていくことになるのだろうという認識を持っております。また、災害等に対して、国際的な視野で、デジタル情報は非常に脆弱ですので、それを幾つにも分散して保存する。そのようなことを全体として考えますと、デジタルコンテンツ自体は分散利用で、私どもはそれをバックアップの形で保存して、全体としてデジタル情報を残していく役割を果たしていきたい。基本的には両方進めていきたい、両方重要であるという認識を持っております。また、外国雑誌の利用環境の改善については、国のお金を投じて非常に高額な雑誌を買っており、国会審議等のためには持っている必要もあるのですが、その費用対効果の面から見ると必ずしも十分な利用があるわけではないというところがある。ニーズがなくて利用がないのであれば、持っていること自体がどうかという話になると思うが、そうではなく、私どもがOPACのサービスから電子ジャーナルが契約していること自体を国民の皆様に十分使いやすいような形でご提供ができているかというところでは、まだまだ反省すべきところがあると考えており、まず利用して、こういうものを持っていて、利用できることを最大図れるべき対応を図っていく。その上で、それが現状のニーズの総体であれば、またその先の議論もあるかと思うのですが、現状ではまだ利用がしやすい環境自体も十分できていないという反省を持っておりますので、このように今認識しています。

【坂内委員】

  デジタル情報、デジタル化は非常に大事で、国としての大きな流れをつくらなければならないが、インターネット上の情報に係る法的な収集権が国立国会図書館に付与されることで、制度的に非常に大きな武器を持つことになります。また、130億円という多額のデジタル化の補正予算がつくことは、そのあるべき姿に一歩大きく踏み出しました。逆に、大学等にしかない情報などのデジタル化を含めて、大きなグランドデザインを描く責任が国立国会図書館に同時に付与されたのではないかという受け止め方もできると思います。権限も、予算も付いたが、他はとにかく頑張りなさいということでは済まない感じがしますので、その大きなデザインに対して、国立情報学研究所や大学等がどのような役割分担をするかという議論は既にスタートはされているのでしょうか。

【田中電子情報企画室長】

  昨年来、国立情報学研究所、科学技術振興機構、国立国会図書館の三機関長による会談を重ねており、国全体のグランドデザインについて、まだ議論をスタートしたところです。将来計画というには内実が必ずしも伴っていないかもしれませんが、昨年度末まとめた方向性も、私どもの内側の視点だけで今後は物事を考えるのではなく、情報・知識基盤全体の大きなグランドデザインの中で、国立国会図書館がどのような役割を果たしていくかという、まず基本的な私どもの立ち位置と方向性を確認した上で、関係機関との協議などを通じて、従来の審議会等も含め、全体に対するグランドデザインの中であるべき姿に持っていくための働きかけをこれから進めていきたい。その重要なところとしては、今、三機関長の会談の中で出ているような組織体というものも当然視野に入ってくるかと考えています。

【有川主査】

  今日のお話で、国立国会図書館の補正予算のことも含めて新しい動きなど、例えばデジタル情報、ネットワーク上にあるコンテンツのアイデンティフィケーション(選別)の問題など、非常に重要なことに取り組んでおられることも分かりました。一方では、特に大学図書館との間で連携をきちんとしておいた方が良いという話もいただきました。最近、国立情報学研究所の努力で大学図書館全体を動かしている機関リポジトリの事業がありますが、学術情報に関しては、発生源であり、編集者でもあり、利用者でもある大学、あるいはその中心をなす図書館との連携を考えますと、国レベルでは非常に効率的な収集、整備ができるのではないかという気がしております。本日はそのようなことも含めて貴重な情報をいただいたと思っております。全体を取りまとめるときに参考にさせていただきたいと思います。

 

(2)事務局より資料2-1「当面の検討課題に関する取りまとめに向けた論点(案)」、  資料2-2「当面の検討課題に関する意見聴取及び主な意見の概要」、資料3「科学研究費補助金(研究成果公開促進費)と学術誌等の電子化について」について説明が行われ、以下の意見交換が行われた。

 

【有川主査】

  研究成果公開促進費をどうするかについて、研究費部会等でも話題になっていますが、「学術図書」については、主に人文社会科学系の図書の評価が非常に高く、これはしっかり継続すべきではないかということに大体なっております。

【土屋委員】

  今までそのように発表されてきたので、人文社会科学系の評価が高いと思うのですが、実際に図書館などで直面している問題の1つは、このような図書は1回出版されるとそれっきりになってしまう場合が多いということです。実際に授業の参考の図書として指定しても、入手不能という場合が結構ありますので、電子化しておけば良いだろうと思う。個人的には「学術図書」の刊行助成を全面的に電子的なものにすべきではないかという感じがします。それを大学がシェア(分担)することによって、これまで日本の、特に人文社会科学系の学問が蓄積していた過去のものを含めて電子化されれば、大学教育の質そのものが非常に向上するのではないか。要するに研究成果に直接学生、大学院生が触れることができる環境、それを利用して教員が教育できる環境ができていくことは非常に重要だと思うので、現在のような印刷媒体、あるいは出版社ベースの助成のように見えるものは止めて、最低限、「学術定期刊行物」で行ったように電子媒体、紙媒体といった枠を設け、前者について広げる努力をしていただきたいと思います。

【有川主査】

  人文社会科学系の出版の方法が電子的なものに変わることに少し抵抗があると思います。しかしながら、国会図書館が大きくデジタル化を進められる中に当然入ってくるでしょうから、そのうちに電子的に見られるようになります。もう一つは、今のことと反するようですが、各大学における機関リポジトリなどの収録範囲は、人文社会科学系が相当多いので、実はその方がよりなじむことかもしれないのです。その辺を理解した上で進めていけば良いと思います。研究費部会では「学術図書」の評価が高いのですが、本作業部会の議論を研究費部会にフィードバックすることは当然あって良いと思います。「研究成果公開発表」は、シンポジウム関係ですので少し別ですが、「データベース」をどうするか。これは基本的にデジタル化されているものです。問題は「学術定期刊行物」ですが、この辺に関しては少し踏み込んで、助成するのであれば、オープンアクセス可能なものにすることではいかがか。特に学協会等に対して、国費を投入することになるので、どこからでも見られるようにしておくことが一番大事なことではないかと思います。したがって、オープンアクセスに一番なじむと感じますが、この辺はどうでしょうか。

【土屋委員】

  オープンアクセスになじみそうな感じはしますが、助成によって実施することは競争なので、これまでオープンアクセスになっていた雑誌が競争に負けてしまって助成を得られなくなった場合、どのようにするか。刊行し続けることになると、結局、何処からか費用を出さなければならない。学会の持っているお金か、利用者からお金を取るか、あるいは全く別のところから資金助成をもらうか、いずれにせよ非常に難しい。したがって、こうしたもののオープンアクセス化を刊行助成の枠の中で実施することはなじまないという感じがします。

【有川主査】

  1つの成功例としてNIIが支援している機関リポジトリのように、全体を助成するのではなく、方向性を与えてあげる。そのうちにノウハウも貯まってくるので、きちんとやっていく。要するに独り立ちできるところまで持っていくことが可能になるのではないかと思います。

【土屋委員】

  平成18年の本作業部会報告では、刊行助成をより機動的なもの、あるいは効率的なものにして対応すべきだというまとめ方をしました。その後、二、三年たっての印象でもあるのですが、一部の学術雑誌に対する助成が適切なのかということに関して、特に「学術定期刊行物」を助成する制度は非常に昔から実施されているにもかかわらず、前回の日本化学会のご発表にもあったように、日本の学術雑誌そのものの質の向上は相対的に図られているとはいえないので、非常に極端な提案としては、止めてしまったら良いのではないか。これが中途半端にあるので学協会が自立できていないという可能性もあるのではないかという感じがします。

【有川主査】

  止めてしまうというのも1つの考え方ではあると思うのですが、そこは研究費部会に議論してもらった方が良いと思います。例えば、「学術定期刊行物」や「学術誌データベース」などをオープンアクセスや機関リポジトリのようなコンセプトで置き換えて、事業をサポートしてもらうとかなり変わってくるし、方向性が出てくることは考えられます。つまり、相当な歴史を持っており、当時としては相当、画期的なことだったのだと思いますが、今の時代で考えますと、今申し上げましたような方向がひょっとしたらあるのかもしれません。学協会だけではなく、大学が申請することによって、大学が出す学術情報を電子化するための最初のスタートアップの資金になり得る。力がついて定常化したら、それぞれの大学の中で行っていく。そのようなストーリーが描けると思います。我々はそういう意味ではデジタル化という方向の過渡期にあると考えて、過渡期に対して国から支援をいただいて、その事業をブースト(押し上げ)してもらうことが考えられます。

【土屋委員】

  おそらく、「研究成果データベース」の枠に関しては既に有川主査がおっしゃったような配分は行われていると思います。例えば図書館が自分の所蔵資料のデータベース化で手を挙げてお金を取ってくることは、既にかなりそうなっているだろうと思います。ただし、有川主査がおっしゃるようにまだまだ不十分であり、大学の中には拾っていかなければならない情報が非常に沢山あると思うので、より積極的な言い方にすれば、「学術定期刊行物」の金額を全部「データベース」に移すということはどうなのでしょうか。

【有川主査】

  「データベース」といいますか、新しいものに対してデジタル化を進めるという枠はあった方が良い。少し私の方で言い過ぎているところもありますが、もう少しその額を大きくして、充実させた格好で電子化を進めるという基軸を出したらどうかという提案は、本作業部会から出せるのではないかと思います。

【米澤委員】

  資料によると「学術定期刊行物」の対象として21年度から公募要領で電子媒体と紙媒体両方を明記したが、まだ電子媒体は1件しか申請がない状況である。これは今、オープンアクセスとデジタル化を促進する立場からすると、電子媒体と紙媒体に対する助成について、傾斜配分によりデジタル化するともっと良いことがあるというスキームを作って両方を並立することが第一歩で、その先でデジタル化、オープン化をもう少し強めていけばどうかという気がします。

【有川主査】

  これは21年度の実績で、電子オンリーというのは1件しかなかったということですが、紙媒体のものは「学術定期刊行物」には入れないというぐらいの踏み込み方をしても良いのではないかと思います。そうすることによって、結局は、小さな学会や大学でも、学術情報の発信に関しては経済的にも電子媒体の方が良いということが分かってくるはずです。ただし、新しい技術が必要ですので、最初は弾みをつけてあげることが必要だと思います。機関リポジトリやオープンアクセスへの流れは加速されるのではないかと思います。研究費部会の方は、いただいた意見をしっかり伝えます。

【三宅主査代理】

  成果論文が、表紙が付いていて持てるような形になっているか、ネット上で電子的な形になっているか、ということについて、海外での端的な例として、テニュア(終身在職権)をとる評価のときに表紙が付いていなければならないという伝統があります。日本の場合、例えば論文として出ているものが電子的にジャーナルとして紙になっていなくても同じように評価するというメンタリティーのようなものを最初につくっておかなければ、一生懸命電子化していたが、他方ではオンデマンドでも印刷しないと評価されないというようなことになる。例えば本作業部会が、アクセスもきちんといろいろなところでできるようになるので、そのような方向が良いと発信する必要があるのではないか。

【有川主査】

  研究成果に関する評価のあり方はどうあるべきかということは、本作業部会が扱うべきことではないかもしれませんが、インパクトファクターやサイテーションインデックスが評価尺度として使われることが多いので、いわゆるコアジャーナル等が重視されています。一方では、オープンアクセスや機関リポジトリ等では、紙媒体では考えられなかったアクセス数、ダウンロード数やCite Seer(検索エンジン)などで見られるような、少しノイズは入っているかもしれませんが、サイテーション(引用)もしっかり捕捉できる技術があります。それは学術論文や成果の評価のあり方に関係してくると思います。分野が成熟していないときには定性的なやり方で評価ができるが、分野が成熟すると、なかなか優劣つけがたくなり、数値化したものに頼らざるを得ないところがある。

【土屋委員】

  「大学図書館における電子ジャーナルの価格高騰への対応方策」という項目の立て方自体が、現在の大学図書館が電子ジャーナルを主として導入することによって直面しているいろいろな問題の見方を極めて矮小化している問題の立て方ではないかと考えます。電子ジャーナル自体は既に普及してしまっており、少なくとも国立大学に関しては、ほとんどの大学がある程度の情報源を利用することができる状態になっている。しかしながら、例えばリンクリゾルバや、あるいは電子資源の管理のシステムなどとそれらのシステムと既存の冊子の形で提供される主として日本語図書などとを統合的に大学の環境の中で利用を可能又は容易化する対応策や、さらに自分が出張先や、あるいは自宅からでも電子ジャーナルを利用できる環境、俗にいうリモートアクセスのようなものに対して、NIIが今年4月から、非常に積極的な展開をしようとしているが、実は案外乗ってくる大学が少ないらしいというようなこともあり、つまり、価格高騰以上に日本の電子ジャーナルに対する大学の環境は、世界的なレベルで見たときには決して良好ではない。確かにアクセスする量は増えたかもしれないが、利用環境としては極めて良好でないという状況があると思われるので、価格高騰云々以上に今ある日本の大学の知的な生産力を維持する基礎になる環境をどう維持するかをもう少し積極的に考えるという枠にしてはどうかという感じがします。

【植松委員】

  価格高騰というと毎年30%ずつ上がるようなイメージで捉えられるかと思うが、現状ではさほどでもない。やはり価格のことだけに関心が集中してしまうのはどうかという感じはします。

【有川主査】

  他のところでも電子ジャーナルの問題は話題になるのですが、必ず出てきているのは、高騰はともかくとして、価格の問題は非常に大きい。国立大学では運営費交付金などが1%減という中で、電子ジャーナルはしっかり価格が上がっていく。一方で共通経費化されることで、学長たちがその問題点を知ることになり、国大協などでも話題になってきている。もう少し何とかならないのかということと、価格が上がっている一方で予算は少なくなっている。その中でどうするかという問題が出てきていることです。また、大事なことは、大学は、学術情報に関して著者の集団であり、編集者の集団でもある。多くは国の税金を使って行った研究成果を論文として世に出した途端に予算のない大学は、自分の論文にさえアクセスできず、一般の市民もアクセスできないことに対する問題があると思います。その辺をどうするか。もちろん大学によっては維持できるところもあるし、もう止めなければならないところもあるが、あまり大したことではないという意見は他ではあまり聞こえてきません。

【羽入委員】

  電子ジャーナルの高騰は、運営費交付金との相関関係で言いますと非常に厳しい状況に各大学が置かれているということと、大学の図書館全体で非常に危機意識があることは、共通していることだと思います。ただし、電子ジャーナルが高騰することを前提にして対応策を考えるというのは少し方向が違うと思います。結局、教育研究環境をどう大学が整えるか、そのときに電子ジャーナルが非常に大きなウエートを占める、それに対して経済的な裏づけができないことが問題なので、教育研究環境を図書館としてどのように確保できるかということがむしろ問題です。その次の具体的な方策として、電子ジャーナルが非常に高くなっているが、それに対して財政的な援助なり裏づけをどうやって確保するかという問題になるので、少し問題解決のバージョンを上に上げると良いという気がします。

【有川主査】

  項目については、「価格高騰」を取って「電子ジャーナルへの対応」とすることとしたい。電子ジャーナルの価格については、すべての大学がお困りなのですが、それを解決するためにどうするか。例えば誰でも見られるようにした方が良いということで、国がナショナルサイトライセンスを導入するということが考えられるが、それは難しいのではないか。仮に国立国会図書館で整備し、どこからでも見られるようにしっかり対応していただければ大学では何もしなくて済む。しかし、国立国会図書館の契約金額が天文学的なものになるだろう。大学間だけでも同じであろうと思います。関心の持ち方も違うし、お金をどうするのか。どこかに予算があって、今まで大学が数億円出しているものを出さなくて済むということにはならないだろう。そうすると、ある種の不公平が生じたりする。1回そうしてしまうと、出版社に対する交渉はほとんど不可能になる。そのようなことなどが考えられると思います。

【土屋委員】

  その前提は、今まで買ったものを取り続けなければならないということがあるわけですよね。止めれば良いので、払えないものは買わなければ良い、買えないという、それだけだと思うのですが。

【有川主査】

  もう一つは、個別的に対応して、買えなかったら止める。それは国レベルでも同じことが考えられるのかもしれませんが、これは図書館で経験がありますが、大体ユーザーの少なそうなところであっても整理しようとすると大変な騒ぎになり、ほとんど不可能です。それが国レベルで起こることになります。おそらくは国で1回やりますと、止めることはできない。増やすことしかできない。したがって、個別的な対応しかない。今のが両極端で、その中間に解があるのかということかもしれません。

【米澤委員】

  価格の条件闘争しかなく、個別に検討するときに安くしてもらうしかないのではないか。

【有川主査】

  これまで、土屋委員を中心に10年近くやってきたことですが、基本的にはコンソーシアムで条件を整えて、大学が個別に交渉していくしか方法はないだろうと思います。

【三宅主査代理】

  書籍やジャーナルはどのようになっていくかという話で、闘っているのが図書館と出版社だけではなく、学会自身が自分たちのジャーナルをどのようにアクセス可能にするのか、まずは会員に対して、それ以外に対してということを考え直さざるを得ない状況には来ているだろうと思います。学会自体が出版社の横暴と闘うという図式が世界的にはあると思うので、例えば日本の中で、先程も補助金の話が出ていましたが、学会が積極的に行っているところもあるので、モデルを考えてみることができるのではないか。もともとどこかが一人勝ちをしてはいけないシステムなので、使う人と発信する人と、それを作成していくところがどのような協力体制をとれば三方勝ちになれるかというシステムをどこかでつくらないと、この話はどこまで行っても解決しないのではないかという気がします。

【米澤委員】

  使う人が多少でもお金を払うというメンタリティーは全然ないのでしょうか。

【有川主査】

  それはかなり初期のころにやった議論で、これまでも十分議論して今のようなことになっている。

【加藤委員】

  コンソーシアムが、契約の交渉主体としてこれまで非常に大きな力を持ってきた。このことは非常に重要な意味を持つだろうと思うのですが、少なくとも今の段階で考えられることは、契約の中身を詰めること自体はある程度限界に来ていて、例えば価格の高騰を抑えるという方向にはなり得ないような状況もあります。今後の方向性としては、契約の交渉を行う上での機能の強化やコンソーシアムに、日本全国の大学が入ることなど、バックボーンを作るというような組織固めが、将来有利に契約を締結する上で意味を持ってくるのではないのかという感じがします。個別の契約の見直しなどは、おそらく一定の限界に達しているのではないのか。

【土屋委員】

  基本的に加藤委員のご指摘は否定できないと思います。一番簡単な解は公立大学と私立大学のコンソーシアム(PULC)300館、国立大学80数館ですので、国立大学がPULCと一緒になれば良い。しかしながら、実態としては、PULC自体がどのぐらい強い交渉システムを持っているかというと、図書館の方々のボランティアに依存しているので、自分の館のことが忙しいときは対応しきれないことはある。ある程度そのような交渉は、国全体としてフィルターをつくっていく。そこに大学の事情や、研究者の需要などが情報として集約されて、国全体として必要な学術情報を最適化して、経済的な意味を含めて最適化して導入できるポイントをつくっていくという状況になっているのではないか。つまり、非常にささやかかもしれない一歩としては、コンソーシアムというボトムアップのスタイルではなく、何かしらの仲介機能、もちろん最終的にお金を払うのは大学の財政事情によるが、国としての最適化という観点からまとめができる場所をつくっていく方向性があるのではないでしょうか。

【植松委員】

  国立大学図書館協会にはコンソーシアム専従の職員がいるわけではないので、土屋委員のような意見もあると思うが、仮に1つのコンソーシアムとして組織をつくった場合、出版社と価格交渉で合意に至ったら、次は、会員の大学図書館、大学と交渉することになるので、それも大変なのではと思う。

【土屋委員】

  先程のいわゆるナショナルサイトライセンスについての実施について、実際の形態はいろいろな可能性があるだろうと思います。各大学の個別契約から複数機関契約への可能性ということについて、多分、この複数機関というのは、複数機関に対してインボイス(請求書)を1本だけにするということだろうと思いますが、インボイス1本にすると、結局、こちら側で、今、植松委員ご指摘になったように内部の負担割合を決めたり、その中で大きい大学と小さい大学がせめぎ合い、文科系、理科系というような話がまた出てくるだろうと思います。しかしながら、国際的に見てもアメリカのコンソーシアムでも、厳密に今申し上げたような形のものはきわめて少なく、実際に機能しているコンソーシアム、一番典型的にはイギリスのNesli2というシステムのように、条件だけを整え、支払い契約自体は全部大学へ持っていくという可能性は十分あるだろうと思います。その場合には、単一のポイントは決して内部的な費用配分にコミットする必要はない。また、買える大学と買えない大学が出ること自体は、決して良いこととは言わないまでも、競争的環境がつくられるという意味においては否定しがたいことであるので、要するに国としての最適化をしつつ、実際に大学が何を選択するかという意味では、一応、それほど無理はないのではないかという感じはします。

【有川主査】

  電子ジャーナルにつきましては難しいところがあるのですが、本日の議論の中でかなり現実的な方向性も見えてきたと思いますので、少しその辺を整理していただきまして、次回、確認しながらまた議論していけば良いと思います。
  2つ目のオープンアクセス、機関リポジトリについてですが、外国雑誌の価格高騰云々だけではなくて、いわゆる公的な資金により得られた成果に対して納税者が等しくアクセスできるということなど、もう少しきちんと考えるべきではないかという視点もあるのではないかと思います。例えば、次期(第4期)の科学技術基本計画を議論する時期になっていますが、第3期計画においては、この問題について控えめに「研究者が公的な資金助成の下に研究して得た成果を公開する目的で論文誌等で出版した論文については、一定期間を経た後は、インターネット等により無償で閲覧できるようになることが期待される。」という言い方になっているが、もう少し踏み込んで考えてもいいのではないか。また、機関リポジトリについてはNIIで相当努力をしていただき、また、大学図書館等もそれにしっかり対応してきたこともあり、かなりいい方向性が出てきたように思うのですが、もう少し弾みをつけることができるのではないか。学術情報の出版から利用までに至る全ての流通が情報社会、ネットワーク社会のメリットを最大限に生かした格好で定着していくのではないか。そうすることによって、実は電子ジャーナルの問題も間接的ではありますが、解決していくのではないかと私自身は思っています。例えば九州では人文社会科学系のある非常に限られたところですが、九州地区の国立大学全体で1つのジャーナルを機関リポジトリの活用により出していますし、そのようなことを分野ごとに行うことだってあり得ると思います。小規模の大学では、自分の大学で行うことは大変だが、学術情報の発信が必要であることの認識はあるので、そういう大学間である種のコンソーシアムをつくって、そこで共同して学術情報を発信していくことが考えられます。また、同じようなことは学協会誌に関しても考えられるのではないかと思います。今少し申し上げたような方向で、少し義務化や、法制化することが先進国の幾つかの国ではなされているので、そのようなことを考えていくべきではないかと思います。そうした上で課題は何か、あるいは今後の整備のあり方などにつきまして、ご意見をいただければと思います。

【土屋委員】

  今の有川主査におまとめいただいた点の中で非常に重要なことでありながら、資料の論点の中に言葉で入っていないので、ぜひ追加していただきたいのは、オープンアクセスは推進すべきということについて、研究成果の発信及び情報アクセス改善の観点ということ以上に、大学、あるいは研究機関を含む学術コミュニティが公的な資金を使って研究活動をしている部分が非常に多いことから生じる社会的責任などの観点が重要なのではないか。だからこそ、義務化という議論ができるのだろうと思うので、その部分をぜひまとめのところに入れておいていただきたいと思います。

【坂内委員】

  機関リポジトリはいろいろな視点から大事な方向性と思っており、国立情報学研究所も大学などと連携しているのですが、日本で言うと100ぐらいの大学で飽和してきていて、個々の機関で自らのリポジトリを立ち上げることは、これから少しは伸びていくだろうが、いろいろな大学の事情によって非常にきつくなってきている。そういう意味では、新自由主義的に競争して良いものをつくっていくだけではなく、それから漏れたものに対して連携し、対処していくという意味で、情報分野で言うとクラウド型の共同でやっていくことが理念的に今の時代に大事であろうと思います。

【有川主査】

  国立大学等は経験を持っていますので、少しお手伝いをしてあげる方法もあると思う。財源はともかくとして、クラウドがこのようなことになじむかということはあるのですが、一方ではまだ経験が浅いということもあって非常に難しく考えている大学もあるのだろうと思う。メタデータをきちんとつくって置けば、自動的に機関リポジトリになる環境をつくることはそんなに難しくはないと思う。小規模の大学であっても、研究成果等はきちんと出しているので、それをどこに出すにしてもほとんどの人がワープロぐらいは使うので、それほど大変なことではないと思います。そこに至るまでの間、適当なコンソーシアムを使うことになると考えられる。一番大事なことは、国公私すべてに関してありますが、科研費などの公的な資金によって研究が展開される部分が非常に多いので、国民等しく、あるいは世界中からアクセスできるようなにしなければならないという観点から義務化、法制化へつなげていくという考え方があります。

 

(3)事務局より、次回の開催は平成21年6月25日(木曜日)15時から17時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

 

―― 了 ――

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