研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第23回) 議事録

1.日時

平成21年4月15日(木曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省13F2、3会議室

3. 出席者

委員

有川主査、上島委員、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員、山口委員

科学官

喜連川科学官

学術調査官

阪口学術調査官

発表者

青木国立情報学研究所学術基盤推進部次長、大倉科学技術振興機構研究基盤情報部長、林日本化学会学術情報部課長

文部科学省

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長   その他関係官

4. 議事録

(1)国立情報学研究所学術基盤推進部次長 青木 利根男 氏 より資料1「国立情報学研究所の学術情報流通促進事業について」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【青木学術基盤推進部次長】

  国立情報学研究所では、平成17年度から最先端学術情報基盤の構築を掲げておりまして、ネットワーク、認証、コンテンツ等の基盤を整備しております。その内、コンテンツについては大学との連携のもとに、学術コンテンツ運営・連携本部を設置いたしまして、学術コミュニティが必要とする学術コンテンツについて、コミュニティ、大学等の学術機関と連携して収集したものを、付加価値をつけて一元的なポータルから発信するという次世代学術コンテンツ基盤の構築という位置づけの下で活動を進めているところです。
  個別の事業についてご説明させていただきます。まず、N2-ELSについてです。これは国立情報学研究所の電子図書館サービス事業です。国内の学協会、大学等が発行する学協会誌、研究紀要の本文情報を電子化する事業で、前身のNACSIS-ELSが開始された1997年以来、325万論文が蓄積されています。この提供は論文情報ナビゲータシステムであるCiNiiを通じて行っております。CiNii全体では約1,200万件の論文情報を提供しており、このうち約3割がN2-ELSで本文が電子化されていることになります。
  CiNiiにおきましては、N2-ELSの他に、国立国会図書館の雑誌記事索引データベース、科学技術振興機構のJ-STAGE、Journal@rchive、大学等の機関リポジトリ等を含めた網羅的な論文検索環境が形成されています。なお、類似の書誌を同定処理することによって、一元的に見やすく提供しております。
  次に、N2-ELSとCiNiiの収録状況について、グラフで示させていただきました。現在の参加機関数ですが、学協会は約300機関、大学は750機関が参加しております。ELSの収録コンテンツをCiNiiで公開した後、年々利用が増加しておりまして、特にGoogleとの連携を行って以降、急激な利用の増加がうかがえます。多い時期には、月間150万件近い本文PDFのダウンロードがされているという状況です。
  次の表は、N2-ELS収録論文をタイトルとしてみた場合の表を示しております。325万論文を雑誌タイトルで見ますと、合計6,582タイトルになります。その内訳ですが、学会誌・論文誌雑誌数の合計が714タイトル、また、研究会資料・技術報告雑誌数の合計が342タイトル、そして、大学の研究紀要等が5,526タイトル、これを合計いたしまして6,582タイトルです。
  714タイトルの学会誌・論文誌のうち、無料で一般公開している雑誌数は396タイトルで、割合にすると55%です。また、714タイトルのうち、初号から電子化している雑誌数は494タイトルで、割合にすると69%です。そして、初号から電子化している雑誌のうち無料一般公開している雑誌については、292タイトルです。学会誌・論文誌雑誌数全体のパーセンテージからすると、約7割が初号から検索でき、うち約6割が本文まで無料で利用できるという収録状況です。
  次の図ですが、CiNiiの利用者登録状況です。CiNiiの利用につきましては、登録なしで検索し、無料コンテンツは利用できるわけですが、中には有料コンテンツがあります。その利用のために、一つは機関による申し込み、もう一つは個人による申し込みという二つの方式を設定しております。登録数の推移については、平成17年度と平成20年度を比較すると、機関数は484機関から803機関に増え、個人ID発行数は1,033名から12,856名と、大幅に増加しております。
  その利用者の内訳については、まず機関の方ですが、7割以上が国内の大学です。外国の機関についても47機関あります。外国の機関につきましては、主として日本語研究学科等を有する機関を中心に、ほか、韓国教育学術情報院KERISや、北欧アジア研究所NIASのようなコンソーシアムによる利用となっています。
  個人ID発行は企業等の研究者の方が多いのですが、機関別定額制で利用いただいている機関も、タイトルによっては個人申請でしか利用できないというタイトルがありますので、これについてはサイトライセンス個人IDという形で申請していただきますが、こちらは大学の研究者が多いということです。
  次の図は、科学技術振興機構が運営しているJ-STAGE、Journal@rchiveとの連携を示したもので、J-STAGEやJournal@rchiveで電子化したコンテンツもN2-ELSや大学が構築している機関リポジトリと同定しながら、CiNiiでまとめて検索結果画面に表示しています。平成20年からリンク付けを開始し、現時点で約6万件のリンクが実現しています。
  次に、目録所在情報を中心としたWebcat Plusについてご紹介いたします。これは、従来総合目録データベースとして運用していたNACSIS-CATに目次・内容情報、あるいは図書館未所蔵の市販図書情報を追加し、連想検索の機能を付加している日本最大の書籍ポータルサイトであるといえます。なお、NACSIS-CATにつきましては、平成20年7月に、図書・雑誌の所蔵登録件数が1億件を突破しております。
  次は、科研費に関するデータベースです。KAKENと称しておりますが、採択課題や、研究成果の概要につきまして文部科学省、あるいは日本学術振興会(JSPS)からデータの提供を受けまして、国立情報学研究所で電子化し、公開しているものです。
  KAKENの今後の展開としては、KAKENのシステムと機関リポジトリとのデータ連携をさらに深めることによって、最先端の研究活動成果を広く社会に発信することが可能であろうと考えております。
  次は国際学術情報流通基盤整備事業(SPARC Japan)です。本事業は学会誌の電子出版、国際化対応を支援するという事業で、平成15年度から実施しているものです。成果として、これまでSPARC Japan事業によって支援した学会誌のリストを掲載いたしました。これは趣旨に賛同していただく学協会を公募いたしまして、パートナー誌として選定して、現在、45タイトルが選定されており、電子化を行っております。なお、全てのパートナー誌につきまして電子英文ジャーナル出版を実現しております。
  また、ビジネスモデルの構築支援についての成果として、電子ジャーナルパッケージの形成、大学図書館コンソーシアムとのサイトライセンス契約交渉の支援を行うことにより、生物系、電子情報系においてそれぞれ購入契約が成立しております。その他、海外においてもBioOne2コレクションとして販売されております。
  国際連携については、アメリカのSPARCと覚書を締結いたしまして、国際会議の共催等を行っておりますし、また、数学系8誌をProject Euclidで公開しております。
  調査・啓発活動等については、SPARC事業の中では地味な活動ではあるのですが、大きな活動成果としてSPARC Japanセミナーの実施がありまして、これにより、学会誌編集者のコミュニティ形成ができたことが大きな成果と考えております。
  次は電子コンテンツの保存アーカイブとして、N2電子ジャーナルリポジトリ(N2-REO)についてご紹介します。これは海外電子ジャーナルのアーカイブの仕組みです。国立情報学研究所では大学図書館のコンソーシアムの要請によりまして、コンソーシアムで確保した海外電子ジャーナルについてアーカイブを実施しております。
  この特徴はライトアーカイブでして、世界の主流は出版社のサイトが何らかの都合で見られなくなったときに、二次的に見られるというダークアーカイブですが、こちらは出版社サイトと同時に利用可能となっています。 
  その他、特筆すべき点はSpringer、Oxford University Press という大きな出版社の商品を、大学図書館コンソーシアムとの連携によりまして、比較的リーズナブルな条件で共同購入できているということです。
  また、アーカイブの今後の取組みですが、整備対象や連携の幅を拡大していきたいということで、例えば大型デジタルレファレンスコレクションを、大学からのニーズを踏まえて整備していきたいと思っています。
  さらに、電子ジャーナルアーカイブの国際連携として、CLOCKSSへの参画ということも視野に置いております。CLOCKSSはスタンフォード大学が主催するもので、グローバルな電子ジャーナルの保存プロジェクトでございます。特徴としては、大手出版社を含んで運営しているという点であると思っています。もう一つは、ダークアーカイブ方式であるという点です。日本に対しては、スタンフォード大学から国立情報学研究所に依頼がございまして、日本の大学図書館界を代表する機関として参画を決定いたしました。今後、大学等への普及活動を展開していきたいと思っております。
  最後に、国立情報学研究所の提供技術による社会貢献の例を二つほど簡単にご紹介させていただきます。一つは、想・IMAGINEでして、これは国立情報学研究所で開発いたしました連想検索エンジンを使用しているものです。この連想検索エンジンにつきましては、他に国立国会図書館のポータルにも実装されております。
  また、文化庁からの依頼によりまして、文化遺産オンラインについても技術協力を行っておりまして、全国の博物館、美術館が所蔵する文化遺産の情報を広く一般に向けて発信しています。
  以上でございます。

【有川主査】

  SPARC Japan事業で、公募によりパートナー誌を選定しているとご説明がありましたが、どのように選定をしておられるのでしょうか。

【坂内委員】

  青木学術基盤推進部次長に代わってご説明します。国立情報学研究所に、セレクティングコミッティ(国際学術情報流通基盤整備事業評議会)を設定して、選定しました。

【有川主査】

  公平性と競争性が確保されていると理解していいと思います。
  もう一つ質問させていただきます。NACSIS-CATで1億件を突破したとありましたが、あとどの程度の未登録件数があるのでしょうか。

【坂内委員】

  未登録件数については、3~4千万件であると推定していますが、あと数年で、ほぼ日本にある図書の90%の所在情報が登録され、明確になるだろうと思っております。

【山口委員】

  社会貢献についてご質問させていただきます。文化遺産オンラインは情報発信の手法として効果的であると思うのですが、このような有用な取組みを国際機関や、地域の情報を管理するような機関と連携していくような計画や方向性はお持ちでしょうか。

【坂内委員】

  今後、このような文化関係のデータベースを、連携型のプラットフォームの上に乗せていくことができればと考えております。

 

(2)科学技術振興機構研究基盤情報部長 大倉 克美 氏 より資料2「JST科学技術情報流通促進事業の現状と課題」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【大倉研究基盤情報部長】

  私どもJSTは、目的基礎研究や、技術移転、理解増進等のいろいろな事業の中で、情報事業は全体の予算で10分の1程度の規模で実施しており、全体としてイノベーション創出に貢献していくということを独法としてのミッションとしております。
  我が国の科学技術情報の流通促進の状況について、電子化、オープンアクセスなど検討すべき問題が多いと思っておりますが、まず国内の情報、ジャーナル等の電子化が根幹であると思っております。欧米の科学技術・医学系のジャーナルの電子化率が96.1% (ALPSP 2008年実施アンケート)に対して、私どもで収集しております国内学協会の学術誌・学会誌の電子化率は独自に調査したところ47.1%であり、欧米に比べるとかなり電子化が遅延しているということができます。
  また、昨年度、我が国の科学技術情報流通のあるべき姿について、『科学技術情報流通のあり方検討委員会』を設置し、現状の問題点を整理し、理事長に対する提言をいただいております。
  提言につきましては、まず国内の公的情報提供機関を中心に連携して電子化を進める。それをベースに各種施策を展開せよということで、七つの提言がございまして、今後これに沿ってオールジャパンの視点から国立情報学研究所ですとか、国立国会図書館と連携し、情報流通の枠組みを構築していけるよう努力したいと考えております。特に、適切な役割分担のもとで、電子化資料の不要な重複を排除して、その分の経費なり、人手があるならば、電子化の対象を増やすべしと考えています。
  電子化の推進につきましては、カレント分は少なくとも欧米並みに国内のジャーナル、報告書等の9割以上は電子化していかなければ始まらないということ、過去分についても、数値目標を定めて推進すべきということ、そして、学協会等が自律的に電子化を行えるようにすることが重要であるということであります。
  オープンアクセスの推進につきましては、カレント分は研究者等が実施することとし、研究者等の実施を支援することが必要と理解しております。また、過去分については情報提供機関が支援とあり、科学技術振興機構については、J-STAGEやJournal@rchiveの事業を引き続き推進する必要があると考えております。
  このJ-STAGE、Journal@rchiveの現状ですが、J-STAGEにつきましては利用学協会数が約540学協会、論文数は約25万論文が搭載されており、Journal@rchiveについては、平成23年度までに500誌をアーカイブ予定で、現在60数万件の論文が登載されております。
  J-STAGEの登載誌の言語別割合は、欧文誌が37%、和欧混在誌が43.7%、和文誌19.2%であり、和欧混在誌もしくは和文誌も増えてきており、アクセスも十分あって大事な資料だと思っております。
  閲覧方式別割合については、購読者認証無しで誰でも閲覧できる雑誌が75.7%。一部もしくは全て認証が必要な雑誌は24.3%という状況でございます。
  次に、平成21年3月30日より公開を開始したJ-GLOBALでございます。J-GLOBALは単なる統合検索に止まらず、ある文献の類似文献や、この文献の共著の方がどういう方で、どういう主題で研究されているかとか、どういう特許を取得しているか等、基本的な情報をリンクしていることを特徴としています。
  そのリンク環境を使って、科学技術の研究開発に必要な基本情報をリンクさせて、「知」の橋渡しとなるプラットフォームというようなコンセプトで、今後、基本情報の範囲等を拡張して、ぜひ発展させていきたいと思っています。
  次に、情報流通基盤の整備に関する今後の取組みとして、ジャパンリンクセンターというものを考えております。国内の科学技術情報の電子化を進めていくことは重要ですし、電子化された論文を情報提供機関が相互に参照し合えるような関係を築いていくためのセンターを構築できればよいと思います。
  同じく今後の取組みとして、学協会の基盤強化として、J-STAGEの新システムを開発し、XML対応、利便性、拡張性の高度化等、我が国の電子ジャーナルを世界標準以上に底上できるプラットフォームにするべく、平成23年度公開に向けて、設計、開発に当たっては学協会と連携して行いたいと思います。
  また、今後の電子化支援の高度化・拡大を進める上で、大学等は国立情報学研究所がしっかりサポートしておりますので、公設試験研究機関、独立行政法人研究所、中小企業等の大学以外の機関に対しては、科学技術振興機構が支援していこうと思っています。
  最後にまとめですが、科学技術振興機構では基礎研究、企業化開発等の事業を中心に、イノベーションに貢献するべく取組んでおります。科学技術情報流通促進事業につきましても、これまで蓄積した情報コンテンツや、情報技術、提供ノウハウを活用・発展させることにより、他機関と共にオールジャパンの観点から、イノベーションに貢献する事業を目指していきたいと考えております。
  以上でございます。

【土屋委員】

  JSTの国内学協会の学術誌・学会誌の収集というのは具体的には何をすることか。

【大倉研究基盤情報部長】

  JDream(抄録索引データベース)をつくるために国内のジャーナルや報告書を約1万種類収集しております。その1万種類のうち約3,000が学協会の学術誌・学会誌ですが、それらのWebサイトを探して、人手で調べてみる(問い合わせではない)と、科学技術関係で47.1%までは何らかの形で電子化されているという数字です。

【坂内委員】

  国内誌の電子化遅延について、JST収集の国内学協会の学術誌・学会誌の電子化率が47.1%ということですが、単に100%を目指すべきと言うべき問題なのかなという感じがします。2,000、3,000の学会がこのままの姿で今出している学会誌を電子化すべきなのか、或いは学会がアライアンスを組んで、学会そのものの基盤を強化する上で特に出版関係についてはアライアンスということと併せて考えていかなければならないのではないか。
  現在は、100人以上の会員がいて、年に1回以上会誌を刊行していれば日本学術会議の登録団体になるという感じで、新しい学会は年1回のみ学会誌を刊行するということで、国際競争力強化のために電子ジャーナルを発行することとは、ターゲットが違う学会もかなりあるのではないかと思います。

【有川主査】

  日本学術会議に協力学術研究団体として学会を登録する際、電子的に論文誌を刊行することを条件に定めるなどすれば状況は違ってくるのではないでしょうか。

【坂内委員】

  そうすれば国内学協会の学術誌・学会誌の電子化率は100%になりますが、学会の目的は研究のターゲットを絞って、100人、200人ぐらいで一緒に研究していこうという、それ自体を目的としている団体も結構あるのではないかと思います。

【有川主査】

  しかし、論文誌を刊行するのであれば、その論文誌は誰もが読めるような形態にしておくことを要件にしてもよい時期なのではないでしょうか。

 

(3)社団法人日本化学会学術情報部課長 林 和弘 氏 より資料3「国産電子ジャーナルの現在と様々な岐路に立つ関係活動」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答及びその後、各説明者からの説明を踏まえた意見交換が行われた。

 

【林学術情報部課長】

  電子ジャーナル、オープンアクセスを議論する前に、電子ジャーナル出版のポイントを改めて確認させていただきたいと思います。
  ポイントとしては、コンテンツの質の確保が第一です。そのためには、良い研究者、良い編集者を確保しなければなりません。そして、次はコンテンツの可視性で、良いプラットフォームの利用、良いベンダーの確保とコミュニケーションが必要ということです。
  そして学協会として大事なポイントは、事業の持続性として運営し続けるための担保が必要です。さらに、それだけではなく、事業変革への投資が重要です。変わり続けるための原資、つまり、継続的に評価の高いジャーナルであるためには変わり続けなければいけない。そこまで考えた上で、昨今の電子ジャーナルを取り巻く問題を考えなければいけないということを最初に申し上げたいと思います。
  そして、何をもって成功とするかは、一般的には多数の購読数、アクセス数、あるいはそれによる学会への貢献ということが挙げられています。昨今問題にされております学術雑誌の評価としてのインパクト・ファクターは、それだけに頼るのは良くないが、一つの指標としては参考とすべきであり、出版社としては、それを上げるための努力は当然のことです。
  さらに事業利益を上げるということで成功とする見方もあります。それは、単に儲けるということではなく、教育等への投資による学会発展サイクルに持ち込むために必要なことでございます。以上は一般的なポイントですが、おそらくこの場で議論していただく上で重要になる成功ポイントは、研究者のキャリアパス形成をリードするメディアになれるかどうかという点に尽きるかと思っております。
  平成18年3月に『学術情報基盤の今後の在り方について』が報告されてから、現在に至るまで何が変わったかといいますと、多少の電子化は進みました。しかしながら、出版や研究評価を担うメディア等々の根本的・構造的な問題は変わっておりません。むしろ、分野にもよるとは思われますが、Web化、特に国公立大学の独法化と評価によってインパクト・ファクターの高い海外の論文誌に投稿する傾向が強まっている。電子投稿によって、ワールドワイドに瞬時に論文を収集できるようなインフラ整備によって、かえって海外流出が早まったという見方もできるのではないでしょうか。こういった問題というのは、突き詰めますと最終的には日本の研究者の意識の問題によるところが大きいといえます。
  それでは、最近の学協会の取組例をご紹介させていただきます。日本物理学会では、専任編集委員長制を採り、物理分野としては高い2以上にインパクト・ファクターを回復しています。応用物理学会では、レター誌(APEX)を創刊するということで、より早く半導体系や材料系の論文を掲載するということを始めております。
  また、電子情報通信学会の英文誌に関しては、国内独自出版であったものを、2005年からオックスフォード大学出版局(OUP)と出版提携しましたが、今年から再度国内出版に戻すというような試みをされております。さらにSPARC JAPANの成果の1つとしては、日本動物学会を中心とした生物系学会誌のパッケージである「UniBioPress」を米国のBioOneプラットフォームを利用して、世界中の生物学者に発信するという試みに取り組んでおります。
  最後に、日本化学会では、2006年に中国、韓国、インドを含むアジアの国々とアジア連合の化学誌を創刊させていただいております。
  このような形で各々の活動が大事でありまして、それぞれ成果があり、学会の事情に応じて学会の研究者にできるサービスを行っておりますが、日本発の学術情報流通を革新的に変えるような活動にはなっていないというのが現状でございます。
  その意味において、科学技術振興機構と国立情報学研究所の活動について、一言ずつ学会の立場から申し上げさせていただきたいと思います。
  J-STAGEに関しましては、500誌を超えるジャーナルを提供するということで、一つの到達点に達したといえると思います。そして、日本の情報発信を支えるプラットフォームとして一定の存在感を持っており、CrossRef、PubMed、Googleなどと連携をとり、欧米の電子ジャーナルサービスと機能的には遜色ないサービスを実現しています。ところが、日本の国際情報発信力を強化したとは残念ながら言えません。すなわち、登載誌のインパクト・ファクターが上がったかというと、若干の成功例はありますが、欧米に比較して登載誌のインパクト・ファクターが劇的に上がったと言えないのが現状です。
  そして、500誌ともなりますと、要するにJ-STAGEを使わないと電子化できないジャーナルには非常によい受け皿、よいサービスなのですが、J-STAGEを使って国際発信を強化しようとするジャーナルには、なかなか難しい状況になっているというのが率直なところでございます。
  特に、最近では原則入札に起因する活動のスピード感の喪失、学会の要望から実現まで数カ月から、場合によっては二、三年かかってしまう場合があります。そのあたりを含めて、現在、J-STAGE3の開発に入っていると伺っておりますので、それが真の国際発信の実現の正念場であると学協会は考えていると思います。
  そしてSPARC Japanにつきましては、紆余曲折を経ながら2期6年経過し、つまり、最初は学協会のコンサルティング事業や、日本版「Nature」の実現などを検討されましたが、最終的には、人材の情報交流を含む日本の学術出版ネットワークを構築し、さらに図書館との対話を実現した点が一番の成果と思っております。また、ALPSPと呼ばれる世界最大の学術出版協会がございますが、その協会と共同セミナーを開き、海外に対して日本の学術出版ネットワークをPRすることができたという点が、実は今後に一番効いてくる大きな成果だと考えております。
  そして、国立情報学研究所が有する非常に大きなポテンシャルは、大学図書館、大学、学会をつなぎ得る稀有な存在であるという点です。今後、是非ともこのSPARC JAPANについても活動を続けていただきたいと思っております。
  次に、学会についての状況を欧米と比較いたしますと、欧米では、出版活動というのは本来儲かるものであり、利益を学会活動に再投資することで学会を発展させまして、専門家の分業による利益の最大化と権利確保を行っております。ところが、日本の学会では、科研費の補助や、J-STAGEを使って何とかしているのが現状です。その背景には、少ない学協会職員が毎月の発行で手一杯になっているという状況があります。その手一杯の状況の中で著作権や機関リポジトリ、オープンアクセス方針を示しても、理解と対応への検討が進まないということが、今の学協会の多くがはっきりとしたオープンアクセス方針が立てられないという原因かと思います。
  現在、以上のようないきさつも含めて日本の学協会誌は、一部の自主的な取り組みを除くと、とにかく無料で電子化して刊行するオープンアクセスモデルか、あるいは全体的には商業出版社と手を組んで任せてしまうという二極化が進んでいるような状況になっております。
  どうしてそういうことが起きるかということを考えたときに、これまでの議論に無かった点が、研究者と雑誌の双方向ブランディングです。
  つまり、評価の高い雑誌がよい研究者を見つけ、よい研究者が雑誌の評価を高くする。そのために出版社には編集や製作、販売の能力が高い人材がいて、その人たちがよい研究者を見つけ、よい編集をする編集者を見つけ、そしてよい審査をする研究者を見つける。この双方向ブランディングサイクルに、日本の学協会誌は入れないという問題がございます。
  日本の学協会誌がどのようにこのブランディング問題を解決するかという話になりますが、今回は図書館関係の方々も多いことも考え、オープンアクセスが持つ新しい可能性の方に分岐させてお話したいと思います。
  オープンアクセスが持つ目的として、要するに税金を投入して行われる研究から生まれた科学情報の社会的透明性の確保や、学術情報そのものが持つべき公益性の確保があり、結果としてオンラインジャーナルへの障壁ないアクセスを目指しています。
  従って税金の支援を受けた研究成果については、学会と図書館で連動し、学術の発展に寄与する情報発信が可能かどうかという観点から、学会出版と大学図書館の機関リポジトリ活動との融合の可能性が出てくるということになります。
  それぞれの関係を整理すると、電子ジャーナル化によって「図書館」は、著者と付き合うようになって情報発信をするようになり、「出版社」はパッケージ化、ペーパービューをすることで読者と直接結びつくようになっているのが、電子ジャーナル化の現在です。
  この関係を置き換えてみると、実は電子ジャーナル化によって「図書館」と「出版社」は表裏一体の関係にある。つまり、どちらも著者である研究者から、研究情報をいただき、何らかの形で読者にアクセスを提供するという形を電子ジャーナルが可能にしたというふうに言えると思います。
  そこで日本特有の状況になってくるのですが、一部の例外を除いて電子ジャーナルビジネスが確立していません。実は冊子の頃から日本の学会出版ビジネスが確立していませんでした。欧米で起きている過度の商業主義に対抗したとも言えるオープンアクセス化という動きは、少なくとも日本では馴染みにくいのかと思います。あるいは新しい取り組みに対する不慣れ。そのような取り組みを始めるにしても、リソースが不足しているというのが学協会の問題です。これらの要因としては、学協会乱立によるスケールデメリットがございまして、また、先生方の手弁当型の学会運営という実情があり、ビジネスプロフェッショナルが不在であるということになると思います。
  この状況を極めて前向きに解釈すると、学術出版が過度の商業主義に陥ったためにオープンアクセス運動が起きたのならば、そもそも商業主義になり得ていない日本の学術出版は非営利学術出版の理想的モデルになれる可能性がある。これは捉え方によっては、日本独自の活動ができるチャンスであると思います。
  このような文脈から話を進めていきますと、J-STAGEがとり得る可能性としては、オープンアクセスフレンドリーな著作権のイニシアチブを学協会でとって、本格的なOAプラットフォーム化していくこと、あるいは対照的に一方では商業的なプラットフォーム化が可能かということを検討する、J-STAGEはその両方を実験できる場であると思います。
  国立情報学研究所は、SPARC Japanの継続的な活動によって、新しい学術情報流通を目指す図書館と学会の共同作業の場を提供でき、特に研究者に対しても様々な啓発活動などができるのではないかと期待しております。
  学会はこのような場を生かした活動を通じて人材ネットワークの強化による底力をアップすることが可能であると思います。
  日本学術会議でも、今年から学術誌問題検討分科会が設置され討議が続けられています。論文誌問題を研究者に真に理解してもらうときが来たかもしれないと期待しております。
  以上でございます。

【土屋委員】

  日本の学協会誌は、とにかく無料で電子化して刊行するオープンアクセスモデルか、商業出版社と手を組んで任せてしまうという二極化が進んでいるというご説明でしたが、学会の運営状況がよくなればよくなるほど、安易な商業化に走る可能性は高いのではないでしょうか。

【林学術情報部課長】

  その点はおっしゃるとおりで、学会がどこにアイデンティティを置いて、何にプライオリティーを置くかによって変わってくると思います。すなわち、学会の会員のためと思えば、むしろ商業出版社と組むことにより、その学協会誌のステータスが上がり、その論文が世界で広く読まれることになれば、それが学会員にとっての利益の最大化につながるという見方ができるかと思います。ただし、相対的にそれは安易な選択であるかなと個人的には考えております。

【羽入委員】

  論文の海外流出について、研究者の意識の問題によるところが大きいのではないかということですが、この意識のどこが問題と考えておられるでしょうか。もう一つ、学協会の取り組み例を紹介された際に、それぞれの活動は大事であるが、日本発の学術情報流通を革新的に変えるものではないと述べておられましたが、革新的に変えるとはどういうことをイメージしておられるのでしょうか。

【林学術情報部課長】

  その二つの点は密接に連動していると思います。意識の問題について説明しますと、日本の研究者が日本の雑誌から論文を発表すれば、日本発のジャーナルのクオリティはもっと上がるはずだということです。それは単にナショナリズムで言うのではなくて、日本からの情報発信能力、あるいは評価能力を担保しておく必要性を訴えています。海外でも情報発信するけれども、日本でもきちんと評価できる場を持っておくという意味において、よい研究情報を日本から発信するという状態をつくり出すということは正論かと思われます。そして、研究者の方々には、海外の雑誌に投稿することで自分たちの大切な研究情報が世に公開される前に、海外の評価の場に置かれているというリスクに、もう少し気づいていただいたほうが良いかと思っております。
  海外の雑誌に投稿することが悪いという意味ではありません。いざというときに日本でも評価できる場を持っておくということが大事であると思います。その上で、例えば日本が強い分野のジャーナルは、日本から積極的な発信をして、むしろ世界からその分野の最新情報が集まってくるような状態になっているというのが、真の国際競争力のあるジャーナルである。日本はまだそれができないまま何十年も経っているので、革新には至っていないという言い方をさせていただいたことになるのかと思います。

【土屋委員】

  CiNiiとJDream2について、論文、文献の情報提供という点では似た事業でありますが、CiNiiが提供する書誌情報が1,200万件である一方、JDream2は5,000万件の日本最大の文献情報データベースを提供するとしていますが、この数字の差は何によるものかについて整理していただきたいと思いました。
  それに関連しまして、数字を挙げていただくときに、例えばタイトル数で何%という話をされる場合と、論文数で何%という話をされる場合があるのですが、一タイトルに載っている論文数というのは千差万別であり、要するに年に一回しか刊行しないものから、毎週刊行されているものまであるということで、パーセンテージとしては議論するときには使えるかもしれませんが、客観的な状況を理解するときには、使うことが難しいのではないかと思います。
  したがって、本作業部会の場を利用して、数値データについてある程度合意がとれる数字を明確にしていただきたいという感じがします。
  また、具体的な問題としては二つ感じたことがあります。一つは、日本の論文の海外流出問題は、そもそも問題であるのかということです。外国雑誌に発表するというのは、たまたま日本に発表すべき良い雑誌がなかったということで、研究者、科学者の行動としては自然な行動であり、それを問題視することが、果たして正しい問題設定であるかということについて、問題提起させていただきたいと思います。
  もう一つは、国立情報学研究所と科学技術振興機構からのお話を伺った後で、日本化学会のお話を伺って、お金の流れに対する敏感さが違うという感じを持ちました。国の資金で運営するということの意味をもう少し考えなければいけないと思います。

【有川主査】

  日本の論文を外国雑誌に発表することが必ずしも問題ではないということについてはおっしゃるとおりだろうと思います。そもそも外国雑誌を購入できないと科研費などの公的助成による研究成果にアクセスできないという事態が生じていることに対する苛立ちが根底にあったのだと思います。
  ですから、どこから論文が発表されても、きちんとアクセスできればよいわけで、自分たちの税金による研究成果が、自分たちで見られないということは、やはり問題です。その辺について議論していくことになるのではないかと思います。

【倉田委員】

  今お話にでてきたデータ関連の統計について、もちろん雑誌数、論文数は両方提示していただくということは結構なのですが、要するに、科学技術振興機構と国立情報学研究所の文献データベースのどこがどう重なっているのかということがわかりません。
  それから、N2-ELSの統計でも、一方では論文数が示されていて、別の箇所ではタイトル数だけになってしまうと、これらの関係がわかりません。データはできるだけわかりやすい形で整合性を持たせていただきたいと思います。

【有川主査】

  この辺については図書館の専門家もいらっしゃいますので、どういう指標を使ったほうがいいという要望をいただけると、それに従って整理していくことも可能であると思います。

【倉田委員】

  正確なデータを完全に出せということではなくて、これがいつの時点で、何を反映したデータなのかが示されていれば、基本的には十分であると思います。常に完全なデータというのはあり得ないことですので、そこだけもう少し補足していただけたらと思っております。

【喜連川科学官】

  本日の発表資料では「学術情報流通促進」がタイトルになっていますが、コンテンツのボリュームの比較になっているような気がいたしまして、ダウンロード数が少しは提示されているのですが、基本的にはどれだけポータルが活用されて、そこがどのように流通に寄与しているのかという議論がもう少しあってもいいのかなという気がしています。

【大倉研究基盤情報部長】

  その辺の観点は、毎年の独立行政法人評価で十分数字を出して、各データベースにどれだけのアクセスがあるかということで、必ず前年より多くのアクセスを得ることが最低条件ということで、評価の基準にもなっています。

【喜連川科学官】

  科学技術振興機構の場合、基本的に全部フルテキストでの提供になっているのですか。

【大倉研究基盤情報部長】

  J-STAGEとJournal@rchiveについてはフルテキストです。JDream2については論文の詳録と索引データベースですので、全部がフルテキスト提供ということではございません。

【土屋委員】

  細かい点ですけれども、フルテキストダウンロードといっても、Googleなどのサーチエンジンがダウンロードしている分があるわけで、その部分を効果的に除いているかはわからないので、つまり、数字そのものをあまり厳密に捉えるとミスリーディングとなることもあります。

【有川主査】

  さきほどの国立情報学研究所からの発表でもありましたが、例えばGoogleと連携することによって飛躍的にダウンロード数が上がる。ですから、ポータルサイトからだけでなく、サーチエンジンからのダウンロードということも考えておかなければならない。
  本日は国立情報学研究所と科学技術振興機構、そして学会を代表し、日本化学会からご発表いただいたわけですが、この中で、三者がどう関係しているかある程度の位置づけがわかったと思っております。
  また、国立情報学研究所と科学技術振興機構の役割をどう分担していくのか、守備範囲が違うなかでどういう協力体制が合っているのか、コストを含めて考えなければならないと思います。
  そして日本の論文の海外流出にも関連して、インパクト・ファクターに頼った研究成果の評価になっているということがあって、何かそれにかわるような指標を持ってくることも考えなければいけないと思います。
  ただ、その際にこれまでの冊子媒体と明らかに違うのは、オープンアクセスにしても、機関リポジトリにしてもアクセス件数、ダウンロード件数もわかるし、もちろんメタデータもしっかりしており、サイテーション情報もとれます。この点は評価を行う際のヒントになると思います。
  いずれにしましても研究者には、高い評価が得られるところに論文を出したいわけでして、研究者の意識改革というよりも、評価体系を変えるか、さらには文化を変えなければならないというようなことがあると思います。

  

(4)事務局より参考資料「平成19年度「学術情報基盤実態調査」の結果報告について」に基づき、同調査の結果報告が行われた。

(5)事務局より、次回の開催は平成21年5月19日(火曜日)10時から12時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

―― 了 ――

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