研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第22回) 議事録

1.日時

平成21年3月26日(木曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3. 出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、上島委員、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員、米澤委員

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

文部科学省

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長   その他関係官

4. 議事録

(1)加藤委員(早稲田大学図書館長)より資料1「私立大学図書館の現状」に基づき私立大学図書館の現状について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【加藤委員】

  平成18年の学術情報基盤作業部会報告『学術情報基盤の今後の在り方について』では、大学図書館は大学本来の目的である高等教育と学術研究活動を支える重要な学術情報基盤であり、大学にとって必要不可欠な機能を持つ、大学の中枢をなす施設であると定義をされております。本日はまず、そのような視点に立った上で、特に私立大学図書館を中心にお話をさせていただきたいと存じます。
  初めに、大学のミッションでありますが、これは特に私立大学の場合には歴史的な経緯、創立の経緯、あるいはこれまでの沿革の関係があって、大学図書館それ自体も大学の中でかなり重要な意味合いを持って位置付けられるところは、いずれの私立大学でも同じであろうと思います。
  大学図書館に課せられたミッションは、各大学様々におありだろうと思いますが、まず配布資料に掲げましたのは、高等教育機関における、国公私立大学の学生、教員の在籍者数です。
  国公私立大学全体の学部学生数の77.4%、大学院修士課程の学生数の36.8%、博士課程の学生数の24.4%を私立大学が占めている現状がございます。教員については私立大学が57%を占めているということになります。この数値から考えますと、我が国の研究教育の過半は私立大学が担っているというのは決して言い過ぎではないと思っております。
  特に研究者の卵と言われる大学院生は、多くは国立大学に在籍しているという数値の裏付けがございますので、誤解を恐れずにあえて言うならば、国立大学では大学図書館の役割が研究支援的な要素が強いのかなという印象を持ちます。他方で、私立大学では学部学生を念頭に置いた教育支援ないしは学習支援的な要素が強い、そういうミッションを私立大学の大学図書館は持っているのかなという感じがいたします。
  次に、私立大学におけるミッションとの関係で、電子化の流れがどのような状況になっているのかについて説明いたします。電子ジャーナルの導入タイトル数について、資料のグラフをご覧いただくと、国立大学と比較して、私立大学の学生数、あるいは教員数から見た教育研究の責任の大きさを勘案すると、私立大学における導入タイトル数の増加は微小なものにとどまっているというのが気になります。このことは特に私立大学が人文社会科学系を中心にして発展してきたという経緯がありますが、導入タイトル数の伸びが国立大学に比して鈍いのは、私立大学ゆえの予算的な制約ということが大きいのではないかと考えているところです。
  そこで、私立大学の場合、予算上の制約という要素は、図書館に対して、特に電子ジャーナルとの関係からどのような影響をもたらしていくのかということです。即ち電子ジャーナル購読料の恒常的な値上がりが、大学図書館予算の中で一定の制約を占めていると考えられるわけであります。数年前まで20%以上の値上がりがあったというようなことも言われておりますし、また、最近、値上がり率は落ち着いてきたとは言っても、毎年5%から10%の値上がりがあるというのが現状であります。
  大学図書館関係予算は御多分に漏れずゼロシーリング、あるいはマイナスシーリングであるということがよく言われます。他大学の状況が必ずしも分明ではございませんので、早稲田大学の場合について公表されている資料を通してご紹介をさせていただければと存じます。図書関係予算等は教育研究経費の中の図書資料費及び一般図書費という費目で計上されるわけでありますが、ここ数年は据え置かれており、伸びはゼロベースで、約18億円程度で推移いたしております。大学の総予算が2008年度では約1,085億円ですから、そのうちの約2%弱になろうかと思います。もちろんこの数値は一応、安定していると言えるのではないだろうかと思います。
  一方で、先ほどの電子ジャーナルの購読料の値上げとの関係があります。あるいは購入図書が増えているということもあるのだろうと思いますが、図書館としても、購入雑誌のふるい分けを積極的に試み、あるいは冊子も並行して購入している電子ジャーナルについては電子ジャーナルへ完全に移行させる。さらに重複雑誌の解消ということを各箇所にかなり厳しく指示をいたしまして、予算の効率的な執行を前提にしているというのが現状であろうかと思います。
  とりわけ理工系の電子ジャーナルの経費は増加の一途にあるわけですが、これを全体の予算の中でどのように吸収していくか、多くの大学が苦しんでいるのだろうと思います。その対応として、コンソーシアム(PULC)による版元との交渉というのは、その意味では非常に重要な意味を持っているだろうと考えております。電子ジャーナルの価格高騰が、こうした私立大学の努力を相殺する状況にならないようにということを強く願うところでございます。
   また、これは全ての大学にいえることだと思いますが、図書館職員の数が抑えられる、あるいは減員がなされるといったような状況にあるわけですが、それに伴って、当然に、アウトソーシングの比率が増加いたします。図書館職員の増員が多く見込めない状況の中で、言ってみれば委託費の上昇が大学図書館予算には非常に大きな影響を与えているようにも思います。
  大学図書館内のさまざまな業務の集約化を図ってコストの圧縮に努めてはおりますが、例えば委託業務の一つとして、書誌データの作成などについては、データの収録の質を高めれば、当然コストは上がるという関係にあります。国際的にも汎用性のある精度の高い書誌データの作成というのは、今後も大学図書館予算を圧迫する要因にもなるのかもしれません。何らかの手を打つ必要があるだろうと思います。
  それから、大学図書館からの情報発信の一つの形態として、機関リポジトリの進捗状況について若干触れさせていただきたいと思います。機関リポジトリを構築している93機関のうち、私立大学は21大学にとどまっているという状況にあります。この原因については、私立大学の場合には機関リポジトリを構築する余裕が必ずしも多くはないという感じがいたします。それは予算的な制約と、それから、学内スタッフをある程度抑えられているというようなこともございまして、人員を割く余裕がないといった事情がありましょうし、また、大学規模、あるいは学部学科、大学院の種類にもよりますし、電子化するコンテンツそのものが少ないといったような事情があるのかもしれません。
  ご承知のとおり、早稲田大学では国立情報学研究所の次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業の学術機関リポジトリ構築連携支援事業を受託して、機関リポジトリの拡充に努めてまいりました。機関リポジトリの構築については学内教員の理解が必要であることは、いずれの大学においても当然の前提でありますが、早稲田大学では学内の理解も大分進みまして、学内紀要のリポジトリへの掲載はかなりの速度で進捗をいたしました。学位論文の多くもリポジトリに掲載をするというような方向で動いております。
  さらに大学の研究成果に関して、これは早稲田大学固有の問題なのかもしれませんが、本学にはプロジェクト研究所が数多くございます。これは特定の外部資金を使いながら、限られた期間で研究所を設置し、そこに研究員を雇い、一定の研究をしてもらうという研究所でありますが、その研究成果にもかなりよいものがありますので、その研究成果も機関リポジトリに収納したいと考えて作業を進めているところでございます。しかしながら、研究者の個別の同意が取りにくいといったような状況があります。
  それから、大学がリポジトリを運営する費用や人的資源を得にくいといったような事情もありますので、これらも克服をしていかなければならないと考えております。いずれにいたしましても、大学の社会に対する説明責任の履行という観点、あるいはオープンアクセスの対応という意味からも、学内はもとより、学外への一層の普及に努めていかなければならないと思います。また、大学によっては、例えば地域リポジトリへの参加といったようなことも視野に入れて考えておく必要があるだろうと思います。
  次に、資料として科研費の配分実績を掲げてみました。私立大学が日本の大学の過半以上を占めているにもかかわらず、科研費の私立大学に対する配分額は、直接経費、間接経費のいずれをとってみても、全配分額のうちの10%を超えるぐらいというような状況がございます。全体として科研費が増額している傾向の中で、私立大学の配分額はやや伸びは見られますけれども、さほど大きな変化のないまま推移をしてきているという状況にございます。
  私は平成18年から本年3月まで日本学術振興会の学術システム研究センターの専門研究員を務めておりまして、科研費の成果報告について、人文社会科学全体、あるいは情報学が含まれる総合領域を見渡して、その中の分野細目の図書館学、図書館情報学に関する応募、あるいは採択件数を調査したところ、2003年から2007年までの人文社会科学分野についての研究成果報告から見ますと、大学図書館図書資料に関する研究がその中に35件ございました。
  また、総合領域の情報学の細目の中で、2003年から2007年までの成果報告が228件ありますが、この中で情報図書館学の大学図書館プロパーのテーマに関する研究成果が24件ございました。つまり、約10%ということになりますが、毎年の採択課題を平均しますと5件程度になっております。この分野で応募する者の所属大学は、大学図書館の活動がある程度活発に行われている大学に限られるだろうと思います。したがって、応募件数が少なければ、当然、採択課題の件数は限られるということになります。大学図書館からの情報発信を考える上で、各大学図書館の基盤業務に関わる研究の応募がもっと多くあってもよいと思っております。これは今後の課題と言うことができるのだろうと思います。
  次に、資料の遡及電子化の問題についてです。早稲田大学の例をご紹介させていただきたいと思いますが、早稲田大学では2005年4月に古典籍データベースのプロジェクト室を発足させまして、4年の歳月をかけまして、古典籍データベースの作成をしてまいりました。これは、私どもの図書館が所蔵する古典籍について、その書誌情報と関連研究資料、さらには全文の画像を広く一般に公開しようというものであります。総数は約30万冊で、国宝2件、重要文化財5件を含むあらゆる分野の資料を書誌情報と、鮮明なカラー画像でご覧いただける形になっております。
  古典籍データベース公開後には学外提供が07年度においては291件に達しましたし、展覧会貸し出しだけでも30件に及んでおります。アクセス数については、昨年の2月に検索エンジンからのアクセスを含むと45万件であったものが、今年の2月には85万件というように大幅に伸びております。したがって、私どものこの古典籍に限らず、各大学が持っている所蔵資料に関するデータベースを公開することの社会的な意味というのは非常に大きいものがあるのではないかと思います。
  次に、学習支援についてでありますが、これは各大学が工夫して行っています。例えば、明治大学が平成19年度の特色ある大学教育支援プログラムに採択され、図書館情報リテラシー教育の、言ってみれば先鞭をつけているというところがございます。明治大学の学習支援プログラムの内容でありますが、一つは情報機器を使った実証重視ということ、まさに現代の流れに沿った事業内容を持った学習支援の形になる。さらにもう一つは、教員と図書館職員が共同で事業に当たっているという特徴があると思います。
  このような学習支援の流れは、私どもも今般新たなプログラムを立ち上げて、図書館情報リテラシー教育を全学共通科目として設ける方向で検討を鋭意進めているところであります。また、金沢工業大学等では、いわゆる情報リテラシー教育への図書館の関与の形態として、教員がサブジェクトライブラリアンとして関与するなど、専門分野を持っている教員がこれに関与するという新しい例が見られるように感じます。
  また、学部授業への参加ということについても、本学では、各学部の応用演習、基礎演習に図書館職員が積極的に参加をして、授業を手伝うというような教職員共同ができ上がっているところでございます。
  それから、場としての図書館の機能については、これは新しいサービスの形として、例えば、お茶の水女子大学のライブラリカフェや、名古屋大学が非常に先進的に進めておられる市民開放型図書館の事例があります。
  次に、大学図書館の運営と図書館職員の状況について、ご報告をさせていただきたいと思います。大学図書館専任職員数の表をご覧いただきますと、一図書館当たりの平均が、国立大学の22人に対して、規模の大小がございますので一律には数の比較は正確ではありませんが、私立大学では7人が職員として任務に当たっている。人的資源に関しては私立大学では、いわば圧倒的に少ない人数で日常的な業務をこなしているということになります。
  そこで、大学図書館職員の現状と展望について二点ほど触れさせていただきたいと思います。大学図書館職員の現状ということを申し上げるときに、外部委託の問題が私立大学の場合には大きく横たわっているような感じがいたします。ある程度の比率まで外部委託が進みますと、一定程度その業務集約が可能な状態になります。そうしますと、今度は大学図書館の組織としての固有業務、これを継承する必要性から、一定の専任職員が必要になる。とりわけ大学図書館が、冒頭で申し上げました本来の目的である、高等教育と学術研究の活動を支える重要な学術情報基盤であるという以上、これを専門的に担う人材の確保が必要になってきますし、養成も必要になってくるということになります。
  早稲田大学の図書館には10年ほど前には、120名ほどの図書館職員がおりましたが、現在、約70名弱まで減員をいたしております。その年齢構成を見ますと、50歳代から60歳代が50%超います。40歳代が30%、20歳代から30歳代が10%という構成になっております。特に若手の図書館職員は、約15%は司書採用ではありませんが、司書資格を持っているということから図書館に配属をされております。
  特に、年齢構成からみまして、ここ10年内に退職が予定される図書館職員が約80%を占めているということが顕著な特徴です。これは職員の採用時期ごとの人事政策が背景にあったわけでありますが、もし仮にこういう状況が続くとすると、図書館職員としての専門性、継承性が失われ、研究教育の基盤としての機能が衰退していくのではないかという危惧を私どもは持っております。
  いずれにいたしましても、今後大学図書館による教育支援、あるいはサービス機能の強化と情報リテラシー教育の推進を実現する上で、これを支える図書館職員の専門職としての重要性を、改めて認識する必要があろうと考えております。
  それからもう一つ、図書館職員は管理業務が中心になってきたという言われ方をしております。本年4月1日から本学では職制の再編成をいたしました。組織再編をいたしまして、特に従来型のマネジメント中心の縦割りの職制を、利用者支援という観点での横組みへの再編を行いまして、管理業務に属する図書館職員も利用者支援、あるいはより積極的な研究教育支援の体制の中に適合させるための体制を組んだところであります。今後の人事政策などに反映をさせてもらえればと考えているところでございます。
  最後に、今年1月下旬に米国の大学図書館を視察させていただきました。詳しいことは省略いたしますが、ワシントン大学においては、約170分野について約140名のサブジェクトライブラリアンを擁しているというような実情を理解いたしました。
  オハイオ州立大学の図書館は改築中で新たな建物を建てようとしているところでありますけれども、工事現場を図書館長から案内をしてもらいながら、利用者のために図書館がどうあるべきかということが、その建設プランから十分知り得たという経験もいたしました。
  いずれにいたしましても、とりわけ私立大学の図書館にとりましては、様々な障壁がございます。今後、関係機関等からご協力をいただきながら、少しずつ克服していく必要があるだろうと思っております。以上でございます。

【土屋委員】

  大学図書館専任職員数について平均を出されておりましたが、非常に多様な大学の種類がある中で、平均値が示す数字がどういった意味を持つのか。つまり、大規模な大学が平均値を上げているのか、それとも小規模大学が平均値を下げているのか。例えば、私立大学の平均7人というのは、600弱ある私立大学の学長がみたときに、多いと思う人、少ないと思う人、どちらが多いのかということです。

【加藤委員】

  大学の規模の分布では、大規模大学はそう多くはないわけです。せいぜい私の知る限りでも、7、8大学ではないでしょうか。大多数が中小規模の大学だと考えたときに平均専任職員数7人という数は、一概には言えませんけれども、全体としては少ないだろうとは思います。

【有川主査】

  このあたりは国立大学との比較ということになっていると思うのですが、ユーザー数を分母にして何人という調べ方もあるのだろうと思います。 また、科研費について、大学図書館プロパーのテーマが少ないということは、図書館を対象にした研究者が極めて少ないという意味だろうと思います。

【米澤委員】

  現在、人文社会科学系の研究者が研究されるときに、いわゆる普通の冊子になった図書と、電子的な媒体で得られる情報については、どちらを活用することが多いと感じていますか。

【加藤委員】

  例えば、経済学の場合には国際的な汎用性がありますから、電子ジャーナルがかなり進んでいます。私の専門でもある法律学の分野も固有性を持っていますので電子ジャーナルをよく使います。ところが、日本国内のドメスティックな分野だけを研究されている方というのは、電子ジャーナルに触れる機会自体も少ない、あるいはほとんど用いないという、二極分化があるという感じがします。

【有川主査】

  歴史学の専門の方も電子ジャーナルより冊子を用いることが多いかと思います。

【植松委員】

  学術図書館研究委員会(委員長:佐藤義則東北学院大学文学部教授)が2008年12月に自然科学系の教員と、人文社会科学系の教員が電子ジャーナルを日々よく使うか使わないか、それから時々使うかという比率を調べて報告しております。2001年には、人文社会科学系では「使わない」という回答が84%という状況でありましたが、2007年には人文社会科学系でも「よく使う」という回答が41%、「時々使う」という回答が27%となっています。母集団が違うので、はっきりとは言えませんが、近年では人文社会科学系の教員が電子ジャーナルを使い始めている、あるいは使っているという結果にはなっています。

 

(2)倉田委員(慶應義塾大学文学部教授)より資料2「オープンアクセスの動向」に基づきオープンアクセスの現状について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【倉田委員】

  学術情報へのアクセスをどれだけ改善することができるのか。これがオープンアクセスと言われている運動の究極の理念であると考えております。学術情報流通とは、基本的には元々研究者間のコミュニケーションであったわけです。それはある意味ではインフォーマルなものでも構わなかった。研究者同士、自分の欲しい情報を欲しい人からもらっていればよかったわけです。
  それがこの300年間で徐々に学術雑誌という形で、半ばオープンな形で情報を流通させるということが、徐々に進んできたのだと考えております。それが特に20世紀後半に急激に拡大した。特に1960年代以降、商業出版社が雑誌を流通させてくれるようになったことは非常に大きな点だと思います。これは学術情報流通全体にとって、真の意味でグローバルな情報流通が成立したということだと考えております。
  ところが、その後いろいろな原因、もちろん基本的には学術情報流通の量が拡大したということで、それをどうやって支えていったらよいかということが問題になったわけです。今もお話があがりましたが、人文社会科学系はどちらかというと学術図書を中心として、科学技術系は学術雑誌を中心としてということはございましたが、例えば人文社会科学系でもやはり学術雑誌を図書とは別の形態で使うということが、20世紀後半にはかなり増えてきたということだと思います。
  基本的には学術雑誌には編集委員がおり、査読者がいてレフリーがあってという形態が一般的でございますので、そこにおいては研究者や学会が関わってきたわけです。ところが、実際に雑誌を流通させるのは出版社であるわけです。そこで出版流通にお金がかかり、雑誌の高騰を招く。結果として雑誌が入手できない。もしくはその雑誌を十分に流通させることが難しくなってきたというのが、1990年代頃から、徐々にオープンアクセスの考え方が出てきた要因だと思います。
  ですから、最初のオープンアクセスの定義に戻りますが、ウィリンスキーが言っているような、これは人間の基本的な権利だという言い方の裏には、自分たちの研究成果の発表物に、自分たちがアクセスしにくくなっているというのはいかがなものかという、研究者の苛立ちがあったのは事実だろうと思います。現在、オープンアクセスの実用的な定義は、Budapest Open Access Initiativeで掲げられているように、インターネットから無料で入手できる、誰もが読むことができるし、複写、再配布、印刷等を制限なく行うことができるということであると考えられております。
  オープンアクセスがどのように進んだかという年表を資料に簡単にまとめさせていただきました。これも誤解のないように申し上げますと、最初からオープンアクセスが唱えられて、運動が始まったわけではないということです。現在から振り返ると、あの時の事例はオープンアクセスだったということであります。その中で一番古い活動としては、1991年に米国の国立研究所の研究者であったギンスパークが始めた、E-print archiveというものがございます。これは物理学分野の学術雑誌論文の投稿、もしくは受理された論文のプレプリントをサーバ上に集めて、誰もが自由にアクセスできるようしたというものです。
  これは基本的に発表するのも研究者、利用するのも研究者、さらにはそれを管理、流通させるのも研究者ということで、出版社や学会その他、いわゆる仲介的な役目を担ってきた組織がどこも存在しないものです。一般的には、これが、オープンアクセスの始まりと言われております。
  現在、学術情報流通を担っておりますのは有料の購読学術雑誌です。これは学会及び商業出版社が中心となって出されているものです。それが中心にある上で、オープンアクセスで雑誌を提供するという新しい動きがあります。これは究極の形であり、どうやって実現できるのかと言いますと、単純には著者がお金を払うということです。今までは利用する側、購入する側がお金を払っていたわけですが、そうではなくて著者がお金を払えば雑誌を出すことが可能であるということ。ただし、これはオープンアクセスの全体を支える中では大きな割合を占めているとは言えません。
  では、何が大きな割合を占めているのかと言えば、現在、有料で提供されている雑誌が様々な形で結果として無料で入手できるようになっているということです。その方法としては、例えば全部フリーにしてしまう。経費は、研究費や寄附で賄って、論文は全て無料で閲覧させてしまうというものもありますし、日本のJSTのJ-STAGEのように、国がある種支援をして電子化をすすめているというものもあります。
  それから、現在非常に増えているのが、一定期間後には無料でアクセスできるようになるという、いわゆるエンバーゴと言われるものです。発表後半年から3年ほど経つと無料でアクセスできるようになるということです。
  一方、雑誌を刊行する側からのオープンアクセスではなくて、著者側がセルフアーカイビングするという考え方もこのオープンアクセスの大きな柱となっております。著者が自分のサイトに掲載するという方法もございますが、現在、圧倒的に多くなっているのは各大学や研究機関が構築している機関リポジトリ、通称IR―Institutional Repositoryです。
  さらに、この機関リポジトリと並んで分野別のアーカイブとして、E-print archive、現在のarXiv、それから米国の国立衛生研究所(NIH)が医学分野で提供しておりますPubMed Centralというものがあります。
  最近の動向で、特にNIHの動向について少し詳しくお話しさせていただきたいと思います。NIHのPublic Access Policyが話題になっております。2005年に出されたもので、NIHが助成した研究成果は、発表後1年以内にPubMed Centralで無料公開を要請するということが法律となったわけです。
  PubMed Centralは、もともと1999年にE-biomed計画という形で始まりました。この時点では物理学のE-print archiveに習った、生物医学分野を対象とした新たな学術情報流通モデルの提案でした。ある意味では非常に地味で、ほぼ忘れられていたような存在だったのですが、2004年に米国下院歳出委員会で、このPubMed Centralを適切に用いるべきという話になって、このPublic Access Policyの受け皿になったことで、一気に脚光を浴びたということになります。
  次に、生物医学分野のオープンアクセスの状況について、米国のPubMedというデータベースがございますが、そこに収録されている論文に関して、どれだけオープンアクセスとして入手できるかを調べたグラフをご覧下さい。2005年と2007年とを比較すると、オープンアクセス論文の割合が26.6%から37.2%に増えています。それから、全文なしが19.8%から9.9%に減っている。つまり、生物医学分野の論文の場合、ほとんどが電子的な形で入手することができ、そのうちかなり部分がオープンアクセス論文であるということです。
  しかしながら、このデータは大手の学会誌や商業出版社の出している雑誌を中心としたものではなく、中小規模の雑誌を含めて幅広くサンプリングした結果でございますので、全体の論文数の相対的な比率としては、もう少しオープンアクセス論文の割合は低いと思っております。次に、一体どういう形でオープンアクセス論文が実現されているのかを見ていただきますと、PubMed Centralですら3割未満ということで、全体としては雑誌側がオープンアクセス論文の全体を支えているということが言えるだろうと思います。有料購読雑誌の中で、幾つかのところがオープンアクセスにしているものが、全体の主流になっています。今後、新しい動きを強力にサポートする手段として期待されているのは、NIHのPublic Access Policyと同様に、各国の研究助成機関が何らかの形で成果の公表を義務化する。このことにより、オープンアクセスが進むことが期待されております。
  研究助成機関の動向についてですが、一番古くは2006年に、英国のWellcome Trustという民間団体が助成した研究成果については、6カ月以内にオープンアクセスにすることを義務化しています。
  また、英国研究評議会は幾つかの報告書を出しておりまして、全部で8つの研究評議会に分かれているのですが、そのうちの3評議会においては、オープンアクセスを義務化しております。
  欧州委員会に関しても一部試験的に義務化をしたり、着実にオープンアクセスを考えて、どういう方向に向かえばよいかを模索している最中ではないかと思っております。
  ドイツ研究協会はオープンアクセスを要請しております。フランス国立科学研究センターは奨励にとどまっておりますが、カナダ国家研究機構は強い形で義務化を求めている状況にあります。
  一方で、オープンアクセスに対して、大学や研究機関自体はどう動いているのかということですが、一つは、大学がオープンアクセスを義務化するという動きがあります。このいい方では多少語弊があるのですが、個々の研究者が投稿している雑誌のポリシーに従った上で、大学としては基本的にその研究者の研究成果はすべてオープンアクセスにするということを主張しているということです。ハーバード大学、スタンフォード大学に関しては、学部での宣言があり、MITについては全学レベルでオープンアクセスの義務化が決まりました。
  もちろん出版社がエンバーゴをつけている場合には、そのエンバーゴは守るということですので、即時の完全オープンアクセス化ではありませんが、少なくともオープンアクセスを推進するのだという強い意思表明であることは間違いがないと思います。
  ドイツのマックス・プランク協会やアメリカのカリフォルニア大学のように、Springer社との契約において、購読価格を抑えたまま、所属研究者の論文をオープンアクセスにしてもらうという契約を結んでいるという機関もございます。
  概ね既存の出版社はオープンアクセスに対してどのように対応しているのかといいますと、基本的に大学の機関リポジトリで原稿をセルフアーカイビングするということに関しては多くの出版社が許可をしております。
  また、大きな雑誌では、大抵オープンアクセスオプションという形で、著者がお金を払うならオープンアクセスを認めましょうという基本的な姿勢にあります。しかしながら、NIHのように非常に強硬にオープンアクセスを義務化するというようなことには基本的には反対であるということが言えます。
  さらに、非常に限られた範囲ではございますけれども、高エネルギー物理学分野の全ての論文をオープンアクセス化しようとするSCOAP3というコンソーシアムがあります。これは費用はその論文の成果を発表している研究所や大学、それから政府が支出するというものですが、この取り組みはまだ実現には至っておりません。
  日本の状況について、この点だけは認識しておいたほうがいいのは、日本の研究者の研究成果の多くは、海外の雑誌に載っているということです。一方で、国内学協会誌は、雑誌によっては非常に国際的に頑張っている。しかし、全般的に編集刊行体制の脆弱さは認めざるを得ないというところだと思います。
  最後に、機関リポジトリにセルフアーカイビングすることで、国際的な学術雑誌の高騰が止まるかというと、それは無理だと思います。直接的な因果関係はないわけですが、日本がオープンアクセスを強力に推進することによって、全世界的にオープンアクセスが進んだ場合には、結果としては学術雑誌の値段が下がることもあり得るだろうと思います。それから、国内学協会誌に関しては、まだ電子化が進んでいない部分が非常に多いので、オープンアクセスを一つの契機として電子化を強力に進める。今までアクセスできない状態に置かれていた情報のアクセスの改善を目指す。このような方向は考えられるのではないかと思っております。以上でございます。

【土屋委員】

  NIHのPublic Access Policyについて、出版社、学会の反発が強いということですが、NIHの中でPublic Access Policyの検討を行って、その中で、デポジット数増を検討する委員会の約半数ぐらいが、出版社側の委員だったと思うので、単純に反発が強いという言い方は必ずしも正確ではないのではないかと思います。

【有川主査】

  機関リポジトリへのセルフアーカイブが、学術雑誌の高騰への対応として直接的に影響を与えるのは困難とおっしゃいまいしたが、10年たっても、50年たっても状況は変わらないでしょうか。

【倉田委員】

  少なくとも2、3年の間に影響することはないと思います。

 

(3)安達国立情報学研究所学術基盤推進部長より資料3「我が国の機関リポジトリの現状について」に基づき機関リポジトリの現状について説明が行われ、その後、各説明者からの説明を踏まえた質疑応答が行われた。

 

【安達先生】

  機関リポジトリに関しては、国立情報学研究所において委託事業として進めておりますが、平成16年に小規模な実験を行い、平成17年には19大学に委託して機関リポジトリのプロジェクトを始めました。それを踏まえて平成18、19年の2年間に第1期の公募を行いました。
  現在、第2期という段階でありまして、2つの事業領域がございます。一つ目の領域はコンテンツを一生懸命に作成するプロジェクトです。二つ目は、新しい試みを行う研究開発的プロジェクトです。
  次に、第2期委託事業のコンセプトをご紹介します。まず、機関リポジトリの安定的、持続的運用のために、自機関内で財源確保を促進すること。
  それから、重点コンテンツの設定です。重点コンテンツというのは、学位論文、各種の報告書、ソフトウェアやデータベース等、大学に埋もれているコンテンツを外部に情報発信することを後押しする。大学が有するコンテンツを重視しましょうということです。
  もう一つは、共同リポジトリを後押しする。そして、図書館の間で共有できるような波及効果の高い、研究プロジェクトを推進するということです。
  こういった活動とともに私どもが重視しているのは、コミュニティの形成です。そこで、Digital Repository Federation-DRFが現在立ち上がりつつあるわけです。 
  また、学術ポータル担当者研修や、CSI委託事業報告交流会を実施しています。
  次に、コンテンツ拡充については、国内学会誌の著作権ポリシーについて調査を実施し、日本の学会に対して機関リポジトリ・フレンドリーなポリシーを採用するように促すなど多面的に対応しております。
  システム支援については、メタデータ標準を策定したり、ハーベスティングした結果を公開するシステムを開発しています。また、WEKOというコンテンツ・マネジメント・システムがありますが、その中に機関リポジトリモジュールをつくり、それを公開しています。これは特に電子出版に特化した特徴を持つモジュールであります。
  次に、機関リポジトリの公開数ですが現在、93機関となっております。そして、日本の機関リポジトリ数が世界4位であるというデータを載せております。現時点では58万件以上のコンテンツが収録されており、学術論文の情報、研究紀要の情報などが大きな比率を占めていますが、そのほか教材やデータベース等も収録されているという状況であります。
  国立情報学研究所では、JAIROというポータルをつくり、機関リポジトリのコンテンツをハーベストし、すべて閲覧できるようにしております。これが日本の大学の機関リポジトリにあるコンテンツの台帳のような役割になっております。
  次に、国立情報学研究所が考えております今後の課題についてです。一つ目は継続性であります。大学図書館単独の事業から大学全体の事業として位置づけること。また、研究開発的なプロジェクトを促進することによって、図書館において新しいスキルを担うことのできる人材が育っておりまして、大学としても、有効に活用していただければ有難いという気がいたします。
  また、著作権処理の手間に関して、まだ整理されていないところもあるのですが、この委託事業を通じて日本の学会の著作権ポリシーについて網羅的に調査するという活動も行っておりますので、いい方向に解決されていくのではないかと期待しております。
  次に今後の方向性をどう考えているかといいますと、例えば、日本には博士号を与える大学が約400大学あります。しかし、今のところ機関リポジトリ構築機関は93機関であることを考えると、今後、共用型リポジトリというようなメカニズムが必要なのではないかということが言えます。このため、機関リポジトリのクラウドを指向していくことによって裾野を広げていくことを加速したいと考えております。
  従来、大学共同利用機関については、このプロジェクトから除外していたのですが、共同利用機関、さらには共同利用・共同研究拠点などの専門分野別のリポジトリを促進することによって、コンテンツの広がりですとか、深まりというものを持っていけるのではないかと考えます。
  また、質的な深化ということについて、分野別リポジトリや、大学出版との連携、e-サイエンスとの連携について特に促進させたいと思っております。
  さらに、新たな活動としては、SPARC Japanとの融合と国際連携があります。国際連携と申しますのは、機関リポジトリに関しては、各国がそれぞれの状況に応じて対応しておりますので、他国の様子をみながら、日本はどうするかというようなことを検討していく必要があると思っております。
  最後に、共用型リポジトリのイメージを図にしたものがありますが、機関リポジトリを自らの大学で構築できないような大学に対して、共通のファシリティーを提供することよって、システムに煩わされずにコンテンツの投入や、公開ができるような仕組みを検討していきたいと思っています。以上です。

【土屋委員】

  「今後の方向性」で示されたことは基本的に、「今後の課題」とされている事柄を解決できるということで示されているのでしょうか。この両者の関係についてもう少しご説明いただきたいと思います。

【安達先生】

  課題の方が当然大きいわけでして、いろいろ悩ましいことがあるわけですが、現在、国立情報学研究所が図書館と一緒になってできることについて、方向性として絞り込んで提示しているという構図になっております。
  例えばオープンアクセスのことについて、国としてポリシーを策定して、また、科研費における研究成果の公開のしくみを決めていくということは、ぜひご検討いただきたいと思います。しかしながら、それをすぐに実現させるのは困難ですから、可能な範囲で、また大学図書館と一緒にできることという視点でまとめたものです。

【土屋委員】

  そうすると、国立情報学研究所と大学図書館とが、従来どおり協力すれば今後展開することができるというものなのでしょうか。それとも何らかの意味でのてこ入れが必要だということでしょうか。

【安達先生】

  例えば、DRFという仕組みは、日本ではまだ非常に弱いコミュニティなので、もしそれが強化されれば、公の場ではっきりと意見を表明するなどしていくことが考えられますが、まだそういう段階には達していない。今後、コミュニティがきちんと動けばできると思います。他省庁では、例えば、ある新しい産業を育成しようと思ったら、業界団体を組織させて、そこに問題を分析させてアピールさせますが、そのようになればよいなということです。

【羽入委員】

  土屋先生ご指摘の点は、安達先生のご説明にあった共用型リポジトリ構築環境の実現によって、おそらく課題が解決される方向にあるというご提案だと私は理解いたしました。そのとき、おそらく課題としてさらに残ってしまうのは、研究者がどういう姿勢で研究成果を発表するか、あるいは機関リポジトリに対してどういう態度をとるかということが問題なのであって、それはやはり国立情報学研究所に期待するというよりは、むしろ、学会や研究者のいわば意識の改革が重要なのではないかと考えております。それは個々の研究者や学会が解決していくべき問題なのではないかと思っております。

【有川主査】

  研究者の意識改革は大事なのだろうと思いますが、例えば、機関リポジトリの構築に当たって、図書館がかなりお手伝いをしています。ごく近い将来に研究成果は研究者自らが機関リポジトリに登載するということになるのではないかと思いますが、著作権処理など、ある種のプロにいてもらう必要もあります。

【米澤委員】

  学術雑誌に掲載される論文は、評価を経た上で載せられることになると思いますが、その論文がオープンアクセスにより無料でフリーアクセスが可能になります。ここでは、質の高い論文の流通とその料金とは区別して議論する必要があるのではないでしょうか。

【倉田委員】

  フリーアクセスという言い方は、いろいろな形で使われてしまっているのですが、まずオープンアクセスと言った場合、基本はいろいろなレベルの学術情報をできるだけ多くの人に見てもらおうというものです。しかし、現在、オープンアクセスを専門的に議論する場合には、基本的には査読済みで、編集もされた論文に関してのオープンアクセスが非常に大きな問題とされているのは事実です。
  一定レベル以上の出版社版になっている論文は、エディティングも完璧で、読みやすいレイアウトまで考えられて刊行されているわけですが、その内容の部分を原稿レベルでいいから一般に流通させてもいいのではないかというのが,オープンアクセスで現在話題になっていることと思っております。
  また、オープンアクセスによって、そういったものだけではなく、これまでなかなか表に出てこなかった様々な学術情報、例えば学位論文、報告書、雑誌論文にはなっていないレポート類なども、これまではグレーリテラチャーとしてあったわけで、そういったものを含めてより多くのものが電子化されて見やすくなってきたということは言えると思います。

【坂内委員】

  機関リポジトリについて、もう少し大きな流れの中で重要な位置づけになると思っています。一つは、研究活動、教育活動に必要な情報というのは何かという視点で見ると、論文だけではない非常に多様な形態の情報や成果があり、その発信形態は極めて多様になってきている。
  もう一つは、国立大学の法人化などに代表されるように、それぞれの機関、あるいは個々の研究者が自己アピール、アカウンタビリティーも含めて、成果をきちんと出していかなければいけないということにどう対応するのかというようなことです。こうした大きなトレンドを眺めながら、対応することで、いろいろな課題が解決できるような方向にしていくということが機関リポジトリの使命であると思っています。

【土屋委員】

  同趣旨で追加させていただきますが、e‐サイエンスでは、単純に研究成果としての論文や報告書というだけではなく、研究基盤となる、あるいは前提となるデータの蓄積に関しても、機関リポジトリの果たす役割の重要性は、国際的にも認識されてきているのではないでしょうか。その流通のためには、当然、ネットワーク基盤も重要で、そちらも政策的にサポートしつつ、同時にデータを含めたコンテンツのネットワーク的な確保についてもすすめていく必要があると思います。そのため、個々の大学図書館と国立情報学研究所との連携のみならず、強力なサポートが必要な状況に来ているのではないかという認識です。

【有川主査】

  大学図書館にはなじまないところがあると思いますが、e‐サイエンス、あるいはデータセントリックサイエンスの支援に関してお聞きしたい。。例えば、観測所、研究センターや実験所などから得られる膨大なデータについても機関リポジトリとして関連づけて考えておく必要があると思うのですが、そういう理解でよろしいのでしょうか。

【安達先生】

  私の今までの経験では、リポジトリは非常に重層的なもので、今後、例えば共同利用・共同研究拠点や大学共同利用機関のデータ、メタデータ、さらにはメタデータと文献の関連などが容易にできる環境をつくっていく必要もあると思っています。したがって、今後、大学における機関リポジトリの構築はもちろんエンカレッジする一方、大学の研究所や、研究者のコミュニティに特化したようなものを構築していく。それがマトリックスになるのか、重層的なものになるのかわからないのですが、非常に分散した形で有用なリポジトリ群ができていくということを期待しております。
  その萌芽は始まっており、例えば数学分野では、すべての大学に教員がおり、何らかの形で紀要に成果を発表しているわけですが、単に数学のジャーナルを集めるだけで数学の論文が全部集まるわけではなく、リポジトリを横断するような形態をとる、MathSciのデータベースをつなげることによって大学からの情報がすべて発信できるというような構造を構想しており、そのようなことがeサイエンス分野で起こることを期待しております

【土屋委員】

  教育を中心にしている大学が非常に多いという背景の中で、私立大学全体として、機関リポジトリの役割あるいは認識はどのぐらい共有されていると理解してよろしいのでしょうか。

【加藤委員】

  一般的に認知度を上げる努力はさまざまに展開されています。しかしながら、人文社会科学系分野の認知度をもう少し上げないといけないということが、将来的な問題であると感じています。

【土屋委員】

  大学のアイデンティティを見せるという意味では、機関リポジトリは今まで以上に広報的な性能があるような気はするのですが、取り組まれている方がどの程度わかっておられるのか、少し不安に思います。

【坂内委員】

  大学のホームページがPRの入り口だとすると、機関リポジトリは、きちんとした中身で大学の知恵をつくり、知恵を継承していくといった意味での重要性の認識について我々ももっとPRしていかないと、機関リポジトリは図書館の仕事として捉えられて、大学全体の認知が進まないのではないかと思います。

【土屋委員】

  倉田委員に伺いたいのですが、オープンアクセスの取り組みと、研究成果情報の受・発信のアンバランス問題の両者の関係についてどのように整理すればよいのでしょうか。

【倉田委員】

  研究成果情報の受・発信の国際的アンバランスをどう解消するかについてと、オープンアクセスとの関係は直接はあまりないと思います。日本の研究者は世界的に発信はしているわけですが、残念ながら、日本の学術雑誌という形での発信が世界的に大きな力を持つようにはなってこなかったということです。この状況はいろいろなものが絡んでおり、研究のあり方であるとか、英語によってグローバルな形で実際に戦ってこなくてはいけなかったという研究者たち側からすると、単に日本で雑誌をつくったからといって、そこでみんなが発信するようには単純にはならないだろうと思います。
  もし可能性があるとするならば、日本の学術雑誌が世界的な地位を築くために、オープンアクセスということもオプションの一つとしてうまく使える、そういう戦略を見つけるということぐらいしかないのではないかとは思っております。その際、戦略的にプラスとなることが見えない限り、簡単にアンバランスは解消できないのではないかと思います。
  物理学分野のSCOAP3がなぜうまくいかないのかについては、細かいところまでまだ十分分析ができていないのですが、日本の学会関係の方たちの意識はまだ、全体的なオープンアクセスの動きに関して、どちらかというと拒否反応を示していらっしゃるところがあるのかなとは感じています。改善すること自体に積極的に反対はしないまでも、何もしないということはあり得るのだろうと思っております。

【植松委員】

  機関リポジトリに関して申し上げますと、現実にはグーグルのようなサーチエンジン経由で機関リポジトリに入ってくる利用者が相当多数を占めており、どの大学の論文なのかわからないまま利用しているというのが実態で、大学の広報窓口という意識を執行部が持つことはなかなか難しいと申し上げておきたいと思います。
  もう一点は、教員の機関リポジトリに対する理解を上げるために、筑波大学では掲載してもらっている論文について、毎月のアクセス件数を各教員に報告しており、教員からはかなり反応がよく、励みになるということを言われています。

【有川主査】

  本日は私立大学図書館、オープンアクセス、さらに機関リポジトリに関して、非常に内容の深いプレゼンテーションをしていただきました。今後、まだ機会がございますので、他の意見発表なども踏まえながら議論ができればと思います。
  本日の作業部会はこの辺で終了したいと思います。貴重なご意見をいただきましてありがとうございました。

事務局より、次回の開催は平成21年4月15日(水曜日)10時から12時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

―― 了 ――

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