研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第12回) 議事要旨

1.日時

平成20年2月4日(月曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室(文部科学省東館3階)

3.出席者

委員

有川主査、三宅委員、小谷委員、坂内委員、土屋委員、美濃委員、山口委員、米澤委員

文部科学省

 勝野情報課長、関根情報科学技術研究企画官、井深学術基盤整備室長 その他関係官
(学術調査官)
 逸村学術調査官

オブザーバー

(外部有識者)
 長尾国立国会図書館長

4.議事要旨

【有川主査】
 本日は、ヒアリングの4回目として、我が国の学術情報基盤の今後の目指すべき方向性等について、学術研究に精通する有識者の方からご意見を伺い、意見交換を行いたいと思います。
 また、平成20年度の情報科学技術及び学術情報基盤等に関する予算の概要についての報告と、次世代スーパーコンピュータ作業部会が設置され、昨年12月に第1回の会議が開催されたとのことですので、審議状況等について事務局より報告いただきたいと思います。

 資料1「有識者からの意見発表資料」に基づき、学術情報基盤の今後の在り方等について、国立国会図書館長の長尾先生から、意見発表が行われ、その後、質疑及び意見交換が行われた。

○ ソフト的学術情報基盤の整備(国立国会図書館長 長尾 真)

【長尾国立国会図書館長】
 本作業部会では、これまで、ネットワークやスーパーコンピュータのハード面について有識者等の方から発表があったと聞いておりますので、私からはソフト的な方面、コンテンツ関係について焦点を当ててお話をしようと思っております。
 まず、国立国会図書館の資料についてですが、図書が880万冊あり、毎年24万点ぐらい増えております。それから、逐次刊行物が1,200万点、博士論文が46万点、地図、録音資料、マイクロフィルム等々で、全部で3,300万点の所蔵があります。
 次に、電子化資料についてですが、電子化についても随分努力はしているのですが、なかなか思うようにはかどらないという状況です。戦後の国会に関する会議の資料である国会会議録は290万頁あり、全部文字情報として入っているので、フルテキスト検索もできます。それから、帝国議会会議録が8万頁あり、これは戦前のものですが、イメージの形で入っております。日本法令索引は36万データありますが、これは索引のみであり、フルテキストは入っていません。近代デジタルライブラリは、我が館が所蔵している様々な資料をデジタル化したものが1,300万コマあります。貴重書画像データベースについては、古い写真がたくさんありますので、これをデータベース化したものが4万コマあります。それから、電子展示会として写真などに解説をつけたものが1.3万コマあります。これらのものが電子化資料として持っており、インターネットを通じて自由にアクセスすることができます。
 電子ジャーナルについては、リストにある欧文、日中文の電子ジャーナルを提供しています。
 次に、日本における電子ジャーナル利用の実態ですが、先ほど説明した国立国会図書館における電子ジャーナルは2万4,600タイトル入っており、膨大なタイトル数を提供しています。高価な電子ジャーナルは、国立大学をはじめとする大学が重複して購入しているという事実があり、電子ジャーナルのプロバイダに対して相当なお金を日本全国では払っています。
 韓国では、図書館コンソーシアムが一括してこの電子ジャーナルを購入し、韓国全体の誰もがアクセスできるという韓国電子サイトライセンスイニシアチブというプログラムによりサービスを行っています。
 日本においても、National Site Licenseという、お金を出し合って1カ所での全国民に対するサービスに統一するということができないものだろうかというような考え方も当然出てくるのではないかと思っています。国立国会図書館のほかに科学技術振興機構、国立情報学研究所、あるいは各大学等が似たような電子ジャーナルを相当重複して購入していると思われますので、そのような方策もあり得るのではないかと思います。
 次に、機関リポジトリが各機関において構築されてきており、大変歓迎すべきことだと思っていますが、国立国会図書館の立場から見ますと、納本率というのが大変問題になります。現在、国立国会図書館への納本率は、流通系のものが約90パーセントあります。この流通系のものといいますのは、出版社から日販、東販などの取次ぎを経由し書店に入る資料、主として図書ですが、それについては90パーセントぐらいの納本率になっています。
 それから、例えば大学で個別に印刷されて、いわゆる商品として流通するものでないといった非流通系のものについては46パーセント程度の納本率になっています。出版物とは一体何かということについてはいろいろと議論があると思いますが、国立国会図書館においては大体50部以上刷られて、適当なところに配付されるというものは出版物であるとみなすということになっております。
 また、地方公共団体が様々な報告書などを出していますが、その納本率も低いということで、納本率を80パーセントぐらいまで上げるべく努力をしているところです。そして、大学の資料の納本率が低く、国立大学が73パーセントで、公立大学が67パーセント、私立大学が82パーセントという状況になっています。我が国のために出版された図書、あるいは報告書を永久に保存し、利用に供するということですから、納めていただくということによって、成果が永久に記録され、かつ、何年先にも使われるということになるわけです。
 機関リポジトリは、博士論文が中心になっているようですが、学内のあらゆる出版物に対しても、きちっと蓄積・保存していただくことが必要ではないかと思います。必ずしも国立国会図書館に納めていただかなくても結構ですが、日本中でどこにどういうものがあるかという所在が明確であることが必要であると思います。その上で、大学においてそれを扱いかねるということであれば、国立国会図書館にその管理を任せいただくというのでもよいのではないかと思います。
 次に、学会雑誌の納本・保存については、これから大変なことになってくるのではないかと考えています。学協会、その他団体の雑誌がどんどん電子化されており、紙の形態でなくなってきている中、国立国会図書館において納入義務を課している出版物は、紙媒体であり、電子的なものについては納本の義務が明確には課されていません。
 しかしながら、電子雑誌をきちっと納本していただき、利用に供することは非常に大事なことですので、大学図書館等において電子雑誌を電子納本してもらうためのソフトウエアをしっかりつくっていくことが緊急に必要になってきているのではないかと思っています。ただし、電子雑誌の論文に関する著作権のありようが学会ごとに異なり、非常に複雑ですので、学会側と様々な課題を協議する必要があるのではないかと思っています。
 次に、研究者の個人サイトからの発信についてですが、これからは研究者の個人サイトから研究論文が発信されることがどんどん増えてきます。これらの論文の永久保存をどこでどのようにするかということが問題になります。もちろん国会図書館に送付いただければ責任を持って取扱いますが、なかなか気付いてくれる方が少ないので、大学でも配慮いただく必要があるのではないかと思っています。
 また、研究者は自分の研究に伴う資料、データ類を個人のデータベースに蓄積している場合が非常に多いと思われます。特に文系の方は自分の研究に使った資料やデータ類を自分のところに置いておられる。そういうものはある時点でオープンにしていただく、あるいは大学のデータベースに入れていただく、または国会図書館に送っていただいてもいいと思います。貴重な資料を放っておき、先生が退職された後は、所在がわからなくなるということでは非常にもったいない、無駄になってしまいますので、十分な配慮が必要だと思います。自分のつくった資料をあまりおもてに出したがらないということはあると思いますが、学問というのはオープンな世界でなければならないものですし、人類のための文化財として、適当な時点でオープンにしてもらうことが必要ではないかと思っています。
 次に、インターネット情報の収集についてですが、インターネット上には貴重な学術情報などがたくさんあります。そして、刻々と増えていったり、変化したり、また、消滅していますので、これを常に体系的に収集して保存して利用に供するということが必要になります。様々なサイトが目的を達成した時点で閉じられてしまうということになり、特に国立国会図書館の立場からすると、そういうものを永久に保存しておくということを考えなければもったいないと思っているところです。
 そこで、次の国立国会図書館がやりたいこと、やるべきことですが、3つあり、1つ目は、すべての図書・資料の電子化を行いたいと考えています。400万冊の図書を電子化するのには大体400億円ぐらいかかります。著作権問題、経費の問題等がありますのでなかなか難しいとは思っていますが、そのようなことを考えております。2つ目は、今後の出版物については紙の納本とともに電子納本もできないかと思っています。もちろん電子納本されたものの利用に関しては、出版社や著者が不利益をこうむらない利用の範囲を明確にしていかなければならないと思います。3つ目は、インターネット上の情報をシステマティックにアーカイビングするということを行わなければならないと思っています。なお、これらすべては利害関係者がおられますので、そういったことの合意を得るとともに、著作権をクリアするということが必要になってくるので非常に困難な問題であると認識しています。
 特にインターネットアーカイビングについては、現在、約4,000サイトのWeb情報の許諾を得て、年に1回程度収集をしていますが、とても4,000のサイトぐらいでは足りないので、アドレスのドメインがgo、acのものについては、一々許諾を得ずに収集ができるようにしたいと思っています。また、それを高速のクローラーで差分収集するようにしたいとも思っています。
 そのようなことを考えた場合、次のハイパフォーマンス・インフォメーション・アベイラビリティに記述のとおり、高速のクローラーを働かせるハードウエア、ソフトウエアの開発と、超巨大超高速のメモリシステム、ペタバイトの何万倍というぐらいの規模のメモリが必要です。しかし、それは実現していません。国会図書館で実現していないというだけではなく、技術的な問題や、電力が非常に深刻な問題になります。
 このようなことから、スーパーコンピュータという問題はもちろん大事な問題ですが、これからコンテンツの時代にどんどん変わっていく中で、超高速情報処理機能を持って、なおかつ超巨大なメモリシステムを持った、そういうシステムを開発して、そして幾つかの拠点に置いて対処するということを考えないとだめなのではないかと思います。
 スーパーコンピュータでトップを争う時代から、もっと情報処理機能を高め、なおかつ巨大メモリシステムに幾らでも情報をため込んで、永久にためて処理をしたり、提供するというようなことができる巨大システム、そのためのネットワークといったものが必須になってくると思っており、このようなところに焦点を当てていくということは非常に大事なのではないかと思っています。
 次に、これからの図書館としましては、大学図書館、専門図書館、公共図書館等は、現在、予算とか人員が年々削減され疲弊してきています。国立国会図書館も例外ではないのですが、特に公共図書館の場合はレファレンスサービスが非常に弱体化してきています。つまり、アウトソーシングで業務を実施していますので、レファレンスサービスができるような司書がどんどんいなくなっているという非常に大きな問題があります。
 したがって、全国の図書館が連携して書物の相互貸出、あるいはレファレンスサービスのための知識の共有化ということをもっと積極的に行わなければならないのではないかと思っています。国会図書館も、大いにやっていこうとしているところです。
 書物の相互貸出については、やはり図書・資料の電子化ということを行っていかないと、今のように郵送しているのでは、これからの学術研究のスピードには合いません。そういうこともあって、図書のデジタル化というのが必要になる。ところが、様々な権利団体における収入の問題、著作権の同一権などの関係からなかなか認められないという状況があるので、その辺を考えていかなければいけないのではないかと思っています。
 また、これは図書館だけではなく、公文書館、美術館、博物館、その他の公共施設がもっとデジタル化、ネットワーク化など種々の観点から対応を考えていかなければならないと思っています。さらに、特許関係の情報、その他の専門分野の数値、非数値のデータベースとリンクするということももっと重視しなければいけないと思います。
 結論としましては、人類のすべての知的資産は近くにいる人も遠くにいる人も、その利用について同等の利便性を持つ権利があるわけで、国立国会図書館の近くにいる人だけが特別に優位な立場に立って、遠いところにいる人は不利になるというのは、現在の、あるいはこれからの情報社会の中ではおかしいわけです。どこにいても平等のサービスが受けられるという、そういう観点で頑張っていく必要があるのではないかということです。
 私、国立国会図書館へ参りまして、「知識が我らを豊かにする」というキャッチフレーズをつくり、図書館員、あるいは外部の方に対して、もっとコンテンツに関して注目をすべきである、そしてそれをあまねく誰もが利用できるようにすべきであるという宣伝をしています。
 以上がアウトラインですが、最後に学術情報基盤の今後の在り方等に関する意見ですが、学術情報基盤の現状については、国立情報学研究所と主要大学に置かれています情報基盤センターは、学術研究のための計算処理、あるいは各種のデータベースの提供、学術情報ネットワークの維持発展のために大きな役目を果たしてきています。
 一方、大学図書館では電子図書館があまり進展せず、電子ジャーナルの研究者への提供については大きな役目を果たしてきたものの、その高い維持経費に苦しめられて、電子ジャーナルの規模の縮小ということも起こりつつあるようです。これはゆゆしき問題であり、National Site Licenseということも視野に入れた議論が必要ではないかというのは、先ほどご説明したとおりです。
 今後は、各大学において電子図書館システムと情報基盤センターのデータベースの統合、あるいは、図書館と情報基盤センターの緩やかな連携や、大学の事情にもよりますが統合するなどにより、できるだけ効率のよいものとして近隣の大学をも含めた大学の教育研究活動のために利用されるような学術情報の中心となるべきではないか、今後ともそれを維持発展していく必要があるのではないかと思います。
 次に、情報基盤センターのこれからの在り方ですが、1つ目として、スーパーコンピュータは1カ所にあればよいというようなものではございません。スーパーコンピュータは、今後も多くの大学に利用されるでしょうし、スーパーコンピュータだけではなく、超巨大メモリと高性能情報処理とのバランスのとれたシステムの分散型の高速ネットワーク構成の必要性が高まることから、これを情報基盤センターに設置するなどの強化が必要ではないかと思います。アメリカでもそのような方向でいろいろなされているように聞いていますが、このようなシステムを設置する大学は、近隣の大学等のすべての学術情報を集中して蓄積・保存、メンテナンスをして、利用に供するということが必要であると思います。
 また、各大学図書館の図書・資料もデジタル化しシステムに蓄積し利用に供する努力をしていく必要があると思います。この場合、重複を避けながら体系的に整理する必要があり、国立情報学研究所などが中心となってコーディネーションをしていくのがよいのではないかと思っています。
 さらに、分散的に様々な資料が様々な大学の様々なデータベースに入っているわけであり、全国でこれを知るということが必要ですから、横断的に検索ができなければいけないと思います。そのため、学術情報の利用者は1つの検索の入り口から入っても、分散的に存在する学術情報の中から自分の欲する情報がどこにあるかを意識せずに取り出せるというシステムがつくられる必要があります。国会図書館では、その非常に小規模なシステムを公立図書館と連携して構築しており、Digital Archive Portal、PORTAという名前をつけてやり始めているのですけれども、これはある意味では参考にしていただけるのではないかと思っています。
 国立情報学研究所においては、同じような考え方を持っていろいろやっていると聞いていますが、さらに積極的にやっていっていただくのがよろしいのではないかというのが私の意見です。以上で終わります。

【逸村学術調査官】
 国立国会図書館の電子ジャーナルのところで幾つかご質問させていただきたいのですが、これは当然、出版社との契約に基づいていると思うのですが、基本的に館内での利用というのが前提ですか。

【長尾国立国会図書館長】
 その通りです。

【逸村学術調査官】
 そうしますと、プリントアウトもダウンロードも両方可能ということですか。

【長尾国立国会図書館長】
 プリントアウトはできます。

【逸村学術調査官】
 一番関心があるのは利用のほうでして、どのぐらいそれぞれ利用があるのか。また、その利用においては、どのような背景の方々が利用しているのか等の統計は取っていますか。

【長尾国立国会図書館長】
 もちろん、誰でも利用できます。おいでいただいたら、だれでもプリントアウトして使っていただけますが、どの程度の使われ方かという統計資料は大分前に見たので忘れてしまいましたが、全般的に言って使われ方は少ないのではないかと思います。
 ただし、国立国会図書館は、一般に国民の誰にでもこの電子ジャーナルをサービスしなければいけないというミッションがあり、大学の研究者の場合は、大学の電子ジャーナルを見ることができますけれども、企業や市民の方々のためにどうしてもサービスしなければならないという形で提供してきているわけです。それが韓国のような形になれば、大学研究者や企業も一様にアクセスすることができるという、そういうシステムになるわけです。

【坂内委員】
 我々にとって大変含蓄の深いお話であり、またいろいろな問題を提起していただき、ありがとうございます。基本的には、これからコンテンツはますます重要になるということで、オールジャパンで連携をして、多様なコンテンツのアーカイブを推進しなければならないという大きな流れにつきましては全く同感です。その推進役として先生のこれからのリーダーシップに期待させていただきたいのですが、方法論としては、アーカイブを作らなければならない側だけでなく、現場で苦労してデータを作っている人たちのインセンティブについても考慮しなければならないと思います。
 既存の出版社も生き残っていかなければならないし、学会も会費や会誌からの収入で成り立っている。以前の部会でも議論したのですが、コンテンツの世界にはさまざまなステークホルダーが関与しており、利害関係も複雑にからみあっている。そういう中で、ナショナル・サイト・ライセンスで国立国会図書館が一元的に誰でもアクセスできるような環境を作ることは、理想の究極の姿だと思うのですが、そこに到達するためには、いくつかのマイルストーンを起き、段階的に進めていくことが重要なのではないか。先生が提示なされたビジョンの実現に向けてどう進んでいくか、というところを我々が考えなければいけないと思っています。
 そういう意味では、大学や国立情報学研究所はできる範囲ですでにやり始めていることも結構ありまして、例えばSpringerやOxford University Pressの電子ジャーナルの過去分については、国公私立大学と国立情報学研究所でナショナル・サイト・ライセンスに近いシステムを実現しています。エルゼビアのトップともお話したのですが、エルゼビアからは残念ながら今の所参加できないという回答を得ています。それから、カレント分については、ビジネスモデルが崩れるので、当分は難しい。このあたりをどう突破していくかが課題となっています。学会との関係についても、究極と現状の間で何とかソフトランディングしていくような仕掛けを模索しています。
 国立情報学研究所は基本的に大学と連携して学割が効く世界でやっていますが、産業界も含めた枠組みを考えていく場合には、国会図書館や科学技術振興機構などとも連携して、全てのステークホルダーが存立できるような枠組みの構築をぜひ国会図書館の主導でお願いしたいと思います。
 それから、コンテンツに関しては、特許情報なども結構いろいろなところでアーカイブもやっています。そういう機関と役割分担できるような仕掛けについても、それを作るための動きを国会図書館にステアリングしていただき、ぜひ利害関係者が全て成り立つようなものをめざしていきたいと考えています。
 もうひとつ、インターネットのアーカイブにつきましては、国会図書館はGoogleになるのかどうか。対立するのか協調するのか。Googleとは理念的に違うものを作って、共存していくという道もあるのではないかと考えています。
 それと予算の件ですが、国立情報学研究所はスタンフォード大学と共同プロジェクトを進めていますが、スタンフォードでは既に100万冊以上の電子化を終了しているもようであると聞いています。その責任者のケラー氏には私どものアドバイザリーボードにも入っていただいておりますが、種々な工夫により400万冊で400億円という経費よりもかなり低い価格でやっているようです。400億という数字になると手をつけにくいし、また一般論として利権化するおそれもあります。最低限やらなければならないことを見極め、効率的な電子化の計画を立て、妥当な予算を立てるということも協力してやっていかなければならないという気もしています。

【長尾国立国会図書館長】
 いろいろご指摘いただいてありがとうございます。電子ジャーナルについては、国立国会図書館が全部を取り仕切るというようなことを考えているわけではありません。プロバイダとの交渉や、あるいはそれに学割ではない形で交渉しないとNational Site Licenseは簡単に取れませんし、お金が高くつくわけですから、国立国会図書館の予算だけでできるものではありません。
 このため、館内に来て使っていただくという形で契約しているわけで、ネットワークを通じて全国だれでもが使えるようなライセンスにしようとすると、べらぼうなお金を取られるのでできないでいるわけですから、各大学からお金を持ち寄って、ある種のコンソーシアムをつくって、そこが責任を持って電子ジャーナルの運営をやるということにでもしないと、予算の面で無理があると感じます。
 そのコンソーシアムの面倒を国立国会図書館がとれということであれば、それはできるでしょうけれども、国立国会図書館の責任で全部やるということは全く不可能です。そういった意味では、国立情報学研究所や科学技術振興機構、各大学の方々とよく話し合いをして、突破口を見出す努力をする必要があるのではないかと思っています。
 それから、2つ目のインターネットアーカイブについてですけれども、Googleに対抗するということはありませんし、また、Googleを使えばいいという簡単なものではないと思っております。
 それから、もう一つはやはり、我々がやらなければいけないのは、その集める電子情報を永久に保存しないといけないという立場です。Googleは何年間、そういうものを持つかわかりませんが、10年やそこらではなくて、100年、200年ともたせるというタイムスパンできちっと考えていくのであれば、我々が少なくとも日本のインターネット情報については責任を持つ必要があるのではないかなと思っています。しかし、これは国立国会図書館法の中にある納本制度の規定では、集められないことになっています。一々許諾を取らなければいけないのを何とか許諾なしに、少なくとも政府関係のもの、学術関係のものは集めて保存ができれば大変いいと思っています。
 それから、3番目の本の電子化ですけれども、これはアメリカでも現在1ページ10セントで大体電子化しています。1冊が300ページから500ページであるとすると、50ドルですから、400万冊やるのに400億円というのはちょっと言い過ぎかもしれませんし、またそれを工場的な形でジャンジャンやればもっとコストダウンできる可能性はありますけれども、1ページ10セントでアメリカが電子化しているというのは、インドや中国に工場をつくってやっているわけで、しかも、二十何カ国語を扱っていると言っていますけれども、ほとんどは英語アルファベットですから、OCRも安くて済むのではないかと思われます。
 国立国会図書館の資料をインドに空輸して、そこでデジタル化してもらってまた返してもらうというのは非常にリスクが大きく、とてもできません。そのようなこともあり、日本で電子化すると1ページ10セントではできませんので、400万冊で400億円くらいかかるのではと想定したところです。

【美濃委員】
 2つほどお聞きしたいのですが、我々も文系の先生方が持っておられるデータをデジタルアーカイブしよう考えていたのですが、そうすると、実際の物の保存もついてくるわけです。デジタルアーカイブしたら物の保存がなくなるかというと、決してそうではなくて、プラスアルファとしてデジタルアーカイブをつくらなければならないということになる。デジタルアーカイブを実際やろうとするとプラスアルファの人員が要るということが理解されていません。
 また、学内などでもそういう議論をしますと、デジタルにしたら物は要らないでしょうと言う先生がいますし、文系の先生はデジタルといっても物は要るということであり、ちょっとお金をいただいてもどっちをやってよいかよく分からない状況です。現在、学内において、関連経費を要求しているのですが、デジタルアーカイブをつくるための物の整理が中心のデジタルアーカイブプロジェクトというのが始まろうとしており、人員については、どうしていったらいいのかと思っています。
 もう一つは、研究者の個人サイトからの発信に関連するのですが、我々も退職される先生方からホームページを預かりましょうというようなことを一時期考えたのですけれども、預かったものを例えばオープンにしておいた場合、著作権法など法律はしだいに変わっていくわけで、そのときオープンにしていたページに問題が起こるということがあり得る。内部で議論するとそういう危険性をいっぱい指摘され、それなら預からないほうがいいというような方向へ動いてしまうわけです。著作権の問題を議論していますと、教育関係者の声があまり著作権法改正の現場に届いていないという話をよく聞きます。我々の意見を届けたいのですけれども、どうしたらいいかよくわからないというところがあります。

【長尾国立国会図書館長】
 1番目の問題ですけれども、デジタル化しても物を保存しなければならないことによって、さらなる人員が要る。間違いないところですが、国立国会図書館の場合については、デジタルアーカイブにすると、書庫に行って本を取ってこなければならないという作業が要らなくなり、お客さんに対して迅速なサービスができる。また、国会図書館の場合は複写サービスの要求がものすごく多くて、年間に1,000万枚ぐらいの複写サービス要求があって複写しておりますが、この複写にものすごい人手をかけております。本が傷みますので、丁寧に本を扱わないといけない。そして、お客さんを待たさないといけない。複写の要求が行きまして、何ページから何ページまで複写してくださいと言われたときに、それが著作権の許す範囲に入っているかをチェックした後、複写へ回すわけですが、そのときに本が傷まないようにしながら、なおかつきれいな複写、コピーをとってあげないと、なかなか利用者は文句言いますので、そういうことをする。そのための人手というのは猛烈です。
 こういうことは電子化しておくと一切なくなるということがありますので、その辺で人的なコストのバランスがいくとは思いませんけれども、アーカイブする、電子化することによってメリットは、いろいろな面であるということは事実だと思います。
 それから、2つ目の個人の持っておられるファイル、データベースについては、プライバシーの問題については非常に難しい問題が含まれていますから、そういう資料については預かれないのかもしれません。プライバシーにかかわらない学術資料、あるいは昔の歴史的な人物に関する50年、70年過ぎた資料ということしかないのかもしれませんが、非常に難しい課題だと思います。

【小谷委員】
 本日配付された資料1の4ページに、これからはスーパーコンピュータでトップを争う時代ではなくて、分散型超高速情報収集処理と超巨大メモリシステムを競う時代になるということを記述していますが、これには私も全く同感です。けれども、次の5ページの中ほどの「学術情報基盤センターのこれからのあり方」の項目で、次世代スーパーコンピュータは1カ所にあればよいというものではない。巨大超高速計算は今後とも多くの大学で必要とされるし、超巨大メモリと高性能情報処理とのバランスの取れたシステムの分散型高速ネットワーク構成の必要性はますます高まるから、これを主要な大学の学術情報基盤センターに設置するなどの強化が大切であると述べられていますが、理解に苦しむところがありますので、この辺の考え方をもう少し詳しくご説明いただけないでしょうか。

【長尾国立国会図書館長】
 巨大メモリを持った情報処理能力、コンテンツが扱えるような、そういうシステムを主要な情報基盤センターに置くべきだという考えを記述したところです。

【坂内委員】
 アーカイブもさることながら、これから生まれるコンテンツをどうするのか。新しいものを電子的に世に出していくという流れを作り出さないといけない。日本では、これもなかなか進んでいない。まず新しいものを電子化していく流れをエンカレッジすることが大事で、これから生まれていくものをどんどん電子化して付加価値を高めていく。それから過去のものをアーカイブしていく。
 私どもも大学などといっしょに機関リポジトリのプロジェクトを3年前から始めており、今では80くらいの大学が参加していますが、例えば学位論文などは学生は電子ファイルで作成しているにも関わらず、なかなか機関リポジトリに蓄積されていかない。今後のものをきちんと電子的に蓄積するという流れを確立し、それからアーカイブもという戦略も必要なのではないかと考えています。

【長尾国立国会図書館長】
 先般、日本書籍出版協会の役員の方々と、いろいろ話し合いをしたのですけれども、先生が今言われたようなことをおっしゃる方もいました。つまり、もう5年ぐらいたった出版物はコマーシャルな価値が非常に下がっているので、そういうものについては電子化をしてもいいのではないかというようなことです。
 このような種類の出版物は何年たったら電子化するというような、ある種のカテゴリー分けをして考えたほうがいいのではないかというような話もありました。
 また、電子納本についてもそのようなことがあり得るわけで、ある種の出版物については電子納本されたものは5年間は一切公開しないが、5年経過後利用に供する、あるいは電子納本されたものは図書館の中では読んでもよいけれども、図書館から外へは電子的には出さないなど、様々な条件を著作権者や利害関係者とよく話し合って、どこで折り合うかということを考えないといけないと思います。中には、電子化、電子納本はいいが、その場合は50年、70年公開しないでほしいという出版社もあることは事実です。

【有川主査】
 最後のご意見は、非常に大事なことかもしれません。美濃委員が言われたプライバシーにも相通じるところがあると思うのですが、電子化即オープンアクセスということは非常に難しい問題かもしれません。
 また、古いものであればあまり問題ないかというと、例えば、古い地図を高精細画像化する取り組もいろんなところでなされていますが、このような場合、現在の場所との対応がついてしまうこともあり、予想しないような新たな問題に直面するようなことがあるように聞いています。地図以外の古い資料を電子化してアクセスできるようにしたときにも同じような問題が起こると思います。一方で、資料の劣化などに対応するため、適当な時期にしっかり体系立てて電子化しておく必要があるとも思っています。
 国立国会図書館には、2万4,000タイトルの電子ジャーナルがあるわけですけれども、契約の問題もあってすべて館内閲覧ということになっている。そのようなやり方で歯どめを効かせつつ、そこに行けば、しかるべき手続等をすることで閲覧できるようにしておくということが、非常に大事だと思います。

【山口委員】
 機関リポジトリのところで、大学の資料の納本率が低いというお話がありました。特に国公立に関しては私立に比べて低い値が出ていますが、大学でも今、大学の教員のリサーチのリポジトリ化をしているのですが、専攻、学部によって先生方の熱の入れ方が違い、学内でもインセンティブをどのように先生方に与えて集めるかというのが問題になっています。現時点では自分の研究室や専攻単位のWebサイトに最新の研究なり結果を載せておけばそれで満足するという教員も多いので、このような結果が出ているのかと思います。そのような点で、どのようなインセンティブを教員、大学に与えて、この納本率を増やしていくべきと考えますか。

【長尾国立国会図書館長】
 大学の中で議論いただければと思いますが、言えることは、各研究者の成果が永久に残り、50年先、100年先の人も参考にしてくれる可能性がありますというようなことではないかと思います。

【有川主査】
 そういう意味で、国立国会図書館に納本しておきますと、そこにはちゃんと保存される。大学では、個人や研究室などの様々なレベルでアーカイビングを行うわけですが、それらを国会図書館に納本すれば永久に残るということだと思います。

【三宅委員】
 電子化のメリットというのは、レファレンスなどがネットワークでつながっていて、1つの書籍からほかの書籍へと結びつき、それによって付加価値が一気に高まるというようなことだと思っています。どこかの地方の私立大学で書かれたものでもちゃんとメインストリームとつながるというところが大事だと思うので、国立国会図書館まで行かないと、プリントできないというのでは、ほんとうのインセンティブにはならないのではないかと思います。

【長尾国立国会図書館長】
 国立国会図書館としてもどこでも見ることができるということを実現していきたいところではありますが、先ほどから申し上げているような課題があるとうのが現状です。

【坂内委員】
 今言われたことがこれからの目標でもあると思うので、いろいろな障害をクリアしていくと同時に、言われるような世界がいかに社会にとって必要かということをみんなで協力して訴えていくことがまず必要かと思います。

【米澤委員】
 全く偶然ですが、昨日、私が20年ぐらい前に書いた本をGoogleで検索したところ、絶版であるとの表示がありました。また、復刻したいサイトというのがあって、そこにこの本を復刻してくれというふうに書いてある人もあったのを見ました。
 そこで、例えば私が新たに本を書いたときに、それを出版社に出す前に何らかの形で、国立国会図書館に永久アーカイブしていただくことは可能ですか。

【長尾国立国会図書館長】
 現時点においてそのような要望を受け入れるシステムにはなっていませんが、やれるようであれば是非やっていきたいとは思っています。

【米澤委員】
 自分の出版物が絶版かと思うと、永久保存というのは非常に大事なことと思います。

【逸村学術調査官】
 米澤先生の話は、いわゆる著者最終稿であれば、東大図書館のリポジトリで受け付けられると思います。ただし、出版の話が出てくると、出版社バージョンとの整合などとの問題が出てくるので、そこは図書館を通じて出版社とのやりとりの問題になろうかと思います。しかし、現在の大学機関リポジトリでは、米澤先生の話と逆に、書いたけれども、これを出版したいのでリポジトリに預けるのは構わないが、公開するのは何年後にしてくれという話のほうが多いようです。

【有川主査】
 長尾先生と国立国会図書館に対する要望みたいな感じになってしまいましたが、こういった学術情報、図書情報といったものがこれほど巨大になり、期間も長期にわたってということになると、大きな課題になると思います。当然、非常にハイパフォーマンスなコンピュータも必要でしょうし、マイグレーションの問題なども含め新たな技術的な課題が包含されており、それをどう解決していくか、情報科学・技術的にも重要な課題ではないかと思います。

【長尾国立国会図書館長】
 やはり、巨大メモリシステムは、5年毎にメモリを書き直していくなど解決しなければいけない問題があると思います。つまり、一度書き込んだら、1,000年もつというようなメモリ、1,000年たっても読めるというようなメモリをつくらないといけないのではないかと思います。

【有川主査】
 どんどん変わっていきますので、時々新しい媒体にコピーをするというような、そういった作業も必要ではないかと思います。

【美濃委員】
 データを長期的に保存しようと大学でいろいろ考えると、いつまで預かるか、その後どうするか、また、災害などの対応も考えていかなくてはならない大変難しい問題です。しかし、電子的なデータは最終的には情報基盤センターで預からざるを得ないと思っています。ただ、その更新やメンテナンスなどの管理を全て情報基盤センターでやれと言われると、非常に困難であると思います。したがって、データベースを電子的に世の中に提供しようという作業の中で、情報基盤センターの役割はどこまでかというのが1つの課題です。
 また、スパコンと絡めて、大容量のデジタルデータをどう扱っていくか。これからの大学の活動は全部デジタル化されて記録されますので、それを情報基盤センターはどう考えていくかが非常に重要な問題であり、とりあえず物理的に預かり、セキュリティーの高いところに置くということまでは想定していますが、そこから先のことはなかなか考えられない。予算も含めて考えていかなければなりませんし、大学で発生する貴重な、ずっと保存するようなデータを大学でほんとうに持っていけるのかとかいうような話になったときに、何かメカニズムをつくっておかないといけないのではないかと思います。

【有川主査】
 研究者が作成した論文などは、一つの方向性として、国立国会図書館に預けておけるということであり、非常に大事な議論だと思います。
 次に、資料2「平成20年度の情報科学技術及び学術情報基盤等に関する予算案の概要」について事務局より報告がなされ、特段の質問等はなかった。
 次に、資料3「科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会情報科学技術委員会次世代スーパーコンピュータ作業部会(第1回)について」により、昨年末に開催された第1回の審議状況等について事務局より報告がなされ、特段の質問等はなかった。
 次に、参考資料2「学術分科会(第25回)において出された学術情報基盤に関する意見について」により、1月31日に開催された学術分科会における学術情報基盤に関する意見について事務局より報告され、その後、委員から補足説明及び質疑応答がなされた。

【有川主査】
 事務局から現状まで含めて紹介をしていただきましたけれども、当日、私からその場ですぐ対応できることはお話をさせていただきました。基本的なことは今の「現状報告」の中に入っていたと思います。ネットワークのことなど除きますと、我々の作業部会で、現在優先して審議している事項が終わった後で取り組まなければいけないことなどが中心かと思います。
 特に電子ジャーナルの価格の高騰への対応に関しては、例えば国立大学協会からも、ある種の要望がなされているようですが、この問題は、国立大学図書館協会で、相当頑張ってきたことでもありますので、その辺を踏まえて、どういった方策が一番効果的かつ効率的であるか、考えていかなければいけないと思います。現在優先し取り上げている課題に関する討論が終わった後で、どのように取り組んでいくべきかしっかり議論していきたいと思います。

【土屋委員】
 国立大学図書館協会のほうでは昨年の夏から集中的な議論を始めて、今年の5月頃にお集まりいただく機会を設定するべく努力しているというところです。

【有川主査】
 それから、National Site Licenseというようなことを先ほど長尾先生も発表されていましたが、今のところ、それぞれが努力をしているといったところですが、国全体として考えていかなければならない問題ではないかということも感じております。
 次に、参考資料3「学術研究の推進体制に関するこれまでの審議経過の概要案」により、研究環境基盤部会における審議において、記述場所の変更、新たな段落の追加等の修正が行われた旨事務局より報告がなされ、特段の質問等はなかった。
 次に、事務局より、次回の開催は、平成20年2月22日(金曜日)15時から17時を予定している旨説明があり、本日の作業部会を終了した。

─了─

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