研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第6回) 議事要旨

1.日時

平成18年12月12日(火曜日) 10時~12時15分

2.場所

国立情報学研究所大会議室(学術総合センター22階)

3.出席者

委員

 石井主査、坂内主査代理、有川委員、伊賀委員、後藤委員、土屋委員、西村委員、細野委員

文部科学省

 勝野情報課長、柴崎学術基盤整備室長、星野情報科学技術研究企画官、小酒井学術基盤整備室室長補佐、膝舘情報研究推進専門官
(科学官・学術調査官)
 西尾科学官、柿沼主任学術調査官、逸村学術調査官

4.議事要旨

(1)事務局より、事務局の交代について紹介があった。

(2)平成19年度概算要求における国立大学法人運営費交付金特別教育研究経費(学術情報基盤関連)の状況について、資料2に基づき、事務局から説明があった。

(3)作業部会報告を踏まえた各大学の取組状況等について、資料3-1~3-4、資料4-1~4-4に基づき、事務局から説明があった。さらに、土屋委員から資料に基づいて説明があり、その後、以下のような意見交換・質疑応答を行った。

(○・・・委員、科学官、学術調査官、△・・・事務局。以下同じ)

○ 土屋委員の資料にある、AAやANは何を示すのか。

○ NACSIS-ILLのシステム上で雑誌の分類を示すタグである。システムを作り始めた80年代にはAAが洋雑誌、ANが和雑誌を示していたが、1997年から全てAAに統一され、洋雑誌と和雑誌の区別がつかなくなってしまったので、今回の調査に際して再度AAのうち和雑誌と確認した物をAXとしてタグ付けし直した。AAからAXの分を差し引いて計算したところ、平成17年度以降は洋雑誌と和雑誌の総数が逆転することとなり、興味深いことと考えている。

○ 土屋委員の資料によれば、近年、複写の依頼件数の上位誌名から洋雑誌が減り和雑誌が増えているが、それは和雑誌について電子化と図書館とのパッケージ契約等が遅れていることが原因と言えるのか。

○ 事実を確認したわけではないが、おそらくそうだろう。和雑誌の商業用電子ジャーナル・プラットホームとしては「メディカル・オンライン」というものがあるが、それだけでは十分に対応できていないこと、1論文あたり650円の課金を行うペイパービュー方式であること、プロシーディングス等が多いと言った内容面が影響しているのか、商業的に成功していない。また、和雑誌のオープンアクセスも進んでいない。

○ 複写件数が急増している図書館の共通点はあるか。

○ 看護・介護関係の資料を所持している図書館という点である。例えば、天使大学は、平成16年にNACSIS-ILLに参加して以降、今や3,000件の複写申し込みが来ている。大手の大学がこの種の文献を収集していなかったことについては、図書館の不見識を問われても仕方がないのかもしれないが、プロシーディングスが多い、刊行部数が少なかった等の事情から過去に遡って図書館で収集するには限界がある。この点については適切な対応が必要だと言える。

○ 近年、急に看護・介護系の雑誌が多く読まれるようになったのはなぜか。

○ 2つの理由が考えられる。第一に、2000年以降看護・介護系の学科・学部の新設が相次ぎ、その学生・大学院生等からの需要があること、第二に、病院の現場において、研修の一環として看護師に論文を書くよう指導がなされるようになり需要が増えたこと、である。

○ 本部会報告では、今考えるともう少し強い言い方をしても良かったと思う部分もあるが、「研究環境基盤については、継続的な整備が必要である」という主張を盛り込んだつもりである。この点について、予算要求の際にどのような心構えで臨んだのか。また、部会では、情報基盤を整備するにあたり各大学・機関に示すべき指針について議論したが、このことが予算要求の際にどのように生かされたのか。一方、厳しい財政状況を考えると予算配分においては、「いいことをしているところに重点的に支援する」形になるよう、情報格差を生じない程度に競争体制を確立する必要があり、そのためには各大学・機関の取組を評価する体制作りが必要だと考えた報告にしたつもりだ。

△ 例えば広島大学については、情報戦略を策定し、学内LANについては次回以降の更新は学内経費で実施することとして持続可能な整備方針を立てており、また融合研究等で新たな成果も見込めることも考慮した。
 大阪大学については、大阪外国語大学との統合に際して、セキュリティ面で生じる問題に対応する必要があった。
 また、予算要求をするにあたっては、教育・研究の高度化を考慮し、21世紀COEプログラムやe-ラーニングに付されている予算が生きるよう配慮した。

○ 個々の事例も大事だが、全体としてどういうポリシーで文部科学省が整備していくのかを大学側に説明し、かつその内容の透明性を確保する必要があるという意味だ。これは予算編成後でも良いので対応いただきたい。
 競争すると言っても、過度の情報格差を作ってはいけない。10年ぐらいかけて全体を底上げする必要があり、長期のポリシーを持って対応して欲しい。

○ 今の意見に対しての補足だが、報告書にあった機関リポジトリの整備については、私も関わっている国立情報学研究所の最先端学術情報基盤(CSI)委託事業において、今年度は77大学申請があり、審査の結果、その中から57大学が採択され資金が配分された。現在までに22大学が機関リポジトリを公開、今年度中にさらにいくつかの大学が公開予定である。大学間においてはメーリングリスト等を利用しての協力関係の構築が見られる。また、透明性の確保に関しては、各大学に中間報告を作成してもらい、それを公開することとしている。

○ 最近、よく「インフラなくしてイノベーションなし」と言われることもあり、研究インフラの充実を訴えてきたところだが、予算要求に関しては報告書に基づきSINET3や認証基盤の構築、グリッドの展開等について、財政状況が厳しい中で努力してもらった。予算は必ずしも増えたわけではないが、この報告書のおかげで各ネットワーク・ベンダー等から理解及び協力を得るきっかけができ、SINET3については、当初予定していたものに近いものが来年4月に実現する見込みである。また、この6月にはグリッドを各大学の情報基盤センター等に使ってもらうこととなり、そのための協議にもこの報告書が役に立った。
 ヨーロッパと連携したアジアにおける教育・研究ネットワークであるTEIN2プロジェクトにおいて、APANと協力して今年の1月から香港とシンガポールに622Mbps(メガビットパーセカンド)の回線を整備したが、今秋の段階で70パーセントの容量が利用されている。先日開催されたASEMの閣僚級会合においても、このネットワークの有効性及び重要性を各国から承認してもらったところである。これは、関係各国からの了承を取り付けた上でその利用実績を示すことによって、各国政府がネットワークの充実に本腰を入れてもらえることを証明できた好例ではないかと考えている。当初は、こちらとしてもどこまでの需要があるのか危惧があったが、立ち上げから1年足らずでここまでの実績を残せた。こうした「外」の整備が後押しとなり、各大学・機関から理解が得られ、学内LAN等、機関内の整備に弾みがつけば、と思っている。
 コンテンツについては、学術コンテンツ運営・連携本部を設置し、どのように必要なコンテンツを確保し、各大学の情報発信力を強化していくかについて戦略を立てている。商業出版社に対抗するため、国公私立大学の図書館と協力して約300万論文を確保し、また、日本語論文中心だが、学協会と連携して紀要を含めて約300万論文をPDFファイルで提供できるようになった。今年1月からアブストラクトについてのみ、Google Scholarにクローリングを認めている。機関リポジトリの構築については、国私立57大学の教育・研究活動のコンテンツを各大学のそれぞれのポリシーに基づいて蓄積し、学術コミュニティ全体に横断的に提供していきたいと考えている。科研費のデータについては、各大学の機関リポジトリにもフィードバックしている。従来のWebcat等をコアとして、各大学が機関リポジトリを整備する呼び水となれば、と考えている。CSI委託事業として「e-サイエンス」もスタートしている。そのプラットフォームとしてNIIの高野教授が開発した検索エンジンである「想(IMAGINE)」が活用できるのではないか。
 この報告書によりプロジェクトがかなり進展したのは事実であり、現場としてはとてもありがたいものであった。来年あたりには、研究成果を適正に評価してもらいそれを予算に結び付け、さらなる飛躍ができれば、考えている。

○ 報告書の成果の一例として、機関リポジトリについては、国立情報学研究所の委託事業以外でも、例えば採択されなかった大学が自発的に構築している例なども多数あり、大学間の協力を図る際にその必要性を説明する根拠として報告書が使われている。また、商業出版社に対抗するにあたって、各大学間で協力関係を築くきっかけにもなっている。

○ 九州地区の図書館では、報告書に沿った形で各大学がどのような取組をしているかについて状況報告を行った。報告書は各大学でも活動方針として活用されている。
 先ほどの発言に関連して、本作業部会の親部会である研究環境基盤部会で策定している、主に特別教育研究経費を対象とした概算要求に関する指針の中に、本報告書について継続的に記述していく必要性があるのではないか。図書館については、この報告書を参考にして概算要求を行っている。

△ 平成19年度概算要求の調整方針の中には、学術情報基盤の整備にあたってはこの報告書の内容を踏まえて適切に対応する旨の文言を入れている。

○ 資料3-1、3-2を見ると、良い事例が目につく。このようなものが前面に出ると、「今までの予算で十分対応できる」ととられてしまう危険性がある。
 他方、資料3-3によれば、学内LANの経費の確保を課題としている国立大学が多い。そのような側面を浮彫りにするためにも、各大学が抱えている問題点等を列記して示す等の工夫をする必要があるのではないか。

○ 今は自助努力で何とか運営できているが、日本の学術情報基盤のステップアップのためには、将来的には国としてサポートをする必要がある。我が国に比べ、欧米では学術情報基盤整備に政府がより力を入れている。
 日本学術会議でのe-サイエンスに関する委員会や、情報大航海時代プロジェクト等で理念的な後押しが必要ではないか。
 また、最近ビジネスの世界ではよく「ロングテール化」ということが言われる。これは、従来はあまり注目されない商品として扱われていたものが、情報インフラの整備によって売れ筋になることを指すが、先ほどの天使大学の例のように、それと同じようなことが学術分野においても起こりうる。それぞれはNature、Scienceのようにアクティビティ・付加価値が高くなくても、それを集めるメカニズムがあれば、地方や人文系を含めたポテンシャルを発揮できる。

○ 学術情報基盤整備にかかる予算が足りないのは明白である。今までは欧米を追いかけるような説明をすれば予算が付いたが、今は状況が変わってきている。例えば機関リポジトリなどは、欧米に遅れているとは言えず、もはや欧米を参考にすべき部分はないところまできている。
 学術情報基盤整備については、欧米並みに追い付くことを目的にするだけではなく、日本独自の理念を打出していくことが必要ではないか。そのようなことを議論する場を維持する必要があると考える。

○ 学術分野における「ロングテール化」の実例を挙げたい。機関リポジトリに公開した論文には、南アフリカやインド等、想像以上に幅広い国々からからアクセスがあるが、北海道大学では、週に一度各研究者に各自の論文へのアクセス状況を通知している。そのことにより、新たな学術コミュニティの広がりが生じている。

○ 中国では、情報ネットワークは重点的整備を進めている。日本も遅れをとってはならない。
 とかく日本人は、「これだけ」と限定されるとその中で頑張ってしまう傾向があるが、従来のものを維持する、というだけでは改革に弾みがつかない。政府の施策として、問題点を拾っていく必要がある。

○ 報告書検討時には、学術情報発信の改善のための解は見つからなかったが、Web2.0的な動きが活発化する中で、主要商業出版社に頼らない新しい展開が可能なのではないか、と考えている。

○ 報告書作成後、様々な面で思ったより早く流動化が進んでいる印象を受けた。そうした中で、この報告書が果たすべき役割、予算要求へ活用法、流動化の中での存在意義、バージョンアップの必要性の有無等について議論し、来期以降も状況に対応していって欲しいと思う。

△ 報告書は、網羅的・体系的かつ的確に、これからの基本的な方針がまとめられているが、その内容を政策に反映するため、事務局としてもう一段階踏み込んだ方策を検討する必要があると考える。それに基づき、透明性のある政策展開を行うことが望ましい。
 文部科学省が、各大学・機関を全ての面で支援していくことは財政的・制度的に難しい。各大学・機関の自助努力を前提にした支援方策、及びその結果の波及効果についてまで検討していく必要がある。
 本日出された意見を踏まえ、本作業部会の親部会である研究環境基盤部会との関係も考慮しながら、来期における対応について検討していきたい。

(4)第3期における本作業部会の終了にあたり、勝野情報課長から挨拶があった。

以上

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研究振興局情報課学術基盤整備室

(研究振興局情報課学術基盤整備室)