研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第1回) 議事要旨

1.日時

平成17年1月6日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省研究振興局会議室(文部科学省ビル5階)

3.出席者

委員

 石井主査、有川委員、伊賀委員、後藤委員、坂内委員、土屋委員、西村委員

文部科学省

 清水研究振興局長、小田大臣官房審議官(研究振興局担当)、森振興企画課長、三浦情報課長、當麻情報課情報基盤整備室長
(科学官)
 西尾科学官
(学術調査官)
 柿沼主任学術調査官、逸村学術調査官

4.議事要旨

(1)清水研究振興局長から、学術情報基盤作業部会の開催にあたっての挨拶があった。

(2)事務局から、資料に基づき学術情報基盤作業部会の設置趣旨等について説明があった。

(3)石井主査から、主査代理に坂内委員が指名された。

(4)今後の審議の進め方について、資料に基づき事務局から説明の後、以下の3つのワーキンググループを設置して、審議を進めることとした。
 ○ コンピュータ・ネットワークワーキンググループ(主査:伊賀委員、主査代理:後藤委員)
 ○ 大学図書館等ワーキンググループ(主査:石井主査、主査代理:細野委員)
 ○ 学術情報発信ワーキンググループ(主査:土屋委員、主査代理:西村委員)

(5)会議の公開について、資料に基づき事務局から説明があり、原案のとおり決定した。また、各ワーキンググループの公開については、作業部会と同等の扱いとすることとした。

(6)我が国の学術情報基盤が抱える課題について、事務局から資料説明の後、自由討議を行った。

◎ 自由討議の概要は、以下の通り。(○・・・委員、科学官等 △・・・事務局)

○ 学術情報基盤の持続可能な発展には、研究者・技術者の育成が重要である。比較的若い学問である情報科学が競争力を持ちつづけるには、特定領域研究などの科学研究費補助金が効果的である。

○ 以前大型計算機センター長を務めた際に、スパコンの国際共同利用を検討したことがある。運営経費が8時間分しか措置されていなかったので、残り16時間(夜間)分を地球の裏側の他国からもらおう、という考え方で、ネットワークの国際化とともにこうした国際共同利用を打ち出すと、我が国の計算資源に対する認識が深まるのではないか。

○ この作業部会の議論の幅はどのくらいか。スパコンであれば、サービス改善及びリプレースの問題にとどまらず、次世代地球シミュレータも視野に入れた更新・大型化までカバーするのか。また、次のネットワークには40ギガビット・パー・セコンドが考えられるが、現在の技術水準では160ギガビット・パー・セコンドが可能であり、どこまでを考えるべきか。

△ 特に、議論の幅は定めていないので、自由に御議論頂きたい。
 運営費交付金の圧縮によりリプレースが難しくなる問題や、次世代地球シミュレータなど分野別に特化したスパコンとの住み分けなどの問題等さまざまな問題があると認識している。次世代地球シミュレータについては、情報科学技術委員会で議論されている。
 ネットワークについては、技術的に可能であっても経費面で制約される場合もあるが、ここでは「国際競争力を維持向上させる」という面から、必要な議論を行って頂きたい。

○ 継続的に国際競争力を維持向上するためには、レベルアップは当然必要である。近いうちに地球シミュレータクラスのスパコンはいろいろなところに設置されるようになる、という話も聞いている。

○ これまで、国立大学等の学内LANの整備は補正予算主体で行われてきた。21世紀の進展を考えるときに、この作業部会で、持続可能な整備の方策を提示すべきである。

○ 事務局の説明に、私立大学におけるネットワークは教育サービスインフラを志向している傾向があるという点があったが、国立大学も法人化後は同じ方向にある。研究者が行う高度な研究とは別の、e-ラーニングや英語教育における利用が重要視されつつあるが、国立大学はその点は遅れている。学生が自宅からアクセスする場合には、セキュリティの確保が重要となるという問題がある。
 また、法人化後は、大学の経営情報のためのネットワークも重要視されるようになっている。研究、教育インフラ、経営情報の3つのネットワークが必要だが、セキュリティ上は後者の2つが厄介であり、「切断しつつ接続」、「つながりつつ自律」しないといけないという、難しい問題がある。
 情報処理関係施設は、これまで高度・高性能なネットワークの整備を進めてきたために、例えば科学研究費補助金の経理処理等のデータが集約できないといった学内へのサービス面が弱い、という印象が大学内にはあるようだ。

○ 7大学情報基盤センターとの議論では、事務電子化や経営情報など学内へのサービスとナショナルインフラとしての役割が、法人化前は両立していたが、法人化後は学内サービスの強化が求められる方向にあるとのことだ。このままだと学内サービスに重点が置かれ、ナショナルインフラの整備が置き去りにされてしまう危険性がある。

○ この問題については、ワーキンググループにおいて検討したい。

○ e-ラーニングについては、実施する教員とコンテンツが必要である。コンテンツ作成には自分も関わっているが、個人ベースで行われているのが現状であり、担当者はこれらの著作権処理やコンテンツをいかに共有するかに苦労している。こうした点についても検討する必要がある。

○ 学術の発展のためには、大学の研究分野を強化し、その成果を評価・蓄積して大学のアクティビティを強化するとともに、国際利用の観点や、公的資金の活用に伴う義務という観点から、その成果のオープン化が求められるのではないか。
 また、学術情報基盤としては、インフラとしてのネットワーク、連携メカニズムとしてのグリッド、そしてソフトウェア・データベースによる研究成果の共有といったように、研究開発を進めると同時に展開するといった「知のストックを発展・普及するためのメカニズム」としてとらえるべきであり、各ワーキンググループの議論の前提として、そういった意識の共有が必要なのではないか。

○ コンピュータ・ネットワーク、電子図書館、e-ラーニングが、電子化の進展により一体的に議論すべき状況となっている。
 例えば、図書館資料の電子化が進展すれば、書架の狭隘化の問題解決が期待できる。学術情報基盤は、資料では積み上げ方式のため個別論になっているが、研究だけでなく、教育・研究の共通インフラであるとの共通認識が必要で、議論の前提として「学術情報流通は全体として電子化の方向であり、ネットワークに依存する形になる」とする将来像を置いて議論すべきではないか。

○ 米国のネットワーク関係の研究状況を見ても、遠く離れたところからの個人認証や、ネットワークの高速化に対応した測定技術やパフォーマンス評価が重要視されてきており、大学連携で研究が進められようとしている。日本の研究水準はそんなに遅れているわけではないので、こういった視点を共通の認識として検討を進めていけばよいのではないか。

○ 国がすべきこと、個々の大学がすべきことの整理が必要である。作業部会での議論は、「ここで国がやることによって研究が推進される」部分に集中すべきである。

○ 最終的に報告としてまとめるときはそのとおりかもしれないが、議論の材料は広く見るべきである。例えば、大学における構内電話システムのIP化が進むとネットワークと変わりがなくなり、ある種のガイドラインを持たないと情報処理関係施設がどこまで担当するか不明確になることが考えられる。また、カナダでは学術情報ネットワークの光パスをユーザーにコントロールさせることを検討していると聞いているが、そのようなことを日本で考えると、学術情報ネットワークを整備している国立情報学研究所の分担が変わってくる可能性がある。

○ 欧州各国のネットワークの連携については、EUが進めていると聞いている。我が国としても、中国・韓国等東アジア全体のネットワークをまとめるという話を議論する必要はないか。

○ 各国との連携は重要であり、しかも我が国がリーダーシップをとる必要がある。いわゆる「協調と競争」ということである。学術分野の情報基盤に関する国際連携については、「宙ぶらりん」になっているところがあり、強化が必要だ。

○ 国際連携も大事だが、我が国では、出版社が概して零細ということもあり、日本語の学術情報の電子化が遅れている。このような状況だと、学習することとは、図書を読むことだという学生の意識も変わらない。

○ 学術情報発信の関係で、これまでは学会が学術誌を出すのが学術情報流通の中心である、という考え方だったが、その常識が変わってきている。少数の外国出版社が多数の雑誌を抱え込み、その価格が高騰している。かといって、これらの出版社が高利潤を出しているとは考えにくい。抱えている雑誌が小さく、1タイトルあたりの購読者が少なすぎて、既存のビジネスモデルが崩壊しているために価格が高騰している、といった必然性があるのではないか。
 電子ジャーナルの経費負担の在り方は、大学の大きな課題である。私の所属している大学では利用者負担制(従量制)を考えたが、学生の利用制限といった利用の萎縮につながるとして大議論になった。
 もう一つの例はNature、Scienceといった広告依存型で、ピア・レビュー型でない解説記事を掲載している雑誌で、一回成功すると集中化が進むので、世界的には2、3誌しか成功していない。我が国のある商業出版社に学術論文誌のビジネスモデルの研究を依頼しているが、商業対象でない分野の雑誌については関心がないようである。私自身も学術雑誌の流通に関する問題の解決策はわからない。
 研究者も納税者への説明責任が問われてきているが、納税者はピア・レビュー型の学術論文だけを発表する、という従来の手法だけでは納得しなくなってきているのではないか。ここには大学の新しい役割があるのではないか。

○ 研究者からの情報発信については、所属する各大学の機関リポジトリから発信し、国立情報学研究所がそれらを束ねるポータルとしての役割を担うなど、機関がその成果を束ねる方法と、学協会による分野別の成果発信を行うものがある。日本の学術分野の基盤・中枢を保持するために、情報発信のためのメディアを確保しておく必要がある。そのためには、学協会が連携してパワーアップする必要性が高まっている。

○ 私はこれまで、研究者の立場も、学協会の立場も、図書館の立場も経験しているが、それぞれに問題意識は異なっている。情報が「タダ」である、すなわちすべて公的に提供される、というのでいいのだろうか。研究者も、電気代や水道代のように、情報にお金を払う意識が必要なのではないか。

○ 利用者負担は、電気代だと節約のインセンティブになるが、情報についてはなるべく利用しないほうがよいという利用の萎縮につながるというおそれがある、という議論がある。

○ 私の所属している大学では図書購入費総額約9億円のうち、ある外国出版社に約2億円を払っている。その会社発行の学術雑誌への投稿をやめると、価格高騰の抑制効果が期待できるかもしれないが、実際にはなかなか難しい。電子ジャーナルの学内経費負担を従量制にするのは、なるべく利用しないという圧力になり問題がある。電子化することによって、購読数は10倍になるのだから、零細出版社や小さな学会も、電子化を進めればよい。そのためには、学会の負担にならないようにエディターとして研究者自身が原稿の体裁を整える仕事を引き受ければよい。

○ 研究者自身による編集作業は、1960年代にそれではダメだ、ということになって、商業出版社が学術雑誌の発行を手がけるようになった、という背景がある。コンピュータサイエンスの分野は、それが可能な特殊な分野なのではないか。

○ コンピュータ・ネットワークは、補正予算等により、国主導で整備されてきた。一方、大学図書館は、各大学が購入し、整理してきた。先ほど情報は「タダ」という意識があるとの発言があったが、大学図書館で購入する資料の経費は、研究費から拠出されている。今後、ナショナルインフラと各大学で行うべきこととの区分けをしていくときに、こうした二つのベクトルの違いをどのように整理するかが重要であり、ワーキンググループではとらえきれないので、作業部会として考えるべきである。

○ 本作業部会としては、「国家百年の計として必要な投資を財務省に認めてもらうための説明責任を果たす。また、法人化後の状況下で各大学の要求が個々バラバラになる中で、国家インフラに関する予算をどのように要求するか、そのメカニズムをお願いする」ということではないか。

○ 基盤に関する経費は、放っておけば乏しくなるばかりである。一方で競争的資金が増加しているが、競争的資金中心では、自らの研究費をまかなえればよいという考え方が中心となってしまい、ナショナルインフラ・公共財としての基盤が後退してしまい、日本の科学技術・学術の発展を阻害する、基盤がいびつなものになる、ということも起きてくる。本作業部会が設置されたのも、そうした危機感からと考える。こうした意識を説明していくために、問題点を整理し、ナショナルインフラと各大学のなすべきことの区分けや使い方とともに、その適正化・合理化・集中化について検討していく必要がある。

(7)次回の日程については、調整の上事務局から別途連絡することとした。

お問合せ先

研究振興局情報課学術基盤整備室

(研究振興局情報課学術基盤整備室)