研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第18回) 議事録

1.日時

平成20年7月24日(木曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

 有川主査、伊井主査代理、上島委員、潮田委員、小谷委員、坂内委員、土屋委員、美濃委員、米澤委員

文部科学省

 舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長 その他関係官
(科学官)
 喜連川科学官
(学術調査官)
 阿部学術調査官、阪口学術調査官

4.議事録

【有川主査】
 本日は、前回の情報基盤センターの在り方に関する議論に引き続き、学術情報ネットワークの整備の在り方についてご議論いただくこととしています。坂内委員から今後の学術情報ネットワークの在り方に関する中期的展望についてご説明をいただき、意見聴取における関係者の意見及び本作業部会の委員からこれまで出された意見等をもとに議論を進めていきたいと思います。

 議事に先立ち、事務局より新たに研究振興局情報課長に就任された、舟橋情報課長の紹介が行われた。

 次に、資料1「学術情報基盤の今後の在り方に関する意見聴取の概要」、資料2-1「学術情報ネットワーク関係者等からの意見の概要」、資料2-2「学術情報ネットワーク利用者等からの意見の概要」について事務局より説明がなされた。

 次に、資料3「今後の学術情報ネットワーク(SINET)の在り方について-中期的展望-」に基づき、国立情報学研究所長坂内委員から説明がなされ、その後質疑応答が行われた。

【坂内委員】
 第1部として、特にこの1年間のSINET3の状況を中心に説明したいと思います。その中で重要なことは、これまでに、最先端学術情報基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ)の重要性を提示してきましたが、やや理念的でいつまでに何をどうするべきかという、定量的な面をはっきり申し上げられなかったので、状況分析を踏まえて現状を説明します。
 第2部は、今後のSINET整備の在り方について、どういう機能を備え、どのような定量的な目標を定め、それをどう実現していくかという、国立情報学研究所の考えを説明したいと思います。
 序として、学術情報基盤作業部会等でいただいたご意見について、まとめてみましたが、学術情報基盤のあるべき姿を明確にする必要があるということ、さらにサービスだけではなく、研究開発を一体化して実現していく必要があるということです。また、国立大学で言えば、次期中期計画に向け、私立大学等も含めた連携、新しい共同利用・共同研究拠点等、学術研究や教育活動に不可欠な機能の提供が期待されています。
 さらに、学術情報ネットワークの現在のニーズから考えると、次期中期計画終了時である8年後には、需要予測として、現在の7、8倍以上の高速化が必要であると考えられていますし、また、地方大学にとってネットワークは生命線であることから、常に適切な速度の提供が期待されているということです。
 また、学術情報ネットワークの非ノード校は、自前で専用線を借りており、特に、地方大学や私立大学においては、学術情報ネットワークにおける機能的な格差を感じており、非ノード校からノード校になりたいとの要望もあります。
 次に、機能・サービスの高度化に関するご意見ですが、SINET3でもかなり高機能なサービスを提供し、それをうまく使っていただくということが重要かと思いますけれども、それに加えて、学術情報基盤と研究開発活動をつなぐことが極めて重要であり、コンテンツと一体で整備していかなければならないという点や、ASPやSaaSとしてのサービスの高度化、多様化にも期待したいという意見がありました。
 なお、一方で、学術研究は大きなパラダイムの転換の状況にあると思っていまして、欧米で急速に進展しているe-サイエンスや、データ・セントリック・サイエンスといった、ネットワーク上でスーパーコンピュータや様々な実験リソース、データベースコンテンツを駆使しながら研究開発を進めるというフェーズに入ってきていることから、我が国においてもどのように基盤を提供していくかが重要であり、さらに、連携をキーワードとして、基盤整備における共同調達によりクオリティの高いものをコスト的に安く提供するという期待にきちんと応えていくことが必要であるという認識を持っています。
 次に、平成18年3月に取りまとめられた『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』において、大学等や研究機関が有している基盤的ソフトウェア、コンテンツ、データベース等を超高速ネットワーク上で共有する最先端学術情報基盤の必要性が述べられていますが、より具体的に最先端学術情報基盤のあるべき姿を考えますと、ネットワーク基盤に、大学間電子認証基盤等のセキュリティーレイヤー、学術コンテンツ基盤、学術計算資源基盤(グリッド)のサービスレイヤーを置いて、それぞれの基盤や実験装置をどう共有していくかが課題となります。また、サービスレイヤーの上に、連携レイヤーと書かせていただきましたけれども、この中では、e-Education基盤、eメール等の一般学術支援の基盤、共同利用・共同研究拠点の形成を支える基盤、産学連携を支える基盤。地域連携・地域活性化のための基盤、そしてもちろん先端学術研究を支える基盤、こういったものをサービスレイヤーの上で連携を実現し、それが大学等の学術研究教育活動の推進強化につながっていく。最先端学術情報基盤のあるべき姿について、このような図式で詳細化しました。
 次に、第1部「学術情報ネットワーク(SINET)」の現状について」です。SINETの現状については、約700機関が接続しており、利用者は200 万人以上で、我が国の学術研究・教育活動の情報ライフラインとして、先端的学術研究連携に不可欠なネットワーク基盤を提供しています。また、国際連携基盤の提供として、国際学術情報ネットワークの一翼を担っています。
 昨年6月からSINET3が本格稼働し、バックボーンにおいては40Gbps(ギガビットパーセカンド)の回線速度で、さらに高度な機能を具備できるネットワークとして運用しています。
 国際接続についても、現在、ロサンゼルス、ニューヨークへ10Gbps(ギガビットパーセカンド)、アジアにおいては、APANとの相互接続、また、欧州のGEANTと相互接続など、高速なコラボレーションネットワークを形成しています。また、平成18年度には、それまで30~200Mbps(メガビットパーセカンド)の回線速度だった地方大学のノード回線を時代に対応させるべく最低1Gbps(ギガビットパーセカンド)の回線に増強しています。
 次に、SINET3の現況(1)として、SINET3のトラフィック状況のデータから、次期SINET整備のために、どのくらいネットワークに対するニーズの高まりがあるかを予測、分析しました。結果は平成19年6月から平成20年5月までに、総トラフィック量は1.3倍の伸びでした。これが3年後には2.2倍に拡大すると予測され、次期中期計画期間中には7、8倍トラフィック量に対応しなければならないと考えられます。
 また、一般ノードの最大使用率の分布ですが、現在のネットワークは4年契約、今はその2年目ですが、現時点において、使用率が50パーセントを超えているノード数が3ノード。一方で、まだ10パーセントに満たないノードが、9ノードあるという状況です。トラフィックにおける使用率が50パーセントを超えると、急激に遅延が大きくなり、効率が悪くなります。、これまで50パーセントを超えると回線を増速するという基準で整備していますが、そういう意味では、現在、コストパフォーマンス的に適正な状況にあると言えます。
 ただし、総トラフィック量は年1.3倍程度の伸びで、3年後には2.2倍と申し上げましたけれども、大きなプロジェクトに取り組んでいる大学の場合、さらにトラフィックが増大しているという状況もあります。
 次に、SINET3の現況(2)として、利用機能の面からみると、SINET3のVPN機能(共有ネットワーク上で、利用者を限定した個別ネットワークを実現させる機能)を中心に新しい機能が急速に伸びてきています。平成19年10月には「SINET利用推進室」を設置しVPNの普及に努めています。 VPN利用数が伸びると、教育研究はより活性化されると考えています。
 それから、SINETの活用例ですが、例えばスーパーカミオカンデではL2-VPN、L3-VPNを活用し、高エネルギー加速器研究機構や東京大学柏キャンパス、神岡素粒子研究施設を結んでいます。
 続いて、国立天文台のVLBI(超長基線電波干渉法)実験の例では、超大容量のデータ転送や超高品質な通信が、利用者の必要な時に可能となるL1オンディマンド機能を利用し、各機関の電波望遠鏡を相互接続しています。
 また、地震を観測し、全国の大学がその分析、あるいはお互いにデータをシェアし合うために、VPN機能を利用した次世代全国地震データ流通基盤システムが形成されています。
 SINET3の国際回線の利用に関しては、ハワイ大学と連携した遠隔講義システムの例があります。それから国内回線を利用し、北陸地区の大学間で双方向遠隔授業システムにより、遠隔授業を実施している活用例もあります。
 本日はネットワークが主題ではありますが、SINET以外にも、最先端学術情報基盤構築に向けて、様々な取組を行っています。
 まずは、セキュリティーレイヤーで実現される全国大学共同電子認証基盤(UPKI)です。様々な認証のメカニズムが実現されており、例えば国際連携、研究連携をしようとする際に、サーバ証明がないとアライアンスを入れないというところが増えていることから、現在、1,300枚のサーバ証明書が利用されています。
 次に、各大学のスーパーコンピュータを繋ぐNAREGIプロジェクトとして、グリッドミドルウェアを開発しています。今年の3月に、6機関での大規模実証実験が成功し、大阪大学においては、NAREGIグリッドミドルウェアをそのまま実運用に供しています。今後は、各情報基盤センター等の支援でさらに良いものにして、日本の計算資源を連携させ、基盤の一つとして普及させていくという方針です。
 次に学術コンテンツは、ネットワーク等と一体化して、データ・セントリックの中心となるものですが、学術コンテンツは幅広いため、共通性の高いものについては国立情報学研究所が確保、発信をするということで、かなり成果が上がっています。特筆すべきは機関リポジトリであり、現在、83の機関において公開されています。また、大学にある雑誌、図書等の目録情報が本年度は1億件を突破という革新的成果がありました。これらは、学術コンテンツ運営・連携本部のご指導をいただきながら運営しているという状況です。
 続いて、第2部「今後のSINET整備の在り方について」です。
 第1部で述べてきたような現状を踏まえて、これから何をしなければならないか、国立情報学研究所への意見にどのように応えるか説明したいと思います。
 最先端学術情報基盤のあるべき姿として、さまざまな基盤・機能群の重層的な構築を考えた場合、連携レイヤーの上で、大学の学術研究・教育活動を強化し、推進するためには、単にネットワークレイヤーとして回線があれば十分ということだけではなく、セキュリティーレイヤーやサービスレイヤーといったミドルウェア的な部分をしっかり整備する必要があります。
 まず、連携レイヤーにおける基盤群において、各基盤の構成要素をまとめてみました。
 先端学術研究基盤については、コンピュータリソースや、実験リソース等のリソース共有、大容量データの共有が要素として挙げられます。最近では、高エネルギー加速器研究機構や核融合科学研究所等、天文学や、地震といった分野だけではなくて、様々なところが大量のデータをネットワークで流して、それを解析することが始まっています。そして、この基盤の中でネットワークが支えるべき機能としては、高速化、VPN、リソースオンディマンド、マルチキャスト、マルチレイヤ等があります。
 これらの連携基盤・機能をネットワークで実現をしていく際にキーになるのは、やはり高速化と高機能化にあるということです。
 続いて、今後のSINET整備の方針ですが、今までは、こういうことが重要だから、それに向かって「一歩でも早く、一歩でも前へ、一刻でも早く」を合い言葉に取り組んできました。現在は、「いつまでにどこまで」というのを申し上げなければならない状況であるという認識です。これについて、フェーズ1とフェーズ2に分けています。
 まずフェーズ1ですが、これは2年先には総トラフィック量が2.2倍になると予測され、この状況になると使用率が50パーセント以上のノードの割合は 59パーセントになります。これにどう対応するか、私どもの具体案は、スクラップ・アンド・ビルドであります。使用率が100パーセントを超えるノードも出てきますが、これに関しては、局所的にL1オンディマンド機能を駆使するなど、ネットワーク上の工夫で対応したいと考えています。
 そして、そのために必要なことは機能拡大であり、基本はVPNの利用拡大が連携のキーになると考えられます。また、利用支援の強化ということで、ネットワーク高機能化のために、運用上のサポートに全力を尽くしたいと思っています。
 続いて、フェーズ2ですが、次期中期計画に向け、8年先を見据えると、先ほども言いましたように、総トラフィック量が8倍になります。非常に大変なことであると考えられるのが、現行のSINETを前提とすると86パーセントのノードで最大使用率が100パーセントを超え、さらに、52パーセントのノードで最大使用率が200パーセントを超えるということです。これはもうネットワークとしては満足に利用できないというような状況です。
 このような需要予測を基本として、今後どのようにすれば需要拡大に対応できるかという点から、整備の基本的な考え方を述べたいと思います。
 まず、この場でもご意見がありましたけれども、市場原理に任せてしまうのか、あるいは、大学が連携して何とかしていくのか、という問題があります。国立情報学研究所としては、とにかくアカデミック・ディスカウントを効かせて連携を強めるということにしか解決策はないと思っています。大学等と連携して、必要となる学術情報基盤、そして、そのベースとなるSINETの開発・運用をしていくということです。
 この考え方に基づいた、次期SINET整備のための方針ですが、方針1としては、最先端の学術研究・教育を支えるための先進性の維持・拡大です。先端的なネットワークと言っても、ただ趣味で先端を走るのではなくて、ニーズに応えるための先端性です。必要なインフラをどう実現するかであり、そのためには連携、協力を強化するという基本的な考え方に基づいて、コストの実現可能性まで考えて、学術研究を支えるための先進性を有する必要があります。なお、ネットワークのさらなる高速化が必要とされる需要要因についてですが、先ほど申し上げたように、3年間でトラフィック総量は2.2倍になります。全体を丸めて平準化するとこういう数字ですけれども、個々を見るともっと大きな数字も出てきます。そして、今後、例えばe-Science、e- Engineering、e-Educationというパラダイムシフトの中で、このウエートはより高まっていくだろうと予測されます。また、学術系映像通信も増大していくと予測されます。それから、全国共同利用情報基盤センター長会議等でも話題に上ったのですが、大容量のデータやデータベースに依存すると、ディスクに故障が発生した場合のバックアップをどうするかという課題があり、バックアップの体制が整えば、超大容量研究データのネットワークを用いた遠隔バックアップが行われると考えられます。また、次世代スパコンが平成23年に稼動するほか、ITER(イーター)プロジェクトなどもあります。このような需要予測によって、少なくとも3年間で2.2倍に拡大する需要を見越した対応をしなくてはなりません。
 方針2は、非ノード校を含む大学等のネットワーク環境の向上です。歴史的にノード校になっているところは、非常に進んだ基盤が整備されていますが、非ノード校は個別にネットワークを適用せざるを得ないという状況で、これを何とかしたいということです。非ノード校におけるネットワーク回線の予算は運営費交付金の中に含まれてしまい、各大学の全体経費が非常に苦しい中で、国立情報学研究所も看過できない状況であると認識しています。そして、キャンパス間 LANのネットワーク経費に関する問題ですが、これは小谷委員からご指摘をいただいていたと思いますけれども、複数キャンパスを持っている場合、その専用線も相当の経費を使用していると思います。経費を削減するという点で、将来的には、より高機能なネットワークを同様のコストで運用するというモデルが成り立ち得ると思っています。ただ、支払っている料金を半分にしたいというのでは、ベンダーの協力も得にくいのかと思っています。例えば、学術情報ネットワーク運営・連携本部と学術ネットワーク研究開発センターで検討している新技術によって、地方大学では現在100Mbps(メガビットパーセカンド)の回線と同程度の経費で、1Gbps(ギガビットパーセカンド)以上のネットワークを提供させていただくことが可能になる、そのようにご理解いただいて、連携の輪を広げることがポイントかなと思っています。
 それから、ASPやSaaSのようなサービスについてのサポートです。各大学では、メール等、サービスのコストも相当にかかっていますし、自前ではどうしようもないという大学が急速に増えています。ASPやSaaSの活用が対応方策として考えられますが、SINETを利用した、セキュアでコストも低廉なマルチベンダー式のASPサービスを検討しています。
 また、方針3として、先進的なネットワーク設計及び効率的な運用による一層の経費節減ということですが、今後、先進的なネットワーク設計によって、かなりのコストダウンが図られ、新しい高機能化が実現可能ではないかと思っています。また、昨今では、ネットワークだけではなく、アプリケーションについても、例えば、Eメール、セキュリティーサービス、あるいは、学術支援的な機能についても対応が求められている状況であると認識しています。ヤフーやグーグルなど外部のASP、SaaSを利用する場合もあるようですが、このような事例について、何らかの解決策を見出せないだろうかということです。それから、そのための人的な形成の支援も重要です。ご指摘がありましたように、ソフト的な部分の連携強化と支援による実現が大事であると認識しています。しかし現状として、日本の財政状況は非常に厳しいということも認識しており、基本は一括共同調達とアカデミック・ディスカウントが重要であると考えています。また、安定性、可用性向上のためにノードを見直すということで、これもネットワーク設計ですけれども、情報基盤センター等に過度な負担をかけないことが必要と考えています。
 それから、方針4として、産業界、国・公立研究機関への新たな展開ということであり、これは連携の拡大によるコスト面の解決策にもなり得えます。やはり産業界にも、産学連携で使っていただく必要があります。もちろん、大学発ベンチャーや大学の中の産学連携、社会貢献活動等については既にSINETを使っていただいていますが、もう一方で、より積極的に大学、企業の研究機関間でVPNを構成して、より責任ある連携体制作りを呼びかけることが可能ではないかと思います。そして、国立、公立研究機関にも同様に呼びかけるということが考えられます。
 最後に、方針5として、持続的な整備基盤の確立ということですが、新たなニーズについては、やはり最初から研究プロポーザルの中に情報基盤経費を算定していただくことが必要と考えています。その上で、特別受益者負担的な考えを一部とらせていただくということです。教育研究の重要な基盤は学術情報基盤であるという理解をより深めていただき、安定的な投資とさらなる拡大というような形で整備の実現を図りたいと思っております。
 研究に関して情報基盤は不可欠です。研究プロジェクトで研究費を獲得したけれども、ネットワークについては、国立情報学研究所にお願いしますということで依存度が高まる状況では、全てに対応できません。国が投入した研究費を効率的に使うためには、ネットワークあるいは情報基盤のコストを相応に提供していただかなければならないと思います。
 このような方針について、ご意見をいただきながら、形にしていかなければならないと思っていいます。
 次に参考として、今後のSINET整備に関するロードマップをご説明します。平成22年度から次期中期計画が始まりますので、国立情報学研究所もこれに向けて、次期SINETを構築・運用する考えです。現在のネットワークは平成22年度までですが、次期ネットワーク設計と開発と並行し、新ネットワークへ移行しますので、その間ネットワークコストは若干二重にかかります。
 そして、ネットワーク需要の拡大に対する経費圧縮・負担の考え方ですが、次期中期計画の終了時における需要予測では、総トラフィック量は8倍に拡大します。この需要に対応するには、市場価格で言うと現在の大体3倍ぐらいの経費がかかります。しかし、先進的なネットワーク設計に加えて、運用の経費節減を徹底し、相当に経費を圧縮できる見通しがあります。地方大学でも最低1Gbps(ギガビットパーセカンド)の回線で接続し、相当な機能アップが図られます。しかし、現在と同様の経費だけでは十分ではないという認識であり、不足する分は、国のサポートの拡大、アクセス系回線への共同調達の拡大、一部の新しいプロジェクトに対しては応分の経費負担をお願いするということで、必要な経費を賄うということが経費面で実現可能性があると考えているプランです。
 これまでにいただいたご指摘に関して、それぞれ解決方法を提示させていただきました。今後国立情報学研究所はさらなるネットワークの高速化と、高機能化を実現したいと思っています。

【土屋委員】
 ネットワーク運用等の経費が既に掛かっているわけですが、現在はどのくらい掛かっているのですか。

【坂内委員】
 最先端学術情報基盤の実現に向けた事業に対しては、約68億円の運営費交付金が配分されています。

【土屋委員】
 68億円というのは運営費交付金の特別教育研究経費ということですか。

【坂内委員】
 はい。毎年度、現状維持で行っていますが、学術情報ネットワーク運営・連携本部、学術コンテンツ運営・連携本部の先生方の知恵を寄せ合い、先ほど申し上げたように地方大学のノードを全部1Gbps(ギガビットパーセカンド)で接続し、それから昨年度はSINET3というフェーズに至ることができました。

【米澤委員】
 資料の方針4「産業界、国・公立研究機関等への新たな展開」で、「ネットワーク型の共同利用・共同研究拠点活動を支援」とあって、さらに、「産業界、研究機関等への共同研究による利用を働きかける」と記載してありますが、具体的にはどのようなことですか。

【坂内委員】
 「ネットワーク型の共同利用・共同研究拠点」は、新たに文部科学大臣が認定を行う共同利用・共同研究拠点の形態の一例を指しています。

【米澤委員】
 国立情報学研究所がそのネットワーク型の共同利用・共同研究拠点の一部に加わるという意味ではないということですか。

【坂内委員】
 はい。そういう意味ではありません。新たに共同利用・共同研究拠点に認定された場合、大学間でかなりの量のデータを相互に送り合うでしょうから、例えば VPNサービスをきちんと提供しなければならず、また共通のデータベース利用等の支援を行わなければならないということを考えています。

【米澤委員】
 「産業界、国・公立研究機関等への新たな展開」となっていますけれども、「新たな支援の展開」ということですか。

【有川主査】
 これは「新たな展開」と言ってもよいかと思います。例えば「ネットワーク型」というのは、『学術研究の推進体制に関する審議のまとめ』を受けての考え方であり、インターネットのネットワークではなく、実際に拠点として一つに繋がった組織が共同研究を行うときに、いわゆるネットワークが役に立つということが言えます。
 私のほうから一つ質問しますと、研究経費の申請に際し、情報基盤にかかる経費も含めて申請するという考え方をご発表されましたが、例えば、大型計算機センターにしかまともな計算機がなかった時代には、計算機利用負担金は科研費の中に計上をしておりましたが、そのような感覚で、大量のデータのやりとりなどに関しては、ある種の課金をするというイメージですか。

【坂内委員】
 そうです。喜連川科学官が代表をされている科研費の特定領域研究「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」がいい先例で、支援班を設置し、全体の経費の一部を領域全体の共通的なリソース整備に充てております。このリソースは各大学でもそれぞれの研究所や研究室で使われています。

 次に、資料4「学術情報ネットワークの整備の在り方について(議論のためのメモ)」について、事務局から説明がなされ、その後意見交換が行われた。

【有川主査】
 さきほど坂内委員から発表のあったネットワーク需要の拡大に対する経費について、8年後には需要が8倍に拡大していきますが、経費に関しては現状と変わらないように圧縮する努力をし、さらに応分の経費負担、共同調達の拡大で経費を抑え、8倍の需要に対応するということで、このような経費に対する考え方は、今後の学術情報ネットワークの整備の在り方に関する非常に本質的な論点であると思います。その中で、応分の経費負担の工夫をしていかなければなりませんが、科研費等の競争的資金におきましては間接経費が措置されており、学術研究上ネットワークを利用する場合に関しては、間接経費の有効活用などの方策を考えることも必要ではないでしょうか。そうしないと8倍に拡大する需要に対応できないだろうと思われます。これについて、何らかの見通しなり提言なりが無いと、学術情報ネットワークの整備の在り方に関して、まともに答えたことにはならないのではないかと思います。
 応分の経費負担について、何かご意見等ありますか。

【土屋委員】
 もし応分の経費負担が最終的に本作業部会の報告としてまとめられていくならば、早目に応分の経費負担と言ってしまった方がよいかもしれません。今の状況で、主体的に学術情報ネットワークの将来を考えると、やはり各大学は応分の経費を負担しなければならないと思います。例えば、約68億円の特別教育研究経費が措置されなくなった場合、大学として学術情報ネットワークが必要だから、何とかしなければならないという自覚を持つことが、重要なのではないかなという感じがしますので、どこかの段階で明確にしていく必要があるのではないかと思います。

【米澤委員】
 私も特定のプロジェクトに対して課金をすべきであると思うのですが、その際、例えばパケット数を測定するなどのサーベイコンテンツというのは、ネットワークの業界にはありますか。

【坂内委員】
 現在は、かなり詳細に統計をとれるようになってきていますが、各大学のLANで集約され出てくるデータが、特定のプロジェクトのものであるかというところまでは把握できません。他と比較して非常に特異であれば、それを特定利用というふうに見なすとしても、基準を定めるのは難しいと思います。

【喜連川科学官】
 ここでの経費負担に関しましては、ネットワークの部分だけが主としてご議論があったかと存じますけれども、坂内委員からご発表いただいた、最先端学術情報基盤のあるべき姿を示したサービスレイヤーに関しましても、別途にコストが発生する部分がかなり多くなるのではないかと思っています。学術ストレージ基盤の重要性や、ペタバイト級のデータバックアップのような話になった場合、ネットワークのトラフィック量だけではなくて、機器を置いておく場所の費用がかかってきてしまうと思うのですけれども、その辺もやはり、国として統合したサービスがあったほうがはるかに効率的ではあると思います。

【坂内委員】
 おっしゃるとおりで、国立情報学研究所を含めて、やっぱりストレージ基盤の整備、大容量データのバックアップも含めた問題は、大きな課題であると思っていますが、まずはネットワーク基盤が基本であり、ストレージ基盤に関しては、大きなストレージをお持ちのところが連携して、持ち寄るという形ではないかと思います。何とか現在あるものを横につなぐ形が第一段階で、そして、学術データセンターをきちんとどこかに置くということで、より効率化を図るという第二段階に移るのかと思います。

【喜連川科学官】
 さらに、ストレージの他にも、ネットワーク以外の学術情報基盤でも重要なものがあり、そちらの予算繰りの議論があってもいいのかなと思いました。

【有川主査】
 さきほどはストレージのことでお話しになりましたが、同じくサービスレイヤーにある学術コンテンツ基盤にも関係があると思います。例えば、本作業部会でいずれ扱わなければと思っていることですが、各大学が学術雑誌等で支払っている費用を考えますと、大体教員に配分する額の10パーセントくらいになると思います。単行本まで含めますと12パーセントに達して、かなりの額を負担しているということになります。学術コンテンツ基盤として機関リポジトリの構築等に関しまして、国立情報学研究所がサポートをしており、各大学が一生懸命に取り組み、成果が上がっているわけですけれども、これを定常化していくとしますと、それにかかる経費をどうするかということも問題も出てきます。

【坂内委員】
 サービスレイヤーの学術コンテンツ基盤に学術コレクションがありますが、2年ほど前に推進いただいて、シュプリンガーとオックスフォード・ユニバーシティ・プレスの電子ジャーナルの単行本は、国立情報学研究所と国公私立大学が連携して共同調達し購入しました。そのような良い取組もあります。

【有川主査】
 本日は学術情報ネットワークの経費負担のことなども含め、かなり突っ込んだ議論ができたと思います。
 次期SINET整備に関する見通しも示していただいているわけですので、議論については、事務局で整理いただき、次々回ぐらいにお示しできるかと思います。

 次に、事務局より、次回の開催は平成20年9月上旬を予定している旨説明があり、本日の作業部会を終了した。

─了─

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(研究振興局情報課学術基盤整備室)