科学技術・学術審議会 大学研究力強化委員会(第3回)議事録

1.日時

令和4年2月7日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

オンライン開催

3.議題

  1. 大学研究力強化に向けた取組 (1. 世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの創設 2. 地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ 3. 大学の強みや特色を伸ばす取組の強化(大学研究力関係))
  2. その他

4.出席者

委員

  (主査)大野英男委員
  (委員)相原道子委員、伊藤公平委員、受田浩之委員、梶原ゆみ子委員、小長谷有紀委員、小林弘祐委員、新福洋子委員、髙橋真木子委員、林隆之委員、福間剛士委員、藤井輝夫委員、柳原直人委員、
   山本加世子委員、山本進一委員、吉田和弘委員

文部科学省

  (事務局)柳文部科学審議官、池田研究振興局長、千原科学技術・学術政策局長、坂本大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育局連携担当)、寺門科学技術・学術総括官、
   森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術学術政策連携担当)、笠原大臣官房文教施設企画・防災部技術参事官、井上産業連携・地域振興課長、堀野国立大学法人支援課長、
   黒沼大学研究基盤整備課長、馬場大学研究力強化室長、小久保大学研究基盤整備課学術研究調整官 他

  科学技術・学術政策研究所

  佐伯科学技術・学術政策研究所長、伊神科学技術予測・政策基盤調査研究センター長、荒木第2調査研究グループ上席研究官

5.議事録

【大野主査】皆様,おはようございます。ただいまより科学技術・学術審議会大学研究力強化委員会の第3回を開催させていただきます。本日も御多忙の中,御参加いただきまして,誠にありがとうございます。
いつものとおり,オンラインで開催ということでございます。音声など不都合がある場合には,事務局まで御連絡いただければ幸いです。
それでは,まず,事務局から,本日の委員の出欠,配付資料の確認をお願いいたします。

【小久保調整官】失礼いたします。改めまして,事務局でございます。おはようございます。
本日の委員の出欠状況につきましてですけれども,片田江委員が御欠席でいらっしゃいます。
続きまして,配付資料の確認でございますけれども,本日,議事次第に記載のとおり,資料1から4,そして参考資料は1,2を配付しておりますので,御確認をお願いいたします。
なお,本日の委員会ですが,原則として公開で行うこととしております。本日の会議につきましても,事前に登録いただいた方に動画を配信しておりますので,御承知おきください。
また,いつものお願いにて恐縮ですけれども,オンライン会議を円滑に行う観点から,幾つかお願いでございます。
まず,発言時以外はマイクをミュートにしていただくようお願いいたします。御発言いただく際は,Zoomの「手を挙げる」ボタンを押していただくか,もしくはカメラに映りやすいように挙手をお願いいたします。
資料を参照いただく際ですけれども,資料番号,ページ番号,ページ内の該当箇所などを分かりやすくお示しいただければと思います。
事務局からは以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【大野主査】ありがとうございました。
それでは,議事に入ります。
まず,議題の1です。大学研究力強化に向けた取組について,事務局より,先週開催された総合科学技術・イノベーション会議の結果などの説明を頂いて,本日は,その後,福間委員,受田委員より,それぞれの大学の取組について御発表いただきたいと思います。
最後に,科学技術・学術政策研究所の佐伯所長より,話題提供を頂くという予定でございます。
それぞれの説明の後,質疑の時間を設けるとともに,最後にまとめて議論の時間もつくりたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
それでは,まず,事務局より御説明をお願いいたします。

【馬場室長】それでは,事務局より,資料1に基づきまして,大学研究力強化に向けた取組について御説明させていただきます。
本日は,2ページ目の目次にあるとおり,世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの創設,地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ,最後に,大学の強みや特色を伸ばす取組の強化について,今,大野主査からお話があったとおり,先週2月1日に開催されました総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の結果も含め,御報告させていただきます。よろしくお願いします。
3ページ目を御覧下さい。こちらは,当日,CSTIで配付された資料から抜粋しております。まず,我が国の科学技術・イノベーションの現状をまとめております。近年,科学技術・イノベーションは,激化する国家間の覇権争いの中核となっており,感染症,サイバーテロ等の脅威から国民の安全・安心を確保するためにも不可欠である中,海外では,科学技術への投資が拡大し,産業構造の転換が起きる中で,我が国の研究力及びイノベーション力は相対的に低下しており,日本の競争力も後退していることが指摘されております。
4ページ目を御覧ください。知の基盤強化と人材育成強化に向けては,これまでも御説明してまいりましたが,10兆円規模の大学ファンドを創設し,若手研究者支援や新興分野研究に向けた研究基盤の強化や大学改革が政府として進められてまいりました。
5ページ目を御覧ください。こちらは,国際卓越研究大学制度の全体像のイメージとなります。これまでも繰り返し御説明しておりますが,世界と伍する研究大学の実現に向けては,国公私立大学を対象として,ポテンシャルを有する大学を,変革への意思とコミットメントの提示に基づき,文部科学大臣として,科学技術・学術審議会及びCSTIの意見も聞いて認定するというようなイメージで現時点では考えてございます。
次のページをお願いします。こちらは,先週のCSTIの場で文部科学大臣から提出した資料となります。大学ファンド創設に関するこれまでの進捗と今後のスケジュールとなります。今後,文部科学省としては,本日,参考資料1で配付しておりますが,CSTIで決定された世界と伍する研究大学の在り方についての最終まとめに基づきまして,関連の法案の提出を目指すとともに,令和6年度の支援開始に向け,新法に基づく基本方針の策定,対象大学の認定を着実に進めることを予定しております。随時,最新の状況については,この委員会でも御報告させていただきますので,よろしくお願いいたします。
続いて,8ページ目,総合振興パッケージです。日本全体の研究力を引き上げるためには,トップレベルの研究大学のみならず,地域の中核大学や特定分野の強みを持つ多様な大学の機能を強化し,総合振興パッケージを策定し,一体的に支援することとしております。
9ページ目,一番下に記載しておりますが,今後,地域の中核大学や特定分野の強みを持つ大学の機能を強化し,成長の駆動力へと転換し,日本の産業力強化やグローバルな課題解決にも貢献するような大学の実現を目指すこととしております。
10ページ目,総合振興パッケージによる支援の全体像になります。一番上ですが,大学が,自身の強みや特色を伸ばす戦略的経営を展開することで,ポテンシャルを抜本的に強化するとともに,大学が拡張されたポテンシャルを社会との協働により最大限発揮し,主体的に社会貢献に取り組むことで,社会変革することを求めております。
そのために,11ページ目,例えば,地域の産学官ネットワークの連携強化や,12ページ目,大学とともに創生するデジタル田園都市として,この総合振興パッケージと,全国的にオープンな研究デジタル基盤として,研究DXプラットフォームを組み合わせることで,全国の大学を核とした知の変革を通じて産業の変革をもたらし,各地にデジタル田園都市を実現するという大きな方向性が示されているところでございます。
13ページ目,今後に向けてになります。こちらについて,まず1つ目の段落ですが,この総合振興パッケージは,全国に存在する我が国の様々な機能を担う多様な大学が,戦略的な経営の展開を通じて,自身の強みや特色を発揮し,研究力向上や人材育成等により,新たな価値を創出するとともに,社会との協働により,人文・社会科学も含めたあらゆる知見を総合的に活用し,成長の駆動力としてグローバル課題の解決や社会変革を牽引することを目指すことが記載されております。特に,4つ目の段落になりますが,「なお」というところで,本パッケージについては,文部科学省で検討の緒に就いた,大学の強みや特色を伸ばす取組強化の具体化・実質化等に向けた議論の動向も踏まえつつ,今後,改定を行っていく予定ということで,本委員会「科学技術・学術審議会大学研究力強化委員会」が,このCSTI決定においても明示されているところでございます。
続いて,15ページ目を御覧いただければと思います。こちらは,先月,急遽,第2回の委員会を開催し,皆様にも議論を頂いたものかと思います。こちらについても同様に,強化委員会の議論も踏まえまして,先週のCSTIで決定されたところございます。今後,政府としての大きな方向性が示された中,取組の方向性に沿って,全体像を意識しつつ,具体化・実質化を図っていきたいと考えているところでございます。本日は,この今後の取組の方向性の丸1,魅力ある拠点形成による大学の特色化に関して,この後,福間委員,受田委員の御発表も含めて議論したいというふうに考えております。
この項目については,2つの矢羽根で構成しておりますが,これまでの議論や事前の意見交換を含め,次のページで若干整理しているところでございます。特に,赤い下線を引いている箇所を御参考いただければと思います。
まず1つ目のWPIについては,先週,これも同じ2月1日から,新規採択期間の公募を開始したところでございます。3件の新規採択を予定しているところでございます。こちらについても,大学が予見可能性を持てるよう,引き続き,計画的・継続的に推進していくことが重要だというふうに考えております。
また,2つ目の矢羽根,大学の研究独自色の発揮に向けては,矢印の下にありますが,今後の取組の方向性として,知的資産の蓄積の観点では,特定の研究分野において,国際基準に基づく高い研究実績とともに,研究者コミュニティの高い認知度・求心力が認められる点であったり,また,地域の実情に応じたという観点から申し上げれば,自治体,民間企業等を含む多様なステークホルダーとのつながりに基づき,新しい資本主義へと社会変革を起こす原動力になり得るということが期待されているところかと思います。
さらに,その下の大学の特色化に向けては,例えば,組織や分野の枠を超えて協働するために必要な研究基盤の構築・運用を牽引していることであったり,研究者・専門職人材の持続的な育成・確保や,魅力的な研究環境の整備等を通じた好循環サイクルの実現に戦略的に取り組んでいることといったこと。また,研究IR等の取組に基づく適切な研究マネジメント・評価体制の構築・運用が図られていること。さらには,強固な研究力の獲得・確保を通じて,自律的・戦略的な大学等の経営,その中には財源の多様化や,また成長戦略等の構築も求められるかと思います。そういったことに対して教職員が一丸となったビジョンや,共同体としての卓越性が認められるということが必要になっているかと思います。
そして,総合的に支援するためには,こういった多様な研究大学群を我が国に形成するために,細切れにならないような国公私立大学等を単位とした支援ができないか。特に,大学の戦略的な経営を強化し,基盤的経費において必ずしも対応し切れない,大学マネジメントと連動した研究力向上改革を推進することが必要ではないかと考えております。
また,総合振興パッケージの意義として,政府側も大学のミッション実現に向け,各種支援策を連動させ,進捗状況を随時把握しつつ伴走支援するということを考えていきたいと考えております。
以下,参考資料になりますが,その次のページ,本日は,福間委員と受田委員におけるこれまでの取組や課題等についても御説明いただくことを予定していますが,文部科学省のみならず,政府全体として今後必要な施策について議論していきたいと考えております。
こちらのページは,これまでも御紹介しましたとおり,全国で創発事業で発掘した優秀な研究者を核に,組織を挙げた取組への支援について,参考事例として示したものです。
18ページ目は,全国の共同利用・共同研究拠点の一覧,こういった知的であったり,学術的なネットワークも最大限活用することも重要であるというふうに考えております。
19ページ目は,その中でも特徴的な取組として,東京大学・宇宙線研究所のようなものに加え,例えば,左下の鳥取大学の乾燥地研究センターや,右側の琉球大学・熱帯生物圏研究センターのような特徴的な取組も生かしていくという観点も重要だと考えております。
また,20ページ目は,共創の場,今,文部科学省で進めております共創の場形成支援プログラムの採択拠点の一覧となっております。
21ページ目に,幾つか事例を載せておりますが,地域の実情に応じた大学の研究独自色の発揮事例として,参考に添付させていただいております。
改めまして,本日は,先週2月1日のCSTI決定も踏まえ,政府としての方向性が示された中で,研究大学における支援の全体像や在り方を見据え,この後,お話しいただく金沢大や高知大学の具体的な事例,エビデンスも踏まえながら,継続的に本委員会でも議論したいと考えております。
事務局からの説明は以上ございます。よろしくお願いいたします。

【大野主査】ありがとうございました。
ただいまの御説明について,何か御質問ございますでしょうか。
山本委員,お願いします。

【山本(佳)委員】山本です。私の理解を確認したいところです。
今回,総合パッケージの方は,様々な大学がそれぞれの戦略によって,例えば,共・共拠点であるとか,WPIなどの挑戦を通じて,どのような段階であっても研究力向上の支援を政府から得られるものだというふうな理解をいたしました。それは大変すてきなことだなと感じております。
一方で,世界に伍する研究大学は,やはり非常に思い切った施策ですので,そのほかの大学と分断するようなイメージが今まであったと思います。ですので,総合パッケージがこのような形で示されたということで,優れた本当に一部の研究大学との分断ではなくて,どのような大学もそれぞれの挑戦で進んでいけるというメッセージが国から発せられたという理解でよろしいでしょうか。お願いします。

【大野主査】馬場室長,お願いします。

【馬場室長】ありがとうございます。15ページ目をもう一度表示していただければと思います。
基本的に,今,山本委員がおっしゃっていただいたとおりかと思っています。この大学研究力の強化については,本日は,この丸1を中心に議論すると申し上げましたが,前回,また,その前の委員会においても,この丸3の視点,具体的に言うと,丸3の1つ目になりますが,世界と伍する研究大学や大学共同利用機関等がハブとなり,全国の国公私立大学等の連携を強化することにより,我が国全体としての研究力向上を牽引するというところも,この総合振興パッケージ,また,世界に伍するの最終まとめにも明記されているところでございます。
国全体として,こういった大きな動きがある中で,個々の大学がそれぞれ大学の特性を伸ばせるように,国としても大学の成長に合わせた支援策というものを,今後,伴走的にできるように,検討していきたいということを考えているところでございます。
具体的な検討に当たっては,やはり机上の空論にならないように,具体的な事例も踏まえていきたいということで,エビデンスはもちろん,本日,受田委員,福間先生から話していただくという内容を踏まえて検討していきたいと考えています。
以上でございます。

【山本(佳)委員】ありがとうございました。大丈夫です。理解しました。

【大野主査】ほかにいかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
また後で,総合的な質疑応答,意見交換の場を時間が許す限り設けたいと思いますので,それでは,先に進ませていただきます。
続いて,福間委員から,金沢大学の取組について御発表いただきます。
福間委員,どうぞよろしくお願いいたします。

【福間委員】よろしくお願いします。
それでは,金沢大学ナノ生命科学研究所所長を務めております福間です。本日は,「金沢大学における世界トップレベル研究拠点形成に向けた取り組み」と題しまして,私自身は学長でも何でもないので,大学を代表する立場にはないのですけれども,一研究者として,このようなWPIという大きな拠点の立ち上げに至った経緯について,地方大学でありながら,こういうところまで至ることができた経緯について御説明して,最後に,総合振興パッケージに対する要望のようなものを述べさせていただきます。
世界トップレベルの研究拠点を形成するためには,当然,世界トップレベルの研究力を持つ研究グループが誕生しなくてはならなくて,我々のケースでは,それは安藤敏夫教授のグループでした。安藤先生は,高速AFMという原子間力顕微鏡という顕微鏡の動作速度を,従来より1,000倍近く向上させて,世界で初めて液中でたんぱく質の動く様子をつぶさに観察することのできる顕微鏡を開発しました。これは生物物理学界を中心に,非常に大きなインパクトを与えたのですけれども,2001年頃からその業績は世界に広く知られるようになって,2008年頃に現在の高速AFMの原型が出来上がったと言われています。
金沢大学は,そのちょうど1年前ぐらいの2007年頃から,こういった大学の強みを持つ分野を重点的に強化するという,いわゆる選択と集中ということに取り組み始めました。
1つのすばらしい研究成果を持つグループだけでは弱いので,それをまずは複数の研究グループから成るグループに形成していくということで取り組み始めたのが,2007年頃に,フロンティアサイエンス機構(FSO)という機構を本学は立ち上げました。
この機構では,金沢大学が強みを持つ分野に,若手テニュアトラック教員を採用して,独立研究グループを運営させるということを行いました。主に,任期5年の特任准教授3名と,特任助教2名で発足させたのですけれども,その5つの分野のうちの1つとして,AFM研究分野を選んで重点化するということに取り組みました。この際に私自身もテニュアトラック准教授として,海外からアポイントされて,本学に着任したということになります。
簡単に私の研究を御紹介させていただきますと,私は,原子間力顕微鏡の中でも非常に高い分解能を誇っているFM-AFMという手法があるのですけれども,これを用いて世界で初めて液中で原子分解能観察を実現し,また,それを用いて,さらに3次元の観察仕様に発展させて,固液界面の水和構造を直接見るような顕微鏡なども開発してきました。
こういった実績を基に,本学は,世界最高レベルの速度だけではなくて,分解能を誇るAFMをつくり出す研究グループを得るに至ったわけです。
そして,2つの研究グループだったものから,さらにこれを強化しようということで,2010年に,バイオAFM先端研究センターというセンターを立ち上げます。これは,理工研究域附属の研究センターで,4部門から成ります。
まず,安藤先生の高速AFM部門と,私の超解像AFM部門,それから,分子・細胞の試料をAFMに適した形に整えるための分子・細胞研究部門,それらを活用してイメージング研究を実施するイメージング研究部門の4部門から成ります。
この際に,大学からはテニュアトラック准教授のポスト1つと,テニュアトラック助教のポスト3つを与えられています。さらに,2012年には,概算要求が通って,夏の学校であるとか,合同セミナーを実施することができるようになって,2研究室から4部門に大きく組織拡大したとともに,AFM研究室だけではなくて,異分野の研究室も巻き込んだ大きな領域へと拡大することができました。
そして2015年には,山崎学長主導の下,学内版COEというふうに呼んでいるのですけれども,学内版のさきがけとかCRESTのような制度を立ち上げて,我々の場合は,2015年に超然プロジェクト,学内版のCRESTのようなものに採択されました。
このプロジェクトは,CRESTといっても,予算規模的には10分の1ぐらいで,2,000万掛ける3年ぐらいの単位のものなのですけれども,拠点形成に非常に役立ちました。本学に優位性のある学術領域を中核とした世界的研究拠点形成のためのプログラムとして実施していて,5つの課題のうちの1つとしてAFM研究分野が採択されました。
この中で,招へい型リサーチプロフェッサー,リサーチプロフェッサーは後ほど説明しますが,1名を採用したり,国際会議を1回開催するなどが義務づけられていて,国際化というのも進めましたし,夏の学校を継続する,あるいは博士人材増強ということで,若手に,学生に経済支援を行うことや,国際連携ネットワークの構築ということで,国内外の様々な研究グループと契約書を取り交わしてネットワークを形成するなどの活動をしました。
また,この際にリサーチプロフェッサーという制度が立ち上がっていて,これは非常に特徴的な制度だと思うのですけれども,本学の中で研究を非常にアクティブに行うリサーチプロフェッサーを任命して,業績連動型の給与体系に移行して,管理業務の一部を免除するということを行いました。そして,例えば招へい型のリサーチプロフェッサーというのは,海外からそういった研究者の方をお招きして,我々の場合だと,Adam Foster先生という計算科学の先生をお招きして契約しました。
また,登用型リサーチプロフェッサーとして,安藤先生と私が採用されました。
このような形で,研究ではなくて拠点形成のための資金として数千万ぐらいの規模の予算を与えることで,若手育成だとか,Visibilityの向上,大型プロジェクト資金の獲得,あるいは持続的な領域の発展へと大きく飛躍することができました。
その結果として,2017年に,世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されました。これは御存じのとおり,約7億円・パー・年で10年間の非常に大きな規模の緊急拠点形成プログラムです。
これまでに採択された14拠点を見ていただくと,上の方の大学は,いわゆる旧帝大と呼ばれる7大学で,その下に続くのも,東工大,筑波大学ということで,理系の研究に特化した非常に大規模な大学。それに対して,続くのも,NIMS,あるいは高エネ研のような非常に大きな国立研究所ということで,それに対して,金沢大学は唯一,中規模な地方大学で採択されたということで,非常に大きな驚きをもって迎えられました。
なぜそういった中規模大学でありながら,こういった採択に至ったのかというのは,間違いなく,先ほど述べたような,これまでの10年間かけて育ててきた経緯があったと思うのですけれども,WPIというのは,ここに挙げたような4つのミッションがあって,それを達成するための拠点をつくるということなので,それぞれについて分析を行ってみました。
まず,世界トップレベルの研究という意味では,それまでに既に日本でバイオAFMといえば金沢大学という比較的ニッチな領域でありながら,この領域ではここというような強みを持っていたということが挙げられます。
また,提案として,従来の続きではなく,細胞の外ではなくて細胞の中でAFM観察をしようという挑戦的な課題を提案したというのもあります。
また,世界唯一のAFMを基盤とした生命科学研究所を立ち上げるんだということを主張した。生命科学研究所というのは世界中に無数にあるのですけれども,そのほとんど全てが光学顕微鏡を中心としたもので,AFMを基盤としたものは我々が世界唯一だと思っています。
2番目の融合研究の推進というところも重要で,我々の場合には,先ほど述べた超然プロジェクトというもので既に立ち上がっていた3つの研究拠点がありました。AFMとがん研究と超分子化学という3つの強みを持つ領域ができていて,それを融合させて,さらに計算科学の分野を加えた4分野の融合研究を提案しました。
また,3つ目に国際的な研究環境ということで,それまでの活動で,国際的な連携研究ネットワークも,もう契約書などを取り交わしてかなりできていましたし,夏の学校などの活動で国際的なVisibilityも高まりつつありました。また,超然プロジェクトの招聘型のリサーチプロセッサーとして,先ほど挙げたFoster先生であるとか,超分子化学のMacLachlan先生などが,PIとして参画するための準備がもう既にできていたというのもあります。
そして,最後の4番目の大学システム改革というのは何かというと,WPIのセンターを特区として利用して,非常に革新的な制度を導入することで,それを大学全体に波及させましょうというところです。このような大学の改革については,学長の強いリーダーシップを前提とすれば,中規模大学の方が大規模大学よりも比較的有利に進められる面があるのではないかなと思いました。
例えば,我々の場合には,我々主導で超然プロジェクトで行ってきた修士学生のRA制度など,あるいは,事務スタッフの英語能力の強化などの取組が,全学に今,波及効果を及ぼしています。
こういうふうに選択と集中で一部門だけ強化するということになると,ほかに不平等感が出るのではないかということなのですけれども,それは,それだけやると,そのとおりだと思うのですけれども,本学の場合には,広く門戸を開いて,それ以外の分野にも開いていくということで不平等感を解消するということに取り組んでいます。
例えば,先ほど挙げた超然プロジェクトであるとか,さきがけプロジェクトというのは,我々のところだけではなくて,この右側に挙げたとおり,様々な理系,文系のテーマを採択しています。また,その左上に書いてありますとおり,いろいろな研究域の下にセンターを次々に立ち上げてセンター化するということも行っていますし,理工研究域のセンターに関しては,既に目立ったものは,どんどん部局化するという形で進んでいます。
例えば,2017年に我々のところがナノ生命科学研究所を立ち上げて,18年にはナノマテリアル研究所,19年には設計製造技術研究所,21年には高度モビリティ研究所というふうに,次々に研究所として独立させる形で発展を促しています。
これだけ聞くと,何事もうまくいっていて何の問題もないように聞こえるのですけれども,やはり地方大学が自己資金で選択と集中ということを推進するためには,相当ついていけなくて,いろいろな懸念があります。
経験を踏まえて3つ挙げさせていただきますと,やはり運営資金が途切れる不安というのが常にこの10年間,尽きないわけで,地方中規模大学は,もともと元手が少ないので,将来にわたって結局右肩上がりでプロジェクト資金を獲得できるという前提で組織拡大をしてきているわけで,いわゆる自転車操業みたいなもので,走り出したら止まれない状態になっていて,将来の組織維持には非常に不安を感じる面があります。
またもう1つは,研究テーマの硬直化というのは非常に懸念するところがありまして,一度よい成果が出ると,それを元手にして外部資金を獲得して,拠点化の構想が求められて,研究者個人の判断では自由なテーマの設定が困難になってくることが,今後やはり危惧されるのではないかなということも考えています。
もう1つは,運営負荷による研究力の低下ということで,高い能力を持つ研究者がどんどん組織を大きくしていくと,その組織運営に追われることになって,非常に大きな時間と労力を割かれますので,肝腎の研究に専念する時間がなくなってくるのではないかということが1つ懸念されます。
これらを踏まえて,総合振興パッケージに我々が期待する点として,長い目で見て,大学の自立を促すような仕掛けが欲しいということで,このような上に挙げたことは,結構切羽詰まった状況で,大学も個人も追い詰められているので,最終的に研究者のところも追い詰められたような活動になっていくわけで,大学独自の研究力強化策を持続的に安定して実施できるような支援策が望まれると思います。
短期的には,やはりうまくいっているプロジェクトの支援は,基幹経費化するなどのことをこれまでにもやられていると思うのですけれども,そういったことを継続してほしいなと思うのと,長期的には,地方大学にこそ大学ファンドを設立するための支援が望まれるかなと。これも今の10兆円ファンドの支援というのは,世界と伍する研究大学という大きな大学には大学ファンドを設立するための支援を行うけれども,地方大学は,プログラムをどんどん取っていってくださいという施策のようにやはり見えてしまうので,長い目で見ると,地方大学のような元手のない,余裕のない大学にこそ大学ファンドというのは設立する必要があると思うので,そういった長い目で見て役に立つ,自立を促すような仕掛けが望まれるかなと思っています。
以上です。

【大野主査】どうもありがとうございました。
このすばらしい研究所,そしてWPIの設立に至るまで,さらには,そこで今,御活躍されている皆様が課題と考えている点など,非常にコンパクトにまとめていただきました。ありがとうございます。
それでは,少し時間を取って質疑応答をさせていただきたいと思います。
いかがでしょうか。皆様から御発言があれば、お願いします。
高橋委員,お願いします。

【高橋委員】高橋です。すばらしい御発表を,福間先生,ありがとうございました。
金沢大学は,私が存じ上げる限り,2009年ぐらいから学内でURAの先駆けもなさっていて,かつ日本の団体の発足と初代会長を務められたという意味では,やはり大学の研究力がそこからも見えてきた感がいたします。
先生の御発表でとても興味深かったのは,最後の今のページ以外のところでは,お金がないという言葉を全然おっしゃらなかったので,どこからお金が出ているのだと思ったのですが,最後のところでは,今後に向けて,ある程度規模が大きくなったときには,その後の,いわゆる継続のための資金というのが重要だという御指摘があって,まさにそうだと思いました。
なので,私の質問は1つだけなのですけれども,WPIを取る前の前段の福間先生がテニュアトラックでいらっしゃった辺り,2017年ぐらいからですか,大学が選択と集中を学内で独自にやってきたところから,センターを4部門でつくられた2010年,それで最後に,WPIを取るまでのここら辺の最初の萌芽期において,どのくらいの規模感とか,どのくらいの年間予算でホップ・ステップ・ジャンプでWPIに至ると,その辺りの数字のところを教えていただければと思います。例えば,先生のグループがどのくらいのポスドクの方たちで動いていたとか,年間予算ぐらいでもいいのですけれども,差し支えない範囲で,WPIに至る学内資金のボリューム感を教えてください。

【福間委員】ありがとうございます。2007年の当時,既に安藤先生はかなり世界的な著名な地位を確立されていたので,多分,想像になりますけれども,本当に1億円以上規模の年間予算で研究をされていたと思います。
一方で,我々が採用されたときには,テニュアトラック教員としては,かなり待遇がよくて,年間3,000万掛ける5年ぐらいのスタートアップ経費でやっています。これは海外でいうと標準的かもしれないのですが,日本でいうと,3,000万のうちに自分の雇用経費も入っていたのですけれども,かなり大きな経費で,それは,地方大学で,いい人を採ってこようと思うと,それぐらい大胆な条件を出さないといけないということだったんだと思います。
その後,一方で,センターとかになって,それ以降は個人で予算を取ってきているのですけれども,センターとしては,センターができた後にもらっているのは,本当に大学からは300万から500万ぐらいの経費で,そんなに大きくなくて,やはり自分で概算要求が取れたことが大きなきっかけで,概算要求が途切れたら,もう夏の学校はできないなと思っていたら超然プロジェクトをやってくれて,それでつないで,それがもう途切れるなと思ったらWPIが取れたという感じで,本当にうまく数珠つなぎでいったのですけれども,本当にこれはうまくいった例で,そういう結構リスクを負いながらやっていったような感じはしています。

【高橋委員】ありがとう。1個だけ,すみません。4部門のときに,先生にはスタッフはいらっしゃったのですか。

【福間委員】スタッフは,その際に1人,テニュアトラックの助教をつけていただきました。

【高橋委員】分かりました。ありがとうございます。

【福間委員】ありがとうございます。

【大野主査】それでは,続きまして,相原委員,お願いいたします。

【相原委員】相原でございます。非常に参考になる御発表,ありがとうございました。
先生が最後のスライドで挙げられました課題なのですが,そこの中に資金のお話はあったのですが,人材育成のお話が出てこなかったので,少し質問させていただきたいと思います。テニュアトラックで教員の方々を採用されて,しかも10年前からいろいろ準備されてWPIを取られたという話ですけれども,こういう方々の将来についてはどのように考えていらっしゃる,または実際に待遇されていらっしゃるかというのを教えていただきたいと思います。事業を発展させるための人材育成というのはとても大事なところですので,是非教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【福間委員】ありがとうございます。私自身,実は金沢大学第1号のテニュアトラック教員で,かなり試験的な側面もあったのですけれども,同時期に採用された5名の方々は,いずれも本学の中心的な研究を担う形で大きな発展を遂げていまして,我々のケースでは,割と成功だったといえるような人材育成になっています。
そのテニュアトラックの期間に感じたこととしては,テニュアトラックで,やはり上の研究室のトップが余裕がない中で学生を育てるというところで,少し不安はあったのですけれども,今となってみると,やはりいい面と悪い面,両方あるので,どっちもどっちかなと思っています。
というのは,そういう若手の方々が,悪戦苦闘して,もがき苦しむ様子を間近で見られることも成長だし,エスタブリッシュされた研究者の方が,どのように苦労してマネジメントするかというのを間近で見るのも,やはり成長なので,それは形の違いはあるにしろ,結局,受け止め方次第で,両方とも若手の学生さんの成長にはつながるかなという思いです。

【相原委員】そうしますと,5年過ぎた方々は,大学の中でポジションを得られたということでよろしいのでしょうか。

【福間委員】はい。本学の場合には,テニュアトラックで採用するためには,必ずその後のポストを用意しないと,テニュアトラックの公募人事を進められないようになっていますので,それが僕のときには,まだそういう制度になっていなかったので,すごい混乱があったのですけれども,そのときの失敗を踏まえて,本学では,それ以降,そういう制度になっていますので,今はそういう混乱もなくポストが用意できています。

【相原委員】ありがとうございました。

【大野主査】ありがとうございます。
それでは,吉田委員,お願いいたします。

【吉田委員】ありがとうございました。本当にすばらしい取組で感服いたしましたが,2つ質問をさせていただきたいと思います。
1つは,管理業務を免除するというところが,非常に我々にとってはインパクトがあったのですけれども,これは学長のガバナンスという意味では,かなりすばらしいリーダーシップではないかと思うのですけれども,それに対して,やはり不公平感とかがかなりあると思うのですけれども,そういう部分。
もう1つは,教育業務です。これは大学ですから,もちろんやらなくてはいけないのですけれども,やはりかなりの負担があることも推察されますので,そこら辺の対処法というのが1つと,それから,URAの支援であるとか事務職員,そういうものが実際かなりサポートしてくれたのでしょうけれども,そこら辺のコツみたいなものがあれば教えていただきたいと思います。

【福間委員】ありがとうございます。まず,リサーチプロフェッサーについては,御指摘のとおりで,導入当初は本当に大きな根強い反発があって,心ないことを言われることも度々あって非常に大変だったんですけれども,それでも,やはり,今,そもそもリサーチプロフェッサーで免除されている業務というのは何かといいますと,入試委員であるとか,教務委員であるとか,就職担当,この3つは御存じのとおり非常に大きな負荷になりますし,あと,専攻長,学類長のような長にならないということを免除していただいています。
一方で,いわゆる授業であるとか,そういったものには分け隔てなく我々は取り組んでいますので,ただ,いわゆる教育組織の管理運営の免除だけでも相当大きくて,これはすごく時間がかかったのですけれども,本当に時間をかけて説得していただくしかなくて,今では,いわゆる理工であるとか,研究域レベルでルールが策定されていて,リサーチプロフェッサーにはこういう業務を免除しましょうというのを会議で皆さんがコンセンサスを得ていただいたので,そういったあつれきみたいなものも,継続することで徐々に緩和しつつあります。
あと,URAの方々は,本当に我々,比較的早い段階から本学は導入したと聞いていまして,WPIの申請に関しても,相当手伝ってもらっていますし,運営についても手伝ってもらっています。
そういう意味では,すごくうまくいっているのですけれども,地方大学としての課題は,やはりいかにその育ったURAが,いい条件の下に,いい大学に抜かれていくということが多いので,本当に育て続けるしかないという宿命を負っているなというところは思います。
以上です。

【吉田委員】ありがとうございました。
それで,先生のところで育てられた大学院生であるとか,全てが研究者になるわけではないでしょうが,その就職支援であるとか,免除される一方,就職がないと大学に入ってくれないと思うのですけれども,そこら辺,何かコツみたいなものがありますでしょうか。

【福間委員】本学の場合には,我々,リサーチプロフェッサーではあるんですけれども,そういう教育組織にもしっかり兼任という形でひもづいていて,所属する学生さん自体に不利益は全く生じないようになっています。その辺りは,本当に感謝しかないのですけれども,ほかの先生方が分け隔てなく面倒を見ていただいています。
あと,時代の流れというのもあるかもしれないのですけれども,今,就職活動というのが,昔と違って,教員が動いて世話してあげるような時代でも結構なくなってきていて,ほとんどが,もう学生さんが独自に動いて決めてくるという状況もありますので,全学的な制度を利用するということで,特にそこは問題なく動いている状況です。
【吉田委員】ありがとうございました。

【大野主査】それでは,今,挙手されている4名の委員,林委員,新福委員,小林委員,藤井委員でまずは区切りたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。
それでは,林委員,お願いいたします。

【林委員】ありがとうございます。非常にすばらしい御発表を頂いて,勉強になりました。
お話がダイナミックなエコシステムを形成しているというか,優れた研究者のところに大学の中でちゃんとお金をつぎ込んで,それを大きくして,またそこに人がさらに周りに入ってくるという,そういう優れたところがどんどん大きくなるようなダイナミックな仕組みができているのだなというふうに理解したところなのですけれども,その上で,2点お聞きしたいのですが,1点目が,教育です。今までも教育の御議論はありましたけれども,我々の研究力の強化なのですが,先ほど御説明があったように,ダイナミックな動きが研究ではできるのに対して,教育は,どちらかというと,保守的な形になると思うのですけれども,例えば,福間先生のところの,福間先生がやっているような研究を学ぶような博士課程,あるいは修士課程について,新しい教育プログラムをつくるであるとか,そういうことがうまくできているのか。あるいは,先生,何か課題をお感じになっているのか,そういう教育のところとの連携についての御意見を頂きたいというのが1点です。
2点目なのですけれども,我々,振興総合パッケージということを考えるときに,研究センターの在り方は,いろいろと議論あると思うのですけれども,ある議論は,あまり研究センターが,拠点型の1つのお金に全部依存してしまうと,そのお金でセンターの生き死にが全部決まってしまうので,そうではなくて,やはりセンター,拠点タイプの資金も取って,かつ,個々の研究者がプロジェクト型の資金も多く取っていて,さらに基盤的なお金もある,そういう多層的というか,そういう資金の構造がいいのではないかというような議論もあるところなのですけれども,先生の御経験から,センターを運営していくときに,どういうバランスがいいというところまでは少し御意見は難しいのかもしれませんけれども,どういう形で資金の構成というのがあればいいというふうにお考えになっているのか,ぜひお聞かせ願えればと思います。
以上です。

【福間委員】非常に重要なポイントを御指摘いただきまして,ありがとうございます。
教育の面ですけれども,我々というか,これに関しては,本当に学長の先見の明だと思うのですけれども,WPI採択の直後から動いていまして,ナノ生命科学研究所というのを立ち上げて,ナノ生命科学専攻という大学院の専攻をつくって,2年前ぐらいだったと思うのですが,立ち上げています。そこで我々が採用した外国人の教員であるとか,我々WPIの職員が中心になって,外国人が半分ぐらい,学生も半分ぐらいなので,もう完全に英語で教育するような場を設けていて,融合研究の思想を教育するという場を既に形成できています。やはりそういう教育組織は必要だと感じます。
これは先ほど言った点の若手育成ということもそうなのですけれども,やはり教育,若手を,研究者を育成するというためにも,その教育をする場を用意する必要があって,今,外国人のそういった教員が,すんなり入っていって教育をする場というのは,なかなか既存組織につくるのは難しくて,それを新たに専攻をつくることでやったというところが大きなところかと思います。
もう1つは,このセンターを運営するためのお金として,WPIは,大きなお金をもらっていますが,前提として,このお金は研究に使ってはいけなくて,組織づくりに使ってくださいということになっていまして,研究費は各自が取ってきています。その中で,既に我々,70名ぐらいの研究者で,年間10億ぐらい稼いでいるのですけれども,かなりお金を取ってきているので,ほとんど研究はそれでやっているのです。
一方で,では,研究費を全くそういう組織が持っていなくていいかというと,そうは思わなくて,それぐらいの規模で,今,大学から年間6,000万ぐらいもらっているお金があって,それを自由に使うことで,我々はガバナンスを利かせているといいますが,そんなに大きな額ではないのですけれども,この資金を与えることによって,こういうセンターのミッションに資するような研究の方向性の研究もやってくださいねというガバナンスを利かせています。やはり研究者の方たちは,それぞれが一国一城の主なので,単にお願いしても駄目で,何らかのお金を持って,そういうお願いをしないと,マネジメントは難しくて,それがたとえ研究に足らない少額の予算であってもよくて,だから,CRESTの10分の1の2,000万ぐらいで,なぜそんな組織ができるのだと思われるかもしれないのですけれども,それぐらいのものでも,ないとあるとでは全然違っていて,それぐらいの少額の資金で何とかガバナンスを利かす。一方で,それぞれの研究はそれぞれのお金でやるというバランスでやっています。

【林委員】大変参考になりました。ありがとうございます。

【大野主査】それでは,新福委員,お願いいたします。

【新福委員】貴重な御発表をありがとうございました。特に同じ地方大学として,研究の才能のある人材を伸ばすための体制づくりというところは非常に参考になったと思っております。
私も2つ質問をしたいと思っているのですが,先生が「選択と集中」という言葉をお使いになっているのですけれども,その選択と集中の意味,もともと幅広くあった学部ですとか学科を幾つかもう切って,先生の集中されている分野にお金を投入するという意味合いなのか,それはそこで残しておいて,プラスアルファでそこにかける力を強くするという意味合いなのか,ここは恐らく先生がおっしゃられていたその後の研究テーマの恒常化の懸念につながりかねないと考えます。多様な学問分野を残すことで,そこから追随する,次々新しい分野が上がってくるように残しておかないと,やはりそこは難しいのではないかというのが私の疑問としてありましたので,そこをどういうふうに,選択と集中と言いながらも残してあったのか,本当に集中されているのかというところを聞きたいというのが1つです。
もう1つは,やはりこういった体制を取るに当たって,運営される先生方への負荷というのは相当強いのではないかなと感じまして,こういうふうになってくると,職業に全力を集中ができるような人材でないと,なかなか難しいのかなと感じています。
というのは,私のような女性研究者,若手研究者で,特に子どもが小さいですとか,いろいろな背景の研究者がいた場合に,こういうことをやるのは難しいのかなというのを,少し引いてしまうというところがあったりするのですが,そういうことではなくて,きちんといろいろな多様な人材が入ってこられるような体制になっていたのか。もちろんWPIがあれば,外国人研究者が入る機会などは増えると思うのですけれども,その以前から入っていたメンバーの多様性というのはどうだったのかというのをお聞きしてみたいです。

【福間委員】御指摘ありがとうございます。まず,選択と集中の意味ということなのですけれども,我々の大学では,このWPIとかが始まる前の,ちょうど2007年頃からだと思うのですけれども,教育組織と研究組織の所属を分けて考えようということで,ほとんどの教員が,教育所属と研究所属を独立に持っているような形に移行しつつあります。
私の場合だと,例えば,研究所に研究上は所属しているけれども,教育上は理工学域というところで教育を行っているということで,もともと教育組織に所属していた者は,所属を残したまま,そこも教育上は主の所属としてそこの学域,もともと電子情報で,今はフロンティア工学類という学類なのですけれども,学類に所属していますし,一方で,研究者としては研究所に所属しているという形になっています。
なので,先ほどみたいにばんばん研究所をつくって,どんどん学部とかから人がいなくなっているのではないかと思われるかもしれないのですけれども,その方々の研究所の所属が変わっているだけで,教育上の所属はそのままメインでそちらに残っておられます。
あと,運営に関する負荷というのは非常に大きいというのは我々も常々感じていまして,これをいかにして軽減するかというのは非常に課題で,URAの方のサポートももちろんあるのですけれども,WPIの組織でいうと,事務部門長という方が,単なる事務員ではなくて,年配の研究者の方が事務部門長という形になっていただいて,運営をサポートする体制になっています。
この点は,これぐらい大きくなってしまえばそうなのですけれども,そこに至る途中に関しては,確かに我々のケースでは,まだ本当に個人の努力によるところが大きくて,確かにその段階で途中に出産などのイベントがあったときに,うまくできるほどの体制になっていたかというと,かなり難しかったと思います。
今,このWPIの拠点ぐらいの規模になってしまえば,そういう副所長だとか,事務部門長という方が非常に強力にサポートしてくれるので,そういったことも問題ない体制なのですけれども,途中過程では,やはり難しかったと思いますので,それは課題と思います。

【新福委員】どうもありがとうございました。よく分かりました。

【大野主査】極めて重要なポイントかと思います。どうもありがとうございます。
それでは,小林委員,よろしくお願いします。

【小林委員】北里研究所の小林でございます。今日は,非常にすばらしい説明をありがとうございます。
ただ,私立大学としては,少し羨ましいなと思うところがあって,大体において国立と私立と両方が申請できる大型研究費というのも,最終的にはどこかで期限が切れるわけですよね。場合によっては,だんだん暫減されていく。この場合に,私立大学で一番頭が痛いのは,人件費です。それまで雇っていた若手の研究者をどうしたらいいかというのは,いつも悩みの種なのです。とてもテニュアトラックみたいな資金的な余裕があるわけではないので,国公立のように,その後も持続して雇えていけるような形が本当は望ましいのですけれども,私立大学は,そういう意味では,国公立と同じようなニュアンスで大規模研究費になかなか応募できないというのがあるのです。大型の研究費も申請し取るのですけれども,その後,結局,単独では持続可能でなくなってしまって,その部門をほかの部門と統合したりして,何とか持続させていかざるを得ないというのが1つです。
本校では,そのセンターに近い,キラリと光るような研究所が,生命研,今は大村研と言っていますけれども,そういったものが幾つかあり,リサーチプロフェッサーは,研究三昧でき,博士と修士課程の学生たちと一緒に研究はできるのですけれども,研究所を支える基礎学部がないので採算的には必ず赤字です。研究費は外から取ってきてくれるので,研究費は彼ら自身で何とかするのですけれども,人件費とか,建物の減価償却費とか,そういったことを考えると,どうしても赤字になるので,大学として補塡せざるを得ないというのが現状でございます。私立大学と国公立というのは,そういう意味で少し違いが出てきてしまうので,何とか私立大学でも持続可能なような方策を考えていただければと思っています。
本当に羨ましいなと思ったので,発言させていただきました。。

【福間委員】ありがとうございます。

【大野主査】福間先生,何かコメントがございませんようでしたら。

【福間委員】今の件に関して,全くそのとおりだと思っていて,我々は少しひがみがましく「中規模大学なのに」と言ったのですけれども,言っても,日本の大学の中で,全体で見ると決して小さい方というわけではなくて,何とか頑張ってひねり出そうと思えば,学長戦略経費だとか,学長がいろいろな部局からポストを吸い上げて,それで何とか学長戦略ポストということで回すことができるだけの体力があったのでこれができたというのは全くそのとおりで,逆に,どう頑張ってもひねり出せない規模ということもあり得るわけで,そうなった場合に,最後のスライドで私が説明したとおり,やはりうまくいっているプロジェクトに関しては,基幹経費化するとか,そういった何か持続的な自走化を促すような制度は絶対に必要だと考えます。どうもありがとうございます。

【大野主査】ありがとうございます。
それでは,最後に,藤井委員,お願いいたします。

【藤井主査代理】御説明ありがとうございました。質問させていただきたいのですが,WPIだと10年支援終了後に,どうやって自立化するのかということをずっと言われます。るそのときに,おっしゃるように安定的な財源を考えなければいけないこととの関係で,幾つかあり得る方向性として,例えば,地域とのつながりや,地域への広がり,またはSPMベースの生命科学分野に特化した業界,あるいは国際的なものも含めたファンディングの可能性などについては,WPIの皆さんの中で努力をされているのでしょうか。あるいは,大学からのサポートもあった上で何らかの展開をされているのでしょうか。もしそのようなことをされているようでしたら,教えていただければと思います。

【福間委員】ありがとうございます。その辺りは,研究内容にもよると思うのですけれども,我々の研究所の場合には,ナノ生命科学ということで,かなり基礎に寄ったナノ生命現象を解明していこうということで,直接的に何か産業につながるということがなかなか難しいもので,大学全体としては,地域の企業の方々と連携する。地域の場合,金沢とかだと限られているのですけれども,例えば,コマツであるとか,PFUとか,澁谷とか,その辺りと強い連携を大学主導で進めていらっしゃって,あと,ダイセルとか,その辺と結構強力に進めているところなのですけれども,このナノ生命科学研究所という研究の内容からすると,なかなか直接企業とつながりをつけるのが難しい。各先生方の研究領域では,それぞれ産学研究をしているのですけれども,そこが難しいということで,地方とのつながりという意味では,非常に課題を感じています。
その中で,10年後にこの規模をどうやって保つかという意味では,やはり研究力ということで,研究費,これまでかなり獲得していて,その部分の間接経費というのをかなり大学に貢献しているので,ここから自走化する段階では,ぜひ少し研究所に使わせてほしいということを大学に交渉したい。あと,これはWPIの拠点はどこも感じていることだと思うのですけれども,やはりさすがにいきなりゼロというのは少し厳しいので,もう少し自走化できる仕組み,うまくプロジェクトを取ってきて,うまく運営したものは基幹経費化するなどの方向で何とか措置してほしいという要望があります。ありがとうございます。

【藤井主査代理】ありがとうございました。

【大野主査】福間委員,どうもありがとうございました。
それでは,次は,受田委員から,高知大学の取組について御発表いただきたいと思います。
それでは,受田委員,お願いいたします。

【受田委員】大野先生,ありがとうございます。
本日は,貴重な発表の機会を頂きまして,誠にありがとうございます。
私からは,地域を支え,地域を変えることができる大学,Super Regional Universityを目指す高知大学の取組を御紹介させていただきます。
まず,本学の概要でございます。農林海洋や医学部,地域協働学部から成る6学部構成です。全学の研究施設としましては,海洋コア総合研究センターや,今日,後半出てまいりますIoP共創センター等がございます。大学院生を含めまして,学生は5,500名程度,教職員は1,900人弱という規模でございます。合わせると七千三,四百名という形でございます。
続いて,高知県の概要です。県人口は減っております。自然減は全国を15年先行して顕在化しました。また,高齢化率も10年先行しているという状況です。この人口70万人を切っているという数字,この高知県の人口に対して,高知大学の学生,教職員の数は1%を超えているということになります。
下にこの30年間の県知事の写真を御紹介しておりますけれども,私個人は平成17年から大学の地域連携の現場責任者を担っております。これから御紹介する内容は,平成19年以降の取組,すなわち尾﨑前知事時代の県と大学の取組を中心に御紹介させていただきます。
御紹介しましたとおり,高知県は,持続可能性が脆弱で,課題先進県であると言えます。そこに立地する地域の中核大学が担う役割は,課題先進県を課題解決先進県へ導き,持続可能な地域づくりに貢献することだと考えております。
具体的には,地域の「知の拠点」,「人材育成の拠点」,「交流の拠点」,こういった機能を強化・発展させていくことが我々のミッションだと位置づけております。
ここに高知県と高知大学の連携の歩みを示しております。県と大学の実質的な連携は2段目にございます高知県産業振興計画の策定に始まると思います。この産業振興計画は,「変わろう・変えよう・産業と暮らし」というキャッチコピーの下,県の総力を挙げて策定し,県民運動として,現在に至るまで,一丁目一番地の施策として展開しているものでございます。
赤字で記載しております県の産業振興計画については,策定委員会,また,その後のPDCAを回すフォローアップ委員会の委員長を私がずっと務め続けております。その立場で,県に寄り添う形,また,県の産業振興の一翼を担う形で,大学の様々なこれから御紹介する事業,連携の実質的なメニューを充実展開をさせているという状況です。
具体的なメニューをここにお示ししております。各事業の開始時期と財源も併せて御紹介しております。
それでは,まず一番上にございます土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業,通称「FBC」と言っておりますけれども,この事業から御紹介いたします。
この土佐FBCに関しましては,リカレント教育のモデルとして,先日の日経新聞や産経新聞に取り上げていただきました。
県の産業振興において,食品産業というのが重点領域の1つでございます。そこで我々は,その産業を支える中核人材の育成を高知大学内に設置した社会人を対象とした夜学のプラットフォームで開始いたしました。当時のメニューとしては,座学を百数十時間,演習を80時間,課題を持ち込んでいただいて,マン・ツー・マンで対応する課題研究,これを1年間,履修していただいて,資格を出すというメニューでございます。
6年目以降は,県の寄附講座として自立をし,現在,FBC3として14年目に入っております。
現在のこのFBC3に関しては,県内食品産業に競争優位性をもたらすR&Dの人材を育成しようと考えているところでございます。
具体的な成果でございますけれども,これまでに600名ほどの修了生を輩出しております。当初から,修了生は自立的に同窓会組織を立ち上げ,その交流の拠点を通じて,いろいろな交流を展開し,商品開発へとつなげております。
受講の満足度はこのように高く,そして様々な商品開発や特許の出願等へと結びついており,売上げ等に関しては,間接的な効果も入れて,既に80億を超えております。
3に関しての目的・ゴールを改めてここに示しておりますけれども,企業の開発,研究開発マインドを向上させるために,具体的なKPIを設置し,来年度,このような野心的な目標を掲げているところでございます。
ここに至る経緯としては,文科省のNISTEPの地域科学技術指標2016が非常に大きなきっかけになりました。すなわち,地域の科学技術の推進には,R&Dへの,特に民間における投資が必須である,これが脆弱であるということを踏まえて強化したいと考えているところでございます。
続いて,COCの事業を御紹介します。「高知大学インサイド・コミュニティ・システム」と名づけておりますけれども,ここに掲げる高知県のマップにおいて,高知大学は,白丸でお示ししておりますように,中心部にございます。やはり東西から,地域からの声はなかなか届かないという不満を聞いておりました。そこで,私どもは,高知大学に,University Block Coordinator,UBCという職責の方を新たに任用しまして,この県のマップにおける赤の部分,高知県産業振興計画に基づいて,県内7ブロックに設置されております産業振興推進地域本部に常駐させまして,サテライトオフィスを設置するとともに,サテライト教室を開設いたしました。まさに大学の拠点を県内全域に整備したという状況でございます。
この4人の実績を少し御紹介しております。あるUBCは,経済的に政策立案や評価へ貢献する。また,あるUBCは,ファンドレイジングを通じて地域の思いを実現させていく。また,農業振興や日本遺産のストーリー設計において,歴史や観光振興に貢献していくというものでございます。まさに総合知を結集して,地域において大学の拠点を整備し,高知大学が入っているインサイド・コミュニティ・システムという形を整備しているところでございます。この4人は,当初からのメンバーであり、テニュアとしてもう9年になりますけれども,大学の顔として活躍してくれております。
続いて,COC+事業でございます。本学とともに,県内の様々な組織が協働しております。
2つメニューがありまして,地域内へ学生の定着を図るということで,左側,学生が地域を愛して貢献しようという気持ちを醸成するように,地方創生推進士の資格を取得できるメニューを構築しております。
また,右側は,その受皿になります地域企業の雇用創出力を高めるための育成メニューでございます。ここには,例えば,観光人材育成事業として,高知観光カレッジを立ち上げて,その充実・発展を現在に至るまで進めております。卒業生の交流の拠点もできており,卒業生が一緒に起業していくという形も見えるようになりました。
地方創生推進士は,現在までに160名程度が認証を受けております。昨年度の卒業生は,ほぼ半分が地域内に定着いたしました。商工会議所青年部と連携し,県内の中小企業と大学生のマッチングや,交流を支援するカフェ「学生空間『One step』」を大学近隣にオープンさせ,ここで交流の拠点機能を発展させております。
そこでの様々な交流がきっかけになりまして,下に書いてありますように,コロナ禍において,人手不足で苦悩する農家の皆様と,バイトがなくなり生活苦にあえいでいる学生をマッチングさせて地域への貢献を果たす,こういう取組が進んでいるところでございます。
このような取組に関しては,国からも高く評価をしていただいております。地域課題解決に貢献する高知大学の活動が,我が国におけるモデルとして高く評価され始めたと考えております。一部,台湾をはじめとするグローバルな展開も始めております。
こういうふうになっていきますと,国の方にも,その活動が伝わるようになってまいりました。特に平成29年,歴代の地方創生担当大臣が相次いで,県,高知大学を視察されました。施設園芸農業の現場や,また,土佐FBCの授業参観もやっていただき,当時の梶山大臣からは,地方大学をいかに活用するかがこれからの地方創生の鍵であるとのコメントをいただきました。
その流れが平成30年の国会における,当時,安倍総理の施政方針演説へとつながります。ここでは,県と高知大学が連携をした施設園芸の展開であるとか,そこへの人の集積,また,土佐FBCで学んだ受講生が,商品開発等を通じて地域に貢献をしているという事例を御紹介していただきました。そして,こういう地方創生の取組に,財源的にもしっかり寄り添っていくというお話を頂いたところでございます。
そのことがきっかけになりまして,地方大学・地域産業創生交付金がメニューとして立ち上がっております。「“IoP(Internet of Plants)”が導く「Next次世代型施設園芸農業」への進化」というプロジェクトで,現在4年目を進めております。キラリと光る地方大学を目指し,トップレベルの人材の招へいも行いながら,このテーマで100人程度の研究者を集積させ,研究を進めております。
そもそもの背景は,高知県が施設園芸農業において,面積当たりの農業産出額が断トツであるといった実績に基づきます。この栽培技術を高度化し,より強く,また,グローバルでも戦っていける,そういう基盤を築いていこうという内容です。
少し字が小さくて恐縮ですけれども,そのために,右側にありますハウス内の環境をデータ化していくと同時に,キラーコンテンツになりますけれども,栽培しております植物の生理・生態,具体的には,光合成や蒸散,転流といった,こういうこれまで見えなかった代謝を見える化し,クラウド上に他のデータとともに集積,搭載をしていこうとしております。この生理・生態AIエンジンと同時に営農支援AIエンジンを開発・駆使することによって,統合制御へ導いていこうという内容でございます。
左下にございますように,このプロジェクト,全体の会長を知事が務め,私が事業責任者を務めております。
現在の状況をこういうふうにお示ししております。様々なデータがIoPクラウド上に集積され,ここに作物の生理・生態のデータが今集まり始めました。これによって,楽して儲かる農業に,農業のDXという形で展開をしていこうとしているものでございます。
この動きを大学の教育と研究にさらに結びつけております。昨年10月,高知大学IoP共創センターを設置いたしました。左下に組織図がございます。教職員は合わせて60名以上の規模でございます。これに連動する形で,右上にございますように,農林海洋科学部を改組いたします。そして,令和5年度首を目指しておりますけれども,農林資源科学科フィールド科学コースを新たに立ち上げ,地方国立大学の定員増の枠組みを活用するスケールアップを図るべく,現在,調整をしているところでございます。
最後に,共創の場形成支援プログラムを御紹介します。「SAWACHI型健康社会共創拠点」と称しております。“世界一健康づくりの楽しいまち”を目指す室戸市を舞台に,Health Techの世界拠点にしようということで,ここからバックキャスティングして研究開発課題を掲げております。
具体的には,医療・ヘルスケア,PLRやPHR基盤の構築,また,VRデジタル治療薬の創成といった形で展開をし始めたところでございます。
このような医療×DX,また,先ほど御紹介した農業×DX,この取組は,国が掲げるデジタル田園都市国家構想とも極めて親和性がございます。
ついこの間,金子総務大臣が高知を視察されました。このNext次世代型IoPのハウスを視察され,「びっくりした」という感想を頂いております。
また,都市の活力と地方の豊かさの融合を図る「デジタル田園都市国家構想」の中で,遠隔医療は重要であると述べられております。
今後も,これらの取組を深化させてまいりますとともに,課題解決先進地のモデルとして,全国そして世界へと敷衍してまいりたいと考えているところでございます。
最後に,これまでの本学の取組を考察して,ポイントをまとめ,総合振興パッケージへの提案へと結びつけてみたいと思います。
これまでの取組,地域と実質的な連携を推進し,相互の信頼関係を醸成するには,長い時間がかかっております。したがって,支援に関しても,長いスパンでの支援をお願いしたいと思います。
それから,ステークホルダーが自治体・住民であるという顧客視点が重要です。自治体と目的を共有し,協働してPDCAサイクルを回していく必要がございます。したがって,運営費交付金の共通指標等において,顧客視点に基づいた指標を設定し,ステークホルダーが関与する評価システムを導入する等が考えられることかと思います。
それから,自治体,地域からの自発的・具体的提案であることが連携の前提です。主語は大学ではないと考えております。そこで,実質的な府省庁連携による推進体制の座組及び支援の在り方を求めたいと思います。財源としては,いろいろあると思います。成功報酬型のソーシャル・インパクト・ボンド,また,Pay For Successの導入も視野に入れる必要があると思います。
実効性ある連携には,基盤となる研究成果や研究者のストックが必須でございます。これなくして地域課題に立ち向かっていくことはできません。そこで,安定的な財務基盤の構築を求めたいと思います。特に,研究の担い手である大学院生の育成・確保に向けた取組が重要であることは言うまでもございません。
さらに,産学官連携や地域連携をコーディネートする人材や拠点が重要でございます。私どもが展開をしておりますUBCの活動を御紹介いたしました。このコーディネーション機能にファンディング機能が必要になります。これまでJSTのイノベーションサテライトやプラザ,こういった実績のある機能をモデルに,さらに展開をしていく必要があると思います。
そして最後ですけれども,研究の力を高めていく上で,研究への直接投資は必要でございますけれども,我々は,社会人を対象とした人材育成の機能強化から,交流の拠点機能を充実させて,知の拠点として発展していくスパイラルを描いてまいりました。
これを図にいたしますと,人材育成の拠点に基づいて,交流の拠点機能を発展させていく,その上に知の拠点,大学の研究力の強化が乗っかっていくという状況でございます。人生100年時代,ステークホルダーは自治体と住民です。その方々が,持続可能で,そしてウエルビーイングな暮らしを,この基盤にしっかりと根づいていくような形を目指していきたいと思います。
私は,地域を持続可能な姿に変革するという意味で,Local Transformation(LX)という考え方を提唱しております。この意味は,持続可能な地域づくりに至る変革が,辺境の地から日本全体に波及し,大きなうねりを起こしていくことも含意しております。このイノベーター組織が地域の中核大学として機能していく姿が求めていく姿ではないかと考えている次第でございます。
以上です。ありがとうございました。

【大野主査】受田委員,どうもありがとうございました。
それでは,質疑応答,そして意見交換の時間を取りたいと思います。御発言,あるいは御質問,いかがでしょうか。高知大学の大変すばらしい取組と,さらに,総合振興パッケージの御提案を頂いたところです。
梶原委員,お願いいたします。

【梶原委員】すばらしい取組の状況を御紹介いただきまして,大変ありがとうございます。
私から受田委員に何点か質問させていただきたい点は,この取組を最初に動かすときに,政府の支援として一番キーとなったことは何かということです。一定の成果が出てくると,次のアウォードなどで研究資金が増え,研究開発が加速すると思いますが,最初にどんな支援があると効果的なのかをお伺いしたいと思いました。
規制改革を要望される声も伺っていますが,自治体あるいは地域の産業振興において,規制改革が必要なことがあったのかどうかという点もお教えいただければと思います。
また,地域の特色ある大学における強い学術分野,つまり大学の個性と,自治体の主要産業との間に相関性がどの程度あるのか知りたいと思っています。御説明の中では,高知県と高知大学では非常に相関性が高いようなように思いました。地域の特性として産業として何が強いかを把握し,学生たちも地元の産業を伸ばしたいという思いの中,先生たちも学生にそうしたところへの進路を勧めていくことで,徐々に相関性ができてくるものなのか,御意見をお伺いさせていただきたいと思いました。よろしくお願いします。

【受田委員】梶原委員,ありがとうございます。重要なポイントを御質問いただきました。
まず,支援で取っかかりの部分でございます。先ほどの取組を歴史的に見ると,私ども,ここに至るまでに,まず,振り返ってみると,一番大きな成果といいますか,価値を感じているのは,文科省の科学技術振興調整費,地域の再生人材の育成でございました。これを政策誘導的に展開していっていたというところに基づいて,私どもが地方創生,地域に対する貢献を始めようとしたときに,完全にタイミングが符合し,そして,そこに向かって,まずここからやってみようという思いを強く持ったというところがございます。
考えてみますと,地域は人なり,また,企業も人なりだと思います。地方の持続可能性をより強靱にする上で最も求められることは人だと思います。そこに気づかせていただいたというふうに考えております。
2つ目の規制改革に関してでございますけれども,我々もいつも規制改革をにらみながら自治体と話をしてきております。例えば,「特区」という言葉がよく使われましたけれども,特区を考えていくというような議論の場もありました。当然,特区を考える上では,横たわっている規制をまず取っ払うということで,規制改革の議論が進んでいくということになります。それを考えて議論はしておりましたけれども,具体的に取っ払っていただきたい規制が明確に現れてきたことはありません。
今後ですけれども,先ほどお話しした,この次の質問とも関わってまいりますけれども,地域の産業振興というときに高知県の農業振興,特に施設園芸農業との協働を進めております。その立地が高知空港の前です。実は高知大学農林海洋科学部の敷地と高知空港の間は,6メーターぐらいしか距離がないのです。6メーターです。多分,世界一近い大学,農学部ではないかと思っておりまして,この立地をうまく活用して,世界から人を集められないかなと考えています。グローバルのバウンダリーを何とか溶かせないかなと。研究者の集積で,海洋コア総合研究センターもここにあるものですから,ちょくちょく自治体の皆様と,この立地を活かして世界からの研究者の集積を目的に規制改革を求めていくこともあり得るのではないかと議論はしておりました。これぐらいしか今のところ思い浮かびません。
もう1つの御質問は,地域の産業と大学の個性との相関でございます。本学はもともと農学部を擁している一方で,地域の基幹産業が産業連関表の特化係数から見ても,農業あるいは林業,水産業でございます。これは運命といいますか,歴史がつくり上げていった相関だと思っています。
したがって,我々が今後に向けて考えていかないといけないのは,歴史に基づいて,やはりナラティブに未来を考えていくシナリオかと思います。そういう意味で,今のIoPの技術,農業×DX,そして歴史,これをしっかり結びつけていくと,進むべき未来が明確に示されてきているのではないかと思っております。
そういうふうな考え方で,今,事業を進めているというところでございます。お答えになっておりますでしょうか。

【梶原委員】ありがとうございます。

【大野主査】ありがとうございました。
それでは,続きまして,柳原委員,お願いいたします。

【柳原委員】これまでの本強化委員会において,地域あるいは地方大学の特色を出すということで議論がなされてきた中で,今日初めて,主語は大学ではないという,すごく明示的な言葉を頂いて,非常に強く共感しております。
私自身は,地域の特有の課題を中心に置いて,それを地域社会あるいは住民の方々とともに解いていくということがやはり重要だと思っておりましたので,その主語は大学ではないというところが非常に共感いたしました。
そう見たときに,先ほどありましたように,人材ということ,予算もさることながら人材,そのときに,今日御紹介のあったコーディネーター人材,UBC人材の方々4名の方々,それと,それをまとめられている先生,そういった方々の構想力であるとか,前回も申しましたように,プロデュースする力がやはり非常に大事だと思うのですけれども,そこに関して,そういう人材をどのように教育するべきなのか,あるいは,どこかほかから確保すべきなのか,その辺りに関して,何か考えがありましたら教えてください。

【受田委員】ありがとうございます。
課題を中心に,そこから大学としてどう立ち向かっていくか,これを考えて,具体的にスキームに落としていく上で,コーディネーターの役割というのは,御指摘のとおり,極めて重要でございます。そして,そこからさらに地域の持続可能性を高めていくという上で,解決をするのみならず,新たな在り方をプロデュースしていく展開力も当然必要であるというふうに思っています。
私ども,このUBC4名に関しては,まず,この事業を進めるに当たって公募をいたしました。公募をするに当たって,県との連携の事業であったということもあって,例えば面接であったり,採用において,県の皆様の目をそこに頼りとしてお願いいたしました。そして,UBCに関しては,4名の多様性というところを重視しました。これも非常に難しいかじ取りがあったのですけれども,キャリアパスを考えていったときに,このコーディネーターは,研究をやれるのかやれないのかというようなところも相当議論し,悩みながら事業を進めてまいりました。
育成の部分へと話が展開していくのですけれども,例えば,産学連携学会等の現場をフィールドにした学会活動や、OJTによる様々な人材育成が考えられます。私どものところの地域連携の副学長をしている石塚悟史がその学会の会長を務めているのですけれども,ここでJSTの皆様と,例えば,目利き事業とか,目利き人材の育成であるとか,様々な教育プログラムも展開をしてこられました。こういう実績はOJTにおいて非常に意義が大きかったと思っております。
地域をくまなく課題として掘り起こし,そして人と人とがつながっていきますと,結果的に地域から学ぶことが多くて,その学びがOJTで人材の能力を向上させているという部分は非常に大きいと思っています。
最後にもう一言だけ付け加えますと,そこに自治体の職員が,研修の形で長期間集まるような姿も,今,具体的に起こりつつあります。こういった外部からも人が集まり,その外部の人材を含めたごちゃ混ぜの体制,つまり多様性が,コーディネーターやプロデューサーの人材育成のプラットフォームになっているのではないかというふうに私は思っております。

【柳原委員】ありがとうございます。私のイメージしていたところとかなり一致するというか,非常に共感を覚えました。ありがとうございました。

【受田委員】ありがとうございます。

【大野主査】ありがとうございました。
それでは,吉田委員,お願いいたします。

【吉田委員】ありがとうございました。地方創生という意味で,我々も同じ規模感の大学でありますので,極めて驚きましたし,羨ましい思いでいっぱいでございます。
3つほど質問させていただきます。
まず,先ほどの質問と少し関係あるのですけれども,これだけの事業をやるとなると,皆さん反対されるというか,抵抗勢力のことばかり言いますけれども,笛吹けど踊らずと,こういうことが起こり得ると思うのです。これだけうまくいくには,どのようなモチベーションをアップさせられたのか。それから,資金は県から全てもらっているのか。先ほど県からの職員との混合ということもありましたけれども,そこら辺のやり取りはどうなのかということと,これらの事業を通じて研究力強化につなげられていますけれども,学群の改編であるとかのことも言及されましたけれども,他学部とのバランス,職員のバランス,それから大学院生,博士課程がプラスしたのかどうか,あるいはビジョンとかということ,それから最終的には,75%が他県からの学生の配分ということでありましたので,その方たちがどれぐらい地元に残ってくれるのがエンドポイントなのかとか,そういうものがもしありましたら教えていただければ。

【受田委員】吉田先生,ありがとうございます。
いろいろ難しいところといいますか,取っかかりの部分は,抵抗勢力と言うべきなのか,なかなか私どもの思いに同調してくださらない方,あるいは,そういう雰囲気もあったかと思います。大事なことは,平成16年に法人化されて,当時の相良元学長,その後の脇口前学長,今の櫻井現学長,3人の学長が,地域の大学を標榜し,そして今,地域の大学のトップとして,また,それが世界モデルになるぐらいの勢いを目指そうということで,SRUという看板を明確にしているということが,そもそものところで重要なポイントかと思います。
大学が目指すべき方向を完全に目的地として明示し,例えば教員の公募においても,我々が目指している地域への貢献等に関心がある方という要件の中に1つ項目を立てています。大学組織がやろうとしていることに共感を持つ方々に集まっていただくという,長年やり続けている取組みは奏功しているのではないかと思っております。
そして,例えば,各学部や研究者へ波及させていくために,地域連携の部隊には,定期的に大学の全教員に,どれだけ関わりを持ったかということを調査しています。具体的には左側の縦軸に地域連携の全スタッフ,右側の横軸には全員の教員の名前を掲げて,関わったレベルと関わったポイントをそのマトリックスに落とし込んでいくというようなポートフォリオをつくり,どこを強化していかなければいけないか,あるいは,我々が目指す全体像はどうあるべきなのかということを可視化しながら地域連携を進めていっております。こういうところは,ある意味,見える化という部分で有効であり続けているというふうに思います。
資金に関しては,先ほどの福間先生のお話もありましたように,我々も,自立しなさいと言われ,何とか自立できるように、どういう資金をどこに投入できるか,ずっと苦労し続けているというのが実態です。
徐々にその活動がによる価値を地域の皆様に感じていただけると,民間の資金が入るようになってきています。例えば,FBCの受講も,当初は無料でしたけれども,今は20万から30万という,これ,個人でこれだけ出していただいておりますけれども,それだけの価値を感じていただけるようになりました。県の方からも,当然,その価値を認めていただいています。これがうまく回っていけば,SIBやPFSというような形になっていくのだろうと,それがさらに継続的にということになるのだろうと思います。
したがって,資金に関しては,呼び水として,国からの予算を我々はしっかり活用させていただき,自立するために,その価値を地域に広げていくということで,今のところは何とかなっているというところです。
それから,研究力と結びつけていくという話,他の学部,あるいはバランスの問題,先ほどの回答ともつながっていくことかと思いますけれども,総合知という部分でいろいろな分野の研究者に我々からアプローチを取り,関心を持っていただくよう働き掛けをしています。それによってその研究者の評価が高まる,つまり全体の評価システムとうまくつなげていければ理想的かと思っております。
ビジョンの話は,冒頭申し上げたとおりです。
最後の御質問です。私ども,県外から4分の3,学生が入学しております。この学生さんたちは,正味で見ますと,結果的に県外に出ていかれます。何とかとどまっていただけるような,地域に対する接点をより強烈に機会としては提供しようとしております。全学に普及,波及をさせるというのは,なかなか難しい面があります。しかし,先ほど申し上げた地方創生推進士に関しては,県外から入学してきた学生さんでも,相当な比率で高知県内に定着するような形も見られます。これも統計的に分かったことなのですけれども,どうも,75%の学生さんが県外から入学してきて,全員が東京に就職するわけではないのです。その75%の方々は,大体半分ぐらいは地元に戻っておられます。ですから,決して高知県に定着することが我々のゴールではなく,各地域の持続可能性へ貢献する人材を我々は育てている。この形も地域の中核の大学が,より一層力を合わせていかなければいけない部分ではないかなと思いつつ,できれば定着率を上げたいなと思っております。ありがとうございます。

【吉田委員】ありがとうございます。

【大野主査】どうもありがとうございます。
私の不手際で時間がすごく押してまいりまして,短く御質問,そして,お答えを,今の手が挙がっている藤井委員,小長谷委員のところまでお願いしたいと思います。
それでは,藤井委員,お願いいたします。

【藤井主査代理】御説明ありがとうございました。1つお伺いしたかったのは,おおむね10年スパンの取組をされていて,相当活発に地域との連携として数々の事業を立ち上げられていますが,この10年の間で,大学の組織能力といいますか,組織として事業全体を動かすには大学側も相当変わらなくてはいけなかったと拝察いたします。その中で重要だったことがございましたら,教えていただければと思います。

【受田委員】ありがとうございます。私が地方創生,地域創生に関わったときは,その担当の部署に専任の教員は1人しかいませんでした。事務スタッフの数も数人です。ここから事業を展開し,現在は40人規模になっております。これが組織として求める方向であるということに結果的になっているということが,大学組織のこの十数年の変化だと思っております。

【大野主査】ありがとうございます。

【藤井主査代理】ありがとうございました。

【大野主査】それでは,小長谷委員,お願いいたします。

【小長谷委員】ありがとうございます。すばらしい取組の御説明,ありがとうございました。
私からは,学内の他の領域を巻き込んでのガバナンスに関する質問です。先ほどポートフォリオだとか,評価だとか,チェックのシステムについてお話がありましたけれども,今,地域連携推進センターのホームページを拝見いたしますと,共同研究という仕組みがあって,これが他の領域からの,人文系を含むいろいろな学問の方々を巻き込んでいく,いい意味で巻き込んで,クリエィティブの場を広げていくことになって,いいガバナンスが機能しているのではないかなというふうに拝察しました。そこで,共同研究について,うまくいっているかどうかということを少し御説明いただければありがたいです。

【受田委員】御質問ありがとうございました。
共同研究自体は,学内において,より多くの分野の方々を巻き込もうという思いで当初から進めております。結果的には,その仕組みということよりも,課題がまずあって,その課題に対して,学内のコーディネーターが,その人脈をフルに駆使していきまして,分野にこだわらず,より広い範囲でチームをつくっていくというようなことを意識して進めているということが大きいと思います。
その加速化に向けては,先ほど御紹介したUBCがその地域の課題の最前線になります。ありとあらゆる分野でここが巻き込んでいくという機能を最大限発揮しているというふうに私自身は思っております。

【小長谷委員】ありがとうございました。

【大野主査】それでは,受田委員,どうもありがとうございました。

【受田委員】どうもありがとうございました。

【大野主査】最後の科学技術・学術政策研究所の佐伯所長からの御説明をお願いしたいと思います。申し訳ありません。佐伯所長,ぎりぎりになってしまいましたので,少し短めにお願いできればと思います。

【佐伯所長】はい,ありがとうございます。できる限り短く進めたいと思っております。
私からは,地域の状況だとか,大学の位置づけを理解する助けとなる俯瞰的な指標を見ながら進めていきたいと思っています。
地域の科学技術振興指針は2008年段階で全都道府県にありましたが,それは,その後,総合指針,あるいは産業施策の中の一部となっていくというような傾向が見られる背景がございます。
地域の状況について,まだ分析途中ではございますが,2018年の最新データをご紹介します。こちらを御覧いただきますと,研究開発費や研究者といった基盤的指標を見ますと,全般的には3大都市圏に集中しておりますが,大学の指標については,3大都市圏以外のところが健闘しているというのが見て取れるものでございます。地域の科学技術活動を大学が支えている状況がよく分かると思います。
こちらは地域指標の動態水準の総評でございます。こちらも分析途中でございますが,この期間において減少している部分が赤なのですけれども,この産学の連携のところを御覧いただきますと,ここだけはほぼ黒に染まっているということで,オープンイノベーション,大学の連携とのニーズの広がり,あるいは大学の連携への対応といったことがあり,こちらの部分が広がってきているのがよく見えると思います。
お手元で8ページの資料を御覧いただけますでしょうか。こちらは,負担源別の大学のグループの研究開発費を見たものでございます。こちらにつきましては,下から順に,赤が第1グループ,黄緑が第2グループというふうに上がってまいります。左下側にございます政府の負担分については,最近少し減っておりますが,第1グループのシェアが大きく,また額の伸びが大きいようすが見られます。第2グループまで含めて伸びております。上段の運営費交付金を含む自己資金のところを御覧いただきますと,逆に,第1グループ,第2グループが減少し,第4グループの拡大が見られるといったような状況が見られます。
次に,研究者を見たいと思います。こちらにつきましては,前回御質問があった博士課程の学生も含めた数値を用意いたしました。グレーが博士課程学生,赤が教員であり,フルタイム換算の数値を示しています。左上の第1グループにつきましては,2017年度では,教員が1,817,博士課程が3,305というのが,1大学当たりの平均値になります。その次の下の第2グループを御覧いただきますと,教員が739,博士が1,397。右上の第3グループでは,教員330,博士349ということで,教員と博士がほぼ同数になり,第4グループでは逆転するといった状況が見られ,大学の規模感,状況といったものが実態として分かりやすくなっているかと思います。
スライド10は個性ということで,前回御紹介したものと同じでございます。割愛させていただきます。あくまで論文の1つのデータで見たというものでございます。
こちらにつきまして,まとめは,今申し上げたことを示しています。都道府県の政策の流れとして産業振興総合計画等に科学技術が含まれていく方向性。地方圏の大学を含めて,産学連携は増加傾向であるということと,大学がかなり地方圏において重要な位置を占めていることが分かるということは思ってございます。
次は,大学の個性把握に関してのものでございます。特に今回,福間先生からの御紹介があり,かつ,手元に深掘り用のデータが整っていた金沢大学を対象としてございます。
まず初めに,大学の個性,どのくらいあるのかということを,金沢大学を含めた交付金の額が比較的同等である6大学を比較してございます。これはB大学が金沢大でございます。下のE大学と比較的形が似ておりますが,例えば,宇宙や植物が強いC大学ですとか,材料や物理に強みのあるF大学といったように,個性が非常に異なっているということが御覧いただけるかと思います。
ケーススタディとして,金沢大学を扱ったものが1つと,その後,大学の全体のものとして,論文の共著相手についても特徴が見えますので,それを御紹介したいと思います。
まず,金沢大学について進めたいと思います。こちらは,基となった大学ベンチマーキング2019の報告書の構成でございます。これはまた御参考いただけばと思います。
金沢大学のポートフォリオでございますが,まず,8分野において,論文数国内シェアを見たものでございますが,赤線が一番新しいデータということです。ただ,それでも2013年から2017年の平均値となります。金沢大学の場合,臨床医学,環境・地球科学,基礎生命科学,化学で相対的に高いシェアを持っています。これをトップ10%補正論文で見ますと,右の図でございますが,同様の傾向ではございますが,臨床医学のシェアが大きくなり,より強みが強調されているような印象でございます。
これをより細かな自然科学系19分野について分析したものでございます。
この19分野についての国内シェアを見ますと,左上方向の薬理学・毒性学,下の方向の臨床医学で特に高く,そのほかに,右下の方にあります地球科学,あるいは同じく左上の方の神経科学・行動学が続いてございます。
これをトップ10%補正論文で見ますと,少し形が変わりまして,下の方の精神医学/心理学と臨床医学,左上の方の分子生物学・遺伝学,神経科学・行動学で特に高くなっています。それに環境/生態学,地球科学が続き,薬理・毒性学がかなり低くなっているということが見える状況でございます。
これにつきまして,最近の2020年度までの動向も含めまして,論文の増減を見てきたものでございます。特に,このオレンジの整数カウントの論文数が非常に大きく伸びています。ただ,青の分数カウント,共著の場合,その部分を勘案したものでございますが,これはそこまでは伸びていないということで,他機関との共著が増えているということが伺えます。
この15年と20年の違いについて,大学の内部の組織のことも含めてミクロな視点から分析をしてみました。これは著書の所属情報を用いまして,右側の論文の分野に対して,左側の内部組織がどのように貢献しているかといった分析でございます。金沢大学には教育と研究の2つの所属がありますが,両方の複数の組織が関わられている場合には,各組織の貢献を案分して論文数を計上してございます。金沢の場合は,医薬保健系と理工といった大くくりとなっておりまして,その下の四角で囲われた全学組織・研究所といったものがございます。いずれにしましても,この大学の組織と論文分野とは複雑な対応関係を持っています。相対的に高い国内シェアを持ちます分野,臨床医学,環境・地球科学,基礎生命の論文には,多くの内部組織が関わっているということが読み取れます。
いずれにしても,この点について,より精緻な検討を行うためには,大学と共同作業しなければならないと思いますが,取りあえず論文のデータから見えてくるものがこの状況ということで,これは15年から2020年にどのように変わったかというのが次のページでございます。
2020年を御覧いただきますと,医薬保健,理工といった学部・大学院,教員組織のシェアが14.5ポイント低下しております。全学組織・研究所,この四角に示しましたシェアが9ポイント増加しております。この全学組織・研究所の活動の高まりとともに,より複雑な構図になってきておりまして,より多くの組織が各分野に関わってくるというような姿となってございます。これはあくまでシェアでございますので,先ほどお見せしましたように,論文としては全体が伸びている中で,シェアがこの全学組織・研究所といったところで伸びているというものでございます。
これは科研費の採択課題につきまして,金沢大学の部分について,キーワードの共起ネットワーク分析を行ったものでございます。赤色が強いものほど3年間でよく出てきているワードとなりますが,WPIのご説明の中にあった原子間力顕微鏡などの部分,こちらにつきましては,左上の赤いクラスターと,右下の赤いクラスターとして出てきております。そのほか,がん,再生医療等の医学について,広範な領域が見られるということと,考古学といった特徴もあるわけです。
次に,少し視点を変えまして,共著相手からの特徴という意味で,国際共著率が高いところ,研究機関等の共著率が高いところ,産学共著率が高いというところで,それぞれ特徴が出てきているかと思います。
これがどういう結果を及ぼすかということを少し論文から見たものが次のページでございます。注目度の高い論文の割合,いわゆるQ値の相関を取ってみたグラフでございますが,国際共著論文率が高いとQ値が高い。注目される論文の割合が高いという正の相関がみえています。青が日本ですが,イギリス,ドイツでも同様の傾向が見えています。
右の部分は産学共著論文でございますが,こちらについては,むしろ負の相関となってございます。企業の共同研究や特定の課題に集中した案件が多いと考えられ,引用が低くなるということになるかと思います。また,そもそも論文として,広く公開することになじまないものもありますので,産学連携は論文の被引用数という物差しで評価すべきではない含意もあるかと思います。
日本の大学に注目しますと,公的機関部門との共著論文の割合が高いとQ値が高い傾向もございます。公的機関との連携が注目度の高い論文産出という副産物に関わっているということが読み取れるわけでございます。
以上の点をまとめたのが次のページでございますが,こちらは割愛させていただきます。
最後に地域貢献という観点でございますが,こちらは受田先生の御紹介などを見て,私どももいろいろ試したかったのですけれども,現状ではデータがありませんので,ここについては次のページに,私どもが,こういうデータがあったらなということで議論して出てきたものを示してございます。
個別大学と地域とのつながりを見るためには,相当細かな大学ごとの状況を見て把握していく必要があると認識していますが,そこについては,なかなか調査が行き届いていないという状況でございます。
先日,岐阜大学を訪問した経験から,例えば地域による大学への投資といった,まさにステークホルダーからの投資といったような項目があるかと思います。
人材供給にも非常に広い範囲で考える必要があると思います。これらのデータは,基本的には,各大学,地域での調査が必要になるかと思いますが,私どもで調査を行う可能性も含めまして,引き続き,所内でも検討していきたいと考えています。
すみません。少し早くなってしまいましたが,以上でございます。ありがとうございました。

【大野主査】佐伯所長,どうもありがとうございました。私の不手際で,十分な御説明の時間が取れずに申し訳ありません。
非常に示唆に富むデータを見せていただきました。もう全然時間がございませんので,まだ御発言をしていらっしゃらない方で,御質問があれば,お受けしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。
伊藤委員,いかがでしょうか。

【伊藤委員】NISTEPの精緻な解析にいつも敬意を表しております。結局のところ,地方大学がどのようにほかのメジャー,つまり,第1グループ,第2グループ,第3グループ,第4グループの連携みたいなことが何か分かるところはあるのでしょうか。その連携に基づく発展みたいなものが何か分かるかというのが私の質問です。

【大野主査】佐伯所長,いかがでしょうか。

【伊神センター長】これは分析を担当しております伊神から回答いたします。
実は,第1グループの大学も,かなり他のグループとの共著などもしております。日本全体を見ると,国内での共著がも多いですから,やはり第1グループが第1グループだけで論文を作っているというわけではなくて,大学間の共著というのもかなり大事になっています。そういう意味では,日本の研究力という意味では,全体としてどう底上げをしていくかというところは大事なのかなというのが分析からは見えていると思います。

【大野主査】ありがとうございました。
山本委員,いかがでしょうか。

【山本(進)委員】福間先生に関連してよろしいですか。

【大野主査】はい。今,全般をお受けしたいと思います。お願いします。

【山本(進)委員】WPIも,それから研究教育拠点事業においても,継続性というのは非常に大きな問題です。どの拠点,どのWPIも,これについては非常に悩んでおられるということで,その解決策として,省令による研究所化,いわゆる中期目標・中期計画の別表に載せていく,それから,複数の大学で運営するとか,解決の方法がありますので,これはまた改めて,時間がありませんので,議論できる場があればと思っております。
それから,研究力強化に関わるところでは,研究力強化と人事制度の関係,この辺のところがどうなるかというふうなことも,福間先生がテニュアトラックの1回目と,金沢大学,つまり,テニュアトラック制度が,絶対的任期制とテニュアトラック制との功罪というふうなことも評価ができるほど,20年ぐらいたっておりますので,できるのではないかなというふうに考えております。
コメントです。時間がありませんので,余計なことを言う誤解を生む可能性もあるのでこれで終えます。

【大野主査】御配慮いただいて恐縮です。どうもありがとうございました。
今日の御議論はこれで終わらせていただきたいと思います。私ども,大学研究力強化委員会をやっていますけれども,大学の研究力の多様性,それをどう測定していくのか,さらには,一過性にしないということと固定しないでダイナミックにやっていく両方の意味での持続可能性を仕組みの中にどう入れていくかということが,非常に大きな私どもの課題になろうかと思います。
本日頂いた御意見を事務局において取りまとめていただいて,次回以降,さらに議論を深めたいと思います。今日は時間が限られておりましたので,また何かありましたら,事務局までおっしゃっていただければと思います。
それでは,本日の大学研究力強化委員会は,ここで閉会とさせていただきたいと思います。
最後に,事務局からお願いいたします。

【小久保調整官】失礼いたします。事務局でございます。
本日はありがとうございました。また,時間が遅くなってしまって申し訳ありません。本日,科政研の佐伯所長の御説明も含めて,御発言,御質問できなかったことがございましたら,事務局までメールで御連絡いただくようお願いいたします。
また,本日の議事録につきましてですけれども,運営規則に基づいて公表させていただきますので,事務局にて案を作成の上,後日,皆様に御確認をお願いさせていただきますので,よろしくお願いいたします。
次回の委員会につきましてですけれども,4月以降の開催を予定しております。日程調整を含めまして,詳細については追って御連絡をさせていただきます。
事務局からは以上でございます。

【大野主査】それでは,本日,御発表いただきました福間委員,そして受田委員,佐伯所長,どうもありがとうございました。私の不手際で十分な議論ができませんでしたけれども,これからもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは,今日はこれでこの委員会を閉じたいと思います。皆様,どうもありがとうございました。

―― 了 ――

 

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