令和7年11月10日(月曜日)10時00分~12時00分
オンライン開催
佐伯部会長、合田部会長代理、有馬委員、小泉委員、小板橋委員、品田委員、前田委員、畑中委員、松尾先生、髙野委員
研究振興局基礎・基盤研究課長 中澤恵太、研究振興局基礎・基盤研究課 課長補佐 相川美紗、研究振興局基礎・基盤研究課 融合領域研究推進官 葛谷暢重、研究振興局基礎・基盤研究課 専門職 金澤洋平
国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー 菊地乃依瑠
【佐伯部会長】 それでは、定刻となりましたので、ただいまより、第20回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を開催いたします。
本日の会議ですけれども、本部会運営規則に基づき、公開の扱いといたしますので、御承知おき願います。
まず、事務局より、本日の出席者と議題の説明などをお願いいたします。
【葛谷推進官】 本部会の事務局を担当しております、文部科学省基礎・基盤研究課の葛谷でございます。よろしくお願いいたします。
本日の委員の出席状況につきましては、現時点で14名中10名の委員の方に御出席いただいており、定足数を満たしていることをお伝えいたします。なお、髙野先生は遅れて参加いただく予定でございます。また、加藤委員、齊藤委員、原委員におかれましては、本日御欠席の御連絡をいただいております。
本日は、議題(2)の関係で、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター、いわゆるJST/CRDSより、科学技術イノベーションユニットのフェローの菊池乃依瑠様にも御出席いただいております。
続いて、資料の確認でございます。資料は、議事次第の配付資料の一覧にある資料を事前にメールにて送付しておりますが、欠落等ございましたら、画面越しに手を挙げ、申し出ていただければと思います。
よろしいでしょうか。
続きまして、本日の議題について、説明させていただきます。
事務局の中澤課長より、よろしくお願いいたします。
【中澤課長】 おはようございます。本日も、基礎研究振興部会、よろしくお願いいたします。
本日、議題は2点ございまして、1点目はグローバル・コモンズの持続可能な保全に向けた展開ということで、こちらについては、文部科学省のほうで、理化学研究所と共同で、このテーマについて、今後の研究開発の方向性について議論をしてきた案件がございます。そちらについて、本日御紹介させていただいて、皆様から御意見をいただければと考えてございます。
2点目は、欧米の研究評価の動向についてということでございます。前回の基礎研究振興部会で髙野先生から、英国を中心に研究評価の動向を御紹介いただきました。今回は、CRDSからもう少し幅広く諸外国の状況ということの話を聞いた上で、引き続き、日本に対する示唆というようなところについて、先生方から、ぜひ御意見をいただければと思っております。
以上です。
【葛谷推進官】 ありがとうございました。
事務局からの説明は、以上でございます。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
それでは、議事に入りたいと思います。まず、議題(1)、グローバル・コモンズの持続可能な保全に向けた展開です。こちらですけれども、事務局より発表いただきます。御発表後、委員の皆様より御意見を頂戴できればと思います。
それでは、事務局より御説明をお願いします。
【金澤専門職】 本部会の事務局を担当しております、文部科学省研究振興局基礎・基盤研究課の金澤です。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
基礎・基盤研究課より、資料1を用いまして、参考資料1、グローバル・コモンズの持続可能な保全に向けた展開に関する研究会の報告書について、御説明させていただきます。
理化学研究所においては、今年度の事業計画より、グローバル・コモンズの維持・保全という地球規模課題の解決をミッションの一つとして推進しているところでございます。それに先立ちまして、令和7年1月より、本研究会を、省内の関係課長と理研の関係部局長をメンバーとして、新たな研究プロジェクトと横連携の仕組みを検討しておりまして、これまでに計5回実施してきております。その過程の中で人類社会にとってサイエンスの持つ意義という点に議論が及ぶものになりまして、令和7年9月に本研究会の報告書を取りまとめました。この報告書の中からその点を抜粋して、本日、御説明させていただきたいと思います。
スライドの2枚目をお願いいたします。
本日は、スライド2枚目の目次のとおり、地球システムの危機と社会の分断、Society5.0の実現に向けた総合知の実践、理研を中核とした取組、グローバル・コモンズ研究会報告書概要という順番で、御説明いたします。
3枚目をお願いいたします。
地球システムの危機と社会の分断。左上の地球の図の解説をいたします。まず、地球環境の歴史としましては、過去約1万2千年にわたって安定していた完新世という地質的な時代の中で、これまで人類は比較的安定して繫栄してきました。しかし、1950年代を境に人類の経済・社会活動が飛躍的に活発になりまして、地球システムは現在、これまでの安定的で回復可能な状態から、不安定な状態へのtipping point(臨界点)に位置している可能性があるというものでございます。図は、将来、赤い安全でない(Unsafe)な未来へ進むか、緑の安全で公正な未来に進むかの瀬戸際にあるということを可能性として示唆したものでございます。
右隣のプラネタリー・バウンダリーでございます。こちらは、人間が地球上で安全かつ持続的に活動していく上で超えるべきではない地球環境の境界を定量的に示した、概念を示すものになります。地球システムを、気候変動、生物多様性など、九つの領域に分けて、その状況を可視化したものでございます。重要なことは、九つの領域は互いに複雑に相関しているということ、人間の経済・社会活動とも相関があるということ、そして、九つのうち六つが限界を超えてしまっているということです。最新のプラネタリー・バウンダリー2025では、九つのうち、新たに海洋酸性化を加えた七つが限界を超えたと、報告があります。人類の共有資産である安定的でレジリエントな地球システムを、グローバル・コモンズ、すなわち国際公共財として捉え、これを維持・保全していくことが地球規模で取り組む喫緊の課題となってございます。
下の図でございます。他方で、世界情勢は混乱し、複雑化しており、社会の分断が進んでおります。世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2025によると、誤情報や偽情報の流通や再生産が今後2年間で最も重視すべきリスクとされております。
続いて、スライド4枚目をお願いいたします。
このように複雑に絡み合う社会状況・国際状況が変化する中で、グローバル・コモンズを保全し、地球の安全な未来のために、我々に何が必要か。第5期科学技術・イノベーション基本計画では、Society5.0を掲げ、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を目指してきました。さらに、第6期科学技術・イノベーション基本計画では、Society5.0の未来社会像を、「持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会」として、これを目指してきました。テクノロジーは本来、物理的な距離や国境の壁を越えて、人々が共感・コミュニケーションを持つための道具であったはずです。しかし、現在、デジタル技術は、人々の見たいものだけを見る、すなわち分断を加速させる道具にさえなっている部分は否めません。様々なバイアスで情報がゆがみ、科学が軽視される傾向もございます。本研究会では、科学がよりよい世界の礎となるための進むべき道として、左下にございます、世界の共感性を取り戻すために、改めて科学の持つ普遍性をベースにできないかという提案。そして、その具体的かつ最重要な事項として、かけがえのない地球と普遍的な科学を人類・生命の共有の財産、すなわちグローバル・コモンズとして捉えて、将来に向けて維持・保全していくべきという提案をしてございます。
右側は、その具体的な処方箋として第6期基本計画で掲げられた、総合知の実践を示してございます。第6期科学技術・イノベーション基本計画では、左側で示したような目指すべき社会像を実現するために、総合知による社会変革が必要とされてきました。しかしながら、複雑に絡み合う社会状況の変化、組織と人の横連携の不足、総合知を生み出すモデルケースの不足などにより、総合知は形骸化のおそれもございます。グローバル・コモンズの持続可能な保全に向けた展開では、いま一度、この第6期科学技術・イノベーション基本計画で示された総合知にも着目しまして、基礎科学とシステム科学の連携促進や多様な英知の結集を進め、総合知のモデルケースの創出を図ってまいります。
スライド、5枚目です。理念的な話が続きましたが、5ページ目は、その具体的な取組である、理研を中核とした、ドイツ・ポツダム気候影響研究所(PIK)、東京大学との3者連携を示したものです。中央の黄色い背景部分が示すように、理研は基礎科学と計算科学を、PIKでは地球システム科学を、東京大学では人文・社会科学など、それぞれの強みを生かしつつ、連携を図る予定でございます。既に、令和7年7月に3者協定を締結してございます。具体的には、グローバル・コモンズの維持・保全に向けて、将来シナリオの設計をしながら、それを計算シミュレーションしていく。さらには、そのシナリオを実現するための介入技術の研究開発を行っていきます。加えて、人類の行動変容を含めた経済・社会システム検討・研究、こういったことをこれから複合的に具体的に進めていく考えでございます。
例えば、理研では、「富岳」、バイオリソース、人工気象設備や全自動植物表現型解析システムなどを活用しまして、自然環境に介入する技術開発、エネルギーの生産・利用に介入する技術開発、ESG等の社会活動の影響予測、そして、環境資源の評価基盤の確立なども進めていく予定でございます。これらの研究データや科学的知見をPIKの統合評価モデルと連携することでモデルの拡張を図り、トレードオフや資源の競合の少ない、望ましい将来シナリオを見いだしていきます。さらに、望ましい将来シナリオに移行するために不足している部分を基礎研究へフィードバックさせることで、基礎科学とシステム科学を循環させる体制を構築してまいります。これらの連携研究を具体的に進める上では、東京大学も橋渡しとなり、基礎科学とシステム科学の連携を促進させまして、倫理的・法的・社会的側面のELSIやRRIの観点からも検討していく予定でございます。さらに、社会へ展開をしていく上では、経済界や国際的な議論の場にもつながりのある、東京大学やポツダム気候影響研究所と連携していくことで進めてまいる予定でございます。
続いて、スライドの6枚目でございます。こちらは、今回、画面投影のみとさせていただいておりますが、こちらの画面投影の資料で別途御説明させていただきたいと思います。先ほど申し上げたとおり、理研では、自然環境に介入する技術開発、エネルギー生産・利用に介入する技術開発、ESG等の社会活動の影響予測、環境資源の評価基盤の確立などを進めていく予定でございます。
まず、一番上にありますのは、環境資源の評価基盤の確立でございまして、主に、計算科学、経済学、地球システム科学などが連携いたします。サブ課題1と書いてあるとおり、PIKはマクロ経済モデルによる気候変動の社会的損害コスト評価を行いまして、理研のほうでは、R-CCS(理化学研究所計算科学研究センター)が主となってミクロ経済モデルによるサプライチェーンリスクの評価を進めてまいる予定です。
続いて、自然環境に介入する技術開発でございますが、中段左側の緑色の範囲でございます。バイオ系の基礎科学と計算科学と地球システム科学などが連携いたします。サブ課題2の通り、ケミカルプライミングを活用しまして、耐高温性、耐乾燥性、耐塩害性のあるレジリエントな植物の研究などを進めてまいります。ケミカルプライミングとは、ストレスが発生する前に植物を化合物処理することで、植物が持つストレス耐性機構を活性化し、ストレス耐性を付与する技術を指します。CSRS(理化学研究所環境資源科学研究センター)では、既にエタノールによる植物・作物の乾燥・高温・塩害ストレス耐性付与効果を世界に先駆けて発見しておりまして、各種メディアでも既に取り上げられておりますが、この最適化などの研究に取り組んでまいります。また、気候モデルの高度化などにも取り組みます。
右隣のサブ課題3では、ゲノム科学からもアプローチし、レジリエントの強化に関する遺伝的因子を特定し、研究を進めます。最新の成果では、2025年にコムギなどの温帯性草本に長期間の高温ストレスが加わると鉄欠乏に陥ることを発見しまして、鉄吸収に関わる特定の遺伝子が高温環境下での生育維持に重要な因子であることを突き止めております。これらの植物研究では、CSRS、BDR(理化学研究所生命機能科学研究センター)、BRC(理化学研究所バイオリソース研究センター)、R-CCSなどが連携いたします。また、高機能人工気象設備や全自動で実験データを取得することが可能な設備を用いまして、研究効率を飛躍的に向上させる計画でございます。
課題4では、主にCSRSとBRCが土壌バンクリソースの標準化技術開発や土壌微生物データからの環境情報解読技術の開発を進めていく計画でございます。
続いて、中段右側の紫色の領域でございますが、エネルギーの生産・利用に介入する技術開発でございます。バイオ、物質・材料系の基礎科学と地球システム科学などが連携いたします。サブ課題5のとおり、CSRSやIMS(理化学研究所生命医科学研究センター)が主となりまして、グリーン水素製造技術開発も進めてまいります。
最後に、一番下側でございますが、サブ課題6のとおり、iTHEMS(理化学研究所数理創造研究センター)などが主となり、数理・計算科学により、ESG等の社会活動の影響予測を進めていく計画でございます。
ここで、余談ではございますが、11月7日に閉幕したCOP30の首脳級会合では、2035年までに水素や植物由来のバイオ燃料などの生産・利用量を2024年比で4倍以上に拡大する行動宣言に、議長国ブラジルが日本やイタリアと共に提案し、日本を含め19か国が支持を表明したとされてございます。本研究プログラムはまさにこの宣言の取組にも貢献できる研究内容となっておりまして、組織内外の横連携や、多様な知を連携させることで、望ましいシナリオへの移行・介入や複数のシナリオ提示など、地球規模課題解決に取り組んでいく計画でございます。
最後に、スライドの7枚目をお願いいたします。
こちらは、本研究会の報告書の概要となります。報告書本体は参考資料1につけさせていただいておりますが、今回の説明を抜粋版とさせていただきまして、報告書本体の詳細な説明は割愛させていただきます。重要なところとしては、下段のほうの赤囲いですが、科学に立脚した取組を支える基盤となるバイオリソースを維持管理・高度化していくためのさらなる研究機能強化が必要とされてございます。
また、5ポツ目でございますが、研究会としては、この3者連携にとどまらず、日本国内のほかの研究機関や大学等において取り組まれているグローバル・コモンズの保全につながる研究開発を、効果的に連携、必要に応じて相互に補完し合うことで、より一体的かつ効率的に進めていくこととしてございます。さらに、本取組のような様々なアプローチは第6期科学技術・イノベーション基本計画で掲げた総合知を実践する取組の一つでもあり、具体的な方策を講じながら、これを今後進展させていくこととしてございます。
以上で、私からの御説明は終わりたいと思います。ありがとうございました。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
それでは、以上の説明に関しまして、委員の先生方から御意見等ございましたら、よろしくお願いいたします。挙手ボタンを押していただければと思います。
御質問等、ございませんでしょうか。画面越しに手を挙げていただいても構いません。
【松尾委員】 すみません。ちょっとフリーズしてしまっているので画面越しに手を挙げることができないんですけれども、よろしいでしょうか。
【佐伯部会長】 松尾委員でしょうか。
【松尾委員】 はい。ありがとうございます。
【佐伯部会長】 よろしくお願いします。
【松尾委員】 簡単なコメントになります。
大変重要な問題についての御説明、どうもありがとうございました。御説明の中でも、例えば、5ページ目にあるように、東大と連携しながら、社会科学的側面からの、ELSI、RRIの検討についてもおっしゃられたので、基礎科学と社会との連携も重視しながら社会構造の変容を推し進めていくことの重要性も十分に認識されているのだと思うのですが、改めてコメントしておきたいと思います。こういったプラネタリーヘルスも関わるような、非常に大きな地球システムの存立を危機に脅かすような大きな問題に対応していく際には、科学的、あるいは技術的な対応だけでは問題解決をすることはすごく難しいと思います。複雑に絡み合った、様々な社会要因、その様々なトレードオフ、それから、分断の話もございましたけれども、そういった要因といったものは、やはり社会科学的な観点からの分析も非常に重要になってくるかと思います。科学的なエビデンスに並行して、人文・社会科学の研究もこういったところにしっかりと入れ込んでいっていただき、それによって本当に社会が良い方向に移行していくトランジションを起こすことが重要となるかと思いますので、そのような観点を常に心に留めておいていただければというふうに思います。よろしくお願いいたします。
【佐伯部会長】 コメント、どうもありがとうございました。
それでは、引き続きまして、小板橋委員、よろしくお願いします。
【小板橋委員】 ありがとうございます。大変大きな話だとは思うんですが、そもそもなんですけど、隗より始めよという言葉もあるかと思うんですが、理研や東大はカーボンニュートラルを達成しているのでしょうか。地球規模の課題解決のために「富岳」とかを稼働させて電力を大量消費して大丈夫なのかなって、すごく思うんですよね。まずは理研や東大がカーボンニュートラルというものがどういうものかというのをやるとか、あと、バイオリソースを利用したり、ケミカルプライミングとかで耐性のある植物とかいうお話が出ましたけど、そういう研究って今までもさんざんやってきているはずで、それが実用化されないのって、規制がいろいろあるからだと思うんですよね。その規制が何ら変わらない状態で新しい基礎研究だけやっても、結局、実用化に行かないのではないかなと。あと、化学物質絡みのものでも、生分解性の高いもの、プラスチックもそうですけど、去年ですか、海水で分解するプラスチックを理研のほうで開発されてたりしていると思うんですが、既に生分解性プラスチックというのは実用化されているわけですよね。ただ、それが広く普及しないのは、コストとか、科学の領域を超えたところが関与しているから普及しないわけで、基礎研究を一生懸命やっても、結局、ボトルネックになっているところはそこじゃない部分も非常にあるように思いまして、あと、水素っておっしゃっていますが、もう既に、バイオエタノールって、さんざんやっていますよね。何でバイオエタノールじゃなくて水素なのかというのもよく分からないんですけれど、既存のものをなかったことにしているような気がして、既存のものがうまくいかないのはなぜかの解析がなく、基礎研究ばっかりやっても、やっぱり出口で詰まってしまうんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。
【佐伯部会長】 どうも、貴重な御意見、ありがとうございます。
事務局のほうから、何か、特にコメント等ございますか。
【金澤専門職】 貴重な御意見、ありがとうございます。まず、今回の植物研究をやっているところについてでございますが、複雑に絡み合うプラネタリー・バウンダリーを考えたときに、土地の改変だとか、そういったところというのが非常に進んでいまして、COP30でもアマゾンの森林伐採なども注目されておりますけれども、農業が土地の改変を進めて、それが気候変動にも、いわゆるこれまでは二酸化炭素の吸収源だったものがそうでなくなっていくと。そういったところを考えたときに、まず、農業の在り方とかも考えて、また、農業にアプローチすることで、農業を進めるための伐採だとか、土地の改変を抑えるといった概念もございまして、植物レジリエンスを強化することで、新たな土地の改変を行わずしても将来の気候変動がさらに進んでいった中で、強い植物というのを研究することで土地の改変を抑えていくというアプローチも、一つ視野にございます。
【小板橋委員】 それは分かるんですけど、いろんな研究をされているのは分かるんですが、ただ、それを実用化するときに、例えば、ケミカルプライミングというのは遺伝子組換え作物に該当するのか、しないのか。該当したときに、今、規制の状態がどうなっているのかとか、そういうところまで見据えないと、結局、実用化まで行かないんじゃないかなということです。
【中澤課長】 事務局、基礎・基盤研究課長の中澤です。小板橋先生、どうもありがとうございます。まさにそういった辺りの社会シナリオのほうですかね。科学シナリオというよりは、社会・経済シナリオとセットでやっていく必要があるなあというところもあるので、今回、この3者連携という中、あるいは総合知という中で、先ほど松尾委員からもありましたが、社会科学系の先生方、それから、ポツダム気候影響研究所のほうとも連携して、そういったところに、いろんなトレードオフとか、技術にしても、どの技術を使った場合はこういうことが起きてというところもセットでやってまいりたいと思っております。
それから、小板橋先生がおっしゃった隗より始めよというところは、全くおっしゃるとおりで、非常に重要だと思います。組織単位でまずはやってみて、ここは改めて当たり前に難しい、といったところは大事だと思っております。
ちなみに、理化学研究所は基礎・基盤研究課の所掌でもありますので、いくつか話せる範囲でということであれば、今、いろんな研究機器を導入する際にはライフサイクルアセスメントみたいなこともやっていまして、それが全体を通じてどのぐらい、環境に対する影響だったりとか、あるいは電力消費というようなところをアセスするような形を導入して検討しておりますし、あるいは、電力消費は本当に大きい部分があるんですが、併せて、そこで省エネ型のデバイスをどういうふうに組み込むかというのは、当然中身に入れております。それから、東京大学に関しては、公開されているデータで私が把握している範囲では、今、東京大学のほうでも、電力をどこから調達しているかというところも含めて、そういったところのアセスもされていたのではというふうに記憶しております。いずれにしましても、まず、組織単位でやってみるという、隗より始めよの部分をやることで、研究開発の方向性に対しても示唆があると思っておりますので、大事な取組だろうというふうに感じております。
【佐伯部会長】 御説明、どうもありがとうございました。
【小板橋委員】 ありがとうございます。
【佐伯部会長】 それでは、続きまして、合田委員、お願いいたします。
【合田部会長代理】 合田です。御発表、ありがとうございました。
一つ、植物とか、土壌とか、環境システムをよりよく改変するという点についてお伺いさせていただきたいのですけれども、どのぐらい汎用性があるものか、何をターゲットにされているのかというところが、ちょっと読みづらかったです。生物の介入、レジリエンスの高い植物、あるいは土壌の改変といっても、世界中、ところどころ、いろいろな場所によって、それぞれニーズが異なると思います。植物にも様々な植物があると思うし、土壌とかもかなり違うと思います。その辺をどこにどのようにして絞って研究を進められていくのか、少しコメントをいただければと思います。
【佐伯部会長】 事務局のほうから、何かありますでしょうか。
【金澤専門職】 参考でございますが、まず、ケミカルプライミングによる植物レジリエンスの研究のターゲットの一つとして、例えば、ブラジルのサトウキビだとか、東南アジアのキャッサバのレジリエンス強化につながる研究を進めるというのも、一つテーマがございます。例えば、先ほど出た持続可能なバイオエタノールの燃料を進めていく上で、人工気象設備を用いまして、将来の気候変動が進んだ環境でも、強靱な植物だとか、例えば、サトウキビなどの最適なケミカルプライミングの技術というのはどう達成されるのか、どんな条件だったら最適化されるのかというのを進めて、事前に未来の気候変動に備えた研究を行っていくというのも、一つございます。
もう一つ、土壌微生物については、まだ、土壌バンクリソースの標準化技術だとか、環境情報を解読する技術などが整備されていませんので、まず、そもそもの基礎研究を日本で始めるということで計画を考えてございます。
【合田部会長代理】 よく分かりました。ありがとうございます。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
では、続きまして、有馬委員、お願いいたします。
【有馬委員】 御発表、どうもありがとうございました。初めに、お二人の先生が指摘したのと同じで、まず、社会システムが大事だという、それはコメントしておくとして、個別の話で言うと、プラネタリー・バウンダリーで窒素とリンの循環に関してバウンダリーを超えているという話がありましたけども、多分、日本で問題なのはリンの循環が全然できてないということだと思うんですが、これに関しては、恐らく、今お話しになった理研と東京大学、特に理研はむしろ専門的なこともできるかなあと思うんですけども、どういう計画になっているのかをちょっと教えていただければと思うんです。
【佐伯部会長】 事務局のほうから、何かお答えいただけますでしょうか。
【金澤専門職】 いただいた御意見、ありがとうございます。窒素とリンについても、先ほどと話が重複してしまうんですが、植物レジリエンスの強化というところがとても重要になってございまして、ケミカルプライミングだとか、ゲノム編集など、植物レジリエンスに係る研究を進めることで、窒素やリンを使わずしても植物の成長を促進させるような研究を進めるという狙いもございまして、もちろんそこは、土壌の微生物だとか、そういった研究も一体的に進めることで、窒素やリンの削減といったことも進める研究は計画にございます。
【有馬委員】 使用量を少なくするというのは分かる一方で、当然、DNA、RNA、要するに細胞1個ずつにすごいたくさんリンが入っていて、特に日本の場合、廃棄物で燃やしている分があって、燃やすとその中に含まれている細胞の分は全部、どんどんなくなっていくのは確実なので、そこも踏まえやらないとどうにもならないのではないかなと。これはコメントなので、ぜひ、今後、御検討をお願いしたいと思います。
それから、科学技術と別に、インセンティブをつけるという意味での、金融にどうアタックするだとか、法律をどう変えていくかとか、そういう文部科学省の所掌じゃないところのお話もいろいろと政府単位で考えていただければというか、政府がというより、我々も含めて全員が考えなきゃいけないかなということは思っていますので、ぜひ、よろしくお願いいたします。
以上です。
【佐伯部会長】 コメント、どうもありがとうございました。
では、続きまして、品田委員、お願いいたします。
【品田委員】 ありがとうございます。非常に重要な取組だと思って、感心して伺いました。
ドイツ・ポツダム気候影響研究所との連携、理研と東大の連携はすばらしいと思ったんですけれども、資料1の5ページまでは総論的な話で、今日、各論で見せていただいただけのスライドで、WP1とWP4というのは大所高所からのやるべきことだと思ったんですが、WP2とWP3に関しては急に非常に具体的なテーマになってしまっているので、これを選んだ必然性といいますか、その辺を、この短い時間では説明し切れないということだと思うんですけれども、もう少し納得性を持って、この研究チームだとこれが今は最適なんだというのがもう少し分かりやすく提示されると、この取組の適切さがより伝わってくると思いました。逆に言うと、WP2とWP3は何で急にこういうところに絞り込まれたんだろうなと疑問に感じたんですが、何かコメントございますでしょうか。
【佐伯部会長】 ありがとうございます。
事務局のほうは、何かコメントはございますでしょうか。
【金澤専門職】 貴重な御意見、ありがとうございます。WP2とWP3の植物レジリエンスと水素についてでございますが、まず、植物レジリエンスの強化に関する研究を進める狙いとしましては、複雑に絡み合うプラネタリー・バウンダリーを考えた際に、まず、気候変動が大きな地球システムに影響を及ぼす内容になっていまして、それがその次に大きな相関があるかというと、土地の改変だとか、生物多様性だとか、そういったところが大きな因子になっていまして、気候変動だけをターゲットにしてもトレードオフが生じてしまうので、まず、植物レジリエンスの強化というところを、土地の改変を食い止めたりとか、生物多様性を食い止めたりというトレードオフを考えた際に、この研究テーマにしているものと承知しています。
水素については……。
【品田委員】 途中で遮ってしまって、申し訳ございません。ボトムアップで、このテーマの重要性とか、なぜこのテーマをやるべきなのかというのは、これまでの御質問に対する回答でも納得性あります。ただ、私が言いたかったのは、ほかにもやるべきテーマが山ほどあると私は思うんですけれども、その中でこれを選んだ理由というか、このチームではこれが最適であるという、選んだ根拠というのが知りたいなと思って。多分、いろいろ難しいと思いますし、今、このテーマが重要だという御説明はとても納得いきますし、WP3に関しても、必要だということは、私も理解しますし、多分、多くの方がそう思われると思うんですけども、プラネタリー・バウンダリーを超えちゃっている、臨界点を超えちゃっているという、円のチャートがありましたよね。その課題には山ほどたくさんやるべきことがあると思うんだけれども、この二つは日本でこのチームがやるべきであるというところの、選んだ根拠みたいのが一つあるとすごく説得力が増すなというふうなコメントをさせていただいたということで、御理解いただければと思います。
【金澤専門職】 貴重な御意見、ありがとうございます。今回、理研の植物レジリエンスの強化とグリーン水素製造技術というのは、理研の中で研究内容としてはすごく強みのある部分でございまして、例えば、微生物なんかのバイオリソースなども既に整備されてございますし、植物関係も既にバイオリソースとして整っております。ましてや、「富岳」などを連携させることで、ある意味、これからやろうとしていることというのは、大量にデータを取得する、つまり、これら理研の強みである「富岳」やバイオリソースを用いながら有機的に連動させて、まだ得られていないデータというのを分析して新しいデータを取っていくというところが、とても強みがあると考えてございます。
【品田委員】 ありがとうございます。まさにそういうことじゃないかなと私も思いながら聞いてたんですけど、理研の強み、このチームの強みはここにあって、世界的にもトップで研究をしているというところも、もっと主張に入れたらよろしいんじゃないかなというふうに思った次第でございます。ありがとうございます。
以上です。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、小泉委員、お願いいたします。
【小泉委員】 小泉です。御説明、ありがとうございました。
今の品田先生の御意見とかなり近い意見なんですけれども、今見えているページもそうなんですが、ボトムアップでどういう研究をやるかというよりも、この取組をすると日本がいかに世界の中でリードできるかというところを文科省としてはぜひ考えて、研究サイドがボトムアップで研究を組立てていくのは当然だとしても、文科省サイドとしては、それを単に組み合わせて一つの大きなプロジェクトにするというだけではなくて、世界の中で、どれだけこの分野で戦っていけるのか、それこそ国際標準化を我々日本が取れるのかというところは、文科省が、かなりリーダーシップを取って、頭を使って考えなきゃいけない部分なのかなと思っています。品田先生がおっしゃっているように、ボトムアップの研究を組み合わせていくのは、現場としてはそれであろうとは思うんですけれども、どういった特徴を出せて、どういった戦いをしていけば日本が世界でリードできるのかというのは、むしろ文科省がしっかりプランニングしないと、理研に言われたとおりに今答弁をしていても、文科省、それじゃ駄目だろうと思うので、もう少し、国として、文科省として、どうリードしていくのかという、これで国際標準化を取るために何をするのかというところは、ぜひ、文科省のほうでお考えいただければと思っております。
以上です。
【佐伯部会長】 コメント、ありがとうございました。
では、続きまして、上杉委員、お願いいたします。
【上杉委員】 京都大学の上杉です。全体的にこの案はすごくいいと思いまして、賛同いたします。
先ほど小板橋委員が言われたことで一つ焦点を当てたいことがあります。それは、こういうプログラムって規制改革と一体化してやるべきじゃないかというところです。今、頭いっぱいになって考えている類似の例が実はあります。具体的なことなんです。例えば、我々のWPI拠点、先日、北川先生がノーベル賞をもらわれました。多孔性材料によってガスをコントロールするという技術ですね。実は、これは日本発なんですけれども、規制があって、日本で実用化が困難なのです。今、それを政府に訴えかけているところなんですね。例えば、研究するときも、高圧ガスの規制がありまして、非常にやりにくいんです。少なくとも研究でやるところぐらいは高圧ガスの規制を改革していただきたい。ほかにもいろいろありまして、例えば、ああいう新しい多孔性材料を利用するときに、デモンストレーション、もしくは大量生産するときの規制が日本は非常に厳しいんです。日本でできないので、インドネシアでやろうとしていたりするんですね。日本はヨーロッパよりも規制が非常に厳しい。規制改革があれば基礎研究も進むでしょう。プロジェクトを規制改革から始めるのは難しいかもしれませんが、今回のプロジェクトの場合もいろいろな規制改革を最終的にしなければいけない。ある程度前もって、同時に規制改革されるといいんじゃないかと思います。規制改革には予算は要りません。今、国もお金がない中で、研究を進めるのであれば、規制改革を進めていただきたい。今回のようなプログラムをつくるとき、同時に、各省連携して、規制改革も考えていただきたいなと思います。
以上です。
【佐伯部会長】 コメント、どうもありがとうございました。
私のほうから一つ、違う観点からコメントさせていただきたいんですけれども、今回、プラネタリー・バウンダリーの話を聞きまして、これは非常に重要な問題であるということは直ちに認識いたしまして、このプロジェクトは非常に正しい方向に行っているというふうに、強く賛同いたします。ただ、全体を眺めて、問題が極めて複雑だと思います。もちろん強みを生かした研究も大事だと思うのですけれども、プラネタリー・バウンダリーでも九つの事柄があって、それらがバウンダリーを超えてしまっているというところだそうですが、それをこれからどうやってコントロールしていくかというときの一つの目安として、様々な計算、特にシミュレーションをしていく必要があると思うんです。様々なデータからデータ同化等のテクニックを使って予測をするというような技術は既に発達していると思いますし、スパコンを動かしてやっていくということもできるかと思うんですが、新しい的確な数理モデルを使うということも大事だと思います。特に、こういった複雑な現象を的確に予測するというのは極めて困難です。数理的にも非常に難しいところがございますが、その中でも、様々な事柄、例えば理研のiTHEMSはそういった数理的な事柄に強いと思いまして、そういったところも参加しているということで期待はできると思いますけれども、計算技術といったところも、例えば、電力消費を少なくするという観点もございますし、今後やるべきことが山積していると思いますので、ぜひその点も進めていっていただければと思います。
以上、私からのコメントでした。
それでは、大体、コメントも出尽くしたようですので……。
【小板橋委員】 すみません。
【佐伯部会長】 まだございますか。
【小板橋委員】 もう1点だけ、よろしいでしょうか。
【佐伯部会長】 小板橋委員、どうぞ。
【小板橋委員】 ありがとうございます。地球規模のことも大変大事かと思うんですけれど、私は、日本は将来的に食べていけるのかというのをとても心配しています、農業する方もどんどん減っていく中で。農水省のほうでは、気候変動を前提にして、今までリンゴを育てていた地域は、リンゴが育たなくなるから、別の作物を育てるといいよという指導を既に随分前からやられていますよね。土壌環境、ゲノム解析しなくても、日々扱っている方々って、育たなくなるとか、分かっているわけですよね。そういう形で、前面にいらっしゃる方々というのは、サンマが取れなかったら、ほかの魚を取ろうとか、できる限りのところで対応しているんですよね。そういうところの知識との連携、農水省との連携とかも、すごく大事なんじゃないかなと思います。コメントです。
【佐伯部会長】 コメント、どうもありがとうございました。
以上で、よろしいでしょうか。
ありがとうございました。
それでは、引き続きまして、議題(2)に移りたいと思います。欧米での研究評価の動向です。議題(2)につきましては、CRDSフェローの菊池様より、御発表をお願いします。発表後、委員の皆様より御意見を頂戴できればと思います。
では、菊池様、よろしくお願いいたします。
【菊池フェロー】 おはようございます。本日は、どうぞよろしくお願いします。CRDSの菊池と申します。今日は、各国の研究課題評価の状況と研究評価改革の動向、責任ある研究評価とも言われますけども、今回は課題中心ですが、研究機関や研究者評価も含めて様々に動向があるので、こちらを御紹介いたします。
次のページをお願いします。
本日の構成です。まずは、日本でもJSTやJSPSがあるように、日々、各国のファンディングエージェンシーでプロジェクトの採択が行われていますが、その審査プロセスとか、評価の観点について、御説明します。
次に、研究評価改革の背景と動向といたしまして、DORAやCoARAといった国際的な枠組みが出てきておりますので、こちらを御紹介いたします。
最後に、研究評価改革の議論を受けて、新たな評価システムをつくるには新たな評価ツールが必要だということで、様々に新たな手法が試されているところです。ですので、その例として、実験的なファンディングの例について、御紹介いたします。
次、お願いします。
今回の説明、取り扱う範囲をここに示しております。研究評価に関する対象や時期というのは政策から研究者評価まで様々ですけども、今日は中心的に、研究プロジェクトの採択について、御説明します。一方で、研究評価改革というのは、ここで言う話題提供2の対象、紫で囲ってある部分ですが、かなり範囲が広いので、この辺、お含みおきいただければと思います。
次の次をお願いします。
こちらは、各国の代表的なファンディング機関によって、どういったプロジェクト採択の評価を行っているかというのを表にしたものです。ここで対象としているのは、日本で言う科研費とか、複数の分野を対象に研究費を支援する形のグラントですけども、ここで言えるのは、どこのファンディング機関も、申請から、最初に事務的な確認を行い、少数のレビュアーによる審査を行って、その後、審査委員会によって順位づけをし、最終的に採否の決定をするという、こういう標準的なプロセスというのはどこの国でも変わりません。一方で、学術的な卓越性以外の評価基準ですと、例えば、NSFの場合は、Broader Impactとして、社会的なインパクト、社会における利益も評価基準にしておりますが、一方で、ドイツのDFGなんかは、研究評価基準の中には社会的影響というのをほぼ含まない形で、現在、採択が行われています。また、先ほど申し上げたDORAやCoARAといった研究評価改革の枠組みに関しても、参加状況はファンディングエージェンシーによってむらがある状況です。DFGやイギリスのEPSRC含めて、UKRIは、DORA、CoARA、両方署名していますけども、カナダの場合はDORAだけだったり、アメリカの場合はどちらも署名していなかったりという状況です。一方で、これらの機関に共通しているのは、研究者の頭数が増えていることに伴って、ファンディング機関や評価者の負担というのは、明らかに増加してきています。これは申請数の増加ということですね。それに伴いまして、レビュアーの枯渇だったり、あとは、いわゆる有名な機関ばかりに採択者が集まってしまったり、もしくはマイノリティーに関して採択率が低くとどまってしまったりといった、バイアスの低減は共通した課題と言えるかと思います。
次、お願いします。
NSFに関してです。NSFの評価プロセスは、さっき言った6段階を細かく割るとこのような感じです。所要期間は約6か月です。評価基準としては、研究の卓越性。つまり、Intellectual Meritに加えて、幅広いインパクトとして社会的利益も評価基準の中に一応含むということになっております。NSFは、DORA、CoARA、両方とも署名していませんで、評価基準に関しては、2024年にはNSFの審議会であるNSBで評価基準に関して検討が行われていました。ここで大きなトピックになったのは、Broader Impactというのは、評価上、あまり意味を持っていないのではないか。実際、スコアづけも、Broader Impactに関しては行われてきませんでした。当時、この位置づけというのが検討の対象とされていて、サブスコアをつけるべきかというような内容が議論されていました。
次、お願いします。
次は、NIHのグラントのRO1ですね。こちらの場合も、プロセスは同様なんですけども、大体、所要期間は8~9か月。加えて、研究費が実際に支給されるのに、ここから3~4か月かかるという、タイムラインです。評価基準としては、2025年までは5項目だったんですけども、それがここに挙げております3項目に集約されております。研究の重要性と、申請する内容の頑健性と実現可能性。括弧の中は2025年以前の評価基準です。3項目めとして、専門性及びリソースというわけで、1項目め、2項目めは9段階のスコアで評価し、3項目めの専門性や利用可能な資源に関しては、適切で十分か、もしくは不十分かの2択で評価するようになっております。専門性やリソースというのが十分か・不十分かという2択で評価される背景としては、有名な、予算の大きい機関のほうが環境や配置される学生の数等々は恵まれていますので、これも9段階で評価してしまうとレピュテーションが高い組織に採択が集まってしまうんじゃないかという懸念がありまして、このバイアスを低減させるという意味で、ここは2択で評価する形になっております。
次、お願いします。
続いて、DFGです。DFGは、NSFと同様に、約6か月間、評価の期間を要します。DFGに関して特徴的なのは、社会的価値というのを明確な評価基準として掲げていないところだと思います。また、DFGは、DORA、CoARA、両方とも署名しておりまして、2024年にCoARAに署名するのに対応して、ファンディングエージェンシーの中でジャーナルや出版物に基づく評価基準を不適切に使用しないという旨のアクションプランを立てて、これをCoARAの中で共有・公開しております。
次、お願いします。
こちらはUKRIの中の工学・物理学分野のリサーチカウンシルですけども、こちらの場合も標準的ですね。約6か月間、レビュー、審査にかかる形です。ここの場合は、評価基準として4点あります。1点目は申請したプロジェクトの質で、これが最優先事項となっております。2点目は社会的重要性で、これは、社会課題へどうやって貢献するのかとか、国としてのニーズとどれぐらい合致しているかということですが、これが第2優先事項とされます。続いて、3点目、4点目は、1点目、2点目よりは優先度が低くなる形で評価されますが、申請者やグループの能力、あとは資源とマネジメントという評価基準が置かれています。評価に関する近年の動向ですと、こちらはCoARAに署名しているんですが、具体的なアクションプランにはまだ落としておりません。一方で、評価パネル向けのガイダンスにジャーナルベースの定量的指標は使うべきじゃないという旨は明記されております。あとは、先ほど申請者が増加するのに伴ってレビュアーの労力が上がっているという話をしましたが、それにどう対応するのかということも含めて、新たなツールなり何なりの開発を目的とした、Metascience Research Grantというのを2024年に開始しております。
次、お願いします。
こちらは、研究課題の評価の例としては最後ですが、カナダのNSERCの事前評価についてです。こちらは、所要期間は約5か月と、少々短くなっております。カナダに関して特徴的なのは、研究者個人の卓越性や申請書自体のインパクトにプラスして、高度専門人材の育成への貢献というのも同じぐらいの重みづけをして評価をしているというところかと思います。カナダの場合は、DORAに署名している一方、CoARAには署名しておりません。加えて、先ほどイギリスの事例でMetascience Research Grantというものを開始したということを申し上げましたが、カナダでも、医療系のファンディングエージェンシーだったり、社会科学系のところだったりと共同で、Research on Research Joint Initiativeというのを開始しております。こちらで、プロジェクト採択時のバイアスの低減とか、労力をどう抑えていくかというツール開発も視野に入れて、1件当たり2,000万円規模のプロジェクトを採択しています。
次、お願いします。
引き続きまして、研究評価改革について、御説明します。問題意識としては、2013年にサンフランシスコ宣言が発表されて以降、様々な組織から、レポートだったり、報告書だったりが出されているという状況です。そもそもの問題意識というのは、一番上に太字で書きました、定量的な指標が誤って利用されているという、研究コミュニティからの懸念や問題提起というのが、まず背景にあります。これにひもづく形で、定量的指標だけだと研究の多様性や創造性を十分に評価できていないであったり、あとは、こういった指標重視へと競争してしまうことが、研究不正だったり、サラミ・スライシングだったりという、過度な論文投稿戦略を招いているという懸念が示されています。例えば、DORAですと、今申し上げたような定量的指標の過度な利用というのが問題視されていますし、続くライデン宣言では、計量が評価の代替物として用いられているという点が問題意識として掲げられています。その他、香港原則とか、2019年にはラテンアメリカの研究評価フォーラムでも同様の合意文書が作成されています。2022年にはヨーロッパ中心にCoARAというものがありまして、ここも趣旨はほぼ同様です。もうちょっと国際的に広がりのある枠組みですと、2024年には、Global Research Council、これは国際的な公的なファンディングエージェンシーの団体ですけども、そこでも責任ある研究活動の評価を推奨するといった内容の報告書が出されています。
次、お願いします。
まず、DORAについては、御存じの方も多いと思うんですけども、2013年にアメリカの細胞生物学会の関係者を母体として発表された宣言です。こちらは、宣言を出しただけでは評価の実態に影響を与えるのは難しいということで、2018年からは、PLOSだったり、ウエルカム財団だったり、出版社も含めて資金調達をして、ガイドブックを作ったりとか、キャンペーン活動をするという組織に変革してきております。
右の図は、署名機関や個人の地理的な分布を表しています。やはり、ヨーロッパ、オーストラリア、カナダというのは、人口比だと署名者が多いという状況になっております。
こちらの宣言のポイントは、研究助成、研究プロジェクト採択だったり、研究者の採用や昇進の際に雑誌ベースの定量的な指標の使用を排除することであったり、ジャーナルベースじゃなくて、個々の研究に基づいて評価をしなさいというのが趣旨であります。あとは、論文以外の学術への貢献を評価対象とすることというのも含まれております。
次、お願いします。
こちらは、具体的なツールとしてどういうものをつくっているかということですね。一つは、去年出されたガイドラインには、ジャーナル・インパクト・ファクターや、被引用数、h-インデックス等々、定量的な指標というのはあるわけですけども、それぞれの強みと使用する際の注意点というのを並べたガイドラインをつくっております。加えて、研究機関でどのように研究評価改革を進めていくのかということに関するガイドを今年の5月に発行しております。これは、研究機関内でどうやって味方をつくるのかであったり、学長、副学長、理事といったマネジメント層にどう賛同を得るかであったり、あとは、既存の学内の評価システムをどのように変化させていくのか、パイロットプログラムから始めろとか、そういうアドバイスをまとめたものです。プラスしてケーススタディーも用意されていまして、日本だと東京大学がDORAに署名した際の事例が紹介されていますし、あとは、中国科学院とか、デンマークだとオールボー大学が枠内での評価システムをどう変更したかという、ケーススタディーがまとめられております。こちらは、来年には研究機関向けの実践ガイドを発展させる形で、ファンディングエージェンシー向けのガイドというのも発表される予定であります。
次、お願いします。
次は、研究評価改革のための連合体、CoARAと言われるやつですね。こちらは、ヨーロッパを中心にして、学術関連機関がCoARAに署名する形で形成されている連合体です。こちらの特徴としては、DORAは、キャンペーン活動も含む機関になったとはいえ、宣言が基にあり、宣言を出して、そこに署名するという活動がメインだったのに対して、もうちょっと具体的なコミットを求める形になっています。活動の変遷は、以下に示しております。こちらは、2025年10月時点で今のところ888機関が署名しておりますが、日本からの署名機関はなしです。署名した機関はどういったことを求められるかというと、次のページで示します全体原則への合意と、あとは、研究評価改革に向けて、具体的な10項目のコミットメントが求められます。
次、お願いします。
こちらが、全体原則と10のコミットメントです。全体原則に関しては、趣旨のようなものなので、こういったことを重要視してくださいねという形なんですが、10のコミットメントというのは、かなり具体的だと思います。例えば、6項目めのコミットメントについては、研究評価の基準、ツール、プロセスを見直し、開発すること。また、9項目めでは、左に示しました全体原則の遵守と、コミットメントの実施に関する進捗状況を報告すること。10項目めのコミットメントだと、最先端の研究の研究、Research on researchだったり、Metascienceだったり、いろんな呼び方がありますが、そういった最新の成果に基づいて実践・基準・ツールを評価して、また、それに関するエビデンス収集や調査に関するデータをオープンにすることというコミットメントが求められているというのが、DORAとの主な違いかと思います。
次、お願いします。
具体的な活動としては、個々の機関が署名するのに加えて、CoARA自体でも活動を行っていて、例えば、一つ目は個別課題に対応したワーキンググループの活動をしています。個別課題の例としては、例えば、初期のキャリアの研究者の評価をどうするかという話だったり、研究申請書の評価をどう改善していけばいいのかだったり、どうやって質の高い提案の採択と労力の低減というのを両立させるのかだったり、あとは、多言語、英語以外でのアカデミアへの貢献というのをどう評価していくのかといった、項目ごとにワーキンググループを立てて、議論をしております。二つ目は、各国の事情に合わせてどうやって適用させていくのかというのは違うわけで、国ごとにナショナル・チャプターを立てて、国ごとの障壁について議論をしています。三つ目は、Horizon Europeから3年間の予算が下りていまして、こちらでツールの実装や試行を行うプロジェクトというのが行われています。四つ目としては、署名機関のアクションプランと、何年以内にどういったことをするのかというタイムフレームを公開し、共有するという取組が行われているところです。
次、お願いします。
参考に、これはBoostプロジェクトで採択されている例ですが、例えば、イギリスのスウォンジー大学ですと、採用だったり研究申請の際に、業績を並べるんじゃなくて、もうちょっとナラティブにしてみようというCVの形式ですけども、これを使用してみて、その影響だったり、それによって目的としていたバイアスの低減がなされているのかどうかというのを評価するためのプロジェクトを立てたりしております。
次、お願いします。
御紹介したDORAやCoARA以外にも枠組みはありまして、例えば、ラテンアメリカを中心にして、FOLEC-CLACSOという枠組みもあります。こちらはラテンアメリカを中心に900程度の研究センターや研究所が入っている枠組みなんですけども、ここに、例えば、中国の社会科学院だったり、アラブ社会科学評議会だったり、UNESCOなどの機関も協力機関に入って、ラテンアメリカ地域の研究評価改革をどう進めるのかという議論をしています。また、下のMore Than Our Rankは、URAの組織が母体になっている枠組みですが、これは高等教育機関の評価が大学ランキングに依存しているんじゃないかという問題意識からできた枠組みです。こちらは、27機関が署名しているほか、ここで示していますCLACSOやDORAなども協力機関として参加しています。こちらは両方とも、日本からの署名機関や、関与というのは、現在はない状況です。
次、お願いします。
こういった研究評価改革の議論を受けて、評価システムを新しくしなきゃいけないと。それには新しいツールが必要だろうということで、実験的ファンディングというのが近年行われてきています。実験的ファンディングというのは何かというと、研究申請のレビュープロセスに新しい手法で介入して、効果を検証する。それをもって、ファンディングシステムの効率化だったり、効果の最大化だったりを狙う取組だと定義されています。ここで取り組もうとしている課題はいろいろありますが、代表的なものだと、先ほどから申し上げているバイアスの軽減だったり、システムの効率化だったり、あとは、採否のボーダーラインにある申請書を評価するというのはそもそも困難なので、ここにかけている労力というのをどう減らしていけるのかということも、論点として挙がっています。
次、お願いします。
公的なファンディング機関でプロジェクトを採択するときのピアレビューにどう介入していくのかというのは、この間、かなり検討されてきたところです。例えば、バイアスの軽減を目的とした国際的なレビュー、要は海外の人をレビュープロセスに入れるというのは、Global Research Councilに参加している機関の80%ぐらいで採用しています。
一方、いわゆるラジカルというか、実験的な手法、例えば、今日御紹介する、くじ引型のファンディングだったり、プレゼンテーション一発で決めるマネーの虎形式だったりというのを提案されていますが、こちらも採用しているのは14%程度と、低い数字にとどまっているというのが現在の状況です。
次、お願いします。
これも参考ですけども、研究課題の事前評価に関して、こういった手法がいわゆる実験的ファンディングの例として、よく取り上げられているものです。AIによるレビュアーの割当て支援ですとか、申請者を匿名化することでバイアスを低減できるんじゃないかという提案もされていますし、あとは、今日御紹介する、分散型ピアレビューというのも検討されているところです。この中で、近年、効果検証が実際に行われて、レポートも幾つか出ている、くじ引ファンディングと分散型レビューについて、事例を少し御紹介します。
次、お願いします。
一つ目は、くじ引ファンディングをBritish Academyで行われた事例です。若手研究者向けの少額のファンディングなんですけども、導入目的はバイアスの軽減と審査効率の向上です。プロセスとしては、まず、申請書の下位の30~40%をまず足切りして、上位は、特にくじ引の箱の中に入れずに、そのまま採択してしまう。残りの中間層については、無作為抽出、つまり、くじ引によって決定するという手法です。この結果、潜在的なバイアスを軽減して、公平性をある程度保つことができたと、British Academyは自己評価しているところです。申請者からの批判というのをかなり警戒していたんですけども、申請者への事後的なアンケート調査によると、比較的公平的な採択手段であるという声が多かったとのことです。この形式は、最初はここに示したプログラムだけだったんですけども、現在は、もう一つ、British Academyの別のプログラムも同様の形式で採択が行われています。
次、お願いします。
次は、Healthcare NZですね。こちらは、導入目的は別で、効率化というよりは、ハイリスク研究を公平かつ透明性のある方式でどう採択できるのかという目的に対して行われています。研究申請者はみんな匿名化されまして、専門家パネルで、さっきと同じように、最初に足切りをします。ここで違うのは、トップ層をそのまま無条件で採択するのではなくて、足切りしたもの以外は全て、くじ引の箱に入れてしまい、乱数を当てて小さい順に採択という方法です。これも申請者の反感というのをかなり気にしていたんですけども、この種の革新的なアイデアというのを対象にしているプログラムに関しては適切なファンディングの手段であろうというのは、申請者への事後調査からは聞こえてきているところです。
また、今回御紹介したほかにも、スイスのファンディングエージェンシーのSNSFでも導入されていますし、あと、UKRIとか、EUの次のフレームワークプログラム、FP10の中でも導入が検討されているというのが現在の状況です。
次、お願いします。
次は、分散型ピアレビューですが、これはフォルクスワーゲン財団で行われたものです。これは申請者自体がほかの申請のピアレビューに参加するという形態ですが、最近、いくつかのジャーナルでも同じような手法が行われていると思います。導入目的は、ピアレビューのコスト削減と、レビュー自体の質や公平性の向上というのを目的として、導入されました。これをやってみた結果としては、研究申請のレビュー期間をこれまでの半分以下に短縮できたと。一方で、1件当たりの申請にどれぐらいレビューの時間を割いたかということを調査したところ、以前と比べて一つの申請当たり3倍近く時間をかけてレビューされていたということが分かりました。つまり、レビューの質というのをレビューにかけた時間として換算すると、質は向上していますし、1人当たりのコストというのがかなり削減されたという結果です。懸念されるのは、悪意のある申請者ですね。ほかの申請に対して極端に低いスコアリングをしてしまうというのが懸念されるところですけども、今のところはそういったこともなく、参加者の大部分がこの方式を肯定的に捉えているということでした。この分散型ピアレビューに関しては、今後、UKRIやNSFでもトライアルが行われる予定と聞いております。
御説明は、以上です。ありがとうございました。
【佐伯部会長】 詳細な説明、どうもありがとうございました。
それでは、以上の説明に関しまして、委員の先生方から御質問などございましたら、挙手ボタンをお願いいたします。
では、上杉委員、お願いいたします。
【上杉委員】 京都大学、上杉です。
【菊池フェロー】 御無沙汰しております。
【上杉委員】 今の御説明の中で、学術的卓越性以外の評価基準というのがございましたね。その中で、Broader Impact等々、いろいろな評価基準が実はあると思うんです。若手育成、社会的インパクト、女性科学者、マイノリティーとか、つけようと思えば、いろいろつけられると思うんです。私のアメリカ時代の経験から言いますと、こういう学術的卓越性以外の評価基準を取り込むには、二つのやり方があるんですね。ここで言われる、評価の中に入れ込んでしまうというのが一つやり方。もう一つは、それは評価には入れずに、評価は学術的卓越性だけでやって、採択を決めて、例えば、採択されたものに、若手育成などのエッセンスがあれば、そこにファンドを足すというやり方。例えば、女性の大学院生が絡んでいるなら、その人の給料を払う。社会的インパクトがあれば、実用化検証の予算を足す。こういうサプリメント方式というのがあります。今回のお話は、そういうサプリメント方式のお話ではなく、評価だけのお話でした。こういう二つのやり方があるというのを考えられたらいいかなと。あまりいろんなものを評価に入れ込むと卓越性が薄れてしまいます。私は、サプリメント方式は優れているなと考えます。今、トランプ政権になってどうなったか分かりませんけど、昔、NIHグラントではマイノリティー学生のサプリメント方式がありました。
以上です。
【佐伯部会長】 コメント、どうもありがとうございました。
続きまして、有馬委員、お願いいたします。
【有馬委員】 ありがとうございます。
最後に御紹介された、お互いがレビューするというやり方は、日本にいると斬新だなと思うわけですが、これは日本だとむしろ利益相反に当たるという考え方だと思うんですけども、これに参加する人はほかの人のアイデアを取らないというのは、どういうふうにして担保するような形になっているんですか。
【菊池フェロー】 申請時にこういうレビューのやり方をしますというのは宣言していて、プロポーザルの案内の中に盗用はしないようにという一文はもちろん入っていますが、一方で、実際に盗用を防げているのかというと、多分、その観点での評価というのはまだされていないと思います。
【有馬委員】 なるほど。ありがとうございます。
もう1点は、今、AIを使っているのはレビュアーを選ぶところだけみたいになっていますけども、近い将来、これが第一次審査とかで、要するにスクリーニングに使われるというようなことを考えているところはあるんですかね。少なくとも雑誌のエディターレベルだとだんだんそういうのが出てきているようですけど、こういう研究費のほうではどうなんですか。
【菊池フェロー】 プライベートな財団では、そういった事例も出てきています。例えば、スペインのラ・カイシャという財団ですと、研究のファンディングの最初のスクリーニングにAIをかませるというやり方を試験的に導入しています。試験的なので、その後、当然、レビュアーは全部見ることになるんですが、結果、人の目で見たときに拾い上げるものがどれぐらい落ちちゃっているかというのを検証しているというのが、今の段階だと思います。ただ、公的なファンディングエージェンシーだと、なかなか難しい部分もあるかなと思います。
【有馬委員】 なるほど。今後、多分、その辺はものすごく変わっていくと思いますので、ぜひ、その辺のウオッチを今後もよろしくお願いしたいと思います。
今日は、本当にありがとうございました。
【菊池フェロー】 ありがとうございます。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
続きまして、小板橋委員、お願いいたします。
【小板橋委員】 ありがとうございます。有馬委員とかなり被るのですが、AIのことです。これ、今後、AIができるようになるんじゃないかなと私は思ってしまうんですけれども、レビューをAIが全部やるということにもしなるとしたら、何が阻害要因になると思いますか。逆張りの質問ですけれども。
【菊池フェロー】 恐らく、現状だとアカウンタビリティは低くなりますよね。対外的に、どういうやり方で選んでいるんですかといったときに、AIをかませて、それで決めていますだと、プライベートな財団だといいと思うんですけど、実際、そういうところもありますし、現状だと、説明能力がなくなっちゃうなというのと、あとは、新規性の高いアイデアというのは抜け落ちそうな感じはいたしますね。これまでの延長線上にあるような研究申請のクラス分けというのはできるんですけども、全くあさっての方向から来るトランスフォーマティブなアイデアというのは採択するのにあまり向いてないんじゃないかなと、個人的には思います。
【小板橋委員】 ありがとうございます。逆に、AIに、見聞きしたような、似たようなのは採択しないでって教育すれば済むかなと、後者に関しては思うんですけど、あと、AIで採択をして、例えば、その後の評価というか、その後の成果というのを比較するような研究、それで何が違ってくるのかみたいな、小規模でもいいから研究みたいのがあったら面白いなと思ったんですけど、そういうものというのはあったりしますか。
【菊池フェロー】 それはあんまり聞かないですね。AIを使って採択を見てみるというのも、今のところやられているのは、試験的にレビューをやらせてみて、人間がやったのと一致率はどれぐらいかというのをやっている、海外のファンディングエージェンシーの事例というのは耳にしますけども、現状はそんな段階だと思います。一番使えるかもねって言われているのは、表で挙げたレビュアーの提案と申請とのマッチングというところかなと思いますね。
【小板橋委員】 ありがとうございます。
【上杉委員】 上杉ですが、少しいいですか。
【佐伯部会長】 はい。
【上杉委員】 私が聞いたところによりますと、AIでやりますと、オープンになっている情報をベースにするので、オープンアクセスジャーナルの情報に偏りがちという問題があると聞いています。
以上です。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
続きまして、小泉委員、お願いいたします。
【小泉委員】 ありがとうございます。乃依瑠さんの説明はすごく分かりやすいので、専門家として、よく分かりました。ありがとうございます。
その上で、僕自身はやはり、日本のこれまでの研究評価の在り方というのから、もう少し、しっかりとした指標を使って、しっかり評価していくということをしないと、学閥だとか、学会でどれだけ発言したとか、学会にどれだけ貢献したとか、そういったところだけで評価されるような時代というのが過去ずっとあったと思っています。そこから、フェアな形で指標を使うというのは重要だと思っていますし、さらに言うと、指標を使うにしても、指標をちゃんと理解して使うということが重要なんじゃないかなと思っています。ただ、そこが問題なのではなくて、問題点というのは、今、上杉先生の御発言もありましたけど、実は、指標なり、AIなりというのは、過去の実績、過去を見ちゃうんですね。過去、どれだけの論文を出しているかとか、過去がどうだったのか、LLMにしても過去のデータに基づくわけなので、結局、指標とか、AIは過去を見ている。ただ、我々が研究評価したいときって、単なる結果を評価したいのであれば過去を見ればいいんですけれども、我々が新しい研究を起こそうというときは、未来を見なきゃいけない。未来を見るときって、過去だけ見ててもしようがないので、指標も使えないねってなるし、AIももしかしたら、今の段階では使えない。LLMも、まだまだそこまでは行ってない。じゃあ、未来を見るとき、例えば融合領域、先ほど乃依瑠さんの発言にもありましたが、融合領域とか、トランスフォーマティブな例ではどう見るのかとか、未来の成長をどうやって予測するのかとか、その辺で何かアイデアがあれば、お聞きしたいなと思いました。
【菊池フェロー】 事前評価は、それを専門家の目を通してピアレビューに仮託しているというのが、現在の状況だと思います。それ以上に、今回調べたような割と基礎研究系のファンドで何かあるのかというと、正直なところ、あんまり出てきてないなと思います。一方で、今のところピアレビューには、例えば、保守性だったり、ハロー効果だったり、評価委員会の座組の専門性の中でしか評価できないという課題はあるので、その一つ一つのバグを潰していくというところで今紹介したような実験的なファンディングの取組というのが進められているのかなと理解しているところです。
【小泉委員】 ありがとうございます。今日御発表いただいたのは全て、結局、過去の評価をどう効率よくやるかという議論をしているような気がしていて、指標がいいとか、悪いとか、例えば、大学ランキングを研究評価に使うとかいうのは愚の骨頂ですが、その辺のファインチューニングも重要なんだけど、我々がしなきゃいけないのは、未来の研究のオリジナリティーをどう評価するかというところは、ぜひ日本で、CRDSなり、皆さんと御議論できればなと思ったところでした。
以上です。
【菊池フェロー】 ありがとうございます。
【小泉委員】 ありがとうございます。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
続きまして、前田委員、お願いいたします。
【前田委員】 詳しい解説、ありがとうございました。
質問というよりはコメントみたいな感じなんですけども、評価が難しいなと思うところって、融合研究のところって評価がすごく難しいなと思っていて、結構、専門分野じゃない分野が半分入っていたりするので、そこのところで評価者としてはかなり苦労する面があって、論文のピアレビューとかでも同じことが起こるんですが、そこのところを何か、この部分はこのレビュアーが評価して、この部分はこの人が専門家だからみたいな、そういう割り振りの仕方というのもあり得るんじゃないかなというのが一つと、あと、AIをうまく導入していくというのは、将来的にはそうなっていくんじゃないかなというふうに私自身も思っていて、100%評価はできないというのはもちろんそのとおりで、特に新規性のところは評価できないし、今のAIを使うと、先ほど上杉先生がおっしゃったように、オープンアクセスに偏るという問題はあると思うんですけども、ファンディングエージェンシーが責任を持ってAIを独自で開発していく。データも、オープンアクセスだけじゃなくて、独自で持っている過去の申請書とか、レビュー結果とか、そういったものも活用して、あと、ジャーナルと組んでオープンアクセスじゃない部分というのもきちんと入れ込んでいくといったことをして、なおかつ、本当に新規性の高い部分というのは判定できないと思うので、AIとして、これは本当に新しいから僕は判断できませんという答えを返してくれればいいと思うので、読むと過去の研究と似て非なるものというのは結構いっぱいあったりして、そういうのは1回読んで落とすということになるんですけど、AIはそこの部分を判定するのはすごい得意だと思うので、そうなっていますよというのでばっさりと落とせるとうまく評価できると思うので、そういううまい使い方というのを、JSTさんであったりとか、JSPSさんであったりとか、ファンディングエージェンシーが研究を早めにやって、2年後、3年後、5年後、10年後なのかもしれないですが、研究を始めておくというのはすごく必要なんじゃないかなと、今、思っているところです。
【菊池フェロー】 AIの箇所をどう使っていくかという、中での検討が必要だというのは、そのとおりだと思います。
前半の、分野融合的な領域や、新規性の高いものを狙うところでの評価をどうするのかという点で言いますと、多分、今のところ、ほかの国と日本が違うのは、評価者向けのトレーニングプログラムや評価者向けのガイドラインというのがあまり整備されていないところだと思います。大抵、その手のガイドラインには、分野融合ですと、自分の専門性の範囲内でそのエクセレンシーを評価しなさいと。ほかのところはほかの委員が見てくれるのでというような、のりを超えるんじゃないというようなことだったり、あと、先ほど言ったピアレビューはこういうバイアスを与えがちであるといった、そういったトレーニングだったりガイドラインというのが定められています。その手のものはあまり日本では見ないので、取り得る手段として、そういうものの整備というのは一つあるかなと思ったところです。
以上です。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
では、続きまして、髙野委員、お願いいたします。
【髙野委員】 ありがとうございました。いろんな国々の新しいレビューの考え方、すごく勉強になりました。その中で、日本はこれからどういうレビューを中心として考えていかなきゃいけないのか、どこが問題で、どう進んでいくのかというのが、すごく重要じゃないかなと思うんですね。ここで見たところで、各国でいろいろ問題が出てきていると。それに対して、さっきもおっしゃったように、一つずつ問題を解決していく。全てを解決するんじゃなくて、一つずつ解決していくというような形になっていると思うんですね。そこは日本としてはどうなのかなという疑問が起きましたが、どうでしょう。
【菊池フェロー】 プレゼンの中でも触れましたが、例えば、カナダだったりイギリスは、Metascience Research Grantだったり、Research on Researchのグラントの中で、そういった問題点の特定から、じゃあ解決するためにどういうツールをつくっていけばいいんだというのを、実際に使って試してみて評価してというのを進めています。同じような話は、DORAの中でも、CoARAの中でも進めていると思います。そういった枠組みの中で、うちの国だとこれはあまりうまくはまらないなというような議論をしていくわけですけども、そういった枠組みに、今、日本はあまり入っていません。なので、何も一から全部、日本だけでやっていく必要はなくて、いいものは取り入れて、土壌に合わないものは採用しなければいいので、まずはそういった議論の枠組みの中に入っていくのが重要なんじゃないかなと思っています。
直接的な答えじゃないんですけども、そういった中で課題の特定からしていかなきゃいけないよねという段階だと思います。
【髙野委員】 そうですか。課題を特定していくというのも重要なんですが、これって皆さんやられているから、そこでうまくいったものを試してみようというのは、すごくいいアイデアだと思うんですね。ただ、それだと次のステップまで行かないんじゃないかって、私は思うんですよ。先ほど、AIがどうのこうのという話もいろいろ出てきましたけど、プロジェクトのアプリケーションというのは、いろんな種類があると思うんですよ。1人でやっているのもあれば、共同でやっているのもあるし、応用もあれば、すごくベーシックで、ブルースカイリサーチもあると。それを全部同じようなレビューの仕方で評価していくというのは、絶対できないような気もします。それで、こういういろんな形が出てきたのかなという気がするんですね。本当にお願いします。ここら辺をすごくよく見ていただいて、各省庁、ファンディングのエージェンシーが違いますので、さらに統一していくようなレビューの仕方があるといいんじゃないかなという気がします。
イギリスがUKRIという一つのものに融合した大きな理由は、レビューイングを全部統一するということなんですよ。今、やっとその統一の段階になりつつあるので、それは、私たちがアプリケーションするときに、みんな同じだということで、やりやすい、評価もしやすいという観点から出てきているんだと思うんです。日本の場合は、文部科学省だろうが、経済産業省だろうが、いろいろな省庁が出ていて、また、参入があると。それをいかに統一できるか。統一できれば、すごく進むのかな、各研究者ももうちょっと楽になるのかなという気もしました。
コメントでした。本当にありがとうございます。勉強になりました。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
では、続きまして、合田委員、お願いいたします。
【合田部会長代理】 合田です。ありがとうございました。
一つコメントと、お願いなんですけれども、今日の議題は欧米の動向に絞られていたかと思います。今、中国で非常に研究力が上がっているということで、今後、日本で研究課題評価をどうするかということを議論するに当たって、例えば、中国ではどのようにボトムアップ、あるいは、トップダウンの研究、グラントを出しているか、また、課題の評価はどのように行っているのかということを、ぜひ、参考に教えていただければと思いました。
以上です。
【菊池フェロー】 中国に関して、今回、前半で紹介したような、こういうプロセスを踏みますというような調査は今のところはしてないんですが、先ほど、どうやって改善できるのかといった取組をResearch on ResearchやMetascienceの中でしているという話をしました。その国際的な枠組みの中に、大学もファンディングエージェンシーも含めて、かなり中国は入ってきています。あとは、小泉さんが言うような、指標をちゃんと使うという意味ですと、サイエントメトリクス関係の研究所が整備されていて、それと政策形成やファンディング形成というのがダイレクトにつながっているという状況は、日本より中国のほうが顕著だと思います。じゃあ具体的にどういう評価基準でやっているのかということに関しては、ちょっと調べてみます。
【合田部会長代理】 よろしくお願いします。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
私のほうから、少しコメントさせていただきます。本日は、いろいろな国でやられている方法を説明いただきまして、ありがとうございました。日本の研究力が落ちているということで、様々な原因があると思うんですけれども、評価のためにすごく時間を使っているのではないかというのを私は非常に懸念しているところでして、ですから、評価のための負担を軽減するということは非常に重要だと思います。ですので、AIの利用の話が今日はたくさん出てきて、その弊害等もあるとは思うんですが、まずは、例えば、足切りのために使うとか、どう見ても、誰が見ても駄目なものを落とすのに使うとか、ぜひ、できることから、どんどん始めていっていただければなと思いました。
それから、もう一つ目を引いたのは、くじ引ファンディングだと思いました。こちらはもちろん、頭と下はそれぞれ、採択したり、落としたりするわけですけれども、真ん中辺りでくじ引をするというのは、評価をある種しないわけで、評価のための負担の軽減という観点からも非常に効率的だなというのは感じました。上と下をちゃんと取り除いた上で、非常に難しいところをえいやっとくじ引でやってしまうというのは、それなりに筋が通っているように思いますし、研究者からも受け入れられやすいのではないかというふうに思います。もちろん、分野によってはそういったところでないところもあるかもしれませんけれども、ぜひ、御検討いただければなあと思いました。
私からのコメントでした。どうもありがとうございました。
では、続きまして、畑中委員、お願いいたします。
【畑中委員】 私も、今、先生おっしゃった、くじ引ファンディングは結構いいと思っていて、特に基礎研究って、この前、ノーベル賞を北川先生とかが受賞されましたけれども、よく分からないなというのが出てきたときに、使えそう、社会的意義がありそうかということをちょっと頭に浮かべちゃうんですよ、基礎研究なのに。だけど、例えば、今回のMOFとかは、最初の頃、すかすかの結晶を使って何になるのかみたいのは、あんまり分からなかったと思うんですね。そういう何に使うか分からないものというのが真ん中に来たときに、みんな、正直、大して判断できてないので、くじ引きファンディングは結構、基礎研究にはいいんじゃないって思った次第です。
以上です。ありがとうございます。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、菊池様、どうもありがとうございました。
【菊池フェロー】 ありがとうございました。失礼します。
【佐伯部会長】 それでは、議題(3)、その他に移りたいと思います。今年は、大阪大学特任教授の坂口先生がノーベル生理学・医学賞を、京都大学特別教授の北川先生がノーベル化学賞を受賞されました。これは、日本の基礎研究の水準の高さを世界に示すものであり、大変喜ばしいニュースです。お二人ともWPI拠点で御活躍された先生でもありまして、本日は事務局より本件について説明がございます。
それでは、事務局より御説明をお願いいたします。
【相川課長補佐】 文部科学省基礎・基盤研究課の相川と申します。今、佐伯先生のほうから御紹介いただきました、今年のノーベル賞を受賞された日本の先生は、お二人ともWPI拠点に所属をされているということですので、この機会に、WPIの御紹介と、あと、お二人の先生のWPIとの関わりについて少し御報告をさせていただきたく、お時間いただいております。
まず、今表示されている資料の左下のところは今までのノーベル賞受賞者とWPI拠点の関係というところでして、現在、WPI拠点は18拠点ございますが、今までも、山中先生、梶田先生、リスト・ベンジャミン先生など、WPI拠点のほうからノーベル賞を受賞された先生方がおりまして、今年、坂口先生、北川先生、お二人の先生が受賞されたところでございます。
この基礎研究振興部会、今期に入りましてWPIの御紹介をまださせていただいてなかったかと思いますので、簡単に、WPIとは何かというのも少しお話をさせていただければと思いますが、こちらは、文科省で行っている「世界トップレベル研究拠点プログラム」という事業でございまして、国際頭脳循環のハブとなる拠点を日本の中につくるということで、長期・集中的に支援を実施しているものでございます。WPIの拠点のミッションとしましては、緑色で上のほうに書いておりますけれども、世界を先導する卓越研究と国際的地位の確立、国際的な研究環境と組織改革、次代を先導する価値創造という形でミッションを掲げて、ボトムアップ型の基礎科学研究の拠点の形成をやっていただくところを支援しております。WPI拠点のほうでは、世界トップレベルの主任の研究者を7~10人以上、拠点の中で育成していただく。また、拠点の研究者のうち3割が外国人で、ポスドクの国際公募ですとか、拠点の公用語は英語にしていただくなど、国際頭脳循環のハブということで、国際化を拠点の中で図っていただく。また、組織改革という観点で、ホスト機関、拠点が所属する大学などにとらわれずに、能力に応じた俸給システムですとか、トップダウン的な意思決定システムなどの研究システムの改革の実施をしていただくといった拠点の形成を行っていただいているところでございます。このような拠点の活動を、国内外のトップサイエンティストを集めた有識者会議ですとか、その有識者による拠点ごとのきめ細やかなフォローアップなどを通して、進捗管理・評価を実施しているというような事業になります。
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先ほど18拠点と述べましたが、今、WPI拠点はこのような形で18拠点ございまして、左側のピンク色の点線で囲われているところはアカデミー拠点ということで、文科省からの補助という形は終了しているのですけれども、WPI拠点として活動いただいている拠点になります。右側の青い枠で囲われているところは、現在、文科省から補助金の支援を行っている、現役といいますか、成長中の拠点ということになります。
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今回、ノーベル賞を受賞された、坂口先生、北川先生とWPI拠点の関係について、少し御説明させていただきます。
生理学・医学賞を受賞された坂口先生は、先ほどピンク色の枠で囲われていた、大阪大学のIFReCという拠点に所属しておられる先生です。下の青い枠で囲われておりますけれども、IFReC自体は、2007年に採択され、2016年までの10年間、文科省から補助をさせていただいており、今はアカデミー拠点として活動している拠点です。坂口先生は、会見の際にも少し触れられていたんですけど、WPI拠点もあるということで2011年に大阪大学に着任されてから、ずっとIFReCのPIとして研究を進められております。2011年から2019年までは副拠点長としてIFReC自体のマネジメントのほうにも関わっていただいており、拠点を代表する中核的な研究者として、IFReCが世界に冠たる免疫研究拠点へと成長することに貢献いただいている先生です。
IFReC、拠点としては中外製薬と連携の契約を締結しておりまして、このような民間企業から大きな研究資金提供を受けているものの、制約を受けることなく基礎研究のほうを進められるような、珍しいタイプの連携契約を進めているところも、拠点としては特徴的でございます。坂口先生自身も中外製薬と共同研究をされておりまして、このような形で拠点の研究と運営のほうを進めておられるところです。
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化学賞を受賞された北川先生は、本日、上杉先生も委員として御出席いただいておりますけれども、京都大学のWPI拠点であるiCeMSに所属されております。iCeMSは、2007年に採択され、2016年までの10年間補助をしており、現在、アカデミー拠点としての活動を続けている拠点でございます。北川先生は、2007年のiCeMSの設立時から副拠点長として活躍されて、2013年から2023年までは拠点長を務められておりまして、iCeMSが世界に冠たる物質-細胞統合研究拠点へと成長することに貢献されております。北川先生含め、iCeMSの拠点としては、北川先生のノーベル化学賞受賞の対象となったMOFの実用化を推進すべく、ベンチャー企業を拠点の研究者の方が設立するなど、基礎研究そのものを進めるとともに、スタートアップを通じた社会還元に貢献しているところです。先ほど上杉先生のほうからスタートアップの規制に関しての御発言をいただいていたかと思いますけれども、そういうような点も含め、文科省としても、規制に関係する省庁と共に連携して、基礎研究をスタートアップというか、実用化につなげるところの弊害というのは取り除いていけるように調整をしているところでございます。
簡単ではございますが、WPI拠点と、ノーベル賞のうれしいニュースに関しての御報告という形で、以上で終わらせていただきます。ありがとうございます。
【佐伯部会長】 ありがとうございました。
以上の説明に関しまして、委員の先生方から、何か御質問などございますでしょうか。
小泉委員、お願いいたします。
【小泉委員】 小泉です。WPIとして、今回、二つのノーベル賞というのは、すごくおめでたいことだと思っておりますし、また、WPI事業がこれだけ有意義なものであるということを示すという意味でも、とてもすばらしいなと思っているところです。まずは、関係する皆様、おめでとうございます。
その上で、説明資料としてのところなんですが、例えば、坂口先生なり、北川先生なり、MOFの話とかもそうなんですけれども、WPIがあったからつくられたオリジナリティーがあるというものではないと思っており、WPIより前に坂口先生なり北川先生のオリジナリティーは既にあったと思います。WPIが今回果たした役割というのは、それをどう世界的に広げていくか、横に広げていくか、若手研究者をはじめ、新しいジェネレーションの研究者を育てていくかというところにあったのかなと。そういった広がりを持つところで社会的なインパクトも増えていき、ノーベル賞というところになっていったのかなと思うので、坂口先生の研究、北川先生の研究がどうだったという御説明に加えて、WPIとして、その拠点がいかに、国際的な広がり、若手研究者への広がり、産業界への広がり、そういった広がりといったものを質と共に高めていったかというところを御説明いただくと、WPIが今回果たした役割が分かりやすくなるんじゃないかなと思いました。
以上です。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
続きまして、上杉委員、お願いいたします。
【上杉委員】 京大の上杉です。今、小泉委員が言っていただいたことを言おうと思っていました。Metal Organic Frameworkは、iCeMSをつくった18年前よりも前に発案されています。コンセプトはすでに北川先生が持っておられて、我々はWPIを一緒に始めたんですね。今、小泉委員が言われたように、コンセプトを広める、大きくする、Metal Organic Frameworkというコンセプトを世界で確立させる役割がありました。それから、CO2キャプチャー、ウオーターキャプチャーという応用があることを広めました。、WPI以前はあまりそういうことは言ってなかったんですね。でも、そういう応用があり、スタートアップをつくることができました。iCeMSにはスタートアップのアクセラレーターがあります。実は、Metal Organic Frameworkの技術などいろんな題材で会社を6社つくってあります。このような仕組みはWPIがあったからこそできたのです。社会で、学問で、国際的に、いろんなコンセプトを広める上で重要であったと思います。こうやって18年前に始めて、10年で大きなWPIファンドが終了して、アカデミーとしてまだ続いております。しかし、時代、時代で、やるべきこと、方向性というのは変わってくるので、組織改革というのもWPIプログラムの中で進めていくべきじゃないかと感じます。WPIは18年続いてきて、一番古いところは18年になっています。ぜひ、この課で、組織改革でどのようにWPIを発展させるのかも考えていただきたいと思います。
中澤課長、よろしくお願います。
以上です。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
それでは、基礎・基盤研究課のほうから、お願いいたします。
【中澤課長】 ありがとうございます。WPIの話ですけれども、今回のノーベル賞の話というところはもちろんありますが、再来年、WPIが始まりましたから20年というタイミングを迎えますので、その中で果たしてきた役割というのは時代と共にかなり変わってきたんだろうなと思っておりまして、既に卒業されているアカデミー拠点も含めて、この知的資産をどういうふうにさらに次の段階にステップしていくのかというところは、今、内部でも検討をしているところでございます。まさにそういう意味では、上杉先生、小泉先生からもお話ありましたとおり、ノーベル賞という観点では、もともと研究自体は、この前の段階から温めて、そして発表してきたもので、むしろ、WPIという世界に冠たる拠点をつくる過程でこういった優秀な先生方がいたから、国際的に人が集まり、日本の方も集まり、拠点に成長していったというところがあるのかなあと思っておりますので、その辺りを踏まえて、次の計画をしっかり練っていきたいと思います。
【佐伯部会長】 どうもありがとうございました。
以上でよろしいでしょうか。
それでは、本日の議題は以上となります。基礎研究振興部会運営規則第7条に基づき、本部会の議事録を作成し、資料と共に公表することになっております。本日の議事録につきましては、後日、メールにてお送りいたしますので、御確認のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、以上をもちまして、第20回基礎研究振興部会を閉会いたします。本日は、どうもありがとうございました。
―― 了 ――
研究振興局基礎・基盤研究課