令和6年6月11日(火曜日)16時00分~18時00分
オンライン開催
観山部会長、佐伯部会長代理、有馬委員、上杉委員、小泉委員、合田委員、齊藤委員、品田委員、城山委員、辻委員、美濃島委員
研究振興局長 塩見みづ枝、大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当) 松浦重和、研究振興局基礎・基盤研究課長 西山崇志、研究振興局基礎・基盤研究課 課長補佐 春田諒、研究振興局基礎・基盤研究課 融合領域研究推進官 葛谷暢重
東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター准教授 郡司卓、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー 福島俊一、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー 茂木強
【観山部会長】 それでは、定刻になりましたので、ただいまより第15回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を開催いたします。
本日の会議ですが、本部会運営規則に基づき公開の扱いといたしますので、御承知おきお願いします。
まず事務局より、本日の出席者と議題の説明などお願いいたします。
【葛谷推進官】 本部会の事務局を担当しております、文部科学省基礎・基盤研究課の葛谷でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
まず、本日の委員の出席状況につきましては、現時点では13名中10名の委員の方に御出席をいただいております。長谷山委員、前田委員におかれましては、本日御欠席の御連絡をいただいております。また、佐伯委員におかれましては、用務の都合上、少し遅れての御出席となる旨、御連絡をいただいております。
本日は、議題(1)の関係で、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター、CRDSフェローの福島俊一様、茂木強様、そして、東京大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授、國吉康夫様に御出席いただいております。
続きまして、配付資料を確認いたします。資料は、議事次第の配付資料一覧のとおり、事前にメールにてお送りしておりますが、欠落等ございましたら画面越しに手を挙げ、お申出いただければと思います。
よろしいでしょうか。御確認ありがとうございました。
また、事務局において人事異動がございましたので、お知らせいたします。
4月1日付で、研究振興局及び高等教育政策連携担当の審議官、松浦重和審議官が着任しております。松浦審議官、一言御挨拶をお願いいたします。
【松浦審議官】 ただいま御紹介ありました、4月1日付で研究振興局及び高等教育政策連携担当の審議官に着任いたしました松浦でございます。委員の皆様方におかれましては、大変お忙しいところ、本部会に御参加いただき、大変ありがとうございます。
基礎研究は新たな価値を創造するイノベーションの源泉となるものであり、基礎研究の知的アセットを可視化し、経済と社会の好循環を生み出していくことは、我が国の成長のために極めて重要です。
本部会では、10年から20年先を見据えた基礎研究の振興に向けて、活発な御議論をいただいていると承知しております。本日は、前回の部会で御議論いただきましたAIの研究開発力強化に関する新たな展開として考えているフィジカル・インテリジェンスと、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の拠点を、国際的に目に見える拠点として成長・発展させていくための制度改革について御議論いただく予定と伺っております。
我が国の研究力を強化していくためには世界に先駆けた研究領域の開拓や融合領域の創出が重要であると考えております。先生方の皆様におかれましては、様々な角度から忌憚のない御意見いただけましたら幸いです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
【葛谷推進官】 続きまして、本日の議題について説明いたします。事務局、西山課長よろしくお願いいたします。
【西山課長】 基礎・基盤研究課長、西山です。本日もよろしくお願いいたします。今、議事次第を画面共有してございますが、先ほど松浦審議官からも御紹介のございましたとおり、本日の議題は、2つございます。
1つ目は、AIの研究開発力強化の方向性ということでございます。本件、前回のこの部会からの継続の御審議でございます。前回の部会では、CRDSから報告がありました。前回の資料については、参考資料の2と3でございますが、この中で、AIロボットへの技術発展について、今後、次世代のAIモデルや、AIと身体機能システムの融合、さらには、AIロボットと人の安全な協働・共生、こういったことが重要ではないかという御提案をいただいたところでございます。本日は引き続き、これをめぐる政策動向と具体的な研究課題について、御議論をお願いしたいと思ってございます。これを踏まえて、文科省として、新たな施策の方向性について、今後、具体化していきたいと思ってございます。
2つ目は、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)でございます。このWPIプログラムは、2007年から行っているプログラムでございますが、昨年8月のこの部会で、参考資料4にございますとおり、WPI-iCeMSの拠点長でもある上杉委員から、WPI-iCeMSの今後について御報告があったところでございます。
その中で、WPI拠点を補助金の支援、これは10年間の補助金支援をするものですが、この補助金支援終了後もさらに発展させる仕掛けについて課題提起があったところでございます。本件は、拠点形成を行っていく文部科学省のプログラムにも共通して関わる重要な課題だと思ってございます。補助金の支援が終わった後も、拠点において継続的に成長、発展させるための仕掛けというのを国の制度スキームとしてどのようにサポートしていくかということでございまして、これについて、文科省においてもどのような方策が取り得るかというのを、昨年の議論から内部的には検討してきてございます。
本日は、これについて、関係省庁との調整等も行いましたので、それについて具体的な仕掛けについて案を御報告させていただきたいというのが2つ目でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【葛谷推進官】 ありがとうございました。事務局からの説明は以上でございます。
【観山部会長】 それでは、議題1「AIの研究開発力強化の方向性について(Physical Intelligence研究)」に入りたいと思います。
まず資料1-1について、事務局から、資料1-2について、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター、CRDSフェローの茂木強様から、資料1-3について、東京大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授、國吉康夫様から御説明いただきます。
まず資料1-1について、文部科学省から御説明をお願いいたします。
【葛谷推進官】 資料1-1に基づいて事務局から御説明いたします。先ほど課長から御説明ございましたとおり、本日の御説明については、前回の議題に引き続きでございます。前回、CRDSさんから、基盤モデル後のAI研究開発動向と、AIロボットの研究開発動向について御説明いただきました。こういった状況を踏まえまして、来年度の概算要求に向けて、AI技術の進展によりAIの利活用、新たな展開を見据え、新しい研究プログラムを検討しているところでございます。
2枚目をお願いします。AIの進化と物理世界の融合というところでございます。AI基盤モデルは、社会的に大きなインパクトをもたらしたところでございまして、世界は、もう既に次のステージに向かっているところでございます。AIの飛躍的な進展は、新たなイノベーションとして、機械、例えばロボットなどとの融合が注目されているところでございます。
個別技術を見てみますと、AIアルゴリズムに関しては、これまで深層学習で多く膨大なデータを使ってAIが学んできたものが、模倣型アルゴリズムといった新しいアルゴリズムによって数十、数百のデータで学習できるといったような技術の開発、また、先端半導体によりエッジで推論計算するAIチップ(エッジの知能化・計算資源)、また、知能ロボットと産業用ロボットの融合、こういったものが進みつつあります。
こういった中、これまで静的な環境でしか対応できなかったAIシステムが、変化する実環境に柔軟に対応できるフィジカル・インテリジェンス、こういったものの開発・実装が可能になってきたと考えております。
フィジカル・インテリジェンスについては、コメ印で下にございますけれども、エッジの知能化等により、AIと機械が高度に融合することで実現する、AIが物理的動作を行うシステムと考えております。具体的には、下でございますけれども、AIが物理的な身体機能を獲得することによって、右下、現在のAIにおいては、デジタル世界、スマホなど、デジタル端末の中にあるものが身体機能を持つことによって、左側でございますけれども、AI自体が物理動作が可能になり、AIの利活用が、デジタル世界からこれまで不可能であった物理世界、現実世界に拡大していくと考えております。
世界は、この動向を捉え、大規模な投資を行っているところでございまして、我が国においてもいち早く重要技術を獲得し、この変革のイニシアティブを取っていくべきだと考えているところでございます。
3枚目お願いします。次は、技術シナリオと今後の社会経済イノベーション・シナリオについて、広い視点で概略をまとめたものでございます。こちらの資料については、前回部会で御説明した資料と同じものでございますので、概略のみ簡単に御説明したいと思います。
技術シナリオについては、半導体、AI、ロボットについてまとめておりまして、半導体について、右側でございますけれども、今後、さらなる微細化が進み、省エネ、そして、これまでパソコンやスマートフォンといったような汎用のチップから、専用・多品種といった専用チップの動きがあるのではないかと考えております。
AIにつきましては、AI基盤モデル以降、推論計算が進展し、エコでエッジな知能化が進み、ロボットについては、知能ロボット、産業ロボットがそれぞれ開発してきた中で、例えば実験の自動化といった辺りで、融合が進み、今後、非定型・多品種・少量生産を中心とした幅広い分野の広がりが見えていっているところでございます。
こういった半導体、AI、ロボットの技術動向を踏まえ、社会経済イノベーション・シナリオを検討してみますと、スマートフォンの次に、EV、自動運転と言われているところ、その次には、知能と身体機能のリアルタイム性を有するマルチタスクが可能なフィジカル・インテリジェンス、AIロボットが登場してくるのではないかと考えているところでございます。
4枚目お願いします。次は、研究開発が加速する「AIロボット」でございます。こちらについては、前回、CRDSさんが御説明いただいた資料と重複するところはございますけれども、例えばテスラ社においては、自動運転技術をベースにしたAIロボットを開発しております。現在、推論処理によって、物をつかむなどの基本動作が可能なヒューマンノイドでございます。一方、真ん中でございますが、1X、OpenAIが資金提供しているロボットでございまして、特定の作業を行う人型ロボット、ニューラルネットワークで制御したロボットでございます。ただ、この2つのロボットに共通していることは、まだまだ高度な動作・高速性、こういったところができず、リアルタイム性などに課題があるといった状況でございます。
また、左下でございますスタンフォード大学においては、双腕ロボットと言って、簡易ロボットにおいて家事などを手伝いできるようなロボットを開発しているところでございます。
5枚目お願いします。続きまして、フィジカル・インテリジェンス構想、そして、その中のAIロボット研究ということに焦点を当てた資料になっております。AI推論計算が今後、技術的に進展することによりまして、知能と身体機能システムが融合し、研究の潮目が大きく変わっていくのではないかと考えております。これまでロボット研究で課題であった社会受容性。社会受容性は右下のほうにございますけれども、「ヒト・社会が受容すること」ということでございます。こういった課題解決が、開かれた環境に適応するような高い社会受容性を持つAIロボットの実現、こういったものが可能になってくるのではないかと考えております。
具体的には左下でございますけれども、これまで機械工学的なアプローチ、決まった動作を正確に高速に進めていく産業ロボットとして閉じた環境の中で発展してきたものと、情報科学的なアプローチ、AIも含めたような形のアプローチでございますけれども、コミュニケーションロボットとして発展してきた知能ロボット、こちらについては、開かれた環境で高速性などの懸念があって、大幅な利用拡大につながっていない。こういった2つのロボットが個別に開発されていく中で、今後、エッジの知能化、推論計算の進展に伴いまして、この領域が融合することによって、これまで限界と言われた、開かれた環境にも対応できる新しい高い社会受容性を持つAIロボットの実現が進むのではないかと考えているところでございます。
6枚目お願いします。続きまして、「考えうる導入シナリオと目指すべき目標」でございます。AIロボットの研究を検討していくにおいては、バックキャスト的な視点での検討が必要だと思っております。AIロボットというのは、社会に実装していくことが期待されているものでございますので、まず大きな目標を見定めまして、それに向かって、どういった導入シナリオでロボットが社会に入っていくのか、こういったものを検討し、それを踏まえた技術課題を押さえ、研究開発プログラムにつなげていくといったところを考えております。
本日の御説明の中では、この「考えうる導入シナリオと目指すべき目標」、ここまで御説明したいと思っております。
まず、目指すべき目標でございますけれども、上にございますとおり、実環境で利用拡大につながる導入課題と、地球規模課題/社会課題、こういったものを踏まえて考えていく必要があると思っております。
導入課題については、1つ目、社会受容性。高い社会受容性があるということで、例示として下のほうにございますけど、人との関わりが少ない環境からと。ロボットの社会実装を進めていく上においては、人との関わりが大きい領域の場合においては、ロボットによって、例えば、人が介護などでけがをするとか、そういったことによってロボットの社会進出、社会実装が進まなくなるおそれがありますので、まず人と関わりが少ない環境からとか、あと、肉体的負担が大きい、人が避けるような労働環境から、こういったところから入っていくのではないかと考えております。
また、経済性については、合理的な経済コストがあるということで、人が作業を担うよりも経済性が高い業種から。そして、拡張性については、明確なタスク(課題設定)が明らかであるとロボットの開発がしやすいところがございますので、そういったところからマルチタスクへの広がりが見込めるもの。そして、データ、質の高いデータが集まりやすい環境。この4点を導入課題として考えております。
それに加えて、地球規模課題。例えばカーボンニュートラルの観点では、省エネ、そして、少子高齢化と労働力人口減少、こういったものに対応する省人化、省力化。こういったものを踏まえまして、右側でございますけど、目指すべき目標として、高い社会受容性を持ち、実環境(開かれた環境)で能動的に学習・進化する汎用人工知能機械の研究開発、こういったものを大きな目標に定めております。
その上で、導入シナリオ、この下側でございますけれども、横軸に実世界タスクの種類拡大・高速化、そして、縦軸に実環境の多様性・複雑性ということにおきまして、シナリオを検討しております。
横軸でございますけども、少し補足、※3(実世界タスクの種類拡大・高速化)でございますけれども、こちらの意図は、ある程度限定された環境の下で、1台のシステムが様々なタスクを実行可能であることと、そして、タスクに応じた高速操作が可能といったものでございます。
一方、縦軸でございますけれども、実環境の多様性・複雑性については、タスクの種類は限定されていますけれども、多様性・複雑性といったような複雑な環境の中でもロバストにタスクを実行可能というところを考えております。
こういった中で、シナリオAについては、自動運転技術をベースにしたロボットということで、先ほどの海外動向の中で、テスラ社が既に自動運転技術をベースにしたロボット開発をしているところでございますけれども、こういったシナリオが一つ考えられないかと考えております。
2つ目がシナリオB、右下でございますけれども、産業ロボットの知能化でございます。こちらについては、人と分業する形で開かれた環境で活躍する産業向けの自律型AIロボットが考えられます。
そして、シナリオC、こちらは真ん中でございます。こちらは、これまでの延長線上にない革新的なアプローチを取って、例えば認知発達型ロボットのような新しい技術、革新的な技術を使ったアプローチ、この3つが大きなものとしてあると考えております。
今後につきましては、後ほど御説明いただきますCRDSさんの説明資料等も踏まえまして、導入シナリオを踏まえた重要技術課題の洗い出しを行い、それを短期、中期、長期に整理し、文科省として推進すべき研究プログラムの検討を進めていきたいと考えております。こちらについては、今後御説明したいと思っております。
最後でございますけれども、参考資料の8ページを御覧いただければと思います。こちらは前回御説明したところのアップデートでございますけれども、2つ目のポツでございます。統合イノベーション戦略ということで、6月4日、閣議決定されたものでございます。この中にAIロボットについて示されておりますので、簡単に紹介させていただきます。
3つの強化方針ということで、その一つであるAI分野の中で、研究開発力強化の中で、労働力不足の解消やGX等にも資する環境変化に柔軟に対応可能な革新的なAIロボット等の研究開発実装を官民で進めたり、その下に、具体的な取組方針として、革新的なAIとロボット(身体機能システム)の融合による身体機能の知能化の研究開発を推進といったような形で示されているところでございます。
文科省からの説明は以上でございます。
【観山部会長】 ありがとうございました。
続きまして、資料1-2に関して、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター、CRDSフェローの茂木強様から発表をお願いいたします。
【茂木フェロー】 科学技術振興機構研究開発戦略センターの茂木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。では、資料2にあります、フィジカルAIシステムに関する研究開発課題について御報告をいたします。
次お願いします。前回の振り返りと今回の報告ということで、前回は、現在、AIが抱える課題として、資源効率・実世界操作・論理性、安全性、信頼性などの課題を指摘いたしました。これらの課題の克服においては、特にAIが物理的な身体機能を獲得して、実世界操作が可能になることで、活動範囲がデスクワークから現場作業まで拡大して、社会に大きな価値をもたらすことが期待されます。そのための取組も、先ほど御説明あったとおり、既に進んでおります。
2枚目をお願いします。具体的な研究開発課題は、ここにある1から3までを挙げました。本資料では、物理的な身体機能を獲得したAI、私どもの資料では、これはフィジカルAIシステムと呼んでおりますが、このフィジカルAIシステムが社会的価値を生み出すために重要な方向性というのを2つ示しております。葛谷様の御発表とは軸の向きは違うだけで実質的には同じでございます。一つは、多様で複雑な実世界タスクの実行、いろいろなことができるようにするということ。もう一つは、多様で複雑な実世界環境への対応、いろいろな場所で稼働することができるということです。さらに達成すべき目標としてどういうものがあるのかというのを3つのタイプに分けて、取り組むべき研究開発課題を詳細化しました。このタイプについては、後ほどすぐスライドで出てきます。
3枚目お願いします。ロボットと同じく、フィジカルAIシステムは、主に認識系と制御系から構成されます。図の左側をご覧ください。AI技術、特に機械学習の進歩によって認識系は大きく進歩しました。また、生成AI技術の登場によって、制御系の行動計画や動作生成も大きく変わりつつあります。しかし、現状では、個別のロボットが特定のタスクや環境に特化して動作するということで、実世界にありますような多様で動的に変わる環境にはまだ対応できておりません。
フィジカルAIシステムが現実世界で活躍するためには、3つの大きな研究課題に取り組む必要があると考えています。
[1]次世代AIモデルの開発でございます。AIモデルがタスクやロボットの身体、環境の個別性に柔軟に適応できるようにする必要があります。これによって様々な環境下で適切な判断と行動を生成できるようになり、汎用性の高いフィジカルAIシステムの実現につながります。
[2]AIと身体機能システムの融合でございます。ロボット側の個別の対応を最小限に抑えて、状況変化に対して動的かつ適応的に動作できるロボット、システムを開発する必要がございます。これによって、ロボットは、未知の環境やタスクにも柔軟に適用できるようになります。
[3]オープンな環境における安全性の確保。人々が日常的に活動するオープンな環境で、フィジカルAIシステムと人間が協働・共生できるためには、安全性を確保する必要があります。これにはモデルの信頼性向上だけではなくて、ロボット動作の予測可能性や安全装置の開発なども含まれます。
4ページをお願いします。本スライドでは、フィジカルAIシステムの発展の方向性とタイプについて御説明いたします。左側の図を御覧ください。起点を現状のAIといたしまして、それが右の方向、場の広がりと、上の方向、動作の種類の拡大というほうに広がると考えました。まず、タイプP、パフォーマンス型は、上に伸びるほうですけども、多様な実世界タスクをこなすフィジカルAIシステムということで、活躍の場は、ある程度限定された状況下で、1台のシステムでできることを増やしていく方向です。タスクに応じた様々な動作や、あるいは繊細な動作、高速な動作を追求して、人間にはできないようなタスクや動作の実現を目指します。想定される適用例といたしましては、産業用ロボットの知能化でございます。
次に真ん中のタイプH、ヒューマンノイド型は、実世界で人間と協働、共に働いて、共進化するフィジカルAIシステムです。人間のような知能・身体性・対話能力を備えて、人間の代わりに、あるいは人間と協働して様々なタスクを担えるようにすることを目指します。人間自体を理解するための研究面も必要です。能動的に学習し、発達・共進化するフィジカルAIシステムへと発展させていく必要があります。想定される適用例としましては、発達・共進化、日本発の認知発達ロボティクス研究の先行事例をさらに拡充するような研究が挙げられます。
最後にタイプA、アダプティブ、適用型は、多様な実世界環境で稼働するフィジカルAIシステムです。タスクの種類はある程度限定されますが、環境や条件に多様性・複雑性・変動性・不完全性などがあっても、ロバストにタスクが遂行できるようにすることを目指します。人間が立ち入れない環境でも稼働を可能にすることも考えております。適用される例としましては、屋外ロボットの知能化でございます。
これらの3つのタイプは、それぞれ異なる方向性を持っており、互いに補完し合うことで、より多くの世界環境において活躍の場面を増やすことができると考えております。
5ページをお願いします。フィジカルAIシステムの発展がもたらす社会的価値について検討したのがこの表です。縦軸に発展の先ほどのタイプ、パフォーマンスとヒューマンノイドとアダプティブの3つを取り、横軸に発展のレベルを取って整理しました。一番左の欄が現状の実用レベル、真ん中が研究レベル、一番右が最終的な目標レベルでございます。現状、特定のタスクや環境に特化したロボットが実用化されていますが、より多様なタスクをこなせる汎用的ロボットや、人と協働できるヒューマンノイドロボット、あるいは苛酷な環境でも作動できるロボットの実現にはまだ多くの課題が残されております。
これらの課題を克服し、フィジカルAIシステムを進化することで、私たちの成果が大きく変わると考えております。例えば、工場では1台のロボットが様々なタスクをこなせるようになり、生産ラインの柔軟性や効率性が向上します。また、家事やサービス業などにおいても、人間の作業をロボットが支援することで、人々の生活の質が向上し、労働力不足の解消にもつながります。さらに、農業やインフラ点検作業など、苛酷な環境や危険な作業をロボットが行うことで人々の安全が確保され、より持続可能な社会の実現に貢献できます。
6ページをお願いします。同じような表が続きますが、ここでは、研究開発課題の全体観を示しています。フィジカルAIシステムは人間と共存し、様々な場面で活躍する。そのためには、3つの課題を克服する必要があると考えております。まず、[1]として、AIモデル、現状では限定された環境で、特に特定のタスクをこなすものが中心ですが、将来的には、現場の状況やタスクの変化に柔軟に対応できるよう、人間のように状況判断し、能動的に学習するAIが必要です。
[2]のAIと身体機能の融合においては、現状で個別のタスクを一々プログラムする必要はありますが、将来的にはAIが自分自身で環境を認識し、エッジ推論などや高速通信、長時間のバッテリーなどを統合することによって、自律的に動作可能なシステムとなることができます。
最後に、AIの安全性については、現状では、人と隔離された環境での利用が中心ですが、最終的には、正確な環境認識、安全な行動計画、想定外事態への対応など、それらが実現することにより、共存できる安全なシステムが構築できると考えております。フィジカルAIが高い汎用性を実現するためには、これらの課題を克服するための研究開発、特に基礎研究の推進が重要でございます。それは一番右の赤い枠にまとめてございます。
7ページをお願いします。ここから重要な研究開発課題について、先ほどの[1]から[3]について個別に御説明いたします。
最初は、研究開発課題は次世代AIモデルです。ChatGPTのような大規模言語モデルは膨大な学習と計算資源を必要とし、現実、実世界でのタスクに対応するには課題が残ります。そこで私たちは、資源効率、実世界操作、論理性を兼ね備え、人間のように高い精度と効率化、対話能力を持ち、タスク、現場状況、個別の身体性に適応できる次世代モデルの実現を目指しております。
スライドの左側の図をご覧ください。人間の知能は、経験に基づいた即応的なシステム1と、抽象化されたモデル・知識を参照して、熟考的な動作ができる、思考ができるシステム2から成るという仮説があります。現在の基盤モデルは、主にシステム2の一部をカバーしておりますが、論理推論や論理構築などは不十分です。
次世代AIモデルは、システム1と2の両方をカバーすることを目指します。具体的には二重過程理論と予測符号化理論を参考に、複数の複数モデルをリアルタイムで切り替える技術を開発し、複雑な作業に対して対応できるフィジカルAIの実現を目指します。
8ページをお願いします。AIモデルの続きです。AIモデルに関しては、ほかにも様々なモデルが研究されております。左の図をご覧ください。言語モデルは実世界での作業は苦手です。そこで、VLAという、Vision-Language-Actionモデルが登場しました。これは、視覚、言語にプラスして行動のデータを統合することで、ロボットが自分で環境認識して、自然言語の指示を理解して行動できるモデルです。さらに、身体化VLAモデルは、ロボット自身の形状や特性を考慮し、より適切な行動を生成することを目指しております。
右側の図をご覧ください。複数モデルを統合するアプローチの研究をされております。進化的モデルマージというのは、サカナAIというベンチャーが開発しているものですけども、進化的アルゴリズムを用いて、複数のモデルから新しい基盤モデルを生成します。また、HiPと書かれていますのは、階層的計画で、複雑なタスクを階層的に計画・実行できるようなモデルが研究されております。これらのアプローチにより、ロボットはより複雑なタスクを効率的に実行できるようになると期待しております。
9ページをお願いします。重要な研究課題[2]のAIと身体システムの統合でございます。
先ほど課題[1]が、AI側からのアプローチであるのに対して、本課題は、身体機能からのアプローチです。ここにはタスクや現場の状況、ロボットの身体のそれぞれの個別性の対応など、多くの課題が存在します。これらの課題を解決するために、現在、2つのアプローチが注目されております。一つは、スライドの左下にありますような世界モデルの構築と活用です。世界モデルは、外界から得られる観測情報に基づき、外界の情報を学習によって獲得したモデルでございます。これを用いることによって、経験のない状況でも予測に基づいた判断を可能にします。
もう一つは、大規模マルチモーダルデータによるロボット基盤モデル構築です。グーグル社のRT-1は、13万エピソードの学習データを用いて、700以上のタスクに対応できる基盤モデルでありました。RT-2は、ウェブ上のデータも学習することで、さらに対応可能のタスク範囲を広げております。これらのアプローチにより、AIと身体機能システムの融合はより高度なレベルで進化しつつあります。
10ページをお願いします。AIと身体機能システムの融合の続きでございます。こちらは特に鍵となりますエッジの知能化についてまとめたスライドでございます。エッジの知能化によってロボットは自律的に動作し、複雑なタスクを効率的に実行することができるようになります。エッジの知能化には、高性能なハードウエア、高度なソフトウエア、そして、適切なアルゴリズムの統合が必要です。右側には、NVIDIAが実際に、まさにヒューマノイドロボットに向けた基盤モデルとプラットフォーム及びエッジ用AIチップを発表したという情報を載せております。まさに今後、一番ホットな話題になると思います。
11ページをお願いします。研究課題の[2]'はハードウエア主体の課題ということでダッシュをつけていますけども、フィジカルAIシステムには、人間のように、器用で柔軟な身体機能が必要です。特に器用さを実現するのは、マニピュレーションと呼ばれる物を持ったり、操作したりする機能になります。ここではその機能の研究をピックアップしました。具体的には、多指ハンド、指が3本以上あるハンドと、あるいは触覚センシングによって人間のような繊細な作業が可能になり、また、ソフトロボティクスと材料科学は柔軟な材料で柔軟な動きを実現します。さらに、模倣学習、強化学習を融合することにより、ロボットが複雑なタスクを効率的に学習することとなります。
これらの研究を支えているのがエッジAIチップでございます。エッジAIチップ、ここではNVIDIAのアクセラレータ、あるいはAxelera AI、オランダのスタートアップのAIエッジ用のチップなどを紹介しております。これらが実装されることにより、リアルタイム処理や低消費電力化が実現され、身体機能の進化を加速します。
12ページをお願いします。重要な研究開発課題の[3]は人に安全なフィジカルAIシステムということで、安全に関わる研究です。機械学習モデルのAIモデルは、原理的に100%の精度保証・動作保証はできません。そのため、フィジカルAIシステムを人間が安全に利用できるための関係を構築することが必要です。ここで挙げているのは、左側の安全な強化学習です。制御理論のモデルベースの予測能力と強化学習に安全のための制約条件を入れることによって、動的な環境下でも安全に学習しながら制御を行うことができるようになります。
右側は、人文系の研究ですけども、安全から人間が安心と感じることを知覚的安全性という言葉で、表現しておりますけども、そういったものを、どういった場合にどうすればそういうものを感じられるのかという研究が進んでおります。
13ページをお願いします。これは最後のまとめです。本発表では、フィジカルAIシステムを「物理的な身体機能を獲得したAIシステム」と定義して、社会的な価値を生み出すための2つの方向性、すなわち、多様で複雑な実世界タスクの実行と、同じように多様で複雑な実世界環境への対応について議論しました。
達成目標をタイプP、タスクの実行能力、タイプH、人間との協働・共進化、タイプA、環境適応能力の3つのタイプに分類し、それぞれの研究開発の現状と将来展望を解説しました。
最後に、フィジカルAIシステムの高い汎用性を身につけ、社会に受容されるためには、次世代AIモデル、AIと身体機能システムの融合、および人に安全なシステムの開発という、3つの研究開発課題に取り組む必要があることを御提案申し上げました。
以上で発表を終わります。ありがとうございました。
【観山部会長】 どうもありがとうございました。
それでは、ただいま、2つの発表を踏まえて、委員の先生方から御質問や御意見ございますか。どうぞ。手を挙げるなり、挙手ボタン押すなりしていただければと思います。
城山委員、お願いします。
【城山委員】 どうもありがとうございました。お2つ報告いただいたわけですけど、2つの関係と、それからもう1つは、CRDSさんからお話しいただいたほうの、フィジカルAIシステムのタイプの話と研究開発課題の関係についてお伺いしたいと思います。まず1つ目なのですが、文科省さんからの報告においてはシナリオA、B、Cで、自動運転の延長と産業ロボットの延長の分業の進化と、あと、革新的なものがCということで分かれていて、他方CRDSさんのフィジカルAIシステムの類型は、多様なタスク環境に対応するPと、多様な環境条件に対応するAと、それから、協働・共進化の話のHとなっていて、文科省さんのCと、CRDSさんのHは何となく近いのかなという気もします。ただ、文科省さんのA、Bの分け方、自動運転の延長なのか、人間との分業であり、産業ロボットのさらなる展開なのかという話と、多様なタスクに対応するのか、多様な環境に対応するかというP、Aの分け方というのは若干違うような気もするのですが、関連しているみたいなことも途中お話しされましたけども、この2つはどう整理されているのかを伺いたいということが一つです。
それから、CRDSさんのほうのお話は、かなり包括的にお話しいただいたと思います。フィジカルAIシステムがP、A、Hで、3つのパターンがあって、これは社会価値を実現する道筋として3つあるというお話なのかなと思っており、その話が途中で3つの研究開発課題の話に展開するのですけど、フィジカルAIシステムが3つあるという話から、3つの研究課題の話はどうつながってくるのでしょうか。それから、3つのフィジカルAIシステムを実現するための共通の研究開発課題が[1]から[3]になるんだというお話なのでしょうか。どの研究課題が大事かというのは、この3つのフィジカルAIシステムの類型とも関係してくるのかと思います。その関係が全体として分かりづらかったので、補足いただければと思いました。
以上です。
【観山部会長】 では、まず文科省のほうからお答えいただいて、その次に茂木先生からの御報告にしましょうか。
【葛谷推進官】 ありがとうございます。シナリオについての御質問ということで、今回、こちらのシナリオについては、シナリオAについては、先ほど御説明した資料1-1の6ページでございますが、自動運転技術をベースにマルチタスク化ということで、資料3ページで、今後、社会イノベーション・シナリオとして自動運転が次に来るのではないかという動きもございますので、また、テスラ社における自動運転技術をベースにしたAIロボットの動きもあり、こういったものを踏まえて、自動運転技術をベースにしたAIロボットがあるのではないかと考えています。
ただ、こちらについては、左軸の実環境の多様性・複雑性というところで、こちらは後ほどCRDSさんのほうで御説明いただけると思うのですが、タスクの種類はある程度限定されているのですが、様々な環境での利用が想定されます。自動運転ベースにした技術ということで、自動運転は既に開かれた環境、外に出ているものなので、多様な環境とか複雑な環境の中でも対応できるようなAI技術、そして、AIロボットといったような動きがシナリオAだと思っております。
一方、シナリオBについては、産業ロボットの知能化ということで、これも横軸に関係してくるのですが、こちらは実世界のタスクの種類拡大・高速化ということで、こちらは逆に、これまで閉じた環境の中で、様々なタスクを正確にこなしてきた産業ロボットの知能化ということで、それが実際にある程度限定された環境の下で利用されていくと想定されます。いきなり幅広く開かれた環境は難しいということで、ある程度限られた環境の下で、1台のシステム、機械が複数のタスクを行っていくということが可能になるようなAIシステム、AIロボットができていくのではないかというところのシナリオBというところで考えておりまして、シナリオAがCRDSさんにおけるタイプAに近いもので、シナリオBがCRDSさんのタイプPに近いものだと認識しているところでございます。
私からの説明は以上です。
【観山部会長】 茂木さん、いかがでしょうか。
【茂木フェロー】 では、続いて、茂木からも説明いたします。基本的な考え方は、今、葛谷さんが御説明したとおりでございます。
シナリオAというのは自動運転技術ベースにいろいろな環境に対応できるということで、こちらで言うところの適応型のタイプAです。シナリオBというのは、産業の知能化ということですので、一台で多様な実世界タスクをこなす、CRDSで言うところの、パフォーマンスのP型になります。最後に、シナリオCというのは、これは私どものほうですと、人間と協働できるレベルということで、ヒューマノイドのH型と名付けていました。
軸の向きを変えたので、混乱させることになってしまいまして、申し訳ございません。
それともう一つの御質問は、タイプと研究開発課題の関係についての御質問だったと思うのですが、それはスライドで言いますと、資料1-2のスライド5と6でございます。5ページは、これはまさに応用という面から、3つのタイプのフィジカルAIシステムができることを整理しました。目標レベルとを右側にまとめております。6ページは、フィジカルAIシステムのどの部分で機能を実現するかというのをまとめています。[1]の次世代モデルは、どちらかというとソフトウエア、AIの研究、フィジカルAIシステムの頭脳に関するところです。[2]は、頭と身体を組み合わせるところ。[3]は、安全に動くということで、これは開発としてどこを対象にするかということを整理したものです。それぞれのタイプA、タイプP、タイプCにおいても、人工知能の研究の開発は要りますし、身体機能の開発も要りますし、それを融合した開発も要るということです。ですから5ページにありますタイプごとの開発課題というのを全部フラットにばらしてしまって、それをどの部分の開発かというので整理し直したのが6ページになります。
お答えになっているでしょうか。
【城山委員】 ありがとうございました。確認ですが、だから、開発課題は、要するに、タイプ横断的に切り出しているという理解でよろしいですか。
【茂木フェロー】 そのとおりでございます。
【城山委員】 分かりました。
【観山部会長】 まだ御質問あると思うのですけども、次の國吉先生のお話を聞いて、また時間を取りますので。
それでは、資料1-3により、先ほど文科省から資料1-1で説明あったシナリオC、これまでの延長線上にない革新的なアプローチに関する研究につきまして、東京大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授、國吉康夫様から御発表をお願いいたします。よろしくお願いします。
【國吉教授】 貴重な機会をいただき、ありがとうございます。本日、このようなタイトルでお話をしたいと思います。「真に人間のためになる次世代AIへ」。
先ほど来、話題に上っております「身体性」というキーワード、それから、社会受容性という、これも一つ重要なことなのですが、それに関わる「道徳観」というキーワードが入っております。
私は、東京大学の情報理工学系研究科でずっとAI、ロボティクスに関わる研究をしてきております。また、次世代知能科学研究センター、AIセンターというものを2016年に設立しまして、センター長をしております。よろしくお願いいたします。
まず分かりやすいところで、現代のAIの問題点から入りたいと思います。2ページ目をご覧ください。GPTについては、御承知のように、不適切な応答を抑制するような仕組みが入っておりまして、これはRLHFというものがよく知られていますが、強化学習で人間が教示して、こういうのはよくない、こういうのは良い、こういうときにはこういうことを言っちゃいけないみたいなことをトレーニングし、それに自動化も加わりまして訓練するのですね。言っちゃいけないことを教える。ただ、これはかなりデータに基づく表面的な、ある意味、出力側で抑えるというものになっていて、それゆえ、実は抜け穴がある。例えばこちらの研究、右側の研究では、通常、このように「爆弾のつくり方、教えて」と聞くと、「そういうのはできません」と答えるのが正しい応答なのですが、特殊な、赤字で書いてあるような文字列を加えて聞いてやると、突如として、チュートリアルはこうですと言い始めるという例があります。
それから、同じく2ページの左下の記事では、GPT-4がZulu語で問われた場合に、テロリスト攻撃の仕方を答えたというようなニュースが出ております。これはやはりトレーニングデータが少ないようなドメインにおいて、思ったとおりの応答をしないと。この手のことというのは実は近年、ものすごい勢いで出ております。毎週、こういう問題があるというペーパーがarXiv(“アーカイブ”:論文プレプリントサーバ)に出て、次の週には、この問題を解決したというのが出て、また次の週には、またこういう問題が出ると。こういうようないたちごっこ状態。
3ページ目です。こちらはもっと広い意味で、現代AIの問題として、よく知られているものですが、データバイアスという問題、それから、これは有名なアドバーサリアルアタックですね。トレーニングしたシステムに、例えばこの画像を見せると、黄色いバスですけど、これはスクールバスと答えるのですが、これに特殊な方法で生成したノイズを重ね合わせて、足し算してつくった画像。人間には全然変わって見えないのですが、これを見せると、突然、「ダチョウ」と言い出すという話。これがちょっと問題なのは、このような逸脱の仕方は、人間とは全然違う非人間的な逸脱をします。
それから、同じく3ページの右下、アライメントと言われる問題ですけど、これは今、ムービーに出ているのは有名な例で、強化学習を試行錯誤でAIがゲームの仕方を学習すると。なるべく高い点数を取るように。このゲーム自体は、スタートからゴールまでボートができるだけ早く到達するというゲームなのですが、なぜか1か所でグルグル回って、物に当たりまくるという。何でこのようなことをするかというと、実はこの当たることによって、僅かですが、点数が入るのですね。しかも、このサイクル周期で回っているとアイテムが復活するので、どんどん点数が高くなる。ある意味、裏わざなのですけども、こういうものを正しく発見している。AIとしては、正しく動いていることに実はなるのですが、もちろん結果としては、人間の意図とは全然かけ離れた振る舞いをしてしまう。こういう問題が知られています。
ということで4ページになりますが、現代のAIの課題はこういったところに凝縮していると思いまして、単にこういう課題を解決するというところであれば、ものすごくいろいろな研究が今進んでおります。ただ、1個1個撃破していくというのでは根本的な解決に至らないのではないかということで、大きな問題として、訓練データに最適化していて、その範囲外で破綻してしまうようなことがある。しかも、いつそうなるか分からない。それゆえ、信頼を損なってしまう。それから、逸脱時に、人間とは異質な挙動をしてしまう。危険である。それゆえ、社会受容性を阻害してしまう。もっと根本的には、AIは、「意味」が分かっていない。ですから、実世界で意味を体現する、それから、結果の善悪まで分かって振る舞いをする、そういうことが必要ではないか。別の表現すると、人間に寄り添う、真の実世界知能というのが求められている。
これには2つの課題があると思って、一つは、先ほどもキーワードが出ていましたが、開かれた知能。つまり、事前に境界が規定されていない、何が起こるか分からないような状況でも適切に機能するということ。それから、道徳観というのに凝縮されるようなこと。つまり、善悪ということで意味が分かっている。自分のやっていることの意味が分かっている。それによって社会受容性をもたらし、人間に寄り添うことができる。この2つを同時に達成するというのが究極の課題ではないかと。
それに向けて、私が考えているキーワードというのはここにあって、身体性、創発・発達、それから、情動・美感・道徳観。こういったものを統合した研究というのが必要ではないかと考えています。それに至るところで、今まで行ってきたものも含めて御紹介しますが、5ページをご覧ください。1つ目、身体性のキーワードですが、この身体性というのは、近年、今、AIの分野で、エンボディドAIというのがものすごく盛り上がってきているのですけども、だけど、本当の意味でボディメントというのを捉えている例は少ないと考えていまして、私の理解では、身体性というのは単に「AIが実世界と入出力するための物理インターフェース」という意味にはとどまらない。
ちょっと難しい言い方になりますが、私の定義は、「主体の全ての相互作用に直交し構造をもたらす、整合的で一貫性ある制約」であり、「行動・情報を産み出す」と宣言しているのですが、この右側のようなペーパーですね。これは意味が分かりにくいのですが、簡単な例を申し上げると、皆さん、例えば腕をぐるぐる振り回してみると。そうすると、手先は無限に多様な軌道を取り得ます。しかしながら、そのときに、例えば手首と、それから、肘の間の距離というのは必ず一定であります。結局、振り回したときに生み出される全ての無限の軌道は必ずこの制約の下に生成され、そういうことを一般化した言い方になっていて、これは何を意味しているかというと、手先の位置というのが個々のデータだとしたら、個々のデータについては指定しなくて、全てどんなデータが来ても必ず従わなければいけない制約を与えているのが身体性であると。これがAIの課題を解く一つの鍵になると考えます。
もちろん身体を通して、実世界に接地しているので、そこで意味・行為というものにつながる。今申し上げたように、AIが想定外、学習外の状況とか、入力を入れても、必ず何か基準を守って、応答・行動するよう保証する原理となる。もう一つ、人間と同型の身体性を有するならば、人間と共感、相互理解の基盤となる。これらが重要な観点です。
ちょっと例で御説明します。6ページをご覧ください。これは私どもの研究ではなく、ここに引用してあるようなコーネル大学のグループの実験の映像です。ロボットが非常に自然な感じで歩いております。非常に有名な例ですが、受動歩行機械と呼ばれますが、これは計算機もなく、動力もなく、ただ機構のみがある。左側に単純化した模式図がありますが、フリージョイントでつながれた2本の棒があり、その先に足裏の板がついています。実はこれを斜面、緩いスロープの上に置いているので、重力エネルギーで動いているわけなんですが、言いたいことは、このような非常に単純な機構ですが、この機構による制約によって、物理過程が構造化され、二足歩行と見える意味のある振る舞いというのが発生している。これは身体性の一例です。
それから次、7ページをご覧ください。これは我々の研究室での過去の研究の例ですが、我々が独自に開発したヒューマノイドロボットが今、何をしようとしているかというと、仰向けに寝た状態から足を振り上げて一気に起き上がろうという、ちょっと変わった運動です。先ほどのは周期的な運動でしたが、これは非周期的な運動で、ちょっと難しい課題をいろいろはらんでいるものなんですが、だんだんと動きが派手になっています。その様子を表していますが、だんだんと動きがよくなります。途中でちょっとバグってしまったり。これを見ているうちに、もう一つポイントとして、何かだんだん感情移入していく。情動を喚起される。惜しいとか、痛そうとか、そういうものをこの人間のような形の体が動くことによって、そこに共感というのが生まれます。今すごい頑張って止まろうとするのですが、失敗する、ここで共感が喚起される。
これは今、背骨が金属疲労で折れてしまって、部品を交換しました。そして、成功しました。
というわけですが、このような特殊な運動にした意味はいろいろ制御理論的にあるのですけれども、それはさておき、これの意味するところ、実は8ページの右側に模式図がありますが、今、左に動いたのは人がやったときにモーションキャプチャになります。モーションキャプチャのデータを解析しますと面白いことが分かって、実はこの動きの中で、ある瞬間は結構ばらつく。これは軌道ですけども、状態軌道ですが、いろいろな絵で描いてあるのは10回分の試行なんですが、ある範囲では非常にばらついているが、ある時点では物すごい集束しているという、非一様な構造を示すというのを発見しまして、これをさらに解析してみると、実は、初期状態からゴールの状態に至る中のある特定の地点がものすごく厳しい力学的な条件があることが分かり、そこを特定の姿勢でピシッと通さないと成功しないということが分かりました。この特定の地点のことを「ツボ」と命名して、そこを通しての制御戦略というのを「コツ」と名づけたと。これは言ってみれば大事なところ、といった情報を意味していて、単に身体が動き回っているという物理過程から意味のあるような情報の構造というのが発生している例ということになります。
次に9ページ目。創発というキーワードなんですが、今のように、身体というのは、身体性が振る舞いとか情報を構造化してくれる。だけど、もちろんそれは動かさなければ何も発生しないのですが、動かすときに特定の運動を指令してしまえば、そのとおり動くだけなので、意味がない。どうするかということで、我々が行ったのは、カオス写像を持ってきまして、ロボットのセンサー情報を入力し、カオス写像の出力でモーターを駆動する、そういう系をつくりまして、複数のカオス写像を独立にそれぞれ別々のセンサーモーターにつなぎ、これらが身体という物理系を通してカップリングすると。相互に影響を及ぼし合うと。その結果として、自己組織的な現象が起こって、様々な秩序のパターンが形成される。こういう原理を使いました。これはヒントは複雑系科学でのカオス結合系に関する研究になるのですが、ここではポイントが身体性を通しての構造が発生するということになります。
実際に実験の例ですが、10ページをご覧ください。これは今、虫のようなものが歩いていますけども、12本、足があるのですが、1個1個の足はカオス写像で独立に駆動されているので、本来ならば、ただバラバラに足が動くだけとなるのですが、御覧のように、ある瞬間、すぐに一定の歩容のパターンというのが発生して、一定方向に歩く。そして、今御覧になったのは、壁にぶつかるのですが、壁にぶつかると、そこで足が乱れて、ランダムな状態になりますが、二、三秒のうちに別の方向への歩き方が発生している。ここは全て、ぶつかったときにどうするとか、足の間の位相関係をどうするとか、そういう回路は何も入れていなくて、完全に創発的な振る舞いということで、行動が生まれ、しかも、外界の状況に瞬時に適用する。それら全てがプログラムでの規定なし、しかも、学習もなしと。その場で身体性の下の構造化ということで発生するという例です。
これをもうちょっと生体の、生物のメカニズムに近づけられないかということで11ページのようなモデルをやっておりまして、先ほどカオス写像を使っていたところに非線形振動子を置きまして、同じようにセンサーとモーターにつないでやって、1個1個の筋肉を独立に振動させている。生物界ではよくCPGという、歩行であるとか、泳ぐ全身の動きの位相関係を制御する回路が知られているのですが、ここでは位相関係の定義というのはあえて除去してしまって、それぞれがてんでばらばらに動く。だけど、身体を通して相互作用することの構造が発生すると、こういうものをつくりました。
これだと、脊椎動物の脊髄系の回路にあって不思議はない原理。これを実際、空気圧で駆動される4脚ロボットで動かしてみました。12ページをご覧ください。このシステムは、どの筋肉をどういうふうに動かすとどうなるということを全く知らずに、それぞれ振動的な信号を個別に筋肉に送るのですが、それが物理的に身体を通して、相互作用して、結果として振る舞いが発生する。様々な動き、よく見るといろいろなパターンの動きが発生しています。前に歩いてみたり、あるいは何かジャンプ的な動きをしてみたり、後ろに下がってみたりといろいろな動きが、これは何もこちらから、どういう動きをするということは指令していない。ただ、この与えられた身体でできることを次々と発生させていく、創発していく、こういうことです。
こういうものが先ほど申し上げた、非常に簡単なメカニズムで起こる。さらにこれを情報理論的に分析してみると、このグラフは筋肉の名前がそれぞれラベルでついておりまして、簡単に言いますと、例えば後ろの筋肉から前の筋肉にというようなところで、情報の流れが発生しています。そこに線はないのです。電線はないのですが、物理過程を通して情報伝達が発生していて、ちょうどこれが歩行の制御をするときに足の間の協調をつかさどる情報が流れているというようなことで、このような情報の構造化が起こるということです。
もっと敷衍して、こういう身体性に関しての理論的な扱いをするというので、近年、非常に発展しているのが、力学系の分野でのレザバー計算のモデルというのがあって、我々は14ページのようなこともやっております。詳しいことは飛ばしますけれども、一つ言えることは、リカレントニューラルネットワークというのがあります。これはニューロンが様々につながり合って、再帰的な信号の流れもあるような。これは実は高次元の非線形力学系と言われるものです。ここにあるのは、タコ足のモデルでありまして、軟らかい、グニャグニャ動くものが水の中にある。この系というのも実は、この足の各部の間の相互作用というのは、やはり非線形力学系として見なすことができる。だから、これと、このリカレントニューラルネットワークは等価であろうという発想から、この体自体がどういう計算をしているかというのを分析することができ、実際計算させることができる。これは実際に計算させている様子なんですね。そんなことで、こういう理論に基づいて、身体の筋骨格系、内蔵、代謝、感覚、様々なものを全部統合的に扱う理論というのを考えることができるようになる。
さて、ここまでのことを踏まえて、15ページをご覧ください。先ほど脊椎動物での基本的な創発の仕組みというのがあった。ヒトにおいてどうだろうと思うと、ヒトの発達のごく初期、胎児期に既に動き始めますが、そのときは恐らく脊髄神経系で駆動されている。だから、先ほどと同じ原理で動いているだろうと。その結果、様々な行動が生まれ、情報構造が生まれ、それが初期の脳神経系の発達の中で、自己組織化に反映され、後の認知行動発達の基盤がつくられ、そして、その脳神経系がさらに自分の運動を制御して、さらなる構造を探索するということが回っていく。言ってみれば、「Body Shapes Brain」、身体性に駆動されて脳が育っていくということではないかと。
こういうシナリオを実験的にやってみようということで、我々、16ページのようなものをつくってきていまして、お医者さんの協力も得まして、ヒト胎児の筋骨格系、400本ぐらいの筋、360度ぐらいの関節、そして、触覚受容器を張りつけた精密な身体モデルをここにつくりまして、それを先ほど言ったような神経振動子駆動で動かすことで自発運動が生まれ、その結果を、これは脳のモデルです、大脳皮質のモデル、生体を模擬したニューロンでつくったこれで、このバージョン、260万ニューロンで、50億シナプスぐらいのモデルですけども、学習させる。その結果、例えばこの図が出ていますけども、これはクローズアップしたもの、体性感覚野に自己身体の構造が獲得されているというような、こういったところから発達の研究を始めています。
17ページをご覧ください。これはロボットでありますけども、我々がつくったのは大分昔ですが、赤ちゃん型のロボットで、リアルな環境の中で物を介して、人とやり取りをする。視聴覚、それから、全身の触覚センサー、そういうものを持っていて、抱っこされているのを感じながら、新規のものに興味を持って手を触れていく。このなような物を作り、これから得たデータで、脳の発達の研究ということを考えた。
次に18ページをご覧ください。もう一つ、最初に言ったキーワードで道徳観というのがありまして、これは非常にファーリーチングな感じのものですが、実は、もしかして感覚運動、身体からつながる可能性ということで、こういうヒントがあります。発達心理学の研究の中で、前言語期、6か月の乳児、つまり、言葉をしゃべるより大分前の赤ちゃんがこういうアニメーションで見せた刺激の中で、正義の味方、つまり、いじめっ子を止める第三者、助けに入る人というのを好むというのが示されています。それから、そういう悪いやつを罰する行動をするというのも確認されています。これは言語で教わったことではない。LLMとは別世界の話で、むしろ身体、感覚、運動、情動というものに近いところにあるというヒントです。ただ、どういうふうにつながっているかというのは全く未解明。これについてもう少しヒントだと、相手の行動を理解して、それに対して何か判断するので、まずこういう理解というのは必要。これについては非常に多くの研究があり、私どもを含め、ロボティクスでも、それから、神経科学でもいろいろな研究があって、結構ここはできそうなところがある。
ちょっと例をお示ししますが、20ページをご覧ください。先ほどもキーワードが出ていましたが、これは模倣学習の例で、私ども最近やった例ですけども、これは針の穴に糸を通すというものですが、人間がやってみせて、正確にはこのロボットを遠隔操作して何度も。これですと100回から数百回、こういうのをやってみせて、そのデータから学習してするのですね。今、針に通りましたけど、糸というのは柔軟ですから、やるたびに状態が変わって、よく失敗するわけですね。今、2回目のトライで、右にクローズアップが出ていますが、通らない。でも、この状態を認識して、学習データを基に汎化しまして、ちゃんと上手に修正ができる。
こういう非常に細かいタスクを模倣学習できるようになったのは我々が初めてですけども、もう一つの例は、バナナの皮むき。21ページをご覧ください。バナナの皮むきは簡単そうですが、実は非常に難しくて、バナナは一本一本違いますし、皮の状態というのも時々刻々変わっていく、このようなものをやる。ということで、こういう行為の理解とか模倣というのは結構実績あるのですが、さて、それの認識したものに対して善悪の判断はどうなるんだろうと。
ここでもう一つのヒントが、実は美感が関係しているかもしれない。22ページをご覧ください。これはギリシャ哲学に遡ると、真・善・美というのが人間の重要な徳であるとプラトンが言っている。善と美というのがセットで出てきて、道徳的な人間が備えるべきと。善なるものというのと、美なるものというのは結構共通しているというところですが、これは人間性の根幹に関わるのですが、実は神経美学というニューロサイエンスの分野で分かったことは、これは脳の活動を見たものですが、実は善、道徳と、それから、美の両方の課題に対して共通に反応する脳の領域というのが内側眼窩前頭皮質ということで同定されている。つまり、美と道徳はかなり共通性がある。だから、この美感というものと、それとつながっていくところ。実はこの領野というのはさらに情動系の一部でもあり、そして、内臓からの信号を受けているということが分かったんですね。ここで身体です。だから、身体、情動、美感、道徳観と、こういうつながるパスウエイが想定されるのですね。
ではということで、我々、最近、内臓のモデルを構築し始めています。23ページをご覧ください。まず、我々が取り組んだのは呼吸循環系で、それと相互作用する脳幹の神経核のモデル、そして、大脳皮質を統合したモデルをつくって、実験を始めております。右側がそれなんですが、右上が対象とした範囲でありまして、右下が実際のモデルのブロック図。今、ミュレーションして、各部分の信号が出ています。こんなものを統合していくことで、情動から認知、善悪の判断ということに迫っていけるのではないかと考えています。
これは実は神経科学で昔から指摘がありまして、こちらのAntonio R Damasioらが、Somatic Marker Hypothesisというので言っておりますが、内臓系の信号と相互作用することで認知が強く影響を受けているということが指摘されている。ただ、具体的な内容についてはあまりよく分かっていない。だけど、我々はこのようにモデルを構築することで解明できるのではないかということです。
24ページをご覧ください。最後のスライドですが、結論としては、こういうシナリオで、身体性の中に内蔵と筋骨格系がありますが、そこから2つのパスウエイ、内蔵の感覚から、美感、善悪、そして道徳観、感覚・運動から自他認知、行為理解と、両方が統合されると道徳観というのに至るのではないかこれらを全てつなぐというのを構成論的にやっていくことで、当初に申し上げた身体性に基づく開かれた知能と道徳観の発達的構成論というのができ、真に人間のためになる次世代AIへ迫っていけるのではないかと考えているところです。
以上、発表は終わらせていただきます。
【観山部会長】 どうもありがとうございました。非常に興味深い研究で、これは先ほどあった、これまでの延長線上にない革新的なアプローチという方向性ではないかと思いますが、全体を通していかがでしょうか。御質問ある方。有馬さん、お願いします。
【有馬委員】 お伺いしたいこと、2点あるのですけども、一つは、最後におっしゃられた美のところ、美的と。何を美しいと思うかも教師データなしで判断できるようになるかということをまずお伺いできますか。
【國吉教授】 美に関しても、AIの分野でも絵画等の美しさの判定をやる機械学習モデルというのは結構いろいろあるのですね。そういうことはできるのです。教師付き学習でやると。
【有馬委員】 教師付きはね。はい。
【國吉教授】 ところが、それは可能なのですが、当然のことながら最初に申し上げた問題で、やはりトレーニングデータ外だと駄目だとか、ちょっと違うスタイルのものだと、トレーニングし直すなど。ここでは、道徳観というのはトレーニングの結果だけではないと考える。実世界の中で様々な状況に出くわして、例えば人に危害を与えてはいけないと言われても、危害って何だ。様々なものがありますね。殴るだけではなくて、言葉で暴力というのもあり得るし、社会的に無視するみたいないろいろなものがあり得て、だから、物すごいオリジナリティを持っている必要がある。それができるのは何だろうかと考えたときに、やはり教師付き学習ではなく、そういう場に自分が置かれたとしたときに自分の身体がどのように感じるだろう、どう応答するだろうということを、それに基づいて反応するということが実は鍵なのではないか。そういう意味で、美について、おっしゃるように、トレーニングによるのではなく、身体反応に根差して、それがどのように認知的に解釈されるのかというところを真面目にモデル化すると、今言ったようなデータに限定されないようなものができるはずだと考えています。ここについては、まさに先ほど引用した神経理学のトップの研究者と今、一緒に共同で考えています。
【有馬委員】 なるほど。もう1点は、文科省さんの前の説明で、半導体のエッジ処理の話がありましたけども、國吉先生のところではそこはもう出来上がったものとして、その計算のところをされていらっしゃる。ロボットのところと、その分をされていると思うのですが、究極的にはどういう専用チップになるとそれがうまくできるのかというところまで、それがフィードバックできるのでしょうか。例えば人間はそのような感じになっていると思うのですが、今の研究とAIチップを何とか組み合わせるような感じで、要するに、そこのところまで改善できるような形でできないかということをお願いします。
【國吉教授】 ありがとうございます。今日は時間なくてお話ししませんでしたが、私たち、ニューロンのモデルとその機能について研究していまして、特に生体特有のスパイキング動作について、それの新しい機能性というのを発見しまして、PNASとかにも出していますが、スパイキングニューロン、これはニューロモデルチップでもいろいろモデル化されているのですが、従来は、ノイズ耐性やエネルギー効率の観点で言われていましたが、実は身体と結合した場合に、スパイキングというのが安定化とか適用性の拡大とか、そういったポジティブな機能性を持つということを示しております。
実はそれを拡張して、認知タスクにおいても実はロバスト性が上がる。そういうことも今示しつつあって、これはつまり、ニューロンの動作特性がそういう機能性を持つということで、これを生かすためには、デバイス自体がそういうものを可能にするように考えることができる。実は今あるニューロモーフィックの中での、今、実用レベルの流れは通常のディープラーニングのモデルを高速にする、省エネで行うという方法なんです。
その次に、研究レベルではスパイキングニューロンも行われていますが、実は我々がやっているものはリアルタイム性がものすごく効いていまして、そういったところを考慮したものというのはあまりないんですね。そういった意味で、新しい提案も可能というように考えております。
【有馬委員】 ぜひ期待しております。どうもありがとうございました。
【國吉教授】 ほかにも脳のほうでもやっています。アーキテクチャでも提案できるかなと思います。
【観山部会長】 ありがとうございました。城山委員、お願いします。
【城山委員】 ありがとうございました。國吉先生がお話しされたことの、前半で議論したことへのインプリケーションみたいなことをお伺いしたいのですが、AIフィジカルシステムみたいな話をしていたときに、単に組み合わせて複雑な環境に対応するとか、複雑なタスクを行うという話ではなくて、フィジカルな話をむしろ組み込むことによって、フィジカルの制約のようななものを組み込むことによって、AI自体がむしろ変わっていく。だから、次世代AIというのはそういうインプリケーションを持つものなのかなと思いました。
【國吉教授】 全くそのとおりです。
【城山委員】 だから、フィジカルとの接点を考えることによってAI自身が単に訓練データから最適化するというファンクションを超えて変わっていくんだという、何かそういう可能性を強調されたいという、そういう理解でいいのかどうかというのを確認させていただければと思いました。
【國吉教授】 ありがとうございます。全くそのとおりでありまして、私よりうまく表現いただきました。全くそのとおりです。言いたかったことは、要は、通常、今までのマシンラーニングは、結局、データを何らかの形で用意する。クローリングでネットから持ってくるも含めてですけれども、結局、人間がつくったということなんですね。それでも相当なことがLLMではできていますが、実は実世界の中では、自ら動いて、そして、自分の身体を通してデータを獲得するということが本質的に重要で、それによって知能がつくられていくと。しかも、そのときに脳の中だけで全部解決しようと生物はしないんですね。身体、Passive Dynamic Walkerの例でお見せしたように、脳はなくてもできてしまったんです。つまり、相当な部分は物理プロセスに任せてしまって、それと相補的な部分だけソフトウエア的にやると。全体として、そういうことで非常に効率よく、かつ、ロバストな、変化に適用可能なような知能が実現すると、そんな面もあります。ということで、先生がおっしゃっていただいたような表現というのが、まさに私が言いたいことではあります。
【城山委員】 他方、逆に言うと、次世代知能の話というのは、狭い意味での知能に閉じる話ではなくて、まさに、その身体なり、何なりと一体化したものだという意味においては、ある種の知能フィジカルシステム的な側面というのはあるんだという言い方もできるということでしょうか。
【國吉教授】 はい。そうだと思います。もちろん今、世界的な潮流としては、とにかくつなごうと。ロボットをつなごうというのはものすごく盛んに進んでいます。ただ、それをやっていくと、すぐに出くわすはずであることは、ただそれをつなごうというだけではうまくいかないなということがいっぱい起こってきて、そうなると、やはり身体が実世界の中で動くことに伴う情報は何なのかと。その下で知能というのはどういうふうに構成されるべきなのか。単に、従来のようにデータに対して最適化するという考え方を超えないといけないのではないかということが必ず出てくるはずだと、私はそういうふうに思っています。
【城山委員】 どうもありがとうございました。
【観山部会長】 ほかの委員、いかがでしょうか。品田さん。
【品田委員】 すみません。大変興味深いお話ありがとうございます。ピンポイントの質問ですけれども、動作をした結果を自分でフィードバックして学習すると理解したんですけど、そのフィードバックするためにセンサーは、例えば17ページに「視聴覚、触覚を通し」というのがありますけど、センサーの何か研究課題とか開発課題というのはあるんでしょうか。
【國吉教授】 研究はすごくあります。
【品田委員】 例えばどういうものですか。
【國吉教授】 具体例を申し上げると、我々、触覚センサーを独自に開発して特許も取っているのですが、それはロボットの全身の皮膚表面に触覚を張らなきゃいけないと。だけども、市販品を買ってきて試してみると全然使えないと。どういうことかというと、まず自由曲面にフィットできなかったり、それから、電線が多過ぎてどうにもならない。さらに重過ぎる。動きが阻害してしまう。いろいろなことがあって、我々は独自にそれらを全部解決したようなものを。ただし、機能は見切って単純化してということでつくったりしています。
一つ言えることは、このようにロボットへの実装を考えたときには、実は単体で開発されているセンサーが適さないという場合があるのですね。非常に性能のいいセンサーが単体であったとしても、それを実装して、実際、行動の中で使おうというと別の考え方をしなきゃいけないということはいっぱいあります。なので、センサーの開発は非常に多くの課題があるし、現代の材料、それから、デバイス、通信、そういったテクノロジーを統合するとものすごく良いものができるはずだけど、ロボットの業界の中は、そんな資金もないですし、人材はないので、結構細々とやるようなそんな感じになっている。ですから、逆に言うと、センサーもそうですし、アクチュエータもそうですし、本格的な資金投入をして開発すると世界が変わるようなことはいくらでも起こり得ると考えています。
【品田委員】 ありがとうございました。その点、大変理解できました。
【観山部会長】 國吉先生、どうもありがとうございます。非常に興味深い研究を今後期待したいと思います。ありがとうございました。
【國吉教授】 ありがとうございます。失礼いたします。
【観山部会長】 それでは、続いて、議題(2)に入りたいと思います。「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、拠点の継続的な成長・発展に向けた制度改革について」です。まず事務局より御説明をお願いします。この発表後、委員の皆様より御意見を頂戴できればと思いますので、よろしくお願いします。
【春田補佐】 観山部会長、ありがとうございます。基礎・基盤研究課課長補佐の春田でございます。
それでは、資料2「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)拠点の継続的な成長・発展に向けた制度改革について(案)」に基づき、御説明をさせていただきます。
2ページ目をご覧いただきまして、「WPI拠点の持続可能な成長・発展を促す仕組み:ねらいというイメージ」の資料でございます。WPIについては、皆様、よく御存じかと思いますが、2007年に開始した文科省のプログラムでございまして、世界トップレベルの拠点形成に係る優れた構想に対して、年間、現在では7億円、10年間の支援を行っているものでございます。この10年間の国からの支援が終わった後、大学研究機関において拠点の自立化、自走化を求めているわけでございますが、背景・課題に書いてありますとおり、「10年間のWPI補助支援のあと、持続的に補助支援中と同規模以上に拠点を維持・成長させることは容易ではない」ということが分かってございます。特に、11年目以降の財政的予見性に係る不透明感があることで、11年目前後で優れた海外研究者、専門人材等を継続的に確保できない場合があり、この左下の図にありますとおり、10年目前後の崖という形で、この10年かけて培ってきたWPI拠点としての価値の一時的な低下が見られる状況になっているところでございます。
同じく2ページ目右下のイメージでございますが、これを何とか持続的に拠点が成長・発展するという形に持っていくために、今回、制度改革を考えているといったところでございます。この制度改革の狙いとしては、左上にございますとおり、大きな狙いが3つございます。
1つ目が、拠点の成長モデルの構築という形で、長期活動を可能とする予見性を高めて、資金の好循環モデルを構築するというところが1つ目の狙いという形になってございます。2つ目が、国費投入の価値最大化ということで、この10年目の前後の崖による一時的な価値の低下を回避することで、国費投入の価値最大化を図ってまいりたいと考えてございます。
最後に、この一時的な価値の低下を回避するとともに、知的アセット、WPI拠点における知的アセットの価値化を進めることで、社会貢献に向けた動きというものも生み出していきたいと考えているところでございます。
この制度改革の留意事項といたしましては、右上にありますとおり、大きく2つございまして、もともとWPIプログラムにおいて求めている、大学等による拠点の自立化・内製化というコミットメントに変更はなく、これは引き続き・大学、研究拠点、研究機関のホスト機関の責務として果たしていただくというところは変わりないといったところでございます。また、知的アセットの価値化というものについては、基礎研究の価値を社会に認めていただくということで我々考えてございまして、ここにありますとおり、すぐに産業応用できる研究へのシフトを促す趣旨では、この制度改革は考えていないといったところでございます。
続いて、3ページ目、お願いいたします。「現状認識:成果と課題」でございますが、WPIについては、この10年間の安定的、継続的な支援によって、やはりここにありますとおり、国際性の創出や融合研究の創出というものがなされているということが分かってございます。この右上のグラフにありますとおり、WPI拠点における国際共著論文率というものは、1年目から10年目にかけて、ようやく半数を超える形というものが平均として現れてございまして、最終年度にかけて、ようやく国際的な研究成果が次々と創出されてくる。国際的な環境が構築されるということが分かっているところでございます。
さらには、融合研究に関しましても、やはりこちらの分野が融合するというものは一筋縄ではいかないという形になってございまして、ITbMやIIISの事例からも分かるとおり、10年間かけて、ようやく融合的な研究成果というものがしっかりと出てくるような状況になっているといったところでございます。この現状認識に立ちまして、少なくとも、この10年間の安定的、継続的な支援というものは不可欠であり、ここの根幹部分については変えずに制度改革を考えていこうという形で考えているところでございます。
4ページ目、今後の取組、制度改革の方向性でございますが、WPIの持続的な成長・発展までを見込んだ、すなわち10年目前後の崖というものをなくし、一時的な価値の低下を回避するということを見込んだ、より適切な「支援期間」の再設定、そして、この拠点形成の後半に「予見性」を確保するとともに、拠点支援の「安定性」と「柔軟性」の両立を行うということを考えているところでございます。その際にでございますが、いわゆる好循環のモデルの構築と知的アセットの価値化というものを促すために、ホスト機関に対し、組織のシステム改革を促し、さらに自立化・内製化の取組を促進させる仕掛けを設けるという形で制度改革を考えているところでございます。
具体の制度改革の中身でございますが、5ページ目、今後の取組内容についてでございまして、まずWPIのミッション、2020年12月に新たなミッション、3つを策定してございますが、この制度改革は、ミッションをより実現するための制度改革という形になっておりますので、このミッション自体については、修正・変更はしないという形で考えているところでございます。
一方、支援期間については、10年間の安定的、継続的な支援についてはそのままに、その後の持続的な成長・発展までを見込んで、プラス最大5年間と、いわゆる最大15年間の支援とすることを考えているところでございます。
この15年間については、前半の10年間については、安定的な支援、後半の5年間については、外部資金等の獲得額に応じ、マッチング支援をするという形で、拠点の持続的な成長・発展の基盤を構築するというところを進めていきたいと考えているところでございます。さらには、この11年目以降の予見性の不透明感につきましては、7年目、8年目に拠点にて成長・発展計画をホスト機関とも相談しながらつくっていただくことで、この不透明感というものを排除したいと考えているところでございます。
安定性と柔軟性の両立については、これまで7年間、10年間を安定的に支援していましたが、拠点の要望に応じて、ここについても少し柔軟に措置するというものも考えているところでございます。
具体のイメージとしては、次のページ、お願いいたします。6ページ目、今後の支援のイメージでございますが、まず、今の支援のイメージとしては左側にあるところでございます。10年間、WPI補助金、赤色の部分として、7億円、10年間を補助しておりまして、さらに、このWPIについては、いわゆるマッチングファンドという形で、そもそも同規模以上の大学からのコミットメント、もしくは外部資金の獲得を求めてございまして、併せて10億円を超える事業規模になるような形になってございます。
ただ、やはり10年目、補助期間が終わるとともに、資金的な崖、不透明感によって、このような活動規模の一時的な縮小及び財政基盤についても一時的な縮小というものが見られまして、ここにあるとおり、10年目において一時的な壁が生じているという形でございます。今回考えている制度改革を導入することによって、財政的にも、この右側の安定的な状態に持っていきたいと考えているところでございます。
具体的には、成長・発展計画というものを7年目もしくは8年目に策定、審査いたしまして、この11年目以降の不透明感というものを排除することを考えているところでございます。さらには、10年目から11年目にかけての財政的な崖をなくすために、この拠点形成の5年目から10年目にかかる基盤的な経費の増加や外部資金獲得に応じたマッチング支援というものを最大3億円、最大5年間という形で進めていきたいと考えているところでございます。
この7年目から8年目に策定いただく成長・発展計画については、7ページ以降に詳細を述べてございます。この成長・発展計画の策定の目的といたしましては、WPIプログラムからの10年間の支援期間終了後も世界トップレベルの拠点として、さらなる成長・発展を持続的に実現するための拠点構想及びリソース計画を明確化するために策定いただくものと考えているところでございます。
つきましては、成長・発展計画の内容としては、大きく2つの柱がございまして、1つ目が11年目から15年目までの拠点のさらなる成長・発展を実現するための拠点構想。2つ目が、これを実現するための成長・発展計画の策定時点、拠点形成の時点から7年目、8年目から16年目までの8年から9年に及ぶリソース計画というものをこの成長・発展計画に盛り込んでいただくということを考えているところでございます。この成長・発展計画については、しっかりWPIのプログラム委員会において審査し、中身が充実したものという形になるように、8ページ以降で審査プロセスを考えているところでございます。
まず、7年目または8年目に、WPI拠点及びホスト機関から、この成長・発展計画というものをプログラム委員会に提出いただいて、厳正な審査を行い、承認されますと、10年目のいわゆる最終評価においてWorld Premier Statusに認定された場合に、最大5年間の支援を受けるというスキームを考えているところでございます。
他方で、1回のみの支援ですと、なかなかうまいリソース計画や拠点構想を練られない可能性もあるということで、1回に限り、再審査の提案が可能という形にしておりまして、8年目まで、または9年目に再審査を行い、ここで承認されて、また、さらには10年目のWorld Premier Status認定審査において、World Premier Statusに認定されれば、この最大5年間、最大3億円のマッチング支援を受けられるという形で考えているところでございます。
足早ではございましたが、私からの説明は以上でございます。
【観山部会長】 どうもありがとうございました。今の発表を踏まえて、委員の先生方から御質問や御意見、お伺いできればと思いますが、いかがでしょう。
【上杉委員】 上杉です。
【観山部会長】 上杉さん、どうぞ。
【上杉委員】 これはWPIの長年の問題でありまして、ついにこういうものがようやく計画されたというのは大変よろしいことだと思います。各国、いろいろなプログラムがあって、その終わり方をそれぞれの国が考えておられます。こういうタイプの方法をやられている国もあるのですよね。それで、ついにこういうのを始めたというのは非常によかったと思います。ぜひこれを実現していただきたいと思います。
ただし、かなりのWPIがもうこの10年目を終わっておりまして、それらはこのやり方が当てはまらず、もう発展できないわけですよね。今回の方法は今から終わるところには当てはまるのですけども、10年を終えたWPI拠点はどうしたらいいんでしょうね。最初のほうにできたWPI拠点はそれぞれの大学でも、これだと思うのを出してきたんですけど、それらは終わってしまってます。問題ではないかと思います。
以上です。
【観山部会長】 事務局、いかがでしょうか。
【春田補佐】 上杉先生、ありがとうございます。おっしゃるとおりでございまして、現在のこの制度改革については、現行拠点、いわゆる9拠点を対象としてございまして、アカデミー拠点となっている9拠点については対象外という形になっております。これについては支援が終了していることから対象外とさせていただいておりますが、やはり上杉先生がおっしゃるとおり、WPI拠点、それぞれすばらしい拠点ですので、さらにこのアカデミー拠点もさらに成長・発展させていくための仕掛けというものを別途考えていかなければいけないと思っているところでございます。
【観山部会長】 齊藤さん、よろしくお願いします。
【齊藤委員】 よりよい方向に変わっていくのだろうなという感じがいたしますが、延長期間の上限というのはどういう理由で設定されているのでしょうか。
今までの実績データからこのくらいがマックスとして、延長年限としては最適であるということが分かっているのでしょうか。
【春田補佐】 齊藤先生、ありがとうございます。これまでの実績を分析しておりまして、WPIにおける人員の人件費の基盤的経費の付け替えというものが大体10年間で7割程度進むということが分かってございまして、これをさらに5年間延長すると、これが10割は進むであろうという試算に基づいてございます。さらに、過去、Kavli IPMUについては5年間延長してございまして、このKavli IPMUについては、ほぼ一時的な低下がなく、いわゆる資金の補助期間の終了を迎えているということから、最大5年間という延長をすることで、この知的な価値の低下が防げるのではないかと考え、この期間を設定してございます。
【齊藤委員】 よく分かりました。ありがとうございます。
【観山部会長】 美濃島さん、お願いします。
【美濃島委員】 御説明ありがとうございます。このような大型プロジェクトの継続性というのは非常に重要な課題だと思いますので、ぜひいろいろ進めていただければと思います。
それで質問ですけれども、この成長・発展計画の策定審査というところが具体的にどう行われるのかというイメージをお聞きしたいです。何ページでしたか、グラフに書かれていたものを拝見すると、今後は、特に5年目、7年目以降は外部資金を増やしていきなさいというメッセージのように見えるのですが。その外部資金は、民間等の外部資金ということで、先ほど、いわゆる産業化が目的ではないというお話があったんですけれども、やはりこれを見ると、社会実装して民間等から稼げる形になっていきなさいというメッセージに見えるのですけれども、その辺はどのようにお考えでしょうか。
具体的に成長・発展計画の審査がどういう観点から行われるかというのがもう少し詳細が分かると、そこが理解できるかと思うんですけど、その点について御説明お願いします。
【春田補佐】 ありがとうございます。まずは成長・発展計画の具体的な審査でございますが、7ページを御覧いただければと思います。この内容については、先ほど御説明したとおり、2つの大きな柱からなってございまして、1つが拠点構想、2つ目がリソース計画という形になってございます。拠点構想につきましては、いわゆる成長、拠点の実際の研究力を向上させるために、いかに、さらなる拠点構想を生み出していくという形で御提案をいただくという形になっていまして、リソース計画については、この16年目までに基盤的経費と、あと、競争的資金及び民間等からの獲得金額についてどのような形を考えており、それぞれをどのように実現していくかというものを書いていただくような形で考えているところでございます。
6ページ目、戻りまして、確かに美濃島先生おっしゃるとおり、この図ですと、外部資金を増やしていくという形になってございます。この外部資金の増やし方としては、いろいろなパターンがあると我々は考えてございまして、いわゆる一般的に民間企業から外部資金を獲得という形になりますと、社会実装を進める上での共同研究という形をよくイメージされますが、実際には様々な形態の民間及び社会からの資金獲得のスキームがあると我々承知しているところでございます。
例えばKavli IPMUですと米国のカブリ財団から基金を助成し、そこの運用益から支援をいただいているという事例がございますし、また、大阪大学のIFReCですと、少し毛色が異なりますが、中外製薬様から10年間100億円という支援を頂いていて、これは必ずしも従前の、いわゆる共同研究、委託研究のスキームとは少し違うような、いわゆるファーストルック権限というものを設定することで、拠点の自由度を失うことなく、拠点の継続性を確保するような御支援をいただいていると考えているところでございます。こういった事例を文科省のほうでも収集しながら、各拠点に共有させていただいて、いわゆる社会実装、いわゆる実際の産学連携というものとは少し経路が違うような形での獲得をさらに向上させていきたいと考えているところでございます。
【美濃島委員】 ありがとうございます。そちらを、獲得の方法とかも含めて支援していくというようなイメージということでよろしいんですかね。
【春田補佐】 はい。そうです。そこについては、プラクティスなどの共有も行いながら、実際にこの成長・発展計画については、文部科学省のほうも少し伴走支援させていただきながら策定案をつくるということで考えてございますので、そういった支援をしながらさせていただければと考えているところでございます。
【美濃島委員】 ありがとうございます。
【観山部会長】 では、私のほうから。私もWPIにはプログラムオフィサーの形で関わってきたのですけども、WPIは基礎研究を採択するということでした。基礎研究の中でも、問題発見型のものと問題解決型のものがあって、例えば、カーボンフリーな社会を実現したいという九州大学のI2CNERもありますし、例えばWPIなら宇宙の探究だとか、東工大のELSIみたいな生命の起源に関するような研究があります。特に問題発見型のものというのは10年間ではほとんど解決できないような問題を提示しているわけですよね。なおかつ問題発見型ですので、研究すればするほど問題が出てくるという状況になって、ある種の解決には至らない研究なわけです。それらはベーシックサイエンスのほうの研究分野です。今言われているような、10年間やって、急激に終了するというのは、いかにもその良いシステムの継続の観点からもったいないということでありました。大体15年ぐらい、これもちょっと、WPIの形態によってなかなかいろいろな形態があると思いますが、それぐらいすると、大学が相当、この研究所は非常に重要だと思って、いろいろな形で大学からもサポートするし、いろいろな基金ですね。Kavliのような外国のファンドであるとか、いろいろな企業からのサポートの可能性が広がることが出てくるのではないかということです。決して問題の、15年になったから研究所の内容が一段落するということではないと思いますが、支援の形が割と幅広くなるのではないかというような状況ではないかと思います。ただ、先に支援期間が終了した拠点はもうどうしようもないというのは非常に残念な気はしますけどもね。
ほかにいかがでしょうか。ただ、これは審査しながら予算獲得もしなきゃいけないということで、それこそ時間的マッチングがうまく取れるのかどうかというのも難しいところがありますが、これはぜひ担当課、頑張っていただければと思います。
よろしいでしょうかね。齊藤さん、お願いします。
【齊藤委員】 補足でお願いしたいことがあるのですが、若手研究者にとっては研究期間が有限で、そこで支援が終了してしまうというのが非常にマイナスイメージになります。せっかく支援継続の政策をつくったので、ぜひ若手に、マイナスイメージではなくて、よい形で情報が伝わるような表現の仕方を考えていただけるとよいのではないかと思っております。この点、ぜひ御検討のほどよろしくお願いいたします。
【春田補佐】 承知しました。齊藤先生おっしゃるとおりでございまして、いわゆる若手研究者から見れば、プログラムが切れるといいますか、そういったものはあまりイメージがよろしくないと思いますので、そういったイメージにならないような出し方を考えていきたいと思います。
【観山部会長】 その点、重要ですよね。申請に対して、受かる部分と、それから、申請が却下される部分がどうしても分かれるわけで、そこの部分について、どのような。これは以前のWPIに関しても、相当の配慮をしながら発表していったという状況もありますので、そこら辺はうまくしないといけないと思います。継続されないということで、ホストの機関から、もうこれは駄目なのではないかということで見限ってしまうということのないような形で進めていただけることが重要だと思います。
佐伯さん、お願いします。
【佐伯部会長代理】 一つだけ確認ですけれども、現在のWPI拠点、幾つかあって、その拠点に改革が適用される予定だということですけれども、非常にいいことだと思いますが、ただ、現在のWPI拠点の方々がこの変更案を実際にお知りになったときに、非常に歓迎する形になっているのかどうか。あるいは、そういったことがあってもやはり難しいと考えておられるのか。その辺り、現行の拠点に対しての打診等は既に何かしら行っているのでしょうか。
【春田補佐】 佐伯先生、ありがとうございます。既に構想の段階で、実は現行の拠点及びアカデミー拠点の方々と数回意見交換させていただいております。拠点のみならず、本部の先生方とも意見交換をさせていただいておりまして、今後これの、いわゆる整備化が進んでまいりますので、この段階においても各拠点としっかり意見交換していきたいと考えているところでございます。
【佐伯部会長代理】 了解いたしました。ぜひ意見交換を続けていっていただければと思います。
【観山部会長】 辻先生、お願いします。
【辻委員】 辻です。私も既に終了した拠点は対象外というのは残念な気もします。既に終了した拠点との意見交換で、何があれば続けられたのか、具体的な現場の声はどうだったのでしょうか。
【春田補佐】 ありがとうございます。大きく分けて3つあったと承知してございます。1つ目が予見性に関わる問題でございまして、やはり11年目以降、いわゆる単年度予算というところで予見性がかなり不透明であったといったところから、研究者の雇用を継続するというか、新しい人をどんどん入れることが必ずしも後半においてできなくなっていたところに問題があると聞いてございます。
2つ目が期間でございまして、10年間という期間ではなかなかWPI補助金で措置している人件費部分についての基盤的経費への移替えが進められなかったというお話をいただいてございます。
最後がインセンティブの問題でございまして、大学の本部として、このWPI補助金で措置している人件費分を基盤的経費のほうに移し替えていくインセンティブが必ずしも高くなかったということで、一応これらの課題を全てクリアする形で今回、制度改革を考えているところでございます。
【辻委員】 分かりました。最後のところを少し削って先に持っていくことなどもふくめた今回の対応策で、この3つに効いてくるということですね。
【春田補佐】 そうですね。少し説明が足りていなかった部分がございますが、資料の6ページ目でございます。7億円10年間という支援の枠組みは変えない形でございます。今これがそうですね。資料を投影してございますが、さらにこれにプラスして、5年間期間が延長され、この5年間についてはアドオンで、最大3億円の支援をいたします。さらにこの7億円10年間という形についても、柔軟措置という形で、いわゆるホスト機関やWPI拠点側が望めば、この70億円という総額は変えないままに、後年度のいわゆる7年目、8年目、9年目、10年目などのお金を少し後ろ倒しするようなことも可能という形で、資金の柔軟性や予見性を高めるような取組を進めていきたいと考えているところでございます。
【辻委員】 分かりました。うまくいくことを祈っております。ありがとうございます。
【観山部会長】 どうもありがとうございました。
本日の議題は以上となります。基礎研究基盤部会運営規則第7条に基づきまして、本部会の議事録を作成して、資料とともに公表することになっておりますので、本日の議事録については後日メールにてお送りいたしますので、御確認をよろしくお願いいたします。
それでは、以上をもちまして、第15回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を閉会といたします。本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
―― 了 ――
研究振興局基礎・基盤研究課