基礎研究振興部会(第14回) 議事録

1.日時

令和6年5月16日(木曜日)16時00分~18時00分

2.場所

オンライン開催

3.議題

  1. EIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議の設置について
  2. AIの研究開発力強化の方向性について

4.出席者

委員

観山部会長、佐伯部会長代理、有馬委員、上杉委員、小泉委員、合田委員、齊藤委員、品田委員、城山委員、辻委員、長谷山委員、前田委員

文部科学省

研究振興局長 塩見みづ枝、研究振興局基礎・基盤研究課長 西山崇志、研究振興局基礎・基盤研究課素粒子・原子核研究推進室長 村松哲行、研究振興局基礎・基盤研究課 課長補佐 春田諒、研究振興局基礎・基盤研究課 融合領域研究推進官 葛谷暢重

オブザーバー

東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター准教授 郡司卓、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー 福島俊一、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー 茂木強

5.議事録

【観山部会長】 それでは、定刻になりましたので、ただいまより第14回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を開催いたします。
本日の会議ですが、本部会運営規則に基づき公開の扱いにいたしますので、御承知おきください。
まず事務局より、本日の出席者と議題の説明などをお願いいたします。

【葛谷推進官】 本部の事務局を担当しております、文部科学省基礎・基盤研究課の葛谷でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
まず、本日の委員の出席状況につきまして、現時点では13名中11名の委員の方が御出席をいただいております。美濃島委員におかれましては、本日御欠席の御連絡をいただいております。また、城山委員におかれましては、用務の都合上、少し遅れての参加ということで聞いております。
本日は、議題(1)の関係で、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター准教授、郡司卓様に御出席いただいております。
また、議題(2)の関係で、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)のフェローでございます福島俊一様、そして茂木強様にも御出席いただいているところでございます。
続きまして、配付資料を確認いたします。資料は、議事次第の配付資料一覧のとおり、事前にメールにて送付しておりますが、欠落等ございましたら、画面越しに手を挙げていただき、お申出いただければと思います。
よろしいでしょうか。御確認ありがとうございました。
続きまして、本日の議題について説明いたします。事務局の西山課長よりお願いいたします。

【西山課長】 本日もありがとうございます。よろしくお願いいたします。基礎・基盤研究課長の西山です。
本日の議題でございますが、議事次第にありますとおり、大きく分けて2つの議題がございます。1つ目は、「EIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議の設置について」ということでございます。
この基礎研究振興部会のミッションとして、新しいサイエンスドメインをつくっていく、そういうミッションがございます。このたび、米国から原子核物理学の国際プロジェクト、EIC計画(Electron-Ion Collider計画)への参加要請が今年の2月にあったところでございます。
これは、単に原子核物理学のプロジェクトというよりは、むしろ量子やプラズマ物理、さらには数理とか情報など幅広い学問分野に関わり、また、このEIC計画を活用して、新たな学問分野を日本発でつくっていける可能性がある、そういう計画だと捉えております。
今般、文科省に有識者会議を設置しましたが、これから日本がこの計画に参画するかどうかということについて御議論いただくために、この有識者会議を設置してございまして、本日はその報告と、あと、このプロジェクトについて、基礎研究振興部会の幅広い観点から御議論をお願いしたいと思っております。
本日の基礎研究振興部会での御議論については、有識者会議にもきっちりとインプットしていくという形で進めていきたいと思っております。
2つ目は、「AIの研究開発力強化の方向性について」でございます。
AIの関係につきましては、これまで本部会においては、AI基盤モデルに関する研究開発や、人材育成について御議論いただいてきております。
これらについては、予算の御報告等でもしておりますとおり、大きな政策的、施策的な進展があったところでございます。
文部科学省としては、その次の打ち手を考えていく必要があると思っておりまして、AI基盤モデルの後、その後のAIの研究開発の動向について御議論をいただき、今後の方向性について考えていきたいということで、御議論をお願いするものでございます。その関係で、本日CRDSの皆様にも御参画をいただいているということでございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【葛谷推進官】 ありがとうございました。
続きまして、議題に移る前に、参考資料について御説明させていただければと思います。現在参考資料3を、画面共有しているところでございますが、戦略的創造研究推進事業における令和6年度戦略目標等についてでございます。
前回の部会において、R6年度の予算について御説明したところでございますが、その後3月に、令和6年度の戦略目標・研究開発目標等について公表され、現在公募が始まっているところでございますので、参考情報として、この戦略目標・研究開発目標について御説明したいと思っております。
まず、参考資料3の2ページ目でございますけれども、今年は5件の戦略目標と1つの研究開発目標について公表されているところでございます。上から5つがJSTのものでございまして、一番下がAMED研究開発目標でございます。
例えばでございますけれども、3ページをおめくりいただければと思います。数理関係でございますけれども、「新たな社会・産業の基盤となる予測・制御の科学」ということで、数理を中心に、異分野との連携によって地球規模課題・社会課題の解決につながるような、変革点を事前に捉えて整理をしていく、こういった新しい科学の戦略目標が立ち上がっているところでございます。
9ページをお願いいたします。現在の公募のスケジュールでございます。
先ほどお伝えいたしましたとおり、令和6年4月9日より募集を開始しておりまして、現在募集期間中でございます。
その後、一番下にございますけれども、研究開始が10月1日を予定しているところでございます。
参考資料についての御説明は以上でございます。
事務局からの説明は以上です。

【観山部会長】 ありがとうございました。
では、議事に入りたいと思います。まず議題1、「EIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議の設置について」です。
資料1-1から資料1-5について文部科学省から説明していただいた後に、本日、資料1-6について、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター准教授、郡司卓先生から御発表をお願いします。御発表の後に、委員の皆様より御意見を頂戴したいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

【村松室長】 素粒子・原子核研究推進室長の村松です。資料1-1から1-5に沿って御説明いたします。
まず、資料1-1を御覧ください。先ほど課長から申し上げました、有識者会議の設置についてです。5月1日付で会議を設置しています。
1ポツにありますとおり、趣旨ですが、量子科学技術を量子コンピューターや新たなエネルギー源として幅広く応用していくためには、量子に関する未解明な学理に対する理解を深めて、量子系の能動的制御を可能にすることが必要です。
そのためには、原子核物理学はもとより、様々な関連する分野を連携して取り組んでいくことが必要であると考えております。政府が4月に決定いたしました「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」の中でも、量子科学技術の基礎学理を探求する大学・研究機関等の研究体制を抜本的に強化するということを打ち出したところです。
一方、EIC計画という、米国エネルギー省が進める原子核物理学分野の国際共同プロジェクトがありまして、そちらにつきましては、米国エネルギー省から文部科学省に対して、この計画にぜひ参加してほしいという要請が2月にあったところです。
このような状況を踏まえまして、我々としましては、このEIC計画への参加、これは決して参加ありきではなく、本当に参加すべきかどうかというところ、あるべき論から考えるということで、議論していただくということと、このEIC計画を受けて、関連する原子核物理をどう展開していくべきかということについて検討いただくために、この有識者会議を設置しています。
構成員につきましては資料1-1の2枚目に掲載しております10名の先生方にお願いしています。座長は振興局長が指名していまして、二重丸のついている永江京都大学名誉教授にお願いしています。
元のほうに戻りまして、資料1-1、3ポツの検討事項ですが、先ほど申し上げたようにEIC計画への我が国の参画について議論いただくとともに、これに関連する原子核物理学の新たな展開について御審議いただきます。
4ポツ、設置期間ですが、5月から設置をして、来年度いっぱいの設置を予定しております。ただ、基本的には今年度中、夏頃を目途に中間取りまとめを出しまして、今年度中には最終報告という形で、主には今年度中で議論を終了したいと思って進めています。
次の資料1-2を御覧ください。「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」が、今年4月に内閣府の設置いたしました量子技術イノベーション会議で決定されています。
その中に、強化すべき具体的な取組が記載されておりまして、「自国技術の育成・確保」という項目で、核スピン等の量子系の能動的な制御を実現することによって、例えば量子コンピューターといった様々な量子関係の技術の開発が進んでいくのではないか、裾野も拡大するのではないかと期待できるということから、広い意味での核物理や、数学等、幅広い分野を含んだ連携をして、量子科学技術の基礎学理を根源から探求する大学・研究機関等の研究体制を抜本的に強化していくことにしています。これを「Fundamental Quantum Science構想」と名づけて推進していこうとしております。
この構想の推進ですが、下のほうですが、量子科学技術を幅広く応用するためには、ここに書いてあるように、未解明な学理に対する理解を深めて、量子系の能動的制御を可能にすることが必要であるため、学理の解明に向けて、先ほど申し上げたような研究体制を強化していくとともに、人材の育成にも取り組んでいくことを、Fundamental Quantum Science構想と位置づけて推進していくこととしております。
次の資料1-3を御覧ください。EIC計画についてです。
概要ですが、EIC計画は電子と陽子や原子核を大強度で衝突させる、衝突型の円形加速器を建設する米国の原子核物理の次期の将来計画です。詳細は後で郡司先生から御説明いただきますが、陽子や原子核の内部構造の精密な測定を目的としております。
米国のニューヨークにありますブルックヘブン国立研究所に設立予定で、今あるRHICという加速器が来年運転を終了するということで、その装置を最大限活用して、設備の整備を行うと聞いています。
現時点での建設コスト見積りは、米国エネルギー省によりますと17億米ドルから28億米ドルと聞いています。日本円にすると3,000億円前後です。
日本が担当するのは、加速器本体は米国が主に建設いたしまして、右下に書いてあるようなEPIC実験という測定器の作成に、日本も参加してほしいというお誘いを受けているところです。
2ページを御覧ください。計画の状況です。
22年8月に、既にEIC計画に対しまして1.38億ドル、日本円にしまして200億円ぐらいの予算措置がなされているところです。
今後の予定ですが、米国ではクリティカルディシジョン、CDというものがありまして、特にこのクリティカルディシジョン2というのが来年4月に予定されておりますが、どういう成果を目指すのか、どういうスケジュールでいくのか、コストはどれぐらいかかるのか、そういった建設開始前の最終的な評価で、大変重要な段階を迎えておりまして、各国どういう貢献をしてもらえるのかを、このタイミングまでには明らかにしてほしいと言われております。我々としてもこれに向けて、来年度予算にある程度計上していくことが必要かと思いまして、このタイミングで有識者会議を開催して検討を開始したところです。
次の資料1-4を御覧ください。米国エネルギー省からの要請内容です。2月に文部科学省が要請を受けた内容です。
EICの意義が[1]に書いてございます。この辺は後でまた郡司先生からも御説明があるかと思います。
[2]ですけれども、EICに対する日本の貢献は、EICプロジェクトを成功させる上で必要不可欠ということを言っていただいております。この根拠は、理化学研究所が、[3]にも書いてありますとおり、ブルックヘブン研究センターというものを25年ほど前に設置しまして、原子核物理学におけるRHICという加速器の実験を共同で行ってきた、その信頼関係に基づくものです。それに基づいて、ぜひ日本の大学・研究所が参加してほしい、それを文科省は支援してほしいという要請をいただきました。
これに対して、文科省からは速やかに検討する旨を回答させていただいたところです。
続きまして、資料1-5を御覧ください。有識者会議で御議論いただくに当たって、検討の主な観点としてお示しをしています。決してこれに限るものではありませんが、主な観点として、示させていただきました。
どのように原子核物理学を、EIC計画も踏まえつつ展開していくかという全体の広い視点については、新しい学問を創出できるのか、どういう学問を創出していくのかという観点、エネルギー分野や量子分野のイノベーションにつながるような新たな技術の創出ができるのかという観点、幅広い分野の研究コミュニティーが連携して取り組む体制が構築できるのかという観点、大学等の研究開発を抜本的強化するものなのかという観点、関連人材の育成という観点で御審議をいただきたいと思っております。
また、EIC計画ですが、これについては、科学的意義、計画の推進体制、戦略性、緊急性、人材育成、そして社会や国民からの支持といった観点で御議論いただきたいと考えております。
特に今日は、郡司先生からEIC計画についての説明を中心にしていただくことにしています。
事務局からの説明は以上です。

【観山部会長】 ありがとうございました。
続きまして、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター、准教授、郡司卓先生より御発表をお願いいたしたいと思います。

【郡司准教授】 それでは、よろしくお願いします。「EIC計画が切り拓く原子核物理の新たな地平」ということで、東京大学の郡司から発表させていただきます。私は、EICの実験におきまして執行部委員を務めておりまして、日本側の機関代表を務めております。よろしくお願いします。
2ページをお願いします。今日お話しするのは、原子核物理が目指す目標、EICが目指すことと、その意義、特に原子核物理の新たな展開、あと世界的な動向と、戦略と体制に関してお話ししたいと思います。
3ページをお願いします。
原子核物理の目標は、宇宙における物質の起源と進化を理解することです。物質の起源はどこにあって、物質の終焉というのはどこにあるのかというのを理解することです。
大事なのは3つ、まず一つはクォークと呼ばれている素粒子から、どうやって我々の物質をつくる陽子・中性子ができて、それがさらにどうやって軽い元素をつくっていくのかということ、2つ目は、世の中には3,000個ぐらいの原子核があるのですが、そういったものが超新星爆発を通じてどうやってつくられているのかということ、3つ目は、星の究極的な姿である、一番密度が詰まった中性子星の構造を理解するということが大きなテーマであります。
次の4ページをお願いします。物質構造をまとめています。物質があって分子があって、分子は電子と原子核があって、原子核の中には陽子と中性子、これが集まっています。この陽子と中性子の中にはクォークがあって、陽子はクォーク3つから成り立っている。言ってみれば、全ての物質はクォークから成り立っていることになります。
右の表は、全ての物質をつくる素粒子たちをまとめたものでありまして、クォークと呼ばれているものと、その横にグルーオンと呼ばれているものがあります。これがクォークとクォークをくっつけるのりのような役割をします。
他には、例えば、レプトンがありまして、電子とミューオンが該当します。
物質はクォークとグルーオンからできています。
5ページをお願いします。陽子の中身は、教科書的には左のように、クォーク3つから構成されています。でも実際、陽子の姿というのを非常に解像度のいい顕微鏡でのぞいてみると、そこには量子揺らぎによって、実はクォークと反クォーク対とか、グルーオンがぎっしり詰まっている状態、これが陽子の本当の姿であります。
高密度のクォークとグルーオン、これが陽子の質量とスピンと形を決めますが、その創発メカニズムというのは分かっておりません。ここを根源的に理解するのがEIC計画になります。
6ページをお願いします。陽子の中身を探る一番簡単な方法は、光を当てることで、光のエネルギーを変えます。エネルギーが低いときは左のように3つのクォークで見えるのですけども、エネルギーをどんどん高くしてあげて、より細かい構造を見ていくと、先ほど言ったクォークとグルーオンがびっしり詰まったような状態というのが見えてきます。これがEIC計画のアイデアになっております。
7ページをお願いします。原子核を理解する上で、様々な加速器が日本や世界に存在します。原子核の世界を理解するために、強力な加速器が日本の理化学研究所にあります。RIBFと呼ばれる加速器、これは日本に拠点があります。
さっき言ったクォーク3つから成る世界、この世界を見ているのが、茨城の日本原子力研究開発機構にあるJ-PARC加速器であります。
さらに細かい、クォークとグルーオンが密になった状態を探るには、非常にエネルギーが高い加速器が必要で、これは海外に拠点があります。ブルックヘブン国立研究所にあるRHIC加速器や、セルンのLHC加速器です。
EICというのは、高エネルギーではあるのですけども、非常にユニークな特徴を生かして、原子核からクォーク、グルーオンまで、非常に幅広いサイエンスを展開する唯一の加速器になります。ECIが全ての階層をつなぎ、飛躍的な発展をもたらします。
8ページをお願いします。実際には、EICというのは、電子とイオンの衝突型加速器をElectron-Ion Colliderと呼んでおります、右のアニメーションにあるように、核子や原子核の中をのぞく精密なマルチスケールの電子顕微鏡です。
マルチスケールというのは、光のエネルギーをうまく選択することによって、右下にあるような核子の世界、構成子クォークの世界、クォークとグルーオンの世界、これを1つの実験で見ることができます。
世界初の高エネルギーの電子と核子・原子核の衝突実験で、偏極した電子と偏極した陽子、偏極した重陽子と偏極したヘリウムを見ることができます。偏極させることが、スピンの起源を探る上で非常に重要です。あとは、偏極電子と原子核の衝突があります。
9ページをお願いします。EICが挑む根源的な問題は3つありまして、まず1つは物質の質量の問題です。
銀河や恒星、地球をつくる陽子や中性子、原子核の質量は、1%がヒッグス機構で、99%はこのクォークとグルーオンのダイナミクスで生まれます。この99%の中身が理解できておりません。
質量の理解は、エネルギーの理解になります。原子核のエネルギーがどのように構成されているのか、束縛エネルギーがどれぐらいになっているのかということが、核融合におけるエネルギー創成の理解に非常に重要になっております。その根源的な理解を与えるのが、このEICプロジェクトであります。
2つ目はクォークの結合問題でありまして、クォークはほぼ質量ゼロの相対論的粒子なのですが、それがどのように結合して核子や原子核を形成しているのかというのが、まだ分かっておりません。ここも明らかにしていきます。
10ページをお願いします。3つ目が核子スピンの問題で、相対論的に運動するクォークとグルーオンがどのようにスピン2分の1を生み出すのかということです。過去の実験で、クォーク3つは25%しか寄与しておらず、残りの成分というのがどうやって生み出されているのかが理解されていません。
先ほど説明したように、この下の右の図にあるように、陽子の中というのはクォークとグルーオンで埋め尽くされている世界です。このようにたくさんの量子もつれがある中でスピン2分の1が保たれている、この根源的な起源はどこにあるのか、その機構に迫ることが非常に重要です。
量子強靱性を理解することが、例えば量子コンピューターにおける核スピンのコヒーレンスの保持といった学理につながってくると思っております。ですので、核子スピンの問題も、解決しなければならない課題です。
鍵となるのはグルーオンと呼ばれる、クォークとクォークをくっつける粒子の役割で、これをあぶり出す絶好の機会がEICになります。相対論的ボース粒子とフェルミ粒子の混合多体系として、新しい核子や原子核のサイエンスに挑戦するのがEIC計画です。
11ページをお願いします。これがもたらす学術的な意義として、まず1つ目は、南部先生が提唱した我々の真空構造の理解が挙げられます。
我々の言う真空というものは空っぽではなくて、クォークと反クォークがびっしり詰まった状態です。そこの中で陽子が運動し、質量を獲得するというのが南部先生が提唱したことです。陽子は、周辺の真空から圧力を受けています。陽子の中のクォークとグルーオンがどのようなエネルギー分布を持っているのか、どのような空間分布をしているのか、これらの構造を調べることは、外の世界を知ることになります。
12ページをお願いします。もう一つは、中間子交換描像を超える新しい原子核、ハドロンの理解につながります。
原子核は核子の重ね合わせではないことが分かっています。核子が全部集まって原子核をつくっていますが、相互作用によって束縛することが重要です。それによって束縛エネルギーが生まれ、そのエネルギーが解放されることが核融合のエネルギーにつながります。
最近、原子核の中では、例えば炭素を見てみると、αクラスターを組んでいたり、重たい原子になればなるほど、2つの核子が非常に強くもつれ合ったような状態ができていることが分かってきました。
このような原子核の根源的な構造の理解には、左の図にある核力の理解が重要です。その核力の中でも特に短距離の力、赤くハッチがかかってある、1フェルミよりも下の世界、ここはクォークとグルーオンが相互作用し合っているところですけども、この領域を理解することが重要になってきます。ここを理解するのがまさにEICです。
13ページをお願いします。もう一つは、中性子星の内部構造の理解です。中性子星の内部が一体どうなっているのかということが、まだ全く分かっておりません。重力波を使って、中を調べるということは行われておりますけれども、ここで一つ鍵になるのが、EICです。エネルギーを上げることによって、核子の世界からクォークとグルーオンの世界が生まれるという、階層構造を分解することになります。これは、密度を上げていったときに、陽子とか中性子が溶けてクォークの世界が見え始めて、沢山のクォークから形成される状態になるところと非常に大きなアナロジーがあります。
14ページをお願いします。これは私自身がこれまでずっとやってきた研究です。原子核同士を光の速さで衝突すると、数兆度のプラズマ状態ができます。これはクォークグルーオンのプラズマ状態でありまして、核融合プラズマの1億度よりも、3桁大きい一兆度のプラズマ状態です。
私たちが明らかにしたことは、このクォークグルーオンプラズマの粘り気、粘性を測ると、左下に書いてあるように、ほかの物質に比べて非常に小さい粘性を持っていることです。問題は、そのエラーバーが非常にまだ大きいことです。
このエラーバーがどこからくるのかというと、陽子や原子核の量子揺らぎ、例えば形を見てみると、まん丸ではなくて、細かい時間スケールで見るといろいろな形をしているのですが、これが根源的に理解できていないことに起因します。EICでこのような量子揺らぎを理解することが、クォークグルーオンプラズマを理解するためにも重要であります。
15ページをお願いします。EIC実験から、精密な実験データがたくさん出てきます。質量も、例えばグルーオンとクォークの相互作用がどれほどの質量をもたらすのかというような項も、1%の精度で分かります。
これに追従して、「富岳」をはじめとする格子QCD計算と量子計算が発展することが非常に重要で、右は格子QCD計算で、質量がクォークとグルーオンのエネルギーとクォークとグルーオンの相互作用に分解しているのですが、今後、実験がドライブすることによって計算技術が高まり、このような計算精度も上がってくることになります。
EICに関連するクォークとグルーオンの分布の関数、粒子生成や原子核で起こる反応は、実時間現象で、格子QCD計算では難しく、今は計算するすべがないです。
これにブレークスルーを与えるのが量子計算だと思っておりまして、量子計算を実際に発展させるということが非常に重要になります。原子核反応が量子計算でできるようになりますと、核構造から核反応、核融合反応に対する予言能力も高まりますので、次のエネルギー創生のメカニズム、予想の科学というところで非常に重要な役割を果たすことになります。
16ページをお願いします。EICが、次の科学技術やイノベーション創出を支えるための学理につながるというお話をさせていただきます。
先ほども話にありましたけれども、量子科学技術を幅広く応用するためには、核スピンのコヒーレンスの起源、そして今、量子コンピューターで問題となっている外部環境との相関といったものをきちんと理解することが必要になってきます。これはFundamental Quantum Science構想であります。
もう一つは、エネルギーを生み出すための核融合・フュージョンエネルギーへの貢献ということで、質量、エネルギーの根源的な理解とか、プラズマの物理、両方とも非線形相互作用が無視できない系であり、そこには共通の数学的な構造があります。我々は核反応実験をたくさん行っていますので、技術、知識、人材の交流が重要になってくると思います。
17ページをお願いします。核子や原子核は、量子がもつれ合った、かつ量子性が強固に保たれている系です。原子核は核子同士がもつれ合って、陽子というのはクォークがたくさんもつれ合って、高エネルギーで見るとグルーオンがたくさんもつれ合っている状態です。
このFundamental Quantum Scienceにおける核物理というのは、スピン・フレーバー・カラーの量子もつれがどのような構造をつくるのか、スピンや質量といった秩序をつくるのかという、その強靱な量子性を発現させる基本原理の解明につながります。
あともう一つは、クォークや原子核の量子多体系を非平衡開放系の挙動として扱うことによって、そこの中にある量子相関のデコヒーレンス機構を探求する。原子核物理というのは、基礎量子科学の学理探究の核心になると考えております。
18ページをお願いします。Fundamental Quantum Scienceにおいて非常に重要と思われる4つのピラーを考えておりまして、まず一つは量子強靭化。量子コンピューターが正確に動作するための量子コヒーレンスの保持など、強靱な量子性を発現させる基本原理を探究するということと、量子多体系の創発ダイナミクス、量子がお互い振舞いを感じながら相関を持つことで、どういう創発性が生まれるのかということ、開放系の非平衡現象、環境と接することによって、この量子もつれというのがどのように変化していくのか。こういったことをきちんと極めると量子極限計測の技術へとつながっていきます。
19ページをお願いします。量子強靭性においては、例えば陽子の中のスピンの構造や質量の構造、量子多体系の創発ダイナミクスという意味では、クォークから原子核、元素、中性子星に至る階層構造を、原子核物理全体で理解していくということと、量子開放系に関しては、クォークグルーオンプラズマや高密度のグルーオン物質の中に分かっている量子を2つ置いたときに、それがどのように振る舞うかを研究することによって、量子開放系の非平衡現象を幅広くマルチスケールで捉える、そういった学理をつくっていきたいと思っております。
20ページをお願いします。核融合に関しましては、エネルギーを取り出すための原子核のエネルギー、これを根源的に理解するということがまず一つあります。
2つ目としましては、私が研究しているクォークとグルーオンのプラズマの世界です。これは平衡系と非平衡系が同時に存在し、これを同時時間発展させて解いていくわけですけれども、これはレーザー核融合、点火した後にコアの部分とコロナの部分がどのように相互作用をし合って、核融合反応が進んでいくのかということの理解につながりますし、クォークグルーオンプラズマの中で、我々は非常に高いエネルギーを持った粒子を撃ち込んで、それがクォークグルーオンプラズマ中で相互作用しながら、エネルギーをプラズマ中に与えていくというような過程も、実際実験でも見えておりますし、理論的にも記述できております。
こういったことが核融合プラズマの安定性、特に高エネルギー粒子の挙動の理解につながっていくと思っております。互いの交流・連携がプラスになると期待しております。
我々は宇宙で起こっている原子核反応を調べている研究チームでありますから、デューテロンとトリチウムの反応以外に、例えばプロトンとボロンの反応にアメリカのベンチャーなどがチャレンジしているわけですが、そういったことにとどまらず、幅広く核反応をサーベイして、いいチャンネルを見つけるという点においても一緒に展開できると思っております。
21ページをお願いします。ここからは、EIC計画の現段階、体制の説明をさせていただきます。
このEIC計画は、2015年のアメリカのロングレンジプランで最初に正式に提案されました。2019年に学術的な意義が認められまして、2020年にブルックヘブンでつくることが決まりました。2021年に、検出器コラボレーションが形成されて、2021年6月にCD-1が承認されて、2023年にはまた長期計画、NSACのロングレンジプランで最重要建設計画に載っております。
22ページをお願いします。世界の動向、国際合意に関しましては、EICのユーザーグループというのが世界規模で立ち上がっております。1,400人の研究者、38か国290の機関から構成されております。日本も15の大学・研究機関が参加しております。右のパイチャートは地域で分けたものですけども、日本を含めアジアで大体3分の1ぐらい占めております。
もう一つは、リソースレビューボードが設立されております。これはEICの予算状況や予算計画を議論して、正しくモニターする機関ですけども、約10か国の資金提供機関の代表者が参加しています。日本は私、郡司と理化学研究所の後藤がオブザーバー参加をして、これまでに3回開催し、参加をしておりました。
23ページをお願いします。各国の状況ですが、いよいよ予算措置が本格化しておりまして、イギリスが74.2ミリオンダラーのサポートを決定しております。ヨーロッパ、イタリア、フランスも大型の予算要求をしている段階であります。
24ページお願いします。日本への期待です。
日本のリーダーシップが期待されております。私がエグゼクティブボードと執行部に入っています。ブルックヘブンにおけるこれまでの日本の実績が非常に大きかったということです。
日本は、フェニックス実験という国際共同実験に参加し、多くの検出器を建設してきました。12の大学機関が参加して、500人規模の国際実験の中で100人以上は日本人でした。約20%です。これはT2K、神岡のニュートリノの実験と同程度であり、これが海外の実験で実現できていたということになります。
これまで実験代表者を2名輩出してきました。クォークグルーオンプラズマの物理とスピンの起源を探る研究、これは日本がブルックヘブンに持ち込んだ研究プロジェクトですけども、牽引してきました。これをより発展させるのがEIC計画であります。
博士号取得を50名以上出し、アカデミックに残った人もいれば、データサイエンティストとして活躍されている方も多いです。
もう一つあるのは、理研BNLセンターという日本グループの最前線基地があったことが非常に大きく、国際頭脳循環と国内外の研究者の人材育成に実績を残してきました。ブルックヘブンの中に海外のベース基地があるのは日本だけになっておりますので、活用していくべきだと思っております。
25ページをお願いします。日本は、アジア間を取りまとめる立場になってほしいと言われております。
そのために、今アジア間の連携を強化する取組をしていて、ワークショップを定期的に開催したり、毎月Zoomミーティングをしたり、共同研究も活性化させております。
26ページをお願いします。検出器コラボレーションですけども、ePIC実験が2019年に設立されました。これはEIC加速器の6時の方向で行われる実験で、ここで検出器をつくって実験を行いましょうというコラボレーションです。500人規模の研究者で構成されておりまして、日本は10の機関が参加しております。今は5番目の規模になっております。
27ページをお願いします。もともと違うことを行っていた10の国内大学の機関が集まって、構成されております。分野を越えて結集しています。昔から核子構造を調べていたグループと、私のように高エネルギー重イオン、クォークグルーオンプラズマの物理を行っていたグループと、素粒子物理をやっているグループが集まっております。あとはデータ収集系のコラボレーション、SPADI-Allianceが参加をしております。
28ページをお願いします。このePIC実験では、3つのプロジェクトを率いていきたいと思っております。
まず一つは、青で書いてある「タイムオブフライト」という検出器で、もう一つは、その右にあるZDCと呼ばれる検出器、あともう一つはデータ収集です。400テラbpsの非常に大きなデータがやってきます。それをAIを使ってリアルタイムに処理し、物理結果を出す。この新しいデータ収集系を、日本が中心となってつくっていく予定です。
測定器を所有することで、その測定器を使ったデータ解析を主導し、データ収集系を主導することは、その後の物理解析を主導することに直結します。この1、2、3の3つのプロジェクトは、日本の技術でして、日本の技術を国際標準化するというのも非常に大事です。標準化した技術をいろんな実験施設で使うことによって、相互乗り入れを実現させてオールジャパン体制をつくっていくことが可能になります。2026年からこれらを量産することを考えております。
主要な役職を実験の中で握っていくことも非常に重要です。私自身はエグゼクティブボード、執行部委員になっておりまして、理化学研究所の後藤さんと広島大学の八野さんが、それぞれの検出器をリードする立場にいます。
29ページをお願いします。DAQ、データ収集系は、Society5.0を加速器実験で体現するものです。センサー、検出器からのデータを、AIを使って即時に解析して、我々のところにフィードバックをかけるものです。
この技術を使って、膨大な量のデータが取れます。膨大なデータを解析するために、新しく量子計算を利用するとか、理論計算に格子QCD、スパコンとか量子コンピューターを使うとか、膨大な実験データが新たな計算領域を拡張していきます。それによって、AI×数理がさらに発展して、それが新しい実験にフィードバックがかかって、非常にいい循環が実現します。
ビッグデータ社会自体への波及も大きいので、加速器実験をテストベッドとして、日本が中心となって進めていくというのは非常に大きな意義があろうかと思います。
次の30ページ、お願いします。加速器実験は最新テクノロジーの固まりです。測定器建設後も継続的に新しい技術開発を続けていかなければ、世界の技術進歩から取り残されてしまいます。
こういった大型実験というのは、10年ぐらいをめどに測定器が入れ替わるフェーズがあるので、そこを狙って次の技術をつくっていきたいと思っております。
その時に必要となる基盤技術は、高度半導体・量子センサー技術、それを処理するために、今度は高密度の回路の実装技術、3次元積層とかチップレット技術が必要になってきます。
膨大なデータを省電力で飛ばすような、例えばオールフォトニクスの技術、やってきたデータをリアルタイムで処理するハードウェアアクセラレーターの技術、AIチップ、こういった技術が今後10年20年の間に必要になってくる技術です。
全ての分野において、日本はパーツパーツでは非常に優れた技術があるのですが、これを大きく展開しようとしたときには、アメリカなどに負けてしまっている現状がこのような技術を育て、産学が連携し合ってプラットフォームをつくって、いろんなプロジェクトを機動的に動かせるような仕組みをつくっていきたいと思っております。
31ページをお願いします。加速器の技術も非常に重要であり、ブルックヘブン側からは、つくばのKEKにありますスーパーKEKB加速器との協力を望んでおります。また、EICのアクセラレーターコラボレーションが設立されております。技術の継承、人材育成、相互の加速器開発や運用を視野に入れております。
加速器の人材育成は、スーパーKEKBだけじゃなくてSPring-8やナノテラス等の加速器にも非常に重要なので、加速器開発に関する連携も進めていきたいと思っております。
32ページをお願いします。最後に拠点です。国内体制ですが、今、理化学研究所とアカデミアで、このEICを支える母体をつくり始めております。
理研は量子基礎科学研究拠点をつくろうと検討しています。アカデミアは、東大と阪大からスタートして、国際量子物理ネットワーク拠点をつくって、EICを推進します。この国際量子物理ネットワーク拠点は、Fundamental Quantum Science、核融合と連携し合って、原子核物理をコアにして新たなサイエンスをオールジャパン体制で進める予定です。概算要求を検討しております。
33ページをお願いします。それに付随して、人材育成も行っていこうと思っております。
大学間連携研との連携を使って、大学の枠を超えて、組織横断的な大学教育や、トップレベルの研究者の講義、また、フレキシブルに受入れ教員を配置して、大学の枠を超えて行きたいところに行くなど、いろんな大学にいろんな大学のブランチをつくって、人材交流、流動性を高めたいと思っています。また、若手のポジションを確保していきます。ブルックヘブンでの長期派遣にRBRCを活用していきたいと思っております。
34ページをお願いします。科学コミュニティーの理解に関しては、学会のシンポジウムがあります。また、2週間後に国内研究会を開催します。技術に関する国際ワークショップも今後やっていこうと思っていますので、コミュニティー、あと社会、国民の理解を得るための努力は今後も継続していきたいと思っております。
35ページ、長々となりましたけどもまとめになります。
EICは原子核3階層に飛躍的な新知見をもたらすだけではなく、エネルギーの根源的理解量子もつれ、量子強靱性の理解、それが壊れるデコヒーレンスのメカニズムの解明という点において、次の量子技術やイノベーション創生につながる基礎学理の構築に貢献するプロジェクトだと思います。EICの技術は、社会に対し、波及性の高いものと思っております。
そのために国際的な戦略、日本はEICの成功を握る測定器・システムを開発していくのと同時に、その後の物理解析をきちんと主導していきたいと思っております。それを支える組織体制を、今、アカデミアと理研で構築中であります。
以上になります。どうもありがとうございました。

【観山部会長】 ありがとうございました。
以上の説明に関して、委員の先生方から御質問や御意見ありましたら、どうぞ挙手ボタンとか、実際に手を挙げるなどしていただければと思いますが。
では、有馬さん。

【有馬委員】 ありがとうございます。最後の説明はよく分かりましたが、初めのほうで、村松室長がおっしゃられた資料1-2の「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」との関わりが、なかなか理解できなくて。要するに、ユースケースとして使うという意味ですか。例えば核スピンの量子コンピューターをつくるのに役に立つということでしょうか。

【郡司准教授】 新たな技術を支えるための学理を極めるというところだと思います。
例えば、開放系の物理で、例えばすごいグルーオンとかクォークがたくさんある中に、例えばクォークと反クォークをつくることができるのです。どうやって周りのクォークとグルーオンと相互作用しながらコヒーレンスが破られていくのか。そのような現象を、きちんとマルチスケールで理解するということが非常に大事であることと、その背景にある数学的な構造です、言ってみればマスター方程式ですけれども、そのようなものをきちんと確立することが非常に重要だと思っております。そこに強く、寄与したいと思っております。

【有馬委員】 つまり、そこは数学的にいうと、テラエレクトロンボルトの世界でもマイクロエレクトロンボルトとかナノエレクトロンボルトの世界でも同じであろうということで、ということですね。
理解はしましたけど、外に打ち出すときにどういう打ち出し方をするのか、誤解のないように伝えていただくと良いかなとは思っています。
以上です。

【観山部会長】 ありがとうございます。
城山さん、どうぞ。

【城山委員】 ありがとうございます。私は社会科学がバックグラウンドなのですが、共同研究の組織体制としてどのような蓄積や、ある意味では遺産を持っていて、それを次にどのように展開させていくのかという観点で幾つかファクトの確認をさせてください。これまでも、ベースになった理研とブルックヘブン研究所のRHICをめぐる連携があって、その中で、例えば検出器で100分の30貢献したい、また、研究者でも500分の100ぐらい貢献してきたという蓄積があって、それをベースにした次のステップだということだと思うのですが、その場合、RHICで行っているような国際連携と、次のステップはどのように異なってくるのかというあたりを、少しお伺いできますでしょうか。
例えば、おっしゃった中でいうと、日本はアジアの取りまとめを求められているという話もあったかと思います。そもそも参画者の数が増えていくのか、あるいは日本の相対的なウエートはどうなるのか。例えば数では減るのか、あるいは維持するのかなど。もしくは数は減っても戦略的なところをきちっと押さえたいというストーリーのお話なのか。国際連携の在り方の変化としてどうなのかということをお伺いしたいということです。
それから、すぐ資金の話に還元してしまうのはよくないとは思うのですが、おそらくこれまでの理研とRHICの協力の中でも一定のコントリビューションをしてきたということだと思いますが、それがどのぐらいの規模の話で、逆に、取りあえずRHICを2025年までは最大限活用するという話だとすると、そこにつぎ込んできたリソースというのをこの新しい連携形態にするということで、新規のものではないということなのだと思うのですけども、その辺り、どういうレベルで、規模として連続性があるのか、あるいは断絶性があるのかなど、情報共有していただければと思います。よろしくお願いします。

【郡司准教授】 端的に言うと、これは連続です。今までやってきたサイエンスをさらに発展させるものであります。理化学研究所が核子スピンという切り口を今のブルックヘブンの実験に持ち込み、それをさらに発展させるのがこのEIC計画です。従って、今まで培ってきたもの、国際協力体制というのがそのままEICに行く形になります。
規模は、今500人程度ですけど、毎月のように、世界各国から参加したいという要望があるので、最終的にはもっと増えると思います。
日本は今50人ぐらいの体制ですけれども、これをフェニックス実験と同様100人に増やしていきたい思っています。今参加している10の機関は、原子核物理の中での高エネルギーの部類で、原子核の低いエネルギー、それこそ理研でやっている研究者の人たち、J-PARCを主戦場に持っている研究者たち、そういった人たちを取り込みながら、進めていきたいと思っております。
予算に関しては、スライドの中で挙げた30億というのは、日米科学協力事業と理研のサポートで、様々な検出器をつくる予算として使われていたと思いますが、理化学研究所には大きな検出器を建設するためのインフラ、装置、経験があり、EICにおいても重要になります。
予算規模としても、1つの検出器を日本がきちんと責任を持ってつくるためには、同じぐらいの規模を想定しています。

【城山委員】 はい、大体分かります。ありがとうございます。

【観山部会長】 齋藤先生、お願いします。

【齊藤委員】 EICはとても重要なプロジェクトだと僕は考えています。その中でもQGPに関する研究や、または1GeVスケールでどうスピンがつくられるかというのはとても重要な研究で、そこに日本が参画して、日本の工業技術がそこでまた進展するということも大変重要だろうと考えています。
そこは十分強調すべき点だと考えていますが、それが直ちに核スピン量子技術、量子計算技術、量子情報技術に貢献するとは、アピールされないほうがいいのではないかと思っています。
1GeVスケールでスピンがどうつくられるかということと、スピン量子コンピューターは最高でもマイクロeVで使うわけですが、マイクロeVでスピンがどうつくられるか、それは全く別の仕組みで、マイクロスケールでは物質中でどう回転対称性が良い場でつくられるかということで、その表現としてスピン1/2があるわけですよね。全く別の物理なので、そのままではヒントは得られないはずの領域だと考えていて、階層構造は普通の物理の常識になっているはずだと思います。
もちろん、開放量子系として良い実験場であるとも考えるのですけど、マイクロエレクトロンボルトスケールの物理はもっと安くできる実験系がいっぱいあって、量子ランジュバンでもマスター方程式でも、良い実験場はもっともっと安くあるので、1GeV以上であれば1GeV以上の物理をちゃんとやるべきという。科学的に重要なので、そちらにフォーカスされたほうが誤解がないのではないかと思うのですけど、そこはいかがでしょうか。

【郡司准教授】 ありがとうございます。一番重要なのは、学理面でマルチスケールで普遍的にロバストな理解に貢献するというところなので、コメントありがとうございますというのが正直なところでございます。

【観山部会長】 小泉先生、お願いします。

【小泉委員】 小泉です。私自身は門外漢ですが、ただ一方で、クォークとか今回のグルーオンとかそういったお話を聞くとわくわくする、すごい将来に期待ができるなと思いながら聞いていたところですが、これだけ大きな計画になって、ある程度の金額をある程度の期間費やすということになると、社会、国民からの理解、支持というのがすごく重要になると思っています。
今回の御発表で、その点の指摘がなかったのは残念に思っておりまして、これはかなり早い段階から、社会や国民からの支持を得るための、こういった科学コミュニケーションだったりということを丁寧に行っていく必要があると思っています。
もちろん、お考えになっているとは思いますけれども、今日のこの中にはなかったので、そこだけ指摘させていただきました。よろしくお願いします。

【郡司准教授】 その点、非常に重要なところだと思っております。研究の内容から見ると、ミレニアム問題になっているとおり、非常に根源的で、未知なところなので、これがはっきり分かるようになると、ノーベル賞だと思います。
もう一つは、核融合とか将来の量子技術をつくるための学理というところで、社会の理解を得るための説明は今後もしていきたいと思っております。ありがとうございます。

【観山部会長】 品田さん、お願いします。

【品田委員】 郡司先生のお話は非常にわくわくして聞かせていただきました。門外漢でも分かるように易しく、理解できましたので、これはぜひ実施できれば良いなと思いました。
私が質問するのは、一番最初に有馬先生、あと小泉先生も今おっしゃったような話で、文科省の方に聞きたいのですが、一番最初の資料1-2で、「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」というタイトルの中で、強化すべき具体的な取組。要するにこれと、このEICの計画との接続がよく分からない。
1-2の資料を見てみると、タイトルは「量子産業」と書いてあるのですけれども、中身は産業ということにはあまり触れていなくて、要するに人材育成とか、その分野の強化ということで、基礎的な科学の強化というようにも読めてしまいます。だから、タイトルに違和感を感じるから、EICとつなげて話すと何か接続が悪いなと思うのですけど、その辺は、今、小泉先生がおっしゃったような、一般の方にEICの重要性を説明するときに、無理やり産業の何とかと言ってしまうと、実際なかなかうまく説明しづらくなってしまうようなところもあるように私は思ったのですが、その辺に関して、文科省の方の見解をお聞かせいただければと思いました。

【村松室長】 室長の村松です。「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」というタイトルでありますけども、産業が発展していくベースには、ここに書いてあるとおり、将来すぐに産業で使うわけではないけれども、例えば30年後を見据えて、技術をしっかり持っておくことが将来の進展とか裾野の拡大につながっていくということで、必ずしも直ちに産業に直結することだけを推進方策に書いているものではありません。バランスを取って、すぐに産業に役立つにはどういうことをしたらいいのかということが書いてあるのとセットで、こういう基礎の部分もしっかりやる必要があるということが書いてある、そういう推進方策になっています。
核スピン、EICと、ここに書いてある部分が分かりづらいという御指摘については、郡司先生と相談をして、量子の基礎科学の理解と、EIC、そして原子核物理学がどうつながっていくのかということを、しっかり説明できるようにしていきたいと思います。
以上です。

【品田委員】 ありがとうございます。

【観山部会長】 合田先生。

【合田委員】 分野外で、単純な質問ですけれども。
郡司先生、御発表ありがとうございました。
今後10年先20年先で、次世代のディテクターの開発が重要だとおっしゃって、それで、日本ではある程度、パーツパーツですばらしい技術を持っているのですが、引っかかったのが、アメリカにはかなわないとおっしゃって、それが根本的に何が原因なのか。人材育成がネックになっているのか、あるいは分野間の交流がネックになっているとか、先生のお考えをお伺いさせていただければと思いました。

【郡司准教授】 予算規模的なところになります。社会実装に対して、アメリカが投資する額、量子コンピューターとか核融合とかで見ても非常に大きな予算つけるというのがアメリカだと思うので、そういったところが大きいと思っております。

【合田委員】 ありがとうございます。

【観山部会長】 それでは、私から少し質問させていただきたいと思いますけれども、こういう国際協力事業というのはなかなか、始めるときが非常に難しいのですが、17から28億米ドルが全部集まったら始めるのですか。それともアメリカ、ホスト機関が相当出すことを担保に、ある時期にゴーになるのか、そこら辺はどうですか。

【郡司准教授】 加速器部分の予算に関しては、アメリカはゴーサインを出しておりまして、大体この年に幾ら出します、この年に幾ら出しますという予算プロファイルも出ています。
検出器をつくる部分に関しても、全体の検出器、大体300億円ぐらいで、そのうちの30パーセント程度は、国際パートナーで、測定器やシステムをつくって納めてほしいと言われていて、その残りの部分はアメリカです。全てがそろわないと進まないということではなくて、そろっているものからつくり始めて、そろっているものから実際の実験エリアに入れていきという感じに進んでいきます。

【観山部会長】 今、30億円が……。

【郡司准教授】 加速器をつくるお金と別に、測定器をつくる予算が必要です。ePIC実験を全部つくるのにおおよそ300億円ぐらい必要だと見積もられていて、そのうちの30%、100億円ぐらいを、例えば日本とかイタリア、フランス、イギリスといったヨーロッパが、自分たちの検出器をつくることで貢献してほしいと言われております。

【観山部会長】 なるほど。先ほど言われた、加速器本体はもう米国だけの予算でつくると。

【郡司准教授】 加速器は、4,000億円ぐらいの95%はアメリカが出すと言っております。残りの5%部分は、国際協力で、フランスやイギリス等が貢献することになっています。

【観山部会長】 なるほど。例えば日本が参加した場合に、どれぐらいのコストのコントリビューションがあるかどうかは別として、データにはフルアクセスできるような状況ですか。

【郡司准教授】 はい、データはフルアクセスできます。お金を払っていないから参加できないとかデータを渡さないというのではないです。

【観山部会長】 なるほど。先生が希望として思われているのは、建設期間が何年間で、その建設期間1年当たり、日本のコントリビューションはコストとしてどれぐらい考えておられて、それから運営期間にどのくらい考えておられるのでしょうか。

【郡司准教授】 2026年から量産を始めなければ間に合わないというスケジュールで、2030年から加速器の試運転が始まるので、今後5年ぐらいは、検出器の建設に、年単位で大体七、八億ぐらい。今後5年間かけて、それぐらいの予算措置を受けながらつくっていくということがまず一つと、あとは、その時にかかる人件費とか、エンジニアの人件費が大体、年二、三億ぐらいでありまして、検出器をつくった後、2030年ぐらいから加速器が試運転を開始したら、メインの予算というのは、海外へ渡航する、人を多く派遣するための旅費、多くの研究参加者に参加いただくためのポストのお金だったり、人件費的なところがメインになると思います。
その一方で、先ほど言いましたとおり、次の技術というのもつくっていきたいと思うので、そこは年間二、三億ぐらいを想定しています。大体、予算感としてはそれぐらいです。

【観山部会長】 大体建設期間では年間10億ぐらいで、運用期間が大体年間二、三億からもうちょっと。

【郡司准教授】 もうちょっとぐらい。

【観山部会長】 もうちょっとぐらいの規模で日本が参加したいということですね。
その年間10億ぐらいというのは、今、理研がもともとブルックヘブンと協力関係にあるので、理研から出ている部分もあるのでしょうけれども、正味に新たに要求されたい額が10億円ぐらいということですか。

【郡司准教授】 はい、そうですね。インフラなどを持っている理化学研究所から出させていただくことを今考えております。役割分担としては、理化学研究所が測定器をつくるためのインフラ等が中心で、大学側は教授、准教授、ポストをつくって、学生を多く集めて、その学生が理研と一緒に測定器をつくって、技術力と研究力をつくっていくという役割分担になっております。

【観山部会長】 今のことにも関係するのですけども、それでは日本側のホスト機関というのは理研になるのですか。

【郡司准教授】 日本の中のホスト機関は、そうですね、理化学研究所と東京大学が、2つ立つような感じです。

【観山部会長】 理研や東京大学はもちろん非常にすばらしい研究機関ですけども、今参加されている大学が十何個とありましたけれども、全国の大学の研究者が自由に共同するような形で参加できるという形態ではないのですか。

【郡司准教授】 そういう形態を目指します。東京大学で、資料にもありました32ページのところにある、国際量子物理ネットワーク拠点というのを今後つくっていこうと思っていまして、これの中核となる機関が東京大学、大阪大学です。このネットワーク拠点に各大学が強みを持って参加するのと、あまりお金はないのだけどこういう研究に参加したいという声をちゃんと集めて、国際協働に参加するという、ネットワーク型のみたいなものをつくろうと考えております。このための概算要求というのも今、検討しております。

【観山部会長】 なるほど。日本の大学のコンソーシアムみたいなのをつくって、大学として入ってなくても、原子核分野や高エネルギー分野に興味がある大学院生とかが参加できるような形態になるほうがよろしいかと思います。

【郡司准教授】 はい。そのようなものを目指しております。

【観山部会長】 分かりました。あと、最近はダイバーシティーというか、女性研究者の参加は何%ぐらいありますか。

【郡司准教授】 すぐにはパーセンテージはないのですけど、確かに海外と比べると、日本人の女性研究者の比率は低いです。それは僕もヨーロッパの実験を見ていて、またアメリカを見てもそのように思います。
このEICの実験で、既に参加している大学に、奈良女子大があります。ダイバーシティーのほうも、海外の進んだ取組を入れながらやっていきたいとは思っております。
既に、全て男性であるという状況ではありません。

【観山部会長】 はい。長く質問しましたが、ほかに。どうぞ、遠慮なく。
よろしいですか。それでは、どうもありがとうございました。

【観山部会長】 それでは、続いて議題2、「AIの研究開発力強化の方向性について」です。
本日は資料2-1について、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、福島俊一様。資料2-2については、同じく国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、茂木強様から御発表をお願いいたします。続いて、資料2-3について事務局から説明をお願いいたします。御発表の後に委員の皆様から御意見を頂戴したいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【福島フェロー】 では、福島から御説明させていただきます。
AI研究開発力の強化の方向性ということで、まず私からは、「基盤モデル後のAI研究開発動向」と題して、基礎研究の観点から全体的な捉え方をお話しします。その中で特に注目される動向として、AIロボットというところがありますので、それに関して、次に茂木からさらに詳しく御紹介するという流れで進めさせていただきます。
2ページをお願いします。こちらは、ChatGPTのような現在の生成AIのベースとなっている基盤モデル、それに関する課題の全体観を示した図です。
これは、実は昨年の部会でもお示ししたもので、今回詳しい説明は省きますが、要するに左3分2のほう、ここは基盤モデルをつくって活用するための取組になります。産業界での開発や活用がどんどん活発化していますし、この1年で政策面でもかなり強化されてきました。
右の3分の1が基礎研究課題として重要だと捉えて、CRDSでは昨年1年間、特に重点的に検討して、調査報告書や戦略プロポーザルを発行しました。特に右上のところ、昨年、AI for Scienceということで、ここでも重点的に議論いただいたと認識しております。
今回は、特に基盤モデルからさらに先へということで、右下の次世代AIモデルの研究の動向というところを中心にお話ししようと思っています。
3ページをお願いします。ここで、ごく簡単に基盤モデルのおさらいですが、このページの下側の図にあるように、ChatGPTなどの生成AIに使われているのが基盤モデルで、入力に対して、その続きを予測する確率モデルとしてその基盤モデルが働きます。自己教師あり学習を用いて、大量データから言葉のつながりや画像との関係などが学習してつくられるというようなものになります。
AIモデルの発展の流れから見ると、深層学習ベースのモデルというものが超大規模化したものが基盤モデルという位置づけになるかと思います。まるで人間のような応答を返してくれますが、ボトムアップにつくられた高度なオートコンプリート機能といったものと捉えられるので、問題や限界がいろいろ指摘されつつあります。それらを克服するということが、次のチャレンジになると考えています。
4ページをお願いします。では、どのような問題や限界が指摘されているかというのを、ここに簡単にまとめています。
1点目が資源効率の問題。よく言われるように、極めて大規模なリソースが必要になっています。2点目が身体性の問題とも言えますが、実世界操作が苦手ということです。3点目が論理性の問題で、論理構築、論理演算あるいはタスクを分解するといったところがまだ難しいと。4点目がよく言われるブラックボックス性で、確率的な振る舞いのため、信頼性や安全性に課題があるというものです。5点目に自発性を挙げていますけど、これは人間の知能との違いという意味では指摘があるのですけども、必ずしも求められるものではないので、課題からは除外して考えています。
5ページをお願いします。こういった課題の克服に向けた取組というのを、この右下の円を描いた図に4つ示しているのですが、小文字でaからdまでの4つです。
時間の関係で一つ一つは詳しく説明しませんけれども、左側の表にありますように、現状この4つのアプローチから、課題解決の見込みというのはまだまだ限定的であったり、まだどうなるか分からない、未知といった状況になっています。
また現状、目指すAIの姿というのも分かれていて、汎用性の高い道具としてのAIや、人間のパートナーになるAI、あるいは人間の知能により近いAIといったような形で、少し違った取組になっています。ただ、この辺りについて有識者を集めたワークショップで議論したのですが、AIの自律性が徐々に高まっていくにつれて、こういった3つの考え方というのは融合していくではないかと。
そういった観点からしても、現時点では特にどれかに決め打ちするというよりは、幅広い可能性を探索して、知見を共有してアプローチを融合させていくというのが、進め方としてよいのではないかというように考えているということです。
6ページをお願いします。そういった中から、課題克服へのアプローチの中で注目するものを2つ御紹介しようと思います。
1つ目はこのページにあるもので、必ずしも大量事前学習を必要としないようなAIモデルにつながる取組に注目しています。
この辺りは、人間の知能に関する知見が非常に参考になるようなところです。左側に二重過程理論と書いてありますけども、これは即応的なシステム1と熟考的なシステム2から成るというモデルでして、現状のボトムアップな帰納型のAIはシステム1が主になっています。そのために、大規模な事前学習が必要になっています。
しかし、システム2の仕組みを組み合わせて、必要な範囲のみ能動的(トップダウン)に取りに行くというような考え方を入れると、より少ないデータ資源で動くのではないかというように考えています。
また、右側の図は予測符号化理論と言われるものですが、モデルに基づく予測と実際の観測結果のずれ、それを予測誤差というのですが、その予測誤差からモデルを修正することで、人間が発達・成長していくというような考え方があります。これを使うと、必ずしも最初に大量の教師あり事前学習を行うことは必ずしも必要ではないというように思われるので、注目されています。
7ページをお願いします。もう一つの注目動向としては、実世界操作が苦手という問題に対して、それを可能にするような取組です。
ChatGPTが登場した2022年11月、同じ頃にグーグルからRT-1というものが発表されました。RTというのはロボティクス・トランスフォーマーの略でして、ChatGPTがサイバー空間の大量のテキストを学習したのに対して、RT-1はロボット実機13台で17か月、大量の実世界動作を学習しました。
さらにRT-2ではウェブからも学習していますし、また、RT-Xというのがあるのですが、ここでは国際協力で、いろいろな機関からデータを集めています。要するに方向としては、より多様でより大量のマルチモーダルデータを学習させることで、ロボット基盤モデルというものをつくっていこうということです。それによって、ロボットの制御をより柔軟でロバストなものにしようという試みが、急速に進展しているという状況と思っています。
また、右側の図では、今年3月に発表されたもので、ChatGPTを人型ロボット「Figure01」と統合して、対話とか計画、推論、説明などを行いながら、目の前のものを操作するといったデモが示されて、注目されています。
8ページをお願いします。このページには、先ほどお話ししたような現在のAIが抱えるいろいろな問題・課題が解決・改善されると、どのような社会的価値がもたらされるかということを幾つか例示しています。
省電力や環境負荷低減、あるいは正確性・倫理性・安全性、あと生産性の向上といった話や、あるいは悪用とか犯罪の防止といったところもあるわけですが、特にロボットやドローン、あるいは自動運転車などへの応用というところは、ある見方ではAIが物理的な身体機能を獲得するというような意味を持つわけで、これは結局ホワイトカラーだけではなくてブルーカラーまで幅広く労働市場に波及して、大きな社会経済的インパクトをもたらし得るということで、非常にビジネス面から見ても重要な領域になります。そのため、取組が急速に活発化しているというように見ています。
9ページをお願いします。これが最後のページですが、課題と方向性ということなので少し丁寧に話します。要するに、AIの技術がロボットに適用されて実世界を扱えるようにしていくには、まだどんな課題があるのかということを説明しようとしているページです。今のAIでは、この図でいう左側の認識系の精度が非常に高くなりました。しかし、実世界操作、この図でいう制御系ですね、そこがまだ苦手です。
そこがどうして難しいか、苦手かということを、左側の図のレイヤーに合わせて右側に3つ書いているのですけども、「行動計画」「動作生成」「力制御」というレイヤーがあります。一番上の行動計画というのは、例えば「缶コーヒーを買う」という目的から、自販機の場所まで移動して、購入の操作をして缶を取り出すといったような手順、そういった段取りを組むことを意味します。
動作生成は、缶コーヒーを取り出すときに、ロボットハンドをどのように動かして、どう缶をつかむかといったような動作の生成・制御のことを言っています。
一番下の力制御というのは、対象が固いものか柔らかいものかとか、摩擦の状況とかに関わる微妙な制御を行うということです。
このときに非常に難しいのは、タスクが違うとか、現場の状況が違うとか、身体もそれぞれのロボットで違うとか、そういった個別性への対応です。
行動生成に、今、基盤モデルが使われ始めていたり、動作生成には強化学習・模倣学習が使われるというような形になって、少しずつできることが広がってはいるのですが、より柔軟でロバストにするには次世代AIモデルの研究が必要です。
また、現場状況や身体の個別性に対しては、現在、個別のプログラミングや個別学習、要するにつくり込みがかなり行われているというような状況になっています。それを軽減して、柔軟でリアルタイムな動作を可能にするには、AIと身体機能モデルをもっと密に融合させていく必要があるというように考えています。
さらに、AI機械学習は原理的に100%保証はできないので、AIロボットと人が安全に協働・共生するためには、想定外リスクに可能な限り対策するというような、安全性の面も重要な課題と考えています。
私からは以上になります。
続けて茂木から。

【観山部会長】 ありがとうございました。
それでは、引き続き茂木先生、よろしくお願いいたします。

【茂木フェロー】 JST研究開発戦略センターの茂木と申します。続けて、アメリカとヨーロッパ、中国のAIロボットの研究開発動向について御報告いたします。
2ページをお願いします。これは全体を俯瞰したページです。まず、世界全体で見ると、今、福島が説明したような基盤モデル、生成AIが、ロボットの研究ではエポックになっています。この研究開発の進展から、ロボットがAIロボットというものに変わりつつある、ロボットの研究が変わりつつあると認識しております。
基礎研究レベルでは、ロボティクスへの既存の生成AIや基盤モデルを適用するという話と、ロボット用の基盤モデルをつくる、その両側の研究が同時進行している状況でございます。その結果、これまでできなかったタスクが可能になりつつあります。
また、どこに使うかというところで、ロボットがいろいろなところで使えるためのヒューマノイド型、人間型ロボットや、エッジ向けにリモートでさくさく動くためのチップの開発が、次の競争領域になりつつあると考えております。
米国では、AI・ロボットで今までずっと世界を牽引していました。最近中国の競争力が高まってきていますが、まだAI・ロボットに関しては、特にグーグルやAIなどのソフトウエア企業が、AIの技術をロボットに適用するので成果を上げておりまして、この辺でまた引き離しつつあります。ハードウエア企業もソフトウエア企業と一緒にやって、AIロボットの開発に注力しているという状況でございます。
ヨーロッパは、個別の企業というよりは、HORIZON EUROPEという7年になる、ロングレンジの計画の中でスマートロボットの開発を実施しております。具体的には官民協働イニシアチブという、官民でお金を出す仕組みでもって、それぞれ26億ユーロという相当な額の投資を実施中でございます。
中国は、国家レベルの戦略で、技術力、計算力、資金力も向上させてきました。ロボットに関しては、国家重点研究計画というもので継続的に投資しております。その中では、特にAIロボティクスの研究というのも一つの大きなテーマになっているところでございます。
3ページをお願いします。この表は、AIロボティクスに関して、米欧中の状況、誰がどんなことをやっているかというのをまとめた表で、これに基づいて調査してきました。今回はこの中から政府主導のプロジェクトと、あとは産業界・学術界からトピカルなテーマをピックアップして御報告いたします。
4ページをお願いします。最初に米国におけるファンディングの状況ですが、米国には継続的にロボティクスのファンディングが実施されております。National Robotics Initiativeが2011年から始まっていまして、3.0というのは3回目ということなのですが、これが去年、公募を完了し開発中であります。
その次に出てきたのがFoundational Research in Robotics(FRR)というファンドでございます。先ほどのNational Robotics Initiativeというのが、省庁横断で、運輸省やNASA、HRIやNHIと一緒に研究開発をしていたのですが、2020年から始まったFoundational Research in Roboticsは、その名前のとおりFoundational Researchに特化するということで、予算はNSFだけから出ている基礎研究になっております。
そのテーマを、実際に採択されたものからピックアップして分類してみたのが、この赤字で書いてあるところでございまして、ロボットと人間の統合、協調だとか自律性、適応性、操作性、精度と、まさに先ほど前半で福島が説明したような課題というのが取り組まれている状況でございます。
5ページをお願いします。EUのファンディングにおいては、基礎研究は実は科研費と同じような仕組みでボトムアップで行われていて、概要や全体像がつかめない状況です。ここでは応用研究について、先ほど申し上げたパートナーシップの中で公募のテーマに何が入っているかというと、AI・ロボティクス融合、ロボティクスとAI、AIとヒューマン、AI掛ける人間という、この上の2つが特にAIロボットに関係あるものが入っています。実際の公募のテーマの中身を見ていただくと、かなり応用に寄ったものであると見て取れます。
6ページをお願いします。最後は中国の研究ファンディングの状況です。中国は、2015年に「中国製造2025」、それから21年には「第14次5か年計画」を発表しています。これらは全体の方針みたいなものですけども、それの中で製造強国、製造業で強い国になるためのサプライチェーン強化を明確にして、その中のコンポーネントとして、スマート製造、スマートロボットというのが重要と言っています。
この方針に基づいて、毎年、国家重点研究開発計画が立っていまして、これが今回は2020年と2021年、この2年に関しては中身がよく分かっているので載せているのですが、2020年のほうで日本円にして15億円くらい、21年はその4倍くらいの69億円のテーマでもって、基礎基盤研究、先端技術から共通基盤あるいは応用というところまで、かなりカバーするような研究開発が主導されています。
以上がファンディングの話でございまして、これから、実際にどんな研究開発が行われているかということについて、ざっと御説明いたします。
最初にあるのは、基礎研究として、これは論文ベースでどういう研究が行われているかを調べた結果です。本来、論文を分析したいのですが、まだ文献の目録が整備されていない――ここ2年という単位だとそこまで見られないので、223論文を分析したサーベイ論文の結果から、今回、全体の状況に代えて御説明したいと思います。
このサーベイ論文によりますと、ロボット工学に関してのAI基盤モデルはどこに対応しているかということが、右の図に示されています。ロボット工学の中で、ポリシー、先ほどの行動計画ですね、価値の学習、あるいはタスクの計画、高度生成、ロボットトランスフォーマーという、この辺に実際に使われているということが、論文の分析から出てきております。
その結果、その中身をこの論文はちゃんと査定しておりまして、それを見ますと、ロボット工学の従来の深層学習モデルに対して、ロボットに適用しても、実は特定のタスクでしかデータがないので、それ以外のことはできないということが、当たり前ですが分かったと。
逆に、インターネット上のデータを使った基盤モデルは、かなり一般性を持っているように見えるということが分かりました。それから基盤モデルは、知覚から意思決定、制御、あるいはロボットの自律性のところまで、様々なコンポーネントを強化する可能性があるということも、論文ベースで研究が進んでいると。
ただし、ロボットのトレーニング・データをどうやって集める、特定の場所、特性の環境、特定のロボットというのではなくて、いろいろなところに使えるようなデータを集めるであることや、安全保障、不確実性の担保であるとか、あるいはリアルタイムの実行などに重要な課題が残るというように、この論文では結論づけております。
8ページをお願いします。続けて、海外にどんなロボットがあるのかというのも、サーベイした中から幾つか御紹介します。最初はスタンフォードでやっているMobile ALOHAという研究です。
この研究は、目標は、手を2本持ったロボットが人間と同じようなオペレーションを学習します。どうやって学習させるかというのがユニークな方法ですが、この図の左上のところに人が立っているような絵があると思うのですけども、実は、人間が操縦する、後ろで二人羽織みたいな格好で操縦すると、その前にあるロボットの手が動く。これでもって人間が操縦しながら、前の手を動かして、下にあるような調理や、椅子を引いたり出したり、ハイタッチなどをさせてみる。
これを何十回かやってみせると、ロボットがそれを覚えて自律的に行動するようになるというのが、この研究のユニークなところです。
いろいろタスクのデータを収集するということが重要で、これはそのようなプラットフォームになる、そのためにはインフラを安くしなければいけないということで、3万2,000ドル、日本円で五、六百万円くらいでできるようにして、これをいっぱいつくって配ってデータを集める基盤にしようという取組が、このスタンフォードのMobile ALOHAという研究でございます。
9ページをお願いします。企業では、AIロボットというのがヒューマノイド型で今、少なくとも10台くらい、いろいろな会社から出てきています。その中から、今日はアメリカのFigure AIという会社と、ノルウェーの1X Technologies、それから同じくアメリカのTeslaをピックアップして、表で比較しております。
細かい比較はあまりしませんが、大体全体的に言えることは、これらのロボットというのはマルチモーダルデータの学習を使ったロボット基盤モデルを使っていて、それで行動計画とか動作生成の実証がある程度できている。
また、ヒューマノイドと言いましたけれど、身長は160から180センチくらいで、60から80キロぐらいの体重、まさに人間の姿形の大きさがあって、2本足があって、それで移動して物をつかんで運ぶというような操作ができるようになっています。
ただし、実際に普及に向けては、いろいろ変わる実環境、多様な環境であるとか、あるいは動作がまだのろく、コスト・安全性など、ソフト・ハード面での課題はまだたくさんございます。
10ページをお願いします。こちらは話が変わって半導体の話です。ロボットみたいなものが単体で動くためには、消費電力も少なく、あるいは推論のエンジン、サーバーにつながないと動かないというのではなかなか使いにくいので、スタンドアローンで動いてとなりますと、推論エンジンであるとかチップが必要になってきます。
それに目をつけているのが、NVIDIAでございまして、NVIDIAがヒューマノイド向けの基盤モデルとソフト、それからプラットフォームを発表していて、その中にNVIDIAのチップを入れるような、そういう一種のインフラを提供しているところでございます。
いろんなことができるようになりつつあるのですが、でも一方で、センサーの情報から環境の変化をリアルタイムで認識したり、あるいはそれをロボットの行動にタイムリーにフィードバックしたりであるとか、そういったものはまだ出ていないというのが、次の大きな課題になるところでございます。
最後の11ページは、今までの話を受けて、では日本はどうしたらいいのかということについてまとめたスライドでございます。
AIモデルの登場後の現状を、アメリカ・ヨーロッパ・中国を見て、サーベイしているのですが、こういったAI基盤モデルを前提にしたようなロボットの研究の大きなプロジェクトは、今はない状況でございます。
一方で、企業が特に頑張って行っていて、かなり成果が出てきています。特にOpenAI、グーグル、あるいはMetaであるとか、そういうところが中心で進めているのが現状であります。
しかし、AIロボットでできているのは認識系と制御系の行動計画や、動作生成の一部である右の図の赤い点線で囲った、まだこの辺の一部ができているだけで、実世界でAIロボットが動くためには、適応能力や自律性、あるいは器用に手で操作することや、リアルタイム性、そういったフィジカルな課題が現状、大きな限界であると考えています。
それに対して我が国には、これらの課題の解決に必要となる、産業ロボットで培ってきた制御とか、マニピュレーションというのは手や腕で操作することですが、そういった技術がかなり蓄積されているということと、それから身体性、ロボットという体を持ったAIの研究に関しては、認知発達ロボティクスという我が国発の研究領域というのがありますので、今後そういうことを踏まえると、これらの日本の強みを生かして、世界を先導していくチャンスであると言えると考えております。
そのためには、ビッグサイエンス化もそうですけども、特に企業を巻き込んだような研究開発、基礎研究からそこまで行けるような取組を推進することが重要であると考えておりまして、その結果、AIロボットが発展するというのは、要するに我が国だけではなく世界の課題で、特に労働力の課題であるとか、高齢化の課題であるとか、そういったものへの解決を加速していくことができるというように考えております。
以上でございます。

【観山部会長】 ありがとうございました。
それでは、続きまして事務局から説明をお願いしたいのですが、時間が押していますので、よろしくお願いします。

【葛谷推進官】 文科省基礎基盤研究課の葛谷と申します。資料2-3に基づいて御説明いたします。
文科省においては、AIの利活用の拡大といった観点から、AIロボットの研究開発を検討してきているところでございます。先ほどCRDSの皆様方からの御説明にございましたとおり、AI基盤モデルの登場によりまして、AIはこれまでの目的特化型から汎用AI型へと発展してきているところでございます。また、汎用AI型をロボットに導入することによって、AIの利活用がこれまでのデジタル空間、スマホなどのデバイスから、物理空間、フィジカルへの拡大が見えつつあるといったところだと考えております。
2ページをお願いします。続きまして、こちらの資料は、広い視点で半導体・AI・ロボットなどの技術的シナリオと、今後の社会イノベーションシナリオ、こういったものを大きく俯瞰したものでございます。
技術シナリオを見ていただければと思いますが、半導体でございますけど、真ん中のほうに「現在」とありまして、それから右側は今後想定される見込みでございますが、Rapidus社においてさらなる微細化や、短TATにより汎用から専用チップ、汎用というのはこれまでのPCやスマホといったような汎用のチップから、少量・多品質の専用チップへの教育、そういったものが見込まれております。
また、AIにつきましては、AI基盤モデルの登場から、マルチモーダル化が進み、推論計算の進展が見込まれております。推論計算の進展には、通信の高度化などが必要になってきますので、エッジの知能化といったものが進んでいくのではないかと考えております。
続いてロボットでございますけれども、知能ロボット、例えばここにございますようなお掃除ロボットやアバターロボット、また産業用ロボットにつきましては、工場などの閉じた環境で導入されておりますが、こういったロボットがこれまで個別で発展したところでございますけれども、実験の自動化などで融合し、今後は非定形・多品種少量生産を中心に、幅広い分野への導入が見込まれているところでございます。
こういったもの全体を踏まえますと、この社会経済イノベーションシナリオ、スマートフォンの次にEV、自動運転と言われているところ、その次に、身体と知能のリアルタイム化や、マルチタスクが可能なロボット、こういったものが考えられないかと考えているところでございます。
3ページをお願いいたします。こちらからは、政策文書におけるAIロボットの研究推進でございます。
まず上が、自民党におけるAIホワイトペーパーにおける提言の内容でございます。研究開発力の強化ということで、現在のAIでは実現できない革新的なAIを搭載したロボット等の研究開発を、官民で抜本的に強化することが示されております。
下がCSTIにおける科学技術・イノベーション政策の方向性についてといったところでございます。こちらにも同じく、AI・ロボティクスの自動化・省力化が急務といったあたりが示されております。
4ページをお願いいたします。続いて産業界でございます。こちらは先月公表されたものでございますが、日本産業の再飛躍というところでございます。
この中で、デジタル、産業DXという中で、国産技術を含めてAI・ロボットの徹底的な導入推進に向けて、今後3年程度、集中投資期間として大胆な予算や税制、規制改革のあらゆる施策を総動員すべきといった形で、AIロボットの重要性がうたわれているところでございます。
また、本日はCRDSの皆様方から御説明いただいた調査結果を踏まえた状況について、御報告いたしましたが、今後、具体的な検討を文科省で進めておりまして、次回以降、改めて説明したいと思っているところでございます。
私からの説明は以上です。

【観山部会長】 どうもありがとうございました。
司会の不手際で、あと議論の時間が8分しかないのですが、先生方から、どうぞ御自由に。
上杉先生。

【上杉委員】 京大の上杉です。これは非常に大切な技術ではないかと僕は思うのです。ソフトの生成AIで日本が大分遅れてしまったのは仕方がないとしても、これからAIロボットとなると、また別の話ではないかなと思います。日本がそこだけでもできるようになってほしいという感じはします。
それで、ロボットとなると、その後のこともどんどんどんどん変わっていくような気がします。例えば自動掃除機が出てきたときに、家を自動掃除機が動きやすいようにしようというように変わりました。それと同じで、ロボットが出てくると、ロボットが使いやすいような台所になったり家電になったりというように、全部変わってくるような気がするのです。
ですから、ぜひ日本が主導して、このロボットの世界だけでも、先ほどの資料には「AIとロボット」になっていましたけど、AIロボットだけでも日本が主導できるようになってほしいなと思いました。ですから、何らかの強い政策を行うべきではないかなと思います。
その政策をするときに一つ、申し上げたいことあるのです。政策をするときに、これまでの古典的な日本のやり方、政府で実施される、役所で実施されるやり方は、大体オールジャパンでやりましょうという政策だと思います。日本の企業と日本の大学が集まってやりましょう、というようになると思うのですけども、ずっとこれをやってきて、昔はうまくいっていたけれど、最近うまくいってないような気が僕はします。
スポーツの世界でも、日本代表は日本人ばかりでやっているわけじゃなく、日本人も海外に出て活躍しています。日本だけで完結するのではなくて、海外の仲間も入れた政策を日本で主導すればいいのではないかなと。特にロボットが絡む限りは、そういうことが日本はできるのではないかなと思いました。
以上です。

【観山部会長】 ありがとうございました。
事務局から何かありますか。

【葛谷推進官】 ありがとうございます。今いただいたところ、重要な御指摘だと思っております。今、研究開発施策の具体化に向けて検討しているところでございますので、日本の強みを活かしながら、海外の技術との連携といったところも重要でございますので、そういった点も踏まえて検討していきたいと思います。ありがとうございます。

【観山部会長】 前田先生、どうぞ。

【前田委員】 私も基本的には今、上杉先生がおっしゃったことと似たようなお話になってしまうのですが、やり方をぜひ工夫していただきたいなと思っています。生成系AI、AI全般の研究は、とても膨大なリソースがかかるため、GoogleのディープマインドやNVIDIAなどが先導しています。さきほど御紹介いただいた中のアーカイブの記事とかも開いてみたのですが、ディープマインドがついていって、そのような世界トップのところは資金力と人材力で進んで行っている。このロボットのほうもそうなりつつあるのかなということを思いました。
特にロボットは本当に、外界とのインタラクションをたくさん学習しないといけないため、さらにお金がかかりそうな気がします。企業をどのように巻き込むかというところを、うまく戦略的にやらないといけないのかなということを感じました。
もし可能であれば、AIの研究でも良いのですけど、例えば日本の企業で、アカデミアの協働でこのようなすごい成果が出たというような、今回はディープマインドや海外のところをかなり挙げていただいていたのですが、そのようなところも調べて教えていただけると、どういう企業がディープマインドみたいなチームを持っているのかとか、そことどういうつながりが日本の研究者とがあって、そこがどううまくいっているかというようなことを教えていただけると、個人的にもすごく勉強になると思いますので、もし可能であればお願いします。

【観山部会長】 重要な指摘だと思います。
佐伯先生、どうぞ。

【佐伯部会長代理】 どうもありがとうございます。非常に重要なAIロボットの研究は、今、説明がございましたように、日本が活躍できる可能性が非常に高いと思いますので、ぜひ進めていただきたいと思います。
その際に、研究者の人口を増やすという意味でも、ある程度集中的な場所に資金を投入するよりも、裾野を広くというか、いろいろなところから人を集めてきて、研究者の人をどんどん増やしていく。
特にこのAIとか新たな分野ということですと、アイデア勝負ということがございます。もちろん技術力が伴っていなければ駄目ですけれども、その前に何か新しいアイデア、例えばこういうロボットをつくったら社会の役に立つ、多くの人が使ってもらえる、そういったアイデアを広いところから募集する、例えば高校生レベルの人たちから人材育成していくとか、そういった政策的なことも必要ではないかと思いました。それが1点です。
もう1点は、これまでChatGPTとその他の生成系AIモデルでもいろいろ問題になってきたのは、セキュリティーの問題、あるいは犯罪に使われたりとか、偽情報を流したりとかということがございました。ですから、AIロボットをつくる際にも、セキュリティーあるいは法規制等も国を挙げてやっていくことだとは思いますし、世界的にも大きな問題になるのではないかと危惧はしておりますが、そういった面でも、何かしら日本がイニシアチブを取れるようなことがあれば良いなというのが個人的な感想でした。よろしくお願いいたします。

【観山部会長】 どうもありがとうございました。
城山先生、お願いします。

【城山委員】 どうもありがとうございました。若干、一つだけ気になった点を申し上げておくと、最初の2つのCRDSの今回の御報告と、最後の文科省さんからの報告は、若干ずれもあるのかなという感じがしました。
つまり、CRDSの御報告は、日本のこれまでの経験を踏まえると研究開発の対象としてAIロボットなどが一つの狙いどころだよという、研究開発の観点からの焦点の当て方になっており、文科省の話は社会実装みたいなことも含めておっしゃっていて、その時に、AIロボットという話なのか、もうちょっとざくっとした、「AI・ロボット」なのかというところは、若干幅があるのだと思うのです。
御紹介いただいた文章も、「AIロボットの研究推進」と書いていますが、例えば経団連の文章は「AI・ロボットなど」であって中ポツでありますし、統合イノベーション戦略も中ポツが入っていて、自民党の文章はAI搭載したロボットですが、社会的に必要な話というのと、研究開発の次の狙い目というのは重なってくることは大事ですが、無理やりそこを、あいまいに処理し過ぎないほうがいいときもあるので、その辺は若干気をつけていただいたほうが良いのかなという気がしました。
以上です。

【観山部会長】 3人の先生からコメントいただきましたが、事務局、何かまとめてありますか。

【葛谷推進官】 ありがとうございました。最後の御指摘については、本日は社会経済イノベーション、技術シナリオ全体を俯瞰する形でお示ししておりますけれども、当然、文科省が進めていく研究開発の内容でございますので、重要基盤技術、将来、10年20年先を見据えて、日本が勝ち筋となる重要基盤技術を取っていくための研究開発というところを考えております。それに向けて現在検討しておりまして、次回以降、そういったあたりをしっかり示していきたいと思っております。
また、御指摘いただいた企業とアカデミアとの連携の件でございますけれども、CRDSから、もし何か情報ございましたらいただければと思います。

【福島フェロー】 いろいろ活発な、非常に早い動きであるところですけども、代表的なものをお話しすると、AIの分野では、国立情報科学研究所を中心としたLLM-jpというプロジェクトがあって、これは大学、企業も含めて、かなりオールジャパン的に集まって、データも共有しながらやっているという取り組みがあります。こういったところもロボットの話は入ってくるかなと。
AI分野でリードしている、Preferred Networksという日本のベンチャーでもロボットへの取り組みを進めています。
また、ロボット関係では高専を中心としたDCONというコンテストのようなものがあって、裾野を広げるような努力も動いているというような話題もあります。

【観山部会長】 ありがとうございました。
それでは、少し時間が足りなくなり、発言したい方もまだおられるのではないかと心配しますけども、議論は以上としたいと思います。
基礎研究振興部会運営規則第7条に基づいて、本部会の議事録を作成いたしまして、資料とともに公表することになっております。本日の議事録については、後日メールでお送りいたしますので、御確認をどうぞよろしくお願いします。
それでは、以上をもちまして、第14回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を閉会したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

 

 

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研究振興局基礎・基盤研究課