基礎研究振興部会(第6回) 議事録

1.日時

令和3年8月2日(月曜日)15時00分~17時00分

2.場所

オンライン開催

3.議題

  1. 部会長の選任等について(非公開)
  2. 運営規則等について(非公開)
  3. 部会の主な審議事項等について
  4. アジア太平洋数理・融合研究戦略検討会の報告書について
  5. 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について
  6. その他

4.出席者

委員

観山部会長、黒田委員、小泉委員、合田委員、小谷委員、齊藤委員、品田委員、辻委員、城山委員、長谷山委員、美濃島委員

文部科学省

研究振興局長 杉野剛、研究振興局基礎研究振興課長 渡邉淳、研究振興局基礎研究振興課課長補佐 大榊直樹、研究振興局基礎研究振興課課長補佐 西山裕子

オブザーバー

学習院大学理学部教授((一社)日本応用数理学会会長) 岡本久

5.議事録

議題(1)部会長の選任等について(非公開)

議題(2)運営規則等について(非公開)

【観山部会長】 部会長の観山でございます。
第6回基礎研究振興部会について,これより公開の議論に入ります。
委員の皆様におかれましては,これから2年間,審議のほどよろしくお願いいたします。
それでは,引き続き,議題3「部会の主な審議事項等について」,事務局より説明をお願いいたします。

【大榊課長補佐】 事務局でございます。資料3に基づいて御説明をさせていただきます。資料3「科学技術・学術審議会基礎研究振興部会における主な審議事項(案)」とさせていただいてございますが,本部会においてどのような事項を審議するかということについて,まずここで決めたいという趣旨でございます。
本件につきましては,科学技術・学術審議会総会のほうで報告することを求められてございますので,本日,これを決定させていただきたいという趣旨でございます。
1ポツでございますが,「基礎研究の振興に資する個別施策に関する審議・意見聴取」ということでございまして,主に以下の事項について審議・意見聴取を行っていただくという趣旨で記載をしてございます。
数学・数理科学イノベーションに関すること,それから世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に関すること,また,その他基礎研究の振興に資する事業等について随時審議・意見聴取を行うこと,としてございます。
また,2つ目のポツでございますが,「基礎研究の社会的意義・価値について」ということでございますが,これは後ほど皆様に御審議をいただく時間を設けさせていただきたいと思ってございますので,ここでは項目のみ触れさせていただきますが,科学技術・イノベーション基本計画における基礎研究の位置づけを踏まえて,基礎研究の社会的意義・価値について,以下のような観点を例に討議するということを書かせていただいたものでございます。

【観山部会長】 ありがとうございます。この資料については,今ありましたとおり,後ほど別途審議の時間を設けることとしておりますので,次に議題4に移ります。「アジア太平洋数理・融合研究戦略検討会の報告書について」,検討会の主査をお務めいただきました岡本久学習院大学数学科教授兼日本応用数理学会会長より御発表をお願いいたします。

【岡本オブザーバー】 岡本でございます。まず,本日はこのような機会を頂戴しまして,心から感謝申し上げます。
さて,私どもは,数学及び数理科学の社会からの大いなる期待,要請があると認識しております。
これを受けまして,本年1月からアジア太平洋数理・融合研究戦略検討会を設置し,我が国の数理科学及びそれを活用した融合分野の推進方策等につきまして,5回の会議を開催し,議論を深めてまいりました。
このたび検討会のこれまでの議論に基づき報告書を取りまとめましたので,ここに御報告申し上げます。
報告の詳細は,この後,文部科学省の事務方から説明がございますけれども,本報告書を取りまとめるに当たりましては,3つの大きな観点を念頭に置きまして取りまとめに当たりました。
1つは,現代社会及び産業界における数理科学の重要性,数理科学への期待,これがあるということであります。
2つ目は,数理科学の推進に向けた我が国や,それから外国,こういった国々がどういう対応をしているのかを調べる,こういうことであります。
3つ目は,今後の数理科学発展の方向性,あるべき姿として特に産業界に貢献できるような応用数学を担う人材の育成には何が必要か。
こういった観点を念頭に置きまして,意欲的に検討を行うことができたと自負しております。
文部科学省には,この報告書で検討会として提言した推進方策を実行に移していただくよう,予算措置,体制構築に御尽力いただくことを期待いたします。
基礎研究振興部会の委員の皆様にも,引き続き御支援,御協力を賜ることができましたら幸いです。何とぞよろしくお願い申し上げます。

【観山部会長】 ありがとうございました。それでは,事務局から資料の説明をお願いいたします。

【西山課長補佐】 それでは,事務方から報告書の内容について御説明いたします。文部科学省研究振興局基礎研究振興課課長補佐の西山でございます。数学イノベーションユニットの髙橋融合領域研究推進官の業務を引き継ぐ形で,本年6月に着任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは,まず資料4-1を御覧ください。文部科学省では,AIが一層進展し,コロナ禍の克服に向け,社会全体でDXの推進が求められるなど,数理科学の重要性がかつてなく高まっているという趨勢を踏まえまして,昨年12月,数理科学・融合研究の検討会を設置いたしました。
検討会は,岡本主査の下,この名簿(資料4-1)にございます11人の先生方に委員をお務めいただきました。
それでは,報告書の中身について御紹介いたします。資料4-2を御覧ください。
まず,1枚おめくりいただきまして,資料4-2の目次でございます。
本報告書は,4つの章から構成されております。
第1章では,数理科学,そして融合研究の重要性について分析しております。
第2章では,数理・融合研究を取り巻く国内外の動向,国内の状況,そして海外の動向について分析しております。
第3章では,これらの国内外の状況を踏まえまして,我が国が今後,数理・融合研究を推進していくに当たって,5つの観点から課題を抽出しております。
第4章では,これら抽出した課題に対応して,それらを踏まえて,今後我が国の取るべき推進方策を提言としてまとめております。
それでは,第1章から簡単に御説明させていただきます。第1章では,数理科学の特徴,その特徴から導き出される必要性を分析しております。
数理科学,皆様御承知のことではあろうかと思いますけれども,近代科学技術が出現するはるか以前にその源をたどっておりまして,歴史的に科学技術の発展の礎としての役割を担ってきております。
2006年に文部科学省では,「忘れられた科学-数学」という報告書を発表して以来,約15年にわたって様々な施策を講じてきております。
そして現代,AI技術,そして量子技術のニーズが増大し,新型コロナウイルス感染症の拡大によってDXの要請が急激に高まる中で,数理科学の重要性が改めて認識されております。このような中で,本年3月には第6期科学技術・イノベーション基本計画において,基盤分野を含めた数理・情報科学技術に係る研究を政府として加速していくということを閣議決定しているという状況でございます。
では,なぜ近年世界的に数理科学の重要性が改めて認識されているのかということを,数理科学が持つ5つの特徴から分析しております。
1つ目の特徴,「抽象性・普遍性・厳密性」でございます。数理科学は,現実の世界の自然現象,社会現象というのが複雑で,不可視で,不明確であるという,こういうものを抽象化・単純化することで,可視化し,認識可能化できるという特徴がございます。
また,AIが何かの結果を出したという,いわゆるブラックボックス問題,なぜそれが導き出されたのかというブラックボックス問題について,アルゴリズムの本質を理解するためにも,数理科学が必要になってくるということでございます。
続きまして,2つ目の特徴,「分野横断・汎用性」でございます。数理科学はライフサイエンスから経済学等の人文・社会科学まで,ほぼ全ての学術領域の共通基盤としての汎用性を持っているということでございますので,これらの融合研究,そして新結合によるイノベーションを可能にするという特徴を有しております。
また3つ目でございます。AI,量子,ICT等,近年進展しつつあるような,このような分野,技術については,数理科学なくしては出現し得なかったということでございます。このような基盤的な性格も持ってございます。
4つ目でございます。「理論演繹的イノベーションの可能性」でございます。一般的な科学的手法については,まず社会現象や自然現象という実際の現象がございまして,それを帰納的に,それから立ち返る形での研究開発によるイノベーションというものを志向しておりますけれども,数理科学を用いることで,現実世界の延長線上ではない理論を積み重ねていく演繹的な手法でのイノベーションを起こす可能性というものもございます。
最後,5つ目でございます。歴史的に数理科学は安全・安心に係る技術,具体的な暗号解読等の情報分野,そしてステルス技術の開発,コンピューター技術などのゲーム・チェンジャーとなるような技術開発,このようなものの発展の影の立役者でもありました。
続きまして,4ページ目をご覧いただければと思います。このような特徴を持つ数理科学でございますが,では,人文・社会科学を含む異分野との協働による数理・融合研究の必要性は,どのようなところにあるかというところについて分析しております。
数理科学は,現実世界における複雑な事象の解明や課題解決のために,それらを数理モデル化するということでございますが,そのためには現実をしっかり正確に把握するという多角的な視点が必要になってきます。それには数理科学だけではなく,それ以外の多様な分野,そういうものの知見,視点が不可欠でございますので,このような融合・協働が不可欠であるということでございます。
次に第2章ですが,まず,国内の状況について分析しております。日本は長年,アジア太平洋地域において数理科学研究では中核的存在感を示してきております。その最たる例として,まず世界の最高の賞であるフィールズ賞,これを1954年に小平邦彦先生が受賞して以来,これはアジア人で初めて受賞しておりますけれども,アジア最多の3名がフィールズ賞を受賞しております。
また,ガウス賞,これは数学の応用に対して授与される賞でございますけれども,これの第1回の賞も受賞しております。また,チャーン賞も2018年に受賞するなど,国際的な賞の受賞者を多数輩出してきているということでございます。
他方,研究力に関する指標を見ますと,我が国のこの分野における相対的な地位の低下を示すという傾向が見られるというところもございます。
その次のページに行っていただければと思います。6ページでございます。産業界でこの分野への人材の期待というところについて少し分析しております。まず現代ですけれども,Society4.0からSociety5.0への転換点と言われているところでございますが,このような中でAI人材が不足しているということでございまして,政府でもAI戦略を策定するなど,この喫緊の課題に対応しているというところでございます。
このような中,産業界においては,ITやAIを含む数理科学関連分野の人材,特に高い数理能力でAIデータを使いこなすという力だけではなくて,課題設定・解決力や異なるものを組み合わせる力によって,新たな価値創造,イノベーションを行う人材というものが求められているという状況でございます。
7ページの下に行きます。社会的課題に対応する数理科学研究ということでございます。環境,エネルギー,経済,防災,現代において多くの社会的課題に数理科学が当たっており,これらの課題解決に貢献するということはもちろんですけれども,それらを通じて様々な新興・学際分野の研究を創出・発展することにも寄与してきております。
そして,我が国の目指す世界的な喫緊の課題として,今,特に少子高齢化等の人口問題や感染症の問題,これが今問題になっておりますけれども,これが典型的な数理・融合研究領域であると思っております。
従いまして,今後ますますニーズが高まるものと考えております。
その次,8ページ目の中段のところからでございます。国内ではいろいろな組織的な取組の動きも見られます。文部科学省においても,平成24年から,まず5年間,数学協働プログラム,そして平成29年からの5年間,AIMaP(数学アドバンストイノベーションプラットフォーム)というプログラムを実施することで,国内の拠点の連携,ネットワーク化を図ってきたということでございます。
個別の大学の取組例としても,北海道大学,東北大学,京都大学,情報・システム研究機構,統計数理研究所など,これらも協力拠点の1つとして活動いただいておりますが,このようなところで様々な取組をしているということでございます。
続きまして,9ページの下のほうでございます。海外の動向に目を移しますと,さらに積極的な取組が見られるという状況でございます。
まず,アメリカでございます。1998年にオドム・レポートという,パネルのチェアのオドムさんという方の名前を取ってオドム・レポートと呼ばれるものですけれども,アメリカの数理科学が今どのような位置にあって,どのように振興していくべきなのかということを評価したレポートがございます。これで現代社会というのは,ますます数理科学に依存してやっていかなければいけないということが評価されたというところでございまして,これ以来,アメリカは研究費を大幅に増強するとともに,数理科学研究も積極的に推進してきたという状況でございます。
また,10ページの中段のほうに行きまして,アメリカでは数学人材を非常に豊富に有しておりまして,数学専門職就労者数というものも統計を取っております。そこで約22万人が計上され,かなり高年収でそういう方々が活躍しているという状況でございます。
続きまして,イギリスでございます。イギリスではニュートン研究所をはじめとして国際的に著名な研究所が数多く存在しております。また,2020年1月にはイギリスの首相が数理科学への投資を約410億円に倍増するということを決定したなど,積極的な取組が見られます。
続きまして,11ページ目,中国でございます。中国は2015年,ICIAMの招致にアジアで初めて成功して以来,国際活動を急速に活発化させております。特に,少し下のほうに行きますけれども,2国間協力に活発な動きが見られまして,2020年の6月には北京大学とロシアのモスクワ大学間で中露数学センターが設置されるなどの動きが見られております。
そのロシアでございますが,12ページ目でございます。ロシアは世界で2番目に多くのフィールズ賞受賞者を輩出しているということでございますが,こちらについても研究・教育拠点の新たな建設などの動きが見られるという状況でございます。
また,新興国においてもデジタル化が近年急速に進んでいるということでございますので,数理科学人材の育成を含む政策パッケージが積極的に進められているという,こういう状況でございます。
このように国内・国外の状況を分析してきた中で,14ページ第3章の今後の課題でございますが,このような状況を踏まえまして,5つの観点から今後の我が国が数理科学を振興するに当たっての課題を抽出しております。
まず1つ目,「研究力向上の観点」でございます。数理科学の研究においては,多様かつ優秀な研究者との議論,そういう場が非常に他分野の実験に匹敵するような重要な研究活動であるということでございます。
従いまして,研究力の強化のためには,このような国際的に求心力のある場を我が国がイニシアチブを取る形で立ち上げ,欧米に匹敵する国際頭脳循環の仕組みを構築・整備していくということが必要であるということでございます。
2つ目,「イノベーション・産学連携の観点」でございます。このような出会いと議論の場においては,単に数理科学の研究者と社会的なニーズを物理的に引き合わせるというだけではなくて,多岐にわたる分野の人材,産業界等からの多様な人材が一緒に課題を共有しながら,イノベーション創出を行うという共創の場となることが非常に重要ではないかということでございます。
3つ目,16ページ目でございます。「人材育成の観点」でございます。AI,量子などの数理科学を基礎とする技術に対応するというだけではなく,複雑かつ現実的・社会的な課題解決にも貢献できる,そういう数理人材の育成が,先ほど来,御説明している中で,育成が求められているという状況でありますので,現実を複眼的・多角的に把握するために必要となる視野,関心,経験値を有する俯瞰的数理人材の育成というのが喫緊の課題であり,そのためには新たな人材育成プロセスが必要であり,多様なキャリアパスの形成に対する理解と支援を行うということが望まれるのではないかというところでございます。
4つ目,17ページでございます。「国際的存在感の観点」でございます。先ほども申し上げたように,世界の数理科学コミュニティーは欧米の2極を中心に国際頭脳循環を行っていると考えております。したがって,それに匹敵するようなものがまだアジアにはないという中で,近年中国が急速に存在感を増してきております。その中に日本の存在感が相対的に低下しているという状況でございますので,我が国主導でアジア太平洋地域における開かれた国際頭脳循環の場を用意するということが,ひいては我が国の国際的な存在感を維持・発展させていくことに寄与するのではないかということでございます。
最後の5つ目の観点でございます。「理解増進の観点」でございます。数理科学がいかにより幅広い分野でその有用性が認知され浸透するかということが非常に重要ですので,このような観点で理解増進の活動も期待されるということでございます。
最後,18ページ目でございます。これら抽出した課題を踏まえまして,今後我が国が採るべき方策として,このような取組を提案しているということでございます。
「提案」のところでございます。「アジア太平洋地域における数理・融合研究に関する国際頭脳循環ハブ機能の構築」とございます。具体的には下のほうに下線で書かれております。我が国の研究力の維持・向上を図るとともに,数理科学を活用したイノベーションや,アジア太平洋地域の共通課題の解決に貢献するための国際頭脳循環の場と仕組みを構築するということでございます。
具体的にどのようなものかということでございますが,さらに少し下の下線のほうに行っていただきまして,数理・融合研究に関する国際的な場(フォーラム)を設立して,この設立したフォーラムの中で,実際に数理科学の研究者,そして異分野の研究者,そして産業界の方々が交流をし,ニーズを踏まえ,協働していくというような中で,実際に滞在型研究や課題解決型研究を一緒にやっていきまして,最終的には社会的課題の解決,SDGs課題の解決,そして産業界の抱える課題の解決などに寄与するということでございます。
また,これを第3極にするということでございますので,数理関連動向の情報収集や調査なども必要ではないかというような御提案でございます。
報告書の説明としては以上でございます。
最後になりますが,今回こうした報告書が取りまとまりましたことを改めまして,岡本主査,そして検討会委員の先生方に御礼申し上げますとともに,本報告書で御議論いただいた問題意識,御提言をしっかり踏まえ,本分野の加速につなげていきたいと思っております。

【観山部会長】 ありがとうございました。非常にしっかりした報告書をまとめていただきまして,岡本主査はじめ,委員の方の御努力に感謝いたします。
それでは,ただいまの説明を踏まえて,アジア太平洋数理・融合研究戦略検討会の報告書について,御意見並びに御質問があればお願いしたいと思いますが,どうぞ手を挙げて,画面で手を挙げていただくのが一番簡単かと思いますけれども,いかがでしょうか。
それでは,私のほうから1つ。どうもありがとうございました。この中で,私が思うに,出会いと議論の場を提供するということは非常に重要で,そういう結びつける場がないとなかなか難しいと思うのですけれども,一方で,私,天文学分野なのですが,最近の話題で言うと,もう二,三年になりますが,ブラックホールの絵を作ったということがありまして,これは天文学と統計数理の研究者の協力の下に非常に良い結果が出てきたのですけれども,その例を見ても,やはり中心となる人が割と幅広い興味を持って場を設定するということがあったのではというふうに聞きますので,場のつくり方というのは随分難しいのではないかと思いますけれども,岡本先生,どのように,特に人文・社会系もありますと,まず言葉が分からない。特に私もそうですが,数学の言葉,なかなか理解がしにくいところがあるので,場をつくるというのは非常に賛成なのですけれども,そこでの注意点とか,それから議論された中で,いろいろ良かった例みたいなものがありましたら御紹介いただければと思います。

【岡本オブザーバー】 そういう御指摘は検討会の中でもあったと記憶しております。それは,1つには,そういう御心配が出てくるというのは,これまでの日本の数学界,特に純粋数学の人々がそういったことに無関心であり過ぎたということがあったのだと思うのですね。我々はそれに対する反省に基づきまして,今,観山先生がおっしゃったようなことを今後はやっていくのだと。
すなわち,数学の応用と言いましても,そもそも,そういう視野の広い数学者がどれぐらいいるのかというと,心もとないところですよね。まずそこからやらなければいけないのですけれども,今までのやってきたことをそのまま延長していけば良いというふうに考えてはおりませんし,そんなふうに書いてもいないつもりでございます。
ですので,今後は,アメリカや中国で今行われているようなことを横目に見ながら,そういった出会いの場において誰と誰と誰が出会うのか,あるいはどういう観点で,どういうフィロソフィーで先を進めていくのか。そういったことをしながらでないと,集めるだけ集めて,あとは自由にしてください,それでは進まないと理解はしております。

【観山部会長】 ありがとうございました。小谷先生,お願いします。

【小谷委員】 実は今観山先生から挙げていただいたブラックホールの観測に関しては,そういうことに関心のある方が自発的に集まったということではなく,今回提案しているようなテーマ設定プログラムによるプラットフォームが海外にあり,その中のテーマとして,天文学者と統計学者が集まってしっかり議論した結果だと聞いています。
海外ではそのような場が既にいくつか設定されており,私自身も,例えば量子コンピューターの開発に関して,数学と化学と物理と,大学から企業の方までが一堂に集まって議論する場にも出席したりしたこともございまして,海外ではそのような基礎から社会実装まで様々な人が集まって議論をする場があるということを,非常に羨ましく思っておりました。
人文・社会に関しても,オランダのライデン大学で人文・社会と数理科学の融合のための連携プログラムを立ち上げ,定期的に社会課題に関するワークショップを継続的に行っています。AIがもたらす倫理の在り方とか,そういうことを議論しています。
このように海外の事例というものはいくつかございますが,日本で行うには岡本先生が今言われたような意識改革と場の設定というのが必要でございます。それを目指して,かなり厳しい議論をしながらつくった報告書でございます。どうぞよろしくお願いします。

【観山部会長】 ありがとうございます。小谷先生も委員として参加されているということであります。
いかがでしょうか。では,黒田先生,お願いします。

【黒田委員】 大変すばらしい趣旨で,是非推進していただきたいと思いますが,場をつくるということは,組織をつくるというふうに読み替えてよろしいのでしょうか。国が主導する組織をつくる,あるいは民間が組織をつくっていくことを文科省が支援するなど,どのようなイメージを持っておられるのか,お伺いしたいと思います。

【西山課長補佐】 文部科学省でございます。これなのですけれども,場というのが,ある種バーチャルな場であるというふうに置き換えていただければと思います。そう言いますのは,今,学術界,そして産業界,それぞれいろいろな拠点でいろいろな取組,数理科学の取組をしておりますけれども,そういうものが一堂に会したような形で一緒に議論をするというようなことが大事であるということでございますので,何か組織をつくるとか箱を造るとかいうことよりも,むしろ実質的に多くの人が1つの物理的な場に集まって,そこで様々な人たちが一緒に議論する,そういう場を構築するべしというふうに受け止めております。

【黒田委員】 なるほど。そうすると,日本数学会とか,私は数理系の学会をよく存じ上げないので何とも言えませんが,いろいろな学会の方々が集まってもっと大きく動こうと,そういうふうに理解すればよろしいでしょうか。

【西山課長補佐】 おっしゃるとおりでございます。少なくともアジアのほうで第3極をつくるということでございますので,同じくアメリカであるとか,欧米各国で開かれているような,そういうような一堂に会して議論するような場を日本としてつくるということ,それをアジア太平洋地域を巻き込んでつくるということですので,少なくとも日本の数学・数理科学者が結集する,産業界からも結集する,そして学術界からも結集するということが必要ではないかと思っております。

【黒田委員】 よく分かりました。大変結構なお話だと思います。

【観山部会長】 他にいかがでしょうか。

【小泉委員】 小泉です。よろしいでしょうか。

【観山部会長】 小泉さん,どうぞよろしくお願いします。

【小泉委員】 第3極というようなところ,意欲的だなとすごく思うのですが,2点あります。現状を見て取ると,今,実は少し自分の手元で,世界各国の大学ごとの数理科学分野の大学の様々な指標を見ていたのですが,もうほとんど中国の大学が出てきますね。日本は,いくつかの旧帝大が出てくるぐらいで,正直,量,質ともに中国に相当かなわないような状況になっているなというのが現状かなと思って見ていたところです。
そういった中で,第3極,欧米に対抗して第3極を日本がリードするというのは,正直,中国のこのすごい状況の中ではなかなか厳しいのかなと思うのですが,逆に言えば,そういった量,質で中国にかなわないところがあるとして,何か切り口なり,日本にしかない切り口みたいなところを攻めていかないとなかなか難しいかなと思うところなのですが,何か戦略的な部分があるのかなというところが,質問が1つ目です。
それから,日本の数理科学を見ていると,特に医学系がやはり数学をかなり必要としているところもあると思っています。その辺の,数学と医学というのは日本においてもかなり頑張っているところがあると思うので,そういったところのひとつ強みというのもあるのかなと思ったのですが,その辺はどうお考えなのか。
この2点について,少し戦略的な部分というのを,是非盛り上げていくべきだと,全く否定するものではなくて,数理科学,とても重要で,先ほど観山先生もおっしゃったみたいに,我々自然科学研究機構も,天文台等を始め,統計数理,とても重要になっています。なので,是非,戦略的にエッジを効かせて攻め込んでいったほうが良いなと思うのですが,その辺の戦略性というところでいろいろと教えていただきたいのですけれども,いかがでしょうか。

【観山部会長】 岡本先生,いかがですか。

【岡本オブザーバー】 まず中国に対抗できるのかというお話ですが,この数字を前にしたら,対抗できませんと答えるのが普通かもしれません。ですが,1つだけ申し上げたいことがございます。それは,日本ではこれまで純粋数学が尊重されてきたということがあって,純粋数学以外のものは数学でないという,そういう風潮があったわけですね。
もう一つ言いますと,応用数学というのは二流の人間がするべきものであると。そういうふうなことを平気で言っている人間が今でもいるわけです。
その状況で,数学をやっていますかということで自己申告をすれば,私は数学ではないわよという感じの人が増えていきますので,当然のことながら,日本ではあまり数学はやってないということになるわけですね。
だけれども,医学部や統計とか,あるいは社会科学,経済学,そんなところに行けば,この人はまるっきり数学であるという人はたくさんいるわけで,そういったところが日本の場合には統計から漏れているのだと私は信じております。
ですので,中国に対抗できるかと言えば,それは人口10倍ですから,対抗はできないかもしれませんが,数字が見せるほど絶望的なことではないと私は考えております。
それから,医学,統計ですけれども,これは実はそういったことをやっている,例えば明治大学とか,東北大学とか,そういったところでそういったことに非常にエネルギーを傾けている世界的な研究者が,数学者がたくさんいます。ただ残念なことに,私が見る限り,研究費は非常に少ないです。
ですので,そういったことができるようになれば,これも決して悲観的になる必要はないと思っております。

【観山部会長】 ありがとうございました。他にいかがでしょうか。

【渡邉課長】 文科省ですけれども,補足をさせていただきたいと思います。中国との関係につきましては,この検討会の中でもかなり議論になりまして,まさに,冒頭説明を申し上げたところでは日本はかなり成果を上げていると申し上げましても,やはり中国からの追い上げもかなり厳しいということをもって,中国,アジア,インドや韓国含めて,そういったところとオープンな場でお互い刺激し合って高めていこうということがコンセプトだと思っております。そういう意味では,中国や,そういう伸びてくる国々と連携して,お互いを刺激し合って日本の能力を高めていきたいということでございます。
あともう一つ,医療の話もございましたけれども,今後,先ほど申し上げた議論の場においては,学問分野の融合と産業界,実用化に向けた融合,両方とも必要な観点だと思っておりまして,医療などは重要な分野と考えておりますので,今後も事業化に当たってはそういった観点も重視しながら進めていきたいと思っております。

【岡本オブザーバー】 ありがとうございます。

【観山部会長】 いかがでしょうか。

【齊藤委員】 齊藤ですが。

【観山部会長】 齊藤さん,どうぞ。

【齊藤委員】 これは,大変重要な提案で,Society5.0になってくると,大部分のものが何らかの意味合いでアプライドマセマティクスとなっていかざるを得ない状況ですので,数理科学を普及させるべきだと考えています。
ここで,多くの日本人が数学に参入しようと思って数学を学ぶときの学習コストが非常に高いことが問題になります。例えば私はAIMR(東北大学・材料科学高等研究所)にも所属していまして,非常に数学と良い連携をさせていただいていますが,集合だとか,写像だとか,何でこういうことにこだわっているのだろう,という感覚をマスターするまでに数年必要でした。
今若い人たちはこれをどうやって習得しているかというと,外国人はユーチューブとかに良いコンテンツがあって,割と簡単に入門できるようですが,日本人向けはあまりありません。多くの場合,最初のきっかけがつかみにくい状況です。恐らく日本ならではの重要なアプライドマセマティックスの芽というのは,かなり多くあるのではないかと想像するのですが,実際には,社会とか会社の方の接点がなかなかつくれない。これは,そういうところにかなり障害があるのではないかと思いますので,もし可能でしたら,若い方が比較的低い労力で数学を学べるような,学習コストを下げる仕組みが必要なのではないかと考えています。

【観山部会長】 ありがとうございます。私も同感な部分がありますけれども,いかがでしょうかね,岡本先生や小谷先生は。

【辻委員】 辻です。

【観山部会長】 どうぞ,辻さん。

【辻委員】 感想になりますが,報告書の中でも名前が出てきたアメリカのエリック・ランダーさん,新しく大統領の科学顧問になった方ですが,数学から始まって生物に越境してブロード研究所をつくりました。情報科学が生命や医療といった分野を絡んで発展する,そういう動きを象徴する人がアメリカの科学顧問になった,そういうダイナミックな動きを見て,日本はどうかなとも感じています。
日本では純粋数学を尊重する風潮が強かったが,応用数学にも力を入れていくのだというお話がありました。「忘れられた科学-数学」が議論になったときにも,そうした数学の在り方が議論されました。非常に先駆的な取組だったと思うのですけれども,そこからの歩みはどうだったか。
データサイエンスが大事という時代になってきましたが,この間少しのんびりしていたようにも見えます。そうこうするうちに,報告書にも出てきましたけれども,フィールズ賞からもこのところ遠ざかっていて,得意とする純粋数学の部分でも,少し心配な気もしています。
この分野の重要性を考えたら,やはり先ほどもありましたように,もっと若い人たちを巻き込んで,新しい数理・融合研究のマインドを持った人たちをできるだけ若い頃から育てる,そういうことをする一方で,もっと裾野を広げるということも,是非一緒に展開していただきたいなと思いました。他のところで考えておられるとは思いますが。

【観山部会長】 ありがとうございました。重要な指摘だと思います。
場をつくるということは非常に重要なのですが,場をつくるときに呼びかけても先ほどからいろいろありましたように,数学というのは敷居が高いような気がしますので,各分野に場をつくるためのキーパーソンみたいなものをある種登録してはどうでしょうか。登録というか,見つけて,その人を中心に各分野に数理統計,それからAIとの連携が非常に重要なのだということを能動的にやらないと,私の経験でも,先ほどどなたでしたか,言われていたように,非常にバリアが高いので,是非各分野で若い人やシニアグループをピックアップして,強制的にそういう場をつくるぐらいのことをしないと進めないのではないでしょうか。本当にせっかくこういう良い試みが,なかなか他分野に広がっていかないのではないかなという,少しもどかしさを感じますけれど。

【小谷委員】 今,辻委員から御指摘があった「忘れられた数学」から歩みが遅いということで,御指摘どおりだと思いますが,実はあれをきっかけにJSTに数学と諸分野・産業界との連携のためのプログラムが立ち上がりまして,その頃さきがけに採択された方が今は中核的な存在となって,特に数学と諸分野の連携や産業界との連携を進めています。
そういう意味では,もっと本当に加速すればよかったのですけれども,あれをきっかけに今回議論されているようなことを担うような数理科学人材が育ってきていると思います。
また,これも他国に比べると歩みが遅いということは,そのとおりだと思いますけれども,いわゆる純粋数学と応用数学の垣根というものがだんだん低くなって,純粋数学で育った中でも,社会との連携や産業界との連携ということを非常に重要に考える人も育ってきています。
そういう意味ではまだまだ十分ではありませんけれども,人は育ってきているので,プラットフォームを置くことによってそれを更に加速すると期待します。また数学からのラブコールに対して応えてくださる諸分野・産業界の人材も非常に重要でございまして,デジタル化社会ということが非常にクローズアップされて,産業界の方も危機意識を持っている。このタイミングでこういうプラットフォームができると,両側からの歩み寄りが加速するのではないかと考えているところでございます。

【観山部会長】 ありがとうございました。それでは,この議題は今後の議題でもあり,後で資料3について議論いたしますけれども,非常に重要なテーマと思いますので,皆さん,どうぞよろしくお願いいたします。
それでは,時間にも限りがありますので,議題5について事務局より説明をお願いいたします。

【渡邉課長】 渡邉でございます。では,次は,WPIについて御説明を差し上げたいと思います。資料5を御覧ください。
まず,2ページ目になりますけれども,世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について,概要から御説明したいと思うのですけれども,この事業は優れた研究人材を世界から集めまして,国際頭脳循環のハブをつくるということを目的としてございます。
これまで15年程度やってきたわけですけれども,それによって何とか世界トップ機関と並ぶような卓越した研究力や国際化を達成して,拠点の形成というのはそれなりにできてきているのではないかなと思ってございます。
今後,この事業を発展させていきたいと思っておるのですけれども,最近の新型コロナの状況などを踏まえると,国際頭脳循環というのが今なかなか容易でないというのもありますが,それを踏まえても何とか進めるような方法を考えていかなくてはいけないということでございます。その上で新たなミッションというものを検討して進めていきたいと考えてございます。
そして左中央に移りまして,令和3年度のポイントでございますけれども,先ほどミッションと申し上げましたが,もともと4つありました。Science,Reform,Globalization,Fusionという,この4つのミッションを掲げていたわけですけれども,これを少し見直しをいたしまして,3つのミッションに組替えをしてございます。これに基づいて進めていきたいと思います。詳細については,次のページに,後で追って御説明したいと思うのですけれども,今年度はこのミッションに基づきまして,新しい拠点を1つ採択するということを今進めているという状況でございます。
なお,WPIの拠点でございますけれども,既に補助を終えた機関が6拠点,左下にございます。あと,現在支援中の拠点は,右側にある7拠点と,あと東京大学のKavli IPMUについては,延長してさらに支援を継続中ということで,この表にあるものが,今までにWPIで支援をしたもの,若しくは支援中の拠点ということでございます。
そして,拠点が満たすべき条件でございますけれども,どのような規模かと言いますと,総勢70人~100人程度の人数で拠点を形成していただいています。そのうち,PI,世界トップレベルの主任研究員が7人~10人,それ以上の規模で進めていただいております。実際30%以上は外国からの研究者になっておりまして,また,事務体制も含めて英語が標準という,そういう状況で進めているという事業でございます。
実際の事業といたしましては,基礎研究分野の拠点ということで,7億円掛ける10年という規模で最近は支援をしてきてございます。
そして事業評価におきましても,ノーベル賞受賞者や著名な外国人研究者などから成るプログラム委員会によって進捗管理をしているという状況でございます。
なお,支援対象経費は,人件費,事業推進費,旅費などでございまして,逆に言うと研究費は含まれない,そういう事業でございます。
実際のこれまでの成果でございますけれども,例えばTop10%論文数もだいたい20%~25%であり,アンダーワンルーフ,すなわち拠点に集まっての研究環境ということで分野融合研究の成果創出などが,今までしっかりとなされたと認識しております。
また,3割以上の国際化された研究環境や,研究成果が民間企業や財団からの寄附・支援金の獲得にもつながっているなどの成果を上げてきてございます。
次のページでございますが,先ほど申し上げた新ミッションでございますけれども,左にあるような3点にまとめてございます。
「世界を先導する卓越研究と国際的地位の確立」ということでは,世界最高水準の研究成果や学問の最先端の開拓ということを目指しておりまして,その中では,右側にありますようなダイバーシティについても評価するということにしてございます。
また2段目では「国際的な研究環境と組織改革」ということで,国際的頭脳循環が達成されているか,分野や組織を超えた能力向上がなされているかということが観点になります。
そして,最後の「次代を先導する価値創造」というところは,新たに付け加わった部分が多いのですけれども,ここでは基礎研究の社会的意義・価値,研究をした成果がどのような意味を持つものか,また,どうやって一般の国民などに理解していただくかいうようなことは,非常に重要ではないかということでございます。
あと,今まで専ら研究成果について評価をしていたのですけれども,人材育成も重要だろうということで,次世代の人材育成ということも観点に入れてございます。
また,このプログラムは10年経ったときには,各大学などで内製化,自分たちで自走していく,自ら進めていくということをやっていただいているわけですが,それについても取組の方向性に加えているというものでございます。
そしてフォローアップ体制,次のページでございますけれども,これは簡単に申し上げますと,先ほどお話をしたプログラム委員会がまず一番上でいろいろな,その評価などをやってございます。その下に,プログラム・ディレクター(PD),プログラム・ディレクター代理(DPD)という方がおりまして,ここで事業の全体統括をしていただいております。その下にWPI拠点ごとに作業部会(ワーキンググループ/WG)であったり,プログラム・オフィサー(PO),観山先生にも務めていただいておりますけれども,こういった先生方に行っていただきまして,各拠点の推進,指導・助言をしていただいているというような体制を敷いてございます。
そして,各拠点の事業のスケジュールでございますけれども,大体年度の初めに各拠点から進捗状況の報告書が提出されます。それに対して,サイトビジットを行いまして,これはPDやDPD,ワーキンググループの先生方などが参加してやるわけですけれども,これによって,各拠点の現状を把握します。
その結果を基に9月,10月にプログラム委員会を開催いたしまして,ここで,POからサイトビジットの結果を報告していただき,学長,研究担当理事から概要を説明していただいて,各拠点のフォローアップを行います。
そしてそれが終わって年末から年明けにかけて,改めてPD・POが各拠点を訪問いたしまして,プログラム委員会での意見に基づき,さらにフォローアップ,指導・助言を行うということで,事業を推進しているという,そういうものでございます。
そして,今後のWPIというものをどうしようかということで,ここは今日少し御相談したいところではあるのですけれども,今,大学ファンドというものが省内で検討されておりまして,世界と伍する大学が今後そのファンドで支援されていくということを考えますと,このWPIもどうやって進めていくかということを考えていかないといけないという状況でございます。
その際,やはり個々の大学の強みを伸ばしていくということが重要ではないかということで,WPIはそういった個々の大学の強みを伸ばしていく,融合研究をそれで進めていくということをやることによって大学間の切磋琢磨を促して,我が国全体の競争力強化につなげていくということが重要だと思ってございます。
その他,今年の春に決定された科学技術・イノベーション基本計画において,若手研究者の育成や人文・社会科学と自然科学の融合,そして大学改革の促進といったものが重要視されておりますので,こういったものに貢献していくようなプログラムにしていってはどうかということを検討しているところでございます。
その上での今後の方向性ということでございますが,6ページ目の下にございますように,やはり個々の強みを生かす大学の多様化ということで,先ほど申し上げたように強みを伸ばしていくということをWPIでやっていきたいということを考えますと,今後も計画的・継続的に採択されていくように,このプログラムを進めていきたいと思ってございます。
また,若手研究者支援ということにつきましても,博士後期課程の学生も研究を担う一翼として,きちんと認めて拠点を形成していきたいと思ってございます。
そして総合知の創出という意味では,今後,自然科学と人文・社会科学の組織的な融合というものもきちんと評価して,WPIでの支援というのを考えていってはどうかということでございます。
さらには,大学改革の一環として,大学からの申請の際に,そういったものを積極的に評価して採択していってはどうかということを考えていきたいと思ってございます。
最後のページになりますが,実は行政事業レビューというものがございます。民主党政権時代に事業仕分けと言われていたものでございますけれども,現在は内容を少し改善・改革して行政事業レビューというものになっているのですけれども,そこでもWPIについての議論が行われたところでございまして,そこではいろいろ指摘がございました。10年単位で行われている事業であり,既に成果が上がっていると指摘がございました。
ただ一方で,しっかりと自走できるのか,きちんと戦略を明確化すべきであるなど,WPIで成果は上がっているけれども,横展開,拠点を増やすだけではなくて,研究を取り巻く課題を解決する,他事業も含めて考えてはどうかということを指摘されております。
また,各拠点の成果の見える化や,喫緊の課題に対するテーマ設定や新興融合分野の環境整備を進めることについても重要だということが言われておりますので,こういったことも踏まえながら今後のWPIの事業を進めていきたいと考えてございます。
こういった考えで今後WPIを進めていきたいと思っておるのですけれども,是非とも何か良い切り口なり,御支援,御助言などありましたらいただきたいと思います。よろしくお願いします。

【観山部会長】 どうもありがとうございました。それでは,ただいまの説明を踏まえて,WPI,世界トップレベル研究拠点プログラムについて,御意見や御質問がありましたら,どうぞ手を挙げていただければと思いますが。小泉先生。

【小泉委員】 WPIアカデミーは,今後どういうふうにお考えになるのかというところも少しお聞きしたいなと思ったのですが,いかがでしょうか。

【渡邉課長】 WPIアカデミーについてなのですが,これから継続的にWPI事業を進めていくということになりますと,あるどこかのタイミングで例えば再登板とかいうことも考えていかなければいけないのかなと思ってございます。今までWPIの考え方,多分2つございまして,いくつか拠点をつくったら,例えば20とか30とかできたら,それを永続的に支援するという方法と,継続的に採択を続けていくという方法があったわけですけれども,今後は採択というものをしっかりとやっていこうと思っておりますので,そういう意味では,ある程度ローリングをしていかないといけないと考えてございます。そういう意味では,アカデミーも,今は当然終わってから5年というところが最も古い拠点なわけですけれども,引き続き大学で自走して,活躍させていただきたいと思っておりますが,どこかのタイミングでは見直すということも視野に入れて考えていきたいと思っております。

【小泉委員】 ありがとうございます。

【観山部会長】 ありがとうございました。いかがでしょうか。合田先生,どうぞ。

【合田委員】 WPIの国際性を強調している点について御質問させていただきたいのですけれども,30%以上外国人というのは,他の大学や研究施設に比べると非常に高い数字だと思います。外国人研究者がWPI終了後は,どちらへ行くのでしょうという,彼らを吸収することが可能な体制などが整っているのかな,というところが少し気になった次第です。コメントというか,問題提起です。

【観山部会長】 事務局,まず答えられますか。

【大榊課長補佐】 文部科学省でございます。基本的にWPIにいる外国人研究者,ポスドクの方々などは,今後,あるいは今までも転出をしていっているわけですけれども,日本にいらして,また海外の別の機関に転籍されるという方もそれなりの数いらっしゃいますが,逆に日本のWPIで日本の研究拠点の居心地が良いというようなお声もあって,他の日本の研究機関や大学などに転籍をされるという方もそれなりの数がいらっしゃいます。今,どのぐらい転籍しているかということを集計しておりますので,また御報告する機会があろうかと思います。

【観山部会長】 このプログラムは,10年間の支援が終わっても,ホスト大学がWPIの組織を維持させるというお約束の上で始まったプログラムですので,規模にはいろいろ差がありますけれども,企業からの支援を受けてほぼ同じ規模で続けておられるところだとか,大学が5人とか10人のテニュアスタッフを振り向けて継続されているところがありますので,それなりに頑張っているとは思いますが,ただやはり,これだけ拠点をつくって,私は,東京工業大学と東京大学のKavli IPMU(カブリ数物連携宇宙研究機構)に随分訪問調査いたしましたけれども,非常にすばらしい研究機関ができている。それから,ある意味で国際的ないろんな研究所と同じように,非常に事務体制も国際性豊かな形で続いているものがあります。これをやめてしまうのは非常にもったいないというか,やはりグローバルスタンダードな研究所ができたなというのが,10年間終わって,規模が縮小せざるを得ないところが多いというのは非常に残念なところですね。どんどん数を増やせというわけではありませんけれども,非常に厳選されてつくられたわけなので,先ほどありましたようなファンドとかを使って,もちろん選択と十分な新たな方向性の転換とか,そういうことも考えなければいけないと思いますけれども,支援すべきと考えます。非常に良い仕組みだったなと私は思います。
私が担当している東工大に関しては,今年で10年迎えるのですけれども,東工大の学長に聞きますと,大学としてもこのプログラムは非常に有効なシステムであったと感想を述べられました。これからも大学ができる限りの支援をしていきたいというようなお話も聞いておりますので,是非何らかの形で,こういうふうに国際的に,つまり,外国人は当然その中に入っていて,世界的な頭脳循環のハブとなるようなシステムを日本の中に,10とか15とか,それぐらいはあって良いのではないかなと私は思います。
小谷先生,どうぞ。

【小谷委員】 私は2012年から2019年まで,東北大学のWPI拠点AIMRの所長を務めました。そのときに一度も外国人を優先的に雇ってくださいということは申しませんでしたが,材料科学の東北大学というレピュテーションと,それから研究環境や支援体制,そして英語で活動できるということだけで,40%から50%の外国人比率になりました。そういう意味で,日本は海外から見ても非常に魅力的な研究力があると考えています。WPI補助期間が終了した後も大学がAIMRを維持しておりまして,外国人比率,少し下がっていますけれども,今でも30~40%でございます。
合田先生が御指摘されたことは,むしろ若い方のキャリア形成についてでしょうか。WPIプログラムは国際頭脳循環ということがミッションであり,若い方がWPI拠点で良い成果を上げられて,また次にキャリアアップしていくということを目指していました。次のステップを考えたときに,WPIだけで良いのかということは非常に重要な御指摘だと思っています。AIMRで良い成果を上げられた若手研究者には,海外に出ていく方と,あとはOIST(沖縄科学技術大学院大学)や理化学研究所や他のWPIのような,やはり同じように英語で研究活動ができるようなところに,移りたいという希望の方は非常に多かったです。
一方で,せっかく日本で育成した優れた研究者が,日本の大学の中で普通に活躍できるような大学の国際化ということは非常に重要です。ポスドクがその後,准教授になったり教授になったりという時点においても,日本語ができなくてもしっかり活躍できるような,そういう研究環境を日本の大学は構築しなければ,世界の競争に伍していけないのではないかと思っています。

【観山部会長】 ありがとうございました。

【城山委員】 城山ですけれども,よろしいでしょうか。

【観山部会長】 どうぞ。

【城山委員】 1点お伺いしたいことがあります。多分今の議論とも若干関わってくるのだと思うのですけれども,従来4つのミッションだったものを3つのミッションに再定義したという話で,この4つのミッションを見ると,4つのうち,世界最高の研究水準については共通の部分であって,組織と研究環境の話はパッケージにして2つ目になりましたと。そうすると,融合領域の創出というサブスタンス,研究内容のサブスタンスで書かれていた部分が次世代を先導する価値創造というのに変わったということだと思うのですけれども,これの実質的な意味はどういう意図を込めているのかということを確認したいなと思いました。
先ほどの御説明だと,Values for the Futureというのは,ソシエタルバリュー,社会がどう評価するかで,ここはまさに産業界との連携などと関わってくるところだと思いますし,2つ目は人材で,3つ目はまさに今までは隠れた目的だった内製化というのを明示的に書きましたということだと思うのですけれども,これの意味ですね。逆に言うと,これをやっていこうと思うと,センターだけ,WPIだけで何とかなる話かというと,むしろ例えば人材育成したとしても,先ほどのお話にありましたように,人材をどこが受け入れていくのかとか,内製化していくというのはまさに大学マネジメント全体の話であり,産業界との関係にソシエタルバリューはつながっていくとすると,単に拠点を何とかすれば良いという話ではなくて,拠点の周りの環境をどうするかということが,3つ目のミッションとの関係というとすごく大事になってくると思うのですが,そこの部分をサポートするような施策がパッケージで入ってきているのかどうかなど,少しその辺りについてお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

【観山部会長】 重要な視点ですね。事務局,ありますでしょうか。

【大榊課長補佐】 文部科学省でございます。まず先生から御指摘いただいた融合研究の観点でございますけれども,基本的にこれまでの4つのミッションというのは,今回3つに整理した上の2つにそれぞれ組み込んでいるという認識でございます。
特に取組の方向性のところを御覧いただきますと,例えば分野融合,Fusionともうたっていた部分については,ミッションの最初の,世界を先導する卓越研究と国際地位の確立の2つ目の取組の方向性のところに入れてございまして,分野融合性と多様性による学問の最先端の開拓というものを,ミッションとしてうたっているものでございます。
もう一つの国際頭脳循環,あるいは分野融合,融合的な研究にも関わってまいりますが,研究環境と組織改革というものを新たにミッションとして設けてございまして,これは大学の組織自体を機動的な組織,組織経営という形で機動的に拠点を運営することによって,きちんと分野融合,あるいは国際頭脳循環ができるような形に,組織とか能力,分野とか組織を超えて,能力向上と一緒に環境を変えていくと,そういう組織改革の要素も含めたものでございます。
おっしゃるとおり,最後の内製化ですとか,あるいは基礎研究の社会的意義といったようなものは,まさに新しく今回明示的に出したという趣旨のものでございます。

【城山委員】 逆に言うと,今の3つ目のところをある意味では実体化するために,どういう施策がパッケージになっているのかということなのですけれども,ある意味でこれは単に拠点がやれば良いというよりかは,拠点が生み出した人材だとかをどうやってうまく受け入れているところをつくるかとか,あるいは大学のマネジメント全体に関わる話だと思うので,拠点だけの話というよりはもう少しフォーカスが広がるのだと思うのですよね。その辺り,何か具体的な取組がパッケージとしてあるのかどうかというあたりを確認できればと思うのですけれども。

【渡邉課長】 事務局でございます。おっしゃるとおりでございまして,まずWPIというものは,大学の中で言えば特区みたいなのものだとまず位置づけております。そういう意味では,ここでの成果は,まず学内にいろいろ展開してほしいと思ってございます。
そして,人材育成に関してですが,例えばいくつかの大学では,そこで卓越大学院など,これは他部局の事業でございますけれども,そういうものと連携して,そこで大学院生を育成したりということはやってございますので,できればそういうような取組,必ずしもその事業を取らなければいけないということはないのですが,WPIに大学院生を取り込めるような,そういった取組を是非とも各拠点で積極的にやっていただきたいと思ってございまして,それに関しては,まさに大学内における組織の改編であったり,卓越大学院などの事業を一緒に取るなど,そういうことを積極的にやっていただければなと思っているところでございます。

【城山委員】 そういう意味でいうと,この事業単独ではなくて,いろんな他の事業とのパッケージも含めて,まさにつなげていくということが期待されているのだというのが,ある程度シンボライズされているのだと,そういう理解でよろしいわけですよね。

【大榊課長補佐】 はい,さようでございます。

【城山委員】 分かりました。ありがとうございます。

【観山部会長】 黒田先生,どうぞ。

【黒田委員】 今のお話しと絡むと思いますが,Values for the Futureという,次代を先導する価値創造と,それから今後の方向性の人文・社会科学に関する構想も追加する総合知の創出というのは,非常に重要な今後の役目だと思われます。
カーボンニュートラルを科学技術だけで何とかしようということではなくて,人間の生活そのもの,あるいは社会活動を含めて考えようという時代になってきておりまして,人類がどうやってこれから生きていくのかということは,総合知と書いておられる,非常に重要な御提案と思って感銘を受けたところであります。
ですから,今後の在り方の1つとして,まさにValues for the Futureというのを新ミッションとして入れられて,なおかつそこに総合知の創出と書いておられるのは,今後の大事な点だと私も賛成したところです。

【観山部会長】 ありがとうございました。それでは,齊藤先生,どうぞ。

【齊藤委員】 まず,この制度は非常に成功している制度です。例えば私の分野のAIMRですとか,Kavli IPMUというのは非常に世界的にも名前が知られていて,まさに日本の研究力の象徴の1つになっているかと思います。
その一方で,この制度そのもの,WPIという名前が良く知られているかというと,まだ十分ではないかもしれません。もう少しWPIというブランドを積極的に利用できないかなといつも思っています。
例えばドイツのマックスプランク研究所と比較すると,マックスプランクは全ての研究所が必ずしも大成功しているわけではないのですが,マックスプランク全体としては大ブランドとして成り立っていると思います。その名前に引かれて優秀な研究者が来ているという循環が生み出されていると思います。WPIも日本の研究ブランドとして使えたら良いのではないかと考えています。
1つには,研究力のランキングでは,マックスプランク全体で成果がカウントされ,最上位に来ていますので,非常に露出しています。日本もWPI全体として考えたら,かなりのところに行くのではないかと思うのですが,現状では各大学のWPIごとにランキングされているので,そこがあまり見えないということです。その辺が,ばらばらではなく,WPI全体が1つの組織としてカウントされるような工夫や仕組みを上手につくって,1つの組織,ブランドとしてランキングに載るような仕組みがつくれないかなということを考えていたりします。
同時に,終了したらそこで大学に任せるというだけではなくて,上手なフォローアップをして,後々日本の研究力の象徴になるような仕組みづくりができたら良いのではないかと考えております。

【観山部会長】 ありがとうございました。前半言われたWPIだけの資料というのは, 今日は出てきていませんが,たしかこの期間で競争力とか論文数とかという資料はあったと思いますので,それはまた示せたらと思いますが,確かにWPIの拠点の横の連携を図って,全体的にマックスプランクとか,そういうことに対応してはどうかということは,1つのアピールの仕方ではないかと思いますよね。ありがとうございます。

【大榊課長補佐】 事務局ですが,念のため,本日参考資料3のところに資料をつけてございまして,これは拠点ごとではございませんけれども,2007年採択当時の拠点の結果ですとか,そういった資料をいくつか載せてございますので,また別途御覧いただければと思います。

【観山部会長】 ありがとうございました。

【美濃島委員】 美濃島ですけれども,質問してもよろしいでしょうか。

【観山部会長】 どうぞ。

【美濃島委員】 少し皆さんと別の観点になってしまうのですけれども,新型コロナの影響をどのように総括されたかというのをお伺いしたいと思いまして。このようなWPIなどは,やはり国際頭脳循環ということを重要な柱に据えているプログラムというふうに理解をしておりまして,もちろん今,様々なバーチャルな手段が充実してきているかとは思うのですけれども,やはり人間同士の行き来というのがサイエンスコミュニティーの中で非常に重要で,それが容易になってきたということで,どんどん活発化してきたというふうに理解をしていたところに,このコロナの状況が発生して,全ての分野の皆さんがそれにどのように向き合うかということを苦労していたと思うのですね。
特に国際頭脳循環という意味で,今まで当たり前のように外国の方が来ていて,自分たちも行っていたところができなくなって,工夫を重ねてきたと思います。また,コロナはずっと続くわけではもちろんなくて,これから逆に,今度私たちは新たに次のポストコロナでそういった国際頭脳循環をどのように実現していくかという課題に直面していると思うのですね。例えば国際会議をバーチャルでやってきたところをハイブリッドにするとか,どのように,どれぐらいリアルを取り入れていくかなど,そういったことに皆さん全ての分野が今模索をしていると思うのです。そういった中で,WPIという非常にすばらしいモデルがあって,国際頭脳循環ということを活発にやられている中で,このような課題を,少し国としてというか,文科省さんとして総括をどのぐらいされて,それを他の様々な科学技術,社会活動に取り入れていくというふうな形になっているのかなというのをお伺いしたいのですけれども。

【観山部会長】 事務局,そういう総括とか,そういう情報,統計とかというのは何か調べておられますでしょうか。

【渡邉課長】 事務局,渡邉でございます。そういう意味ではなかなかまだ総括ということには,まだ行き切れてないのかなという状況ではございます。ただ実際,外から人が来づらい状況,なおかつまた出ていくのも難しい状況なのですけれども,だからといって,国際頭脳循環をやめるわけにはいかない,何とかやっていかなければいけないだろうということが,まず基本ではあります。
その上で,WPIに関しては,今まで各国の研究機関とかなり連携がされているところは,コロナの状況においても,やはりWebなどでかなり良い連携ができているようでございます。それは今まで実際にうまく研究協力関係が構築できていたからあまり影響がなかったと聞いておりますけれども,片や,新しいポスドクなどが来られないということに関してはかなり困っている状況でございまして,それは省としても何とか研究者の出入りについて,うまくいくような方法はないかということについては,外務省などと相談しながらやっていかなければいけないと考えているところでございます。
そういう意味では答えが出ているわけではないのですけれども,ただ,そういう状況においても,うまく国際循環をやっていく方法は重要視して,今後もやっていかなければいけないという考えではおります。

【美濃島委員】 ありがとうございます。今までは個々の研究者とか個々の組織が本当に個別に苦労して対応されてきたと思うのですね。私自身も実際そのようにしてきていますし,何とか非常事態を切り抜けるという意味では仕方ないのですけれども,今後日本の研究力強化を考えていったときに,科学技術においては国際循環というか,人の行き来が大切なのだよというところを,外務省さんとか,様々な,政府として,もう少し組織的に国として,対応していっていただけるような形になると良いなと思っています。そういった声はいろんな分野で聞くのですが,やはりWPIなど,成功しているものがあると,分かりやすいですよね。そういったモデルというか,事例を集めて,どういったことが必要かということが分かるのではないかなと思いますので,是非その辺を引き続きお願いしたいと思います。

【観山部会長】 重要な指摘ありがとうございます。品田先生。

【品田委員】 この取組はすばらしいなと思って,成果もよく上がっているという感じなのですけれども,先ほど参考資料3に少し言及されていて,事前に拝見して,少し気になったのが,参考資料3の2ページ目なのですけれども,リサーチインパクトというのは非常に分かりやすい指標だと思って,それが急激に伸びているという。ただ,2012年から漸減しているというのが,まだ支援期間中でも減少傾向が続いているというのが少し気になってしまったので。絶対数はどんどん伸びているということは,要するに,他のベンチマーク機関がより伸びているということなのかと思うのですけれども,それに対しての分析とか,今後,だからこうしていくとかいう,何かお考えのようなものはございますのでしょうか。

【大榊課長補佐】 事務局でございますが,リサーチインパクトは,それぞれの研究機関で,特に似たような研究拠点と比較したときの相対的なリサーチインパクトというのを数値化して示したものでございまして,この結果,2012年以降減っているという見方もできれば,維持をしているという見方もできるところではあるのですが,こうしたベンチマーク機関,もちろん海外の研究機関が相対的に伸びてきているという実態もあると思います。
右側を御覧いただきますように,Kavli IPMUの例でいきますと,他のベンチマーク機関と比して2012年以降も伸びていく傾向にあるところもありまして,やはり個々の研究テーマや内容に応じて,違うのかなというところもありますけれども,より深い分析ができるように,我々も準備を進めておりますので,また御報告できる機会があるかと思います。

【品田委員】 韓国は入っていますけれども,中国が入っていないなど,WPIという取組自体をよく知らなかったものですから,今回勉強させていただいて,中国はそろそろ入っていなければいけないのではないかなど,そういうような感想を抱いたものですから,是非分析と対策をよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。

【大榊課長補佐】 ありがとうございました。

【観山部会長】 ありがとうございました。もう一つ議題があるのですけれども,長谷山先生,どうぞ。

【長谷山委員】 長谷山です。ここまでの皆さんの議論では,WPIが大変に成功しているとお話しされています。私も研究者として,大学人として同じように感じていますし,それを確信したいと思っています。
ついては,各事業に予算がどれぐらい投じられていて,論文業績がどれほど出ているのか,数値が示されているのではないかと思います。Top10%論文だけで事業の成果を測ることはできませんが,本日の資料を見てもやはり,Top10%やTop n%論文のお話が出てきます。他の事業と比べてどれぐらい成功しているのかということは,ご担当者に負担をおかけせずに,他の組織で調査済みのデータなどで示すことができるのではないかと思います。次回以降,早い時期に,数値データをお示しいただけないだろうかと思います。
もう一つは,他の委員から,WPI事業の拠点をまとめて見たときに,マックスプランクレベルの優位性が示せるのではないか,との発言がありました。WPIなど,大型の研究事業の成果について,論文数を内閣府で取りまとめていると思っています。先でお示し頂きたいとお話しした数値を根拠として,WPI事業が大型研究事業の中でも特に,世界の上位に食い込む成果を出していると主張できるのならば,何らかの組織形態を準備し,世界トップレベルの組織として支援するよう,本部会から提案する方法もあるのではないかと思います。支援を考えると,早期に資料が提供されることを望みます。

【観山部会長】 事務局いかがでしょうか。

【大榊課長補佐】 承知いたしました。準備をいたします。

【観山部会長】 そのことにも関係し,先ほどの品田先生の観点からいうと,情報として申します。最初の5件は予算額が年間約14億円/件で始まりました。その次に,フォーカスWPIというのを,新たに公募しましたが,その予算額は最大で年間7億円/件です。初期のWPIの半分ぐらいであり,実際の配分額は7億円よりも少ないところもありました。ですから,WPI的機関で,インパクトファクターなど成果を上げるためには,予算的なしきい値があるのかなあという感じもします。

【辻委員】 一言だけいいですか。

【観山部会長】 はい。辻さん。

【辻委員】 先生方のおっしゃったとおり,WPIは大変すばらしい成果が上がっているので,終わった後,内製化は大学だけに任せるのではなくて,何とか成果を継続するような仕組みをやはり文科省としても考えていただきたい。
その中で,事業レビューにもありましたけれども,ここで出てきた研究を取り巻く課題をできるだけ横に展開して,日本全体の研究環境をよくすることに是非生かしていただきたい。例えばWPIは,補助金事業でやっているので,それに伴う制約があるわけですが,研究を事業でやるところに,もともと少し無理があるというか,やはり大学での研究を本当によくするためには,制度がどうあるべきなのかといったところまで広げてやっていただきたい。
最初のお話にも出てきましたけれども,日本は今危機的な状況にありますので,いろいろな制度を変えるといったことも,ためらわずに積極的に進めていただきたいと思います。

【観山部会長】 ありがとうございました。事務局どうぞよろしくお願いします。
それでは,残りの時間を使いまして,今期を通じて本部会でどのような基礎研究の議論を含めていくかについて,御議論をいただければと思います。
事務局に改めて資料3について,今回の議論のポイントを含めて説明をお願いしたいと思います。

【大榊課長補佐】 事務局でございます。改めて資料3を御覧いただければと思います。併せて参考資料2についても少し触れさせていただきますが,参考資料2のほうには第6期の科学技術・イノベーション基本計画における基礎研究に関する記載の抜粋をさせていただいております。基礎研究の重要性や強化についても触れられてございますと同時に,それがイノベーションの創出につながっていくということを,科学技術・イノベーション基本計画のほうで触れられているところでございます。
一方で資料3については,ここで基礎研究の社会的意義・価値といったところについてあえて特出しで書かせていただいておりますのは,今申し上げたような基本計画における基礎研究の位置づけの中では,基礎研究の重要性等についても出てきておりますけれども,一方でそういったものがどのように社会的に受け入れられるのか。社会的な意義,基礎研究というものの価値といったようなものについて,具体的に御議論いただけないかなと思っているところでございます。
観点例として書かせていただいておりますのが,まさに知の蓄積といったようなものが知的・文化的意義や価値を有することの具体化であるとか,あるいはそのような価値とか意義といったものを評価する手法でございますとか,あるいはそれを社会的に分かりやすく広報していくような,これは単に一般的な科学のアウトリーチということだけでなくて,基礎研究というのがどのように社会的に裨益するのかといったようなことについて,どういった内容を伝えることが重要なのだろうかといったような点も含めて,具体の内容や手法についても御議論いただけないかなということで,ここに書かせていただいた次第でございます。
もちろんこれらの他に重要な観点というのもあろうかと思いますので,今期の部会で御審議をいただく内容を決めさせていただきたいという趣旨でございます。

【観山部会長】 いかがでしょうか。どうぞ御自由に。このテーマでなくても,こういう話題は是非基礎研究の振興部会として議論すべきではないかという御提案でも結構でございます。

【辻委員】 辻です。

【観山部会長】 辻先生。

【辻委員】 先ほどWPIに絡んで新型コロナの御質問がありましたけれども,基礎研究全体で新型コロナの影響がどうだったのか。欧米などでは人の動きも始まりかけていますが,この先はまだよく分かりません。しかし,リモート化やデジタル化といった流れは変わらないだろうと思います。それによって様々な変化が起きており,研究活動にも影響を与えそうです。
今回のパンデミックで,デジタル化の遅れなど,日本の課題も顕在化しましたが,新型コロナの影響,あるいはそれに対応する中で出てきた課題を,基礎研究全体で考えることが必要ではないか。
今日の議題には入っていませんが,前回は新型コロナが始まった頃だったので,そのあたりも検討課題ではないかなと思っています。

【観山部会長】 ありがとうございました。黒田先生。

【黒田委員】 社会的意義・価値というのは非常に重要な問題提起だと思っておりまして,例えば日本化学会は化学遺産,日本機械学会は機械遺産という形で,我が国における科学技術の歴史を遺産という形でやっているわけですね。今,世界遺産とか,いろんな文化遺産とかありますけれども,遺跡から歴史をそこで感じることができます。
科学技術におきましても,例えば湯川秀樹先生の自筆原稿だとか,あるいは何かの産業の装置とか,いろいろなものがありますので,恐らく経産省もそういうのをやっておられるかもしれませんが。我が国の宝である科学技術も是非国の力でもっと取り上げていただく,そこに皆さんが押しかけていくような,そういうサイトを,博物館などと連携しても結構ですから,やっていただいたら良いかなと思います。

【観山部会長】 ありがとうございました。他にいかがでしょうか。品田さん,どうぞ。

【品田委員】 少しピントがずれた発言かもしれないですけれども,基礎研究って一体何でしょうというところが,特に社会に分かりやすく広報するとか,意義や価値を評価する方法を議論する前に,基礎研究というものをこういうものだというのが共通の認識を持たないと,なかなか議論がまとまらないかなと少し思いました。
それはなぜかというと,私ども,民間企業で基礎研究所を1985年につくって,そのときの研究者の意識,理解の基礎研究というのと,今も一応基礎研究センターというのは残っており,そこで基礎研究というものをやっているのですけれども,今の基礎研究に対する位置づけというか,会社の中ですけれども,会社の幹部が基礎研究に期待するものとか定義するものが随分変わっているというのを,30年も経っていますから,変わるのは当たり前ですけれども,多分いろんな人がいろんな意味を基礎研究というものにイメージしてしまって,それがずれてすごくぼやけないかなというのが,少しだけ心配になりました。

【観山部会長】 共通認識は非常に重要だと思います。応用があって,その初期段階としての基礎研究というものもありますし,基本的に学術研究,これはたしか事務局,何かの定義したものがありましたよね。

【大榊課長補佐】 もしかすると科学技術調査統計等の……。

【観山部会長】 そうかもしれませんね。少しそういうことで,共通認識を持っておくことは非常に重要なので,それは是非お願いいたします。
それでは,城山先生。

【城山委員】 資料3の中で書いてあるところで言うと,基礎研究の社会的意義で,知の蓄積自体が知的・文化的意義・価値を有することの具体化という点について,どういうふうに示すかという辺りがすごく重要かつ難しいところなのかなと思うのですけれども,ここはどういうニュアンスなのでしょうか。蓄積自身が1つの,先ほどの文化遺産ではないですけれども,特に日本なんかでいうと,多分いろんな理系分野の研究も含めて,日本語できちんとこれだけ体系をつくってやってきたということ自身が,多分1つの歴史的実験として意味があるという,多分そういう位置づけみたいなのができると思うのですが,そういうレベルでやるというのは1つのやり方かなと思うのですけれども,それでいくのか,もう少し社会的効用みたいなところと結びつけて考えるのかと。つまり,じかに何かの課題解決に行くわけではないのだけれども,思わぬところでいろんな現実の社会の話と接点があるのですよという,若干少し間にいろんな要素が間接の変数が入ったりだとかする,あるいは時間的なギャップがあるようなことも含めてストーリーを書くようなことを考えるというのが,もう一つあるのかなと思います。
そういう意味で言うと,今日最初に議論した数学・数理科学の話なんていうのは,多分すごく理論的な話と,思わぬところで現実の話が結びついていると見るとすごく面白い話なので,そういうところをうまくつくっていくということがあるのかな,と思いましたというのが1点目です。
あと2点目は,直接これに関わることではないのですが,私自身,人文・社会科学の分野ということで入っているという側面もあるのだと思うのですけれども,今日,数理科学の話を伺っていて思ったのは,ある種の出会いと議論の場が大事だというのは,人社系の話もほとんどこれに尽きるところがあって,別にそんなにお金が要るわけではないのですが,ある種のカルチャーを変えるようなことが必要で,そういう器をどうやってつくっていくかということが重要なところがあるので,そういうところで,あえて人社と何とか,自然科学と分けて話すのではなくて,自然科学自身が変わっていく中で,人社が必要な話というのも,別に違う次元の話が重なるのではなくて,同じ次元でまさに融合していろんなことができるんだみたいなことがうまく言えるとすごく良いのかなと思いますし,多分WPIなんかの仕組みのある部分というのも,大型の実験装置云々かんぬんではなくて,むしろ組織マネジメントの話なのでしょうから,そういうところに関わってくる部分だとすると,うまく人社系も含めて切り取っていけるのかなという感じが何となくいたしました。2番目は感想のようなことで恐縮ですが,よろしくお願いします。

【観山部会長】 重要な指摘ありがとうございました。小泉先生。

【小泉委員】 今の御指摘にも通じるのですが,知の蓄積ということに関しては重要だと思っておりますが,プラス知の広がりというのが,今まさにもっと必要になっていることなのではないかなと思います。一つ一つの分野ではかなりの蓄積が行われている。それを歴史的に過去に振り返って評価することも重要だと思うのですが,知をどうやって,それぞれ蓄積された知がどう広がっていくのか,広げていくのか,知の広がり,つながりというか,広がりというか,そういったところの評価をしていかないと,いくらタコつぼの中でいろんなものがたまっていっても,結局それはそれで,ああ,過去にはこんなのがあったねで終わってしまうので,広がりとつながりということが重要なのだと思います。
それから,少し矮小化した話をもう一つすると,基礎研究の社会インパクトということに関して言うと,欧米では例えばファウンダー,お金を配る側がリサーチフィッシュという共通のプラットフォームを使って,インパクト評価をしようとしていますよね。欧米の各国がリサーチフィッシュにとにかくどんどん登録していって,リサーチフィッシュ上でとにかくインパクトまでつなげていく評価をしようとしていて,そういう動きが欧米では,欧米というか,欧州,ヨーロッパでは起こっているので,こういったヨーロッパの動き等も見ながら,いかに定量的に基礎研究のインパクトを測っていくという,そういうプラットフォームづくりみたいなのも必要かもしれないなと思ったところです。

【観山部会長】 ありがとうございました。いろいろな御意見が出ました。最後に,確かに知の広がりというか,別の言葉で言うと学際領域という,展開ですけれども,これは以前から随分言われているのです。例えばWPIというのはFusionというのが目的の中に入っていますので,そういうふうに非常に取り組まれているのですが,1つの問題点は,若い人たちのその先,キャリアパスを新しい分野でどうつくっていくかというのは,非常に問題であるということがだんだん分かってきました。
つまり,オーソドックスな,タコつぼではないですが,分野を確立していると,その中でいろんな就職だとか,研究分野だとか,企業にもそうなのですけれども,割と優秀な人はキャリアパスがつくれているということがありますが,新しい分野に,チャレンジするというのは若者の力が非常に重要なのですけれども,では,その先がどのようにつくられていくのかというのは大きな問題で,そんなことを言うと,そういうものは自分らでつくってきたのだと,開拓してきたのだというのが先人たちのことかもしれませんけれども,やはり今の日本で,非常に重要なのは学際的部分をどうやってつくっていくかなど,新しい日本のパラダイムをどうやってつくっていくか,学術的な形ですね,それは非常に重要な視点ですので,そこら辺も随分考えなければいけない状況ではないかと思います。
本当に貴重な資料3に対する御意見をいただきました。資料3の方向性で少し具体的に検討すべきではないかということもありましたし,例えば辻さんが言われたコロナの影響はどうであったのかというようなこととか,それから小泉さんが言われたような学際的というか,知の広がりの面,それから,研究の場を提供するとか,社会的な価値に関してもう少し深めて議論したらどうかという御意見がありましたので,本当にありがとうございました。
事務局で一旦取りまとめをしていただいて,メールなどで修正案を確認した上で,最終的に決定させていただきたいと思いますけれども,いかがでしょうか。
もちろん議題を設定し決めたとしても,状況によっては別の議論をしなければいけないところも出てくるとかと思いますけれども,それは柔軟にやっていきたいと思います。

【美濃島委員】 一言よろしいでしょうか。今,まさに観山先生がおっしゃった人材育成という観点がキーワードとして上がってないのは,むしろ不思議だなという感じで,資料いただいたときから思っていました。まさに基礎研究の社会的意義・価値で,知の蓄積にも,広がりにも,広報にも人材育成という観点は欠かせない,横断的な観点として欠かせないと思いますので,是非議論のキーワードに上げていただけたら良いと思いますので,よろしくお願いします。

【観山部会長】 ありがとうございました。

【小谷委員】 加えて,人材育成といったときに,研究者の人材育成もですが,研究支援人材,URAとか,研究を支えていく様々な人材はとても大切ですので,そのようなことも議論いただければと思います。

【観山部会長】 もちろん企業に展開していく人材も十分考えなければいけないと思いますけれどね。
どうも本当にありがとうございました。先ほど申しましたとおり,事務局で取りまとめていただきまして,メールなどでやり取りして,今期の課題というか,議論しなくてはいけないところを決めていきたいと思います。
本日の議題は以上ですけれども,事務局から何か連絡等ありますでしょうか。

【大榊課長補佐】 次回の基礎研究振興部会の日程でございますが,年末から年明け頃を見込んで開催する予定としてございます。詳細な時間帯,日程等につきましては,また調整の上御連絡をさせていただきます。
また,基礎研究振興部会運営規則第7条に基づきまして,本部会の議事録を作成して資料とともに公表するということになってございます。本日の議事録について,後日メールにてお送りいたしますので,御確認いただければと思います。

【観山部会長】 それでは,以上をもちまして,第6回基礎研究振興部会を閉会いたします。本日はどうも委員の皆様,大変ありがとうございました。
それから,岡本先生,どうもありがとうございました。

―― 了 ――
 

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