基礎研究振興部会(第5回) 議事録

1.日時

令和2年1月17日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 東館15階 15F1会議室

3.議題

  1. 基礎研究関連の令和2年度政府予算案について
  2. 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について
  3. 数理科学分野における融合研究の取組について
  4. その他

4.出席者

委員

栗原部会長、観山部会長代理、黒田委員、小谷委員、齋藤委員、城山委員、山本委員

文部科学省

研究振興局長 村田善則、大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)増子宏、研究振興局基礎研究振興課長 山下恭徳、研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室長 金子忠利、研究振興局基礎研究振興課融合領域研究推進官 髙橋理恵、研究振興局基礎研究振興課課長長補佐 岡村圭祐、研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室専門官 濱田陸太郎

5.議事録


【栗原部会長】 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第5回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を開催いたします。
本日の会議ですが、本部会運営規則に基づき公開の扱いといたしますので、御承知おきお願いいたします。
昨年は、いろいろ大変お世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。
まず事務局より、本日の出席者と資料の確認をお願いいたします。

【岡村補佐】 本日は7名の委員に御出席いただいております。天野委員、長我部委員、永井委員、大島委員、川合委員からは、本日は御欠席という御連絡をいただいております。
また、本日は、理化学研究所の数理創造プログラムから初田哲男プログラムディレクターにもお越しいただいております。後ほどの議題の中で、数理科学分野における融合研究の取組について話題提供いただく予定です。
続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。こちらの議事次第、1枚紙を御覧いただきますと、こちらに本日の議題、4つの議題を予定しております。議題1は基礎研究関連の令和2年度政府予算案について、議題2は世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について、議題3は数理科学分野における融合研究の取組について、議題4はその他でございます。
それぞれに対応しました配付資料といたしまして、資料1から資料4までございます。資料1は、この白い「科学技術関係予算案の概要」という冊子でございます。資料2は、横のパワーポイントの青い表紙のものでございます。資料3は、こちら、2 in 1になっておりますが、初田プログラムディレクターからの資料で、こちらもパワーポイントの資料です。資料4は、「今後の予定について」という、1枚の縦の紙でございます。参考資料といたしまして、参考資料1-1、1-2、こちらはいずれも総合政策特別委員会における中間取りまとめの状況に関する資料です。参考資料2-1と2-2、こちらは後ほど議題1の中で扱いますけれども、数学事業の関係の資料です。参考資料3-1から3-3までは、後ほど議題2で扱いますWPI関係の参考資料になります。もし不足などありましたら、事務局までお知らせください。

【栗原部会長】 どうもありがとうございました。
それでは、議事に入ります。まず議題1、基礎研究関連の令和2年度政府予算案についてですが、資料1を基に、事務局より御説明をお願いいたします。

【岡村補佐】 それでは、資料1を御覧ください。こちらの白い冊子でございます。これは文部科学省の令和2年度の科学技術関係予算案の概要を取りまとめたものでございます。文部科学省のウェブサイトに掲載されているものと中身は同じでございます。
この57ページをお開きいただきますと、そこから「研究力向上に向けた基礎研究力強化と世界最高水準の研究拠点の形成」という内容が始まります。58ページを御覧いただきますと、特にこの部会における検討事項と関連の深い基礎研究関連の事業について、令和2年度の政府予算案が一覧でまとめられております。本日、この後も議題ございますので、手短にとは思いますけれども、特に上から4つの事業について簡潔に御紹介させていただきたいと思います。具体的には、次のページ、59ページ目から始まります個別の事業のページを御覧いただければと思います。
まず59ページ目が科研費ですけれども、対前年度2億円増の2,373億5,000万円という予算案額となっております。中身といたしましては、左下の事業の骨子というところにございますが、ポイントは大きく2つございまして、1つは新興・融合領域の開拓の強化、もう一つは若手研究者への重点支援ということです。
右側のピラミッドの図の中で科研費の研究種目体系が表されておりますけれども、そこで言いますと、ちょうど右上の学術変革領域研究、これが新しい種目として創設されます。以前の新学術領域を発展的に見直して創設されるものです。それから、その下にあります挑戦的研究(開拓)というところについても、これは大幅に拡充されるとともに、このたび基金化されております。加えて、先ほど申し上げた若手ということで申し上げれば、左側にある基盤研究のところの(A)及び(B)が拡充されています。あわせて、その下にあります研究活動支援という、ピラミッドの一番下ですけれども、そちらが更に拡充されていると。こうしたことを通じて、若手への支援ということもそのポイントとなっております。
続きまして、60ページが、過去数回のこの部会の中でも様々な観点から御議論いただきました、JSTで実施している戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)でして、こちらの令和2年度の政府予算案額が417億8,700万円となっております。これは額面上は減っておりますが、実際には一部事業の統合に伴う当然減の部分がございまして、それを除けば、対前年度5億円の増となっております。
こちらにつきましても、左下の方に令和2年度予算案のポイントとございますけれども、先ほどの科研費と同様の観点ではございますが、新興・融合領域の開拓強化、そして、若手研究者への支援強化ということがポイントになっております。
続きまして、61~62ページにわたり、「創発的研究」の場の形成というものがございます。特に61ページ目は、創発的研究支援事業ということで、これはJSTにおける実施というのを想定しているものですが、本年度の補正予算額で500億円、令和2年度の予算案額でも6,000万円が計上されております。
中身といたしましては、以前この部会でも御紹介差し上げた、文部科学省として取りまとめています「研究力向上改革2019」というものがございまして、それに基づきまして、既存の枠組にとらわれない自由で挑戦的で融合的な研究、これを研究者が研究に専念できる研究環境を確保しつつ支援するという新しい枠組でございます。
概略といたしましては、こちらの真ん中の方に書かれていますけれども、大学等における独立した、あるいは独立が見込まれる研究者からの挑戦的な研究構想を公募して、研究者の裁量を最大限確保できるような支援の仕組みを作り、それを、次のページにありますような研究環境の改善などを組み合わせて総合的に支援するということをこれから試行していくということです。細かな制度設計はまだこれから進めていくところがございますけれども、真ん中の方にございますように、予算・期間といたしましては、年間700万円(平均)プラス間接経費というのが支援単価でございまして、支援の期間といたしましては7年間、そして最長10年間まで延長可能とするような仕組みとして目下検討が進められているところでございます。
62ページはスキップさせていただきまして、最後、63ページ目に、世界トップレベル研究拠点プログラム、WPIがございます。こちらも政府予算案額としまして、58億7,100万ということで、額面上は対前年度8.8億円の減額ではございますが、これは、10年間の補助金支援期間を終了する拠点が1つございまして、それに伴う自然減の部分を除けば、対前年度より増額となっております。
ポイントといたしましては、左の真ん中にありますけれども、世界トップレベル研究拠点の充実・強化に向けた取組を引き続き着実に実施するということに加えまして、これまでWPI拠点として培ってきた強み、あるいは成果といったものを最大限に活かすための、国際頭脳循環の仕組みの深化ですとか、あるいは拠点間連携の強化ですとか、そういった成果の横展開・高度化をしっかり進めていき、WPIの価値最大化に向けた取組を更に強力に進めていくということを中身としております。
後ほど、続きまして議題2の中でも、また今後の見通しですとか方向性についても事務局から御説明させていただきます。
ごく手短にではございますが、議題1については、以上でございます。

【栗原部会長】 ありがとうございました。
続いて、髙橋推進官から御説明です。

【岡村補佐】 失礼いたしました。こちらの白い冊子の政府予算案の中には、スライドとしては含まれておりませんけれども、基礎研究振興部会で扱う検討事項の中で特に関連の深い事業といたしまして、基礎研究振興課で所管している事業の一つに数学に関する事業がございまして、こちらについても、本日この部会において御報告、御説明させていただきたい内容がございますので、続きまして、髙橋推進官の方から御説明をさせていただきます。

【髙橋推進官】 融合領域研究推進官の髙橋でございます。
基礎研究振興課では、今岡村が御紹介申し上げた予算のほかに、もう一つ、数学に関する事業といたしまして、数学アドバンストイノベーションプラットフォームという事業がございます。お手元の参考資料2-1と2-2を御覧いただければと存じます。
こちらは、文科省における数学に特化したほぼ唯一の事業となっておりまして、平成29年度から5年間の事業で予定しております。
参考資料2-1の左側の図を御覧いただければと思いますけれども、本事業は、受託機関が九州大学となっておりまして、その関係機関を中心にいたしまして、12の主要な数学の研究室あるいは研究機関をつないで、全国のプラットフォームを作るという事業でございます。
こういったオールジャパンの体制を構築いたしまして、数学以外の諸科学、それから、産業、企業等に数学の有用性等について、スタディーグループ、チュートリアル等を行って、訴求活動を行っていくという事業でございます。
さらに、場合によっては共同研究に展開していく、あるいは、企業や諸科学の持つ問題を解決していくというような、そういった活動を支援していく予算となっております。
こちら、先ほど申し上げましたとおり、5年間の事業でございまして、本年、令和元年度が3年目ということで、中間評価を行いました。参考資料2-2は、今年度行いました中間評価委員会の結果の報告書でございます。
1枚めくっていただきまして、1ページにございますけれども、中間評価委員会は、(2)にございます委員名簿の委員の先生方によって行われました。今井桂子中央大学理工学部教授を主査といたしまして、8名の先生方に御審議いただきました。評価の経緯といたしましては、その上にございますとおり、昨年6月から3回にわたりまして評価をしていただきました。
5ページをお開きいただければと存じます。評価結果でございますが、この表に書いてあるとおりでございまして、総合評価といたしましては、B、ただし留意事項付きとなっております。
正直申し上げて、かなり厳しい評価を頂きました。予算への影響というのも若干懸念しないわけではなかったのですが、結論から申し上げますと、参考資料2-1に戻っていただきまして、昨年度と同額の3,161万9,000円を頂いております。
この予算を前提といたしまして、九州大学と現在、来年度の取組について調整しているところでございます。
以上でございます。

【栗原部会長】 ありがとうございました。
それでは、今御説明いただいた、1つは令和2年度予算案の概要について、もう1点は数学アドバンストイノベーションプラットフォームということですが、御質問、御意見等ありましたら、お願いいたします。

【山本委員】 お願いします。予算の方で、創発研究のうち、若手の支援は大分報道も出ているんですけれども、機器共用と絡めてというところについて、どういう設計になっているかお伺いできますか。

【金子室長】 私の方からお答えいたします。
全体として、創発的研究の場の形成ということで、将来的には機器共用の基盤を支えるものと創発的研究を、広い意味では相互に関連させるということも考えてございますけれど、まず創発的研究の500億円の基金の方は、基本的には研究者個人からの申請でございますので、設計当初は直接的に関連するということは、可能性としては低いのかなと考えてございます。

【山本委員】 じゃ、創発研究が進む中で、最初は個人の発想みたいなのを重視でスタートしますけれども、そこに機器共用で支援をしていくという設計というイメージですかね。

【金子室長】 まず1つございますのは、狭義に申し上げますと、61ページの事業スキームの右下に図がございますけれども、研究者個人の方から申請されまして、最長10年、原則的には7年でございますけれども、その研究が進捗、進んでいった中では、追加的な支援というようなことも考えてございます。そういった中で、大学の部局横断的な取組にもつながる場合というのは、まずこちらの創発的研究支援事業の方でも追加的な支援を内在化してございますので、そういったところで相当程度広がりを持った活動を支援できるかと思ってございます。
他方、次の62ページにつきましては、広い意味で共用機器の設備というのをすぐにでも整備したものがいいというものを、こちらの62ページの方では支援するということで、相互に共創の場の形成という意味では、広い意味では関連しますけれど、まずは、直接的には、まず個々のものとしてスタートさせるということがよろしいのかなと考えてございます。

【山本委員】 ありがとうございます。

【栗原部会長】 今の点に関して、何か御意見ありますか。

【黒田委員】 同じく創発的研究の支援事業なんですが、年間700万で、何名を想定しておられ、この趣旨に沿うだけのインパクトがあり得るかということをご説明いただけますか。

【金子室長】 予算のところに700万/年(平均)と書いてございますけれども、これ、補正予算、500億という一定の規模のものを基金という形で、ファンディング機関としてはJSTの方でまとめて運用するということになってございます。
他方、補正予算により基金を造成して、それを取り崩しながら支援するということで、一定程度複数年にわたって支援した方がいいということで、今のところ3年間にわたって公募しようと考えてございます。トータル700名程度ということで、設計を進めているところでございます。

【黒田委員】 対象となる分野は、人文社会系を含めて、全ての学術分野ということになるんでしょうか。

【金子室長】 そこは当然いろいろ文理融合等々ございますので、そういった意味で、広い意味で、人文社会との関連も分野として入ってくるかと思いますけれども、他方で、JST法というか、法律の縛りもございますので、一定の法律上の縛りは当然のことながらかかるかなと考えてございます。

【黒田委員】 ありがとうございます。

【小谷委員】 創発についてですけれども、若い方とお話をすると、たまたまタイミングが合うといろんな支援が受けられて、外すと受けられないというような、自分の努力や実力と関係ないことで自分の人生が左右されることが多いということが閉塞感を生んでいるというような意見を聞きます。
創発研究はいい試みですので、3年間の先に制度としての継続ということも考えていただきたく存じます。

【金子室長】 そこは、まず政府部内の議論といたしましては、単年度予算の原則の中で、予断を持って将来的なところを判断するわけにはいかないところでございますけど、いずれにせよ私どもとしては、まずこの500億円、最大10年間という予算を確保しましたので、まずはそれをしっかりとよりいいものにして、世の中の声に対して応え得るよう、まずは目の前の制度設計をしっかりやっていくことが重要かなと考えてございます。

【小谷委員】 いい形に制度設計をしていただいて、成果によって、継続的につながっていく可能性を模索していただけるというふうに考えてよろしいでしょうか。

【金子室長】 私どもとしては、まさにおっしゃられたように進めたいと考えてございます。

【小谷委員】 よろしくお願いします。

【栗原部会長】 ほかにもありますか。

【黒田委員】 これには私も非常に期待をしているところがありまして。戦略目標に沿う形ではなくて、本当に研究者が内発しているものを、本当にやりたいものをやってもらう枠組ができるということでは、本当にすばらしいことだと思っております。
そうしますと、一方で創発的研究の場の形成という、創発研究のそういうグルーピングみたいなことまで考えておられるのか、個々にこれは展開されればそれで十分と考えられるのか、構想はどうだったのかなど、確認だけさせていただけますか。

【金子室長】 もちろん、先生おっしゃられたように、場の形成ということも、当然にこの制度設計の中には入ってございます。そういった意味におきましても、予算・期間の一番最後に、別途研究環境改善のための追加的な支援ということも、この制度の中に内在してございます。
足かけ最長10年ということで、非常に長い期間でございますので、先行的な事業として、例えば、さきがけが典型的だと思いますけれども、そういった個々の研究者がいろいろな活動をする中で、融合的なというか、相互に関連するアイデアとかも相当生まれてきますので、事業を進めながら、そういった制度、横に準備しているところのそういった枠組を使いながら、そういった場の形成につなげていくというふうに考えてございます。
他方、FAの方にガバニングボードも設けまして、そこでしっかりウオッチしながらやっていくということが重要かなと思いますけれども、そこの議論の進捗が、おっしゃられたことも踏まえながらやっていくというふうに考えております。

【黒田委員】 分かりました。

【栗原部会長】 本部会でも何回も出ている、若手を幅広く支援できたらということについて応えていただいたプログラムで、大変我々は感謝しているところです。
さきがけでしたら3年ですが、これですと7~10年ということなので、非常に落ち着いて研究をしていただけるという、従来からいろいろコメントも出ている、最近の若手はどうしても短期的な成果を求めるという意見があることに対して、長期的にものを考えてくださいということを呼びかける大変いい機会だと思います。
それで、個人ベースのボトムアップと体制整備や環境整備をするということに関しては、例えば、大学等の研究機関が、採択された人たちを大学の中で集めて、少し長期的なスパンでちゃんと研究できていくような環境を整えるということもあるかと思います。いろんな大学に、部局縦断の研究組織というのが少しずつできてきていると思うので、そういう場がより良い形で幅広く成長していくとか、このプログラムが終わったときに何か新しい形が生まれるような、そういう取組を各大学にもしていただけるような呼びかけができるとよろしいかなと思います。WPIも1つの母体になるかもしれませんけれども、WPIはやはり中心テーマがあるわけですから、それをどういうふうに幅を広げていくのかが課題でしょうか。
共用機器に関しては、それぞれの大学で部局の持っているものやセンターの持っている機器をつなぐような活動も是非広げて、若手を支援していただきたいと思います。
それでは、ほかにございますでしょうか。数学の事業については、何か御意見ありますか。
数学は、皆さん、非常に大事だと思っておられると思うので、こういうネットワークは、数学分野では新しい試みだと思いますので、是非、コメントを生かしていただいて、より良い形で後半やっていただけるといいなと思いますので、よろしくお伝えいただければと思います。この委員会としては、そういうような意見でよろしいかと思いますがいかがでしょうか。
それでは、続きまして、議題2の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の中期的見通しに移ります。
昨年11月に、WPIプログラム委員会が開催され、WPIの中長期的見通しに関する議論が行われたため、本日は、その内容について事務局から報告していただきます。それでは、資料2を基に、事務局より御説明をお願いいたします。

【山下課長】 基礎研究振興課長の山下でございます。本年もよろしくお願いいたします。
今部会長からも御紹介いただきましたけれども、昨年の11月にWPIのプログラム委員会、これは毎年1回、国内外の委員の方々に御参集いただきまして、それで、WPIプログラムについての進捗状況についての議論、あるいは評価、あるいは今後の方向性について議論をしているというところでございます。その中で、今後WPI事業についてどうしていくのかということについて事務局よりプレゼンを行いまして、それについて議論がありましたので、本日少しお時間を頂いて、その概要について御紹介をしたいと思っております。
資料は、お手元の資料2と、それから、参考資料に関しましては、3-1から3-3までということで、準備をさせていただいております。
11月のプログラム委員会におきまして、そういったことについて議論をしようということの背景といたしましては、御案内のとおりで、WPIプログラム事業につきましては、2007年度に開始いたしまして、10年以上経過してきている。そうした中で、既存の補助金で支援をしてきた拠点の中でも、補助金による支援期間を終了して、いわゆるWPIアカデミー拠点に移行しているところも既に幾つか出てきていて、それで、今後2~3年の間には、そういった拠点が更に増加していく。その一方で、補助金の支援を受けている機関につきましては、数としては減っていく。
そういったような背景事情がございまして、この委員会におきましても、今後増えていくであろうアカデミー拠点に対して、どういうふうな対策と申しますか、施策を講じていくのか。それから、補助金支援の機関については、今後新規採択というようなことも含めて、そういうことはやっていくのかどうか。そういうふうなことも含めて、中期的なWPIプログラムに関する見通しというものをプログラム委員会の場において説明をしてほしいという御依頼があったところでございます。
そういうことがございまして、昨年の11月の会議におきまして、お手元のような資料、その会議の資料より少し圧縮している部分もございますけれども、こうした資料に基づきまして、村田研究振興局長より説明をし、議論をしたというところでございます。
資料2でございますが、1ページでございますけれども、現在のWPIの現状ということで、1つ目のポツにございますけれども、現在、アカデミー拠点を含めて13拠点で運営をしてきている。そして、2つ目のポツにございますけれども、それぞれ13拠点につきまして、1から4のミッションの達成に向けた取組を行っていて、その結果として3つ目のポツにございますけれども、世界最高水準の研究成果の創出、あるいは、大学等における研究システム改革の面において、非常に顕著な成果を挙げてきているだろう。
その点につきましては、参考資料3-3ということで、これは本部会におきましても、6月の第2回の会議におきまして事務局より御説明をさせていただいたところでございますけれども、成果検証を行っておるところでございます。
次に、2ページでございますが、今後の中期的な見通しに関してということでございますけれども、先ほど冒頭でも申し上げましたとおりで、事業開始から14年目を迎えようとしていて、そうした中で、このWPI事業としては一定の成果を挙げ、それから、国内外に一定の評価を確立してきているとは言えるのだろうと思いますけれども、そうしたWPI事業につきまして、更なる高みを目指していく、そして、質を向上させていく、その上で、中長期的に日本及び世界の研究力をリードしていくというようなことが求められてくるだろう。そうしたことを実現していくためには、国際的にvisibleな「WPI拠点群」としてのプレゼンスを示して、内外から高まる期待に応えていくというようなことでございまして、アカデミー拠点も含めて13拠点の持続的な発展と、将来を見据えた新たな拠点形成支援の枠組の必要性ということがあるということでございます。2つ目のポツにございますけれども、そのためには、①といたしまして、10年の補助金支援期間を終えたアカデミー拠点の役割あるいはあり方ということ、それから、②でございますけれども、新規拠点採択のあり方に関して、関係者間で中長期の見通しを共有し、必要な政策的な手段を講じていくことが今求められるのではないかということでございます。
3ページでございますが、今後の事業のあり方というところでございますけれども、特にここでは2つ目のポツのところにございますが、先ほど御紹介いたしました成果検証などを踏まえ、WPIの質の更なる向上・強化に向けた新たなミッション――先ほど4つのミッションでこの14年間走ってきたわけでございますけれども、そのミッションをベースとしつつ、今求められている新たな要素をそこに加えていくというようなことで新たなミッションを検討し、それに基づいて今後WPI事業を進めていくということが必要ではないかというようなことを書かせていただいております。その上で、3つ目のポツということで、これはあくまでも例示ではあるのですけれども、学術的価値、それは当然であるんですけれども、加えて、社会的価値の還元を含む、より高次の融合領域における価値創出・展開を先導していくというようなことをミッションとして加えていってはどうだろうかというようなお話をさせていただいております。
その上で、4ページでございますが、アカデミー拠点の今後のあり方でございますけれども、現在の補助金支援期間中の拠点に加え、今後増加していくであろう「アカデミー拠点」を我が国の科学技術政策上の「財産」として活かしていくことが非常に重要であって、そのための具体的な方策を検討し、実行に移していくことが必要だろうと。そうした観点から、3つ目のポツにございますけれども、これまでに各拠点が培ってきた研究システム改革に関する成果や知見・ノウハウ等の相乗的な活用、それから、WPI拠点以外の他の大学・研究機関への成果波及というようなところもより一層進めていくというようなことが求められるのではないかということでございます。
最後に、5ページでございますが、新規拠点の採択ということにつきましては、今後も進めていきたいというようなことが前提でございまして、その上で、潜在的な申請者である大学等が十分な時間を確保して、申請の準備を行えるよう、予見性のある公募形態とすることができないかということを検討していく必要がある。つまり、幾つかの拠点が、その時点において補助金支援期間が終了して、ごそっとアカデミー化して、それに対応してその場で急に応募を求めるというような形になりますと、なかなか準備もできませんので、ある程度一定の期間、計画的に見通しを示して、こういう形で応募していきますよというようなやり方を考えていきたいということでございます。
その上で、2つ目の四角にございますが、先ほど申し上げましたような新たなミッションを今後プログラム委員会等の場において議論していくわけでございますけれども、そうしたミッションが固まれば、そのミッションを実現するためのポテンシャルを備えた拠点になっていただくべく、拠点を採択していくというような内容を11月の会議の中では御説明させていただきました。
その会議では、やはり新ミッションというところで少し議論がございまして、先ほど3ページの3つ目のポツのところに、あくまでもこれは例示で、何もオーソライズされている内容ではないんですが、社会的価値の還元というところの意味合いということで、このWPI拠点というのは、あくまでも基礎研究をやっていく拠点ということなので、ここに余りにも重きを置き過ぎるのは果たしてどうなんだろうかというような御意見がございましたし、社会的価値ということを捉えていくとしても、どういうことが考えられるんだろうか。例えば、大学院生の教育というようなことも、多分、社会的価値の還元ということに含まれるのではないかとは思うんだけれども、そういうことはこれまでWPI拠点ではそんなに捉えてきたわけではないので、今後は視野に置いていく必要があるのではないかといったような御意見。また、新ミッションを構築した際には、その新ミッションの達成度合いというようなものをしっかりと測れるように、何らかの指標みたいなものも併せて考えていく必要があるのではないかといったような御意見など、いろいろ御意見を頂戴したところでございます。
もう一つは、新規採択に関しては、1つ御質問ということで、今、アカデミー拠点も含めて13ということでありますけれども、それを最大どの程度ぐらいまでという御発言もございました。それについては、過去に同じ会議で、事務局からも御説明をしたことがございまして、その際の回答ぶりを引用してお答えしておりますが、要するに、世界トップレベルの拠点でございますので、新規に採択すると言っても、そんなにたくさん増やしていくべきではなく、増やすとしても20程度ぐらいまでということが当面考えられるのではないかというふうにお答えしております。
WPIプログラムに関してでございますけれども、11月のプログラム委員会におきまして、今申し上げたような新ミッション、あるいは、そういうものを踏まえたアカデミー拠点、新規拠点のあり方についての議論のキックオフを行ったということで、今後、プログラム委員会、あるいは、国内委員だけ集まった国内委員会というものもございますけれども、そういう場において更に議論を深めていき、できるだけ早期に新ミッションを固め、更なる取組を進めていきたいと考えておるところでございます。そうした議論の進捗の状況につきましては、折に触れてこの部会におきましても御報告をさせていただき、御意見等を頂戴できればと考えておるところでございます。
私からの説明は、以上でございます。

【栗原部会長】 ありがとうございました。
WPI、大変成功しているプログラムですけれども、今後についてということですが、何か御質問、御意見等ありましたらお願いします。

【齊藤委員】 WPIは非常に成功して、日本の大学ではなかなかできないような新しく自由なことができるようになったんですが、終了するとやっぱりどうしてもサイズが縮小して、海外から十分なマスがないと見えないという問題もあるので、まとめて一つの組織にして、例えば、マックス・プランクとかですと、まとめてマックス・プランクなので、外からよく見えると。WPIは、終了すると、それぞれの一個一個の名前としてしかもう認知されなくなるので、それは大変もったいないのではないかと思うので、まとめて見やすくするような仕組みがあるとよいのではないかなと。

【山下課長】 おっしゃるとおりかなということで、今の資料の中でも、2ページ目の1つ目のポツに触れさせていただいておりますけれども、今後、一個一個の拠点として国内外に売り出すのではなくて、一つのWPI拠点群としてPRしていって、それで国内外のプレゼンスを高めていくというようなことが必要だろうと考えております。
そうすることによって、拠点群全体として、この事業全体としてもより発展をさせていくようなきっかけにもなるのかなと思っておりまして、そのための具体策というところは今後考えていかないといけないと思っておるんですけれども、そういう方向性というのはとても重要だとも思っております。

【齊藤委員】 もう一つよろしいでしょうか。
それを考えると、今の世界の仕組みを考えると、論文サイテーションしたときにどういうふうに載るかが重要なので、論文のサイテーションとしてWPI全体としての組織とできると日本のランキングも当然上昇しますし、そこがものすごく重要な仕組みなのではないかなと考えております。

【山下課長】 そういうことも含めて、考えていきたいと思います。ありがとうございます。

【齊藤委員】 よろしくお願いします。

【栗原部会長】 ありがとうございました。
ほかに何か御意見ありますでしょうか。

【観山部会長代理】 私、WPIのPOをしていますので、当事者に近いんですが。やはりこの新しいミッションについては、相当よく慎重に考慮する必要あると思います。つまり、今までの4つの観点が、融合であり、フュージョンであり、国際的な環境、研究組織改革というのが、必須の事項だったのです。だから、それに社会還元とかいう言葉が入ってくると、非常に分野が限られてくる場合ありますし、それから、そのウエートが非常に強くなってくる可能性があります。また、達成指標としてよく見える部分になりますので注意が必要です。必要性は非常によく分かりますけれども、プログラム委員会でもあったように、WPIというのがどういうものか、どういうものを目指していくかということをよく考えて、新たなミッションを付け加えないと、WPIががらっと変質するような形になる可能性もあるので、そこら辺がちょっと注意が必要かなと思いますね。

【山下課長】 会議の中でも、観山先生からおっしゃられたようなことが、幾人かの委員の方から御発言がございました。そういう点も踏まえて検討していかないといけないと思っています。
一方で、社会的価値、言ってしまえば、こういった世界最高水準の研究拠点でなされている研究成果を社会に還元をし、その研究拠点そのものでその活動に直接携わるというわけではなくとも、それを社会が受け止め、社会的課題の解決に活かしていくと、そういう道筋というものも今後この事業の中では求められてくることかもしれませんので、そういうこともうまく加味しつつ、あまり社会的価値の創出を意識し過ぎて、そちらの方に偏ってしまうというようなことは避けつつというような、表現を追求していければいいのかとも思っております。

【栗原部会長】 どうぞ。

【小谷委員】 この間の週末に、Kavli IPMUが中心になって、WPIのアウトリーチ活動をいたしました。プログラムが良かったからか、募集したらあっという間に700人だか800人の席が埋まってしまったそうです。意欲的な高校生・大学生、社会人になられた方が、世界トップレベルの研究者がどういう研究しているかということに興味を持って集まってくださっています。
WPI拠点は、世界トップレベルの研究と、従来の枠組にとらわれないサイエンスのフロンティアを築くということが特徴の世界から目に見える拠点ですので、そこはぶれる必要はないのではないでしょうか。
社会に対する還元のなかには、このように最先端研究に興味を持ち将来科学者に育っていくような、別に大学の研究者を目指すという意味だけではなく、そのような若い人を触発するということは大切な社会貢献だと思いますし、WPI拠点ができるもっとも適格な貢献ではないでしょうか? なかなかそれでは苦しいということなのでしょうか。

【山下課長】 多分、これは一つの例示としてこの資料の中では示していて、少し幅の広いものと捉えられているかもしれませんが、今後の議論の中で、今お話しいただいたようなことを含め、こういうことはやっていこうよというようなことをもう少し具体的に提示していくというふうな形でまとめていくということもあり得るのではないか。そういう意味では、アウトリーチ活動的な話とか、あるいは、会議の中でも出ていた大学院生の教育への貢献、これも多分社会的価値の還元というような意味では一つあり得るのではないかと言われていて、もう少し絞って、こういうことをやっていくというような形で位置付けていくということもあり得るのかとは思っています。
ただ、いずれにいたしましても、確かに会議の中でも、あまりここに重きを置き過ぎるというのもというような御意見もございましたので、そういう御意見もしっかりと受け止めながら、プログラム委員会、あるいは、この場において引き続き御議論を進めさせていただければと思っております。

【栗原部会長】 従来ですと、国際トップレベルをとにかく志向するということで、共通軸だったと思うんですが、今後、トップだけど、違う方向のトップとか、あるいは、トップテンではなくて、トップスリーを狙うとか、何か思い切ったチャレンジ目標みたいなものが、あるベースは維持しながらできていくと良いのかなと思います。
WPIはやはり外から見える研究組織になっていたと思うので、その活動がうまく引き続き育っていって、より良い活動に展開していくには、プログラムがある間がピークではなくて、今後さらに発展していくような方向性は何かということがもう少し議論されていくべきなのかなと思います。今頂いた御意見、皆さん、ある意味でそういうところを言っていただいたように思います。

【岡村補佐】 よろしいでしょうか。先ほど社会的な価値ということで少し議論のありましたところについて、少し付け加えさせていただきます。この「社会的」という言葉を使うとき、すぐに想起されやすいのは、経済的な価値ですとか、あるいは金銭的なものに還元されるようなものですとか、何かそういう、より社会の出口に近いような言葉で語られることが多いように思います。ただ、今ここでいう社会的な価値の側面というのは、そういったものからは本来遠く感じられるような、例えば宇宙だとか、素粒子だとか、いわゆる純粋に学術的なもの、そこでわくわくするような研究成果を出して、研究者って格好いいな、研究って面白いなということが感じられて、広く世の中の共感や支持を呼んで、そうして次世代の理系人材が育っていくこと、そうしたことまでを含めて「社会的な価値」と捉えていけないものかと考えます。WPIのような取組であればこそ目指していけるような世界最高水準の研究の場所、そこでいきいきと活躍する研究者の姿、そうしたものを支え、伝えていくことを通じて、世の中に基礎科学の価値を還元していくこと、そういった広い意味合いも含めて、今、社会的な価値という言葉を捉えたいと思います。プログラム委員会の場でも、social valueというのとsocietal valueというのが、また少し意味合いに差があるのではないかという議論もございました。
ですので、必ずしも狭い意味での、出口寄りのですとか、経済的なですとか、そういうものに限らない社会的な価値というものの意味も含めて、今後しっかり議論していきたいと思っていますし、そうした観点も含めてWPIの新しいミッションの中にも反映していければ良いと思っております。観山委員ご指摘のように、必ずしも分野を限定するようなものとはならないように、その上で、WPIとしてしっかり受け止めていけるような新しいミッション、方向性というものをきちんと描いていきたいと考えております。

【山本委員】 お願いします。

【栗原部会長】 どうぞ。

【山本委員】 今の発言がすごく感じまして、いいなと思いました。つまり、社会的価値の還元といったときに、やっぱり一義的には経済的なものですとか、出口ですとかと思ってしまうけれども、そうではないじゃないですかと。社会的価値というので、教育の話もあるし、アウトリーチでは、次の世代の科学者を、志望者を育成するということも社会的価値の還元なんですよということを、そういう認識を植え付けていくといいますか、納税者に対してもということで、浸透させるということが必要だなということを、今のお話で感じました。
そうであれば、WPIって、何だかすごくたくさんのお金をもらってすばらしい研究成果を出しているけれども、社会とはちょっと離れてるねと思っている方に対して、いや、そうじゃなくて、社会的価値の還元、我々はこういう形でやっているんですよというふうなコミュニケーションをするといいのかなと感じました。
以上です。

【栗原部会長】 ありがとうございます。
ほかにありますでしょうか。

【齊藤委員】 本当におっしゃるとおりと思います。そうしてみますと、先ほどの3ページの一番下の「学術的価値のみならず」という表現は、何か別のメッセージを与えるかなと。「のみならず」ではないということですね。

【栗原部会長】 ありがとうございます。
ほかにありますでしょうか。WPIについては、今後も議論の機会があるかと思います。どうぞ。

【城山委員】 細かい点なんですが、今の点との絡みで言うと、検証の方の参考資料3-3の後半のところに、先ほどもちょっと言及ありましたが、合同のアウトリーチ活動のようなことをやられていて、まさに今おっしゃられたような話というのは、合同の活動としてボトムアップには既にやられている話なので、そういうものをベースにしたときに、逆に言うと、次のステップとして、このような活動でこれはできたけれども、もうワンステップこういうことをやれたらいいみたいな、ちょっと具体的なイメージがあれば少し教えていただけるといいかなと思いました。

【栗原部会長】 ありがとうございます。どうぞ。

【黒田委員】 斎藤委員が最初におっしゃったことにもう一度戻りたいと思うんですが、やっぱり国際的なビジビリティが大きくなることも、我が国に対する大きな価値だと思っていまして、ここは非常に重要な点だと思います。「そのプレゼンスを示し」どころではなくて、本当に諸外国の若い方々が、今Kavliがそうなっているように、あそこへ行かなきゃ次がないと思っておられるぐらいのすばらしい拠点になられたわけですね。
ですから、部会長はトップスリーとおっしゃいましたが、私はトップか、あるいは、フォアフロントのその先をやっているということが国際的にビジブルであれば、日本の科学技術に対するイメージも違うでしょうし、必ずあそこへ行かなきゃと、そういう形に持っていくのが価値ではないかというふうに思っております。

【栗原部会長】 おっしゃるとおりだと思います。どうもありがとうございました。
これに関しては、今後も議論する機会があると思いますので、またそのときにもよろしくお願いします。いろいろと貴重な御意見ありがとうございました。
続きまして、議題3、数理科学分野における融合研究の取組についてに移ります。
6月に開催された第2回基礎研究振興部会において議論した、第6期科学技術基本計画に向けた論点整理の7にあるとおり、新興・融合領域の開拓に関しては、数理科学の振興等に関わる政策的要請にも応えていくことが重要であるというようなことを踏まえ、今回は理化学研究所における数理創造プログラムにおける取組をを紹介いただきたいと考えております。
本日は、初田哲男先生、理化学研究所数理創造プログラムのプログラムディレクターでいらっしゃるんですが、お越しいただいております。どうもありがとうございます。
それでは、初田先生より御説明いただきます。よろしくお願いいたします。

【初田先生】 それでは、御説明申し上げます。大体20分を目途にお話しします。
数理科学を軸とした学際的研究ということで、理化学研究所において数理科学を中心に、若手研究者をコアとしたプログラムをこの数年間やってきておりますので、その内容をお話しします。
私自身の自己紹介については資料を見ていただければと思います。理論物理学が専門ですが、実際に論文を書いているのは、素粒子、原子核、宇宙、物性、生物、などの分野にまたがりますので、理論物理学に根ざした理論科学者ということになります。
2015年にNature誌がINTERDISCIPLINARITYという特集号を組みました。この特集号の主な論点は、人類が直面する基本課題に対して、様々な分野の研究者が共同で立ち向かう上での利点や問題点ということでしたが、基礎研究における異分野連携についても議論されていますので、是非読んでいただければと思います。この特集号には、私自身へのインタビューも短く掲載されています。私は2012年に東京大学から理化学研究所に異動しました。理化学研究所においては、分野間の壁が低く、化学、生物、物理など様々な分野の研究者が気楽に分野交流できる雰囲気があります。一方、大学では、学生の教育もあるので、分野の縦割り構造を解消することは困難です。そういう背景があり、理研に移ってからは、生物学者、物理学者、化学者など共に、数理を横ぐしにした学際連携活動をはじめました。
このような学際連携の観点は、世界に比べて日本は少し遅れていると感じていたこと、数理を横串にすると学際連携が進みやすいこと、などをインタビューでは話しました。理研では、2018年から、開拓研究本部、基盤センター群、戦略センター群の3つを柱とする新たな体制が発足し、その戦略センターの一つとして、数理創造プログラム(iTHEMS)が立ち上がりました。こ名前がセンターではなく“プログラム”となっているのは、いわゆる目的指向型センターとは異なるというニュアンスも込められています。
まず学際的研究に関して、人それぞれ違うイメージを持っていることで話が噛み合わないことが多々あるので、我々はこの定義まず与えます。
我々の学際的研究の定義は、ある分野Aと分野Bが様々刺激しあって、分野Aに新たな発展が生まれるケース。そして分野Aと分野Bが相互作用して、全く新しい分野Cが生まれるケースです。しばしば、この最後のケースだけが学際的研究とか融合的研究として議論されることがありますが、科学者であればどなたもご存知のように、実際には前者の2つのケースがより頻繁に起こります。
この学際的研究というのは、ブレークスルーの源であり宝庫ですが、学際的研究が目的になっては本末転倒です。
仁科芳雄博士が、「環境は人を創り、人は環境を創る」と言われたように、、各分野のエキスパートが切磋琢磨いにいにし互い情報共有するところから新しい発見が生まれ、またそこに優秀な研究者が集まってきます。最初からゴールを見据えて、みんなで一緒にやりましょうというのでは、真に新しいことはできないというのは学際的研究でも同じで。、学際的研究に適した環境づくりには3つの重要なポイントがあると考えています。まず、縦割りでない環境。つまり、チームやグループを作らないこと。つぎに、若い研究者が自分のアイデアでゆっくり研究できる環境。それには少なくとも5~10年の任期が必要。そして最後に刺激的な環境。特に、様々な研究者が国内外を行ったり来たりできるような仕組み。このような環境づくりの一環として、数理創造プログラムでは、理論物理学者、数学、理論生命科学、計算・情報科学などの若手研究者g混在して居室を占め、毎日顔を合わせるというシステムを構築しています。上級研究員(7年任期)、研究員(5年任期)、ポスドク(3年任期)など、現在23名の若手研究者がコアメンバーとなっており、分野のバランスもだいたい均等になっています。研究員、上級研究員の国際公募では、専門分野でトップクラスの研究者であり、かつ異分野連携にも強い意欲を持つ方を採用基準にしております。専門分野でトップクラスの研究者であっても、異分野には全く興味がない方は、数理創造プログラムの趣旨には合わないと考えています。学際的研究を促進する環境にいる若手研究者が根無し草にならないかという危惧をしばしば聞きます。しかし、実際には、数理創造プログラムにおいては、外部の研究機関や大学への昇進に伴う転出が進んでおり、今年度だけで約20%の若手研究者が人気無しの助教や准教として外部転出します。つまり、ゆったり研究できるシステムさえあれば、どんどん頭脳循環が進むという感覚を持っております。
ただし、人材を集めたら何かすぐ生まれるかというと、そんな簡単なことではありません。将来的にこういうことを解明したいという大きな旗を立て、その旗の下で研究者が離合集散する「研究セル」を数理創造プログラムでは設けています。さらに日常的な研究の中心になるのが「ワーキンググループ」です。これは、理研の内と外の若手研究者がペアになって提案し、1~3年の期間、数理創造プログラムから活動資金を得て共同研究を行う仕組みです。現在、宇宙とAI、統計力学と数学、量子情報科学、経済物理学、ダークマター、が立ち上がっています。さらに、もう一つ下の階層に「スタディグループ」があります。これも若手研究者が提案して行うもので、様々な情報共有を行うことでワーキンググループや研究セルの芽を育てる活動になります。また、研究者の往来を活性化することを目的に、京都大学、東京大学、東北大学、九州大学に、数理創造プログラムの国内サテライトオフィスを構築済みです。サテライトオフィスには現地の教員1人とポスドク1人が責任者として配置し、数理創造プログラムの若手研究者が自由にサテライトオフィスを訪れて研究活動が行えるようにしています。また、米国西海岸のローレンス・バークレー研究所内にも、数理創造プログラムサテライトオフィスを設けると同時に、3名の若手研究者をバークレーに長期派遣しております。
日常の活動においては、メンバーが自由に出入りできるコモンルームと、メンバーそれぞれが研究に集中する居室を別々に設置し、ひとりでに詰まったり、他の研究者と情報交換したい時にコモンルームでわいわいがやがや議論することが推奨されています。
全員参加のコロキュームは隔月で行っていますが、さまざまな分野の研究者が在籍していることを反映して、予測医療、システム生物学、量子もつれ、経済物理、解析数論、量子計算、ブラックホール、など多岐にわたるテーマをカバーしています。コロキュームは理研内外にも公開しており、異なる分野の研究者がコロキューム後にお茶を飲みながら意見交換することで、学際的研究の芽を育てようとしています。
数理創造プログラムの最も大事な活動の一つが、毎週金曜日に開催するランチミーティングです。その最初の15分間に、黒板だけを用いた非専門家向けの話題を若手研究者が交代で提供します。それをきっかけに、ランチを食べながらの議論が盛り上がります。良いコーヒーマシンの存在も、理論研究者には極めて重要であることを強調したいと思います。数理創造プログラムでは、個人の寄付で高性能のコーヒーマシンを導入し、メンバーに常時無料でコーヒーなどが提供されていますが、これが研究者をコモンルームに引き寄せている引き金になっています
数理創造プログラムの若手研究者には、自らの専門分野での研究はもちろん、分野を超えた共同研究をぜひ考えて欲しい、分野横断ワークショップを積極的に開いて欲しい、とお願いしており、例えば、数学者と生命科学者の合同研究会など若手研究者中心で開催されています。
数理創造プログラムでは、現代数学の重要性を強調しています。私は理論物理学者ですが、日常使っている数学は、せいぜい20世紀の半ばまでの数学です。20世紀半ば以降の数学は非常に抽象化が進み大きく発展しており、21世紀の現代数学を自然科学に還元することは非常に大切です。そのためには、まず言葉を知る必要があるということで、数理創造プログラムの若手数学者が連続講義や数学入門セミナーを定期的に行い、他分野の研究者に対して、現代数学の入り口や、言葉の定義を教えてくれています。これは、短期的に役立つということはないですが、5年から10年かけてじわじわと浸透し、将来、現代数学の言葉を使った自然科学ができるようになるかもしれません。
さて、数理創造プログラムで実際にどんな学際研究が行われているかについて、事例を挙げさせていただきます。
1つ目の事例は、私自身が関係した研究で、数理生物学者と素粒子物理学者が共同で、魚の目の網膜パターン形成の理論を構築したというものです。網膜上の光受容体細胞のパターン形成は100年来の問題ですが、数理を横串に分野をつなぐという私たちのプラットフォームを通して、生物学者と物理学者が共同研究を行い、その機構を解明したという成果です。2つ目の事例は、計算科学と理論物理学の若手研究者が数理創造プログラムのバークレーオフィスの活動を通じて繋がり、新しい量子計算アルゴリズムの開発に至ったというものです。3つ目の事例は数理創造プログラムでセミナーを行った細胞生物学者が、数理物理学、物質科学の若手研究者と出会って生まれた研究です。神経幹細胞の集団運動と量子物質における電子の運動の類似性に着目して、その背後に共通に存在する数理構造を明らかにした成果です。このような研究は狙ってできるものでは無く、学際的な環境の中で刺激を受けて自然発生的に生まれるものです。数理創造プログラムは、まさにそういう環境を作ることを大きな目標にしています。
2019年7月に、数理創造プログラムは国際諮問委員会による外部評価を受けましたが、その評価レポートには以下のように締めくくられています。「iTHEMSの存在とその活動は未来に大きな勇気を与える。なぜなら、日本の研究環境は、短期的なビジョンに偏り、そのため研究計画や研究活動が金太郎飴のように、過度に均一となり、多様性が失われる傾向があるからである。要約すれば、いくつかの未開拓分野にだけ政府資金が配分される現状に鑑みて、我々は、iTHEMSが人類の未来のために、新しくかつ基本的な方向性の探求を理論的視点から主導していくことを期待している。」
ここまでは学際的「基礎」研究のことをお話ししてきましたが、学際的「応用」研究も非常に大事だと考えています。数理創造プログラムでは、産学連携数理セミナーを開催し、産業界で数理に基づいた研究をされている方々を招いて、実際の研究内容の説明をじっくりお聞きしています。その中から、アカデミアと企業が共通で面白いと思えるテーマをボトムアップで発掘しています。企業のお手伝いをするというのではなかく、おもしろいテーマを一緒に研究するという狙いです。メガバンクが持つ実データを用いたネットワーク解析、特別な最適化問題を解く新しい量子アルゴリズムの開発、人工知能による医療データ解析などがその例です。学際的応用研究というのは、アカデミアの我々にもおもしろいし、企業にもメリットがあります。また、一旦方向性が決まると、非常にスピード感をもって研究が進み、特許申請などにも繋がります。このような共同研究では、アカデミアと企業が、対等に寄与することが重要です。学際的「応用」研究の機会が増えてくると、より系統的な仕組みが必要になってきます。その一つの可能性は、アカデミアと企業が出資して、双方の組織の外にベンチャー企業を立ち上げ、それをハブとして上記のような活動を行っていくことです。学際的研究に関して、我々はさらに先を考えています。経験科学、理論科学、計算科学、データ科学というパラダイムシフトがこれまで議論されてきましたが、今後は第5のパラダイムとして「予測科学」が台頭すると考えています。商大は気象科学の専門家で予測科学の可能性を検討している理研の三好建正氏にお聞きいただくのがベストですが、災害予測、経済予測、健康予測などに挑戦すべく、数学者、物理学者、経済学者、工学者、医学者などが一緒に共同研究することによって、このような新しいパラダイムシフトを起こしたいというのが狙いです。今日の話をまとめさせて頂きます。学際的研究には、、基礎と応用があります。学際的基礎研究には好奇心主導の環境が適合しており、若手が自律的に研究を行うことが肝要です。決まったミッションがあるわけではないので、様々な分野の卓越した若手研究者を集めて、「るつぼ」を作ることが一番大事です。短期的な成果をそこで求めるべきではありません。
一方で、学際的応用研究関しては、テーマ選定を適切に行うことでスピード感を持っておもしろい研究ができる可能性があります。特に数理と科学には柔軟性と機動力があるので基礎科学と社会を上での一つの軸になり得ます。
学際的研究を系統的に行う上では、「るつぼ型センター」と、「連携型センター」の2種類が考えられるかと思います。連携型のイメージは、複数の研究主催者がいて、それらの研究室間を繋ぐ若手研究者を任期制で雇用するというものです。一方、るつぼ型のイメージは、少数のマネージャーの元にワンルーフで多数の若手研究者が任期制で所属するというものです。るつぼ型が、理論系では大きな支障はありませんが、実験系では可能なのかはよくわかりません。連携型は、理論系でも実験系でも可能と思います。理研では2013年から連携型のプログラム(理論科学連携研究推進グループ)を試しました。その後、2016年からるつぼ型のプログラムである数理創造プログラムに移行したという経緯があります。「るつぼ型センター」においては若手研究者の自由度が非常に高いというメリットがあります。一方で、お互いを知り合える限界であるダンバー数がおよそ100名ですので、それを超えた大規模なワンルーフ体制は機能しなくなります。これを逆手にとれば、ダンバー数を超えない「るつぼ型センター(Melting Pot Center, MPC)」を複数設置することで、本質的に新しい芽を生む体制が国内にできるかもしれません。MPCは既存のWPIとは概念的に異なるものです。MPCのミッションは次世代の科学に必要なアイデアを生み出すエンジンとなることです。これは費用対効果だけによらない長期的な視点での国家サポートが必要と考えます。一方で、「連携型センター」の役割も重要です。2019年に京都大学理学研究科に発足したサイエンス連携探索センター(SACRA)はその一例です。大学において異なる分野の学生とを横に繋ぐという意味でも、このような連携センターの存在意義は大きいと考えます。最近の数理科学分野では、アカデミアと企業の境界が徐々に消えつつあると感じています。数理に根ざした研究が行えるという理由で、トップクラスの若手研究者がアカデミアに見切りをつけて企業に流れるという事例が、遅ればせながら日本でも散見されるようになりました。このような状況の中で、数理科学分野の研究者がアカデミアと企業を自由に往来できるような新しいシステムを構築できれば、双方の特性を生かせると思います。また、子尿な取り組みを国としても応援してほしいと思います。先ほども述べましたが、、自然科学分野では21世紀の数学を未だ活かしきれていません。基礎・応用に限らず現代数学の成果をタイムリーに取り入れることができれば、世界をリードできる成果が出せると思います。そのためには、数学と諸分野を繋ぐ良い翻訳者が必要です。「るつぼ型センター」の研究者の一部から、そのような翻訳者が出てくれば嬉しいですし、自然科学の問題を契機に、新しい数学概念が生まれれば素晴らしいと思います。我々はこれを自然科学と数学の共進化と呼んでいます。
早口になって申し訳ありませんが、お話ししたかったことは以上でございます。

【栗原部会長】 どうも貴重なお話ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明に対して、委員の先生方から御質問等ありましたらお願いします。どうぞ。

【城山委員】 大変おもしろい話、ありがとうございました。私、社会科学の方がバックグラウンドで、若干ずれるかもしれませんが、幾つかお伺いしたいと思います。
1つは、特にるつぼ型センターのときに、物理的に場を共有して、一定の数の範囲内であるということがすごく大事だということだと思うのですが、ただ、こういうのができるかどうかって、やはり理研みたいなある種のプラットフォームがあるかどうかということにかなり依存すると思います。
そのときに、例えば、この最初の方の数字でも、メンバーは80人で、うち34人専任という形で書かれていたと思うんですけれども、専任でいる人たちが一定程度常に顔を合わせるということをコアとすることがやはり大事なのか、あるいは、一定部分は、例えば、非常勤のような形でも、ある種こういうるつぼ型的なことというのは機能し得るのかとか、あるいは、その辺の比率がどうなのかだとか、そのあたり、少し示唆あれば頂けるありがたいなというのが1つです。

【初田先生】 今までの経験からしか言えないのですが、少なくとも30名程度の研究者が物理的に同じ場所にいて、毎日顔を合わせることは非常に大事です。ただこの数が2倍、3倍になってくると、互いを知るということはだんだん難しくなってきます。そういう意味で、るつぼ型の規模を単純に拡大するというのも限界があります。

【城山委員】 逆に、これの黒い字で書かれている兼務のような方々の役割は何か、あるいは、兼務でやらざるを得ない人たちが、ある種のこのるつぼ的なものをフルタイムにはできないんだけど、やる可能性があるのかとか、そのあたりはどうなんでしょうか。

【初田先生】 るつぼ的なものを?

【城山委員】 要するに、常勤では置けませんと。だけども、ある種の、いろんなところに所属する人たちを非常勤で集めて、るつぼ的なことをやるということが可能なのかどうなのかということです。なかなかそこは難しいでしょうか。

【初田先生】 なかなか難しいです。数理創造プログラムの客員主管研究員は比較的シニアな研究者で、大学などに常勤職を持っておられます。国内の客員主管研究員の役割は、国内外のサテライトオフィスに責任を持ち、若い研究者の図の循環の位置役を担って頂くことです。サテライトオフィスは、数理創造プログラムの若手研究者だけに資するものではなく、周辺の研究者が集まるハブにもなっているので、サテライト自体が一種の小さい「るつぼ」になることを期待しています。一方、国外の客員主管研究員の主な役割は、毎年一定期間、数理創造プログラムに物理的に滞在し、若手研究者に刺激を与えながら研究を進めることです。トップクラスのシニア研究者が身近にいるだけで、研究の雰囲気は大きく変わります。

【城山委員】 もう一つだけなんですけど、実質的なところは、結構ワーキンググループがすごく大事だというお話でしたけれども、例えば、ああいうのをどうやって作っていくかとか、どのようにセレクトしていくかとかいう点はいかがでしょうか。また、あるいは、ワーキンググループになったときに、それを支援するというのは、どういう形の支援というのを具体的にとられているのかという点はいかがでしょうか。

【初田先生】 ワーキンググループは、種子や必要経費を書いた申請書類を若手研究者とと理研外の研究者がペアになり、そこに理研内外の参加メンバーも入れて申請してもらいます。申請書類は、プログラムディレクターと4名の副プログラムディレクターで審査し、改善点などを指摘した上で、採択します。期間は1~3年間で、年間100万~150万円を措置して、分野横断型研究会の開催や、ワーキンググループのミーティング旅費に充ててもらっています。

【城山委員】 今のお話だと、理研の中の人だけではなくて、外の人も入れる。

【初田先生】 必ず外を入れないといけません。

【城山委員】 そういう意味で言うと、必ずしもこの赤の人たちだけではなくて、むしろここは外部の人もアドホックに入れてくるという、そういう仕組みだという理解でよろしいですか。

【初田先生】 そうです。必ず入れないといけないということになっております。

【城山委員】 分かりました。ありがとうございます。

【栗原部会長】 どうぞ。

【観山部会長代理】 2種類。1つは簡単な。すばらしいプログラムだと思いますが、予算は年間どれぐらいの。

【初田先生】 大体文科省から頂いているのが、2億2,000万か2億4,000万か、その間ぐらいです。もしあれだったら、予算の表を。

【観山部会長代理】 いやいや、概算でいいです。
外国人の割合と女性の割合はどうですか。

【初田先生】 外国人比率は、数理創造プログラムで雇用されている研究者の15%ぐらいです。
女性研究者の割合は、今のところ1%前後です。数理創造プログラムの国際諮問委員会のレポートでも、外国人比率・女性比率の改善が求められています。特に女性の数理研究者を増やす必要性を我々は強く意識していますが、そもそも母数がないところが大きな問題です。長い目で見て母数を増やすために、奈良女子大学やお茶の水女子大学をはじめとする理系分野に強い女子大に注目して発掘を行うことを考えており、2020年度からは、奈良女子大学の学部1年生・2年生に対して、数理創造プログラムの研究者が半年間の連続講義を行い、数理科学や自然科学の面白さを伝える活動を始めます。また、数理における若手人材育成というより広い観点では、東京大学の学部1年生・2年生を対象とした半年間の連続講義を、過去2年間開催し、大学初年級で学ぶ様々な分野が将来どのようにつながっていくのかということを見せるようにしています。

【観山部会長代理】 ありがとうございます。
もう一つは、こういう分野と応用研究というか、企業との連携ってすばらしいと思いますが。もう一つ、実験科学だとか観測科学との連携というのは、多分すごくあるでしょうけれども、今回のお話にはあまりなかったので、そこをちょっと。

【初田先生】 実験系を直接取り込んでしまうと、我々の活動は逆に身動きが取れなくなるという状況があります。一方で、数理生物、理論物理の研究者は、個別に実験や観測の研究者とつながって共同研究したり情報共有をしているので、当面は理論主導で進めていきたいと思います。

【観山部会長代理】 ありがとうございます。

【栗原部会長】 伺った感じでは、でも、理論の方が集まっているために、ちょっと違う分野の理論の横串と言ったらあれですけど、これはこっちにも使えるなという議論が非常に早くおできになっているように感じます。

【初田先生】 そうですね。それが一番のいいところだと思います。
共通言語は結局数学なので、それを通して横に繋がっています。もちろん言語としての数学をどれだけ使いこなせるかは、個人によっても分野が違うので言語能力のスキルアップが適宜必要となります。

【栗原部会長】 ほかに何か御質問等ありますでしょうか。

【齊藤委員】 こういう研究というのは、1個当たりの研究のライフタイムというのはどれぐらいなんでしょうか。スタートしてから終了するまでの時間スケールというのはどれぐらいで。

【初田先生】 例を挙げてお話しします。通常のの理論研究は、半年で終わる場合もあるし、数年かかる場合もあるります。学際的研究の場合、こ適切な問題を見つけるまでにより時間がかかります。私が関係した数理生物の研究では、魚の網膜上の細胞パターンの問題を物理学者と生物学者が児湯通の興味深い課題として認識するまでに約2年かかりました。
その後、実際に計算を始めて、結果を出して、論文書かうまで入れると約3年半はかかっていると思いますが。逆に言えば理論研究なので、例外的な場合を除けば、10年もかかるというわけではありません。

【齊藤委員】 短いんですね。多分、時間スケールの問題だと思うのもあって、実験が全てだめというわけではなくて、実験の場合も、最初は非常にスモールサイエンスからやって、低い予算で自由闊達にいくんですが、重要な研究だと、予算が続くと15年とか20年。そうすると、しがらみが作られるということで、自由に話すということがほぼできなくなると。だから、スモールサイエンスのときの実験家なら、まだまだ一緒にやれるのではないかなと思います。

【初田先生】 そうですね。それは。

【栗原部会長】 ありがとうございます。
実験家の方々がこの中でやるのは大変だよという話だと私は理解したんですけど。もちろん、ビッグサイエンスになっていけば、いろいろ競争も激しいし、そんなフリーに話せないとか、いろいろそういうのもあるでしょうけど。

【初田先生】 るつぼ型センターが複数あるのが望ましいとお話ししたのですが、我々のような数理を中心としたもの以外に、さきほどおっしゃったように、全然違う分野の実験家が、実験の初期段階で同じところに集まって、手法や考え方を共有しながら研究するというのもあり得るのではないかと思います。

【齊藤委員】 最初は実験と理論を両方やっています。

【初田先生】 そうですか。

【齊藤委員】 最初はやっぱりそういうのが上手に進んでいって、だんだん専門化していくと、やっぱり実験は時間スケールと金額スケールの問題があるので、だんだん難しくなるという感触を持っています。

【栗原部会長】 実験でも、非常に基礎的なものはいろいろな展開があるので、このような融合展開は理論のみにはよらないと私も思います。
ほかに何かございますでしょうか。
なければ、本当にきょうは具体的に貴重なお話ありがとうございました。

【初田先生】 ありがとうございました。

【栗原部会長】 それから、最後に、議題4について、資料4を基に、事務局より説明をお願いいたします。

【岡村補佐】 それでは、事務局より御説明させていただきます。資料4を御覧ください。今後の予定について(案)という資料です。
これまでの開催状況が、本日も含めまして計5回、このように書かせていただいていますが、それを踏まえまして、今後の開催予定といたしましては、第6回を、今ちょうど日程調整させていただいているところですけれども、本年の2月から3月くらいのどこかでということで、今調整させていただいております。
議題といたしましては、本日の議論に引き続き、次回はWPIの具体的な取組について、実際にWPI拠点の現場でいろいろ先導的に取り組まれている有識者の方々からのお話を含めて、御議論いただくということで今考えております。その他の議題も含めて予定しておりますので、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。
以上です。

【栗原部会長】 ありがとうございました。
では、本日の議題は以上ですが、事務局から何か連絡事項等ございますでしょうか。

【岡村補佐】 2点ございます。
いつもながらですが、本日の会議の議事録は、準備ができ次第、委員の皆様方に御確認を頂きまして、文部科学省のウェブサイトに掲載させていただきます。
また、本日使用しました資料は、本日中に委員の皆様にメールでもお送り差し上げますし、後日、文科省のウェブサイトにも掲載させていただきます。また、お手元の資料の重たいものですとかありましたら、そのまま残しておいていただければ、こちらから郵送差し上げますので、その場合、事務局まで御一報ください。
以上でございます。

【栗原部会長】 きょうは、委員の皆様、ちょっと少ない人数でしたが、構想、それから、具体的な御意見等をたくさん頂きまして、ありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、第5回の基礎研究振興部会を閉会いたします。どうもありがとうございました。

―― 了 ――
 

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