数学イノベーション委員会(第27回) 議事録

1.日時

平成28年4月8日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 17階 研究振興局会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  2. その他

4.出席者

委員

若山委員、合原委員、今井委員、國府委員、小谷委員、高木委員、常行委員、中川委員、長谷山委員、樋口委員、舟木委員、本間委員、森委員

文部科学省

小松研究振興局長、岸本大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)、渡辺基礎研究振興課長、粟辻融合領域研究推進官、長田基礎研究振興課課長補佐

オブザーバー

明治大学総合数理学部 砂田利一 学部長
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 福本康秀 所長

5.議事録

【若山主査】
 おはようございます。それでは定刻となりましたので、ただいまより第27回数学イノベーション委員会を開会いたします。本日は御多忙の中お集まりいただきまして、本当にありがとうございます。
 きょうは、大島委員、グレーヴァ委員からは御欠席との御連絡を頂いております。長谷山委員はお見えになる予定ですけれども、時間ですので始めたいと思います。本日は、明治大学総合数理学部学部長の砂田先生と、九大マス・フォア・インダストリ研究所所長の福本先生にお見えいただいております。
 それでは本日の議事を始めるに当たり、事務局より配布資料の確認をお願いします。

【粟辻推進官】
 配布資料でございますけれども、座席表、議事次第、委員名簿の後に、資料1が、明治大学の砂田先生、それから資料2が、九州大学の福本先生の資料でございます。それから資料の3-1、3-2、3-3と、3種類、本日審議をしていただく資料がございます。それから参考資料の1が前回の議事録、参考資料の2がこれまでの議論の概要について、参考資料の3が数学イノベーションに関する現状について、参考資料の4が、2月の20日に開催しましたシンポジウムの報告、最後に、番号は付けておりませんけれども、4月28日に予定されている理化学研究所の数理科学関係のシンポジウムの資料が1枚入っております。以上でございます。

【若山主査】
 どうもありがとうございます。8月以降、数学イノベーションに必要な人材育成について審議してまいりましたけれども、本日は、大学の数学関係組織における人材の育成について、砂田先生と、それから福本先生に御発表いただき、その上で、戦略的基礎研究部会に上げる報告の素案について、また議論させていただきたいと思っています。
 それでは議題に入りたいと思います。まずは事務局の方で、これまでの議論の概要について御説明をお願いいたします。

【粟辻推進官】
 参考資料の2という資料を御覧いただきたいと思います。参考資料の2は、これまでの8月以降の議論で出てきた御意見を簡単にまとめたものでございまして、ごく簡単に触れさせていただきます。
 1番目が必要な人材、どういう人材が必要かということです、例えば一番初めのところに書いてありますような、トランスレーション機能を担う人材とか、インターフェース機能を担う人材、コーディネーション人材、といったものが必要ではないかという話ですとか、あるいは、そういったものはシニア人材とかジュニア人材が一定の数必要だ、といった御意見が出ております。それからその下の、特定分野で活躍する数理的人材、これは数学・数理科学以外の分野の出身で、いろいろ数学を使う仕事に従事している人も重要ではないかという御意見が出ています。その下の、必要な人材像というところで、シーズドリブンの人材だけでなく、ニーズドリブンの人材が重要ではないかという御意見などが出ております。
 2番目が、そういった人材を育成するに当たって何が必要かということで、まず大学において、数学は閉じこもりがちだということで、他分野との交流をもっと促進する必要があるという御意見をまとめています。
 一つ目は、副専攻や、あるいはアメリカのような、もっと柔軟性のあるカリキュラム、例えば一、二年かけてメジャー(主専攻)を決めていくようなものが必要じゃないかという御意見。それから、数学以外の組織、例えば産総研などにインターンシップで出掛けていくといった機会が必要ではないかという御意見や、他の分野における教育として、例えば物理の専攻の学生に純粋数学の威力などを教えるような機会も必要ではないかという御意見が出ておりました。
 あと社会人の受入れとして、産業界の学び直しの仕組みが必要だということや、あるいはビッグデータ時代への対応として、次の3ページ目の三つ目のポツにあるように、データ科学そのものの教育は難しいけれども、具体的な問題を出してもらう演習をすることが有効ではないかという御意見もございました。あとその他として、数学とか物理の基礎教育が必要であるといった御意見の紹介もございました。
 3番目が、数学イノベーションの実践の場への参画を通じた人材育成ということで、例えば理研にも数学のPIがいれば若手の育成が進むという話や、あるいはアメリカの例で、企業が問題を提示してそれを大学の学部の学生にグループで解かせるといった試みが効果的ではないかといった御意見もございました。
 4番目が、主に数学専攻の学生、特に博士課程の学生の企業へのキャリアパスの構築ということで、次の4ページ目に行っていただきますと、必要な取組として、数学専攻の出身者が社会で活躍しているといった例をロールモデルとしてもっと知らせる必要があるのではないかとか、あるいは、企業が数学との協働によって成果を上げたといったことを産業界向けに分かりやすく発信すべきではないかといった御意見、あとはキャリアアドバイザーや企業ポスドク、インターンシップといったものが必要ではないかといった御意見がございました。
 最後の5番目が、これは前回の2月の委員会で少し意見交換させていただいた部分ですけれども、高校生に対する取組として、高校生に少し高いレベルの数学を体験させてやることが必要ではないかとか、そのような取組はいろいろ行われているけれども、それが全体として把握できるようにすべきではないかというご意見がございました。また、その他の取組のところにあるように、高校教員に対する取組が必要で、大学で数学が社会で役立っている具体例を教えることで、それを教わった大学生が高校教員になった後に、同じように高校生に教えられるようになる、というサイクルを築くことが必要ではないかという御意見がございました。
 最後のページは、9月以降の開催の実績で、このような方々をお呼びして御意見をお伺いしていたということでございます。
 本日は、このようなご意見なども踏まえ、明治大学と九州大学という、数学と異分野、あるいは産業との連携について先駆的な取組をされている大学のお二人の先生方にお越しいただいて、実践を通じて見えてきた課題のようなものをお示しいただいて、それを踏まえた議論をしたいということでございます。
 以上でございます。

【若山主査】
 どうもありがとうございました。それでは早速ですけれども、明治大学における人材育成の現状や課題などについて、お話を伺いたいと思います。砂田先生、15分ぐらいを目安に、よろしくお願いします。

【砂田学部長】
 よろしくお願いいたします。総合数理学部の学部長の砂田でございます。きょうは別に明治大学総合数理学部の宣伝に参ったわけではないので、もちろん現状と課題ということを中心にお話はしますけれども、何といっても成り立ちを最初に説明する必要があるのではないかと思いまして、誕生までの流れを簡単に触れさせていただきます。
 皆さん御承知のように、2006年に、「忘れられた科学-数学」というレポートが、文科省の科学技術政策研究所の方から提出されました。それを見て、明治大学の生田キャンパスにある理工学部の数学科の教員たちが、何か面白いことができないかということを考えまして、とりあえず、まず先端数理科学インスティテュート(MIMS)を発足させて、これを拠点にして文科省のGPあるいはグローバルCOEのようなプロジェクトに応募しようということで、こういうものを作りました。もう一つの背景には、2006年度から2010年度にかけて、現在MIMSの副所長をされている三村先生が科研費の基盤Sを取っておられるということもございました。
 その努力が実って、このMIMSを拠点として、2005年から2007年にかけて文部科学省の大学院GPが3件採択されました。最初の「魅力ある大学院教育イニシアティブ」という事業では、「社会との関わりを重視したMTS数理科学教育」というプロジェクトを企画しましたがこれは、純粋数学は大事であるけれど、一方で、社会との関わりを学生に、特に大学院の学生に何とか理解をしてもらわなければいけないという考えが基本にあります。後の2つのプロジェクトも、タイトルは変わってきますけれども、同じような理念で大学院GPに応募し、採択されております。
 その続きですけれども、2008年から2012年にはグローバルCOE、これはタイトルとしては「現象数理学の形成と発展」という大型プロジェクトが採択されました。数学分野では、東大、京大、九大、それから明治大学が、数学、物理学、地球科学系では唯一の私立大学として採択されたということで、こういう実績がだんだんとできてきたということです。その実績の下に明治大学の大学執行部に働き掛けまして、これからは数理科学が非常に重要だと、しかも社会との関わりを重視した数理科学は重要だということで、2011年に大学院をまず設置しました。これは私たちの大学では初めてのケースで、下に学部のない、独立研究科的な大学院を最初に作ったということです。その2年後、2013年に総合数理学部が発足しました。
 この大学院と総合数理学部の関係については、また後ほど説明させていただきますけれども、その後、文科省から、MIMSは共同利用・共同研究拠点として認定されています。とにかく数理(数学)という言葉を含む日本では初めての学部ということで、明治大学の執行部あるいは法人としては、ある意味では冒険をしたということだと思います。ただ、こういう実績を作ってきたということで、説得力があったということで認めていただいたということです。
 ただ、どの程度学生が実際志願してくるのかという心配はありました。しかし、「案ずるより産むが易(やす)し」という言葉通り、今年度、現象数理学科は定員の約15倍、学部全体としても、17.2倍という志望者がおりました。ということで、最初、法人側も心配をしていたんですが、期待以上の好成績であったということです。
 現在、4年生が最高学年で、まだ卒業生を出しておりません。学部全体で、1,244名、現象数理は390名の学生がいます。
 どういうことを行っているかということですが、これは学部全体の特色なんですが、とにかく社会との関わりを重視したということで、1年次から学生にはそういうことをたたき込んでいこうということで、少人数セミナーを行っています。モチベーションを持って、すなわち、今申し上げたような社会との関わりを持つ数学あるいは数理科学を学ぶという、そういうことを学べるカリキュラムを用意しようということですね。あとは実践的英語教育にも力を入れていて、3年次まで必修という形になっております。
 現象数理学科のカリキュラムの大枠については、1年のときは基礎教育科目、そのあと、現象数理の基礎、社会数理の基礎、コンピューター数理の基礎と、この三つの基礎立てを行って、3年次から専門教育に入ります。そのほかに総合教育科目が用意されています。
 さらに、少人数教育を目指して、1年次にセミナー、3年次、4年次にもセミナーを行っています。
 これも現象数理学科で行っている教育の内容ですけれども、とにかく入学時にノートPCを購入して、日常的にコンピューターになじむ環境を用意しています。すなわちモデリング・シミュレーションということを非常に重要視していますので、とにかく年がら年中PCを利用して慣れてもらうということですね。とにかく、いろいろなところで数学が使われているということを、学生に理解をしてもらおうということです。
 ネットワークデザイン学科の教育内容について掻い摘んで説明しますと、ここでも線形代数、それから微積分を基礎とし、更にコンピュータープログラミング言語を知り、更に最適化、統計確率、制御理論という数理科学を使って、例えばスマートコミュニティを構成していこうという、そういう考え方です。従来は、一つの技術に秀でたT型、これはひっくり返すとTになりますので、T型人間というのが求めていた技術者像ですけれども、これから企業が求める技術者像は、二つ以上の技術に秀でたπ型、これもひっくり返すとπになりますが、そういう人間を企業は求めているということで、そういう人材を輩出していこうということです。さらに、先ほど申し上げた、英語で自分の技術を語れるπ型技術者、すなわち国際的に活躍できる学生を育てていこうということですね。
 まだ卒業生を出していませんので、就職先、出口は確定していませんが、例えば現象数理学科では、教員、金融・保険、ソフトウェアや情報処理・情報提供サービス業、大学院進学という出口を予想しています。総合数理学部の教員は、その多くが理工学部の学科から移籍してきた方と、企業から来られた方で、いろいろなコネクションを持っているということで、決して絵に描いた餅ではないと思われます。
 大学院については、先端数理科学研究科、先ほど申し上げましたけれども、学部ができる前に研究科、大学院ができたので、その中にただ一つの独立専攻と、現象数理学専攻というのがあって、これがあえて言えば総合数理学部の中の現象数理学科の上にある専攻と考えられますが、とにかく卒業生がまだ出ていませんので、スライドに書いた新入学、それから修了者数というのは、ほぼよその大学、あるいは明治大学のほかの学部から入学しているという数です。ということで、ここでは非常に少ない状況です。2016年も、入学者数が前期課程で5、それから後期課程で1となって、これは非常に少ないと思われるかもしれませんけれども、そういう理由があるということです。学部の完成年度2017年に2専攻を増設し、まさに学部の上の大学院になる予定です。
 数が少ない中での修了生の出口になりますが、いろいろなものがあります。システム開発からエネルギー関係、それから出版、それから教職も必ず毎年のようにいますね。それからシンクタンクに行く人。比較的2015年は、システム関係、毎年大体多いですかね。2013年も5名、それから2015年も6名ということです。結構いろいろな分野に進んでいるということが分かると思います。
 先ほど申し上げた2017年度に2専攻増設ということで、これは飽くまでも予定ですが、現象数理学専攻としては、これまでの15名の入学定員を20名にします。後期課程(博士課程)は、入学定員をこれまでと同じで5名とする予定です。それから先端メディアサイエンス専攻とネットワークデザイン専攻が、学部にあるそれぞれの学科の上に立つ専攻になります。
 問題点ということでいろいろ考えてみたんですけれども、全国レベルの問題点としては、応用系のアカデミックポジションが少ない。これはこれまでのこの委員会での議論にも出てきたんだと思いますけれども、とにかく応用系のアカデミックポジションを何とかしなければ、根本的な解決にはならないだろうと思われます。しかし、純粋、基礎系を減らして解決するということは余り望ましくないのではないか。
 「明治大学方式」とスライドに書きましたけれども、付け加えますと、明治大学は生田キャンパスの理工学部に数学科というものが今でもあります。したがって明治大学には数学関係の学科が2つありまして、生田キャンパスの方は純粋基礎系です。全体としては数学系の教員が増えているという形での新しい学科、新しい学部が設置されたということです。それを明治大学方式と呼んでいます。これがほかの大学で可能かというと、極めて難しいのではないかと思うんですが、少なくとも一つこういうモデルがあるのだということを、我々としては宣伝していきたいと思っていました。
 もう1つの問題は、学部間の関係ですね。生田キャンパスの数学科との連携、これは個人レベルでは現在行われていますが、カリキュラム上なかなか難しい点があります。生田キャンパスと、それから中野キャンパス、相当離れていますので、学生の移動ということで、カリキュラム上それを可能にするのは極めて難しいという状況で、だけれども、将来何とかできれば非常に強力な数理科学系の組織ができると思っているのですが、今のところは難しいということです。それから基礎と応用の乗り入れが、そういうこともあって、しづらいというのが我々としての問題点ですね。
 これは思い付いたことですけれども、高度な応用を目指すには、基本、基礎をしっかりと身に付けなければいけないことは、皆さんも御理解いただけると思いますけれども、残念ながら、基礎を学ぶには長く暗いトンネルの中を歩かなければいけないということがありまして、場合によっては1年から4年まで、ずっと基礎の長いトンネルを歩かなければいけないと。そうすると学生にとってもつらいだろうし、教えている方も面白くもない。それで何とかしたいということで、数学と社会との関わりを教育に取り入れるということにより、明かり取りを作る。それを生田キャンパスの方でもやってもらえれば有り難いし、中野キャンパスの方も基礎はちゃんと教えながら、その中で社会との関わりをしっかりと教えながら教育をしていくということをやった方がいいのではないかと思いますし、今、やりつつあります。
 それから中学校・高校の先生を目指す学生へのカリキュラムの工夫、これは我々の現象数理学科の学生、結構教員志望の人が多いのですが、そういうことは最初から見越していまして、この委員会の議論にも出てきたと思いますが、何かしらの将来先生になってもらう方には、数学と社会との関わりは、しっかりと認識してほしいと考えています。参考資料3によれば、高校の先生はアンケートを採ると、数学は役に立っているということはおっしゃっている人は多い。だけれども、どう役に立っているかは理解されていない先生が多いようです。我々としては、しっかりと、どのように数学が役に立っているのかを教えられる先生を送り出したいと考えています。そのためのカリキュラム、今までもそう作ってきましたけれども、それを更に工夫していこうと考えております。
 ほかにも問題点はありますが、プレゼンテーションとしてはここまでにさせていただきます。どうもありがとうございました。

【若山主査】
 どうも御準備を含め、ありがとうございます。それでは少し質疑応答をしたいと思いますので、どなたからでも自由に御発言をお願いします。
 どうぞ。

【小谷委員】
 どうもありがとうございました。グローバルCOEや様々な実績の後、国立大学から見ると非常に短い期間に実際の組織として形を作られたことを、ずっとうらやましく思っていました。もちろん明治大学、これに関わられた方の御努力の賜物(たまもの)とは思いますけれども、一方で大学としての組織の在り方について、国立大学が学ばせていただくこともあるかと思います。
 実はきのう、ほかの会議で、経団連からの提言をお聞きしました。AI、ロボット、IoT、を基盤とするSociety 5.0の形成にむけて、数理科学、特にデータを扱える人材を早急に欲しいという強い期待があります。企業のニーズに応える人材を是非育成してほしいということなんですね。海外では、ニーズがあるとさっと人が集まって組織ができるが、日本は動きが遅いということを非常に強く言われました。バーチャルでもいいからそういうことができないか、できないのであれば海外に期待するとまで言われました。お聞きしたいのは、繰り返しになりますけれども、皆さんの御努力や実績があったことは存じておりますけれども、なぜ明治大学でここまで、我々から見たら非常に早く組織の形にすることができたのかということに関し、もし何か参考になることがあれば、お聞かせいただければと思います。

【砂田学部長】
 参考になるかどうか分かりませんが、グローバルCOEに申請し採択されたとき、法人側の理事長含め理事、それから教学側の学長、それから副学長含め、極めて連携が良かった時代でした。ですから教学側が何かこういうことをやろうと言うと、すぐにこうして、もちろん経営の立場からいろいろ考えなければいけないことはありますが、とにかくすぐに反応すると、そういう状況がございました。しかし、たまたまそうだったので、もし法人が保守的であったら、何も先へ進まないということになったと思います。

【若山主査】
 ありがとうございます。どうぞ。

【森委員】
 御説明ありがとうございました。少し伺いたいんですけれども、問題点のところで、基礎系を減らさずに応用系を充実させると。これは確かに数学全体を考えると望ましいし、不可欠なことだと思うんですけれども、一方で、応用数学というのは、数学と思われていないほかの工学系とか、ほかの分野に、実際には数学者がいるわけですよね。その人たちとの関係はどうなのかを教えていただけませんか。

【砂田学部長】
 例えば明治大学の中で、経済学部、それから法学部、それから情報コミュニケーション学部というのがあって、そこの中に数学の先生方がいらして、例えば統計とか、正にデータ解析とか、そういうことをやっておられる先生がいます。明治大学に限っての話になりますけれど、将来、例えば統計関係だったら、統計関係をまとめて一つの学科にすることも考えられます。
 とは言っても、他学部との関係がうまくいっていないと、ただ人をとるという形になってしまいますので、他学部との連携がうまくいっていなければ、なかなか進まないでしょうね。
 大学の中では組織上の問題がどうしても関わっていますので、そこに困難さがあります。

【森委員】
 今回それを発足させるに当たって、よそからそれを集めたとか、そういうわけではないということですか。

【砂田学部長】
 ええ、今回はそういうことはなかったですね。これからの問題です。

【若山主査】
 よろしいですか。どうぞ。

【合原委員】
 総合数理学部に3学科あって、現象数理に関してはかなり理解できたんですけれども、ほかに2学科ありますよね。それを合わせて総合数理ということだと思うんですけれども、どういう方針で、この三つの学科を作ってデザインされたかという、その辺をお聞きしたいんですけれども。

【砂田学部長】
 モノやコト、物事という言い方がありますけれども、モノを作る方は比較的理工学部の守備範囲だと。コトを作る方は、むしろ我々の新しい学部を作って、何かやっていこうと。コトというと非常に抽象的ですけれども、数理科学のような学問がやっていることは、モノを作るというよりは、コトを作っているということですね。
 それから情報系でも、非常にハードウェアに特化した情報系がありますけれども、先端メディアサイエンス学科というのは情報系ですが、コトに関係する情報系と言えます。ネットワークデザイン専攻も、工学系では電気・電子という方に近い学科なんですけれども、ビッグデータ、それからネットワークデザインという名称が物語っているように、世の中の様々なネットワークを数理科学の立場から見ていこうとことで、ハードウェアではない、コトに関わるものだと思います。それが大きい特質だと思っております。

【合原委員】
 そのネットワークデザインの学科は、ネットワークサイエンスみたいなものも含んでいるわけですか。

【砂田学部長】
 はい。

【合原委員】
 ありがとうございます。

【若山主査】
 どうぞ。

【長谷山委員】
 基礎系と応用系の教員の融合で新しい学科を実現なさっておられるとのご説明ついて、もう少し詳しくお聞きしたいのですが、純粋な数学の方を減らさずに、応用分野を増員なさったとのことですが、その割合をお教えいただけますでしょうか。

【砂田学部長】
 例えば現象数理学科の中では、純粋と呼んでいい人、それは3名、それから、応用の方が9名ですね。ほかの学科は、例えば先端メディアサイエンス学科では、3名の、これは数学というよりは数理科学と言った方がいいと思いますけれども、その人プラス、12名の応用系の人たちがいるということです。ネットワークデザイン専攻、これは数学系の人は入っていませんが、内容的には数学にも関係あるので、教育上は数学の人が関わっているということは確かにあります。

【長谷山委員】
 もう少しお伺いしてよろしいでしょうか。応用系は文理融合で構成なさっていると思うのですが、文系と理系に大まかに分けた場合の割合はどのくらいでしょうか。

【砂田学部長】
 厳密な意味での文系ということでしたらゼロです。むしろ教員の一人一人が文理融合型だという感じなものですからね。例えば音楽、芸術、そういうものを数理科学と結び付けて研究しようという人たちなので、なかなか分けづらいということです。

【長谷山委員】
 ありがとうございます。最後にもう一つお尋ねいたします。大学院生の出口というものをしっかりと考えながらお進めになっておられて、すばらしい試みと感じております。およそで構いませんが、求人倍率は何倍ほどなのでしょうか。

【砂田学部長】
 数字を忘れてしまったんですが、企業との一種の交流会というのがございまして、そこで総合数理学部に求人という形よりは、名刺交換できた人たちですか、まだ卒業生がいない段階での話ですから、まだ数は少ないんですけれども、そのとき、私の覚えている限り、300社ぐらい名刺交換をしたんだと思います。

【長谷山委員】
 どうもありがとうございます。

【若山主査】
 どうぞ。

【今井委員】
 1点だけ。問題点の3番のところで、基礎数学のところと実際の社会との関わりのお話をされたと思います。どこの学科でも数学科以外は、この問題を抱えていると思っています。数学は、もちろん数学科の先生方にきちんとやっていただきたい一方、たった4年間しかなく、ほかのこともやらなければいけないというところで、各学科がどのように純粋数学に関わる基礎の部分のカリキュラムを作るかというところを工夫されていると思います。明かり取りに対しての何か工夫があれば、教えていただきたいと思います。

【砂田学部長】
 この明かり取りというのは言うは易(やす)く行うは難しで、例えば一人一人の教員の専門によって明かり取りの内容も違うと思うんですけれども、私は現象数理学科の教員ですけれども、先ほど3名の純粋数学をやっている教員がいると申し上げましたけれども、その一人なんですよね。そういう純粋数学をやっている人間が、こういう現象数理学科の中で教育をするときにどういう明かり取りを考えるかといったら、一つは、自分自身、応用に興味を持っているものだから、その興味を持っている内容と、それから基礎的な数学を結び付けて、時間上の制約がありますから、それは工夫しながら、たまにこういう明かりを入れるということ。それからもう一つは、数学の歴史をいろいろな形で取り入れているということです。
 すなわち、どんな学問分野でもそうですけれども、一朝一夕に成り立っているわけではなくて、例えばセキュリティに関連する素数の話だって、紀元前300年、400年、あるいはもっと前に遡るかもしれませんけれども、そういう時代から綿々と続いてきた学問、そういう分野ですよね。それがどのように発展してきたかを言いつつ、しかもセキュリティの話と結び付け、それで初等整数論を教えるとかね。そういう形を個人的にはとっています。ほかの先生方も何らかの形で、我々の学科ではそういうことをやっていると思いますけれども。

【若山主査】
 非常に深い話題を提供していただきまして、御意見もいろいろ出ましたけれども、時間も押しておりますので、次に九大マス・フォア・インダストリ研究所の福本所長からお話を伺いたいと思います。

【福本所長】
 若山先生の後、平成27年10月から所長を務めております福本康秀と申します。よろしくお願いします。産業界と数学の連携に向けた取組について、紹介させていただきます。
 これも若山先生以来使っている、歴史について、少し最近のを付け足したんですが、九州大学の数学教室は80年ぐらい前に誕生しまして、その誕生時から、統計、数理統計のような応用系と純粋系をバランス良く配置して、それを維持してきました。それで、その伝統に基づいて中尾充宏先生が21世紀COEプログラムを運営されて、そのときに博士課程学生の長期インターンシップというものを始めます。それが平成19年で、機能数理学コースというものを設けて、その長期インターンシップに行く学生は、そこに所属するようにして、そこでは企業への3か月以上のプロジェクトを遂行することを必須としました。それによって、いろいろな企業と数理学研究院、あるいはそれの大学院組織である数理学府とのつながりがだんだんできてきまして、共同研究も盛んになってきました。
 その後、若山先生が、グローバルCOEプログラムのリーダーとして、マス・フォア・インダストリ教育研究拠点の様々な取組をされました。一つは、文科省からサポートいただいている特別経費で、スタディグループというものを平成22年より始めまして、これは東大の山本昌宏先生の指南を仰ぎながら、毎年1回、大きなものをやっております。また、産業界と大学の研究者が一堂に会して、フォーラム・オブ・マス・フォア・インダストリというものを、これも平成20年より毎年開催しております。ここには外国人の大学関係者及び産業界の関係者も招きます。
 このCOEプログラムの頃から計画されていましたのは、数理学研究院を、比較的大きな数学教室だったので、産業界との連携というミッションを付与して、世の中に役に立つ形にするということで、若山先生のときに数理学研究院を分割改組して約3分の1の教員で作ったのが、マス・フォア・インダストリ研究所(IMI)です。それが平成23年です。2011年です。研究所立ち上げ時から、全国共同利用のような研究集会の提供を行いましたし、スタディグループも全国展開しております。このような活動が認められて、平成25年4月、2013年に、共同利用・共同研究拠点の認定がかないました。
 最近では特にグローバル展開、これはフォーラムのときにたまたまオーストラリアの研究者を招いたときに、オーストラリアのその研究者の知り合いとか、オーストラリアあるいはニュージーランド関係の、特に産業数学者とのいろいろな連携ができまして、それを基に、一つは、これが平成26年10月にアジア・太平洋産業数学コンソーシアムを立ち上げました。これは大体シンガポール、ベトナムが西の端で、ハワイが東の端で、短い時差の利点を利用した活動します。また、ほぼ1年前に九州大学に認めていただいたオーストラリア分室をメルボルンのラトルブ大学に設置しまして、そこで九州大学の准教授1名と助教1名を雇用して、一緒に活動しております。3週間に1回、テレビ会議システムを使ってセミナーをやっておりますし、毎年1回程度、学生も連れていって研究集会を開催したりしております。
 もう一つ力を入れておりますのは、数学と社会との連携ですね。平成26年9月に、富士通と富士通研究所からソーシャル数理共同研究部門というものをIMIの中に提供いただきまして、そこで准教授を1名雇用し、富士通から研究員を派遣してもらいまして、ビッグデータの利活用なんですけれども、そこに人間の行動あるいは心理もモデル化しようという、そういう取組をやっております。後の方のスライドで、一部活動紹介します。また、COI事業、これは九州大学では、共進化社会システム、特にヒト、モノ、そういうもののモビリティのデータを、いかに社会システムを作るのに生かすかというのをやっております。それで数学としては、都市OSに貢献していく活動を、3年ぐらい前から始めております。
 かいつまんで、主な活動について説明いたします。まずIMIの形ですが、IMIは純粋数学系が3分の1おりまして、あと、応用、あるいはその中間のような、そういう研究者をそろえております。情報関係の人も何人かおります。それで、企業との共同研究に専念する、そういう部門として数学テクノロジー先端研究部門というものを作りました。純粋数学の研究者は基礎理論研究部門というので、我々としては、今求められている産業界からのニーズに即応えると同時に、長いタイムスパンで数学の基礎を深化させて、近い将来、イノベーションを起こすような、そういう基礎研究、数学の基礎を深めることもやっております。
 それで、かなり産業界、特に企業との関係は割とできてきたのですが、産業界との連携を本格化するためには、それを担当する教員が要るだろうということで、全学管理人員、総長裁量ポストを頂戴しまして、そこに連携推進・技術相談窓口教授を雇用しました。それが岡田勘三で、全学管理人員なので任期5年で、ちょうど60歳ぐらいのときに雇用して、この3月末をもちまして退職されました。その岡田先生の活動について、次に紹介します。
 これが基幹3部門で、できてから、九州大学内部の競争的なシステムで若山先生がいいアイデアを立てられまして、数学理論をソフトウェアとして実現するという、そういう部門を作りました。そこで純粋に1名増員しました。富士通から準教授の提供を頂きましたし、昨年は我々の強みの一つである暗号を強くするために、九州大学の競争的人員獲得システムで2名獲得することができました。オーストラリアの2名、こちらは准教授1名、助教1名ですが、これも九州大学の人員獲得競争で勝ち取ったものです。この2名は、一人は現地のオーストラリアの研究者の助教でニュージーランド人です。准教授はオックスフォードから公募で獲得しました。
 岡田勘三の活動について紹介いたします。岡田は長くソニーに勤めておられまして、その後、シンガポールの小さな会社の社長を務められていました。そのとき、この総長裁量ポストの公募に応募してきて、我々が採用しました。当然、技術相談窓口というものを作ってありますので、それをやってくれるかなと思ったら、岡田は非常に人柄も良くて、我々の活動を理解しようとして、いろいろな形で協力的でしたけれども、彼の経験から、この技術相談窓口には全然関心を示されませんでした。要は、企業は本当に解きたい問題は持ち込まないと。それで、彼の長年培った、特にソニー時代に日本の企業関係者と人脈がありますので、それを使って足でいろいろな会社を回って、九州大学のIMIの教員のシーズをネタに、企業から共同研究を取り付けてきました。
 本人に聴取したところ、マス・フォア・インダストリ研究所という名前で意外と問題を持ち込まれたりもするんですけれども、岡田の活動は、彼の人脈を頼ってアポを取って会社を訪問すると。実際には、技術開発現場の人に、知り合い、あるいは知り合いの知り合いを頼って会うということですね。それで岡田が口にしたことは、来た頃は60歳だったのですけれども、彼の人脈のキーパーソンがだんだん企業で力を失ってきて、50代後半とかその辺の人が、企業で力があって決裁ができる人なのですが、そういう人が減ってきた。技術相談窓口あるいは産学連携担当教員を雇用するとなると、会社で力のある人と同世代の人が望ましいということも言われていました。
 それで実際の苦労としては、恐らくこの会議でも何度か、あるいはいつも話題になっていると思いますが、数学と産業界との研究者の、言葉の違いですね。それは大学の担当者が翻訳しなきゃいけないと。あと、企業を説得するには、何かサクセスストーリーが要るというわけです。IMIでは暗号が強い、また、最適化に強い教授もいますので、そういう事例を出すと企業も興味を持つということです。それからIMIでは、ほとんどの教員が産業数学の手引のようなものを大体10ページから20ページぐらいの書いたものがありましたので、そういうのを見せると説明しやすいということも言っていました。
 これは、若山先生が多分、以前、要は純粋数学も含めて数学がどのように産業界に役に立つかということを示されて、恐らく見られたこともあると思いますので割愛します。これは配布しておりません。この投影スライドだけなんですが、平成27年度1年に限っても、IMIの教員が、連携協定、契約を結んでやっている共同研究が30件あります。IMIの教員は、助教も入れて30弱なんですね。准教授以上だと25かそれ以下なんですが、だから一人1件以上、共同研究をやっております。これがタイトルで、富士通とは伝統的に深い関係がありまして、これは共同研究部門の研究テーマです。これは統計の教員がやっておりますし、この辺りは数値解析ですね。こういうのがあります。新日鐵さんとJFEスチールさん、両方から共同研究の提供も受けておりますし、マツダとも複数の共同研究ができています。それは若山先生が何度か紹介された学生の大活躍によって、数学が信用を得たということがあります。その他、非公開のものを含めて多数やっております。
 これも恐らく若山先生が何度か紹介されておると思いますが、この高木剛教授は暗号分野では世界的なリーダーで、現在は量子計算機ができても解けない暗号を研究するという、そういうプロジェクトをやっております。次世代暗号ですね。ポスト量子暗号と呼んでおります。それから若山先生が割と熱心に取り組まれたのが、コンピューターグラフィックスですね。九大数学出身のオー・エル・エム・デジタルの取締役の安生さんにいろいろ御支援いただいて、数学をアニメーションに、特にスムーズな動きもありますし、質感、人間の表情をどう表現するかという研究を行ってきました。
 それでIMIができた当時から、我々にとって必要だと思っていたのは最適化の分野で、最適化の分野を、ゲーム理論とかも含めると、5人ぐらい増強しました。割と最近、外でも話題になっているのが、理研や統数研と共同でやっておりますグラフ計算のベンチマーク、Graph500とかGreenGraph500で、年に2回ぐらいそういう計測が行われるのですが、藤澤がベンチマークの1位を、ここ2年で、4回のうち3回ぐらい取っております。あと、省電力という条件を付けるGreenGraphにおいては、第1回からずっと彼が1位を取っております。
 それで、このグラフ計算というのは実際に社会に直接応用することができまして、例えば彼が共同研究を請け負っているのは、あるコンサルト会社から、大型複合施設を造るのに売場の配置をどうすればいいかというのを、人の動きの計測とかをやって、それをグラフ化して、あとは何か最適化計算に持ち込むというのをやっております。富士通からは、例えば津波が来たときに、リアルタイムで復旧作業のスケジューリング、あるいは災害避難をどう誘導するかという計算も実現しております。
 平成19年より始めてきました長期インターンシップですが、これが人数と行き先ですね。最初の頃は10人を超えるときもありましたけれども、だんだん機能数理学コースを選ぶ学生が減ってきまして、去年が2です。これはいけないと思いまして、去年の秋には機能数理学コースの説明会も行いまして、今年の4月は6人、D1に入学しました。
 それからグローバル展開と絡めて、海外長期インターンシップというのを実現することができました。これは若山先生のグローバルCOEの頃から念願だったんですが、ようやく昨年、オランダのフィリップスに、うちの当時D2の学生、井上君が行きました。3か月弱です。3か月弱だとビザが要らないというのがありまして、3か月を超えるとややこしい手続が要るみたいですが、そこで実はマスクを作るというそういうプロジェクトがありまして、コンピューター上の平均顔のデータというのがあって、それをアファイン変換して、これはメトリックスですね、アファイン変換してフィットさせるような、そのようなプロジェクトを2か月から3か月近くやりまして、井上君は、最後はマニュアルのようなものを20ページ書いて、フィリップス社から評価されております。現在、受入先を、オーストラリア、フランスも含めて開拓中です。
 これが修了者で、これは2年前ですね。大体20人弱、D1で入って、修了者は十五、六名なんですが、企業に就職する学生が毎年いるというのが特徴で、あと、ポスドクとか助教にありつける人も何人かいます。最初のデータでも、D3で学位を取った後、企業に行く者もいますし、ポスドクとか助手、助教になった者もおります。
 これは若山先生が何度か紹介されたスタディグループの、昨年度の最新のデータです。論文になった例もあります。フォーラムも、登録者が150人を超えるようになりました。この中にも多くの方に、講演も含めて御協力いただきました。グローバル展開については割愛したいと思います。
 以上、IMIの産業界との連携の取組について、説明申し上げました。これでひとまず区切りを付けたいと思います。

【若山主査】
 どうもありがとうございました。それでは御質問をどうぞ。

【森委員】
 3ページ目の岡田先生の話についてです。この数学イノベーション委員会の方針の一つに、企業からの問題を持ち込んでもらって、その相談に乗るというのが一つの柱だったと思いますが、それは役に立たないということでしょうか。そうするとどうするのが良いのかもう少し伺っておきたいのですが。

【福本所長】
 これは一般的かどうかは分からなくて、岡田先生の一種の信念ですね。岡田はずっとソニーにいて、同業他社も含めて……。

【森委員】
 私は別にそれに相反してということを言っているわけじゃなくて、自分の経験でもそういう面があるのは分かっていますから、強硬に反対しているわけではありません。

【福本所長】
 それで質問、何をお答えすればいいですか。

【森委員】
 どのように、つまりここの方針の一つが相談窓口を作るという話なんですが、それは役に立たないという種類のことですね。

【福本所長】
 多分、九大IMIのような単独の情報だと、企業にはなかなか使えるような形にはいかないかもしれないですけれども、恐らく割と全国的な網羅的な情報とか成功事例とか、あるいはピークになるような研究者の情報がどこかに集約していたら、多分、企業にとっても参考になると思いますね。これは私個人の考えですが。

【小谷委員】
 この間の委員会で企業の方から、相談窓口よりもコンサルタントのような方が企業としては有り難いと発言ありました。契約を結び対価を支払えば、わがままも言えるし、信頼性も高いという趣旨の御発言でした。私のところにも企業の方が何人かいらっしゃいますけれども、数学のどの道具を使っているかすら明らかにしたくないし、共同研究をしていることも知られたくないという状況です。ですので、相談窓口の機能が不要なのではなく、しっかりとした秘密保持によるコンサルテーション機能を付けるなど、上手なやり方が必要ということでしょう。
 それで先ほどの話に戻るんですが、海外の大学と大型共同研究をするけれど日本の大学とはしない理由は、必要な問合せに海外ではすぐに答えが返ってくるからだそうです。日本の大学相手だと、研究者や装置などの情報を企業の方で一生懸命探らないといけないので大変であるとのこと。つまり、窓口機能のニーズがないのではない。企業の守りたいものを守る形、若しくは企業のリクエストに応える形になっていないだけではないかと思います。

【合原委員】
 あと、企業の規模にもよるんですよ。ソニーにいらっしゃったのでそのように考えられると思うんですけれども、大企業は自分の方に研究員がいるので、むしろ方法論を知って、その知識を吸収したいと。他方で小規模な企業は、本当に困り果てて相談に来られるんですよ。内部では全然やれる人がいないので。だから、そういうやむにやまれぬ状態で来られている人たちをどう助けられるかという、僕はこの問題は、そこが一番ポイントかなと思っているんです。

【福本所長】
 そうですね。それで岡田は、企業側と大学側と両方、特に九大IMIの教員のシーズを理解しようとして、インタープリターになる努力をされたので、九大と産業界との行き来については、岡田のおかげでかなりスムーズになりました。それで、今、合原先生が言われたように、地元の中小企業の方が、問題を持ち込まれることがあるんです。NHKなんかで数学が役に立つとかいう特集があると、地元の企業の方が、何かやってくれるんじゃないかと思って、問題を持ち込んでくれるということがあります。そのときも、岡田が何とか頑張って翻訳しようと努めてくれましたね。だから確かにそういう場合には、それが共同研究につながるかどうかは別として、技術相談窓口は機能して、そこに企業の側と数学者の間の翻訳をやる人が要ると思います。

【若山主査】
 議長であれなんですけれども、活動を始めたばかりのときに岡田さんが来たということがあるので、まだ共同研究をやったことがない教員が大勢だった。ほとんどがそう。その中で、彼はここの先生は、やる気はある、ぼんやりとだがあると気付かれた。ではそのシーズをどうやって売り込むかというのは、待っていたって来ないと。それが彼の一番の。だから、自分はこの職に就いたんだから、ここにいる仲間の先生方を何とかくっつけて、新しい仕事を見付けなきゃいけないと。自分自身に課されたミッションでもあると。そういう言葉だったと思います。現在は、大学の中でも、IMIというのが人もいっぱい持っていくし、有名になったので、いろいろなところから声が掛かって、その関係で、企業からというのが随分増えてきていると。そんな感じですね。岡田さん自身は、前に言ったかもしれませんけれども、アメリカでずっと教育を受けた人で、学部は物理で、修士、ドクターは応用数学で、数値解析で学位を取った方です。
 ほかによろしいでしょうか。

【本間委員】
 企業へのインターンシップの話が、後半、出てきたと思いますが、インターンシップも、共同研究と同じぐらい、難しさがあって、多分、企業側からのニーズと、院生や学生とのアサイン先について、うまくマッチさせないといけないと思います。インターンシップの調整については、特別にコーディネーターがいるのか、それともすでにある共同研究の延長線でインターンシップをされるのかという話を聞かせてください。

【福本所長】
 若山先生が答えると一番いいんですが、私の仕事としてお答えします。中尾先生が始められたときに、そこを一番重要視されまして、コーディネーターが非常に大事です。コーディネーターを教授として雇用しました。特にコーディネーターが情熱を持って学生を企業に送り、そして企業からインターンシップのネタを引っ張り込んでくるというのが大事です。
 ただ、企業からインターンシップ先を獲得するのには、いろいろな教員個人のつてとか、あるいは成功例を売り込んだりとか、いろいろやるのですが、基本的に学生を産業界に3か月以上送るには、コーディネーターがとても大事で、コーディネーターが情熱を持って学生側や産業界側と接することが大事なのですが、機能数理学コースの入学者が減っていったのと実は並行して、コーディネーターとして雇った教員の情熱がだんだん薄れていきまして、それを私は何とかしなきゃいけないと思って、去年ぐらいから、元祖長期インターンシップの中尾先生なんかにも御出馬いただいて、うちのドクター入学予定者なんかに、いかに機能数理学を長期インターンシップで人生が発展するかという、そういう長期インターンシップに行って良かったという卒業者も呼んで、少しレクチャーしまして、そのかいもあり、また、九州大学でグローバル人材を育てるというプログラムがありまして、それのサポートを大学院である数理学府が受けておりますので、その二つが相まって、反転のきざしが見えています。入学者が、去年ぐらいまで二人ぐらいで推移していて、どうしようかなと思っていたんですが、今年は6人に増えました。これを更に伸ばしていきたいと考えております。

【本間委員】
 ありがとうございます。

【長谷山委員】
 大変に大きな成果をお出しになっていらっしゃると理解しております。二点質問させていただきます。まず一つ目ですが、民間企業との共同研究を積極的に進めていることと、長期インターンシップの実施で確実に就職を実現なさっていることの説明がありました。インターンシップ先と、指導する教員の共同研究先、さらにはその学生の就職先に、関連性、若しくは同じ企業に就職しているなどの現状がありますでしょうか。あるとして、その数がどの程度なのか教えていただけますでしょうか。

【福本所長】
 全ての場合が、今までありました。教員の共同研究者先と懇意になって、学生を長期インターンシップで送り込んで就職までいったという例もありますし、教員と全く無関係なのもあります。学生といっても、別に応用数学に限らないので、純粋数学系の学生もいますので、そういう場合、教員はえてして企業の人を知らないので、それはコーディネーター、長期インターンシップ担当の教員が、熱心に学生の希望とインターンシップ、いろいろな企業からインターンシップのテーマが来ますから、それのマッチングをやると。その準備教育も含めてやります。教員の研究テーマと、その指導している学生のインターンシップ先と、全く無関係な例もあります。
 インターンシップ先に就職するというのは、これは容易なことじゃなくて、企業は厳しいので、かなり活躍しないと、そのままインターンシップ先に就職できません。今まで50人以上、インターンシップに行って、恐らくインターンシップ先に就職できた学生は5, 6人おりますし、インターンシップに行くことによって、数学を生かせる喜びを味わって、それで企業、インターンシップ先じゃないんだけれども、産業界に就職を希望する者も出てきているという効果もあります。
 今の御質問には、いろいろな場合が全てあって、それぞれ、特に学生が頑張ると、その学生にとってはいろいろなキャリアパスが開けるというのを、我々、経験しております。

【長谷山委員】
 二つ目の質問ですが、この岡田先生という方が、キーパーソンと感じておりますが、実現なさったシステムも優れたものなのだと思っています。この岡田先生という方がいらっしゃって、貴学は次のフェーズに進むことができたと思っておりますが、もし、今から始めようと考えたときに、属人的ではなく、例えばシステマチックにこういうことをまずやったら良いのではないかという御知見などがあれば、お伺いできますでしょうか。

【福本所長】
 システマチックにですか。

【長谷山委員】
 システマチックと言う表現は適していないかもしれません。私たちが岡田先生のような方にリーチできるとは限りませんので、何か良い方法があったらお伺いしたいのですが。大変難しい質問と思いますが、よろしくお願いします。

【福本所長】
 岡田の個人の才覚ですね。あと、岡田は、期待はしていなかったんですが、期待以上に人柄が立派な方だったので、それで産業界との連携が、かなり広がりました。それで、岡田のようなコーディネーターが必要なので、岡田はこの3月、ちょうど数週間前に退職したばかりなんですが、その後任を探しております。その人物に関しては、岡田のやってきたこと、岡田の能力とか人柄が一つの基準となって、このシステムを続けていこうと思います。岡田に関しては、この5年間だけ総長裁量ポストをもらって、一時の増員だったんですけれども、今度は自分の身を切るというか、増員ポストじゃなくて、身を切ってでもコーディネーターを探そうと思っています。まだ質問の意図に答え切れてはいないと思いますが。

【若山主査】
 大事な点は、人柄がいいと表現するよりは、完全に彼とIMIの教員との、信頼関係ができたということです。それがすごく大きいわけですね。その上で彼がこういうふうに仕事をしてくれたので、かなりうまくいった。だから結局、システマチックというか、信頼関係をどう作れるかというところだったと思います。

【砂田学部長】
 よろしいですか。そういう立場にいないのかもしれませんけれども、どんな組織でも最初は人から始まるというのは皆さん御存じだと思いますけれども、その人が定年を迎えたり何かして引退した後をどうするかというのは、これは例えば我々のMIMS、さっきの先端数理科学インスティテュートもそうで、最初は三村先生というすばらしい人がいて、じゃあ三村先生が引退された後どうするか、そこはそれに匹敵する人を探すのか、あるいは、今、先生がおっしゃったように、システマチックに何かそれが続けられるようにするのか、どちらがいいのかというのは、今でも難しい問題として我々もあって、我々としては、だけれども、いい人を探すということで解決していかなければ、システマチックな形だけでは続かないんじゃないかなと思っております。関連するということで、申しました。

【若山主査】
 どうもありがとうございます。何か。どうぞ。

【常行委員】
 グローバル展開も非常に力を入れてやられているので、そこについて伺いたいんですけれども、海外の企業と一緒に研究をするとか、あるいは委託を受けるとか、そういうことについては進んでおられるのか、それとも、あるいはもしやるとしたら、そこに何か今の日本の大学のシステム上、仕組み上の問題とか、そういうものはあるのかないのかということをお伺いしたいです。

【福本所長】
 若山先生以来の個人的なつながりがベースですね。我々はオランダのフィリップスに博士課程の学生を送り込んだんですけれども、そこにはVerbitskyという純粋数学者がおりまして、そこと若山先生の関係とかがあります。あと、アメリカからはIBMワトソン研究所の学習理論の研究者を招いて、そことインターンシップを計画したこともありますし、現在ではオーストラリアにいろいろな知り合いがおりますので、そこを通じて企業との連携を図ろうと思っていますが、基本的にはオーストラリアに進出するときには、オーストラリアの我々の信頼できる産業数学者、それを介して企業とつながっていこうと、連携していこうと思っています。
 そういう意味で、海外に関しては我々も手探り状態で、教員個々の偶然の糸を頼りに、特に今やっているのは、博士課程学生のインターンシップ先の開拓をやっております。幾つか、できてはおります。

【常行委員】
 ありがとうございます。

【樋口委員】
 数学あるいは数理科学の組織の一番のリソースは人だと思うんですね。そのような組織の組織力を最大限に生かすという観点から質問させていただきたいと思います。
 このような産学連携をいろいろコーディネーションしたときに、非常に熱心な先生もいますけれども、自分の研究というのを優先したがる先生等も一定の割合いると思うんですけれども、IMIでは、このような連携あるいは共同研究を進めるためのインセンティブはどのようなものを作られているのか、それをお聞かせいただければと思います。

【福本所長】
 まず、作るときに、若山先生が当時の数学研究院の個々の教員と面談したりしながら、産業界との連携に関心がある、そういう人を集めました。だから、数理統計の西井龍映先生のように、産業界との共同研究と自分の研究が完全に一致している方もおられます。あと、藤澤は社会実装を生きがいにしておりますので、共同研究自体がインセンティブです。それ以外、普通に数学の研究と共同研究をやっている人にとっては興味があるということは、何かどこかでおいしい問題があるかという、そういう期待を持っています。何か研究をやると必ずネタが見付かるというのを、皆さん経験されておられることと思います。比較的そのような志向を持った人を、IMIを作るときに選んだということがあります。あと、共同研究をやると、成功するとポスドクがもらえたりとか、そういう意味のインセンティブもあります。

【若山主査】
 後者についてのインセンティブはそのとおりで、前者は、その前にグローバルCOEがありましたので、そこで積極的な方は、別に面談とかそういうのをしたわけではなくて、自然と集まりました。そういう形で、3分の1ぐらいの教員が。だから関心がベースにあったということと、それから人材育成に対して、危機感を持っていたということですね。アカデミックポジションの不足というのもありましたし、博士をとった学生がどこかできちんと活躍できるというのが、非常に大きなインセンティブになったんだと思います。
 あともう一つは、九大の場合は、このIMIにいても、数理学研究院というところにいても、大学院教育は数理学府というところで全く共通でやっているというところがあります。だから協力講座で入っているとかそういうことではなくて、システム上、九大の場合はそうなっているんですね。ですからそういう意味で、比較的無理がなかったんだと思います。これを組織を全部、教員・学生組織からこう変更するということになれば、それは大変なことだったと思いますけれども、そこは違うんだと思います。

【小谷委員】
 数学のアイデアは知財になかなかなりにくいです。今のインセンティブとも関わることですが、知財のことはどのようにされているでしょうか。

【福本所長】
 うちは研究成果で特許もたまに出ますね。富士通かな。あと、先ほどの西井教授なんかも特許になります。知財に関しては、共同研究契約を結ぶときに入ってきて、あとは論文発表とかそういうものを……。

【小谷委員】
 一般的や手続は結構なのですが、製品開発とかと異なり、数学的なアイデアの部分を特許にすることは難しいところもあるので、特別な工夫をされているかお聞きしました。
 ビッグデータ時代とかいろいろ言われていておりますが、本当のブレークスルーは数学や数理科学の新しいアイデアから生まれると思っています。その部分を特許にできなければ、数学のアイデアはあっという間に世界中に拡散するので、日本の優位性を保つとか、若しくは関わった研究者の権利を守るのが、非常に難しいんじゃないでしょうか。本当は数学的なアイデアがコアであるにもかかわらず、それをドメインの方に展開して、そのドメインで特許を取るようにしていると、もちろん貢献にもなるし、インセンティブになるかもしれないけれども、何か悔しい気がします。今の時代の在り方に適する知財に関連して何か新しい展開はあるんでしょうか。

【若山主査】
 多分、それについては、私、学術研究産学官連携本部長としまして、実際には知財で九大の判子を押すのは私なんですけれども、その問題意識は非常にあります。暗号なんかだと、ある程度そのままなんですけれども、あとはおっしゃったように、かぶせてというのが多くて、今のところはまだまだどんどん出てきていないという状況なので、深刻な問題になっていないんですけれども、今おっしゃったような問題は、たまたま私が数学なので、九州大学ではかなり気にしておりまして、知財のグループにも、そういう話はずっとしているというところですね。

【小谷委員】
 文科省でも、ビッグデータ関連でこれまでとは異なるスキームの知財の在り方を検討される委員会を立ち上げるようなお話を聞いたような気がするのですけれども。

【岸本大臣官房審議官】
 産学連携における大学と企業との特許の在り方とかは検討していますけれども、そういった数学のアイデアの取扱いとか、そこまでのところではまだないんですけれども。

【小谷委員】
 数学とは限らず、今まで特許になりにくかったものに対しての在り方ですね。

【岸本大臣官房審議官】
 今、議論しているのは、むしろ大学がどういう形で特許を持つのが本当にいいのかという議論で。

【小谷委員】
 例えばマテリアルゲノムプロジェクトとか、これまでは実験で検証しなければ特許にならなかったが、現在はデータ解析だけで特許になるとすれば、どのように特許基準を考えるか早急に検討が必要だと思います。

【岸本大臣官房審議官】
 それは課題なんですけれども、まだ委員会というところまでいってはいないと。

【小谷委員】
 そうですか。分かりました。

【中川委員】
 産学連携の場合の特許ですよね。数学的なアイデアは間違いなく特許になりますが、出したくないというケースが多々あります。ソフトウェア特許は、無断でまねされても権利侵害の発見が容易でないことが理由です。

【小谷委員】
 そこが今、検討されているんですよね。

【中川委員】
 日本の場合はその辺のモラルはある程度尊重されますが、国によってはそうでない場合があります。特許を出すことが企業のノウハウの流出につながることを懸念し、今は数学のアイデアは秘匿したいという状況です。

【小谷委員】
 あっという間にまねされてしまうので、オープン・クローズ戦略をどうするか大きな議論になっています。もちろん企業側としてのお気持ちもよく分かりますけれども、関わった数学者としては、研究者なので、自分の優位性を形にしたいわけです。その権利をどうやって守るかは新しい問題です。

【若山主査】
 このイノベーション委員会ができる前の議論の中で、数学のアイデアで特許はどうするかという議論を少ししたことがあるんですけれども、そのときは、まだそこまでいっていないので、議論を詰めなかったという経緯があります。

【合原委員】
 企業の問題はあると思うんですけれども、数学で特許という部分に関して、経験があります。FIRSTをやったときに、最初のうちは特許に関しては、何も言われなかったんです。だから数学は特許になりにくいのを理解されているのかなと思ったら、中間評価のときに突然特許が少ないと怒られて、それでびっくりして考えたんですけれども、数学の特許を割と専門にするような弁理士とか弁理士事務所というのは、あるんですよ。そこの方に何回かセミナーを開いていただいて、それから数か月に1回、ポスドクとその人たちと面談して、どのように特許に持っていくかという、それを定期的にやったら結構特許が出せて、結局30件ぐらい出せたんですよ。だからそういうやり方はあって、そういう弁理士さんも日本にも結構いらっしゃるので、そこはやりようが結構あるかなという感触を持っています。

【若山主査】
 あと、必ずも製造業じゃないところで、最適化なんかの方は明らかに、見ればこれは数学のアイデアが表に出た特許だというのは既に出ていますね。しかも、もちろん統計などではあると思いますが、大きな課題だと思います。
 きょうは御発表の後、いろいろと御質問が大きく展開されまして、予定していた議論は多分できないんですけれども、実は予定していた議論は、これまでの会議でもずっとそうですが、このような内容の御議論をと思っていますので、自分の議事の下手くそなことはどこかに置いてというわけでもありませんけれども、少しだけ入り口ぐらい、残った時間で意見交換をしたいと思います。資料の3-1、基本的には戦略的基礎研究部会への報告の素案を作っていくということなんですけれども、そのための資料3-1を事務局の方で準備していただいていますので、粟辻さんよろしくお願いします。

【粟辻推進官】
 済みません、余り時間もないので、ごく簡単に紹介させていただきます。3-1は、前回お配りしたものを更に肉付けしたものですが、構成は、「はじめに」の次の1ポツが現状についてということで、数学イノベーションの必要性や、これまでの数学イノベーション委員会における検討、数学イノベーションに関する取組という形のこれまでの取組を整理しているということでございます。
 特に3ページ目の上から2行目のところに、理化学研究所において理論科学連携研究推進グループ(iTHES)というのがもともとあったわけですが、これを発展拡大させて、数理科学連携のプログラムを今年度から新たに始めようという動きが出ております。こういったところでもどう連携していくのかというのは、今後の体制作りの上で重要なポイントかなと思っています。
 2ポツが問題点でして、これも今までの議論も踏まえて、(1)、(2)と二つに分けて整理をしています。(1)が外から見えづらい、要するにどんな問題にどんな数学が役に立つのかが分からないとか、誰に相談すればいいのか分からない、このような前から言われている問題点が引き続きあるのではないかということです。(2)が、このようなものを補う人材の層が厚くないということで、ポツが三つありますけれども、大学などにおける教育の話、キャリアパスの話、外から見た場合の数学とか数学者に対するイメージの問題みたいなのがあるだろうということでございます。
 ページをめくっていただきまして、4ページの3ポツの部分が、今後どんな体制が必要なのかというところでして、下の(1)が、個別の数学イノベーションの拠点に必要なもので、マル1が、今、九大の福本先生から説明があったような、トランスレーション機能、研究を推進する機能、その成果のソフト化の支援機能があります。マル2が外への情報発信で、マル3が人材の育成の関係ということです。
 最後のページ、(2)が、それ以外に、こういった個別の拠点を束ね、うまくばらばらにならないように集約するような活動が必要だろうということで、これは中核拠点と称していますけれども、そこに必要な機能。あるいは、個別の拠点がばらばらにやるだけでは不十分で、協力してやらなければならない活動を整理しています。
 マル1が、相談窓口などに近い話で、情報の集約・発信機能、外からの相談に対して数学者につないでやる機能で、あるいは新しい研究テーマなどを抽出する機能です。マル2が人材の育成の関係で、特に実際の共同研究などへの参画、海外の第一線の研究者に滞在してもらって日本の若手研究者と直接接触させること、企業のキャリアパス構築、といった活動は、個別の拠点でやるだけではなかなか十分ではないだろうということで、ここに例として挙げさせていただいております。
 この辺も本日は議論していただきたいと思いまして、3-2や3-3の資料を用意しています。3-2は、今申し上げたことの繰り返しですけれども、1ポツは全国的な体制で、(1)が、中間拠点にどんな機能が必要かについて、(2)が、コーディネーター的な人材が不可欠で、これをどこにどう配置するのがいいのか、どの程度の人員が必要なのかということや、研究者が片手間にやるのか、あるいはURA的な人がいいのかとか、あるいはその後のキャリアパスをどう考えるのかという問題があると思います。
 (3)は、こういった体制を作ったときに、それによってもたらされる効果、あるいは目指すべき目標をどう設定するのか。今考えられるのは、共同研究に発展させていくということだと思うんですが、そうすると共同研究に発展した件数のようなものや、特許の件数みたいなものが、一つの指標になるかと思うんですけれども、そこも含めて御議論いただきたいと。
 2ポツは人材育成の関係で、これは最初、明治大学の砂田先生からもお話があったように、学部段階からやるのがいいのか、大学院になってからなのかとか、あるいは正規のカリキュラムでやるのか、その外でやるのかとか、あるいは拠点間での協力みたいなのが必要なのかとか、あるいは昨今いろいろ話題になっている情報科学とか人工知能、こういったものと連携をどう図っていくのかということが上がられます。それから、もっとベースになる数学力を学問分野に限らず強化していくにはどうすればいいのか、こういった観点の議論が必要かと思っていまして、3-3は、今申し上げた論点をイメージ図にしてみたものでございます。これらについて、きょうは御議論を頂ければなと思い資料を用意しました。

【若山主査】
 御議論いただく時間を全然残しておりません。ただ、きょう、まだ御発言いただいていない先生方から少し御発言いただきたいなとか思うんですけれども。
 はい。

【國府委員】
 まず確認ですが、報告書を最終的には作るんですよね。

【粟辻推進官】
 はい。

【國府委員】
 報告書がその後どのように次のことにつながっていくのかの見通しを、よく理解していないのですが、政策提言のようなことを含めて書くべきなのでしょうか。

【粟辻推進官】
 参考資料の3で、今の数学イノベーションに関する現状についてというのをまとめているんですが、1枚めくっていただきまして、その次の裏のページのところに、今の全国的な数学連携拠点の体制や、現行の数学協働プログラムの体制があるわけですけれども、この数学協働プログラムが実は28年度で終わる予定ですので、この後継も含めた在り方を、この委員会の報告書で取りまとめて、それをベースに29年度の概算要求を考えたいと考えております。

【國府委員】
 ということは、先ほどの報告書の素案の3のイノベーション推進に必要な方策というところで、個別の推進拠点や中核拠点ということを素案として書かれていますが、例えばそういうものについても具体的に今、個別の数学拠点というものがあるのかどうか、あるいは不十分ながらあったときに、それをどう強化していくか、更に中核拠点になるものをどのように作っていくかなど、そういうことをある程度構想するべきだと理解したのですが、そういうことでよろしいでしょうか。

【粟辻推進官】
 はい。具体的にどこがどうだというところまでこの報告書で踏み込むかどうかというのは、いろいろ議論があると思うんですけれども、少なくとも予算要求のコンセプトは明らかにしたいということです。この素案でまとめたものが、そもそも方向性として適切なのかどうか、あるいはもっとこういう部分の肉付けが必要だとか、そういったものをここで議論していただいて、その上で、あるべき姿のようなものをもう少し具体化していきたいというイメージです。

【國府委員】
 少なくとも問題点で書かれたことを、この3番の方策で解決するという形にならないといけないわけですよね。

【粟辻推進官】
 そうですね。

【國府委員】
 そういう意味では、例えば情報発信であるとか協働する機能とかというのは、具体的にそれがどのように問題点の改善につながるか、多分やったからじゃあできるかというと、そういうわけでもないような気がするので、もうちょっとそのあたりの連関を考えなければいけないのかと思ったのですが、もう余り時間がそれほどないのかもしれないですが、そのようにこれから議論する必要があると思いました。そういう理解でよろしいでしょうか。

【渡辺課長】
 もう少し補足しますと、参考資料3の3ページ目には、国内の数学に関する現在のポテンシャルが書いてありますけれども、今、粟辻が申し上げましたように、私もこのポストに来て3か月ぐらいになるんですけれども、結構数学の先生方、皆さん、モデストじゃないかという気がするんです。また、今後のあらゆるサイエンスの取組のベースの部分に数学的な視点が絶対必要だと思うんですね。ですので、いかにして数学を数学者以外のコミュニティに広げていくかというこれまでの議論をまとめていますし、拠点のようなものがあると、世の中に対して数学がよりビジブルになると思うんですね。そのためには参考資料3にある現在の体制だけではまだ十分ではなくて、何か少しスパイスをかけてあげる必要があると思うんです。
 例えば、公募型の研究資金に数学的な要素、あるいはAIや情報の要素なんかも入れようとしたら、研究提案には、数学的な要素が入ったイノベーティブな考えを書いてもらうとか、いろいろな学会に働き掛けて、学会のシンポジウムなどの中に数学のセッションを設けてもらって、そこで数学協働の事例を紹介していくとか、積極的にやっていいんじゃないかと思うんです。
 そういった具体的な取組のアイデアも含めて、今の予算が厳しい中でうまく数学イノベーションを実現していくためのお知恵を、この報告書に込めていただきたいということであります。

【若山主査】
 ありがとうございます。

【國府委員】
 もう1つ短い質問を。先ほど小谷さんがおっしゃっていた、トヨタが、アメリカならすぐに返事が返ってくるけれども日本だと返ってこないと言われたときの「アメリカ」というのは何を指すのでしょうか。具体的に例えばトヨタは、アメリカのどこに問い掛けられたのでしょうか。

【小谷委員】
 具体的な名前も知っていますけれども、某大学ですね。

【國府委員】
 なるほど、大学ということなのですね。

【小谷委員】
 大学にセンターを作るという際に、海外だと、研究者が内部・外部の大学からすぐ研究室ごと移ってきてセンターが立ち上がる。大学と共同研究したいと言うと、大学に窓口があって必要な情報を集めてくれる。だからやりやすいんだと、これはトヨタだけじゃなくて、産業界の方とお話しすると、いつもそう言われます。経団連からは、日本の大学が海外並みになれば真剣にお付き合いしますよとまで言われていて、どこが足りないのかとお聞きしたら、研究レベルというよりは、むしろそのような情報提供や流動性の問題と私は感じました。
 ですので、そういう機能を持つセンターが作れるのであれば、今のニーズに応えることになります。データ駆動研究に関しては、今提供すれば、大変貢献になるのではないでしょうか。

【若山主査】
 時間がございませんけれども、きのうかおとといかな、粟辻さんの方からメールがございましたように、この数学イノベーション委員会の上部の委員会が、予定よりも遅くなってしまったんですよね。

【粟辻推進官】
 まだ調整中ですけれども、時期的にはまだ確定していないところです。

【若山主査】
 ですから少し議論の、先ほどのことを収束させるための会議を、予定より増やしてもいいのかなということは思っています。
 もう時間ございませんけれども、高木先生、印象でも構いませんので、御発言を。

【高木委員】
 済みません、2点ありますが、一つは、これは前にも申し上げたと思うんですが、推進拠点を設けるにしても、規模感がこれだけだとなかなか分からないので、例えば全国に幾つぐらいあって、どれぐらいの人材が必要なのか、もう少し規模感を書き込めないか。さらに、それと関連しますけれども、外国との比較みたいな話、これまでの委員会でもいろいろ出てきたと思うんですが、それも盛り込んで、その上で、日本で取り組むべきは何か、どれぐらいの人材をどうしよう、どれぐらいのタイムスケジュールでどうしようという話が、少し書ける範囲で結構ですが、なかなか難しいとは思いますが、入れてもいいのかなと思いました。
 それから2点目は、先ほど渡辺課長もおっしゃいましたけれども、研究プロジェクトの中で人材を育成するという考え方も、もう少し取り込んでもいいのかなと。バイオインフォマティクスの場合は、最近は、プロジェクト開始のときに、どのような形でプロジェクトに情報系の関係者が入るのかということを、公募の際の応募書類に書かせるということも行われてきていますので、そういう観点のやり方もあるのかなと思いました。
 その2点でございます。

【若山主査】
 ありがとうございます。

【舟木委員】
 発言していないので、最後に。この機会にお願いしたいことですが、これまで何度もお話が出ていますが、滞在型の研究所といいますか、そういうものを、数学サイドとしては文科省の皆さんにはお願いしたいと強く思います。年末に中国のヤウ研究所に行く機会がありましたけれども、全く規模が違う、すばらしいものが海南島にありまして、御存じの方多いと思いますが、そういったものがなぜ日本にできないのか、非常に不思議に思っております。こういった機会に是非取り入れていただきたいと強く思いますので、よろしくお願いいたします。

【若山主査】
 ありがとうございます。時間が迫ってまいりましたので、何か最後、御意見ございましたら。

【森委員】
 今更という質問かもしれないんですけれども、樋口先生がおっしゃっていたのに関連して、例えば先行して既にやっておられるところで、例えば数学の教員が、そういう数学の応用する方に何か貢献した場合に、それをどう評価しているのか、それに興味があるんですけれども、いかがですか。

【砂田学部長】
 確かにそういう意味の評価ということでは、具体的な形では今のところ行われていません。ただ、今、そういうお話を伺ったので、何かしらそういうものを考えるべきじゃないかなとは思い始めていますけれども。非常に重要なことだと思うんですよね。何かインセンティブということは、常に必要で。ただ、一つの形ではないのかもしれないけれども、自分の指導する学生がディグリーを取っていくというのも、一種のインセンティブと思えば思える。

【森委員】
 それはそうですけれども、日本とアメリカの違いの一つは、アメリカは全部ネゴシエーションですよね。自分はこういうことをやったとかと言ってアピールするわけだけれども、日本はそういう形のアピールの仕方じゃないので、そこはどうなのかなと。

【砂田学部長】
 そうすると、相当あれですね。大学の組織の、ある意味。

【森委員】
 組織を変えないと難しいことですから、下手にできませんけどね。

【砂田学部長】
 だけれども、何かほかの形ででもあり得るんじゃないかと思うので、それは考えてみたいと思います。

【若山主査】
 ただ、少し、例えばIMIなんかは、私が口出しするのも変ですけれども、評価の仕方がプロモーションに反映するとか、変化はしていますね。

【森委員】
 ああ、そうですか。

【若山主査】
 例えば学生がどれだけのことをやったかという、どれだけ学生が育ったかという、博士課程の学生ですね。それとか、中には特許を取る人もそれなりに出てきていますので、そういうものも評価する。昔から九大は応用数学の人たちもいらっしゃったわけですけれども、でも論文ベースでしか評価しない。ジャーナルでマセマティクスとかスタティスティクスとか付いているやつでないと評価しないというところがありましたけれども、必ずしもそうではなくなっているというところはあります。

【福本所長】
 IMIでは、そういう産業界との連携をするというので公募をしたりしますので、結果的に。

【森委員】
 そうなんですね。採用後の連携の話もありますね。

【福本所長】
 後も、それは評価として大事ですね。

【小谷委員】
 最後、一言宣伝していいでしょうか。4月28日に理研で、iTHESと数学の連携ワークショップがあります。

【粟辻推進官】
 4月の28日木曜日に理化学研究所の和光で、NEW HORIZON of MATHEMATICAL SCIENCESというシンポジウムが開催されます。参考資料の3の6ページ以降に、理化学研究所のiTHES、理論科学連携研究推進グループを今年度から更に発展拡大させて、数学・数理科学も巻き込んだ形で新たな活動をしていくことになっておりまして、これに小谷先生、合原先生、森先生なども関わっていただくということで、その一種のキックオフ的なイベントとして、これが企画されているということでございます。

【若山主査】
 どうもありがとうございました。それでは閉会いたします。

―― 了 ――

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット

電話番号:03-5253-4111(代表)