数学イノベーション委員会(第20回) 議事録

1.日時

平成27年6月24日(水曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  2. その他

4.出席者

委員

若山委員、合原委員、今井委員、大島委員、國府委員、小谷委員、高木委員、常行委員、中川委員、長谷山委員、樋口委員、舟木委員、本間委員、森委員

文部科学省

常盤研究振興局長、安藤大臣官房審議官(研究振興局担当)、行松基礎研究振興課長、粟辻融合領域研究推進官、田渕基礎研究振興課課長補佐

5.議事録

【若山主査】 
 それでは、定刻となりましたので、まだおそろいでない先生方もいらっしゃいますけれども、ただいまより第20回数学イノベーション委員会を開催したいと思います。
 本日は、御多忙のところお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
 本日は、グレーヴァ委員から御欠席との連絡を頂いておりますけれども、非常に出席率が高い出席です。また、いつも常盤研究振興局長にはおいでくださいまして、どうもありがとうございます。
 それでは、本日の議事を進めるに当たりまして、事務局より配布資料の確認をお願いします。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 配布資料でございますけれども、座席表、議事次第、それから、委員名簿の後に資料1が1枚、それから、資料2が合原先生の発表資料、資料3が樋口委員の発表資料、資料4が「検討内容の取りまとめの方向性(案)」という資料、資料5が「今後の予定について」、そして、参考資料1で前回の議事録を付けております。あと、机上配布で、ポンチ絵の「数学イノベーションの取組について」という資料と、それから、「数学イノベーション戦略」という報告書を付けております。
 以上でございます。
【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
 本日も、前回に引き続き、数学イノベーション推進の方策について審議してまいりたいと思います。きょう、合原委員、樋口委員からは、諸科学とか産業界との共同研究における御経験、及び課題について御紹介いただけることになっています。それをもって審議の参考にさせていただきたいというふうに考えております。
 まず、事務局の方で、これまでの議論を資料1に整理していただきましたので、御説明をお願いします。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 資料1、これは、前回、それから前々回において皆様にいろいろ御議論いただきまして出された意見を事務局で少し整理させていただいてまとめたものでございます。本日の議論に入る前に、少し振り返るという意味で紹介させていただければと思いました。
 まず、1.の数学へのニーズの発掘というところでございますけれども、いわゆるマッチング、諸科学・産業の課題と数学をマッチングするには、それ相応の連携の経験のある人が行うことが必要だということですとか、あるいは、日本では、ドイツなんかと違って、トップに数学関係者が必ずしもいないということもあるので、企業を説得できるようなコーディネータ役の人が必要だというような御意見が出ております。
 それから、2.は、この両者の協働による研究の推進という項目でございますけれども、例えば外部から相談を受けて、それを適切なほかのところにうまくトランスファーするというようなことは今でもある程度できるかもしれないけれども、その後、本格的に課題解決に向けた研究をするという部分については、きちんと組織を作っておくことが必要だというような御意見ですとか、あるいは、数学そのものへのフィードバックも必要だというような御意見。あと、分野を超える力、分野跳躍力、それからチームを作ってやるチーム力、こういったものが必要で、例えばチーム力ではニーズを見極めて、計算機、あるいはプログラミングなんかに対応できるような力も必要だという御意見が出ています。あと、研究費も当然インセンティブになるし、あと、数学的アイデアを実装して、プログラミング、あるいはソフトウエア化に携わる人材についても、この次のキャリアステップにうまくつながるようにしていかなければいけないというような御意見が出ております。
 3.が、数学イノベーションに必要な人材の育成ということで、数学専攻出身の人材が、例えば企業などに増えてくれば、企業との連携というのはおのずとうまくいくようになるんじゃないかというような御意見ですとか、あるいは、どうしても数学と諸分野、あるいは企業との連携、融合といった場合の融合分野、融合研究というものは必ずしもアカデミアでは評価されづらいというようなところがあることとか、あと、企業でも数学出身者をどう扱うのかということは、必ずしも慣れていなくて、社内でどのように活用するか、あるいはその後のキャリアパスといったものもまだ議論は本格的に始まっていないというような御意見。あと、数学者がなかなか参画しづらい原因の1つとして、コントリビューション、どこに数学者が貢献したのかということがなかなか明らかにならないということが問題にあるのではないかというような御意見が出ております。
 あと、その2つ下の・のところですけれども、融合研究がなかなか評価されづらいこともあるので、純粋数学の方も学生はやらざるを得ないというのが現状だというような御意見ですとか、あと、数学科に進学すると、イコール数学者になるというふうに思われてしまうところがあるので、数学者以外の道があるんだということを高校生ぐらいにも見せられるようなことができるといいんじゃないかというような御意見がございました。
 それから、4の体制のところでは、主に数学の定義というか、範囲に関する御意見が出ておりまして、例えばアメリカなんかではコンピュータサイエンスの中で数理的なことをやっているのを、いわゆる応用数学だというふうに言い切ってしまうようなところがあるけれども、日本はそうではないというような御意見。それから、その一方で、数学をすごく広く捉えると、純粋数学の人が取り残されてしまうというような懸念もあるので、純粋数学と応用数学の両者がうまく連携できるようなことが必要じゃないか、あるいは、諸科学の側(がわ)から見ても、そういう両者がつながっているようにはなかなか見えないので、純粋数学の人に話を持ってきようがないというのが現状の感触だというような御意見。
 それから、これをまとめて、狭い意味での数学科という意味ではなくて、応用数学も含めて、広く数学をやっているんだというのをうまく表に出して、見えるようにしていくことが必要じゃないかということ。もう少し具体的に言うと、情報科学をはじめとする諸科学の研究室で、実質的に数学的なことをやっている研究室というのはたくさんあるわけで、それをうまく見える化する必要がある、それによって数学イノベーションとか、あるいは数学リテラシーなんかの必要性というものがより明らかになってくるんではないかというような御意見が出されております。
 これは、これまでの主な御意見をまとめたものでございまして、これも踏まえながら、本日御議論いただければというふうに思っております。
 以上でございます。
【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
 これは18回、19回と、第3期の数学イノベーション委員会で出てきた皆さんから頂いた御意見をまとめていただいたというものです。
 それでは予定どおり、諸科学や産業との協働研究などを実施するに当たっての課題などを含めて、豊かな経験をされている合原委員からまず御紹介いただきたいと思います。よろしくお願いします。15分ぐらいでお願いします。
【合原委員】 
 合原です。きょうは、けさ、サッカーの開始時間を間違って5時に起きてしまったので、すごく眠いです。頑張ってしゃべりますけど、時間が来たら止めてください。
 これまでやってきたプロジェクトの経験を話してくれと言われたんですけれども、その前にそのプロジェクトのバックグラウンドを話そうと思って、パワーポイントを用意したので、タイトルがそうなっています。
 まず、本の紹介ですけど、これは我々の数理工学の本を紹介した本で、先月出しました。巻頭言がよかったせいか、売行き好調であります、ありがとうございます。
 我々がやっている数学というのは、自然科学の多くの分野と共通だと思うんですけれども、現実の諸問題を研究するために数理モデル化して数学的に研究するという、そういう研究手法です。特徴的なのは、工学ですので最適化・制御・予測を重視していることと、そのための教育をきちんとやっているということが、この数理工学の特徴だと思います。
 我々の学科は計数工学科・数理情報工学コースというんですけれども、進学してくる学生は、基本的には数学が好きで大学に入ってきた学生です。進学するときに、数理科学に行くか、うちに来るか、悩んだ末に、考えに考えてうちに来ます。どういうふうに考えた学生かというと、単に数学だけではなくて、社会との接点の中で数学をやりたいという学生が来るんですね。したがって、目的がはっきりしているので、非常に教育効果が上がります。こういう純粋数学の学科と計数工学みたいな学科が2つあるからそれができるわけで、だから、数学科しかない大学は、数学科の中に我々みたいなこういう社会との接点とか応用の受皿を何とか作ってあげないと、そういう興味を持っている学生がかわいそうかなという気がしています。
 こんな学科ができたのは、歴史があって、第2次世界大戦後にGHQによって東大工学部の航空学科が廃止されます。その中で特に数学的な研究をやっていた3講座がコアとなって、この学科ができたんですね。そういう意味で、ある意味で、たまたまできた学科みたいな感じなんですよ。英語だとMathematical Engineeringといいます。
 それまでは、航空工学に先端的な数学を使っていたんですけれども、戦後は、工学の諸問題に最先端の数学を使おうという、そういう学問ができたんです。ただ、その応用の部分が、学問が進むにつれて、工学の問題以外にも使ったら面白いんじゃないかと先生方が考え始めて、生物とか、経済とか、そういう問題に研究分野が広がってきています。
 基本的には、数学の基礎と様々な応用を結び付ける教育をします。ここが我々の非常に特徴的なところなんですね。基礎に近い部分から応用に近い部分まで様々な科目が用意されています。統計学は非常に重要なんですけれども、それ以外にも制御とか、力学系理論とか、最適化とか、情報理論とか、こういうカリキュラムを組むことによって、数学に興味を持っている学生が卒業してからいろんな応用研究ができるようになる、その間をつなぐ、そういう教育をしています。
 したがって、就職というのは、基本的にはあらゆる分野になるんですよ。逆に言うと、これがある意味、強いところでも弱いところでもあります。僕は電気系工学専攻も担当しているんですけど、電気は、自然科学の基礎の電磁気学があって、大学で電気工学科があって、電気産業があるという、縦にびしっと柱があるわけですね。機械も、力学があって、機械工学があって、機械産業があるという、ちゃんと出口の産業まで持っているんですけど、我々はその出口の産業がないわけですね。ないけれども、逆に言えば、全部が出口だと思ってもいいわけで、そういう横型の学問をやっているわけです。ちょっと見にくいですけれども、過去の卒業生を見てもいろんな分野に進んでいます。
 それから、もう一つは、僕は10年ちょっと前に生産技術研究所に移りました。移った生産技術研究所は、ある意味で工学部のミニチュア版みたいなものでして、多分、大島先生の方が詳しいんで後で補足してください。僕が今いるのは情報エレクトロニクス系部門といって、僕は学部が電気で大学院は電子なんですね。僕の先輩たちがそこにいっぱいいたんですよ。当時の所長の坂内先生が、「おまえは生研に向いてるから来い」とおっしゃって、断りました。それは、もう本郷で研究室を作っていましたから、学生を連れて行くのもかわいそうかなというのと、それから、当時、新領域創成科学研究科って、今、柏にある研究科を本郷で立ち上げたところだったんですね。僕は、複雑理工学専攻の立ち上げの仕事をしていたので、そういう理由もあって断ったんですけれども、しばらくたってまた誘われて、そのときは複雑理工で最初のドクターも出していたのと、研究所というのにちょっと興味があったんですね。そういうことがあって、学生を連れて移ってみたら、非常に居心地がいいので、もう本郷に帰るのはやめました。
 これは前田先生が整理された生研の歴史ですけれども、コアの部分を抜き出すとこれでして、工部省工学寮というところから始まっているんですよ。この山尾庸三さんというのはなかなかすごい人で、皆さん、御存じですかね、長州ファイブの1人なんですよ。長州ファイブって御存じですか。幕末に長州藩は尊皇攘夷(じょうい)を唱(とな)えていたんですけど、なかなか懐が深くて、尊皇攘夷(じょうい)をやりながら、実は5人イギリスに派遣したんですよね。ところが日本などという訳の分からない国から来たので、ケンブリッジとかオックスフォードとかは当然受け入れてくれないんですよ。ところが、UCLが彼らを受け入れて教育をしてくれたんですね。
 実は、おととしがちょうど長州ファイブの150周年でして、記念の事業があって、僕も招待されていたんですけど、ちょっと急な用ができていけなかったのがすごく残念だったです。
 この山尾さんというのが、日本の工学の基礎を作り、東大の工学部の基礎も作った人です。有名なのは、むしろ、この上の2人なんですけれども、この2人は、長州藩が外国船に砲撃して戦争が始まったニュースがイギリスに届いたら、もうすぐ勉強をやめて日本に帰ったんですね。両方すごいと思うんですけど、政治家と、そういうときに帰らずに学問をやった人に分かれるんですよ。両方いたのは、非常に日本にとってもよかったかなと思います。時間がないのにこんな話をしてすみません。
 生研のいい所は、産業界と非常に気軽に付き合える、多分、先輩の先生方がそういうふうに地盤を作ってこられたんだと思うんですけど、いろんな方が気軽に相談に来られて、共同研究を割とすんなり立ち上げられる、そういう土壌があるというのは非常に面白いなと思いました。
 ただ、1つ気になっているのは、去年、生研が第三者評価をやって、その報告書が出ているんですけれども、そのときにスイスのEPFLから来られた評価委員の方が指摘されていた点なんですね。日本の雇用の7割は中小企業なんだけれども、その中小企業は、数学に限らず、大学と連携するという余裕がないわけですね。しかしそこをやらないと、本当の意味での日本の産業の底上げができないので、そこを何とかできないかなというのが一番悩ましいところです。彼が指摘しているのは、マッチングファンドみたいな形で、大学の研究、若しくは大学院生の教育の一環として何かやる方法があるんじゃないか。例えば、企業が技術者とか素材を提供する一方で、研究所が施設や研究者を提供して一緒にやるとかですね。これは、スイスではCTIという成功例があるらしくて、割とうまく機能しているみたいです。大企業だったら、いろいろ数学応用もやりようがあると思うんですけれども、花王とかそうですよね、でも、本当にやってあげなきゃいけないのは中小企業なので、そこの仕組みが欲しいなと個人的には思います。
 あとは、プロジェクトの話なんですけれども、この10年ぐらいずっとプロジェクトをやってきていて、1つ目はERATOというプロジェクトです。僕の研究は、基本的には数理工学の観点から数学的な手法を作りながらそれを応用するというスタイルです。ERATOでは、脳とか遺伝子ネットワークや、アナログの非線形なチップ、それから、感染症の社会での流行(りゅうこう)と応用をやりました。
 これは、文科省の方々にちょっとお話ししておきたいんですけど、例えばERATOをやるときに戦略目標を決めなさいと言われるんですよ。戦略目標を読んでみると、我々みたいに数理で横断的な研究をやると、いろいろな戦略目標と関係するんですよね。全部書いていくと、9個の戦略目標と関係していたんですよ。「9個あります」と言ったら、「もちろん9個挙げてもいいんですけど、9個挙げると事後評価を9回受けていただきます」と言われて、それはさすがに困るなと思って1つにしました。ぴったりの戦略目標が、昔はなかったんですね。最近みたいに、数学っぽい戦略目標が出てきているのは、この分野にとっては非常に有り難い状況かなと思います。
 去年、ERATOが終わって、5年後の評価というのをやらされて、そのときに作ったパワーポイントを幾つかお見せするんですけど、何をやったかというときに、基本的に大きなプロジェクトなんですけど、我々は数理中心の研究なので、実験にそうお金は使うわけではないんですね。したがって、ほとんどの研究費は若い研究員の雇用に使います。そういう意味で、本当に人中心のプロジェクトをやりました。
 特に、生研の中にそういう研究をする場所を作って、いろんな分野の若い人たちに来てもらって、数学を核として相互作用させたという、したがって、研究プロジェクトそのものが複雑系になっていたという、そういうプロジェクトだったと思っています。常に同じ場所にいて、かつ数学という基盤、共通点を持ちながら、違うテーマの人たちが議論するという場があるというのは、非常に有効だというのが分かりました。
 5年後評価なので、今ではみんな偉くなっていて、特に面白いなと思ったのは、例えば、彼は東大の医学部を出た医者なんですけれども、現在、生研で准教授として工学の研究をやっています。ニューロモルフィックハードウエアを作っています。それから、彼は東大の工学部で学位を取ったんですけど、その後、九大の医学部の准教授になりました。こういう医学から工学とか工学から医学という、全然違う分野にジャンプできるのは、数学をベースとして横断型の研究をやっているからできたんだと思うんですね。樋口先生もジャンプとか、前におっしゃっていました。実際、こういう実例は、なかなかほかのプロジェクトでは出てこない例だと思っています。
 ERATOが終わって、問題点をいろいろ整理していたんですけど、その頃ちょうどFIRSTの募集があったので、それに応募して、幸い選ばれたんですけど、残念なことに、ERATOが終わってからFIRSTが始まるまで1年間間が空(あ)いちゃったんですよ。間が空(あ)くと、研究員は全部就職させないといけないですよね、1年間無給というわけにいかないので。これが直接続いていたら、もっといろいろうまいやりようがあったかなと思うんですけれども、そこはちょっと残念です。ただ、FIRSTプロジェクトができたこと自体は非常に幸いだったと思っています。先ほどと同じように、基礎理論を作りながら、もうちょっと予算の規模が大きかったので、応用の範囲も広げることができました。
 複雑系の数理モデルを作って研究するというプラットフォームを作ったのは、4年1か月しかプロジェクトはなかったので、応用研究をやれる範囲は非常に狭かったわけですね。ただ、理論的なプラットフォームをきちんと作っておけば、プロジェクトが終わってからでもこの理論基盤自体は生かすことができるので、そういう意味でここを重視したんですね。
 特に個人的に面白かったのは、この世の中のダイナミクスを研究するのに、数学の世界には力学系理論というのがあって、工学の世界では制御理論というのがあります。この2つの理論というのは、同じようにダイナミクスを扱うんですけれども、ほとんど交流がないんです。同じような概念なんだけど、言葉が違っていたりします。ただ、持ち味は大分違っていて、力学系理論は非線形もちゃんと扱いますし、カオスとか分岐理論みたいな不安定性もきちんと扱います。それから、もともとがニュートン力学から始まっているので、自律系の理論がメインなんです。ところが、制御理論は、最初に理論を作ったのはマクスウエルです。なぜかマクスウエルが理論を作ると線形になっちゃうんです。マクスウエルの方程式もそうですよね。実は、制御理論も線形でして、制御理論の人たちは線形の世界で物すごく強力な体系を作り上げているんですよ。だから、やっぱり線形もすごいなと制御理論を見ると思うんですけれども。かつ、もともと蒸気機関の調速器の安定化問題から始まっているので、安定性がもう大前提なんですね。だから、安定化のための理論です。それから、いろんな参照入力とか、外部入力を入れるので、ノンオートノーマスシステムになっているんですよ。そういう意味で、持ち味が違うので、これを融合したら面白い理論が作れるなというのは、かなり前から気が付いていたんですけれども、なかなかやる機会がなくて、それをFIRSTでやりました。
 その結果理論がかなりできて、これは先月出た本なんですけど、一応、力学系理論と制御理論の融合に関する、ロバスト・バイファケーションとか、例えば準周期解の分岐理論とか、それから、ネットワークの複雑さとその制御の問題とか、そういう問題に関してかなりきちんとした理論を作ることができました。
 あと何分ぐらい?
【若山主査】 
 大体15分近いですが。
【合原委員】 
 じゃあ、もう終わらないといけない。
【若山主査】 
 お続けください。
【合原委員】 
 研究手法としては、一応、工学なので、個別課題を解決するために研究はスタートするんですよ。ここに例を挙げたのは、新しいネットワークの形のバイオマーカーを見付けたんですけれども、これはもうすぐ病気になりますということを教えてくれるバイオマーカーです。普通のバイオマーカーは、病気になったという状態を識別するためなんですけど、そうではなくて、今放っておくと病気になりますよという、そのタイミングで発現するバイオマーカーをまず数学的に定義して、実際に見付けました。そういう形で、我々の分野の研究というのは、解決したい課題があって、それを解決するために数学を使うわけですね。
 ところが、こうやって作った手法というのは数理的な手法なので、ある意味で分野横断性を持っているんですよ。今の話は、遺伝子のネットワークが、例えばがんになるときに、がんに遷移するときに一旦分岐が起きるので不安定化するんですね。つまり、遺伝子ネットワークの不安定化の予兆を検出する理論なんですけれども、理論自体は複雑なネットワークが不安定化するほかの現象にも使えるわけですよ。例えば、再生可能エネルギーを入れすぎた電力ネットワークはやはり不安定化するわけですね。そのときも、さっきのネットワークバイオマーカーと同じように、パワーグリッドの部分ネットワークが不安定化するんですね。そういうものを検出したり、それから、渋滞もそうでして、スムーズに流れているアトラクターから渋滞のアトラクターへの状態遷移なので、同じようにこの理論が使えます。そういう意味で、課題解決するための数理的な手法を作りますけれども、これが数理的な手法であるが故に水平展開できるという、ここが数学を使って研究しているからこそできることだと思っています。
 やはり今回もほとんどの研究費を雇用に使いました。特に効果があったのは、力学系理論と制御理論を融合したかったのですが、言葉が全然違うので、合宿形式でじっくり勉強するしかないなと思って、9回合宿をやったんですね。最初、高橋陽一郎さんに工学者に対して力学系理論の長い講義をやってもらったり、そういうことをやりながら、力学系理論と制御理論が両方分かる若い人たちを育ててきました。そうすると、みんな伸びていくんですよね。そういう意味で、そういう場を作ることが重要かなというのは改めて感じました。
 それから、アウトリーチ活動も若い人たちにやらせてみたんですけれども、これは、未来館で何かやってくれということだったので、うちの研究員の人たちが中心になってやりました。未来館に、科学技術インタープリターとかというんでしたか、そういう人たちがいらして、その人たちに怒られながらアウトリーチ活動を半年ぐらい彼らがやって、それも彼らがステップアップする上で非常に貴重な体験になったと思っています。
 以上です。
【若山主査】 
 どうもありがとうございました。
 それでは、今の合原委員の御発表に対して御質問等ございましたら、お願いいたします。ございませんでしょうか。
【國府委員】 
 最初の計数工学科のことについてですが、数学を志望する学生たちが進学振り分けの時点で純粋数学を志望する人が数学科に行き、数学をいろいろな方面に役立てたい人が計数工学科にと分かれていくというのが非常に印象的でした。計数工学科のカリキュラムで、例えばスライドに挙がっているのが、科目名なのかどうか分からないですが、時代とともにいろいろ新しいことも出てきたり、また、古くなっていったりと、変わっていくものもあると思うのですが、そのようなことをカリキュラムにどう反映させているのでしょうか。
【合原委員】 
 基礎の部分はさすがに変わらないので、これが5つのコアなんですよ、この後に数理工学が付いていて、代数数理工学、計算数理工学などという5つの数理工学があって、ここは本当の基礎なので、多分ずっと変わっていないと思います。ただ、それ以降のアドバンスの方は時代とともに変わるわけで、例えば怪しいカオス工学とか、ここにありましたように、そういうものは時代とともに、必要があるとそういうものを入れてくるという。
【國府委員】 
 特論的な形で入ってきたり、そういう感じなんですか。
【合原委員】 
 そうです、特にやっぱり大学院ですね、その辺は。学部でちょっとアドバンストなのは、南雲先生のときからずっと続いている生体情報論という講義があるんですけど、それは南雲先生が十何年やられて、その後、僕ももう20年ぐらいやっているんですけど、それは、4年生に脳科学を教える講義でして、割と人気がある講義です。ただし、同じ生体情報論なんですけど、やっている内容は時代とともに変わっていくわけですね。南雲先生はフィッツフュー南雲方程式みたいな話を多分されていたわけで、僕らは、最近だと、ディープニューラルネットとか、そういう話まで教えるので。内容自身は変わるんですけど、その内容は勝手に変えてはいけなくて、学科会議で承認を受けたら変えていいという形で、割とコンサバティブにやっていまして。
 ただし、大学院に関してはほとんど、アドバンストの講義は自由にやっているんですけど、この5つの基礎講義の大学院版を作りました。この基礎の部分ですね。なぜ作ったかというと、うちの学科の卒業じゃない大学院生が増えてきているわけですね、重点化して。そういう人たちはその基礎の部分を学んできていないので、学部で教えている講義もちょっと復習して、それで、その先までいくような大学院の講義を作って、外部から来た学生にはそれをとらせて、1年で追い付くようにしています。
【國府委員】 
 ありがとうございます。
【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。
 今、外部から来る学生が増えたというのは容易に想像がつくんですけど、どういう分野から、いろんな分野からですか。
【合原委員】 
 いろんな分野から来ますね。もちろん理学部からも来ますし、それから工学部のほかの学科からも来ますし、それから、特に僕の研究室がそうなんですけど、修士までは実験をやっていて、その理論を作りたいから博士に入ってくるという学生が結構多いです。博士の学生たちは目的がはっきりしているので、結構面白い研究をすることがありますね。
【若山主査】 
 ありがとうございます。恐らく人材育成ということで、結構、興味のある問題だと思っています。
 ほかにございませんでしょうか。どうぞ。
【森委員】 
 今、研究所におられるわけですね、その場合に大学院教育はどのような形で実施しておられるのですか。
【合原委員】 
 東大の場合は、研究所にいるんですけれども、大学院教育に関しては、一応、対等な役割を果たすことになっていて、僕の場合は、数理情報学専攻と、それから電気系工学専攻と2つ、その前は複雑理工学専攻も担当していたので、1人分の給料で3人分働いていました。
【森委員】 
 まあ給料のことはちょっと置いといて、数理情報学専攻、その専攻全体が生産技術研究所になるわけですか。
【合原委員】 
 いや、違います。大学院は本郷にあるんですよ。
【森委員】 
 一応、一人一人が入っていく。
【合原委員】 
 そうです。多分、大島先生は機械工学に入っているんですよね。その出身母体に応じて、大学院教育は本郷でやるという、そういう形です。
【森委員】 
 分かりました。
【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。
 それでは、次に、樋口先生から同様な観点で御紹介していただきたいと思います。よろしくお願いします。
【樋口委員】 
 早速始めさせていただきたいと思います。
 きょうは、限られた時間ですけれども、2つの話をさせていただきたいと思います。両方とも統計数理研究所の活動で、いろいろな経験等々に基づくものなんですが、前段は諸科学、異分野研究融合に関係するもの、後段は産学連携、産学共同研究に関わるものです。問題点と、1つのちょっとした提案について、お話をさせていただきたいと思います。
 冒頭は、4I4I。これは、4つのIで始まるものがイノベーションに大切じゃないかということで、4I4Iと私は言っています。インテリジェンス、インテグレーション、インターディシプリナリィティ、アンド、インタラクション、全部Iで始まりますけれども、これらが現代科学におけるイノベーションに重要じゃないかというふうに思っております。これは、私が言ったのではなく、インペリアル・カレッジにデータ・サイエンス・インスティテュートというのが昨年できまして、そこの所長が、データ・サイエンスを特徴付けるものはこれだ、4つのIじゃないかというふうにおっしゃいました。最近、世界中にデータ・サイエンスに関する名前を持つ研究所がいろいろできています。私は、データ・サイエンスだけではなくて、イノベーションを起こすために、この4つというのがキーワードになっているのではと思っています。
 まず、異分野融合研究についてお話ししたいと思います。コンセプトとしては、縦と横、深掘りと水平展開、この2軸が重要ではないかという話です。
 統計数理研究所の研究の構造は、このように2軸体制になっておりまして、横軸は横断的な科学を取り扱う組織で、常勤教員は3つのうちのどれか1つに必ず配置されます。統計数理というのは非常に面白い学問で、学際的であるということと、社会等々からのいろんな喫緊の課題に応えうるということで、それに対応するために5つのセンターを設けております。教員は、自分らの専門性、あるいは興味に従って、1つ、あるいは2つに兼務するという形をとっています。横と縦、このような体制をとっております。
 統計数理研究所は大学共同利用機関ですので、公募型共同利用・共同研究が非常に大切なミッションとなっております。その中で、小型の、萌芽的で、あるいは新分野発掘を狙った共同研究、これも実施しておりますが、これも2軸体制で公募するようにしております。
 応募する人は、横に並んだ方法論から自分がどこに近いのかを1つ選びます。また、縦の個別分野、いわゆるドメインと言われるもの、ここから1つ選びます。この2つのクロスによって応募するという形になっています。このドメインを見ると、統計とか情報以外の3番から9番までの、いわゆる諸科学、これらが共同研究の75%を占めるということで、非常に広範な分野の方々が参加されているというのがお分かりになると思います。
 その規模実数としては、大体、160から180件、毎年行っております。参加される方は、800人ぐらいの全国の研究者、学生です。
 次に、先ほどこの図で一番右側に示した統計思考院という人材育成組織。これも教員が兼務していますが、ここで行っている活動を少し紹介させていただきたいと思います。
 統計思考院というのは、統計思考力というのは非常に重要であるということで、この後紹介いたしますが、いろいろなプログラムを行う母体となる組織です。兼務が多いですが、組織員に関する特徴として、特命教授を3名雇用しています。これは、研究所を退職されたOB、あるいは統計関連の学会長等々をされましたシニアな先生方を雇用しております。また、特任助教としてここに4名、あと、同じ部屋に若い研究者を配置するようにしております。
 統計思考院では、また縦と横が出てきましたけど、横に横断的な科学、縦にいろいろなドメインサイエンス、この2つを担えるT型、また、2つのドメインができるような人ならΠ型。このようなT型、Π型の人材を、OJT、あるいはPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)等々で育成するということを狙っております。
 そこで、T型人材に、必要な素養の1つの在り方として、ちょっと古い本ですけれども、北川敏男先生の「統計科学の三十年-わが師わが友-」、ここにこういう文章が書いてありました。北川敏男先生は、北川源四郎情報・システム研究機構長のお父さんでいらっしゃいまして、九州大学等々で非常にご活躍された、日本の統計学、あるいはサイバネティックス等々の日本の情報数理の礎を築かれた先生です。
 これは多分、九州の海岸での写真だと思いますが、フィッシャーはこの人ですね、これが北川先生のお父さん、工藤先生、九州大学の先生です。統数研には、このような絶版になった本を誰でも見られるというサイトがありまして、そこで誰でも読めます。この本に北川敏男先生が、「私は、幼少の頃、地理、歴史というような記述的な学問が大好きであった、一方、数学のような論理的な思考の学問も得意な子供であったから、妙なコンビネーションである」と書かれています。北川敏男先生はこのようにおっしゃっていますが、これだけとは言いませんけど、この「妙なコンビネーション」がT型人材の必要な素養の1つの在り方じゃないかなと私は思います。
 きょうは、合原先生からも古いお話がありました。この記録は統計数理研究所に保存されているものですが、右側が統計数理研究所が設立された時の職員名簿でして、左側に並んでいらっしゃる先生方、これは今で言うとクロスアポイントのような職種の方々で、北川敏男先生は九州大学と統数研、あと、伊藤清先生が名古屋大学と統計数理研究所の兼務です。この他、秋月先生とか、非常に有名な先生方の名前があります。伊藤清先生は、昭和19年12月20日に「スチューデントT検定法について」という論文を統数研の彙報に書かれており、統数研に保存してあります。このように統計数理研究所は非常に長い歴史を持ち、統計数理研究所ができたときに、日本を代表されるような数学に関係される先生方が、ある意味、クロスアポイント的貢献で統計推理研究所の礎を作られたということです。
 もとに戻りまして、統計思考院では様々なステークホルダーに対していろいろなプログラムを行っています。この赤で囲ったところを御紹介させていただきたいと思います。
 共同研究スタートアップというのは、統計数理研究所には以前、統計相談というサービスがあったのですが、私が所長になりまして、もっとアクティブなイメージにしたいということで、共同研究に持っていくんだということで、名前を変えて、またワンストップサービスにすべく入り口を一本化しました。先ほど述べましたように、シニアな先生方が問題をトリアージしながら、若いポスドクと一緒にOJT、PBLをやって、成果としていろいろな形での出口となっていくというシステムです。
 共同研究スタートアップ、去年は40件受けました。例えば22番、これはJICAから問題を持ち込まれ相談を受けて、マラウイ共和国というアフリカにある国ですが、そこでは森林の保護が都市部の水害等との関係で非常に重要だということで、その調査研究についていろいろ相談を受けたものです。その相談の結果は、すぐにマラウイ共和国の閣議決定されるようなところにまでいったそうです。
 あるいは、これは前年度ですけど、長野県の中小企業から受けた相談例です。先ほど合原先生のときにありましたけど、中小企業ですとどうしても統計の専門家まで自社内で抱えるわけにはいきません。会社から相談を受けたところ、これは面白いということで、先ほどの統計思考院のポスドクが、NICTのソーシャル・ビックデータ研究プロジェクト、これはマッチングプロジェクトですが、それに会社の方と一緒に提案して、採択されて、今も共同研究をやっております。
 あと、データサイエンス・リサーチプラザというのを始めました。それは、社会人の方々が研究所にいながら統計数理研究所で自律的に勉強するというものです。
 あと、夏期大学院もやっていますが、これはちょっと時間がないので省略します。
 様々な外国の方などを受け入れるということで、このゲストハウスというのが非常に有効に機能しておりまして、利用しやすさなど評判がよく、かつ稼働率が高いので、今、拡張工事をしております。
 数学に関わるとこでのT型人材で、私の造語ですけれども、数学コーディネータみたいなものがあるといいのではないかと考えています。縦軸の個別科学としては、例えば理論系のいろんな科学を、横軸として数学・数理科学の両方学ぶと、分野を超えられるような人材が生まれる。例えば、先ほどの共同研究スタートアップで私がぱっと挙げたような課題が持ち込まれますと、スタディグループと呼ばれるような受入れ体制が、それもワンストップサービス化、つまりどこかで受けたらどこかの機関で、T型人材を育成しながら問題解決につながる。こういうこともできるのではないかと思っています。
 研究開発における数学・数理科学と諸科学との関係についてですけれども、これまでの大型プロジェクトは図で左側になります。いろんなプロジェクトの推進において、やはりT型が重要だということで、こういうドメイン側の研究所、あるいは機関に埋め込まれる形でプロジェクトをやってきました。そうしますと、どうしてもT型は孤立しがちなんですね。あと、便利屋として使われるとか、結果としてドメイン色に染まってしまうということで、例えばライフサイエンス分野でのバイオインフォマティシャンなどが古い形としてはそれに相当するのではと思います。こういう研究のすすめかたを、現代的には、合原先生のところでのやり方と同じだと思うのですが、こっち側に埋め込むのではなくて、こちら側にみんな集まって、ここでT型人材同士が相互に刺激しあう。そうすると、同じところにいますと、最先端の手法を教えてくれたり、スマートな解き方を教えてくれたり、あるいは便利なソフトウエアの存在を教えてくれたりとか、あるいは連帯感が生まれたりとか、いろいろ良い効果があると思います。こういうところで、ここに人が集まる。そうするとキャリアも形成できるし、イノベーションが連続的にうまれる中で、こことここは組織的に連携できます。一方今までのやり方は、ここの人とここが個人的に連携しがちなんですね、それも友達ベースで。これからは、右側のような形があり得るのではと思います。
 後段、もうちょっと時間を頂戴して、産学連携のお話をしたいと思います。これは統計数理研究所で行った数理+スパコン活用のものです。
 この課題は、ある製造業のところから持ち込まれて、問題は、開発している機器のシミュレーションモデル構築と最適化問題及び並列計算でした。ゆくゆくは統数研のスパコンユーザーにもなっていただきたいということで始めたものです。
 この課題を持ち込んだのは大企業の研究部門でR&D部門です。民間との共同研究のイメージでよく勘違いされるのですが、R&D部門が直接的に持って来る例もありますが、今回のケースは、本社の設計開発部門がそもそもの問題持込みのトリガーです。こういうR&D部門というのは、大企業になりますと、企業全体の設計とか製造計画の一部に組み込まれています。ですので、最初の段階に研究者とか企業の意識のすり合わせというのが非常に重要です。向こうは本気で来ていますので、ついついちょっと及び腰になりがちですけれども、そういうことはやっぱりよくないのはないかと思います。
 今回、期待されたものは、プロトタイプのようなプログラム開発ではなくて、本番用のプログラム開発です。そうしますと、様々な多くの問題が起きました。例えば本番用プログラムですので、全ての要求が実装されない限り使ってもらえない。あと、R&D部門はこの場合ウインドウズユーザーでして、それをスパコンで計算をスケール化するというところに非常にギャップがありました。
 企業は、R&D部門も入れて、本社設計とか研究開発とかが非常に密に連携して動いています。これもよく勘違いされるのですが、R&D部門が先端的というのではなく、本社設計部門が研究部門を部分的に追い越すこともよくあることです。
 見えてきたものとしては、ソフトウエアライセンスの問題ということですね。今、非常に便利ないろいろなソフトウエアがありまして、モデリングのプラットフォームが汎用ソフトに依存しているケースが多くあります。そうしますと、計算をスパコン向けに変えようと思っても、CPU数等々が増えますとそのソフトウエア利用は非常に通常、高い料金体系になっています。そうしますと、ユーザーが利用するソフトウエアのベンダーといろいろ積極的にコンタクトをとりながら計算をスケール化していくことが重要になってきます。
 今お話しした例では大変だったのですが、ただ、昨年行われました数学協働で非常にうまくいった例があります。こちらは、数学・数理科学側の研究者としては、いわゆる品質管理の研究者が参加しました。相談を持ち込んだ会社がよく使っているソフトウエアのベンダーも同席して一緒に問題解決に取り組みましたら、あっという間に問題が解決できたということがあります。ウィン・ウィンを構築するためには、理論的応用研究と計算機利用支援の両輪が必要だということです。今後は、統数研が得意とするコアコンピタンスにいろいろ注力したいということで、数学・数理科学をもっと使えるようにするためには、このソフトウエアベンダー、あるいはここをうまく担当できる人材が必要だと思います。
 これは、最後のスライドになりますが、数理アカデミアと産業界の密な連携を阻む3つの谷を挙げました。この3つ目のものが最初の谷としてくる例もあります。1の谷は、そもそも抱える課題とかを数理的な課題として設定できない。この谷から引き上げてくれるのは、データサイエンティストとか、あるいは先ほど私が言った数学コーディネータ。数学の見える化ですね。これで数学の問題になってきたら、次は第2の谷がありまして、計算を大規模に高速化、あるいは大規模に展開するためには、ソフトウエアベンダーや、アメリカにはサイエンティフィックプログラマーという職種がありますが、そのような方、あるいは計算エンジニアらが数学の使える化の人材として活躍し谷から引き上げる。3番目の谷には、そもそも企業のニーズに合っていないとか、どれぐらいのスピードでどうやりたいか、企業戦略とのすり合わせがあります。これを私は価値の共有化と名付けましたけれども、産学共同研究の担当URAらの方々が谷から引き上げる。こういう3つの谷がある。密な連携を阻むこれらの3つの谷というのは、あるいは3つの課題というのは、ちょうどデータサイエンティストに求められるスキルで、データ・サイエンス力、データ・エンジニア力とビジネス力、これら3つとちょうど呼応していると思います。
 統数研の経験に基づいて問題点、あるいは提案をさせていただきました。
 ちょっと時間オーバーしまして、どうも済みませんでした。
【若山主査】 
 どうもありがとうございました。
 合原委員のプレゼンとは少し違った展開にされたところもありながら共通なところもあって、とても興味深くお聞きしました。
 それでは、御質問等、御意見等ございましたら。どうぞ。
【中川委員】 
 17ページのスライドをお願いします。これは、企業人には非常に共感できる御提案です。そこに描かれている黄色のT型人材ってあって、これを、リソースに置き換えれば、会社の中でテーマができて、予算が付いていくという過程を経てそこの黄色のところに企業の予算投入と人材が派遣できるということになります。これは企業との産学連携のスタイルそのものだと思います。一方、これを、例えば諸科学、アカデミアに置き換えたときに、黄色のところに持っていこうと思ったら、ほかの分野の人たちのリソースをここに割いて持っていくわけですね。自分の分野のリソースを割いてまでそこに持っていくことの価値をアカデミアの諸科学分野の人がどう思うかお聞きしたいです。
【樋口委員】 
 ここで挙げたような、こういう副次的な効果が生まれる。それらをまたここに描きましたように、ドメインに持っていけば非常に喜んでもらえる。この構図を全員で、それがむしろ効果的ではないかというふうに理解するということが大切じゃないかと思います。
【中川委員】 
 自分の分野のリソースを割くということに対して、諸分野の人がそれをどう思うかだと思うんです。自分の身銭を切って、そこに持っていくかどうかという話ですね。そこは多分、諸分野の人が、これをやることによってどんなうれしいことがあるかという理解を得る問題かと思っています。これは、これまで、数学イノベーション委員会で議論してきたものでもあると思います。
【若山主査】 
 そうですね、抜けている四角だけじゃなくて、周りの人もどう考えるかという、組織としてそこがすごく大事なんだと思うんです。
 はい、どうぞ。
【常行委員】 
 今、御指摘のあった点と全く同じ問題点を計算科学の方のプロジェクトでも感じていて、今、例えば文科省の元素戦略プロジェクトというのが動いていて、テーマごとに磁石とか、構造材料とか、テーマごとに拠点が立っていて、そこにスーパーコンピュータのプロジェクトが参加しているわけです。そのときに、計算手法、シミュレーション手法というのは全部の分野に共通なものなので、一緒にここでやりたい、だけれども実際に研究を本当に密にやるためにはそちらにいた方がいい。どちらのスタンスをとるかなんですけれども、結局、予算をどう流すかとか、それから、責任をどこが負うかとか、それから、1人の人が複数の拠点に参加するときに、その人のエフォートとか、そういうのを事細かく管理しなきゃいけないとか、いろんな障害があって、結局、中に入った方がやりやすいというようなことが起きます。ですので、更にこれを、例えばパーマネントポストでこういうことをやろうとすると、かなりしんどいことが起きるだろうなと。つまり、人のポストを取ってきて、真ん中に置いてというのは非常に難しいだろうなと。私も、こういうパターンはとてもいいなとは思うんですけど。
【樋口委員】 
 私も参加した「京」コンピュータのグランドチャレンジで、今まさにおっしゃったようなことを私も実感しました。今、先生がおっしゃったことはそのとおりだと思うのですが、例えば時限的措置でもよいから、プロジェクトの中で、最初、あるいは途中で、こういうふうなところに集まれるというふうな仕組みを最初から作り込んでおく。それでも十分有効に機能するのではないかと思います。
【常行委員】 
 今おっしゃったのは、黄色い人たちは、それぞれは個別なプロジェクトに予算上は所属していて、だけど、居場所がそこに、例えば統数研みたいなところにいるとか、そういうイメージですか。
【樋口委員】 
 それもあり得ますし、例えば、半年間は短い、基本は左側なんだけど、1年間は右側の形態にいるというようなことも可能なんじゃないか。
【小谷委員】  NSFのかつての長官のリタ・コーウェルさんが「私は数学の予算を2倍にした」とおっしゃっていて、どうしてそんなことが可能だったのかと聞いたところ、数学とほかの分野との連携という項目で予算を付けた、と、予算は多分限られていたのでしょうが、その限られた予算を材料に付けると言えば、ほかの分野は反対する。けれども、数学との連携なら、いろいろな分野が関係しますよというような、それは実際にそうだったと思うのですけれども、そういう形で可能だったと言われました。異分野融合という観点も大切ですし、予算が限られてきている中で、本当に効果的で、みんなが満足する1つの解は、このような共通基盤的予算なのかと思いました。
【若山主査】  この点、ほかに御意見ございませんか。
 例えば本間さん、何か。
【本間委員】 
 民間企業だと予算がトータルで見えているので、極端に言うとエフォートの評価の仕方さえ明確にしていて、うちの会社の場合は、オリジナルの所属と、プロジェクトに参加している、両方からマルチで評価を受けるということが社内合議で決まっているので、両方からエフォートを受けるんですね。かつ、そのときに問題なのは、どっちに本当はその人が一番コミットしたのかという問題もあるので、そのコミットに関しては、本人から一応コンセンサスをもらって、「この比率で良いよね」ということは確認して、花王の場合は評価しています。そういう意味で、民間企業は、そこら辺は、マネージャーが1人で、余り予算も細かいこと使い方までは決まっていないので、柔軟にやれていたり、期途中で人を動かすというのは結構スムーズにできています。やはり問題なのは、予算主義・計画主義でやりすぎてしまうと、当然、途中で人材交流がしにくくなっちゃうので、そこをどうプロジェクト的に扱えるのかというのは、こういう、せっかくアカデミアと産業だとか、アカデミア・アカデミアでやるときの余地としてどこか作っておかなくちゃいけないのかなと、ちょっと客観的には見て思いました。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
 ほかに御意見ございませんでしょうか。
 それでは、きょう先生方に御紹介いただいたことに関してもまた質問が出るかもしれませんけれども、続きまして、数学イノベーション推進の方策に向けた議論に移っていきたいと思います。
 まず、今までの議論を踏まえて、事務局の方で検討内容の取りまとめに向けた方向性の案を資料4としてまとめていただいていますので、粟辻さんの方から御紹介ください。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 資料4を少し御紹介させていただきたいと思います。
 資料4は、これまでの2回の議論ですとか、あるいは本日の御発表資料も参考にしながら、この委員会で少し取りまとめをする際の方向性を整理してみたものでございます。
 まず、「はじめに」というところにありますように、これはこれまで我々、数学イノベーション関係の取組として、いわゆる数学・数理科学と、それからそれ以外のアカデミア、あるいは産業等の研究者が集まって、出会いをするような場、あるいはそこで議論するような場、こういったものの開催を支援するような取組をやってまいりました。
 もう一つは、実際に両者の協働による研究を支援するための研究費ですとか、あるいは研究の場である研究拠点、こういったものが整備されつつあるというのが現状でございます。
 それで、こういう現状を踏まえながら、現状を客観的に少し考えてみたのが、1.のところでございまして、まず(1)が数学・数理科学の重要性が社会全体で高まっているということでございます。これも、昨年まとめました数学イノベーション戦略の中に書かれているわけですけれども、大きく分けると2つあるかなというふうに思っていまして、1つは、ここにありますような、いわゆるビッグデータの入手が非常に易しくなったということで、こういったデータがどういう意味を持っているのかということを知り、それによってデータをうまく活用していくといったことが、諸科学においても、あるいは産業においても、あるいは社会全体にとっても非常に問題解決の鍵を握るようになってきているというのが1つでございます。
 もう一つは、社会において、今、各分野で用いられているようなモデルだけでは必ずしも十分捉え切れないような複雑な問題とか、あるいは現象といったものが非常に増えている。例えば経済とか金融のシステムですとか、あるいはそれに限らない社会全体のシステム、あるいは環境問題、エネルギー問題、サイバーセキュリティ等々、従来のモデルでは捉え切れないような複雑な問題というものが増えてきているといったこと。こういったことから、数学・数理科学の重要性が、従来に比べて非常に高まってきているというのが現状ではないかというのが(1)でございます。
 (2)は、それに対して応えられるような、数学・数理科学側でどのような体制ができているのかということでして、1つは、こういった期待なんかを踏まえて、これまでとってきた戦略的創造研究推進事業、あるいは合原先生のFIRSTのプロジェクト等々といった研究費のプロジェクト、あるいは研究拠点の整備、こういったことを通じて、諸科学とか産業などと協働できる数学・数理科学の研究者がある程度育ちつつあり、その間のネットワークですとか、あるいは連携していく上でのノウハウ、人脈なども整備されつつあります。
 特に、戦略的創造研究推進事業などで、領域会議というものが一定の頻度で行われているわけですけれども、こういったものの開催を通じて、日頃は別々の分野の別の問題に取り組んでいるような数学者が集まって、各自が用いている数学的な手法とか理論について共有して意見交換し議論するといったことが非常に有益であり、そこで新たなアイデアを思い付いたり、新たなアプローチ法を考え付いたりするというようなことがあって、非常に有効だということが実証されているというような事情もございます。
 次のページに行きまして、そこまでが現状ということですけれども、現状にどんな問題点があるのかということを少し整理したものが2.でございます。
 1つは、いわゆる数学の外から見た場合にどう見えるかという問題でして、一言で言うと、なかなか外から特に数学者自体の姿が見えづらいですし、あるいは諸科学や産業との連携のノウハウなんかを持っているような人がどこにいるのかというのもなかなか見えないということでして、要は、誰に相談すればいいかなかなか分からないというのが1つございます。もう一つは、相談するにしても、どの程度具体性のあるような問題を相談すればよいのものなのかといった相場観みたいなものもなかなか分からないといった問題があります。
 2つ目は、その一方で、先ほど申しましたように、連携のノウハウなどを持っているような数学・数理科学の研究者が育ちつつあるわけですけれども、こういった研究者の方々がもう少し組織的に活動する、そういった活動を支援する仕組みとか体制というものは、現状では必ずしも十分ないということでございます。具体的には、例えば数学・数理科学を活用することでうまく解決できそうな問題というものをもう少し広く社会全体の中で検討するといったような場とか仕組みがないとか、あるいは諸科学や産業などから問題を受け付けて、それをうまく数学者につないでやるといった仕組みがない。こういった問題の解決に向けて、特定の数学者だけじゃなくて、いろんな専門分野の数学・数理科学の研究者が集まって意見交換し議論するような場とか仕組みも必ずしも十分提供できるものはない。さらに、こういうところである程度有効だということが実証されたような数学的な理論とか手法を数学の外、いわば連携相手となるような諸科学とか産業界に向けて数学の有用性を示すような組織や取組というものも必ずしも十分ではない。
 最後の、3つ目の○は、これは、先ほどちょっとありました、プログラミングとかソフトウエアの関係でして、いわゆる数学・数理科学研究者だけでは必ずしも十分ではないところがあって、問題解決に向けて数学的なアイデアを出すことはできても、そのアイデアを実際に現場で使えるようにしてやるという意味では、数学者だけでは困難な点があるということでございます。
 こういった問題を解決する上で何が必要なのかということが3番の必要な方策というところに整理されておりまして、(1)がどういう機能が今後必要となるのかという部分でございます。
 AとBに分けて整理していますけれども、Aがいわば入り口の部分でして、数学・数理科学を活用して解決できそうな問題を明らかにするということと、それをうまく数学者につないでやるというふうな機能ということでございます。下の●が3つありますけれども、1つ目、2つ目の●は問題をどううまく明らかにしていくかということでして、1つ目の●の方は、いわば数学の活用で解決できそうな問題を社会全体の中からうまく見いだして作ってやるというような機能。2つ目が、諸科学・産業界が抱えている問題の相談を受けて、それをふるいに掛けて、適切な数学の問題にしてやるというような機能。3番目の●が、こういった1番目、あるいは2番目で明らかになってきた問題の解決に取り組むのにふさわしい数学・数理科学研究者を紹介する、そういった人につなぐ機能ということでございます。
 最後のページ、Bが、いわばこのAで明らかになった問題の解決に向けて数学や数理科学の研究者が研究をするわけですけれども、それを支援する機能として、3つに分けて整理をしております。
 1つ目が、いわばこの数学者の活動を支援する機能ということで、こういった諸科学・産業等の問題に取り組む数学・数理科学研究者をきちんと配置するということと、彼らが一定の頻度で集まって、自分たちの抱えている問題解決に向けて使っている数学的な手法とか理論を共有して議論するような場を企画運営するような機能ですとか、あるいは世界トップクラスの研究者と国内の若手をはじめとする研究者が一定期間滞在して、互いに触発されて新しい着想につながるといったような環境を提供するような機能が必要ではないかということです。
 2つ目は、数学的なアイデアを実際に使えるようにしてやる機能ということで、具体的にはそういったアイデアをプログラミングし、ソフトウエア化できるような人材を配置するということでございます。
 3つ目は、こういった1つ目や2つ目の取組で、諸科学とか産業等の問題解決のために使えるというふうになってきた数学的な手法とか理論をうまく整理して、外に向けて分かりやすく発信するような機能、これも個々の努力だけじゃなくて、少し組織的にできないかということでここに書いています。
 (2)は、こういった(1)の機能を備えた組織体制のようなものが必要ではないかということで、そういうのを設けることによって、上記の2.に挙げた問題を解決する上でそれが非常に有効ではないかということと、それから、それによってどういう効果がもたらされる、期待できるのかということで、2つに整理していますけれども、1つは、こういった諸科学・産業等の問題の解決に取り組んでいる、あるいは取り組もうとしている数学・数理科学の研究者集団といったものを外から見えるようにしてやることができる、見える化が1つ。もう一つは、こういったいわゆる純粋数学の研究をミッションとするのではなくて、諸科学や産業の問題解決というのをミッションとする数学者がいるという、そういう新たなミッションの明確化というのが2つ目でございます。
 こういった効果を通じて、外から相談するにも見えやすくなるとか、あるいは数学研究以外の新たな評価軸ができるということで、数学イノベーションの一層の加速につながることが期待できるのではないかという形で整理をさせていただきました。
 最後のところにちょっと小さい字で書いていますけれども、ここには必ずしも十分に含まれていない人材育成の在り方などに関する取りまとめの方向性につきましては、次回以降、また審議をやっていただきたいと思っております。
 以上でございます。
【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
 人材育成は、いつでも深く関わっていますので、なかなか分けて議論できるというわけではないんですけれども、一応、きょうはこのように整理してくださいました。
 それで、現状についての認識、それから課題について、一つ一つが、全て重さが同じとは限りませんけれども、必要な方策、それから必要な体制について、ここでは方向性を御議論いただきたいと思います。きょう、委員のほとんどの先生方に御出席いただいていることもありますので、全ての方から是非御意見を頂戴したいと思っています。どの方からでも構いません。今後、必要となる機能、どうすべきか、それから必要な体制はどうすべきかということを念頭に置きながら御意見を頂ければと思います。
 どなたからでも、どうぞ。御指名をするということもございますが。
【本間委員】 
 恐らく必要な体制とか必要な方策の部分を、今お聞かせいただいた中を考えると、どちらかというと、ここの中の文章はアカデミアサイドの方が主体的に結構動くような構造の文章に見えます。先ほどの4つのIが必要だというところで言うと、インタラクティブだとかインターフェース部分というのは相互乗り入れが必要だと思っています。その意味で、企業側の人で重要度を理解している、又は企業サイドのニーズをいろいろな視点から理解している人だとか、アカデミアサイドのことを理解している人。両者が一緒にいられるような人がいて、産業界・アカデミアが集まれるちょうど中間地点とかがないといけないと思います。逆に言うと、その中間地点がそれが問題発見の場でもあるだろうし、最終的なプレゼンの場にもなると思うのです。ある意味、嫌な言い方をすると、アカデミアの行いたいプライオリティーと民間企業側のプライオリティーも少し違うので、そういうことも含めると、それも含めたプレゼンテーションができるようなフィールドというのは双方にとって良いのだろうなというふうにちょっと思った感じなので、もうちょっと民間側への要求のコメントを入れても大丈夫なんじゃないかなというふうに思いますね。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
 先ほどの樋口先生の、最後にありました3つの谷ですかね、そういうことも非常に関連しているという気がいたします。
 ほかに御意見、頂けますでしょうか。
 今井先生、どうですか。
【今井委員】 
 合原先生や樋口先生のお話の中で幾つかの成功例が見えていたと思うのですが、なぜそれが普通にはうまくいかないのか、統数研や合原先生のところだとなぜうまく行ったのかをお聞かせいただきたいと思います。統数研とか合原先生のところだと、企業からの問題が来て、そこでみんなで解決してという仕組みが出来上がっているのはなぜなのでしょうか。どこがキーポイントなのでしょうか。
【合原委員】 
 僕らの場合は、割と大規模なプロジェクトで、そのプロジェクトの間は結構人材がそろっていたというところですね。ただ、それは期限が限られているので、それを継続できないという問題があって、やっぱり継続できる組織がないと、という感じには思っていましたね。逆に言えば、そういうのが作れればいろんな問題が解決できるような気はしていますけど。
【若山主査】 
 1つには、合原先生のところにしても、期限付であるといっても1つの組織みたいなところがあるわけですね、5年なら5年とか。そして、ほとんどお金は人の雇用とかに使われていると。それは、目指すべき体制の1つだと思いますし、統数研はそれ自身が組織化されている、だからできるんだというところがあるのかなと思っています。
 いかがでしょうか。
【合原委員】 
 継続する仕組みとして今ちょっとやっているのは、さっきの新しいバイオマーカーに関しては、JSTが今その知財の整備をするようなプロジェクトをやってくれていて、それができると、企業とコンソーシアムみたいなものを作って、そこでいろんな企業と一緒に新しい動的ネットワークバイオマーカーの発見とか、その応用の仕方とか、それから創薬にどう結び付けるかとか、その辺は、あのテーマに関しては少し方向が見えてきているんですよ。そういうやり方で継続するということは、いろんな企業が興味を持ってくれるテーマに関してはできると。
【若山主査】 
 さっきおっしゃっていた、エネルギー分野で、再生可能エネルギーが出てくると、どうしても不確実性というのを考慮してやっていかないといけないので、同様な問題が、とても大きな問題がそこにもあるような気がしますね。
 どうでしょう、國府さん。
【國府委員】 
 まず、統計数理研究所の活動は、データというものが一番大きな対象で、それはデータというのはどこからでも来得るので、だから、統計数理研究所の、今お話しいただいたのを見ていてそうだなと思ったんですけど、それに対応できるような体制をとるということが有効であり、しかも必然でもあるという感じだと思うんですけど、数学は、全部を見ますと、そういうふうにはまだなっていないんじゃないかなと思うんですよね。そういう意味で、この統数研の最後の3つの谷というのを見ながら思ったんですけど、最初の谷のところの数学の見える化というところに、要するに、問題があったときに、それをどういうふうに数理的な問題だと認識するかというところが多分すごく難しくて、それはインターフェースとかというところの人ではできない、だから、そこに絶対2段階あって、それを数理的な問題だと考えた上で、それをどういうふうに数理的に定式化するのか、定式化できたら、ある意味で、逆に言うと、解決の方向が見えたから定式化できるという部分もあると思うんですよね。そういう意味で、ここのところが非常に大きく、かつ、もうちょっときちんとした構造がないといけないところだなと思っていました。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
【大島委員】 
 いろいろお話を聞いていて、数学を使えるツールにするというのが、この第2の谷ですが、1つ、先ほど数学の見える化という話がありましたが、使える化というのも非常に大きな問題です。使える化というのは、使う側がどのように対応するかという、いわゆる横軸の多様性が、出てきます。それをある程度一般化しながら、様々な横展開をすることにおいて、数学はその基盤を持っていながら、なかなか難しいところがあると思います。今後どのように解決していくのかということが1点です。
 2点目は、先ほどシステム、特に人材流動の意味でのシステムというのが、なかなか、各セクション及びテリトリーがある中で、お金及びエフォートが、だんだん柔軟になってきているとは言うものの、人材の流動化が進展していない。今クロスアポイントメント等が導入され、推奨しようという動きがありますので、それを更に促進化することによって、1つの採用にいろいろな方が入っていけるということになり、先ほど言った1点目の使える化ということへの横断的な実際のツールとして――「ツール」という言い方がいいのかよく分かりませんが、もう少し使えるような方向にも行けるのではないかとも思います。システムとして、組織も含めてどのようにやっていくのか、言うのはやすしですが、なかなか難しいと、先生方のお話を聞いて思いました。
【若山主査】 
 今の大島先生のお話について、高木先生、恐らく御意見があると思うんですが。
【高木委員】 
 今の取りまとめの方向といいましょうか、ここに書かれていることは非常にもっともで、これが実現すればいいなとは思うんですが、ただ、具体的にどうやってそれを実装するのかと考えると結構難しいのかなという気もします。例えば、必要な方策の最初に「数学・数理科学の活用により解決できる問題を明らかにして」って、これは主語が誰なのかということを考えた場合に、誰がするんだろう、その人は自分が解きたくてやるのか、それとも数学者につなぐためにやるのかと考えていくとなかなか難しいなという印象を持ちます。その人がそういう問題を明らかにしたら、でも、業績にはなりませんし、キャリアパスにもつながらないということで、そんなボランティアがどこにいるのかということもありますし。
 あと、私も情報系から生物に入ったときには、余りにも未定義なテクニカルタームが多いんですね、それでもううんざりしちゃうんですね。そこの、だから、先ほどの樋口先生のお話にあった谷を越えるというか、それのインセンティブなり、そういうものを誰か引っ張ってあげる人なり、そこのところの実装をきちんと考えておかないと、理屈としてはこれは非常にいいと思うんですが、難しいのかなというふうに思いました。
【若山主査】 
 そういう意味でも、合原プロジェクトではないですけれども、一定の大規模の何かが、必要であるんじゃないかと、そう思います。それは、この委員会の提言の方向の1つだというふうに考えていますけど。
 舟木先生、数学側から。
【舟木委員】 
 ちょうど1年ぐらい前ですかね、日本数学会でドクターを卒業した人にアンケートを行った結果を、ここの委員会で紹介させていただきました。そのときに、全国的にアンケートをして、ドクターを持っているようなほとんどの大学から回答を頂いたので、150人ぐらい回答があって、先ほどの本間先生のお話がありましたが、企業の研究職に行ったのは6名であったというのが非常に私も印象に残っています。結局、数学の学生は知らないといいますか、いろんなことがあるということを知らないので、例えば先ほどの樋口先生のようなお話の、一旦そういうところの枠に入っていって、それでいろんな人とインタラクション、先ほどの4Iの中にありました、インタラクションするというようなことになればいいんですけれども。数理科学研究科の学生たちを見ていると、数学者として非常に優秀な学生が多いわけですね。ただ、その人たちが本当にうまく就職できているかというと、そうでもないですし。そうすると、人材としては非常に豊富にあるんだけれども、有効に生かしきれていないということを非常に強く感じます。
 それは、やはり我々の方にも問題があって、こういう活動をもっと学生たちに知ってもらって、有効にそれに、目を向けてもらうというか。さっきの体制作りということも非常に関係してくると思うんですね。その組織作りというところでも、人材育成は次回のお話しということがありましたけど、これは非常に大事なことですから、そういうことに向かって動くように、是非数学会としてはそういうことをお願いしたいなというふうにアンケートした結果では思います。
【若山主査】 
 どうもありがとうございました。
 人材育成のところを、今、避けているわけじゃないんですけど、次回ということになりますが。やっぱり優秀な人たちがたくさんいるのに、その人たちが十分活躍していないというのはもったいない。多分、皆さん、一致したところだと思います。
 長谷山先生。
【長谷山委員】 
 今年の3月に、RU11とケンブリッジとの意見交換会がありました。たしか若山先生も御出席であったと記憶しております。そのときに、イノベーションに貢献する研究機関としての発言という表現や、産業貢献の御紹介がありました。その中で、教員の人事に、産業界など外部からの委員に積極的に参画いただいているとの説明がありました。また、論文の本数だけで査定を行っていないとの説明もありました。
 なぜ、私がこのようなお話を紹介しているかと言いますと、樋口先生の御説明は、統計数理研究所と言う一つの組織のお話ではありますが、大変に良い形態であると感じたからです。英国のケンブリッジ方式とは異なりますが、日本に適した外部との連携の方式と感じています。一方で、完成度が高い体制の例が存在しているのに、我々が前進できない理由はどこにあるのだろうと、やはり考えざるを得ません。もしかすると、ビジョンの共通認識やその実現のための戦略の検討が、企業と同様に実は必要なのかもしれません。
 それと、『人は形にして見せてもらうまで何が欲しいのか分からない』という言葉は、非常に良く知られている言葉ですが、既存の部品を組み合わせてできる何かではなくて、新しくて優れた何かが欲しいのですから、先ほどお話ししたケンブリッジの例や、本間委員がおっしゃった、企業サイドの参画体制などの相互誘発作用が効果的な一つの方法と思います。これは、樋口先生のお話の体制にも見ることができますので、それを他の数学の分野にも拡張して、産業会や、情報系、社会工学系など、多様な分野から参画が可能な柔軟な体制が推進される発想が必要なのかもしれないと思いました。
 以上です。
【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
【森委員】 
 お二方、樋口先生と合原先生は非常に連携の実績のある方なので、伺っていてなるほどなと思いましたし、まとめの中でも非常にスムーズにまとめておられました。私のように連携の実績のない人間から見ると、特許とか知財とかというのは気になるのですけれども、そういうところは既によく御存じであり非常にきれいにまとめておられるようで、逆に気になりました。例えば、本間委員がおっしゃっていた、企業から踏み込んだお話が出てきにくい理由の1つは特許だとか知財とかじゃないかなと感じます。同様に、取りまとめの方向性の案もすごくきれいにまとまっているなと思って拝見しているんですけれども、やはり、「知財」とか「特許」とかという「危険」な言葉に触れていないように見えます。どこかでガチンコ勝負というか、何らかの形で触れていただく方が安心する気がします。
【若山主査】 
 ありがとうございます。そのことに関しては、先ほど本間さんがおっしゃったような、アカデミアサイドだけじゃない視点というのを組み込んでいくということが役立つのかなというふうに思っていますけれども。
 どうぞ。
【合原委員】 
 特許に関してなんですけど、企業との関係ではないですけど、我々、FIRSTのときに、数理のプロジェクトなので、特許は余り考えてなかったんですよ。それでも中間評価のときまでに5件出していたんですけど、突然、総合科学技術会議の先生方に、特許が少ないと怒られて。中間評価まで何も言われてないんですよ、特許を出せとも言われてなくて。それで、急に怒られたので、特許事務所の人に特許セミナーを開いてもらったりとか、相談会とかをやったんですよ。そうすると、数理研究なんですけど、結構、特許は出せるというのがその研究員の人たちも分かって、最終的に31件、特許を出せました。数学の分野でも、応用寄りの話だといろいろ特許が出せるので、その辺は、数学の方は余り御存じないと思うんですよね。企業との連携という話ではないんですけれども、結構ノウハウがあって、その出し方とかを学ぶと結構得るところが多いですね。
【森委員】 
 そういう場合、特許を出すのは、主体はどこになるんですか。
【合原委員】 
 僕らの場合は、JSTが支援機関だったので、JSTが全部面倒を見てくれました。また、その予算が結構問題で、そこは解決しないといけませんね。
【本間委員】 
 逆のことを言うと、予想以上に民間企業は特許に縛られているわけでもないのです。というのは、特許権を獲得するというのは、過去においては、競合関係において特許を保有していた方がビジネス上優位だと思って取っていた。ところが、今やろうとしていることに関しては、しばらく参入するプレーヤーが少ないとするならば、逆に言うと他の企業にも参入してほしいわけで、特許を公開するというステップをとっている企業もなくはないと。だから、必ずしも実業界、産業界で何か知的なことが絡んだらすぐに特許に絡むかというと、それはケース・バイ・ケースなので、そういう意味では、先ほど若山先生がおっしゃったように、多分、ケースだとか事業によって、そこは逃げられるものもあるし、協議しなくちゃいけないものがあるというのは出てくると思います。
【若山主査】 
 そうですね。また、費用に関して言うと、維持費用というのも大きいですから、しかも、国際的な特許ということになってきますので、重要な問題がたくさんあると思います。
【樋口委員】 
 統数研の特許戦略は、大別すれば2つに分けられて、従来どおりにきちんとがっちりやるというものと、産業界もアカデミアもお互いに寄って、オープンイノベーションで、ある程度オープンなままでお互いにやってみましょうと。そこでもってお互いにウィン・ウィンになるんだったら、むしろやってみましょうという機運が、今、産業界に非常に高まっているというふうに私は感じています。そういうところにおいては、従来どおりの特許戦略ではなくて、オープンイノベーションでやるんだということで、それを会社側が納得できれば、そういうものが広がっていけばいい方向に行くと私は思っています。従来どおりの特許戦略は、先生方がおっしゃったように、非常に維持費にお金が掛かる、さらには国際特許だとものすごいお金が掛かるので、これらの2つをうまく組み合わせていきながらやっていけばいいと思います。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
【森委員】 
 ひっくり返した質問ですけれども、つまり、特許にするということは、ある意味、公開するわけですよね。ものによっては、数学を使って、それは本当に使われているんだけれども、どう使われているかというのは、特許にせずに、むしろ隠してしまう、そういう場合も結構あると伺っています。それに関しては、企業の方はどういうふうに思われるのでしょうか?
【中川委員】 
 おっしゃるとおりで、ソフトウエアの特許というのはまねされても分からないんです。権利侵害が容易じゃないということで最近はソフトウエアの特許は出さない方向ですね。
【森委員】 
 出さないんですか。じゃあ、それも問題なわけですね。
【中川委員】 
 それは問題です。昔は出して、それを公開して、論文を出しましょうということだったんですけれど、今はそういうわけにいかない。無断でまねをするというモラルの問題だと思うんです、権利侵害は容易ではありません。
【若山主査】 
 これはまた人材育成に非常に関係してきて、若い人の評価とかですね、そこが。
【長谷山委員】 
 少しよろしいでしょうか。
【若山主査】 
 はい。
【長谷山委員】 
 もちろん、モラルだとか倫理は大変に重要であることには違いはありませんが、一方で、デジタル化とネットワークで世界中につながる現状では、例えば、オープンジャーナルに掲載されると、似たようなものが出てきます。以前の会議でも、本間さんにお尋ねしましたが、共同研究やその準備のための議論で、アイデアを出し合うときに障害があったりするのでしょうか。
【本間委員】 
 そこに関して言うと、多分、きょう皆さんが、御議論していることにも関係していて大企業型の研究スタイルとスタートアップ型の研究スタイルというのは、今、かなり分かれてきていると思います。大企業研究スタイルは、その研究に関して装置予算はたくさんあるわけです。ただ、新しい領域の研究テーマを採択できるのかというと、ビジネスに直結しないとできないということになります。そうすると、意外と基盤研究がおろそかになるわけですね。この理由から、多分、大学だとかアカデミックに対する期待値が相当高いと思います。そこに対するアイデア出しって、お互いアイデアを出しているけど、企業側って、フレッシュな新しいテクノロジーやサイエンスの情報をもらっておきながら、アイデアを出すというのは、どちらのアイディアか分解できるのかという議論になります。これを解決するためには、完全な共同作業と認識しないと、お互いのリソースを持ち出しているわけでもあり、進まないと思います。この点についての理解はかなり会社の幹部にあると思います。
 ただ、一方で、今、長谷山先生がおっしゃったように、じゃあ、これを、短距離走の速さで、長距離走の距離を走るように会社を維持するときに続けられるのかというと、それは若干問題があるので、それをさっき他の委員の先生がお話されたように、特許で押さえた方がいいのか、それとも論文で公知化してしまって、ほかの人たちのモラルに期待して参入しないようにするのかということに関しては、明確に言うとまだ企業内での判断が済んでいないということですね。
【中川委員】 
 僕の感覚では、意見出しの段階で、できるだけ早く数学の人には論文を出してもらって公知にして、それをベースに一緒にやっていくというのがお互い一番幸せ。数学のアイデアは、論文に出しても、普通の人が読んでも分かりませんので、企業と大学にとってウィン・ウィンだと思います。
【若山主査】 
 中川委員からいつもそうおっしゃっていただいて、有り難く共同研究も進めて、九州大学ではやっておりましたけれども。
【中川委員】 
 それと、純粋数学の人の寄与をどうするかという、前回の議論でもあったと思うんですけど。僕の個人的な考えでは、応用系の人たちに関しては、支援も行われておりあとは自分の力量次第でどうでもなるかなと思っています。例えば、会社のテーマにしても、応用系の場合はテーマがしやすいので、我々もテーマができれば予算がつくので継続できるんですが、純粋数学の方はテーマ化が難しい。すばらしい理論があってもテーマ化して利益につながるのが5年先、10年先なのかどうか分からない。けど、絶対これはいいというのは、何となく予感はあるんですね。そういう場合に、純粋数学の人との連携をどうするかというところを、システムとしてどうすればいいのかというのは数学イノベーション委員会でも議論をしてきたと思うんですけれども、解決には至っていないですね。
【若山主査】 
 今おっしゃったことって、先ほど國府委員がおっしゃったように、どういうふうに解くかというか、先を見て問題がフォーミュレイトされていくという、そういうところがキーになるのかなと思うんですけれども、どうですか。
【中川委員】 
 イノベーションを本当に目指すのならば、僕の感覚だと、現実世界だけで考えていても限界があると思っています。そうだとすると、抽象の世界に思考を飛ばして、そこで考えたものを現実世界に持って来るということをしなければ駄目かなと思っています。それを体制としてどういうふうに維持するかという仕組みがないんですね。
【小谷委員】 
 持続的なイノベーションと破壊的なイノベーションとよく言いますよね、どれぐらいの割合で破壊的なイノベーションにリソースが割けて、また、どれぐらいの成功率、どれぐらいのタイムスパンで計画・実施できるのでしょうか?
【中川委員】 
 成功率を問わなければ、数学の場合には破壊的イノベーションを期待します。
【小谷委員】 
 数学が本当に貢献できるのはその破壊的イノベーションだと思うのです。破壊的イノベーションの仕組みを作らないなら、こういう議論をする必要もありません、破壊的なイノベーションをどうやって起こすか、そのためには、今、国がどのようなアクションをとるべきかを考える必要があります。
【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。
 先ほどもどなたかから御指摘ありましたけれども、基盤的なところの部分というのは、ものづくりの会社を見てみますと、大きな会社でも中央研究所で非常に基盤的な研究をやるというのはだんだんなくなってきていますよね。ですから、そういう意味で大学に対してそこに関心があるのだろうと。それが、今、議論になっている、例えば卓越研究員とかのところに「産」という文字が入っていたりするということだと思いますし、国がこれだけお金にきゅうきゅういっている中で、次に研究費、そして、それは研究機会を与えるものですから、そういうものというのは産業界と一緒に、オープンイノベーションと言っていいかどうかは分からないですけど、最初のアイデアのところから議論していくという、例えばそういう体制を作っていくという、その方策はすごく大事なのかなと思います。ほかの分野でもそうだと思うんですけれども、そこは、数学・数理科学という面から何かあるんじゃないかと思うんですけれども、何か御意見いただけますでしょうか。
【常行委員】 
 意見というか、ちょっと規模感のイメージが、これを読んでいまして分からないので、多分、今後、検討が要ると思うんですけど、統計数理研究所さんみたいなサイズで、さっき御説明いただいた活動をしているというのは非常に印象的で、前回までの議論で、ここで問題になっていたこと、やらなきゃいけないといったところのかなりの部分をやられているような感じがするんですけれども。でも、この委員会として考えなきゃいけないのは、もうちょっとサイズとしては大きな、日本全体とか数学会全体とか、そのスケールを考えたときにどういう体制で今みたいなことができるのかというのはまた難しい問題になると思うんですね。そこの具体化のところをもう少し考えないといけないんじゃないでしょうか。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
【樋口委員】 
 私のスライドにも少し入れさせていただきましたけど、今、先生のおっしゃった規模感についてです。例えば一定の拠点みたいなものも、やっぱり得意なところと不得意なところがあるので、それをお互いに補完しあう、あるいはコーディネーションするような機能というのも必要じゃないかと私は思います。
 あと、今の組織の話じゃないですが、きょう最初に示しました4I4Iにかかわる話で、長谷山先生もおっしゃっているように、私たちの生活行為というのがもうどんどんデジタル化されて、瞬時につながっている。生活行為がリアルとは別のところでつながっている。そうした状況では、基礎としては、インテグレーションとか、それをきちんと深めることが現代的な基礎になるというふうに思うんですね。ですから、従来のサイエンスのパラダイムにおける基礎ではなくて、現代社会、私たちの将来、10年後、20年後、激変するはずなんですね。そういうときに必要な基礎の概念というのは、もうちょっと今までのものとは違って、インタラクションとか、インテグレーションとか、そういうものではないかというふうに少し思いました。
【若山主査】 
 ありがとうございます。 
 ほかに御意見ございませんでしょうか。
【森委員】 
 意見じゃなくて、質問なんですけど、今、4I4Iとおっしゃったんで。さっきの説明では、4Iの説明はしていただいたんですけど、4I4Iという、2回繰り返すのはなぜ?
【樋口委員】 
 4つのIが、イノベーション……。
【森委員】 
 最初、4つのIで。もう一回4Iがあるのはなぜ?
【樋口委員】 
 フォーというのは、for。ちょっとした言葉の遊びです。申し訳ございません。
【森委員】 
 なるほど、そういう意味ですか。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 1点だけよろしいでしょうか。
 合原先生の御発表で、いわゆる横展開というか、水平展開というか、数学のよさを一番表せるのは、ある分野で確立したモデルがいろんな分野に水平展開できることだというお話がありましたけれども、これをうまく促そうと思ったときには、どんな仕組みや、あるいは、どういう体制みたいなものがあるとよろしいですかね。
【合原委員】 
 難しいんですけど、樋口先生がおっしゃったように、T型の人たちがある程度集まっていて、数理的な基盤は理解できるんだけど、応用分野は違うという、そういう場があれば、ある原理がほかの分野にというのは割と発想しやすいですよね。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 1人でぽつんといるんじゃ、なかなか駄目だということ。
【合原委員】 
 そういうふうに頑張ってくれる人もいるんですけど、なかなか個人でやるのは限界があるので、組織でやるしかないかなという感じがします。
【樋口委員】 
 私は、合原先生のプロジェクトも、ある意味、合原先生という能力と才能に依存した、属人的形態だったと思うんですけれども、今後の世の中のいろんな激変を考えると、もっと体系的にシステマティックにそういう人材をきっちりと作っていく。そこを今やらないと、この国は今後どうなっていくのか非常に不安なので、ある程度体系的に組織的にやっていくのが重要じゃないかと思います。合原先生とか、いろいろこれまで活躍された先生方というのも、ある意味、その仕組みを、皆さん、似たようなところに到達されているのかもしれないけど、これは属人的だったと思うんですね。その先生方の先見性、それらを集約して、仕組みとして実現していくようなときに来ているんじゃないかと思います。
【若山主査】 
 ありがとうございます。
 さて、先ほどから御指摘になっているように、現代の基礎というのが、システムというか、そういうところに及んでいるのですね。きっとおっしゃりたいことの1つは、例えば要素技術に対する貢献というのはもちろんこれからもずっとあると思うんですけれども、それをある種のビジョンを持って、システムだって不確実性がいつでもあるわけですから、そういう中をもちゃんと見据えてやっていくということのように理解しました。大体そういう感じでよろしいでしょうか。
【樋口委員】 
 はい。
【國府委員】 
 その横展開というのは、多分、数学的な、数理的なアイデアがどれくらい抽象化されているか、普遍的な形で定式化されているかというのに大きく依存していて、ですから、抽象度が高ければ高いほど、そういう意味では、いろんなところに自然につながっていけるのだと思います。もちろんそういうことを共有できる、つまり、情報を共有し、ディスカッションできるような場があることが大事なのは当然としてですが。先ほどの破壊的なイノベーションの破壊的のレベルにもいろいろあるとは思いますが、抽象度の高い普遍的な形にまで高められた数理的なイノベーションができることが大きな横展開を促進する原動力かなというふうに感じます。
【若山主査】 
 そうですね。そこだと、論文を書いても、先ほどの中川委員の御意見じゃないですけど、心配はないということですね。
 ほかに。
【合原委員】 
 國府さんのおっしゃるとおりなんですけど、そのときに注意しなきゃいけないのは、抽象化することによって横断性は出てくるんですけれども、水平展開するときに、個々の分野ごとに、その抽象化したものをもう一度具体化してその分野に落とさないといけないんですね。そこの部分をきちんとやらないと、本当に使えるようにならないので、そこもまた別の問題がある。
【國府委員】 
 ソフトウエアというか、インプリメンテーションの部分というのも、もちろん重要だということですね。
【若山主査】 
 前回の委員会でも、そこへの敬意というか、評価というのをちゃんとやっていかないといけないということで、そうすることによって、逆に言うと、今、推し進めたいと思っていることの機会が生まれてくるんだというふうに思います。
【長谷山委員】 
 実際に問題を抱えている方は、抽象化したものが自身の問題の解決に適していると想像することは難しいのではないかと思います。合原先生がおっしゃった抽象化したものを、もう一度、実際の問題の分野に移して具体化することが必要だと思います。樋口先生に御説明いただいたマトリックスが、その1つの解決法と感じました。実際に問題を抱えている現場と間を埋める技術やシステムが必要な時に、属人的ではない支援の方法が必要になると考えているのですが、それは、今までの議論と合致していると思ってよろしいでしょうか。
【國府委員】 
 先ほど発言をしたときに持っていたイメージは、例えば画像認識みたいな問題で、我々人間は有限の点集合でもそれが円周状の形や球状の形をしているということが認識できるわけですが,そのときに、そういう画像認識の問題を、例えばホモロジーという数学のアイデアを使うことで人間の認識と整合する判定ができるわけです。それは、要するに、一定の数学的な形で、画像データが持っている情報を取り出す仕組みであるということですね。ホモロジーという図形の構造を判別する数学的手法をそこに持ち込むということがある種の抽象化の部分で、それがソフトウエアとともに提供されれば、それだったら、別のこういうところにも使えるという発想の展開が、比較的容易に行くのではないか。そういう意味で、発端はもしかするともっと違うところから来ている問題でも、それを例えば画像認識の問題と捉え、更にそこにホモロジーというような数学のアイデアを使うというような段階までもってくるということができると良いのではないか、そういうイメージで話しをしました。
【長谷山委員】 
 先生の御指摘は、正しいと思います。最近は、画像認識技術が実際のサービスで用いられています。ところが、更に望まれるものは、先ほど小谷先生がおっしゃった破壊的イノベーションだと思います。例えば、実際に我が国においては、建設後50年以上経過する道路構造物の割合が今後20年間で急激に増加することが報告されています。また、現場の技術者が蓄積している維持管理のノウハウを少しでもシステムで置き換える必要があると言われています。それが実際にできるかどうかは、現場と数学の間を埋める人材、例えば、その問題の解決を研究なさっている企業や大学の研究者や開発者の参画が必要だと感じている、と言うのが、私の今までの発言です。
【中川委員】 
 僕の経験では、その辺の抽象化の作業のところを、数学の人と諸科学、産業の人とが一緒にやれば、そこは比較的簡単にできると思います。
【小谷委員】 
 リニアモデルではもう間に合わないと言われているので、階層的に人材を並べていくよりは、純粋数学者が材料科学者と一緒に話すのが効果的です。専門分野の問題ではなく、ちょっとした話し方の工夫で通じることもあります。私は、この3年間で話し方を完全に変えました。数学では、まず一般論を話して、そこから順々に砕いていって、最終的に応用としての具体例を並べますが、この話し方では材料科学者には聞いてもらえません。まず具体例を、こんな例もこんな例もこんな例もあって、こうなりますよと言うと、数学の部分も興味をもって聞いてもらえる。若い人はもっと早く学べると思います。一緒にやっていれば結構通じるようになるものじゃないですかね。
【長谷山委員】 
 小谷先生は、ピュアマスの人材をどんどんと育てて、学部を増やすことで、産との連携が加速できるというお考えと理解してよろしいでしょうか。
【小谷委員】 
 数学の学部・大学院は既に全国にあり、しかも日本はすごく高いレベルで優秀な人もたくさんいるので、そういう既存のリソースを活用し、ほかの分野の人と数学が出会ってディスカッションする場がたくさんあると良いと思います。実際、数学は、物理からいろんな刺激を受けて発展してきたこともあるので、自然界からの刺激だけでなく、工学的な問題とか社会的な問題から刺激を受けることによって数学自体も発展すると思います。
【長谷山委員】 
 実際に問題解決方法を見いだそうとしている現場と、数学者をつなぐ、橋渡しの役割を担う人材や、産業化を担う人材のお話ではなく、ピュアマスの人材について主張なさっていると理解してよろしいでしょうか。
【小谷委員】 
 ここに書かれているようなことが大切だと私は思っているということです。そういう人が、橋渡し機能を果たせるような場が必要だということです。
【長谷山委員】 
 分かりました。
【若山主査】 
 一緒に何か作業をやっていくという機会というのが重要で、それに対しての関心を向けるということが重要で、しかも、私たちの立場から言うと、数学はよりそういう場面が出てきていると。ですから、例えば数学の学部を出た人が修士、ドクターで違うところに行くとか、そういうのが増えていくということもすごくいいことじゃないかと思っています。
 先生、何か最後。
【樋口委員】 
 小谷先生は非常に重要な御指摘をされたんじゃないかと思います。それは、次回、人材育成に関わるところですけれども、小谷先生の話は、これまで演繹的に物事を、つまり一般論から具体化するというふうに話をされていたけど、今は逆にしていると。いわゆる帰納法なわけですね。事例を多く学ぶことで、その後、人々は何かモデル化したり、抽象化する。そちらの方がうまくコミュニケートできるというふうにお話しされました。産業界とか異分野と付き合うときには、抽象から具体的にとか、あるいは具体から一般的にというふうな、いわゆるメタなところの考え方、そういうところもしっかりと考えていかないといけないかと思いました。
【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
 時間がちょっと押してしまいました。
 次回、ちょうどつなぎになる人材育成のことも議題にしたいと考えています。
 最後、資料5がありますが、粟辻さんの方から少し。
【粟辻融合領域研究推進官】 
 資料5にありますように、次回は8月6日の木曜日の13時半からの予定でございます。
 それと、事務局から、議事録につきましては前回と同じようにさせていただきます。資料につきましては、机の上に置いていただければ郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。
【若山主査】 
 それでは、これにて委員会を終了したいと思います。どうもありがとうございました。

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