数学イノベーション委員会(第15回) 議事録

1.日時

平成26年3月27日(木曜日)13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室
東京都千代田区霞が関3丁目2番2号

3.議題

  1. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  2. その他

4.出席者

委員

若山主査、合原委員、伊藤委員、小谷委員、北川委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員

文部科学省

安藤基礎研究振興課長、粟辻融合領域研究推進官

5.議事録

【若山主査】
 それでは定刻となりましたので、ただいまより第15回数学イノベーション委員会を開催いたします。本日は御多忙の中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。福岡から来ますと、東京の方がまだ空気がきれいだなという気がいたします。桜は満開なんですけれども、黄砂とかPM2.5とか様々なものが飛んでまいりまして、健康な東京という感じがいたします。
 本日は森主査代理、青木委員、安生委員、高橋委員から御欠席との御連絡を頂戴しています。また、大島委員は少し遅れるとの御連絡を頂いています。
 それでは本日の議事を始めるに当たりまして、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 配付資料の確認をさせていただきます。座席表の後にまず議事次第が1枚ございまして、資料といたしまして資料の1-1で「数学イノベーション委員会報告書取りまとめに向けた考え方」という1枚紙がございます。それから1-2で、同じく「数学イノベーション委員会の報告書に盛り込むべき内容の整理表(案)」というものが1-2で付いています。それから資料の2で、本日、小谷委員から御発言いただく予定の資料を付けています。
 あと参考資料ですが、参考資料の1が前回の議事録、それから参考資料の2が「世界は計算!されている?」というシンポジウムの開催結果、それから参考資料の3が「平成26年度戦略目標」ということでございます。それから参考資料の4が「数学協働プログラム」の平成25年度の事業報告でございます。あと机上配付といたしまして、数学イノベーション戦略の中間報告と、あと数学イノベーション委員会の委員名簿、それから数学協働プログラムのパンフレットを付けております。
 以上でございます。過不足等ございましたら、よろしくお願いいたします。よろしいでしょうか。

【若山主査】 
 ありがとうございます。
 今回の委員会は、今、最初の資料にもありますように、報告書取りまとめに向けた考え方について御紹介さしあげた後に、数学イノベーションの推進に必要な研究環境、それから人材育成について議論したいと考えています。
 それでは議題に入りたいと思います。資料1-1と1-2をごらんください。この資料は報告書を取りまとめるに当たっての考え方、盛り込むべき事項について整理したものですが、まず事務局より御説明をお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 まず資料の1-1をごらんいただけますでしょうか。資料の1-1はこれまでいろいろ議論させていただいて、どういうふうに整理していくかということもいろいろ議論させていただきましたので、その点、具体的には4つありますけれども、下の報告書に盛り込むべき事項というところの左側の盛り込むべき項目として4点挙げております。具体的には、要するにどういう研究を重要的にやるんだという研究の目標・活動に関する話と、それからそのためにどんな研究環境とか体制が必要なのかという話、それから人材の育成、それから情報発信、この4点でございます。
 この4点につきまして、これまでどんな取組がなされているのかというのを少し整理させていただいたのが、真ん中の赤色で囲んだ部分でございます。まず1つ目の研究の目標・活動に関しまして、いわゆる数学・数理科学がうまく使えるような課題の発掘を目指した活動というのが2011年からやられている連携ワークショップ、あるいは数学協働プログラムの中でやっているワークショップで、いろいろ出てきつつあるところでございます。
 もう一つは、そういった課題を基に具体的な研究を行う研究のプロジェクトというようなものが幾つかここ2年ほどでできまして、戦略創造事業ですと今年度から始まっているビッグデータ、それから来年度始まる予定の数理モデルに関係する領域、あと科研費の特設分野研究でも連携探索型数理科学という領域は今年度より始まっているところでございます。
 それから2つ目が必要な体制・環境でございますけれども、一つは統計数理研究所に委託して8つの大学が協力機関として参加している数学協働プログラムが2012年度から、昨年度から始まっておりまして、これはこれらの大学、言えば拠点的な活動をされている大学の連携、ネットワークを構築して、一緒にやれるものはうまくやっていきましょうというものでして、もちろん前提として九州大学とか明治大学といった連携拠点が順に整備されているところでございます。また、ちょっと数学そのものではありませんけれども、生命動態プロジェクトの一環として生命動態拠点のプログラムも始まっていまして、これは2012年度から、具体的には京大、東大の2か所、広島大、合計4か所で始まっているところでございます。また、本日ちょっと後で小谷先生から御紹介いただきますけれども、東北大学では知のフォーラムという取組が今年度より開始されていると聞いております。
 3つ目が人材育成ですけれども、いわゆる数学・数理科学系の学生、特に博士課程の学生なんかの新たな特に企業へのキャリアパスを構築するというような取組も幾つかなされていまして、各大学でのインターンシップですとか、あるいは企業関係者なんかを呼んできて講義をするとか、そういった取組ですとか、産業界の方での実際の採用とかインターンシップの受入れなんかの取組。それから学会でも数学会、応用数理学会なんかがキャリアパスセミナーを2012年から開始されています。その他、データサイエンティストの育成に関するプログラムなんかも今年度から、これは文科省の情報課の方ですけれども、統計数理研究所への委託事業として始まっているところでございます。
 あと情報発信につきましては、一般向けの情報発信というのは各大学でサイエンスカフェなんかを含めていろいろやられているわけですけれども、先ほどちょっと参考資料にありましたけれども、数学協働プログラムの中でもつい先日、一般向けのシンポジウムを開催しているところでございます。
 それで、前回までこの1つ目の研究の目標とか活動とか、どういう研究を重点的にやっていくべきかという議論をいろいろさせていただきましたので、本日はこの2つ目のどんな体制や環境が必要なのかということ、また、もしもう少し時間があれば、あと人材育成にも少し触れさせていただきたいなと思っています。
 それで資料の1-2の方は、これを踏まえて少し報告書に盛り込むべき内容のちょっとイメージみたいなものを、これまでの議論を踏まえたあくまでも現段階のものですけれども、まとめてみたものでございます。左側の欄が2年前にまとめられた中間報告の目次、項目でして、右側がそれに新たに加えるべきようなところを整理したものでございます。
 1ページ目は、要するに数学イノベーションがなぜ必要なのかというバックグラウンドの説明を少し補強してはどうかということで、社会的な要因と技術的な要因に分けて、今、整理をしています。それから、あと、これまでワークショップなどを過去3年ぐらい前からいろいろ開催して課題発掘をしておりますので、そこからどんな課題が浮かび上がっているかとか、具体的な共同研究につながっているようなものがあるのかといったところ。あるいは、具体的な成果、研究成果として論文とか特許等になっているようなものがあれば、そういう進展を少し盛り込んではどうかな思っています。また、外からの期待の高まりとして、先ほどちょっと申しましたけれど、科研費とか戦略創造の中でそういう数理的なものを使うプログラムが開始され、あるいは他分野でのプロジェクトなどもできつつありますので、そういったものも一つの証拠として盛り込めるのかなと思っています。
 それから、組織的な協働の必要性として、協働が広がりつつあるわけですけれども、まだまだ限定的な部分もあるという現状認識みたいなものも少し根拠を基に入れ込めたらなと思っています。
 それから、その下の数学ならではのアプローチという部分ですけれども、これは前回までいろいろ御議論させていただいて、その部分をもう少し厚く書いてみてはどうかというような御意見もありましたので、少し事務局でこれまでの議論を踏まえて整理してみたものでございます。1つ目、数学ならではのアプローチの特色とか、あるいは効果みたいなものを少しうまく整理したいなと思っていまして、ここでちょっと現象の抽象化とか大域構造の抽出とかあるいはデータ駆動型のアプローチによる予測とかそういったものを書いていますけれど、これに限らず、数学はなぜ、どう役立つのかということを少し書きたいということです。
 2つ目の丸のところは、じゃあ、そういう数学の力をうまく発揮するプロセスとして、まず具体的なニーズ、つまり例えばどういう社会的な課題の解決につながり得るのかというもの。これの発掘は当然必要で、かつ、じゃあ、それを具体的に数学の問題にうまく落とし込むことがその次のプロセスとして必要だ。それが具体的にいうと、モデリングなんかが当たりますねと。
 3つ目がそれに、じゃあ、数学の問題に落とし込んだとして、数学の中のいろんな分野はもちろんのこと、いわゆる数学に限らない理論的な学問をうまく導入していくことが必要で、例えばデータ駆動型のモデリングと、それから原理を抽出するモデリングの双方が強みを生かしながら協力することが必要な場合や、あるいは伝統的に応用数学とされているような解析とか最適化とか逆問題とか、こういったものだけではなくて、これまで余り応用されてこなかったような数学の応用も重要だということですとか、あるいはニーズの方に応えて新たな数学を作っていくということも重要ではないかという御指摘が前回までございましたので、何かいい具体例を入れ込みながらまとめられればなと思っています。
 それから、この次が具体的に、ではどういうテーマでやるんだという話ですけれども、前回までいろいろ先生方から頂いた御提案を基に少し具体例として幾つか整理してみたものが下のものでして、人の五感の数理的な記述とかインフラの自己修復機能、あるいは老朽化対策なんかにつながる話。それから社会システムのデザイン、材料のスマートデザイン、それから全体最適化。次のページに行ってもらって、計算機アルゴリズムの話とか予兆の検出とかビッグデータとか、こういった提案がございましたけれども、こういったものをもう少し有用性の具体的な根拠も含めて盛り込めればなと思っています。
 そこら辺が第1章でして、第2章の部分というのは、これはどういう問題点があるのか、現状はどういうところが足りないのかということを書いた章でして、少し書き加えるものがあるとすれば、例えばデータサイエンティストみたいに昨今すごく需要が高まりつつあるものがまだまだ供給としては不足しているというような話ですとか、あるいは世界における日本の数学のプレゼンスが実際の実力の割には不足しているというような話ですとか、あといろんなこれまでの取組で様々な情報が集まっているわけですけれども、それが必ずしもうまく関係者の間で共有されていないということがありますので、そういったことを可能にするような仕組みが必要ではないかというような御意見もありましたので、ちょっとそれを現状認識の問題点として入れています。
 その上で、3-2のところの人材育成ですけれども、特に新たなキャリアパスの構築のところで企業へのインターンシップだとか、あるいはキャリアパスセミナーだとか、こういった取組が現に行われていますので、そういった取組の有効性ですとか、さっきちょっと出ましたデータサイエンティストなんかがキャリアパスの一つとして考えられるのではないかという動きもありますので、そういったものもうまく盛り込めればなと思っています。
 それで、あとは下にあるのが学会なんかによる表彰、これは、数学界においていわゆる純粋数学が評価されて応用数学はなかなか評価されないという背景がもともとあるということでしたので、それには学会なんかによる当然、表彰が重要で、少しそういう動きもありますので、そういったものの重要性をうまく指摘できるようなものが盛り込めるかなと思っています。
 最後のページが章立てでいうとその他になっていますけれども、情報発信、特に高校生なんかへの、若い人への最先端の数学を発信するということの重要性ですとか、あるいは発信できるような情報の蓄積・整理、あるいはこういうイベントなんかを企画できるような人材の必要性なんかがこれまでも指摘されていますので、そういうのを盛り込むということも考えられると思っています。
 最後が数学イノベーションの実現に向けた必要な体制という章がありまして、ここに各大学における拠点間のネットワーク構築ということ。今、現状の中間報告でも多少書いてあるわけですけれども、各大学での活動もある程度蓄積が進みつつありますので、そういった各大学の持つ特色を生かしながら、うまく連携するところは連携していくというようなことが少し具体的に書けるのかなと思っています。あと、新たな研究環境として、きょう、ちょっと議論になるかもしれませんけれども、いわゆる訪問滞在型研究所も含めて、国内外の動向とか時代の新しい要請にうまく柔軟に応えていくにはどういうものが必要なのかといったこともこの報告書に盛り込もうかなと思っています。
 概略は以上でございます。本日、これはあくまでもこれまでの議論を踏まえて少しイメージを整理してみたものですので、きょうの議論も含めていろいろ御意見を頂ければなと思っています。以上です。

【若山主査】 
 どうもありがとうございます。一応、時間は少しとってございますので、何か御質問とか新たに付け加えておくこと、後ほど、またこの報告書に盛り込む事項については議論いたしますけれども、今、この場でございましたら是非御発言いただければと思いますが。どうぞ。

【小谷委員】 
 きのう、数理モデルに関するシンポジウムが学術会議でございまして、そこに参加されている企業の方から、今、数理人材は強く産業界で求めていると。ところが、例えば問題をどこに聞きに行ったらいいかというその窓口が全く分からないという御発言がありました。それに対して大学側から、うちはこういうことをしている、ああいうことをしているというお話があったんですね。ここ10年ぐらい、数理科学分野では努力をしていますが、外には全く見えていないようです。これは何度も皆さんから御意見がありましたように、今、起こっていることが一目で見えるような場、仕組みが必要かと思います。

【若山主査】 
 どうもありがとうございます。
 ほかにございませんでしょうか。情報発信ということでもありますけれど、数学の見えにくさというか、そういうものがやはり大きいというところはあるかと思います。ほかに。はい、どうぞ。

【北川委員】 
 ちょっとどこで発言すべきか問題かもしれませんけれども少し戻っていただいて、この数学イノベーションを考えていくときに、やはり日本の数学の捉え方が狭いということもあって、それが一つの問題意識の背景にあったかと思います。実際、学術会議でも数理科学というのを純粋数学と応用数理と統計学というふうに捉えるという動きもあります。
 それで、走りながら報告の案をまとめていくというのは大変結構だと思うんですが、個人的にはやはり諸科学との連携とか、産業はそれほどやっていないかもしれませんけれど、統計数理研究所がどういうことをやってきたかの聞き取りをやっていただきたいと思うんですね。これは統計数理研究所は30年近く前に大学共同利用機関になって、諸科学との連携をかなり重要なミッションの一つとしてやってきたわけであります。よく覚えていませんけれど、実は2年前から中間報告の前のときに是非やってほしいと申し上げたら、もうあと一、二回でまとめという時期でちょっと時間がないということで門前払いを受けて、その後、残念ながらこれまでその機会がなかったかと思います。だから、課題や論点を考えるときに、その中に影響があり可能性もあるので、是非一度聞いていただきたいと思います。特に先ほどの粟辻さんからの説明で、データ駆動だとかデータサイエンティストとかが重要だということですので、その辺も非常に関連しています。そのプレゼンの内容のどこを選択するかはもちろん委員会の裁量ですけれども、一応聞くだけは聞いていただきたい。残念ながら、この委員会が始まっていろんなところを聞いてきたけれども、統計数理研究所の取組は1度も聞いていないんですね。是非お願いしたいと思います。

【小谷委員】 
 すごく賛成です。きのうの議論の中でもモデリング人材はどこにいるのかという質問が出て、それに明確にみんなが答えられなかった中で、樋口先生が、正確な名称は忘れましたが、統計数理研では随分昔からモデリングの部門がちゃんとあってそれに応えているはずであるということを発言されたんです。数理科学の人がたくさん集まっている中でもそういうことすらなかなか理解されていなかったように思いますので、統計数理研がどういうことをやってきたかの情報や知識をこの委員会でシェアすることはとても大切なことだと思います。

【北川委員】 
 ありがとうございます。補足しておきますと、法人化して次の年だったと思うんですが研究組織を改組して3つの研究系にしたんですが、数理・推論研究系、データ科学研究系ですね、それからモデリング研究系です。今後の大事な要素はその3つだろうという前提でできて、これまで活動してきております。

【若山主査】 
 どうもありがとうございます。是非実現に向けて考えていきたいと思いますが。
 ほかにございませんでしょうか。それでは、先ほど申し上げましたように、また後ほど、このことについては議論していただくことになります。今もございましたように、レビューをするということもありましたら、そこから新しいことも生まれてくるでしょうし、後日ということにしたいと思います。
 最終報告については数学・数理科学の強みを生かし、数学・数理科学が関わることでイノベーションを起こすためにどのような研究環境が必要かについて記載していきたいと考えています。そのような観点から、もうきょう既に粟辻さんから御紹介がありましたけれども、いろんな大学でいろんな試みがなされているわけですけれども、その中で東北大学が今年度より新たに始められました取組について小谷委員が主要なメンバーとして関わられているということですので、背景や問題意識を中心に御紹介いただき、それも1つとして議論していきたいと思います。それでは小谷委員、よろしくお願いします。

【小谷委員】 
 発表の機会を頂きまして、ありがとうございます。
 東北大学にできた知のフォーラムという新しい組織、研究所について御紹介させていただきます。ただ、これは数学・数理科学に特化したものではないので、その点誤解がないように最初に申し上げておきたいと思います。
 東北大学の試みを御紹介する前に、今、学術会議第3部会で夢のロードマップを紹介します。数理科学分野のロードマップを日本数学会、応用数理学会、統計関連学会連合の3つの学会が初めて共同で作業して作っているところです。これは2つの視点があって、数理科学が発展するためには深化と展開という水平方向と垂直方向があるということを軸にしていますが、その実現には、真ん中の赤い丸のところですが、研究拠点の形成による知の統合が必要であるということです。その中で短期滞在型や長期滞在型、プロジェクト型、分野融合型、ネットワーク型等の特徴を持った研究拠点を形成することが非常に大切であるということをうたっています。
 ロードマップは全部で4ページになっていますが、本日は1ページ目と、最後の取りまとめのページのみ御紹介します。きょうはこれに深入りすることはなく、1ページ目の拠点形成の例にある「訪問滞在型」の紹介をさせていただきます。
また、この夢のロードマップはまだ最終案ではございませんので、現時点での案ということで、御了承ください。あ、そうだ、もう一個忘れてました。ロードマップは今のポンチ絵と文章から成っていて、文章の方では、数理科学の振興には大きく分けてAとBが必要であると書かれています。Aの方は、今、申し上げたような国際的な研究拠点形成で、Bは人材育成です。きょう、人材育成は省きまして、Aの方で訪問滞在型の国際研究所等が必要である部分についてです。
 昨年度に東北大学・知のフォーラムという研究センターを発足いたしました。これは文部科学省の研究力強化事業の一環として大学全体で執り行っているものです。ここの絵にありますように20年後、30年後の新しい学問分野になるような飛躍的なアイデアを掘り起こすための訪問滞在型研究センターをつくり、そこに若手を参加させること、それから海外の研究者とのネットワークを築くこと等を盛り込んだ案になっています。
 その背景には、まず日本の現状です。国際的な地位が低下していることの原因として、新機軸への挑戦がなかなかできないこと、それから連続した集中研究時間がなくなっているということがあり、若手のネットワーク形成、それからアジアの拠点となるものが必要であるということをあげています。そのようなことを解決し実現するためには、訪問滞在型研究所が必要であるということでこのセンターができました。
 特に新機軸への挑戦には、連続した集中時間が必要で、サバティカル期間にどこでどういうふうに過ごすかということが非常に大きな関心です。その場所を日本が提供することが、今後、日本の国際的な発展のために大切です。また、その飛躍の場に若手を参加させることに大きな期待を寄せているところです。この委員会の皆さんに対して訪問滞在型研究所とは何なのかを説明する必要はないかと思いますが、大体、年間に3テーマぐらいのプロジェクト研究を行う場です。プロジェクトは3か月ぐらいで、定められたテーマに合わせて、世界中の中心的な研究者を東北大学に招聘(しょうへい)し滞在させます。ここで「滞在」することが非常に大切です。なぜ大切かというと、ワークショップとかイベントの期間ではなかなか落ち着いた議論ができませんので、滞在して何も仕事がない、そのような場でその分野の主だった研究者や若手と日常的に議論することが最もアイデアの飛躍には大切なのです。それを個人の研究者が個人の研究者を招聘(しょうへい)するのではなくて、こういう場として設定する一番大きな目的は、一つのテーマの下に多分野の研究者が出会い横断的な議論ができるような場を提供することです。それから、個々のつながりをもう少し太い組織としての連携にすることができることも、こういうセンターを大学が持つことの意義です。
 プログラムは国際公募で決めるのが原則ですが、始まったばかりでいきなりプログラムの国際公募もできませんので、国際公募でテーマを選定するのは2016年からで、それに向けて助走期間では東北大学の強みを生かしたプログラムをやります。2013年には、「ヒッグス粒子」をテーマのパイロットプログラムを実施しました。ヒッグス粒子が発見されたことを受けて、これから標準理論をどう再構築していくかということを議論する。さらに、それを受けて、観測装置をどういうふうに作っていったらいいかを議論する。観測装置を作る人と理論の人が全く切り離されるのではなくて一緒に議論するということはとても大切です。ノーベル賞受賞者のグロスやワインバーグを巻き込んで集中的な議論を行いました。ただしこれは、訪問滞在型ではなくいわゆるワークショップ形式です。
 2014年は既にテーマを決めていまして、1つは国際防災戦略です。これは2015年3月に国連の防災世界会議が仙台で行われるということを受けまして、国際防災会議に向けて7月ぐらいから若手のサマースクールを皮切りに、様々なレベルでの防災についての議論を行います。数学や情報科学もこういう場に参加することがとても大切だと思っています。それからもう一つのプログラムは、経済に軸足を置いているのですが、統計解析と社会経済の利活用というテーマです。2015年には脳科学で1つ、それから「弦理論とブラックホールで一つ、それから3つ目は東アジアの格差問題です。今まで東北大学は理系に偏りがちだったのですが、なるべく社会科学、人文科学を巻き込んで、工学や理学、数学なんかが関わるような仕組みにしたいと思っています。2016年のプログラムは今年の5月か6月ぐらいに国際公募します。
 この種のセンターには常勤の人をほとんど置かず、研究センター長、副センター長とコーディネーターのみで、あとは訪問滞在の先生方が主になるような運営にします。ただし、受入れ事務体制は非常に大切で、国際的な対応ができる事務組織として「リサーチ・レセプションセンター」を立ち上げました。また、国際公募に向けて、国際アドバイザリーボードが決めまして、プログラムについていろんな御助言を頂く予定です。建物も建てます。
 最後に参考まで、世界にある訪問滞在型研究所の例です。ここにいらっしゃる先生方にこれを説明する必要はほとんどないかと思いますが、訪問滞在型といってもいろんな形式がございまして、ワークショップを開催する場所を提供しているものと、決まったテーマに沿って研究者を集中的に滞在させるプログラム形式のもの、テーマを決めずに世界中からいろんな方が滞在に来る、その3種類があるかと思います。また、数学に特化したもの、理論物理に特化したもの、それから学際融合的なものがございますので、その辺を色分けして書いています。
 3つの例で、テーマを決めずにいろんな研究者が訪問するタイプの典型がIHESとかマックス・プランクの数学研究所です、そこにすばらしいスター教授といわれるような常勤の先生がいらして、その先生とディスカッションするために若手が世界中からたくさん来ます。このような若手のポジションをたくさんつくるということも数学の発展にとってとても大切だと思います。
 次にワークショップ型の例で、もっとも有名なのはオーベルヴォルファッハですが、特に東北大学がモデルにしているのはローレンツセンターです。数学限定ではなくて、天文、計算科学、情報数学、生命科学、物理等の、いろんな分野をテーマにしているからです。ただこちらはワークショップ型ですが、東北大学では広い分野にわたる訪問滞在型のセンターを考えています。
 最後に、テーマ設定型ではニュートン研究所とかアスペンセンターとか、さらに、中国に最近三亜国際数学フォーラムができ、韓国にもできました。アジアにもぼちぼちできかかっているということも御紹介しておきます。
 課題ですけれども、やはり一番大きな課題は、異分野が相互作用するような魅力的なプログラムをどうやって選定するかという、本当にこれに尽きるかと思います。これに向けて、もちろん国際公募でプログラムを提案していただくわけですけれども、提案されたプログラムを更に魅力的にするためにコーディネーターが関わるということは非常に大切です。東北大学では若手のコーディネーターを置いています。そうすると、今度は、そのコーディネーターがどのようにその後キャリアを形成していくかということも大切になります。
 それから、一番下から2行目に「同様の拠点間の連携・協働」と書きました。訪問滞在型研究所は世界中にたくさんあります。魅力的なプログラムをお互いばらばらにやっているとなかなかいいプログラムがつくれません。これだけモビリティーというか、電子的なモビリティーが高くなっていますので、関連する拠点同士が連携して更に魅力的なプログラムをつくることも大切かと思っています。受入れ事務体制や訪問研究者に対する様々なケアも大切です。さらに、若手をどういうふうに参画させて、海外とのネットワークづくりに生かすかというそこの視点は非常に大切と思っています。
 最後に、拠点連携ということの中で、特にアジアの中でのネットワーク形成にこういうものを利用できないかという問題提起です。若手研究者の顕彰、ポスドクポジションなどに利用できたらいいのですが。EU、ヨーロッパでは、こういう若手の奨励賞やEUポスドクを作り、ヨーロッパ共同体の中でのモビリティーやビジビリティーを上げる工夫をしています。アジアの中での若手のネットワーク形成については、この組織の中でということではないかもしれませんが、どこかでできるといいなと思っています。
 以上です。

【若山主査】 
 どうもありがとうございました。まず、ただいま頂きました発表について、御意見とか御質問等がございましたらお願いします。どうぞ。

【合原委員】 
 大変面白い試みだと思うのですけれど、この中で数学の位置付けというのはどういう感じになっているんですか。

【小谷委員】 
 大学全体でやっているので、数学には特化していません。一応、私自身がこれに関わっているのと、先ほどの副センター長が数学の方です。訪問滞在型研究所という形式は数学では割とポピュラーで、みんなイメージを持っているんのですが、他分野に余りなじみがないので、立ち上げ時点分ではやはり数学者がうまく関わらなきゃいけないなと思っています。それと、これは私自身の願望なのですが、異分野的なプログラムの中に毎回数学のワークショップが入るようにしたいと思っています。それが数学のためというよりは、プログラム全体を面白くしていくことにつながると思っております。

【若山主査】 
 よろしいですか。はい、では。

【北川委員】 
 広い分野でやられているのは非常に大事だと思うんですが、その代わりテーマ選択などは非常に難しいと思うんですが……。

【小谷委員】 
 そこは、はい。そうです。

【北川委員】 
 その辺はどうやっておられているのか。

【小谷委員】 
 それはこれから皆さんの御助言を頂く、まさに頂きたいところです。広い分野でやりたいと思っていますが、相互作用する魅力的なプログラムというのがなかなか作りにくくて、ある分野にお任せというふうになりがちです。そこをどうやって横串をさし、一つの分野だけではできない魅力的なプログラムにするかということが課題です。コーディネーターという若手研究者を置いていますので、彼らが横をつなぐ役割を果たすと期待しています。
 それともう一つは他分野に広い興味を持たれている国際アドバイザリーボードを置いており、プログラムを採択したのちに、インタラクティブに提案されたものから作り変えていきたいと考えています。

【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。

【中川委員】 
 いいですか。

【若山主査】 
 はい。

【中川委員】 
 この取り組みは異分野融合を目的としているのでしょうか?

【小谷委員】 
 異分野融合ではなくて、20年後、30年後に花開くような新しい研究テーマを見つけるというのが一番大きい目的です。だからこそ若手に参加させたいのです。

【中川委員】 
 わかりました。そのときに、これがうまくいったかどうかの評価はどういう形でされるのですか。

【小谷委員】 
 実は学内でも、評価はどうするんですかと聞かれました。特にプログラムを採択するときの指標は、何を成果として目指すかに関わりますので。たちどころに論文を何本書けるとかいうものではなく、20年後、30年後に1つでもすごいテーマが出たら、それは成功なんだというぐらいでやりたいと申し上げました。

【中川委員】 
 はい、分かりました。

【合原委員】 
 最終評価には50年ぐらい掛かると。

【小谷委員】 
 50年ぐらいたってすごいことができれば、それでいいんじゃないかということなのです。

【宮岡委員】 
 今の腹案だと国際アドバイザリーボードのサイズというのは、大体どのくらいを。

【小谷委員】 
 国際アドバイザリーボードは10名程度で考えています。がある程度東北大学の強み等も生かせるようにしたいので、東北大学の教員からなる実施委員会もあります。

【中川委員】 
 産業は、視野に視野に入っていないという印象をうけましたが。

【小谷委員】 
 ああ、なるほど。各プログラムの責任者には企業との協賛でやってほしいと言っています。それで、去年のパイロットプログラムは企業からお金を頂いてやりました。

【中川委員】 
 企業の場合、50年先のテーマにはお金を出しにくいと思うのですけれども。

【小谷委員】 
 でも、まあ、でも出してくれているので。

【中川委員】 
 ああ、そうなんですね。

【小谷委員】 
 そういうことで、出したいと言ってくれているので。

【西浦委員】 
 これ、評価は、御存じでしょうけれど、欧米、ヨーロッパもアメリカもかなりの……、全部じゃないですけれど、今、出されているビジターセンターは大体……、例えばNSF、IMAだったらNSFのかなりサポートがあって。ローレンツセンターならヨーロッパあるいは特にオランダのISS。ですから、そうすると、きっちり5年ごとにかなり厳しく精査されています。日本の場合は、今、これは割と小谷先生をはじめとする東北大学の努力でやっているわけですけれども、ゆくゆくはやはりそういうところにもっと資金というのを重点的に。その代わりきっちり5年ごとにチェックされる。

【小谷委員】 
 海外の研究所では、訪問した最中に行った研究に基づく論文やワークショップ、それからアウトリーチなどの活動報告をして評価を受けています。国の予算等を頂いている場合にはそれに応じて予算額が変わるというような形で、きちっと評価しています。

【伊藤委員】 
 質問があるんですけれども、このプログラムというの大体どのぐらいの期間をやるんですか。

【小谷委員】 
 3か月間です。

【伊藤委員】 
 3か月。まずそうすると、まず3か月とやってみて、次々に変えていくという考えなんですか。

【小谷委員】 
 そうですね。

【伊藤委員】 
 先ほどちょっと産業界の話もありましたけれども、企業の感覚からすると、企業がこういうところを生かそうとすると、例えば何か旗が立っていて、さっき先生が最初におっしゃったみたいにここに行くと「分かる!」ということが分かっているとすごく有り難い。例えばお隣に大島先生がいらっしゃいますけれども、機械系のシミュレーションなら、生研に行くといろんなことが分かるのですが、実はそれはソフトウエアがあるだけじゃなくて生研にいらっしゃる先生方のチャネルが使える。理研でいえば横浜にNMRがたくさんあるんですが、あれは装置が重要なんじゃなくて、あそこに行くと解析の人たち、分析技術を持っている人たちがいるので、そういう力が使える。すると3か月だと、いろんなことをやられたときに、つまり企業の人たちにとってみると、ここに行くと何が分かるという売りになるんでしょうか。

【小谷委員】 
 これはいわゆる研究を始めるというよりは、これからの研究方向を議論する場というふうに考えていまして、うまくいきそうなものはその次に発展させていきます。最初の方に見せた絵があるんですが。

【伊藤委員】 
 ロゴマークみたいな。

【小谷委員】 
 こういう感じで、うまくいきそうな研究の種が見つかった場合には、海外リサーチステーションに発展させる、また東北大学の高等研究機構や学術フロンティア研究所などで実装していくようなイメージをもっています。

【伊藤委員】 
 なるほど。そうすると、東北大のこのシステムの中でもここはある種のシーズ出しみたいになっていて。

【小谷委員】 
 そうですね。

【伊藤委員】 
 そのシーズ出しの先のところにむしろ産学の連携みたいな形になっていくというふうに考えた方がいい。

【小谷委員】 
 そうですね、産学連携は強く意識はしていないのですが、新しい研究の芽が出たら、それは高等研究機構のようなところで拠点として発展させる予定です。逆に言えば、東北大学が10年、20年後に旗頭にするようなものをこのような活動の中で見つけていきたいと考えています。

【伊藤委員】 
 出てくると。なるほど。

【小谷委員】 
 そういう仕組みです。

【伊藤委員】 
 はい、分かりました。

【大島委員】 
 よろしいですか。今の伊藤委員の質問とも関連しますが、小谷先生が最初に示されたこのロードマップの中では、どちらかというと水平展開になるんでしょうか。

【小谷委員】 
 そうですね、はい。

【大島委員】 
 その位置付けについての質問と、2番目は先ほどから出ているビジビリティーについてです。理論的なシーズというイメージがありますが、理論としてもシーズとしてのビジビリティーがあると思います。それについてはどのようにお考えになりますか。

【小谷委員】 
 なるほど。

【大島委員】 
 非常に大事だと思います。

【小谷委員】 
 そのビジビリティーというのは、数学・数理科学のコミュニティーへということではなくて、もう少し外ですか。

【大島委員】 
 はい、そうですね。先ほど伊藤委員もおっしゃっていたように、例えばここに行けば有用な情報が得られるというところまでの、まだインキュベーションの段階ではあるとは思いますが、それが1番目の質問とも関連しているのですが、どの活動がどのような形で花開いていくかみたいなものが見えると、研究者自体も集まりやすいのではないかと思います。また、出てくる成果も、世界、もちろん日本の企業も含めて、非常に効果があるように思います。

【小谷委員】 
 月並みですけれども、もちろんホームページは充実することとか、広報担当に割と高位のポジションの方を採択することにしていまして、広報活動はかなり力を入れる予定です。このプログラムの中で、単に研究者だけの集まりではなくてアウトリーチ的なことも必ず入れるようにしていて、企業等協賛と言っているのもそういう意図です。月並みですけれど。
 研究者社会でのビジビリティーをというと、そうですね、時間をかけてここからいいものを出すというのが一番大きいと思うのですが、何か逆にいい案があったら教えていただきたいです。国際的なビジビリティーに関しては、国際アドバイザリーボードを頼んでいるのは1つはそういうことを期待しています。産業界にどうやって情報発信していったらいいかということは、皆さんから御助言を頂いて考えたいです。

【合原委員】 
 そこはちょっと難しいところもあって、余り狭い旗を立てると、その組織が、この企画自体が狭くなっちゃいますよね。だから、例えばニュートンインスティテュートなんかはそういう特別な内容の旗があるわけじゃないので、ただワークショップとかが面白いのがあるので人が集まって、そこでうまく交流ができているという感じですよね。

【小谷委員】 
 そうですね。どちらかというと私はそういうイメージを持っています。研究をフォーカスして、ここに行けばこの研究のことが何でも分かるというのではなく、むしろまだ芽が出ていない新しい研究のアイデアを生み出す場だというふうに思っているので、ちょっとフェーズがいそうです。

【合原委員】 
 少なくとも最初はそれくらいちょっと緩い感じの方がいいかなという気はしますけれど。

【小谷委員】 
 むしろ、そういう場が今まで全くなかったので、作りたいということなんですね。

【若山主査】 
 ほかに御質問等ございませんでしょうか。
 ちょっと私、ちゃんと覚えていないんですけれど、京都の国際高等研というのがありますよね。あそこには、何度か行って話すだけだったので、ちゃんとした構造を全く忘れてしまったんですけれども、あの理念というのは割と似ている。似ていることは似ているんですか。

【小谷委員】 
 そうですね。コンセプトは似ていると思います。ただ、じゃあ、実際そうなっているかというのはまた別の話だと思います。

【若山主査】 
 そうですね。

【合原委員】 
 僕も同じことを思って。あれだけの施設があるのに、何か有効に使われていない感じがして。

【小谷委員】 
 全然使われてないですね。

【合原委員】 
 ちょっともったいないですね、高等研。

【小谷委員】 
 そんなこと言っていいのかな、ここで。

【合原委員】 
 いや、多分、認識していると思いますよ。あれだけ立派な施設を作って、何でアクティビティーが上がらないかなというのは多分、高等研自体も悩んでおられるんですよね。

【若山主査】 
 今、必ずしも数学を中心にということではなくてお話しいただいたのですが、本委員会としましては数学イノベーションの推進に重要な環境整備ということで、きょうは御議論いただきたいと思っているわけです。そこで、その必要性ですね。今、全体的なお話は必要性とか効果とか課題とか、そういうことについて御意見がいろいろ出たと思うんですけれども、特に数学・数理科学という面から、この訪問滞在型も含め研究環境の整備として意見交換をしていきたいと思います。
 まず、せっかく続きとしまして訪問滞在型についてもその効果、課題、必要性、まあ数学、数学は先ほど小谷委員からの御説明がありましたように、割となじみが皆さんあるので、かえって議論しやすいというか、型にはめてしまうおそれもありますけれども、御自由に御発言いただければと思います。それではまず数学に近いというところから、宮岡先生から。

【宮岡委員】 
 私は今までいろんな訪問滞在型の研究所にお世話になったわけですが、中国や韓国まで含めて、ほとんど全ての……、インドも実質的に今ありますし、日本を除けばほとんどの国にあるという状況になっているわけですよね。それをちょっと1つぐらいないと、日本もまずいのかなという気はしております。
 設備とかはそれほど重要じゃなくて、最近は図書館もコンピューターの発達で比較的重要でなくなっているので、少なくとも余り都市から遠くなければ設備は余り要らないと思うんですよね。宿泊施設があれば割といいのではないかと。あとコンピューター環境ですね。それさえあればいいのではないかと思っております。

【若山主査】 
 どうもありがとうございます。いろいろここにありますような訪問滞在型でも、テーマでやるとか、そこに行けばこんな人がいるとかいろいろあって、それによって滞在費とか旅費に関してもサポートを割と多くするところと、とにかく興味があったら勝手にいらっしゃいというところと、いろいろあると思うんですね。そのあたり、例えば予算面ではどんなふうなことをお考え……、というか東北大の場合、最初はどういうふうに。先ほどの企業からの1,000万はなかなかすごいと思いましたが。

【小谷委員】 
 外国の様子をいろいろ聞くと、旅費は出さず滞在費しか出さないというところが多いのですが、ただ日本でやる場合には、中核となる研究者ぐらいはやはり旅費を出さないと厳しいかなと思っています。それで、中核になる方四、五名、1か月、2か月滞在する研究者については出そうと思っています。あとの方に対しては場を解放するので勝手に来ていただくことになります。予算的には、1つのプログラムに2,000万ぐらいあればかなりのことができるかと思っているのですが。また、受入れ体制、特に事務的な支援が一番大切ですので、そういう支援者人件費等がもっとも大きな部分になります。

【若山主査】 
 ありがとうございます。それでは西浦先生も招かれた御経験が多いと思いますが。

【西浦委員】 
 水平展開が確かに重要……、先ほど、質問に戻るんですけれど、ただテーマによってはやはり垂直、深化、数学の深化というのが当然織り込まれていくので、特に数理科学に関しては水平展開の中での同時に垂直も当然出てくると。ちょっとスライドにもあったんですが、スライドをどうせなら見せて、知のフォーラム、アインシュタインの漫画があったところかな。違うな。あ、違う。最初の図で結構です。水平、垂直が。

【小谷委員】 
 これですか。

【西浦委員】 
 結構重要なのが、その垂直の右に書いてある数理科学素養を持つ国際人材輩出なんですが、訪問滞在型の場所によるんですけれども、歴史が一番古いIMAなんかは、かなりのポスドクを5名から10名程度、1つのテーマに国際公募で付けています。彼らの狙いはテーマをいいのを選んでというのは当然あるんですが、先ほど説明がありましたけれども20年後、30年後といいますか、次世代の世界を席巻(せっけん)する、コントロールしていく研究者を自分のところの、ああ、あのときにIMAで種をもらったよね、あるいはお互いに知り合ったよねということで、結局、20年、30年後の学問のマップを作っていく人たちをそのアメリカの滞在型のところで育てようと。結局それが一番遠いようで、影響力としては非常に大きな影響力を今、IMAとか持っているわけです。
 ですからやっぱり短期的なビジビリティーというのも当然やらないといけないんですけれども、特に数理科学という観点からは世界における若手のネットワークのハブを日本につくると。IMAはそれをアメリカに作るという戦略でやっているんですけれど。やはり日本でもそういう、特にアジアにおける要としてのハブを、やはりそういうところに持っていたいというのが、こういう滞在型の拠点を作る一つの、それだけじゃないんですけれども大きな狙いだと思うんですよね。
 何というか、若手のそういう人を育てる、それは必ずしも日本人である必要はないんですけれども、そこはボティーブローのように効いてくると思いますので、表面上のテーマの華やかさというのにとらわれないで、そういう面も実は充実していかなきゃいけない。そうするとポスドクを例えば10人というとなかなか結構なお値段になるので、やはりもう少しファンディングも必要になるのではないかという印象を持っています。

【小谷委員】 
 私もこのポスドク職があることが非常に大きなことだと思っているんですが、現状ではこのお金のあては全くない。予算は全くなく、これをどうやって作っていこうかというのは今、悩んでいるところで、それこそ企業の冠付きのポスドクができるとよいのですが。なかなか最近厳しいので難しいかもしれません。

【若山主査】 
 もちろん訪問滞在型のことをお考え、きょう御提案いただきましたので、それを中心に御議論いただいて結構なんですけれども、基本的に研究環境整備ということですね。きょう、先ほどのプレゼンの中でも最初の方にありましたように、やっぱり長期というかある程度まとまった時間がとれないということも大きな問題だと思います。そういうことも含めて御意見を頂戴できればと思いますが。いかがでしょうか。

【中川委員】 
 別の視点でもいいですか。

【若山主査】 
 はい、どうぞ。

【中川委員】 
 私は企業にいますので、成果を得る時期はマックス3年というスパンです。そうすると多分、ボトムアップ型というやり方もあるかなと思います。特に今まで僕のやってきたやり方は訪問型です。まずイノベーションの構想を持っている人が、ニーズ元であるデータを持っている人、それからシーズ元である数学者を、各々、個別に訪問します。ニーズ元からデータを頂きます。その代わりに成果を約束します。いつまでにこういう結果を出しますという短期の成果と、あとはもうちょっとロングスパンの成果をマイルストーン提示して約束します。そこで合意してワークを始めます。
 あとは当然自分だけではできませんので、シーズ元である数学者のところを個別に訪問して、そこで、だから数学者の専門性を一番生かせるような問題設定した上で、ニーズ元の課題を解決するための議論をします。諸分野の課題解決には、数学の多岐にわたる専門領域が必要になりますので、いろんな人とお会いした上で、個別の議論を何度か繰り返し、それならみんなで集まり議論して、その後はいかに議論継続させるかですね。このようなルーチンを何回も何回も回していくうちに、自発的にチームができて、それが結果的に滞在型になれば一番よいのかなと思います。
 ボトムアップでそういうことをやる上での多分その辺の支援をどうすればいいかという話も、もう一つの視点としてあるかなと思いました。予算なしでは多分できないと思いますので。

【若山主査】 
 そうですね。ファンディングがやはりポイントになると思いますが。議論を、きょうは少し時間が、たくさんはございませんが、ございますので、御意見に対してのまた新たな意見を出していただければと思います。杉原先生。別に順番にいっているわけではないんですが。

【杉原委員】 
 小谷先生のお話を伺って、すばらしい構想を東北大学はやられて、すごいなと思っていますけれど。お金の話が、規模感がよく分からないんですね、やっぱり。お金の問題と関係して、どのぐらいの建物をお造りになって何人ぐらい泊まれるようなものを考えられているのか。

【小谷委員】 

 大学が用意するのは要するにインフラの部分で、受入れ体制とか、建物とかです。それから滞在する場所はゲストハウスと民間ホテルとの契約で確保します。あとは中核研究者の旅費です。先ほど申し上げましたように、大体一つのプログラムで旅費等に掛かる部分は2,000万ぐらいです。

【杉原委員】 
 だから3つで6,000万。

【小谷委員】 
 6,000万ぐらいかなと。

【杉原委員】 
 立ち上げに1億とか2億ですか。建物とか。

【小谷委員】 
 リサーチ・レセプションセンターとかコーディネーターとか、インフラに当たる部分の人件費はまた別です。海外の研究所のホームページにはそういうのも予算が全部書いてあって、大体、運営資金が2億~3億ぐらいというふうに書かれています。それは多分旅費等は入っていないんだと思います。

【杉原委員】 
 ああ、そうですね。基本的な要するに枠組みのところでということですね。

【小谷委員】 
 枠組みで2億から3億ぐらいだと聞いています。それで、旅費の部分は、もう全く払っていないところもありますし、滞在費だけ払っているところもありますし、外部資金、企業からの協賛とかいろいろそういう別枠で予算を獲得しているところもあります。それからさらに、ポスドクポジションを設けているところは、もっともちろんお金が掛かるわけで。

【杉原委員】 
 そうですね。

【小谷委員】 
 ポスドクポジションがあるのとないのとでは随分実質的に動くかどうかが違うと思うのですが。

【杉原委員】 
 そうですね。億単位で……。現在の大学の状況だとなかなか資金的援助というのが、年間2億よこせといって出してくれないようですが。東北大は出してくれるという話ですか。

【小谷委員】 
 まあまあ、だから、いや、東北大がというか文部科学省が。

【杉原委員】 
 あ、文部科学省がですか。

【小谷委員】 
 研究力強化という枠組みの中でして実施していく予定ですので。

【杉原委員】 
 ああ、そういうことで。

【小谷委員】 
 建物は東北大自前で。

【杉原委員】 
 運営に関してそれだけの支援が得られるというような話になっているという感じですか。分かりました。
 あと、先ほどの企業の参画というお話ですけれど、この内容だとなかなか、今のヒッグス粒子の場合の1,000万というのも、どっちかというと企業が利益を意識して出してくれるというわけでは多分ないでしょうから。

【小谷委員】 
 そうではないです。

【杉原委員】 
 支援、寄附ですね。

【小谷委員】 
 日本の文化を支えることに貢献してくださいというふうにお願いしました。

【杉原委員】 
 日本には寄附の文化が余りないので、そのあたりが多分難しいのでしょうね。海外の場合は割とそういうのが、比較的積極的にやってくれるところもありますし、少し変な話ですけれど、金持ちの感覚が違うんですね。日本はそんなに大金持ちもいらっしゃらないので、そのあたりも難しいところがあるかなと思います。
 だけど、一部やっぱり金融関係とかそういうところには、割と今、比較的お金が掛かることを、実感しています。鉄鋼関係は大変なのかもしれませんけれど。なので、そういうところにうまく狙いを定めれば、支援をいただけるように思います、多分。

【小谷委員】 
 ええ、例えば今年の防災などは企業も随分関心をもっていますね。

【杉原委員】 
 ビッグデータや、経済関係であれば、金融とかそういうところも多分いろいろな意味で支援が得られそうですね。

【小谷委員】 
 市場、マーケティングをどうするかとか、そういうテーマなので。

【杉原委員】 
 そういうのでうまく回っていくと、それをモデルにして、プロトタイプにして、ほかのところでもそういうようなことができるようになれば、知の統合というのが日本全体で進んでいいなと思います。
 それからあと、これはプログラムをこういうふうに3つ大きなものを走らせるという話ですけれど、先ほどから合原先生や他の方もおっしゃっていますけれど、並行してやっぱり細かいのもいっぱい一緒にやって、多分、企業からの話は細かいワークショップの方がむいているかもしれません。企業の人たちは何か月も出てくるのはなかなか難しいでしょうけれど、1週間であれば、参加しやすいように思います。

【小谷委員】 
 そうですね。この二、三か月の間、べったりしているわけではなくて、いろいろなフェーズでのワークショップやアウトリーチ的なもの、それからサマースクール等の対象を変えたものをいろいろやっていくことになっているので、その中にそういう企業の方が参画しやすいプログラムが入ると一番いいパターンと思います。

【杉原委員】 
 分かりました。いや、是非、成功を願っています。ヘッドになる方は、これを立ち上げるとき、最も大変だと思いますけれど。すいません、感想みたいな話で。

【西浦委員】 
 今、杉原委員が、先ほど委員がおっしゃった点は結構大変なんです。確かに今、言ってましたようにテーマによっては企業が参加しやすい。ただし、それはすぐ、数年、1年以内に成果が出るというわけじゃないんだけれども、訪問滞在型のホームページに行かれると、結構かなり企業のロゴが張り付けられています。それはやはりアップライド、分野横断型水平なので、当然アップライドで企業が関与しやすいテーマが出てくる。そこに多少ドネーションじゃないんだけどお金が落ちていて、それは中川委員が言われたように非常に短期的には確かに成果は出ないかもしれないんだけれども、やはり先ほど申し上げたように、そこでそのテーマに関してアメリカだけにとどまらず結構育ってくるので、その余波としてかなりロングインベストメントになるんですけれども、やはりリターンは着実に何年後かには出ていると聞いていますので。
 だからそういう視点でやってくれないかという、我々数学者は宣伝は下手なんですけれども、そういう売り込みを企業も含めてなんですけれども、どういうふうにやっていったらいいのかなというのは私も経験がないので分からないので、是非皆さんの知恵を頂きたいなとは思っております。

【小谷委員】 
 人文社会系のプログラムは特になんですが、国際標準づくりとか、政策提言のようなこともここでしていきたいと、まあ、できればいいなと考えていまして。企業の方が参画される一つのモチベーションになりそうなのは、そういう国際標準づくりとか、経済モデルのようなものをここで考えるというのはあり得るのかなと思っています。そろそろ企業も、企業間競争ではなくて、統一的な標準を日本から発信していくことが大切だと思いますので、そういうことを加えていきたいなと。

【伊藤委員】 
 よろしいですか。

【若山主査】 
 はい、どうぞ。

【伊藤委員】 
 ちょっと企業側の見方になりますが、今、先生のおっしゃったのはすごく大事なところで、私は以前、電機メーカーにいたんですけれども、実は90年代に電機メーカーでは物すごく基礎研究をやっていたのを御存じだと思います。当時は日本基礎研究ただ乗り論というのがあって。そのときに、筑波に電機メーカーが一緒になって基礎研究のナノエレクトロニクスの研究拠点をつくったんです。そこで非常にいい成果は出たんですけれども、実はその後の産業界にとっては余り意味がなかったという評価が得られた、出たのはなぜかというと、その結果を、つまり基礎研究の成果をうまくトランスレートする仕組みがなかった。
 先ほどちょっと申し上げたように、先生のところでまさに10年先、20年先、50年先のインキュベーションをしていたときに、それを次のところにつなげられるような、先ほどのお話ですと、高等研究機構というのがあるという話なんですが、そこまで含めて全体像の絵をきちんと描いておくということが1つ大事かなと。それがないと、やっぱり産業界側はせっかくの基礎研究の成果をトランスレーショナルができなくて、駄目になっちゃうと思います。
 それからもう一方は、知のフォーラムの中で完結できる標準化ですとか、業界全体で必要なデータをとるとかということはすごく重要なことで、そこでもう十分閉じると思うんです。だから、その2つにしてアピールしていくというのは、産業界にとっては非常に取り組みやすいと思います。

【小谷委員】 
 なるほど。

【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。先ほどおまとめいただいているところで私も少しふれましたけれど、連続した集中時間の必要という、これは当然なんですけれども、確かにそういうサバティカルの時間がとれてそこに行くことができる場合にはそこで時間がとれるわけです。しかし、そこがとりにくいという面もありまして、ここは研究環境の充実という意味では非常に大きな、むしろ数学系は割と基礎教育にも従事しているという点がありますので、そういうところもやっぱり少し考えていかないといけないと思っていますが。そのあたりに関して、何か。うまい打開策があれば、それはもうとっくにやっているというところはあるんですが。北川先生。

【北川委員】 
 この点は、統数研の方が発表してくれたら、その方がいいかと思うんですが、1つは研究者交流促進プログラムというのを機構でやっております。これは国内対象なんですが、特に余り大きくない大学では代理する教員がいないとかいろいろなことがあって、サバティカルを非常にとりにくいということがあります。それで文科省の御理解もあって、相手方に来ていただいた間、人件費の1.3倍ぐらい支払って、それで6か月から1年来ていただくというプログラムを4年前ぐらいですか、当初はやはり大学側がなかなか長くは許可してくれないということがあったんですが、ようやく来年度から半年、1年で埋まるようになってきて。ちょっと日本では確かに難しいけれど、そこまでやれば可能かなという感じです。

【若山主査】 
 そうですね、本当におっしゃるとおりだと思うのですけれど。そこでもちょっとだけまだ問題があって、割と地方大学に行くと今度は代理になる先生がいないということが結構大きな問題です。福岡ぐらいでもなかなか難しいですし、大量になるとなお難しい。したがって、小さい地方都市になるとかなり難しいというところがあります。そういうことも……。なかなか道を歩いていて数学を教えられる人っていないですので、ちょっと厳しいんですね。そんなことを考えていかなければいけないと思っています。
 ほかにございませんでしょうか。きょう、せっかく良い頭出しをしていただいたので。

【北川委員】 
 じゃあ、ちょっといいですか。小谷先生が言われたいわゆる滞在型と違うんですが、もっと短い期間だと手軽にできると思います。これは統計の分野じゃなくて情報研が湘南国際会議というのをやっています。これは1週間程度なんですけれど非常に海外の有名な方にオーガナイズしていただいてそこだけ旅費を出すと。あとは大体みんな手弁当でやってきていただけます。また、この湘南国際会議は本来のワークショップを目指したいということで、あらかじめプログラムをつくって発表するというのではなくて、その場で問題を考えて、ダイナミックにプログラムを構成していくような形というのをやっています。
 これはもう既に過去2年ぐらい年間13件から15件ぐらいやっています。湘南国際村というのがあって、そこに総研大があるんですよ。総研大はちょっと施設が不十分なんですが、幸い道路の反対側に湘南国際村センターというホテルがあって、そこを利用しています。そうすると、十数件やって年間1,000万以下の予算で実施できています。

【小谷委員】 
 あそこは宿泊費が高くないですか。こんなところで言っていいかどうか分からないけれど。

【北川委員】 
 1万円弱程度で。

【小谷委員】 
 数学であそこを利用しようと思うと、結構宿泊費がかかり苦しいです。

【北川委員】 
 1万ぐらいはするかもしれません。

【小谷委員】 
 若手に参加させたいと思うと、ちょっと宿泊費が高いかなと思うのですけれども。

【北川委員】 
 まとめて1年間でこれだけやりますと計画をたてて、交渉していると聞いています。
 それと、情報の分野ではハッカソン(Hackathon)というのがあって、若手中心なんですが、一週間程度泊まり込んで問題を出して、それをその場で計算機を持ち込んで解いてしまう集会があります。問題を考え、プログラムを作って実験をやって、プレゼンし、比較する、というのがあるんですね。我々の機構では、バイオハッカソンという名でバイオインフォマティクスに関するハッカソンをもう6年ぐらい続けています。海外から50人ぐらい来て、非常に活発にやっています。これはバイオインフォマティクスですけれど、他の分野でも、そういうやり方もあるかなと思っています。
 それから統数研では赤池ゲストハウスと施設を数年前に作りました。作るときには稼働率が悪くて、あとが大変だろうってさんざん脅されたんですが、幸い非常に好評で、今年、増築を始めている状況で、20室ぐらいあったんですが、もっと増やす予定です。これも、そういう滞在型の形に今後は活用できると思っています。

【若山主査】 
 そうですね。赤池ゲストハウスにはなかなか泊まれないと言っている人がおりました。ほかに……、はい。

【合原委員】 
 今の話とも関連するんですけれど、訪問滞在型というときに、純粋数学と応用というのはやっぱりかなり違うと思うんですよね。ワイルズみたいな人だったら7年ぐらい滞在して個室に閉じこもっていればすごくいい仕事をすると思うけれど、我々みたいな分野だと、むしろいろんな分野の人と交流するということが重要で、そういう意味では今の北川先生みたいな話と近いのを先ほど話が出た高等研もやっていまして、我々は10年ぐらいやらせてもらったのかな。夏に2週間ぐらいワークショップを、研究室の学生を連れていって泊まり込んでやるというのをやっていて、いろんな分野の人が混じっていて、例えば東大だと地学の鳥海さんとか、あるいは文化系の似田貝先生というのはボランティアとかが専門なんですけれども。あとプラズマの吉田さんとか、それから我々の研究室とかで毎夏2週間、一緒に過ごして、若い人と一緒に。そうすると、学問の幅も、特に若い人にとって非常に広がったので、そういう意味ではかなり応用数学に近い分野の人にとってはそういう形がやっぱり効果があるんですね。

【小谷委員】 
 もちろん数学でも1週間か2週間の泊まり込みはいろんなところでやっていて、それはもちろん集中してできて非常に効果があるようです。ただ、それは割と個人の努力でも何とかなってしまうので、それを超えて3か月、しかも分野融合的にというと、ある程度の組織的支援が必要ですので、こういうものをつくりました。
 特に一番大切なのは、受入れ体制の事務組織をしっかりつくるということと、分野融合でないとできない面白いテーマをどうやって作るかということです。アドバイザーが入ってインタラクティブにプログラムを作っていけると、作った意味がでますね。

【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。

【大島委員】 
 よろしいですか。

【若山主査】 
 はい。

【大島委員】 
 少し重なるところがありますが、3か月というのは非常に長いようで短いようにも思います。3か月という日数がどういう背景で決まったのか、教えていただきたいと思いました。工学系では、問題解決型の取り組みをすることが多く、2週間、長くても1か月で人が集まって行うことが多いです。その際、公募であったり希望者であったりしますが、ブレーンストーミングしながらプロジェクトベースで行うことが多いです。3か月というのは長いように思いました。
 あともう一点申し上げたいことがあります。若手のネットワークの形成は非常に大事です。私もアメリカにいるときにワークショップに参加させていただきました。ワークショップによってはネームバリューがあり、若い研究者の登竜門じゃないですが、若い人にとってはそこに参加することによりいろいろな知識が得られるとともに、ネットワークとして先生及び同年代のネットワークが広がるということは非常に重要です。ネットワーク形成というのは、3か月であれば可能であり非常に行いやすいと思います。重点化していただけると非常に良いのではないかと思いました。

【若山主査】 
 今、大島委員もおっしゃいましたし先ほど西浦委員からも出ましたけれど、若手のネットワークの形成に非常に役に立つというのはもう間違いないことだと思います。その後の20年、30年、長きにわたって。しかも、それが意外と、意外ということはないですけれども、顕彰と同じような、ある意味では非常に、簡単に言うとネームバリューのあるところに呼ばれたということがある種の賞を受けたのに近いようなところがある。実質も伴いながら、ここは大事にしていくポイントになると数学に限ってもそういうふうに思うわけです。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 ちょっといいですか。

【若山主査】 
 はい。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 多方面からの議論をありがとうございます。小谷先生のプレゼン資料にありました知の非連続な飛躍に向けてこれまでにないスタイルの訪問滞在型研究所が必要だというところの最初の日本の現状というところで、国際社会の中でのプレゼンスを築く戦略がなかったというふうに書いてあるんですけれども、ここで言っている国際的プレゼンスを築くということの具体的な意味合いというのは、こういう訪問滞在型のような取組を、プログラムを中心になってテーマを考えて、しかるべき人を呼んできて集めて、ネットワークの中心になるというようなイメージだと思うんですけれども。それが日本にはなかったことの具体的なマイナス面みたいなことというのは、どういうところに現れてきているものなんでしょうかというのが1つと。要するにそういうのが必要だというのは何となく分かるんですけれども、そういうのがなかったが故に、何に困っているのかみたいなことが何か具体的に言えないかなと。

【小谷委員】 
 すいません。これは大学向けに用意したものなので、数学に特化したことではなくむしろ日本全体の問題です。例えば東北大学の個々の先生は世界的にはよく知られていて、○○先生はこの分野で世界一と知られ、研究者間のネットワークもあるんですけれども、それが、例えば日本のとか東北大学のというふうには認識されていないと思うのですね。それで、こういう組織が効果的なのは、例えば20年後、30年後の花がひらいたときに、ここの場に来て自分のキャリアのスタートを切って、それが自分のキャリアにとってずっと影響を与えている。その場はあそこだったんだという場を日本につくることなのではないかと思います。
 数学に限らず、先ほど大島先生が言われたことは多分そういうことだと思うのです。各分野で、そこに参加することが一つの勲章になるような研究集会とか、研究所とかいうのがあると思います。そういう場所が日本にあると、日本全体の認知度が高まります。
日本は技術のシーズはすばらしいし、研究も1つ1つはすばらしい研究がありながら、全体として、国としてとか大学としてとかで見えるようにうまく設計されていなかったのではないでしょうか?研究者の中でリスペクトされているとかそういう意味でいえば日本はもう間違いなくトップレベルだと思うんですね。それを例えば論文のインパクトファクターみたいな割と単純なもので測ろうとすると見えにくくなるのは、やっぱりそういう塊での見せ方が、下手だったのかなというふうに思いました。

【宮岡委員】 
 もうちょっと分かりやすくいうと……。

【小谷委員】 
 すいません。

【宮岡委員】 
 日本の学者が、コネクションを作るのは外国で普通つくっているんですよね。外国人とコネクションを作るときは。逆に日本で外国人がお互いにコネクションをつくるような場を作ってほしいということですよね。例えば、私自身を題材にしても別にいいと思うんですけれど、私はコネクションをたくさん作ったのはドイツとかアメリカで滞在しているときにできたわけで、日本ではそれほど特に外国人とのコネクションは増えていないわけですよね。そういうのはちょっとこれからの時代、まずいんじゃないかということ。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 そちらの方がより効率的だからということですかね。

【宮岡委員】 
 いや、効率的というか、そういう場がなかったからです。

【小谷委員】 
 だから何をもって研究を測るかですけれども、これは本当に誤解されると困るので、最近、論文数が減ったから日本の科学技術の水準が下がったというような議論がされますけれども、それはそうではないと思います。やはり日本の科学技術は非常に高い水準にあるし、それぞれのコミュニティーでは尊敬されているし影響力も大きいと思います。ただ、それをどういうふうに見せるかということに関しては、やはりちょっと弱くて、それが今いろいろなところで議論されている「論文の引用数」とか「ランキング」とかで測るとなると、少し見えにくい。
 さらに、今後はグローバルなモビリティーが非常に上がっていくわけで、日本が今の地位を維持していくためにはそういうことも考えないといけないし、特にアジアの若手が日本に来ていろいろな経験を積む場はますます必要になるのではないかと思っています。

【宮岡委員】 
 また関連してちょっと言いますと、今、アジアではアジア数学会というのを作ろうという動きが出ています。それについては韓国がすごく今、積極的に動いていまして、例えば若手養成のための賞を作るとか、若しくは研究所の話まではまだないと思うんですが、できるだけ韓国や中国と東南アジアとか協力して若手を育てるという動きをやっているんですよね。そういうもので日本がある程度主導権をとっておかないとちょっと後れてしまって、ますます日本の国際的な地位の低下というものを招くんじゃないかと思うんですね。

【若山主査】 
 ありがとうございます。

【伊藤委員】 
 今のネットワークの件ですが、今まで産業界って、大体、まず自社内とかあるいはせめて業界内ですね、そこでのネットワークはあると。それ以上のネットワークを作るために何をやってきたかというと、海外の有名大学、スタンフォードとかMITとかに人を送ってネットワークを作らせる。やっぱりそういうところに行くと、例えばスタンフォードに行くとスタンフォードの人だけじゃなくて、そこにインテルの人も来ているしサムスンからも来ていて、いきなりネットワークが広がる。それが国内でできるのであれば、それはもちろんそちらの方がいいはずなんですね。そういう場ができると、産業界が求めるネットワークの形成にとってもすごく大事なので、これは是非作っていただきたいと思います。

【小谷委員】 
 訪問滞在型のポイントは、ともかく常勤の人はほとんどいなくて、そのテーマに沿って、必要な人は全部その場に集まるということです。3か月ぐらいだったら本当に必要な人が全部そこに集まる場がつくれるのではないかというところです。

【伊藤委員】 
 いいですね、そこ。

【若山主査】 
 議論は尽きないと思いますが、もう少しきょう、ちょっと予定しております議題がありますので、次に参りたいと思います。どうも、小谷先生、ありがとうございました。皆様から頂きました御意見をまた育てていきたいと考えています。
 それでは続きまして、人材育成につきまして合原委員からIT協会と協力しながら検討されている活動について、背景や問題意識を中心に御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【合原委員】 
 こういう場で御説明するほど成果は上がっていないんですけれど、ちょっと去年やってみたことをお話しします。
 背景としては、前回もちょっとお話ししましたけれど、ポスドク問題を深刻に僕自身は考えていて、日本全国で2万人ぐらい非正規雇用のポスドクが非常に不安定な状況に置かれていて、それはやっぱり何とかしなきゃいけないというのをもうずっと考えてきています。それは背景としては、これまでJSTのCRESTとERATOとか、あと内閣府のFIRSTとかで、数学の分野なんですけれど幸い割と大きなプロジェクトをやらせていただいて、ポスドクを合計100人ぐらい雇用してきたと思うんですけれども、彼らが置かれている現状の厳しさみたいなものは個人的にすごく切実な問題として実感しています。それから、博士の院生を増やそうといろいろあちこちで努力されていますけれど、結局彼らも博士号をとった後にやっぱり同じ境遇になる可能性が高いので、だからそこは出口戦略としてもその部分を何とかしないと解決できない話なんですね。
 それで、その一環としていろいろな人たちとポスドク対策をめぐる議論をずっとしてきていて、その中の一つの流れとして、去年、もともとJMA日本能率協会というのがあって、そこで5年ぐらい脳科学の知見をマネジメントに使えないかという共同研究をずっとしてきているんですよ。その流れでも話をして、ポスドクの僕の悩みなんかをJMAの方たちも理解しているんですけれども、その話があって、他方でビッグデータとかデータサイエンティストの話で、データサイエンティストが不足しているということが割と顕在化してきているので、そこでJMAと協力関係にある組織にIT協会というのがあって、これは日本のIT企業が入っている協会なんですけれども、そこが2年ぐらい前からデータサイエンスの研究会みたいのをやってきているんです。そこで、IT協会の人たちと去年半年ぐらい議論しました。粟辻さんとか宮澤さんにも時々来ていただいて、ちょっと状況を見ていただきながら議論を進めてきています。
 確かにデータサイエンティストは不足しているので、ニーズは非常に高いんですね。だからいろいろやってみる価値があるかなという分野に今なってきていると思います。他方でデータサイエンスのほかの試みももう既にやられているので、僕自身は同じことをやる気はないので、統数研とかがたしかやられていますよね。だからああいう試みはどんどんやっていただいた方がいいので、その部分は既にやっているところがあればやっていただいて、我々がやれるとすればJMAが絡んでいるのでデータサイエンスとマネジメントを結び付けるような、その部分に関しては多分我々しかやれないことがあるので、来年度はちょっとその辺を少し議論してみようかと思っています。
 それとは一応独立なんですけれども、無関係じゃないことがもう一つあって、それは先ほどのポスドク問題をめぐって去年、大手人材派遣関連会社の経営者とか執行役員の方とかといろいろ話したんですよ。そういうポスドクの受入れ口になり得るようなものがあるかという話をしたんですけれども、そのときに1つ出てきたのは、数理コンサルタントという業種が可能性としてはあり得るんじゃないかという。だからデータサイエンスよりももうちょっと広いんだと思うんですけれども。そういう業種がもしきちんと確立されれば、前回もちょっと議論したように、2万人の中で理論が扱えるようなポスドクに関してはそのキャリアパスの一つの例になり得るかなと考えていて、この議論をもうちょっと来年度はやってみようかと思っています。特に任期付きの研究員の任期が5年から今度10年に延びます……、もう延びたんですかね。延びたのはいいんですけれども、10年ということを考えると、逆にその人たちが10年終わった後にどうするかということまできちんと考えた上で対策を考えておかないと、10年たって、はい、さようならとは言えないわけなんですね。
 したがって、任期が10年に延びることと関連して、どうやってそういう人たちのキャリアパスを、なるべく多様なキャリアパスを用意するかというその辺が非常に重要な課題になっていて、だから大学教育からいうと人材育成のかなり出口の話になるんですけれども、先ほど言った意味で、博士課程まで視野に入れると、ここを解決しない限りは本当の意味での人材を育成ができないかなというのが僕自身の問題意識です。

【若山主査】 
 どうもありがとうございます。この2つ、まず人材育成という大きな課題。これはもう研究にも関わる将来の本当に実質的に長期的な話と、それから今、御紹介いただいた具体的なデータサイエンティストとか数理コンサルタント、そういう職業があるというふうに文科省の方で言ってもらうのもいいかもしれませんが。そのあたりのことで、お考えになっていること、具体的なこと、御意見を頂戴できればと思うんですけれども、いかがでしょうか。

【西浦委員】 
 卵が先か、また話になるんですが、言いたくないんですが。データサイエンスにしても、さらに、合原さんがおっしゃった数理コンサルタント、非常に僕は面白くて、やっぱりジョブマーケットを広げるという意味で、そういういい言葉ですね。それをやっぱり認知してもらって、そこに数理科学・数学のバックグラウンド、統計も含めて強い方がそのジョブマーケットを本当に広い確固としたものにしていく、それは僕は非常にいいいことだと思うんですが。卵が先かと言ったのは、そういう数理コンサルタントというとやっぱり一つの狭い分野をそれだけ、研究のスタイルとして知っているというのではやはりなかなか名前と実が一致しない。そうなるとやはり大学の教育、大学院の教育、ドクターの教育という、余りそちらに話を振り向けたくはないんですけれども、それとどうしてもリンクしてしまう。

【合原委員】 
 そうですね。それは企業の方もおっしゃっていて、やっぱり実務経験が不可欠なんですよ。だから、それはまあインターンシップなんかと多分関係してくる。

【西浦委員】 
 だから逆に言うと、だから具体的にどうするかですけれども、それは実は先ほどの訪問滞在型あるいは北川先生、中川先生がおっしゃったことと非常に関係するんですけれど。例えば、3か月といっても、実はテーマは3か月共通なんですが、中でいる人は例えば数週間からひと月で結構入れ替わっているんですね。長期滞在する人は別として。テーマも少しずつシフトしている。その中で、例えばいわゆる企業の方が何社か来られて、そのテーマに関連するテーマをその場で言っていただくと。それは例えばそれこそ1週間、先ほど、北川先生がおっしゃいましたそういうことで実際解いてみると、モデリングしてみるという経験を経て、そこからいわゆるまさに滞在型、訪問滞在型というけれども人材育成を含めているわけで、大学教育の補完ですよね。という機能も持ち得るわけですよね、うまく機能すれば。ですから、いろいろなアイデアを僕はその中に組み込める可能性を持っている。しかもそれをインターナショナルレベルでやり得るという可能性もあるということで。
 やはり統計のニーズは非常に強いというのは事実ですし、あとそれ以外の数理科学の分野も非常にニーズがあるんだけれども、ジョブマーケットがそれだけ広がっていないということと、それを引き受けてくれる大学院、ドクターをとった人材、それもやっぱりちょっとまだ十分じゃないと。だからそれは個別のきょうの話題が出たのは個別の問題じゃなくて、むしろ例えば総合的に考えていけば合原先生の御提案にも多少応えることができるんじゃないかという雰囲気、印象を持ちました。

【若山主査】 
 合原先生がおっしゃっているポスドクは、基本的に理論系が主ですよね。理論系という意味で、また例えば大学、それからポスドクぐらいだと実務というのが余りなくて、実験者と少し付き合うというのが最近出てきたぐらいですね。そういういわゆる理論系の人たちを受け入れる受皿、受皿というか産業界はどういうふうにお考えなんでしょうね。

【合原委員】 
 とりあえずはデータサイエンティストが不足しているというのはかなりの多くの企業が感じていて、そこは結構、受入れの余地は今あるんですよ。だからそこを今、重点的に議論しているんですけれども。それからもう一つはさっきの鶏が先か卵が先かと関連するんですけど、何かやっぱり成功例が欲しいというふうに企業の方はおっしゃいますね。例えば数理的なテクニックを使ったらマネジメントにすごく役に立ったとか、そういう具体的な例を早急につくってほしい。それさえ見えれば、結構いろんな企業が興味を持って動くのではないかと言われました。

【若山主査】 
 実感に非常に合っています。

【北川委員】 
 日本学術会議の数理科学委員会ではないんですが、情報学委員会の下の分科会で、人材育成、特にデータサイエンティストの育成の在り方というか、それの提言を出そうとしています。実は来週月曜日には分科会が開催されるので、次回ぐらい多少、報告できるかなと思っています。

【伊藤委員】 
 ちょっといいですか。先ほど合原先生がおっしゃったみたいにコンサルタントをやろうとすると実務が絶対必要なのですが、それをトレーニングする場というのがすごく少ない、少ないというよりもないんですね。今までは結局企業の中で少ないながらも数理科学の人は採っていて、その中でやっていたんですが、そういう人たちが新しい数理科学をすべて知っているわけでもなく、なかなかできなくなっている。だから新しい数理科学を修得しているポスドクの方々にコンサルタントができるとそれは有り難い。先ほどの小谷先生の御紹介があった知のフォーラムのようなの場所でやるのかもしれないんですが、そういうトレーニングをする場というのをうまく作る必要があるのではないか。それは必ずしも先ほどの3か月でできるテーマがいいのかどうか分からないんですが、例えば企業側からテーマを出していただいて、プロジェクトベースラーニングをするといったような仕組みをつくってはいかがかという気はいたします。
 コンサルタント的な人が絶対必要なのはそのとおりで、例えば私の分野でいうと、ソフトウエアのベンチャーという会社はたくさんあります。小さい会社もたくさんあります。彼らがやっていることは、実はソフトウエアの開発ではありません。何をやっているかというと解析の指導です。そのソフトウエアを使って、実際どう解析すればいいかというそこのコンサルをやっているんですね。だからそういうニーズは必ずあるんです。ただトレーニングする場がないので、なかなか人材が育たない。是非、トレーニングできる場をどこかでつくるようなことを考えたらどうかなと私は思っています。

【若山主査】 
 例えば博士課程なんかだと、インターンシップとか私たちのところの九州大学もここ何年かやっていますけれども、時たまポスドクのインターンシップも受け入れていただいていることはあります。そういう例えばポスドクのインターンシップというのを企業側がある意味で雇用に近い形でやっていくというのは、現実味はあるんでしょうか。

【伊藤委員】 
 私がいた企業では博士課程やポスドクのインターンシップをやっていました。博士課程ですと半年間ぐらいのインターンシップをやっていました。ただ、大学によっては半年間も企業に学生を出してしまうということに対して、拒否反応を示されることがあるのも事実です。
 一方、学生にとってみると、単位が出ないのであればインターンシップだけだとちょっとメリットがないと。我々のところでは、大学側と相談させていただいて単位を出すということをしていたんですが、これはものすごく大変でした。つまりインターンシップをとって単位を出すということは、大学の先生方が本来やるべき単位認定をある種、受け入れた企業側がやることになるので、おかしいわけですね。なので、そういう手続論的なところを解決するのにかなり時間が掛かりました。

【小谷委員】 
 リーディング大学院プログラムを幾つかの大学でやっていると思うのですが、そこでは長期インターンシップ等を課して……。

【伊藤委員】 
 そうそう、やっていますね。

【小谷委員】 
 インターンシップが学位要件の中に含まれているので、そういう枠組みを使えるかもしれない。

【伊藤委員】 
 なるほど。

【若山主査】 
 実際に私たちも実質的にはその企業の方が指導してくださる共同研究もあるんですけれども、そこをちゃんと大学が、ほったらかしで預けっ放しという形にしないで、ちゃんと正当な形にして単位を出すということでやってきています。それはできることだと思います。

【伊藤委員】 
 ありがとうございます。

【若山主査】 
 ほかにございませんでしょうか。

【小谷委員】 
 あとアクチュアリーはどういうふうになっているんでしょうか。アクチュアリーの資格を取るには幾つか取得しなくてはいけない科目等があるようです。将来的にはそういうきちっとした要件がデータサイエンティストに対しても……。そこまで、いきなりは大変なので。

【合原委員】 
 確かにそういう資格になれば非常にクリアになるのかもしれないですね。

【若山主査】 
 ただアクチュアリーの場合は、法律があって、アクチュアリーがいないとあなたの会社はできることが限られてくるといった様子ですからね。

【小谷委員】 
 ええ、でもそれは最初からそうではなくて、やっぱりそういうものは実質的に力を持ってきたからということもある……。

【若山主査】  それはもちろんそうです。

【合原委員】 
 あと伊藤さんがおっしゃった交流の場というのはやっぱり重要で、データサイエンティストに関しても、企業でデータサイエンティストというと、その筋の雑誌なんかで名前が出てくる人たちが何人かいらっしゃって、ヒアリングをやったんですよ。五、六社のそういう日本のデータサイエンスを引っ張っている方々にデータサイエンティストってどういう分野ですかと話を聞くと、全然違うんですよ、一人一人。だから結局そこの部分のコンセンサスもまだできていなくて、やっぱり日本の企業はみんな手探りで今やっているんですね。だからそういう人たち自身の交流も実はすごく重要で、東北大のああいうものと何かリンクできて、企業の方も含めて例えばデータサイエンスとかのテーマで滞在型の何か交流ができると、企業の人たちもすごくそれは役に立つと思います。

【若山主査】 
 杉原先生、何か数理工学というところにおられて、今、数学とか物理のところにおられるわけですけれども、どっちかというともともとの雰囲気は理学部的なところだと思うときがあると思うんですけれど。今のデータサイエンティストとかそのあたりの数理コンサルタントにしても、人材育成という観点からどんなふうに。

【杉原委員】 
 我々、合原先生も一度同じところにいたので、同じように思われるのではないかと思いますが、数理工学の人たちは多分ぴったりですね、はっきり言ってこういうのには。ただ数学科を出た方の場合、そういうことができるかという話になったとき、やっぱり難しい面はあるかもしれません。

【若山主査】 
 そこをちょっと両方。

【杉原委員】 
 前もちょっとお話ししましたけれど、最適化の比較的簡単な問題があって、線形計画の問題に帰着できてしまって非常に簡単に解けてしまったと。ところがそうじゃない全然御存じない方にとっては大変なことになっていて、計算機をぶん回していろいろな、すごい時間が掛かってやったというようなことで。数理工学の方では統計とか最適化とか、そのあたりの基本的なモデル、あとアルゴリズムがくっついて、全部教えている。難しい問題になると新しくモデルをつくなきゃいけないんですけれど、そのあたりのことの教育もちゃんとやっている。
 ということですので、数理コンサルタントみたいなことをやるときの前提として、そういう基本的な知識を持っている必要があると思います。伊藤さんがおっしゃったみたいに、コンサルタントを育成するような学校、若しくはそういう会社みたいなのができて、そういうことをきちっと教えるような体制ができればいいですけれど、それはなかなかまたポスドクを出た後そこに行って、また更にという話になったとき難しいかなという感じもします。
 でも、基本的な素養さえあれば。数学の人は数学は強いので、そういうのを教えれば割とのみ込みは早いと思うんですよ。なので、そういった1年とか2年ぐらいかな、1年ぐらいでいいかもしれませんけれど。1年ぐらいそういう基礎的なモデルをきちっと教えるということをまずやって、その後は実際の経験をつむ、そこはまた違った才能が必要だとは思いますけれども。統数研には統計に関してそういう育成する場がありますよね。数理の方でのそういうコースができれば、また非常によいのですが。それはもちろん東北大でやっていただけるなら一番いいと思いますけれど。統計の方のそういうコースに関しては多分、北川先生がいろいろ御経験をお持ちだと思いますけれど。

【若山主査】 
 まあ、やっぱりそれも学生たちと博士をとった人たちの興味・関心の問題というか。ですから、せいぜいビジビリティーというか、魅力あるものが見せられていくというのがやっぱり大事なことになるんじゃないかと思いますけど。

【中川委員】 
 僕は多分データって直観力が要ると思うんですよ。だからデータを見ただけである程度問題の本質が分かるという直観が要る。それは経験なんですよ。企業の場合は、恐らく毎日大量のデータを見ていますので、大体このデータはどこから出てきて、どういう問題があるかということをある程度直観でみんな判断しますね。そこに、だからそういうデータサイエンスというツールというか方法論が加わって、どうなるかですね。だからデータを見る直感力を養うというのは多分、大学なのか企業なのか分かりませんけれど、そういうもの多分、必要だと思います。

【若山主査】 
 北川先生。

【北川委員】 
 要素技術に関しては、杉原先生が言われたとおりで最適化だとか数理工学的なものですね。それから統計だろうと思います。ただ、それだけではなくて、問題の本質を捉えること、それから定式化して解いて、それを更に何か社会の方に実装していく。それから異分野の知識が必要ですし、異分野の研究者や実務家と交流していくコミュニケーション能力が、要素技術のほかに必要ですので、その辺のトレーニングをやっていく必要があるんじゃないかなと言われています。

【小谷委員】 
 きのう、割と似たような議論がありました。モデリング人材というけれど、モデリングができる人材って教育でできるのだろうかという話がでました。そのときに、樋口先生が言われたことが非常に印象に残っています。できたモデルが「本質」を捉えているかどうかはある意味では主観的なので、モデリング自体は中川さんが言われたように経験とかアイデアとか個人の能力や若しくはオン・ザ・ジョブ的に開発するようなものに依存しているけれども、その主観的にできたモデルがちゃんとその現象に対して役に立つモデルになっているかどうかという点はある程度客観的に評価することができる。数理的なものが一番関われるのは客観的に有益性のところを評価する部分であると。そして、それについては教育できちっとできるんではないかということを樋口先生は言われていました。それは非常に印象に残っています。

【若山主査】 
 そろそろ時間になってまいりましたが、何かきょう、もう少しおっしゃっておいた方がいいということがございましたら、御発言いただければと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 合原先生、データサイエンティストが企業のニーズがあるということなんですけれども、その場合、企業が欲しいと思っているデータサイエンティストというのは、学歴としてはどのくらいの人を念頭に置いているんでしょう。つまり学部でいいのか修士でいいのか博士でいいのか。

【合原委員】 
 僕はポスドク問題としてそれを提言、彼らに言ったんですけれど、聞いてみると別に学位は必要ない。それでちょっとこっちもテンションが下がっているんですけれど。だから、ただ手法として数理的な手法が必要だというのは間違いないところなんですけれど。数理工学を出た学部学生でも十分やれるかなというふうに思います。

【若山主査】 
 裏腹ですよね。便利屋さんに使われると、ちょっと……。

【合原委員】 
 そうなんですね。

【若山主査】 
 ですし、そうなると、いい人はやっぱりそこに行かないし。

【合原委員】 
 だから、それでやっぱり偉くなっていかなきゃいけないので、だからどうやってそのキャリアパスをきちんとつくるかという、そこだと思うんですね。そのためには、やっぱり何か成功例があると先が見えるので、その後、人が通りやすくなるというところがあってですね。だからそこをまずつくることが多分重要なんですね。

【若山主査】 
 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。
 それでは、最後に事務局より次回以降の連絡事項をお願いしたいと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】 
 本日はありがとうございました。本日の御議論も踏まえまして、また次回、引き続きやらせていただきたいと思います。
 次回の日程につきましては、委員の皆様の日程調整などしたのを若山先生と御相談した上で、また御連絡させていただきます。以上でございます。

【若山主査】 
 よろしいですか。
 それでは、どうもありがとうございました。

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