数学イノベーション委員会(第13回) 議事録

1.日時

平成25年8月30日(金曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  2. 意見交換
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、合原委員、青木委員、伊藤委員、大島委員、北川委員、杉原委員、中川委員、宮岡委員

文部科学省

吉田研究振興局長、粟辻融合領域研究推進官、田渕基礎研究振興課課長補佐

5.議事録

【若山主査】  まだ開始まで時間がございますが、御出席予定の委員の皆様方が既にお集まりですので会議を始めたいと思います。また暑さが戻ってきた中、朝早くからお集まりくださいましてありがとうございます。
 なお、本日は安生委員、小谷委員、高橋委員、西浦委員から欠席の御連絡を頂いております。

○粟辻融合領域研究推進官より配付資料の確認があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。それでは、議題に入りたいと思います。
まず、机上にのみお配りしております資料、「数学・数理科学が貢献できる分野や目標の明確化に向けた検討のイメージ」を御覧ください。本資料は今後の最終報告を取りまとめるに当たりまして、その検討の方向性、答えではなくて方向性について事務局と主査の考えをまとめたものです。まず、事務局より資料の説明をお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  机上配付として用意させていただいているものを簡単に御説明させていただきます。これはこれまでの議論などを踏まえて、今後、最終報告をまとめるに当たって何を議論して、どういうアプローチ、方向性で議論していくのかということについて主査の若山先生とも御相談しながら、考え方を整理したものでございます。
 これまでいろいろ連携ワークショップなどをやってきたわけでございます。そこで出会いの場とか議論の場を設けて、その結果として個別具体的な課題、数学・数理科学を使うことでうまくいくのではないかといった課題が出てきてはおります。それを中間報告などで整理しているわけですけれども、その一方で、こういう個別具体的な課題がボトムアップ的な形で出てきたけれども、それだけではなかなか数学・数理科学が連携すべき相手の分野とか、あるいはそれによって達成すべき社会的な目標といったものが必ずしも明らかになっているというわけではないということもありますので、その明確化に向けた検討を今後していくべきではないかというころで、そのための論点とか、あるいは検討の進め方のイメージをまとめております。
 まず、(1)が論点でございます。五つ挙げていますけれども、一言で言うと数学イノベーション委員会として数学・数理科学が重要だ、特に社会におけるいろいろな課題を解決していく上で、あるいは新たな発想によるイノベーションを生み出していく上で非常に重要だということを言っているわけですけれども、それを自分たちだけで言っているのではなく、ほかの分野の学問であったり、あるいは産業界であったり、もっと広く社会であったり、そういったものに対して説得力を持つ形でアピールして理解してもらうということが必要なわけですけれども、そのために何が必要か、あるいはどういう形でアピールしていくべきかということでございます。
 もう少し具体的に申しますと、個別具体的な問題というものだけではなくて、もう少し大きく数学・数理科学が貢献できるような分野とか目標、しかも、現時点である程度説得力があって現実性が高いものというものを挙げられないか。もう少し具体的に言うと、社会全体の発展だとか、基本の学問が融合して、あるいは深まって発展していくといった少し大きめの目標を重点的に取り上げられないかということでございます。
 それに付随して、どうしても数学・数理科学の貢献というのは外から見えにくいということがありますので、そういう数学・数理科学的な手法とか理論が入ることで何が変わってくるのか。入るのと入らないのとでは段違いに変わってきますよということをうまく具体的に説明できないか。特に過去の事例で社会変革ですとか、学問の深化ですとか、産業の振興とか、そういったものに数学が役に立ったという事例もあるかと思いますので、そういったものの具体例などを基に少し現実味を持った目標の設定、あるいは目標の達成についてうまく説明ができないかということが論点でございます。
 こういった問題意識の下、検討の進め方として、ここにアプローチを二つ書いています。一つ目の「アプローチ1」とありますのが、数学の基礎的な研究の重要性というものは当然十分認識しながら、将来のあるべき社会、あるいは生活とか、そういったものの姿に向けて数学・数理科学がどのように貢献していけるのかというアプローチ。もう一つの「アプローチ2」というのが、これは数理科学的な手法とか理論の方から始まっているアプローチで、特定のそういう手法とか理論がどのように新たな社会の構築に貢献していけるのかというアプローチ。あるいは両方混ぜた形というものもあろうかと思います。
 一つ目のアプローチの方は、今申し上げたように将来の社会のあるべき姿にどう数学・数理科学が貢献していけるのかということで、例として、健康長寿社会の実現が書かれていますけれども、社会のあるべき姿の実例として、「科学技術イノベーション総合戦略」の中で取り組むべき重点的な課題というものが大きく五つほどに区分けして書かれているわけですけれども、例えばこういったものの実現に向けて数学・数理科学がどのように貢献していけるのか、あるいは数学・数理科学が入ることで何がどう具体的に変わってくるのかというようなアプローチで議論できないかというのがアプローチ1でございます。
 アプローチ2の方は、逆に特定の理論とか手法、特に応用との関係で現在非常に光が当たっている、あるいは当たりつつあるような、そういうものをピックアップして、それによってどんなブレークスルーにつながっていくのか、あるいはそこから更にどのような社会の実現に貢献していけるのかというようなものを明確化して、その手法とか理論の研究に力を入れていくべきではないかというようなアプローチが、アプローチ2として考えられるのではないかと思っています。
 いずれにせよ、どちらのアプローチでも目指すところは同じなのですけれども、議論の仕方として、こういう社会に貢献するにはこのような数学的なアプローチが必要だというやり方と、このような数学的なアプローチがこんな社会の実現に貢献していけるのだというアプローチと両方あるのではないかということで、ここに示させていただいています。本日はこの後、アプローチ1の方に関係するのですけれども、将来目指すべき社会の姿として「科学技術イノベーション総合戦略」について御紹介していただいた上で、この後、少し具体的な事例を先生方に挙げていただいて、意見交換をさせていただく予定でございます。以上でございます。

【若山主査】 どうもありがとうございました。
 簡単に申し上げますと、基礎的な数学・数理科学の研究を重視しつつ、最終報告に当たって、一つは将来のあるべき社会の姿というのはいろいろあると思いますし、誰かが全てを知っているわけではありませんけれども、例えば今御説明がありましたアプローチ1のような形で議論を進めていく。もう一つは、数学・数理科学者の視点から問題意識を持って研究が進んでいるところ、これからどんどんやっていくべきところ、そういうことが当然ございますので、その二つの視点を持って議論を進めていきたい。
 将来像が定まっているわけではありません。しかし、ただいまの説明の中でも「科学イノベーション総合戦略」について言及がありましたように、今日は総合科学技術会議の委員でもいらっしゃいます青木先生が出席されていますので、本年6月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略」について、簡単に御紹介していただければと思っております。その後、アプローチ1に相当するような事例を、合原委員、中川委員、伊藤委員から御説明いただきたいと考えている次第です。
 そのような進め方で進めてまいりたいと思いますが、よろしいでしょうか。それでは、青木先生、よろしくお願いいたします。

【青木委員】  どうもありがとうございます。この総合戦略は御存じの方もいらっしゃるかと思いますが、御紹介する機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。A3の参考資料1-1を見ていただくと、概要がつかめて良いかと思います。
若山先生から御紹介があったように、これは今年の6月に閣議決定したものなのですけれども、この背景は何にあるかというと、新たな成長戦略が閣議決定されたのですけれども、その準備資料といいますか、一部として「科学技術イノベーション総合戦略」がまとめられました。安倍総理がかなりエクスプリシットに科学技術イノベーションが重要であるということを言ってくださって、特に資料の右上に赤い字で書いてありますけれども、世界で最もイノベーションに適した国にするのだというふうにおっしゃったのを受けて、山本科学技術担当大臣も非常に熱心にこの総合戦略をまとめることになりました。それともう一つは、震災から2年たったということもあって、少し優先順位やポジショニングが変わったということもあります。
 幾つかポイントが上にまとめてありますが、総合戦略策定の必要性は、少子化とか、日本経済がもっと頑張らなければいけないというアベノミクスも背景にあると言えると思います。もう一つの基本的な考え方は、長期のビジョンと短期行動プログラムを作るということで、第4期と比べると短期がもう少し前面に来たと言えるのではないかと思います。考え方の2番は、課題解決型志向の科学イノベーション政策の包括的パッケージで、3番は産学連携と、あと規制改革などとも一緒にやりますということで、議員の中には、産業競争力会議と兼任されている議員として橋本先生、あと山本大臣も産業競争力会議に出ておられます。もう一つ大事なことは、総合科学技術会議の司令塔機能の強化ということで、制度的なこともあるのですけれども、三つあります。
 科学技術予算戦略会議の設置と戦略的イノベーション創造プログラムの創設と、そして革新的研究開発支援プログラムの創設があります。この三つ目がポストFIRSTと最初は呼ばれていたのですけれども、FIRSTのプログラムをそのまま続けてもらうというわけではないですが、FIRSTのように総合科学技術会議がイニシアチブをとってプログラムのインプリメンテーションをやるというのと、プログラム自体の設計をアメリカ防衛省がやっているDARPAプログラムに似せてやろうということを考えています。そのDARPAの大事なところはプログラムマネージャーがいて、プログラムマネージャーが研究者に声をかけて合議制ではなくていい意味で独裁的にやっていくというものです。是非数学も何かの形でこれに関われたらいいのではないかと内心思っております。
 第1章には、この右にありますスマート化、システム化、グローバル化という視点があって、これも今回の総合戦略のポイントです。このスマート化、システム化、グローバル化というのが何であるかというのは、本文を読んでみていただければ分かるのですけれども、参考資料1-2を開いていただくと、表紙の次のページの最後にスマート化、システム化、グローバル化の説明があって、スマート化が目指すは各産業の知識産業化、システム化は強みを組み合わせて付加価値を倍増、それから、グローバル化は視点を世界へというので、この視点は私から見ると非常に製造業的な発想になっています。
 知識産業化とか、システム化も組み合わせるというのは非常に大事ですし、ある技術をもっと活用しようという発想ですけれども、このスマート化とシステム化というのも、多分、数学者が非常に貢献できることが多いと思います。既存の技術をどういうふうにうまく最適化していくかというのが数理科学が非常に貢献できるところではないかと期待しています。それと、このグローバル化というのはオールニッポンから脱却しようという意味だと思います。海外の技術も組み合わせてシステム化して日本の技術をもっと伸ばしていこうという意味ではないでしょうか。
 では、参考資料1-1にまた戻っていただきまして、第2章として五つの項目があります。一つ目がグリーンで経済的なエネルギーシステムの実現。二つ目が健康長寿社会の実現。少子高齢化というのは先進国、一人当たりの所得が非常に大きな国に起こる現象なので、ビジネスチャンスとしては非常にいいので、日本はとにかくここでリードして、長期的に世界的な市場が期待できる技術をきちんと構築しようという考えがあります。次の次世代インフラですが、この総合戦略がまとめられたのはちょうど笹子トンネルの事故直後でもあったので、インフラの立て直しが必要だけれども、最先端の技術を使っていこうということです。それから、地域資源を強みとした地域の再生というところは、いろいろ入っているのですけれども、具体化しているのは農業と、これはTPPで言っている攻めの農業とも関係しているのですけれども、それとあとITロボットとか、小規模生産を経済的にやるための技術を地域でもっと普及させようということです。5番目の東日本大震災からの早期の復興再生はお読みになれば分かると思います。
今回の戦略で短期行動プログラムが前に出て、長期ビジョンは第3章のところに入っていまして、科学技術イノベーションに適した環境創出ということで、これが第4期科学技術基本計画で人材とか基礎研究と言っていたのがここに入っています。大きく分けてイノベーションの芽を育み、イノベーションシステムを駆動する、イノベーションを結実させる。例えば研究支援体制の充実というのが「イノベーションシステムを駆動する」の下にありますけれども、こういうのはやはり数学の研究にとってどういう環境かというのは注意していく必要があるのではないかと思います。
 重点課題はどこにあるかというと、参考資料1-1にまとめてあるのはごく一部で、全部知るには参考資料1-3の本文を見ていただきまして、数学はどこに入るのかというのを確認するのがいいと思います。それぞれのこの第2章のI、II、III、IV、Vに対して重点的に取り組むべき課題というのがイクシプリシットに説明してあります。例えば参考資料1-3の13ページを見ていただくと、グリーンで経済的なエネルギーシステムの実現というものの重点課題が具体的に何かというのが表になっていまして、細かく説明してあります。
 私の素人考えですけれども、例えばこの13ページの表の7番の太陽エネルギー利用を促進するネットワークシステムの構築などは、多分、数学を使ってできるのではないかと思います。このエネルギーは、また技術中心に考えているんですけれども、例として一つ、もっと最適化を考えなければいけないと思うのは、日本ではハイブリッドの自動車を使うのに蓄電池の性能を上げることに一生懸命集中しているんですけれども、アメリカで今売り出している自動車というのは、性能が余り良くない蓄電池をたくさん集めて、そのかわり制御するソフトウェアがすごくいいんですね。自動車を作って売り出してしまっているという状態ですから、ハードに頼るのも限界があるし、ハードがよくない国というのは、ほかで補ってどんどん進んでいるということを認識する必要があると思います。
 健康長寿社会の実現というと、19ページに重点課題のリストがあって、詳しい内容はまたその次のページにあります。例えば19ページの6番の未来医療開発で、ゲノムコホート、バイオリソースバンクとか、データをたくさん集めているのですけれども、これを十分活用していないということは、イギリスとかアメリカでヘルスエコノミクスをやっている人の話を聞いて十分認識しています。何をやっているかというと、こういうデータを使って、どういう人がいつ病気になるかというのを予測して、どんどん事前にアドバイスをやるようになっているんですね。イギリスなどは国が直接医療システムを運営しているわけですけれども、どんどん医療にかかる費用が上がっていくのを食い止めようとしている。日本でもこの種のデータ活用をもっとやるべきで、7番でITの活用とありますけれども、これもどちらかと言うとハードウェアとかネットワークの話になりがちですけれども、もっとモデルとかを使ってデータ分析と予測というのをできるといいのではないかと思います。8番のこの介護関連の機器の活用などもそうではないでしょうか。次世代インフラの需要的課題というのは25ページの下から始まっていまして、これもインフラの維持管理とか、そういうのもハードだけの話ではないと思います。26ページの高度交通システムの実現などというのも、きっとソフトの面でいろいろやることがあるのではないかと思います。
 あと地域の強みで一言言いたいのは、それは29ページに課題が載っているのですけれども、ゲノム情報を活用した農林水産技術の高度化というのは、これはヘルスの情報ではなくて農林関係の、これもゲノム情報と、あと飼育のデータ、気候とか天気のデータとか、どれだけ人間が介入したとか、そういうデータをヨーロッパでは蓄積して、それを使って農業をデザインしていっています。それがこれまでデータ収集に関与してきた官庁のの人の話だと、日本はもうかなりデータを集めているらしいんですけれども、それをどうしたらいいか分からないそうです。
 ITやロボットの活用もありますが、もう一つ言いたいのは、今、3Dプリンターが非常に盛り上がっているのですけれども、プリンター製造と活用の両面でm日本は出遅れています。御存じの方がいらっしゃると思いますけれども、3Dプリンターを使うと、理論的に正しいんだけれども物理的に製造できなかった構造のものが作れるようになるので、最適化の技術などを活用することで、日本がトップに立てる3Dプリンターの活用ができるのではないかと個人的には思っております。
 復興再生関係は33ページに重点課題が書いてあります。個人的にここで数学がどう関連できるかなというのをまだ考えていないのですけれども、是非一度目を通していただきたいと思います。駆け足でしたけれども、以上です。

【若山主査】  どうもありがとうございます。先に確認しておきたいのですけれども、ここで言う長期とか短期というのは、どれぐらいの期間を想定されているんでしょうか。

【青木委員】  長期については、参考資料1-2の1ページ目に、2030年に実現すべき我が国の経済社会の姿というのがあるので、これが長期に入るのだと思います。短期というのはもっと短くて、この重点的課題や戦略的イノベーション創造プログラム、革新的研究開発支援プログラムというのも四、五年の期間を考えています。ですので、第2章は四、五年の課題で、第3章がもっと長期的に成果や効果が見られるものということです。

【若山主査】  分かりました。ありがとうございます。それでは、ただいまの御説明いただいた内容に関しまして御意見とか御質問がございましたら、御自由に御発言ください。よろしくお願いいたします。

【宮岡委員】  では、よろしいでしょうか。7月、8月というのは、日本がとってきた今までのアドホックというか、とりあえず何かやってみて、システム的な考え方をしてこなかったという経過が集中的に出たと思うんですね。例えば東電の事故が起こったら、とりあえず地水引は作ったけれども漏れてしまうとか、そういうことも考えながら技術者が動かしているわけですよね。それから、今まで1回目にロケットが成功したことって、ほとんど日本はないわけです。アメリカとは全く違いますよね。これもちゃんとしたシステム的な執行をしてこなかったせいでもある。
 それから、東電の事故のときは、発表の仕方、あれだって確率的な考え方をちゃんと取り入れていれば、最初からこの事故は第1段階から第4段階に上げたいとか、そういう発表の仕方になると思うんですけれども、とりあえずあれは第1段階である。そして結局、情報を修正するという国際的にも恥ずかしいことになったわけです。そんなことばっかりやっていると、日本としても非常にまずいわけですので、是非とも数学的というか、システム的というか、確率論的というか、そういうふうなやり方を本当に真剣に取り入れない限りは日本の発展はないと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。合原先生、どうぞ。

【合原委員】  青木先生がおっしゃったシステム化の論点はすごく重要だと僕も思いました。例えば必ずしも最先端ではない燃料電池を使って、それをシステム化して制御でうまくやる。日本はやっぱりものづくりが強いので、どうしても何かいいものを単体で作ろうという方向に向きがちなんですよね。そこを発想を変えてシステムとしていいものを作るということをすれば、抜本的に日本の生産システムとかが変わる可能性があって、そのときに数学がないとできない話なので、そこは非常に我々にとっても重要な論点かなと思いました。
 それから一つ気になるのは、こういう科学技術イノベーションということなので、割とショートタームになるのはしようがないかなと思うのですけれども、数学においては基礎研究の重要性というのがありますよね。さらに、数学以外でも科学において基礎研究の重要性があるのに、そこがほとんど見えてこないので、我々から見るとそれで本当にいいのかしらという、ちょっと気になります。

【若山主査】  どうもありがとうございます。
 目標を設定したいと思いまして今日のような検討方法を考えているのですけれども、アプローチ1、アプローチ2は比較的具体的に議論ができるだろうと思います。一方で、数学の基礎的研究の重要性は十分認識しつつというだけではなく、論点の3番目、社会の発展、学問の融合・深化といった大きな目標を重点的にどう表現して、それを説得力のある形で最終報告に盛り込んでいけるかということも大変重要なことだと思うんですね。そういう意味で三つ、つまり、このアプローチ1とアプローチ2と、それから学問、学術の発展という側面、その三つの方向からまとめていくのがいいのではないかというのがこのメモのイメージとして御提案申し上げたものです。
 皆さんお感じになっていることを的確に御注意いただいたわけですけれども、一方でこの委員会の考え方としてそういうことを頭に置いて、短期、それから、長期というところをまとめていくというのが、役に立つ数学を評価していただけるというだけではなくて、ある意味での数学ならではの責任というものかもしれない、そんなふうに思っている次第です。もう少し時間がございますので、御自由に御発言いただければと思います。

【伊藤委員】  今、青木先生に御説明いただいた話の3章の長期的というところですけれども、そこのところに人材とか、どういうふうにその人たちのキャリアを作っていくかということが書かれていると理解しているのですけれども、その上の欄に記載されている具体的なことをやるにしても、根幹になるのは人材になると思うのですが、一般的な意味として人材の流動化ですとか、あるいはリーダーシップの発揮できる環境とかということにもう一つ踏み込んだような議論というのは、どのぐらいなされているんでしょうか、あるいは可能なのでしょうか。

【青木委員】  踏み込んだ議論といいますと。

【伊藤委員】  つまり、人材の流動化が重要である、あるいは若い人たちがリーダーシップをとってやっていける環境が必要である、それは当然ですが、例えば、今、上でやろうとしている分野がいろいろございますね。その中にどういうふうにして、例えばその仕組みを入れ込んでいくかというような視点というのはあるのでしょうか。

【青木委員】  正直に言うとないですね。どっちかというと分かれてしまっているわけですよね。

【伊藤委員】  なるほど。

【青木委員】  でも、FIRSTとNEXTというプログラムは、NEXTは非常に反省点が多かったんですけれども、ああいうのは技術開発、科学の研究と、あとシステム改革を一緒にやりましょうという発想がありました。しかし、確かに人材に注目してというと、第3章は第3章で議論はされているのですけれども、短期と組み合わせたというのは余りないですね。

【若山主査】  基本的に第2章、第3章が別々にあるわけがなくて、第3章にあることがその底流に流れている上で、やはり急ぎ解決しなければいけないという国の問題も長期的に見て出てくる。そういうことでしょうから。

【伊藤委員】  分かりました。

【合原委員】  リーディング大学院などは多分、今の方向ですよね。企業のリーダーになれるような人材を大学で育てるということなので。さらに、今、一番気になっているのは、大学院生は全て教育できるんですけれども、ポスドク問題というのがいまだに深刻でして、現在、多分、17,000人ぐらいポスドクがいるんですよ。ほとんどが非正規雇用ですね。せっかく学位を取っても優秀な人たちが17,000人も非常に不安定な状態に置かれているという、こんなもったいない話はないわけです。だから、例えばリーディング大学院みたいな、ああいう構想の中にポスドクみたいなものも組み込んで教育するとか、そういうことをやっていくと、いいのではないかと思っています。本当にこの17,000人というのは、ほとんど国の宝みたいな人たちなのに数年ごとに違うポジションでポスドクをやらなければいけないという、ものすごく不安定な状況に置かれていて、だから、あの人たちを何とかすると二つの問題が同時に解決するのではないかと思っているので、その辺の方策は是非考えていただければと思います。

【若山主査】  ポスドクというのは、本当にポストということで、あとはほったらかしにするというニュアンスがこの中には表れているような気がします。本当はプレとか、将来のためのものなんですけれども。

【合原委員】  そうですね。

【若山主査】  下手をするとポスドク問題というか、しばらくポスドクで長生きするための施策だけが今までは、これは日本だけではないと思いますけれども、あったような気がするんですね。そこはすごくもったいないですよね。

【合原委員】  ええ。欧米はポスドクって結構、日本に比べて優遇されているところはあるので、そういう仕組みもあるんですよね。日本はそこがすごく遅れているところだと思います。30歳後半になるとポスドクのポジションすら厳しくなってくるわけですよ。そうすると、大学の非常勤講師を何件かやって、それで食いつなぐとか、そういう人たちが実際に出てきているので、これは放っておけないなという気がします。

【宮岡委員】  日本はテクニシャンという逃げ道もないですし、本当に困ると思うんですね。アメリカなどでは産業界でも、例えば製薬会社だとテクニシャンがたくさんいるわけですね。そういうシステムを日本でも作れないものでしょうか。

【青木委員】  これは学部のときからですけれども、インターンシップというのを企業と大学が組んで、もっと盛んにやって大学の外がどういうものかをもっと早く接してもらうということをやっている。もうポスドクになってしまった方はしようがないですけれども、もう少し早くインターンシップを組織的にやるとという動きがあるのは今回新しいかなと思います。

【伊藤委員】  産業界は確かにインターンシップ、すごく力を入れていると思います。もう一つ、是非先生の方から可能であれば働きかけをお願いしたいのは、人材の流動化ということが書いてあるのですが、産業界がやっぱり保守的なのですね。私は研究開発部門にいたのでポスドクの方に来ていただくとか、採用するとか、比較的できたのですけれども、今は先ほどお話があったテクニシャンのような方が必要なはずなのですが、人事部は大変頭が固くて、なかなかそういう人を採用できない。そこはある種、国の方から産業界に対して、もう少し人材を流動的に考えるべきではないかということを、御検討いただきたいという気はしております。これは数学には限った話ではないんですけれども。

【青木委員】  一般的に日本の労働市場というのは、経済学者の間でも結構、研究課題としては問題になっていて、健康保険とか年金などが全部企業単位になっているので、非常に労働者の流動化が難しい。ですから、これは産業競争力会議とか、あと制度を所管している大臣も科学技術総合会議の本会議には入っていらっしゃるので、もう少し長期的な目で本当に取り組んでいくべきだと思います。全く同感です。

【若山主査】  貴重な御意見、ありがとうございます。まだ今日は御意見を頂戴する時間が後ほどにもございますので、まずはアプローチ1の事例という意味で、合原委員と中川委員から「科学技術イノベーション総合戦略」に示された課題解決のために数学・数理科学がどのように貢献できるのかをテーマに、お考えを発表していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【合原委員】  それでは、最初に僕の方から概略を簡単に説明します。これは我々のFIRSTプロジェクトで中川さんや、それから、トヨタ自動車の大畠さんたちといろいろ研究している中で、こういう必要性があるなと気付いたことなんです。さっきロングタームが重要と言いましたけれども、これ自体は結構ショートタームで、科学技術イノベーション的な話になります。数学をコアとする革新的生産システム、社会インフラシステムのイノベーションを起こすような仕組みを作りたいなというのが、今、我々が考えていることです。背景としては、国内の人口が減少していて、かつ高齢化してきているので労働者人口が減ってきているわけですね。そういう意味で、こういう知的な部分を担う人材がどんどん減ってきていて、他方でアジアのいろいろな国がどんどん成長してきていて、そういう意味で競争的にも厳しくなっているわけです。
 そうすると、日本の将来を考えたときに基礎研究とかいろいろな分野がありますけれども、やはり根幹は生産技術、生産システムだと思うんですね。この部分がきちんとしていないと、やはり国としては成り立たないので、そこで生産システムとか、それから、先ほどの青木先生のお話でも問題になっていた社会インフラシステム、こういうものを数学を使って抜本的に再構築するような、そういう仕組みが要るのではないかということで、今、東大を中心にしていろいろな大学と企業にも御協力いただいて、それからあとは文科省の統数研がやられている数学協働プログラム、さらには、九大の若山先生のところのIMIと連携をしながら、何かこういう生産システム、社会インフラシステムをターゲットにして数学研究をそこに本質的な意味で入れて、日本のこの分野の知的レベルを革新的に高められないかという、そういう仕組みを作りたいと願っています。
 具体的に基礎となるのは、我々がやってきたJSTのERATOとか、それから、現在やっているFIRSTプロジェクトの成果であったり、それから、西浦先生がやられているJSTの数学領域、これも非常に大きな成果を上げていると思うのですけれども、こういう成果を基礎としてこういう分野をこれから考えていきたいと思っています。西浦さんたちとは、今度、合同のワークショップも開く予定で、いろいろな連携をしながらこういう、できれば拠点みたいなものを作りたいんですけれども、その方向に向けて努力をしていきたいと思っています。FIRSTの研究を通じて、更に具体的な成果が幾つか出てきていますので、そこを中川さんに御説明していただきたいと思います。

【中川委員】  では、私の方から具体的な数学の課題について御紹介します。私からのメッセージは二つあり、一つは交通流の数理モデルを事例にして、この異分野連携における数学の役割と重要性に関する私見を御説明したいと思います。二つ目は、大規模・複雑動的ネットワークを事例にした諸科学・工学・産業と現代数学の融合に関する課題設定に関する見解を御紹介します。
 まず、交通流の数理モデルです。交通工学の世界では有名なモデルが二つあります。一つは最適速度モデルと呼ばれる離散モデルです。これは車を1台、1台に常微分方程式のモデルを当てはめて、車の速度を表したものです。ここで、Vopは車の平衡速度で、車間の関数として決定される関数です。車のドライバーの目標になるスピードがこのVOptimalで、これはあらかじめモデル入力として与えられる関数です。例えば車を道路に100台並べた状況を想定します。1台目の車のスピードに擾乱(じょうらん)がありますと、その擾乱(じょうらん)が後ろに伝搬し、渋滞の衝撃波が発生する様子計算できます。
 もう一つ有名なモデルとしましてはLWRモデルがあります。LWRはこれは人の名前の頭文字で、Light hill Whitham Richardさんという人が1956年に作ったモデルです。これは交通流を連続変数とみなして、車両密度に関する保存則を表現したものです。ここで、サーイは交通流率を表し、車両密度の関数形として与えられます。この関係は山型になっており、左が渋滞なしのフリーフロー、右側が渋滞になる領域です。この偏微分方程式で渋滞が表現できるのですが、渋滞箇所の関数値が不連続になり数値計算の取扱いが難しいため、ラベル関数を導入します。ラベル関数とは、地点xから無限遠方にある道路上の車両密度を積分した物理量として定義します。このラベル関数により、車両密度の保存則が、1階の偏微分方程式であるハミルトン・ヤコビ方程式に変わります。ハミルトン・ヤコビ方程式を使えば、先ほど不連続の問題が連続で扱えるようになり計算が楽になります。
 この図は、ハミルトン・ヤコビ方程式を使ったシミュレーション事例です。この時空間グラフ上でのコンターが1台1台の車の軌跡に対応します。渋滞している箇所が観察できます。ラベル関数は、その空間微分が車両密度にマイナス1を乗じたもの、時間微分が交通流率になるという性質も持っていますので、渋滞箇所を、空間軸に沿った等高線が密で時間軸に沿った等高線が平行に走る箇所として鳥瞰(ちょうかん)的に同定することが可能です。これらが交通工学の世界で使われてきた代表的なモデルです。
 これに対して我々はFIRSTの中でこれら二つのモデルの数学的な意味づけを行いました。離散モデルのOptimal velocity modelはラグランジュ座標系で書かれています。これをラベル関数を使ってオイラー座標系に変換します。そうしますと、二つの偏微分方程式のシステムに変換されます。上の式が車両密度に関する保存則、下は、運動量に関する方程式です。ここでτは車の応答時間です。τがゼロであれば、v=最適速度VOptimalになり、二つの偏微分方程式のシステムとLWRモデルが一致します。このようにして、既存の二つのモデルが数学的には意味づけされ、両者間をつなぐことができました。
 さらに、このハミルトン・ヤコビ方程式がいいのは、交通流率と車両密度の関数が凹(おう)形状であれば、ルジャンドル変換を介しHopf-Lax Formulaという解析解が使えることです。この解析解を離散化しますと、Demad-Supply解と呼ばれる代数公式が導出できます。これは、例えば道路上のある場所に対して上流と下流の交通流率を計算して、小さい方を採用しなさいという非常に簡単なアルゴリズムになり、大規模な道路網の計算が簡単にできます。
 これらの交通流モデルの背後にある第1原理的は、車の速度が応答時間τだけ遅れて最適速度V optimalに一致するという非常に簡単な式です。この応答時間タオに関するべき級数展開の1次近似が上の最適速度モデル(Optimal velocity model)です。
以上のように、個々のモデルを、数学を使い一貫性のある論理でひとつの理論体系として繋(つな)げることができました。データや個々のモデルの背後にある問題の上位概念になる数理構造を、一貫性のある論理で構築することが数学の役割だと考えています。
 次に、実際のデータ解析です。データの背後にある原理原則の数学表現と理論の体系化というのも数学の大きな役割だと思っています。数学イノベーションを目指す上で、数学者だけではなくて、当該分野のデータやモデルを扱っておられる工学の先生方とも連携しており、交通流のテーマでは東京大学生産研ITCセンターの大口先生と連携させていただいています。これは実際の道路のデータです。東名高速道路で、サグという坂道にビデオカメラを10台並べて、そこを通過する画像がデータとして採取されています。この画像データから各レーンを走る個々の車のスピードが計算できます。これがデータです。この図は第3レーンを走行している車の速度を時空間グラフ上にコンタープロットしたものです。
 速い車は時速144キロですが、遅い車は時速20キロ以下に低下しており渋滞気味の現象が出ております。これを先ほどの最適速度モデル(Optimal velocity model)で我々が計算しますと、こういう結果になります。速度の遅いところを見ていただきたい。大体合っているような感じがしますね。でも、完璧ではない。交通工学者のニーズは、種々のデータ融合により交通流現象の可視化技術が進化し、新しいタイプの計測データの出現により既存モデルでは説明できない現象が出てきており、データの背後にある真の交通流の理論を知りたいということにあります。言い換えますと、データを見たときにデータの背後にある交通流の理論を構築するのに数学の力を借りたいというのが交通工学者たちの数学者への要望です。これは、既存の最適速度モデルを否定しているのではなく、最適速度モデルから偏微分方手式モデル、及び、その離散化の代数表現公式という既存モデルの一連の理論体系を包含しつつ、既存モデルでは表現できていない新たな機能を付加できるような、より普遍的な理論の枠組みを構築することが求められていると個人的には理解しています。
 この図はSOVモデルによる計算結果です。SOVは、セルオートマトン上に車を並べて、車の速度をOVモデルに基づく確率則で表現するというモデルです。SOVモデルは、OVモデル(最適速度モデル)と比較し、計測データをより精度よく説明できているように思えます。しかし、SOVモデルはミクロスケールのモデルであるため、大規模な道路網への適用は極めて困難です。前述しましたように、OVモデル(最適速度モデル)の理論体系を包含するSOVの新しい理論体系が求められます。現在、FIRST合原最先端数理モデルプロジェクトの活動を通じ、いろいろな専門分野の数学の先生方と、交通工学の先生、制御工学の先生方を交え、毎月議論する場を開催しています。次に、より一般化した事例である大規模・複雑動的ネットワークをとりあげます。これは製鉄所の事例です。製鉄所の従来の制御方式は、上位概念のスケジューリングで決まる目標設定を下に下ろしていって、個々の設備の個別ローカルな動的制御を行っています。言わば、トップダウン方式の管理です。一方、新しい方式は、階層型分散最適化の概念を採用します。製鉄所を、工場の中の個々の設備に相当するミクロスケール、ひとつの工場とその工場周辺のエネルギーの流れを扱うメゾスケール、複数の工場間のエネルギーの流れ、物流を対象にした製鉄所全体のマクロスケールからなる大規模システムとして捉え、階層間の相互連携と役割分担を行い、全体システムの最適化を図ります。
 具体的な事例を御説明します。熱延工場とその周辺のエネルギーの流れです。3色の矢印はブルーの矢印がガスの流れ赤い矢印が電気の流れ、緑の矢印が製品の流れを表します。電気・ガスコストが最小になるような生産量のピッチと発電量を制御するのが目的です。これを、制約条件付きの最適化問題として扱います。拘束条件は日々の生産量の確保と燃料ガスを貯(た)めるホルダーの上限制約、さらに、電気料金は、昼間は高くて夜は安いという料金設定の制約等があります。合原プロジェクトの中で、東京大学・情報理工の津村先生が中心になって制御理論はできています。
 この制御理論を製造現場のイノベーションに繋(つな)げるには、工場の日々の操業と製品品質の確保を、最適化の拘束条件に加える必要があります。そのため、製鉄所の製造プロセス内で起きている様々な現象のダイナミクスに着目し、制御理論研究成果を進化させ最先端の現代数学との融合を図ることを考えています。

 もう少し具体的に御説明します。これは、先ほどの熱延工程の具体図です。鋼材加熱炉から1,200度に加熱したスラブが出てきて、圧延機でスラブ厚みを250ミリメートルから1ミリメートルぐらいに圧延します。この板を水冷設備で冷却することによりオーステナイトの結晶がフェライトやマルテンサイトと呼ばれる別の結晶に変態します。ナノスケールの原子格子、メソスケールの多結晶ミクロ組織、マクロスケールの製品、さらには、大規模スケールのエネルギーと物の流れを記述するための諸理論を一貫した論理で統合する数学のフレームワークを構築し、「各スケールの諸成果を全体として統合するとともに、その基本数理構造を体系化する」究極のマルチスケール理論の科学技術・実学体系を構築することを目標に掲げています。
 このような製造現場の複雑で大規模な現象に取り組む現代数学の問題設定を記載しています。1)離散(個々の鋼材)と連続(生産ピッチ)の合理的な繋(つな)ぎ  2)離散(原子格子)と連続(多結晶のミクロ組織)の合理的な繋(つな)ぎ  3)現象又はデータの背後にある問題の第一原理(問題の本質)の導出とそこから導かれる一貫性のある理論の体系化、4)現実世界と双対をなす数学世界を構築し、現実と抽象の双方の視点から複雑なエコシステムである製鉄所全体の最適制御による無駄の徹底排除などがあげられます。
 こういうことができると、こういうことを通じて大規模・複雑動的ネットワークの最適化、制御予測技術の確立だけでなく材料の結晶構造やミクロ組織に代用される図形に起因するような材料の諸特性発現の原理原則の数理知化、非平衡で不均質な系を記述する数学理論と最適制御手法の開発、ビッグデータの背後に存在する問題の第1原理の抽出技術の開発、日本人の繊細な感覚の数学・数理工学による数理知化等、工学・産業の重要な未解決問題とされている諸課題解決の糸口を一気に切り開くことができると考えています。以上でございます。

【若山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、まず少し質疑応答の時間をとりたいと思います。ただいまの御説明に対しまして御意見、御質問などございましたらお願いいたします。
 例えば北川先生、ちょうど最後のところ、ビッグデータの背後に存在する問題の第1原理の抽出技術の開発ができれば、それはとてもすばらしいと思うのですけれども、統計学的な視点からお考えを頂けますか。

【北川委員】  発見科学でもデータから第1原理を導くというやり方もありますけれども、同時に今の世の中、今の問題と別でこのビッグデータが問題になっているかなりの問題は、そもそも第1原理が適用できない、存在しないようなシステムもあって、そこに対してもやはり数学はチャレンジしていかないといけないという状況で、二つがあるということだと思います。

【若山主査】  では、最初、お二つということでしたけれども、すごく大きなことをお話しいただいています。ほかの御意見もよろしくお願いいたします。

【杉原委員】  数学理論ということでいいと思いますけれども、実は物理理論かなというところもあって。

【中川委員】  そうですね。はい。

【杉原委員】  多分、物理のところでこれを話すと、すごく怒られるかもしれないと思って、話す場によって注意して言わないといけないかなとちょっと気になりました。それは正に数学の立場だと数学、数式になってきれいな体系が作られて数学理論なんですけれども、物理の人のところで言ったら、多分、これは物理だと言われてしまうので、多分、そういう意味では幅広い総合技術ではないけれども、総合科学ですかね、要するにこういう産業を支える総合科学の効果を支える数学と言いますか。

【中川委員】  そうですね。数学の役割のひとつに諸科学の共通言語としての機能があると思います。

【杉原委員】  ええ。

【合原委員】  広い意味の数学理論と言っても怒られますかね。

【杉原委員】  それは分かりませんけれども、多分、さっきのミクロのマルチスケールの話というのは、物理の方で非常に議論されてきて、もう一つ、Optimal velocity modelも多分、あれは物理の方から出てきたモデルですよね。だから、数式では近似されていて、数学だという言い方もできると思いますけれども、元々のところは物理の方から出ているところもあるので、そのあたりをどういうふうにしてこことうまく包摂しながら、うまい具合に発展させていくかというところはやっぱりちょっと気になります。

【中川委員】  個別のそういうモデルとか理論というのは既にあって、それを一貫性のある論理でつなげるのが数学の得意とするところだと思います。

【杉原委員】  そうですね。

【中川委員】  物理とか工学の人たちが作った理論を、全体を包括した上で、思考の枠組みを作り、そこからもっとベーシックなものを見出(いだ)すのが数学でないかと考えています。

【宮岡委員】  数学モデルではなくて、数理モデルにしたらどうですか。

【杉原委員】  そうですね。

【若山主査】  物理の「理」が入っているということでエクスキューズにするんですね。

【森主査代理】  今のお話の多結晶のミクロ組織の形態制御で、ミクロとマクロの間のメソですか、それは数学者が頭の中で作り出せるのでしょうか。それ以前に実験科学の方から何かインプットがないと難しいようには思うのですが。

【中川委員】  実験事実、観察事実はたくさんあります。そういう事実の背後には何か共通のつながりがあるような気がしていますが、それが何かはまだ分からないんですね。一見ばらばらに見える実験事実の背後にある原理原則を数学が導きだしていただければ有り難いです。

【宮岡委員】  数学者も多分、現場の人と直接議論しないと駄目なんですよね。フォン・ノイマンなんて、多分、ものすごく議論したんでしょうね。

【合原委員】  多分、いろいろな分野でメソの部分が重要になってきていまして、脳科学もそうなんですよ。脳に関しては単体のニューロンレベルはかなりよく分かってきていて、それから、脳全体としてもファンクショナルMRIとか、脳波とか脳磁界とかで全体の脳は計測できるんですね。ところが、その間の部分のネットワークレベルがこれから10年ぐらいのターゲットになっていて、だから、そのミクロのニューロンと脳全体とをつなぐネットワークレベルのメソスケールをいかに解明するかという、多分、脳に関しても数学者が活躍してもらなきゃ困るなと思っているんですけれども、そういうミクロとマクロをつなぐ部分に関しては、いろいろな問題で数学が貢献できるのではないかと思っています。

【森主査代理】  前からよく言われていますけれども、数学者にいかに見せるか、数学者を派遣したり、1年くらい自由にさせておくという話がありましたけれども、そういうものが必要な典型例なんでしょうね。

【合原委員】  そうですね。

【若山主査】  問題は与えられたときに、実は数学者は勝手なことを考えて―勝手と言うのは変ですけれども、何かを、ほかの人には見えないものを見出(いだ)すというところもやっぱり大きく期待されるところではないかと思いますね。

【中川委員】  先ほどの大規模のネットワークを考える場合は、多分、現実世界だけで考えていたのでは全体の最適化は難しいと思います。複雑で非線形な個々の現象を、数学の世界に持ち込み、簡単に扱えるような変換ができればこの世界は一気に進むと思います。

【若山主査】  ほかには、よろしいですか。それでは、どうもありがとうございました。
 続きまして、同じくアプローチ1の事例について、伊藤先生から御意見を御紹介していただきたいと思います。15分ぐらいでお願いいたします。

【伊藤委員】  頂いたテーマが非常に大きくて、何を話すのか非常に悩んだのですけれども、これは前回のお話しさせていただいたときの資料ですが、今、具体的な事例が中川先生の方からもありましたけれども、基本的に産業界には解くべき課題があって、その課題を今のように数理モデル化できれば、その後、数理モデルを解く手だてはいろいろあって、スーパーコンピュータを使うなり、あるいは数理モデルでなくても何らかのモデル化ができれば、それをSpring-8なり、そういう分析機械を使うとかいろいろなことができるわけです。そして問題を解決して、普通はそれでオーケーなんだけれども、多くの場合、実は最初の問題、本当に解析したかった課題を解決しているのかというと、意外に解決していなかったりもするということがあります。先ほどからお話が出ているようにシステムという考え方が私も非常に重要だと思って、今日の話はそこにかなりターゲッティングしています。
 もう少し事例をお話ししたいのですが、それは燃料電池であります。燃料電池というのは、皆さんよく御存じの通りで、今、新しいエネルギーとして大変注目されているものであります。燃料電池、ここにあるのはメタノール水溶液というものなのですが、メタノール水溶液を触媒に当てると、これが二酸化炭素と電子と水素イオンに分解します。二酸化炭素は外へ出て、水素イオンだけこちらに来て、その水素イオンが大気中の酸素と反応して水になる。電子がグルグル回って電気が出る。こういう原理です。これはもう50年以上、産業界では開発をずっとやっています。例えば解くべき課題として小型で、軽量で、高出力の燃料電池を作りたい。例えばここにあるのは試作品ですけれども、500円玉ぐらいの、こういう燃料電池ができたらいい。実際これは本当に作って、一応、動きました。
 では、高出力にしたいとなると、それはきっと触媒だから、触媒の活性を上げるのだろうと考える。そうすると、これは物理化学の問題ですから触媒反応というモデル化ができて、それこそ量子力学のモデルに基づいて解析すると、あ、なるほど、白金にちょっと混ぜ物をすると効率が上がりますねというので、この課題は解決できる。あるいはここに二酸化炭素が出るんですけれども、二酸化炭素はガスですから、ここにあると駄目ですし、それからあと、大気中から酸素を送らないといけないので、実はこの細かい電極の近くの、非常に狭いところに均一に空気を流さないといけない。これは意外に流体力学的に難しいのですけれども、頑張ると一応解析できまして、これもできる。あるいはここで水ができるので、水がここにたまってしまうと当然電気が流れなくなるので、水は適当に排出したい。これも水の排出というので、例えばここに撥水(はっすい)膜をちょっと置いてあげれば水を排出できるわけです。このようにそれぞれの項目は解決できるんだけれども、さあ、それで元のこの解決ができたかというと、大体できないんですね。
 これ、もちろん三つしかないですけれども、50年以上やっていますから、いろいろな課題をやっているんだけれども、幾ら頑張ってもここまでは行かないというのが今までの歴史です。もちろん、我々が気がついていない要因があるので、こういう方法をやっていくべきなのだろうとは思いますが、どうもこういうふうに要因分析型のアプローチではできないような問題が今産業界では多いのではないかと思っています。これをどうするかというのは喫緊というか、重要な問題です。こういう従来型の要因分析でできないモデル、数理モデル化の限界というのがあるので、ここでよく言われているのが課題の丸ごと数理モデル化という、例えばこれは車の例ですけれども、車で衝突実験をやっている。これは何のためにやっているかというと、当然、乗員の安全性のためにやっているわけです。
 そのときに車がどうつぶれるかというのを今まで随分やっていましたけれども、例えばここにあるように中に人体を置いて、エアバッグを置いてゴーンとぶつかったときに人体がどう動いて、そこにエアバッグが来るとどうなるかというところまで入れると、もう少し課題に関しては近づくのだけれども、ただ、後で申しますように、これはこれで本当にこれが現実問題に対応しているのかという大きな問題があります。また、先ほどのように燃料電池、触媒活性だ、エアの排出だとありますけれども、新たな要因を、これはどうやったらいいか分からないのですが、顕在化する方法があればやりたいですし、それの一つのやり方として、この問題に逆に何をやればいいのかという逆問題的な解法というのも多分要るのかもしれません。
 そこで今一番注目されているのが、このシステム科学だと思います。ここに書いた図は、JSTのCRDSの木村先生のところでまとめられたワークショップの報告書ですけれども、従来型の問題というのはやはりこういう課題があると、ちょっと小さい図で恐縮ですが、この大きな課題を細かい要因にバーッと分解して、要因、要因、要因に分解して個別の議論になってしまう。これで終わってしまう。それではやはり問題の解決にはつながらず、この木村先生のところでは、一旦ここでこういう大きなシステムモデル化を行って、このシステムモデルに基づいて分解し、その結果をシステムモデルに戻すということが必要ではないかという提言をされています。こういう数理モデル化が一旦できると、このシステムのシミュレーションによる検証ということが可能になるだろうと思います。
 この観点からもう少し考えますと、実は今、産業界というのが、産業そのものが極めてシステム化しています。この図は経済産業省が出した図で、縦軸、あるいは球の大きさが市場の大きさであります。非常に細かい図で恐縮ですけれども、X軸、横軸の方は日本企業の世界シェアを表しています。ここの大きな球、これは自動車であります。自動車はシステム技術のかたまりのようなもので、市場として40兆円ぐらいの大きな市場があります。ただ、日本のシェアとしては30%程度になっている。見てお分かりのようにこういう大きな市場を持っているものというのは、当然、システム的なものになっていて、それを開発するにはシステム的な技術が必要だろうと。例外は、ここにある球でして、これは医薬品であります。医薬品は薬ですから、製品として見ると化合物、そういう意味ではシステムではないのですけれども、この開発はある意味で、システム科学の極限でして、それはこれを使う相手が、人間が極めて複雑なシステムになっているので、そこをきちんと考えないと医薬品開発ができないということになります。
 さて、その一つの極限というか、形としてあるのが、先ほど青木先生のお話にもありましたけれども、スマート化であろうと思います。今、スマートコミュニティというのが極めて注目されています。これも経済産業省のホームページですが、ここでやられているのは主に経済産業省の立場ですので、エネルギーというところがかなり強くなっていまして、見える化技術を使い、例えばHEMS、Home energy management systemで今までは単体のパソコンとか、エアコンとかというところの電力消費だけを見ていたのを、家全体のエネルギーの見える化を行って最適化をする。それをスマートハウスと呼んでいますが、そういう家と、あるいは家が集まって町になる。その町では、先ほどお話がありましたようなITSのような車の制御のようなことができて、往々にして局所最適化になりがちなことをコミュニティレベルで全体最適化をしたい、こういうものだろうと思います。
 ここはある意味、数学の極地でして、先ほどのお話もありましたが、最適化やスケジューリングも必要ですし、それから、今、人の動きということで、例えばSuicaというカードがありますが、あのSuicaのカードの情報を使うと人の動きが完全に分かるし、購買履歴も分かってくる。あの情報を使うことによってスマートコミュニティを構築することがかなりできるのですけれども、ただし、そこには個人情報がかなり含まれますので、では、そこをどういうふうに暗号化するか、セキュリティを保(たも)てるか。それから、先ほどもお話があった制御ですとか、あるいは電力網で言うと東京電力は極めて分散電源、例えば家庭から出た電力を買うとか、それを非常に嫌っていたのですけれども、それはなぜかというと、分散電源が入ってくると、要するに自分でコントロールできない発電所があるということになります。日本の電力というのは極めて品質がよくて、まず、故障がほとんど起きません。それは電力会社が一元的な管理をしているからです。
 今、電力会社が一番気にしているのは、日本の場合は落雷です。落雷するとショートするので、そのときに大電流が流れる。大電流が流れた瞬間にネットワーク、電力網の電圧がちょっと下がるんです。電圧が下がるということは、いろいろなデジタル機器に対して、一つ間違えると落ちてしまいますので、ブラックアウトが起こるので、電圧がちょっと落ちてもすぐとめるという仕組みがあります。家庭で言うヒューズみたいなものですね。今はそれを機械的なものでやっているのですけれども、できればブチンと切れないで、今、瞬電というのが時々起こるのですが、あれは自動的に復帰するような仕組みがあるのですけれども、それを使ってミリ秒で復帰するようになっています。そういうようなことで制御しているのですが、ネットワーク全体を力学系として見たときに、まず安定性を保(たも)てていないと、何か起こった瞬間にガーッとカタストロフィーが起こるようなネットワークになっていたらいけない。そういう設計が必ず必要になります。
 これは逆に言うと、じゃあ、どこまで故障と言ったら言い過ぎかもしれませんが、遊びがあったらいいのか。そういう許容故障性ということにもつながってきます。結局、ここで私が申し上げたいのは、要するに社会の数理モデル化というのは、ここでどうしても必要になってくるのではないかと思います。このようなことで一番重要なのは、モデル化は多分、頑張るとできると思うんです。ただ、これはモデル化しただけでは駄目で、このモデルが本当に正しいのかという検証をしないといけない。実はこの数理モデルの検証というのが非常に重要なのです。
 シミュレーションでも解析品質という言い方、V&Vといいます。Validation and Verificationの略でして、これは考え方としては最初にお話しした考えに非常に近くて、解くべき課題があり、これを数理的に考えるとすると、まずモデル化して概念的なモデルに落として、いろいろな現実問題、非常に複雑ですから、そこをある種、理想化してモデル化し、それを数理モデルに落とし、ここで初めて何とか方程式というものになるわけですが、この何とか方程式をアルゴリズムを決めれば数値解析モデルができて計算ができる。
 当然やらなければいけないのは、例えばシュレーディンガー方程式をきちんと解いていますよねということはちゃんと確認しなければいけない。あるいは流体の解析をしているのであれば、ナビエ・ストークス方程式をきちんと解きましたねということはやるわけです。一方で、我々が、特に産業界がやりたかったことはここの解決であります。そのためには実験を普通よくやりますけれども、この実験結果と計算結果をきちんと対応させる。これは妥当性確認といいますが、これをやらなきゃいけない。これは当然、研究なり現場では何となく頭の中でやっているんですけれども、本当にそれが必要十分になっていますかという問題があって、特に構造解析等ではこの議論が古くから行われていて、これをV&Vと呼んでいます。
 特に欧米主導で標準化の作業、つまり、こういうところをこういうふうにしてVerificationを行い、こういう手順でValidationを行いなさいという、そういう標準化が行われている。日本ですと機械学会とか、計算工学会が主導して検討されています。ただ、これ、機械、構造系以外はほとんど進んでいません。私はこれまで材料系のシミュレーションをやってきましたが、例えば分子原子の原子構造を求めて、ある種の発光スペクトルを求めましたというような計算をして、それで蛍光剤を開発するというようなことをやっている人が、このような妥当性の検討等をやっているということは全くないと思います。いわんや先ほどの社会のモデルのようなものに対しては、どのようにしてここをきちんと検証するかというのは極めて重要な問題だろうと思います。
 さて、少し話が変わりますけれども、実際にこういう産業のシステム化が起こっているときに、ツールってものすごく重要です。ツールがないとやっぱりなかなかこういうことが進みません。前回、品質管理等でMiniTabですとか、RとかExcelを使うと、これは数学的には確率論だったり、統計、推計学のようなものですが、そのツールがあるので普通の技術者、数学者ではない普通の技術者でも解析ができるようになったというお話をしました。設計におけるシミュレーションも同じで、昔は全部自分でコードを書いていましたが、構造や流体に関してもそれぞれのコードができてきて、こういうものを使うことによって必ずしも専門でない人間でもこういうことができるようになったと思います。
 一つ面白いというか、興味深いものを持ってまいりました。これはMBDynというMultibody dynamicsというのが最近あるのですけれども、そのMultibody dynamicsを使って計算した自動歩行ロボット、おもちゃでカタカタ、カタカタと坂を下りるやつですね。これのシミュレーション結果であります。これは何をやっているかというと、例えば箱を与えると、この箱の慣性モーメントを計算してくれて、質点と質点のつながり方、隣の質点とのつながりだけを条件として与えます。そうすると、あとはプログラムの方で、その質点が全部どうつながって、条件に従ってコンシステントに動くかって、そういうことをやってくれるツールなんです。
 これ、普通に考えると、自分でこのプログラムを組むと相当大変なことになりますが、MBDynを使うと500行ぐらいのプログラムで書けます。まだ今は、プログラムで書かなければいけないのですが、実はこういうことって現場ではしょっちゅう起こっていまして、例えばここの部品をちょっとこう変えたらどうなるのかなというのは、中小企業では盛んにやるわけです。我々――我々というか、私は大企業にいたので、大企業の人間からすると、それ、ちょっと金型を変えてやってみたらと思うんだけれども、それはもう論外であります。金型を作るということは100万ぐらいかかりますから、金型を作るぐらいだったら、もうちょっと何か考えようとかという話になります。こういうことで、ちょっとここを削ってやったときにどう動くのかなということができると、それは現場での使い方を一新する可能性があります。
 最後にVerilogというのがありますが、これは論理回路の設計シミュレーションソフトウエアです。デジタルデバイスを作るときに、コンピュータを作るときに、論理回路ですからアンドとか、ノアとか、その組合せで作ります。その論理回路のシミュレーションなのですが、これ、論理のシミュレーションなので、論理構造ができると、今度、論理構造に矛盾がないかということをシミュレーションすることができます。そうすると、もう少し頑張ると、例えば今の車というのはほとんどソフトウェアで動いていると言っても良く、最近、日産が自動運転の車を作ると言っていますが、車に搭載されているソフトウェアは膨大なものです。このソフトウェアがどういうふうに論理的になっているか。例えばここで異常な割り込みが起こったときに、ほかが崩れて破綻が起きないかという、そういう論理設計が重要なのですが、こういうVerilogのようなツールを使うと、そういう電子回路だけではなくて論理の設計も確認ができます。
 このようなところというのは、実は数学的な構造が分かっているのでこういうツールができるわけですけれども、一方で、数理モデルができていないがためにツールがない領域というのがあります。例えばデータ同化のような話であります。先ほどの鉄鋼の話もありましたけれども、最初の初期条件から、あと数学モデルがかっちりしていれば最後まで全部シミュレーションで行くはずですが、大体そういうことはあり得ません。そのためにシミュレーションをやりながら、いろいろなことを、状況を変えながらやっていかなければいけない。これって先ほどの鉄鋼の例もありますが、我々が一番使っているのはカーナビであります。昔、カーナビというのは入り口と出口だけ与えてルート探索をやっていましたが、今のカーナビというのは、随時ルートを変えています。条件が、当然、渋滞情報とか来ますし、それからあとカーナビが曲がれと指示したにもかかわらず、運転者が曲がらなかったとかいうのもあります。その瞬間ごとにデータ同化をしながら変えている。そういうようなツールなんですけれども、あれは今、カーナビにしかないですけれども、ああいう話というのはあちこちにあるはずですが、どこまでそれが使えるのかよく分かりません。
 それから、この後少しお話ししたいのですが、どんどん解析が大きくなってくると、その結果の理解というのがかなり難しくなってきます。データアナリシスをどうするかというのは、ほとんどツールがありません。さらに、データというのは数値だけのことだと思うのですが、これに何か意味づけすると初めて状況が変わってきます。これはインフォメーションだと思うんですけれども、このデータをインフォメーションにして関連付けるということ、これもツールがありません。この解析に関して一言だけ申し上げますと、現在、この解析精度、それから、問題の規模、複雑さということから、現在の状況をこのぐらいだといたします。そうしますと、当然、今、コンピュータの能力がどんどん大きくなっていますので、解析精度も上げられる。扱える問題もどんどん複雑になっていくということになると思います。問題は、出てきた結果を我々人間が理解できるかということです。
 この話をすると、特に工学の――工学というか、物理とか化学の先生方からも怒られるのですが、自分でやっているシミュレーションなんだから、結果が分からないはずはないとよく言われます。たしかに計算精度を非常に高めても、それは確かに理解しやすいのですけれども、複雑な方向になってくると、その出てきた結果が本当に理解できるか、自分たちで、人間で理解できるかというと分からなくなってきます。これに対する一つの方法は可視化であります。数値だけを見ていても分からないけれども、これを可視化することによってかなり理解できる。ただ、可視化するということは、計算結果の何を可視化するかということが重要で、可視化するということは、もう答えがある程度分かっているわけですね。答えが分からないときに何を可視化するか。あるいはデータマイニングがあります。データマイニングで相関を知るということができます。そうすると、膨大なデータから、これとこれは何か相関があってほかとは違う、相関係数が高いという結果が分かります。
 これは分かるんだけれども、それが何を意味しているかが分からない。先ほど中川さんの方からもお話がありましたが、数学構造が分かった瞬間に全部がバッと分かるということはすごく大事なんですけれども、相関が分かるということは、この1点だけ分かって、じゃあ、この結果をどっちへ広げたらどうなるのというのは分からないわけですね。我々がかつて期待していたのは、相関が分かった瞬間に、その相関を人間が見た瞬間にメカニズムが理解できたから理解が広がったんですけれども、今、そうではないことが起こりつつあります。そのときにどうするかという問題です。
 これは先ほど青木先生がお話しした図にあるとおりですので、ほとんど言うまでもないと思うのですが、これを横串として、こういう材料とか、データとか数理科学があると思いますが、物質とかデータというのはやはりどうしても各論、物質というと一般論ですが、エネルギーに使える物質と、それから、インフラに使える物質は違いますので、そういう意味では各論なのですが、数学・数理科学というのは汎論だろうと思います。特にその中でシステムへの対応というのが私は一番重要だろうと思っております。
 これは最後のパワーポイントですが、今、産業界、製品あるいはサービスが、システム化の方向に急速に進んでいます。そうすると、この個々のものもそうですけれども、システムの数理モデル化というのが極めて重要だろうと思います。もっと重要なのは、そのモデルがまず解析できるというのは、これは皆さん同意していただけると思うんだけれども、その解析結果をきちんと検証できるか。つまり、数理モデルの検証ができるか。そして、その出てきた結果を理解できるかという、そこがかなり重要だと思っています。数理モデル化をするために一つ大きなドーンとなるのはツール、先ほどのようなシミュレーションツールだったり、MiniTabだったり、ああいうものがあることによってかなり数理モデル化がやりやすくなるのではないかと思います。その意味では、ツールをきちんと開発するということ、そして誰もが使えるような標準ツールがあると、それは数理科学の考え方の普及・促進にも役立つのではないかと思っています。以上です。

【若山主査】  どうもありがとうございました。たくさんの重要なことをお話しいただきまして、ありがとうございます。
 時間をとって御議論いただきたいのですけれども、まずはお聞きしておきたいことがございましたら、お願いいたします。では、大島先生。

【大島委員】  非常に各論的な話なのですけれども、最後にお話しされていた標準ツールについて、比較的見落としがちなのですが、非常に重要な観点だと思います。数理モデルをインプリメンテーションしてシミュレーションするときに、今、データが非常に複雑化していて、また解析対象もだんだん大規模化していますので、シミュレーション技術やコンピュータの性能が上がってきていますが、そこに行き着くまでの例えばデータの初期値の設定など、ダイナミックにどんどん変化しますので、ダイナミックに変化するデータをシミュレーションにどうやって入れていくかのツールもないですし、また、データ同化としての数理モデルがないので、今後の一つ大事な点なのではと思っています。
 そのためのツールを作るために数理科学の方が、アメリカでは作っていたりするんですね。そういうツール開発というのがあると、例えばシステム化としてもかなり加速するのではないかと思っています。非常に見落としがちなのですが、先生にそういう形で取り上げていただいてよかったと思っております。

【若山主査】  どうもありがとうございます。ほかに御質問ありますでしょうか。どうぞ。

【北川委員】  非常に重要なことをいろいろ御指摘いただいたと思います。一つは極めて複雑なシステムが問題になりつつあるということで、それは全くそのとおりだと思います。検証というか、バリデーションが大事だということも言われて、これも全くそのとおりなのですが、一方で、従来のアプローチは、まず第1原理モデル的なもの、それを表現するモデルを推定して決定して、それを使って推論していくという形なのだけれども、非常に複雑なシステムになったとき、必ずしもそれをやり続けていくとうまくいかないということがありますね。そうすると、データ同化などはその典型だと思います。少し時代が戻りますが、従来の研究では演繹(えんえき)と帰納を峻別(しゅんべつ)して、演繹(えんえき)的方法で出た結論をデータで検証するという形になっていたのですが、非常に複雑なモデルの予測や制御をするときには、むしろ分けずに、それを両方使っていくというのがデータ同化というように解釈することもできると思うんですね。
 だから、科学的方法論が変わってきているのではないか、あるいはそうせざるを得ない状況になってきているのではないかと思います。それで、データマイニングで見つけた相関がどういう意味を持つかという御指摘は、確かにそのとおりで、その部分はやはり発見というか、気づきを与えるところでしかないとは思います。ただ、昔はやはりモデリングをやっていくときに人間がある意味勘で、こういうものを考えてモデルを作ればいいと決めていたところを大量の中から自動的に選んでくれるようになっているので、それを活用していけばいいのではないかなと思っています。
 それともう一つは、今まで取り上げていないのは、システムのレジリエンスというのが大事になってきて、非常に複雑なモデルになってきたときにそれの効率化とか、頑健性というのを考えていっても限度はあるし、本当にそれをやろうとすると非常にある意味で非効率というか、高価になる。そうすると、ある程度のところまではそれを目指して、ただし、想定外という言葉を使ってはいけないかもしれませんが、想定外のことが起こったときに別なロジックでそこをリカバーしていくような、そういうシステムも今後いろいろな大規模システムになったら考えていかないといけないのではないかと思っています。その方法についても数学的に考えていかないといけないと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。ほかにはございませんでしょうか。非常に内容の濃い議論ができるチャンスだと思います。

【合原委員】  シミュレータの話が出たと思うんですけれども、シミュレータは重要だと思うのですけれども、だんだん対象が複雑化してくるとどうしても限界が出てくるんですね。具体例を挙げると、細胞内のいろいろなプロセスとか、ものすごく複雑なシミュレータができています。それから、脳もそういう方向に行っている人もいるし、電力なども本当にリアリスティックな複雑なのを作られていますよね。ところが、ああいう複雑なシステムになってくると、パラメータが多過ぎて、まずパラメータ値が決められない。さらに、パラメータ値次第でどんな結果でも出るわけです。にもかかわらず、単にいろいろな値を入れてみて結果を見るという使い方しかできなくなってしまって、結局、本質が見えなくなってくるということがやっぱり起きるんですよね。
 だから、そこはやっぱりそのときに単にシミュレーションができるだけではなくて、きちんとした数学的な解析ができるような形にしておくことが重要で、例えばさっきの電力系統の安定性だったら、少なくとも線形安定性解析とか、分岐解析ぐらいは同時にできるようにしておけば、大きなブレークダウンだとサドル・ノード分岐が普通起きると思うんですけれども、そういう分岐解析ができるところまで持っていっておけば、数学的にかなりのことができるんですね。それがないと単に値を入れて結果が出るということしかできないと、もうしらみ潰ししかないので、だから、そこの作り方が結構重要かなと思うんですけれども。

【伊藤委員】  おっしゃるとおりと私も思っていて、やっぱり先ほど申しましたように現象に対して必要十分な数理モデルができるということが重要で、例えば先ほど申し上げた燃料電池はまだ無理なんですけれども、電子デバイスだと、今、100万原子ぐらいですともろに全部扱えるので、それを第1原理で計算するってできるのですが、やったところで出てくる結果が何を意味しているか分からないし、おっしゃるように全てのケースを調べなければいけないから意味がなくなっていると思うんです。むしろ、今の課題に対して必要十分と思えるような数理モデルをどうやって作るか。それが余りに簡単になり過ぎていると、入れたものから答えしか出てこないようなものになってしまう。そこら辺がどう作ったらいいかというところに、その作り方そのものに数学がもう少し、数理科学ができないかということなんです。

【合原委員】  例えば社会インフラシステムなどでも、そういうことが実は起きて、例えば電力システムが典型例なのですけれども、複雑な電力システムのモデルを作ると、本当に何をやっているか分からなくなっている。そこで、そこをすっきりと解析するためには、ある程度の抽象化が必要で、例えばマックス・プランクとか我々もやっているんですけれども、電力系統のネットワーク構造だけを抽出して、あとは複雑な発電機のモデルとかではなくて、カップルドオシレータぐらいのモデルを作るんですよ。そうすると、ネットワークの安定性とかに関してかなり深い理論解析が行えて、それくらいの粒度でやった方がかえって本質が見えたりすることがあるんですよね。だから、まさにおっしゃったように問題の複雑さに応じてどのレベルのモデル、シミュレータを作るかという、そこの辺のさじ加減が特に重要だと思います。

【中川委員】  必要十分の数理モデルというのは、例えば数学モデルと現実の現象との1対1の対応関係のことだと考えてよろしいでしょうか。

【伊藤委員】  必要十分と申し上げたのは現象に対する必要十分は多分必要なくて、それの課題に対する必要十分だと思うんです。

【中川委員】  課題ですね。何をしたいかということですね。

【伊藤委員】  そういうことだと思うんですね。現象だと、さっき申しましたように材料ならば全原子を対象にすることになってしまうと思いがちですが、そうではないんだと思うんですね。

【若山主査】  必要十分というか、今までのように要素技術に分けて問題解決を目指すという方針では駄目であるというような話ですね。数学の定理の証明などでは、―数学だけではないですけれども、要するに元々は困難の分割ですよね。困難の分割をしたら、それを元に戻すシステムを作って数学の定理の証明をしたりするわけですね。そういうことまで考えて仕組みそのものなどまでに数学が貢献することってできないんでしょうかね。

【伊藤委員】  なるほど。

【若山主査】  それともう一つお聞きして思ったのは、社会のシステム化ということです。今だとスマートフォンを使ってどこかに行くのには、どうやって行けば何分かかるということがすぐ分かるようになっていて、観測者がその課題に影響を与えるというか、それこそ量子力学というか、確率論的な、いろいろな設計するときに、そういう要素は非常に強まってきていると思うんですね。そのあたりはもう既にいろいろな方が積極的に考えたりしているんですかね。例えば今日のお話にあったシステム化とか。

【伊藤委員】  私が感じるには、いわゆるスマートコミュニティって正にそうだと思っていて、要するにプレイヤーが中に入っているわけですね。制御する人間も中に入っている。だけど、あれを設計している人は、往々にして神様のような立場で設計しようとしている。私はそこをすごく心配しているんですね。Home energy management systemも決して自分の家ではないと思ってやっているところがどうもあるのではないか。おっしゃるように、人間が入ってマネジメントがかかっても、かかりそうになると変えてしまうということがありますよね。本当はそこも含めたモデル化がやはり要る。そこは先ほど言われたようなカーナビみたいなもので、データ同化みたいに瞬時、瞬時に変わっていくような、そういうことを考慮に入れたモデルを作らないと多分できないと思いますね。

【中川委員】  システムを構成する要素のダイナミクスをちゃんと表現できるか、さらに、個々の要素の集合体として全体がどうなっているかというところの連携ですね。

【若山主査】  いろいろと御意見がおありかと思うのですが、はい、杉原先生。

【杉原委員】  今のこの社会のモデル化の中で少し感じているところがあるのですが、スマートコミュニティに関して、小さなモデルはかなり精密なモデル化ができて、それを実証化できるのですが、そのスケールアップに関しては、いまいち原理も見えないし、どうしたらいいか分からないというところは、ある種の数学が活躍できる場かなと思います。さっきの話から言うと物理かもしれませんけれども。要するに、物理現象などでもよく現象と理論とのマッチをここでやるんだけれども、それをマクロなレベルの問題に持っていったときにどういう現象が実際起きるのか。
 特にこういうスマートコミュニティなどになった場合には、耐故障性だとか、そういう重要なポイントが複雑になることによって、リニアではなくてエクスポンシャルかもしれない可能性もあったりして、そのあたりのことに関して少し、スケールに関するスケールがモデルに及ぼす影響というか、先ほどのマクロがミクロ、マルチスケールの話もある意味では同じではあるとは思いますけれども、重要な観点かと感じました。

【若山主査】  今日は冒頭に申し上げましたように、アプローチ1やアプローチ2、基礎研究としての数学の重要性という三つの観点で、具体的に最終報告書をまとめていきたいと御提案申し上げました。そのための検討の進め方について、皆様方から御意見を頂戴して今後の会議を進めていきたいと思いますので、皆様から御意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  では、私の方から一言だけ。今、伊藤先生や中川先生に御発表いただいたのは、どちらかというとアプローチ1に近く、青木先生に御紹介いただきました「科学技術イノベーション総合戦略」に挙げているような課題などにどうアプローチしていくのか、あるいはそれに当たって、例えばシステム化や最適化、いろいろな問題を統合する必要があるとか、今のスケールを超えたようなモデルを作る必要があるとか、そういういろいろな話が今日出たと思うのですけれども、そういう個別の具体的な課題に対して数学的に取り組めば、こういう効果があるんだというアプローチが一つございます。
 これがアプローチ1ですが、もう一つのアプローチ2は、アプローチ1だけですと、数学が単にツールとして使われているだけのようにも見られるところがあるので、例えば近年の動向で数理的な手法や理論、考え方等で非常に脚光を集めているようなもの、あるいは今後光が当たりそうなものが、いろいろな応用につながって、具体的な効用につながっていく可能性があるという示し方もあるかと思います。そういうアプローチ2の示し方の方が、基礎研究の重要性などにもつながってくるという気も一方ではするのですけれども、もう一方では、アプローチ1の方は具体的な問題から始まっているのでまだ議論しやすいのですが、アプローチ2は数理的な手法を中核に置いて議論するので、いろいろな分野に役立ちますよということで議論が発散してしまう可能性もあるので、外に向けて示すという意味ではアプローチ2は難しいのという気もするんですけれども、その辺について御意見を頂ければと思います。

【合原委員】  気をつけなければいけないのは、アプローチ2で自由に理論を作って、それを応用しようとしても、それは難しいですよね。だから、やっぱり課題解決型が重要だと思うんですよ。そういう意味でアプローチ1の方が、間違いが少ないやり方だと思います。単にそれは数学が使われているわけではなくて、具体的な課題、緊急性の高い重要な課題を解決するために数学を使うのですけれども、そこで数学を使うことによって深い議論ができて、その議論が数学の持つ普遍性や横断性によって、いろいろな分野に展開できる。ここでも議論されてきたと思うんですけれども、それは数学ではないとできないことなわけですよね。だから、そういうやり方が間違いのないやり方だと思います。もちろんアプローチ2で成功する例もあるとは思いますが、普通に考えると自分が面白いなと思う理論を作った後に、その応用を探そうとしてもそれはかなり困難が伴うという感じはします。

【若山主査】  そういうこともありますし、しかし、最後にまとめていくためには、科研費等の自らの自由な興味と発想でやっていく研究が何かのときに爆発するということも記す必要があります。それから、自分はこれが役に立つだろうと思っていることをやるというのもまた可能性がありますし、一方で、アプローチ1に関して課題解決型ということで言えば、中間報告のときも課題解決というのはもうずっと最初から言われてきたことでして、それでそれなりに表を作ったりしてまとめてきた経緯があります。でも、そのときは静的な表になったと言いますか、こういう課題がある、ここに数学はこういう分野があって、こういう分野が何かすると貢献できるだろうというところで止まった表になっているわけですね。そうではなく、もう少しそこにダイナミクスを盛り込んだまとめ方が必要ではないか考えていますので、アプローチ1での最終報告はそのようにしたいと考えています。
 その際、アプローチ1、アプローチ2、それから基礎研究というのは、少しずつ違うのですけれども、完全に分けられるものでは決してないはずなので、そこをうまくどうまとめられるかというのは、この委員会の知恵の出しどころかなというふうに思っている次第です。

【森主査代理】  今日の話を伺っていてとても考えさせられました。個々の課題を一つ一つ解決していっても最終的な解決につながらないとか。世間一般で言うのは、困難を分割するという常道ですよね。数学者にしても、中にはちょっと変わった数学者がいて、問題を一般化すれば解けるという立場をとりました。この話を伺っていてそちらを想像してしまいました。そう思うと、やっと、この社会の数理モデル化が出てきたのかと分かったのですけれども、全部をモデル化してしまうということなんですね。荒唐無稽のように思ったのですけれども、むしろ、それぐらいの気持ちがないとできないことかもしれないなと思いました。

【若山主査】  関連して言いますと、御存じかもしれませんけれども、今、ヨーロッパで、特にストラスブールでは、町の中には車を入れないように設計しているという、社会設計みたいなことをやっているわけですね。そうすると、今までと生活が違ってきますので、人が動くだけではなくて、重い物を持っているときにどうするのだとかいうことも素朴にあるわけです。そういう社会設計という意味で、地球を全部一遍にやるというのは難しいかもしれないですけれども、ある意味での特徴を備えた都市に関して、そういう社会の数理化というのは考えていけるのかもしれない。ストラスブールやグルノーブルなんか見ていると、そんなアプローチをやろうとしているように見えました。

【北川委員】  いいですか。

【若山主査】  はい。

【北川委員】  アプローチ1でどういう貢献ができるかというのを考える場合、学術会議的な言葉で言うと「認識の科学」と「設計の科学」というのがあって、従来のサイエンスというのは、どちらかというと「認識の科学」を目指したものだと思いますが、非常に複雑なシステムを何とかしようというときになると「設計の科学」という立場が必要になってくると思います。
 例えば先ほど伊藤先生が、何らかのための必要十分なモデルが大事だという話をされましたけれども、それを自動的に出してくるロジックというのはなかなか難しくて、従来の「認識の科学」の立場で考えると、実は統計では検定論ではシンプルなモデルがいいというのは出てこないんですね。ところが、予測などの目的を入れると初めて自動的に出てくる。従来の科学というのは目的を入れることは比較的嫌われますけれども、やはり設計に使うという立場になると、むしろ目的を積極的に入れていった方がいいのではないかと思います。数学は目的を決めて、それを最適化するようなことはむしろ得意なので、この問題を積極的にやれば今後社会に大きな貢献ができるのではないかなと考えています。

【若山主査】  宮岡先生、今日、最初に貴重な御意見を頂いたわけですけれども、1時間半ほどたちまして、もう少し追加すべきことはございませんでしょうか。

【宮岡委員】  日本のシステムというのは、なかなか動いてくれないので、そういう考え方を普及させることからまず始めなければ駄目なのかなと、かなり悲観的になってしまうんですけれども、とにかく日本って少しずつ修正していって、コンシューマー・オリエンテッドなものはものすごくいいのだけれども、本当に大規模なのを一つだけ作るとなったら苦手ですよね。でも、数学的な考え方を取り入れていけば少しは修正できるのかなと期待しているわけですけれども、とにかくシステム全体を前もって総合的に考えるということはとても大切なことですが、そのときに多分一番難しいのは、どれが本当に要らない情報か、それをどうやって見つけるかということだと思います。そういう方法があるのかどうか分かりませんけれども、そういうことを考えていかなければいけないのではないかと思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。そういう意味では、数学に限らないでしょうけれども、今、北川先生がおっしゃっていたような設計するという意味合いが重くなりますね。

【宮岡委員】  そうですね。どうこうするというときはやっぱり目的がないとできないので、そこが本当に本質的なのではないかなと思っています。

【若山主査】  今後の最終報告に向けた検討の進め方というのは、抽象的な質問で難しいところはあるのですけれども、最終報告書をまとめるということを考えたときに、時間的なスケジュールは大体どういうふうにお考えでしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】  一つの目途としては今年度中ぐらいを目途に何か表に出せるようなものができれば、その先につながっていくのかなと思っています。このアプローチ1や2の観点で、今後の議論のたたき台を委員の皆様に御協力いただきまして、今後お知恵出しをしていただければと考えています。

【若山主査】  そうですね。

【合原委員】  結果論としてアプローチ2でうまくいっている例は、探せば結構あるのではないかと思うので、そこをいろいろ探すといいと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】  アプローチ1でも当然、今後はこういう数理的なアプローチが重要なんだなというのがおのずと浮かび上がるということもあるでしょうから、アプローチ1、2というのは分けていますけれども、目指すところはある意味で一緒なので、余り厳密に区別して考えなくてもいいのかもしれません。

【若山主査】  そうですね。この委員会の報告書はほかの委員会と違った形のものができてもいいのかなという気がしています。例えば、考え方を最初にちゃんと掲げて、長いものを書いては読んでいただけませんので短く掲げ、その上でこのアプローチ1であるとか、アプローチ2であるとか、それから、数学の研究そのものの重要性を記述していく。そのときは誰も役に立つと思っていなかったことが役に立つこともあるということも少し書き添えて、アプローチ1、アプローチ2で、網羅するのは無理でしょうが、具体的な例を挙げていくということで説得力を増していければ良いのかなと思っています。そういう方向で今後の委員会を進めていければと思いますが、よろしいでしょうか。必要であればいつでも修正はできると思いますけれども。

【森主査代理】  一つよろしいでしょうか。

【若山主査】  はい。

【森主査代理】  こういう議論は、いつも分けて縦割りにして進んでいきますが、数学は元々領域横断型の科学技術だということで入ったので、そこがいかに大事かということをアピールする。そういう意味では、今は付録みたいに書いてあるのだけれども、そこをもう少し何かアピールする、いかに大事かということを強調する必要がありますね。

【若山主査】  そうですね。ここでそういうものをまとめて報告書の前に書こうとしておりますので、よろしくお願いいたします。

【森主査代理】  はい。

【若山主査】 本日の議論も豊かな内容になりましたので、また次の委員会の議論につなげたいと思います。それでは、最後に事務局より連絡事項をお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  次回委員会の日程等はまた主査と御相談の上、御連絡させていただきます。

【若山主査】  それでは、どうもありがとうございました。本日の委員会はこれにて閉会いたします。

―― 了 ――

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