数学イノベーション委員会(第12回) 議事録

1.日時

平成25年7月30日(火曜日) 15時~17時

2.場所

新霞が関ビルLB階 科学技術・学術政策研究所会議室

3.議題

  1. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  2. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、合原委員、青木委員、安生委員、伊藤委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員

文部科学省

安藤基礎研究振興課長、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

旭硝子株式会社中央研究所 高田章 特任研究員(日本応用数理学会長)

5.議事録

【若山主査】  本日は大変暑く、湿度の高い中、お集まりくださいまして、ありがとうございます。それでは定刻となりましたので、ただ今より、第12回数学イノベーション委員会を開会いたします。本日は御多忙の中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 本日、大島委員、高橋委員からは御欠席との御連絡を頂いております。前回が第2期に入って初めての委員会でしたので、前回御欠席の委員から簡単に自己紹介をしていただきたいと思います。小谷委員と青木委員は遅れてこられるようですので、おいでになったら自己紹介していただくことにいたします。それでは杉原委員、それから西浦委員からお願いいたします。

【杉原委員】  杉原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。第1期の委員では東京大学情報理工学研究科におりまして、そこで計数工学科というところで、実は合原先生と全く同じところで教育の激励、指導をしておりました。今年の4月1日からは、青山学院大学理工学部の物理数理学科というところに移りまして、前はちょっと工学科が入って、数理工学という感じでしたが、今はは要するに数学科ということで移りましたので、またよろしくお願いいたします。専門は数値解析とか、幅広く数理工学に近いことをやっております。どうぞよろしくお願いいたします。

【若山主査】  どうもありがとうございます。では西浦先生。

【西浦委員】  東北大学WPI-AIMRの西浦廉政と申します。今日はトップバッターでお話しさせていただきますけれども、JST戦略的創造研究推進事業の数学領域をやらせていただいております。一方で、東北大学の原子分子材料科学高等研究機構に1年半ほど前から研究、それから特に若手の育成、実験と理論数学をうまくコーディネートしてやっていくというのが、私に課せられた大きなミッションの一つです。しかしながら、ミッションを果たす前に昨年4月に赴任するや否や、何もアクションを起こしていないのに、バリエーション、又はパワーポイントをすぐ作ったというところ評価疲れということで大変でした。
 それは何とかやりまして、今年に至って、8月9日、それから9月の末に2度あります。本来は機構長の小谷先生からお話しすべきですが、ちょっと遅れられるということで私から御説明しますが、WPIは御存じのように、5年プラスアルファということで、今年そのプラスアルファが延長されるかどうかということの一つのクリティカルな年になります。そのために、もう既に世界的な拠点になっていると。なっていないといけない。なるであろう、なるポテンシャルがあるということでは駄目で、なっていないといけないという現在形の読み物で、どういう形で数学のコントリビューションといいますか、力というのをお認めいただくかというのは難しい課題なんですけども、何とかこの夏に、夏ばてしないように頑張りたいと思っていますので、いろいろなところからのコメントや御声援をまたよろしくお願いしたいと考えております。よろしくお願いいたします。

【若山主査】  どうもありがとうございました。それでは今期に入って、本日の議事を進めるに当たり、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、配付資料の確認があった。

【若山主査】  それでは議題に入りたいと思います。西浦委員から、これまでの戦略的創造研究推進事業「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」領域の研究総括としての御経験や、活動の状況を踏まえ、御意見を紹介していただきたいと思います。それでは15分程度で説明をお願いしまして、その後5分ぐらい質疑応答の時間をとりたいと考えています。ではよろしくお願いいたします。

【西浦委員】  早速ですが、始めさせていただきたいと思います。前半は、我々この領域、取組に対する我々の姿勢、スタンスというのをざっと御紹介して、その後、羅列的にどういうテーマが進行しているか、どういう成果が上がっているかというよりも、非常にフォーカスされたものに限定して、そこで何が起こり、どういうことが問題になっているかと、そういう意味でJSTの数学領域の紹介というよりかは問題提起という形でプレゼンさせていただきたいと思います。
 戦略目標、これは私どもが作ったというよりかは、トップダウンで下りてきたものですけれども、「ブレークスルーの探索」と書いてあるところが非常に我々にとっては有り難く、またいろんな意味でオーガナイズしやすかったわけです。特に三つ書きましたが、内なるニーズというのは理論的な進化というのを目指しているわけで、あくまでもそれを基盤として社会のニーズに応えていくということで、むしろ社会のニーズに合わせなくちゃいけない面もあるんですけれども、やはり数学のパワーというのが、それを超越した大きなポテンシャルが常にあるわけですので、そういう形であくまでも基盤としてニーズに応えていくと。
 しかし一方で、本当の現場で何が起こり、何が求められ、どういうふうに研究が現場では進行しているのかということも非常に重要なので、極めて抽象的なことをやるとしても、現場の感覚といいますか、現場の問題というのも直接的又は間接的に知っていただきたいというふうには、研究者には常々言っております。
 もちろん、いつも言われることですけれども、産業の方であれ、諸分野の方であれ、カルチャーの違い、時間スケール、価値、評価の違いというのは常にあるわけですけれども、これは常に乗り越えていかなくちゃいけない課題なので、これについてもむしろ体験的に感じ、どうしていくかを自分で考えていくと、そういう姿勢・スタンスで現在やってきましたし、やりつつあります。
 これも何度も言っているので、もう簡単にいたしますけれども、今、どういう問題であれ、もう具体的な列挙はやめますが、極めて複雑化している、極小最適化だけでは間に合わないという問題が圧倒的に多いわけですね。昨日も局所集中豪雨が大変だったんですけれども、私も羽田で降りられるか、降りられないかということで非常にやきもきしていたんですけれども、非常に極めて集中的に短期間に大量の雨が降るというのは、十、二十年前と比べると、圧倒的に増えているような気がしております。
 この辺の20世紀の質的変化から、21世紀の量的変化にどう対応しているのか。ビッグデータ領域というのも発足いたしましたが、そこに本当に新たな方法論というのは何があるのかというのは、まだまだ大きな未知領域として残っております。
 そういう意味で、非常にヘテロな人材をさきがけ及び現在走っておりますCRESTで集めることによりまして、いわゆる「つながる知」というものを目指したいと。細分化を何とかとどめたい、それをユニファイしたいということで、ツールボックスとしては重要なんですけれども、そこにとどまることなくヘテロネスから、ヘテロジェネーティーから、新たな数学へのフィードバックというのを目指したいということです。
 特にCRESTの中間評価も実は3月末に終えたんですけれども、常に問われるし、我々にとっても大きな課題だと思っていますのは、与えられた課題に対して何かに応えるという部分は、それはそれで極めて重要なんですけれども、そこからやはり新しい領域というのを開拓しないといけない。とりわけ数学にとって、どういう新たな問題があり得るのかということを、共同研究、ディスカッションを経てやっていきたいと。これは時間スケールは結構かかるんですけども、意識としてはそういうものを常に持っているというのは極めて重要なことだと思うんです。
 最初申し上げたように、今日は時間の都合もあるのでケーススタディーでお話しさせていただきたい。合原先生も新たな委員として加わられたので、私としては今回は医療関係に絞るのがいいのではないかということで、現在CRESTが進行中の水藤さん、臨床の先生と共同で研究しているんですが、ただ臨床の先生とやっているだけじゃなくて、非常に多岐にわたります。8ページの右上ですけども、ここはいわゆるサイエンティフィックな解明です。例えばその大動脈瘤(りゅう)がどういうふうにして形成されるか等々、あるいはステントの問題もあるんですけれども、この辺は臨床医療における幾つかの問題のサイエンティフィックな解明、これは普通誰しもすぐやることですけども。
 同時に、お医者さんは御存じのとおり、一番重要視するのはいろんな統計的データです。ですからそういう統計的推測も大きなファクターになります。ですから、サイエンティフィックな解明、それから統計的な推測、さらに、これも御存じのように、イメージングという画像処理ですね、あるいは画像診断、遠隔診断ということで、いわゆるビッグデータ的な話につながりやすいんですけれども、でも実際どうするのというところは、まだまだアンカルチベーティッドだと思います。
 そういう意味で、まとめるとこういう三つのことを視野に置きながら、数理科学者と臨床医療の方々が協働していく。
 しかしながら、現場に入ると、直接水藤さんにもお聞きしたことなんですけども、はっきり言ってもう対応し切れません。あらゆる問題が臨床医、特に何らかの意味で客観的なイメージングに限定したとしても、判定法、何かが欲しいということで、データはたまるんですけども、ここに幾つかを列挙いたしましたが、列挙し切れないぐらいたくさん問題が出ています。
 これは統計を、いわゆるデータサイエンティストの不足のみならず、こういう掲げられた問題を実際モデリングし、シミュレーションし、あるいは統計的推測を行う等々をやれる人というのが圧倒的に欠落している。提案ももちろんいろんなレベルがあるわけですけれども、実に多種多様です。
 最後の3番目のアイテムのようなことになってしまうわけですけれども、二重、三重のインターフェース、今日もこのディテールには触れませんが、臨床医から数学者、数理科学者の間には、大体二、三段の通訳は実は必要で、そこは合原先生もうなずいておられますが、なかなか実は大変なんですね。
 水藤さんのグループを見ても、これだけの人が直接間接絡んでおります。先ほど申し上げたように、水藤さん、統計の方、数値解析の方、それからメカニカルの計算科学、流体力学、幾何学などですが、こちらは放射線科医がハブになります。データ、いわゆる電子的データというのは全て今病院では放射線のお医者さんに集中いたします。で、その方をハブといたしまして、ここに列挙したような方々、更にメーカー測定機器等々の方も入ってきます。
 ですから臨床医療と数理科学をつなぐといっても、そういう簡単なグラフじゃないんですね。こういうことを頭に置かないといけない。
 このシートは単にその相関と因果と書きましたけども、壁面能力と動脈瘤(りゅう)の関係といっても、お医者さんによって、その頭の中の引き出し、経験データから全く反対のことを言われたりすることもしょっちゅうあることで、特に最後のところをやはり水藤チームとしては目指したいというのが、このチームの大きな目標だと。それもなかなか5年間でできるかどうかはクエスチョンです。
 ちょっとそれに関して、数学モデル。数学モデルは、これは広い意味でとっていただきたいんですけども、御存じかもしれませんが、乳がん検診では2009年にアメリカで、それまでは40歳から80過ぎまで非常に広い幅で、毎年インストラクション検査をやっていたんですけれども、それ実は膨大な無駄があるのではないかということで話が出ました。実際2009年には一部の検診はまず毎年やるのをやめましょうと。2年ごとで十分じゃないかと。ちょっと注意してほしいのは、あくまでも大きなトレードオフがあります。こういう問題は乳がんに限りませんけれども、いわゆる国全体を見たときに、それに関わるコストと患者一人一人の立場というのは常にトレードオフがあります。患者にとってみれば、たとえ自分が毎年放射線を浴びようとも、検査してくれて早期にがんが見つかるということであればうれしいわけですけども、国全体としてそれだけのコストをかけて、国民全体の健康増進に本当につながるかというのは、そこはかなりトレードオフがあります。
 例えばつまり、乳がんによっては非常に進行が遅いということがあって、お年寄りの方に診断をしてそこで手術をやったとしても、そのいわゆる標準的な年齢までに、80才なら80才までにそれ以外の原因で亡くなる方も非常に多いわけです。ですからそういう意味で、これは六つぐらいの数理モデルのグループが作られたそうで、これはスタンフォードのモデルのチャートですけども、まあその腫瘍が倍になるときが一つの判定、クライテリウムとして、これは統計モデルですけども、どれくらいの年齢層にどれくらいの頻度でやればいいかということをモデルを作って、一番望ましいやり方はどうなんだということで、結果としてその六つのモデル、ほぼ全てが先ほどのように毎年のはやめましょうという結論だった。
 しかしながら、これに書きましたように、確かに過剰診断や錯誤、あるいはフォルス・ポジティブに問題をある程度解決することに、そのモデルは寄与するわけですけれども、最終的には医者にとって代わるわけではないわけです。しかしながら、こういうことに書いてあります。「However, the acceptance of mathematical models for medical decision-making――at least behind the scenes――continues to grow.」ということで、徐々に認められつつある。
 だからこういう現実的な問題には、数理モデルというのはどういうふうに役立っていくかというのは、この一例をとってみても、どの立場に立つのかによってジレンマとトレードオフに対抗していかなくちゃいけない。
 そういう意味で、そこら辺の統計モデルの計数の推定にしても、デターミニスティックなモデルにしても、常に不確定性が入ってきます。これはもう御存じのことですけども。
 そういう意味で、この問題だけに限らず、不確定性というものを一つの対象物としようという動きがいろんなところで出てきています。これはアメリカのサイアムで、来年の3月に行われるカンファレンスのアナウンスですけども、これも2008年、ここら辺に書いてあることが全て不確定性にある程度直接、あるいは間接に関わる。
 かつ、人間のセンシティビティーとしては、こういうものはなかなか直感的に理解しにくい。どうしても数理モデルである程度の定量的、あるいは定性的な判定法というのが必要になってくると。
 これは西アフリカの例だったと思います。ある種の昆虫を媒介とする伝染病が、モデルによってどれくらいの期間、どれくらいの地域に、どれくらいの投薬すれば効果的かということが、この図で分かると思います。
 CRESTの方でも、さきがけの方でも、そういう似たデータ処理をやる、この場合は伊藤さんのインフルエンザ変異予測ですけども、この方もやはり現場の人獣共通感染症の実験の方と組まれて努力されています。
 防災・減災の問題もやはり極めて複雑な問題、ファクターがたくさんあります。どの立場で考えるのかと。で、四、五百億かけて、今もう防潮堤を再建しておりますけれども、住民の人はやはり海のそばにまた住みたい、戻りたい、そこでもう一度仕事をやりたい、行政側はしばしば高台移住にした方がいいんじゃないかと。しかしそれは町勢衰退につながってしまう。このときのトレードオフは、レアイベントかもしれないけども、どれくらいの頻度で、どれくらいの津波がどれだけ被害を侵すのか、それに対してこれだけ投資するということが果たして皆さんが納得できるのかというのは、非常に大きなモデルから何かを言うという場合でも、大きな複雑なファクターを抱えているわけですね。もっと狭くしてサイエンティフィックな問題に限定する、例えばその防潮堤と防波堤は同時に作った方がいいのか、セットに作った方がいいのかという問題にしても、これも様々な議論がありまして、私は専門ではないですけども、ちょっと調べるだけで、例えば反射波というのを調べなくていいのかと、ここで反射したのが違う方向に行って、別の湾を襲うということもあり得るわけで、もう非常に複雑で単純ではありません。
 例えばどういうふうに我々はフォーカスしていくのがいいのかと、勝手に私二つ書きましたけれども、これがいいという意味ではありません。例えば今日フォーカスしたテーマでは、アンサートンティーとかディシジョン・メーキングというのが一つの選択になり得るだろうし、しかしながら、この委員会でこれまでの議論を通して個人的に感じるのは、一体どういうふうに、何をどう決定していくのかと。当然出口に近くフォーカスされたテーマというのが一番具体的で説得しやすいわけですけども、我々数学の構造から言うと、学問的な色彩から言うと、やはり扇の要的なところがあります。ですから、そこをどうしてもきっちり押さえた上で、フォーカスされたアプライをしたいと。でも、こちら側はなかなかそのいいスローガンが作りにくいんですよね。
 それでどうするのかということですけども、例えば1のカテゴリーに属するんですけれども、我々の力といいますか、運用の力で、アイデアで、2の側面を失わないような形でできないだろうかと考えております。以上で終わります。ありがとうございます。

【若山主査】  どうもありがとうございます。最後に先生がお話しくださったところは、今日の論点にもなるかと思います。
 さてここで、質疑応答の時間にさせていただきたいと思うんですけれども、どなたからでもどうぞ。

【合原委員】  数学の医療への貢献というのは歴史的にも大きいと思うんですね、CTをはじめとして。医療機器の内部に情報処理として入るというところは割と簡単だったと思うんですけど、実際にデシジョン・メーキングとか、それから治療法や診断といった、臨床に近いところを目指そうとすると、例えば治験とか臨床研究に数学をどうやって入れていくかということを考えると、やっぱりそこには何かちょっと難しい、何か壁がありそうな気がするんですよ。
 例えば数学を用いて診断をします、治療をしますといったときに、インフォームド・コンセントみたいなものを、どうやって患者さんに納得していただくとか、何か数学特有の難しさが出てくるような気がしていて、その辺、僕自身も悩んでいるところなんですけど、その辺は何かいいアイデアとかありますか。

【西浦委員】  まだありません。今そこの困難は、やはりどういう病気かにもよるであろうし、その数学がどういうスタンスでアドバイスといいますか、モデルから来るデータを臨床の方にしていくのかということで、僕自身がやっているわけではないので、本当は水藤先生がおられるといいと思うんですけども。
 ただ、先ほどの乳がんの例で申し上げたように、確かに医者にとって代わることは絶対できないんですよね、現時点で、最終的な判断と。ですが、その医者の方も、医者の内部の医の世界のソサエティーでも非常にその辺の混乱が僕はあると聞いています。だからどういうふうに、ある病名を、例えば水藤さんの場合だと動脈瘤(りゅう)というのをやっているんですけれども、動脈瘤(りゅう)の心臓から出る血管の形状というものによって、予後がいい人と悪い人がいる。これは特許にも余り関わらないという意味で割と楽な場合、うまくいく場合の例としては、どういう形状であればこの人の予後はうまくいくのか、あるいは気をつけないといけない症例なのかと、その判断が素人のお医者さんではなかなか難しいんだけども、熟練された方は割と的確におっしゃる。それを定量的にモデルで言うことはある程度可能なんですね。
 ですから粗っぽく言っちゃうと、その経験、暗黙知的な、不正確ですけども、それをもう少し数学的に外在化させるということは一定条件で可能です。そういうのは割と受け入れられやすいと思うんですね。
 ただし、薬の開発とか、あるいは特許に絡むとか、特に患者さんの生死に直接に関わるようになると、別の製薬会社が絡んできたりとかなるので、別のファクターが出てくるし、やはりそのなかなか御指摘のように、一概には我々がどこまで参入できるかというのは壁があります。
 ただ、壁はあるんだけども、どういう壁があるのかということをやはりもうちょっと整理すべきだし、一定以上の小さい成果でもいいけれども、それを蓄積することが説得力を増すために、合原先生がやっておられるのはよく存じ上げているんですけれども、必要だと思うんですよ。だから、現時点ではちょっとそこぐらいまでしか見ないのかなと。

【合原委員】  例えば暗黙知でそこを数学的に表現して、お医者さんが、「あ、そうか」って納得してくれるようなことだったらいいんですけど、お医者さんが理解できなくて、でも数学的にはこちらの方が絶対にいいんですよというようなこともあり得るわけですよね。その辺になってくると、何かすごく微妙な問題になってきそうな気がしますが。

【西浦委員】  確かに動脈瘤(りゅう)ができるというと、一番動的な時間方向のダイナミズムというのは、アナトミカルな形態学としてはお医者さんはすごいんですけれども、どくどくと時間的に変動しているわけですね。そういう時間方向のダイナミズムというのはしばしば忘れられている側面があって。で、旋回瘤(りゅう)に関しては、私も間接的に聞いた話ですけれども、お医者さんはそこまできっちり本当にリアリスティックなモデルとシミュレーションをお見せすると、やはり納得せざるを得ないです。
 ということで、そのときに可視化の問題が出てきます。お医者さんが分かりやすい、可視化をどうするのかという、テクニカルなんですけれども非常に重要な問題です。

【若山主査】  ほかには、御質問等ございませんでしょうか。

【北川委員】  何回も同じようなことを言うようですが、西浦先生、最初に非常に複雑なコンプレックスが発生したというようなことを言われて、最後にアンサートンティーとか、ディシジョン・メーキングということを言われました。ある意味、我々統計がずっと目指してきたことなんですけども、別な側面から見ると、やはりこれはサイエンスが、19世紀頃と私は言っているんですが、いわゆる第一原理で書けるような物理的なシステムから、今やもう非常に複雑で、そういう天下り的にトゥルースを表現するようなモデルが書けないような問題の方がだんだん重要になってきているというところがあると思うんですね。
 だから、従来の数学と言うと言い過ぎかもしれないけれど、そういう物理モデルみたいなのだけでは書けないところに対してどうするかというところをやっぱりやっていかないといけないんじゃないかと思います。

【西浦委員】  今日は言いませんでしたけども、ただ生命系では遺伝子ネットワーク、バイオインフォマティクスでは、やはり離散数学、例えば御存じのようにグラフ理論とかがかなり重要な役割を果たしていたし、それは古典的にはグラフ理論だけではなくて、各ノードがある種の状態といいますか、ファンクションを持つと。そういうものに、あるいはグローイング・スルー・グラフだとか、そういう概念がもう少し数学的に、あるいはそのダイナミクスがもう少し数学的にきちんと分かると、そういうところに新たな、先生のおっしゃるモデル化できないという面とコンバインさせながらやると、多分うまくいくんじゃないかと。
 だから、僕はそこの両方をどうしても必要かなという。ますますその統計的な、あるいはデータドリブン的なのは、これはもう時代がそういうものを求めているので、絶対必要だと思いますけど。
 もう一つ、これまでの従来のデターミニスティック、あるいはモデリングシミュレーション的なものを、お互いいいとこどりで併用するのがベストな方法になるのかなと。ただ問題によると思うんですけれども、どちらがどっちより重要視されるかなという問題によると思います。

【北川委員】  ゲノムのネットワークでも、何か起こると、適応して変わっていくと言われているのは、そういう、常にやっぱりダイナミックなシステムを考えていかないといけないということですね。

【西浦委員】  そうですね。

【若山主査】  ほかに御質問ございませんでしょうか。それでは、今期の委員会が改めて始まったということで、冒頭に前回欠席された委員に自己紹介をお願いいたしましたけれども、青木先生も小谷先生もお見えになったので、青木先生の方から簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

【青木委員】  一橋大学経済研究所の青木と申します。よろしくお願いいたします。ここで議論するとき大先生と一緒でいつも恐縮なんですけれども、今、総合科学技術会議の非常勤議員をやっていること、多分学部のときに数学をやったということが、価値は分かっているけど、結局消化し切れなかったので、皆さんに期待する消費者としては非常にいいのではないかと思います。今日はちょうど予算のヒアリングがありましたので、遅くなりました。よろしくお願いいたします。

【若山主査】  どうもありがとうございます。それでは小谷先生、お願いします。

【小谷委員】  東北大学の小谷です。数学者のつもりですが、最近は材料科学者なのかもしれません。今、東北大学大学院理学研究科数学の教授で、あと原子分子材料科学高等研究機構長となっています。どうぞよろしくお願いします。

【若山主査】  どうもありがとうございました。それでは、議事を再開させていただきます。次に伊藤委員から、産業界との連携において今後重点的に連携すべき分野や研究テーマ、研究目標について、御意見を伺いたいと思います。
 それでは、やはり15分程度でよろしくお願いいたします。

【伊藤委員】  理化学研究所計算科学研究機構の伊藤です。私は、今理研にいますけども、30年近く企業におりまして、今日お話しさせていただきたいと思っていることは、企業では数理科学とか数学に非常に期待をしております。企業にはどういう課題があって、どういうところに期待しているかということを、私が関係したところを中心に、網羅的にはとてもできませんが、お話しさせていただきたいと思っています。
こういう話に関しましては、昨年度来、この委員会でいろいろな調査をされていることも承知しておりますが、重複あると思いますけれども、お許しいただきたいと思います。
 本日の話を三つのカテゴリーに整理をしました。まず数学イノベーション委員会なので、イノベーションで分けましたけれども、よく言われているイノベーション、元々のイノベーションというのは、このプロセスイノベーションというのが言われていたのですが、最近は、いやいや、プロダクトでもイノベーションが起こるとか、もののバリューのイノベーションだねとか、だんだん話が広がっているのです。バリューイノベーションという言い方をするとすれば、数理科学そのもの、数学そのものが革新的な新しい製品を生むという場合になります。私が知っている例として、暗号とスケジューリングワークの話をしたい。2番目に、数理科学によって、明らかに高付加価値が実現できるという話。これはある意味一番今使われているところだと思いますけれども、いろいろな製品の設計シミュレーションとか、あるいはデータマイニングの話。三つ目のところは余り議論がなされていないので、是非今日は紹介したいのですが、数理による定量的な技術経営、いわば思考の数理化のような話です。シックスシグマとかタグチメソッド、産業界の人はよく御存じの言葉なのですけども、少し紹介したいと思います。
 最初の話、暗号ですけれども、昔は共通鍵暗号というのがありましたが、最近では公開鍵暗号方式という、RSAとか楕円(だえん)曲線上の離散対数ですとかそういうのを使ったものがあります。私の理解している範囲では、一方向性関数というか、要するに素因数分解のように、片方の計算は簡単だけれども、逆向きの計算はすごく大変という性質を使って、公開鍵、秘密鍵というのを作るというのが普通だと思います。最近だと楕円(だえん)曲線を使った番号の方が、RSAよりもコンパクトになるというので実装されていることが多いと思うのですが、企業的には、もちろんこの暗号そのものを作るというのも大事でそこはすごくインパクトがあるのですが、実は産業界的にはここの部分というのはちょっとやりにくくい。というのは、標準化とか、それから軍需とかいろんなものに関係していて、ここはちょっとやりにくいところがあります。一方それに対して、この暗号の解読、早い話、破る技術ですけれども、これに対応する技術というのがとても重要になっていまして、大きく分けて三つぐらいあります。一つが力技でやるという話で、特にDESのようなものに関しては、これは組合せを全部調べればいいので、ちょっと古いですが、ディープ・クラック・チップのような専用チップを作ってやるとか、去年だったと思いますが九州大学でペアリングの世界記録を達成されたと思うのですけれども、そういうものをやられていると。これは数学的な理論を使いながらやっていると思います。一方、産業界で今非常にやられているのは、物理的解読というもので、サイドチャネルアタックというものがあります。これは何かというと、暗号はこういう半導体チップの中にインプリメントされているわけですが、それがどんな動作をしているかというのを物理的な状況から見て、そこから解読する。例えば暗号チップの周囲温度を上げてわざと故障させ、異常動作させると、このようなことをフォールトチェックと言いますが、本来起こるべき符号化と違う符号化が起こるので、一体それで何が起きたかということを調べることができる。それから消費電力解析ですね。そのチップはどういう電力を消費するかというのを知ることで、チップ中でどういう演算をやっているかが分かるので、それを使って解析する。そういうのをタンパー技術といいますが、それに対する耐タンパーデバイスというのが最近研究されています。これはある種いたちごっこですけども、非常に研究されている分野だと思います。
 もう一つはいろいろなのがあると思いますが、スケジューリングです。私は今日神戸から来るのに駅探を使ったので駅探を示しましたが、ジョルダンとか、ヤフーとかいろんなものがありますね。最近は行き先を入力すると、ばばっと経路が出てきて、虎ノ門や新橋に何時に着くとか、こういうのを出しております。これは最適化問題の最たるものでして、これ以外にも先ほどの話にもちょっとありましたが、いろんなところに使われております。この駅探もそうだったのですが、これは基本的に評価関数をどう作るかということで、比較的やればできるという世界でありました。
 ちょっと面白いスケジューリングとして、エレベーターの群管理システムというのがあります。昔はエレベーターはボタンを押すと一番近くにあるかごがすっと来てくれたんですけど、最近は通過したりいろんなことが起こりますけれども、全体的に見ると一番待ち時間が短くなるようになっているんですね。少し前までやっていたのは、どこにかごがあって、その中から呼ばれたところに最適なものをもってくる、これがスケジューリングだったのですが、最近やられているのはその先ですね。将来どこの階で呼ばれるかということを先読みするということであります。これは数学モデルが作りにくいので、ニューラルネットやあるいは遺伝的アルゴリズムを使います。どうしてこんなことができるかというと、有り難いことに建物には大体毎日同じ人が同じように来る。あるいはデパートであっても、不特定多数がランダムにばーっと来るということになっているので、そうすると過去のデータからどういう分布をするかというのが分かります。それを元にして、ニューラルネットやGAを使うと、いつどういうところに呼ばれるかということが大体分かるので先読みできるんですね。一番端的なのは、朝の通勤時間のときというのは1階にみんなたまるので、いかに早く1階から上に上げるかというスケジューリングをすればいいと、こういうことになります。
 2番目の話は設計シミュレーション、例えば車を設計するときにシミュレーションをやる。これはもう至るところでやっていまして、衝突ですとか、あるいは空力解析、正確に言うとこの空力解析の例は車の抵抗を下げるというよりは、よく見ていただくとわかるように、ハンドルを切って横に動きます。つまり横に動いたときの走行安定性ですね、高速道路でハンドルを切ったときに、車がぶれないかという、そういうシミュレーションです。
 あるいはタイヤ素材のシミュレーション。もちろんこういうのは実験でもできますし、実験を繰り返せばいいのですけれども、シミュレーションをやることによって、魅力的な、安全性の高い、あるいは燃費のいい、そういう車を早く作れるようになってきました。こういったところに非常に大きな数理が使われています。
 スーパーコンピューター、資料では「京」と書いていますけれども、こういうものを使えばできるわけです。これによって高付加価値のサービス、あるいは製品が作れる。これには基本方程式を適切に解くということが必要です。この適切というのが重要でして、やみくもに精密に解けばいいというものではないと。製品設計に必要十分な精度で解けばいいと。大体自然界というのは連続系の方程式で表現されるので、これ離散化して解くんですが、そこではメッシュの生成を行う必要があります。前回も高橋先生からお話があったと思うのですけれども、これはタイヤのホイールでの例ですが、メッシュ・ジェネレーションというのは実は意外に難しくて、人間が目で見ると、いいメッシュというのはすぐ分かるのですが、これを計算機で自動発生させるのは結構難しいと思います。この後、お話しされる応用数理学会でもメッシュ・ジェネレーション専門の研究部会があります。
 それからもう一つは、コンピューター・アーキテクチャーがどんどん進化しています。私が学生の頃は、ベクトル計算機がようやく出るか出ないかだったのですけれども、スカラーからベクトルになり、今は超並列になったり、専用コプロセッサーがあってと、アーキテクチャーがどんどん変わっています。そうすると、そこに対して最適な数値解析アルゴリズムが研究される必要があります。
 次の話ですが、高速のデータ検索というのがあります。これはグーグルの最初のベータ版のホームページですけれども、これは大量のデータを検索する、先ほど西浦先生からも紹介がありましたが、医療関係でもこういうデータの検索は非常にありまして、いろんなサービスがあります。
 私が関係したのは、特許庁の特許のデータベースでして、あれも文書が大量に入っているんですが、かなり扱いにくくて、文書と図が混在しているというややこしいものになっていて、それをXML化して高速データ検索する、データベース検索するという、そういうような仕組みをちょっと考えたことがありますが、そこでやはりきちんとしたアルゴリズムを作るとか、アノテーションをうまくするとか、それもできれば自動的にやっていただくとか、検索するときにうまくクラスタリングするとか、そういうようないろんな方法が必要になってきています。
 3番目は、実はここは今日特にお話ししたかった話です。ここで技術経営、MOTの講義をするつもりは全くないのですけれども、例えばこのシックスシグマという考え方があります。DFSSというのは、デザイン・フォー・シックスシグマの略です。これはここに書いてあるとおりで、1980年頃モトローラが言い出したのですが、研究開発・製造の中で起こるエラーやミス、これの欠陥の発生確率を100万分の3ないし4、6シグマレベルにしようという、これはある種のスローガン的な言い方であります。本当にここにそろえるのではなく、スローガン的な意味でです。
 そのためにどうするかということが重要なことでして、これは品質管理のPDCAです。プロジェクト管理のPDCAと同じなのですが、重要なことは、課題を定義して、きちんと今の課題がどういうふうになっているのか、現在のパフォーマンスをメジャーして、それを解析して、どういうふうにすればいいのかとインプルーブして、解析した結果、元の課題をどこまで解いたかコントロールしましょうと、こういう一群の手順なのですが、これがこれまでのPDCAと違うのは、線形計画法なりあるいは推計統計学なりをきちんと使って数理的に解析しましょう、そういう方法をちゃんとビルトインしたスキームにしたところというのがすごく重要です。
1980年にモトローラがやった頃は、実は余り普及しなかったのですが、1990年代にGEがやり出して一気に普及しました。なぜかというと、それはこれに使える標準ツールができたからです。実験計画法なり、推計統計学なり、大した数学はやらないわけですね。検定ぐらいでしかやらないです。だけど検定ぐらいしかやらなくても、現場が検定プログラムを使う、例えば統計解析プログラムを使う、私が学生のときにはSPSSなんかありましたけど、あんなもの現場の人が使えるわけがないですね。現場の人が使えるのは、エクセルだったり、あるいはRだったり、ミニタブだったり。もちろんRもいきなり自分でプログラムを書けと言ってもできないのですが、全部作ってやればできる。そういう標準的なものができたので、こういう考え方を現場に展開することができて、今、製造業ではシックスシグマがあちこちで入っていますが、本当に現場の技術者、誰でもp値検定はすぐにできるようになっているというのが普通の会社であります。ただp値検定の意味を知っているかというのは、これはまた別問題です。
 同じような話として、タグチメソッドというのがあります。これもやっていることは非常に簡単で、ばらつきのある工程をいかにしてばらつきの少ない工程、あるいは製品にするかという設計の一般論です。やっていることは非常に簡単で、伝達関数を決めて、この中で制御できないノイズとコントロールできる量とシグナルを決めて、それでどういう伝達関数になるか。そういう感度解析をしたり、それからどの入力信号とどれが関係しているかという要因分析をして、交差解析をして、それに基づいて、直交表によってどれだけ実験をやればよいかという実験計画法。こういうのは非常に簡単な数学しか使っていません。
 ただし、タグチメソッドのすごいところは、それをきちんと全体のツールとして一つの形にまとめて、どういうふうにすればいいか、問題に対してどういうふうにそれを適用すればいいかということを教えてくれるところにあります。ここでは数学というよりは算数みたいなことしかやっていないのですけれども、考え方を相当に変えたと思います。
 ちなみに品質工学の研究会に行くと、実は数理の話より、現場でどういう問題があって、その現場の問題をどうやってここに焼き直すかというところに皆さん非常に大きな議論をしています。
 最後に申し上げたいのは実はこの図でして、産業界ではものすごくいろいろな課題があります。いろいろな課題を解かなければいけないのですけども、いきなり数学を適用して、例えば先ほどの暗号のように画期的なものができればそれはそれでいいと思います。ただ、普通は大体なかなかそれができないので、何とかして数理モデル化します。数理モデル化するときに、実はここがよく分からないのだけれども、先ほどのシックスシグマなり、あるいはタグチメソッドは、ここら辺をある種体系化して、誰でもできるような形にしたわけです。
 いったん数理モデルに落とし込めれば、あとは簡単でして、定量解析ができます。そこでは使う気になればスパコンもあれば、いろいろなソフトウエアもあります。もちろん実験という手法もあるので、これはSPring-8、これは名古屋大学の超高圧電子顕微鏡ですけども、こういうような実験的なものを使っても結構だと思います。
 ここでは当然非常に精密な計算をしなきゃいけないので、いろんな数学が必要になってくる。これは明らかであります。
 多くの場合ここで終わってしまうのですけれども、産業界の場合、ここで終わっちゃうと困りまして、もともと解くべき課題があったわけです。これがきちんと解けたかというその実証、先ほどのシックスシグマでいうコントロールをしなくてはいけなくて、ここをきちんと考える必要があるのですが、往々にして実は解けていないということがあります。つまり方程式は解けたのだけども、元の課題が解けなかった。それは最初、課題をモデル化して解いたのだけど、出た結果を見てみると、どうも解くべきはこれじゃなかったよねということが起こります。そこをどうしたらいいかというのは、実はよく分からないのですね。
 ですので、今、産業界側はシステム科学というものにとても注目していて、システム科学は数学的にもかなり今やられていると聞いていますけれども、どういうふうにアプローチしたらいいのかということを誰か何とかしてくれないかなというのが正直なところです。
 最後に、多分数学の方はポリマス・プロジェクトというのを御存じかと思うのですけども、ケンブリッジのガワーズでしたっけ、彼が始めたものですけども、ウェブ上でこういう問題を誰か解けませんかと、ホームページで出し、みんなで寄ってたかって解いたという、そういう話ですけども。そういうふうに一人じゃなくて、みんなでやることで集合知を使いましょうというオープンサイエンスが最近のはやりだというふうに思います。
 同じように、物理とか、あるいは産業界でもいろんな課題があって、これをうまく横につなげましょうという議論はかなり動いています。産業界側も最近オープンイノベーションというのがあって、一つの例がつくばイノベーションアリーナですが、これはちょっと特殊なのですけども、ナノテクに関してつくばという地をうまく使って、ナノテクノロジーに関するオープンイノベーションをやっているものであります。
 つまりこの階層の違うところを、何かうまい方法でつなげないかなと。もちろんこれは既にJSTでやられている出会いの場ですとか、あるいはケーススタディーの研究会ですとか、あるいは産学連携研究会とかこういうのはやっているのですが、これはどうも最初からポイント・トゥー・ポイントでうまく持ってくるということなのですけれども、ポリマス・プロジェクトみたいなものというのは、どこにあるか分からない知見をうまく集めてくるという仕組みになっているのですね。
 こういうのを最近の言葉ではオンライン・コラボレーション・マーケットと呼ぶらしいのですが、例えばネット上でうまくこういう仕組みを作ることによって、その集合知じゃなく質の違うものを融合知として問題解決ができないかと思います。これって、そんなものウェブでやればいいだろうと言われるかもしれませんが、実はこの仕組みをきちんと作ろうとするととても大変です。
 例えば、課題をウェブに上げたときに、各自が持っている知見にうまくマッチングさせる技術的な仕組みというのも必要ですし、それからこんなものを作ってうまく回すためには、やはりそれなりのモチベーションを与えなきゃいけない、インセンティブを与えなきゃいけない。こういう制度的な問題も当然あります。
 それから先ほどもちょっと話に出ましたけど、企業でオープンイノベーションというとすぐに囲い込みをやりたい、データはほかに渡したくないという話が起こります。あるいは研究でも、自分でとったデータは絶対ほかには出さないという人も結構います。
 そういう心理的なものとか、これをどうやって解決するかとか、いろんなことがありますが、産業界的にはこのオ―プンイノベーションやオンラインコラボレーションマーケットを進めるのは簡単で、これをやる会社がもうかればいい。もうからない会社は市場から排除されていきますから、これをやることで本当に利潤が出る仕組みさえできれば、多分回るだろうと思っています。
 数学から離れた話になっちゃいましたけども、こういう数学的なものをうまくここにつなげる仕組み、これまでとは何か違う仕組みを考える必要があるのではないかということを最近言っている次第であります。雑駁(ざっぱく)ですけれども、以上でございます。

【若山主査】  どうもありがとうございます。最後におっしゃったことも、今日の最後の自由討論で御議論いただきたい点です。さて、御質問等、ございませんでしょうか。

【青木委員】  大変貴重なお話をどうもありがとうございました。これをうまく回すというのをおっしゃったときに、数学でやったときには学者がやっているからいいけど、ビジネスが入ると、どうやってアイデアをアプロピレートできるのかなと思って。先生最後にコメントされたんですけど、どうやればいいかというアイデアは幾つかあるんですか。試みとしてこうやってみたというのは。

【伊藤委員】  はい。それに関しては、今確かにないと思います。ただ、基本はとにかく、俗な言い方をしますと、オープンイノベーションでデータをどんどん開放すればするほど、うまく利潤が回るような仕組みを作れればいいんだろうと思います。

【青木委員】  それはそうだと思います。

【伊藤委員】  ただ問題は、全部オープンにしちゃうと駄目なので、例えばマイクロソフトはコアの部分は隠しますけども、APIというアプリケーション・プログラミング・インターフェースの部分は公開しているのですね。そこを公開すると、みんな寄ってたかって、そのマイクロソフトのソフトにつながるものを作るわけです。だからそこのうまい戦略をきちんと作るということが多分重要なのだろうと思います。ちょっと数学とずれちゃって、すみません。

【青木委員】  どうもありがとうございます。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。はい、どうぞ。

【合原委員】  産業応用の問題も、さっき西浦先生がおっしゃっていた医療応用と近い問題があって、数学的な深みのみではなく、現場の人が納得して使えないと使ってもらえないですよね。タグチメソッドが典型例だと思うんですけど。制御なんかも幾ら高級な制御を考えても、結局現場に行くとPIDの方が使いやすいからといって、PIDを使ったりするわけですよね。だからそこをどうやって現場のエンジニアが使いやすいようにものを作るかというところが、多分重要なポイントになって、そのために何かこういうのが役に立つのかなという感じで、最後の方聞いていたんですけれども、そういう理解でよろしいですか。

【伊藤委員】  はい、そのとおりだと思います。やはり共通の使えるツールがある、例えばミニタブとかRとかがあるというのが、ああいう統計的な方法を導入する一番重要なところだというふうに思っています。
 先生がおっしゃるように、実は、ちゃんとした技術者は道具がなくたってできるんですよ。データを見ただけで大体そんなことは分かるんですね。問題はその裾野にいる人々の方で、この人たちがデータをこういうふうに解析すると、真っ当なエンジニアと同じレベルにすぐに行くんです。同じレベルに行くというか、統計の言葉が通じるようになるんですね。そこが多分重要だと思っています。つまり産業界にとっては、スーパーエンジニアがいるだけではやっぱりなかなかうまくいかなくて、そこを底上げすることが重要なんです。そのためにこういうツールが必要だと思っています。

【北川委員】  今、合原さんが言われたように、現場のエンジニアリングってなかなか固くて、PIDの話をされましたが、統計数理研究所にいらした赤池先生が火力発電所の整理をしたときも、やはり現場の人はなかなか納得しなかった。最初はPIDの上に最適制御をかけて、最悪ゲインをゼロにすると元に戻る形でそれよりよくなるというのを示して、それで納得してもらった。

【若山主査】  中川さん、何かございますか。

【中川委員】  私にとっては耳が痛い話ですけれど。日本の現場って優秀なんですね。オペレーターの人にとっては、問題を見れば本質が分かるんですね。彼らは頭の中で多くのことを同時に判断しているんです。数学モデルでやると、なかなかオペレーターを超えられないという現実はあります。優秀な人の判断を数学でどのように表現するかという問題と、そこに数学をどのように入れるかという問題は、今後の大きな課題だと思います。

【若山主査】  最初の西浦先生のお話にも関係することですね。ほかにございませんでしょうか。
 それでは引き続きまして、日本応用数理学会会長でもいらっしゃる、旭硝子株式会社中央研究所の高田特任研究員から、産業界と数学・数理科学との連携強化に向けた日本応用数理学会の取組について、お話しいただければと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

【高田特任研究員】  御紹介ありがとうございます。旭硝子株式会社の高田と申します。
 実は私は5月末に日本応用数理学会の会長を拝命したばかりでして、学会の取組の方はまだ計画段階なので成果あるいは、実際にどうだったかという実績までお話しできないんですが、とりあえず私自身が企業の出身ということもありまして、産業界に向けて取り組もうとしている話を中心に、今年度の応用数理学会の事業の話をさせていただきます。
 私自身はもともと純粋数学ではなく数理工学が専門分野ですが、数学は小さい頃から大好きでして、小学校の時代にそろばんですね、寺子屋でそろばんを勉強したという時代から始まり、この後ずっとそろばん歴という面ではいろんな計算機との縁が続いています。企業に入った後も応用数学であるシミュレーションを中心に研究をしてきました。今日は最初に個人としての大きな問題意識というか、数学は社会一般からどう思われているか、という問題提起です。この記事は皆さん読まれているかもしれないですが、5月30日の朝日新聞の夕刊ですが、読んでいただくと面白いので皆さんの手元にも配布してありますけども、「カレの愛する数式実に面白くな~い!」。もう一つ、女性のコラムニストが書かれたんですけど、「相手を変えようとするのは難しい」。この部分の相手は数学者の人、理系の人全般と言ってもいいかもしれません。「相手より自分が変わる方がいいでしょうと。変なところがあれば成長を促してください。」ここが一番大事なところなのかもしれないですけど、「相手の変な部分が理系の、これ数学のでもいいんですが、本質だからなのか、単に空気が読めない、コミュニケーションが下手なのかを見分けること。もし本質ならば、受け止めるしかありません」と書いてありますね。「自分にないものがあって面白い、変なところも魅力だと思えるようになったら、あなたにとって相手はべストパートナーになります」ということも書いてありますね。
 私は最近海外に行くことが多いため強く感じていることですが、こういうステレオタイプで人を見てはいけない、数学の人間はこういう人間だ、理系の人間はこういう人間だって、社会全体がそういうふうに画一的な見方をしていること自身が日本の大きな問題で、多分それが何年か前の「忘れ去られた数学」というキーワードが出てきている、オリジンがこういうところにあるんじゃないかと思っています。もちろん今会社で身近にある問題をすぐ解きたいとか、社会の問題をすぐ解かなきゃいけないということはあるんですが、やっぱり世の中の人たちが、どう数学なり理系の人たちを見ているかということと、これに対して数学を専門とする人たちがどういうふうに考えていくのか、どういうふうに応えていくのかということは、今後の数学を考えていく上で一番原点にあるという気がしています。
 さて、今年度日本応用数理学会でどういう取組をしているかということで、これもどちらかというと精神論のような話で御容赦いただきたいんですけれども、私は今年の学会の方針ということで、キーワードをこういうふうに、”i-AM (i-Applied Mathematics)”という名前を掲げさせていただきました。良く使う英語の出だしのフレーズではローワーケースとアッパーケースが逆転して、対称になっているかもしれませんが。実はこのiというのはiPad、iPhoneのぱくりです。スティーブ・ジョブズさんは、このiPad、iPhoneのスモールiというのが、インターネットとかいろんな意味を込めて作ったと言われているんですが、私自身は「応用数理びと(人)」という名前で、iに幾つかのコンセプトを込めて今年度の活動を進めたいと思っています。
 私もいろんな産業界の人たちとコラボレーション、特に異業種の人とコラボレーションしてきた経験が長いんですけれども、やはり人が集まっていい活動ができるというところの原点というのは、集まると楽しいということ、更に何か新しい発見をし続けられる、こういうことがとても大事だと思うんですね。皆さん御存じのように、Macのショップに行くと新しい発見がある、新しい何かものが見つかる、わくわくしていってみようという気持ちになります。これはあくまでも私の中でこういう学会にしたいなという精神論ではありますけれども、数学及び応用数理の人たちが集まる場でも、やっぱり若い人、あとは一般の社会の人たちからも、そういうふうに思えるような場を作っていかなきゃいけないんだろうなと思っています。いろいろなiの意味の中で、インターディスシプリナリーとか、インセンティブという言葉は無理やりくっつけている観があるかもしれません。この中に幾つかあるiの中でインダストリーという言葉を、インダストリーにインパクトのある活動という意味ですので私自身は非常に大事にしています。
 特に数学ということで考えてみたときに、二つ大事なことがあると思っているのは、特に学会の研究活動の中身は大学の先生方中心にこれまで通り進めていただきたいと思っていますが、学会の会員の目線と書いてありますけど、社会の人とか産業界の人たちの目線で考えるということも今後いつも念頭に置いていただきたいと思っています。ですから、話をしている相手が何を考えているか、その人たちが理解できる言葉で話をすることがとても大事なんです。そうしないと社会や産業界で役に立つ機会が増えていかないだろうと心配しています。
 それと2番目は、後からもお話ししますが、応用数理学会というのはいろんな他の学会の会員にもなられていて、なおかつ応用数理学会の会員になられている方もいるということで、下手をするとアイデンティティーのない浮草のような存在になってしまう恐れがあるんですね。ですから、その中で自分のアイデンティティーをきちんと決める。自分の軸足をどこに置いているかということをきちんとして、なおかつ、その先ほど言った関係機関、いろんなところとのコラボレーションをしているメリットを生かして主体的な活動をしていくということが、非常に大事なんだろうと思っています。
 では具体的に何をするのかというときに、企業の人間は文系の人に説明をするのにキャッチフレーズ、キャッチコピー、分かりやすい言葉を持ってくることが大事でして、配布資料の中では赤い字で書いてあります。この学会には非常に優秀な先生方、力量のある人がたくさんいるので、会長である私の役割は舞台作りということなので、これからその舞台をキーワードを使って紹介します。一応私の好きな言葉、私のようなかなり変人が持ってきた言葉なので皆さん余り好みじゃないかもしれないですけども、最初に挙げたのは「夢先案内人」という事業でして、これは”JSIAM Vision-10”、少し硬い名前ではこういう名前になっています。
 「夢先案内人」というのは、私と同年代の合原先生と杉原先生はすぐ分かりますよね。夢先案内人というのは、夢をかなえる手助けをしてくれる人という意味だと思っています。こういう名前を付けたのは、数学とか応用数理の若い人たちが将来自分の道を切り開いていくときに、学会が何か参考になるようなものを提供する、あるいは船乗りにとっての北極星のような役割を果たせればいいなという想(おも)いで付けました。
 何をするかというと、具体的には、世の中でロードマップといわれるようなものと同じものを考えているんですけども、十、二十年先にどういう社会になるかということを考えて、そのために応用数理学会なり、数学が何に役に立つかということを皆さんで議論して、夢を共有しましょうということです。
 ロードマップという話をすると、アカデミアの持っているシーズが何とか社会にもっと役に立たないかという話になるんですが、私は余り既存の路線に引きずられる形のそういう議論はしたくなくて、数学は忘れて、十、二十年先に社会がどうなるか、自分はそのときどうしているかというようなことを最初に自分の力で考えていくところが大事なんだろうなと思います。もしもその十、二十年の社会が見えてきて、その中で今の数学の力で役に立たないというか歯が立たないような課題があれば、そこで役に立つ新しい数学を作らなきゃいけないんだろうなと思います。
 ですから若い人が今後考える上で何か参考になるものが出てくれば恩の字ということで、余り分厚い文書を作ったりする、きちんとしたものを作るという気持ちはありません。
 2番目は「コンシエルジュ」ですけども、これは別名「数理ソリューション・ネットワーク」と名付けました。コンシエルジュという言葉は今ホテルだけではなくいろんなところで使われていますが、意味するところは同じです。特に私どもの学会は企業の会員が多いということもあり、企業向けのサービスをしたいなと常々思っていましたので、これをやりたいと思っているんですね。
 具体的にはネット・メールの活用です。ネットを通じて企業からのいろんな問題解決、相談を受ける窓口を作って、情報提供したいなと思っています。これをすぐ開始したいと思っているんですが、ここでちょっと注意しなきゃいけないことが幾つかあります。学会のサービスの範囲で最終的な問題解決までしようとは私は思っていません。これはあくまでも一次情報の提供だけなので、企業から問題の問いかけがあったときに、それを解決するなり情報を与えてくれそうな先生あるいは情報を紹介するというところまでかなと思っています。そこまでで止めておかないと、とてもじゃないが学会ではやり切れないと思います。
 その一方で、このような事業によって、紹介された大学の先生方と企業との間での新しい産学連携が進めばいいとも思っています。そういうことを是非したいなというのがこの2番目です。
 企業のコンフィデンシャルのマターをどうするかとか、細かい条件もいろいろ考えていまして、そこのところは今後クリアしていかないといけない問題がほかにもあるんですけれども、とにかくこういうことを今年度は始めたいと思っています。
 それと3番目は「ショーウインドー」という名前を付けましたけれども、会社ではよく「活動の見える化」と言っているものと同じになります。学会からわかりやすい形で情報発信をもっとしていきましょうと、一般的な言葉ではそういうことになっています。
 私どもの学会は内部で20ぐらいの部会活動があって、それぞれに応用数理のいい研究をされているんですが、外から見ていてよく分からない。というのは、専門家の人たちが専門家の言葉で自分たちの研究の中身を紹介されているので、外から見ると素人の人には全く中身が理解できないんですね。そういうこともあって、もっと分かりやすいものを是非研究レポートだとかそういう形にして、特に企業の人を対象にブレークダウンしたものを紹介していってくださいということをお願いしています。
 それとこういう部会の活動を見渡して見ると、数学のカバーする範囲がすごく広いので、部会の横のつながりは余りないんですね。数学というのがほかの分野と違うのは、先生方がかなり孤立して研究しているケースがすごく多いというのがよく分かりました。確かに分野を深掘りしていくと、なかなか横のつながりというか、広く見渡すことはできないんだと思うんですが、応用展開を進め新しい道を切り開いていくためには学会で何か横のつながりを作っていかなきゃいけないという問題意識を持っています。そのための施策も考えています。
 4番目は「ソムリエ」で、このキーワードだけ見ていただいても何のことかすぐぱっと分かるかもしれません。私の好きな言葉にはもう一つ「パルフュマー」という言葉があるんですが、調香師、皆さん御存じないでしょうか。パリに行ったりすると、香水をその人の好みでブレンドして作ってくれるんですね。もうちょっと硬い言葉で言うと、数学の「カウンセラー」と言ってもいいのかもしれないけれども。多分今までもいろんな議論をされてきたんだと思うんですが、数学って多分アカデミアと産業・社会の間の距離の隔たりが一番ある分野なんだと思うんですね。ですからその間をつなぐインタープリターが是非必要だと思っています。そういう点では、企業の人がきちんとアカデミアの研究を勉強していくことも必要ですし、アカデミアの先生方がもう少し社会のことを知っていただくことが必要ですし、学生さんはキャリアパスということも考えてもらわないといけませんので、そういうことができる何か講座のようなことをしたいなというのが事業の趣旨です。
 5番目は、「シェフのアラカルトメニュー」という名前を付けさせていただきましたけれども、今の世の中ビッグデータと呼ばれるキーワードがあります。私は産業界でも社会でももとても関心が高いこのようなキーワードを選んで、是非この学会の中で何らかの研究会を立ち上げたいなと思っています。
 ここのポイントは、学会ですけれども、大学の先生方が主体に立ち上げるのではなくて、企業の人が主体に立ち上げていくようにしたい。私自身が先頭に立って引っ張っていくぐらいの感じで、是非そういうことをしていきたいなと思っています。統計数理研究所の先生方とか、そういう面では協力を得られそうなので、今ここは産業応用の一つのポイントと思っています。
 あともう一つは学会内の理事会活動なんですけども、「ルナ・ソサエティー・オブ・JSIAM」というのを作っています。ルナ・ソサエティー・オブ・バーミンガムという言葉を御存じの方がいるかもしれませんが、イギリスのバーミンガムでは、ちょうど産業革命が起きた頃なんですけれども、知識人が夜な夜な集まっていろんな議論を自由闊達(じゆうかったつ)にしたんですね。この場に集まった方は、例えばジェームズ・ワット、蒸気機関で有名な方ですね、あとは陶器製造で有名なのウェッジウッド、あとは有名なベンジャミン・フランクリンもここに時々出られていました。ほかには、医師のエラズマス・ダーウィンですね。
 実は「進化」という考えは、一般的に知られているチャールズダーウィンではなくその祖父エラズマス・ダーウィンが最初に提案したという話もあるらしいのです。ルナ・ソサエティーという名前は面白くて、何でこんな名前なのかというと、満月の日に皆さん集まります。何で満月の夜に皆さん集まりますかというと、帰るときに足元が明るくて安全だからという理由です。私はそういう気の利いた話が気に入っていまして、こういう名前を付けました。
 学会で何をしているかというと、理事会の後でワインパーティー、夏だとビアパーティーですけども、理事の皆さんと一緒にいろんな将来のビジョンを話すような場を作っていまして、もう2回これまで開催しました。
 今いろんな事業の話をしましたけれども、ちょっとこれだけじゃ物足りないと思いますので少し補足させていただきます。今度は、事業じゃなくて人という観点から考えてみました。先ほどの「応用数理びと」というのが今年のキーワードになっているんですが、数学、応用数学の分野の人には、どういうふうな要素が必要で、何から考えていったらいいのかなということで、四つ考えて「共通基盤」、「専門性」、「社会性、国際性」、「応用力」でまとめました。私は食べ物とか飲物の話が大好きなので、対応する言葉をまずはアミューズ・ブッシュと書きましたけども、これはフランス語ですけどもおつまみですね。口を喜ばせるものの意味です。あとは、前菜とメインコースとデザートですね。
 先ほどもお話ししたように、社会が必要としている技術というのと、今大学で実際に教えられているカリキュラムの間にはギャップがあると思っています。私は大学の先生ではないので、カリキュラムの専門家ではないですけれども、そういうギャップの分を何か補完することを考えていかないといけないんだろうな思っています。もちろん大学でちゃんと補完できればいいんでしょうけど、大学単独で難しければ、やっぱり学会とかそういう大きな場でやっぱり考えていく必要があるんだろうなと思っていまして、そういう面でいろんな要素科目の整理とかチュートリアルとか、カフェという名前を付けさせていただきましたけれども、そういうことを学会で実施したいということです。
 専門性というのも、これもいろいろ学会ベースに今議論していますので、発表とか討論の場、自己研さんの場というのもありますけども、やっぱり最先端のことを知ってもらったり、挑戦できる課題を提供するということも大事なんだろうなと思っています。そういう点で部会活動とか年会活動の活発化を挙げています、キーワードの中ではビストロという名前を付けさせていただきましたけども。
 それと、先ほどの冒頭の問題意識の中にもあったように、コミュニケーション能力というのがとても大事な問題だと思っていまして、そういう面でいろいろ横のつながりとか、特に海外に出ていくということがとても今大事だと思いますから、是非そういう面での活動をこの学会の中でも拡大していきたいと思っています。
 最後は社会貢献とか産業応用になります。先ほどちょっと幾つか研究会を立ち上げたりなんていう話もしましたし、国とか社会の働きかけというのも大事だと思っていますので、ロードマップになるようなこと、夢先案内人という話をしましたけども、ソリューション・ネットワーク、コンシエルジュですね、こういうものをやっていきたいなと思っています。
 ですから、人という面では四つの特徴、内容に分けているんですが、企業の人間がマーケティングを考えるときに、青木先生のような専門家の前でお話しする必要はないでしょうが、コトラー先生のSTPというのが非常に大事でして、数学・数理科学のお客さんは誰なのかということがはっきりわからない状況で、数学・数理科学は社会の役に立っていると言うことのはやっぱり難しいんだと思います。お客さんが決まって初めて何をするか、そのお客さんが喜んでくれたから数学・数理科学は大変役に立ったと言ってもらえるんだと思うんですお客さんは国民全体かもしれませんし、ある特定の企業だったりするかもしれません。
 そうなったときに、JSIAMは応用数理学会のことなんですけども、他の関係機関・団体との関係と自分のポジショニングを明確にして自分の特徴を出しつつ、なおかつ周りの学会との協力関係をいかにもっていくかということがとても大事なので、そういう意味でこのような絵を描かせていただいています。
 あとこれはIMIさんの拠点の記念式典の挨拶のときにお話をさせていただいたんですけれども、数学という学問自体は一つなので、私自身は余りその学問の定義をどうこいうつもりは全くないんですが、数学のお客さんという点から考えてみると、多分そのお客さんごとに三つの数学があるんだろうなと思っています。
 一つは、アカデミック・マテマティクスかプロフェッショナル・マテマティクスというんでしょうか、本当の純粋数学を延長していくということで、小谷先生から話を聞きましたがミレニアム問題へ挑戦する、1,000年かかっても解けないような問題を是非チャレンジしていただきたいなということと、日本は数学王国といわれていますので、そのポジショニングはやはり大事なんだろうと思うので、こちらの方を深掘りしていくというのが一つの方向なんだろうと思っています。
 もう一つはコーポレート・マテマティクス、産業数学とかいろんな既に名前があるんですが、あえてわざわざコーポレートと付けたのは、多分最初の産業数学というのはどちらかというとエンジニアリングという製造部門とかデザインという設計部門のところから来たところなんだと思うんですが、先ほど理研の伊藤さんの方から話がありましたように、マネジメントとかマーケティングとかも含めて、数学は企業の活動全般どこにでも使えるものになっているものなので、そういう面で少し名前を広げるという意味もあって、こんな名前を付けさせていただきました。これも本当に企業の活動全般ということで、余り今までの限定したものではなくて、必要なところはどんどん使っていくということで、もう少し広い意味で考えていかないといけないんだろうなと思っています。
 もう一つは、社会の問題に取り組んでいくソーシアル・マテマティクスです。いろんな安心・安全社会を作っていくということもありますし、病気の問題とかいろんな問題があると思うんですが、社会全般に役立つ数学ということです。実はここをどうしていくかということは私にも青写真はないですけれども、社会全体にとって一番重要な部分です。これらの三つのマテマティクスはそれぞれアプローチも違うし、それは切り分けないといけない一方で、どこかだけが重くなってしまうと数学全体の発展のために変なことになるんだろうと思っています。
 私のように、企業にいて応用数学をやっている人間でも、純粋数学はとても大事だと思っています。ですから、この三つの絆(きずな)をしっかり保ちながら、きちんとうまくそれぞれを大きくしていくというのがとても大事なんだろうと思っています。
 先ほどからいろいろ話があって、他分野との連携協働というのがとても大事だと言われていましたが、私自身は連携という言葉よりも、何か融合して境目がなくなってしまうのが最終的な姿ではないかと思います。先ほど小谷先生が私はもう材料科学者じゃないかとおっしゃっていましたが、私はそれでもいいんだと思うんですね。私は材料科学者です、でも私は数学をきちんと勉強したのが今の成功に役立っているんだと言ってもらえれば、私はそれでいいんだと思っています。もちろんずっと純粋数学だけ深化していくというのはそれはそれですばらしいと思いますけれども、横に広がっていって、そこで社会に役に立ついろいろなこともしていったら、もっとすばらしい。
 ですから、先ほど言った三つの数学を総体して、シンセシック・マスマティクスという総合的数学という名前を付けさせていただきました。一つ一つも重要ですが、総体としていろいろな場面で社会に認知される数学はもっとも重要だと思いからです。
 今、私どもの学会では数学とか数理科学分野のアカデミアの先生方がたくさんいて、これまでの強い部分はきちんと今後も深掘りしていかなきゃいけないところです。その分野を考えてみると、どちらかというとシミュレーション分野が今までとても大きな活動だったんですが、やっぱり今は統計とかこのビッグデータと言われるデータサイエンスもとても重要だと思っていますので、こちらもこの学会の中でこれから大きくしていきたいなと思っています。私どもだけじゃなくて、統計関係の学会の先生方と協力し合って、もちろん統数研の方とも一緒に協力し合ってやっていきたいと思います。
 シミュレーション分野とデータサイエンス分野をうまく融合するところが多分ポイントになってくるので、「ソフトな融合」ということがうまくできるのかどうかということが、大きな課題なんだろうと思います。これは私のように企業の人間から見ても、今後の競争力確保のために大きなポイントになってきています。
 あとは事業ということで横方向に赤い文字で項目を挙げさせていただきました。先ほどお話しした「人」を中心とした見方を縦方向に挙げさせていただきまして、このクロスする部分でそれぞれ今事業でどういうことを考えているかということになります。ようやく実行開始してたところでこの1年でどこまでできるか分かりませんが、とにかくここに書いてあることは全部やってみたいと思っています。
 以上、計画ばかりの話になってしまってしまいましたが、私の話はこれで終わります。

【若山主査】  どうもありがとうございました。それでは、御質問等ございませんでしょうか。それでは宮岡先生、どうぞ。

【宮岡委員】  日本数学会も本当はやっていかないといけないんですけれども、できることから年会の折でもこの分野の方を招いて少しは始めていますが、やはり今回の話は非常に参考になりました。どうもありがとうございました。

【高田特任研究員】  日本数学会さんとも是非協力し合って進めていければと思います。

【宮岡委員】  よろしくお願いいたします。

【西浦委員】  よろしいでしょうか。

【若山主査】  はい。

【西浦委員】  高田先生が非常においしいお話が。一つ提案なんですけれども、例えばミレニアムと、それからコーポレートと、三角形でそれぞれが違う光景が。これだと大バーディーしている感じがあるので、例えばここ三角形じゃなくて四面体と。このベクトルは四面体で、上で合流するということになる。そういうイメージで捉えたいんですよね。
 今、宮岡先生もコメントされましたけど、実際応用に興味がなくてもいいんですけども、純粋数学の優秀な若い方というのは、幾つかのCRESTのチームでも起こりつつあるんですが、彼らはその数学の内部モデルを何か持っているんですよ。それがどういうふうに外に表現されたり、応用されたりという、そういうのは普通余り考えていないんですけども、あるチームだと本当のピュアマスの人をチームのメンバーに入れていて、あなたはもう応用的なのは勉強するな、あえてにわか勉強は一切するなということにしている。その代わりセミナーにちゃんと出てこいと。そうすると1年ぐらいは何もしゃべらなくて、後ろで座っているだけです。
 ところが2年目ぐらいになると、ある日突然、その問題は数学におけるこういう構造と非常に関連があるということが、それほどたくさん事例はないんですけれども、一、二は起こっています。そういう意味で、僕は数学の力を本当に取り込んでいこうと、あるいはその逆向きに数学を豊かにするというときに、今の四面体にするということで、無理に連携をするというふうにコンシエルジュする必要はなくて、ただそういう場で何が問題で、何をみんなが気にしているのかということを知らしめる場みたいなものですね。そういうところに優秀な人が、それはそこで一緒に協働の仕事をするということは強制しなくてもよくて、こういうのが最先端だから、みんな困っているんだよと、何とかしたいんだよという、そういうインフォーマティブな情報が得られたら、日本数学会と連携していただいて、若手の優秀な方からそういういろいろ御提案が出ましたので、そういうメニューを食べていただくという場がもうちょっとできるといいなと思いました。

【高田特任研究員】  どうもありがとうございます。私の冒頭にあった話の一番の問題点というのは、キャリアパスの問題というか、数学を出た人が将来どういうキャリアをたどっていくのかなということでして、例えば100人数学を目指して勉強した人のうちトップの数名をどうするかということと、それ以外全部の人たちをどうするかということは、分けて方法論や仕組みを考えなきゃいけないと思っています。
 だから、本来は数学の隠れた才能があるのか、その隠れた才能というのは基礎なのか応用の才能がある人なのか、それとも実は本来は数学以外にも才能があるのだけれどだけど、それに気付かず数学をやってきたのかということです。こういう問題は本人では気付かないことが多いので、周りの人がキャリアの早いうちにベターな道あるいはオルタナティブな道を示していくことがもっとできないものかと思っています。そういう議論をこういう場ですべきなのか分かりませんけど、それは担当の先生が考えれば良い問題だということなのかもしれませんが、冒頭に紹介した新聞記事に出るような話を見ていると、実はこれはやっぱり大きな社会の問題の一環とも結びついていますから、一人の学校の先生が考えれば済む問題ではないのだろうなと思っています。
 ですから、話がそれてしまいますけれども、本当に成功例を作るトップ5%ぐらいの人の議論をするだけでいいのかどうかというところですね。そこは皆さんで今後議論していただいた方がいいのかなと思っています。
 むしろ学会というのは5%の人だけの議論ではなくて、学会に入ってくださっている会員の人たち、100%の皆さんがなるべくハッピーになるように考えていかなきゃいけないと思っています。解があるわけではないのですが、そういうことを考えています。
 少なくとも数学をずっと勉強してくると、学生さんと話していてわかりましたが、かなり狭い範囲を見る機会しかないと思うんですね。そこがやっぱりまず一番の問題なので、たくさんの選択肢があることを知ってもらって、早めに考え選んでもらうということが大事なのかなと思います。

【若山主査】  どうもありがとうございます。実はこの後予定しております自由討議の中で扱っていきたいという内容が各先生方の御発表の中から既に多く出てきたと思いますが、それに先立ち、少し事務局よりお手元の論点メモについて、簡単に御紹介いただきたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。時間がちょうど30分ぐらいございますので、この項目についてこういう考えはどうかというふうなことを、委員の皆様から御発言、お考えを伺いたいと思います。
 まだ今日御発言されていない方からお願いしたいと思いますので、安生さんからどの項目でも構いませんのでお願いします。

【安生委員】  はい。私は産業界の映像制作、デジタル映像関係を仕事にしていますので、今日の西浦先生からのお話の文脈で言いますと、ビジュアリゼーションというところに対応すると思っています。実際の映像制作とは、いわゆる映画・テレビがベースになりますが、映像の応用としては様々な他産業、様々な科学の可視化についても、相談を受けることが増えてきました。そういう意味で可視化に関係するような数学に非常に興味がある立場で参加しています。
 3の情報発信はどれもちょっと難しくて、うまく的確な話ができるか分からないんですが、今、私はCGのCRESTを西浦先生の領域でやらせていただいています。数学の先生方からすると、他分野であるコンピューター・グラフィックスの学会等、幾つかの国際会議で数学の話をしていただくような機会も作れました。そういう意味で、数学の方が隣接する産業分野というのか、応用されている分野で話をしてくれるということが、認知度向上の具体的な一つの例としてなると思います。
 今後、異なる学会同士でも、インターセクションを考えたときに、数学的な部分が見えてくると思うので、つまり数学的な観点からこの分野とこの分野は近いですねといって集まるというようなやり方というのができるのではないかと思いました。
 あとは1の連携の仕組みでは、課題解決を絞った連携がいいかと思います。短期的かつ直接的には課題解決型がもちろんいいのですけれども、我々産業の人間が望むのは、私の場合ですと可視化技術を数学的なアイデアで改良、あるいは新しくしていくということを期待します。ですが、やはり数学はものの見方を作る分野なので、課題を解決した上で、数学者自身がまた自分の中で、数学そのものを深めていけるようなスタイルになるのが一番いいのではないかと思います。
 結局数学をやる方は抽象化したり、いろんな見方、数学的な見方というものを作り上げるのでしょうから、直接的な応用や課題解決を契機にしながらも、数学的なところまで引き続き考えていけるような連携になるといいなと思っています。

【若山主査】  どうもありがとうございます。それでは森先生。

【森主査代理】  三人の先生方のお話を伺って、いろいろ目を開かせられるようでした。特に、高田先生に「お客さんは誰か」と言われてちょっとびっくりしたんですけれども、多分その考えの延長なんでしょうね、ソーシャル・マセマティクスという言葉を使われていたのは。意見というよりは質問ですが、これは具体的にどんな例があるのでしょうか。

【高田特任研究員】  今、一番世の中で騒がれているのは、災害時に例えば人が避難をするときどうしたらいいかとか、あとは疫病があったときに感染網を考えて、どういうふうにしていったらいいか。そういう例が一番分かりやすいと思います。

【森主査代理】  そういうことですね。むしろ一番スケールの大きな話ですね。

【高田特任研究員】  はい、そういうことです。もともとは純粋な自然科学であれば、その自然科学の方程式だけで解ける部分もあるんでしょうが、人間の心理が入ってきたり、人間の行動ということになると、やっぱりまだ数式モデルがきちんとできていない。あとはパニックだとか、カオス状態ですね。合原先生の得意分野かもしれませんけれども、そういう要素もありますよね。必ずしも線形に物事の推移が予想できる訳ではなく、カオスのふちを通り越して向こう側に行っちゃったらどうなるかということですね。
 だからいろんな問題が多分あって、社会的にはとても関心が強いんですけれども、まだ方法論すらよく分かっていないものもたくさんあるんだと思います。

【森主査代理】  私個人としては、数理解析研究所としては、前も申し上げましたけれども、産業界というよりは、むしろまず他分野との連携を目指すので、この2の数学イノベーションに必要な人材についての2番目の丸のところなんでしょうけど、まだどのようにしたらいいのかというのがちょっと分かっておりません。

【若山主査】  分かりました。また後日の会議ででもお考えを頂戴したいと思います。

【森主査代理】  すみません。

【若山主査】  それでは杉原先生。

【杉原委員】  1の課題の発掘・具体化という話で、実はこの前の統数研の委託事業で今回出てきた公募を見ると、産業界の連携というのが非常に希薄になったなと、前回以上になったという印象があって。他分野との連携は広がったとは思うんですけど、産業界とのリンクを張るんだったら相当の強制力を持ってやらないといけない。他分野との連携の方が自然と数学の思考としてはやりやすい。研究もやりやすいし、成果も見えやすいということもあって、高田先生が書かれた図にあるコーポレート・マスマティクス、ソーシャル・マスマティシャンというところは、同じ数学といってもコアの数学的なところと、応用数学的なところというので、数学を分けちゃいけないというのもあると思いますけれども、そのあたりの広がりみたいなものを視野に入れた形で、要するに連携をするときにも、数学って全部十把一絡(から)げにしちゃうと何となくそのあたり分からないし、本当にピュアな方に産業数学をやってもらうということを意識することはないと思うので。そうなると政策的なところで、もうちょっと応用系のところも意識しながらということが必要かなと思いましたね。
 応用数理学会の方でも宣伝が足りなかったというのは、実はあれを見て反省しました。余りに産業界からの応募が少なかったので、そういうところはかなり頑張っていかないと、うまいぐあいに融合していかないという印象を今持っています。
 それからあと人材の育成に関しては、昨日も数理科学委員会で話があったんですが、数学科の事業の中にモデリングだとかそういう事業を入れていくと、事例集だとかチュートリアルと同じように思うかもしれませんけども、いろいろ視野が広がっていくことによって、高田先生の言われた、同じ数学の中でも本当にピュアを頂点を目指す方と、そうでない広がりがある方で、ほかの道を御存じないためにピュアしかないと思ってしまっておられる方もいらっしゃるかもしれないので、そういう広がりを持たせるという意味でもそういう教育があるとうまくいくかもしれないというような話があると思います。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

【中川委員】  私は現場を数学で変えたいという思いがあって、そうすると、先ほど申しましたように、現場のオペレーターは非常に優秀なんですね。普通のことをやっていたのでは、全然現場のレベルを超えられない。だからこそ、すごい発想によるブレークスルーが絶対必要だと思います。ということは、純粋数学の方々に、産業にもっと入っていただけるような仕組みをどのように設けるかが、今後の課題かなと私は思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。それでは、小谷さん。

【小谷委員】  はい。今、中川さんから言われた話を受けてなんですが、この間東北大学のライフ系の方のところで、数学を使った研究のセミナーを開催しました。これは結構面白い話だなと思って招待したのです。実験でやろうと思うと大変ですが、数学を使うと一発でできると話をされたのですが、ライフ系の方の反応はそれほどよくなかったですね。
 つまり、100回とか200回実験するところを1回でできますと言われても、100回か200回やれば僕たちでもできるのだからと、そんなことは数学の人には期待していなくて、数学の人には我々と全然違う発想のすごい枠組みを作ってほしいんだと言われました。、ちょっと期待が高過ぎるのですが、もし本当に数学の訓練を受けてきた人がブレークスルーを産みだすと主張するのなら、そういうことも一部は必要かと思います。
 そして、それはすごく時間がかかることなので、先ほど西浦先生がおっしゃられたように、とにかく1年間ぐらい何も成果は出ないけど、ちょっと話を聞いていてよというぐらいの忍耐力がないと、なかなか出ないのではないかと思います。
 数学の側(かわ)も、それから数学を使いたいと思っている側(がわ)も、日本はまだまだ出会いの場が少ないので、お互いに過剰な期待もありますし、一方、かなりのことを出さないと、本当に協働はできない。そこをどうやって乗り越えるのかが大きな課題だと思います。もし乗り越えようと思うのであれば、ある程度忍耐力のある施策が必要です。

【若山主査】  そうですね。この委員会のテーマである社会との関わりという意味で、やはり認識というか、それが深まっていくようにできないとうまくいかないという印象を受けました。それから1年間黙ってそこにいるというのも腹をくくらないといけませんし、それからキャリアパスの問題まで実は関係してくることでしょうし。もっとも、腹をくくってそこにちょっとでも興味があって座ろうとなれば、それは結構何かがあり得ると思うんですけども。
 今、幾つか御発言いただきましたけれども、どのことでもお互い関わり合いがあるわけですけれども、御自由に御発言いただきたいと思うんですけれども、よろしいでしょうか。

【杉原委員】  私の経験で、数学が5%よくなったと評価されたということの方が多かったんですけどね。数学というか、最適化とかですけどね。

【小谷委員】  私が聞いた話は、むしろそういう最適化とかそのモデリングの話で、なかなか数学に対する信頼がなくて、確かにもっともらしいお話だし、数学を使えばちょっとよくなるのかもしれないけど、ともかく今やっている方法で、とりあえずは何とかなっていると。ちょっと最近景気が悪くなっているけれども、ともかく何とかなっている中で、数理モデルを信じて、本当に新しいやり方に切り換えるのにはかなり勇気が要るというお話は幾つか聞きました。
 それから中川さんが言われたように、本当に現場の人は優秀なので、マニュアルでものすごい作業ができて、非常に効率が上がっている。

【中川委員】  マニュアルに書いていないことを彼らは判断するんです。

【小谷委員】  マニュアルというのは手作業というか、数学的なものではなくて、今までの経験とか技術に裏打ちされてうまくいっている方法というのは本当にうまくいっていて、高度な技術を持っているので、もっといい、こんな単純な方法あるよという話になかなか乗り換えにくい人も多いのかなというふうに思いました。そうでない人も中にはいるかと思いますが。

【中川委員】  彼らは自分の方法が一番いいと思っていますので、数学モデルの精度が1割ぐらい上がったぐらいでは使ってくれません。倍ぐらい精度が上がれば考えていただけますけれども。

【小谷委員】  本当に優秀なんですよね、日本の技術者は。

【中川委員】  僕の経験では、モデルの精度では倍ぐらいいかなければ、現場は変わりませんね。それか、これまで全くできていなかったことができるようになるとか。

【杉原委員】  それはしようがない。私が企業の人に聞いたら、5%効率があがって10億もうかるから、それで。

【中川委員】  試算上はそうですけど、それを現場がやるかどうかはまた別の話ですね。

【小谷委員】  つまり5%上がるという確信が持てれば乗るんだけど、数理モデルって何かいろいろ都合よく作っているんじゃないのというような不信感もあるのかもしれないんですが、ともかく今そんなに悪くないよという中で、新しい方法に乗り換えるのは結構難しいのかもしれない。

【森主査代理】  生産効率が5%上がるというのだったらまた別ですが、研究とかする場合、効率がちょっと上がっても、そのシステムを変えるだけのコストに見合うかどうかという話ではないのですか。

【北川委員】  効率が5%上がるのはすごいことで、実例を言うと、私、赤池先生と東京海洋大学の先生と、1980年代に最適制御の方式、提案、論文を書いていたんだけど、全く相手にされなかったんですね。船の制御なんですが。近年になって、横河電気が発売してくれたんですが、それは最近石油が高くなって、5%でもコンテナ船とか一度の航海で何千万もかかるんですよね。そうすると年間になると何億とかすごい金額になって、それでやっと5%から10%の効率向上でも企業は製品化してくれるようになりましたね。
 それと私、統計数理研究所に入って赤池さんと実際問題をやっている珍しい人のところに入ったんですが、当時言われたのが、統計的な方法というのは、ベストな専門家がやることを科学的・合理的に自動的にできるように実現すると言っていたんですね。
 考えてみると、統計的方法なんていうのは従来の経験と勘に富んだ専門家がやっていたことを自動的にというか、それはもうよく言っているんですが、製鉄でも、昔の鍛冶屋さんでも、マネジメントでも、リスク管理、全てをなるべく科学的にやろうとしてきたので、そういう意味で、ベストな専門家を目指すというのは必ずしも5%を超えなくてもですね。

【中川委員】  いや、5という意味は、いつも5、間違いなくレベルが上がるならいいんですけど、ばらつきますね。また、モデルの精度と、生産効率は別物です。モデルの精度が生産効率に直結するわけではありません。

【北川委員】  それで一たん、その専門家に近いところができるようになると、あとは割と早いんですよね。

【中川委員】  それを認めればそうですね。

【北川委員】  やっと将棋の専門家に追い着きつつあるけど、一たん追い着くとあとは早いし、私が例に使っているのは、産業革命が起こってきた頃に、馬車と蒸気機関車の競争をやって、そのとき蒸気機関車は負けたんですけど、一たん追い着くと、もう後は二度と負けることはないんですよね。そのくらいのことだと思っています。

【中川委員】  多分、今おっしゃっている5%というのは、5%とりあえずよくなるんだけれども、将来もっと向上するような、潜在力があるということですね。

【北川委員】  中川先生が言っている意味も分かるんだけど、一たん合理的な方法、科学的な方法って、追い着いたら、あとは割と抜けることが多いと思うんですね。

【小谷委員】  数学の特性ってそういうところがありますよね。受験勉強でもそうですね。なかなか効果が上がらないけど、一たん分かると、ぐっと急激に伸びるわけですけれども、ここを我慢できる何かがないと、なかなかここら辺が難しいところもあるのかなと。

【宮岡委員】  多分、今の日本の現場だと、すごく大きな経験値を持っているんだけど、それを表現できていないんですよね。将棋なんかも完全に多分直感という形で意識しているんだと思うんですけど、それをいろんなもので集積して使えるようになれば、数学的方法も多分ある程度作れるようになるはずだと思うんですけども、それにはやっぱり将棋なんかも完全に棋譜を分析して、全部集積してやったわけですけど、そういう集積をやれば、かなり統計的にはそれこそ手法で、ある程度数学的になるんじゃないかなと思います。

【若山主査】  伊藤先生は今は理研におられますけど、長く企業におられた若かりし頃のこともお考えになって、このあたりの御議論について何かありますか。

【伊藤委員】  今のお話、私は両方必要だと思っています。やっぱり裾野を上げるためには、5%はすごく大きな効果だし、ちょっとでも良くなればそれは是非やった方がいい。一方で、おっしゃるように、どうしてもブレークスルーしなきゃいけないところがあって、そういうところについては産業界、やれることは大体全部やっているわけで、やっていないことって、数学的な何かぐらいしかないので、そういう意味でいうと、数学でぼーんと抜ければいいなというのは当然だと思うんですね。
 私がちょっと気になったのは、先ほどから、西浦先生からも、1年間純粋数学者を入れてやっていくことをやってきたと。そういう意味では、やはり1年間待つような、そういう忍耐力というかそういうのがないと、なかなかうまくいかないのではないかと私も思うのですが、一方で何かもうちょっとできないか。
 要するにニーズとシーズをうまく合わせればいいわけですね。そのためにJSTでは出会いの場とか、あるいは各大学でもそういうことをやっているのだけれど、何か効率が悪いのですよ。もうちょっと、今この時代、何とかならんかという意識があるのです。
 いきなりそれをネットを使ってというのは余りにも能がないんだけど、でも、何かもうちょっとこれだけある情報をうまく適切につないで、要求しているところと、提供できるところをつなぐことができないかと。先ほど高田会長の方から、日本応用数理学会でソリューションを与えるようなことをしますというお話がありましたが、相談が来ると誰かにやってという、それはいいのだけれど、ただそれは一対一の対応なんですよね。
 やっぱり三人集まると文殊の知恵、何人か集まるとうまくいくという、さっき将棋の話が出ましたけども、チェスか何かで、名人とたくさんの人間とでやると、意外にいい互角の勝負になっちゃうみたいな話ってありますよね。そういうのって多分あるはずで、そういうその集合知みたいなものをもうちょっとうまく迅速に集める方法ってないかなという。
 産業界からすると、実は数学以外はネットワークをかなり持っているので、それで何となく結構できるんですね。ただ数学に話が行った瞬間にネットワークがなくなるので、もうどうしていいか分からないという気が私はしていて、今回先ほどのどういうふうにやるべきかというところで、何かもうすこし早く、うまくつなげる仕組みってできないかというのが、答えはないんですけども、そこをすごく感じているところです。

【若山主査】  数学以外はかなりのネットワークを企業はお持ちであると。数学だけはどうもないということは、やっぱり数学をバックグラウンドにしている人が、これまで日本の企業に余りおられなかったということですよね。

【伊藤委員】  先ほど宮岡先生がおっしゃったみたく、日本ってすごい経験値があるのですが、その企業の100年間の経験値というのは大体ものづくりだったり、あるいは情報とかで、数学に対する蓄積がないので事例がないわけですね。だからネットワークが全然ない、そういうことだと私は思っています。

【若山主査】  賭けに出て、一遍に数学の学生たちを採用してみようということにはならないんですかね。

【伊藤委員】  それはちょっと余りにも賭けじゃないかと思うんですが。

【若山主査】  やっぱり賭けですか。産業界というわけではないでしょうけど、合原先生のところは大勢の方たちが、いろんなバックグラウンドの人たちが集まって、今の研究を推進されていると思うんですけども。

【合原委員】  今のワン・トゥー・ワンの対応だと、やっぱり大変だということはありまして、企業の方もしょっちゅう来られるんですけど、結構むちゃ振りをしてこられることもあるんですよ。例えば僕が1年専念すれば、何とかなるような問題を平気で持ってこられることもあるわけですが、とてもやれないですよね。そもそもそういう課題を数学者に振っても、そういう問題を解いてあげたいというインセンティブがないですよね。うまくインセンティブが付くような仕組みを作るか、若しくは集合知みたいに、個々の研究者にはそんなに負担にならなくて、ビッグデータ的にただ何かちょっとごみプラスアルファぐらいで、宝物がちょっとずつあるようなものをうまく集めてきてソリューションを作るかとか、どっちかでやるしかないかなという、個人的にはそう思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。

【宮岡委員】  冗談みたいな話なんですけれども、18世紀の末とか、19世紀の初めって、大きな数学の問題って懸賞論文だったんですよね。ああいうのがあれば結構いいのかな。この問題を解ければ100万円あげますみたいな。

【合原委員】  それがインセンティブになるんですけど、普通はこの手の問題は、解いてあげると、5%まで行かないでしょうけど、数%効率が上がるとか、こっちから見ると、その程度かなと思えるような問題を持ってこられたりするわけですよね。

【伊藤委員】  結構アメリカでNASAあたりやっていますよね。若干軍事研究じゃないかみたいな気もするんだけど、これを解くと1万ドルとか何かありますよね。

【宮岡委員】  日本でもそういうのがあればいいかな。ちょっと冗談ぽいですけど。

【西浦委員】  結構僕はそれ冗談じゃなくて僕は思っていて、数学者ってやはり本当にその現場が困っている、本当の重大な問題を懸賞論文という形態は別としても、そういうチャレンジングな問題を与える場、そういうことが聞ける場というのを作るというのは非常に賛成で、例えばハンガリー帝国が滅亡して、20世紀初頭かな、ハンガリー系の人がノーベル賞を立て続けに受賞したんですよね。いわゆる小さい国なのに、なぜこんなにたくさんノーベル賞が出るんだと。
 いろんな事情があるので、例えばユダヤ系であるとか、それから第二次世界大戦でドイツやらいろんな優秀なところから、アメリカとかヨーロッパに逃げたという、そういういろんなファクターがあるので一律には言えないんですけども、ある種エリート教育かなりシビアなスパルタをやっているんですね。優秀な人を集めて、それで優秀な人に何が重要かって、やっぱりかなり徹底的にたたき込んでいるんですよね。
 今そういうのは余りはやらないのでないんですけど、やっぱり彼らのユダヤ系の優秀さということもあるけれども、そういう優秀な人を集めて、何が重要かを教え、それを解くだけの素養をかなりスパルタでやっていくというようなのがあるんです。そういうのはちょっとなじまない面もあるのかもしれませんけども。
 だからそれは産業界の問題と乖離(かいり)しているように思うかもしれませんけども、ここまた我慢の問題になるんだけども、その時間スケールで、必ずその一歩先を行く方法論の開発につながると思うんですよ。
 だからそういう、どろどろしたところを同時に並行してやらないといけないというのは、それはそれで僕はれんがを積んでいくというのも絶対必要だと思うんだけども、やっぱり今言っている、ちょっと我慢してエキスのところに最重要な問題を置くというのは、もうちょっと意識的にやってもいいのかなというのは感じました。

【若山主査】  時間も迫ってきましたので、もう本日はおしまいにしたいと思うんですが、最後に何か御発言ございましたらお願いします。よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。本日なかなか体系的な議論というわけにはまいりませんでしたけれども、しかしながら面白いお話、御意見を頂戴できまして、今後に生かすことができると考えています。
 それでは、事務局の方から事務連絡を。

【粟辻融合領域研究推進官】  今後の日程につきまして、また主査とも御相談の上、御連絡させていただきたいと思います。資料は机の上に置いていただければ、郵送させていただきます。以上でございます。

【若山主査】  それでは、本日の数学イノベーション委員会、終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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