数学イノベーション委員会(第8回) 議事録

1.日時

平成24年7月24日(火曜日)14時~16時

2.場所

新霞が関ビルLB階 科学技術政策研究所(201D号室)

3.議題

  1. 数学・数理科学と産業との連携・協力に必要な方策について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、青木委員、安生委員、北川委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員

文部科学省

森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、菱山振興企画課長、安藤基礎研究振興課長、下間情報課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

明治大学先端数理インスティテュート 三村昌泰 所長
日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所数理科学担当 井手剛 部長

5.議事録

【若山主査】  それでは、ただいまより第8回数学イノベーション委員会を開催いたします。この暑い中、本日は御多忙のところお集まりくださいまして、ありがとうございます。

 本日は、森主査代理、大島委員、小谷委員から、欠席の御連絡を頂いております。

 また、第6回委員会で御意見を発表いただきました、日本IBM株式会社東京基礎研究所の井手さんにおいでいただいております。よろしくお願いいたします。

 それでは、本日の議事を始める前に、事務局より資料の確認をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○粟辻融合領域研究推進官より、配付資料の確認があった。

【若山主査】  よろしいでしょうか。

 それでは、議題1に入りたいと思います。これまでもいろんな分野の方々、産業界の方々、それから委員の方々から御意見等を賜ってまいりましたけれども、今日は、明治大学先端数理科学インスティテュートの三村昌泰先生にお話を伺える機会を設けております。

 三村先生、よろしくお願いします。20分程度でお願いできますか。

【三村所長】  はい。

 御紹介にあずかりました三村でございます。現在、明治大学の先端数理科学インスティテュートにおります。「諸科学・産業との連携・協力に必要な数学・数理科学研究について」ということで話をせよということを伺いまして、その後、粟辻さんから、特に数学を応用した研究とか人材育成の組織的な取組について話してもらえないかということを伺い、了承したわけですけれども、こういった取組は大きな大学が現在やっておられますので、小さい大学にいます私がこのような重要な課題についてお話ができるとは思っておりません。考えた末、こういった取組にどういう経緯で関心を持ったのかということを、私のこれまでの経験からお話させていただきたいと思います。

 その前に、簡単に自己紹介させてもらいます。こういった問題を最初に取り組んだのは、広島大学理学部数学科にいたときです。ここは純粋数学系の教室なんですが、当時は小講座制でして、教授、助教授、助手二人、秘書という形で研究ユニットがきちっと確立されていました。そのことから、人事等に関してほかの講座にまで口を出すようなことはありませんでした。ですから研究は自由にやれたわけですけれども、カリキュラム等に応用系の科目を入れることはかなり厳しかったです。その頃、東大の大学院に、他大学に先駆けて、数学から数理科学へ組織換えをした数理科学研究科ができ、非常に期待を持って移りました。どの先生も数理科学を展開するということで、大きな希望を持ってやっていました。しかしながら、その中で僕が感じたことは、研究体制が、数学の人たちと、現象、モデリング、シミュレーションのチームを作って融合研究をする我々と違うということでした。その後、広島大学に、数理科学と生命科学の融合を目指して実験系が六つと理論系が四つの研究室から成る学際的な専攻ができたことから、移りました。この専攻もなかなか厳しくて、今までは数学と応用との間の話合いだったのが、今度は理論と実験との間の話合いなんですけれども、このときは、専攻名が数理分子生命理学(英語はDepartment of Mathematical and Life Scienceという名称)でしたから、実験系の人との融合研究は結構うまくいったと思っております。その後、明治大学に移りました。明治大学ですぐやったことは大学院GPであって、プログラム名は「社会との関わりを重視したマルチトラックシステム」であり、社会に貢献するためにはいろんなトラックがありますよというものです。そこでは、これまでの数学のほかに中学・高校生の数学教育のための数理教育、現象を理解する現象数理の3本のトラックを用意しました。その経験があって、引き続いて、「社会に数理科学を発信する次世代型人材創発」というプログラムを実施しました。さらに、2008年から現在まで、グローバルCOEで「現象数理学の形成と発展」を推進しております。これが大体、僕のこれまで歩んできた道でございます。

 本論に入ります。この数学イノベーション委員会では、広く「数学」を捉えようとして、その中には純粋数学と、応用を目的としたような、統計科学とか数理科学も含むと言われているようですが、このほかに、広く「数理科学」の中に、数学と、それから応用を目的とした応用数学が含まれているという考えもあります。昨今、「数学・数理科学」という言葉も用いられています。数学に対してどの言葉が適切なのかはよく分からないのですけれども、僕は、「数理科学」を、このスライドに書いています形で捉えて、これまでやってきました。

 この委員会発足のきっかけだと思うのですけれども、2006年の「忘れられた科学-数学」という報告書で、数学と諸科学・産業界とのつながり、融合研究が少ないんじゃないかと指摘され、その必要性を強調されました。それに対して、翌年、日本数学会が、続いて応用数理学会が会議とかパネルディスカッションを開いて即座に対応しました。そして、2007年に戦略的創造研究推進事業CRESTで「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」領域を西浦先生を総括者として行い、数学から数理科学の分野に呼びかけて、先ほどの問題解決の一環として数学を広げていこうという動きはすごいことだと思っています。この事業はなかなか成功していると思っています。最近、CRESTの代表者の数人と話したのですけれども、数学がバックグラウンドの代表者が非常に苦労しているのですが、前向きに何とかこれを成功させたいと思って頑張っていると強く感じ、頑張れよと激励しました。そういうことで、この企画は数学界のブレークスルーになったと思っていますけれども、僕の認識は、今回の指摘は数学の動きが諸外国に遅れているというようなものではなくて、我が国では両分野をつなぐ数理科学分野の共同研究が遅れているのではないかということです。つまり、それを進める研究者が我が国では余りいないということです。だから、ここのところを何とかしなきゃいけないと思っていたわけです。

 それに応える良い例として、JSTさきがけ事業の「生命現象の革新モデルと展開」があります。これはモデルを通して生命現象を数理的に理解しようというプログラムです。このさきがけの代表者は、数学出身の人は誰もいないのです。誰もいないのだけれども、彼らは当然ながら生命とか生物現象を理解できると同時に、数学の人とコミュニケーションが取れる力を持っているのです。ここがポイントなのです。つまり、数学の重要性も彼らは知っているのです。だから、数学と他分野を取り持つという新しい学際分野が我が国でも生まれるのじゃないかと確信したのです。このほかにも、「数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ」というプログラムが去年から始まっています。この事業も、いわゆる数学のバックグラウンドである人に加えて、数学以外の人たちが多数参加しています。僕は、大いに期待しております。

 明治大学は、こういった指摘に対して、実はかなり前から感じていました。この問題を何とかしなきゃいけないんじゃないかということで、先ほど述べました大学院GPをやったわけです。そして2007年、報告書「忘れられた科学―数学」の翌年に、社会との関わりを重視した数理科学の展開をテーマに、先端数理科学インスティテュート(MIMS)という研究機関を作りました。その中では、基盤数理、教育数理に加えて現象数理と先端数理の四つの部門を立ち上げたわけです。MIMSの上部組織は研究・知財戦略機構であり、その機構長が学長であることから、人事、予算、組織の面で、普通は学部、研究科に直結しているのですが、直接機構につながることから人事、予算面などは、潤沢とは言えないけれど、うまくいっていると思います。現在は生田キャンパスですが、来年からは、中野に新しいキャンパスができますので、そこに移って展開します。

 MIMSは研究だけでなくて教育もやらなきゃいけないということで、2009年にはPhDプログラムを開設しました。定員はほかの大学と比べて年5名と非常に少ないんですけれども、優秀な学生が入学していると思っています。研究指導において困難な点は、数学者がモデリングを教えられるのか、あるいは、現象のモデリング屋さんが数学を教えられるのかということです。これらはこのプログラムの研究指導においてキーじゃないかと思います。そのために複数指導体制となるチームフェローというのを作り、モデリング、シミュレーション、そして解析の各専門分野から3名選び、その3名がPhD学生を教えるという体制を作りました。学生1名に三人の教員が付くことから、研究指導には結構な人数が必要ですが、それを支えるのが、学内だけじゃなくて、学外、海外からの所員、研究員(約40名)MIMSです。こうして現象から数理までをつなぐ研究指導を行っています。PhDプログラムの特徴はこのほかにも、入学生に対しては、学費相当額の奨学金と、博士研究員として採用して給与を出すという制度を設けて経済的支援を行っています。2011年度は、そのPhDプログラムを更に研究科として存続させるために、先端数理科学研究科を開設しました。これがそのパンフレットです。「現象をモデる」をキーワードにしています。現在、この研究科には現象数理学専攻だけですが、2年後に複数の専攻が増える予定です。先端数理科学研究科は2009年にできましたから、2011年は1期生の最終年度です。この3月に修了した1期生のKさんは、学部は物理で、博士前期課程は経済、後期課程が我々のPhDプログラムです。学位論文題目は「進化ゲーム理論と経済行動のモデル応用」です。チームフェローとしては、現象とかモデリングからは、現在は明治大学の専任教授ですけれども、元は明治安田生命保険相互会社部長で、実学に大変強い教員が担当しました。解析、シミュレーションに対しては、ゲーム理論や数値計算が専門の人たちでした。学位を取得後、この4月から豊田中央研究所に研究員として入りました。

 Zさんは中国からの留学生なのですが、彼は、学部は数学で、博士前期課程では数理生態学をやっていた学生でした。詳細は省かせていただきますが、学位論文題目は「生態系の進化浸入解析」でして、学位取得後は本国の西安交通大学に講師として採用されました。

 それから、もう一つの例は社会人入学のHさんです。学部は工学部で、大学院は計数工学、その後、広告関係の企業に入りまして、社会人入学でPhDプログラムに入りました。学位論文は広告に関連した時系列解析です。学位取得後は広告ビジネス業界に復帰しております。

 こういう形で、いろんな現象解明に対して数理を使って貢献しようということをテーマにして、教育研究を進めております。

 2013年度には、研究科を支えるような学部組織を作ろうということで、総合数理学部の開設を予定しております。数理という名前が付く学部は恐らく日本で最初じゃないでしょうか。総合数理学部には三つの学科を予定しているのですが、その一つが現象数理学科です。ここでは大学院で進めている教育方針で学部学生を育てようということですが、数学の教育がベースとして必要です。実際、数学の人である砂田さんが総合数理学部の学部長予定者であることはそれを示していると思います。現象数理学科学科長予定者としては松山さんです。この方も数学出身ですけれども、現在はアクチュアリーの専門家です。

 まだ現象数理学という名前はほとんどの方は知らないと思うのですが、このように明治大学はこの名称の下に発進したわけです。現象数理学を更に展開するためには、数学研究・教育機関との連携が必要なことは当たり前ですよね。実際、新学部現象数理学科では半分ぐらいは数学者であり、やはり数学を基盤に置いた現象数理をやらなきゃいけないと思っています。それに、現象数理学と同じ志を持っている研究・教育機関との連携も必要です。先日も統計数理研究所所長の樋口さんや東大の合原さんたちと話し合って、何とか一緒にやっていこうと話しました。

 このほかに海外の大学、研究機関との連携も必要です。MIMSは覚書、協定を積極的に進めています。例えば、台湾の交通大学のCenter of Mathematical Modeling and Scientific Computing、ここはほとんど我々のところと同じような精神でやっているわけですから、結構密接に交流をやっております。それから、スペインのマドリッド・コンプルテンセ大学のInstitute for Interdisciplinary Mathematics(学際数学研究所)です。ここは西浦さんが進めているCRESTのような研究を展開している研究所です。そのほかに、生物系の方では、オックスフォード大学数理生物学センターです。ここは特にライフサイエンスに特化してDoctorial Training CentreというPhDプログラムを展開しています。このほかにも、いろいろありますけれども、特に、今年7月にフランスのEcole Polytechniqueと修士課程教育の交流について会合を持ちました。今はドラフトの段階なんですけれども、Master course for complex systems scienceというテーマで、お互いに科目の提供、学生の交換を考えています。このように、国内外では、現象数理学と同じような精神でやっている大学、研究機関が増えてきていますので、一緒にやっていきたいと思っています。

 明治大学はスケールとしては非常に小さいので、数学というものと諸科学・産業とをつなぐような、そういった新しい分野である現象数理学をこれから展開していこうという我々の試みは、一つのモデルケースだと思っています。2013年度からは中野の駅の近くにキャンパスができますので、そこで総合数理学部と先端数理科学研究科、そしてMIMSが集まって、これから数理科学を展開していきたいと思っております。

 どうもありがとうございました。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 ただいまの御発表内容につきまして御意見とか御質問ございましたら、是非、どうぞお願いいたします。どのようなことからでも結構です。

 どうぞ。

【菱山振興企画課長】  PhD学生の経済的支援について教えていただきたい。奨学金を給付したり、それから給与を支給ということだったんですが、これはMIMSのPhDプログラム特有の、特別に学生に配賦されるものですか。

【三村所長】  そうです。だから、大学内の他研究科とは異なっているのです。現象数理学を明治大学はやっていこうということで、特別にPhDプログラムという名前を付けました。

【青木委員】  博士課程についてなんですけれども、前期をどこかほかのところでやって、後期だけここでやるというシステムなんですか。

【三村所長】  今のところはそうです。今のところは、年5名ですから、15名ですね。そのうちの6名ぐらいは海外からなんです、例えばイタリアとか。だから、ある意味で、学内から上がってほしいんですよ。しかし、結果として選別したときに外からになっちゃうんですね。

【青木委員】  でも、それは逆に、国際的に競争力のあるプログラムもあるということですよね、海外から来るということは。

【三村所長】  はい。

【青木委員】  就職先は国内ですか。

【三村所長】  中国から来た留学生は中国で就職先を見つけました。

【青木委員】  博士のトピックはどういうふうに選ばれるんですか。

【三村所長】  MIMSの中で所員、研究員は約40人おりますよね。国外からの受験希望者に対しては事前に計画内容を聞くんですね。それに基づいて指導できるかどうかを判断するのです。時々、優秀な留学生がいるけど、こちらは教えられないということがあるんですね。それで、マッチングがうまくいけば、そこで受験のアクションを起こしてもらうんですね。受験料が高いから、一応、受験させるまでにこれらをやるんですね。それから受験させて合否を決めるのです。合格者は今のところは他大学からです。学内からはちょっとまだ。

【青木委員】  分かりました。どうもありがとうございます。

【若山主査】  ほかに、御質問よろしいでしょうか。

 先ほど最初に質問があったんですが、今、明治大学は現象数理学に支援をされているということですけれども、これは、かなりの長期間、その展望はありますでしょうか。つまり、日本では大体、博士の学生は奨学金が問題になっているわけですけれども、年齢からいってもちろん必要なんですが、将来的に続くのかということ。それから、彼らは、例えばTAとか、その辺りのことはどういうふうに。

【三村所長】  PhDプログラム学生は、TAはできないんです。それは、博士研究員というのがあって、週何時間というので、働くことイコール研究することなんですね。それがあるから、TAをやらさない。ところで僕の方から皆さんに一言お話ししたいのですが。

【若山主査】  どうぞ。

【三村所長】  現象数理学と数学とはどこが違うのですかと、よく聞かれるのです。数学の中でやればいいのじゃないですかと。そこのところが、明確に答えられないのです。思うに、ここに書いていますが、ミッションとか、文化が違うということではないでしょうかね。現象数理学と数学の二つの集団が一緒になっているとき、どちらかの集団が大きくなったら、一つの文化になってしまい、小さい、いわゆるマイナーなところはなかなか大きな文化に入れないですね。二つの集団が共存するためには、お互いの文化をリスペクトし、ミッションを理解することが重要だと思うのですね。それがなかなか難しいのでしょうか。例えばフランスのパリ第11大学の数学教室なんかはフィールズ賞を取っている人が複数名いる純粋数学志向の強い教室で、その文化が強いと聞いています。そのために応用系の人はなかなかそこに落ち着けず、パリ第6大学に移る人もいるようです。そのためにパリ第6大学は結構、応用系が強くなってきていると思います。このように各大学の数学系が特徴を出していくように多様になることも一つの答えかもしれません。すなわち、同じような数学のミッションを持つ教室だけではなくて、数理科学のミッションを持つ教室も必要ではないかということです。それらは決して対立するものじゃないんですね。先ほど述べた総合数理学部学部長予定者である砂田先生は、純粋数学の人ですが、数理科学であることを理解している方です。でも、どういう形で共存していくのかという明確な答えが出ないうちに、僕らは出発したわけです。

【若山主査】  先生がおっしゃるように、対立するものではないと、私は個人的にはすごく思っております。そういう意味では、ちょっと違う切り口ではありますけれども、私たち九州大学も同じ考えから出発しているというところがあると考えています。こういう、実際に機会とか、それから、先ほど先生が御指摘になっていた「忘れられた科学―数学」の後の日本数学会とか応用数理学会の早い反応や対応を見ると、やはり皆さん、対立するものではないという考えはお持ちかというふうに思うんですね。ただ、良い伝統、それから、伝統をちょっと裏返すと、いろんな今までの常識というのがなかなか払拭できないで一生懸命になっているというのが今じゃないかというふうに、個人的には考えています。

 何か、この点も含め、皆さんから御意見とかございましたら、御発言いただけたらと思うんですが。

 よろしいでしょうか。

 最初のスライドに書かれた「純粋数学」と「数学」の丸にしても、どっちかがどうというふうなことを議論する必要は余りなく、むしろ、今、三村先生がおっしゃったように対立するものではないということに、私も同感です。

【三村所長】  やっぱり文化だと思うんですよ。文化の違いを数学の人は余り気にしていないんじゃないかと思うんですね。自分が思っている文化がほかとはちょっと違うということを、もちろん感じている人も多いですけれども、感じられない人もいると思います。実際、明治大学では理工学部数学科というのがあるのですが、来年度からは理工学部に数学科は残るんです。砂田さんたちは一緒になろうと思っていたんだけれども、理工学部の方針が大きい原因ですが、文化の違いを恐れた人たちもいたのではないでしょうか。それは一つの象徴的なことだと思うんですね。

【北川委員】  私はほとんど三村先生に共感しているんですけれども、この委員会の最初の頃に何回か発言したんですが、ここでは、そういう純粋数学から数理科学、統計も含めて、それを数学と呼んでいきましょうということになったので、私はもう言わないことにして、納得しているつもりです。

【粟辻融合領域研究推進官】  三村先生の資料の中にあった大学院の件なんですが、大学院での人材育成なんかは我々も非常に関心があるところなんですけれども、この行き先というか、就職先というか、キャリアパスといいますか、主に民間企業を念頭に置いておられるんでしょうか。

【三村所長】  そうです。さっき紹介しました学生の豊田中央研への就職はラッキーだったんです。どうラッキーだったかというと、豊田中央研の研究員は大半が理工系、特に工学系ですよね。そこで、金融関係とか、あるいは経済予測とかいうのが欲しいということになったようですが、条件として理工学系の人と話せる人でなきゃいけないとかで、彼はPhDプログラムで分野間を越えていろいろなことをやっていたから、成功と言うと言葉が悪いけど、採用されたのだと思います。僕らの教育の狙いはそこなんですね。

【若山主査】  総合数理学部というのをお作りになるということで、学部に数理とかっていうのが付くのは素晴らしいと思うんですが、特にその中の現象数理学科というところですね。カリキュラムはどの程度今までの、先ほどのお話のトラディショナルな数学科と異なるのか、あるいは同じなのか、その辺りのことをちょっと教えていただけますか。

【三村所長】  私は新学部にはタッチしてないんですよ。でも、僕の理解の範囲で言うと、カリキュラムなんかを見るとどこが違うかというと、1年生のときなんですね。だから、数学科でやっているような教育を1.5年間ぐらいしかやらない。あとの0.5年間は数学はいろんなところに登場して、使えるということをモデリングを通して教えることをまず最初にやるんですね。数学というのは面白いですよとか、数学ってこんなものに役立ちますよと、そういうモデリングというのをカリキュラムに入れているんですね。それから、現象の理解に関しては、セミナーでものすごく力を入れるとかですね。

【若山主査】  例えば、数学系の4年制大学の多くは、教育学部以外は卒論を課してないところが多いと思うんです。その辺りはどういうふうに。

【三村所長】  卒論を課しています。それと、これも聞いたけど、現象数理学科というのは、教員免許は数学だけなんですね。情報は取れなかった。それは、情報系の先生が少なく、数学系の先生が多いのじゃないかということのようでした。

【若山主査】  九州大学の例ですけれども、情報の教員免許が取れるという話になったときに、多くの学生が情報の教員免許を取ろうとして取りましたけれども、最近はほとんど取らなくなっています。高等学校の方でも、これは耳にしただけで、本当にそうなのかどうか分からないですけれども、情報というのが、当初考えていたサイエンティフィックなものではなくて、割と社会的なというか、そんな感じの科目として扱われているというふうなことを、福岡県の二つほどの高等学校の先生から伺いました。

【三村所長】  分かりました。ありがとうございます。

【若山主査】  ほかに、御質問等ございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

 それでは、三村先生、大変お忙しい中お越しいただきまして、どうもありがとうございました。

【三村所長】  皆さん、現象数理学のことを是非見守ってください。よろしくお願いいたします。

【若山主査】  どうもありがとうございました。

 続きまして、西浦先生が6月上旬にドイツを訪問なさって、数学と産業や諸科学との連携を進めている大学や研究所と関係機関を訪問されました。本委員会の検討に必ず役に立つ大きな情報だと思いますので、その辺りのことを御紹介いただければと思います。10分程度でお願いできますか。

【西浦委員】  はい。

 東北大学の西浦と申します。ドイツに、かなりの駆け足だったんですけれども、現状視察と、実際、具体的に数学と産業界、あるいは諸分野というのはどういうふうに進んでいるかということを見てまいりました。この実施に当たっては、東大の山本先生とか、同行されました文部科学省の黒柳さんにも、非常にいろんなところでお世話になりました。ここで改めてお礼申し上げます。

 ざっとした目次なんですけれども、現時点での論文数、特に「Applied Math」の論文数を、ちょっとデータを取ってきていただきましたので、それを紹介して、ドイツの特にファンディングの体制を施策とともに次に御紹介し、その後、具体的な取組を、幾つかの産学連携、具体的な事例に沿って簡単に御説明申し上げたいというふうに思います。

 まず、この統計をどう見るかというのは、いろいろ御意見がある。つまり、絶対数を見ることでどれだけの意味があるのかということはあるんですが、ただ、取りあえずこれで見ていただくと、特に中国が365パーセント増ということで、これは人数とともに論文数も非常に増大している。もう少し成熟した国ですね。日本も含むんですが、ドイツ26パーセント、イタリア9パーセント、英国47パーセント、日本は30パーセントということで、一番下に「大幅な遅れ」というふうに書いていますけれども、これをどう見るかは御意見があるかと思いますが、全体的には非常にアプライド・マス・ドリブンの、いわゆる連携という形での論文数は、やはり絶対数では非常に増えつつあると。

 早速、ドイツなんですが、御存じのとおり、これは大きな研究協会それぞれ相補的な役割を果たしているわけですけれども、マックス・プランクが基礎研究では非常に多分野にわたって、全ドイツにまたがって設置されています。フラウンホーファーはそれよりもはるかにアプライド、出口寄りの研究所群でありまして、これも非常にアクティブにやっています。そのうちの一つを後で御紹介いたします。あと、文系にわたりますけど、ライプニッツ協会、それから、ヘルムホルツ協会は、研究施設でありますが、上三つと性格が少し異なりますが、この四つは既に皆さんよく御存じで、ファンディングの方も、BMBF、文科省に相当するところと同時に、DFGというのは、学術振興会、NSFに近い形で、いわゆるボトムアップ型の基礎研究を支えるところが、DFGになっています。それ以外に、学術交流会、それからフンボルト財団。フンボルト財団というのは、たくさんの留学生を全世界から、日本も含めて育成しておりまして、それのある種の同窓会といいますか、そういうところのネットワークづくりというのが、非常に発達しております。これは結構、人脈づくりに役立っているというふうに聞きましたし、実際、そういう印象を持ちました。

 非常に粗っぽい比較で申し訳ないんですけれども、いわゆる数学施策関連の予算、非常に粗くくりに言って、これぐらいの比率、1対3ぐらいの差はあるかなということで、そのトータル額の比較もさることながら、非常に長期間にわたって、基礎科学、特に数学に対するサポートシステムというのは継続しております。例えば、その一例ですけれども、「Mathematics for Innovation in Industry and Service」というのが、1993年から2007年まで、非常に長期にわたる研究戦略が進んでおります。ここにも書きましたけれども、20年前はドイツも、日本の少し前と同じで、数学というのはある意味、諸分野と比べて孤立していたと。でも、それではいけないじゃないかという反省が、1970年以降、1980年代にあったわけで、そのプロセスを経て、1990年代から本格的な戦略ファンディングが進んだと。それによっていろいろなものがスタートしているわけですけれども、若手研究者向けの、これは数学に限定されていませんが、異分野連携のファンディングもいろいろ企画されております。

 BMBFというのは日本で言うと文科省にほぼ相当するんじゃないかと思いますけれども、ここが主体となって、例えば数学に対するいろいろな広報活動、特に、これは私も2008年に何度かドイツに行ったときに感じましたけれども、「Year of Mathematics」ということで、全ドイツ中でいわゆる一般の人たちに、数学者、その関連研究者ということではなくて、数学を取り囲む、社会の中でのといいますか、あらゆる日常的レベル、博物館から映画まで、漫画まで範囲を広げて、数学というものがどういう形で入り込み、どういう形で役に立っているかという、そういう社会的認知のプロパガンダをこの年にやったわけです。それによって非常にイメージの変革が進んだ。これは実は、ドイツだけじゃなくて、ヨーロッパ各地でこの類いのプロパガンダが行われた。だから、地下鉄に乗りますと結構こういうポスターが、ドイツだけではなくてフランスでもあったと思いますけれども、そういう一種の啓もう活動を経て、いわゆる下からのサポートというものを十分作り上げた上で、同時に先ほどのファンディングもやっているというところはなかなか、ドイツも賢いなと。もちろんブレーンが、ドイツテレコムだけじゃなくて、いろいろ後ろには控えているようですけれども、そういうのもちょっと数学・基礎科学というのはやらないといけないのかなという感触を持ちました。

 具体的な予算も含めての数値なんですけれども、いろんなところに拠点をつくっています。これはベルリンを中心とする三つの大学と二つの研究所を母体とした一つの共同体ですが、それをMatheonというふうに彼らは呼んでいます。それから、ハイデルベルグ、フラウンホーファーの中にITWMという、フラウンホーファーの中の数学を核とする研究所というのが作られています。全て、これを見て分かるとおり、かなり前から実施されているわけで、ここ5年、10年という話ではありません。予算は大体こういう感じですけれども、少なくともアプライド・マス・ドリブンという形で、それぞれちょっとずつニッチが違います。ハイデルベルグが一番、大学といいますか、アカデミアに近くて、フラウンホーファーが一番、出口に近い。これは後で事例を説明しますが、実際、企業、ものづくりそのものに近いところで、Matheonもどちらかといえば基礎なんですけれども、これもやはり、かなり出口志向のところがあります。今日は逐一の具体例を各拠点に沿って説明することは時間の都合でやりませんけれども、こういうふうに少なくとも少しずつニッチが違う形で、非常に広い範囲、基礎科学により深いところから、非常に出口に近い、企業との連携までという、うまいカバーリングをやっているなという感じがいたします。

 これは字が多いので余り説明はしませんけれども、今申し上げたように、Matheonはそういう三つの大学。これもそれぞれ役割分担が多少ありまして、ベルリン工科大学はちょっと工学系が強い、よりアプライドにシフトしておりますし、ワイエルシュトラスは、応用解析と書いてありますけど、これはかなり、ピュアといいますか、より基礎に近い。それ全体として非常にバランスの取れた組合せということで、ベルリンはMatheonという一種のフォーラムをきちっと作ってやっている。

 ハイデルベルグはそれに比べるともう少し、コンピュテーション寄りといいますか、モデリング寄りで、先ほどの三村先生のフィロソフィーに近い内容で1987年から何度か予算を引き継ぎながらやっているわけですけれども、現象数理学的なアプローチがハイデルベルグでは進んでいる。

 フラウンホーファーは、全ドイツで50から60以上のインスティテュートがありますけれども、その中に数学を核とするインスティテュートがありまして、それがITWMというインスティテュートで、最近の成功を受けて、今、そのブランチをヨーロッパに広げつつあって、一つはスウェーデン、それから、ブレーメンではごく最近、これもディレクターが数学出身の方ですが、メディカル、あるいはファーマコロジー、そこにドラッグデリバリー等の医薬系に特化した数学研究所で、それに特化した研究所ができるというのは初めて私も聞きましたけれども、ドイツではそういう方向の研究所設置が進んでいる。その基盤は、ITWMの最初の成功によるんじゃないかと。もちろん、研究者をサポートする、どこからそういう若手の駆動エンジンを供給するかというと、やはり大学との連携というのが、ここで一つのキーになっております。

 最後に、そういうフラウンホーファー等の具体的な事例なんですけれども、一つ注意して、先ほどの文化の違いにも関わるんですが、フラウンホーファーというところは、非常に大きな大手の会社ともやっていますけれども、中小の企業が実は対象のようです。中小の企業を対象にして、2番目の事例なんかはそうなんですけれども、中規模の宝石加工会社があるんですが、そこでは原石から宝石をカッティングするまでに約60パーセントウエースト(無駄な部分)が出ると。そこで、ちょっと数学の知恵を使いますと――ここは数学そのもののアカデミアから見るとある意味でかなり初等的なレベルと言えば初等的なレベルなんですけれども、ただ、数学を知らないと、それは適用できます。実際どういうふうにやればいいかということは、分からない。中小の人は、ちょっとしたことなんだけど、そのヒントがなかなか、普通はもらえるチャンスがないわけです。だけれども、そこを具体的に執行するだけで、今まで60パーセントのウエーストが出ていたのが、30パーセントのウエーストで済むということで、ちょっとした数学のアイデアだけで年間30億ぐらいの実利の差が出てくるという、中小の企業にとってはほとんど信じ難いぐらいのエフェクティブなことになっていると。もちろんそのマッチングの場、フラウンホーファーの人たちがこういう中小の人たちとどういう形でマッチングするのか、どこで出会うのかというのはもちろん裏でいろいろやっているわけですけれども、一つは、そういう営業活動とともに、必ず1対1の関係で研究を進めている。だから、フラウンホーファーが前面に出す、あるいは企業さんが全部出すということではなくて、50対50というのが基本ベースで、マッチングファンドでこういう研究を進めている。これは、今、何百という事例が挙がっていまして、その成果の蓄積によってますます、より大手のところからもこういう話が来るという、そういう一種のポジティブスパイラルという形で今進んでいます。

 簡単ですが、以上で終わりたいと思います。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 ただいまの御報告につきまして、お聞きになりたいこととかあるかと思いますが、どうぞどなたからでも、お願いいたします。

【安生委員】  西浦先生、最後の例ですが、私も中小企業にいるのでとてもうれしい話を伺いました。この連携拠点へアクセスする方法や仕組みがよく分からなかったのですが。つまり、企業がそういうところにアクセスする方法とか、手段とか、あるいは費用とか。

【西浦委員】  例えばフラウンホーファーの中には、そういう間をつなぐ人がいるんです。研究する人とは別で、そういうことをつなぐ人の存在が許されていて、実際、研究している人と企業との間を取り持つ、お見合いを進行させる役目の人、そういう人たちがまずいるというのが、普通、我々の研究所から考えるといない。

 あと、私が気が付いたのは、地域連携を非常に重視していると。逆に、地域連携を重視すると、中小が中心にならざるを得ない。そこの地域連携のマッチングを具体的にどういうストラテジーでやっているか、そこまで詳細は聞いていませんけれども、地域連携を非常に重視しています。だから、フラウンホーファーがあるところ、あるいはその研究者の仕事、何でもいいんですけれども、最初から大手とか大きいというんじゃなくて、フラウンホーファーがあるところで、あるいは、フラウンホーファーはなくてもいいんだけれども、研究者のヒューマンネットワークでもいいんだけれども、とにかく、割とローカル、割と小規模というところをむしろやらないと、つまり、彼らはもうちょっとロングスパンで考えています。大手とやるのはいいし、額も大きいけれども、ここでやったら次はどう続くのと。それよりは、小さい規模で、ちょっとしたアイデアを使うだけで割と成果が早く出て、しかも小さい企業の数は圧倒的に多いわけですね。だから、少数の成功例があると、結構それが広がるスピードが速くて、いろんなところから、一つやると、それに対して二つ三つという、これはどうなんでしょうというのが逆に来る。だから、最初のクリティカルマスのところは多分大変だったと思うんですが、そのクリティカルマスを越えると、ほとんどかどうか分かりませんが、かなりスポンテーニアス(自発的)に、自己増殖的に増える側面はある。そのときにあんまり大物狙いをしてないということです。数学の方にとっても、数学的にも非常に難しくて、予算もかかるし、人もかかるという、そういうことではなくて、非常にセンスのある人であれば、これもそうですけれども、ちょっとしたアイデア。でも、中小企業はそれが欲しいんですね。そこら辺がうまくいっている。継続性を常に考えている。中小ベースでいいじゃないかと。だから、先ほどの文化で言うと、幾何の専門家がこれをやったからといっていい論文がアカデミアに出せるか、それはなかなか難しいと思いますけれども、でもやはり、これはこれで一つの社会への還元という意味では非常に大きな役割がある。だから、別にこれをやりつつ、もっとピュアな仕事をもちろんやってもいいわけだし……。

【安生委員】  そうだと思います。

【西浦委員】  これの積み重ねで逆に世の中からは大きなサポートが出てくるわけで、むしろそちらからの影響の方が大きいかもしれない。

【安生委員】  うまくいった例があったときに、今度は逆に企業側から何か連携拠点に対する経済的なのか、何なのか分からないですけど、サポートをしてあげようと思うでしょうし、いい意味でこれだけ成果が出てくればお金という意味でも支援できるようになっていくと思うんですね。そういう仕掛けができるといいですね。

【西浦委員】  それはありますね。

【安生委員】  そうでないと長く続かないと思います。

【西浦委員】  両サイドが自分と無関係ではないという感覚を持てるかどうか、そこが大事で、私はアカデミア、あなたは物を作る人と、そのバリアがある限りはなかなか大変ですね。もちろん、フラウンホーファーはフラウンホーファーでそういうスタイルですけれども、もっとアカデミアのハイデルベルグやMatheonの方はもう少しそれよりは数学的にもというのをちょっと狙っている部分があるんですけど、それでもかなり、Matheonの方は、よりアプライド・マス・ドリブンというか、出口に近いとは思いますね。具体的な事例を今日は全部御紹介していませんけど、ロジスティック、メディカル、そんなところにMatheonのグループはプロジェクトを立てています。

【中川委員】  この表の中の外部資金というのはどういうものなのですか。

【西浦委員】  これはいろいろミックスしちゃっているので、企業からのものもあるし、いわゆる日本のいろんな科研費や…黒柳さん、あとは何があったかな。

【事務局】  あとは、EUのプロジェクトとか、そういうのも含まれてきます。基本的には、DFGの外部資金とか、そういうのまで。

【中川委員】  交付金は国からの。

【事務局】  そうですね。連邦政府、あるいは州政府とか。

【中川委員】  そうすると、フラウンホーファーでさえも、企業からは全体の1/3ぐらいしか来てないんですね。あとは、やっぱり国の支援があって成り立っているということですね。

【西浦委員】  そうですね。全面的にこっちというわけでは、決してないです。さっき申し上げたように、全面的に企業からという姿勢ではないんですね。

【事務局】  ただ、フラウンホーファーは、まず最初に企業から40パーセントを受託研究でもらってきなさいというのがあって、もらってきたら初めて、交付金という形で3割、あと外部資金とかで3割で、4対3対3の割合で運営されています。

【中川委員】  例えば、企業がフラウンホーファーに何かお願いするときに、1件幾らぐらいかかるのでしょうか。非常に興味のあるところなのですが。

【西浦委員】  かなりバラエティーがあったと思うんですね。

【事務局】  基本は、単価は決まっているらしくて、ホームページに単価も載っているらしいとは、聞いてはおります。

【宮岡委員】  ホームページに書いてあるんですね。

【西浦委員】  かなりバラエティーがあると僕は思っていて、こっちなんかは相当大きな額なんじゃないかと思うんですけれども、天井から地下2階ぐらいまで吹き抜けで、フラウンホーファーが関わった切削機械の設計のようなんですけど、その機械がそのまま展示されていました。それは一番大きなスケールの話ですけど、でも、話を聞いていくと、むしろ大きな話よりかは、こういうものの積み重ねが裏にあるから逆に大きいのができるのかなというのが、我々が視察に行ったときの、私の実感としてはそういうところが強かったです。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

 今の予算のところですけれども、交付金、外部資金とか、産業界からのお金。人員のところに、ポスドク、博士課程、インターンとかありますね。この人たちの雇用費用というのは表にある「予算」から出ていると考えてよろしいんですか。研究者は、大学だったら給料をもらっているんでしょうけど。

【西浦委員】  基本的にはそう思っていいと思うんですが、これも、ハイデルベルグだけじゃなくて、周辺も含めてのトータル数だったと思いますので、ハイデルベルグ大学一つではないんですけど、ただ、主たる研究者群というのはハイデルベルグのいろいろな学部・学科に分かれた人、これに直接・間接関与している人、多分これは全部ひっくるめて書いていますので、いわゆるこれにかなりメインにコントリビュートしている人は、もう少し数は減ると思います。ただし、この程度ぐらいはハイデルベルグ大学周辺で関与していて、このポスドクの人たちのサポートはここが中心ですね。

 この人たちはどこに行ったのかという話をお聞きになりたいかと思うんですけれども、今日、そのデータをここに出してはいませんが、アカデミア以外に就職する方が非常に多い。それは、大学院生の品質保証というのが非常に進んでいて、企業がここら辺の訓練を受けたポスドクの人たちを、どちらかと言うと喜んで採用するというのがあって、そこは日本は少し努力しないといけないと思いますけれども、修士のみならず、博士のポスドクの人たちの品質保証というのは非常に高いレベルで保持されていて、それは、カリキュラム、それから、教員が学生・ポスドクにどう関わるかという具体的な側面においても、かなり進んでいるというふうに感じました。普通ですと、これだけのポスドクを抱えていると、それをアカデミア、あるいは準アカデミアに送り込むというのは非常に大変なことになるかと思いますけれども、そこら辺の人的フローの流れ方というのは、日本よりは広いという印象があります。それは企業にとって採る魅力がある人材が育っているという当たり前のことなんですけれども、そこはちょっと差があるのかなという気はしています。

【若山主査】  品質保証ということにも関係するんだと思うんですけど、博士課程の学生たちの教育というか、要するに学位の取り方というのはどういうふうになっているんでしょうか。例えば、非常にコースワーク的なところもあれば、こういう研究の中に入ってくるというのもあるでしょうし、一方で、昔の日本の理学系数学科だと論文一発でというのがあるわけですが。

【西浦委員】  ドイツの学位、ハビリタチオンというか、いろいろなレベルがあって、少なくともこのプロジェクトに関わっている博士課程の人の多くは、やはりマルチディシプリナリーを念頭に置いているので、特定の数学の先生が一人、博士課程の学生に携わるというよりかは、それのサブの人がいるという感じに近かった。ですから、やはり複数指導体制的な、少なくともこのプロジェクトにじかに関わっているところの人たちに関しては、私はそういう印象でした。ただし、詳細なプログラムは今回得ていませんで、機会があれば、今の若山先生の御質問に、もう少し詳細に、カリキュラム的な体制も含めて、調べることは可能だと思います。どうしても、アプライド・マスというのは一人ではなかなかできない面があって、モデリング、解析、シミュレーション、現場と理論をつなぐところを全て一人の学生が、しかも一人のチュータリングというかメンターの人はなかなか面倒を見きれないというところがあって、そこが逆に、そういうコンソーシアムじゃなくて、こういう拠点という場にいることで、一人の先生で1対1というんじゃなくて、それを乗り越えられるチームや、人材がそれだけそろっている。そろっているから逆に、そういう学生も育っているし、教育もできる。拠点の意義は、それが一つはあるかと思います。

【若山主査】  分かりました。

 ほかにございませんでしょうか。

 それでは、どうもありがとうございました。

 さて、議題2ですけれども、数学イノベーションに向けた今後の推進方策についてでありまして、お手元に事務局が準備してくださった資料があります。まず、それについて、粟辻さんの方から、簡単に御説明ください。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料4~7について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 今、粟辻さんの方から御説明いただきましたが、特に第3章の推進方策のところにつきましては、先ほど御紹介ありました、いろんな大学、それから統数研といったところのグッドプラクティス等も参考にいたしまして、事務局と私の方で相談しまして、記述を追加したものです。まだまだ文章で細かいところも修正をしなければいけないところはあるかと思いますが、冒頭に申し上げましたように、これは中間報告案として先端研究基盤部会に提出するものです。今日は、皆さんお集まりいただいて、一堂にいらっしゃる中で議論できる最後の機会ですので、是非、今後必要なことについて、御意見等頂ければと思います。余り時間はございませんけれども、できれば30分ぐらいはとって議論をしてまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、どなたか。

 個人的には、コストパフォーマンスとかいうことを考えれば、何をやっても全て価値があるというふうに思っているんですけれども。

【西浦委員】  細かい、余り大枠のところではないんですが、実質的にいろいろやるときに、こちらの方で言いますと、18ページの、若手研究者へのインセンティブの付与というか、結局、どういう連携にしろ、スタディグループでつなぐところをやったり、あるいは数学の土俵に乗せるためのモデリングのところでいろいろ現場との間をつなぐ努力をやったりしても、やはり、そこの所属する、ほとんどの場合、現時点でアカデミアの人だと思うんですが、若手の人がそれをやることで、それへの動機付けとともに、やることによっての評価、ここのところが何か明示的に、大学、学会、いろんなところで出てくる。

あるいは、人事の応募のときにも、そういう論文に出ない評価というのをこれからどうしていくのかと。昨今の数学の公募を見ていますと、広い意味での何とかっていうのはやたらに多いんですが、実はその評価基準が何なのかということは明示的には何も書いていない。どういう意味で広い何たらっていうのをやったのかということについては、応募する側は非常にグレーゾーンで出さざるを得ない。だから、応募する側がこういうこともやりましたよといったときに、本当にそれは広い意味での何とかという努力として認知してもらえるのかどうかというのは、今のところ非常にグレーだと、僕は思います。

それも徐々に、10年前と比べれば大きな進歩ではあるんですが、やはり、そこら辺は何か、数学会、応用数理学会、統計学会、全ていろんなところの人たちが明示的にできれば今後やっていただかないと、若い人たちに頑張れよと言ったところで、なかなか大変な面もあるんじゃないかと思っています。ですから、推進していく方は、今後は若手の方が中心となり、そういう人たちがいろいろな立場・文化を越えて第三の価値基準・文化というものを作っていっていただくことになりますので、一見ちょっと細かい話から始めているんですけれども、我々はもうちょっと努力できないかなと、いつも感じております。

 以上です。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

【宮岡委員】  それに関しては、数学会としても少々考えておりまして、1つは、賞の選考のときに割とそういうことを考慮するということと、あと、藤原洋数理科学賞という新しい賞を今度立ち上げて、それは本当に応用というか、もっと具体的に言うとIT関係なんですけれども、それに関する賞を出そうと。それは数学会ではないんですが、数学会は協力して出すということにしたいと思っています。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【宮岡委員】  数学会だけじゃなくて、個々の大学も多分何かやらなきゃいけないんですけれども、それはどうしたらいいんですかね。

【若山主査】  そうですね。前にも申し上げましたが、例えば九州大学の場合ですと、先ほど西浦先生が御指摘のとおり、明示的に書けないというか、こちらもちょっと自信がないというところがあるわけですけれども、新しく設立したマス・フォア・インダストリ研究所では、その看板でもって応募する人たちがいろいろと自分が必要だと思われる資料を出してきてくださっています。これに対し、それをポジティブに評価したいという姿勢でやっているわけです。そういう個々の大学の取組という意味では、私たちが数理学研究院でやっていた人事とは少し違う人事が行われているという現状はあります。とても大事なことだと思います。

 それから、インセンティブということもそうですが、出口という意味ではやはり、博士課程、それから、ポスドクの後の、いつも言われますけれども、キャリアパスというか、そういうところも、本当にこれはみんなで考えていかないと損だという気がしております。

 そういう点から、中川さん、何かございますか。今後の人の雇用とかですね。

【中川委員】  企業もあると思うのですけど、大学の中でも、数学以外に、例えば工学部情報系とか、数理工学系とか、アカデミアの間口を広げていければ、関係者がハッピーになる世界があるのでないかと思います。そうすると、実験をする人たちとの連携、コミュニケーションなどが必然的に求められると思います。そういうことを意識した教育も必要かなと、個人的には、いつも感じています。

【若山主査】  杉原先生のところですと、そういうことを意識されてずっとやってこられたのか、意識しなくてもそういうふうに自然になっていくのか。

【杉原委員】  ある程度は、教員の配置なんかも、ビッグデータに対応するように教員配置をしたりとか、やっぱり時代の先を読んで人事をやっております。もちろん基本になるところは、数理工学といって、数学だけではなくて工学的な視点も両方入れてということで、その点は変わりません。ただ、ある意味で東大は特殊だったという気がする部分もあります。組織として、数学と数理工学と両方あって、場所が違ったので最近は余り連携していませんけど、昔は講義の連携をしていたりとか、そういうこともやっておりましたので、そういった意味で割とうまくいっていたと思うんです。今は、離れてしまって割と独立になってしまったというところで、ちょっとまずいかなと思っているところがあります。東大は特殊事情があるとはいえ、皆さん、ほかのところでもうまい具合にいろいろな分野の人が融合していけばいいなあとは思います。ちょっと難しいところがあるかもしれませんけれども。

【若山主査】  ありがとうございます。

 今の若手人材育成、これは核になる問題だと思うんですけれども、この報告書、それだけではございませんので、ほかにも御意見を頂戴できたらと思いますが、北川先生、いかがですか。

【北川委員】  私は、統計数理研究所を離れてから1年以上になりますから、現状というわけではないですけど、統計数理研究所でも、例えば人事を行う場合、どうしても理論的な人が集まりがちで、通常の評価をすると、それらの人が選ばれてしまうということがあるんですね。それで、一つ意識的にやっているのは、公募の段階で現実の問題に興味を持つ人を歓迎するということを明記するということ。それから、入った後の評価というのがあるんですが、5項目に分けて、研究、それから統数研の場合共同利用機関ですから、共同研究、総研大における教育、それから、所内運営への協力、社会貢献、この5項目で評価するということを宣言して、自己評価してもらって、それから上層部で評価するということをやっています。ただし、人材も多様化が必要なので、全部の人に全部を要求するのではなくて、それぞれエフォート率を宣言してもらって、それらの中で研究所全体としていろんなところをカバーできるようにして、共同研究中心の人とか、多少は自分だけの研究をしている人もいてもいいということで、それぞれで多様な人材育成をするように心掛けておりました。

【若山主査】  今おっしゃった社会貢献というのは、具体的にはどのような。例えば私たちだと、大学でエフォートというときに、高校への出前講義とかっていうのなんかも社会貢献というふうに位置付けていますけれども。

【北川委員】  もちろんそれも含めて、あと、共同利用機関としての基本は大学との共同研究ですが、それ以外の企業との共同研究も含めてですね。それから、本の執筆等もあります。

【若山主査】  分かりました。ありがとうございます。

 安生さん。

【安生委員】  最近、いつも同じような話ばかりしていますが、情報の発信・理解の増進というところで、先ほど西浦先生の資料の中で、BMBFの広報戦略というのがありましたね。そこでは具体的にどなたがどういうふうにされて、どういう形でまとめたかというのはちょっと分からないですけれど、数学ないしその周辺の専門家だけではなくて、広報戦略を練る人と、それを具体化する人と、更に分かりやすくする人がいるのではないかと思います。つまり、分かりやすくするのは特に普通の一般の方に発信する場合です。いずれにしても、その広報担当者は、それがある意味本業の仕事であるという形になるぐらいの体制というのが必要だと思います。資料には、何をやるというのは書いてあるんですけど、誰がとか、どのようにやるのかという記述が抜けていたので、もう少し突っ込んで言えるといいと思いました。

【若山主査】  ありがとうございます。

【宮岡委員】  そのことについてよろしいですか。

【若山主査】  はい。

【宮岡委員】  数学会では去年から、「ジャーナリスト・イン・レジデンス」という試みを始めたんです。まだ成果は出てないので、ここに載せられるようなことが言えるかどうか、まだ分かっていませんが、いろんな大学に、1週間ぐらいから、長いときは1か月半ぐらいまで、新聞記者だとか、雑誌の記者だとか、ジャーナリストの方に滞在していただいて、今のところは見てもらう段階で、まだ記事にはなってないんですけれども、将来、それが記事になれば、役に立つかもしれないと思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。

 今の宮岡先生のお話ですが、九州大学にも最初からずっと来ていただいて、最初の年はかなりの教員が、一生懸命、自分の数学の話をするということで、そうなってくると目の輝きが違うんだというふうなことをおっしゃっていましたが、新聞記者の方からすると、非常に不思議なところに入ったという印象を最初の年はお持ちになったようです。

 さて、ちょっと情報の発信とは違うんですけど、先ほど西浦先生が御紹介されたドイツ数学年がありましたけれども、あれは、最初に私が知ったときは、数学ですから、数学だけ特別に数学年があったのかなというふうに思ったんですが、そうではないんでしょうか。ほかに、物理年があったりするのでしょうか。

【事務局】  2000年代に入って、隔年ぐらいで、物理とか、化学とか、ドイツはずっとやってきていて、その中で数学も終わりの方にやって、ウェブとかで見ると、数学が一番成功したんだというふうには書いてありましたけれども、インパクトは大きかったというふうに聞いております。

【若山主査】  出発点がもしかすると低かったので、ぐっと上がったのかもしれないですけど。

【西浦委員】  ヨーロッパの強いところは、物理だったら、アインシュタインにしろ、何にしろ、すごく一般の人に訴えかける、過去のそういう人物をたくさん抱えているんですね。数学ももちろん抱えている。物理年だと、アインシュタインをはじめとして。そこら辺は、宣伝する側から言うと、非常にやりやすいというか、訴えかけやすいというのがあって、日本もうまく、数学、コアとか、そういうのも良いのかもしれないし、知ってもらうという意味も含めて、結構偉大な数学者がいましたよと、そういうのをやるのもいいのかなと。やっぱり人が出ると、何だか知らないけど、普通の人も何となく興味を持つという部分があるので。

【宮岡委員】  そういう点で言うと、2015年は、伊藤清、小平邦彦、その辺の生誕100年ということで、いいのかもしれないです。

【西浦委員】  今年はアラン・チューリングが生誕100年で、彼はマルチファセットなのでヨーロッパはいろいろな催しが出ていますけど、そういうのをいろいろ企画していくのも非常に意味があるというふうに感じますね。

【若山主査】  そうですね。ほかにございませんでしょうか。

 ちょっとここから離れるんですけれども、私、先日、経済産業省の方とお話をしていて、ある資料を見せてくださいました。日本の産学連携が組織的に本格的に行われるようになって、まだ十数年しかたっていないと。それは、工学部を中心として、農学部、ほかもあります。本格的なのは十数年だと。それは文部科学省の方でも産学連携というものを価値あるものだというふうにお考えになって進んできたということが背景にあると思われますが、グラフを見ると産学連携の成果がうなぎ登りにずっと上がっているんですけど、ここ数年はちょっと飽和状態になっていて、今まで急激に伸びていたのが、伸びてないんですね。それは、私が分析したのではなくて、経済産業省の方が御自分の考えだというふうにおっしゃっていましたけれども、大学にあったいろんな知というか、そういうものが、それまでは余り出てなかったので、産学連携をやったとたんにある程度そこからさっと出てきたというのがこの10年間であったのではないかと。しかし、ある程度、簡単にという言い方は変ですけれども、出てきたので、今や少し根源的なところから考えないと産学連携もいけないのではないかというふうなコメントをしておられまして、私はもちろんそのときに、それは数学が大きく関与するんだというふうに反応してまいりましたが、そういう資料があるということを御紹介しておきたいと思います。

 さて、もう少し時間がございますので、引き続き、御意見、コメント等下さいますと有り難いと思います。

 粟辻さん、中間報告書案の参考資料についてはどういうふうにお考えなのか。

【粟辻融合領域研究推進官】  今、資料7で付けていますものの、参考資料として想定しているのは、21ページですけれども、参考1がモデリングの関係の模式図で、参考2が諸外国における近年の動向、資料3が研究成果の水平展開、あるいは思わぬ応用への広がりの事例、参考4は、ノウハウの関係をちょっと整理したいというのが当初の目標の一つでもございましたので、昨年度1年間やらせていただいたワークショップの経験を基に、そういったものの企画運営に必要な手法とかノウハウを抽出して整理したものを参考4として付けております。それから、29ページに参考5がありまして、これは知的財産権に関する具体的な問題点の例ということで、これまで本文にあったものをこちらの方に移しております。それから、まだ付けていませんけれども、大学あるいは統数研等をはじめとする組織の先行事例のようなものは、本日お配りした表のようなものを参考資料として添付しようと思っています。それから、30ページからの別表というのは、数学の活用で具体的にどんな研究テーマがあるんだというものも整理するというのが当初目指していたことの一つですので、これもまだ不十分ですけれども、昨年度1年間開催したワークショップの成果から抽出された今後必要な研究課題を幾つかの分類に整理しています。35ページのところにあります絵は、具体的に数学によってどんな研究の例とか成果の例があるんだというものを分かりやすく図示して示す必要があるかなと思いまして、これはもう少し改善する必要があると思いますけれども、例えばこのような、数学の力を示す事例で、かつ分かりやすいものを幾つか例示として示す必要があるというふうに思っております。

 ですから、どういう研究課題があるのかということと、それから、諸科学とか産業との連携に当たってどんなノウハウが必要なのかということを一応参考資料として添付して、あと、それに関連する外国の情報とか、あるいは水平展開の事例などを参考として後ろに添付する、そういう整理でございます。ですから、本日お配りしたものにプラスで、本日、資料4としてお配りしたものを何らかの形で添付してはどうかみたいな、そんなイメージで今のところ考えております。何かほかにも、というものがございましたら、御指摘いただければと思います。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 せっかく参考資料1として付けていただいています「ビッグデータ時代におけるアカデミアの挑戦」ということで、今日は委員のお一人である北川先生もおいでになっておられますし、数学に関わることも満載されているかと思うんですけど、その辺りのこともちょっと、御説明とか何か頂けましたら。

【下間情報課長】  北川委員から補足を頂ければ有り難いですが、目次を見ていただきますと、「ビッグデータ時代におけるアカデミアの挑戦」ということで、本年4月以降、アカデミッククラウドに関する検討会において、デジタルデータが爆発的に増大するビッグデータという時代が到来する中で、そういうデータから新たな知というものをどのように創出していくのかという観点から御検討賜りました。1ページのところは、そうした検討の背景としての、データ科学を第四の科学的手法として、新たな方法論として考えていくということでございます。その中でこうしたビッグデータというものについて我が国の研究開発をどのように進めていくのかという事項を整理いただくということで、3ページ以降ですが、そうしたビッグデータ時代におけるアカデミアの役割として、データ科学の高度化に関する研究開発やそうした大きなデータを扱うということになれば当然クラウド的な環境ということが想定されるわけでございます。民間企業等でも当然様々なクラウド環境を構築しているわけではございますが、様々なデータの守秘というようなこともございまして、必ずしも企業間を越えてクラウド環境を構築するというようなことは進んでおりません。そのため、アカデミアにおいて大学等の研究者や研究機関が利用できるようなクラウド環境を構築していくということに意義があるということでございます。そうした中でこういうビッグデータを活用しながらどうモデル開発を進めていくかということなどについて、おまとめいただきました。

 いずれにしましても、本委員会との接続という観点におきましては、こうした全く異なる構造を持った大きなデータ、あるいは非構造化データというものをつないでいくためには、画期的な新たな最適化のための知見というものが必要になるわけでございます。統計数理的な分野ももちろんでございますが、情報科学技術分野の先生方と数学の分野の先生方がこれまで以上に、あるいはこれまでのような連携を更に超越するような連携をし、画期的な取組を頂くことによって、こうした宝の山と言われているビッグデータの中から、現実的にはどういうものが生まれてくるか、まだまだ明らかでないわけでございますが、新たな知見というものが創出され、それがひいては我が国の科学技術の新たなイノベーションの創出や、実用化につながり、産業の国際的競争力の向上というようなことに貢献できればということで、おまとめいただいたものでございます。

 非常に拙いまとめでございますので、北川先生、よろしくお願いいたします。

【北川委員】  いやいや、適切に表現していただいたと思います。研究環境基盤部会でも申し上げたんですが、やはり世の中に大規模なデータ、大量というよりも大規模が本質的なんですが、大量なデータが出ていて、それが、学術研究の在り方、あるいは社会自体を変える時代になっております。大規模データの処理は単なる高速化では対応できないので、数学や数理科学も、新しい科学的方法論、新しいアプローチ、新しいモデリングの提案で貢献をすることによって、新しい社会、新しい学術の在り方を変えていけるんじゃないかと思います。そういう意味で、数学に期待されているところは大きいんじゃないかと思います。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 今日、せっかくIBMから井手部長がおいでくださっていますので、非常に深く関係するところもあるかと思いますが、何か、御意見がありましたら、よろしくお願いします。

【井手部長】  企業としては、ポスドクやドクターの学生の採用に関して、ちょっと責任があるところがあると思うんですね。伝統的に日本企業が博士の学生を敬遠してきたということがあると思うんですけれども、最近の動きを見ていると、今、日本の市場が収縮傾向にある中で、やっぱり日本企業も外に出て行かざるを得ないと。そうすると、人を見る基準というのも、グローバルスタンダード、結局はアメリカンスタンダードになるわけですけど、博士号を持つということが能力の証しであるというような方向には行かざるを得ないと思うんですね。そうなると、長期的に見たら数理的な専門知識を持つ人間の市場価値というのは上がる傾向にあるだろうというふうに私は思っているので、今はなかなか就職できないところはあると思うんですけど、弊社のような国際企業の中では、少なくとも私の研究所ですと、博士号を取ってないと逆に、説明が求められるというんでしょうか、何かそういうような感じになっているというのが、一つですね。

 あと、そういう採用に関してちょっと、私たちから見て、どういうふうに人を見るかというと、ある程度の出会いの場というのがないと、学会ということですけど、なかなかお互いに難しいのかなと思います。純粋数学系の学会で良い成果を上げていても、専門知識がないとその良さが分からなかったりするので、学際的な雰囲気を持つような学会で、パブリケーションとかがあるといいかなというところはありますね。私自身は機械学習という分野の学会に出入りしたりしているんですけど、そういうところにいる学生だと、比較的距離が近く感じるかなということが、一つあります。

 最後に、3点目としては、先ほどフラウンホーファーの事例で中小企業とのコラボレーションが重要であるというようなことをおっしゃったと思うんですけれども、それは私も同感でして、会社の立場を離れて個人的な意見を述べさせていただきますと、弊社もそうなんですが、大企業とコラボレーションをするとき、やっぱり知財的なところで交渉の余地無しみたいな感じになることが多いんですね。その辺、中小企業はクイックにいろんなことを試せますし、あとロングテールにということで数も多いですし、そういうところとのコラボレーションがうまく進むような、先ほど聞いたフラウンホーファーのモデルというのを日本でも試すというのは、非常に良いかなというふうに思います。

 その3点ほど、コメントさせていただきました。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 さて、時間も過ぎてまいりましたが、この時点で最後に御意見等ございましたら頂戴しておきたいんですけれども。

【宮岡委員】  今の、中小企業に手を広げていくとなると本当に、リエゾンオフィサーというか、つなぐ人が絶対必要なので、それをどこかに明示的に、かなり強く盛り込んだ方が良いという気がします。

【若山主査】  そうですね。分かりました。

 ほかにはございませんでしょうか。

 それでは、本日頂戴しました内容を踏まえまして、「数学イノベーション戦略」の中間報告案を修正させていただきたいと思います。中間報告案の取りまとめにつきましては、私、主査の方に御一任いただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 なお、これは8月7日開催予定の先端基盤研究部会で審議していただく予定でおります。また、その後は、関係学協会や産業界等の御意見を頂きまして、更に具体的な推進方策についての議論を本委員会でも深め、年内をめどに最終報告を取りまとめていきたいというふうに考えております。なお、議論すべき項目等につきましては、追って皆様の方に御相談させていただきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 それでは、最後に事務局の方から、御連絡等をお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】  次回の日程等につきましては、追って御連絡させていただきたいと思います。

 また、本日は中間報告案の取りまとめということで審議に一区切りが付きましたので、審議官の森本の方から最後に一言御挨拶申し上げます。

【森本研究振興局審議官】  委員の先生方におかれましては、1年間にわたりまして御審議を精力的に頂きまして、本当にありがとうございました。ようやく中間取りまとめということでまとめていただきまして、予算要求に間に合ったということで、ほっとしております。

 先ほどちょっと御議論ございましたとおり、今の日本の閉塞感というのをどうやって打ち破っていくかという中で、やはり物事の本質を見抜く力という、そういう数学が持っている本質的なアプローチ、こういったものに対する期待というのが非常に高まっているんじゃないかということで、やっぱり、原点に立ち返って新たなアプローチを試してみると、こういうことがなければ新たな展望が開けないと、そういう時代になっているのではないかと思います。

 その中で、これまで何度もヒアリングとか、様々な活動を通じて、現場で直面しておられる課題、これが大分明らかになってきたと思いますし、それから、モデルケースといいますか、模範となるアプローチというものもかなり収集できたのではないかなと思っております。

 それで、これからですけれども、先ほどのドイツのYear of Mathematicsみたいに、これを国民的運動につなげていくにはどうしたらいいかということが、一つ課題としてあるのかなと。すなわち、忘れられた科学から社会に貢献する科学に脱皮して、それを国民が認知をしていただけると、こういう状態に持っていきたいわけですけれども、それをするにはどういう方策があり得るのかというのを是非、学協会の皆様とも一緒に考えていきたいというふうに思っております。そういう意味で、この中間報告を取りまとめていただきましたが、これからさらに、それをより大きな活動の輪に広げていくためのマイルストーンというものを明らかにできれば有り難いなというふうに思っております。

 それから、先ほどのビッグデータに関しましても、これは一つ、文科省だけじゃなくて、経産省あるいは総務省とも連携をして取り組んでいきたいと思っている大きな課題でございます。その中に是非、数理的なアプローチ、情報工学の皆様と一緒になって、御意見を頂き、そして参画を頂きたいというふうに思っております。その中から社会的な課題の解決というものが道筋として見えてくると思いますし、人材の育成という意味でも非常に良い場になるのではないかというふうに考えています。

 そういう意味で、今回、一区切りではございますが、今後ともこの委員会を通じまして更に御意見を賜りまして、数学イノベーションというものの一つの大きな流れを作っていければと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。

【若山主査】  ありがとうございます。

 それでは、本日の数学イノベーション委員会はこれにて閉会させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

お問合せ先

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電話番号:03-5253-4111(内線4120)