数学イノベーション委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成24年5月28日(月曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力に必要な方策について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、青木委員、安生委員、大島委員、北川委員、小谷委員、中川委員、宮岡委員

文部科学省

土屋科学技術・学術政策局長、森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、菱山振興企画課長、安藤基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

北海道大学電子科学研究所 津田一郎 教授

5.議事録

【若山主査】 それでは、定刻になりましたので、数学イノベーション委員会第7回を開催させていただきたく思います。本日は御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。

 本日は杉原委員、西浦委員から御欠席との御連絡を頂いております。

 それでは、本日の議事を進めるに当たり、事務局より配付資料の確認をさせていただきたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より配付資料の確認があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。よろしいでしょうか。

 それでは、議題1といたしまして、「数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力に必要な方策について」ということで、前回までも諸科学分野における先生や、本委員会の委員の先生方、あるいは、産業界の方々から御意見をお伺いしてまいりました。

 今回は北海道大学電子科学研究所の津田一郎先生に「数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力に必要な方策など」について御発表いただきたいと思います。20分程度でお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。

【津田教授】 御紹介いただきました津田です。よろしくお願いいたします。

 ちょっと学会発表と違うので、なかなかどういうふうにまとめて発表したらいいかというのが余りよく分かっていないんですけれども、特にこういう政策に関係するところで話をするのは多分3回目ぐらいなので、ちょっとうまく言いたいことが伝わらないかもしれませんけれども、あとの質疑応答の方でむしろ質問していただいて、答える方が簡単かなと思いますので、よろしくお願いいたします。

 資料をお配りしていますけれども、資料はほとんどこのスライドと同じなので、どちらを見ていただいても結構です。

 まず、これはどういうふうにまとめたかというと、文科省の方から頂いたテーマに沿って私が答えたという感じでまとめていますので、その課題が1番から何番かまであります。

 まず最初が、数学者と他分野研究者との意識のギャップの克服法についてということなんですが、これは非常に難しくて、意識のギャップがあるのはもう当然なんですけれども、だから、克服するとか、そういうことではなくて、まず相手をやはり尊敬するということ以外にないような気が私はしています。その意味で、やはりお互いプロですので、面白いと思えれば確実に相互作用が起こるというふうに考えていまして、しかし、そうは言っても、それだけだとどうしたらいいのかということなんですけれども、ちょっと抽象的ですけれども、私はいつも頭に置いているのは、化学反応です。化学反応というのは何で起こるかというと、異なる分子がexcited stateにあれば化学反応が起こって、新しい分子が生まれるということなので、これが一つのそれぞれの異なる分野の人たちがexcited stateにあれば、化学反応は当然起こるというふうに考えているわけです。

 しかし、そこに反応を促進するにはenzymeが必要で、enzymeがあれば反応速度は上がりますので、恐らく何かしなきゃいけないとすると、こういうenzyme的な人をいかにうまく配置するか、あるいは、そういう人材を育成するかということに尽きるのではないかというふうに思っています。ですから、触媒と自己組織というのが一つ重要な概念だろうと思っています。

 それから、2番目の(数学が役立つような)課題の発掘方法ということなんですけれども、これは難しいんですが、ニーズということをよく言われるわけですけれども、ここであえて議論を喚起するために、多分反論のある言い方をした方がいいかなと思いまして、ニーズ志向ではない方がいいのではないかと。特に数学的な思考とニーズ志向というのは合わないのではないかということを申し上げたいと思います。

 むしろ一般の人々が何を望んでいるか、wantとneedsというのは同じような意味なんですけれども、むしろwishと言った方がいいかもしれませんが、要するに、望んでいることは何かということを考えることによって、新しい学問分野というのは出てくる可能性があるというふうに思っています。ニーズがあって何かやるというのは割と短期的、うまくいけばそこから非常にブレークスルーというのが起こる可能性はあるんですけれども、どっちかと言うともう既に課題が分かっているわけですから、それに合わせるという形の思考方法になるわけで、したがって、非常に短期的な問題解決になりがちだと思います。

 それに対して、wishとかwantとかというのは、人の潜在能力というか、潜在的な欲求を満たす課題を見付けるということなんで、もっと難しいわけですけれども、前例がないわけではありません。例えば、ここにこれはウィキペディアから抜粋してきたんですが、インターネットの例を考えてみますと、インターネットというのはいろいろな誤解もあって、この最後に書いてありますタイム誌でインターネットは核攻撃下でのコミュニケーションの生き残りを想定して開発されたという、何かある種、目的志向的な記事があるんですが、これは実際に立ち上げた責任者の一人であるテイラーという人は、これは事実と違うということを言っております。むしろインターネットというのは、人々が当時出発点はARPANETというもので、したがってタイムシェアリングなシステムをどうやって作るかという問題意識があったのは事実ですが、ワールド・ワイド・ウェブへと発展するきっかけというのは、要するに、人々がどうつながると満足感が得られるかと、人と人がどういうふうにつながる、あるいは、情報と情報がどういうふうにうまくコネクトすると人々が満足するかと、そういうことを考えて作られた可能性があるわけです。

 ですから、何か大きな課題があって、それを解決しよういうことよりは、むしろ人々の潜在的欲求を掘り起こしたという意味でインターネットのような例は割と数学的な志向に合うのではないかというふうに思っています。wishですね。

 ですから、シーズ探索をいかにして行うかという方法をやはり考える必要があって、究極においては、これはやはり人間の創造性とかいう問題に関係していくわけで、したがって、そのdeduction/induction/abductionという、こういうことをもう一度考え直す必要があるのではないかというふうに思っています。

 3番目は、外部からの相談の受付・処理方法なんですが、これは実際私たちが具体的に行ったことを基にして言うのが一番いいと思いまして、北大の数学の21世紀COEで、先端研究機能という部門で行ったことを紹介します。これは北大内に限ったわけですけれども、いろいろな分野の先生たちがそれぞれの先端的な研究を行っていて、何か数学的な問題で困っていることがあればメールで寄こしてほしいということを言いまして、学内に宣伝したわけです。そうすると、数はそんなに多くないんですが、5年で17件ほど質問がありまして、そのうち10件程度は余り難しい問題ではないというか、私がメールを読んで内容を把握できる限りにおいてはすぐに答えられるという程度のものだったので、メールで処理したんですけれども、残りの半分ほどはやはり難しい問題でした。

 それで、何をやったかというと、数学教室でセミナーを開いて、その質問者を呼んできまして、セミナーをしてもらって、その問題に適当と思われる数学教室の数学者を私が選んで、そういう人たちには必ず出席してくれと、ほかの方は任意でよろしい、大学院生はできるだけ興味があれば出席してほしいという言い方をして、セミナーを開いたわけです。大学院生も大体数名から10名ぐらい毎回出席していまして、一応その分野と関係ないなと思える先生たちも集まってきてくれまして、割と良かった。

 結果については、これは先にお見せした方がいいかもしれないです。北大の過去の試みというのがありますので、その後ろに先端研究機能の主な成果というのがあります。こういった成果が一応上がりました。

 代表的なものをピックアップしますと、ある工学の先生は、材料物性の方なんだけれども、何かいろいろな形、幾何(きか)学的な面白い構造を取るような物質を作ることができると、当時ナノテクノロジーが非常に発展していく段階でもありましたので、いろいろなナノレベルでいろいろな形の物質を作ることができて、どうも物性的に面白いものがあるんだけれども、その形がよく分からないというので、数学的にそれはどういうものですかという質問がありまして、幾何(きか)の先生が付いてそれに答えました。そのことによってこの方は新しいCOEを獲得することができて、このCOEに数学教室の幾何(きか)の先生が一人PIとして入られたということで、これは3年ぐらいたってから成果が上がったというわけです。これは学内の異分野交流という意味では実績が、というか、効果があったと思います。

 それから、これは非常に良かったんですけれども、医学部の先生が、二次元平面上の触媒反応について研究されていて、自分がやっている実験がどうも今まで信じられている理論と合わないと。その理論というのは化学の方で定着されていた理論らしいんですけれども、それと合わないということで、何かおかしいんじゃないかと、その理論を検討してほしいということで質問に来られました。これは北大数学の偏微分をやっているある先生が非常に興味を持たれて、共同研究を開始しまして、実際その二次元面上の触媒反応の数学的な理論を作られて、そうすると、それは従来の理論を、何というか、スーパーシードしたというか、従来の理論よりも更にいい理論になりまして、実際この医学部の先生の実験を説明することもできたということで、共著論文を書かれまして、医学系の雑誌に出されました。数学者は医学系の雑誌に出しても余り数学の方では評価されないのでどうかなとは思ったんですが、でも、その先生はそういうことをやってくださいました。

 それから、あとは、いろいろなちょっと失敗例もあって、これは生物の、何というか、高分子の先生なんですけれども、非常に難しい反応で、しかも、それが分子の形、高分子ですから巨大分子なんですけれども、その形が非常に関係しているという難しい問題で、それを数学的に解いてくれという要求でした。これは数学教室の先生が熱心にポスドクなども参加させてやっていただいたんですが、ちょっと難し過ぎて、結局途中でこれは断念してしまいました。

 それから、法学の先生からの質問もあったりして、これは1票の格差じゃないですけれども、今の選挙方法はおかしいんじゃないかということを言われて、御自分の理論を作って、それを式で表現してみたいということでした。その式が正しいかどうか検証してくれということで、確率論の先生が相手されまして、その式の表現自体は必ずしも理論を表現していないようだということで、じゃあというんで、少し考えてみようということで、修士課程の学生のテーマにして修士論文として学術論文になった。

 次に、これはCOE担当者と修士学生が共同研究のためにいろいろやっていたんです。これは実は西浦先生のところの話なんですけれども、数学的な部分、実は粘菌という生物がいるわけですけれども、その粘菌の行動というのが非常に興味を持たれていまして、昔からいろいろな問題があるというのは分かっているんですけれども、一体粘菌の何がそんなに面白いのかということが余りよく分かっていなくて、そこに情報の問題があるということで研究された。粘菌はある意味原始的な生物ですから、好きなものがあれば近寄っていくし、嫌いなものがあれば離れていく。大体塩とかそういう、あるいは、KClとか、そういうものを置いておくと離れていくんですが、砂糖を置いておくと近づいていく。そうすると、例えば、両方に砂糖を置いておいて、真ん中にKClのような苦いものを置いておいて、その上に粘菌をこう乗っけると粘菌はどうしますかと。そうすると、条件によって違うんですが、体を二つに分けて両方に行くという解を出す場合もあるし、ですから、余り粘菌の大きさが広くないとどっちかを選択する。これは確率的なんですけれども、どっちかを選択する。じゃあ、円管にしていたらどれだけ分かれるかと、いろいろいじめて、面白い結果は一杯出ているんですが、その本質的なところはよく分かっていないと。何でそんな情報処理ができるのか。実は円管にすると三つに分かれるんですけれども、なぜ3なのかとか、そういうのが余りよく分かっていないんです。

 最終的にはネットワークの問題になるんで、それで数学の西浦さんのところに来た学生さんが随分頑張って、数学的なモデルを作って、粘菌の研究者と数学者が共同研究をした。結果は目覚ましく、いろいろなことが解明されて、粘菌は知的だと。どういう意味で知的かも分かってきた。それで、この共同研究グループはイグノーベル賞を2回取りました。イグノーベル賞というのは何か面白ければいいというふうに思われているかもしれないけれども、実はそうではなくて、結構審査員も実際のノーベル賞をもらった人たちが何人も入っていますし、確かに意表を突くようなものに対して与えられるんですけれども、この研究はかなり本質的な研究であったと思います。

 余り詳しく言っている時間がないので、先端研究機能の成果というのは、まず、これはちょっと古いんですが、18年の段階で14件、全部で17件、最終的には17件です。内訳はこういう感じで、やはり工学系が多いです。生命系も当然多いですが、生命系、材料系といったところが多かったですね。

 言いたいことは次のことでして、何が良かったかということなんですが、双方にとってこれはかなり良かったと思います。北大内という小さい規模でやっていたことで、お互い常に交流ができたということもあるんですけれども、数学者との討論でその質問してきた人たちの問題の論理構造が非常に明確になって、質問者が非常に自信を持って次の研究に踏み出すことができたと。これは御本人たちがそうおっしゃっています。

 それから、これは正にそうなんですが、要するに、正確な数学の用語をちゃんと用いるということによって、数学以外の分野でも論述に確信が持てる、あるいは、信頼性がより高まるということで、非常に感謝された。

 それから、数学の若手人財育成にも、先ほどのように院生を参加させてやっていましたし、先生たちもその院生に問題を与えてやってみなさいということで、うまくいった例が複数あります。

 それから、実際共同研究に進んで成果を上げるということもあると。次にここが一番難しいんですけれども、数学の新しい問題の発掘、これは実はそんなにできているわけじゃなくて、ただ、可能性としてその生物と数学というのはもともとそんなに相性が良くないんですけれども、生物の数学、何というか、数式を書くというところまではできるんだけれども、本当に生物の数学というのができるのかと。物理と数学のように非常に車の両輪のような形でやっていけるかどうかはまだよく分かりませんけれども、そういうことの一つのきっかけ、分野を発展させるためのきっかけにはなったんじゃないか。

 それから、医療数学といいますか、お医者さんたちの抱えている問題と数学というのは、先ほどの医学部の先生のは割と具体的な反応でしたけれども、今は北大内部では、がんを放射線治療する先生たちがいまして、医療の分野でも数学というのが非常に必要だというふうには言われています。

 それから、産業数学という、これは九大の方でやっておられるので、北大の方では余り産業との結び付きというのは出てこなかった。これは問題を北大内に限定したことによって、異なる数学以外の分野と数学との相互作用という形になったんですけれども、産業数学という部分もあると思います。

 それから、社会科学における数学というのも、これはもう経済は昔から非常に数学的な理論があるわけですけれども、もう少し広い意味で社会科学の中での数学ということもあるかなというふうに思いました。その選挙制度の問題なんていうのも、調べてみると大抵の選挙制度は実は数学者が作っているということが、何かそういうことが分かったりして面白かったです。

 それから、互いの分野の特徴を知ることになって、研究者としての幅が広がるということはあったと思います。

 ですから、ここから、もう今は言い古されていることかもしれませんが、数学を横糸とした諸科学の連携ということで、北大の中では、実は数学教室と電子科学研究所が、西浦先生がおられたということもあって、連携を強化した。実際、そのために私が数学教室から電子研に行ったということがあります。

 それで、ちょっと元に戻りますと、4番ですが、「議論の場」の設定・運営方法ですけれども、これは今ここで、3番で言いました責任者という、北大の場合は私がなりましたけれども、これはキュレーターとしての問題の本質を見抜いて、解決のための適切な数学者を選ぶという仕事なので、これはやはり片手間ではできない。私の場合は片手間でやっていましたけれども、これは北大内だけに限っていましたので、ある程度できる、件数もそんなに多くないので、ある程度はできるんですが、本格的にやろうとすると、やはり片手間ではできない仕事です。しかし、このキュレーターの仕事は非常に重要ですので、これは専任の人がやはりやらなきゃいけない。こういう人が本当にいるかという問題があると思います。

 それから、キュレーターの周りに、やはり一定人数の高いレベルの数学者がいる。しかも、それはいろいろな分野の数学者がいるということが重要です。更に遠くに何人もそういうネットワーク、数学者のネットワークがあって、今ですとインターネットなんかを活用するという、スカイプなんかを活用するということはあるかもしれません。

 それから、5番、議論の段階から具体的な共同研究へ移行させるために必要なことということですけれども、核心的な問題の発掘があれば、互いに全く別の問題があってもいいと思います。重要で面白い問題を研究しているという意識さえ共有できればやれると。共同研究まで発展させることはできると思います。

 それから、重要なことは、やはり大学院生とかポスドクのような若手研究者を巻き込んで、若手人材育成と一体としてやるということが重要かなと思います。もちろんこういう人たちをこういう新しい分野に巻き込んだときに、次の就職とか、そういう現実の問題がありますので、簡単にはいかないんですけれども、これはちょっと理想ですが、やはり若手が次に育ってこないとどうしようもないというふうに思います。

 それから、6番目、対外的な情報発信・宣伝方法ですけれども、これは対外的という意味が、ほかの研究者の場合であれば学会発表とか研究集会での発表で十分だと思います。

 それから、対外的が一般社会の場合は、これはサイエンスカフェのようなものも有効だろうと思います。これは我々の経験上なんですが、今北大とか東大、早稲田で試験的にサイエンスコミュニケーター養成というのが始まったというか、もう制度としては終わったわけですが、文科省の制度でこういうのがあって、その後、北大内では大学が新たに一つの大きなサイエンスコミュニケーター養成講座というのを作りまして、そこで副専攻じゃないですけれども、副専攻に近いような形で自分の、例えば、物理をやっている人間がこのサイエンスコミュニケーター養成講座も取るというような形で、将来仮に物理で飯が食えなくても、サイエンスコミュニケーターの方で飯を食うというような道を開こうとしています。これなんかを利用すると、広報活動なんかはすごく充実したものになるという経験を私自身しました。

 それから、高校生の数学教室はもちろんこういうのはいいし、高校生を相手にする、中高生を相手にするというのは、優秀な人たちが集まるとすごく楽しい、大学生を教えているより楽しいかもしれないというぐらい楽しいんですけれども、これは、ですから、かなり優秀な高校とか中学校を対象にしたものになると思います。

 それから、一般公開講座なんかは当然情報発信としては大事になってきます。

 それから、今は割とホームページでの宣伝ということで、一昔前はホームページのヒット数というのを上げるということで、ホームページにすごく自分たちがやっていることを宣伝していたわけですけれども、今はどうもホームページだけでは不十分で、ブログだとかツイッターというのが意外とやはり多くの人に読まれる可能性がありますので、そういったところでうまく発信するということも考えないといけないのかなというふうに思っています。これはまだ我々、私自身が踏み切れているわけじゃないんですけれども、そういう印象を今持っているところです。

 それから、人材育成ですけれども、これは一番難しくて、常に大学ではこれが一番難しくて、こちらが教えてほしいぐらいなんですけれども、しかし、一つ参考になることがあるなと思ったのは、JSTさきがけ西浦数学領域の運営の仕方というのが人材育成の参考にはなるだろうと思います。領域会議での総括、西浦さんとか、私もアドバイザーをやっていますけれども、アドバイザーたちと若い人たちの相互作用とか、それから、若い人たち同士のふだんのコミュニケーションを、こういう領域を作ることによって、若い人同士がかなり活発にコミュニケーションを取るということができています。自分たちで勉強会をやったり、問題検討会なんかをやったりしています。

 さらに、数学キャラバンといって、数学者が各地方に出かけていって、その地方の人たちと議論をして、どういうところに問題があるかと。数学的な問題解決ができるような問題があるかということも調査したりしているということで、こういう活動を通じて人材育成ができる可能性はあるかなと。

 それから、私自身の経験では、大学院生はポスドクを一定期間異なる研究室に滞在させることは非常に効果があると思っています。特に、理論系の学生を実験のところに二、三週間でも送り込んでみると、全く何か違う人間になって帰ってくるという経験をしていますので、ある意味で怖いんだけれども、うまくやればこういうのはもしかしたら機能するかもしれません。ただ、ずっと数学者としてやっていきたいと思っている人にこれをやると多分駄目なので、これはやはり最初から応用志向の人間を、数学に入ってきたけれども、応用の方に興味があるという人を対象にしているということではあると思います。

 それから、研究成果の取扱いの方法なんですが、これは先ほどの医学系の雑誌に載せたというように、共著論文を非数学系の雑誌に載せるというのはいいと思います。Applied math系の雑誌に載せるのはそんなに難しいことじゃないんですが、いわゆる非数学系の雑誌に載せるというのはそんなに簡単ではないので、こういうことも、数学そのものの成果にはなりませんけれども、学術全般を考えるときには数学者が他分野で論文を書くというのは非常に意味があると、今後意味をむしろ持つのではないかというふうに思っています。

 それから、特許に関しては、特許を取って意味がある場合とない場合があるので、これはやはり注意しないといけないと思います。当該特許が類似のほかの発明を触発することが予想される場合は意味があるわけですね。例えば、通信方式とか、エンジンの開発とかというのは、これはむしろ特許を取ることで競争して、より良いものを作っていくということで、特許を取ること自体に意味があると思いますけれども、何というか、先取権を取得するということだけではなく、同じような分野を発展させるために特許を取ること自体が意味を持つということはあると思いますが、意味がない場合もある。

 例えば、特許による束縛が類似の発明を阻害する場合があって、例えば、インターネット上での言語開発とか、texのような学術論文用言語の開発といったものは、特許を取っちゃうとむしろその新しいものが少しずつこう、その最初の核になる発明をコレクションしていかないといけないんですけれども、それができなくなっちゃうんです。

 ですから、やはり今我々がインターネット上で何かいろいろな言語を開発していくという、大事なところでWikiとか、そういうのが大事になっていますけれども、そういうものは特許には似合わないので、この辺りの取扱いは注意しないといけませんし、今年実はうちで初めて数学科の学生で、言語開発でドクターを取った学生が出ました。これはWiki、インターネット上でのいろいろな言語を自由に書けるための言語ですけれども、そこで使われる新しい言語を開発しました。しかし、やはりそういうのは特許の対象ではなくて、いわゆる学術論文の対象にしかならないと思います。この辺りがこういう研究成果の取扱いの方法としては重要かなと思います。

 そのほかですが、ちょっとこれは思い付きで、数学が歴史上どういうところに貢献したかということを思い付くまま書いてみたんで、一杯抜けているところはあると思います。まず、幾何学と測量、これは当然、これは古い話です。それから、解析学と力学というのは、これも古い話ですけれども、NP完全問題だとか、それから、ゲーム理論と経済学、認知科学、それから、コンピューターの概念の発見とコンピューターの発明も、これは数学者が行ったことだし、それから、群と結晶学、準結晶の存在、こういったものも数学者が行ったわけですね。それから、DNA解析も正にアメリカなんかで発達した、10年以上前に一挙にヒトゲノムがあるレベルまで読めるようになったというのも、実はこれは数学者がやったことです。それから、天体の三体問題。それから、CTスキャンの原理ですね。要するに、これはラドン変換ですけれども、これも実際やったのは物理学者ですけれども、CTスキャンを作ったのは物理学者ですけれども、その原理のところは実は数学の原理が使われていると、ラドン変換が使われていると。それから、ウェーブレット解析とヒルベルト変換というのは、もう今や生物の時系列解析になくてはならないものになっています。こういったものも数学、それから、暗号も最近更に研究が進展していますが、数学者が参加している。それから、カオス理論とフラクタルも当然これは数学、物理の方では実験がどんどん出ていましたけれども、私の同時代的には物理にはカオス理論というのはなくて、カオス現象を発見したという実験の論文は山のように出てきたわけですけれども、理論をずっと探っていくと、結局数学者が1950年代、60年代にやっていた数学の定理がむしろ当てはまるというようなことになって、一挙に発展したわけです。フラクタルはマンデルブロですけれども、いろいろな複雑な現象をフラクタルという概念で統一的に扱うと、幾何学的に扱うということをやっているわけですね。それから、先ほど言いましたけれども、インターネット、それから、携帯電話の通信方式などにも数学が使われているということです。

 最後にちょっと、先ほど言いました創造性ということに関して言うと、これはパースの理論ですが、仮説生成のところはabductionと言っています。ここが一番難しい。要するに、仮説から結果を出すのはdeductionで、結果から法則を導くのがinductionですけれども、この仮説を作るという、ここの能力の開発がやはり創造性には重要なので、人材育成といったときには結局ここの能力の開発以外ないというふうに私は思っています。

 最後に、ゲルファンドの言葉ですけれども、「Mathematics is an adequate language」という、これは京都賞のときに彼が言ったことを抜き出したわけですが、いろいろな分野にとって数学というのはadequate languageだと、要するに、一つのlanguageなんですけれども、特にadequate languageだということを言ったという、これが非常に大きいことだと思います。

 ゲルファンドと並べて書くのもちょっと不遜なんですが、私はずっと脳科学と関係を持ってやっているもんですから、脳科学をやっていて思ったことを以下に書きました。これは数学というのはどういうものかと言うと、実は人間のヒューマンマインドですね、人間の一つの表現というのが数学の中にあるという印象を、脳科学をやればやるほど私は深く、何というかこう、印象付けられています。

 ということで、余りまとまりのない話になりましたけれども、御質問にお答えする形でもう少しまとまった話になればと思います。ありがとうございました。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 それでは、皆様の方から何か御質問等ございましたら、時間も少し押しておりますので、10分か15分ぐらい時間を取りまして御議論いただければと思いますが、どなたかございませんでしょうか。

【青木委員】  よろしいですか。大変勉強になるお話どうもありがとうございました。

 広報活動のところで、サイエンスコミュニケーターの勉強をしている学生さんたちなどを活用するという広報活動が有効にいくというお話だったんですけれども、具体的にどのように活用されるんですか。

【津田教授】  私は実はサイエンスカフェを一昨年やったんですけれども、札幌でやったんですが、そのときに、いろいろなことのまずセットアップをしてくれたのがその北大のサイエンスコミュニケーターの人たちなんですね。彼らが担当してくれまして、場所の設定、それから、実際にサイエンスカフェを行うまでに四、五回会いまして、まず、私が何を話したいかということを言って、それを彼らは理解する。彼らは理解できる。そういうトレーニングを受けているので、一応専門的なことを言っても、向こうが一杯質問してきて、答えているうちに彼らはそれなりに理解する。理解したことを基にして、彼らがいろいろなツールを使って札幌市民に広報するんですよ。うわーっと。何でしたっけ、何かそれこそインターネットを使ったり、ラジオの一種ですね、ラジオのようなものを使ったりして、常に、例えば、彼らのホームページに行くと、そこに私とのやり取りが載っているとか、そういういろいろなツールを使って札幌市民に広報してくれて、何月何日にこういう先生がこういうところで話をします、こういう話ですということで、どんどん興味を持たせるようにしてくれる。そこで実際当日行ってみると、一杯人がやはり集まってきていまして、それで、非常に質疑応答も、彼らが全部制御してやってくれました。

 良かったのは、当然その1時間程度の間で質疑応答は完璧にいかないので、私の話に対して疑問に思ったことを、全部質問票というか、簡単なメモ用紙を彼らが聴衆に配って、書いてもらったと。それ、僕は気が付かなかったんですけれども、後で送ってくれまして、そうすると、全部で100問近くあったんです。それを50問ぐらいにまとめて、それに対して僕が答えると。答えたものをもう1回インターネットに載せると。そういうことまで全部やってくれる。数箇月間二人の人間が付いてくれたんです。実際はもう10人ぐらいいるんですが、直接私に付いたのは二人で、この二人が相当勉強していました。だから、何箇月かたつと、私の話した脳とカオスに関して、初めはカオスも分からない、脳と言ったって広過ぎるから何のことか分からないと言っていたのが、かなり数学的なレベルまで分かるようになった。そんな難しいことは分からないんですけれども。

【青木委員】  それは本人たちにとっても何かこう、良いことなんですね。

【津田教授】  そうですね。だから、こういう人たちが育ってくれば、数学者のやっていることがやはり本当に分かるというのはなかなかいないとは思うんですけれども、ちょっと応用がかった話であれば、付いて来れる程度の人は育てられるんじゃないかな。やはり純粋数学の難しい問題をトランスレートするというのは多分ほとんど不可能だと思うんですけれども、多少は、何というかこう、アプライド寄りの話であれば、彼らも取っかかりができるんだと思うんです。そうすると、僕の印象では相当のレベルまでは理解してくれるというふうには思いますね。

【青木委員】  どうもありがとうございました。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【北川委員】  お話の最初の頃に、enzymeが重要で、そのための人材育成が大事だというお話がありました。その後で、キュレーターとかいう話もありましたけれども、このenzymeとしての要件というか、どういう人材養成が必要かという御意見があればお聞かせください。

【津田教授】  まず、やはりenzymeになれるような人というのは、その人自身が多分自分の専門以外にいろいろなものに興味があるという、潜在的にいろいろなものに興味があるというタイプの人だと思いますね。

 余り個人名を挙げるとどうかとは思いますけれども、西浦さんなんかはある種のenzyme的な素養も併せ持っている人だと思います。同じ大学にいたこともありますので、見ていると、やはりいろいろな分野の人の話を聞こうとしますので、彼はもちろん自分の専門分野をがっちり持っているわけですけれども、それ以外の人の話も一生懸命聞こうとすると。他者への興味を持っている人というのはやはり必要なんですね。

 それはどういうところにあるかと言うと、例えば、西浦さんなんかに聞くと、元々いろいろなことに興味があったと、その中で数学に特化していったというので、元々そういういろいろなものに興味があるという質というのは、もしかしたら何か天賦のものなのかもしれないので、果たして教育でできるかどうか分からないんですが、まずは重要だと思います。特に対象が数学になると、こういう触媒というのがどの程度働けるか。ただ、Applied mathだと割とこういう触媒的な人というのはかなり働けると思います。一応数学の教育を受けた上で、数学以外の分野にもすごく興味があって、そういう他分野の専門家の話を一生懸命聞いて、それを自分なりに理解してというようなことができるんであれば、そういう人は触媒的な役割を果たす可能性はあると思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。

 ほかにございますか。

 小谷さん。

【小谷委員】  いろいろな共同研究が進んでいる例を、大変興味深く拝見しました。私の経験では、出会いの場を作るのは割と簡単で、いろいろな背景の人が集まり、ディスカッションも結構活発に行われます。きっとこれは何かうまくいくなと思うけれども、皆さんお忙しいこともあって、なかなかそこから本当に共同研究に時間を割くというふうに進まないことが多いのです。どうすれば、このように共同研究まで進んでいくのか教えていただけますでしょうか。

【津田教授】  難しいですけれども、だから、ふだん何もなくて本当に興味だけで共同研究へ進むというのはもう個人の、その研究者同士の問題に還元されちゃうと思うので、一般的な何か法則があるようには思えないです。

 ただ、見ていますと、いろいろなプロジェクトが今あります。よしあしですけれども、例えば、5年と切られちゃったりするので、短過ぎると余りよくないと私は思いますが、そういうプロジェクトがあると、ある程度の強制力が働いてくるんですね。このプロジェクトの中で全然違う人が相互作用するということになると、共同研究が生まれやすい。

 だから、何というか、本当は研究というのは自由にさせるというのが一番いいんですが、こういう類いの共同研究ということになると、ある程度の制約条件というのを課した方が共同研究は起こりやすいというふうに思います。

 ただ、問題はそのプロジェクトが常に5年ぐらいで終わっちゃうというのが問題で、やはりそれが10年続く、15年続くというふうになると、かなりの共同研究というのが実際に生まれてくるというような印象は持っています。

【小谷委員】  この後の発表の中で紹介させていただきますが、私の場合もちょうどタイミングよくCRESTがスタートしたので共同研究が進みました。具体的な共同研究がぼちぼち生まれてきているようですので、それらをまとめ、新しい研究領域開拓のプロジェクトがあると。特に若い方が関わられたときに、やりがいがあるのかなと思います。

【津田教授】  そうですね。だから、新しい領域がやはりできるためにはそういう何かある種プロジェクト的なものがあった方が効率はいいですね。だから、逆に言うと、そのプロジェクトを作るということが触媒になっているということはあると思うんですけれども、問題はそこで育った若い人たちが次にどこで職を得るのかという、それが余りきちんと描けていないと思うんですよね。だから、そこがやはり一番大きい問題だと思います。だから、そういう人たちが数学の中でちゃんと職を得られるのか、あるいは、数学者なんだけれども、よその分野に行って職を得るという、そういうキャリアパスがちゃんとできているのかということになると、まだ現状ではそんなにエスタブリッシュされていない。もちろん九州大学がそこをすごく努力されているわけだけれども、それは一つであって、もう少し他分野との相互作用との中で、他分野の中で職を得るというようなことがやはりやれないと、なかなか元気も出てこないですから、そういう問題はあると思っています。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

 今の件ですけれども、九州大学の場合は産業界ということでやってきています。ただこうした活動を始める以前とその後と少し違うのは、やはりインターンシップなんかに行った後、その企業に就職する人たちも出てきているわけですけれども、それ以外に、例えば、産総研にポストを得たり、それから、京大の化学研究所に職を得たり、そういうことに少しずつ、東大の医科研もそうですけれども、そういうところに目が行くようになってきているということがあります。

 ですから、逆も。いろいろな分野の先生方と共同研究をやったりする中で、数学を使うという意味では、産業も科学も区別がないところがたくさんありますので、こういう活動を徐々に増やし続けていくということで、行くところが出てくるんじゃないかというふうに個人的には思っています。

【津田教授】  やはり何かやらないと始まらないというか、やるとそれだけの効果はあるというふうには思いますので、特にこういう異分野間の連携とかということに関しては、なかなか日本はアメリカのような形ではいかないので、ある程度のそういうプロジェクト型というか、そういうものが触媒的になるのかなというふうには思います。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

 それでは、どうもお忙しいところ今日はありがとうございました。

【津田教授】  ありがとうございます。

【若山主査】  もし先生、お時間がよろしければ、このままいらっしゃってください。

【津田教授】  分かりました。

【若山主査】  それでは、次の議題に参りたいと思います。数学イノベーションに向けた今後の推進方策についてということですが、まず事務局より資料の説明をお願いしたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3-2-1について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 ただいまの説明に加えまして、せん越ですが、九州大学の取組について簡単に御紹介させていただきます。

 その後、小谷委員から東北大学の取組についても御紹介させていただきたいと思います。

 今日配付しておりませんところが、むしろ具体的で、皆様に参考にしていただけるかと思いますけれども、ちょっと個人情報とか、いろいろなことが入っておりますので、配付は控えさせていただきたいと思います。

 さて、これはマス・フォア・インダストリ研究所と、こう4部門ありまして、4部門というか、3部門ございまして、最近数学理論先端ソフトウェア開発室というのを設けました。数学のやはりソフトウェアライブラリ、あるいは、自分たちが研究した成果をソフトウェアにするということを目的に作ったものです。専任教員は3名ということです。この紙の方に26名の教員で構成となっていますが、発足した昨年度は23名だったんですけれども、大学からの措置及び別のことで大学内でのある種のシステム改革がありまして、そのシステム改革にのっとった形で教員ポストが一つ私たちのところに付いたということで3名増加している次第です。

 研究所と申しますが、そもそものこの研究所設立の動機は、研究面を除くと、専ら博士課程の人材育成ということを念頭に置いてずっとやってまいりました。このことを御理解ください。

 さて、その中で、二つ大きなことがございまして、一つは後ほど申し上げます博士課程の学生の三箇月以上の長期インターンシップ、要するに、研究インターンシップです。それと、このStudy Group Workshopというものなんですけれども、これはここにいらっしゃる方は御存じの方も多いかと思いますが、産業界、あるいは、諸科学分野の研究者の方に未解決問題を提出していただきまして、それを数学者、学生が、大学院生ですけれども、が聞きまして、そして、自分の興味のある、これですと7名の先生方がお話しされているわけですけれども、それに興味が湧けば、その翌日からグループを組んで、この講演者の方たちと一緒に研究を進めるという、そういうものです。1週間というか、実際には4日間やりまして、解決するということはほとんどないですけれども、解決の糸口であるとか、方向性であるとか、それから、問題の数学的定式化というのがなされていない場合もございますので、先ほどのwishの部分というか、その辺りのことも議論するということであります。

  私たちのスタディグループは、研究者というか、シニアな数学者というよりは、学位を取ってまだ間もない人とか、博士課程の学生をなるべく前に押し出すという形でやっております。

 これは2010年のものです。最初の年で、東京大学でさせていただきました。それから、2年目は電力問題もありましたが、少し途中でプログラミングをする時間も欲しいというふうな意見ももらっていましたので、昨年度は、今年もやりますけれども、最初に九州大学でやりまして、その後、土日を挟んだ翌週の月火と東京大学の方でさせていただくということです。

 ここにある会社からは、いろいろ個人のつてであるとか、あるいは、インターンシップとの関係でいろいろ知り合った方たち、それから、文部科学省の連携ワークショップなどで知り合った方たちに、現在では講師としてきていただいています。

 ただ、Study Groupの難しさは、研究者の方が、はい、分かりました、私がやりましょうと言われてからがなかなか大変なことがございます。企業の場合は、講演や課題の公開提供には決裁が必要ですので、ずっと決裁の判子が続くということがあります。企業のマネジャーの方たちは、いろいろな意味で御存じでない方も多いので、こんなことをしゃべったら駄目なんじゃないかということがあって、どんどん内容が狭まっていって、これじゃ何も話すことがなくなってしまうということもございます。そういうところをうまくやっていただくという御努力も要請しますし、それから、やっとうまくいきそうだと思ったら、6月になったらボスが代わったので振出しに戻るということもあります。そういう難しさが常にございます。

 さて、話が急に変わりますけれども、これは今までの長期のインターンシップの実績であります。大体その会社名が左側に書いてありまして、学生が専門とする、いわゆる自分の専門ですね、一応博士課程の学生ですのでそれなりに専門を持っておりますし、その専門分野で学位論文を書こうとしているわけです。それから、企業とのマッチングを行いまして、リサーチテーマというのが右にずっと並んでおります。この部分については、紙はばらまけないと申し上げましたけれども、何か情報としてどうしてもお知りになりたいということであれば、おっしゃってくだされば、ある程度個人的にお渡しすることができると思います。

 それから、これは2006年、2007年、2006年はどちらかと言うと関係教員が学生たちに是非行けと言って、ちょっと半分押し付けて行かせたようなところもありますけれども、先輩たちが行くようになりますと少し変わってくるということがございます。この中には、その後共著論文を書いた人とか、職をその場所で得た人、それから、別のところで得た人もございます。

 ここで少し減る年もありますが、また増えたりもします。2009年に減ったのはベンチャービジネスというか、新しい会社に行くということになっていたんですけれども、その会社自身が潰れてしまったということもございまして、急に2件ほど減りました。こういう感じで、年によって変わっておりますけれども、インターンシップは積極的に続けております。

 このインターンシップからむしろ新しい共同研究が生まれた例もたくさんございます。ここにちょっと書いておりますのは、2005年以前では、九州大学の数学では共同研究というのは全くなかったんですけれども、現在はこのように進んでいます。長期インターンシップより派生したものもありますし、それとは別のことで派生したこともあります。1年間の共同研究もあれば、2年間ということもございます。

 それから、研究所を立ち上げた後、いろいろなところから共同研究のお話が参りまして、その場合には大体開発関係の、企業の開発部の執行役員、それから、主幹研究員の方々、それから、担当の研究員の方々というふうに、大体3から5名の方たちが来られて、それで共同研究に至るまでに2回ぐらいは協議をしまして、共同研究に入っているということが現在では多いです。

 日本の場合、こういう数学との連携というのは少なかったんですけれども、逆に言うと、数学のイメージというのが非常に、来てくださる企業の方たちが意外と数学は時間がかかりますよね。ですから、1年となっていますけれども、3年目までは本当の結果が出なくても、何とか私たちの方でしますというふうなことで共同研究をしたいと申し出てくださる企業の方が増えてきたのは、非常に喜ばしいなというふうに考えております。

 これはインターンシップ後の博士号取得者の研究開発部門への就職で、一番下の朝日新聞というのは研究開発部門ではありませんので、ちょっと括弧をしておきました。このほか、産総研であるとか、国立の大学の数学以外の研究所に就職した者も3名ほど出てきております。それからこちらは、ポスドクもこういうところに就職しているということを示したものです。

 以上、簡単ですが、これで御紹介を終わりたいと思います。

 何かありましたら、最後に小谷先生のお話があった後にお願いします。

【小谷委員】  それじゃあ、始めさせていただきます。

【若山主査】  よろしくお願いいたします。

【小谷委員】  東北大学の小谷と申します。

 東北大学では数学と諸分野の連携に関して、2006年から様々な取組を行っています。今日はそれを駆け足で紹介させていただきたいと思います。

 左側は国内の動きです。数学者にとっては忘れられない報告書「忘れられた科学-数学」に始まる一連の文科省等の御支援のことを書いてございます。こちらは説明するまでもないと思いますが、それと連動いたしまして、東北大学では学内の数学者と学内外の諸分野研究者の出会いの場を作ることを始めました。現在動いている様々な取組の源が2006年にボランティアで集まって開始した「応用数学連携フォーラム」でございます。情報科学研究科の尾畑伸明さんがリーダーで、私がサブリーダーです。割と軽い出会いの場を作りましょうということで、定期的にワークショップを開催しています。後で詳しく説明いたします。

 そこで拾い出したニーズを具体的な共同研究につなげたのがその後に書いてあるCREST研究です。たまたまタイミングよくCRESTの研究提案が採択されましたので、私がリーダーで具体的な課題研究が始まりました。そして、CRESTの研究を拡張する形といいますか、むしろCRESTだけではなくて、応用数学連携フォーラムで見付かった様々なニーズ・シーズを研究領域の開発につなげようというのがその後に挙げました「重点戦略支援プログラム」です。これもたまたま東北大学が研究の重点コアを作るための支援を総長裁量経費で下さいまして、5年間のプロジェクトが始まりました。その後、数学連携室が情報科学研究科、それから、理学研究科の数学教室の下にそれぞれにできています。また、このような活動を続けてきた結果、どうも数学と他分野が関わるといろいろよいことがあるらしいという認知を学内で得まして、今度はWPI研究所の中に数学ユニットができました。これら全てを取りまとめるため、数学連携研究センターが24年度に発足いたしました。

 これらのそれぞれの活動についてこれから中身を紹介していきますが、数学に限らず、異分野融合研究、若しくは、領域開発をしていくために必要な要素をかなり網羅していると思っています。ただ、一つだけ欠けていることがあるので、そのことについて最後にお話ししたいと思います。

 応用数学連携フォーラムとは、先ほど申しましたように、元々ボランティアベースで始まって、数学を使いたい研究者と数学を使ってほしい数学者が集まって、様々なワークショップを続けてきました。全学の多数の部局からメンバーに加わり、なかなか興味を持たれているようです。

 いろいろな出会いの場を作ってまいりまして、上の方のこの辺に書いてあることがここでやっている活動です。ワークショップで出会いの場、共同研究シーズ発掘、質問掲示板などです。これまでやってきて、生命科学関連のワークショップは非常に人気が高いという印象を持っています。

 東北大学はキャンパスが幾つも分かれていまして、応用数学連携フォーラムのワークショップは「青葉山キャンパス」という山の上でやっているのですが、それだけだとなかなか来にくい人もいます。というわけでテーマを限定して、星陵地区に、星陵地区というのは医学部、歯学部、加齢研、ライフサイエンス系の部局が集まっているのですが、「生命科学者のための使える数学セミナー」を開始いたしました。この「使える数学セミナー」というネーミングがなかなか評判よくて、割と参加者が集まってきます。

 それから、片平サテライトもあります。片平キャンパスは研究所、特に材料系の研究所が集まっているところですので、数学と材料科学者の気軽な出会いの場を24年に開始いたしました。 

 次のページです。出会いの場を作るだけではなくて、教育貢献もしています。東北大学に国際高等研究教育院というのがございます。これはエリート大学院生育成をうたっており、スーパードクターを学内で選抜し、研究費や奨学金をたっぷりもらえる代わりに、主専攻・副専攻と、自分の専門分野以外から単位を取るということを義務付けている、学際的な教育の場です。

 このスーパードクターの教育に数学が貢献しています。国際教育院には共通科目が設けられているのですが、5種類ございます。見ていただくと分かりますように、オムニバス形式で偉い人が来て話すコースが中心です。その中に数学の講義、しかも基礎からしっかり講義をするものが入っています。東北大学では、学際的な人材育成においては数学の基礎が必要だということを認識しており、特別にやらせていただいていると思っています。

 先ほど申しましたように、応用数学連携フォーラムで見付かった種を題材に、具体的な課題研究を5年間で実施するCRESTのプロジェクトが2008年に開始いたしました。数学と材料のコラボレーションということです。内容は省略いたしますが、専任研究員を何人か雇っており、彼らのキャリアアップは非常にいいです。実は売行きが良すぎて困っています。にこにこマークが付いている人は研究開始して3年間たたないうちに、次のポジションに移ってしまいました。新しいタイプの数学研究者が数学の中でも求められているのかなと感じています。非常に売行きが良くて、せっかく研究が盛り上がってきたところで逃げられてしまうのは、研究リーダーとしてはつらいんですが。

 先ほど申しましたように、具体的な課題研究実施だけではなくて、より広く研究領域を開発するための取組もやっています。東北大学では、重点戦略研究支援を昨年、一昨年ですかね、開始し、全学55件の応募の中から10のプログラムが採択されました。そのうちの一つが、我々の提案した「数学をコアとするスマート・イノベーション融合研究共通基盤の構築と展開」です。我々はSMARTと呼んでいますが、5年間で2億2,000万円という、数学にとってはかなり大きな予算を付けていただきまして、材料科学、生命科学、ITコミュニケーション、それから、社会環境システムの四つの研究領域の開拓を、「ネットワーク」をキーワードとしてやっています。四つの研究領域を開発するため、それぞれの班を作っています。先ほどの資料にも挙げた多数研究者と、それから、若手7名がこれに関わっています。

 それに加えて、ワーキンググループをこの下で立ち上げていまして、共同研究の芽が出てくるとワーキンググループという形で掘り下げて、共同研究へつなげていくようにしています。SMART経費で雇われている若い人、星印が付いている方ですが、必ずワーキンググループを立ち上げることになっています。 ワーキンググループだけではなく、いろいろなワークショップもやっていまして、これに載せましたのは、どんなことが興味を持たれているかというのをキーワード的に見ていただくためでございます。連携の仕組みを探るためのワークショップもやっていますし、「画像処理とコンピューター」とか、ネットワークから見る生命」とか、「社会のネットワークシステム」とか。それと、こちらが文科省から御支援いただいた連携ワークショップでございます。

 こんなことをしているうちに、数学が参画すると異分野融合が進むらしいと認知していただきまして、世界トップレベル研究拠点プログラムで設立した東北大学AIMR(Advanced  Institute for Materials Research)に数学ユニットが設置されました。世界トップレベル研究拠点プログラムでは、新しい研究領域を開発することがミッションの一つになっていまして、東北大学は材料科学が強いということは世界的に非常に有名であり、その強い材料科学に物理、化学、工学を統合し、新しい材料科学を構築することがAIMRの目標になっています。しかしながら、高い山が四つあって、なかなかその山が一つにならないという、そういう問題が過去5年間ございました。そこで、先ほど津田先生が御説明されたような触媒効果を期待して、数学ユニットがAIMRに設置されました。

 トップレベル研究所は日本に全部で六箇所あります。プログラムが始まったときには、余り数学には関係ないプログラムかと思っていましたけれども、5年たってみると六つのうちの二つが、数学が中心的位置を占める研究所になっているということは、何かを物語っているのではないかと感じます。イノベーションとか、新しい研究領域を開発するためには数学が関わっていかなくちゃいけないということが5年間で認知されてきたのかなというふうに思っています。

 AIMRにおいて数学の果たす役割ですが、イノベーションとかブレークスルーというのはなかなか生まれるものではなくて、やはり天才のアイデアが必要です。天才のアイデアが必要であり、これを人工的に生み出す仕組みというのは恐らくないと思います。 しかし、例えば、ある分野で天才のアイデアによってブレークスルーが出たときに、それを他分野に波及効果をもたらす仕組みは作れます。アナロジーがそれでして、一つのブレークスルーを10に、20に、100にするために、アナロジーを一つの分野の中で探す、そういうというのは昔からあるでしょう。

 それを更に異なる分野にまで波及するためにはどうすればいいかというと、一見異なって見えるけれども、実は類似しているということを誰かが見いださなくてはいけない。そのためには、着ている衣をはがして、一番シンプルで本質的な骨格だけを残して表現する必要があります。それが数学の役目になります。何か一つブレークスルーがでたら、それを100にも200にもしていくためには、数学が入って横糸でつなぐといいだろうということで、AIMRでは数学ユニットを作り、ターゲットプロジェクトという具体的なテーマも決め、これから数学-材料の連携を組織立ってやっていくことになりました。請う御期待というところです。ボランティアで始まった数学連携が割と大きな研究プロジェクトにつながりました。

 AIMRでは、分野を越えた熱い議論が始まっていまして、この写真では同じ分野の人に同じマークを付けました。異なる分野の人が集まって、こんな感じで楽しく議論して盛り上がっていることが御覧いただけますでしょうか。

 先ほど、東北大学には、スーパードクターのための教育組織として国際高等研究教育院があると申しました。そこで育った人材が、融合研究を行う先端融合シナジー研究所もございます。ここには五つの研究領域があって、大体GCOEがベースに建てられているのですが、GCOEでも何でもない数学研究連携センターこの中にできました。これまでやってきた活動をここに集めて、形にしたいと思っています。

 最後に、これが一番伝えたいメッセージなのですが、結局は研究というのは人ですし、また、その人がネットワークを作って広がっていく、これしかないわけです。まず自分の専門分野がきちんとあり、さらに、それに加えて、ほかの学問に対する強い好奇心としなやかな研究交流ができる、そのような人材をいかに育てるかということ、それから、活躍の場を与えるということ、それで新しい研究分野を開いていくと、こういうことがなければ日本の復興というのはあり得ないのではないかというふうに思っています。

 それのために東北大学では様々な取組をこれまでやってまいりまして、うまくいった例もあるし、うまくいかなかった例もあります。ここに書きましたので後で御覧いただければと思います。

 今後の政策推進として何が必要かについて私の考えを最後に書きました。まずはロールモデル、それから、新しい分野に踏み込むというのは勇気の要ることですので、それに対するインセンティブが必要です。教育も必要ですし、日常的な出会いの場も必要です。さらに、その重力中心となる、物理的な場、若しくは、シンボルとなる場がやはり必要です。いつでもここに行けば出会いがあり、話ができるというような場が必要と思っています。

 この会議でこれまで様々な取組を紹介していただきましたとおり、明らかに若い人も育っているし、数学連携のシーズもニーズもあって、理解は進んでいるようです。しかし、じゃあ、その方向に一歩踏み出した若手研究者が、これからどこで活躍できるのか。新しい研究分野を開いていくための場というのは、どこにあるのかというのが私には見えていません。東北大学でこれまでいろいろなことをやってきて、大体のことは網羅したつもりですけれども、まだ欠けている部分があると冒頭に申しましたのが、そのような場でございます。

 最後に付け足しですが、東北大学では、「メディカルメガバンク」プロジェクトが始まり、医療に情報や数理統計が分かる人が必要だということで、私も随分相談を受けました。そのような人材が大変に不足しているというのが実感でございます。

 以上です。

【若山主査】  どうもありがとうございました。

 時間のこともございますが、もし何かここでコメント、若しくは、質問した方が効果的であるということがございましたら。

 であれば、次にまいりたいというふうに思います。

 どうも小谷先生、ありがとうございました。

 それでは、引き続き事務局より数学イノベーションのための推進方策に関する論点について御説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3-2-4について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 では、早速この論点メモに従いまして御議論いただきたいと思いますが、問題点につきましては、もう既にこのイノベーション委員会も回数を重ねておりますので、およそ同じ理解を私たちはしていると考えております。どのような環境整備が必要かということで、ニーズというより、今日の津田先生のお話ですと、wantというか、wishがということでもありましたけれども、そういうふうに広くお考えいただいて、ニーズというものを捉えてまいりたいと思います。

 特に今後のこのイノベーション委員会のミッションである具体的な提言というか、方策というのを出していかなければなりません。その意味で、既に何度も具体的な方策については御議論いただいているわけですけれども、これを御覧になって、やはりこれはちょっと足りないんじゃないかとか、それから、少し方向が違うんじゃないかとかいうこともあるやもしれません。

 それで、少し2番目の具体的に必要な方策は何かというところで、丸2、ちょっとどうせ区別が付かなくなっていくところもあるかと思いますけれども、御議論、御意見いただきたいと思います。

 上の丸から行きますと、ニーズや課題の発掘のためには何が必要かということで、黒い四角のようなことが書いてございます。まとめていただいております。これについて何か御意見、もう少し書き加えた方がいいとか、そういうことがございましたらおっしゃっていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

【小谷委員】  これ今、この白丸の全部ですか。それとも。

【若山主査】  ええ、白丸のまず一応上からと思っています。

【小谷委員】  分かりました。

【若山主査】  項目立てておりますので、詳しくはもちろん書いていませんが。

【大島委員】  すみません。ちょっと細かいことなんですが、教えていただきたいんですけれども、今1番の丸についての。

【若山主査】  ごめんなさい。2番の。

【大島委員】  2ですよね。そのときに、四角があって、議論の場、ワークショップのテーマや参加者の適切な設定ということがあって、橋渡し能力を持った人材、その次のぽつで、組織・体制、次が大学等の組織内における理解・協力ですよね。この下ですよね、二つは、このひし形、ダイヤモンドに対しての組織・体制、理解・協力ということなんですか。ちょっと細かいことで申し訳ないんですけれども。

【若山主査】  粟辻さん。

【粟辻融合領域研究推進官】  ちょっとここだけの話では多分なくて、言わば人材育成なんかも含めて、どういう体制とか組織を作っていくのかとか、あるいは、主催する方の大学なんかの中でどう理解や協力を得ていくのかということは多分必要だと思いますので、ちょっとここに入れたのは場所として余り適切ではないかもしれません。ここだけという趣旨ではございません。

【若山主査】  大体共有されていることが多いと思うんですけれども、少し事務局、粟辻さんの方としては、切り口をというか、いつもと少し違う形で出されているので、そういう意味で逆に新たなものが出てくるかという期待もされているのじゃないかと思っていますが。

【中川委員】  これニーズを発掘するのは誰でしょうか。数学者なのか、それとも、他分野の人なのか。

【粟辻融合領域研究推進官】  両方の共同作業が必要なのかなということで、ここでは両者が集まるような議論の場が必要だというふうに書いているつもりで、どっちか一方だけが一方的にできるというものではないのかなと。

【中川委員】  数学からのニーズというのはあるのでしょうか。他分野からのニーズがあって数学側がそのニーズに対応するというのが自然な流れだと思うのですけれど。

【若山主査】  あえて言えば、数学からですと、シーズの提供というふうなことになるのかと思います。ただ、物理的に一緒になるという場所、もちろんそれは組織とか何かプロジェクトでそうするということも一つですし、それから、例えば、強い意志で、例えば、産業界からのこういうことを何か解決したいとかいうこともあるでしょうし、諸科学分野からもそういうことがあると思います。何かそういう、どういう方法であっても人が会わないと始まらないということだけは事実だと思っているわけです。

【小谷委員】 四つの四角の中の四つ目にむしろ関わるのかもしれないですが、いろいろなところでいろいろなワークショップをやっていますので、効果的に情報発信できるような、例えば、ホームページなど、そこに行けば新しい情報や過去の記録を見ることができると良いのではないでしょうか。

【安生委員】  私も産業側の立場で申し上げますと、やはりこれ全部の丸に共通して、情報発信の重要性というのはものすごく大きいと思います。先ほどのサイエンスカフェですとサイエンスコミュニケーターみたいな方がいらっしゃると。そうすると、我々、我々というのは産業側に向けてという意味ですが、こういういろいろな活動をやられているという情報が、複数の学会をまたいで発信されることもあり得るでしょう。また、ホームページをはじめとしたいろいろなメディアを使うことなど、大変重要な情報公開、情報発信を専門的に、サイエンスコミュニケーターのような立場でやる、むしろ専門家でないとできないくらいの大変重要なことであると思います。大学の先生方がやるにはちょっと、やはり研究とはまた違う側面の仕事です。しかし、我々産業側から見ますと、そのような窓口というか、入り口があると有り難いので、そういう体制を作っていただけるといいですよね。

【若山主査】 なかなか御意見をうまく出しにくいというところもあるかと思いますので、次の丸にも進んでいただいて、個別の大学等や個人による取組を結び付け、広げていくためには何が必要かということで、今の情報発信ということも関わってくるわけで、それは下に書いてありますけれども、こういうことも含め、更に御意見を頂ければと思います。

【宮岡委員】  最初に必要なのは多分優秀な学生をたくさんこういう方面に興味を持たせることだと思うんですよね。今の学生は意外に就職とかを気にしているので、こういう具合に就職できましたよという実例がある程度あると、口コミで広がっていくと思うんですね。そのためにも、先ほどの情報、全てのこういうものに関連した情報を集めたようなホームページがあると随分違うと思うんですよね。

【若山主査】  そうですね。広報活動のためだったかどうか分かりませんけれども、先ほど小谷先生の東北大学での大学からのサポートもすごく大きい。九州大学でも実は大学からのサポートが非常に大きくてやれているというところがあります。既にもうこういう活動をしまして何年もたっていますから、徐々に大学が理解してきてくれて、やはり数学というのがなかなか面白いということをお分かりくださる人が増えてきたという、それがやはり一番大きかったような気がします。むしろ昔は情報発信するどころか、ちょっと引いていたというところがありますので、大事なことだと思います。

 やはりそのときに、情報発信といったときに、安生さんがおっしゃったように、確かに研究者がその情報発信に全て関わるわけにはいかないということも事実ですけれども、一方で、研究者が出ていって、何か生の具体的なものを通した活動自身が自然に情報発信みたいになってしまうという、それがやはり大事なことかなと思います。

【安生委員】  そうですね。ええ、もちろんです。

【若山主査】  全てのことが関わっておりますが、また次の項目にも目を落としていただきたいんですけれども、人材の育成のために、どのような方策が有効であるかと、研究集会、ワークショップを通じての育成であるとか、教育科目そのものであるとか、新しい科目というか、長期インターンシップであるとか、そういうことを含めて、どのような方策が有効かについて少し御議論をお願いします。ここは重くて非常に大きなことだと思います。

 以前にも産業界からということで、中川さんから少しこの話、発言いただいたと思うんですけれども、再度というか、少しこの人材の育成のためにということで御発言いただければと思うんですが。

【中川委員】  私は議論の場は大事だと思います。純粋数学の人でも、気軽に、ほかの分野の人と議論できるような仕組みとは、どのようなものかということはずっと考えているのですけれども、まだそれが分からないです。どうすればそれができるのか。

【若山主査】  大島先生。

【大島委員】  そうですね、若手の割とやはり人材育成というのが非常に大事だと思っていて、議論をする場というのも非常に大事だと思うんですけれども、何かプロジェクトベースでお互いに異分野の人が若い人として何かできるような、議論するだけじゃなくて、それを次の場として、よく大学の先生にはプロジェクトとして多分付くと思うんですけれども、何かもうちょっと若い、多分レベルがあると思うんですけれども、例えば、大学院生の博士課程、ポスドクに対しても何かそういうプロジェクトとしてサポートするような場があって、それが、例えば、企業からのインターンシップの次のステップとして何かあると、先ほどのインセンティブじゃないですけれども、具体的な方向性というのが研究としても見えてくるんではないかなというふうに感じました。

【小谷委員】  スマート・イノベーションプロジェクトをさっき紹介しましたが、これに関わっている専任研究員は必ずワーキンググループを立ち上げています。ワーキンググループには活動費を付けており、彼らにとってモチベーションにもなっています。ワーキンググループを若手が自分で立ち上げ運営していくことは、シーズを探し、研究計画を練るきっかけになりますので、非常にいい方法なんじゃないかと思います。他分野に比べて数学の若い人は研究面で自立していますよね。

【若山主査】  ありがとうございます。今日は北川先生が御用がありまして、もう3分ぐらいでお出になられるということなんですけれども、以前在籍されていたというか、今はおられないのかどうか分かりませんけれども、統数研の方で思考院を立ち上げられましたが、それは非常に人材育成ということをお考えになってのことであると思っているんです。

【北川委員】  はい、先ほど大島先生が言われたことに近いと思うんですが、そこに三つ書かれているところと、本当に研究の現場に入れるようなところ、大学院生、あるいは、ポスドク辺りで実際に共同研究しているところに入っていく場を作って、そこに積極的に引き込むことが必要じゃないかなと思います。そういう観点で統計思考院というのは作ったつもりなんですね。

【若山主査】  ありがとうございます。どうも最後に引き止めましてすみません。

【北川委員】  すみません。

【若山主査】 いろいろな場でいろいろな分野の中でやはり若い人たちが入り込んでいって、実際に研究というものを通して活動を進めていく。実は中川さんの新日鐵とは、いろいろな大学が共同研究をされていると思います。その中身を私は存じ上げませんけれども、例えば、私たちのところとの共同研究の中には学生が入っていまして、それは学生にとってもやはり興奮できることであったというふうに、最近もよく聞いておりますし、そういう場は貴重であると思っています。

【中川委員】  ありがとうございます。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【中川委員】  他分野と連携する場合、そこで設定した目標に対し、オブリゲーションのようなものが多分発生すると思うのですけれども、そういうオブリゲーションに対して数学者、特に、若い数学の人はどういうふうにお考えでしょうか。数学は自由に発想することが重要なので、オブリゲーションが発生すると、数学の良さが損なわれると考える方は結構いらっしゃると思うのですが。

【若山主査】  そうですね、ここに若い数学の方がいらっしゃらないので、なかなか難しいですが、この会議には今日初めて出てくださったということで、津田先生、何かございませんか。

【津田教授】  ちょっと難しいですね。やはり若い、さっきもちょっと言いましたけれども、我々のところでうまくいった例というのは、先ほどの質問がいろいろな分野からあったときに、数学者と質問した人たちのセミナーのところにその若い人を入れて、数学者がどう問題を解きほぐしていくかという、そこのプロセスから見せておくと、ああ、こういうやり方もあるのかというような、そういうのをうまく捕まえた人たちはその後いろいろなプロジェクトの中にうまく参加して、伸びていったなという印象はあるんですね。

 だから、何か問題を解決しているというよりは、問題にしていくプロセスというか、そこのところも若い人にやはり参加してもらった方がいいと思っています。

【若山主査】  そのオブリゲーションということですけれども、数学の、ある程度年代が上の人たちというのは、大体数学専攻の人が少なかったので、そういうところも強かったと思うんですけれども、今やはり博士課程の学生の人数もぐっと増えていますので、そういう意味では純粋数学の中でもある程度オブリゲーションというか、やはり教員が具体的問題に導いていき、こういう問題があるよとか、そういうことでやれる方が安心して何か計算したり考えたりすることができる学生もたくさんいます。

【中川委員】  他分野の人から見ると、やはり自分の問題を限られた期間内に解決してほしいという要望がまずはあると思います。そういう要望を満たすという意味で、達成目標を設定し実行に移る段階で、オブリゲーションも出てくると思うんですね。この問題をいつまでに、誰が、どのレベルまで解決するのかという意味も含めて。

【若山主査】  そうですね。でも、多少なりとも、やはり今ですと博士号も年限内に取らなきゃいけないみたいなことも言われていますし、そういうことはものすごい負担にならずに学生たちも感じているんじゃないかと思います。人にはよると思いますけれども。

【中川委員】  分かりました。

【青木委員】  ちょっとよろしいですか。

【若山主査】  はい。

【青木委員】  今のオブリゲーションの話なんですけれども、オブリゲーション、義務と権利だと思うんですよね。だから、一つは権利で、何と言うのかな、頑張ってちょうだいというか、少し資金や自分が主導的にやるという場をあげると、ある程度責任をとって、楽観的かもしれませんけれども、どうせこれはほかの研究者の仕事だとか思うと、途中で手を投げてしまうんですけれども、これは自分に与えられたお金で何か成果を出さなきゃいけないと思ったら、ある程度義務感が付いてくるのではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

【中川委員】  それは多分、問題を与える方の問題設定の仕方にもよると思います。数学の人が一番うまく能力を発揮できるような問題設定をどういうふうにするかというのは、ほかの分野の人がうまく考えるべきなのかなと思いますね。

【青木委員】  なるほど。

【大島委員】  ちょっとよろしいですか。

【若山主査】  はい。

【大島委員】  オブリゲーション、やはり他分野双方にとってWin-Winになる状況というのはすごく大事だと思うので、そういう設定をするというのも非常に大事だと思うんですけれども、やはりその次のステップとして、ある程度きちんと責任を持ってそれをやり遂げるという枠組みがちょっと日本はアメリカとか、あと、ヨーロッパに比べると、特に大学院生のRAですよね、に対して非常に弱いと思うんですね。なので、何かほぼアルバイト状態になっちゃっているというのもちょっと現状としてあると思うんですね。

 なので、何か中途半端にするよりは、本当にもうがっつりプロジェクトベースで、もうこれは与えられた課題で、それが成功するかどうかは別としても、やはりきちんとやり遂げるというものの枠組みはきちんと何か制度として与えた方が、そういう制度設計もある程度大事かなというふうに、多分それは数学の分野だけではなくて、多分日本全体の今博士課程の問題ではあると思うんですけれども、もう少し学生に、それこそインセンティブと、あと、それをきちんと責任を持ってやるような仕組みというのはある程度した方がいいと思って、こちらは人材育成に力を入れているということなので、やはりその方策としてそういうことを盛り込んでもよろしいんではないかなというふうに思っています。

【若山主査】  ありがとうございます。今のこと、私もこの中に盛り込んでいければというふうに伺いましたけれども、いかがでしょうか。

【宮岡委員】  確かに人材育成、こういうことをやるときは、今までのドクターの指導体制というのも少し考えなきゃいけないかもしれないですよね。つまり、今までの普通の純粋数学ですと、一人の先生がドクターを出せるわけですよね。それですと、こういった応用とかですと、集団指導体制の方がむしろ適しているわけですよね。つまり、実験学科だと普通は研究室単位で指導するわけで、そのときは複数の方が指導します。問題もたくさんあるわけですから、その中から一つだけじゃなくて、複数のものから成功するものを選ぶことができるわけですよね。今の1対1だとそれができにくいので、少しは、もちろん今までのものも残していいんですけれども、たまには集団指導体制みたいなのも考えなきゃいけないかもしれないと思っています。

【若山主査】  そうですね。参考になるかもしれませんので、先ほどの私たちのところの共同研究ですが、産業界から申出があったときに受けるというときの話をします。教員として共同研究の窓口になるときに、やはり統計の方が関与していただかないといけないという問題がたくさんありますが、加えて いわゆるピュアマス分野と思われている代数とか幾何(きか)の人とか、あるいは、もう少し応用系、物理系の人たちと複数で対応するということを最近はずっとやっています。その中で、指導教員の異なる学生たちや、自分は統計に関係なかった学生とかも入ってきて、一緒に共同研究を進めるということもあります。産業界との共同研究のときには、むしろこちらから共同研究相手の企業の方にお願いして、学生を入れさせていただいているというわけです。これは多分効果があるんだというふうに今のところ信じているという状況です。

 これらのことに関して、森先生、何か御発言ないですか。

【森主査代理】  非常にうまくまとめていただいていますが、それに、こう言うと議論をぶち壊すかもしれないですが、余りうまくまとまり過ぎると、求める型にはまらない人間をはじき飛ばすような心配があります。例えば、私のところの研究所であいつはどうかな、こいつはどうかなと見ていくと、全然、つまり、えさをぶら下げても乗らない人が思い浮かびます。自分が興味を持たなきゃできない。例えば、その中の一人はものすごく性能の高い、ほとんどトップの、プログラムを作って、ホームページで公開していて、応用という意味ではものすごく重要な役割を果たしている。けれども、話してみると何とも焦点の定まらない、例えば、ジョブインタビューに行くと落っことされそうな、そういうタイプの人間だったりします。だからと言って、それを駄目と切り捨てるべきではない。実際そういう人もいて、活躍しているので、さあこれはどうすればいいのか、どうするものだろうかと思ってしまいます。ですから、例外を許す余地を絶えず残しておいていただけるといいかなという、ほとんど役に立たないコメントですけれども。

【若山主査】  いや、全く。先ほど宮岡先生がおっしゃったことも、要するに、今までと違うところを入れていこうというのが主眼ですので、今までの良かったことまでなくしていこうというのはどなたも思っておりませんし、書き方の問題は若干あると思います。もっともこれは必ずしも数学の方々に説明するものではないというのが、ちょっと大きなポイントだと思います。

 さて、時間も迫ってまいりましたし、3番目の項目で全国規模での展開には何が必要かということで、今御意見頂戴したようなことの機能を全国の複数機関に持たせることが必要か、複数機関の機能はどのように分担させることが適切かということで、以前も少しこういう話が出たかと思いますが、これについて何か御意見等ございましたら、どうぞお願いします 。

【粟辻融合領域研究推進官】  じゃあ、ちょっと1点だけいいですか、この一番最後のところの行に書いてある立地における分担、これは、例えば、東日本で一つとか、西日本で一つとか、あるいは、地域的に一つずつみたいな、そういうイメージなんですけれども、例えば、九州大学さんで産業からの相談を受け付けたり、産業界と一緒にやるときに、何かこう、場所的な立地による制約みたいなものをお感じになるようなことというのは何かありますでしょうか。

【若山主査】  Study Groupを最初に東京大学でさせていただいたというのは、産業界の方々に参加を、講師の方に来ていただきたいということでお願いしたんですけれども、そのほかにも九州大学だけでやっていることではないということも知っていただきたかったということがあります。ところが、産業界の方々はお忙しいんですけれども、意外と場所についてはこだわっておられないし、例えば、インターンシップでもほとんどの学生は東京地区の方に行っているわけです。そういう意味では、余りそこで困ったなということにはなっていないです。

 ただ、思いますのは、産業界からの共同研究の申出の中に、自分たちの専門外ではあるが数学的に結構根源的なというか、担当者がチャレンジングだというふうな問題なども最近は増えてまいりました。そうなると、実は私たちの研究所だけではとてもじゃないけれども、専門的にも時間的にも対応できなくなっているということがありますので、そういう意味では、もう少し全国的に理解していただいて、いろいろと手助けというか、本気になってくださる方々が他大学からも出てくるといいなというふうに、特に最近強く感じているところです。

 ちょっと粟辻さんの質問に完璧には答えていないような気もしますが。

【粟辻融合領域研究推進官】  はい、ありがとうございます。

【若山主査】  何かほかに御意見ありますでしょうか。

【小谷委員】  他分野とか産業界とコネクションを持ちたいと思う数学者はまだまだ少ないので、情報の集約は大切です。情報が集約されたセンターが全国に幾つかあるといいですね。それと、もう一つ、この会議の委員は割と大きな大学の教員ですが、今地方大学の教育資源が非常に枯渇しているので、地方大学にもこのような活動を広げることを考えるのであれば、地域性なんかも考えてはいかがでしょう。

【若山主査】  ありがとうございます。

 ほかに何かございますでしょうか。

 それでは、ここはまだまだ結論というか、結論を出すべきかどうかもちょっと分からないところもありますが、現時点ではここまでということにしておきたいと思います。

 時間は12時になってまいりましたけれども、今日の最後の議題というか、資料3-3に関わることですけれども、数学の活用に関する課題解決型研究テーマについて、少し粟辻さんの方から御説明いただいて、御意見頂戴したいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3-3について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 随分とたくさんの、どこにでも数学という感じの表になっているかと思います。問題の大きさは様々であると思いますし、別項目にありましても、この問題が解けるとこの問題が解けるんだというふうなこともあるでしょうし、いろいろな印象を持ちますが、何かこれに関してもう少し、ちょっとここに見当たらないなとか、何でも構いませんので、資料を充実していくために御意見を頂けたらと思います。いかがでしょうか。

 実際に数学以外の方から見ると、じゃあ、これは実際に現実的に解決できるのかというふうなことも問われるかと思いますし、かといって、問題が難しいか難しくないかは予測することは難しいということもありますし、難しいところではありますが。

【安生委員】  先ほど言いそびれてしまったことといいますか、言葉として入れたらどうかと考えていたんですけれども、数学と同じようにビジュアライゼーションはあらゆるところに関係すると思うんです。私がやっているCGはシンセシスですが、アナリシスの方ではやはり画像認識とか画像理解などがあります、5番でいいますと、最後に認識という言葉が出ていますが、ビジュアルパーセプションなどのキーワードが最近いろいろ出てきています。つまりどこを人間は注力して見ているのか、ということを解析することなどを意味します。初歩的な部分はかなりできていて、犯罪捜査等で有名ですが、画像認識などは社会とのつながりが既に深くあると思います。そういう画像に関する数学を考えていくという機会はまだまだあってもいいと思うのです。

【若山主査】  ありがとうございます。

 今回も事前に資料をお送りいただいたとはいえ、まだ皆さんゆっくり御覧になっていないと思いますし、一度これ少し全体的に眺めていただいて、御意見、何かコメント等ございましたら、粟辻さんの方にお届けいただければと思いますが、お願いできますでしょうか。

【津田教授】  すみません、今安生さんが言われたことにちょっと触発されて、我々のところは実は10の根本問題ということで、いろいろな分野といっても限られたんですけれども、それぞれの分野で一体何が本質的な問題なのかということを探るワークショップを小谷先生、橋本先生と一緒にやったんですけれども、ここで一つだけ今の安生先生との関連で言いますと、例えば、生物で、少数個の分子が支配的である現象というのはすごく大事だと言われていて、今まで非常に多数の分子があるといろいろな挙動が統計的に抑えられるんだけれども、少数だとゆらぎが非常に大きくなっちゃうんです。ただし、その少数個の分子が何かしているということはもう生物学者は分かっていて、だから、実はポピュレーションダイナミクスじゃない、違う原理があるはずだという感覚を彼らは持っています。今彼らがやっていることは何かといったら、それのビジュアライゼーションで、要するに、細胞の中のある特殊な分子がどんなふうに動いて、どう絡み合っているかということは実際には画像処理で随分できるようになったと。しかし、それを数学的に解析するということはできないんだということを非常に強調される。例えば、そこが一発何か出ると、何か生物学のあるレベルはかなりいろいろな問題が解決できるんだとおっしゃるんです。

 そこは数学での、例えば、確率論だと大偏差原理とか、今までの極限定理のものすごく端っこでしか現れないような現象のところを押さえることで、逆に少数個の分子のある種の挙動が明らかになる可能性もあるんじゃないかということで、少し数学とインタラクションできそうだというところまではきたんですが、もちろんまだそれ以上行っていないです。

 今のお話とか、ここに挙がった問題で、かなり本質的な問題がお互いに関連している部分がものすごくあると思うんです。一見羅列しているように見えて、粟辻さんは非常にちゃんと整理されて、ライフサイエンスとか情報科学とかと分類していただいたんだけれども、それらを越えても、その分類の中の相互作用もそうですし、それを越えたところがこう関係しているからここを解決すれば数学的にも当該分野においても何かブレークスルーが起こりそうだというような何か相関図といいますか、そういうのが書けると、難しいんですけれども、いいなと思いました。

【若山主査】  ありがとうございます。基本的な考え方としましては、粟辻さんの方もそういう相関図を描くというアイデアは今まで出てこなかったかもしれません。しかし、今先生がおっしゃったようなことを前提に、逆に数学のイノベーションが起こるんだというのがこの委員会のある種の外に対する説得力となっていけばいいと思っていますので、そのようなものを作り上げていきたいと思います。

 そういうことも含めまして、皆様からの、次回の会議でも、委員会でもよろしいですし、それ以前に何かお気付きになったことがありましたら是非お寄せいただきたいと思います。

 それでは、本日御審議いただいた内容を踏まえて、また数学イノベーション戦略の案を修正させ、発展させていきたいというふうに考えております。

 最後に事務局より連絡事項等御説明を。

○粟辻融合領域研究推進官より、今後の予定について連絡があった。

【若山主査】 それでは、少し、10分ちょっと超過してしまいましたけれども、本日の数学イノベーション委員会はこれで閉会させていただきます。ありがとうございました。

 

―― 了 ――

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