数学イノベーション委員会(第6回) 議事録

1.日時

平成24年4月13日(金曜日)10時~12時15分

2.場所

新霞が関ビルLB階 科学技術政策研究所会議室(201D号室)

3.議題

  1. 産業において今後必要な数学・数理科学研究について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、安生委員、大島委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員

文部科学省

森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、菱山振興企画課長、安藤基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所 森本典繁 所長
日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所数理科学担当 井手剛 部長
大阪大学産業科学研究所 鷲尾隆 教授

5.議事録

【若山主査】 おはようございます。定刻となりましたので、ただいまより、第6回数学イノベーション委員会を開催いたします。本日は御多忙のところ、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

 本日は、青木委員から御欠席との御連絡を頂いております。また、第2回委員会で御発表いただきました、大阪大学産業科学研究所の鷲尾先生にも御出席いただいております。よろしくお願いします。

 それでは、本日の議事を進めるに当たり、事務局の方から、資料の確認等をお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  まず最初に資料の確認に入ります前に、4月に事務局で人事異動がございましたので、新しく着任した者を紹介させていただきます。振興企画課長の菱山でございます。

【菱山振興企画課長】  菱山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  基礎研究振興課長の安藤でございます。

【安藤基礎研究振興課長】  安藤でございます。よろしくお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より配布資料の確認があった。

【若山主査】  過不足ございませんようですので、議題1に入りたいと思います。前回まで諸科学分野におけるいろんな先生方のお話、それから本委員会の委員のうち、数学・数理科学を御専門にはなさっていない方、あるいは産業界の先生方の御意見等をお伺いしてきたわけであります。

 今回は日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所の森本典繁所長に、産業について今後必要な数学・数理科学について、お話を頂きたいと思います。およそ20分程度でお願いできたらと思います。よろしくお願いいたします。

【森本所長】  ただいま御紹介にあずかりました、IBMの森本でございます。本日は20分ほどお時間を頂きまして、数理科学における問題解決及び、私どものIBMの事例を中心に御紹介させていただき、多少の参考にでもしていただければと思います。

 まずは簡単に、IBMの基礎研究所なんですけれども、現在約3,000人ほど、グローバルに研究員がおりまして、新しくブラジルラボがオープンいたしまして、全世界で今九つの研究所、約3,000人の科学者が働いております。日本は今年で30年になりまして、アジアでは一番古参の研究所になります。

 従来から、IBMの基礎研究所の中では、下の段のソフトウェア、それからコンピューター・システムズ、それから半導体に代表されるテクノロジー及び、少し長期的な基礎研究ということで、この四つのエリアが中心的に研究されていたわけですけれども、近年、ここ10年ぐらいの間に、上の三つの段にある新しい研究分野というのが、徐々に出てきました。

 サービスという分野が大体10年ほどの歴史がありまして、IBMの事業のポートフォリオ全体がハードウェア、ソフトウェアというところから、サービスビジネスにシフトするに従って、実際にどういった、ハードやソフトの技術の革新だけではなくて、世の中のビジネスがどういう形態になっていくのかということで、そちらに大きく研究のシフトもされてきましたし、さらには、現在スマートプラネットとか、あるいはスマートグリッド、そういった社会インフラ、水、食料、そういった大きな問題にアドレスするために、インダストリー・ソリューションという分野が出てきました。

 それと同じぐらいの粒度で、実は数理科学という分野が2008年頃から、専属のIBMフェローを一人、ヴァイスプレジデントという、リサーチの中で言えば、グローバルの研究所全体の副社長、シニアヴァイスプレジデントの下に付くVPというレベルの単位ですね、数百人の研究員、つまりこの中では1割ぐらいの研究員を割り当てて、この数理科学というエリアを実は新たに作っております。それが四、五年ぐらい前になります。

 その背景といたしましては、この数理科学の応用の先が変わってきているということであります。従来は、当然私たち、コンピューター関係のソフト、ハード、システムズを研究開発しておりますので、従来の数学の分野というのは暗号理論、あるいはコンピューターのプログラムを早くそれを解釈したり、分析したりするためのコンパイラ、そして及びその社内のいろいろなシステムやパフォーマンスやソフトウェアのスピードを上げるための社内システム、性能改善といったエリアに数学のアルゴリズムが主に使われてきました。

 近年、そのハードやソフトの画期的な成長というのがだんだん落ち着いてきて、成熟化してくるに従って、こういった極端な難しい数学を適用する分野が徐々に減ってきまして、実は数学者は、一時期はだんだん数が減ってきたという経緯があります。

 しかしながら、最近、先ほど前のページにありましたように、サービスとか、あるいはその実際に社内のコンピューターシステムや、ハード、ソフトではなくて、お客様や現実社会の問題を解決するに当たり、非常に複雑な事象が出てきたということと、それからデータの量が、ここ数年で非常にデジタイズされてきて、非常に多くのデータが計算可能な状態に置かれてきたということがあります。例えばSAPとか、そういった業務関係のソフトウェアというのは、実際にコンピューターとして業務フローをやるということで、便利でいいなということで、当然業務改善で入れていくわけですけれども、その副産物として、実はバックグラウンドに、大量のログデータとか、タイムコードが付いた処理データとか、そういったものが数ペタ、数テラという単位で、どんどん知らない間に蓄積されていきます。多くの会社はそれを利用しない、あるいは利用しなくても、当然そのソフトウェアの表面だけ使えばよろしいわけですけれども、その裏では、大量のそういったデータが蓄積されていて、それを解析するかしないかという、そのことによって、実は大きな格差が出てきつつあるということで、そこのいわゆるデータの鉱脈というんですかね、そういったものに目を付けて、いろんな解析・分析が可能になってきたという背景がもう一つあります。

 したがって、その社会的、ビジネス的な問題の解決とか、スマートシティー、スマートプラネットと弊社で言われている、いわゆるその世の中の動き、ビジネス、産業、そして社会システムをもっとスムーズに動かすための、いろんなことに実はシステム、研究開発のフォーカスが置かれ始めておりまして、そこにおいて非常に数学というのが大きなエレメントを占め始めているということで、数理科学という新たな一つの研究分野として、組織が数年前からできているということであります。

 具体的にどういうことかと申しますと、一つの例としては機械学習、そういったものが新しい市場を創出する。どういうことかと言いますと、例えば簡単な例といたしましては、書籍販売の推薦というのは、皆さんなじみがあると思いますが、例えば数十万人の顧客がいて、その数十万人のそれぞれに属性があります。そしてその人たちが買う本がまた数十万通りあるということで、巨大なマトリクスの計算になるわけですね。

 アマゾンとか等でやられているような形では、こんな本をほかの人も買っていますというんですけれども、そのこんな本を買っている人と自分がなぜ似ているのかという、その辺はストレートフォワードではないんですね。それはどういう形で属性を分析するのか、あるいは単純に買った本が同じだからという一番単純なものありますが、更にその上にいけば、世代だとか年代だとか、あるいはその時系列的に、どういう本を読んだから次にこうなのか、あるいは年代的にこの年代になったらどうなのか、あるいはその地域とか、あらゆるものを分析していくということが可能なんですね。

 そういうことで考えていきますと、非常に巨大な行列を計算するというのは、ストレートフォワードではないです。

 それが従来非常に簡単だと思われていたことも、実は複雑なマトリクスや次元を増やしていくことによって、極端に計算が難しくなるということがありまして、そこで数理科学の人が登場する。

 必ずしもここで大事なのは、必ずしも数学的に厳密にその解を解くと考えると、もう無限になってしまって、解けない問題というのがたくさん出てきます。これは後ほど少し紹介しますけれども、そこでやっぱりエンジニアリング的な妥協と、サイエンティストとしての突き詰めというのの両方のバランスというのが必要になってきますが、いわゆるこういったエリアがあります。

 もう一つは、もう少し曖昧な話で言えば、検索と広告といったことで、例えば引用される、引用したというようなことで、それぞれの相関関係に矢印が付いているようなケースですね。そうなると、また問題が1段、2段、複雑になってまいりまして、ただし、最終的な計算をした結果というのが、多く参照されるページというのは権威が高いんだなという、いわゆる人間が考えても、そんなの当たり前ではないかということになるんですが、その当たり前のことをどうやって形式的に、あるいはシステマティックに導き出すかというのが、実は数学の一番有用なところであります。

 例えば渋滞予測の話にしても、この直感で言えば、ここをこうやったら混むに決まっている。この決まっているといったところで、それは非常に曖昧で、ラフな話ですけれども、実際に、それでは具体的に、この道は一方通行、何時間、どれぐらいやれば、どれぐらい効率が上がるのかというのは、実はかなり難しい話でありまして、それを直感や数学や標識、図式で表すということがまず第一の関門でありまして、その後には、今度はいろんな、それを使って、更にその上が発展ができるわけですね。

 したがって、最初のファーストフェーズとして、その実際のものをモデリングして、それを動かすというところまでがまず1段目の数学ですけれども、実は産業界での活用というのは、それができてから初めて、それでは次にこうしたらこうなるのではないか。こうやったらもっといいのではないか、悪いのではないかということを、厳密に証拠として示すために、実はその2段目のところ以降が実は産業的には重要なのであります。

 それからもう一つの観点は、数値データの話を、今、主にしておりますけれども、実はそのテキストとか、マルチメディアデータというのも、最近皆さん御承知のように、どんどん、その量が増えております。こういったものも実は対象になってきますが、そのテキストデータの特徴といたしましては、非常にその自然言語で書かれている場合には曖昧性が多い。人の名前にしても、名字で言ったり、名前で言ったり、あるいは両方でそろえたり、間、スペースを空けたり、空けなかったりという形で、人間が見れば簡単に同じ人だと分かりますが、非常に難しい判定というのが実は裏で入ってきたりします。それからもちろん表現的には曖昧さとか、あるいは同じようなことを違う言い方をしているケースがたくさんあって、それを人間で見れば簡単だけれども、実際に機械でそれを認識させて、統計的に処理していくにはどうするかといったエリアが大事でありまして、こういったことが近年非常に進んできております。

 それからマルチメディアデータとか音声技術、そういったものに対する技術も、これは数十年も前からやられて、枯れ果てた技術だと思われていることも多いんですが、実はこの近年でも、かなり音声認識とか、それから再生、そういった技術の革新が起きております。

 皆さんお持ちの方も多いかもしれませんが、最近iPhoneとか、あるいはドコモの携帯では音声認識の入力が盛んに使われてきます。ああいうものは、数十年前から技術的には可能であったんですけれども、それがかなりルック・アンド・フィール、使ってもそれほど遜色がない状態になってきているということもありまして、こういったテキストやマルチメディアデータに対する処理技術が格段に上がってきているということで、数値データとともに、こういったものを処理することによって、より立体的に、ホリスティックにものを捉えることができるようになってきているというのが、もう一つの傾向であります。

 こういったものがどういう分野に応用されているかと言いますと、この数理科学の応用分野、事例ということでありますけれども、非常に古典的なエリアでは、左上にありますようにロジスティックということです。カーナビとかでも簡単なアルゴリズムが入っておりまして、どこか、A地点からB地点にはどこの経路をたどればいいか、最短距離はということがありますが、更に複雑に考えていきますと、それではその配送トラックの配送拠点というのはどこに置けば一番配達の時間が短くなるのか、あるいは配達時間じゃなくて、二酸化炭素の排出量を減らしたいのか、ガソリンの消費量を減らしたいのか、あるいはお客様へのリードタイムの短い、減らしたいのかという、この目的によって、どのアルゴリズムを使うか、どういう最適化のロジックになっていくのかということは随分変わっていきます。

 さらに、これがそのものの、単純に一つの地点から配送するだけではなくて、そのものが、ではどこから来るのか、どこから来るというのは、空港なのか、船なのか、あるいはその更に先のサプライチェーン全体の流れを見ていくと、かなり複雑で難しい話になっていきます。こういったものを最適化するのに活用されています。

 もう一つのエリアが製造です。これも古典的には板取り問題とかそういった形で、非常にものを、無駄を外すというようなことがありますが、実はその工場、特に製鉄や、大きな重工場のところでは、作られた製品、物というのは、実際にあるターゲットを狙って、それを生産したら、そのままの量が出てくるわけではありませんで、途中で無駄や、大量な捨てざるを得ないものとか、あるいは出てきたけれども、次の処理までの間に待たなきゃいけないとか、そういった巨大な物や仕掛品を多く排出するのがこういった産業の特徴でありまして、それを10パーセント、あるいは5パーセントでも少なくするだけでも、実は大きなセービングになる。セービングは、ほとんどイコール利益になってきますので、今、日本の産業を含めて、利益が数パーセントに停滞している産業の多い中で、こういった大きなプロセスの中で少しずつ削るということが、実は意外に大きな会社の利益を生む源泉になっておりまして、こういったものが非常に重要になってきております。

 特に大きければ大きいほど重要になってきまして、IBMでは、グローバルには、今はナチュラルリソースのフォーカスでございまして、例えば鉱山の生産から、ずっと、延々と鉱石が出て、実際にはお客さんに届けるまでの間、非常に長いチェーンがありますけれども、この中で、実はその一番最初に山を爆破して、岩が出てきて、その岩を砕く一次電源――クラッシャーですね、それの電源が全体のサプライチェーンの中のエネルギーの40パーセントを占めております。

 そうすると、それでは、砕いてから運ぶのか、運んでから砕くのか、よく調べてから砕くのか、砕かないのかとか、非常にそのところで、ラフにざっくりとやってしまって、ほとんど気にしていなかったんですけれども、よくよく調べてみると、全体のエネルギーの40パーセントが、最初の一次クラッシャーのところに使われているということで、もしかしたら大量のごみに40パーセントのエネルギーを使っているかもしれないわけですね。それをどれだけ判定するかということによって、あの大きなプロセスの中でも、そういう地道な、重箱の隅をつつくようなところが結構重要になっているということがあります。

 サプライチェーンの話、先ほどお話ししました。

 それからセンサー・データ解析や、不正検出といったエリアでは、具体的な数値データだけではなくて、例えばタックスの納税関係の申告書、そういったもので見ていくと、どれぐらいの、当然たくさん稼いだら、たくさん税金を払うというのは相関があるのは当たり前ですけれども、では、その納税申告の中で、いろんなパターンを見ていくと、どれぐらいの損失があって、どれぐらいの売上げがあって、どんなものを輸入、あるいは負債とか、借入れとか、そういったのも含めて、かなり多次元に見ていくと、そんなに自明ではないんですね。それを見ていきますと、何らかの形で、その外れ値みたいなものが出てくることによって、具体的に、怪しいのではないかということで見付けるということもあります。

 下の方に行きますと、先ほどのキャンペーンとかマーケティングということになりまして、それぞれの人の思考とかパターン、加えて、最近はスマートフォンとか、そういったいろんなもので、その人の購買動向とか、移動とか、どういったところに巡ったかという経路とか経歴とか行動歴みたいなものを取ってこれますので、更にここに人間のビヘービアを加えていきますと、では、この人には、実はこういうキャンペーンでくすぐってあげると、次のステージにロイヤルティーが上がってくるとか、上がらないとか、そういったものをより確率的に示すことができます。

 これグローバルでは、例えばプリペイド携帯ですね、そういったものというのは、一度買って、非常に安いので、30ドル、50ドルで買って、それが通話が終わればぽいっと。また次の新しい機種がかわいいから、こっちを買ってしまうということがありますが、それがなくなりかけているときに、ぱっとキャンペーンで、あと5ドル、ただで差し上げますよとなると、では、もうちょっと使おうかなということになりますよね。ただ、人によっては、5ドルぐらいだったら、こっちの新しい機種の方が好きだということになりますが、その上で、どういうランクの人にはどれぐらいのインセンティブを与えれば残ってくれるのか、そういったものを統計的に判断することによって、より効果的なキャンペーンを打つということができます。

 右の下がシミュレーション、これは先ほど言いましたように渋滞予測の分野です。当然、数学的には多くの統計的なデータから過去のデータ、月曜日の雨で、五・十日だったらこうだ、ああだということは、大量のデータから見れば、では、次はどうなるということは、かなり厳密に今できるようになっていまして、確率も非常に高いです。

 しかしながら、ここに新しいバイパスを作ったらどうなるの、あるいはこの一方通行を両通行にしたらどうなるんですかということは、それほど自明ではなくて、実際にデータがないものについては、なかなか予測することはできないんですね。

 そこで、このエージェントベースというものは、その一粒一粒の車や人や、そういった動きを実際にシミュレーションして、あたかもパックマンというゲームがありますが、ここにいる皆さんだったら分かる世代だと思いますが、若い人に言うとこういう例は分からなかったりするんですが、そのパックマン、違う色というのは違う性格を持っていて、それをばらまくと、その中の迷路の中で移動しますよね。それと同様に、例えば京都市全体に80万個のそういった小さなクラゲをばらまいて、そこをぴっと一斉に動かすというようなことをイメージしてみてください。ちょっとクラゲだと気持ち悪いかもしれませんが、そうやって動く。そうするとどこかで詰まってしまう。

 もちろんその行き先と、タイム・トゥー・タイム、どこから、XからYに何時間、どれぐらいの時間に何台がここからここへ移動するとか、あるいはタクシーが何パーセントそこに入る、バスが何パーセントいる、クロネコヤマトのトラックが何パーセントいるといった配分をします。これがモデリングです。こういったモデリングをすることによって、実際にその動く現象を作り、なおかつそれが実際の世の中のリアルの世界に合致するところまで作り上げたらば、今度はwhat ifということで、実際にそれがどう使われるか、こうやったらどう変わるのかということが正確にシミュレートできているんですね。そういったものが、先ほど申し上げましたように、次の、そこから先が実際は本当の価値を生むところでありまして、その手前は、ある意味、やればできる部分もかなりあるんですね。そこで、途中に泥臭い、現実とのマッピングのプロセスを経た上で、実際にそこから先が実は商業的な価値を生むということであります。

 ここから先、幾つか天気予測とか含めて、IBMでグローバルでやっている実際の事例を、ちょっと簡単に、もう時間が5分ぐらいで駆け足でやらせていただきます。これがDeep Thunderというプロジェクトでありまして、実は、かなり歴史は古くて、1996年のアトランタオリンピックですごく局地的な天気予報をシミュレーションするということで使われたスーパーコンピューターで、気象予測であります。基本的には雲や、その水蒸気の量の集積と、それの動きを12時間から48時間までの間で予測するということでやりました。

 それは細粒度の計算ということで、これが一昨年のプロジェクトから、昨年にかけて、ブラジルのリオデジャネイロのシティー・コマンド・センターというのが私たちIBMが担当させていただいているんですけれども、そのシティー・コマンド・センターの中において、洪水の予測というのに使われています。洪水の予測は何かと言うと、単に降雨量だけではなくて、非常に複雑な地形をリオの市というのは持っておりますので、周りの山とか地形データを1メートル単位での精度で全部市のマップを持っていまして、そのテラインデータと、上空の水蒸気と水の降雨量の予測を組み合わせますと、あとはその水がどの盆地にどれぐらい流れていくとかということをシミュレーションすると、何時間後にどれぐらいのエリアは、どれぐらいの深度の水がたまることになるというようなことが予測されます。

 実際の、もう何十年も洪水に悩まされているわけですから、実際にはこのホットスポットみたいなものというのはあるわけですね。そことシミュレーションのデータを組み合わせながら、リアルにマッチングして、より正確な予測をしていくというようなことがやられております。

 もう一つは、先ほどのシミュレーションのところにも関わってきますけれども、運転手や運転、その都市あるいは地域の運転手の性格やビヘービアを詳細に分析していくということであります。先ほどの交通シミュレーションのようなケースには、この都市やこのエリア、あるいはこの時間帯にはどれぐらいのデモグラフィーで、どういう感じの運転手や性格の人がいるかということを正確にやっていくことによって、先ほどのシミュレーション、エージェント技術のシミュレーションなどが明確に出てくるということになります。

 これが広島市で適用したシミュレーションの例であります。実際に、その高速道路が建設される前に、これができた後にはどうなるのかということを、先ほどのエージェントベースの技術を使いましてシミュレーションした例であります。

 そして、これがあとはテキストですね。特に最近は、そのデータの量というのが増えているというだけではなくて、データの変更には、ちょっとスライドが2枚抜けていますけれども、変化があります。つまり、大量にデータが増えていくというのが、皆さんビッグデータと思われているかもしれませんが、ビッグデータの中の重要な要素に、実はあと三つあります。一つがデータが移動するという、ストリーミングのデータ。で、それからもう一つはデータの多様化ということで、先ほどのマルチメディアデータとかに代表されるように、データが数値データ一元化に換算されたリレーショナルデータだけではなくて、不確定なデータ。

 3番目がデータのノイズです。これが新しい概念でありまして、例えば、特にこれが顕著なのは、ソーシャルネットワークで出てくるデータです。ツイッターとかのデータが分析されて、実際にその震災のときに、より正しい災害の状況や、物の不足というのが、大分そこのツイッターの情報から拾えたということは、皆さん御存じの方も多いと思いますが、実はその中にはノイズも多いんですね。どこまでが本当なのか、あるいはこれ、ほとんどが、もう朝何を食べたとか、どこへ行ったとか、お花が咲いたとか何とかという、もう実は活用という意味では、ほとんど無駄に近いデータがある。その中から、重要なデータ、あるいは参考になるデータをどうやって引っ張り出すかということは、企業にあるビジネスデータから重要なデータを引っ張り出すよりも、何百倍、何千倍と難しいですね。そこでそういった曖昧なデータに対する処理とか、ノイズの除去というのが非常に重要になってくるということが、この例であります。

 ちょっと時間がありませんので、少し飛ばして、最後のコメントだけ。

 それで、ちょっと一旦サマリーをさせていただきますと、適用における課題というのは何かと言いますと、複雑な解析結果、こういったものを実社会における意思決定で役立てるのは困難ということであります。データの量や種類が大量に増えてくるので、分析しようとすればできます。それがこんな分厚いレポートに出て、これを見て、5分以内に判断しなさいといっても、無理なんですね。そうやって人間の処理能力とか、意思決定をする人間の処理能力というのは限られていますので、どうやって、では、この人が次にどういうデシジョンをするためにはどういうデータが必要なのかという部分が実は克服されないと、大量にデータがあって分析しましたね、数学者から出てきたレポートを大量に積まれても、何もできなければ、これは何もしないのと一緒になってしまいます。

 したがって、一つの大きな課題は、意思決定に役立てるためのビジュアライゼーション、あるいは英語で、我々の言葉で言うと、コンシューマービリティーをいかに上げるかというのが重要であります。

 2番目は、そもそもどんな問題に数学が使えるのか、あるいは数学を使ってどんな問題が実は世の中にあるのかという、その双方向のマッチングが非常に難しいことであります。我々、もう6年以上、この数理科学をどうやって世間の問題に生かそうかということで、組織まで出て、世界的なサイエンティストが数百人という単位でやっているんですけれども、それでも明確に、こういうインダストリーの問題に、こういう数学が、アルゴリズムが適用できるよって、マッチングがすごく上手にできて大きな成果を出すのは、奇跡とは言いませんけれども、非常にかなりの部分は偶然によっているところが多いんですね。つまり、両方の知識を持った人がなかなかいないということであります。

 産業界の問題も多岐にわたって、実はもっとドリルダウンしていかなければ、本当の難しいところは出てこないわけでありまして、そこをある程度深く行った人、なおかつ数学も深く分かるということで、こういった、いわゆるパイ型といいますかね、そういう人が必要になってくるわけです。

 3番目が、解析結果というのが出て、非常に美しい。あるいは何かアニメーションが動いて、ああ、面白いねと、直感と合うねと。だけども、先ほど話しましたように、シミュレーションの例のように、これが動いたとして、それが何ぼのものですか、これが企業的な、金銭的な価値にどうつながるのかということが問題でありまして、我々産業界はボランティアでやっているわけではありませんので、当然それをやった結果に対して、対価を頂きたいわけですね。それはただ研究したいとか、数学をやるためにやっているわけではなくて、ビジネスのためにやっているわけですから、それなりの対価をもらう。それなりの対価を払ってもらうための価値があるのかないのかということは、更にその一段、では、この最適化をやって、何十パーセントの無駄が出て、これがあなたの会社にとっては、これだけのブックにヒットする、そしてそれが結果的にどれぐらいの商業的価値があるのかというところまで実は説明しないと、なかなか対価を払っていただけないケースが多いんですね。これは一番苦労しているのが、ここにいる井手君ですけれども、こういったようなところが実は大変な問題であります。

 対策としましては、その技術のパッケージが、こういったものがあるから使いなさいと言われても、例えば昔のそろばんや電卓のようなわけにはいきませんので、それは簡単に使えるようにするということが必要で、実際にその意思決定に役立てる、意思決定をする人がもっと簡単に難しい数学を活用したものを使えるような、そういったパッケージ化。それから大量のデータが、必要なものは必要なところから取ってこられるようなデータの標準化を含めたプラットフォームの構築、こういったものが一つ。

 2番目は、専門のコンサルタント、あるいはそういったものを養成することは必要です。両方、産業界と数学、こういったものが、あるいは少なくともどういう数学を使えばいいか、自分で式を書けなくてもいいけれども、そういった技術者が必要ですし、当然相互の人材交流を含めた促進によって、そういったお話。

 3番目は、産業界とアカデミアの協業による問題解決ということで、こういったものは、この式がきれいなだけでは駄目ですよ、こういうことをやらないとお金には換算できませんよといった形で、より、これもアカデミアと、それから産業界、実際のビジネス界の両方の交流というか、価値観の共有といいますか、価値観の交流、そういったものが必要になってくるということであります。

 すみません、ちょっとオーバーしました。

【若山主査】  どうもありがとうございます。非常に優れておまとめになっていただきまして、感謝申し上げます。

 ただいまの御説明について、御意見とか御質問とかございましたら、よろしくお願いいたします。20分ほど時間を取っておりますので、どなたからでも、どうぞ、お願いします。

【北川委員】  よろしいですか。貴重なお話、ありがとうございました。両方に精通した人材が必要だということで、パイ型とか言われましたけれども、IBMとしてそういう人材を養成あるいは確保するために、何か特定の努力というか、工夫をされているんですか。

【森本所長】  この数理科学に限らず、実はこの研究所の中で、各インダストリーに特化した専門家を養成しております。これ、日本だけの話ではなくて、もちろん今グローバルのIBMリサーチの話をしていますが、呼び名としてはリレーションシップ・マネジャーというようなことで呼んでおりまして、ある程度特定の技術の分野でシニアになったメンバーが、その職業、自分たちの経験を通して、特定の産業界を主に見るような形の役目を与えられます。それがリレーションシップ・マネジャーという役目になりまして、この人間は、会社の中で、今度はビジネスサイドになりますけれども、ビジネスの方では、製品軸と同時に、このセクターというのがありまして、自動車業界だとか電機業界だとか金融業界とかというふうに、営業の方も組織が分かれていまして、それぞれに担当の役員がいるんですが、その担当の役員と直接会話をする研究員、もちろんシニアな研究員ですね、こういったものを配置して、彼らをリレーションシップ・マネジャーと呼んでおります。

 彼らが、直接その特定の業界の問題や課題を一手に集めて、そしてそれを技術的な要求に翻訳をし直して、では、この問題はこの人に聞いたらどうか、あの人の技術を持ってきたらどうかといったようなことで、ある程度プランニングをして、そして研究開発の戦略に反映させていくという役目の人がおります。

 ただし、こういう良い話ばかりじゃない。仕組み的にはいいんですけれども、非常に組織も大きいですし、それから産業界の方も問題が多岐にわたっているので、先ほど言いましたように、そういった努力をして、マッチングは当然されておりますけれども、まだ十分とは言えない。そういう人が何人もいるわけではないというのも、また問題であります。

 それから、そういう人たちは、現在のところは、研究員のプールの中から、シニアの人がそういった役目になって、それから改めて、それでは自動車業界も前に3社ぐらい共同研究をやったから、もうちょっとそういう勉強をして、そのエリアの専門家としてというような感じの、下から持ち上がってくるタイプなんですね。したがって、本当に業界の人が来て、技術を分かるという、その逆側の方のプロセスが今はないので、それをやらないといけないと思っています。

 それを一つだけ実現しているのが、医療関係に新しい技術を適用するということで、メディカルドクターの方を外からハイヤーして、その方に技術をいろいろ勉強させて、マッチングをしようという試みもあるんですが、なかなかそのあるレベルで専門家になった人が来て、いきなりIBMリサーチの数百もあるプロジェクトの勉強をしろと言っても、なかなか難しいという面があります。なので、実は仕組み的にはやっているんですけれども、完全とは言えないです。

【若山主査】  はい、どうぞ。

【西浦委員】  東北大学の西浦と申します。実際の現場に直接接しているということで、非常に切実な問題をよく整理していただいたと思うんですけれども、ちょっと3番に関して、実際どうなのかということをお聞きしたいんですけれども、例えば7ページ目で、一次クラッシュで、例えば相当な無駄が出る。例えばその鉱石の採掘から、その鉱石を使って、販売に至るまで、一つの会社の中で、例えばそういうオプティマイゼーションをやろうというときには、こちら局所的に見れば、その無駄をこちらで全体としてはプラスになるんだから、ここで努力をしてくださいということで、そういう意味ではある種利益相反は起こらないんですけれども、大きなシステムを考えると、ある部分を違う会社、あるいは違う人たちが担っている。そのときに、全体としてはこうなんだから、あなたのところはこうしてくださいよといったときに、非常に困ったり、いや、そういう人はいないとか、あるいは私のところの利益がそれでは減るではないかと。

 そういう、やはりどの問題も大きなシステムを扱われていて、交通渋滞とかですと、国が関わるので、ちょっと違うと思うんですけれども、より具体的な問題ですと、やはり相当その利益、CO2を削減するというグローバルな問題であれば、あんたのところとあんたのところはこうしてくださいといったときに、いや、それは困るというのは相当出てくると思うので、その辺りはどういう苦労と、あるいは解決策の今後の方向としてはどういうことを考えられているかというのがもしありましたら。

【森本所長】  ありがとうございます。これは、冷静に理性的に考えたらこうですねという話と、ただ今御質問がありましたように、それぞれの部署として一体どうしたら本当に最適なのかというのと、常に葛藤がありました。その問題が実は、ここの中ではそういったリアリティーの問題も入ってくるわけであります。

 つまり、我々、現場の話をしますと、例えばCIOのオフィスに行きまして、こういうふうに新しいこういう機械を入れれば、電気代が半分になりますよという話をします。当然いい話なんですけれども、ただ、CIOオフィスはコンピューターのサービスを管理するものであって、電力が安くなっても、私の成績にはなりませんということになるわけです。社長のレベルまで持っていけばいいのではないかといいますと、またそれはレベルが変わっています。

 だから直接の、私たちがサービスを提供する側という一段低くレベルを落としてみると、実際にお金を払ってくれる人にとって何がいいのか。今、正に御質問があったようにそのトータルのクラッシャーとして、そこに40パーセント電力が払われているというのは事実なんだけれども、それが実は、では、その最適化のテクノロジーを持っていく先が、そこの40パーセントの人であれば、いやいや、私はハッピーです。これだけ電気をじゃんじゃん使って、事業をやって、これだけの毎日何トンというものを処理するというのが自分の商売なので、そこでは最適化は要りませんということになりますよね。

 したがって、この難しい苦労は何かと言うと、どんどん理性的に見たらここは当たり前でしょうというところが、本当にそこのお金を払ってくれるというのと一致するところまで、このストーリーって持ち上げないことには、なかなかトータルではバイインされないという問題があります。

 なので、おっしゃるとおり、その問題・課題はあって、解決は十分できていないというのが今の現状です。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【中川委員】  7ページ目をお願いできますでしょうか。ここに数学の応用問題が書かれています。一見すると、情報工学とか制御工学の人たちもかなり取り組まれている分野だと思いますが、数学系の視点というのはございますでしょうか。

【井手部長】  そうですね。例えば、ちょっとこれ、中に埋め込まれてしまっているんですけれども、そうですね、幾つかあるかと思うんですけれども、例えば、キャンペーン最適化というのも、元々は、いわゆる最適化の問題、例えば、まあそうですし、あと、ロジスティックスもそうですし、生産というのもそうなんですけれども、元々は情報というより、ある種の最適化の問題だと思うんですね。で、最適化というのも一つの数学の技術として非常に長い歴史があって、そのアルゴリズムの改善が今のビジネスに非常に役に立つということが最近分かってきたというような感じだと思いますね。

 具体的な例というと、中の資料に、後の方にあったので、一つだけ言いますと、下の方のキャンペーン最適化というところで、マルコフ決定過程という理論を使います。これが数学かというと、なかなか微妙なんですけれども、ある種の応用数学の理論としては、非常に最近注目を集めているものですね。

 そこでは、やはりその計算論的な、非常に計算時間がかかるとか、いろんな問題がありますので、それはアルゴリズム的な改善をしなければいけない。そこはやはりコンピューターだけを知っている人、ソフトウェアを開発する人だけでは全然解けなくて、何か例えばこういうような、ある種の理論を使うと誤差が抑えられるとか、そういうのが非常にビジネス上でも重要になってきているので、その辺での数学者とのコラボレーションというのを期待しているというところです。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【西浦委員】  最初北川先生がおっしゃった人材育成の件なんですけれども、IBMさんでは、例えば広い意味の数学系の大学院生とかという方を、かなり、俗に言うインターンシップ的な形でどれくらい受け入れられているんですか。全世界レベルでもいいですし、日本でもいいですけれども。

【井手部長】  そうですね、どれくらいというと、すぐ数が出てこないんですけれども、各グループにそれぞれ数人ずついるというんでしょうかね。特に、世界のIBMの研究所の中でいうと、例えばイスラエルのハイファ研究所とか、あとスイスのチューリヒにあるチューリヒ研究所とかですと、もうポスドクの方がチームの戦力として組み入れられているような感じで、システマティックにアカデミアとの交流がなされています。

 東京及びニューヨークにあるワトソン研究所でも同様に、最近は非常に学生さんを受け入れて、問題を共有して、学生さんの持っているスキルを使って、弊社の側も何というか賢くなって、問題を解くというような感じで、それはどんどん活発に交流がされています。

【森本所長】  特に数学系はどれぐらい。

【井手部長】  数学系ということですと、これまで正直申し上げて、ピュアマスの方とは、それほど交流はなかったんですけれども、具体例を言いますと、九州大学の若山先生のされているイニシアチブのおかげもあって、最近、例えば九州大学のファカルティーの方から、私たちのグループに来たりとか、そういう交流もあります。

 ただそれは、いわゆる本当にピュアマスの方との交流というのは、今までそれほどなかったので、始まったばかりというのが正直なところです。

【西浦委員】  先ほど、ポスドクと言われたのは、そのペイしている主体は、IBMさんでしょうか。

【井手部長】  幾つか場合がありますけども、通常は弊社の側が払います。ただ、最近御承知のとおりだと思うんですけれども、いろんなプログラムがございまして、それは非常に企業の方から見ても魅力的なものだと考えています。

【西浦委員】  つまらぬことですが、IBMさんがペイする場合は、大学のアベレージよりも、やはり大分高いんでしょうか。それとも、ほぼそれに従っている……。いや、別に答えていただかなくてもいいですけれども。

【井手部長】  うわさというか……。

【西浦委員】  この前ランキングが、世界中のポスドクのランキングの資料を見るチャンスがあって、日本は余りそれほど高くないので。

【井手部長】  ちょっとそうですね。アメリカでPhD、普通に払うアベレージよりも、ちょっと日本は低いというのはありますね。

【西浦委員】  ありがとうございました。

【若山主査】  ほかに。

【北川委員】  先ほど、数学の適用分野が変わりつつあるということをお話しされて、具体的には、例えば機械学習とか最適化、それから自然言語処理が大事だということを言われましたけれども、それに限らず、必ずしも従来の数学だけで対応できない部分というのがだんだんできてくるかと思うんですが、その辺も含めて、IBMの数学の部門というのは、新しい数学のところをやられるのか、あるいはどういう対応をされているのか、ちょっとお教えいただければ。

【森本所長】  全体的には、数学だけではなくて、今はそれを統合して、数値解析とテキスト解析と、それからストリーミングやマルチメディア解析を含めて、今ビジネスアナリティクスという形でくくっております。したがって、何としても数学を使って解くのですとやってしまうと、やっぱり道具ありきということではないんですね。我々からすると、やはり問題ありきであって、それを使って何を、最適な道具は何を使って解くかというふうにいかないと、なかなかマッチングが難しいんですね。

 したがって間口を、やっぱり産業界の問題というところに置いて、そして、その中から、それではどういう専門家を集めてきて、有機的に使って、問題をアドレスしていくかという、そういう観点になってきます。したがって、新しい数学をやっていくかといえば、そのビジネスニーズの結果、こういう数学をどうしてもやらなきゃいけないということがあれば当然やっていくことになりますが、数学を突き詰めるだけのための数学というのは、企業の方では恐らくやらないと思います。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。このスライドでいきますと、一応1、2、3が、対策1、2、3に大体対応しているんだと思うんですけれども、特にこの対策1のパッケージ化とプラットフォームの構築ということなんですけれども、これもう少し詳しく言いますと、どういうことを大体想定されておりますでしょうか。

【井手部長】  これはかなり難しい課題ではあるんですけれども、これまで森本が御説明申し上げたとおり、だんだんその現場でどういうアナリティクスが必要なのかという事例がどんどん今たまってきている、非常に急速にたまってきている状態なんですね。ですので、ある分野だと、もう大体こういうようなインターフェース、例えばデータはこういう形式で持つのが一番効率がいいとか、アウトプットはこういう形でもって表示するのがいいというのが、だんだん知見がたまりつつある。

 ソフトウェアエンジニアの観点から言いますと、そういう、ある種の一般化されたデータ構造から、ソフトウェアのプラットフォームというものを設計することができる。プラットフォームというのは、普通の統計解析ソフトだと、何かもうアルゴリズムがアイコンの中に入っちゃっているわけですね。何々方程式を解くやつとか、何々問題を解くという、そのアイコンの中に入って、そのアイコンをつなげることで計算をできるようにするとか、例えばそういうものは、ある特定の分野だと、ある程度一般化したものを作ることができて、例えば自動車業界ですと、MATLABという製品があって、それを使ってアイコンの中をダブルクリックして、コードをちょっと書き換えると、自動車のシミュレーションができるようなものがある。そういうものを何かある種一般化して、ソフトウェアとして作ろうというのが、今いろいろな場所で、会社の中で行われていることですね。

 ですので、イメージとしてはそういう、何かアイコンをつないで解析のアルゴリズム全体を設計するときに、何かダブルクリックしたら、中身をエディットできるようなものというイメージ、そういうものを作ろうとしているということです。

【若山主査】  どうもありがとうございます。そろそろ、予定していた時間ではありますけれども、何かほかにございましたら、是非。せっかくのチャンスですので。ございませんでしょうか。はい、どうぞ。

【事務局】  最後の17ページのスライドの課題2のところのお話をされたときに、マッチングが非常に難しいとおっしゃったんですけれども、我々文科省としても、いろいろ取組をやっていく中で、非常にそこを苦労しているところなんですけれども、やはり、一人のできるだけいろんな分野の専門家が集まって議論をするよりかは、できるだけ一人の頭の中に多岐にわたる分野の知識があった方が、マッチングというか、融合というか、そういうのが進むということなんでしょうか。

【森本所長】  これはケース・バイ・ケースだと思いますけれども、多分その一人の頭の中に入る量というのは限界がありますので、必ずしもそうではないと思います。ただし、何人かの中には、大勢で話すにしても、少なくとも、少ない人数でもいいので、数人かはその両方の知見、センスを、ちょっとした知っているではなくて、かなりそれなりに深い両方の知見を持った人がやはり少しは必要だと思います。そういうのが、我々現実いろいろなディスカッションをしている中で、単に、それではサービス側の営業の人を連れてきました、研究所の人を連れてきましたといって、ブレーンストーミングをしても、時間の無駄とは言わないんですけれども、話が合わないことが多いんですよね。結果、出てきても、どっちもぴんとこないで終わるとかいうことも結構あります。

 あるいは逆に、フォローアップの相手が出てきても、これは誰がやるのとなったときに、何かどっちも手が出せないというようなこともあるんですね。

 そういう中では、やっぱり、出てくる人はいろんな知見、技術を持った人が集まった方がいいとは思いますけれども、やっぱりその中では数人は両方が見えている人が必要だというのが、私の今までの経験ですね。

【若山主査】  よろしいでしょうか。それでは、今日はどうもありがとうございました。今後のこの委員会でのまとめ等に参考にさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

【森本所長】  どうもありがとうございました。

(森本所長・井手部長退室)

【若山主査】  それでは、続きまして議題2の、数学イノベーションに向けた今後の推進方策についてに移りたいと思います。まずは事務局より説明をお願いします。

○事務局より資料3-1~4について、説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。前半の方は、一応数学・数理科学者がその軸でいろんな連携を模索しているという事実と、それから今後についての御意見を頂戴したような形でして、最後のところは、むしろそれぞれの先生方が、自らの、御自分の研究分野でのことを考えて、その上で数学ということですので、また違った視点というか、共有できる視点も多くあり、提示されているものだと思います。非常に貴重だと思いますので、ただいまの御意見、内容に関しまして、御意見とかコメント、もしございましたら、御質問等あれば、よろしくお願いいたします。15分ぐらい、時間を取っております。

 粟辻さん、これは、意見聴取はインタビューという形でされたんですか。

【粟辻融合領域研究推進官】  はい。個別に面会して、お話をお伺いしています。

【北川委員】  粟辻さんに質問ですが、いろいろヒアリングしてきて、この委員会で議論していないこととか、あるいは違うような方向の発言をされたというようなことはありましたか。

【粟辻融合領域研究推進官】  方向が違うということは基本的にはなくて、数学に対する期待というのは、いろんな分野で様々なものがあるんだなと。その背景には、先ほど申しましたように、やっぱりデータがすごくたくさん取れるようになってきて、取れば取るほど、分からないこともたくさんあるんだということが分かるようになってきたという状況は、いろんな分野に共通する部分があるので、そういう部分での数学への期待というのは非常に大きいのかなという気がしました。

 あと、もう一つ、これに関連して、数学に関する期待はすごくあるんですけれども、今の数学者でそういうのは対応できるのかという懸念を、懸念といいますか、注文を持っておられる方も結構いらっしゃって、数学者の側でも、さっきどこかにありましたけれども、例えばシミュレーションなんかにもっと関心を持つようにすべきだとか、もっと現実の問題に目を向けるようにすべきだとか、そういった数学を研究している人に対する注文のようなものも若干頂いております。以上です。

【若山主査】  よろしいですか、ほかに。

【西浦委員】  数学者というか、数学への要求といいますか、やってほしいというニーズがあるというのは非常に有り難いことで、それはそれで確かにここに挙げられている幾つかの例で数学が深く関与するというのは、それは間違いがないことだと思うんですが、やっぱり、僕が言うよりかは、本当はもうちょっと別の方が言った方がいいのかもしれないですけれども。

 一方で、やっぱりちょっと大きな誤解もあって、例えば3ページの一番最後にあるコメントなどは、やはり数学の役割というのを少し、余りにもそのプールというところに視点を置かれ過ぎているのではないか。本来の数学の力というのは、確かにここにある要求、希望、やってほしいというところにも当然出てくるんですけれども、一つはいろんな数学者の役割というのは、1レイヤーではないので、そこはちょっと誤解してほしくないんですけれども、非常に多層になっていて、数学の力というのは、僕はここに要求されているところで、ちょっと見えないところで結構大きな力を発揮するということは、やはり認識しておいた方がいいのかなと思っています。

 ですからもちろん、非常にアブストラクトでピュアなところからモデリング、シミュレーション、それの解析というところまで、あるいは統計においても、やはりそのデータ解析をするときの非常に基礎的な内容と、実際そのままのデータ処理をするところでのいろんなテクニック、非常にマルチレイヤーで、一筋縄ではないんですけれども、それは現場の方にとっては、数学のイメージというのは、確かにここに書かれているもので近いものだとは思うんですけれども、一方で、まだ見えていない力といいますか、それ、なかなか隠れてしまうので言いにくいんですけれども。この辺が、まだもう少し我々の努力も足りないのかなという印象を持ちました。

【若山主査】  ありがとうございます。ほかにございませんでしょうか。

【鷲尾教授】  ちょっとよろしいですか、私の立場から質問して。

【若山主査】  どうぞ。

【鷲尾教授】  大丈夫ですか。逆にちょっとお伺いしたいのが、この今回の各委員会の主査の方々に聞かれて、余り反応が返ってこなかったといいますか、余り数学に対して、ぴんとしたイメージを持っていらっしゃらなかった分野って、どの部分でしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】  まあ、反応がなかったということはないですけれども、この2ページ目ですか、最後のところに書いてある、最も遠いと思われるであろう、例えば人文とか社会科学の分野の方は、やはり、数学が必ずしも得意ではないから、この分野に進んだんだというのが背景にあるので、そうは言っても、新たなアプローチでいろいろ研究しなきゃいけないという部分が出てきているので、そういうところで、特にこのいろんな、ここに幾つか例が挙がっていますけれども、いわゆる、元々数学との関わりが強い経済学は置いておいて、それ以外の、元々余りなかったような文学の話ですとか、あるいは倫理学ですとか、こういったところでも、こういった文学作品なんかをもっとシステマティックに解明すべきではないかとか、あるいは倫理学でいえば、何が善なのかとか、何か公正なのかといった概念的なものをもっとシステマティックに捉えるべきではないのかといった、そういう観点から、数学の力あるいは数理的なものが必要になってくるのではないかといったような御意見は頂いていますので、ちょっと、そこはほかの分野、ほかのいわゆる自然科学系の分野とは当然色合いが違いますけれども、残りの自然科学系の分野の方からは、いろんな意味で、数学への期待、数理的なものの期待というのは等しく示していただいているのかなと思います。

【鷲尾教授】  私もたまに文系の方とお話をすると、やはりおっしゃるように、数学がよく理解できないというバリアがやはり、またその理系同士の研究者と違った意味で、分野によってはあると思うんですね。その辺の教育の問題もあるのかもしれませんけど、そういったところも中長期的な課題でしょうけども、そういう交流ができるような方向性を何らかの形で、そういう場を確保していかないと、なかなか、せっかく本当は可能性があるのに浸透していかない分野が、特に社会科学系とかこういった文科系に関してはあるのかなという気がするんですけれども。

【若山主査】  どうもありがとうございます。どうぞ。

【小谷委員】  東北大学のグローバルCOEでは、数学と物理と天文の連携に加え、哲学が入っています。最初は哲学が入ってどうなるかと心配していたのですが、思いのほか良い効果を上げています。これを契機にお互いの理解が深まりました。ではすぐに何か共同で研究できるということとは違いますが、人材育成につながる、若手同士のコミュニケーションも随分できましたし、そもそも文化の違いが分かったような気がします。そういう機会がもっとあるといいと感じました。

【若山主査】  ほかにどなたかございませんでしょうか。

【西浦委員】  アウトリーチをいろいろやっていて、非常に強く感じるんですけれども、ここに出ているようないろんなテーマ、あるいはIBMの方が先ほどある本を買えば、次にどういう本を買えばいいか、買いたくなるかとか、そういうところに、例えば高校生に簡単な線形代数の話をするときに、そこら辺の話題までつなげて例えば例示してやると、非常に高校生がもう顔色を変えるんです。

 ですから、やはりここに述べられていることは、先ほど言ったことの繰り返しになりますけれども、非常にベーシックのところでは基本的な、しかも最先端の数学ではないけれども、基本的な数学の概念が全て入っている。そういう意味では、将来の人材育成も含めて、ここに述べられているいろんなことが具体的に非常に簡単な数学でもかなり先端的に、あなたたちの身の回りでこれだけ役に立っていますというのを全て僕は例示可能だと思うんですよ。それを中学生、高校生の人たちというのはほとんど知らないと思う。ですから、そういういい例示をやってやると、まず大学の中ではそれをきっちりカリキュラムの中に取り込まれていないところも多いと思うんですけれども、それによって、ここの問題に結果的に答える、数学専攻をたとえ卒業しなくても、そういうことにつながっていくのではないかと思います。

 そういう意味では、非常にこの例示というのは、ある意味有り難いと感じました。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

 それでは、まだこの委員会もしばらく続きますので、いずれ、いろんなお考えとか後ほど頂戴できるチャンスがあると思いますので、そのときにいたしたいと思います。

 続きまして、数学イノベーション戦略案の議論に移りたいと思います。事務局より御説明願います。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料5-1、5-2について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。ただ今の内容について御議論いただきたいわけですけれども、せっかくこういうふうに論点メモをお作りいただきましたので、まずは順に御議論いただきたいなと考えています。トータルとしての時間は45分から50分近くございますので、皆さんの御意見、たくさん頂きたいと考えています。

 さて、まず論点メモと、それから数学イノベーション戦略の少々分厚いもの、ほかの資料も御覧いただきたいんですけれども、数学のニーズを発掘するための方策ということについて、主に御審議いただきたい論点としては、1、2、あるいは訪問滞在型の研究拠点という話もございますが、そのことに関して、御意見等よろしくお願いいたします。どなたからでも、どういう観点からでも結構です。

 連携ワークショップというのは、この前のオーガナイザー会議でもございましたが、文科省と連携ワークショップ、文科省からの予算的措置はいつも申し上げるようにほとんどなかったわけですけれども、それでも名前があり、しかし非常に有効な大きなものが出てきたという面がございます。そういう意味で、価値の高いものであると考えておりますが、そういう辺りも含めて、御意見頂戴できればと思います。

【宮岡委員】  連携ワークショップの委員などを中心にして、言わば2ちゃんねるではないですけれども、掲示板みたいなものを作って、そこに簡単な問題とか経験とかを割と自由に投稿できるようにしたら、結構情報の共有が、蓄積ができるのではないかと思うんですけれども。

【若山主査】  ここに書いてございます委託事業については、以前にも御説明いただいたと思うんですけれども、ごく簡単にもう一度、粟辻さんの方から御説明いただけますでしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】  はい。ちょっとまだ検討中の部分があるんですけれども、昨年度1年間ワークショップをやってみて、広く課題を数学者の方から、課題といいますか、テーマを吸い上げて開催するというのは非常に意味がありますし、いろんな分野、あるいはいろんな産業界なんかとの連携の裾野を広げていくという意味では非常に意味があると思っておるんですけれども。その一方で、もう少しうまく全体を整理して、どういうところに力を入れてやっていくともっと将来の可能性があるのかとか、そういったある程度中身に踏み込んで、何に重点を置いてやっていくべきなのかといったところの整理も、もう一方で必要ではないかと思っていまして、そういった整理を踏まえて、研究集会とかワークショップとかその他の手法も駆使して、課題を発掘して、言わばニーズとシーズをうまくマッチングして、研究テーマへと仕立て上げていくということが必要ではないかという認識で、そのような活動を委託するのが必要ではないかというのは一つございます。

 もう一つは、これもさっきちょっと出ましたけれども、こういった数学とほかの分野との連携というのは、ある意味、特定の分野の中だけでの研究の進め方とはかなり異質な部分がありますので、ワークショップの運営一つとっても、一定のやり方といいますか、ノウハウ的なものがありますから、そういったものが、これまではどうしても個人ベースのところに情報がとどまっていたという嫌いがあって、それをうまく改善できるように、先ほどちょっと宮岡先生からも御提案がありましたけれども、そういう情報のうまい共有の仕方みたいなものも必要になってくると。そういった情報の共有とか、あるいは前提として、うまく情報を整理して、使いやすいように集約するとかそういったところもある程度専門的な知見が必要だろうと思っていますので、そういったものも含めて考えております。

【若山主査】  どうもありがとうございます。当然のことながら、ニーズ対応とシーズ提供というか、それは必ずしも独立にあるわけではなくて、それが相互に関わって発展していくことが多くあると思うんですけれども、その辺りのことについても何かございますでしょうか。

【小谷委員】  昨年度ワークショップを実施され、数学と他分野の連携のシーズがたくさん挙がってきたこと、非常に良かったのではないでしょうか。シーズは、もう少し拾い上げていく必要があると思いますので、今年も続けていただきたく思います。一方で、いつまでもシーズ探索、ニーズ探索だけでは先に進めないので、そこを一歩先に進める取組が必要だと思います。

 数学に限らず、既存分野の枠を越えて新しいことをやらないと、日本発の科学技術イノベーションは生まれないと言われているわけですけれども、どうやったら進められるかという解は、今のところ見えていないんだと思います。それを数学のように、余りお金がかからないところから、モデルケースでやってみよう、パイロットでやってみましょうというのが、そもそもこの数学イノベーションに期待されている役割の一つではないかと思います。2番目の委託事業をどういう形でやれるか分かりませんけれども、去年のワークショップの結果を整理していただいて、テーマを絞った幾つかに関して、どうやったらその先に進めるかを、オン・ザ・ジョブ的というか、研究を進めながら、一方でそういうツールを探るような、何かそういう事業があるといいなと思っています。

【若山主査】  どうもありがとうございました。ほかにどなたかございませんでしょうか。

【中川委員】  私も、そういう実験をする場のようなものが、こういう委託事業を通してできればいいかなと思います。まずはやってみるという意味で。ワークショップの議論というのは、余り大勢集まりますと、発言できない人も結構いますので、そうではなくて、本当の議論をするためには、多分集まるのはせいぜい数人とか10人までだと思います。そういう会議体をどういうふうに運営したらいいか、運営の仕方も含めて、どうすればうまくいくのかという実験の場ができれば、うれしいと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。そうですね、これまで私たちの多くがなじんできました、いわゆる数学の数理研であるような研究集会とはちょっと違う。それですと、ある程度問題の共有がお互いに何となくできていて、あの人は何々をやっている人なんだということは大体頭に入っていて、その上でやっているという特徴がありますけれども、今回はそこは随分と違うということもございます。それから、私、皆さんお気付きのように、ニーズ、シーズというのと、実際にやるときの人のマッチングというのはまた、不可分ですけれども、別の観点も必要だということで、今、中川さんがおっしゃったこと、大事だなと思います。

 ほかにございませんでしょうか。

【森委員】  今、数理研のことが話に出ましたので申し上げます。確かにこの数学連携ワークショップというのは、数理研でやっているようなものとはちょっと違いますけれども、このようにいろいろ試行錯誤をするというのは大事だと思います。それで、3月の日本数学会年会のときの数学連携ワークショップ説明会で、ふと思い付いて実行したことがあります。数理研では、今年度の開催ワークショップが約80件既に決まっておりますけれども、その代表者の方たちに声をかけて、もし興味があれば数学連携ワークショップ募集に積極的に応募してくださいとお願いしました。数理研の活動は、数理科学といっても純粋数学が多いですから、どれくらい応募が出てくるかは分かりませんけれども、ちょっと応用に活動の幅を広げるような動きが少し出てくるといいなと期待しております。

【若山主査】  ありがとうございます。

【安生委員】  関係者間での共有・活用という、丸1に書いてあることに関連するのですが、どちらかと言うと、数学に関係ない人宛てにも発信する活動がもうちょっとあった方がいいのではないかという気がしています。数学的な研究活動として行った内容やその事業の公表に際し、その当事者周辺の人だけが分かるというよりも、例えばどういう人が集まったとかということも含めて様々な人たちに広く伝える手段を設けることが大切だと思います。ホームページから始まって、手段はいろいろとありますけれども、情報の発信はすごく重要だと思うので、なるべく情報を開示して、開かれた形で、誰でもアクセスができて、内容がちょっと興味あったら、ちょっと聞いてみようかなと思えるような宣伝方法というのも大事だと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。杉原先生。

【杉原委員】  今、中川先生がちょっとおっしゃったことで、委託事業に関係することですけれども、委託事業で、連携して、5年間ってあるんですけれども、問題を抽出すると同時に、それを実践的に移すようなところまで持っていかないといけない、多分。そのとき、5年間やるのはなく例えば1年間ぐらいでもってまず問題を抽出させておいて、コンペティションをやらせて、その中でまた抽出して、良いものに予算を大量に付けるとかいうような、今までの従来のぼんと丸投げするのではなくて、きちんとこちらでモニタリングしながらやっていくようなシステムをちゃんと作る必要があるのではないかというのをちょっと思いました。

 つまり、今までみたいにぽんとお金を渡して、それでただ評価をするだけではなくて、組織を改編することも含めた形でもって運用していくというのが重要かなと。

【粟辻融合領域研究推進官】  ある程度文科省も、今おっしゃったように、ここにはある意味、ソフト的なものをうまくいかに進めていくのかということが必要とされていると思いますので、単純に個別の分野の研究を進めるというのではなくて、うまくいろんな分野にあるかもしれない課題をうまく発掘して、それをうまく先へ進めていくという環境整備を目的としていますので、実際の進捗なんかも見ながら、文科省の我々とも十分密接に連携を図りながら、やっていく必要はあるとは思っています。

【北川委員】  この連携研究ワークショップですが、最初、当初、1年、2年はこういう形で非常に広く、言わば何でもありでやっていくのはいいかと思うんですが、最後までこれでいくとやっぱりばらばらで終わってしまうのではないかという危惧を感じます。

 それで、私が知っている範囲では、海外のこういう関係のプログラムでいいと思うのは、やはり特定のテーマ、必ずしも一つではないと思うんですが、ジオサイエンスであったり、ファイナンスであったり、リスクであったり、そういうのを一つ決めて、数人、普通三人ぐらいだと思うんですけど、それらの人が1年間面倒を見てて、その中でいろいろやっているんですよね。

 すると、ある程度その範囲では、幾つかつながりもできるし、交互の交流もできるわけで、そういうのをだんだん考えていって、一つである必要はもちろんないですが、グループ化することによって効果が出てくるのではないかと考えます。

【若山主査】  はい、どうぞ。

【西浦委員】  ちょっと今の北川先生とも関連するところがあるんですが、実は、私もちょっと出したいなとは思っているんですが、例えば、3年計画とかいうようにできないんでしょうか。つまり、1年であるテーマで少し実践したい、特に2番目の議論の段階から実践ということでいうと、もちろんワークショップだけでやるのではなくて、そのフォローアップもやるのですけれども、1年という縛りではなくて、計画として、例えば5年間これがもし続くと仮定した上でなんですけれども、3年ぐらいのスパンでやらせてもらえるというか、そういうプロポーザルは可能なのかどうかですね。

 ですから、もちろんその議論から実践といっても、なかなか遅々として進まない場合もあるし、どういうメンバーがいいのかというよりも、やりながら考えていかなくてはいけない面もあるので、ちょっと連携ワークショップのこの趣旨にそぐわないような気もするんですけれども、本当に実践ということを考えると、1年でどうやるのがいいのかというのは、なかなか頭の中でぐるぐる回っちゃいまして、それで今ちょっとそういう、数年のスパンというのがあり得るのかということ、質問ですけれども。いや、それは困ると、やっぱり事業というのはそういうものではないということであれば、また考え直さないといけないんですけれども。

【粟辻融合領域研究推進官】  ワークショップ自体は、1年ごとに募集しているものですから、その中で、それ自体が3年とか4年の計画ではないんですけれども、当然、個々のこのワークショップのテーマといいますか、内容については、単にもう少し長期的な観点から、恐らく、例えば今この段階にあって、それを更に議論を深めていく段階であったり、あるいは議論を始めたばかりで、もう少しこの議論を積み重ねないと、そもそも研究テーマとして適切なのかどうかとかいうのがまだ分からないような段階だったり、いろんな段階のものが昨年度1年間やったものの中にもありますので、当然一定の、3年なら3年の計画の中でどの段階のものなのかというのは、いろんなものがあっていいのだろうと思っています。

 委託事業の方は、その中で、もっとこういった幅広くワークショップを開催して、その中には必ずしも限らないのかもしれませんけれども、力を入れて、こうやっていくと、将来の可能性があるのではないかといったものを中心に、もっとこれを加速するようなことをうまく支援していきたいと思っておりますので、今、西浦先生がおっしゃったように、この昨年度1年間やりましたワークショップ自体は1年間ごとのものですけれども、この中で、こういうテーマで初めてやりましたというものもあれば、もうある程度積み重ねていて、実際に実践にもある程度入っていて、それをフィードバックした議論をするというようなものもあってもいいのかなと思います。

【若山主査】  ちょっとコメントですけれども、この連携ワークショップの方は、文科省の方がオーガナイズして、全体をやっているということよりも、むしろそれぞれがこの趣旨に添って、これだったらワークショップと文科省と共催してもいいなというふうなものが出てきたとか、あるいはそもそもやろうと思っていた。思っていた上で、こういうチャンスがあるので、せっかくだから一緒にやろうというものが多かったわけですから、そういう意味では、何らかのコントロールがあったり、そういうことは全くなかったですし、そういう意味では、先ほど北川先生、御指摘されたんですけれども、ばらばらやっているというのは、それなりに今のところ意味がちゃんとあるというふうに考えていいのではないかと思っています。

 いずれ、この文科省ワークショップという名前を付けなくても、それぞれがそれぞれの目的を持って、問題発掘でもいいですし、シーズの探索でもいいですし、そこで問題を、やはりある程度育ってきたものを議論するというのでもいいですし、そういうものが広がっていけば、最終的にはとても良い姿になるんだと考えています。ちょっとこれ、技術的なコメントです。

 ほかにございませんでしょうか。

【大島委員】  ちょっとよろしいですか。質問なんですけれども、この委託事業は、産業との協働によるイノベーション創出というのも含まれているので、これはやはり産業界の方も含めて、やはりプロジェクト、プログラムとして申請するという、そういう形を考えていらっしゃるんですか。

【粟辻融合領域研究推進官】  このプログラム自体は、数学の連携相手として、いわゆるほかのアカデミアの、数学以外の分野だけではなくて、産業も含めて考えているわけですけれども、そんな中で、産業との連携も含めて、数学が数学以外のところと連携して、どんなものを課題に取り組むのがいいのかとか、そのために具体的にどういった研究テーマで研究を進めるのがいいのかといったものを中心に作業といいますか、事業を進めていただくということを考えています。

 ですから、個別具体的な、実際に数学者と企業の方が共同研究をするという、研究そのものを直接支援するというものではなくて、そこに至るまでに必要な課題の発掘とか、研究テーマの抽出とか、そういったものをこのプログラムでは直接の対象にしているということでございます。

【大島委員】  どうしてそういう質問をしたかというと、もちろん課題の発掘というのも大事だと思うんですけれども、おっしゃっていた環境の整備、いわゆる組織として、やはり成功させるためにどうするかという議論は、ずっといろいろな方々からの研究者と本日のIBMの方からも話があったように、一つ重要なファクターだというお話があったと思うんですね。そうなった場合に、多分レベルによるんだと思うんですけれども、学術界のいわゆる研究者と産業界の方とですと、やはり求めているアウトプットが多分違うと思うんですね。なので、それを考えると、それをどうやってプログラムとして運営していくかと、やはり少し違うのではないかなと感じるんですね。

 なので、それをどういう形で取り扱ってくるかというのは少し考えた方がいいのではないかなと思って、ちょっと質問させていただきました。

【若山主査】  論点メモを尊重してということだったんですけれども、既に1、2とまたがるような方向に行っていますが、それは御容赦いただきまして、今、大島先生がおっしゃったこと等についても含め、御発言ございませんでしょうか。

【中川委員】  この事業の評価基準はどういうもので、これがうまくいったかどうかはどのように判断されるのでしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】  いかにうまく課題とかテーマを発掘して、それが実際の研究につながっていくということがこの事業のミッションですので、実際に、では、こういったところで、事業でいろいろ検討して、活動、研究集会とかワークショップを開いて、そこで出てきた、そこでうまく数学とほかの分野や産業とのコラボレーションによる研究テーマが出てきて、それが実際の研究活動へとつながっていくということが直接的なアウトプットとなります。

 ですから、具体的にこういう研究成果を出すとか、ああいう研究成果を出すというところまでではなくて、要するに研究の入り口までうまくつなげていくということを直接的な目標にしているということです。

【中川委員】  その連携をする上での、いわゆる仕組みの是非のようなものがアウトプットの評価基準であると考えてよろしいのですか。

【粟辻融合領域研究推進官】  ですから、そういう連携がうまくいって、そういう研究がうまく始まるような環境が整備されていくということを直接的な目標だと考えています。

【若山主査】  ただその連携がうまくいったかどうかというのがポイントになりますので、ある意味では、先ほどパイロット的なというふうなこともおっしゃいましたけれども、それなりの成果というか、うまくいったと感じられる、それでかつ、テーマとしては幾つかの数少ない例でしょうけれども、それはある程度普遍性を持っているというか、そういう仕組みを見せられるかどうかというのがやっぱりアウトプットなのではないかというふうに、私は個人的にはそう思うんですけれども。

【大島委員】  よろしいですか。感じとしては、いわゆる課題をきちんと見付けて、その課題に対して、いろんな分野の方ですよね、数学の方、数学をベースとしたそういう方々と連携しながら、そういう仕組みを作って、で、この委託事業が例えば終わった次のステップとして、それがきちんと指導できるという形になっているのを示されれば、この事業としてはよろしいという形なんですね。

【若山主査】  今の点、重要な議論に入っているわけですが、1、2を同時にやってみたようになりましたけれども、2のところをちょっと御覧ください。主な現状として、西浦先生がお進めになっている、さきがけ・CRESTの件もございます。それを含めて、少し御議論、特に議論の段階から実践の段階へ、元に戻るような話にもなりますが、御意見頂戴できればと思いますが、いかがでしょう。

 先ほどの年間1,900万円というこの委託事業にも深く関わりますし、これまでに出てきましたし、例えば九州大学もやっておりますスタディグループみたいなものというのも議論の段階から実践へ持っていく一つの方策だと思われますし、もちろんCREST・さきがけはそれを相当実りある形で実践されているのではないかと思いますので、これが続いていくといいなと、多分皆さん思っておられると思うんですね。

 そういうことあるんですけれども、何かほかにございませんでしょうか。

【森委員】  質問という方が正しいかもしれませんけれども、先ほどの北川先生がおっしゃっていた、もっとテーマを決めてというのは確かに有力な話かと思うんですけれども、さきがけとかCRESTはそういうことをやっているのではないんでしょうか。だとすると、ここでは、先ほどおっしゃったように、もっと種まきのレベルのことをやっていてもいいのではないかという気もしています。どういう立場が良いのか、ちょっとそれが私自身ははっきりしていないですが。

【若山主査】  きっと、やれることは全部やるというのが、やっぱり今は必要なんだという気はするんですけれども。

【中川委員】  メインが何かだと思うんですね。研究するテーマ自体なのか、それとも連携の仕組みなのか。今回は、僕も何となく仕組みのような気がします。仕組みをどういうふうにして作れば一番いいのかという。

【森委員】  私もそういう印象を持っていますけれども。

【大島委員】  よろしいですか。CRESTもやはりグループを組んでやられますよね。その観点だと、今まで議論していた中で、例えばいろいろな課題みたいなものが多分CRESTのプロジェクトとして出てきていると思うんですね。もちろん成功して、非常に良かった点ということですね。あと課題というのも出てきていると思うんですけれども、それはこの20年度から始めたCRESTではどういう形で出てきているんでしょうか。多分それも参考にされると、例えば後者の組織に、もしこの委託事業が協調しているということであれば、それに対して、もう一つの参考例になるのではないかなと思っています。

【若山主査】  西浦先生。

【西浦委員】  一番強く感じるのは、当たり前なんですけれども、物理的に同じ場にいる。これは極めて重要で、それがどういう組織形態ですかね、CRESTの中での縛りなのか、さきがけの領域会議なのか、それを言うのは別にしまして、一定の時間、余り短いのは好ましくないですけれども、違う分野あるいは産業界の人たちが、やはりお互い頭を、そこで知恵を絞りながら、物理的に同じ場を共有し時間を使う、これはもう絶対、とりわけ数学の場合には、分野を問わず不可欠だと。

 それで実際、これは余り具体例を全部列挙はしませんが、さきがけ、あるいはCRESTで皆さん、そういう、その結果として、いろいろ成果が出ているわけだし、CRESTの場合ですと、実際その企業と先ほど出ましたので言いますと、そのCRESTのチームが企業の方に、正にその自分から向こうに、ある種一定の期間を置いて、滞在して、ラボ訪問と例えば称しているんですけれども、そういう形で時間と場所を共有して、ある程度持続的にやっていく。それから新たなものが出てくるし、企業さんとの連携、共同研究も生まれつつある。

 あるいは医療の面ですと、やはり同じように、データが一番扱われるのは放射線科のお医者さんのようで、そういう方と実際数学サイドの人が、これもやはり物理的に時間を共有するというのが圧倒的に大事で、現場、だから臨床というのは現場に行かないと分からないわけで、そこにおいて、やっぱり時間と場を共有しているんですね。だから、CRESTというのはそういう意味でそれが制約としてそういうことをやるということで関わってきますので、結局、今、オールジャパン的なある種のテーマを設定して、そこに拠点のところに集まるということができないという状況であれば、結局そういう、今はそういう形でこちらの方から動いていって、場と時間を共有する。それが仕組みとしてさきがけとCRESTというのは、今のところある程度かなり機能はしていると、そういう現状だと思います。

【北川委員】  CRESTの話が出ていて、確かに森先生が言われたように、そういう機能を果たしているかと思うんですが、やはりこのワークショップの中から出たのがスムーズにつながっていくような形になっていればいいと思うんですが、現状のCREST、やはりそこまでいっていないのではないか。やはりCRDSとかで、かなりその全分野の中の競争を経ていって、ライフサイエンスとかであれば、たくさん走っていて、どこかでということはあるかもしれないけど、数学はまだそこまで確立していないと思うんですよね。

 だからやはり、ここで面白いのがあれば、どこか次にフィージビリティースタディをやったり、更に進む、何かそこのシステムはやはり考えた方がいい、もうちょっと強化する必要があるのではないかと思う。

【宮岡委員】  関連して、質問なんですけれども、この間、連携ワークショップのオーガナイザー会議がありまして、多分議論なさったと思うんですけれども、その中でお互いに関係ができたとか、そういうことはなかったでしょうか。

【若山主査】  連携ワークショップのオーガナイザー間同士の。

【宮岡委員】  ええ、同士ですね。

【若山主査】  同士ですね。そうですね、関係ができたかどうかはちょっと分からないですね。それなりに皆さんお互いの会話が進んだりということもありましたし、その後お昼御飯を食べに行かれた人もいらっしゃいますし、進んだかもしれません。

【宮岡委員】  なるほど。割とそういうことで、お互いに関係ができて、マージしたりということもあり得るかなと思ったんですけれども。

【北川委員】  CRESTのいいのは、やはり領域代表者の人がその辺の機能をうまく果たしていて、いろんな複数のグループの間の交流をよくするように努力されていると思うんですね。だから、非常に多い、たくさんあるので難しいけれども、ある程度そういうことが必要だと思います。

【西浦委員】  確かに今のJSTは、数学領域では一つしか走っていないために、やはりかなりのテーマが落ちこぼれているわけです。ですから、全トピックというのは、それはできないので、ではその中で、どういうのがこれから伸びるのか、あるいは今後新たにどういうものをピックアップしていかなくちゃいけないのか、こちらの方の問題は、いろいろ逆に出てきているわけで、もちろんそのたくさんの領域がこれまで走っていれば、それまでの蓄積と経験が当然あって、どうこれからステアしていくかというのもかなり見えてくるわけですけれども。まずその辺、そのJSTで今一つ走っていますけれども、どちらかと言うと、全数学とは言わないけど、かなり広くカバーしてしまっているので、そういう意味では、どういうんでしょうか、ある種のどうやればいいか、あるいはどれが伸びそうか、あるいはどれをまだ落としているかというところを同時に探索しているようなところもある。だから、ほかのこれまでの領域、あるいはほかの領域のライフやナノとかの領域設定とはかなり種類が、雰囲気が違うのではないかなという感じは持っています。

【若山主査】  ありがとうございます。それと、今回の、先ほどの委託事業ですけれども、委託事業の中で、この横目で見るというわけではないですけれども、この文科省の連携ワークショップをやはり見ていくという部分もあると思うんですね。そこは大事な点の一つかなと思っています。

【安藤基礎研究振興課長】  今回の新しい予算の中身、いろいろ御意見いただいて、本当にありがとうございます。まだ事務局でもいろいろ、どういう形でこれを展開していくのかというところは悩みながらやっているところでして、少なくとも平成23年度のワークショップと同じようなやり方だけということでは全く持たないと思っているので、そのやり方は残しつつ、少し重点化させていくという仕組みをどうやって考えるのかというところがポイントだと思っております。そのときに、こういう形でいろいろな方々が共同作業をしていただいて、何か課題の掘り起こしだけではなくて、重点的なテーマ設定につなげるという、そういう議論をしていただくということは考えていかないといけないんですけれども、今の1,900万の予算額では、やれるとしてもそのぐらいだろうと思います。かつ、更に深めるとすれば、重点的にテーマを設定して、そこを少し継続的に特定のグループに任せて研究を進めていくという形、そこを試行していくとすると、今のこの19年度からさきがけでとか、20年度からCRESTでやっているようなこういったアプローチというか、こういうツールを使いながらやらないと、継続的なものというのは多分難しいと思います。

 逆に言うと、これにつなげるようなテーマは何だろうかというところは、こういう場で議論を深めていただければ、場合によって、またこのCRESTの中に展開をしていくとか、そういったこともやっぱり考えていかないといけない。

 今日は非常に多くの御意見を頂いたので、「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」の進め方については、今後の展開も考えた上で、もう少し、先生方の意見も今後伺いながら固めたいと思います。

 それと並行して、その先の展開については、何をテーマとして具体的に進めていくべきかを明らかにしていかないといけないので、これはどうしてもこういうテーマだと、ニーズオリエンテッドなところは捨てられないと思いますので、そうすると、若干分野を特定しながらということになるかもしれませんけれども、そういうところを順次いろんな分野に広げるということも将来的な念頭に置きながら、まずどこから始めていくのかというところでも結構ですので、どういうところを重点的にやっていったらいいのかというところは少し先生方の中でも議論をして、アイデアを頂ければなと、そんなふうに思っております。

【鷲尾教授】  すみません、ちょっとお願いなんですけれども、もし、今後こういったワークショップを続けられるのであれば、これは公開なんでしょうか。一般には公開していらっしゃいますか。

【粟辻融合領域研究推進官】  各ワークショップの広報は、それぞれ各ワークショップの運営責任者の方にある程度お任せしていますので、登録等していただければ、基本的には出席は可能だと思います。

【鷲尾教授】  ああ、そうですか。この今回のテーマを見ましても、非常に私が所属している機械学習とかデータマイニングの分野の研究者にとっても、共通する技術とか理論を使ってらっしゃる点は非常にたくさん並んでいますので、もしどこかでメーリングリストみたいなものを頂ければ、私の方でも関連する私の分野の興味のありそうな研究者にお送りしたいと思うんですけれども、そういうことはできますでしょうか。どこかが集中して管理されていればなんですけれども。

【若山主査】  可能だと思います。完全に可能だと思います。

【鷲尾教授】  非常に興味があるテーマ、たくさん、私の知り合いとか学会関係あると思いますので、是非、できればよろしくお願いしたいと思います。

【若山主査】  先ほど、安生委員もおっしゃいましたけれども、オープンであるということは、いつも大体オープンなんですけれども、オープンであるのと、それを皆さんにちゃんとお伝えしているというのとは少しギャップがありますので、そこの御指摘だったと思うんですね。

【安生委員】  伝わっていないともったいないですよね。

【若山主査】  はい。どうもありがとうございます。

 もう少し論点のところで、今日は、まだまだ尽きないことはあると思いますし、それから、これをいつも強調しますようにイノベーションに必要な人材の育成、これがなくてイノベーションはないというぐらいに、私どもは考えているくらいなんですけれども、時間もあっという間にたってしまいましたが、随分御議論も頂きました。今日特に、新たに、今までなかったようなことで、今日森本さんがIBMの内部における人材育成みたいな部分を少しお話しになりましたけれども、追加的に何か御意見等ございましたら、御発言お願いしたいと思いますが、いかがでしょう。中川さんのところでは人材育成ですね、少しどんなふうなことを思われているか。

【中川委員】  企業の場合ですと、企業の問題を解決するためにどうすればいいか。そのときに数学が必要であれば、数学のどの分野とリンクさせるかという、そのつなぎですね。そこのところをどうするかというのが重要だと思います。それは、才能なのか教育でできるのかは分からないですけれども、そういうものがうまくできる仕組みがあれば、問題解決が早くなると思います。

 もう一つは、今回の事業の成果の一つとして、人材も一つの成果になると思うんですね。こんな人材を育成したというのは。だから、研究成果だけではなくて、そういうほかの分野とうまく連携できるような人材が、こういうチームからたくさん出てきているというのも、一つの大きな成果になると思います。

【若山主査】  おっしゃるとおりだと思います。ただ、人材育成ってやっぱり時間がとてもかかることで、時間がかかるからこそ、すぐにでも始めないと、いつまでたっても始まらないというところがありますので。

【中川委員】  大学でできる人材育成と、大学ではできないようなものをうまくどうミックスするのか。今回の事業は、多分、大学でも企業でもできないようなものを、アカデミアと企業が連携して、育成するということも焦点の一つになると思います。

【若山主査】  ありがとうございます。何かほかにございますでしょうか。必要な人材の育成ということでは、数学専攻の大学とか大学院とか諸科学における数学との協働に必要な人材育成、産業界にということで、今日、森本さん、中川委員からお話を頂いたわけですけれども、ほかに、以前から諸科学、産業との協働による課題解決型研究が評価されるようにするには何が必要かということで、ジャーナルを作るとか、トップジャーナルを利用してやるんだという北川先生の御発言もございました。これらの点も、やはりこういう活動を続けていくことによって、おのずと評価がされていくようになるとは思うんですけれども、何か御意見等ございましたらどうぞ。

【粟辻融合領域研究推進官】  ちょっと1点だけよろしゅうございますか。特に人材育成でやはり一番問題になるのは、育成した人材がちゃんと行って活躍する場があるかというのが多分一番の人材育成が本当にうまく機能するかどうかということが一つの条件ではないかと思いますけれども。ここでいうと、この丸1のところの、二つ目の丸1のところに、キャリアパスの構築というものが書いていますけれども、九大さんなんかを中心にやられているインターンシップなんかはそういう意味では非常に効果的なのかなと思っておるんですけれども、例えばそれをもっと何か、もっと促進するには例えばどんな環境が必要なのかとか、あるいは私が若山先生からお伺いした話かもしれませんけれども、頂いた意見かもしれませんけれども、インターンシップを進めるには、当然企業との間のマッチングが必要で、それにはそもそも教員が企業と関わり合いを持っていなければなかなか難しくて、それを進めるには、例えば学生だけではなくて、教員とか研究者がその企業の方に一定期間行って、研究なりインターンシップ的なことをするというのはもう非常に有効なのではないかというようなことを、確か御意見を頂いたような記憶があるんですけれども。そのようなものを何か支援するような環境としては、例えば具体的にはどんなものが一番有効、あるいはそもそも現実的なのかどうかということも含めて、ちょっと教えていただければと思いますが。

【若山主査】  一例でいいますと、今日ちょうどIBMの方もおっしゃっていましたように、いわゆる純粋数学との付き合いはほとんどないんだと。しかし、私たちのところから教員が1か月程度IBMに滞在しまして、ですから最初にその共同研究ありきで滞在したのではありません。むしろその仕組み、それから学生たちをインターンシップに行かすんですから、どういうことがあるのかということを知っておかなきゃいけないということで、森本所長と随分前にやってみようということで話を進めたわけですね。

 そのときに、九州大学の方の規定をどう拡大解釈するか、それからIBMの方でどういうふうに、いろんな面で、森本さんにやっていただくかということで、やはり少し議論が必要でした。単に出張というのもなかなか難しいですし、共同研究でないのに、向こうが委託とか共同研究費を出すのも難しいので、その辺りのプロモートの仕方は、何とかやってしまいましたけれども、余り安定的な方法ではなかったですね。そういう意味で、そういうのがスムーズにできるような形が取れるといいなと思いますが。

【宮岡委員】  それは例えばですね、法学や経済だと本当にインターンシップ制度は外国ではものすごい発達していますよね。そういうふうな法制度を少し研究していただいて、そういうのが数学なんかにも適用できるような、いろんなそういうふうなものがあるかどうかというのはちょっと調査していただいたらどうでしょうか。

【若山主査】  そうですね、今日も話題に出ましたけれども、例えばIBMなんかだと、チューリヒにしてもそうですし、ニューヨークのワトソンでもそうですけれども、完全にポスドクとかドクターコースの最終学年の人たちを戦力としてやっているものですから、給料もものすごく出しているわけですね。そういうところにまでまだなかなか日本はいっていなくて、ある程度教育の一環というか、人材育成をお手伝いいただいているというところがあるので、そこのところもちょっと考えないといけないかな。

【宮岡委員】  アメリカの法科大学院だと、日本から行った場合は2年間ですけれども、後半の1年は本当にローファームに所属して、給料をもらうわけなので、それで単位をもらっているわけなので、そういうことは制度的に多分可能なのではないかと思うんですよね。

【若山主査】  きっと可能なんだと思いますが。

【北川委員】  よろしいですか。日本の場合はそもそも就職するのが難しいということがあるかと思うんですが、情報学の人も同じだと思うんですが、入って、当初便利に使われると思うんですね、ライフ系。最後までそのキャリアパスができていなくて、ずっといる、適正な形でいる場ができていないと思うんですね。だから、一つはやはり日本の場合って、例えばアメリカだと規制庁があって、医薬とか食品安全性のところに統計の人だけで数百人いると思いますけれども、日本は厚労省10人ぐらいしかいないとか、数理科学でも情報でも統計でも、全部何か制度としているというようなところがないんですね。だけど、海外はそういう形になっているところもあって、そうすると自然にできるんだけど、必ずしもいい形ではないけど、やはりそこも考えていかないと、いつまでたっても方法とか汎用的な分野、方法の学のところが日本の縦型社会では定着しないのではないかと思います。

【西浦委員】  ちょっとよろしいですか。人材育成のとき、やはりこれは自戒なんですけれども、人材育成をする側、つまり大学の先生ですけれども、そっちの人材育成も。まあファカルティーディベロップメントとかいろいろあるんですけれども、末端まで浸透しているかというと、やはりちょっと僕は十分でない。もちろん九州大学さんにしても幾つかの大学は非常にそこは熱心に、しかも成果が出ているという形でうまくいっているところも多いんですけれども、一方で、まだまだ進んでいない。だから学生にどう接し、それがどういう意味があるのかというところを、末端の大学の先生がある程度もう少しきちんとできる、あるいはそういう人口が増えれば、やはり人材育成、大分雰囲気が変わるのではないかと思っています。これは自戒ですけれども、そういう感触を少し持っています。

【若山主査】  ありがとうございます。ほかに論点として、知財に関すること、それから情報の発信については既に先ほども少し出ましたけれども、これについては、今後、また議題として取り上げてまいりたいと思っております。

 しかしながら、最後に何か、ここを今日の時点で御発言しておかなければということがございましたら、お願いいたします。よろしいでしょうか。

 それでは、御審議いただきました内容を踏まえ、資料を再度修正させていただきまして、次回に反映していきたいと考えております。どうもありがとうございます。

○粟辻融合領域研究推進官より、今後の予定について説明があった。

【若山主査】  それでは、本日の数学イノベーション委員会、これで終了したいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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