数学イノベーション委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成24年3月15日(木曜日)10時~12時15分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 数学・数理科学と産業との連携・協力に必要な方策について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、大島委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、中川委員、宮岡委員

文部科学省

森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、内丸基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官、澤田基礎研究振興課課長補佐

オブザーバー

東京大学先端科学技術研究センター 西成活裕 教授

5.議事録

【若山主査】  おはようございます。定刻となりましたので、第5回の数学イノベーション委員会を開催したいと思います。本日は、御多忙の中お集まりいただきまして、ありがとうございます。

 本日は、青木委員、安生委員、西浦委員、森委員から御欠席をされるとの御連絡を頂いています。それでは、本日の議事を進めるに当たり、事務局より配付資料の確認をさせていただきます。粟辻さん、お願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】  すみません、その前に事務局の紹介をさせていただきます。研究振興局担当の審議官の森本の方から一言御挨拶させていただきます。

【森本研究振興局審議官】  1月に大臣官房審議官を拝命いたしました森本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。この数学イノベーションの委員会、かなりいろいろな方から幅広く御意見を頂き、そしていよいよ取りまとめの段階に来ているということでございますので、是非忌たんのない御意見をいただければと思います。この数学が社会を変えることができるという数学イノベーション、新しいアプローチだと思いますので、大変楽しみにしておりますし、期待をしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【粟辻融合領域研究推進官】 基礎研究振興課の課長補佐をしております澤田も紹介させていただきます。

【澤田基礎研究振興課課長補佐】  澤田と申します。よろしくお願いします。

○粟辻融合領域研究推進官より、配付資料の確認があった。

【若山主査】  それでは、議事次第に沿って議題に進みたいと思います。まず、前回まで諸科学分野の研究者の先生方、それから、本委員会の委員の中で数学・数理科学以外を御専門とされている方々、産業界の方の御意見を承ったわけです。今回は東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕先生により、数学・数理科学と産業との連携・協力に必要な方策について、御発表いただきたいと考えております。

 それでは、西成先生、よろしくお願いいたします。

【西成教授】  おはようございます。よろしくお願いします。今、御紹介がありました東大の西成です。本日はこのような機会を与えていただいて、ありがとうございます。私自身、このテーマを個人的に10年以上取り組んでおりまして、その中でいろいろな問題点を感じたことがありますので、それをお話しさせていただきます。テーマとしては、数学をどういう分野でまず役立てたらいいかというのが一つで、もう一つがそれに伴う問題点ということだったのですが、その後半の方を中心にお話ししたいと思います。資料にありますけれども、皆さんも4回議論されているということで少しずれた話になるかもしれませんが、私なりの考えとして、例えば数学がどこに役に立つかというと、直接役に立つ、現に役に立っているものが、物が絡まないと書いてありますけれども、例えば金融とか、保険とか、情報とか、非常に実体を伴わないようなもの、そういったものに関しては直接使えるし、役に立つと思っております。

 現在、そういう分野も確かに使われていますが、そうではなくて、ここには非常に優秀な人がたくさんいるということで、私自身、15年ぐらい前にとった戦略が、数学を勉強してきた中で、こういう分野は将来絶対に数学は使われるだろうと。そうではなくて、物とか、本当に泥臭いところ、そこで数学を使って何かやったらオンリーワンのいろいろな研究ができるのではないかということで、自分自身の戦略がいろいろな企業のものづくりだとか、物流、交通、建築とか書いてありますけれども、こういった分野で全く数学が使われていなかった当時、15年前、そういう分野を探してやってきたということで、苦労の連続と書いてありますけれども、本当に苦労しながらやってきました。唯一、大型予算が付いて救われたのがJSTのさきがけなのですが、この10年の間に私自身、企業で言うと100社以上と共同研究をしました。その中でどういう問題が起こったかという話をさせていただきます。

 資料はないのですが、少しだけ自分の戦略としてどういうことを当時考えたか。これは15年前の私のノートですけれども、当時、私は無限次元可積分系とか、ソリトン理論の話をずっと勉強していまして、余りにも美しい。だけど、この美しさを何か世の中に利用したいなということで、自分が得意としていた武器をざっと左に書いたんですね。数学の武器を。右側に全くその関係ない分野を全部書いてみた。15年前ですね。数理とかがほとんど使われていなかったのだけれども、すごい重要な分野ということで書いて、それをずっと淡々とやってきた。今、渋滞の研究でいろいろ注目していただいていますが、その前は実は弾性体の大変形運動というのをやっていまして、これでも私、いろいろな企業と今でもやっているのですが、そういったことをずっとやってきました。これが私の戦略。

 問題点をざっとリストアップして、周りの人間ともいろいろ話し合って書いたのがこれになります。順番に従っていろいろと話をさせていただくと、まず、これが言えるんですけれども、現場で解いてほしい問題ってたくさんあるんですよ、数学者に。だけど、それが、数学者が解きやすい形で提示されていないんですね。問題設定とかそういうものが数学的に書いてあると、多分、数学者はわーっとできると思うんですけれども、ほんとにぐちゃぐちゃなんです。現場の問題って。その焼き直せる人材がいないんですね。そこがすごくミッシングリンクになっています。あとは現場の人も気が付かないんですね。私は、だから、現場に行くんですけれども、私が行くと定式化できてうまくいったりするんだけれども、その気付かないとか、数学に結び付けるだけの両方知っている能力のある人がなかなかいない。これが私、一番大きな問題点だと思います。

 私自身、いろいろな企業に行って、あ、これってあの代数の分野ならあの人なら解けるよとか言って、いろいろなマッチングをしたことがあります。でも、それは言われないと誰も気付かないんですね。そういうのが一つ大きな問題でありました。次に私のところに依頼が来るものの一番多いのは、根っこから言うと組合せ爆発的な課題なんですよ。これって数学でも実はどうしようもない問題が多くて、こういうパターンでこういうふうになるんだけれども、じゃあ、全部調べたらうまくいくんだけれども、その全部調べるのに天文学的な時間がかかるみたいな、でも、それを多分、数学はうまいこと、例えば100万個あったら、それを10個ぐらいに絞れるとか、いろいろな分類でもって落とせると思うんですけれども、ただ、なかなかそこは難しいですね、自分もやっていますけれども。ですから、ほとんど無力感を感じる場合が多いですよ。

 数学というと万能ではなくて、正面から攻めてもやっぱりどうしようもない。そういうときに現実は何か知らないといけないわけですね。そうすると工学の人たちというのは、いろいろな直感とか経験があって、何か知らないけれどもうまくいってしまうことって一杯あるんですね。全く怪しい手法とかもあるんですが、それでもって進んでいく。例えば情報系ではいろいろなアルゴリズムが考えられていまして、そのアルゴリズムを使って絶対に解けないようなオーダーの問題を取りあえず当たりを付ける。そういう手法はたくさんあります。工学との絡みで言うと、実は数学と産業というものの間に物理とか工学の先生がいるわけですよ。そことの融合というか、そこが難しいなと思います。

 だんだん細かい話になりますけれども、企業さんというのはもう既にいろいろな学者と付き合っているんですよ。特に工学系の先生と。その先生の中には結構、数学を使っていらっしゃる人もいて、ここにORと書いてありますけれども、オペレーションズ・リサーチの先生は非常に数学的な論文を書いていますし、企業ともたくさんやっていますし、自分で会社も興していますね。そういう方も一杯います。そういった方がもう既にかなりの分野で活躍していらっしゃって、だから、そこになかなか入っていきづらいというんですか、そういう分野があります。ですから、本当に数学者しかできないことをやっていくというのではない限り、なかなか入りづらいですよ、実際問題。だから、そういった工学と数学、あるいは物理学と数学、どう違うのかというところを浮き彫りにして進めていかないと、数学イノベーションというのはなかなか難しいのかなというのは感じますね。

 あと、2番目のスライドですが、いつも感じるのはスピード感の違いです。非常に数学とか基礎研究をやっていますと、10年ぐらいのスパンで物事を考えていらっしゃる人とか、下手したら自分が定年まで例えばあと20年あるとしたら、そこまでに解けばいいとか、そういった問題設定で優雅にやっていらっしゃる方も多いと思うんですが、企業は三箇月から半年以内に次々と結果を出していかないと、そのプロジェクトは切られてしまうんですね。だから、その中で悠長にやっていられないんですよ。だから、小刻みに成果を出すというと、ある意味でこっちからすると不本意な、まだまだ検討されていないような結果が報告書に載るということで、もっと検討したいのに、なかなかスピード感の違いということで合わなくなってくるんですね。だんだん共同研究も嫌になってくるんですね、やっていると。ですから、深めていく大学の方向性と、もっと広くいろいろ産業を先んじてやっていくという方向性が、どうも何か違う気がするんですね。ここが大きいです。

 これはいろいろな企業の方から聞きます。三箇月で結果を出してくれないと困るんだけどというような話ですね。私自身も、今、そういう企業さんと付き合うときは本当にストレスです。お金をもらえるからやっているようなところもあるんですね。だけど、そうではないとなかなか学術的には難しいですね。関連した話で、数学ってすごく私、オープンな世界だと思っていまして、いろいろな人がアイデアを自由に議論していく世界。企業さんというのは、それとは全く逆というか、なるべく自分のところで囲い込んでいくというか、クローズドなんですね。ここがいつもぶつかって、企業の方と私が議論をするというのは、週1回以上やっているんですけれども、ほとんど自分が意見を言うだけなんですね。向こうはそれを聞いてメモっているだけで、実はいろいろなデータとか、いろいろなことをやっているんだけれども、全然言ってくれないですよ。それは企業さんは出ないですね。

 さらに、いい結果が出ても、例えば学生などを付けて共同研究していると、その成果を学術的に発表するのはすごく難しくなるんですね。いい結果になればなるほど。そうすると、企業と大学でやっていくときの、先生にとってはお金をもらえて潤う部分があっていいかもしれないけれども、学生にとっては単なる人夫みたいになってしまって、人件費ゼロの労働者みたいになって、何のメリットもなくなる場合があります。これは実際、私、三人ぐらいそういう学生を出してしまって、非常に申し訳なかったのですが、全く論文が出ないということですね。だから、この辺のオープンな世界とクローズな世界をどうやってマッチングしていくかということが課題だと思います。

 最後が、これも企業の方と本音で付き合うといつも言ってくれるんですが、数学者とか基礎研究者、どこまで本気で我々の仕事をやってくれるんですかということなんですね。企業はいろいろなリスクを取ってやっているんだけれども、学者の方は安全地帯にいるわけですよ。それが失敗したからって破産するわけではないですよね。だから、その立場の違いがすごくあって、学者の方が本気でやらない限り、企業の方も本気でデータは出てこないです。だから、そういった意味では、数学研究のサブとして、一環でちょこっとやるというんだと、そのぐらいの成果しか出ないんですね。本気で命を懸けてやるような、極端な話ですね。そういうような覚悟がある研究者だったら、企業も本気で付き合ってくるし、何千万とぽんと出してくれますし、それは全然違います。出てくるデータも違います。

 ほかには、企業の方の問題もあって、私もかつて失敗した共同研究というのはたくさんありますが、ただ単に下請になってしまうんですね。数学的には何も面白くもないんですね。ただ解いてくれと言われて、本当に下請でやる。お金は何百万かもらえますけれども、下請で自分たち、例えば数学の方には何のメリットもないようなものですね。こういうものをどうするか。あとは、最後は善意の企業ばかりでないと言いましたけれども、これはなかなかこういうところで言うのは難しいんですが、企業さんというのはみんないい人ばっかりではないんですよ。悪い企業もたくさんあって、そういう企業に私、捕まったこともありますし、だから、善意でやってきているところだけではないので、共同研究の難しさというのは感じました。こういう話ばっかりしていると暗くなるんですけれども、とにかく問題点を言ってくれと言われたので、今日は問題点を中心に本当に現場で10年以上やってきた経験で話をさせていただきました。

 最後に、このようなシステムがどうやったら持続可能になるかという、これも問題点の一つだと思うのですが、大体、補助金というのが最初、二、三年付きますよね。何のプロジェクトでもそうですけれども、それが終わった後に例えば何億円と来なくなる。そうすると、いきなりなくなってしまうプロジェクトって世の中たくさんあるわけですね。だから、どうやって持続可能にしていくんでしょうかということで、これは私自身の研究室もそうですけれども、企業さんからお金をもらって、それで研究をしていく。企業はそれの成果を使って何か利益を出していくという、この循環が回っていかない限り、いつまでたっても自立的にならないわけですね。なので、企業としては今、特に家電メーカーとか、私が付き合っている自動車メーカーなどは非常に厳しいです。

 ですから、お金を例えばぽんと出すのではなくて、本当に何に使うか明細を書いて、それでその金額しかくれないです。だから、そういうふうになってくると、じゃあ、それの範囲内できっちり結果を出そうねといって、かなり精密な共同研究をしない限り、なかなか大きな予算はくれない状況になってきています。分野的に。なので、数学とか基礎研究等、企業でやっていく中で、当然、我々はソリューションのヒントを与えるわけですね。それが企業の利益になって新商品で回っていくというのは、こういう循環をどうやって数学の中で作っていくかという議論が、私はすごく大事だと思います。あとは企業の方がどうやってコンタクトを取ってくるかというのも、これも、私、いろいろな大学へ行っていますし、いろいろなところで話していて、企業さんは実は独自に調べているんですね。いろいろな研究者を。だから、例えば、数学共同センターみたいなのを作って、そこに企業が依頼するというよりも、本当に解いてくれる人を探しているんですよ。

 ですから、この問題だったらあの人が解けそうだなといって、ピンポイントでその人に指定してくるんですね。前、ある大学で産学連携の窓口を作ったんですけれども、企業はそこに全く行かないです。そうではなくて、解いてくれる先生を知っていますからと言って、その大学のその先生のところに直接行くんですね。ですから、本当に企業の方も真剣にやってきますし、数学の方も――数学というか、先生方も武器を持っている先生と直接やろうとするというところがあって、なかなか基礎研究から醸成していくという風潮は難しいのかなと個人的には思っております。

 あと、数学サイドの方も、さっき出ましたけれども、お金が全てではないと思うので、私、お金より時間の方が大事だと思うので、例えば1億円あげるからこの研究をやってね。面白くなければ断ってもいいと思うんですね。そういった、余り言いなりにならないような形で、独立した形でこういうループを回せていけたらなと感じています。

 取りとめのない話ですが、以上で、あとは議論させていただければと思います。どうも。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 ただいまの御発表の内容について、何か御意見、御質問とかございましたらどうぞ。20分ぐらい時間をとっておりますので、その範囲内で質疑応答したいと思います。どなたからでも。

【宮岡委員】  なかなか厳しい話なのですけれども、企業がいろいろ調べてピンポイントで数学者を選ぶという点ですけれども、それだとなかなか、能力もあるし関心もあるけれども、実際にはまだやっていないという方には全然声がかからなくなりますよね。

【西成教授】  そうですね。おっしゃるとおりですね。

【宮岡委員】  それを広げる方法として、どういうものが考えられるかということについて、御意見あるでしょうか。

【西成教授】  企業さんから見るとやっぱり目立つ人に行くんですね。それで、可能性のある人とか、例えばそういう若手の方とか、おっしゃったように全然行かなくて、それはもったいないですね。私自身、例えば数学会とか、応用物理数理学会とか行って、企業の問題を初めから聞いていますから、その問題が解ける人ということで見て紹介したりするんですよ。そういう紹介者みたいのがあると企業も、じゃあ、例えば西成先生が紹介してくれるのなら話を聞きましょうとか、そういう形で、実は今日の午後も私それをやるんですけれども、そういう形で誰か企業が信頼している人が紹介していくというような形だとすごい広がります。そうでもない限り、企業の方は学会へ行っても、数学会へ行っても分かりませんから、だけど、我々から見ると、この定理を使えばこの問題は解けるのではないかとか、そういう解釈者でしょうか、そういうのが大事だと思います。

【宮岡委員】  なるほど。ありがとうございます。

【若山主査】  それに関してですけれども、まだ数学だと、同じことですけれども、ピンポイントで指定できる人が少ない感じが非常にしています。例えば最近、私も二つほどの会社からこういう話があったときですが、組織としてあったわけですけれども、どなたかいないかという質問です。そのときですが、両者は全く独立な会社ですけれども、言われていたのは、今までだと困ったらIBMワトソンに行くんだと言っていましたね。そこに行けば何とかなる。

【西成教授】  何とかなる。

【若山主査】  ええ。ということは、日本だとどこに行ったらいいか分からない。

【西成教授】  なるほどね。

【若山主査】  そういうことをおっしゃっていましたので。

【西成教授】  プールみたいなところ。

【若山主査】  そうですね。プールというか。

【西成教授】  才能。

【若山主査】  数学だからやっぱり分からないんでしょうね。この問題を解いてくれそうな人は一体どこにいるのか。普通の数学教室にノックしても「はあ?」という、こちらも分かっていないですからね。

【西成教授】  ああ、そうですね。

【若山主査】  そういうのが続いているような気がしますので、やっぱり今、宮岡先生がおっしゃったようなことを広げていかないと難しいのかなと感じています。

【西成教授】  そうですね。はい。

【若山主査】  どうも。ほかにございませんでしょうか。

【内丸基礎研究振興課長】  今日は、これまで各分野、各論をいろいろ、お話を紹介していただいて、ライフサイエンスとか、地球環境とか、そういう分野と数学との関係でやってきましたけれども、今日はいよいよ産業に関して、しかも、総合的な議論をしていただくためにお話しいただいたわけなんですけれども、これは私からなんですけれども、逆に何か先生の方で、多分、非常に幅広くやられているということは私どもよく知っているんですけれども、何か今の話の中で代表的な事例みたいなもので、差し障りのない範囲でこんな事例があったというのがちょっと御紹介いただけると有り難いんですけれども。

【西成教授】  例えばいい事例とか、悪い事例とかいろいろな。

【内丸基礎研究振興課長】 全部挙げると多分時間が延々とかかってしまうと思うんですけれども。

【西成教授】  例えばいい事例というか、面白い事例が、私も十何年間付き合っている企業がありまして、そこは本当に私を信頼していただいて、全部のデータを出す。その代わり何かいろいろ教えてくれということで、実は企業さんの現場にブレインストーミングに今二箇月に1回ぐらい行っていまして、こういう形で開発者とともに、開発者はこんな実験をやってうまくいかないんだみたいなのを、企業の現場の人たちがいろいろなデータを持ってきてくれるんですね。

 それに対して、それにはこういう数学とか、こういう物理の定理があるとか、いろいろな現象があるとか、そういったものを言いたい放題言うというような集まりを実はクローズドで持っています。その集まりというのがすごく企業の中で評価していただいていて、彼らは調べようにも調べられないようなキーワードがたくさん、私、ぽんぽん出すんですね。それによって中の人間も、10年たっていますからかなり育って、その後、博士号を取った学生とか、企業の中に。そういった集まりというものができてくると、非常に密で濃くていい研究のつながりができるなというのは感じますね。

 あとは、今、自動車会社さんを中心にいろいろやっておりますが、企業さん同士の似たような分野の企業と付き合っていると、その企業同士のやりとりみたいなのがまた難しくて、Aという企業とBという企業が競い合っているんですね。似たような分野で。両方とも私にコンタクトを取ってきたときとか、そういうときが非常に難しい。今、実際そうなんですね。そういうときにはコンソーシアムを組んでしまって、機密保持を全社で回してと、そのプロセスだけで1年かかりますね。そういう中でどうやって仲良くやっていくか。そこがすごく課題で、日本ってそれがうまくいっていないような気がして、日本の中で競い合っていると海外に負けてしまうんですね。だから、いい技術というのはみんなで共有して、対海外的な視野でみんなでまとまろうよ。大学みたいなところが音頭を取ればまとまりやすいですね。企業同士だとまとまりづらい。企業間をまとめていくような方向性というのも、今すごく注目してやっていますね。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

【大島委員】  非常に興味深いお話、ありがとうございました。

【西成教授】  ありがとうございます。

【大島委員】  お話を聞いていて、多分、三つのプロセスがあって、まずマッチングと、それからそのマッチングの結果、共同研究が晴れて結ばれて、それを成功させるということですよね。

【西成教授】  そうですね。はい。

【大島委員】  3番目が、その成功を基に、最後にあった持続可能的な形で長年にわたってうまく社会も含めてサイクルとして回すということで、先生もいろいろお話しされていて、その経験から、多分、ニーズはお互いにいろいろなところであるにもかかわらず、それがシステムとしてうまく回っていないというのが、先ほどアメリカ、コンソーシアムの話とかもされていて、何かシステム的にその三つを考えたときにこういうものがあったらいいとか、こういうものが欠けているというのは、何か具体的に感じられるものがありますか。

【西成教授】  なかなか難しい質問なのですが、情報って、今、逆にあふれ過ぎてしまっていて、なかなかインターネットで検索していてもピンポイントでいい情報というのは見えづらくなってきていますので、私が一番信頼しているのは人とのコミュニケーションというか、本当に企業の現場の方でキーパーソンみたいなのがいるんですね。その方と必ず私、月1回、いろいろな会社の方と会食をしていますけれども、会食というか、対談したりして情報を集めています。そうすると、じゃあ、うちの企業で今度何とか何とかという部署を作って、それを教えてくれる数学の先生が欲しいんだけどみたいな、そういう情報とかぱっと流れてきたら、じゃあ、こういうふうにやりましょうみたいな形で情報交換の場を持っていますね。プレとポストと分けると、共同研究が始まる前をプレだとしたら、プレは本当に情報交換がすごく大事だと思うので、それと集まれる場ですよね。

 キーパーソンが集まってエクスチェンジできる場というのが、いろいろな公、あるいは公式か非公式か分からないですけれども、何かあって、そういうところでプレの段階でいろいろなことがエクスチェンジできる場が必要だと思いますね。ポストになってくると、今度は、その成果を発信していく広報も大事ですし、システム的に知財を守っていくというのもありますし、知財でけんかするというのはよくあるので、私も何度もそれを経験しましたけれども、知財プロセスがすごくまだまだ弱いなというのは思いますね。その辺、各大学で今ばらばらにやっていますけれども、何かもう少しうまいこと、上のレベルで何か、産業とか違う会社で取りまとめたり、大学間でやったりという、全部が競争になってしまっているので、もっと日本全体最適を考えると違う解決があるのではないかと私も見えるんですけれども、大学最適だとか、部分最適になってしまうんですね。その上のものがあるといいのかなというのは思いますね。勝手な意見ですみません。

【若山主査】  どうもありがとうございます。どうぞ。

【北川委員】  先ほど100件ぐらいの共同研究をやられているという話をしましたが、そのうちの一部はデータを全部出してもらえるような信頼関係を築いた。それが非常に大事なところだと思うのですが、質問は、それがどういう形で実現できたかということなんです。私自身の例を先に言いますと、特に昔はデータを出してくれないということがあったのですが、それができるような信頼関係を築いていく過程では、個人的には最初に向こうが、相手方が解きたい問題があって持ってくるのですが、それを比較的短期間に数箇月とかで解いてしまうと同時に、そのときに持ってきた、相談を受けた情報、あるいはデータを使って、相手がそれまで考えていなかったような良いことができるということを一つ示してあげると、非常に信頼されてうまくいくと何十年の付き合いになるという経験があるのですが、先生の方はいかがですか。

【西成教授】  全くおっしゃるとおりで、私が信頼関係を築いた一つが、初めに持ってきたテーマを、たまたまさっきお見せしたソリトン理論で、当時、それを応用していた人が誰もいなかったので、それを使ったら偶然解けてしまったんですね。私も本当に驚いて、それを示したら、実はいきなり商品化が成功したんですよ。それですごく信頼していただいて、それはもう本当に私も運がよかったし、テーマもマッチングがうまくいって、本当にその問題が解けてしまったんですね。

 だから、そういったことが一つあって信頼関係を築いたし、あとはオープンマインドというか、何でも腹に一物ないようなパーソナリティというか、やっぱり人付き合いですから、担当者によって企業って全然変わるんですね。担当者との信頼関係が築けるかというのは、これは計算ではなくてその人との相性みたいな、男女の関係みたいなものに似ていますけれども、相性というか、そういったものを築ければ企業の人もどんどん信頼してくるし、そこは普通の人間関係も大きいのかなと思いますね。

【若山主査】  ありがとうございます。産業界からということで、中川さん、いかがですか。

【中川委員】  新日鐵の中川と申します。これまで共同研究をされてきて、企業の人が数学に求めるものは何とお考えですか。

【西成教授】  企業の方はいろいろな努力を実はされていまして、もう自分のある程度、専門分野ではやり尽くしている感じがあるんですね。全然違う発想を求めてくるときが多いですね。全く今まで解いていない、手も付けていないような分野で、新しいものを探したいときに宝くじみたいな感じですね。何か面白いことはできませんかという形で、この手法だったらこの先生もやっているし、こういうことを我々もやっているから、そうではなくて全然違う発想を求めてくる。私は、そういう感じがしますね。

【中川委員】  あともう一つ、企業から逆に数学者へのフィードバックというのはありますか。成果物、若しくは企業との共同研究を通じて、いわゆる数学の研究が更に発展したという事例みたいな。

【西成教授】  今日はそういう話はしませんでしたが、私自身、基礎研究の論文ももちろん書いておりまして、そのネタというのは実は現場から出てきたネタです。現場で、例えば自分がやっているような数理モデルがあって、それを使って企業の現場を解いていると、どうも合わないと数理モデルを企業の現場に合うように変えないといけないですね。その変えた結果というのは数理的にも新しいんですね。それで論文になるという形で、自分が持っている武器をそのまま適用するのではなくて、武器を変形しながら適用していく。その変形が数学的には新しいというのはよくあります。

【中川委員】  ありがとうございました。

【若山主査】  ほかにございませんか。

【北川委員】  先ほど共同研究においてコーディネーションというか、そういう機能を果たす人が大事だという話、最初の方で少し言われました。この委員会でもその議論をしているのですが、先生の経験として、どういう要件を持った人が必要でしょうか。

【西成教授】  私、もちろん分野によると思っていまして、さっきは金融とか、そういうのは多分、直接議論ができるのだと思いますが、それ以外のものづくりとか、そういうものというのは、もちろん数学の能力はある程度、全体を見渡すような能力ですね。例えば岩波の基礎数学シリーズって、このぐらいのがありますよね。あの目次で大体何となく、これはこの分野だと言えるような、全体を見渡すような知識と、あとは、私が一番大事だと思うのは、古典力学なんですよ、物理の。古典力学が解けるという、あれは本当に質感というか、感覚なんですね。古典力学ができて数学ができる人というのが、私はすごくこういう物づくりの現場とかに効くと思いますね。古典力学って、例えばコマの問題とかって難しいですよね、解くのね。

【北川委員】  難しい。

【西成教授】  ああいうのがぱっと解ける。現象を式に表せるということですね。これができる人は共同研究がうまくいくのではないかなと思いますね。

【若山主査】  どうぞ。

【小谷委員】  今の西成先生のお話では、かなり見識や眼力のある方がいて、信頼関係を築くことによってうまくいったというお話ですけれども、日本だとまだなかなかそういう人材が少ないので、そこから始めるのは非常に難しいと思います。それ以前の、何というか、情報集めというか、窓口やコーディネート的なことをやるような人がいるということは助けになるでしょうか。それともそういうものではないでしょうか。

【西成教授】  おっしゃるとおり、やっぱりないよりはある方がはるかに良くて、最近、各大学でも大学の先生がシーズということでホームページに、僕はこれで行きますよと書いて、企業さんはそれを見て何人かで応募してくるという、そういう共同研究も確かにありますし、私のところにそれを見てきた企業もたくさんいますけれども、ないよりは良いと思うんですね。ただ、大学の先生って書き方を結構知らない人が多いし、難しく書いてしまったり、発信の仕方次第だと思いますね。

 大学の先生でも一般向けの本とか書いていらっしゃる方、自分の研究に関する。そういうのというのは、その一般向けの本を読んだ企業の人が、あ、この先生、こういうことができるんだということでコンタクトをとってくるというのはたくさんありますので、一般の方に分かりやすく伝えるという、そのこともないとなかなかニーズ、シーズマッチングで企業の人が検索しても、うーん、この言っていることは分からんなとかってなってしまうんだと思いますね。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。どうぞ。

【大島委員】  確認なんですけれども、今、最後におっしゃったことは、企業は常にアンテナを非常に張っていて情報を調べているけれども、いわゆる研究者側としては情報発信がまだ不十分、プラスその仕方が悪いというのがかなりあるという……。

【西成教授】  そういう部分も大きいと思います。

【大島委員】  ああ、そうですか。

【西成教授】  現実問題、例えば私の学科とか、近くの学科のホームページで、実は自分は複合材料の研究をやっていますとか、それの曲げとか、いろいろな計算ができますみたいな先生、ホームページで出しているんですけれども、私のところに来た企業さんが、そういう複合材料の強度の計算ができる先生はいませんかと聞いてくるんですね。ホームページで出しているじゃないですかと言って、そうなんですかみたいな、そういう感じの会話がたくさんありますので、発信の仕方もただ単にホームページに載せているだけではなくて、もう少し一段目立つような形でやるとニーズ、シーズマッチングがうまくいくのかなと。結構、私がアンテナになっていろいろな先生を紹介しているんですけれども、その中でも調べれば分かることが多いんですね。ですから、もう少し一般向けに出すというのを、慣れていない方、多いですよね。大島さんなんかテレビでいろいろ話しているから、一般向けにしゃべるってどういうことかというのが分からないと、なかなか企業の方も近寄りにくい存在になってしまうと思いますけれども。

【大島委員】  すみません、1点。先生を通していろいろな研究者を御紹介しているということをおっしゃっていましたよね。

【西成教授】  そうですね。はい。

【大島委員】  研究者の中のそういう情報の共有で、そういうふうにお互いにつなげるという、そういうのも余りないという印象ですか。

【西成教授】  学会というのは結構細分化されてしまって、分科会とかになってくるとどんどん細分化されて、いつも会うメンバーが決まってしまってというと、なかなか全体を見渡せる人も研究者の中では少なくなってきてしまっているのではないかなと思うんですね。でかい学会ほどそうですね。だから、そういった意味でいろいろな分野に友人がいる研究者というのは結構いろいろな雑学を含めてアンテナになる可能性、ハブになる可能性があるんですけれども、そうではないスペシャルな本当に狭い分野だけになってしまうと、なかなかつながっていかないというか、そこはもったいないなといつも思いますね。

【小谷委員】  この間の、JSTの数学領域さきがけはその意味で良かったと聞いています。

【西成教授】  そうですね。本当に良かったですね。

【小谷委員】  他分野のことに関心のある、全く異なる数学分野の人たちが、集まっていろいろな情報をお互いに交換されたので。

【西成教授】  そうなんですね。ああいう機会って私も良くて、あれがなければ、例えば私、圏論の世界なんて全然知らなかった世界ですけれども、すごい勉強になったし、何かそれを使ってできるときがあるのかなと今でも思っていますし、あのときの人のネットワークというのは非常に貴重な財産ですね。だから、ああいう機会はもっともっと増やしていただければと思いますけれども。

【若山主査】  どうぞ。

【杉原委員】  西成先生みたいな方を作るのにはどうしたらいいですかね。多分、そういうコアになる先生が増えることがかなり大きな進展になる。

【西成教授】  とんでもないです。

【杉原委員】  このようなことは、数学イノベーションを起こすためのコアになる部分だと思うので、時間はかかるとは思いますけれども、それは地道にやっていくべきことであると思うんです。そういうときに私などが感じるのは、やっぱり、少しおっしゃいましたけれども、ここでも少し言っているんですけれども、結局、数学と物理みたいな両方分かる方が何かと良いだろうということです。今までの数学のカリキュラムの中では全くその辺りは違ってやっているので、そういった意味では数学、物理の両方に関係することですが。

【西成教授】  そうですね。

【杉原委員】  数学と物理、そこには共通したいろいろな、モデリングといったものもあると思います。

【西成教授】  私の分野だとソリトン理論で、佐藤幹夫先生が弟子たちにまず量子力学を教えたという世界もあって、それから、その後の神保先生とかがすごい結果を出して、やっぱり物理的な、ちょっと血の通ったようなものを――だから、私は古典力学だと思うんですけれども、それをちょっとやるだけでかなり変わるのではないかなと思うんですね。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。言い残したことは。

【西成教授】  大丈夫です。勝手なことばかり言ったような感じで恐縮なんですけれども、大先生を前にして本当にしゃべりづらいんですけれども。

【若山主査】  今日は西成先生にはお忙しい中、どうもありがとうございました。

【西成教授】  いや、とんでもないです。

【若山主査】  頂きました御意見とか、この資料等につきましては、また本委員会での検討に役立たせていただきますので。

【西成教授】  はい。よろしくお願いします。

【若山主査】  どうもありがとうございました。

【西成教授】  今日はありがとうございました。では、失礼します。

(西成教授退室)

【若山主査】  それでは、議題2に入ってまいりたいと思います。「数学イノベーションに向けた今後の推進方策について」に移りたいと思いますが、まず、事務局より説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3-1と3-2について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございました。

 現状の問題点、推進に当たっての、そこを中心に御説明いただいて、今日行いたい論点についてまとめた資料に沿って御説明いただいたわけです。全体、どれも常に関係しているわけですけれども、議論を円滑に進めるために、せっかくこの論点をおまとめいただきましたので、これに基づいて各々20分程度ずつ御議論いただきたいと考えています。

 さて、問題点を踏まえての話ですけれども、この資料3-2を御覧いただいて、御意見を頂戴したいと考えています。まず、III-1というのがありまして、数学へのニーズの発掘からイノベーションへつなげるための方策としまして1番目があります。数学へのニーズを発掘するための方策、ここに書いてありますのでこれはもう読み上げませんけれども、ここについてまず御意見等ございましたら、1のところに限ってというのも変ですけれども、御意見を頂戴したいと思います。どうぞ。

【中川委員】  実践につながるような、日本独自のシステムのイメージをお持ちでしょうか。こんなものができたらいいなというような。日本独自というのは結構大事かなと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】  要するに、いわゆる訪問滞在型の研究所……。

【中川委員】  別に訪問でなくてもいいのですが、数学の連携を目的とする数学の研究所というのは欧米にたくさんあると思うのですが、そういうところと日本の目指すものが違うということであるとすると、それはどういうものか。

【若山主査】  期待を込めて、何かここで出てくるだろうということできっとお書きになったのだと思いますので、そこも含め。

【中川委員】  私の意見は、日本の場合、純粋数学の先生方が非常に多いので、純粋数学と、データの融合のようなものができれば、個人的には非常にうれしいなと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。

【北川委員】  結局、訪問滞在型っていろいろあって、ドイツとかイギリス、それから、アメリカもあって、アジアに一つ作るというのも大事で、それは一つの方向だと思うんだけれども、それだけだと何年か後れて、かなり後れて日本も作ったということになるので、更にもう一歩進めるところを日本から始めると良いと思う。その具体的なところは考えていかないといけないですが、今言われたように実際の問題とつなぎのところとか、私の興味としては、そういうところも機能を加えて新しいところをやっていくと、世界に先駆けて何かできるのではないかなと思います。

【若山主査】  大事な点が既に出ておりますが、中川委員からも出ていましたけれども、確かに日本の純粋数学層というのは厚いということは事実でしょうし、そこは一つポイントではありますが、一方で日本はやはりものづくりというか、非常に産業が強い、それから、技術が高いという評価をまだ――まだというか、ずっと得ていますので、そこは私が個人的にお付き合いしている外国の方たちに言わせると、事実は皆さん御存じですけれども、不思議だなという顔をしていますね。

 非常にテクノロジーが発達していて、そういう企業がたくさんある。そして、数学者もたくさんいる。だけど、何かそこに溝があるみたいなことですね。ですから、そこをうまく、まあ、このイノベーション会議の一つの目的でしょうが、北川先生もおっしゃったように、うまくつなげるということができると、日本独自のシステムとかいうことではなくて、自然に前に出ていけるのではないかと思っています。ちょっと抽象的な言い方ですけれども。

 何か御意見ございませんでしょうか。

【宮岡委員】  研究拠点を作ったと仮定して、企業からの参加者ですが、どうしても放っておけば大企業中心になってしまうと思うんです。だけど、日本の技術の底辺を支えているのは結構、下請の中小企業であったりすることが多いので、そういう方たちが参加できる方法をかなり意識的に考えないと、機能しないのではないかと思うのですが。

【小谷委員】  こういうものがあると、中小企業の方が相談に行きやすいのではないでしょうか。大企業であれば、その会社独自に研究チームもありますし、また、大学を訪ねられることも簡単だと思うのですが、中小企業で実際にいろいろな問題を抱えた方がどこに訪ねていっていいか分からないという状況をこういうものが解決するのではないか。

【若山主査】  今おっしゃった「こういうもの」というのは。

【小谷委員】  すみません。訪問滞在型研究所のことです。

【若山主査】  なるほど。

【小谷委員】  訪問滞在型研究所でなくてもいいのですが、どこかにここを訪ねればいろいろな情報が手に入る、若しくは少なくとも相談の窓口があるというところはあった方がいいのではないかと思います。

【北川委員】  さっき西成先生が本気度と言われたかと思うんですが、そういう意味で、相談に来る方は確かにメリットはあるんだけれども、数学者の側は、もう一歩踏み込んで、出席する以上の何か覚悟が必要だと思うんですね。そこをどうやって担保するかというか、そういうシステムを作るか、そこを考えないといけない。

【大島委員】  よろしいですか。

【若山主査】  はい。どうぞ。

【大島委員】  そのシステムを作るときに、西成先生のお話にもありましたけれども、企業の考えているタイムスパンと、また、どうしてもやはり研究者側は学術的な意味での成果というのも必要になってくるので、目的が違うプラスタイムスパンが3か月とか、1年以内という、そこをどうやってお互いのWinWinになるような形で作るかになるかと思うんですね。そうしないと出会いの場を作っても、そのターゲットと考えていらっしゃるような中小企業の方は多分、時間的な余裕もないので、多分、そこに来られないと思うので、全体像としてある程度相談、その後、共同研究でどういう枠組みにして、その成果としてどうなるかみたいなもののある程度の像を見せつつ、それが実現できるような先ほどのインスティテュートというか、何か訪問型か何かを作るというのが結構大事かなという感じはしますね。

【北川委員】  その両立をさせるのは確かに難しいんですけれども、先ほど少し私もお話しして、西成先生も同じようなことを言われていたように、企業側が、あるいはほかの研究分野の人が相談に来たものはすぐ解いてあげて、それ以上のものをこちらの興味としてやって、相手もメリットがあるような形に進めていくというのが両立させる一番簡単な方法だと思うんですね。研究者はどうしても長期スパンで自分の研究分野の方から面白いことをやりたいと言うんだけれども、私は若い人に、相談に来たら3か月以内に答えを出さないと、それについては直接的な答えを出さないと、そのプロジェクトは潰れるぞということはいつも言ってきたのですが。

【若山主査】  杉原先生。

【杉原委員】  いや、悩んでいたんですけれども、多分、数学の中のどういう分野をやっていらっしゃるかによってもかなり違うのではないかという気がします。私などの工学に近いところの人、北川先生のように統計に近い方、それからかなりピュアな純粋数学の方々、拠点は必ず必要だとは思うんですけれども、拠点の中でその辺りの人の配置というんですか、その辺りを考えてうまく運用すればできる良い拠点ができる可能性はあるかなと。要するにタイムスパンはそれぞれの研究分野、また、研究者によって大分違うので、その辺りを初期の段階である程度ポートフォリオを組んで拠点を作る。その後、出てきたいろいろな問題を見ながら、そのポートフォリオを組み換えていくみたいなシステムを作っていくと良いかなという気がします。

 それから後、拠点をどこかに作って、データを蓄積というか、知識の蓄積みたいなことをする必要がある。最近の情報ツールをうまく使うのであれば、Facebookみたいな形のものもうまく利用するとか、そういうようなことを考えていくことによってうまく運用できるかもしれない。でも、そのとき、拠点長というんですか、誰が拠点長をやるかというのは、実は一番の大きな問題かなと思います。そこが一番難しい。

【若山主査】  この訪問型というのは、これは個人的な意見ですけれども、もう少しいろいろな産業界とか、そのインタラクションができてからだと、非常に大きな役割を占めるような気がするんですけれども、最初に訪問型というのは結構厳しいのかなという気がいたします。スーパーマンのような拠点長がおられたとしても、やはり全体の理解がもう少し高まっていないと、今、杉原先生から御指摘がありましたように若干研究分野によってタイムスパンも違いますし、その後の学術としての何か研究、基礎的なことを発表していくというスタイルも違ってきますし、場所も違ってくるということがありますので、その意味では、とにかく訪問型を作るのだという点のみにこだわらない方が、現時点ではいいのかなという気がいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】  現在、例えば今年度、20件くらいワークショップをさせていただいたんですけれども、それをどううまく発展させていくのかというのも今後少し検討が必要かなと思っていまして、多分、二つ方向性があって、一つはもっと裾野を広げてやる必要があるという、横にといいますか、裾野を広げるというアプローチと、もう一つは、議論ばかりしていてもしょうがないので、いかにうまく実践につなげていってやるのかというアプローチと、まだ現段階では二つ必要かなと思っています。

 まず、前者の方の裾野を広げるというのは、何かもっとうまく宣伝をして人のネットワークを積み重ねていけば、現状がまだまだ十分ではないということもありますので、ある程度は広がるかなという気はするんですけれども、後者の方はどこかにも書いてありましたけれども、人が足りないとか、時間が足りないとかいう問題ももちろんあるのですけれども、いかにうまく実践につなげていってやるのかというところの仕組みのようなものが、あるいは取組が必要かなと思っていまして、そこら辺は、この次の(2)の方かもしれませんけれども、そこら辺も御意見を頂ければなと思っております。

【中川委員】  実践とは継続という意味で捉えてよろしいですか。例えばワークショップを開いて、そのテーマに関してそのままチームが集まって継続してやっていけるような。1回きりではなくてという意味で。

【粟辻融合領域研究推進官】  ええ、そうですね。往々にしてワークショップをやって、こういうテーマがある。そういう新しい発想があるというのは面白いというだけで終わってしまうところもあると聞いていますので、それをいかにうまくつなげていくのかということが一つのポイントかなと思います。

【中川委員】  チームとしての継続性という視点から見ると、数学者側と、ほかの分野とか産業側の人たちが、お互いにメリットを感じなければなかなか難しいですね。だから、両方がメリットを感じるようなテーマ設定とか、運用の仕方をどうするかという問題だと思いますね。

【若山主査】  最初に粟辻さんから説明された、今年の文科省との連携ワークショップがございましたが、それも確かに漠然と見ていると、外から見ているとそれだけで終わっているように見えるものもあるわけですけれども、実はそこで、その後つながっているところもありますし、やっぱり少し地道に続けていくということがこのイノベーションには欠かせないですね。特に数学では、そこもやっぱりタイムスパンというか、産業界での問題と、いわゆるサイエンスの世界でつながることが多いわけですが、大学との時間差というのはありますけれども、随分前にも御指摘いただいて、皆さんも共有しておられるとおり、より長くなる傾向がありますので、そういう意味でも見えにくい。ですから、今年された連携ワークショップでも、産業界の方と一緒になってやって本当に面白いということがあれば、それをもう一度やっていただくとか、そんなふうな継続性というのは大事にしていかないといけないのではないかと強く思っています。

【小谷委員】  実践を既にやられている方と、そろそろ実践したいなと真剣、本気度が高まっているけれども、まだ実践をやったことがないという人と、それから、何となく最近盛り上がっているのでどんなことがあるか知りたいなという3段階ぐらいの人がいると思います。どれも大切に育てないといけないと思いますので、それぞれに対して、どういうことをしたらいいかなというのを考えていただければと思います。

 特に実践をやられている方についての御支援も大切だと思うのですが、せっかく1年間、シーズを発掘されましたので、そこを少し整理していただいて、具体的な課題をある程度実践につなげていく絞り込みのところと、もう少し気軽にシーズ発掘のために去年と同じようなワークショップの継続と、両方を実施していただけたらと思います。

【若山主査】  今日も何度もありましたけれども、サービスを受け――サービスというか、とにかく持って来られた問題をというところももちろん大事ですし、その中から面白いものが出てきたり、一方で心に響くような付き合いというか、問題というのが両方ないといけないので、ワークショップなどはそういう意味では後者には非常に役立っているのではないかと思っている次第です。

 また、こちらの特に1、2というのは整理のために分けているだけですので戻っても構いません。3-1の(2)協働による研究の実施へつなげるための方策ということで、これについて御議論いただきたいわけです。もう既に出てきておりますが、議論の段階から実際の段階へ移行させる。それから、マッチングですね。それから、そういう中でまだまだ数学に対するほのかな期待はあるものの、はっきりしていないという産業界へのインセンティブをどのように与えるにはどうすればいいのかということを御議論いただきたいと思います。論点については1ページ目から2ページ目の前半のところについて、御意見を頂戴したいと思いますが、結局は人と人との付き合いということになってくるんでしょうけれども。

【粟辻融合領域研究推進官】  少し補足させていただきますと、この1枚目に書いてあるところは、これは諸外国などでの、先ほどありました訪問滞在型の研究所などで、こういう年次プログラムみたいなものを立てて、例えば数学と防災とかいうようなものを年次プログラムのテーマとして立てて、この年はそれについて集中的にワークショップとか研究紹介とかをやるというような取組がなされているので、そういうものを念頭に置いて書いてみたものでございます。

 2ページ目のB)の方は、これはこういうものが数学になじむかどうかというのは御議論が必要だと思うんですけれども、例えば今いろいろなワークショップとかやって課題がある程度見えてきたものもあるということなので、この課題を少し整理して、それを例えばホームページか何かで示して、それに対してどんな数学的な解法やアプローチの仕方があるのかというものを募集して、その中から良いものを何らかの形で選んで、それを中心に支援をしてやるというような、いわゆる公募型というんですか、コンテスト型みたいな、そういう支援もあり得るのかなというのがB)でございます。

 C)は、先ほど少し、これは中川委員から最初御提案があったオープンイノベーション型の、双方にとってメリットがあるようなテーマをうまく設定して研究チームを作ってやるというようなもの、相互に重なる部分がありますけれども、例示として挙げさせていただいたものはこの三つでございます。

 以上です。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

 これは大切なことだと思いますが、今回の昨年やられたワークショップも、それから、先ほど言いましたある程度既に育っているというか、産業界の方でも諸科学分野の方でも数学をかなり親しんで使われている方たち、そういう成熟したというのは変ですけれども、そういう場合の話だという気がするんですね。それはもちろん大変重要なんですけれども、ここでの議論はそれのみならず、新しい発掘ですね。この2番は協働による研究の議論の段階から実践へという意味では、挙げられているようなテーマについて継続的にやっていくというのは、それはすごく大事なことだと思います。少し抽象的なところがありますので、皆さん御意見を。

【中川委員】  一つお聞きしたいのですが、純粋数学者の方が魅力を感じるようなテーマは、どういうものだったら参加しても良いとお考えでしょうか。特に数学の先生方にお聞きしたいのですが。

【若山主査】  では、宮岡先生。

【宮岡委員】  私ですか。私の専門は、難しいですね。代数幾何となると割と限られてしまうのですが、例えば私が昔、偏微分方程式をやろうと思ったことがあるんですよ。そのときの感じで言うと、例えば何だろう、実際問題として拡散とかは結構面白そうだと思うんですよね。例えば今、セシウムがどう移動しているかについて、調査をやりましたね。深さ30センチぐらいまで汚染が進んでいるのではないかと。あれはどういうふうにして計算したか分かりませんけれども、数学者がやったらまた違う結論が、ひょっとして出てくるのではないかと思うんですよ。本当にあんな単純なものではないのではないかという気もするので、その辺は実際やってみたら面白いのではないかなと思いますけどね。

【若山主査】  実践者でおられる……。

【小谷委員】  今までの数学と他分野の関係の主たる道具は偏微分方程式で、それはマクロの現象の観察が基になっていたと思います。最近はミクロな現象を実験研究者が観察・制御しています。そこは我々が全く知らない現象が一杯あって、離散から連続につながる数学の問題がごろごろしているので、そのことが私にとってはすごく魅力的ですね。

【若山主査】  分かりました。

 私も端くれなので少しだけですけれども。私自身はやっぱりシンメトリーを用いて物事をリダクションするというか、整理をして分かりやすくすると。だから、何か一見、複雑そうに見えても一つ一つ分けてみるとかなりすっきりしているんだという、そんなことにやっぱり心を躍らされるということはあります。そういうことは、たくさんある応用研究の中で、ものすごく近づいて見なくても、ああ、これはというふうなことを拝見する場面がありますね。

【中川委員】  そうすると純粋数学の先生方も、自分の研究に対して何かつながるというものを感じた場合には参加いただけるということですね。何かイメージがあって。

【若山主査】  そうですね。研究につながるというのもありますけれども、結局、やっていることが、その辺りが面白いと思っているので、その辺りに心を躍らされるので、どうしても引かれていくという感じだと思います。

【中川委員】  テーマ設定の問題が非常に大事だということですね。

【若山主査】  ええ。

【中川委員】  純粋数学の先生方が参加したいと思えるようなテーマをどうやって設定するか。

【若山主査】  それともう一つは、これはもしかすると人によって違うのかもしれないですけれども、いろいろなものに関わるということが私は面白いと思うんですけれども、その辺りは研究者によって、この一本筋でこの問題を解くんだという方とちょっと感覚は違うかもしれませんね。別にそれは背反しているわけではないんですけれども、そんなふうに思います。

【小谷委員】  純粋数学の方もかなり興味は持っていると思います。ただ、それにどれぐらい時間を割けるかという問題もあります。やはりここに書かれているような、ある程度シーズとニーズが合致できているようなところに、幅広い感じで研究領域を設定していただいて、成功例を見せていただきつつ、気軽に参加できるような場があると随分進むのではないかと思うんです。

【若山主査】  それともう一つは、個人的にはそんなに深いお付き合いがあるわけではないですけれども、私たちのところにもデータ駆動型のという、ここに書いてある、研究されている方たちがいらっしゃって、その方たちと話をするというのは非常に新鮮な感じを持っていますし、同僚でもそう感じている人がかなり出てきているというのは事実です。ただ、それはまだ「感じ」という感じで、直接本当に何かできているというわけではないですけれども。

 北川先生。

【北川委員】  御指名ですので。先ほど宮岡先生が、偏微分方程式の話をされましたが、今、例えば具体的に言うと放射能汚染の問題が社会的な問題になっています。学術会議等も中心になって研究者のかなりの人が投入されてそこをやっているわけなんですね。例えばSPEEDIの問題もありますけれども、移流・拡散モデルを解いて、古いSPEEDIだと駄目なので、データを同化させるというような問題をやっているのですが、数学者の貢献がちょっと少ないかなというか、自ら覚悟して出て行かないといけないと思うんですね。統計の人はかなりやっていますし、私もマネジメントの方をほったらかして1/3ぐらいの時間、この数箇月、投入してきたつもりなのですが、やっぱり数学の人も非常にそこに貢献できる可能性を秘めているし、実際、やられていることはかなり確かに怪しいことは多いんだけれども、やらざるを得ないんですよね。だから、そこを是非自ら参加していくような意識を持っていただきたいと思います。

【若山主査】  今のことにも関係して後にも関係しますけれども、コミュニティでの評価の問題というのも常に付きまとう。年配の方はいろいろな役職等で時間がない。若い人たちは、その評価の問題が結構あるということは大事なポイントだと思います。ほかにございませんでしょうか。

 では、次にまた進めて戻りたいと思いますが、3-2といたしまして、数学イノベーションに必要な人材の育成ですね。評価にも最終的には関わるわけですけれども、大学の数学専攻等における人材の育成と、それから、そのキャリアパスですね。大学院博士課程修了者のキャリアパス。それから、今度は反対側に諸科学における人材の育成、それについて、それからまたさらに、現在もう既に企業におられる方、特に研究職、研究開発に携わっている方たちの数学に関係する様々な理解を促進するとか、育成というのはちょっとおこがましいですけれども、そんなことについて御議論いただければと思います。

【宮岡委員】  数学の学生に自然科学の基礎である物理を是非やらせるのはいいことだと思います。生物や経済はどちらかと言うと、割と後でも学べるので本質的には物理が一番基本的かなと思っております。モスクワ大学、ものすごく優秀な数学の研究者を一杯出しましたけれども、あそこはメハマテマティークといって数学と力学とを一緒にやっていたわけですよね。あれがとても良いのではないかと思うんですね。

【若山主査】  数学を学ぶ上でも、例えば昔だと、高等学校で普通に空間の図形とかというのはやっていたんですけれども、それがだんだん時間が少なくなって、そういう幾何学的なことも余りやらなくなって、今度、物理も余りやらなくなって、そうすると一挙に抽象的に分からなければいけないということになってきて、それこそベクトルはベクトル空間のエレメントであるというのが定義だと。そこでちょっと漠然としてしまうと、うまく理解が進まないということがたくさんありますので、その意味でも数学の学部段階の教育自身にも役に立つような気がいたしますけれども。

【宮岡委員】  そうですね。

【小谷委員】  北川先生に日本の数理統計の教育について少しお話を伺えればと思うのですけれど。

【北川委員】  一時期、20年ぐらい前まで日本の数理統計のところは完全に理論的な方に偏っていて、それはアメリカもそうだったのですが、一方、イギリスはかなり違って、実際の問題をやっているという伝統がありました。しかし、余りに過度に数学的にやるという方向で、そこだけの教育をするというのはやっぱりうまくいかなかったと個人的には思っていて、日本もアメリカも方向転換してきていると思います。それが現状で、やっぱり実際の問題もちゃんと考えながら、それを土台にして理論的に考えていくという、そういう形を取らないと新しい本質的な問題が出てこなくて、どうしても一般化というか、一般化も大事だけれども、つまらない一般化になってしまうんですね。

【若山主査】  ただ、少し御質問したいんですけれども、学部段階での教育という意味では、数学系の学科に対してはどういうふうにお考えでしょう。

【北川委員】  私自身も大学では統計を勉強したわけではなくて、いろいろ見ていると学部段階で統計専門にしてきた人、必ずしも後で良くないような気がして、むしろ純粋数学であってもいいし、情報、ほかでもいいのですが、最初からそこだけ専門にしてやってきた人というのは長期的に必ずしも良くないと思っています。

【若山主査】  今、カリキュラムに統計というのは、例えば東大の場合、数学はどういうふうになっているんですか。

【宮岡委員】  数学の場合は4年生のときに数理統計の講義があります。必修ではないですよね。だから、駒場の1年生のときに統計学を選択でとって、それしかやっていない人が大多数なのではないでしょうか。

【若山主査】  東北大もそんな感じですか。

【小谷委員】  数理統計の授業が教養科目にありますけれども、それ以外はないのではないでしょうか。確率論は数学の学生向けにしっかりあります。

【宮岡委員】  東大の場合は統計アクチュアリプログラムがあって、そこで結構突っ込んだことをやっていますが、それは非常に単位を取るのは難しいし、学部からは撤退しようと言っているぐらいなので、なかなか行き渡っているとは言い難いですね。

【若山主査】  最終的なアクチュアリの試験に合格というのも、ある程度お考え。

【宮岡委員】  そのアクチュアリは全然合格させることを考えていない。

【若山主査】  考えていない。

【宮岡委員】  ええ。むしろ、実用的なことは一切考えていない。

【若山主査】  そういう意味では、2年生、3年生に統計の講義、演習があるというのは九大の場合、日本においては独特な位置付けになっているかと思います。

【宮岡委員】  そうですね。

【若山主査】  それから、今、統計のお話になりましたけれども、計算機言語についてはどこも少しはカリキュラムの中に組み込まれていると思うんですけれども、それは大事なことだという、皆さん認識を持たれているかと思います。

 次に数学専攻博士課程修了者の新たなキャリアパス構築には、どのような方策が必要か。これは先ほどの問題と非常に関わってくるわけですけれども、これについて何か御意見とか、ここに書いてあることに関するコメント等、西成先生もおっしゃっていましたように、一つは、後でそこで研究したことの学術的なことを発表できないとかいう問題はあるものの、やはり先生方が共同研究をやっている、その中に入っていくというのが一つ自然な方法で、生身の問題に当たるとは思うのですけれども、もちろんワークショップ、文科省との連携ワークショップの中でつながっていくとか、そういう期待も持って入るわけですね。いかがでしょう。

【中川委員】  インターンシップは、教育なのか、それとも企業への就職なのか、どちらが主目的なのでしょうか。

【若山主査】  私ばかり発言することになりますが、私たちのところで長期インターンシップというのを始めたとき、それから今もずっとやっているわけですけれども、それは就職はうまくいくといいなと思っているのですけれども、実はそのインターンシップ先に就職させていただきたいとは、それほど強く思っていないんですね。ただ、インターンシップに行くと、実際にはその経験を評価されてか、ジョブインタビューのときの受け答えに反映してか分かりませんけれども、基本的に好意的に捉えてもらっていて、産業界に就職するときに役立っています。

 それからやっぱり、本質は学生がそこで教育といってもリサーチインターンシップ、テーマは研究ですから、そこで数学教室で教育を受けていたのでは分からないようなことが出てくる。それがやっぱりプラスに働いています。今日、西成先生がおっしゃっていたように物がない、情報、金融とか書いておられましたけれども、そういうところは、そういう先生がいらっしゃると学生たちは大体分かってくるんですけれども、特にメーカーになると、数学教室にいただけでは全く分からない。これはビッグアドバンテージですね。

【北川委員】  キャリアパスという意味では、数学だけではなくて横断型基幹科学技術研究団体連盟がありますよね。横幹連。あそこは、システム科学だとか制御科学とか、いわゆる方法の学問分野に共通する問題で、若いとき、例えば企業が採用してくれて、ある程度活躍しても、その後ずっと上がっていくルートがなくて、やっぱり困るというのがあるんですね。ここで議論してどうなるものでもないんだけれども、そういう形になっていかないと数学だとか、そういう方法的な横断型のサイエンスが、我が国に定着していかないという問題があるかと思います。

 日本は規制官庁がちゃんとしていないというのがありますね。アメリカだとFDA――Food and Drug Administration、例えば薬品とか食品の安全性、そういうところには統計とか数理の人が数百人いると聞きますが、日本はそういう専門家が10人ぐらいしかいないし、企業でもそうなっていると思うんですね。だから、数理的なものとかをちゃんとどうやって定着させてもらうか、場合によっては資格を導入するとか、そこまで考える必要があるのではないかなと思います。

【若山主査】  具体的な御提言だと思いますが……。

【北川委員】  ちょっとついでに。例えば医薬品の許認可に関してインターナショナル・ハーモナイゼーションというのかな、3極で十数年前に合意したかと思うのですが、お互いに相手方の認可結果が認められるようなシステムだと思うのですが、それに対して資格が必要になるわけですね。そういうのができると各大学、慌てて統計の講座を医学部に作ろうという雰囲気が出るので、いろいろなところで数理的な人が必要になるようなシステムを我々の方で作っていく努力も必要なのではないでしょうか。

【宮岡委員】  それに関連してですけれども、工学の場合は一旦会社に就職してから大学に戻って准教授、教授になるという道があるのですが、数学の場合は、まあ、ほとんどないですよね。伊藤清先生が唯一の例外ではないかと思うんですけれども、そういう道もこれから作っていかなければいけないのではないかと思いますね。特に応用関係だったら、そういう道がむしろ自然なのではないかと思うんですけれども。

【若山主査】  今でも少しあるのは情報系とか、結局、数学の独壇場だと今日西成先生が書かれていたようなところの企業からだと少しずつ入ってきているわけですね。参考までに、オランダのフィリップスですけれども、数学の人たちも十何人、博士号を皆さん持った研究者がおられて、MathSciNetを見ても彼らはちゃんと探すことができる。その論文の幾つかはですね。その人たちに聞いたのではなくてサブディレクターに聞いたんですけれども、数学の人で、もちろん数学だけでやっているわけではなくて、今日も話題になったいろいろなことを御存じの方たちなのですが、企業にとってもとても良い。分野によっては工学だと、企業だともうこの研究をやめてしまうということがあるわけですね、会社として。そういったときに非常に困る人が出てくるんだと。その意味で、数学の人は困りませんねということを言っていましたね。数学の人というのは、そこにいる、いろいろなことを御存じの方たちなんですけれども、このようなことはやっぱり強調していけるようになればいいと思います。

 先生、ちょっと違うお立場から御発言をお願いしたいんですけれども。

【大島委員】  キャリアパス、特に博士課程の修了者は多分、数学だけではなくて、今、日本全国どの分野もキャリアパスのことは問題になっていると思うんですね。すみません、ちょっと質問になってしまうのですが、今はやはり数学の博士課程の修了者は、ほとんど学術の大学、若しくは研究所に行かれる方が多くて、それ以外の就職先と言うとおかしいんですけれども、その道も構築ということなので、産業界にやはり持っていきたいという、これはそういう意味の方策が必要なのかということなんですかね。

【若山主査】  数年前に文科省の委託を受けて調査をしたときですけれども、日本数学会の方でしてくださったんですが、大体、今、アカデミックポジションというか、各年度、数学のポジションというのは大学関係で二十二、三名なんですね。ところが、博士修了者というのが全国の大学で200名ぐらいはいるわけです。大昔は産児制限をしておりまして、博士課程を出る人たちがほとんどいなかったので、まあまあ、何とか回っていたという。でも、今はそうではないので、そういう人材はもったいないわけです。諸外国を見てみると、数学研究者がいろいろな産業界で活躍しているという、それが日本でも起こったらいいな、起こすべきだと、そういうのがメインテーマの一つです。

 ちょっと中途半端になりますが、今の件に関しては、どちらかというと数学系の学生に対しての話だったわけですけれども、もう一つ、ほかの分野の方たち、学生たちの人材教育といっても数学の教育ですから、大学の数学の先生が多くは携わっておられるわけですけれども、これについて御意見を頂戴したいんですけれども。中川さんなどは、むしろ外から御覧になっていて、しかも、仲間は数学出身でない方が会社の中におられるわけですけれどもいかがでしょう。

【中川委員】  大部分がそうですね。

【若山主査】  どんな。

【中川委員】  企業の場合は、企業の問題解決というのが第一にあって、チームとして対応することになる。チームの中で、個人、個人が、何ができるかという、そういうものが重要視されます。そういう中で数学がどう関わるかというのは、即答するのは難しいと思いますが。

【若山主査】  例えば中川さんのような人材がたくさんいらっしゃると、とても良いと思うんですけれども、それは中川さん御自身のいろいろな御経歴から考えてどんな感じでしょうか。

【中川委員】  どうでしょうね。私が初めて数学の先生方と連携したのは、たまたまだったんですね。やってみると、自分が想像していた以上に深い。深いという意味は、数学には膨大な定理がありますね。そうすると一部を知るだけで、うまくいけば、その膨大な定理を活用できる可能性がある。それは企業の個人では無理なので、大学のいろいろな先生を介して、いろいろなものの考え方を定理として持ってきて、いろいろ現場の問題に当てはめて、うまくいくか、いかないかということを試行錯誤する。

 そういう中で、最近感じていますのは、数学を使って、企業の人と数学の人が一緒に議論しながら、問題解決の方法論をゼロベースから作っていくというのが非常に大事だと。それが一旦成功すれば、それをベースにしていろいろな展開ができます。数学にはそれができる可能性を感じています。

【若山主査】  例えば学部教育などについては、ゼロベースで始めるといっても数学に関心がなければ多分……。

【中川委員】  でも、そこは何もかも数学の人たちが知る必要はなくて、だから、そこは連携ですので、物理現象は当然、企業とか他分野の人が数学者の方に情報を与えるべきですね。

【若山主査】  だから、中川さんのお仲間ですと、そういう意味では数学とは言わなくても、物理とかかなり数学に元々親しみを持っておられるというか、直接、間接的に。

【中川委員】  というか、そういう議論を通じてお互い関心を持ち合うということの方が合っているかもしれません。多分、そういう新しい問題の場合は、当然、物理現象についてはこちらから御説明させていただいて、それで議論をして、お互いの理解を深めていくというやり方ですね。

【杉原委員】  すみません、分からない。数学といったときに何をイメージされているのか、ちょっと分からないところがあるんです。諸科学分野、諸分野の方に数学を教えるといったときに、実は数学というとき、多分、今、ここで議論しているときには、統計を含めてかなり広い分野を意識されていると思うのですけれども、全部だと切りがないので、ここで議論されているときにどういう分野を。

【若山主査】  私がお答えすべきかどうか分かりませんけれども、私は一つの問題意識として次のようなことがあって、この準備されている論点に同感しているんですけれども、やはりゼロベースから始める。それから、共同研究を始めるといったときも、私たちの方も例えば物理的なこととか、いろいろなことが分からないといけないし、数学が幾ら普遍的だといっても、一つ一つの問題は最初から普遍性を伴っているわけではないですから勉強しなければいけないわけですね。こちらも勉強しますけれども、共同研究をされている方も、数学の知識は少なくてもいいですけれども、数学マインドをある程度持っておられるとか、そのための基礎知識もあるとか。そうでないとなかなか一緒に何かやっているというところまで行かないわけですね。そういう意味での数学マインドとか、数学的な知識を非常に充実させるという。

【杉原委員】  はい。問題意識は多分、私もそうだろうと思ったのですが、とした場合に、逆に言うと何を教えたらいいかというまた難しい問題があって。

【若山主査】  そうですね。

【杉原委員】  その教えた方がいいのは間違いないんですけれども、そういう数学マインドというのをどういう形で。

【中川委員】  他分野の人と議論ができる。それは多分、お互いの文化を理解し尊重し合うということだと思います。

【小谷委員】  大学院で今、コースワークって余りないと思うのですが、自分の専門と違う分野のコースを取れるように、取らなければいけないようになると、別にそれは数学でなくてもいいと思うのですが、日本の産業技術とかも進むのかなという気はします。

【若山主査】  そうですね。私もそう思っております。

【中川委員】  方法論ではないと思うんです。私のイメージは。

【杉原委員】  そうですね。

【中川委員】  数学をどう使うかということ。方法論だったら、別に数学でなくてもできると思いますので。

【杉原委員】  ええ。逆に言うと、それは非常に難しいと思うんですね。何を教えたらいいかというところは、実は肝になる。逆に言うと、教えた方がいいとは思うんですけれども、今言ったような問題を解決するためにはそこを議論しなければいけない。

【若山主査】  それに加えまして、特に学部など、それから、今のコースワークということを考えても、時間が有限ですのでコースワークにすると、今みたいに修士論文で充実させるというわけにいかなくなってくるところもありますし、本当に議論すべきポイントかなと思っています。

【粟辻融合領域研究推進官】  少しだけいいですか。

【若山主査】  はい。

【粟辻融合領域研究推進官】  我々もいろいろな分野の方からお話を伺うと極めて共通する話は、要するにいわゆるコンピュータが進歩したことによって、昔ほど数学を勉強しなくなった。勉強することを必ずしも求められなくなったという話をよくお伺いするんですね。それがこういう数学との諸分野との連携にとってどちらかと言えばマイナスの方向に働いているのかなという気もしていまして、それを何か穴埋めするというか、改善するにはどうすればいいのかなというのが、多分、いろいろなポイントなのだろうなと思います。

【若山主査】  はい。そういう意味では以前にも言いましたけれども、工学部の先生などの中には、そこに非常にストロングの応用数学者が昔は一杯おられたということも関連しているわけですね。

【小谷委員】  今は数学の素養を持った工学の先生がいらして、その上でコンピュータがあるからうまくいっているのであって、そういう数学の知識が全くなくコンピュータだけ使う人が大多数になったときには、コンピュータが全てを解決するかというと、それは全然違うのではありませんか。これまで数学の素養がある人を育ててきたからこそ、今、コンピュータの力をうまく活用できているのだと思います。

【中川委員】  コンピュータを使うって、どういう目的で使うかによると思うのですが、多分、普通、一般的にやられているのは、中身は知らなくてもブラックボックスで、実験装置と思って、数値実験でそこから出てくる結果を解釈して、そこから法則性を見いだしていくという世界だと思うんですね。実験装置と割り切ってしまえば、それはそれで成立する世界だと思うのですけれども。

【大島委員】  そうですね。多分、いろいろなレベルがあって、ブラックボックス的に使っていて、おっしゃるように実験で、ただ設計に使っているのであれば、そこは原理原則を知らなくてもいいんですけれども、多分、今、問題になっているのは、そういうのでやってきたときに出てきた結果が評価できないんですね。それはやはり、それがどういう現象、物理的、若しくはその取り扱っている現象が、どういう形で表されているかという原理原則を数学的にも、物理的にも、化学、取り扱う問題によって知らないので、それが評価できないということになるので、それは多分、授業の段階で、基礎的な数学と、例えば物理をきちんと融合した形での発展型の授業としてするということになるかと思うんですけれども、それが大学として授業でされていないというのも多分問題になっていると思うんですね。

 なので、多分、基礎的な、例えば力学などをしたものと次の段階のインターミディエートの融合した授業というのがどうやって構築するかというのが、多分、今、専門の中でもされているかというと、なかなかされていなくて、そのまま卒論にいきますので、そこがいわゆる工学部の場合なのですけれども、研究室でやっているという形になっていて、余り体系立っていないというのが多分、その問題として定義されているのではないかなと思いました。

【若山主査】  ありがとうございます。

 ほかにございませんでしょうか。何か以前、どなたかおっしゃっていましたけれども、ほかのところでも聞きましたが、実験系の学生たちがコンピュータ実験をするので本当に手を動かして実験することがなくなって、これはこれで困るんだという話を伺いまして、何かちょっと双対的現象に感じたことはありますが。よろしいでしょうか。

 それでは、ひとまず、もう一つ最後に知的財産とか情報発信等について少し御議論いただければ。

【粟辻融合領域研究推進官】  業界でなかなか評価されないという話をよく伺っていますので、どこでしたっけ、3ページ目の真ん中のところ。

【若山主査】  すみません、飛ばしましたね。評価されないというのは、出てきたのに評価されないのと、それから、評価が出てこない。さっきみたいに隠れたままで出てこないという両方の問題があると思うんですけれども、複雑で難しい問題ですが、どのように思われますでしょうか。

【宮岡委員】  それはほかの数学以外の方の評価を知りたいんですけれども、自然科学などでやっぱり特許関係で出せないとかいうことがあると思うんですね。そういう場合の評価はどうなっているのか、また、工学はどうなっているのかとか、そういうことを知りたいんですけどもね。

【杉原委員】  工学の方は最近、人事でも特許の数と論文はかなりコンパラに近い形で評価される形にはなっています。

【大島委員】  やはり特許を出してから論文発表するというのが割とルーチンまではいかないんですけれども、されるのと、あと、やはり問題になるのは、いわゆる学生が研究した場合の成果をどういう形で発表するかというのは課題として残っていて、特に修士論文とか博士論文になりますと、一応、今は発表する前にサインをするようにはなっているんですけれども、知的財産関係に関連した研究はなかなか学生が発表しにくいというのはありますね。

【若山主査】  私もこの数年は少しそういうのは分かるようになってまいりましたが、感じています。九州大学の研究所と数理学研究院というのが分かれたのですけれども、研究所では、論文とコンパラブルに特許というわけにもちろんいかないんですけれども、やはりその特許というのを、まだ新しくなってから人事をそうたくさんやったわけではないですが、もうそれでも四、五件やっております。そのときにやはり特許というのもかなり評価するように、まあ、評価している方が本当に評価できているのかよく分からないんですけれども、少なくともこの人、特許はあるんだということはちゃんと見るというふうにはなっていますね。

【宮岡委員】  その際、特許は数だけではないですよね。その特許の評価はどうするのか。例えば論文でしたら、どういう雑誌に出たかとか、サイテーションとかありますよね。特許はどういうふうにやっているんでしょうか。

【大島委員】  難しいですね。

【杉原委員】  でも、何となくは。

【宮岡委員】  分かるんですか。

【杉原委員】  「これは」と思えるような内容が重要で、それだと。

【宮岡委員】  なるほど。

【中川委員】  あとは特許が登録になったかどうか。

【杉原委員】  もちろん、そうですね。申請は誰でもできますから。

【北川委員】  特許も大事で、工学の方はそうなっているのは事実だと思うのですが、数学の場合、特許とこの論文の間のギャップがありますよね。その間の何か共同研究をやって、成果を上げてきたところを評価するのをちょっと間で考えておかないと難しいのではないかなと思いますね。

【若山主査】  特許があるというのは、先ほど我々、分からないと言いましたけれども、意欲があるというふうなところで評価していることが結構ありまして、きっとその特許にしても、大学から出るのは、いわゆる基本特許みたいな感じが多いのだと思うんですけれども、企業側から言うと割とポジティブな特許と、それから、割と消極的な、とりあえず特許……。

【杉原委員】  防衛というやつですか。

【若山主査】  ええ、防衛特許というのがあると伺っていまして、その辺りもちょっと私にはまだ分からないところですね。

【小谷委員】  特許以前に、共同研究をした場合に数学が主人公にならない形の共同研究が多いと思うんです。向こう側から見たときに数学は主人公ではないので。そういう論文を、数学側がどういうふうに評価してくださるのかというのは気になっています。特に若い人がファーストオサーでなく、セカンドとかで、しかも、数学でないジャーナルに論文が出ているものを、どういうふうに評価くださるのか。

【若山主査】  この件については以前にも御議論いただいたところではありますけれども、今の時点では二つのところに出すというのが一つの方法ですね。その際には数学的なところを強調するということもあって、ファーストオサーになるということで何とか少し問題を回避する。

【大島委員】  ここに書いてある数学界において諸科学・産業との協働が評価されるようにするにはどうすれば良いかということで、これは例えば研究をしている段階で、西成先生の話もありましたけれども、問題があったときに自分が今までやっていた数学をそれに向けて開発をしていくということが往々にしてあると思うんですね。産業界とやる場合には。それは数学から見た場合には、学術的な位置付けが余り認められないという問題があるんですか。何でこういうことが問題になっているということなんですか。

【若山主査】  数学としての新規性というか、それがないので、ない場合にはですね。既にある理論を使って問題を解くということはたくさんありますね。

【大島委員】  ええ。

【若山主査】  多くがそうだと思うんですけれども、それを数学の学術的な、そこに数学の学術としての価値を置かないという。

【大島委員】  なるほど。それを例えば工学とか別の分野で、それをジャーナルでファーストオサーとしてパブリッシュした場合には、特に若い研究者の場合には数学の分野としてはなかなかリコグミッションとしているのが難しいという。

【若山主査】  一般的には大変難しいと思います。

【中川委員】  応用数学でもそうですか。例えば欧米の。

【若山主査】  それはそんなことはないと思います。

【中川委員】  そうですよね。

【若山主査】  一例ですが、私たち、いわゆる純粋数学の数学者って特にインパクトファクターとか何とかっていうトムソン社とか、あちらを見ることはほとんどなくて、見るとしたらマスレビューだと思うんですね。でも、マスレビュー以外にどれだけ数学、応用数学のジャーナルがあるかというと、恐るべき数ほどあるわけです。そこで活躍されている方の仕事というのは、例えば普通のかつての数学教室というところでは、余り評価されてこなかったと思うんですね。

【北川委員】  今の話に関連して、それだったらマスレビューを見るのもいいけれども、ISIだとか、Google Scholarとか数学に限定しないものを見るということも例えば審査するときに必要ではないかと思うんですね。余り良くない例だけれども、インターネットの掲示板で悪口を書かれていたりして、数学の論文を書いていないというような酷評をされるけれども、そういう人はほかの分野でずっとやっていることがあるんですよね。

【若山主査】  そうです。はい。

【北川委員】  だから、その辺も大事ではないか。それから、ここに少し書いてあるのですが、統計も応用というのはなかなか評価されにくい側面があったのですが、20年ぐらい前にトップ4のジャーナルの一つのJASAという、アメリカの統計学会誌がトップに必ずアプリケーション・アンド・ケーススタディというセクションで持ってくるようになったんですよ。全体の意識がそういう動きになったから雑誌もそうなったという側面もあるけれども、若い人にとってはそこが重要視されているというのが分かるのでかなり効果的だったと思うんですね。それで、応用専門の雑誌を作るというのも非常に大事だけれども、それだけだと多くの人は、あれはちょっと別物という意識を持ってしまうんですね。だから、本当のトップジャーナルの一部に出すというのは非常に効果的だと思うんですね。

【大島委員】  そうですね。どうしてそういう質問をしたかというと、先ほどの数学専攻の博士課程の修了者、新たなキャリアパスの構築というお話をされていましたよね。なので、どうしてもこちらは産業界ということではあるとは思うんですけれども、若手の博士課程とかに進学する人の場合を考えると、どうしてもジャーナルに投稿するという、そのことも見据えないといけないわけですよね。なので、私は純粋数学の世界、学術のことはよく分からないんですけれども、やはり諸科学とか別の方との協働が評価されるようなことを、学会でもある程度する必要があって、そうしないと多分、この新たなキャリアパスの構築として、博士課程の進学がなかなか難しいのではないのかなと感じて、この質問をさせていただいたんですね。なので、やはりリンケージしていると思うんですね。

【若山主査】  全くそのとおりだと思います。ですから、評価というときには例えばどういう教育をやるか。どういう教育をやるためにどういう先生が必要かということがあるわけで、それから、どういう研究者を育てていくか。だから、人事ですよね。

【大島委員】  ある意味、そうですね。

【若山主査】  そういうことに非常に関わってくる。

【大島委員】  そうですね。

【中川委員】  それは企業でも同じで、企業に一旦就職した人が大学に帰るという道が、数学でもあればいいと思います。今は多分ないのでなかなか採用する方も難しいというか、二の足を踏むというのがあると思うんですね。工学系の人は、大学に帰る人も結構いらっしゃいますので。

【大島委員】  そうですね。

【若山主査】  それからやっぱり、付き合いが広がったら、この人、すごいなと思うことがあるとまた変わってきますしね。ですから、やっぱり意識改革にはこういう信頼関係を持った広がりというのが必要だと。言うまでもなくそうだと思っています。

 解決すべき大きな問題がここにあるということは共通認識です。さて、さっき先に進め過ぎてしまいましたけれども、最後にIII-3について少しだけ御議論いただいて、今日は終了したいと思います。知的財産権に関わる問題への対処方策、今のところは件数が少ないので、何か個々に何とかやっているという状態かと思うんですけれども、これについて御意見等頂きたいんですけれども。

【中川委員】  これ、知財というのはアカデミアの人たちから見ると、どういう目的で出されるのでしょうか。もうけるためなのか、それとも発表する前提として、知財を出して発表というルートを踏むためのものなのか。

【若山主査】  少なくとも旧来の、例えば私個人で言いますと、知財というのは関係のない世界であるという、そんなところがありました。しかしながら、先ほどのキャリアといったときに特許が、特許でお金を儲もうけるというよりは、むしろ特許の中にその人の名前が入っているということで学生が。

【中川委員】  論文の一部。

【若山主査】  まあ、一部というか、そこをむしろ今は重視している。

【中川委員】  そのときに知財で、例えば企業が共同研究をして知財化するときに、大抵の場合は、企業が特許明細書を書いて出願交渉する場合が多いのですけれども、そのときに大学の実際に担当された研究者を飛び越えて、大学のTLOの人たちと会社が対応する。その負荷が大きいんですね。大学は特許でもうけようとしている。担当された研究者の意思と大学の意思に、かなりかい離があるように感じています。そこの負荷はかなり大きいと思います。

【宮岡委員】  確かにそうですね。

【杉原委員】  でも、逆もあって。

【中川委員】  逆もあるかもしれません。

【杉原委員】  ええ。企業が非常に強い、一番有名なのは名古屋にある会社ですけれども、要するにすごく特許権を主張して、大学の特許をほとんど認めないみたいな態度で出てくる。なので、もろ刃の剣であって、TLOをうまく使えばそういう意味で役に立つ。もっとも、TLOは割と大学によって違いますね。権利を主張する大学と、そうではなくてうまい具合にやる大学と、だから、そういう意味ではうまくTLOを使うとうまくできるだろうという感じだと思います。

【中川委員】  それに要する期間が数箇月、下手すると半年ぐらい。

【杉原委員】  そうですね。

【若山主査】  何か最近どこかで見た記事で、昔はそれでも特許収入というのが、多分、東大が一番大きかったんですけれども、ここごく最近、東京農工大が急にぐんと伸びたということがどこかに書いてありました。

 それから、最後に情報の発信、理解の増進ということで、これは内側に対しても、外側に対しても非常に重要なことだと思うんですね。具体策の例、これは大事なことですが、成功事例と数学不使用事例の紹介というのはなかなか難しいというか、使ったらうまくいったということがあると使わなかった時代のことは言えますが。何か粟辻さん、これはどんな感じで。

【粟辻融合領域研究推進官】  ここに書いたのは、いわゆる成功事例みたいなものは既に紹介されていたり、あるいは分かりやすかったりするんですけれども、ここに書いた不使用事例というのは、うまいタイミングでうまく数学的な知見、あるいは数学者の協力などを得ていれば、もっとうまく国際競争でも優位な立場に立てていたのに、というようなものが何かうまく出せれば、じゃあ、そうならないように頑張ってやらなければいけないという意識を植え付けることができるのかなと思ってちょっと書いてみたんですけれども、具体的に何があるのかというのを抽出するのは確かに難しいかもしれません。

【若山主査】  分かりました。例えば外国では数学を使ってうまくいった。これだったら、もしかしたら日本でもできていたのではないかという、例えばそんな感じのことですね。

【粟辻融合領域研究推進官】  はい。そうです。

【若山主査】  分かりました。ありがとうございます。何かこれについて御意見等ございますでしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】  まだまだ広げていかなければいけないステージかなと思っていまして、先ほどワークショップなどを広く呼びかけるというのも一つの手だとは思うんですけれども、それとは別に何かこんなことができるんだろう、あるいはこういうことに気が付かないと損をするんですよというのを、何かもう少し広くアピールするような提言も必要かなということで、少し書いてみたのが最後のところです。

【若山主査】  一つのこのイノベーション委員会の目的は、概算要求とかということでもありますから、そういう意味では効果的な例が挙がると非常に良いということですね。

【粟辻融合領域研究推進官】  最初に戻って恐縮ですけれども、最初の3-1の(1)の四角の中に丸が三つありますけれども、三つ目の相談への対応みたいなので、何か相談窓口みたいなのが必要だとか、異次元的に対応できるようなところが必要だとかいうような御意見があったり、あるいは先ほどの西成先生のように企業はピンポイントで基本的に対応するわけだから、そんなところを設けても余り意味がないというか、本当に必要としている人は余り来ないとかいうような話を伺ったり、いろいろ御意見はあると思うんですけれども、こういうものが何か、こういう看板というんですか、看板、あるいは体制みたいなものが実際に必要なのか、あるいは必要だとすればどんなものが必要なのかみたいなのは、皆さんどんなお感じですか。

【若山主査】  今の数学と諸科学というか、特に産業界とかいう意味では、もう少し看板がある方が多分良いのではないかと思います。現時点ではですね。西成先生がおっしゃっていたのは全く事実だし、正しいと思いますけれども、想定される多くの数学研究者がいる数学、大学の数学の世界では、まだまだ意識はそれほど高まっていないですし、産業界もどこかの大学数学教室にノックしていこうとは普通は思わないですから、そういう意味では、まだ現時点では看板は確実に必要だと思います。

【中川委員】  理想は、看板があって、それで実績を出して成果を見せていくということだと思います。

【若山主査】  そうですね。はい。

【宮岡委員】  その看板を持った施設の、例えば委員として西成先生みたいな人を入れておくというのはいいかなとは思いますけれども、ネットワークを持った人の数はかなり限られていると思うので、誰がやっても似たような人が選ばれてしまう。今のところは、人材はそんなにいないと思うんですよね。しかしそういう方を是非網羅して、少しずつでも増やしていくというふうにしないといけないのではないかと思いますね。

【若山主査】  そういう意味で、産業界でどれほど狭い意味での数学に対して、例えば統計であれば、そちらの方が産業界にも多くの認識があると思われていますが、北川先生のところというか、ところと言うのは変ですけれども、面白い問題、それから、面白くない問題も含めてやっぱりたくさんあるのでしょうか。

【北川委員】  大学共同利用機関としては共同利用をやっているのですが、もう少し間口を広げるために、従来は統計相談というシステムを作っていたのですが、私が辞めてから統計思考院に変わりましたので、そこで共同研究スタートアップという制度を始めていて、ピンポイントで来れないような人を対応するということで、実際、昨日鉄道会社から相談があって、私のところへ来たのでそちらに振って、私も行って、そこに四人ぐらい来てもらって、こちらで五、六人で対応してマッチングさせて、その中で適当な人、あるいは興味を持つ人を探してやってもらうという形でやっている。

【若山主査】  分かりました。大切な点かなと思います。今のところ、いろいろな意味で拡大策に転ずるということは重要なのかなと思っています。

 ほかに何かございませんでしょうか。それでは、時間も予定していた時間を少し過ぎてしまいましたので、最後に粟辻さんの方から次回等について。

【粟辻融合領域研究推進官】  次回、また追って正式には連絡させていただきますけれども、4月13日の金曜日の午前中を予定しております。場所はここではなかったと思いますけれども、また追って連絡させていただきます。議事録につきましては、今までと同じように案を作ってまた照会させていただいて、ホームページに掲載するということをさせていただきたいと思います。また、資料はお持ち帰りが大変でしたら、机の上に置いていただければ、後日、郵送させていただきます。

 以上でございます。

【若山主査】  それでは、本日の数学イノベーション委員会、これで終了したいと思います。どうもありがとうございました。

 

―― 了 ――

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