数学イノベーション委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成23年11月2日(水曜日)10時~12時15分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 諸科学分野において今後必要な数学・数理科学研究について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、安生委員、大島委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員

文部科学省

倉持研究振興局長、戸渡大臣官房審議官(研究振興局担当)、永山振興企画課長、内丸基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室 江守正多 室長、東京大学大学院総合文化研究科 金子邦正 教授

5.議事録

【若山主査】 それでは、時間になりましたので、数学イノベーション委員会、第3回を開催したいと思います。

 おはようございます。少し涼しくはなりましたけれども、朝早くからおいでくださいまして、どうもありがとうございます。

 本日は、青木玲子先生から、御欠席との御連絡を頂いております。

 それでは、本日の議事を進めるに当たり、事務局より配付資料の確認をさせていただきたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より、配布資料の確認があった。

【若山主査】  よろしいでしょうか。

 それでは、議題1に入りたいと思います。前回も議論させていただきましたが、数学イノベーション委員会では、数学・数理科学と、諸科学・産業との協働による研究課題について、検討を行うこととしております。この検討に当たりまして、諸科学分野、各領域で御研究を活発になされている先生方に御意見をお伺いして、本委員会での検討の参考にさせていただきたいと考えている次第です。

 今日は、国立環境研究所地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室の江守正多先生と、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系の金子邦彦先生のお二人の先生に御発表いただきたいと思います。

 まず、国立環境研究所の江守正多先生より、「気候予測分野における数理的アプローチの適用例と可能性」と題して、お話しいただきたいと思います。先生は、コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の将来予測とその信頼性の御研究をされておりまして、研究を進める上で必要な数学・数理科学的知見や数学・数理科学に対する期待などについて、お話を頂くことになっております。

 それでは、よろしくお願いいたします。

【江守室長】  皆さん、おはようございます。国立環境研の江守と申します。よろしくお願いいたします。

 最初に申し上げておきますけれども、僕自身は数学の余り難しいことを細かく自分で考えるのは得意ではございませんが、僕の研究分野で特に数学の得意な人とどういうことを一緒に考えているかということを大まかには把握しているつもりですので、その立場からお話をさせていただきたいと思います。

 この分野の研究ですけれども、基本的には気候の数値シミュレーションであると。気候というのは、地球の大気と海洋、それから、陸面、生態系、含めようと思うといろいろと含まれるんですけれども、そういうものから構成されるシステムです。数値計算として解く上では、基本的には大気と海洋の流体の物理の方程式を解くと。ただそこに、現実の地球というのは複雑な様々な物理的なプロセスが入っておりまして、雲とか、雨とか、放射伝達ですとか、そういうものが入っておりますので、単純に流体の方程式を高い精度のスキームで解けば正しい答えが出るというものでは残念ながらないと。そこがこの分野の重要な、面白いところであるんですけれども、イメージとしまして、例えば、運動量保存の式とか、エネルギー保存の式とか、そういうのがあって、それを格子上で解いていくわけですが、そこに、我々、パラメタリゼーションと呼んでいるんですけれども、流体以外の項といいますか、半経験的にしか、現時点の科学では表せない、あるいは現時点の計算機の能力では表せない項が入ってまいりまして、これの取扱い方に不確実性がありますので、そのシミュレーション結果に不確実性が生じると。

 じゃあ、シミュレーションのイメージを御覧いただきたいと思うんですけれども、これはデモ的に御覧いただくだけですが、そういったシミュレーションモデルで、将来二酸化炭素が増えますよという条件を与えながら、どんどん100年ぐらい計算すると、こういうのが得られるという、ちょっとイメージをつかんでいただきたいというだけですが、これは気温の変化を表していまして、赤は気温が上がるところで、青は気温が下がるところですけれども、こういうふうに気候というのは年々不規則に変動すると。変動しながら、二酸化炭素が増えるという条件を与えていますので、全体的に温度は上がっていくと。いわゆる地球温暖化ですけれども、これによってどれぐらい温度が上がるのか、どの場所で特に温度が上がるのか、それから自然の変動の仕方が変わるのかどうかとか、あるいは、気温以外にも、これは気温しかお見せしてないですが、雨の降り方ですとか、海面の上昇ですとか、風のパターンですとか、そういうものがどういうふうに変わるのかと、そういったものがシミュレーションできる、そういう分野だというイメージをお持ちいただきたいと思います。

 その上で、先ほど申し上げたとおり、非常に重要なのは、不確実性をどういうふうにとらえていくかと。数理的な手法の適用ということを考えましたときに、もちろんシミュレーション自体の中に、スキームであるとか、現象をモデル化する上での数理であるとか、基礎的なところにおける数理のアプリケーションというのはもちろんあるんですけれども、今日はそういった話は一切すっ飛ばして、全体的な結果の不確実性をどのようにとらえるかというところで、数理的な考え方を我々は今どういうふうに使おうとしているかという話にフォーカスさせていただきたいと思います。

 気候予測の不確実性というのは大きく三つぐらいありまして、一つは内部変動の不確実性で、これはいわゆるカオス的に非線形のシステムですので、日々、年々、不規則に変動しますから、それをどうとらえるか。気候の場合には、天気予報で予測するような日々の変化というのは統計的にランダムに起こると思って、平均しちゃえばそんなに関係ないと思いますので、気候という時間スケールで考えるときには、10年ぐらいの時間スケールでの天候の年々の変化、内部変動は関係してくる。

 2番目は、今日の話とは関係ありませんけれども、シナリオの不確実性。将来、人類がどういうふうに発展していって、どれぐらい対策をやって、どれぐらい温室効果ガスを出すかという、その仮定が違えば、将来予測結果は違うと。当たり前ですけれども、その不確実性は当然ある。

 3番が今日の話で一番強調したいところなんですけれども、気候モデル自体が持つ不確実性ですね。これはモデルの、どういうパラメタリゼーション、どういう式を使っているか、あるいはどれぐらいの解像度であるといった構造と、それから、それぞれの式に不確実なパラメータがありますので、その値をどういうふうに設定しているかということによっても結果は変わってくると。

 この図は、いろんな時間スケールで見たときに、シナリオの不確実性というのは長い時間ほど効いてきて、内部変動の不確実性というのは短い時間のところほど効くんですけれども、モデルの不確実性というのが全ての時間スケールを通してかなり重要であると。

 内部変動の不確実性から少しだけ説明しますと、これは、日々の天気予報が当たるか、外れるかという、いわゆるカオス的な不確実性と同種のものですけれども、気候の時間スケールでは、近未来予測といいまして、特に今後10年、20年、30年ぐらいの間に温暖化はどういうふうに変わっていくかと。これは、温暖化していくと同時に気候の自然変動が乗っかっていますので、気候の自然変動のうち、10年ぐらいのスケールの変動で、予測可能な部分が予測できるんじゃないかというような研究が最近進んでいます。カオスですので初期値が大事であるということで、どれだけ現実的な初期値を作れるかというデータ同化の、実際の観測データとモデルによる物理的な整合性を同化させる数理的な手法、それによって予測実験をしてみて、どれぐらい予測可能性があるかという評価、この辺りが具体的な数学的な手法の適用先になります。次にお話しするモデルの不確実性と比べて、この問題の場合には、過去の変動の予測実験を行うことによって、系の予測可能性、予測システムの性能を評価することができるというところが、このスケールの不確実性の一つの特徴です。成績を測れるということです。

 初期値化が大事ですよという、これは、要するに今までは、10年、20年というスケールで温暖化予測するときにも、例えば二酸化炭素が増えますよという外部条件だけを与えて予測していたんですけれども、最近は、過去の観測データを与えて、そこから手を離して予測することによって、当面、予測可能性がしばらくあるかもしれないので、その部分の変動も予測してやろうということが行われていると。ここでデータ同化の数理的な手法が使われるということです。

 実際やってみるということですけれども、これは割と先駆的なイギリスの研究グループの事例なんですが、地球の平均温度の変化は、黒い線が観測データで、実際にこういうふうに変動していったわけなんですけれども、何も初期値化をしないで例えば1本シミュレーションを走らせると、この青い線みたいになると。青い線みたいになるけれども、初期値化をすると、赤い、不確実性の幅がついていますけれども、これは初期値化をしたシミュレーションで、論文の主張としては赤い方が青い方よりも黒に近いということなんですが、よく見ないと分からないぐらいの、実際にこの程度の予測可能性なんですけれども、特に初期値化して、最初手を離してしばらくのところは、青い線の方が黒い線を多少フォローするような振る舞いが見られると。こういう研究が今なされているところです。

 繰り返しますけれども、こういう研究の場合には、過去の実際のデータを、予測実験をしてみることによって、過去を振り返ってどれぐらい予測可能性がありそうかということを調べられるわけです。

 一方で、気候モデルの不確実性ですね。先ほどお話ししたようにモデルは半経験的な式が入っていまして、モデルによって結果が少しずつ違うわけですけれども、この不確実性、特にこれでもって長期の、例えば100年後に温度が何度上がるか、あるシナリオ、二酸化炭素は何ppm増えますということを前提にした場合に、givenにしたときに何度上がるか、あるいは、雨がどこで増えるか、減るかといった結果がモデルによって答えが違うといったときに、じゃあどれが正しいのかと性能を評価するということは、ちょっと単純ではないわけですね。つまり、過去の変動というのは、変動のパターンを、数年スケールの実際に起こったやつを当てるというのは、過去に試してみて当たるかどうか調べられるんですけれども、100年の温暖化というのは、我々、同じものを過去に経験してないので、過去のを試してみて当たるかどうかという調べ方はできないという難しさがあります。幸か不幸か世界中の複数の機関がこのモデルを競い合って作っていますので、それを集めてきて、モデルアンサンブルと、後でちょっと言いますが、モデルの集合を使って何らかの意味で不確実性の情報を持った予測をしていこうという流れに今あります。

 このアンサンブルをどう作るか。一つには、複数のグループが作ったモデルを集めてきて、それを不確実性の幅だと思うと。現在、世界中の二、三十の機関がモデルを作って、そういう集合がありますけれども、あるいはもっと系統的に、一つのモデルの不確実パラメータを系統的に値を振ってみて、それぞれで温暖化の実験をして、それを不確実性の幅だと思うと。これはもうちょっと、今お話をします。

 問題は、モデルの良しあしをどういうふうに測るかですね。過去が試せないので、そう単純ではない。それから、確率分布を、不確実性の幅というのをどういうふうにとらえるのかというのが、大きな課題になっています。

 不確実性がどういうふうに表れるかという例として、これは20世紀、21世紀、22世紀、23世紀の気温の変化をシミュレートしたものですけれども、20世紀はこういうふうになりまして、21世紀は当然、幾つか色で描いてありますが、シナリオによって、人間がどれぐらい二酸化炭素を出すかによって答えが違いますけれども、同じシナリオで計算しても、モデルによってこれぐらいの幅が出るということを表しています。

 そして、分布で見てみましても、これはちょっと細かいので見にくいですけれども、言いたいのは、これはどちらも降水量の分布の、一つ一つが世界地図になっていまして、雨の降り方の世界地図のシミュレーション結果です。こちらが20世紀の気候を再現したもの、こちらが21世紀にそれがどう変化するかということをシミュレートしたものです。青いところは雨がたくさん降るところで、赤いところは少ないところですけれども、こちらは20ぐらいあるモデルでそれぞれに計算した結果であります。過去に関しては当然、観測データがあります。観測データとどれぐらい近いかということをそれぞれに見ることができる。見ますと、大まかにはみんな熱帯で雨が降って、そういう形はみんな似ているんですけれども、細かく見ると、うまくいっている形が、観測と近いのもあれば、余り合ってないのもあるということになっています。それでそれぞれに21世紀を予測してみると、赤い所が雨が減る所で、青い所が雨が増える所ですが、大まかにはどれも似たようなパターンをしますけれども、細かいところはモデルによってかなり予測結果が違う。これを、どれが正しくて、どれが間違っているというふうに思うかどうかという問題が非常に、今、我々が直面している重要な問題です。

 今の問題設定を全体に関して包括的な言い方をさせていただくと、数理的手法がこの問題の中で果たす役割として、抽象的に言うと、大きく二つです。一つは、初期値や、場合によってはモデルパラメータを最適化する。どういうふうに最適化するかというと、過去の観測データと解が整合するように最適化する。場合によっては、不確実の幅を持ちながら最適化するという役割があります。もう一つは、不確実性の大きさを定量化する。これは、解のばらつき方を把握する、解と現実との距離を定量化するということがあると思うんですけれども、仮想的な位相空間を考えまして、こちらが最初に説明しました内部変動の不確実性の場合、こちらがモデルの不確実性の場合で、似たことになると思うんですが、位相空間の種類は全然違うものを表していまして、こちらの場合は位相空間が気候の状態です。ある場所の温度とか、風とか、そういうものの、ものすごく空間的な、たくさんの次元で表せるような位相空間だと思ったときに、現実の解というのがあって、これが位相空間の中を時間変化していくわけですけれども、それが違う初期値のシミュレーションが、どれぐらいまでできるかという話になってくると思います。これは旧来からのカオスのシミュレーションの考え方ですけれども、こちらは、もう一ひねりしているというか、少しメタな、少し違う概念を、違うものに同じ概念を適用していると思っておりまして、ここで表しているのは、言ってみればモデルアンサンブル位相空間でして、個々の点が個々のモデルであると。現実の本物の地球というのがこのモデル位相空間上の一つの点で表せて、個々のモデルというのは、それをそれぞれに少しずつ違うやり方で現実を近似していると。これがどういうモデルのばらつきを持っていて、それぞれのモデルが現実とどういう距離にあるのか――メトリックですね。これをどう定義するかというのが、我々の課題と言えると思います。

 それで、現実にどういうアプローチが取られているかというと、モデルアンサンブル、特に一つのモデルのパラメータを系統的に変えて、それで予測をしようと。これ、横軸は、CO2倍増平衡気候感度と言いまして、二酸化炭素が倍になって、ずっと時間がたって平衡状態になったときに、地球の平均気温は何度上がるかと。これが正確に分からない。見積りに幅があるというのが現在非常に大きな問題になっているんですけれども、これが2度なのか、3度なのか、4度なのかですね。たくさんのパラメータを変えたモデルで繰り返し実験をしてやると、こういう棒グラフみたいなものがかけると。これだと非常に、有限個の、たまたま見繕ったサンプルで計算しただけなので、この結果を使って先ほどのモデルアンサンブル位相空間をもっと満遍なく覆ってやるということを考えます。そのときに、有限な、試しに計算してみた結果を使って、統計的な、エミュレータと呼んでいますけれども、多変量解析の要領で、実際にやってみた計算結果と合うように、パラメータの値がほかの値を入れた場合でもモデルの結果を推定できるような統計モデルを作ります。それでもって、実際にはやらなかったパラメータの組合せを全部、統計モデル、エミュレータで推定して、それで間を埋めて滑らかな分布関数を作ったものが、この青い分布になります。これをある意味の確率分布だと思うわけですけれども、ここではまだ不十分なのは、どのモデルアンサンブルのメンバーも、同じように確からしいと、同じ重みをつけている。ここでより、ここで言う観測との、現実との距離が近いものをたくさん信じて、遠いものの結果は余り信じないという重みをつけたいというふうに思うと、重みを計算しまして、これもエミュレータを使って滑らかにしまして、重みを掛け合わせるとこの赤いのになると。こういう研究がなされています。これが、この研究の結果による、ある意味で客観的に見積もった気候感度という、観測不可能な変数の確率的な見積りであるということになります。

 重み付けというのは実はベイズに相当しますよということがあるんですけれども、時間がありませんのでちょっと飛ばしまして、ここで次に大事なことは、どうやって先ほどの距離を測ったのかということですね。先ほどの研究例では比較的単純に、現在の気候がうまく表せているモデルほど将来予測も信頼性が高いだろうという考え方で重みを付けたんですけれども、実際そうである保証はないんですね。現在の答えが合っているというのはたまたま合っているかもしれないので、現在の答えが合っているモデルほど将来も正しいとは言えないのでどうするかというと、今度は、せっかくモデルアンサンブル空間にサンプルがあるので、それを使いまして、モデルアンサンブル空間内の将来予測と相関の高い、観測可能な性能評価指標を探すということをやります。これはちょっと時間がないので説明しませんが、横軸に現在観測可能な量を取って、縦軸に観測不可能な将来起こるであろう予測すべき量を取ったときに、モデルアンサンブル空間内でこういった相関があれば、こちらで観測可能な量の正しい値というのは観測から見積もれるので、それを使って将来も予測できると。これはあるフィードバックの強さという特定なパラメータについての指標なんですけれども、こういうものをたくさん見つけていけば、よりリーズナブルに将来予測を制約できるということを、我々の分野で考えています。

 まとめますけれども、そういうわけで、今日特に強調してお話ししたのは、気候予測の不確実性を抽象的なモデルアンサンブル空間で表して、そこに数理的手法を適用して、不確実性を評価しようという試みが進んでいます。もちろん、旧来からあるカオス的な初期値依存に対する数理的手法の適用も行われています。我々、現状でどうやっているかというと、気候科学者が必要な数学を勉強して何とかしている場合が多い。数学に強い気候科学者を育成するのか、数学者に気候科学に参入してもらうのか、現状では前者みたいになっておりますけれども、後者みたいにした場合にどういうメリット・デメリットがあるのかということは、興味があります。

 次、最後ですけれども、これは僕自身の最近の実感ですが、個別の何とか法であるとか何とかアルゴリズムが分からないから数学の人にやってもらおうというよりは、もうちょっと抽象的な概念のところで悩んで、数学の人に手伝ってもらいたいと思うことが実は多い気がしています。例えば、ある系を考えたいと思ったときに、不確実性をどう定義したらいいかとか、自由度をどう見積もったらいいかとか、データの独立性をどう考えたらいいかとか、そういったことが数学的に厳密に考えられたことがないと、多分これでいいけど自信がないという状態に簡単に陥るので、実際、僕らが現実に数学の人と組んで考えたいと思っているのはこういう場面なのかなあという気がしています。

 以上です。どうもありがとうございました。

【若山主査】  どうも、先生、ありがとうございました。

 ただいまの御説明、御発表について何か、御質問、御意見等ございましたら、御発言をお願いいたします。20分間ほど時間を取っておりますので、よろしくお願いいたします。

【中川委員】  推定したいのは、しっかりした物理モデルがあって、その中で不確実な、例えば2ページの場合だったら、外部項のFλを推定する問題と考えればよろしいのでしょうか。

【江守室長】  はい。

【中川委員】  Fλの時間発展は未知、つまり、どういうふうに将来的のFλが進行していくのかを解くのが難しいと考えてよろしいでしょうか。

【江守室長】  ここでFλとかQとか書いたタームというのは、これはuとかtとかの関数になっているんですね。要するに解いているものは格子であって、各格子の風とか、温度とか、そういう物理量なんですけれども、モデルの中で起こっている雲とか、何とかとか、そういう細かなこと、それがuとかtとかでどうやって近似できるかというのを考えて、その式がここに入っているわけなので、この式を解いていくことによって、この項も変化していきます。

【中川委員】  そうすると、計算機の能力が無限にあれば、もっと細かいメッシュを切って、例えば乱流の渦のようなものをそこで表現できれば、もっと精度を高くできる。

【江守室長】  乱流の場合はそうです。

【中川委員】  この場合、乱流ではないのですか。

【江守室長】  乱流だけではないですね。例えば、放射と雲の相互作用とか、乱流と雲の相互作用とか、細かくしていっても、ちょっとした細かさじゃ全然足りないような現象がたくさん含まれています。もっと言い出すと、植物のプロセスみたいのとか、そういうものも入っていますので、全部直接的に解こうというのは多分当面は無理だということで、半経験式が入っています。

【若山主査】  ほかに何か。

【北川委員】  大変興味深い話、ありがとうございました。不確実性の問題を考えられていて、伺った範囲では、モデルパラメータに起因する部分、それから、初期値の部分、シナリオの部分、その辺を考えられて、マルチシナリオシミュレーター、あるいはマルチパラメータシミュレーションというのを考えられているかと思うんですが、私は統計とか時系列関係の人間ですが、そちらの分野では、モデルの不確実性といったときに、更に二つに分けまして、構造に関する不確実性と将来の入力のところというのを考えて、構造に関しては今言われたように初期値等を分布として考えるということで対応しているつもりですが、一方、入力に関しては、シミュレーションをやる場合に、乱数を使ったシミュレーションというのをやるんですね。それを何種類もやって、例えば100種類やって1年後の値を計算すると、それぞれが違う値になるので、自然に分布になってくる。そういう意味でのアンサンブルの予測というのをやっているんですが、気象の方でもうそういうふうなことというのは考えられているんでしょうか。

【江守室長】  将来の入力というのは、予測を始めた後に時々刻々変化するような外部条件ですか。

【北川委員】  非常に一般的に考えていって、いろんなシナリオを考えても、あるいはモデルを考えても、いろんな形で、非線形性であったり、予期できない入力があったり、そのような厳密に書けない部分は、統計の場合はランダムな項として考えるという立場なので、そうすると、そこを入れて予測してやると、それにもかかわらず収束するような部分と発散するような部分とあって、モデルによって違うとか、信頼性というのが見えてくると思うんですね。

【江守室長】  なるほど。現在、僕の知る限りでは、恐らく少なくとも主流のやり方では、こういう気候のシミュレーションというのは、個々のシミュレーションは決定論的なシミュレーションになっていて、そのモデル中で乱数は多くの場合は振ってないですし、あるいは外部条件にも乱数は用いていないです。で、予期し得ない出来事は当然あって、例えば、外部条件で言えば、将来、太陽活動がどう変動するか分からないとか、いつ火山が噴火するか分からないとか、そういうことがあるので、本当はそういうのは乱数で振ってやって外部条件のシナリオをランダムに作って、いっぱいシミュレーションをやって分布を見たらいいのかもしれないんですけれども、現在の我々の分野のアプローチでは、そういうふうにするとなかなか結果が、それを見ただけだと理解できなくなるので、例えば、将来予測するときには、太陽活動は変動しないとか、火山は噴かないと思いましょうという仮定でシミュレーションをして、あとは、火山が噴火した場合の応答というのは別に調べておいて組み合わせて考えるとか、現在はそういうやり方をしていると、僕は理解しています。

【北川委員】  ありがとうございました。

【若山主査】  じゃあ、先生。

【小谷委員】  すみません、素人なので数学的な興味でお聞きします。まず、膨大なパラメータの組合せを分類すると言われたときに、次元を固定して考えているのか、さらに、その場合にパラメータの独立性をある程度考慮されるのかということと、それから、このように距離を定義した距離空間は、どのような構造を持っているのか。ユークリッド空間のような距離構造で何らかのパラメータが加わっているだけなのか、それとも、面白い幾何構造が出てくるような一般的な距離空間もあり得るのか、そういうことをお聞きしたいのですが。

【江守室長】  後の方の御質問に対しては、僕はよく分からないので、お答えできません。すみません。

 ここでパラメータと呼んでいるものなんですけれども、これはモデル中の、先ほどの半経験式に入ってきている、不定パラメータというか、地球を観測しただけではこの値だというふうに決まらないような値で、例えば、雲に関するものであるとか、乱流に関するものであるとか、雲と乱流の相互作用に関するものであるとか、例えば、雲の固まりがこれぐらいあったときに、それはどれぐらいの速さで落ちてくるかと。それは雲の量に適当な係数を掛けてやると観測と合いそうだと。じゃあ、その係数を決めてやってそれを表すようにしようというふうにすると、一つ係数がモデルの中に導入されるんですけれども、ちゃんとした値というのは観測から求まらないので、答えが合うように適当に振っているんですね。我々、チューニングと呼んでいますけれども、そういうチューニングしているようなパラメータ、式の中の係数ですが、それがモデル中にたくさんあって、その値をいろいろ振ってやるということです。それをいろいろ振りながらモデルをたくさん作って温暖化の予測をしてやると答えがいろいろ変わってくるというのが、この図なんですね。

【若山主査】  間違ってなければ、先ほど重みをいろいろと変えてとおっしゃっているのが、結局、その距離ですよね、多分。

【小谷委員】  確率測度空間に適当な距離を入れてということですが、距離空間としてのどのような構造を持っているのか興味があり、お聞きします。

【江守室長】  距離に関しては、ちょっと抽象的にこういう書き方をさせていただいたんですけれども、恐らくこういう考え方をして、今の問題に適用するときに意味のある距離の定義の仕方というのは、今考えている問題として、もしCO2倍増気候感度というものの現実の値を知りたいというのが知りたい問題であったとすれば、現実と、あるいはモデル間ででもいいんですけれども、モデル間でCO2倍増気候感度の値の近さに相当するような距離が定義できるとこの問題において役に立つということだと思うんですが、それを観測可能な量からどう定義したらいいのかというのは自明ではないと、現時点ではそういうことです。

【若山主査】  ありがとうございます。どうぞ。

【金子教授】  委員じゃないんですが、今のとちょっと関係あるので。カオスの場合に初期条件が大きくなるリアプノフ指数とかありますよね。でも、あれって本当の場合はあんまり大事じゃないわけですね。大きなマクロの予測みたいなことをするために、ここの空気の向きがこうであろうと、こうであろうと、別に気候に影響するわけではないじゃないですか。そうすると、マクロなそういうものにどれだけ影響するかみたいなのが今の距離みたいなところで大事なのかというのが一つと、それから、モデルのパラメータに対するセンシティビティーとかで、モデルによっては、ちょっと変えるとすごくずれちゃうモデルと、余り変わらないモデルと、いろいろあると思うんですが、そういうモデルのセンシティビティーみたいなので、良いモデルと悪いモデルを区別するとか、そういうことはない。

【江守室長】  まず、最初におっしゃったことですけれども、それは正に僕がここで二つ絵を描いて表現したかったことなんですが、こちら側が気候の状態の時系列的な振る舞いを、こういう位相空間の中でぐるぐると表現できるというふうな意味での不確実性。これは、短期的に自然変動をトラックしようとしたときには気候の場合でも多少は問題になるんですけれども、100年後の予測を考えるときには、これは大して問題にならない。おっしゃったとおりです。その場合にはむしろモデルの一つ一つが、100年でもたらす結果というのが一つの点になるような、そういう位相空間を考えるのかなということですけれども、二つ目におっしゃった、パラメータに対するセンシティビティーが高いモデルというのは余りいいモデルじゃないという、そういう考え方……。

【金子教授】  本当にパラメータを分かっているわけじゃないから、ちょっと変えただけで全然違う結果になっちゃうようじゃ、余りモデルとしてよろしくないんじゃないかなというような気が若干するんですけど、そういう……。

【江守室長】  なるほど。どうなんでしょうね。ふだん余りそういう考え方はしてないですけれども、多分、モデルによってすごくそういう、パラメータをちょっと変えると結果が変わっちゃうようなモデルと、そうじゃないモデルというコントラストが僕らはふだん使って余り使っているわけではないからかもしれないですけれども、どのモデルもたくさんのパラメータがあって、それを変えるとそれなりに変化していくという中で、どれを選んだらいいかみたいな話になっています。

【北川委員】  モデルのセンシティビティーの問題というのは、理論的にも解析できることがあるわけですが、実際は非常に難しいというか、複雑なモデルとかになってくるとできないということがあって、そういうときにこそシミュレーションが非常に役に立ちます。その場合はパラメータや初期値などの不確実性があるところをちょっと分布で振ってシミュレーションをやってみて、結果が変わるかどうかすぐ分かりますから、そういう意味で非常に役に立つんじゃないか。

【江守室長】  はい。パラメータを振ったときの結果の依存性という意味では、正にここで調べたようなことというのが相当しているんだろうなと思っています。

【森委員】  前のページのモデルアンサンブル空間についてですが、抽象的なお話として聞いていました。つまり、こういうものがこういういろんな量があって、それを頭の中でとらえるには正しくああいうふうに私自身も考えたいと思うんですけど、実際、具体的に何か物を考えておられるんでしょうか。小谷先生の質問と同じなんですが。

【江守室長】  抽象的な概念として申し上げたんですが、この概念を具体的に適用するときには、実際に具体的に何かやろうと思うと何をしているかというと、ここでやっていることなんですけれども、要は、モデルの先ほど言いました、ここに書いてあるのが実はパラメータの名前なんですが、こういうパラメータというか、半経験式の中に出てくる係数がこういうふうにたくさんありまして、この空間というのは、そういうパラメータの値で張られる時空だと……。

【森委員】  そうですか。そうすると、パラメータの数だけ次元の空間に入れてしまうと、本物の地球がそこに入るかどうかは……。

【江守室長】  分からないということですね。

【森委員】  ですよね。

【江守室長】  ですので、あるモデルの構造を一つに仮定した場合には、パラメータの次元の空間になると。不確実係数の……。

【森委員】  無理やり放り込んだという意味。

【江守室長】  ええ。ただ、それがそのモデルの構造でいい保証はないので、そうするともう一段抽象化して考える必要があるというぐらいに考えています。

【森委員】  分かりました。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【金子教授】  今の関連でちょっと……。

【若山主査】  どうぞ。

【金子教授】  ちょっと抽象との間ぐらいで、昔、カオスをたくさん集めた系みたいなのをやっていて、その次元で言うととてつもなく高次元の、それが左だと思うと、だけど、見たいものは例えばその全体の平均値みたいなもので、その平均値も変動するんだけど、それは大分違うわけですね。

【森委員】  一種の切り口みたいな。

【金子教授】  そう、そういう場合には2種類のリアプノフ指数みたいなのを研究するとか、そういうことを昔やったりしていて、それはまだかなり抽象的ですけど、ただ、一応それは具体的なある式で計算できたりするというレベルはある。ただ、それがこういうことに使えるかどうかはまだ……。

【森委員】  確かに同じような例はありますから、かけるところだけでまず考えたいと思います。分かりました。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【北川委員】  15ページでフィットがいいモデルが予測にいいわけではないということを書かれておりますが、正にそうだと、私も思います。20世紀の統計というのは、フィッシャー以来、あるいはそれ以前から、真の構造を探すとか、真のモデルを求めるとか、真のパラメータを推定するというパラダイムで研究してきたわけですけれども、1970年代に入って、赤池先生という方が、予測をする、あるいは制御をするために良いモデルというのは、真のモデルと一般には違う真に近いモデルをフィットしても予測にいいわけではないということを明らかにされて、情報量規準というのを提案されたんですね。お話の内容は、そういう考え方の非常に重要な例の一つとして興味を持ったんですが、ただ、赤池先生自身やられたのは推定に最ゆう法を使った場合で、ベイズ推論の場合とちょっと違うので、そのままというわけにはいかないんですけれども、そういう考え方、あるいは、こういう予測の問題とか、そういう具体的な問題が統計とか数学の方に刺激を与えたいい例があって、今回もそういう形になるんじゃないかなと思いました。

【江守室長】  なるほど。

【若山主査】  どうぞ。

【中川委員】  13ページのグラフで要因というのは感度分析ですね。

【江守室長】  はい。

【中川委員】  これらを線形とみなして解析できないのでしょうか。1個1個のグラフが線形とみなせれば、先ほどのAICが使えると思うのですが。

【江守室長】  僕、この論文はちゃんと読んでいませんで、どういうふうに個々のディペンデンスを、式を作っているのかというのはちょっと分からないんですけど、こういうフィッティングもしているので、物によってはこういうフィッティングをする項が出てくるんだなという感じです。リニアで、良さそうなディペンデンスはもちろんあるんですけど。

【北川委員】  一言。AIC自体は線形性と全く関係ないです。

【中川委員】  そうですか。

【北川委員】  多変量ARモデルにAICを使ったときに線形性を仮定している。

【中川委員】  あと、14ページにベイズ推定に関するスライドがあり説明はされなかったと思うのですが、P(S)をガウス分布とみなしてはまずいのでしょうか。ガウス分布を仮定すれば、非常に解析が楽になると思うのですが。

【江守室長】  ここでは、この青いこれがプライアーなんですね。これは最初にこの構造のモデルを使いますというところに依存するので、こういった形でプライアーを求めるという。これはいろんなやり方が多分あるだろうと思います。

【西浦委員】  ここの気候モデルは当然、詳しくおっしゃらなかったけど、全球モデルで何百分割かして、深さ方向は余り考えずに……。

【江守室長】  深さ方向も、高さ方向も全部、3次元です。

【西浦委員】  それでも相当、次元から言っても、パラメータの数から言っても、大きいと思うんですけれどね。さっき金子先生も言われたし、ほかの方も言われているんですが、そういう地球の回転まで入れた、ある種のかなり次元の高いモデルよりも、もう少しシンプリファイしたモデルで、それでいろいろ微細なことは当然言えないんですけれども、さっきからいろいろ出ている構造安定性とかを見るときには、逆にこういうことは起こらないと。こういうことは起こるだろう、こういうことは起こる確率が高いだろうというのも大事なんですけれども、モデル群のファミリーが、逆にこういうことは起こらないよというような、それが何の役に立つのかという議論はありますが、数学としてはむしろ、そういうことは結構言い得る可能性はあります。

【江守室長】  それは自由度を落としたモデルで……。

【西浦委員】  そこはいろいろ考えないといけないので単純ではないんですが、可能性としては、ひょっとしたら自由度を落とさないといけないと思いますし、そこのパラメータへの振り込みもなかなか単純じゃないんですけれども、でも、それだけシンプリファイしたので、当然、普通の意味の予測性は確実に落ちるんですが、ある種のコレクティブなファクターは引き継いでいて、こういう元の系で、それが構造安定を引き継いでいれば、逆にこういうことは起こらないというか、非常に低い、極めて低い確率でしか起こらないという、そういうことのアプローチというのも意味があるんじゃないかとは思っているんですけれども。

【江守室長】  なるほど。恐らく、自由度を落としてシンプリファイする過程で、どういう本質を引き継げるかというところが実際には結構難しいような気がしていて、この分野で比較的単純化したモデルでたくさんシミュレーションをやったり、長期のシミュレーションをやったりしていろんなことを調べてみるという、そういう流派もあるんですけれども、例えば、温暖化すると、北大西洋の海洋の循環が止まって、ヨーロッパが寒冷化するみたいな話というのはあるんですが、それは起こるか、起こらないかという話があって、比較的シンプルなモデルでずっと調べている研究があって、シンプルなモデルだと、それは結構起こるんですよね。この3次元のフルのモデルを使ってやると、それが急激に起こるというモデルはないんですね。そういうところでじゃあどっちが正しいんだみたいな話になってきて、だから、シンプリファイするときに何を引き継げるのかというところがキーになるだろうなという気がいたします。そういう研究の価値自体はもちろんあると、一部ではやられています。

【若山主査】  どうぞ。

【内丸基礎研究振興課長】  ちょっと中身の議論とは違うんですが、先生から御提案のあった16ページの数理的アプローチ適用の現状、政策を考える上で非常にここに大事なところがあるのかなと聞かせていただいたんですけど、最後のところで、現状の中で、気候科学者が必要な数学を勉強して何とかしている場合が多いと。また、そういう中で、気候学者が数学を勉強する、若しくは数学者の方に入っていただくというような御提案なんですけれども、現実にいろんな課題・問題がある中で、必要な数学とは一体何なんだろうかということをどうやってうまく探すか。例えば、今、この場には本当に多様な分野の先生方に集まっていただいていまして、今のような本当にいろいろな観点からの議論ができるんですけど、現状では今、この部分はどういうふうにしてやられているんでしょうか。また、今後こういうようなことがあるといいのではないかというのがあれば、ちょっと御意見をお伺いしたいんですけれども。

【江守室長】  現状では、今日話したような話というのは、僕自身に関して言えば、海外でやり始めた人がいるから知っているというのが本音でありまして、そういう人たちは、結構数学的なバックグラウンドを持った人というのが、気候の中で考えてこういうやり方を考えたという、パイオニアみたいな人たちが、今日お見せした例はいずれもイギリスなんですけれども、やっているんですよね。それで、見ていると、僕自身も滞在していたことはあるんですけれども、イギリスの気象局は、気象局の研究所なんですが、バックグラウンドが数学とか物理の人を採用するんですよ。伝統的にそういうふうになっていまして、数理的に強い人を採用して気象のことは就職してから教えてやらせるというふうになっていて、かなり数学的なバックグラウンドが強い人が多いです。ですので、数学と組むといったときに、数学を一度ちゃんと勉強した人に、そこから気象学者・気候学者になってもらうという形というのが一つの成功例として、イギリスなんかを見ているとあるのかなという気がいたしております。

【小谷委員】  関連ですけれども、今、東北大学の医学系で、情報処理によって生命科学を研究する組織を計画しています。現時点で、どういう手法を使ったらいいかも分からないし、何が必要なのかも分からないという中で、例えば、こういう数学の講義が必要であるとか、こういう数学者が必要であるというような特定はできない。その場合、何が効果的かと考えると、数学バックグラウンドの人が入ってきて、生命科学をきちっと勉強してほしい。数学バックグラウンド、若しくは物理バックグラウンドや情報バックグラウンドの人がいて、全く新しい視点を提供してほしいという意見を聞いたところです。全く同じ意見だったので。

【若山主査】  どうもありがとうございます。数学バックグラウンドといったところから少し、例えば日本とイギリスは違うところもあるかと思うんですけれども、大事なことだと思います。

 時間も少しオーバーしておりますので、ここで江守先生の御発表に関する質疑応答は終了させていただきます。

 続いて金子先生から、「生命の分かり方:数学の意義、力学系理論++」と題してお話しいただきたいと思います。金子先生は、力学系、統計力学をベースに、複雑系生命科学に関する御研究をされておりまして、今日は数学・数理科学に対する知見と必要性についてお話しいただくことになっております。よろしくお願いします。

【金子教授】  どうも、金子です。僕は、前は、カオスとか、さっき出てきた大自由度カオスとかやっていたんですけれど、最近はずっと、割と生物のことを複雑系でやるということをやっています。そのときにいろんな、この後こういう話に関係することをしゃべっていきますけれど、最近、生物に対する数学的モデルという研究はすごくあるんですが、具体的な、ぴったり合わせるモデルを作るという、そういうことをやっている人もたくさんいるんですけれど、僕自身の興味としては、もっと生物とは何かということを理解したいと。何か増えていって、外界に適応できてとか、いろいろ多様化するとか、発生していくとか、進化するとか、そういうことを理解したいと。逆に言えば、数学とか物理的に可能な、こういう範囲内ではどういうことが可能である、あるいは不可能であるという形で理解したいと。そのときに、いろんな視点があると思うんですけれど、一番大きな問題は、これは大き過ぎてなかなかやれないんですが、生物って自律的であって、外からルールを与えているんじゃなくて、自分から何かルールを作っていくようなものだと。それだけだと曖昧なので、しばしば自己言及性とか言われるわけですけれど、そういうことの数理をどうやって作るか。これはなかなか難しいです。

 もうちょっと、やや具体的な方向になっていくと、例えば細胞を考えたら、最低でも1万種類ぐらいタンパクがいてとか、そのほかいろんな成分があるわけですね。そういうものがお互いにいろいろ増やし合ったりして細胞は増えていくわけで、めちゃくちゃ大自由度の1万次元とか、しかもかなり確率も入るかもしれない、そういう空間の中で大体同じものができてくると。そういう大自由度の力学系プラス確率の中の、そういう中で安定したものができる。あるいは、可塑性とよく言われるもの、外界とかの変化に対してちゃんと変動できる変動しやすさ、そういうことをどうやって表現するか。その意味では大自由度力学系という昔やっていたものをベースにしているんですが、一方で、生物というのはそう思ったら細胞が分裂して増えちゃったりするので、自由度がどんどん変化しちゃったりする。しかも、それが細胞の状態と関連して変化したり、あるいは、細胞がいろんな状態を取り得るとかいうときに、細胞の初期条件とか、あるいは境界条件とか、それは細胞が自ら選択していくようなところもあるわけですね。そういうことを表現するためには力学系++(プラプラ)みたいにして、何かもう少し拡張する必要があるんじゃないか。

 それにもう1個、多少さっきの話とも関係しますけれど、進化ということを通して1個1個の生物系がある種発生なり細胞の力学系を持っていると、進化で少しずつ変わるわけですね。さっきモデルが少しずつ変わるみたいなことを言ったけど、自分でパラメータが少し変わるような力学系をいろいろ選んでいったりする。それでどういうのが選ばれるか。だから、力学系の集団がばーっとあって、それを力学系の結果として選択するとかいうことは、進化として起こっているようなこと。でも、それで一応ある程度の安定性を持っている。そういうことをどうやって理解するか。あるいは、いろんな階層性を持っているのをどう理解するか。というような、そういう興味でやっています。

 そういう方向を理解するというので複雑系生命科学(Complex Systems Biology)というのを提唱して、ここはさっと言いますけれど、特に大自由度で集団と1個1個が影響し合うような、そういうシステムとして理解しようというので、いろんな国際会議をやったりとか、プロジェクトをやったりとかしています。

 で、さっき階層性と言いましたけれど、生物で言うと、みんなすぐ階層性と言うわけですね。それは、分子があって、その分子が集まって細胞ができていて、その細胞が集まって多細胞生物ができて、それがまた生態系をなすと。何か、割と物理の人とかはすぐ、下を分かって、それを集めれば、その1個上が分かると。ミクロを1個研究すれば、あとは集めただけだというふうに思う人が時々いるんですけれど、大概そういうふうにはなってなくて、マクロな一個上の性質が下のものの境界条件とか初期条件とかを規定するということになっているので、結局、下から上だけじゃなくて、上から下も、両方ある程度やらないといけない。例えば、細胞と多細胞生物の関係で言うと、細胞1個1個の性質は何になるかというのは、周りにどういう細胞がいるか、多細胞の状態の中で1個1個の細胞の力学系の性質が決まっていくみたいな、そういう循環構造があるわけですね。だから、そういう階層性を持った循環構造を含めて理解したいと。

 そういう立場で、複製とか、適応とか、発生とか、進化のことをいろいろ調べているんですけれど、例えば複製は、さっき言いましたように、たくさんの分子があって、細胞が増えるというためには大体同じものを作るんだから、その1万種類の次元の中で大体同じところにまた戻ってきているわけですね、そういうことがどういう場合に可能なのか。あるいは、そういうことが可能であるという、そういう条件を置くと、例えば1万種類の成分の間に何かある条件が出てくるんじゃないか。そういう条件を見付けたりして、それで、それが実際の生物とどう関係しているかというのを見てくるとか、外界にうまく適応するというのは、環境を変えると、中の遺伝子の発現の仕方というのは、遺伝子がどの反応を使うかというのをスイッチさせるわけですね。そのスイッチのさせ方によって外にうまく適応できるわけですけど、それがうまくどうやってできるかということを、力学系の立場から研究したりしています。

 あと、発生と進化の話を、この後少ししていきたいと思います。

 発生、特にここでは細胞分化ということを言いますと、細胞はさっき言ったようにたくさんの自由度の力学系であろうと。細胞分化というのは、ある細胞からだんだん増えていくと、いろんな種類の細胞になっていくわけですね。それを、昔、Waddingtonという生物学者が、谷に落っこちていく過程、最初はある状態から、いろんな谷に落っこちるのが、細胞が分かれる過程だろうということを言いました。それを力学系として表現しようというのは昔からある程度あったんですけれど、最近ようやく生物学者、これは例えば、「Nature」とかに、Sui Huangという人が二、三年前に、実際に実験をやっている細胞の中の1万種類の例えばタンパク質の量がどういうふうになっているか、そういうのが今は測れるようになってきたから、1万次元のどこの点にあるみたいなことが測れるようになってきた。1万次元のダイナミクスを追うまではなかなかいかないけれど、そのうちの幾つかがどう変化するかみたいなことはある程度見えるようになってきた。そういう立場で、じゃあ幾つかの谷に落ちるというのを、力学系で幾つかアトラクターに落っこちるということで理解できるんじゃないかというような見方が、だんだん生物学者の方にも浸透してきた。

 だから、細胞の状態があると、今言ったことを言いますと、タンパクがたくさん、いろんな種類のタンパクの量がある。そうすると、それのそういう空間上の1点として考えられるだろう。そうしたときに、でも、このタンパクができるとこのタンパクを抑えるとか、このタンパクができるとこれをたくさん作るとかいう関係があるから、ある程度そういう微分方程式なりの力学系で表現される。そうすると、それのアトラクターがどういうところかとかいうことで理解できるというのが、一つの立場です。

 ただ、この細かい式はどうでもいいんですけれど、そこで一つ欠けている点というのは、さっき言いましたけど、細胞1個の性質と集団の中にいるときの細胞の性質は違うわけですね。だから、それ以外の最初の、上に書いてある細胞1個の式以外に、membraneとか書いてあるところですけど、そこの細胞同士の相互作用で変わる部分、その影響の部分を入れる。あるいは、細胞が増えていくことによって周りの数が変わってくるから、その相互作用の部分も変わっていきますよね。そうした結果として、じゃあ細胞がどういう状態を作るか。だから、個々のアトラクターというより、相互作用によって選ばれた状態みたいなことを理解したいと。というか、そういう形が細胞分化で大事なんじゃないかという立場で、一応そういうモデルをやってみました。

 そういう幾つかいろんなモデルをやっているんですけれど、例えば、さっきここに挙がったような遺伝子発現の式を書いて相互作用させて、細胞が1個、2個、4個と増えていくと。増えていった挙げ句、しばらくしたら何か違う状態になっている。なる場合も、ならない場合もこの式によってあるわけですけど、なる場合にどういうことが起こっているかというのを見ている。それにも幾つかタイプがあるんですけれど、ここに挙げた幹細胞から分化する。幹細胞、あるいは、最近、ES細胞とか、いろいろ世間をにぎわせているやつというのは、いろんな細胞になれる能力を持っているわけですね。分化しちゃったやつ、例えば皮膚の細胞だったら皮膚しか作れないとか、何とかの細胞だったら何とかしか作れないというふうに、能力が落ちる。落ちるというか、変わるわけですね。だから、最初にいろんなものになる能力がだんだん減っていく。じゃあ、それをどう理解するか。別に遺伝子そのものが変わっているわけじゃないので、力学系そのものは変わってないわけですね。1個の細胞が持つ力学系の式は基本同じ。だけど、最初のはいろんなものになれるような状態であって、分化した後は自分しか作れない状態になる。

 そういうことがさっき言ったこういうような中で、自然に出てくるかというのをいろいろ昔から調べていたんですけれど、そうすると、例えば、今、3次元でかいていますけれど、3次元で最初、ぐるぐる回っているアトラクターに落ちる。あれは、振動解、リミットサイクル的なアトラクターに落ちる。1個だったらそうなんですけれど、それが増えると、だんだん違う振動状態、少しずつ振動の仕方がずれていって、そうしているうちに、緑になったやつがひゅっとあっち側に行くと。何か押し出されるみたいな感じですね、相互作用によって。そうなっていった後、また数が増えていくと、また更にこっち側からこっち側に押し出されるやつが出てくると。そういうのが繰り返されて、2種類の状態が安定化する。左側に行っちゃった、あっち側の小さい緑の方のやつというのは、それは分裂しても自分しか作れない。右のこっち側にあるやつは、自分を作るか、相手に行くか。こっち側は自分しか作れない。さっき言った幹細胞とかいうのプロトタイプ1個分ですけれど、それはできてくると。

 これを力学系としてどう理解するかというと、さっき言ったように細胞1個の力学系があって、だけど相互作用があると。相互作用の影響というものがある種、この力学系に対する、力学系で言う分岐パラメータのような役割を持っていると。だから、それによって緑に飛ばされる。だけど、ここで面白いのは、外から誰かが分岐パラメータを変えるという話ではなくて、細胞たちが集団になった、数が増えていった結果、その相互作用でエフェクティブな分岐パラメータが何か動かされて、動かされた結果二つになって、二つになったらまた分岐パラメータが変わって、結果的に分岐パラメータがこのくらいであるというのと、この状態がこのくらいであるというのが、相互に安定化していると。そうなると細胞として非常に安定したものができてくるというような構造になっていて、そういうのがどういう遺伝子ネットワーク、さっき言ったタンパクはどれが強め合うとか、弱め合うとかいう、例えばああいう感じのネットワーク、そこの三つだけでいいんですけど、三つの部分だけで今のができるとか、そのときに負のフィードバックと正のフィードバックが絡まっていればできる。そういうのが分かると、それをうまく組み合わせれば、さっき1段階だったのを2段階にするとか、3段階にするとか、いろいろそういうこともできてきます。

 さっき言葉で何かいろいろ言っていたんですけど、もうちょっとシミュレーションをムービーで見せると、1個、3次元、本当は5変数あるんですけど、3次元にかいています、今は1個の細胞。2個に、赤と緑になりました。2個細胞があって、これはお互いに影響し合っているわけですね。2個がこういうふうに、本当は5次元なんですけど。今4個になって、いろいろこんなふうに振動していて、だんだんそこで、こっち側に行く、元のこういうふうになっていたのから、こっち側のやつに分かれてきましたよね。で、こっち側と左と右に分かれていて、右はまだ、上へ行ったり、下へ行ったりしていますよね。ところが、だんだん右の方が下のやつと上のやつにまた分化するという、階層的に、一番最初の大もとがあって、右の方に2種類に分かれて、こういうふうに3種類の細胞に分化する。実際に幹細胞とかだと、例えば血液だったら血液の大もとの造血幹細胞というのがあって、それがだんだん何とかに分かれて白血球とか、いろいろ分かれていくわけですね。そういうことの原型ができてくると。

 そういうことを言っても、なかなかこういう仕組みで分かりましたというのを、これは古澤さんという人と最初にやって、その後いろいろ発展版があるんですけれど、物理としては、最初はいろんなものになれる能力を持ったのが、その能力が失われるということは一体どういうふうに表現されるのか。そうすると、いろいろ不可逆に失われるから、物理だとエントロピーみたいなことを思い付くわけですけれど、でも普通の熱力学のエントロピーで表現されるわけではないので、こういう大自由度の力学系でそういう不可逆性を表すものがあるかと。そうすると、いろいろたくさんの成分がどれだけ発現しているかというものの多様性とか、いろいろそういう変動のしやすさみたいなことが、一つの指標として見えてくると。

 ただ、こういうことを言っても、十数年前にはある種机上の空論ぽいところもあったわけですけれど、一つには、最初、タンパクの量は振動していましたよね。当時は、振動しているとか言っても、振動なんかしませんよみたいな感じだったわけですね。しませんよと言っていた理由は、本当にしませんよというのが確認されていたというより、その当時は、細胞1個1個を取り出して、そのタンパクの量がどう変化するかというのを時々刻々追うというのは不可能だったわけですね。全体で平均して見ちゃうと、全部がそろって振動していれば別ですけど、全部平均して見ちゃったら、みんな位相が出てきたら、ならされちゃって振動なんか見えないわけで、そうすると振動なんかありませんよという話になっていたわけですけれど、最近になってそういう技術がどんどん、一つには蛍光タンパクという、何年か前にノーベル賞をもらった、ああいう話で可能になってきて、これは京大の影山さんのグループのやつで、実際にある、割と大事だと思われているタンパクを見ると、今、その量が振動していますよね。光の手法によって、そういうのが見えてくる。ちょっと面白いことには、ES細胞、いろんなものになる能力を持っているときは振動していたんですけれど、これが分化しちゃった後だと、この振動は消えるんですね。その意味では理論と合っているかもしれない。でも、本当にこの説明でいいのかはまだ分からないわけですけれど、そういうことが見えてきたりして、ちょっと盛り上がっていると。

 それから、こういうことを別な視点で言えば、今、細胞が分化して、どんどん不可逆になって、自分しか作れなくなりましたと。でもそれは、高次元の力学系のあるところに行ったから、そうなったわけですよね。元々力学系なんだから、うまく初期条件をばんと変えれば、元のいろんなものを作る能力の細胞に戻れるだろうというのは、力学系の立場から言うと予想が、それも机上の空論かもしれないけど、できるわけですね。ある種、山中さんのiPS細胞というのは、やっていることとしてはそれに近いわけですね。そこに4種類のファクターを入れて、初期条件をばっと揺すったと。揺すった結果、また元のいろんな能力を回復したと、そういうふうに見ることはできるわけですね。ただ、残念ながら、一番理論で格好良くやれたら、この4種類を揺すれば、この方向には不安定性の度合いが強いからこれだとか言えれば一番格好良かったわけですけれど、一応、生物の人がばーっと腕力でいろいろ調べて作っちゃった方が勝ちだったわけですけれど、でも、何でこの4種類が大事かとかいうことを考える上では、こういう立場というのは必要だろうと。これが発生の話です。

 もう一つ、進化。進化は、先ほど言ったように、興味があるのは、みんな少しずつ、例えば新しいタンパクを持つとか、酵素活性が変わるとか、そういうことは、細胞の持つ力学系の性質が少しずつ変わっていくわけですね。その変わった結果、いいのを選ぶみたいなことをやっていく。実際にそういう実験を、これは共同研究者の阪大の四方さんのグループなんかとやっているやつですけれども、例えば、光を作るような大腸菌を作って、より光るように進化させる。それがだんだん、今、蛍光量の分布って、それぞれの細胞が進化していくごとにどんどん上がっていくと。どんどん上がっていくんですけど、1個1個のこの幅が減っていきますよね。あの幅というのは何かというと、同じ細胞、同じ遺伝子を持った細胞でも、途中のノイズとかがあって、結果としての蛍光量はみんな揺らぐわけですね。この力学系がびしっと決まっていれば、同じところに行くと。だけど、その力学系が安定性が弱いとかだったら、もっと揺らいでいると。だから、だんだん幅が狭まっていくのは、どんどんかちっと決まっていくようにも見える。それとともに、進化のスピードも下がっていますよね、このピークの位置が各世代どれだけ上がるかという。だから、進化のしやすさと、元々力学系がどれだけ、安定性が弱くて揺らぎが大きい、揺らぎが大きいと進化のスピードは高いみたいな、そういう関係があるように見えると。それは力学系の性質と進化しやすさの性質みたいなのがリンクしていると。それっていうのは、例えば生物を見たときに、すごく進化しやすい生き物と、シーラカンスみたいにずっと進化してない生き物とか、いろいろあるわけですね。そういうことを考えると、進化しやすさを力学系の性質として表せないかという興味が出てくるわけです。

 それで、このモデルの話はやめますけれど、ある種、大自由度の力学系の遺伝子発現でお互いに影響し合ってという力学系のモデルを作って、それをある条件になるように、あるタンパクがよりたくさん作られるとかいうふうになるように進化させる。進化させてみると、さっき言ったような一つ一つでの揺らぎの仕方、Vipというのを書いてあるんですけれど、それからVgというのは、突然変異が起こったときにどれだけ変わりやすいか。だから、進化のスピードに関係しているものなわけですけど、その二つがあの図だと両方比例して減っていくと。一番最初のところからだんだん下に落ちていくというのが進化のコースで、さっき言ったようなノイズによって変わりやすい力学系のやつの方が、より進化しやすい。進化しやすいというのは、パラメータを変えたときにどれだけ変わりやすいか。それで、さっきモデルの話とかでそういうことを言ったんですけど、生物の場合にはそれがリンクしているようだと。しかも、それが進化を通してどんどん減っていくということは、パラメータに対する安定性とか、そういうことがだんだん減っていって、その結果、だんだん進化しにくくなっていく。この話だけだと進化しにくくなるだけなんですけれど、外に更に環境変動を入れるとか、そういうことをやると、進化しやすさをまた回復しようとか、そういうことが見えてきたりしています。

 だから、安定性がどんどん増してくるというのは、力学系のことで言うとどういう感じになっているかといいますと、最初の力学系は、上の図で初期条件からゴールのアトラクターに行く道があったときに、そこにちょっとノイズとかがあるとどんどんはじかれて、違うところに行っちゃうようなやつなんですね。ところが、進化をしてどんどんうまくいくような、そういうところを作ると、だんだん、そうじゃなくても、ちょっとぐらい揺らされても同じところに行くような、安定したものができてくる。その安定したものができてくると、今度は、そこでパラメータを揺すってもやっぱり安定だろうと。何かそういう形で両者が結びついていると。

 ですから、数学としては、発生過程での安定性と、進化に対する安定性、それがどうリンクしているか。多分、構造安定性とかいう概念とは関係していると思うんですけれど、構造安定性そのものが当てはめられるわけでもないので、そういうところをうまく考えていけないか。さっきモデル空間の距離みたいな話がありましたけど、それと同じように力学系をたくさん考えて、力学系集団でその間の距離を考えて、できた例えば大事な性質の空間がだんだん縮まっていくとか、そういうことのうまい表現が数学としてできてくると、非常にうれしいなと。

 物理としては、そういうのをもうちょっと、統計力学の方法とか、そういうことで、今、いろいろ進めたりしています。

 生物としては、今、安定性とか進化と発生の関係というのはかなりホットな分野になっていまして、もともとWaddingtonが50年以上前にそういうことをいろいろ言ったんですけれど、その時点では、具体的にどうやるよとか、そういうのが余りなかったために、Waddingtonはすごいパイオニアだけど、その時代に突出して終わったみたいなところがあって、最近、そういうのが具体的にやれるようになってきたのでかなりホットになってくるので、そういうことが分かると非常に生物の理解が進むんじゃないかと思っています。

 あと、さっき言った自己言及性という、自分のルールを作るということで、ルール自身を変える力学系というのを昔、片岡さんという人がいろいろやっていて、下の論文は高橋陽一郎さんという数学の人と一緒に書いた論文なんですけれど、普通、状態を変えるのが力学系なのに対して、関数を変える力学系みたいなのを考えて、要するにfがfに施されているので、その意味では関数は関数を変えるルールであるとともに、関数によって変えられる状態でもあるわけですね。だから、ルールと状態がある種混然一体としたような、そういうモデルで、その中からルール側の役割をするのと状態側の役割みたいなのがどうやって出てくるかということを理解すれば抽象的な意味で生物の理解につながるんじゃないかというのを彼が昔やっていて、非常に面白いんですけど、余りに抽象過ぎて、実際の生物の話とはなかなかまだつながっていないというのがこれです。

 最後、付録は、さっきの気象と数学の関係みたいなのに近い話なんですけれど、前に生命動態システムというのが、文科省のところであったときにも同じようなことを言ったんですけれど、そういう数理的な理論物理とか数理科学と実験生物学の人たちが割と日常的に対じしていけるような環境があると、こういう分野とか、生命の理解をするとか、そこに新しい数学を広げていくという意味では大事なんじゃないかなあということです。特に、若い人、学生時代からそういう場にいるということが必要で、そういう集団がある程度いてくれれば、あんまり具体的なモデルを作るとかいうことではなくて、何が本当に大事だということが身に染みて分かってきて、あるいは理解の仕方というものが、数学の人の理解の仕方、物理の人の理解の仕方、生物の人の理解の仕方、それぞれ違うわけですね。だけど、そういうのがいろいろあるんだということが若いときからあって、お互いの立場が分かるような集団ができてくるということが非常に大事なんじゃないかなあというふうに思っています。

 そんなところです。すみません。

【若山主査】  どうもありがとうございます。先生の御研究及び最後に示唆的なことをいろいろと御提案くださって、ありがとうございます。

 それでは、やはり20分ほど時間を取りたいと思いますので、何か御意見等ございましたら、よろしくお願いします。

【中川委員】  4ページ目のスライドでおっしゃっていることはマルチスケールモデリングというような概念かなと私は理解しているのですが、その中で、分子オーダーのシミュレーションと、その上のもっとマクロなスケールの観察結果をつなげるのが、金子先生の方法では、相互作用による揺らぎだと考えてよろしいのでしょうか。

【金子教授】  そうですね。こういう立場で実際にぴったり合うようなモデルを作ろうというあれだとマルチスケールモデリングでそういう手法を工夫するという話になると思うんですけれど、僕は余りそっち側ではなくて、むしろそういう中で一般的にあるコンセプト、数理的なコンセプトというのを作りたいという。そのために実際に、さっきの例だと、細胞が集まっていって細胞集団ができてというので、細胞と多細胞のレベルをつなぐ。でもそのときに、細胞1のアトラクターがどうだとかというだけではなくて、細胞集団の中で影響し合うとこういう状態が安定になる。この状態が安定になった結果として、また相互作用が変わるわけですね。だから、ここの上と下が循環した結果として安定した構造ができると、そういう見方でのコンセプトを作りたい。

【中川委員】  最終的なゴールは、分子オーダーの挙動を一番上の階層である生態系の挙動につなげることでしょうか。

【金子教授】  これは何段階まで全部つながるところがあれば一番なのでしょうけど、なかなか一気にそこまでは行かないので、今までやっているのは、例えば1個1個の分子の複製過程と細胞が複製する二つのレベルが、それが勝手にばらばらになっちゃったら駄目なわけですね、生物としては。それがうまくつながっているような状態がどうやって形成されるとか、そこに何かある法則があるかとか、そういうのが複製レベルで、この上が発生で、こっちは、共生とか、そういうレベルで、進化の場合も、遺伝子が変わっていくというパラメータが少しずつ変わるというのは、やっぱり非常にゆっくりしたものなんですね。発生の方はもっと速いプロセスなわけですね。普通、物理のときだと、遅いのが早いのを決めて、それだけなんですけれど、だけど、今の場合、早い方結果、また少しずつパラメータが変わっていくとか、そういうことがあるので、その間の循環関係で、結果として、遺伝子の変わり方と、表現系、発生の結果得られるものの揺らぎとか、そういうのが関係し合うみたいなことが出てくると。

【中川委員】  そうすると、今は相互作用のルールのようなものを数字実験のようなものから導かれている。

【金子教授】  そうですね。モデルがぴったり合っているかというのは、実は余り、どうでもいいって言うと怒られるかもしれないですけど、適当でよくて、その結果、こういう構造があったら必ず例えば分化が起こるだとか、そういう一般的な言明が欲しいわけですね。僕はそんな数学の力がないので、それを本当に数学的な証明みたいな、定理みたいな形で言えれば一番美しいと思うんですけれど、今のところは、いろいろそういうモデル群を調べて、大体リーズナブルで、あんまり細かいことは気にしないモデルを作って、その中で一般的に見える性質、それをいろいろ力学系とか統計力学的な理屈で、こういうことだから大体常にこういうことが起きるんじゃないかというようなところを言っている。本当にそこを、必ずこうだ、必ずこういうことは起きないというような形のところが言えると一番美しいんですけれど、そこはある種数学に望むところ。

【中川委員】  分かりました。

【若山主査】  よろしいですか。西浦先生。

【西浦委員】  まず、いわゆる示唆的な助言、どうもありがとうございました。

 内容そのものじゃないんですが、僕にとっては非常に、印象的というか、重要だと思うのは、例えば細胞分化のところの、iPSのところのスライドがありますね、タンパクが振動するという。金子さんは、ある種のモデルを使ってそういう計測ができる以前に、そういうことが起こり得るよということを、ある意味ではプレディクトしていたわけですよね。でも、生命科学の実験をやっている人たちにそのことが、ある種抽象的でもいいんですけど、ガイディング・プリンシプルにはならなかったということですか。

【金子教授】  そうですね、ならなかった……。四方さんたちはそこそこ振動とかに興味を持って実験をしていたけど、でも、ダイレクトにはなっていないですね。例えばiPSにもなっていないわけですね、残念ながら。

【西浦委員】  というのは、この委員会というのは、一つは、数学とか数理科学が、広くは社会ですけれども、社会学も含めて、どういう役割とか、どういうスタンスで、より個々の学問の発達もあるけれども、こういう形が非常に具体的で分かりやすいと思うんですが、そこでもう一歩インタラクトしていれば、ちょっと違うことが起こったかもしれない。

【金子教授】  そうかもしれないんですよね。

【西浦委員】  かもしれない。

【金子教授】  ええ。だから、その意味で最後の、数理的なことの分かり方と生物の実験的なことが、若いときから日常的にというような集団、そのころそういうのができていたら、もうちょっと、どんどん進んでいたとかいう可能性だってあるわけですね。

【西浦委員】  正にそうで、最後にちょっと耳の痛い厳しい御提言がありますけれど、そこに書いておられる、若いときに異種の理解の仕方に触れるというか、そういうものを、少なくとも専門家としてやるんじゃなくて、許容できるというか、お話を聞けば理解できるという、それは非常に……。

【金子教授】  うちは一応そういう学科なので、じゃあ自分たちでやれよと言われるんですけれど、努力はしているんですが、なかなかというところもあって。

【西浦委員】  どうもありがとうございます。

【若山主査】  北川先生。

【北川委員】  前半の力学系関係の話は、生命で遺伝子と表現系が1対1で対応しないことの説明として、非常に面白いと思いました。

 一方、個人的にちょっと分かりにくかったのは進化の方なんですが、そういう多様性を生じて、通常、それで選択がかかって進化していくんだと思うんですが、最終的にはやっぱり、それが遺伝子の辺りに定着することによって進化が進んでいくわけですね。その辺のメカニズムについても、何か言えるんですか。

【金子教授】  そこについては、例えば、今、このモデルでやっている例で言うと、どの遺伝子がタンパクはどれに影響するとかいうのは、適当にまず最初に与えるわけですね。で、そうやって何か作ったときに、そのネットワークがちょっと違うやつを幾つか作ると。そのときに非常にうまくいく――うまくいくというのは、あるタンパクが必要だとかいうときに、そのタンパクをたくさん作ってくれるやつを選んでくると。それは駄目なやつもいたりすると。そこを変えるのは一応、単にここでは突然変異でネットワークが少し変わりますと。そういう意味で、そこの部分は全く普通にランダムに遺伝子が変化して、その中でうまくいったやつが生き残るという、そこのプロセスは普通なんですけど、そうしておいても進化しやすさみたいなのが――普通、進化しやすさって、突然変異、遺伝子を変える割合が高ければ、進化のスピードは高いだろうと。それは確かにそうなんですけれど、それだけじゃなくて、突然変異のスピード掛ける揺らぎの仕方みたいなのがここで出てくるんですね。それは、元々の力学系がどのくらいかちって決まっちゃっているか、ルースになっているかみたいなのが、どうも進化に関係している。ここはだから、一応、四方さんたちとやった実験はそういうことのサポートですし、それ以外にも、そうかなというのは幾つかちらちら見えてはいるんですけれど、まだいろいろこれからの実験とか。だから、これでうまくこの実験がどんどん進めば、その場合には多少、理論がガイディング・プリンシプルになったかなという例が作れるかもしれない。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。

【大島委員】  生命系の実験で特にウェットの方は、ウェットの世界で割と閉じていらっしゃるところがありますよね。先生がおっしゃっている最後の19ページの、理論もある程度理解するという、そういう環境は残念ながらないというのは、先生の御指摘のとおりだと思います。

 質問ですが、先生が最後のところでシミュレーションの話に少し触れられていましたが、多分、数理科学と実験とシミュレーションにおいて、生命系ではシミュレーション系が弱いように思います。特に、小さい分子レベルから細胞に関しては、その傾向が強いように思います。一方、マクロ系では割とシミュレーションされている方が多いようです。理論側と、実験そしてシミュレーションといった三つどもえの形で、数理科学的なものをもう少し理論や実験側にも橋渡しできるシミュレーションのような役割はお考えなのでしょうか。

【金子教授】  シミュレーションは二つの立場があって、何かの現象があると、それにできるだけ合うように式を作ってシミュレーションをして、実際にこういうのがフィットできましたというのは、生物の人は割と分かりやすいんですね。だから、今割と、実際の生物系の人もそういうことはだんだんやるようになってきたし、逆に言うと、彼らはある種必要に迫られて、最近、彼らの思っているいい雑誌に通すためには、そういうシミュレーション結果でも合いましたというのを下に付けないと、いい雑誌に通らないみたいな傾向があって、そういうところにそういうシミュレーションをやれる人が雇われるとか、そういう現象はかなりあるんですね。ただ、もう一方で、本当に何かそういう一般的なことが分かりたいというのは、モデルの個々によらない一般法則みたいなのが分かるとか、あるいはそういうものが存在するとか、そうやって分かるんだということというのは、生物の人には理解しにくい部分がちょっとあるみたいですね。普遍的な法則、ユニバーサルな法則とかいうものの例が彼らは余りないためか分からないですけど、そういうものが大事だという感覚がちょっと違うんですね。だから、そこら辺も分かるような人たちというのは、もっと若いときからそういう例を、数学とか物理の例でそういうことがあったということを見るというのは大事なんじゃないかなと。実際に理論物理をやっていた人が、例えばうちの学科にいる澤井さんなんかは、理論物理をマスターぐらいまでやって、その後、生物実験に転じて、今、非常にいい研究をしているんですけれど、そういうような人たちは当然そういう部分が分かってやれるから、世界的にも割とそういう理論物理とか物理一般からそういうふうに入った人たちというのは、かなり活躍している部分はありますね、具体的に実験をやって。

【若山主査】  ほかに。宮岡先生。

【宮岡委員】  とても興味深く伺わせていただいたんですけれども、何となく細胞分化みたいなことを扱っているお話なら、数理科学そのものに適用できるんじゃないかと。つまり、数学そのものというのは非常にバーサタイルなものなんだけれども、すぐに分化して、そこに落ち着いちゃってなかなか動かなくなると、そういう傾向があるわけですね。そこでかくはんすればiPSみたいに戻る可能性があるわけなんだけど、そこのかくはんの要素が日本は比較的、アメリカに比べて少ないのかなあと、そこが問題なんじゃないかなあと思いまして、そういうかくはん要素を入れるにはどうしたらいいのかなあというのをこれから考えていきたいなと思いました。

【金子教授】  そうですね。割と社会とか、ああいうのは役割分化していって、その後、別なモデルで種分化するというやつもやったんですけど、それはどんどん固定されちゃうわけですね。だから、その固定を戻すにはという、その意味で生物で言う可塑性、進化も一定の環境でやるとどんどん可塑性が失われて進化しやすいのが減っちゃって、かちっとしたシステムになっちゃうわけですね。だからそれを、一つは違う細胞集団と相互作用させたりすると復活したりはシミュレーションをするんですけれど、まずはそういう異分野をぶつけるとか、そういうことかもしれないです。

【若山主査】  日本数学会の理事長の御発言でした。揺らぎとか、どうしても純化しやすくなるということがポイントなんだというお話だと思います。

 何も役に立たない発言をしますけど、子供のころなんかは、アニメというか、漫画なんかを見ていると、ロボットを見ていると、人間の手の中にもいっぱい各点にモーターが付いているのかと思っていたわけですけれども、むしろ今は、モーターなんか付いていたら大変なことで、やけどしてセンサーがなくなってしまうわけで、それこそ各点に、力学系というか、先ほどの統計多様体みたいなものがむしろくっついていて、それで整合性が保たれているというお話に近いかなと、そんなことを思いました。

【金子教授】  そうですね。

【若山主査】  ほかに何かございますでしょうか。

【北川委員】  金子先生の現在の研究のスタイルというのは、要するに数理的興味でできることをやって、それで使えれば使ってもらうというのじゃなくて、生命系の人との共同研究でターゲットを絞って、そこを数理的にアプローチしていくという感じになっているんでしょうか。要するに、ニーズ志向か……。

【金子教授】  いや、ニーズ志向というよりは、一般的なこと、普遍的なことが分かりたいというのがあって、だから、進化とか、適応とか、四方さんとずっと共同研究しているんですが、四方さんは普通の生物学者と全然違っていて、普通、理論と実験が共同研究をすると、さっき言ったように、本当に実験データをびしっと合わせる、このモデルを作った、ぴったり合いましたというのがすごく多いし、今もそういうのがはやりなんですけれど、我々、ずっと概念レベルで、すごく一般的なことから何かを見ようと。例えば、さっきの進化のやつなんかだと、最初、こういう実験を彼らはやったわけですね。でも、彼らはそれだけでやっていて、より光るものを作らせたいみたいなところがあったわけですけれど、そうやって見ていると、これは、揺らぎ、進化しやすさみたいなのが表現できるんじゃないか。それで、理論的にそういうのを表現したり、モデルをやったりして、それを向こうに返して、そうすると向こうは、それを踏まえて更に測り直すとか、別な実験系を立ち上げて、そうすると、大概、また更にちょっと不思議なことがあったりして、それをまた概念的なことで表そうという、そういうキャッチボールでやっているという感じです。

【若山主査】  どうぞ。

【内丸基礎研究振興課長】  細かな質問が一つと、もう一つは、金子先生と、あと江守先生にもちょっと聞きたいことがあるんですけれども、最初の細かな質問は、19ページ、一番最後のページで、下から4行目に、理論とモデル、シミュレーションがニアリーイコールになっているんですけれども……。

【金子教授】  いや、これはノットイコールです。これは余りここの人に言う話じゃないんですけど、生物系の人っていうのは、理論というのと、例えば、モデル、シミュレーションというのは、区別が付いてないんです。だから、シミュレーションをやることが理論だとかというふうに、モデルを作って何か合うような、それイコール理論だと思っているので、理論化というのはそういうことだと思っているので、そうではないということを言いたかった。

【内丸基礎研究振興課長】  もう1個は、昔、宇宙開発を担当したことがあって、そのときに毛利飛行士から聞いたことがあるんですね。あるとき、スペースシャトルの中で無重力の環境での生物実験のため、顕微鏡をのぞいていたんですね。細胞をこうやって見ていて、ふっと窓の外を見たら地球が見えて、その瞬間、地球が細胞に見えたと、彼は言うんですよ。それ以来、地球生命体という概念を彼は言っているんですけれども、今日は、江守先生と同じ時間に、これはスケジュール上の偶然なんですけれども、全然違う、地球トータルを扱う学問と、こういう細胞のミクロな、様々なものを扱うのとで、お互いに引かれて、何か共通でつながるものとしたら、数学的に何か感じられたかどうか、ちょっと感想を聞きたいなと思ったんですけど、すみません。

【金子教授】  僕はすごくいろいろ、一つ、大自由度の力学系みたいなのがあって、江守先生のときは、モデルをこっち側で作って、それを選ぶという話だけど、生物の場合は何か、モデル、自分たちで少しずつ遺伝子を変えて作って、それで選んでいって、それによる安定性みたいなという、そういう面でもちょっといろいろ関係あるかなというのと、それから、こういう階層性の上に生態系が集まった地球全体の生態系みたいなのがあるわけですね。そういうところである種うまく可塑性を保っていれば、いろんな地球変動にも何とか地球全体としてうまく適応できる。そうするとだんだんガイア仮説みたいになっちゃうんですけど、何かそういうようなことの意味ではつながっているんじゃないかなと思いました。

【内丸基礎研究振興課長】  いかがですか。

【江守室長】  僕は、非常に興味深く伺わせていただいたんですけれども、今、例えばこの図を見て思っていたのは、やはり気候システムの場合も一番小さいところに、例えば、分子があって、乱流があって、もうちょっとメソスケール渦みたいなものというのがあって、それで大循環というのがあって気候システムというふうになっていまして、大循環をクリエートするためにはもうちょっと小さいシノプティックスケールが表せなくちゃいけなくて、それをシミュレートするためには乱流の効果を入れなくちゃいけなくて、その間は相互作用しているので、アプローチは、考え方は割と違うと思うんですけれども、対象としている階層性という意味では、僕らもこういうものを扱っているなと思って伺ったのが一つと、それから、理論≠モデル、シミュレーションというのは我々の場合もそうで、ああいう3次元の、僕がさっきお話ししたような大気・海洋のシミュレーションモデルを学生が修論とかで使えるようになり始めて、それで何か計算してシミュレーションをすると、何か分かった気になったという現象が一時期ちょっとあったんですけれども、それをその分野の先生たちは非常に怒っていまして、それは何も理解したことになってないと。僕らもそうで、あるモデルを作って、それで例えば、僕らの仕事だと温暖化の予測をして、こうなりますよ、温度は何度上がります、というシミュレーション結果が出ましたということ自体は全く、シミュレーションの一例でしかないわけですね。それを、なぜそうなるかとか、本当にそうなるというふうにちゃんと現実の気候で起こっていることと対応させて理解できたかとか、そういうことを我々の分野ではやっていますので、その意味での対応もあるのかなとちょっと思って、伺いました。

 ただ、僕の方の話はかなり基礎的な、例えば我々の分野でも気候システムを理解したいという意味での研究のモチベーションというのはあるんですけれども、僕の今日の話は、ちょっとそれとは違う立場でお話しさせていただきました。気候システムを理解したいという立場では、もっとこれに相当するような分野が我々の中でもありますし、それはそれでちゃんと発展させなくちゃいけないと思うんですけれども、一方で、気候の問題というのは今、非常に政治的なプレッシャーに、ちゃんとしたことを言わなくちゃいけないという、そういう分野になっていまして、その中で不確実性というものにどう向き合うかという、これはニーズから生じたものですけれども、そういうところに数理的な考え方の活躍のチャンスがあるというのは、僕は面白いかなと思って、今日お話しさせていただきました。

【内丸基礎研究振興課長】  どうもありがとうございます。

【金子教授】  多分階層で、下から上で、でも上から下がまた影響し合うというのが何か植生に影響してとか、いろいろあるわけですよね。それは多分共通しているところで、僕の場合はそれが楽しいからで、どうやってうまくできてとか言っていれば済むんですけど、実際にモデルを作るというのは、上から下、両方入っちゃうと、すごく大変なわけですね、予測せよとか言われると。

【江守室長】  まあそうですね。それをできる範囲でやって……。

【金子教授】  そっちの困難さを持っているから。

【内丸基礎研究振興課長】  どうもありがとうございます。

【若山主査】  どうもありがとうございました。先生方には、今日は大変盛り上げていただきまして、またお話を伺いたいというふうに思っています。

 それでは、今日の第1番目の、お話をお聞きして質疑応答を行うということはこれでおしまいにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

 それでは、先生方、どうもありがとうございました。

(江守室長・金子教授退室)

【若山主査】  それでは、時間もございますので、進んでまいります。

 議題2に入っていきたいと思います。数学イノベーションに向けた今後の推進方策について、ということです。まず、お手元の資料3について、事務局の方から御説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3に基づき説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。

【内丸基礎研究振興課長】  ちょっと補足させていただきますと、今後、この数学イノベーション戦略というものの成立に向けて議論をどんどん進めていただくと思うんですけれども、正直、たたき台として我々も内部で議論をしていますが、なかなか具体的なところが、我々も断片的な情報を集める努力はしているんですけれども、出てこないというのがあります。そういう中で、是非ちょっと具体的なところも含めて御提案いただける中で、今回、こういうペーパーを書かせていただきましたけれども、いろいろな自由な御議論をいただければと思っております。

 それともう1点、当方で独自に今後また作業をやって、できれば次回までの間に情報提供を出したいと思っていますのは、今日は環境分野とライフサイエンス分野の方の、かなり代表例に近いところを問題提起していただきましたけれども、各々ライフサイエンス分野の推進方策若しくは環境分野の推進方策、そういう政策面でも数学との関係でいろいろこういうことをやろうというような方法が出ていますので、そういうところも一度精査していただいて、そういうところとうまく整合をとりながら数学のこの政策を進めていけるような、そういう資料も次回に向けてやっていきたいと思っております。そういう意味でも、今日は是非、いろいろ自由な観点からこのたたき台に対して御意見いただきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

【若山主査】  どうもありがとうございます。いずれにしても、数学だけで閉じないでというところも一つのポイントかというふうに思います。御準備していただきました、問題点に関しましては、これまでも長い時間をかけましていろんな御議論がなされてきておりますので、皆さん御自身がそれなりに核となるところを、お考えをお持ちだと思います。前回、今回に続きまして、問題点については、数学以外の分野からも提出されております。最終的には、前回も申し上げましたが、この審議の内容を踏まえまして分担して執筆していくということを予定しておりますので、そんなことも含めまして今日御議論いただければと思います。前回も、前々回も、人材育成というか教育のところにいろんな重大な問題があるということは皆さん御承知なんですが、そこについて余り踏み込んではおりませんけれども、非常に大事なことではありますので、そこも含めて御議論いただければというふうに考えております。

 それでは、どなたからでもよろしいですので、御発言をお願いしたいと思います。30分ぐらいをめどにと思っております。

 どうぞ。

【森委員】  非常によく書けているので心強いんですが、一つ心配なことがあります。これは、いわゆる純粋数学の立場で、いかにそれを連携させていくか、それに心を砕いている。それはこの委員会の趣旨でもありますけれども、外国の状況とか見たときに、日本の純粋数学は果たして万全かどうか。実は非常に心配な状況にあります。また全体が、予算がゼロサムゲームみたいになっている状態だと、この委員会の趣旨は連携なんですが、連携だけに視点が行って、純粋数学(つまり、数理科学の純粋数理科学の部分)の方がなおざりにされてしまうというのは困ります。方策はいいんですが、問題点のところで、純粋数学へのサポート、数理科学へのサポートが必要であるということをどこかで書いていただければと思います。それをどう方策に入れるかはまた後で考えるとして、まず、問題点として認識を共有していただけると有り難い、そういうことです。

【若山主査】  私は元よりそのように考えておりますが、今日のお二人の先生方にもありましたけれども、例えば江守先生ですと、最後の現状というところにお書きになっていたように、何か、テクニックというよりは、結局、考え方を相談したいと。ですからそういう意味で、確かにその後、金子先生との御議論の中でもありましたけど、イギリスの例があって、若いころに、専門としてではなく、しかし広い、聞いて拒絶反応を起こさない程度の教育は受けていると。その中で、やはり数学の研究をやっていった人たちが見方とか考え方の指針を与えることができていく。やっぱりそれは数学自身の発展がなければ実現できないことですので、それはむしろ前提として入っているというふうに考えても良いのかと思います。

【森委員】  もちろん、それが忘れられているとは思いませんが、文章に書いていくと、どうしても限られた文言であるので、強調しなければそれは削除されるということになりかねません。その辺のバランスをよろしくお願いしたいということです。

【若山主査】  バランスをとって皆さんで書きたいと思います。

【小谷委員】  融合によっていろいろ新しいことが進むというのは事実ですけれども、それは、異なる視点が入ってくることで何か新しいものが出るという考え方だと思います。したがって、その異なる視点を与える基盤が継続的に存在しなければ進歩は止まってしまうわけですから、数学だけではなくていろいろな分野でそれぞれの基礎になる部分をしっかり作ることが第一に大切です。その上で、異なる分野が相互作用する場を作る、若しくは更に融合研究を進める仕組みを作る。長期的な発展を考えれば、この両方が大切です。

【若山主査】  そうですね。先ほど宮岡先生からもそういう御発言がありましたけれども、もう少し御発言されませんでしょうか。

【宮岡委員】  今、日本の数学で、教育にある程度問題がある部分がありますよね。例えば高校で数学と物理が完全に分かれちゃっていて、お互いインタラクションがないんですけど、こういうのは本当は改めないとまずいんじゃないかと。教養の線形代数、微積分ではどうして、例えば波動方程式が突然出てくるんですが、なぜこれが出てきたかという、その説明の部分が欠けているわけですね。個人的にはそういうことは、例えば熱方程式の導出とかやっているわけですけれども、システムとしてはないわけで、そういうものを何とかしないと、将来、このインターフェースを作るのに非常にまずいんじゃないかと思っているんです。

【大島委員】  諸科学・産業の研究者という形で書かれていますが、多分、アカデミアにいらっしゃる研究者と産業界の研究者の求めている数学というのはかなり温度差があると思います。産業で求めている数学はこちらにも書いてある課題解決型で、先ほども出てきましたが、計算のシミュレーション結果と、あるいは実験が合うという、そういうことが求められることが多いようです。もちろん産業でも数学的な観点及び素養を入れるというのは非常に重要ですが、多分、求めているものが違うのではないかと思います。

 具体的にこの文章をどう直せばいいかというと、ちょっと難しいのですが、そのように感じます。

【中川委員】  多分、時間軸がここに書かれていないからだと思います。

【大島委員】  そうなのかもしれないですね。

【中川委員】  産業界の中でも、1週間後に解決したいこと、1年後、数年後に解決を目指すもの等、いろいろな課題があると思います。

【大島委員】  そうでしょうね。

【中川委員】  さっきおっしゃった企業の課題は、多分、今困っていて1週間後に解決したい課題だと思います。

【大島委員】  そういうことだと思います。

【中川委員】  しかし、必ずしもそれだけではなくて、これは個人的な意見かもしれませんが、私が数学に求めるものは、既存技術のブレークスルーです。

【大島委員】  そうですね。

【中川委員】  これまでの考え方を根本から変えてしまうような。

【大島委員】  それは非常に大事な点で、これを読んでいると、それが感じられないのです。どちらかというとすぐに必要で、こういう問題があるから、それを解決するのに、数学の素養が必要で、数学の方に、手伝っていただきたいというような形になることが多いように思います。ブレークスルーが非常に大事なので、それをきちんと強調された方がいいかと思います。

【小谷委員】  数学に期待することがそれぞれの立場で異なるという、大島先生のお話、そのとおりですので、それらをきちんと書きあげてしまうというのも一手と思います。教養教育レベルの数学をもう少し理解できるようになりたいという方もいらっしゃいますし、この方程式の解き方が分からないとか、そういうちょっとした既存高等数学の知恵が必要だという人もいる。それから、現象にモデルを合わせていくフィッティングのところを手伝ってほしいという人もいる。概念を根本から変えるようなブレークスルーを期待する方も。私、全部、今は整理し切れてないですが、数学に期待する幾つかのレベルがあるので、列挙しそれぞれについてこういう支援があればうまくいくんじゃないかということを書くと、分かりやすいと思うのですが。

【大島委員】  そうですね。

【若山主査】  今、時間軸の話もされましたけれども、私自身は、マス・フォア・インダストリ研究所といって、産業数学ということなのですが、現在直面している問題にできればこたえたいということは当然あるわけですけれども、現在直面している問題だけを、要請だけを見ていると、本当に要請されていることが見えなくなってしまうのではないかと思っております。そういう意味で、自分の全く外に置くのではないけれども、しかし非常に基礎的な研究というのはむしろ重要になっていくと、そんな立場で産業と数学ということをとらえているという、そんなふうなことなんですね。

 内丸さんと粟辻さんの方で作ってくださったたたき台ですけれども、飽くまで項目ですので、これをどう書いていくかというのがむしろこの委員会の使命ですので。

【内丸基礎研究振興課長】 正直、我々も作っていて自分で本当に感じるんですけど、なかなか突き抜けたものが書けないんですよ、事務局ではどうしても。何となくこれまでのいろんな政策との絡みみたいなものしか書けなくて、多分、数学は、もっと突き抜けた、ほかの政策にはない、ほかの分野にはない何か特徴があると思うんですけど、是非そういうところを発表していきたいなと思っています。

 あと、一つお伺いしたいことがあったのは、一応、数学イノベーションというテーマで考えた場合に、数学とか数理科学がかなりダイレクトに使われる、例えば暗号とかコンピュータグラフィックスみたいな、そういう分野と、あと、ほかの分野にうまくかみ合って一緒にやってその分野が発展するというのでは、振興方策が大分違う気がするんですね、取るべき政策という意味では。そういう意味でも、その辺も、私ども勉強はしていますけど、余り十分な事例が蓄積されてないものですから、先生方の方で何か、こうじゃないかというのがあれば、正にそういうところも頂ければ、非常に助かると思っています。

【北川委員】 先ほど森先生が純粋数学の部分がちょっと欠けているという御指摘をされて、それもそうだと私は思いますが、もう一つ、III-2辺りを読むと、何となく、連携の場だとか、そういうものを作ればうまくいくという感じなんですが、やはりそれだけでは駄目だろうと思います。いろんな意味で、当然、多様性が必要で、いろんな人種が必要なんだけれども、本当に連携をやりたいということであれば、そのための体制とか、その辺をちゃんと作っていかなくてはいけなくて、それは、出会いの場を作るとか、そのくらいでは無理だろうというふうに、個人的には思っています。

 これから先は非常に個人的な意見ですが、統計をやっていた人間からすると、先ほどの最初のお話を聞いても、あるいは、今後、産業との連携を進めていく場合に、知識を発展させていくプロセスが重要で、それは、お二人とも言われたように、理論とモデルのところがイコールではないということですよね。知識を徐々に発展させていく。そのためには、演えき的推論の部分と帰納的推論の部分、両方をちゃんと数学としてそろえて、それによって数学の中で知識が発展していくサイクルあるいはスパイラルができるような仕組みを作っていく、それがイノベーションにつながるのではないかと、個人的には思っています。

【若山主査】  ほかに、まだ御発言されてない先生、是非。

【杉原委員】  今、北川先生がおっしゃったように、内丸さんがおっしゃったように、戦略的な部分がよく見えないなあというのがやっぱりあるんだと思うんですね。私なんかから見ると、数学的なレベルから見ると低いんだけど、即対応していくことによって信頼を得て、その次、更に長いスパンで見たときにブレークスルーが起きていくというようなステップが必要だと思うので、少し地に下りて、サービスという感じになっちゃうかもしれませんけど、戦略としてそういうところから始める必要があるんじゃないかなと。大きなものを得るために、少し小さなものかもしれませんけど、数も多いですので、そういうところを攻めていくことによって信頼を得て、ブレークスルーが出ることによって大きな流れができていくんじゃないかというような、甚だ抽象的ではあるんですけど、ある種そういう具体的な一歩を踏み出さなきゃいけないというふうな感じを持ちました。

【若山主査】  安生さん。

【安生委員】  私は産業側ですので、映像の制作にかかわる数学をいろいろと応用している立場です。私自身は、コンピュータグラフィックス(CG)は数学を応用する分野としては活発ではないかと考えています。実際、世界中の映像制作プロダクションでは、様々な経験とノウハウを蓄積しながら映像制作をしているわけですが、映画のメインキャラクターのアニメーション一つに大変な手間がかかったとか、顔の表情をどう作るのかなどで、数学のみならず、様々な分野の技術を応用する試みを続けています。しかし、まだ本質的な解決にまでは届かなくて、数学的な発想をもっと取り入れて、形にしていく、概念化していく、概念をどなたにも分かるように科学的な言葉で記述するところまでやる必要性を感じています。もちろん、最初は議論を始めるだけでもちろんいいと思います。ビジュアリゼーションも含めた映像分野では、本当の意味で、もっともっと数学的に分かりたい部分が多いのです。我々産業側の人間が周りの人に見聞きする程度の数学的な手法を使った程度では、全然進化しないのです。ですから、小さな成功事例を少しずつでも数学者の人たちと作って、新しい事例を作り続けて、それを広げていくことが大切だと思うのです。産業側も本心では数学者に近くにいてほしいと思うのでしょうけれど、どういう人をどういうタイミングで受け入れたらいいのかが実際問題として分かりにくいと思うのです。そういう意味でも、少しでも多くの事例を作ることが必要だと考えて、今、私自身も取り組んでいます。時間がかかることではありますけれど、そういうことが必要かなと思います。

 あともう一つ、先ほどの3-2の(2)のまる4ですね。学際的研究者の育成・評価方策というところ。前回か、前々回でしたか、インセンティブがどうのこうのというお話があって、学生とか若い研究者の立場において、数学を会得した者と、それを産業に生かすということ、両方がきちんと評価される仕掛けが必要だと思います。学術的にも評価されるには、そういうジャーナルができれば解決されるのか、ちょっと分からないんですけれど。また、数学的な試みを他分野で推進することは非常に面白く、やる価値があるんだということを、もちろん産業界に入らないと分からないよというのではちょっと遅いので、学生のうちからそういう分野に行ってみたくなるような動機付けが与えられる機会をもっと増やすべきです。インターンシップは良い例ですが、学生にとってのやりがいを、産業界と一体となってうまく伝えてあげることが大切だと思います。

【若山主査】  ありがとうございます。

 御発言いろいろとあるかと思うんですが、内丸さんがおっしゃったように、数学だから突き抜けるというところなんですけど、そういう意味では、突き抜け方が難しいというのは、ずーっと皆さん思ってきているんですね。突き抜けようと思ったら、いや数学は横断的なんだというふうなことで、具体的に近年で役に立ったことを言えと言われると、いつも同じ話しか出てこないというふうなことが多くて、そこをどう突き抜けるかということを要請されているんだというふうに思います。そういう意味で、突き抜けるかどうかは別としまして、政策的な意味から考えても、ほかの科学領域が説明するのと違う説明の仕方を強くできればというのが趣旨だというふうに、私は理解しています。

【中川委員】  1ページ目に何個か参考事例が書いてありますね、数学イノベーションがもたらし得る研究テーマの例ということで。これは多分、工学とか、ほかの分野の人から見た例だと思います。これらを再度、数学の問題に焼き直す必要があると思います。例えば、マルチスケールモデルの数学理論とかいうように、数学のテーマとしてうまく提示する必要があると思います。

【杉原委員】  これ、物理でも出るもんね。これ、工学でも言うもんね。何でも……。

【中川委員】  そうですね。だから、数学の問題としてうまく設定し直す必要があると思います。

【小谷委員】  数学が役に立った例というのはよく聞かれるのですが、本当なら数学が役に立ったはずなのに、見逃したために発展が非常に遅れた例というのも、たくさんあると思います。そういうことも一つの示唆になるのではないでしょうか。、今年のノーベル化学賞の準結晶の発見も、最初は全然支持してもらえなかったけれども、実は数学的な理論があって、それを使って説明することで信じてもらえたという話ですね。フラーレンも同様です。そこに数学の人が加わっていれば、それはこうだねってすぐできたような例って、幾らでもあると思うんですね。

【若山主査】  そういう意味で、今、要請されていると。皆さんが頭の中でこれが必要だというのだけにこたえようとしているのでは、多分なかなかこたえられないということだというふうに思います。その意味で、話す機会があれば十分かというわけではないかもしれないですけど、話す機会、いろんな人たちがインタラクトできる機会を作るというのは、やはり大きなテーマだというふうに思っているわけです。

【内丸基礎研究振興課長】  先ほどの突き抜けるというのは余りにも抽象的な言葉を使い過ぎたので、具体的に言わせていただくと、私ももう二十何年来いろんな科学政策にかかわらせていただいていますけど、いろんな分野がいろんなことをやっているんですが、結局、政策運用に落とし込むと、いつも3点セットというか、大体、政策ツールって決まっているんですよ。研究集会をやっていろんなアイデアを出して、進める研究費をつけて、拠点を形成して、そのために必要な人材養成をやってと、そういうパターン化したところがありまして、それとは違うものが何かある、いい予感がしていまして、数学のイノベーションと同時に、政策のイノベーションにもしたいなというのがちょっとあるものですから、そういうところで是非またお知恵を頂ければと思っております。お時間ないですけど、個別にうちのメンバーが伺わせていただきますので、是非またいいお知恵をと思っております。よろしくお願いします。

【若山主査】  ほかにございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

 それでは、深く掘ればたくさんあるかと思いますが、本日御審議いただいた内容を踏まえ、資料をまた新しくしていただきたいと思います。

 今後は、最初に申し上げましたように、本報告書の執筆を各委員に分担していただきたいというふうに考えていますので、具体的な分担については後日御相談させていただくということで、よろしくお願いいたします。

 それから、これまで御発表いただいた、今日で4名の先生に御発表いただいたんですけれども、今後、本委員会の開催案内をお送りして、もし御都合がつけば、オブザーバーとしておいでいただきたいと思います。オブザーバーといっても結構面白い発言をしてくださるという期待もありますので、議論を活性化するチャンスを得たいなというふうに考えております。

 それでは、事務局から最後に何か。

○粟辻融合領域研究推進官より、今後の予定について説明があった。

【若山主査】 それでは、本日の数学イノベーション委員会は、これで閉会としたいと思います。どうもありがとうございました。

 

―― 了 ――

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