数学イノベーション委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成23年9月22日(木曜日)15時~17時20分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 諸科学分野において今後必要な数学・数理科学研究について
  2. 数学イノベーションに向けた今後の推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

若山主査、森主査代理、青木委員、安生委員、大島委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、西浦委員

文部科学省

倉持研究振興局長、戸渡大臣官房審議官(研究振興局担当)、永山振興企画課長、内丸基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官

オブザーバー

東京大学地震研究所 堀宗郞 教授、大阪大学産業科学研究所 鷲尾隆 教授

5.議事録

【若山主査】 定刻となりましたので、ただいまより第2回の数学イノベーション委員会を開催したいと思います。本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

 本日は第1回の委員会を欠席されました青木委員、大島委員も出席を御予定されておりまして、青木委員は既にここにいらっしゃいます。大島委員は30分ほど遅れてこられるということで、その折にお言葉を頂戴したいと思います。青木先生、一言、御挨拶を。

【青木委員】 一橋大学経済研究所の青木です。よろしくお願いいたします。今、総合科学技術会議の非常勤の有識者もやらせていただきまして、第4期に数学というものが大事だということが入ったのは、非常にうれしいと思っております。皆さんよろしくお願いいたします。失礼いたします。

【若山主査】 どうもありがとうございます。なお、本日は宮岡委員、中川委員は御欠席の御連絡を頂いておりますのでお伝えしておきます。それでは本日の議事を進めるに当たり、事務局の方から配付資料について確認をお願いしたいと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】 まず最初に7月に事務局の方で人事異動がございました。私の隣におります太田愼一基礎研究振興分析官が着任されておりますので、御紹介させていただきます。

【太田基礎研究振興分析官】 7月15日付で分析官ということで着任しました太田と申します。それまでは静岡大学で国際交流の仕事をしておりました。また随分昔になりますけれども、学生時代、理学部数学科卒業生ということでこのような仕事をさせていただいております。よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】では続きまして、配付資料の確認をさせていただきたいと思います。議事次第などの後、資料1といたしまして、前回の第1回の議事録。それから資料の2-1と2-2が本日発表していただくお二方の先生方の原稿でございまして、2-1が東京大学の堀先生、それから2-2が大阪大学の鷲尾先生の発表資料でございます。資料3として1枚紙で本日御議論させていただく予定の「数学イノベーション戦略(仮称)に盛り込むべき項目について(案)」というものを付けております。

 以上でございます。

【若山主査】 どうもありがとうございます。それでは議題に入ってまいりたいと思います。今日、議題は1番、2番、そして必要に応じて3番がございます。まず1番目としましては、「諸科学分野において今後必要な数学・数理科学の研究について」です。前回も御議論していただきましたように、数学イノベーション委員会では数学・数理科学と、諸科学・産業との協働による研究課題について、検討を行うことにしております。この検討に当たりまして、諸科学分野における今後必要となる数学・数理科学研究について、様々な分野の先生方から御意見をお伺いして、本委員会の検討の重要な材料にさせていただきたいと考えております。

 本日は、今粟辻さんから御紹介ありましたが、東京大学地震研究所の堀宗朗先生と、それから大阪大学産業科学研究所の鷲尾隆先生の二人にお忙しい中おいでいただきまして、これからお話をしていただきます。その後、時間を取りまして質疑応答もやりたいと思っておりますので、今後の議論に生かすためにも活発な御議論をしていただければと思います。

 それでは、まず初めに東京大学地震研究所の堀宗朗先生より、「数学・数理科学の知見が必要な地震・防災研究課題」というタイトルで、お話を頂戴したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【堀教授】どうもありがとうございます。東京大学の堀でございます。今日はこのようなタイトルでお話しさせていただきます。

 一応、自己紹介と言えるほどでもないですけれども、私は地震研に所属しております。一方で東京大学工学系研究科の社会基盤学専攻、普通に言えば土木工学科に属しております。最初にこの地震全般に御関心あろうかと思いますので、大きなバックグラウンドとして地震・防災研究を御紹介させていただきます。

 この分野は理学と工学から構成されています。理学は今は地球科学ですが、10年ぐらい前は地球物理学といったところです。その前は地震学と言われていました。いろいろな見方がありますけれども、数理の視点から見てみれば、観測主体で線形弾性体の動的解析をするというのがこの分野の特徴だと思います。後で御紹介いたしますが、対象が地球ということで、数値解析手法に特化したいろいろな数学が使われました。

 工学は二つに分かれます。一つは耐震設計を行うための耐震工学です。これは実験主体の学問で、比較的単純な多質点系モデルを数理のモデルとします。非線形解析をするというところに特徴があります。この後で御紹介しますけれども、私の見るところ、耐震工学に限らず土木建築分野の非線形解析は非常に性質が悪くて、いろいろ工夫が必要です。もう一つが防災工学で、これは社会科学との接点になります阪神・淡路大震災以降、非常に関心が高まった分野です。

 時間も限られていますので、私が考える数理的な課題をこういう形で整理いたしました。

 一つは地震学です。顕在化している課題としては何といっても地震と津波の予測で、数値解析手法とか観測との融合、気象とのアナロジーで言うとデータ同化というのが、今キーワードになっています。そして潜在的課題と書きましたけれども、多くの方は関心があるけれども、実際に取り組めていない研究課題があります。地震用に日本では非常に高密度な、世界に類を見ないネットワーク観測が行われています。時間的に連続、24時間365日観測しています。ところがこのデータが余り生かされていない。特に数理的な面での生かされ方が、もしかしたらもっと改良の余地があるのではないか、と思われます。これが潜在的課題です。

 もう一つの工学の分野では、何といっても顕在化しているのは被害の予測で、数値解析手法です。耐震設計はそれなりに成熟しておりますので、研究開発の課題という意味では、実用的には大きな問題ではないのですが、より高度により詳細に被害予測をするためには、どうしてもこれを避けることができません。この意味では京計算機ではこの課題が取り上げられております。これは京計算機の課題全般に言えるかもしれませんけれども、数値解析手法の開発を正面から取り組んでくださる数学の研究者はほとんどいない状況です。何となく古臭い方法が一生懸命使わされているような感もなきにしもあらずです。数理的に洗練された方法が開発されると、大きく進歩するのではというようなことを考えてございます。

 潜在的課題は二つあります。一つは維持管理と地震防災です。維持管理と申し上げるのは、高度成長期に作った社会のインフラをいかに更新するか、その際に耐震補強といかに組み合わせるかということが大きな課題となっています。言うことは簡単ですが、現実にどのように社会的合理性を取りながらインフラの更新をして、なおかつ耐震補強をするということは、簡単なものではありません。特に国の財政が良くない現在、いかに効率よく進めるかということが重要です。

 もう一つが復旧の最適化です。今回の東日本大震災もライフラインの復旧でいろいろ課題がありました。この復旧というのは大きな問題とされております。

 以上のことを踏まえまして、具体的にまず顕在化された課題ということを地震と津波で詳しく説明します。物理、数理、計算ということで三つに分けて御説明します。地震は線形波動方程式、津波の方はNavier-Stokesを解くことです。このNavier-Stokesといっても乱流の度合いが大きいような問題じゃなくて、比較的単純です。しかしスライドに逆問題と書きましたけれども、地殻の構造と破壊過程を明らかにすることが重要で、これは数理的には逆問題となります。逆問題もモデルを同定かソース同定か、すなわち、モデルとソースのどちらかが分かっている方が解きやすいのですが、地震の場合は、例えば断層でどんな破壊過程が起こったかも分からないし、波が伝わってくる地殻構造も必ずしも明確にされていない。すなわちソースとモデルが両方とも分からない逆問題です。観測データだけでソースとモデルを見つけるという問題です。しかも観測も地表の表面だけに限られているので、データも非常に限られています。医療と単純な比較はできないのですが、二次元断面で360度全部切って有用なデータが得られるCTスキャン等と比べれば、はるかに観測データの条件は厳しい問題です。そして、必ず不確からしさの取扱いが入ります。計算の方はやっぱりこのモデルをいかに高分解能化するか、さらに、解法の高速化というのが大きな課題になっています。これは先ほど申し上げたように、波動方程式等をいかに高速で大規模に解くかという問題です。既存の方法を応用してうまく進めているという感じで、本質的に新しい方法を開発して、エレガントにばっと解くというようなことが必要なのかもしれません。

 具体的にどういうのができているかというので、これは地震研にいらっしゃいます古村先生の御研究です。これは東日本大震災は観測の結果ですけれども、日本の観測網で観測されたデータを可視化すると、東日本大震災でこういう地震が起こったということが、事実として明らかになる。計算のように見えますけれども、これは飽くまでも観測のデータの可視化です。津波のビデオクリップはシミュレーションです。これはNHK等で使われているので御覧になった方もいらっしゃるかと思いますけれども、津波がどういうふうに広がったかということも計算できるようになっています。

 ここで強調したいのは、これは計算ができるということで、それでは精度は合っているのか、分解能に見合った精度が出ているかとか、そういう数理的な検討は必ずしも十分ではありません。この範囲を全部計算するというのは京計算機でもかなり難しい問題ですが、解の精度をいかに数理的に保証するかというような、数理的な検討は必ずしも十分ではなくて、本当にこれで合っているのかというのは、いろいろな議論があるところです。特に先ほど申し上げたように、この津波を起こすソースがどうなっているかという逆問題が正しく解けているかという点は、ちょっと無礼な言い方をしますけれども、確実に議論されているとは思いません。必要条件として観測データの再現ということはもちろん検討されていますけれども、それで十分では決してありません。本当に我々がこういう現象を、どこまで分かって計算できているかということに関して、数理的な吟味が必要だと思います。

 次が被害の予測です。構造物は非線形の波動方程式を解きます。非線形方程式は余り性質が良くありません。具体的には係数が不連続に変化します。時間的にも空間的にも不連続に変化するという性質です。しかも破壊になってくると亀裂が出ます。亀裂というのは変位関数の不連続性として扱われます。さらに、特異性が出るので、数値解析は非常に高度な手法が要求されます。

 数理的な難しさは分かっていますけれども、それを解決する決定的な決め手がなくて困っているところです。さらに、破壊が入ってくると、数理的な意味で解が不安定になります。ちょっとした乱れによって解が大分偏るということです。この解の安定性の数理的な検討は非常に重要だと思います。

 この点が暗に了解されており、実験では世界最大の実験装置であるE-Defenseを使った実験や、京計算機を使った大規模計算が行われています。具体的に実験は鉄筋コンクリートの橋脚を揺らして壊します。高さは8メートル、実大の橋脚です。こんなことを申し上げて恐縮ですけれども、実験装置は350億円の施設です。

 ここで強調したいのは、この結果程度だったら構造物は全く損傷した度合いに入りません。若干の補修ですぐ使えます。中がどうなっているかというところまで調べる必要があるんですけれども、そういう評価はまだまだできてない状況です。数値計算は、先ほど申し上げた亀裂の進展解析ができるようになっています。この青が亀裂が広がったところで、このような計算ができるようになってきています。この棒は鉄筋で、コンクリートが壊れると、コンクリートが持っていた力を鉄筋が受け持つのです。こういう力の受渡しもきちんと計算できるようにはなっています。しかし計算はできるだけで、数理的に妥当かどうかはまた別の問題です。有限要素法と称される数値解法を使っていますけれども、これは非常に古典的な方法で、もっと新しい、もっと効率のいい方法が開発されると、大きく進歩が期待される分野であることは事実です。

 次は防災に関わるところです。社会の構成要素がいろいろ相互に依存している中、2次被害を含め被害推定をいかに高度化するか、更に復旧戦略を最適化するか、ということが大きな問題です。現状は統計解析が主要です。統計解析と申し上げるのは過去あった被害を基に、現在同じ統計的性質をもって被害が起こるとすれば被害はこうなりますという予測です。統計解析の被害予測は外れる割合が高いので、少し高度なマルチエージェントシミュレーション等が研究されています。

 具体的には次のような被害予測の計算があります。これはカーナビ等に使われる都市のGISデータを基に実際の都市のモデルを作って、設計で使う非線形解析で建物1棟1棟がどういうふうに揺れるかを計算するものです。設計と同じ信頼性で被害予測ができます。さらに、マルチエージェントシミュレーションで人がどういうふうに避難していくかということを計算します。このグレーの部分と赤い部分は損傷を受けなかった建物と損傷を受けた建物で、この部分は、損傷によって道が狭くなった部分です。都市モデルのメーンストリートを歩く人が避難場所に行く際、この建物の被害がどういう影響を与えるかということが計算できるというわけです。これは本当に計算です。この計算にどういう意味があるかなどの評価には、例えば社会心理学的な検討が必要ですけれども、数理的にも、そもそもこの計算が収束するとか、解が本当に存在するか、そういうことは一切検討されていません。マルチエージェントシミュレーションも数理的な検討があると大きく進むかもしれません。

 これからは顕在化されてない、潜在的な課題ということでお話しいたします。一つが連続ネットワーク観測です。地震に関しては防災科学技術研究所がいろいろなネットワークを持っており、1,000から2,000のオーダーの観測点がつながっています。地殻変動では国土地理院がGEONETというネットワークを持っています。そのほか、全国展開されてないもので、海洋観測、重力、電磁気、衛星観測というのがあります。具体的に説明すると、この図のK-NETの観測点は日本中に展開されています。この図はGEONETの電子基準の位置で、民生利用も進んでいる高精度なGPS測定を行う観測点です。計測精度は1センチを切るレベルです。このような観測データを使って、例えば、地震短期予測システム、この図ではETASモデルとなっていますが、このような予測システムが作られています。このモデルは簡単に言えば、統計解析です。物理は一切生かされていません。生かされてないというのは、ちょっと言い過ぎですけれども、余り数理的な検討や地震学的な検討はなされていません。

 このような連続ネットワーク地震観測のデータを何とかしようというのが、研究の構想の段階ですけれども、次世代型地震波形データ処理です。地震観測データを使って、超大規模データ処理をしようというのが構想です。具体的にはどういうデータ処理かを説明すると、大きな地震があるという判定は、目で見て明瞭に地震波が出たということで判定されています。このときからデータ解析を始めます。すなわち地震が発生した場合の明瞭なシグナルとして認識できるデータがあるときにデータ解析をする訳で、それ以外のデータは全部捨てている状態になります。それ以外のデータはほとんどノイズばかりです。既存の目で見る方法ではシグナルとノイズの分離が非常に困難で、この分離は不可能ということになっていました。そのため、大きな地震、それなりのマグニチュードを持った地震が発生して、ちゃんと地震が伝わっているという情報が見えたときから解析をすることになっていました。地震研の研究構想は、周波数領域でグリーン関数の存在を解析するというものです。グリーン関数をテイラー展開すると、多項式で展開できますので、ある周波数レンジでグリーン関数をテイラー展開した多項式の係数がある確からしさで計算できたら、地震発生と判定することを考えています。このデータ処理は、24時間365日、100ヘルツのサンプリングで周波数で計測しているデータを活用することができます。今までとは違うデータ解析になります。今までのデータ処理の方法では連続ネットワーク観測を活用しているとは言いにくく、新たなデータ解析の方法、特に1,000点から2,000点で常時観測される、それなりの量のデータを、いかに効率良く処理し新しい知見を引き出すかは、大きな課題になっているということです。

 次が工学の潜在的課題です。維持管理と地震防災です。これもやっぱりデータがないとどうしようもないので、比較的安価なセンサ若しくはセンサネットワークを使って建物の健全性のデータを集めようというわけです。このセンサの規模の判断の基準になるのが、実験です。実験では、100点ぐらいのデータを集めると建物の健全性が分かります。健全性の評価にこのデータをいかにうまく処理するかが重要です。具体的にはこの図に示す地震によって、センサを使ってこのような波形が計測され、これをデータ解析すると、建物をばねとモデル化したときのばねの伸びと力の関係が計算されます。30ガルとか10ガルの最大加速度の地震動の場合、場円の伸びと力は線形の関係ですが、地震動が大きくなってくると非線形性が出てきます。線形応答ではなくて、非線形応答までデータ処理で推測することが大きな課題です。もちろん、非線形ということは不可逆的に元に戻らないことですから、建物が損傷されたということになります。

 次がライフラインの復旧です。ライフラインと一言で称してもエネルギー、情報、上下水道、それから通信といろいろな種類があります。管理している組織も民間会社から地方公共団体といろいろあります。このライフラインが地震によって被害を受けた場合の復旧を、いかに最適化するかが問題です。具体的なイメージをこの図に示します。全復旧として直していくと損傷は減っていく。それによって、利用者がどんな便益を受けるかということを計算します。これは非常に離散化された最適問題です。具体的には損傷を、修復に必要な材料、労働力、エネルギーという量で定量化し、どんな戦略を取れば、すなわち、どういうふうにこの修復に必要な量を振り分ければ、利用者の便益が短時間で最大となるかを計算するのです。この修復は都市全体で行うので、この図の都市では左から右に修復されていますが、この空間的な修復を考えるため、エージェントシミュレーションとしてこの離散的な最適問題を設定し解くということになります。最適化問題ですので、我々が解こうとするとどうしても手当たり次第に解いたり、従来の方法で、従来のアルゴリズムを使って解いてしまうので、計算効率が非常に悪く、なかなか解を求めるのに時間がかかって仕方がありません。こういう離散的最適問題をうまく高速で解けるようになれば大きく変わります。

 話をまとめます。大震災の即時的解決策はあるかということで最初にお話しします。今回の地震は1,000年前に同じ地震が起こったことになっていますが、地震そのものの物理現象はそれほどに変わりません。しかし、社会、被害が発生する場である社会そのものが変化するために、ある意味で常に新しい被害が発生します。地震は変わらないけれども、地震を受ける社会が変化するために、新しい被害が出るのです。社会の変化に対応するような被害予測を行い、その解決を持続的に考案し社会に実装することが重要です。

 地震・防災分野では人的資源が非常に枯渇しております。この分野の基礎学問は全て古典物理ですので、片やナノテクが研究されているときに連続体を一生懸命研究しても学生の人気は非常に下がります。これはもう非可逆的に衰退せざるを得ません。

 耐震設計の分野も超高層ビルや大規模構造物を造るときはニーズがありましたが、今、社会がそれなりに成熟したときでは低下しています。地震・防災の人的資源は枯渇傾向にあり、今回の地震が契機になって急に増える、ということは決して期待できません。

 さっき言ったように、社会の変化に対応する解決策の考案と実装は難しいことは確かです。今、考えているのは新しい血を導入して、新しい解決策を考案すると。そのときに計算数理、今日はちょっと計算の話は余りしませんでしたけれども、特に数理の強化というのは重要な課題と考えております。

 以上でございます。

【若山主査】どうも堀先生ありがとうございました。多くの数学、数理科学、統計学に関わる話題が御説明の中に織り込まれておりましたけれども、20分間ほど御質問等、それから質疑応答する時間がございますので、どなたからでも御質問等お願いいたします。

【北川委員】地震から防災まで、広い範囲で御説明いただきましてありがとうございました。連続ネットワークのところで、顕在化されていない問題について御説明いただいたんですが、センサの発達というのが今、非常に影響が大きいと思うんですね。それで地震とか地球科学で非常にいろいろなことができるようになっているように見えるんですけれども、今後それを活用して更にいろいろな進歩があると思うんですが、この数理的問題を解けばもっとできるというようなところまで顕在化していないということでしょうか。

【堀教授】そうですね。顕在化しているのは非常にはっきりしています。非線形応答をどういうふうに予測するか、ということです。どうしても線形応答の予測になってしまうので、非線形応答の予測です。

 一方、E-Defenseのような大きな実験装置では、1,000のチャンネルでデータ計測をしているので、どこが壊れたか、ということを同定できます。ところが建物を、例えば私たちがいるこのビルに1,000点、2,000点を置くということは、どこまでフィージブルかは不明です。限られたセンサを使ってどこがどういうふうに壊れたかというのは同定できるかという、そこまでデータ処理をすることが問題になっています。そういう意味では逆問題という、ちょっと大きなくくりですけれども、逆問題です。センサはそれなりに開発されているけれども、センサの配置や、どの分解能でどの構造部位がどの程度壊れたかが分かるような、非線形応答を考慮した数理的な手法は全くありません。

 特に構造物は、実は日変化がかなり大きいことも難しい。1日これだけ温度差がある環境に置いてある構造物は、何がシグナルか何がノイズか分からない場合もあります。しかも線形応答ならともかく非線形まで何とか推測しろということになると、いろいろ考えることはあると思っています。

【北川委員】海底地震計でインバージョンするような話があるんですが、そのGPSの信号を使って日本列島全体の地下構造を推定するとか、そういう話はあるんですか。

【堀教授】ええ。このGEONETの御質問と思います。これは全国展開しています。地殻構造の同定はもちろん視野に入っていると思いますが、理想的には日本列島地下50キロぐらいのところに同じようなネットワークを作って、360度というか、全周で全部計測すれば構造はきれいに同定できると思いますが、上だけの計測で、しかもソースは地震です。この図で言えば、左側の地震、しかも下から来る地震波だけで、どの精度で構造が同定できるかというのは大問題ですね。少なくとも我々の数理能力で評価すると、計測データだけでは同定できないということは幾らでも証明できてます。この先見的情報を加えないとよく分からないということしか示せません。大きなブレークスルーが必要だとされている分野だと思います。

 同じことは海の観測にも当てはまります。データは取れるのですが、そのデータでどこまで分かるか、ということははっきりしません。逆にどうすれば分かるか、ということに関する数理的検討は余り十分ではないように思われます。

【若山主査】ありがとうございます。ほかにございませんでしょうか。

【青木委員】ちょっと質問、よろしいですか。最後の人材が枯渇しているというお話があったんですけれども、いつも不思議に思っていることは、その学部の段階で地震学というのには接することができないわけですよね、学生は。

【堀教授】はい。

【青木委員】するとみんな物理とか数学とか、あと応用物理とかに入っていて、いつから自分は地震の解決のために、これを勉強しようと移行できるんですか。

【堀教授】私の経験で言いますと、私は元々地震と全然関係ないところに来て、たまたまポジションがあったからと言ったら怒られちゃいますけれども、移りました。

【青木委員】地震研にですか。

【堀教授】はい。そういう状況ですね。

【青木委員】地震研で大学院の学生というのはいないんですか。

【堀教授】ゼロではないですけれども、減っています。悲しいぐらい減っています。

【青木委員】減っているんですか。

【堀教授】非常にもう、危機的と言ったら地震研のほかの先生に怒られますけれども、非常に少ない。一時の、少なくともプレートテクトニクス等で日本がものすごく地震学、地球物理学に関心があった時代に比べると、もう減っていますね。

【青木委員】なるほど。でも数理とかそうやる先生もいらっしゃるわけですよね。解析とか新しい分野の先生も。

【堀教授】ええ、みんな年寄り。若い先生はどっちかというと観測中心になってしまって。

【青木委員】ああ、分かりました。ありがとうございます。

【若山主査】ほかにございませんでしょうか。どうぞ。

【森委員】非常に初歩的な質問ですけれども。地震の予測は、日本全体としてはどの程度可能だという認識なんですか。

【堀教授】私が答えるべきか分かりませんけれども、一応阪神・淡路大震災以降、予知ができるという言い方の代わりに、予知のための観測をしましょうということになっています。予知ができるできないということに関する即答は、非常に曖昧にしております。

【森委員】そうですか。

【堀教授】ただ、この地震予知の研究を止めると絶対に予知はできなくなります。実際アメリカは、予知研究をやめて大きな空白があると聞いています。少なくとも学問の分野で見れば大きな損失です。続けざるを得ないと思います。しかし続け方は議論が必要です。今日御紹介した研究は全て他分野の成果を生かしたものです。センサ技術、GPSの宇宙衛星観測がその代表です。地震学だけの進歩というよりも、いかにその他分野の発展を取り込んで観測網を進めたり、京計算機のような大規模計算を使って今までできなかったことをするという、そういうのが重要です。

【森委員】先ほどのマルチエージェントシミュレーションについてです。避難する、あれは説得力があって、見ているとかえって何となく分かったような気になるんですけれども、検討がされてないとおっしゃいましたね。それはどういう意味でしょうか。

【堀教授】すみません、我々はこの紙芝居が非常に下手です。人をだますと言ったら怒られますけれども、説得するためのデータです。あのシミュレーションが本当にどういう問題を解いていて、どういうところに解があって、それにはどんな意味があるのかというのは検討されていません。

 具体的には非線形の偏微分方程式を解くときには、例えばどんどん刻みを小さくしていくと解が収束するので、みんなが共通の客観的な答えにたどり着きますけれども、マルチエージェントシミュレーションで同じような設定で、みんなそれぞれのプログラムを入れておくと答えが変わってくるわけですね。これが今の現状で、何か客観的に正しいと分かるシナリオを出さないと、電動紙芝居ばっかりやっていて何やっているか分からなくなるというのが現状です。特にこの可視化が非常にきれいですから。

【森委員】やり方をちょっと変えると全く違う動きが出てしまうということなんですか。

【堀教授】そうですね、はい。解くべき数理問題があるのかないのか分からないし、あったとしても解が本当にあるのかという、そういう吟味はこの面ではされないです。

【森委員】問題設定がまず問題なわけですか。

【堀教授】そうですね。そもそも人の動きを計算しようというのは、ある意味でかなり困難なことですから。ただ今回の津波のように重要なことも事実なので。しかも工学の我々の立場で言えば、実験ができないですよね。だからこのシミュレーションに頼らざるを得ないですけれども。そこで客観性というか、シミュレーション等の正しさをどういうふうに担保するかというのは大きな課題で、下手をすると声の大きい人の計算が全部正しくなっちゃうと、これは本当に何やっているか分からなくなる。

【若山主査】ほかに。

【西浦委員】局所的な地震とかエネルギーのひずみのたまり方というんじゃなくて、ちょうど地球大気全体のシミュレーションのような、地球というスケールで見たときのその地殻というか、地殻といっても恐らく極めて薄いし、シェルみたいなものだと思う。かつ頭蓋骨みたいにいろいろ動いているわけで、これはちょっと素人質問なんですけれども、そういう地球スケールでどういう、だから非常にラージスケールで、非常に長時間のものになるんですけれども、それでどういうふうなところにどういうふうにひずみというかそういうものが。そういう計算、真面目な、なかなか観測網の問題もあって大変だと思うんですけれども、そういうものというのをやっている方はおられるんですか。

【堀教授】そういう方はいらっしゃいます。

【西浦委員】そうですか。

【堀教授】ええ、ちょっと物理過程としては非常に単純でと言ったらいけないですけれども、物理は非常によく分かっています。分からないのはその物理を支えるというか、地球の構造とかモデルとか、材料特性と、そういうモデルを作ることができない、と私は考えています。1回正しいモデルができたら、数値計算で、それこそ、10億年戻すなんていうのはそれなりの精度と分解能で計算できると思います。問題は飽くまでもモデルがないことだと思っています。

【西浦委員】モデルがない。

【堀教授】はい。地球の大きなイメージがありますし、大ざっぱな分解能の計算はできますけれども、分解能を上げることは難しい。本当に何キロの厚さの地層なのか、地層の境界は本当に平らなのか、それとも地表のようにこれだけごつごつしているのかという、そういう詳細な忠実なモデルを作るための観測技術がありません。したがって、この分野はどうしても観測中心になります。繰り返しになりますけれども、物理は非常によく分かっているので、モデルさえあれば計算することは可能です。実際そういう研究もあります。

【小谷委員】今回のような大きな地震があった場合、その結果を反映することによって、幾つかのモデルが少しでも進歩するということは期待できるのですか。

【堀教授】そうですね。大分観測データが集まってきましたので、いわゆるプレートの境界の形等も、従来よりははるかに分かるようになりました。ただ相対的に進歩していることと、我々が必要な絶対的な精度とはまた別です。繰り返しですけれども、こういうところでここにあった地震を一方向だけのデータで解析しているわけですから、必ず逆問題の精度が疑問となります。先ほどの話に関わりますが、地震予知ができる程度の精度に達しているかということは常に疑問が残ります。

【小谷委員】むしろ遠くまでの影響まで入れた方が、そのモデルが良くなるとか、そういうことはないのですか。

【堀教授】ええ、もちろんそうです。だからそれこそ地球全体で考えるというようなこともありますし、マントル対流なんかを計算される人はどうしても地球全体で考えます。

 ちょっと強調しますけれども、モデルがあればいろいろなことができるのですが、モデルを作るデータが足りない。観測技術も未熟。未熟というか限界があるというのが現状である、と考えてくだされば結構です。更に言えば、それを支える数理的な逆問題の技術も不十分かもしれません。

【大島委員】よろしいですか。先生のお話楽しみにしていたのですが、到着が遅れてしまい、すみませんでした。数理的なモデルはありますが、例えば境界条件や物性値など、私自身、生体に取り組んでいるため、同じような問題を抱えています。数理的なモデルはある程度完成されていますが、体内の境界条件や物性値は確定できず、その不明確さのために、精度が良いものかどうかについては、結局議論ができないという同じような問題を抱えています。

 逆問題のことをおっしゃっていましたが、反対に逆問題により、例えば観測データにフィードバックしたり、実験とコラボレーションして、より良い観測データを得る手法を開発するのに役立てるために、計算結果をフィードバックするということはされていらっしゃるのでしょうか。

【堀教授】ええ、これからしようということで、今そういう計画が出ています。

【大島委員】そうですか。

【堀教授】 今おっしゃっていただいた点は、本当に重要です。今までどちらかというと、この観測技術に集中していました。しかし、シミュレーションとのデータ同化をもっと考えましょうということになっています。

 ただこの分野の難しい点があります。生体の場合は、切って別に調べて正しいことをチェックできるわけですよね、やろうと思えば。地球はそうはいきません。

【大島委員】 でも、ただ実際にはin vivoの状態と取り出した解剖とでは違います。

【堀教授】 そうかもしれません。地球はそこまで行って調べるということが今は絶対にできないのです。本当に圧倒的にデータの質と量の点で、他分野に比べてすごく損なところがあります。だからすごく難しい。

【北川委員】 これは、今言われたようにデータ同化の問題だと思うんですが、実際にデータ同化の手法の問題なのか、もう観測値が絶対的に少なくて解けないというか、うまく解けていないのか。どちらなんでしょう。

【堀教授】 私もそれの正しい答えは分からないですけれども。今言えるのはよく分からないとかしか言わないですね。逆に言えば、我々ができる精一杯のことを今しているわけです。これが本当にすべきことで、これで十分なのかという、そういう発想で今までこの分野は動いてなかったので、例えばお金の話を申し上げて恐縮ですけれども、昔は1個作るのに300万円で、維持費を考えたら1,000万円ぐらいでできる地震計のようなセンサが、今は1/10までにようやくコストが下がったので、連続ネットワーク観測ができるようになったのです。整備する段階で、連続ネットワーク観測で必要かつ十分なインバージョンとか、データ同化ができるかという質問に我々はまだ答えてないと思います。

【北川委員】 ちょっとよろしいですか。話が変わりますが、先ほどはアパートの復元力の問題で、400ガルを超えると非線形性が見えてくるという話をされました。それ自体は非常に面白いんですが、一方で力が大きいとき、非線形性が少し小さくなって変なようにも見えます。東北大なんかは非常に大きな被害があったけれども、単にガルが大きかったから破壊されたのか、非線形もあって破壊されたということでしょうか。

【堀教授】 ガルが大きくなって非線形領域に達したので破壊されたと考えています。

【北川委員】 するとやはり今後は耐震設計とか考えるときに、非線形の問題をちゃんと考えていかないといけないということですか。

【堀教授】そうですね。耐震設計でも土木と建築は非線形をまじめに取り入れている多分唯一のところです。唯一は言い過ぎですね。例えば飛行機で翼が塑性変形しましたが、でもくっついていますというのでは、落ちてしまいます。航空機の分野は原則線形解析です。ところが土木と建築はマスが大き過ぎるので塑性を認めざるを得ず、中に住んでいる人に危害がなければ良いということになっています。

 しかし、現在この建物がどういう非線形性を持っているかという判断はできません。それが大きな課題です。もちろん壊せば非線形性を判断できるのですが、壊してしまうと何をやっているか分からなくなります。非線形応答をいかに限られたデータで推測するかというのが大きな課題です。

【北川委員】その実際の地震のときの揺れ方から、そこのモデルを作っていくというようなことはできているのでしょうか。

【堀教授】もちろんそれは可能です。例えば先ほどお見せしたのは、それに近いですね。

【北川委員】はい、そうですね。

【堀教授】今は、大更新時代で、大型インフラ等、高度成長期に作った構造物を直しますから、どこをどんなふうに直せばいいか、そのときに耐震性を考えたらここを重点的にやりましょう、ということが正しく判断できることが必要です。このとき、非線形性まで含めた性能評価をきちんとできる方がいいに決まってますが、その技術がない。

【若山主査】ほかにございませんでしょうか。

 ちょっと初歩的な問題。我々、日本に住んでいますから日本のことを中心に考えているわけです。もちろん観測地点をいろいろともう少し広げたらと、地球規模でというふうなこともございましたが、それでも観測地を増やすということはお金もかかることなわけです。小さな、例えば実験ということはできるんでしょうか。例えば日本全てではなくても一部の地域の海底にいろいろ観測地を置いて、それによってその地区におけるいろいろな現象の解析が進むということはあるんでしょうか。

【堀教授】現在行っているのは文科省のプロジェクトですけれども、首都を対象に非常に高密度なアレー観測を置いて御指摘のような研究を進めています。このアレー観測でどこまで分かるかが非常に重要な問題です。

 ただ、地表で幾ら密に置いても、地下のデータを取ってきているわけではないので、地下構造を確定することは難しいですし、地下構造がどうなっているかが分からない中で、どんな地震が起こっているかというソースそのものも分からない。すなわちモデルとソースを一緒に同定するということになるので、逆問題としての問題の性質は変わらないです。一番良いのは、本当に30キロのところに観測網を持ってずっと見ていれば何とかなります。工学で物を破壊するときには、必ず実験室で横で見ながら実験するとかなり分かるのですけれども、地球の場合はそこまで掘れないですね。

【安生委員】研究の進め方についての質問ですが、地震に関しては日本の現状を見ても、いろいろな意味で切迫感がありますけれども、海外の方々との連携で進められるようなテーマはありますか。あるいは既にやられていることはありますか。

【堀教授】海外で、一番問題になるのはやっぱり社会のシミュレーションです。先ほどお見せした人が逃げたり建物が揺れるというのは、グーグルマップ等の技術を使えば世界中ですぐ展開できます。日本で起こったことや、日本で学んだ経験を世界に移植するときに、ああいう動画を見せれば相当分かりますね。だからあのようなシミュレーションは、世界展開すべきことだと思います。同じことは地震に限らず自然災害全般に対して作ることができます。都市モデルさえ作って、常にシミュレーション技術を上げて、世界中に展開していくということは、非常に大きな、もしかして我が国が率先してやるべきことかもしれません。

【森委員】離散化された最適問題とありますけれども、東大だと離散最適化の研究者いろいろおられますよね。そういう方たちとの連携というのは、どういうふうにやっておられるのでしょうか。

【堀教授】すみません、まだ全然進んでないです。

【若山主査】恐らく時間がたくさんあるとなれば、皆さんたくさん質問をしたいということも明白なんですけれども、限られた時間の中で少し皆さん御遠慮されているのかなと思っております。またいろいろとお話をお聞きしたいこともたくさん出てまいるかと思いますけれども、その際には是非よろしくお願いいたします。

【堀教授】はい。

【若山主査】次に鷲尾先生のお話を伺うわけですけれども、その前に、今日御出席の大島委員に、先ほど御質問もございましたが、一言御挨拶をお願いいたします。

【大島委員】東京大学の大島です。本日は遅れまして大変失礼しました。私、専門は元々は機械工学で流体解析をやっておりまして、今、流体の血液の流れとその血管の病気の疾患がどういう関係にあるかというのを、流体とあと血管壁の構造を含めた流体構造連成という形で数値解析を中心にやっております。よろしくお願いいたします。

【若山主査】どうもありがとうございます。それでは続きまして大阪大学産業科学研究所の鷲尾隆先生により「大量・複雑データに埋め込まれた規則性や概念・知識の発見とその応用」ということで、お話をしていただきたいと思います。鷲尾先生は先ほどからのデータ同化というか、データマイニングに関する研究をされておられ、研究を進める上で必要な数学・数理科学的な知見や期待などについてお話しいただくことになっております。それでは先生よろしくお願いします。

【鷲尾教授】大阪大学の鷲尾です。よろしくお願いいたします。こういったタイトルで御紹介いただきましたようにお話しさせていただきます。ちょっと私の方はどちらかというと少し、先ほどの堀先生の話に比べると数学にちょっと近い分野というか情報科学とか計算科学の分野ですので、今日いらっしゃる方、数学の先生からむしろ文科省の方々から幅が広いので、スライドには式とかも書いていますが、なるべく分かりやすくちょっと直感的なお話になってしまいますけれども、お話しさせていただきたいと思います。

 私の分野でやっていることというのは、ここにありますように大量・複雑なデータから規則性とか概念・知識を発見するということで、データの山が与えられたときに、計算機を駆使して何か役に立つ知識を見つけてやろうと。これがデータマイニングのざっくりした定義なわけです。ですが、中にはいろいろな方法が使われます。アルゴリズム的にいろいろなパターンを探索するものですとか、統計などでもよくやられるような回帰分析ですとか、それから分類する、データを仕分ける方法ですとか、いろいろな技術が使われる。あと最近は特に確率的ないろいろな推定、統計的なベイズの推定なんかを使って、いろいろデータを解析するモデルを作るというようなことも盛んに行われております。これといった定石の方法はないです。もう数千種類ぐらいのいろいろな解析方法の総称をデータマイニングと呼んでいます。ですからこういったハンドブックもたくさん出ていて、もう何百種類、何千種類という方法が百科事典のようになって書いてあると。そんな世界です。

 それを全てここで当然お話しするわけにいきませんので、今回は私どもの研究室のテーマを例に、どれだけ我々が数学や数理科学に対して期待を持っているかというお話をさせていただきたいと思います。今の背景として、最近特にデータマイニングの分野で問題になっているのは、大量データといってもむしろデータの件数が多いというよりも、測定されている項目数が膨大になってきているというところが、非常に大量で問題になってきています。いろいろな観測機器やセンサが発達してきて、どんどん同時計測される多数の項目のデータで、それぞれの一つ事例を表すデータが、高次元のベクトルデータになってきていると。非常に高次元のデータをどう扱ってモデルを作ったり、いろいろな知識を抽出するかということは非常に問題になってきている。それから皆さん御存じのようにユビキタスセンシングネットワーク、センサネットワークというのがどんどん普及していますので、当然いろいろな場所からのたくさんのセンサデータがやっぱり集まってくると。これも同じですね。しかもこういったものは地理的にいろいろな、先ほどの地震研のデータもそうですが、地理的にいろいろな関係を持っていますので、単純にベクトルのデータではなくて、お互いが複雑なトポロジカルな関係を持って測定されているようなデータ。場合によってはグラフ構造で表されるような数値データです。ですから、そういったものをいかに扱っていくかということが非常に大きな問題になってきています。

 我々の研究室ではそういったいろいろな社会のニーズの中で、今、主にそういった高次元データからいろいろな統計量やモデルを推定する研究ですとか、それから主にグラフ構造で表されるようなパターンですとか、知識を発見するという研究をやっています。いずれもかなり、今日お話ししますが、数学や数理科学的なアプローチの研究です。応用研究としては、よく皆さん御存じの遺伝子ネットワークです。遺伝子発現ネットワークなんて、正にこれネットワークグラフで表されるもの、そういったものの推定ですとか、それからデータから非常に希少なシナリオの確率の分布の推定。化学反応、非常に珍しい反応がどんなパスで起こってくるのかという確率分布を求める。多分、今の自然災害のように非常にレアな天災なんかに関しても、同じような技術が使えるのかもしれませんけれども、そういったシナリオの確率分布やシミュレーションの研究もやっております。そのほかいろいろな医学の先生方とも共同研究とかさせていただいています。

 この中でちょっと今日は全部お話しできませんので、幾つか、二つだけかいつまんでお話しさせていただきます。一つは、高次元データ解析のための組合せ論的な最適化の研究をやっています。これはかなり数理科学に近い話だと思っています。なぜこういうことをやっているかといいますと、皆さんよくあるようにエクセルのデータを思い出していただくと分かるんですが、縦に事例が並んでいて、一つの事例がたくさんのセンサの観測値と、それからそれは例えば患者さんのデータだったら、それは病気か病気でないかといったような、1・0の目的変数。あるいは目的変数は別に実数でも構わないんですが、そういったデータが与えられたときにセンサのデータから、検査のデータから例えば患者さんの病気の程度の推定yというのを求めるという。例えばそういった推定モデルを得たいということを考えます。センサのデータはたくさんあるんですが、全部使えばいいというものじゃなくて、その中から適切なセンサを選んでモデルを組み合わせて選ばなきゃいけない。

 そのときに普通やられるのは、このモデルが現実の実際の答え、目的関数の答えがデータと合っているかどうかというのを、どのくらい合っているかとゆう度というものを使って表現するわけですね。もっと言うと、例えばこういった二乗誤差みたいなもので表現するわけです。ゆう度が最大になるようなモデルが一番もっともらしいモデルなわけです。こういうゆう度などの目的関数が最大となるように、どのセンサの説明変数を使うかという組合せ問題というのは、説明変数選択とかモデル選択の問題。統計で昔からやられている問題です。

 それからこれを決めた上で、更にfの形を、パラメーターを決めるという、係数フィッティングとか探索の問題なんです。今我々が一番問題にしているのは、この赤で書いたモデル選択の部分の問題です。

 ちょっと話をずらしますけれども、劣モジュラ関数というのがあります。これは集合関数というもので引数が集合です。しかもあるいろいろな性質が劣モジュラ関数にあるんですけれども、代表的な文字で書いてあるのは、例えば、そのセンサの集合の中から、ある小さいセンサの部分集合に、ある新しいセンサをくっつけてモデルを作った場合の性能の差に比べて、たくさんのセンサの集合に、更にセンサを1個加えてモデルを作ったときの性能の向上の度合いというのは、この不等式を満たすというのが劣モジュラ関数です。ちょっとこれは凸関数に似ているんですね。だんだんとたくさんのセンサを含んでいるモデルに1個センサを付け加えても、性能は向上しない。凸関数になっている。これは経済で言うといわゆる限界効用の逓減効果ですとか、規模の経済性で出てくるモデルです。

 先ほど堀先生が言われた、例えばセンサ配置問題というのは地震計も、もうある程度以上地震計が増えたら新しい地震計を追加しても余りもう性能が上がらないわけです、監視網としては。これもそういったセンサ配置問題というものの中には、こういった劣モジュラ関数の最適化問題というのが含まれます。我々の今お話ししたゆう度というのもそうなんですね。変数をたくさんどんどん加えていくと、もう予測するモデルの性能がだんだん上がらなくなってくる。ですから、これも劣モジュラ関数の一つです。ですから先ほど言ったモデル選択をやるときに、どのセンサの説明変数の組合せを使ってモデルを作ったらいいかというのは、このゆう度を最大化する。つまり劣モジュラ関数を最大化する問題となります。

 実際これをやろうとすると、しらみ潰しにやることはもちろんできますが、センサの候補が、説明変数の候補が1,000個あったら、2の1,000乗通りの部分集合の組合せ全部試せばいいわけですけれども、それは実際は無理ですね。宇宙に存在する原子の個数が2の300乗ぐらいだと言われていますから、途方もない数で、絶対もうスパコンを使っても無理ですので、通常我々の分野でやられるのは正則化といいまして、そういったゆう度に更にペナルティー項をくっつけて、これを最大化するということをやります。

 ですが、所詮これペナルティー項をくっつけるんで、元のゆう度関数を最大化しているわけじゃないんで、所詮近似です。我々としてやりたいのは、本物の本当のゆう度になる、劣モジュラ関数そのものを最大化したいという研究をやっています。これはある説明変数が最大何個までにするというふうに、kというしきい値を決めて、その最大の説明変数の個数の中で、このゆう度を最大にするような説明変数の組合せを求めるという問題を解こうと。これしかも完全探索でやりたいということです。

 実際はこの劣モジュラ関数の区間連続関数で近似して、後はカッティング・プレーンといわれる超平面で上下界計算して枝刈りして探索を絞り込んで、完全探索するというようなことのアルゴリズムを作っています。我々はこれは必要に迫られて研究しているわけです。

 実際にこれを文書分類問題に適用しました。文書に含まれている単語の組合せから、この文書がどんなテーマに関する文書なのかというのを分類するような問題です。これはちょっとベンチマークのデータを使ったんですが、この五つに文書を分類するときに文書に含まれているボキャブラリーがあるわけですね。そのボキャブラリーの中で我々が日常使う単語数というのは多分数万語ありますので、文章に表れる可能性のある単語の数というのは数千、数万あるわけです。それはこの文章に単語が表れているか、表れていないかというのは1・0のベクトルで表すと、一つの文章というのは数万次元のベクトルで表されると。その中で、じゃ、どの単語の組合せでこの分類するモデルを作ったら一番ゆう度が高くなるかという、その数万の単語の中からどの部分集合の単語を選ぶかという問題を解かなきゃいけないわけで、その最適な単語の組合せを識別するための単語の組合せを求めるというのに、この劣モジュラ最大化のアルゴリズムを使います。そうすると、従来の山登り法と言われる単純にグリーディに最適化する方法があるんですが、それと比較すると全体的に精度が向上するという結果が得られています。

 この辺の話というのは、実は応用数学でかなりやられている話なわけです。劣モジュラ関数の最適化というのは。実はこの劣モジュラ関数を最小化するという問題というのは、ちょっと最大化よりも易しくて、多項式時間で解ける問題で、この辺はもう過去数十年研究はされていまして、日本でも正に京大の数理解析研究所の藤重先生とか岩田先生のところで盛んにやられているわけですけれども、彼らは主にやっているのは最小化なんです。でも僕らは本当はニーズとしては最大化が欲しいと。ないんですよ、世界的にも研究がほかに。近似で、先ほどの山登り法みたいなやり方で最大化する研究というのはやられているんですが、厳密解を求める方法はない。最適解、大域解を求める方法がなかったんで仕方なくて我々自分たちで作っているということです。この辺というのは本当はもっともっと実は離散数学の分野の研究者と連携協力できれば、もっと性能のいいアルゴリズムが作れるかもしれないので、そういうところは非常に我々期待している一つの研究テーマです。

 もう一つが、これはむしろ統計の分野の方の話なんですが、統計的な推論という研究分野があります。これも先ほどの例のように事例があって変数があると。今度は説明変数とか目的変数関係なく、データだけ与えてそのデータがどの変数からどの変数のデータが作られてきたのかと、その変数が作られた手順をデータ生成過程を推定するという問題。これを統計的な推論といいます。この辺の分野というのは、例えばハーバート・サイモン、これ経済学で有名なノーベル経済学者で、過去に随分やっていますし、彼の本を読むと、人が都心からどのくらい離れた所に住んでいるかという距離と、その人の収入でどっちがどっちを決めているんだという問題が出てくるんです。収入がたくさんあるから都心に住めるのか、あるいは都心に住んでいるからいい仕事に恵まれて収入が多いのか、一体どっちなんだと。これデータから推定したいというような問題。こういうのが統計的な推論になる。これは我々の分野でもいろいろな分野で出てきますし、バイオインフォマティクスでも遺伝子間の発現変数の決定関係というのは、これを求めたいというのでたくさんあるわけです。今、我々この問題に取り組んでいます。

 この問題というのは昔からもう何十年も過去、1920年代ぐらいから実は研究が統計の分野でされているんですけれども、ほとんどがガウス統計を使っているんです。データがガウス分布して、そのガウス分布する変数間の決定関係や生成過程を推定するということがやられていて、それに関しては特に人工知能とかベイジアンネットワークの推定の分野でPCアルゴリズムとか、GESアルゴリズムとかいろいろなガウス統計の範囲内で研究はされているんですが、これ、この分野でやっている限り非常に単純な問題も解けない。先ほど言った収入と都心からの距離の問題もそうですが、2変数のデータが与えられているときには、一体どっちが上でどっちが子供かというのは推定できないです。これ、なぜかといいますと、二つの変数が、これ散布図ですけれども、ガウス分布しているとこんな分布になるわけで、これ縦軸と横軸を入れかえてモデルをひっくり返してみても、同じようなガウス分布するわけですね。ところが、これがもし非ガウス分布していると、そうするとx1と、e2というのはばらつきを与える外乱、ノイズ、非観測のノイズですけれども、親変数と子供の変数のノイズというのは、これは独立なんで、こっちのモデルが正しいときというのは、x1が違ってもこのノイズの振幅というのは当然独立だから変わらない。これこの分布だと、このモデルだと言えるわけですけれども、これX軸、Y軸データの散布図をひっくり返すと、これがこうなるわけですけれども、これ考えてみるともしx2が親だったらx2を変化させると、この外乱の振幅が変わっちゃうので、e1とx2が独立だという仮定に反しちゃうわけです。ですから、この例ではこっちのモデルが正しくて、こっちのモデルが間違いということが分かる。これ実は非ガウスだとできるけれども、ガウスだとできないんです。そういった研究を我々はやっています。

 この辺の研究は我々過去に発表していまして、これに関しては、ほかにもヘルシンキ大学のHyvarinen辺りがやっていますが、非線形の場合は、ガウスでもこういった同定が可能な場合があるよというようなことが研究されてきています。

 我々これも遺伝子ネットワーク解析にアプライして、これは東大の医科学研究所の先生方とやっているんですが、ホルモンを細胞に投与したときに、1,000個の遺伝子の発現レベルを測定した1,000個の変数の間で何が何を決めているかというのを、この我々の方法で導出すると。そうすると従来は決まらなかった矢印の向きがあるところが全部決まるというようなことも研究しています。

 これも実は振り返ってみると、今になるまで誰も研究してなかったことで、統計的な推論というのは、先ほど申し上げたように1920年代から延々とガウス統計の中で研究されていて、最近でも、例えば日本でも大阪大学で狩野先生とか黒木先生とかもやられているんですけれども、あとは人工知能の分野で国際的にはPearlとかGlymour、この辺が研究をしています。ただ、これは飽くまでもガウス統計の中での話なんです。

 これに対して非ガウス統計の研究というのはたくさん並行してやられているわけです。例えば極値分布の統計なんて、極値統計なんていうのは、例えば統計数理研究所の栗木先生とかやられていますけれども、そういったいろいろなところで過去にやられていると。当然非ガウス分布を扱うものとして独立成分分析をやります。それが我が国では甘利先生中心にやられている。ところがこの間は全然没交渉で、今に至るまで誰もこういうものを両方まとめて新しい、例えば統計的な推論の原理を見付けようということの発想が出てこなかったと。やっぱりこういったところというのは、世界的にも統計学者とこういったデータ解析する人間たちの間で、きちんと連携が取れていれば、もっともっと先に進んだんじゃないかと我々は思っています。そういったことで、ほかにも例えば次元ののろいの問題といいまして、非常に高次元のデータだとモデリングがうまくいかなくなると。データが平均値の周りの超球上にべたっと、分布にもかかわらず張り付いてしまう問題とかそういうのもありまして、こういった問題データからデータの分布を推定したり、統計量を推定したりするのは非常に難しいということは分かっているんですが、こういった問題をどう扱っていくかということになってくると、どんな情報が高次元のデータに残されているのかというようなところは、やはり数学や数理科学の力を借りないと分からないところで、これは非常に今後期待される分野だと思っています。

 先ほど言ったように、どんどんセンサの数が増えて次元が上がっていますので、センサが増えれば増えるほど情報が増えるので、いいことだと皆さん思われるかもしれませんけれども、必ずしもそうじゃありません。こういった問題が出てきてますます推定が困難になるということがあります。

 それから、我々、グラフ構造のマイニングもやっています。たくさんのグラフがあるときにそこに共通に含まれる、あるいは頻出する部分構造というのを抽出する問題で、これは数理科学の分野では部分グラフ同形問題の研究にも関係しますが、これはさんざんやられています。やられているんですけれども、我々これ探索してこういったパターンを見付けてこなきゃいけないわけです。そのときに、じゃ、パターンを列挙するとか、探索するときに一体どういうアルゴリズムを使うのが一番効率的なのかという、そのアルゴリズムの設計原理の研究というのは余りやられてないんですね。やっぱりこれも離散数学との連携研究というのが、もっと必要であろうと我々は期待しているところです。

 それ以外にも、もうちょっと時間があれですのではしょりますけれども、我々の分野でカーネル関数を使ってデータ空間を非常に高次元の、例えばヒルベルト空間にマッピングしたところで線形判別分析をやるとか、それからこういったグラフ構造を高次元の特徴空間に埋め込んで、それでデータ解析をやるとか、そういった研究が盛んに最近行われてきていますが、一体どんな空間にどんなものが埋め込まれるのかということに関して、システマティック、数理科学の基礎までさかのぼった研究というのは、まだまだやられてない。こういったところもきちんと連携して研究ができれば、非常にいい成果が出てくるんじゃないかと期待しています。

 またベイズ推定なんかの研究もたくさんやられているんですけれども、非常に珍しい条件のときに何かを予測するモデルを、普通に取れたデータからモデルを得たいなんていう問題がありますね。先ほどの天災の例もそうでしょうし。例えば非常に珍しい病気のときに、そこで発現する遺伝子のパターンから、その患者さんの予後を推定するような、例えばそういうモデルを作るとしたときに、データとしてはそのとき珍しいのでほとんどデータがないときに、じゃ、どうやって今、目の前にあるデータからそういったモデルを作ればいいのかと。条件付きのモデルを作ればいいのか。こういった問題というのは多分もうデータだけではできないので、先ほどデータ同化というお話もありましたけれども、もっとそれを前に進めてモデルシミュレーションと、そういったいろいろな推定、確率的な推定を組み合わせていかなきゃいけない。これは我々にとって非常に大きな問題で、でもこういうことをやっていくためにもやっぱりいろいろな数理科学の助けが要るだろうと我々は思っています。

 今、お話ししたことをまとめると、いろいろな確率・統計分野の基礎の発展と応用と、離散数学の基礎研究と応用。それからお話ししていた位相空間とか写像とか関数論というようなもののやっぱり発展と応用というもの。我々も今、研究していますと、やっぱり基礎研究が非常に重要なんです。やっぱり基礎研究で明らかになった性質を使って初めてアルゴリズムとか手法が組めるので、やっぱりこれがきちんとできてない分野ではやっぱり進まないんです、我々の研究は。だからこれをきちんとやっていただいた上で、更に数理科学をやっていらっしゃる先生方に応用の視点もあれば、我々との間のアプリケーションとのギャップがもっと埋まっていくんじゃないかと期待しています。でもそのためには、やはりそういった先生方と我々の分野の研究者が出会う場所というのがやっぱり必要になるんだろうと思います。今までお話しした研究成果も、実はいろいろなところで出会いがあって実現したものです。過去、我々の分野では、特定領域研究等でいろいろな「発見科学」とか、いろいろなところでそういった研究者と知り合いになる機会がありまして、そういったところを基点にして研究が始まったものが多いです。また学会活動では、我々の分野は応用なので、人工知能学会とか電子情報通信学会のいろいろな研究会で運営しています。こういったところでもいろいろな出会いもあるんですが、ただどうしても情報系や工学系の研究者のこういうコミュニティーに偏っていますので、我々としてはもっと数学者とか数理科学者と交われるような場があって議論されれば、もっとこういったいろいろなブレークスルーが出てくるんじゃないかというふうに期待しているということです。話を終わります。

【若山主査】どうもありがとうございます。それに多くのことを手際よくお話しいただきましてありがとうございます。皆さんの方から何か御質問等ございませんでしょうか。やはり20分ほど時間を取っておりますので、御自由に。

【北川委員】前半で劣モジュラ関数の最適化を話されまして、私自身もゆう度最適化というのは非常に興味を持っているところで、統計の人間は昔はゆう度最大化というのが一番大事なことだったんですが、正則化と変数選択の方法には一長一短ありますよね。

【鷲尾教授】はい。

【北川委員】最近はどちらかというと、ベイズ推論という意味で正則化を重視する傾向にありますが、やはり先生の考えられているような問題では、本当にゆう度最適化を最大化することが大事だという感じなんでしょうか。

 やっぱり事前知識みたいなものが使えない。本当にデータだけからモデルを作らなきゃいけない問題というのもたくさんありますし、あとデータマイニングよりも先ほど堀先生もおっしゃられたように、どんどんたくさんのセンサのデータを扱うようになってきているんですが、やはりセンサの配置の最適化みたいなことも我々踏み出していかないと、いい結果が得られないので、そういう問題になってくると、本当劣モジュラ最大化の問題を解かなきゃいけないですよね。

【鷲尾教授】そういった問題はやっぱりまだあるかなと思って。やっぱり事前知識みたいなものが使えない。本当にデータだけからモデルを作らなきゃいけない問題というのもたくさんありますし、あとデータマイニングよりも先ほど堀先生もおっしゃられたように、どんどんたくさんのセンサのデータを扱うようになってきているんですが、やはりセンサの配置の最適化みたいなことも我々踏み出していかないと、いい結果が得られないので、そういう問題になってくると、本当劣モジュラ最大化の問題を解かなきゃいけないですよね。だからやっぱりどうしてもこれは外せないテーマだろうと思っております。

【若山主査】よろしいですか。ほかにございませんでしょうか。

【青木委員】一つよろしいですか。

【若山主査】はい。

【青木委員】経済学がちょっと出て有り難いんですけれども、データの量からすると経済学で一番今、統計的に先端な方法で使っているのというのは株式のデータとかああいうのが今までの経済学のデータと比べると、量が全然違うんですよね。先生が扱われるデータの量というのは、株式のデータの量のオーダーなんですか。それとももっと大きいんですか。

【鷲尾教授】データは事例数というか測定というか、両方でしょうかね。まず測定の点数もそれから事例数も含めてということでしょうか。

【青木委員】ええ、そうです。

【鷲尾教授】株式のデータクラスのものは、もう我々の分野で扱われていますので。

【青木委員】ああ、そう。あれよりもっと大きいデータ。

【鷲尾教授】大きいものもありますね。

【青木委員】何のデータがあれより大きい。

【鷲尾教授】例えば先ほどの文章の分類のデータとかですと、文章というのは文章が何十万件もあって、そこに表れてくる単語の潜在的な可能性のある単語の数は何万件もあり、何万個もありますから、一つの文章というのは何万ベクトル、何万次元ベクトルで表されるものが、例えば何十万件もあるというようなデータを扱わなくちゃいけない。

【青木委員】ああ、そう。違うわけ。統計。

【若山主査】最初におっしゃっていましたその同時観測された多数項目のデータ、高次元ベクトルデータでも、複雑な関係の対象に関するデータでは、それは最後の方におっしゃっていました次元ののろいにも似て、例えば高次元データのベクトル分布が超球上にあるとか、そういうリレーションがデータに潜んでいるという、そういうことをおっしゃっていると思ってよろしいですか。

【鷲尾教授】そうですね。そういういろいろな意味でそこの構造のデータってありまして、正にデータ自体の背後にこういったネットワーク構造があるとか、そういった問題もありますし、それからデータそのものがこういったグラフで表されるデータというのもあるんですね。例えば我々が今まで解析したのは、誰が誰にメールを出した、それに誰が誰に返事をしたと、ずっとメールのやりとりした道筋を書いていくグラフになる。例えばそういうやつとか。あと正にウェブのネットワーク構造そのものの解析をやっている研究者もたくさん我々に近い分野に、ウェブマイニングという分野である。そうするとこういったグラフ構造を扱わなきゃいけないんですね。そういったものを、じゃ、どうやって解析するツールに乗っけられるような形に変換するか、あるいは変換できないものは、そもそも解析する手法そのものをそれに合わせて設計して作っていくかという話があります。

 ですから、いろいろなデータに関してはバラエティーがあります。グラフだったり、あるいはそれがグラフまでいかない木だったりという場合もあります。それで全然また問題の難易度が違ってきますし、それぞれに合わせていろいろなアルゴリズムが設計されて研究されているという話。

【若山主査】だから構造といってもある程度あらかじめ分かるときもあるし、そうでなくて、それもそのものがやっぱり問題であるという。

【鷲尾教授】それを推定しなきゃいけない。そのものを推定しなきゃいけない場合もあります。

【若山主査】はい。ほかにございませんでしょうか。

【小谷委員】最後の方で特定領域研究をされることによって、いろいろな分野の出会いが見付かったというようなことをおっしゃられていたのですが、実際、異分野研究者の出会いを作ることは結構難しいと思うのですが、どういうことをされたのでしょうか。

【鷲尾教授】やっぱり今はこういう研究会がベースで中心な場合が多いです。今、結構私らは、例えば統計数理研究所の先生方とのお付き合いが多くて、やっぱりデータ解析をやるという意味ではつながりがあって、こういった研究会の中にいらっしゃる先生も多いので、そういった方と共同研究が始まるということも結構あります。

 ですから、こういったコミュニティーにお互いが参加しているインターセクションになり得る分野の方々とは今、共同研究できているんですけれども、例えば離散数学やっていらっしゃる先生というのは、あんまりこういうデータ解析そのものには御興味ないですので、例えばそういった方々というのは。ですからこういったところに出ていらっしゃらない。なかなかそうするとそういった方と、人づてでお話を聞いたりすることはありますけれども、直接出会う機会というのは余りない。

 ただちょっと例外的に今、我々がやっている研究テーマで実は岩田先生と若干共同でやらせていただいたりはしているんですけれども、なかなか一般的にこういうところで出会うということはないですね。ですからやはり、本当はデータを扱う、データを直接扱っている数学系の先生方の分野でない分野の方々とも何か集まれる場があると、実際こうやって最適化問題というのは我々も随所で使うわけですね、データ解析の中で。そうすると本当はもっともっと前に進むことがあるんだろうと。ただちょっと残念なのは、我々はどっちかというと、そういったいろいろな数学の基礎研究の成果を使うユーザー側なので、我々が得られることの方が多くて、一般に。逆に数学の先生方にそのものに研究になるテーマって意外に少ないのかなということは、ちょっと危惧している。

 ただ先ほど劣モジュラの最大化みたいな問題というのは、かなりもう数学に寄っている話ですので、そういった話ですと共同で論文書いたり数学の分野でもできると思うんですけれども。もっとデータ寄りの話になってくると、ちょっとアンバランスがあるので、その辺をどううまくやっていったらいいのかなというのが、やっぱり悩みです。

【北川委員】よろしいですか。そういう意味で言うと、データマイニングとか発見科学の特徴というのは、従来の研究が目指していた普遍的な知識だけではなくて、個別の情報を取ろうというところがありますね。それが多くの場合新NP問題になったりして、そこが我々にとってもチャレンジングな問題のソースじゃないかなと思っているんですが。やはり鷲尾先生としては、一つの鍵はやっぱり変数選択でしょうか。ほかにも何かこういうことをやったらいいというのはありますか。

【鷲尾教授】変数選択も一つ、いわゆる次元の圧縮という問題ももちろんあるんですが、例えばこの辺でいろいろ考えたいのは、じゃあ変数選択でなくてもそもそも高次元のデータ空間でどんな情報が残されているのかと。そこから何か取れるものがあるのかみたいなものも興味がある。圧縮にすぐ安易に走らないでやるという問題もやっぱりあるのかなと思っています。

【小谷委員】甘利先生のお名前とか出ていましたけれども、離散的な空間にどのような幾何構造があり得るかという研究は、純粋数学の方でも、非常に進んでいます。そういうことが多分ほとんど反映されてないと思うのです。そういうのももったいないので出会いの場がもっとあったらいいなと思います。出会いの場を作るのがいいのか、それともそれ以前に教育の部分から変えていく必要があるのか、どういうふうにお考えでしょうか。

【鷲尾教授】そうですね。ちょっとそこは私もよく分からないんですけれども、ただほとんど我々も今の研究者のコミュニティーの分野の人は、大体情報科学、計算科学の方の出身の方が多いですね、数学というよりも。ですから、今やっているともうそれが、そういう出身者の方の持っているバックグラウンドの知識だけじゃ、やっぱり足りない。おっしゃるように足りないので、そういったところにもっと数学的なカリキュラムというのが入れていければいいんでしょうけれども、ただ現状を見ていると、もう情報科学の分野の教育だけで手一杯というか、科目数にしてもですね。ですからどこまでそれがやれるのかというのは、ちょっと何とも言えない部分があります。

 研究者レベルではもっともっとそういう交流があると良いなとは思いますけれども。もちろん情報科学で教えている科目の中身と数学の科目は、中でつながっているものが結構あるはずなんですね。ただ、両方をまたがって教えられる先生がどれだけいるかなというところも、やっぱりあるかなと思いますけれども。

【若山主査】ほかにございませんでしょうか。もしよろしければ堀先生も何か。

【堀教授】一つよろしいですか。数学との機会ということで、私は古典物理から来ています。その意味では偏微分方程式を解くということで、古典的かもしれないけれども数学に関するなじみは工学部の学生のときからありました。先ほど申し上げたように、古典物理は非可逆的に衰退の方向となっているので、もしかしたら工学部でものすごいスピードで数学離れが始まっていて、要するに准教授の先生辺りではもう、数学は自分に関係ないと思っている。言葉では数学と言っているけれども全然違うレベルの数学となっているかもしれない、という現状は非常に危惧しております。

 これはどなたかもおっしゃられたと思いますけれども、教育を考え直さないと大変なことになると思います。例えば地震学とか地震・防災の分野で100人研究者がいて、100人が数学とインターフェースを持つ必要はないんですが、今まであった数名くらいのインターフェースが今確実にゼロに向かっています。ゼロとなったときは本当に危機ですね。100名のうちの数名でもいいから、しっかりしたインターフェースを作るという仕組みが必要じゃないかとずっと考えています。

【若山主査】ありがとうございます。

【小谷委員】地球物理学の方にお話を聞くと、少し前までは、数理モデルを自分で立てて計算をしていたけれど、今では大きな機械があって、放り込めば出るという。それで研究はどんどん進むので、次の世代の人は自分で数理モデルを立てるということはやらなくなっている。その人たちが今度教育する立場になると、いろいろなことが何もできなくなってしまうのではないかと心配しているというお話を聞いております。

【堀教授】おっしゃるにそのとおりです。もう現実には起こっていると思います。

【大島委員】私も機械系ですが、古典力学なので似たような状況です。偏微分方程式は解けるというか、大学の数学で教えるのですが、統計や確率などは余り教えなくなってきています。例えば実験やシミュレーションで大量なデータが出てくるので、それを統計処理しなければなりません。数学が余り浸透してきていないという現状はあります。もちろん基礎的な数学教育が少しおろそかになってきているところがあって、さらに、このようなデータマイニング的な離散数学やほかの分野などになると、もうほとんど学部レベルで接する機会がなくて、大学院での研究で必要になったらそれを個々が勉強するというような状況です。カリキュラムとしては余り組み込まれていないように思います。やはりある程度の数学が必要だと言われながら、それを教育課程の大学院レベルでもなかなか取り入れられていないのではと感じます。

【若山主査】重要なことだと思います。ほかに御質問等ございますでしょうか。

【西浦委員】例えば偏微分方程式を数学でやっていくというのは、ある程度の人口はいるんですよ。実際、日本数学会でいうと、関数方程式の分科会というのは、かなり大きな分科会で。問題はそこで何を皆さんがやっているのか。どういう前提で、どういう問題を数学としてやっていかなくちゃいけないかというところが、必ずしもちょっと外との、正にその今、堀先生はじめ御紹介いただいたような外とのインターフェースというのが、やや今のところは心もとないと。

 だから結構才能のトータル量としては、僕はそういう人口はある程度は古典的な物理学という範囲内でいる、人口はあると思うんだけれども、十分外に開かれていない。あるいは何が問題か、どういうことが面白くて困っているのかというところが、十分知らされていないという面はあると思います。だから、それが先ほど教育の問題はというふうに出たので、どういう形で提示すればいいのかというのはなかなか難しい問題ですけれども、もしうまく提示する場があって、しかも若い人がそれを興味を持つという形でされれば、ある程度の才能の一部はそこに流れていくだろうと期待されます。

 もう一つは、特に堀先生のときの地震の問題なんですけれども、数学を含めてサイエンスというのは、やはり繰り返し起こると。あるいはもう極端にいうと、その繰り返し起こることで検証も何らかの結果が得られたときに検証できると。だからそういう繰り返し起こるとか、あるいは単純な場合に結構帰着できるというのが、やっぱりサイエンスとして成り立つ。特に検証がそれによってちゃんとできるというときの一つのかぎだと思うんですけれども。実際の地震の問題は、どれ一つとっても、そういう再現性とか繰り返しやるとか、あるいはその実験でということは基本的にできない。ひょっとするともう数万年に1回だけのレアなイベントということになると、やはり数学者も含めてですけれども、サイエンティストにそういう問題をやらなくちゃいけないよという説得をするときに、非常に僕は難しい問題を抱えていると思うんですよ。だからそんなものできないよねというふうに、やっぱり普通はそれ数学の問題じゃないよねとなっちゃう面があるし、実際ちょっとなかなかサイエンスにはしにくい側面を持っていると思います。

 だけどもサイエンス全体のフロントを広げようとすると、やっぱりそれにどうアタックしていくかというのは、やっぱり考えなくちゃいけないわけで。それはやっぱり鷲尾先生や堀先生のように、いわゆるフロントのところで苦労されている方が、どういうふうに何を苦労されているかというのもメッセージが広がると、やはりそこにチャレンジングな人はやっていこうとするので。だからそういう何ていうかな、ジレンマですよね、ある意味で。サイエンスとしてやりたいんだけれども、なかなか。経済の問題もそうだと思うんですけれども。

【鷲尾教授】我々の分野でもまだ物理系出身の方もいるんですね。あと情報系出身の方と。そうするとアプローチとか問題意識が結構違う。カルチャーが違うので、こういったコミュニティーを作って一緒に共同研究をやるときも、最初お互いが考え方がなじむまでに結構時間がかかります。ですからやっぱり物理系と計算機とか情報系の人が全然元々バックグラウンドが違うので、多分同じことが数学系の先生方との間でも起こる、もしやるとすると。そうするとやっぱり、先ほどコメントありましたように、本当はもっと大学院レベルでせめてインターフェースになるような考え方の教育がお互いでできていれば、物理系、情報系、数学系の間で、すんなりコミュニティーをもっとうまく形成できるんだろうなという思いはあります。ただそれだけの現場に余裕があるかどうか分からないですけれども。やっぱりそれをいかにうまくコミュニティーに作ったときに、そのバリアを崩して一緒に仕事できるようにするかというところが、すごくいつも苦労するところで、また大事なところだろうなと思います。

【若山主査】ありがとうございます。

 ほかにございませんでしょうか。それでは時間も迫ってまいりました。今日は、堀先生と鷲尾先生に御講演いただきまして、最後には、教育というか、人材育成の話も出てまいりました。計算機が発達したからという先ほどの指摘もありますが、若い層で数学に対する関心が少し減ったというお話もありました。しかしまた数学が、むしろ計算機が発達してデータがたくさんある意味で見えてきたので、数学的な考え方というか、アルゴリズムというかそういうのがかえって重要になってきたということですね。数学の教育について考えることも、新しい出会いができる良い機会であるとも思えますので、これからもよろしくお願いいたします。先生方に頂戴いたしましたお話、御意見は、今後この委員会で議論していくための基礎として使わせていただきます。どうも今日はありがとうございました。

(両教授退席)

【若山主査】それでは今日の2番目の議題について、御議論いただきたいと思います。2番目の議題は、数学イノベーションに向けた今後の推進方策についてという議題ですけれども、お手元の資料3がございます。皆様御理解のとおり、この委員会の主たる目的というものは、今後の推進方策についてまとめていくということに大きな目標がございます。そのために今日は事務局の方で御準備いただいたんですけれども、そこには資料3にございますようなことを盛り込んでいきたいと。ただし、これから粟辻推進官に御説明いただきますが、この中に決定的に漏れているようなことがありましたら困りますし、いろいろな意味で御議論いただきたいと思っています。

 ある程度は、それぞれ項目に重複があることは、むしろ自然なことだと考えておりますので、その辺りのこともお含みいただきまして、後ほど議論をしてまいりたいと思っています。

 それでは資料3について、粟辻さんの方からお願いします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3に基づいて説明があった。

【若山主査】どうもありがとうございます。ただいまの内容について御意見、御質問等を頂きたいと思います。先ほども人材育成とか教育の問題にも入りましたが、それが非常に重要な問題であるということは私も痛感しておりますが、まず最初は、そこには余り踏み込まないで少し御意見御質問等頂戴できればと思います。まず、どなたからでも。

【杉原委員】よろしいですか。

【若山主査】はい。

【杉原委員】1の方のイノベーションが必要とされる背景のところの2番の重要性の高まりのところで、2番のところの一番上の丸のところは、これは一見さっと読むと何かデータマイニングの方法の開発みたいな文章になっちゃっているんですね、雰囲気的には。データがたくさん取れているというんで、計算機の発達等によって、複雑なモデルとか、高性能のモデリングが可能になったという話がある方がいいんじゃないかと思う、そういう丸があった方が。そして、そのためにはやっぱり、今までのような単純なモデルに対する数学じゃなくて、より高度な数学とか数理科学が必要になるんじゃないかという項目が一つあった方がいいんじゃないかと思います。

【粟辻融合領域研究推進官】  今の項目とは別にという感じでいいですか。

【杉原委員】分けた方がいいんじゃないかと思うんですけれども。それは議論していただきたいと思います。

【北川委員】それは私も賛成です。ついでに計算機性能というのが、ちょっと言葉が気になるんですが。やっぱり計算機の性能が上がったというのも非常に重要なことだけれども、これは先ほどの話を聞いていても、やはりセンサが発達してデータが大量かつ自動的に得られるようになったというのが大きいので、そこまで含まれるとやはりICTというか情報通信技術、そこをそういう形にした方がいいと思います。

【小谷委員】通信だけじゃなくて、いろいろな観測技術が非常に進んでいます。昔は観測できなかったものや、複雑な現象とかが見られるようになっているので、もう少し広く「テクノロジーが進んだ」というような形の方がいいのではないかという気がするので、昔は観測できなかったものも、本当に複雑な現象とか見られるようになっているので、もう少し広くテクノロジーが進んだというような形の方がいいのではないかという気がするんですが。

【西浦委員】最初の1ぽつのイノベーションの3番目なんですが、これまでにない新しい価値の創造とあるんですが、これはわざとそういう抽象的な言い方にしているのか、あるいは普通読むと、この「新しい価値」というのは具体的にどういう意味合いで述べているのか。つまり数学が持ついろいろな素晴らしい方法論であるとか、見方というのが、ほかの諸分野、産業にとって非常に価値があるという、そういうことなのか。そうじゃなくて数学と諸分野、インダストリーが融合して何か新しい価値を創造するという意味かというのが、ちょっとこれだけを読むとはっきりしないと。

 それからちょっとポイントだけ、議論の種をまく感じで申し訳ないですけれども、ポイントだけちょっと気付いたのをさっと言わせていただくと、2番のところで、今もう既に北川先生と杉原先生が指摘されたことにも深く関係するんですが、先ほど鷲尾先生のデータマイニングの話でも、結局その現場の人が欲しいというのは、やはり基礎理論が重要ということを非常に強調されていたので、その重要性の高まりというときに、逆に現場で案外必要とされているのは、ある種古典的な基礎理論、古典的なもの、あるいは最新のものも含めてですけれども、そういうしかし数学としての基礎理論が本当に必要とされている、再認識されているという、そういう欲求が結構実は高いかなというのは、改めて先ほど鷲尾先生の話を聞いて再認識させられました。そういう基礎理論の重要性というのは割と。ここに書かれているのは、ちょっとそれよりはもう少し現場寄りといいますか、具体的なテーマで書かれているんですけれども、そういう観点が重要性の高まりの後にあってもいいんじゃないかと。

 それから裏に行って現状の問題点の1ぽつの白丸の、物事を高度に抽象化することというのは、これも我々は別に全然不思議でも何でもなくてすぐに分かっちゃうんですが、数学者以外が読むときに、どうしても分かりにくくなるんだよねと思われると嫌なので、僕自身は全然これで数学者内だけで回すんであれば問題ないんですけれども、そこの抽象化というのは実は何ていうんでしょうか、コンセプチュアルな骨格ですよね。特に数学的構造という、そういうものがあるとすれば、何かそういう感じなので、その何かそういうコンセプチュアルというかジェネリックというか、日本でいうと何ていったらいいんでしょうか、そういう言葉で補足する方がいいのかなという。もちろんだから数学が実体からある程度距離を保たないと普遍性を持たないので、当然抽象化が入るのは不可避なんですけれども、ちょっとそういう印象を持ちました。

 それから問題点の2ぽつの仕組みに関わるイノベーションを生み出すために関わる問題なんですけれども、僕はやはりその自分自身でもこれまで感じていたことなんですが、仕組みに関わる問題のいろいろなことというのはすごい大変なことなので、これに評価が入ってないんですよ。そういう評価を数学のソサイエティーのみならず、数学外からもそういう評価をしてもらうために、きちっとそういうことをやる、特に若い人ですよね、に対する評価を何かこう一方できちっと軸を持ってないと、やはり鷲尾先生、堀先生の仕事を今日聞いていても大変な作業なので、そこに足を踏み込んでいく数学者、数理科学者、統計科学者というその大変さというのをやはり何か評価するという、その辺が何かちょっと支援として、そういうものがないとなかなかつらいのかなという感じがしました。すみません、ちょっと項目だけで。

【若山主査】ありがとうございます。私が責任を持ってお答えするということではないんですが、最初のこれまでにない新しい価値の創造って、確かにおっしゃるとおりで、ここで御議論いただきたいことです。それとともに関係することですが、様々な分野・産業への波及、成果の水平展開と、数学が普遍性があるというふうによく言われたりするわけです。それがより、数学のみならず、諸科学分野の研究の進化につながるというか、そういうふうなことも一緒に、単に水平展開ということや、汎用性があるというだけではなくて、盛り込んでいく必要があるかなというふうには思っています。

【西浦委員】実際大変なのは重々分かっているんですけれども。

【若山主査】それから先ほどの評価のことは、実は随分と一昨年度やりました委託研究、委託調査のときも、ここが大きな議論の対象になりました。それと、それからたまたまですが、今回数学会の会員でない方もいらっしゃるので御存じないと思いますがあれなんですけれども、「数学通信」にPenn Stateの数学と統計教室という私が知っているところとちょっと違うかもしれないんですけれども、正宗先生という方がお書きになっている数学というか科学、人材育成のための、「アメリカの国がやっていること」というのがありまして、それで産業界から見たときの数学の博士課程、博士号を持っているような人たちの重要性の中にやっぱり抽象化能力にたけているということが書いてあります。そして、そこは先生がおっしゃるようにコンセプチュアルな骨格というか、そういう補足をうまくすれば、割と理解していただけるようなことになるのかなと、私なりにお聞きして思ったことをちょっと発言させていただきました。

【北川委員】先ほど西浦先生が抽象化の問題をお話しされましたけれども、少なくとも我々統計では、これを物の見方と言っているんですね。ある意味で同じことなんだけれども、そうするとちょっと身近なんじゃないかなというふうに感じました。

【西浦委員】その今の北川先生の御指摘は、やはり数学イノベーションのこれまでにない新しい価値の創造の物の見方ということで当然入ってくるんですね。

【粟辻融合領域研究推進官】 このように新しい価値の創造と書いたのは、いわゆる個別の、例えば今日御紹介があったような個別のいろいろな課題がございましたね。もっと数学の力を使えばもっとうまくいくとか、あるいは最先端の、例えば離散数学の研究者ともっとディスカッションすれば、もっと新しい方法があるんじゃないかというような、つまり個別の何か困っている課題を解決するということだけじゃなくて、それが数学と他分野との交流を持つことによって、これまでにない新しいものが何か生まれてくるということを一応イメージして書いているつもりです。つまり個別の課題の背景のところは、この前のところに書いてあって、それを少し超えたようなものも目指す、それが具体的に何なのかというとあれですが、目指すべきではないかということで、新しい価値の創造というような形で書いているつもりです。

 それから最後あった抽象化のところなんですけれども、何か高度に抽象化なんて書くと、ちょっと近寄りにくいというようなイメージを与えてしまうかもしれないので、そこはちょっと表現ぶりを何か工夫しなければいけない。先ほど北川先生がおっしゃったように新しい観点、新しい物の見方とか、新しい視点の提供とか、もう少しなじみのあるような表現が必要かなという気はしますけれども。何かの数学イノベーションのキャッチフレーズになるものが何かあれば、ここに書いて外部からも認識しやすくて、かつ理解もしやすいというようなものがあれば、ここに入れてもいいのかなとは思っています。

【若山主査】第1回のときに、最初に少しだけお話ししましたように、今日の資料の裏の方で、その他、研究に必要な基盤的事項に関わる問題というのを、余り見えないように書いてあるようですけれども、実際にはこの報告書が今後の、例えば、概算要求であるとか、そういうところに反映されていくということです。それの根拠になるものになりますので、そういう意味では数学・数理科学に非常に近い方のみに分かれば良いというのではなく、やはりキャッチフレーズとさっき粟辻さんおっしゃいましたけれども、そういう面も少し重要だと考えています。

 本格的議論は必要ですし、時間の関係もありますけれども、今日は事務局から御案内しましたように、少し延長して御議論いただくということになっています。あと20分弱はございますので、御議論をお願いします。

【森委員】現状の問題点の1の最後の行の「課題の発掘、研究テーマの抽出」ということに関係しているんですけれども、さっきの鷲尾先生の話を伺っていて思ったのは、私は数学者だから問題は与えられると考えるんですけれども、漠然とした話があると焦点が定まらず、ないと思考は全く進まないことが多いです。だからそういう意味でいうと、何か問題集ができるといいかなと思ったんですけれども。さっきの劣モジュラ関数の最大化ですか。あれはよく知られていることかもしれないけれども、それにしてもそれが問題としてどこかにきちっと出ていると、若い人がそれを解こうとするとか、何かそのいろいろな分野でのこういうのは問題だというのをちゃんと提示していくことが、意味があるのかなと思うんですけれども。

 ですから、これは現状の問題点というよりは、推進方策のどこかに入るのかもしれないけれども。だからいろいろなところで、そういう分野ごとに何か問題点が出るといいかなと。

【若山主査】やっぱり問題点をちゃんと正しくフォーミュレートできるというのがやっぱり一番。

【森委員】そう、それは難しいけれども。それでも非常に漠然としたものでもいいから、一旦出るとそれを更に精密化するという土台になるので、何か出るといいかなという気はしますけれども。今回のお話は、いずれも大変魅力的で引き込まれました。だから私のような数学者は問題集が欲しい、という過度な期待を持つのかもしれません。

【大島委員】  よろしいですか。

【若山主査】 はい、どうぞ。

【大島委員】 多分この2の現状問題での2ぽつの数学イノベーションを生み出す仕組みの問題に関連すると思いますが、鷲尾先生のお話にも出てきたように、ニーズとしては先ほど出た具体的にどういう問題かは特定できないにしても、数学に関わる問題点は、個別の分野としていろいろあると思います。しかし、この背景にも書いてありますように、研究は課題解決型になっているため、研究ごとの問題としての狭い枠組みになっているようなところがあります。最後に鷲尾先生がおっしゃっていましたが、こういう問題があるが、数学者が興味を持つか、それにメリットを感じるかということを非常に危惧されていました。どの分野の人もそのように感じていて、自分たちとしてこのようなニーズがあり、こういう問題があるが、それらに数理科学や数学の分野の人が興味を持って一緒に研究をしていくということにつながるのか、多分お互いにつかめないでいる。そのため交流の場を作らなければならないという話、2ぽつの白丸の黒ダイヤの2番目に、出会いの場、議論の場というものが不足していると書いてあります。多分やはりもう少し数学者、数学の立場で興味を持つテーマも、入れた方がいいのではないかと思います。問題解決型の産業や工学関係の人が考えているテーマであって、これを見ただけで数学・数理科学の方が興味を持つのかなという点で疑問に思いました。私は数学の立場ではないので、その点についてお聞きしたいと思います。このことだけですと多分興味を持たれず、出会いの場を設けても参加しないのではないかという感じがします。

【若山主査】 そういう面もあるかもしれないですが、ちょっと私ばかり発言するのはあれなのですけれども、九州大学が4月にマス・フォア・インダストリ研究所というのを立ち上げましたが、やはりその中にいる数学者は、それまでと人がばっと変わったかというと、全く変わっていないわけです。同じ人が入って、徐々にそういう意識が高まってきてなんですけれども、やはり面白い興味を持って何かその問題の定式化からやろうとする人が出てきてはいますので、むしろ先ほど西浦先生から御指摘ありましたこの支援というか、評価というか、そういうものも添えて一緒にやっていくと、前には大きくは進めないかもしれないですけれども、確実に進むと私などは考えています。

【大島委員】 すみません、言い方が悪かったかもしれません。もう少し数学者や数理科学の分野の方にもアピールするような、具体的な参考を入れてもいいのではないかなと思いました。どちらかというと本当に産業・工学の分野に立ち過ぎているような印象を受けます。数学イノベーションということは、多分工学的な立場の方から出るだけではやはり成り立たず、双方から出るものなので、もう少し数学・数理科学の方の観点が入ってもいいのではないかと思いました。

【若山主査】ありがとうございます。

【北川委員】数学イノベーションという言葉自体ちょっと気を付けておいた方がいいように思うんです。つまり情報科学でも、by IT、of ITと言われて、要するに数学のイノベーションなのか、数学によるイノベーションなのか。両方関連はしているけれどもある程度使い分けておいた方が良いと思います。この報告書を作るとすれば両方取り上げることになるんだけれども、やっぱり使うときに混在している感じがするんですね。だからそこをある程度意識して書いていただいた方がいいんじゃないかと思います。

【若山主査】ありがとうございます。ほかに御意見。

【青木委員】 今のにまた関連していると思うんですけれども、この数学者と他分野の出会いの場で、相互というのは非常に大事だと思うんですけれども、これもさっきの両先生の話を伺って思ったんですけれども、両先生はある程度数学は何ができるかというイメージがおありなんですよね。それだからここまでわざわざ出掛けてきてくださるので。すみません、表現が変ですけれども。ということは、数学者があっちの問題を理解するのも大事ですけれども、こういったある程度基礎の啓もう活動というんですか、そういうのをやる場としても、こういうところを利用できるのではないかなと思ったんですけれども。

【若山主査】ほかにございませんでしょうか。

【安生委員】私は今日唯一の産業界からの参加者です。つい最近CEDECというコンピューター・エンターテインメント・ディベロップメント関係の国内会議がありました。主にゲーム制作者、エンジニアとゲームそのもののコンテンツを作る方が集まるイベントです。私は、CEDECを主催しているCESAのアドバイザリーボードをやらせていただいています。その関係で、今年のCEDECでは、「マス・フォア・ザ・ゲーム・インダストリ」という、Co-Locatedイベントというのを初めてやりました。元々はCEDECの参加者が数学に対する興味のある人が多いということは聞いていましたし、私も過去のイベントを通じて感じておりました。ただ、このCo-Locatedイベントの企画が急きょ持ち上がったこともあり、宣伝もなかなか行き届かないまま当日を迎えました。一応120名の方のキャパの部屋を用意し、ゲーム業界で今ニーズの高そうなテーマを選んで、九州大の福本先生と田上先生にそれぞれ流体と数値解析の講演をお願いし、さらに、ゲーム業界のビジネス面に関するパネル討論を行う、というプログラムを用意しました。事前予約が15名にも満たない状況だったのですが、ふたを開けてみると会場は八、九十人も来る結果になりました。当日参加者向けに配布された講演プログラムの情報だけで、これだけの人が集まってきたのです。講演してくださった先生方も非常に喜んでいただいことも良かったですし、実際に直接議論する場を設けられたので、参加者と講演者がかなりいろいろな意味で近づく場になりました。もちろんこの分野だけではなく様々な分野で行われているとは思いますが、実際にやってみて数学に対する意識の高い分野が多いと思いますので、各分野のニーズをうまくつかめば、具体化するのは意外と難しくないのではないかと思いました。

【小谷委員】 今の数学の中でも、他分野との出会いで新しい刺激を受けたいという機運が結構高まっているので、そのような出会いの場があれば、割と人は来ると思います。

【安生委員】そうですよね。

【小谷委員】 ただそこから先どうやって進めていくかという、その次の具体的研究推進への支援が不足しているというところが、一番問題なんじゃないかと思うんです。私は東北大学で他分野の人との出会いの場として「応用数学連携フォーラム」を開催していて、みんな来ると面白いといって質問を一杯して、これは共同研究になりそうだなと思うんだけれども、実際にはなかなか進まない。そこからどうやって限られた資源、限られた時間をうまくそちらに持っていくのか、その具体的支援とか、インセンティブとか、そういうものがないとなかなか進まないんじゃないかと思います。

【若山主査】 冒頭に教育というか、人材育成のことには余り踏み込まないでお話しいただきたいということを申し上げたわけですけれども、そしてやはり今から教育の話をしようというわけではございませんが、やはり関連しますので、そのことも含めてお考えを頂ければと思います。余り時間がございませんが、御発言お願いします。

【青木委員】質問なんですけれども、評価と関連するんですけれども、経済学だとよくほかの分野の人と一緒にやって、そういう成果というのを面白いことができたんだけれども、どっちの分野にも評価されないおそれがあるんですよね。報告する適当な学術誌がなかったり、そういう問題というのは、そういうおそれというのはあり得るんですか。数学の先生がこういう企業と組んで何かやったときに。

【若山主査】例示としては、例えば数学の人とそれから産業界の人が論文を書けたとしましょう。表に出すことができたとしましょう。そのときでも例えば制御関係の話が具体的にあったんですけれども、制御の論文にそのまま出すと、それはその論文だと数学的過ぎる。

【青木委員】ええ、そうなんです。

【若山主査】だから駄目だと言われて、そして数学の雑誌に出そうとすると、それは数学かなと言われて。そういうことは実際にあります。

【青木委員】そう。やはり。海外ではそういう専門の雑誌とかあるんですか。海外での国際雑誌での話なんですか、今の話は。

【若山主査】海外でもやはり少ないということは事実です。そんなこともございまして、また自分たちのことを言うのはあれですけれども、雑誌を創刊したということがあります。

【青木委員】なるほど。

【北川委員】我々がいろいろな分野の人と共同研究すると、やはり、例えば統計と地震で共同研究をやると、統計的な話については統計の人が書いて統計のところに連名で出すと。逆に地震の方はそちらの人が書いて出すということで、内容的にはかなり全く違うような書き方をしないと、どちらにも通らないですね。

【青木委員】なるほど、ええ。

【北川委員】それと実際の特に生物とか発見系のところとの共同研究の問題というのは、何というか査読とか出版のタイムコンスタントが全く違って、数学も多分そうだと思うんですが、統計なんか査読に1年以上かけて、アクセプトされてから出版まで更に1年かかるのが普通です。だけど生物の人に言わせると、何かアクセプトされてから一月以内に出ないなんてとんでもないという感じです。だから面白い発見があったらその統計の方に出そうなんて言って、ちょっと無理なんですよね。その辺の問題があるんだと思います。

【若山主査】ほかにございますでしょうか。

【小谷委員】今の人材の不足と書かれていますけれども、人材の不足プラス、キャリアパスの不足ということもあります。今の論文の問題は、既に職を得た研究者の業績がどうだという話ですけれども、例えば修士、博士の学生にこういうことやったらと勧めるときに、その人たちのその後のキャリアパスというのがないと勧められないし、やはりなかなか新しい学問分野の創設というふうにはならないんじゃないでしょうか。今の論文のようなことであれば既にエスタブリッシュした研究者が業績がどうだという話ですけれども、新しく例えば修士、博士の学生にこういうことやったらといったときに、その人たちのその後のキャリアパスというのがないと、やはりなかなか新しい学問分野の創設というふうにはならないんじゃないか。

 これは数学と他分野ということだけでなく、今、融合型の研究が大切と世界中で言われていますけれども、なかなか進まないのはそのキャリアパスの問題が大きいんじゃないでしょうか。

【大島委員】アメリカでは、ライフサイエンス系に統計関係やコンピューターシミュレーション関係の方も入ってきて、チームとして研究している例がNIHや様々な研究所であります。やはりそういう仕組みというのは日本ではどうしても作りにくくて、今おっしゃったようなキャリアパスの問題は出てきますね。

【若山主査】特に博士課程の学生に関するキャリアパスというのは数学に限らずだと思うんですけれども。

【大島委員】そうですね。

【若山主査】数学に関しては決定的にアメリカとかヨーロッパとは違うような感じがいたします。2006年にこちらの文科省の科学技術政策研究所から出た「忘れられた科学-数学」というレポートが出たわけですけれども、その中で産業界にしても諸科学にしても、いわゆるチームで研究するということが多いと。というかそれが普通であると。そうしたときに、その中に数学をバックグラウンドとする研究者は必要かどうかというアンケートを国際的にもお取りになって、日本国内でもお取りになって、その際に日本でもどこでも現場の研究者、研究チームからいうと6割5分から7割ぐらいのところがやはり数学をバックグラウンドにする人がいるべきだと、欲しいという結果が出たんですけれども、欧米では大体それが実現している。しかしながら日本ではそのときに25パーセントぐらいしか実現していないと。そういう結果は出ています。

 ほかにございませんでしょうか。

  もちろん報告書を実際に執筆して、そのときに新たに生まれてくる問題というか、それから整理の仕方というのもすごく大事になってくると思います。一般的にはこういう報告書というのが、参考資料はたくさんついても良いようですけれども、読んでいただかないことにはどうにもならないので、100ページの報告書を作るわけにはいきません。そういうこともちょっと念頭に置いていただきたいんですけれども。こういう項目を含めて今日御審議いただいた内容を基に資料を再度作成し、また引き続きそれに対する御議論を頂きたいと考えています。

 まだ予定しました時間がちょっとだけございますので、何か最後に、次のために、将来のために発言しておいた方が良いということがございましたら御発言ください。

【北川委員】今日来られた二人の方は非常に面白くて良かったなと思っていますが、今後は何か考えられていますか。

【粟辻融合領域研究推進官】 次回以降、今日のように2名程度ずつお呼びしてお話を伺いたいと思っています。具体的な人選はちょっとまだなんですけれども、例えば今の資料3の方の1ページ目のところの真ん中辺の1ぽつの1の数学イノベーションのところの参考に書いてありますように、グリーンですとかライフですとかいったものが科学技術基本計画の2大イノベーションとして位置付けられていますので、例えば環境系の方とかあるいはライフサイエンス系の方なんかが候補になるのかなと思っていますので。ちょっと具体的な人選は今行っていますけれども、次回、次々回には今日のような形でお呼びしようと思っております。何かこういう分野の方がいいとか、あるいはこういう分野の人、こういう人の話を聞くとすごく参考になるとかいうのがありましたら、また事務局の方まで教えていただければ、参考にさせていただきます。

【若山主査】よろしいでしょうか。それでは特に御意見ございませんということで、今日のところはですね。最後に事務局から連絡事項についてお願いしたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官から今後の予定について説明があった。

【若山主査】よろしいですか。どうもそれでは本日の数学イノベーション委員会はこれで閉会させていただきます。どうもありがとうございました。

 

―― 了 ――

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