数学イノベーション委員会(第1回) 議事録

1.日時

平成23年6月30日(木曜日)13時~15時

2.場所

新霞が関ビルLB階 201D号室(科学技術政策研究所会議室)

3.議題

  1. 数学イノベーション委員会運営規則について
  2. 数学・数理科学と諸科学・産業との連携の状況報告と数学イノベーション委員会で議論する論点について
  3. 数学イノベーション推進に必要な施策について
  4. 東日本大震災を踏まえた今後取り組むべき重要研究課題について
  5. その他

4.出席者

委員

若山主査、安生委員、北川委員、小谷委員、杉原委員、中川委員、西浦委員、宮岡委員、森委員

文部科学省

倉持研究振興局長、戸渡大臣官房審議官(研究振興局担当)、永山振興企画課長、内丸基礎研究振興課長、粟辻基礎研究振興課融合領域研究推進官

5.議事録

【粟辻融合領域研究推進官】定刻になりましたので、第1回の数学イノベーション委員会を開催させていただきたいと思います。本日はお暑い中、お集まりいただきありがとうございます。私、この事務局を務めます、文科省研究振興局基礎研究振興課融合領域研究推進官の粟辻と申します。主査が指名されるまでの間、私が進行を務めさせていただきます。

 まず最初に事務局の紹介をさせていただきたいと思います。当局の研究振興局長の倉持でございます。

【倉持研究振興局長】倉持でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【粟辻融合領域研究推進官】研究振興局担当審議官の戸渡でございます。

【戸渡官房審議官】戸渡でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】基礎研究振興課長の内丸でございます。

【内丸基礎研究振興課長】内丸でございます。よろしくお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】私、粟辻でございます。

 それで、最初にまず、委員の先生方の紹介をさせていただきたいと思います。お配りしております資料の議事次第の次に、この委員会の委員の先生方の名簿が付いております。本日はこの中の大島まり先生と青木玲子先生が、所用のため御欠席という御連絡を頂いております。それでは、私の方から、簡単に紹介させていただきます。安生委員でございます。

【安生委員】安生です。デジタル映像制作をやっている会社で研究開発をしています。よろしくお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】  よろしくお願いいたします。北川先生。

【北川委員】北川です。よろしくお願いします。専門は統計数理ですけれども、4月から情報・システム研究機構の本部の方に移りました。よろしくお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】  小谷先生。

【小谷委員】東北大学の小谷です。よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】杉原先生。

【杉原委員】杉原でございます。どうぞよろしくお願いします。専門は数値計算をやっております。私の出身は、鳩山元首相の出身の学科で、かつ研究室も卒論が全く同じという巡り合わせですが、よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】若山先生、お願いします。

【若山主査】九州大学の若山です。新設されましたマス・フォア・インダストリ研究所におります。専門は表現論とか解析数論数学をやっています。どうぞよろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】中川委員、お願いします。

【中川委員】新日本製鐵株式会社の中川と申します。ものづくりの現場への数学の応用に関する研究をしています。よろしくお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】西浦先生、お願いします。

【西浦委員】北海道大学の西浦と申します。非線形、非平衡の数学的な理論をやっています。現在はJSTの数学領域の総括もやらせていただいていまして、非常に若手の数学者の意識というのは変わりつつというのを時々刻々見ている立場から、この委員会、その辺の現状も是非お伝えできるようにしたいと思っています。よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】宮岡先生、お願いします。

【宮岡委員】東京大学の宮岡でございます。専門は代数幾何(きか)ですが、今は日本数学会の理事長になっております。よろしくお願いいたします。

【粟辻融合領域研究推進官】森先生、お願いします。

【森委員】京都大学の数理解析研究所の森重文と申します。よろしくお願いします。私自身専門は、宮岡さんと同じ代数幾何(きか)で、ほとんど何の役にも立てないのではないかと思いますけれども、数学というのは、応用から純粋まで幅広いので、端っこの、純粋数学の端っこの方から、応援しているぞという意味で、ここに参加させていただいております。よろしくお願いします。

【粟辻融合領域研究推進官】ありがとうございます。それでは、研究振興局長の倉持の方から、一言御挨拶をさせていただきます。

【倉持研究振興局長】この数学イノベーション委員会の第1回会合ということで、一言御挨拶させていただきます。本当に、まずもって、大変お忙しい中、この委員会の委員をお引き受けいただきまして、また今日大変お暑い中、お集まりいただきまして、心より御礼(おんれい)申し上げたいと思います。この科学技術政策といいますか、第4期に、本来ですとこの4月から入っておりますけれども、大震災がございまして、いろいろ震災を踏まえた見直しというのが、総合科学技術会議で行われているところでございますけれども、いずれにしましても、今までは、とにかく分野、分野と言ってきた科学技術振興政策を課題解決ということと、その課題解決を図る上での基盤の充実、もう一回その足腰をしっかり見直して、サイエンスから先端テクノロジーまでのそういった部分をしっかりと取り組む、日本らしい強さというものを作っていこうと、そういう考え方が出てきておりまして、今見直し中ですけれども、8月には閣議決定に持っていきたい、こういうことで作業を進めているところでございます。そういった流れを受けまして、私ども文科省でも、多少組織も変えまして、かつ科学技術・学術審議会の中でも、先端研究基盤部会というのを設けまして、どういった視点で議論を進めていこうかと。その中で、この数学の問題につきましては、振り返りますと、ここ数年間、非常に重要だけど、どういうふうに考えていったらいいのかというのが、いろいろ悩みながらと言ってはいけませんけれども、いろんな方の御意見を伺いながら、本当にそこを担っておられる方々の御意見とかを伺いながら、そういった、最も基本となるような分野の科学、あるいはそこでの考え方、性格というものを、それ以外の科学技術にどういうふうに結び付けるか、そういったところについて、やはり少し本腰を入れて考えていかなければいけないと。そういうことで、名前は「数学イノベーション委員会」ということで、ちょっと名前というのは、世にインパクトも与えたいということでこういうことになっておりますけれども、気持ちとしてはそういうことを思っております。

 基礎研究振興課というものがこの4月に発足いたしましたけれども、ちょっとその前から、そこに数学イノベーションユニットも作りまして、こういう分野の本当の議論を深めながら、これからそういう日本の基盤の強化にどういうふうに考えていったらいいのかということを御検討いただき、必要な政策につなげていきたいと、こう考えておるところでございます。

 やや海図のない航海になるかもしれませんけれども、是非また先生方のリーダーシップでお導きいただけますようにお願いを申し上げまして、御礼(おんれい)を込めて、これから本当に忌たんのない御意見を伺いたいということでお願いを申し上げまして、私からの御挨拶とさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。

【粟辻融合領域研究推進官】 ありがとうございます。それでは、本委員会の主査でございますけれども、本委員会の上部組織であります、先端研究基盤部会の運営規則というものが既に決まっておりまして、それが参考資料1-1の第2条の3項にありますように、部会長の指名する者がこれに当たるというふうに定められております。

 先端研究基盤部会の部会長である有川先生の方から、若山委員が主査に既に指名されております。したがいまして、これからの進行につきましては、若山委員にお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【若山主査】本委員会の主査に指名されました若山です。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、まずこの参考資料の1-1にもございますが、第2条の第7項にありますように、主査代理の指名をしておかなければなりません。それは委員会の主査に事故があったときには、当該委員会の属する委員のうち、主査があらかじめ指名する者が、その職務を代理するというふうに規定されております。

○科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 運営規則第2条第7項に基づき、若山主査が森委員を主査代理に指名した。

【若山主査】それでは再開いたします。まず議題に入りたいと思いますが、最初の議題は運営規則についてです。事務局より御説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料1-1、1-2に基づき説明があった。

【若山主査】 どうもありがとうございます。大体上部規則をそのまま下ろしたものですけれども。特に小委員会は、今のところ設置するということは余り考えておりませんけれども、小委員会は設置できるということ、定足数があるということ、それから欠席規定ですね、それから会議の公開、今御説明ありましたように、人事に関わる案件以外は主に公開としたいということ、それから議事録を作成するということ、そういうことであります。

 特にここで、通常ですと、想像されるような決議をするということはないかと考えておりますので、そういう部分はございません。ただ、報告書を作ったりということはあるかとお考えいただければと思います。

 それでは、以上の資料1-2のとおり、本委員会の運営規則を決めたいと思いますけれども、何か御質問、コメント等ございましたら、お願いいたします。よろしいでしょうか。

 それでは、特にございませんようですので、本委員会の運営規則を決定したいと思います。

 さて、本題の方にまいりたいと思います。議題2です。数学・数理科学と諸科学・産業との連携の状況報告と数学イノベーション委員会で議論する論点についてというタイトルで、事務局に資料を準備していただきました。まずは資料2-1、2-2、2-3について、事務局より説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料2-1~2-3に基づき説明があった。

【若山主査】どうもありがとうございました。ただいまの御説明の内容について、御質問等もあるかと思いますが、御意見等もお持ちだと思います。どこから意見を言うべきか、なかなか難しいところもたくさんありますけれども、お一人2分ぐらいを目安に御意見を出していただければと思っています。どういう順番というのは特に決めておりませんけれども、座っている順番ということで、安生さんの方から。幾つかのポイントがありますので、どこからでも。

【安生委員】いろんなテーマがあるので、ちょっとそれぞれについてきっちりした意見はまだぱっとすぐには言えないのですけれども、ただ少し気になっていたのは、現状についての資料、今まとめていただいた一番最後に、「数学イノベーションに向けた取組」の中で、一番最後にある水平展開についてというのがあって、やっぱり数学の、私自身から見て数学の一番最も威力のあるところと思えるのは、そういう他分野に展開できるという普遍性です。手法的なものや、抽象的な部分もあるので、一口に展開すると言っても、分野によってその方法は異なるとは思います。そういう活用することができるということも、なかなか他分野の人は、何かある分野を、例えば、私の場合は私だったら映像制作の分野におりますけれども、自分自身が学んだ範囲、見聞きした範囲でやってみたり、自分の中ではある程度そしゃくして数学を使ってみる。でも、それはほかの分野だと、例えば当たり前だったりとか、あるいはこの分野は使えるかもしれないなどという、議論なり技術なりを相互干渉させるようなそういう場というのを仮に作ろうとしたときに、この委員会ではどこまで、それをお膳立てするというのか、そういうものをやりやすくするというのはできるのかについて、この会議の中で何かそういうことに対してうまいアイデアを出して、うまく伝え、実際のいろんな各分野の幅広い人々に伝えていけるようになるんでしょうかというのが、率直な意見、感想です。

【若山主査】基本的には、次の題に、三つ目、四つ目の議題にもありますけれども、来年度の概算要求というようなことにも関わってまいりますし、しかし、その概算要求をするということは、やはり要求をするんですから、それなりの説得力と、それからもう一つはやはりそこが非常に大事なんだということが分かるようにする必要がある。そして実現可能であるということも分かるというふうなものを、ここから生み出していければと抽象的には思っていますけれども、それが大事なところだと思います。

【安生委員】で、その後と言いますか、そういうことがあると、逆にまた数学側にフィードバックするのではないかと思います。産業と関わることで数学にとっての意味の、逆に数学側へのリテールというか、新しいテーマが出てくるというのは、そういう数学と様々な産業界との密接で活発な活動をやらないと、出てこないような気がするんですよね。ある分野で数学が使われても、それだけで終わってしまうような気もするので。

【若山主査】そうですね。一方的に何か進んでぱっと行ってしまうということはないと思いますので。ありがとうございます。

【北川委員】いろいろあるんですけれども、資料2-1に関して、ちょっと気が付いたことを簡単に二つと、それから2-2の方でちょっと大事だと思うことをお話ししたい。

 まず、この2ページ、グラフ絵を示していただいて、まあ事務局は大変ですが、これを我々が見ると、右の方でやっぱり重要な、微妙な動きをしているので、是非新しい、データで更新してほしいと思います。2007年の資料で、3年移動平均という、ちょっと古い手法を使っているので、2004年までのデータしかない。しかし、最近どうなっているかを知るには右の方がやっぱりこれは大事ですよね、最近どうなっているか。

 それから、あと、3ページとか6ページ辺りで、いろんな取組を書かれていますが、統計数理研究所というのは、大学共同利用機関なんですね。よく言われているのは、これは文部科学省が世界に誇るべき共同利用のシステムとして作ってきたと。それは大学の研究者に開かれた共同研究のシステムで、特に統計数理研究所の場合、コミュニティーといっても、いわゆる同じ専門、同じ分類、同業者との共同研究というのは3分の1以下で、残りは全てそれ以外の研究者ですから、産業界はともかく、諸科学との交流は活発です。そういうのは旧文部省が自ら昔作った組織としてあるということで、その辺はやっぱりちょっと忘れないで書いていただければと思います。

 それから三つ目が、資料2-2の検討課題についてです。これ自身は大変結構だと思うんですが、やはりこの委員会は、数学イノベーション委員会で、さっき見た資料だと、このイノベーションというのは、数学を使った諸科学とか産業のイノベーションという意味が強いようですが、やはり数学自身のイノベーションも不可欠だと思うんですね。そうすると、何かこの1、2、3と淡々とやって済むものではないのではないかと私は思います。

 結局、現代社会とか現代の科学における数学の役割というところをまずある程度議論して、その上でどういう課題があるかとか、どういう組織を考えたらいいかとか、体制ですね、そういうことをやっていった方がいいんじゃないかと思うんですね。というのは、従来、昔の数学で、一番成功したのは物理の世界だと思うんですけれども、その後、生物だとか経済だとか発展して、さらには、もう現在は情報のサイバーの世界になっています。このように、対象自体が変わっているので、そういうところで、本当に新たに役に立つというところを見つけていく必要がある。それから、シミュレーションというのがよく出てきますけれども、それに代表されるように、20世紀の後半以降、ICTが非常に発達しているということで、新しい数学としてもそれを使った部分というのがどうしても必要になっています。その辺も押さえておく必要があるんだろうと。

 それから、今回の大震災を想定する必要があるという話でしたけれども、そういう点からいうと、やはり一番問題になっているのは、「想定外」という言葉が出てきているわけですね。数学というのはどうしてもモデルだとか構造を仮定して、演えき的にやっていくというときに、それではうまくいかなかったところがあらわになってしまったわけで、それに対してやっぱり数学としてどういうふうに考えていくかというのは、極めて重要なところだと思います。

 統計の場合というのは、例えば科学の文法を考えて、極値とかリスクの問題をやっていたけれども、それでも駄目だったわけですよね。それを更に超えた想定外のことが起こってしまった。それでもやっぱり数学は「そこはお手上げです」というのでは駄目で、やはりそこも考えていく、「そこ」まで対処する必要があります。そういう意味で、ちょっと原点から考えた方がいいのではないかというのが私の感想です。

【若山主査】 ありがとうございます。それではお願いします。

【小谷委員】 今、北川先生が御指摘くださったこと、とても大切だと思います。数学でよく我々が常々主張していることというのは、数学の方の長い歴史、豊かな数学の蓄積があって、初めてイノベーションというのが生まれるということだと思いますが、それではどうやったらイノベーションにつながるのか、この委員会ではしっかり検討すべきと思います。質問にもなるんですが、これ、ひょっとしたら日本数学会の理事長の宮岡先生からコメントいただく方がよろしいのかとは思いますが、例えば日本数学会が数学・数理科学のロードマップというものを作りました。数学にはどのような分野があり、長い歴史があって、それらが社会とどう関わってきたかというロードマップ、また数学と、そういう数学イノベーションというものがどういう関わりを持ち、数学イノベーションに向かうにはどのような課題があるかなどを、ロードマップにまとめました。この委員会での検討の参考にしていただけると思います。そのような資料をこちらに提出することはできるのでしょうか。皆さんいろんな資料をお持ちだと思いますので、委員から資料を提出することが可能か伺います。

それからあともう一つ、震災の影響に関しましても、日本数学会理事会が声明を出しております。今回の震災に対して、特に数学が関わる最も大切なことは、数学的リテラシーについて、例えば、初等中等教育から始まる論理的な思考訓練やリスク管理能力の向上など、数学教育の充実が大切であると主張しています。このような経済状況の中で、イノベーションといったときに、非常に短期的なイノベーションを求める傾向に走りがちで、そのことを非常に危惧しております。こういうときだからこそ、基盤をしっかりし、本当の意味でのブレークスルーを生み出すために何が必要かということを、この委員会で議論していくべきだと思います。

 もう一点質問です。これは安生先生の質問とも関係するんですが、この委員会の目的としまして、重要研究課題を第4回でまとめるということですが、その報告がどこに、どのように反映されていくのか教えていただけますでしょうか。

【若山主査】 後者については、私からよりは、事務局からお答えいただけませんでしょうか。

【粟辻融合領域研究推進官】 まず資料の件なんですけれども、私ども、先ほどもおっしゃった数学会のロードマップも含めて、この審議に非常に参考になるような資料であれば、当然出していただいて、それを元に議論するのは非常に有益だと思いますので、出していただければ結構だと思います。

 ちょっと1点だけ申し上げておきますと、この委員会、当然公開の場でございますので、資料につきましても同じ扱いになりますので、その差し支えさえなければ、議論の参考になるものであれば、事前に我々に相談していただければ、参考資料として出すことは当然可能でございます。

【小谷委員】はい。ありがとうございます。

【若山主査】大事な御指摘をありがとうございます。本当に短期的なこと、長期的な視点ということはいつも重要ですが、そこといかに、短期的にやるべきこと、長期的にやるべきことを頭に置きながら、それをお互いに背反するものだと捉えないで考えていければいいのかなと。言うは易し、実際には難しいことですけれども、そんなふうには思っております。

 それでは、杉原先生、お願いできますか。

【杉原委員】はい。多分、このメンバーの中では工学系に関係するのは、私だけではないかと思いますけれども、数学・数理科学に関して、この場が割と数学を中心にしてしまっているのに違和感を実は感じている部分があります。海外の場合なんかで数学といった場合には、かなり広い、統計も完全に数学に入っているし、我々数理工学の最適化の話も全部入っているし、世の中で役に立つといったときのすそ野の広さでいうと、多分その辺りのかなり広い部分をカバーしないと、世の中に大きく役立っていかないんじゃないかというところを感じています。

 確かにいろいろ予算を取ったり何かするときに、イノベーションだとかいうような言葉を使わないと、要するに新規性を出さないと、予算を取れないというのもよく分かるんですけれども、まずその辺りのすそ野をきちんと固めていくという必要性もあるということをちょっと申し上げておきたいと思います。

 すそ野の分野においてさえ、なかなか世の中全体には行き渡っていなくて、産業界、諸科学からのフィードバックと、かつ、その分野での発展とが両輪として回って発展していくというようなところも、まだまだの部分があります。数学のコアのところが発展すれば、もっと大きなインパクトはあると思いますけれども、そういうすそ野を含めた形で、全体として数学が、広い意味での数学がどんどん大きくなっていくことに、この委員会がコントリビュートできれば一番いいなというのが私の思いです。

 それからあと、震災の話に関連して少し。いろいろ話を聞いてみますと、例えば情報関係でツイッターが良かったとかいうことが言われていますけれども、実はあのバックで、何もなしでツイッターの電波とかが届くはずはなくて、実はどんどん線が切れたんです。それをNTTの人たちが、次から次へと立て直して、その線をどんどんつないだおかげでツイッターがうまく動いていたという事実があるんです。線をつないでいた人たちのことを無視して、情報関係は震災に強かったといわれていますけれども、情報だけあったって無理なんです。やっぱりそこにつなぐ線があったからこそやはり良くて。このことからも分かるように、一概に表面的なことだけで言わないで、やはりその辺り、実際の現場の事実を知った上で、話を進めていかなければいけないということも1点、今思っています。

【若山主査】どうもありがとうございます。それでは、中川さん。

【中川委員】私のベースも工学です。1つ工学と数学と産業の全部に関わっています。数学イノベーションとは何かという解釈ですが、私の中ではイノベーションというのは二つあって、一つは技術イノベーション。数学をベースにして、数学が、例えば企業の場合ですと、製造現場を変えていくというような技術開発に関わるイノベーション。もう一つは、ビジネスモデルのイノベーション。これは数学をコアにして、仕事のやり方を変えていく。具体的にはアカデミア及び製造現場から、双方から知恵を引き出すような仕組みづくり。その中には人材育成、コミュニケーションの仕方等、いろんなものが入ると思います。両方のイノベーションが私は必要だと考えております。

 あとは数学の役割ですが、私のこれまでの経験からは、工学とか物理の方法論はどちらかというと実験。数値シミュレーションも一応数値実験ですね。実験結果に基づいて、そこからルールを見いだしてくるような帰納法的な方法論がベースだと思います。

 数学は、その前提条件がまずありきで、それが真(しん)だとすると、そこから導き出される結果は合っているはずだという演えき的な方法論が主体。当然、前提条件の検証は必要ですが、この演えき的なアプローチが、多分数学の持っている非常に有力な武器じゃないかなと、私なりには思っています。

 この委員会の中で何をしていくかということについては、この資料の8ページ目にあるような、見える化が重要。企業の場合でも、結果を見せないと、研究活動の継続は困難です。だから数学を活用した結果としての社会への貢献の見える化をどういうふうにしていくか、そのためのテーマの設定とか、どんな活動をするかということが非常に重要かなと思います。

【若山主査】どうもありがとうございます。では、西浦先生、お願いします。

【西浦委員】やはり、数学という学問は先ほど来から述べられているように、出口志向、短期決戦というそういうプロジェクト型、課題解決型になじまない面というのは、やはり一方であると思うんですけれども、でも、そこで、じゃ、それはちょっと違うよねという言い方じゃなくて、逆に一番その基礎的な学問、時間スケールが長い学問がそれに対して何が言えるのか、何が貢献できるのかは、逆にしっかり考えないといけないと。

 今回の地震で、先ほど北川先生からも出ましたけれども、全くサイエンティストじゃない国民の視線というものから考えると、やはり彼らが一番不安だったのは、正しい情報が、どこを、何を根拠に、どう判断していいのか、どこからどう来るのかという、その辺の、それがもうぐちゃぐちゃになってしまっていて、本来安全にしろ、確率にしろ、予測にしろ、放射性物質の拡散にしろ、いろいろ出ていますけれども、やはり専門家の間でも当然意見は大きく分かれているわけです。そういうときに数学というのは、僕はやはりそのはっきりとした、これはどう説明するかは別の議論が必要ですけども、明確に限界があるということは幾つかの数学の理論というのはきっちり言えるわけですよね。

 だけども、それを全く知らない人にそのまま、いろいろデータが出て、こういうふうになっていますけれども、このままうのみにしてはいけませんよという形では、多分そのまま言っちゃうと、ますます混乱してしまうので、どう説明し、サイエンスというものも、はっきりとした限界はあるし、全く分かっていないところもありますよということも理解してもらいつつ、しかしこれぐらいのことは逆に言えますと。そこをやはり、どう説明し、どう理解してもらうか。特にそこに基礎科学としての数学というのは、僕は決定的に果たせる役割があると思うんですけれども、まだそれがはっきり日本では表に出ていない。

 僕としては、逆に緊急性を要する、あるいは国民の視線で説明しないといけないというところにこそ、結構基礎科学というのが、変な言い方をしますけれども、とりあえずデータを処理し、とりあえずこんなふうになりますよというのはいろんなテクニックがあるんですけれども、そこを支える基盤的な考え方というのは、実は余り議論されない。とにかく、とりあえずあればいいでしょう、とりあえず説明できればいいでしょうというロジックは組み立てられますけれども。でも最終的にはそれは破綻するんですよね、明らかに破綻する。だけども、とりあえずしのぐにはそれでいいじゃないかという、やはり議論になることだけは僕は避けたい。だからそこは非常に、数学だけじゃないですけれども、数学がきちんと果たせるということは非常に多いと思いますので、その辺りも少しここにたくさんの先生方がおられるので、あぶり出せたらいいなと思っています。

【若山主査】ありがとうございます。それでは続きまして宮岡委員の方からお願いします。

【宮岡委員】先ほど小谷委員から、日本数学会が作ったロードマップとか数学会理事会の声明について出ましたが、それで出させていただきますので、よろしくお願いいたします。

 それから、一般的に言って、日本の数学と産業のつながりで一番弱いところは、インターフェースだと思うんですよね。そこを何とかして強化しない限りは、産業にも数学の成果が生きませんし、逆に産業界から非常に面白い問題があるはずなのですが、それは数学にも生かせないということになります。それを是非インターフェースをきちんと作ることをやりたいと。具体的に言えば、全国一箇所か二箇所か知りませんけれども、数学がある程度分かって、実務経験もあるような人が代表で窓口を作れたら非常にいいかなと思っております。

 日本の一般に産業、もっと広く工学ですね、の弱点というのも、基盤システムに一番弱いと思うんですよね。例えばロケットみたいなものでも、完全に全てを詰めてやるというものがやっぱり数学的視点を入れない限りは、そこは克服できないんじゃないかと思っております。そういう面でいろいろ数学的な考え方が生かせるところがあるんじゃないかなと思っております。

【若山主査】どうもありがとうございます。では、森委員、お願いします。

【森委員】私に余り付け加えられることはないんですけれども、一番大事なのは、忌たんなく話し合える場だと思うんですね。杉原先生が先ほどおっしゃっていましたけれども、私の研究所は同じところからの出身の方もおられますから、そもそも互いの信頼関係というか、それがなければ何も始まらない、結局その一言に尽きてしまうのですけれども。

 で、イノベーションと、ここで使われていますけれども、この言葉はいろんな意味で使われています。本来私が思っているイノベーションの意味というのはブレークスルーだと思うんですけれども、本当にそれを求めるのであれば、つまり、それを究極的な目標として求めるのであれば、ここで言われているようなことをやっていても、そう簡単にはいかない。ただ、もちろん理想だけ掲げていても仕方がないわけで、当面やるべきことというのはあります。そのためには、確かにここで言われているようなことからまず始めなければいけなくて、それをやっていく過程で、その究極的な何かというのを求められればいいなということだと思います。

 あと、先ほどちょっと「想定外」という言葉が出て、想定外のときに、数学はお手上げになるというような表現をなさったと思うんですけれども、私の解釈は違っています。要するに、数学がまずいというのではなく、数学の使い方がまずい、そこを変えたいと、そういう見方ですね。ただし、数学と言いましたが数理科学と言っても同じことです、それは数理科学と言ってもいいし、数学と言っても、それは言葉の違いだけです。そういう意味では、数学、あるいはそのモデルがどう使われているかというのが本当に分からなければ仕方がありません。数学会の試みで、ジャーナリスト・イン・レジデンスという面白い試みがありましたけれども、いわば、数学者・イン・レジデンスというようなものを考えてやるというのは、どこかで必要になるのではないかと思います。要するに、もっとじっくりとということです。

【若山主査】どうもありがとうございました。いろいろと重要なことを皆さん御発言なさって、私にそれをまとめて何かというのは、それは不可能なので、勘弁させていただきたいと思いますが、ただ、私が少し言える幾つか重要なことがあります。一般に対立構図で考えることはよくあるわけです。さっきもありました短期、長期であるとかですね。しかし、必ずしもそういうふうに対立的な形で物事を進めていく必要はないと私自身は思っております。

 数学をコアとしていろんな産業界の研究が進むということも、それは両方のイノベーションを導くというふうなこと。片一方だけが何かということをずっと考えているのでは良くないと感じております。インターフェースの重要さというのは、ひしひしと感じておりますが、これも社会からの見える化ということが非常に大事だと思っておりますし、それがすそ野を広げること、それから教育に関することにも大事なことになっていると思います。

 日本は世界的にも有名な数学書がよく売れる国であるわけですから、ポテンシャルも高いと思っているわけですけれども、非常に狭い意味で数学が見られているということも片や事実であります。実際、ここにも、今日の意見にもありましたけれども、数学の法則、ものの背後に隠れている法則、あるいは言いかえれば数学的構造ということもあるかと思いますけれども、数学的構造と言いましても、数学でも専門が違えば分からないわけですし、ましてや数学の勉強をずっとしてきた方でなければ、数学的構造と言われても、その構造自身が何が構造なのかもよく分からないということもございます。そういう意味でも、やはり人と人とが出会っていくということを中心に考えていかなければ、冒頭に小谷先生とか北川先生も御指摘なさったように、数学自身の発展ということを考えても、うまくいかないのではないかと思っております。

 私ごとで恐縮ですけれども、私たち九州大学では、マス・フォア・インダストリ研究所というのを立ち上げたわけですけれども、それによって何が社会との関係が違ってきたかというと、それを立ち上げてしばらくしただけで、例えば九州大学の数学を卒業した方で、その後企業、産業界、あるいは諸科学会で活躍されている方が、こんなことがあるのかというふうにして、御連絡くださって、来られているということが増えてきました。それから学内的にも、数学ってそういうことをやることもあるんですかということで、直接共同研究というふうに申し出されている件数も増えてまいりましたし、それから工学部等でいろんな日本のメーカーの方たちと共同研究をされているわけですが、その方たちが工学部の先生にマス・フォア・インダストリ研究所のことを聞いたので、是非会いたいと言って、こちらに訪ねてこられたりということは、やはり看板が見えるようになったから来られたんだなということがよく分かります。

 そういう意味で、やはり、広い意味での数学を通じた、数学側からいえば社会と実際につながっていくという、そこは大事にしていくと。その視点で、ここのイノベーション委員会では数学自身の発展も含め、社会に寄与できるような形で提案して、文部科学省の方としては、概算要求等につなげていけるような形に持っていければというふうに、大まかですが、考えております。

 まだ委員の方々の御発言あるかと思いますが、時間は時間ですので、もし一言、とにかく今、この時間が良いんだという御発言がございましたらお願いいたします。よろしいでしょうか。

 どうもありがとうございました。頂いた御意見を踏まえ、議事録も作成いたしますので、今後の委員会の検討に生かしてまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。

 それでは議題3。どれも実は共通部分がない話ではなくて、みんな大いにつながっていることではありますが、議題3の「数学・数理科学と諸科学・産業との連携を促進する環境について」というのに移りたいと思います。

 本日は来年度の概算要求に向け、数学イノベーション推進に必要な策の案について、事務局にまとめていただいておりますので、資料3-1、3-2について、事務局より説明をお願いいたします。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料3-1~3-2に基づき説明があった。

【若山主査】どうもありがとうございます。概算要求ということで、数学・数理科学側からの視点で書かれたものにはなっておりますけれども、その点の今後の工夫ということも含めまして、御意見とか御質問等ございましたら、是非よろしくお願いいたします。

【北川委員】よろしいですか。

【若山主査】はい。

【北川委員】非常に楽観的に見れば、これでよろしいのかもしれませんけれども、何となく相談窓口が不明確で、ネットワークを作れば、何か問題が解決して、イノベーションが達成されると主張しているようにも見えるのですね。これをやっているうちに、いろんな問題が明確になって、それで数学の方も発展してという形になっていけばそれでいいんだけど、何かちょっと出だしが安易な感じはするんですが、その辺はいかがでしょうか。

【中川委員】ネットワークを作ればそれでいい、あとは質問が来るのを待っていれば良いという受け身的な姿勢のように思えます。そうじゃなくて、もうちょっと何かこんなことができるんだというような攻めの姿勢で、問題を解決したという実績を残していくということが私は大事だと思います。

【若山主査】研究ですから、数学者の方も面白くなければできないし。

【中川委員】ですよね。そのバランスは必要だと思います。

【若山主査】ええ、その数学の人たちと何かをやりたいという方たちも、この問題が解きたいんだという気持ちがなければ、何も起こらないわけですから、それは北川委員が御指摘のとおり、このように書いて、何かうまくいくのはちょっとなかなか厳しいかなという気はしますけれども、しかし、これが一つのきっかけになるということは事実でしょうから、そこをうまくどうやってここにアイデアを出してというか……。

【北川委員】よろしいですか。こういうネットワークを作るのは大事だけど、そのときに、数学者の方がある程度意識改革されていないと、うまく機能しないんじゃないかなと思います。

【若山主査】もちろんそうですけれども、そのためにもネットワークとか社会のインターフェースを増やして、増やしていくと意識が改革されていくだろうということです。どっちか一方がぱっとうまくいくということは、多分ないんだと思うんですね。そこのところをどうやっていったらいいか。

【中川委員】あと、相談する方も何を相談していいか分からないと思うんですね。だから、ネットワークを作って待つだけではやっぱり駄目だと思うし、何らかの形で、数学で何ができるかということのアピールをするような仕組み作りは必要だと思います。

【宮岡委員】産業の方というのは、数学者のイメージがはっきりしていないので、どういうふうな質問をしていいかも多分、分からないと思うんですよね。例えば、窓口を作るにしても、例えば質問票みたいなものをある程度標準化しておいて、例えば新日鐵さんと東大の山本先生みたいに、具体的な活動、実績があるところでは、こういう質問が出て、こういう実績がありましたみたいなものをある程度公開して、良い部分は、具体的な例として出していただければ、かなり出しやすくなると思うんですよ。ですから、そういうふうな具体的な例を二、三個作っておいて、それで質問票みたいなのを作ると、かなり違うんじゃないかと思うんですよ。数学者にとっても、こういう業績がありましたとかいうのもあれば、もっと良いと思いますが。

【若山主査】どうもありがとうございます。皆さん、是非御発言ください。

【西浦委員】ちょっとよろしいでしょうか。

【若山主査】はい。

【西浦委員】中に看板として何か今出ておりますように、相談窓口を立てるというか、相談窓口という看板も必要だし、それは疑いがないところだし、そういう草の根的な蓄積は不可欠というのはおっしゃるとおりなんですけれども、ちょっと感じとしてはやはり、もう一つ何か別の何か看板が欲しいなと。それを具体的に言わないと、ちょっと意味がないので、すぐ出てこないんですが、実際九州大学で、マス・フォア・インダストリ、あれもやはり看板なんですよね。だから、いろんな方が認知できる看板を出されたということでレスポンスが返ってきているので。ちょっともう一つ、これも思い付きで申し訳ないんですが、社会科学といいますか、ヒューマニティーズまで含めて良いのかどうかは分からないんですけれども、いわゆる文系とのつながりというのも、案外数学というのは深いので、経済や社会科学は、多分言うまでもないと思うんですけれども。そこら辺、恐らくそのヒューマニティーも含めて、社会科学・経済全部ひっくるめてどうか、適切かどうか分からないんですけれども、そちらはそちらで恐らく考えられていると思うんですよね。

 昨日もちょっと出た研究会では、マスマティクス・オブ・クライムということで犯罪、これも社会科学なんですけども、そういうところは第一原理的な考えがないので、どうしても数理的なアプローチが不可欠になってきて、数学者のみが最もエフェクティブに活躍できるので、その辺りの切り口というのが、もうちょっと出してもいいのかなと。ちょっと今まで余り深く議論していないので、思い付きで申し訳ないんですけれども、ちょっと感じました。

【若山主査】そうですね、今ちょっとおっしゃった、第一原理がないようなことというのも、本当に数学が重要になってきていて、それこそ安生さんがされているコンピューター・グラフィックスでも、もちろん雲の動きとか、そういうもので表すと流体とかということで、第一原理に基づいた話ですけれども、そうでない、必ずしも第一原理に基づいて、顔を分析すると、恐ろしい顔になってしまって、もうちょっと見るに堪えないみたいなこともあるようですし、いろんなことがあるかと思います。

【北川委員】その相談窓口が何となく余りぱっとしないのは、一つはこの水平展開と書いてありますが、相談窓口だと何となく一対一のイメージなんですね。だけど、数学の良いところってやっぱり汎化できるというところがあって、抽象化された段階で、ある分野との共同研究の結果がほかにも使えるということであるので、やはり数学が、サイエンスの中のハブみたいになるという、何かそこのイメージを出した方がいいのではないかなと思います。

【西浦委員】まあ、僕もそこは賛成で、マス・フォア・インダストリもあるけれども、実際はマス・フォア・エブリシングと言いたいわけですよね。それを言うと怒られますけれども。でも、そういう性格はあるわけですよね、その心理や社会現象というところまで。何か数理的な手法を持ち込もうとすると、今のところ数学的なものがないとどうしようもないので。

【杉原委員】すみません、ちょっとだけ。違う方向のことになると思いますけれども、多分、モデリングという話と、手法という話で、物理の人はモデリングが強くて、数学の人は数学手法的な方が強いという感じを私なんかは持っていて、多分、産業界もそうですし、文科系の話も、多分、物理学者と数学者両方一緒に入った方が良いんじゃないかというのが私なんかの感覚です。モデリングは何となくやっぱり物理学者の方がうまくて、数学者の方は、多分その後の方法論だとか、そういうようなところに落ちると、多分すごく力を発揮される。企業の人に聞いてみても、物理学科の方が、多分いろんな意味で、現場に行った場合、役立つというようなことをよく聞くんですね。もちろん、一旦落ちてしまうと、数学の方はすごい力を発揮される。この辺り、マス・フォア・インダストリにおいても、重要だとは思うんです。モデリングの部分と手法の部分というのを両方やっぱり教育できるようにしていかないと、産業界で役立つという形になっていかないんじゃないか。

 もちろん、企業の方でモデリングしてもらって、数学の方から手法を提供して、合体しながらいろいろやっていくというのもあると思うんですけれども。モデリングと手法というかな、その辺りの切り口がやっぱり重要かなと。ちょっと大分話がずれちゃうんですけれども。

【北川委員】よろしいですか。

【杉原委員】すみません、話がちょっと飛びまくっていて。

【北川委員】いや、私の主張も、今、やっぱり現実の問題に数学を役に立たせていく時に一番必要なのは、モデリングのところだと思うのですね。そのつなぎのところですよね。だからやっぱりそこを表に出していくというのはどうしても必要で、それをクリアされると、かなりいろんな分野に役に立っていくのではないでしょうか。アメリカなんかだと、モデラーという人たちもいるみたいで、そこを専門にするような人がいます。そこは大事じゃないかなと思います。

【安生委員】私の関係している分野では、顔学会というものを日本で原島先生が作られて、そこに集まってくるいろんな人がいまして、芸術、アーティストから歯医者さん、美容関係の人、心理学者等々ですね。でも、そこに数学系の人は私が知っている範囲では余りいないみたいです。工学系は多いのですけれどね。そういう他分野に数学の方が出て行くべきということなんですかね。相談窓口とはちょっと違う話として、歩み寄るというのが、新しい分野を見つける方法の一つになるのかなと思うんです。そういうところに対するアンテナを、どう立てていくかというのもあるのかもしれないですけれども。

【若山主査】ありがとうございます。多くのチャンネルをやっぱり利用していくというのが大事だということは、ほぼ明らかだと思うんですけれども、それをどう具体的に書いていけるかというのは難しい問題かもしれません。ほかに何かございませんでしょうか。

【宮岡委員】こうした窓口ができたと仮定して、相談が来たとしますよね。でも、数学でその問題に関心を持つ人というのは、かなり複数いると思うんですよね、候補は。そういうとき、来た問題を公開、ある意味で全国の数学者に公開することは可能なんですかね。それとも、やっぱり特許とかの問題があるから、そういうことは余りできないということだと、かなり効果が限られると思うんですよね。つまりインターネットみたいなもので、こういう問題が出ていますみたいなものを、皆にお知らせすることができたりすると、ものすごい違うと思うんですけれども、そういうことはできるんでしょうか。

【中川委員】その問題の性質によると思いますね。企業の場合だったら、多分守秘に関わると思うので。

【宮岡委員】そうですよね。

【中川委員】ノウハウとかが公開されることになって……。

【宮岡委員】それは無理ですよね、大体は。

【中川委員】それは無理ですよね。

【若山主査】私ごとですが、昨年度東大の御協力を頂いて、スタディグループという問題解決アプローチ合宿みたいなことをやりましたが、やはりそこでもそういう問題が常にあります。ある産業界の共通の問題というのがありますと、それだと本当にオープンに、みんな興味深くやれるわけですけれども、ある会社が競合しているところがですね、オープンというふうになると、やっぱりそれは困るという、そういう難しさもどこかに書いておりましたが、知財とかそういう問題ですね。最初のこの絵の最後のページだと思いますけれども、そこにも、そういう問題もやはり解決していく。ただそういうことも含めて、数学とか数理科学に携わっている人たちが、社会の人たちと一緒に考えていくということが、また新たなその研究をする、何かチャンネル開きになる可能性がありますので、そういうインターフェースは大事にしていくことがすごく大事だと思っています。

 ほかにございませんでしょうか。恐らく時間が十分あれば、どんどんお話しいただけるんだと思いますが、もし、今日の時点ではこういうことであるということがありましたら、今日頂きました内容を踏まえて、最初に粟辻融合官から説明していただきましたように、数学イノベーション委員会というのは、先端研究基盤部会の下にございまして、8月にそこの審議というか、御報告するというふうな形を取りたいと思います。議事録等も作成しますので、そのときにもちろん加筆修正ということも当然できますから、そういう機会もお使いいただいて、最終的にはまとめとしましては、私の方に御一任いただくことになるかと思いますが、意見交換をして、報告したいと思っております。

 非常に中途半端なところで甚だ申し訳ございませんけれども、もう一つ議題もございますので、また関連しますし、次の議題にまいりたいと思います。

 議題4ですけれども、「数学・数理科学と諸科学・産業との連携・協力により取り組むべき重要研究課題について」に移りたいと思います。

 それでは、今後はまた粟辻さんの方から御説明いただきたいと思いますが、今後の議論の出発点として、今日何度か皆様の中からも出てまいりました、3月の東日本大震災を踏まえた今後取り組むべき研究課題の例を事務局に整理していただいておりますので、御説明をお願いします。これは飽くまでも出発点でありまして、この話で行こうとかそういうことを申し上げているのでは全くございません。その辺りは御理解ください。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料4に基づき説明があった。

【若山主査】どうもありがとうございます。まずは、一番上の科学技術・学術審議会のところで、野依先生からの提案ですが、東日本大震災を踏まえたことを今後の科学技術・学術政策の検討の視点としてほしいと。その上で作成してもらったものです。冒頭に申し上げましたように、今後取り組むべき課題がこの震災のことだけであるとは申し上げておりませんけれども、災害というのは、一つ自然災害を含め、これまでもちょっと前ですとリーマンショックもございましたし、それからこの震災の陰に隠れて、隠れてというのは変ですけれども、企業から個人情報が流出してしまったという、そういう人災もございます。そういうところの個々の問題に、やはり個々の専門家がいないと問題の解決には至らないわけですけれども、共通したところに今数学が非常に重要な貢献ができるということを私たちは想像しているわけです。そういうことを合わせて、研究課題をある程度例示したものが、この裏のページのものだとお考えいただければと思います。

 さて、今の説明、それからこの資料は議題が下るにしたがって、少なくはなっていますけれども、御意見等頂戴できればと思います。何かございませんでしょうか。

【北川委員】よろしいですか、ちょっと私ばかりしゃべってしまって。

【若山主査】はい。

【北川委員】資料4の1行目、それから下から10行目ぐらいですか、データの背後に潜む原理や法則性を見いだすと書いてあります。これは、サイエンスの王道で、こう書いておけば間違いないんだけど、本当にそうなのかというのはやっぱり数学者は考えるべきだと思うんですね。いや、これだけでいいのかという意味ですけれども。

 個人的には、統計では20世紀の最初、フィッシャー以来の推定・検定というパラダイムからは一応スイッチしたつもりなんですけれども、現在でももちろん、いまだにサイエンスの人はほとんどこう思っているわけだけど、工学の問題とか社会的な問題では、そもそも「見いだすべきもの」なんていうのはなくて、例えばモデルは発見するという場合はもちろんあるけれど、発見するというよりはむしろ作り出すものなんですね。構築すべきもの。それがモデリングになってきていると思うんですよ。だから数学は、やはりそこも含めて考えていった方が、世の中に対するインパクトがはるかにあるのではと思います。

【若山主査】ありがとうございます。おっしゃること、半分ぐらいは多分私も理解できていると思うんですけれども、法則とか数学構造と言っても、それは目に見えない。目に見えないのが利点ですけれども、目に見えないし、人にはなかなか普通には分からない。例えば、いろんな分野でグラフ構造みたいなものが出てきても、数学を特に学んだ方でなくても、最初の疑問としてこれがつながっているとかつながっていないとか、そういうことはすぐ数学構造のように理解できるわけですけれども、その上の数学の話になると、なかなか幾何学者、トポロジストでないと見えてこないとか、そういうことを踏まえて、今、北川委員も、モデリングの構築というか、数学の方からしていかなければいけないんだとおっしゃったのだと、少し半分ぐらいは思っておりますが。

【杉原委員】ちょっと違う。

【若山主査】ちょっと違いますか。

【北川委員】統計では、いろんな分野で工学でもやられているけど……。

【杉原委員】データが、という意味で。

【北川委員】そう。モデルというのは、統計から言うと、ものの見方なんですね。どういう立場でものを捉えるかというときに、モデルという形で書いていく。だからそれは目的であったり、その立場によって変わってくるものであって、TRUEのものが一つあって、それを発見するものではないと思っています。僕の場合はですね。

【杉原委員】データを説明するためのモデルということですよね、どちらかと言うと。目的があると、それに対して。資料の文章は、原理があって、それからデータを説明するというような話になっているけれども、そうではなくて、ある方向からデータを説明しようと思ったときに、原理から導かれるのではなく、一番良いモデルというのがまた別個あって、方向が違えば、モデルも違ってくる。

 例えば、言語を我々が発話しているときに、ランダムに発話しているわけじゃないですが、非常に統計モデルが合うんですね。まさか人間がしゃべっているときに、ランダムに発話しているはずはない、原理的観点からは、統計モデルは不自然なんだけど、合っている。このように目標又はデータに合わせて、モデルを適切に設定すると、いろいろ役に立つことがあるというのを多分おっしゃっているんだと……。

【西浦委員】北川先生や杉原先生に教えてほしいんですが、例えばそのウェブ・セマンティクスってありますよね、インフルエンザの予測とか、いろいろな社会の動向を知る上で。あの辺はもちろん、結構いわゆるデータそのものがもう立派に語ってくれていて、人間の方がそれ以上に、それこそ原理原則という面に、それをいかにうまく活用するかという。実際うまくいっちゃっているところが結構あるんですが、あの辺なんかをどういうふうに、今後、数学と絡めてというべきなのか、どういうふうに言ったらいいのか分からないんですけれども、需要はどんどん増えてくる、明らかに増えてくるし、それで我々がまた操作もされていきつつあるんだけど、その辺り。

【小谷委員】データが大量にあって、そこから原理ではなく、モデルを抽出するといった場合に、情報爆発に耐える技術を開発する方向なのか、それとももう少し違うやり方、新しい統計理論の開発が求められるのか。その辺はどういうふうに考えられているものなのでしょうか。

【北川委員】今、数学者にとってすごいチャンスだと思うんですよ、いろんな問題があって。それで、大量の情報が出てきて、どういう状況になっているかというと、今まで数学もそうでしょうし、統計も、普遍の真理だとか、そこから普遍性を追求してきたわけだけど、大量のデータが出てきて、例えばゲノムのデータなんか出てきたらどうかというと、その特定の人のゲノムが、あと数年で、10万円で取れるようになると言われている。そうすると、その情報を使って、例えば薬に使うとか、医療に使うということもできるようになってきているんですね。マーケティング等のいろんな分野で同じことが起こっていて、普遍的な知識と個別の情報を統合することが必要になっている。それをやることによって、今までできなかったことをできるようになってきている。だから数学者の方が、そこの方法とかやり方を提示していかないといけないと思うんです。

 単純に言うと、例えば回帰モデルみたいなのでいうと、昔はデータがたくさんあって、変数は5変数だとか10変数だったが、今は逆なんですよね。マイクロアレイで、もう何千、何万と変数が取れるわけです。しかしデータは少ない。それじゃ解けませんじゃ済まないわけで、ライフの人はそれで何かしようとするわけですね。そのときにどうするかというのも重要な問題です。

【小谷委員】ライフサイエンスの研究者から伺った話ですが、ある人がどうしてこういうものを好むのかという普遍的な原理を追求するのではなくて、その人の履歴全体をデータとして使って、テーラーメードにサービスを提供することを目指す、そこまでデータ解析というのは進んできていると。そのような考え方もあると聞いています。しかしそういうやり方を医療に持ち込んだ場合、少なくとも現在の情報処理技術では、非常に高価なものにならないでしょうか。そういう方向で大量のデータ解析を進めていくのがやはり現代的なのか、それとも大量のデータをブレークダウンして、いわゆる普遍的な真理を追究していく方がいいのかということについては、どうなのでしょう。

【中川委員】実用的にはやっぱりその問題の本質が欲しいんですよね。問題を支配している原理原則を、何らかの方法で導き出すこと。モデルはその一つの近似かなと私は思っています、方法論の一つ。モデルなしでも、分類ができればいいわけですね。データをちゃんと、これとこれとこれで分類する。だけど本当にしたいことは、やっぱり原理の解明なり、原理の表現を、数学を使ってどういうふうにするかということかなと私は思います。

【北川委員】恐らくそれは二者択一ではないでしょう。それを両方使う形になっていくんだと思うんですね。前の機構長で、元遺伝研の所長だった方は、今、生物学が現代の博物学に戻りつつあると言っているんです。ゲノムのデータを集めているだけだと。だからそこからもう一段ステップアップ、かつての科学が進歩したようにする。そこで数学は貢献できるんだと思います。

【西浦委員】やっぱりゲノムも、これ素人の僕が言ってもしょうがないんですが、やっぱり十数年前までは、全ゲノムが分かれば、いわゆる遺伝病はかなり解決できると、かなりの人が宣言していたんですよね。それが実際10年たって、まだそれはかなり対立しているんですけれども、素人が外から見ている限りは、10年前に言っていたことはほとんど実現していない。

 だからやっぱりデータの重要性はもう明らかなんだけども、でもやっぱりそれだけでは欠落している部分がどこかあって、今、その中川さんがおっしゃったように、やっぱり何かまだ必要なんですね。そこのところを数学がやはり、数学というか、統計学も含めて、広い意味での数学というのは寄与できる。

【若山主査】どうも貴重な御意見をありがとうございました。ほかに御意見等ございませんでしょうか。

 それでは、本日御審議いただいた内容を踏まえて、今後も議論を重ねていきたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。

 最後に事務局より、連絡事項をお願いしたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より、今後の予定について説明があった。

【若山主査】 皆さんよろしいでしょうか。

 それでは、少しお手元の資料を紹介したいと思います。実はこれは九州大学のことですけれども、マス・フォア・インダストリのフォーラムというのを1年ごとにやっております。1年前からおよその計画を立て、しかしながらコンクリートなテーマは半年前ぐらいに立てるということでやっておりまして、昨年度ですと、逆問題とか、CGとか、オプティマイゼーションとか、そういうことを中心のテーマで行ったフォーラムですが、今年はこの地震が起きます前に、講演者として、ニュージーランドとかチリの方とかモデリングの方とかアメリカからとかいうふうなことがもう決まっておりました。そういうことでいろいろな方々とディスカッションしまして、数学は災害に対して何ができるのかということを少し学んでみようということをテーマとしまして、ややショッキングなタイトルではありますが、”TSUNAMI-Mathematical Modelling”と数学を使ってプレディクションは難しいかもしれませんが、リカバリーとかその対策とかいうことを考える。そこで数学は何ができるかということを。

 で、また津波というのは御存じの方も多いと思いますけれども、1946年にアリューシャン地震がありました。そのときにアラスカからの津波で、ハワイをアタックして、日系の最初の移民の方が津波だというふうに指摘されて、それが英語となったという、そういうこともございまして、今回こういうことをやることにいたしました。これはもう既にホームページ等で公開されているものですが、地震とか津波の方も大勢いらっしゃいますけれども、より広い方で、キーノートですと、極値統計、めったと起こらない分野の統計の話。元々水利学から出てきたものかと聞いておりますが。それから実際に地震の研究、津波の研究をされている方、それから確率論の方、それからCGの方で、流体のソフトウエアを、非常に今使われている、それを開発された方、そういう方にお話しいただく。あとは、多くの招待講演者の方がいろんな御自分の研究の立場からお話をしてくださったり、それについてディスカッションしたり、そういうものですので、何かの参考にしていただければと思います。

 どうも時間を取ってしまいまして、申し訳ございませんでした。

 それでは、何か最後に御発言がございましたら、どうぞ。よろしいでしょうか。

 それでは時間になりましたので、ほぼ予定どおり終了することができました。どうも御協力ありがとうございます。本日の数学イノベーション委員会はこれで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

 

―― 了 ―

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット

電話番号:03-5253-4111(内線4120)

(研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット)