参考資料2 数学イノベーション委員会におけるこれまでの議論の概要について

(第21回~第27回での主な御意見)

1.必要な人材

数学と諸科学・産業との橋渡し人材

  • 産業界が持ち込む問題に対してどのように数学的アプローチをするかを考えるトランスレーション機能を担う人材、産業界が持ち込む問題を適切な数学者につなぐインターフェース機能を担う人材(合わせて、コーディネーション人材)を、産学の中間地点に組織的に専任で置くとよい。問題を持ち込みやすい環境を作り出すことで、数学出身者を擁していない企業も入りやすく、数学を効率的に産業界にアウトリーチできると思う。
  • また、この組織構成としては、経験を積んだシニア人材1~2人の下にジュニア人材が複数いる形がベストだと思う。ジュニア人材は最終的に数学者になるのか、コーディネーションの道に進むのかを模索できるように、異分野交流のコーディネートをしつつ、自分の研究もしっかりするのが望ましい。
  • 技術相談窓口を設定しても、大企業は数学を扱える研究者を自前で擁していることもあり、本当に解きたい問題は持ち込まない。むしろ方法論や知識を取り込みたいと思っている。したがって大学側が足を使ってシーズを企業に売り込む必要があり、企業の決裁権限があるような年代の人と同世代で人脈がある人を、大学側で活用できると良い。売り込む際には成功事例を示したり、各教員に産業数学の手引のようなものを書かせてそれを示すと説明しやすい。他方、中小企業は内部には数学を扱える者がいないので、本当に困り果てて相談に来る。そういった中小企業をいかに助けるかが一番のポイントだと思う。
  • 技術相談窓口は、点在しているだけでは余り機能しないが、成功事例や研究者の情報を全国的に網羅している仕組みがあれば、企業にとって参考になるのではないか。
  • 企業が新しい分野に取り組む際には相談窓口ではなくコンサル会社に頼るのが一般的だが、純粋数学に強いコンサル会社が非常に少ないのが問題。
  • 数学のバックグラウンドを持ち、諸科学・産業に出て行こうとする人を育成すべき。このような人材がある程度の集団になれば、諸科学・企業で働く数理人材や、数学関係分野で活躍する人材が出てくる。

特定分野で活躍する数理的人材

  • 他分野出身でも数学に従事している人がどれくらいいるかが重要。アメリカのSIAM(産業・応用数学会)では、数学者だけでなく、コンピュータサイエンスや機械工学の人も入っている。
  • さきがけ「数学協働」領域(平成26年度開始)への応募者の多くは数学科出身者以外であり数学への関心の高さを感じる。一方で、純粋数学の人からの関心が低いのが問題。
  • バイオインフォマティクスでは5年先にはどういうデータのどういう解析をしなければならないのかを見越して自分で課題を見付けて形式化できないと、単なるお手伝いする人材になってしまう。

必要な人材像

  • 数学に限らず分野横断的科学(データサイエンス、制御、シミュレーション科学など)にも共通して、シーズドリブンの人材だけでなく、ニーズドリブンの人材の必要性が高まっている。
  • バイオインフォマティクスの場合、ニーズに合わせ過ぎて大きなブレークスルーはなくなってきている。例えば数学のようなシーズから行った方が新しいことができるのではないか。
  • 想定する人材育成の規模感や専門性によって必要な施策は変わってくると思うので、キャリアパスも含め、必要な人材を幾つかに分類して、それぞれがどの程度の規模感で必要なのかは少し議論をした方がいいかと思う。

2.大学における数学と他分野の交流促進

副専攻、柔軟なカリキュラム等

  • 数学専攻の学生が在学中に数学以外の分野にも触れられるように、副専攻のようなものがあっても良い。
  • 学生の専門分野によっては副専攻の講義についていけないこともあるのではないか。とはいえ専門分野が異なる学生向けの基礎的な講義を別途設けるのも、教員に余裕がないので難しい。
  • 副専攻の受講者に占める修了者の割合をどう高めていくのかも課題。
  • 副専攻を修了する前に就職活動が始まり就職先が決定してしまうことから、副専攻修了を就職活動で活用できないので副専攻修了のインセンティブが弱い。
  • 学部1、2年段階において様々な分野の先端となるトピックスに多く触れておくことで将来大学院で他分野に接するときの障壁を下げるような教育が必要。
  • 日本に比べ、アメリカの大学のカリキュラムやキャリアパスは柔軟性がある。とりわけ大学入学から2年ぐらいかけてメジャー(主専攻)を決めていくので、ダブルメジャーやメジャーの転向など出てくるところに多様性があるのではないかと思う。そのことが卒業後の進路の多様性のつながっているのではないか。
  • 高度な応用のためにはしっかりとした基礎が必要だが、基礎の修学は暗く長いトンネルを歩むようなものであるから、適切な明かり取りを作る必要がある。明かり取りの一例として、教員の応用への興味を基礎と結びつけて取り入れることや、数学の歴史(古代から研究されていた素数がどのように発展し現代の情報セキュリティに活用されているかなど。)を教えることなどが考えられる。

他の組織・分野での経験

  • 数学の博士号取得後に産総研などにインターンシップなどで一回出ていって、自分の知識を活かせる場がいろいろあることを知るチャンスがあるとよい。
  • 諸科学の研究室に行くルートを促してもいいと思う。

他分野における教育

  • 企業の研究開発段階で、数学的アプローチを入れ込むことを発案できる者が社内に不在。この問題を打破するためには、(数学に近い)物理専攻学生に卒業前に純粋数学の威力と効果を実感させる講義を聴かせることや、就職後に講演会を催すことが効果的だと思う。

社会人の受入れ

  • 産業界の学び直しの仕組みが必要。
  • 社会人博士課程学生は、大学と企業の双方にとってメリットが大きい。

ビッグデータ時代への対応

  • アメリカのBest Jobsのトップに数学者や統計研究者、データサイエンティスト、アクチュアリー等が入っているが、アメリカと日本との産業構造の違いも考慮すべき。
  • 日本は製造業中心で、現場主義で物理法則を重視する。IT主流のアメリカではソフトウェア中心であるという点が違う。
  • 日本のものづくりもスマートに行うことが必要であり、数学は不可欠。
  • データ科学の社会的位置づけが学生にはよく見えていない。
  • 生物工学の学生でも、データ科学(例えば機械学習)のコースに関心を持つ例はある。
  • データ科学そのものの教育は難しい。アルゴリズムや原理は教えられても、与えられた問題をどういう関係性でマイニングするかなどを教えるのは難しい。様々な分野のトップレベルの先生から(ある程度解決策が分かっているような)問題を出してもらい演習をすることが必要。語学力も重要。

その他

  • 産業競争力懇談会(COCN)の人材委員会でも数学や物理の基礎教育が必要であると指摘されている。
  • 教員の教育も必要。自身の専門以外の分野で何が起きているかを少しでも把握できていれば、学生にも伝わる。

3.数学イノベーションの実践の場への参画を通じた人材育成

数学イノベーション拠点における育成

  • 大学の数学や数理科学専攻以外、例えば理研にも数学のPIがいれば若い人の流れは自然に生まれると思う。PIは専任である必要はないので、クロスアポイントメントの活用などが考えられる。
  • 数学専攻の若手研究者にとって、身近に専門(数学)を評価してくれる上位者がいないことは不安。この不安感を払拭するためにも、外部評価の仕組みを取り入れるべき。
  • 拠点を設けるのであれば、その規模感(全国に何か所なのか、どういった人材がどれくらい必要なのか)とタイムスケジュール感を、外国と比較しながら入れ込んでいくべきかと思う。

実際の問題に触れることを通じた育成

  • アメリカの例で、企業が解決したい数学の問題を教授が受け付け、期限を設けて学部学生グループに解かせるという試みがある。学生にとっては学んだ知識を使って現実の問題を解決する経験やプレゼン能力の向上という教育効果があり、大学と企業間の関係も密になるので日本でも実施できたらいいと思う。

4.数学専攻学生の企業へのキャリアパスの構築

博士課程修了者のキャリアパスの現状

  • 博士号取得者のうち、期限付のポストに就いている者が多いのが問題。その後のキャリアパスについて議論されるべき。
  • 博士課程修了者の産業界でのポジションが非常に少ない。日本の企業が世界のトップ3に入るような業界でないと、基礎研究のために大量採用するような状況は望めない。

企業で必要な人材

  • 企業では、製造現場や研究現場の人と自らコンタクトして潜在的ニーズを見つけ、テーマを構想し、計画を立てて人や予算を集めて実現できる能力が必要。
  • 純粋数学の場合は物理や化学のように技術面接で企業側が学生の能力を評価することが難しい。数学独自の能力のアピール方法・評価手法が必要。

必要な取組

  • 数学専攻出身者が社会で活躍している例をロールモデルとして数学専攻学生に伝える仕組みがあるとよいと思う。
  • 企業が数学との協働によって成果を上げたことを、産業界向けに企業の言葉で話していただくような仕組みができるといいと思う。
  • 産業界に精通しているキャリアアドバイザーを文科省の事業として養成する必要があると思う。
  • 企業で働くきっかけとして、「企業ポスドク」のような制度(博士課程修了者を3年間程度雇用し、企業と本人のマッチングができればその後本採用される制度)があると良い。
  • 長期インターンシップは、学生にとってのメリットと同時に、産業界に学生や研究科のことを分かっていただく大きな機会になっていると思う。
  • 理由は分からないが、学生がインターンシップに出たがらない状況があるように思う。
  • 海外の大学では、企業のニーズやリクエストに対して、迅速な対応(研究というより、情報提供や組織の設置。研究者情報の収集・提供、研究チームの発足など。)をするため、企業との共同研究や連携が進みやすい。他方、日本の大学と連携するには企業側が汗をかいて研究者をサーチしないといけないので、海外のような仕組みを整えることが企業側から必要とされている。

5.「数学」や「数学者」に対する意識の変革

高校生に対する取組

  • 高校生に少し高いレベルの数学を体験させ、数学の広い世界の一端を見せることは効果的だと思う。その際には、出発点は高校生の既習のレベルまで下げてもらうことが大事。
  • 高校生向けの様々な取組が全体として把握できるとそれらの効果がよく見えてくるのではないかと思う。横の情報共有がもっとあるといいのではないでか。
  • 高校生が数学科進学への興味を持てないのは、産業界側で活躍している数学者が一般の方から見えづらいからだと思う。

その他の取組

  • 高校教員と大学教員が交流等を通して相互のギャップを超えていくことが必要。また、大学で数学が社会で役に立つ具体例を教えて、教わった大学生が高校教員になった時に高校生に同様に教えるというサイクルを作り出すことが必要。
  • 世の中のあらゆる場面で数理的センス、あるいはデータ・リテラシーが必要になってきている。これまでの理系・文系の二分類に基づく高校の進路指導も行き詰まりではないか。
  • 数学検定が英検並みに文系・理系問わず普及すれば、日本全体の数学の底上げには結構効果があると思う。

6.その他

  • ブレークスルーのコアとなるのが数学的なアイディアだとしても、その下流である製品開発で特許を取ることが多い。
  • 数学も守備範囲とする弁理士もいるので、数学的なアイディアで特許を取ることは可能だが、数学的な特許は侵害されても明るみになりにくいので、企業はむしろ秘匿する傾向にある。そういった中で、研究者が自身の成果として対外的にアピールしたり、貢献した分の権利の主張をすることをどうやって守っていくかは今後の課題だと思う。

(参考)平成27年9月以降の数学イノベーション委員会の開催実績

第22回 平成27年9月29日(火曜日)

○数学・数理科学以外の分野における人材の育成について

【発表者】

  • 高木利久 東京大学大学院理学系研究科 教授【専門:バイオインフォマティクス】
  • 大島まり 東京大学大学院情報学環 教授/東京大学生産技術研究所 教授【専門:バイオ・マイクロ流体工学】
  • 今井桂子 中央大学理工学部 教授【専門:情報学基礎】

第23回 平成27年10月30日(金曜日)

○ビッグデータやデータ科学に関する人材育成の現状と課題について

【発表者】

  • 田中 譲 北海道大学大学院情報科学研究科 特任教授
  • 内田雅之 大阪大学数理・データ科学教育研究センター長
  • 樋口知之 情報・システム研究機構統計数理研究所長

第24回 平成27年12月22日(火曜日)

○異分野連携研究の拠点やプログラムにおける人材育成について

【発表者】

  • 初田哲男 理化学研究所 理論科学連携研究グループ(iTHES)ディレクター/初田量子ハドロン物理学研究室 主任研究員
  • 伊藤 聡 「数学協働プログラム」実施責任者/統計数理研究所 副所長

○「数学協働プログラム」中間評価結果の報告

第25回 平成28年1月20日(水曜日)

○企業への数学人材のキャリアパスについて

【発表者】

  • 堤 和彦 三菱電機株式会社 顧問
  • 大木裕史 株式会社ニコン 取締役兼常務執行役員 コアテクノロジー本部長
  • 池川隆司 日本数学会社会連携協議会幹事/東京大学大学院数理科学研究科 キャリアアドバイザー

第26回 平成28年2月17日(水曜日)

○高校における数学教育等について

【発表者】

  • 逸見由紀子 東京都立青山高等学校 主幹教諭
  • 丸橋 覚 群馬県教育委員会事務局高校教育課 補佐・教科指導係長
  • 前田吉昭 文部科学省委託事業「数学・数理科学を活用した異分野融合研究の動向調査」実施委員/東北大学知の創出センター 副センター長

○数学イノベーションに必要な体制・人材育成の検討のまとめの方向性について議論

戦略的基礎研究部会 平成28年3月9日

○検討状況の報告

第27回 平成28年4月8日(金曜日)

○大学における数学応用人材の育成状況等について

【発表者】

  • 砂田利一 明治大学総合数理学部 学部長
  • 福本康秀 九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 所長

○数学イノベーションに必要な体制・人材育成の検討のまとめの方向性について議論

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課/数学イノベーションユニット

電話番号:03-5253-4111(代表)